(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記被覆剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む、請求項1〜3のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
前記表面層におけるホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上の成分の含有量は、前記本体部の内部における当該成分の含有量に比べて大きい、請求項7に記載のガラス成形品。
前記表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む、請求項7または8に記載のガラス成形品。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
結晶化しやすいガラスのガラス塊をプレス成形が可能な温度まで加熱する際、ガラス塊の表面が結晶化して硬化するケースが多い。特に近年開発された高屈折低分散ガラスや超低分散ガラスなどの高機能光学レンズ用ガラスでは、プレス成形時のガラス塊の表面の結晶化の問題が顕著である。
【0006】
表面の結晶化により硬化被膜を有するガラス塊を成形すると、ガラス塊の内部に硬化被膜が織り込まれるため、得られるガラス成形品は表面から深い部分まで不均一となってしまう。このような不均一なガラス成形品は、研削や研磨等によって織り込まれた硬化被膜等の不均一分を除去する必要がある。その結果、材料ロスが大きくなり、製造コストの増加という問題が生じる。
【0007】
そこで、ガラス表面の温度を低下させる、または、高温保持時間を減少させることによって、ガラス塊の加熱温度を低下させ、ガラス表面の結晶化を抑制することが考えられる。
【0008】
しかし、ガラス塊の加熱温度を低下させて低温でプレス成形されると、ガラスの割れが発生したり、ガラス塊内の温度分布が大きくなる等して、所望の形状に成形できないという問題が生じる。
【0009】
このような状況において、ガラス塊の加熱温度を低下させずに成形時のガラス表面の結晶化を抑制し、高品質のガラス成形品の製造方法、ガラス材料のロスの少ないガラス成形品の製造方法が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ガラス塊を加熱して軟化する際に、選択的にガラス表面が結晶化する要因として、ガラス塊の表面と、内部の自由エネルギーの差に着目した。すなわち、ガラス塊の表面は、内部に比べて自由エネルギーが大きく、結晶化しやすい傾向がある。そのため、ガラス塊の表面は、その内部に比べて、優先的に結晶化が進むと考えられる。
【0011】
そこで、ガラス塊の表面に生じる結晶化を防止するため、被覆剤でガラス塊を被覆することを見出した。ガラス塊を被覆剤で被覆することにより、容易に結晶化するガラス塊の表面自由エネルギーを低下させ、ガラス塊表面の結晶化を抑制できる。
【0012】
また、被覆剤として、ガラス塊の表面で結晶化せず、軟化ガラスとしての流動状態を保つことができる成分を用いることで、被覆剤自体が結晶硬化してガラス塊中に織り込まれることを防止できることを見出した。
【0013】
本発明は以下に記載するガラス成形品およびガラス成形品の製造方法等を提供する。
[1] ガラス塊の表面に被覆剤を被覆する工程A、および
被覆剤が被覆されたガラス塊を、加熱し、軟化させ、成形する工程B、を含み、
被覆剤は、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む、ガラス成形品の製造方法。
【0014】
[2] 工程Bにおいて、ガラス塊を構成するガラスの粘度が10
6dPa・s以下となる温度にて、ガラス塊を加熱する、上記[1]に記載のガラス成形品の製造方法。
【0015】
[3] 被覆剤は、ホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上を含む、上記[1]または[2]に記載のガラス成形品の製造方法。
【0016】
[4] 被覆剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
【0017】
[5] 被覆剤は、溶液からなる、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
【0018】
[6] 被覆剤は、ホウ酸またはリン酸を含有する水溶液からなる、上記[1]〜[5]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
【0019】
[7] 工程Bは、プレス成形工程を含む、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法。
【0020】
[8] 上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により得られる、ガラス成形品。
【0021】
[9] ガラス塊を所定の形状に成形したガラス成形品であって、
ガラス成形品本体部と、本体部の表面に形成された表面層とを有し、
表面層は、本体部を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む、ガラス成形品。
【0022】
[10] 表面層におけるホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上の成分の含有量は、本体部の内部における当該成分の含有量に比べて大きい、上記[9]に記載のガラス成形品。
【0023】
[11] 表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む、上記[9]または[10]に記載のガラス成形品。
【0024】
[12] 表面層の厚さは、1〜100μmである、上記[9]〜[11]のいずれかに記載のガラス成形品。
【0025】
[13] 上記[8]〜[12]のいずれかに記載のガラス成形品からなる、光学素子ブランク。
【0026】
[14] 上記[8]〜[12]のいずれかに記載のガラス成形品からなる、光学素子。
【0027】
[15] 上記[13]に記載の光学素子ブランクを、さらに加工する工程Cを含む、光学素子の製造方法。
【0028】
[16] 工程Cは、光学素子ブランクの表面層を除去する工程を含む、上記[15]に記載の光学素子の製造方法。
【0029】
本明細書中、「軟化温度」とは、ガラスの粘度は10
7.6dPa・sになる温度であり、「リトルトン温度」ともいう。本明細書中、「軟化温度」とは、JIS R 3103-1:2001に規定される方法により測定された温度をいう。
【発明の効果】
【0030】
本発明のガラス成形品の製造方法を用いると、加熱、軟化時の結晶化によるガラス表面の硬化層の生成を抑制することができ、成形によって硬化層がガラス内部へ進入してガラス内部の光学的均質性を悪化させることを防ぐことができる。その結果、本発明を用いると、高品質のガラス成形品が製造できる。また、本発明のガラス成形品の製造方法は、ガラス材料のロスが少なく、低コストでガラス成形品および光学素子の製造が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下に、本発明のガラス成形品およびその製造方法の実施の形態等を説明する。
【0032】
本発明のガラス成形品の製造方法は、ガラス塊の表面に被覆剤を被覆する工程A、および
被覆剤が被覆されたガラス塊を、加熱し、軟化させ、成形する工程B、を含み、
被覆剤は、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む。
【0033】
1 ガラス塊
本発明で用いられるガラス塊は公知の方法で作製できる。
ガラス塊の製造方法の第一の例としては、ガラス原料を熔解、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスを作製し、鋳型に鋳込んでガラスブロックを準備し、このガラスブロックをアニールした後、立方体形状に切断してガラス片を得て、バレル研磨してそれぞれの光学ガラスからなる互いに重量、形状が等しいガラス塊を作製することができる。
【0034】
ガラス塊の製造方法の第二の例としては、流出パイプの下方に配置された円筒状の鋳型内に熔融ガラスを鋳込んで円柱状のガラス柱体を成形し、鋳型内で成形されたガラス柱体は鋳型底部の開口部から一定の速度で鉛直下方に引き出され、ガラス柱形体を徐冷した後、切断もしくは割断して略円盤状のガラス片を得て、このガラス片を研磨加工またはバレル研磨を施してガラス塊とする。引き出し速度は鋳型内での熔融ガラス液位が一定になるように行えばよい。
【0035】
ガラス塊の製造方法の第三の例としては、ガラス原料を熔解、清澄、撹拌して作製された熔融ガラスを流出パイプから流出させ、流出する熔融ガラス流の先端を成形型で受けた状態で、ガラス成形品の製造に必要な量の熔融ガラス塊を分離して成形型上に受け、ガラス塊を作製する方法がある。このように作製されたガラス塊はプレス成形に適した形状、質量になっているので、上記方法のようにバレル研磨をしなくてもプレス成形に供することが可能であるが、バレル研磨してからプレス成形に供してもよい。また、ガラスを受ける成形型は、特に限定されるものではなく、浮上成形用の鋳型(熔融ガラスを受ける凹部が多孔質体で形成され、多孔質体を通して凹部表面からガスが噴出し、熔融ガラス塊に上向きの風圧を加える構造になっている鋳型)でもよいし、単に凹曲形状の受け部が形成された受け皿状の鋳型であってもよい。
【0036】
本発明のガラス成形品およびその製造方法に用いられるガラス塊を構成するガラスの組成は特に限定されないが、たとえば、光学ガラスとして有用なフツリン酸ガラス、ホウ酸ランタン含有ガラスなどを用いることができる。
【0037】
2 被覆剤をガラス塊の表面に被覆する工程(工程A)
本発明の工程Aでは、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む被覆剤をガラス塊の表面に被覆する。
【0038】
被覆剤としては、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分が用いられる。また、被覆剤として用いられる化合物は容易に結晶化しないことが好ましい。
【0039】
このような被覆剤としては、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む限り、特に限定されるものではないが、たとえば、ホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上を含む被覆剤等が挙げられる。これらの成分は、ガラスネットワークを形成しやすいため、ガラス塊を構成するガラスに取り込まれやすく、その表面で結晶化しにくいと考えられる。
【0040】
中でも、ガラス塊を構成するガラスが、ホウ酸系ガラスである場合は、ホウ酸を含む被覆剤を用いることが好ましい。また、ガラス塊を構成するガラスが、リン酸系のガラスである場合には、リンを含む被覆剤を用いることが好ましい。
【0041】
さらに、このような被覆剤としては、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸、リン酸塩等の化合物、またはこれらの少なくともいずれか一つを含有する組成物が用いられる。当該組成物としては、上記化合物の組み合わせ、または、水や有機溶媒等に溶解した溶液が挙げられる。被覆剤の態様は限定されず、固体であっても液体であってもよい。
【0042】
ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラスなどのガラスを被覆剤に用いる場合には、これらのガラスを粉末状に加工して用いると、ガラス塊の表面上に均一に付着させることが容易となるから好ましい。このようなガラス粉末は、散布、吹付け、擦り込みなどの方法を用いてガラス塊に付着させることができる。
【0043】
ホウ酸ビスマス含有ガラスはホウ酸ビスマス系低融点ガラスとして市販されているガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラスはホウ酸亜鉛系低融点ガラスとして市販されているものを使用することができる。これらの化合物は、加熱しても非常に結晶化しにくい性質を有するため、融液化した被覆剤がガラス塊の表面に設けられると、ガラス塊表面の結晶化を効果的に防止することができる。
【0044】
粉末状である被覆剤の粒径は5〜100μmであることが好ましく、10〜50μmであることがさらに好ましい。
【0045】
液体の被覆剤を用いる場合には、上記化合物を溶解した溶液を用いることが好ましい。ホウ酸、ホウ酸塩、リン酸、リン酸塩等を被覆剤に用いる場合には、これらの化合物を水に溶かした水溶液とすることが好ましい。被覆剤が溶液である場合には、溶液を収納した容器にガラス塊を浸漬する、または、溶液をスプレーで噴霧または刷毛で塗布することによってガラス塊表面に付着させることが好ましい。
【0046】
水溶液である被覆剤の濃度は1〜30重量%が好ましく、1〜20重量%がさらに好ましい。とくに、被覆剤がホウ酸水溶液の場合は1〜5重量%が好ましく、1〜3重量%がさらに好ましい。また、被覆剤がリン酸水溶液の場合は1〜20重量%が好ましく、1〜10重量%がさらに好ましい。
【0047】
被覆剤は少なくとも加熱、軟化時に結晶化を抑制したい面に被覆されることが好ましく、ガラス塊表面の全域に被覆することがより好ましい。
【0048】
本発明の製造方法の成形にプレス成形を用いる場合には、ガラス成形品1個分のガラス塊(ガラスゴブ)を用意し、ガラス塊の表面に、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる物質を被覆することが好ましい。
【0049】
なお、ガラス塊の表面に被覆剤を被覆した後、ガラス塊が、加熱されたガラス塊が載置されるガラス塊載置具(たとえば、特許文献1に記載された「軟化盆10」)や成形型(たとえば、特許文献1に記載された「下型60」、「上型61」)に融着しないよう粉末状の離型剤をさらに被覆してもよい。離型剤の被覆は、公知の方法が用いられる。
【0050】
離型剤は、被覆剤と混合して用いられても、被覆剤の被覆後に用いられてもよい。離型剤としては、たとえば、窒化ホウ素、アルミナ、酸化ケイ素、酸化マグネシウム等の粉末状離型剤が挙げられる。
【0051】
3 ガラス塊を加熱して軟化させて成形する工程(工程B)
本発明の工程Bでは、被覆剤が被覆されたガラス塊を加熱して軟化させて成形して、ガラス成形品を得る。
【0052】
(1) ガラス塊の軟化
ガラス塊を加熱して軟化させるステップは、表面に被覆剤が被覆されたガラス塊を耐熱性のガラス塊載置具の上に置き、ガラス塊載置具ごと加熱装置(たとえば、特許文献1に記載された「軟化炉30」)に入れて行うことができる。被覆剤が被覆されたガラス塊が加熱されるとガラス塊は軟化状態となり、ガラス塊の表面上の被覆剤は融液化してガラス塊の表面に表面層を形成する。
【0053】
ガラス塊の表面に表面層が形成されると、本来表面に露出するガラスが表面層で被覆され、ガラス塊の結晶化が大幅に抑制できる。
被覆剤に基づく表面層の厚さは限定されないが、被覆剤に被覆されたガラス塊の表面の結晶化を抑制できる程度の厚さが必要であり、1〜100μmの厚さが好ましく、5〜50μmの厚さがさらに好ましい。
【0054】
ガラスを破損させずに所望の形状に成形するために、成形に先立ってのガラスの加熱、軟化は、ガラスの粘度が10
6dPa・s以下となる温度に加熱することが好ましく、10
5dPa・s以下となる温度に加熱することがより好ましい。本発明によれば、このような粘度までガラスを加熱、軟化しても、ガラス表面の失透は抑制される。
【0055】
被覆剤としてホウ酸、ホウ酸塩、リン酸、リン酸塩等を用いる場合には、これらの化合物を水に溶かした水溶液をガラス塊表面に被覆することが好ましい。被覆剤が水溶液等の液体の場合、ガラス塊を当該液体中に浸漬する、当該液体をスプレー等で噴霧する、刷毛等で当該液体を塗布する等の手段を用いてガラス塊に被覆剤を被覆することができる。被覆後は被覆剤が流動しない程度に乾燥させた後に使用することが好ましい。
【0056】
これらの化合物が溶解した水溶液を被覆剤としてガラス塊に被覆し、加熱されると、被覆剤中の含有水、結合水が抜け、ホウ酸等の溶剤がガラスの軟化温度以下の温度で融液化する。たとえば、被覆剤としてホウ酸水溶液をガラス塊に被覆して加熱すると、被覆剤中のホウ酸はガラス塊の表面上で脱水縮合し、融液化する。
【0057】
また、被覆剤としてホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラスなどのガラスを被覆する場合は、粉末状に加工されたガラス粉末をガラス塊表面に被覆することが好ましい。被覆剤が粉末状の場合、粉末の中にガラス塊をくぐらせる、粉末をガラス塊に散布する、吹付ける、擦り込む等の方法を用いて、ガラス塊に被覆剤を被覆することができる。ガラス粉末をガラス塊に付着させるために、ガラス塊の表面に付着を促進する成分を添加してもよい。
【0058】
ガラス粉末が被覆されたガラス塊を加熱すると、ガラス粉末はガラス塊の表面上で軟化熔融し、融液化する。
【0059】
このように、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる被覆剤をガラス塊の加熱前に被覆することによって、本来表面に露出するガラスが表面層で被覆されるため、ガラス塊の加熱時に生じ得るガラス塊表面の結晶化が大幅に抑制できる。その結果、加熱後の成形によって硬化層がガラス内部へ進入することを防ぎ、ガラス内部の光学的均質性を保持することができる。また、本発明を用いることによって、ガラス材料を有効に利用することができる、ガラス成形品の製造の歩留まりが向上する。
【0060】
(2) 成形
軟化したガラスを成形する方法は特に限定されないが、プレス成形法、ガラス塊を複数本の回転するローラで挟みロッド状のガラスに成形する圧延法、延伸法など公知の成形法を用いることができる。
【0061】
プレス成形法を採用する場合、ガラス塊を加熱することにより軟化させ、軟化したガラス塊をプレス成形装置内のプレス成形型により加圧して、所望の形状に成形する。
【0062】
プレス成形法を採用するときに用いるプレス成形装置としては公知のものを使用することができる。例えば、プレス成形装置としては、上型、下型、あるいは必要に応じて胴型を備えた成形型と、上型、下型にプレス圧を加える加圧機構を有するものを例示することができる。成形型の個数は、ガラス塊載置具から同時に供給されるガラス塊の個数に応じて設定すればよい。ガラス塊を成形型へ供給する際、上型は上方へ退避され、この状態で、ガラス塊が下型上に供給される。下型上へのガラス塊の供給が終了した後、上型を下降して、型閉めをし、上下型で軟化したガラス塊をプレスし、上下型の成形面(胴型を使用し、胴型内面をガラスに転写する場合も含む)をガラスに転写し、所望形状のガラス成形品を得ることができる。
【0063】
次いで、ガラス成形品を離型してプレス成形型から取り出し、アニール処理する。このアニール処理によってガラス内部の歪を低減し、屈折率などの光学特性が所望の値になるようにする。
【0064】
ガラス塊の加熱条件、成形条件、プレス成形型に使用する材料などは公知のものを適用すればよい。以上の工程は大気中で行うことができる。
【0065】
得られるガラス成形品は、主として、光学素子ブランクとして好適に用いることができる。光学素子ブランクは、目的とする光学素子の形状に近似する形状を有するガラスブランクであって、これを研削、研磨することにより最終的に光学素子を作製することができる。
【0066】
また、上記プレス成形法を高い精度で行うことにより(精密プレス成形法)、光学素子として用いることができるガラス成形品が得られる。この場合、ガラス成形品に対して研磨加工等を施すことなく、光学素子が得られるため生産効率が高く、また加工による材料の損失が少ない。なお、精密プレス成形法により、ガラス成形品を作製する場合には、上述したガラス塊の製造方法のうち、第三の例で説明した、浮上成形により得られるガラス塊(プリフォーム)を用いることが好ましい。
【0067】
4 ガラス成形品
本実施形態のガラス成形品は、ガラス塊を所定の形状に成形したガラス成形品であって、
ガラス成形品本体部と、本体部の表面に形成された表面層とを有し、
表面層は、本体部を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む、ガラス成形品である。
【0068】
このガラス成形品において、表面層は、本体部を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含むため、成形時に表面が結晶化しにくく、硬化被膜による均質性の悪化を抑制することができる。
【0069】
また、このガラス成形品は、好ましくは、表面層におけるホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上の成分の含有量は、本体部の内部における当該成分の含有量に比べて大きい。ここで、内部とは、ガラス成形品の厚み方向における内部(ガラス成形品本体部の深部)であり、ガラス成形品の表面層よりも内側に存在する部分である。
【0070】
また、このガラス成形品は、好ましくは、表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0071】
このようなガラス成形品によれば、光学素子などの均質性の高いガラス製品を作製する際、ガラス成形品の表面の除去量を低減することができ、材料ロス、製造コストを低減することができる。また、ガラス成形品全体が均質である場合は、ガラス成形品を光学素子として用いることもできる。
【0072】
本実施形態のガラス成形品は、例えば、上記のガラス成形品の製造方法により製造することができる。
【0073】
ガラス成形品の表面層の厚さは、表面の結晶化を抑制する上から1μm以上であることが好ましい。一方、ガラス成形品を加工する際の除去量を低減する上から、上記表面層の厚さは100μm以下であることが好ましい。表面層の厚さのより好ましい下限は5μm、より好ましい上限は50μmである。
【0074】
本実施形態のガラス成形品は、内部が均質であり、表面の結晶化が抑制されているので、光学素子または光学素子ブランクに好適である。
【0075】
5 光学素子ブランクを加工する工程(工程C)
工程Aと工程Bを経て得られたガラス成形品を、研削、研磨等の公知の加工方法によって、さらに加工できる。ここで、ガラス成形品は、光学素子ブランクである。
【0076】
ガラス成形品の形状を光学素子に近似させて成形し、さらに、研削および/または研磨を施すことによって、レンズ、プリズム等の光学素子を製造できる。
【0077】
研削および/または研磨の方法は、たとえば、次の工程を経て行うことができる。
(i)研削工程
目的とする光学素子の形状に近似する形状になるように、ダイヤモン砥石等を用いてガラス成形品を研削する。
(ii)研磨工程
上記研削工程で研削された面を、酸化セリウムなどの遊離砥粒を用いて研磨し、表面を平滑にする。
(iii)ポリッシュ工程
研磨された面を、ジルコニアなどを用いてポリッシュする。
このような、工程を行うことによってガラス成形品の加工し、光学素子を製造することができる。
【0078】
工程Cの加工で、ガラス成形品の表面層を研磨または研削によって取り除き、ガラス塊に基づく均質なガラス成形品を得ることが好ましい。
【0079】
なお、本発明のガラス成形品の製造方法において、工程Cは必須の工程ではなく、たとえば、工程Bで成形されたガラス成形品を光学素子として用いることもできる。
【0080】
本発明によれば、生産性よくガラス成形品を製造でき、さらにこのガラス成形品を用いて、レンズ、プリズム等の光学素子を安定して生産することができる。
【0081】
6 光学素子
本発明のガラス成形品を加工して光学素子としては、球面レンズ、非球面レンズ、マイクロレンズなどの各種のレンズ、回折格子、回折格子付のレンズ、レンズアレイ、プリズムなどを例示することができる。用途面からは、デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、一眼レフカメラ、携帯電話搭載カメラ、車載カメラなどの撮像光学系を構成するレンズ、DVD、CDなどの光ディスクへのデータ読み書きを行うための光学系を構成するレンズなどを例示することができる。
【0082】
光学素子には必要に応じて、反射防止膜、全反射膜、部分反射膜、分光特性を有する膜などの光学薄膜を設けることもできる。
【0083】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はこうした実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様で実施し得ることは勿論である。
【実施例】
【0084】
本発明を実施例によってさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0085】
[実施例1〜12,比較例1〜5]ガラス成形品の作製
(1) ガラス塊の作製
表1に示す特性を有する5種類の光学ガラス(光学ガラス1〜5)を作製するため、ガラス原料を準備し、それぞれのガラス原料を熔解、清澄、撹拌して均質な熔融ガラスを作製し、流出パイプから流出させた。流出する熔融ガラス流の先端を成形型で受けた状態で、ガラス成形品の製造に必要な量の熔融ガラス塊を分離して成形型上に受けた。成形型からガスを噴出して成形型上の熔融ガラス塊に上向きの風圧を加え、浮上状態でガラス塊に成形した。このようにして、5種類の光学ガラス1〜5のガラス塊を作製した。
【0086】
ガラスの軟化温度はJIS R 3103-1:2001に規定される方法で測定した。
【0087】
【表1】
【0088】
(2) ガラス成形品の作製
光学ガラス1〜5の各ガラス塊を表2に示す水溶液(被覆剤)に浸漬して、ガラス塊の表面に被覆剤を被覆した。
【0089】
光学ガラス1〜5を用い、表面が被覆剤で被覆された各ガラス塊をガラス塊載置具である軟化盆に載せて、軟化炉内に格納することにより、ガラス塊を加熱して軟化させた(実施例1〜12)。軟化炉の温度はガラス塊の軟化温度より100℃高い温度であり、ガラス塊が軟化炉内に保持されている時間は10分であった。
【0090】
各ガラス塊が軟化したところで、軟化炉からガラス塊を取り出した。各実施例で用いられた被覆剤が融液となる温度はガラス塊の軟化温度よりも低い(表2)。したがって、軟化炉で加熱された実施例1〜12のガラス塊の表面には融液となった被覆剤が軟化したガラス塊の表面を覆うように形成されていた。
【0091】
【表2】
【0092】
次に、軟化盆上のガラス塊をプレス成形型に導入してプレス成形した。プレス成形型の成形面は得ようとするガラス成形品(光学素子ブランク)の表面を反転した形状を有している。なお、成形時の加熱温度は表2に示すとおりであった。
【0093】
このようにしてプレス成形されて得られたガラス成形品(光学素子ブランク)を成形型から取り出した。ガラス成形品の表面を観察したところ、実施例1〜12のガラス成形品の表面は結晶化せず、結晶化による硬化被膜は形成されていなかった。また、硬化被膜がガラス成形品の内部に織り込まれることもなかった。さらに、実施例1〜12のガラス成形品は失透していなかった。
【0094】
なお、実施例1〜12において、ガラス塊の表面に表2に示す水溶液(被覆剤)とともに窒化ホウ素粉末を塗布し、実施例1〜12と同様にガラス塊を加熱、軟化し、プレス成形してガラス成形品を作製した。このようにして作製したガラス成形品についても、その表面はいずれも結晶化せず、結晶化による硬化被膜は形成されていなかった。また、硬化被膜がガラス成形品の内部に織り込まれることもなかった。さらに、各ガラス成形品の内部も失透していなかった。
【0095】
一方、比較例1〜5では、被覆剤を用いなかった以外は、実施例1〜12と同じ条件で光学ガラス1〜5の各ガラス塊によりガラス成形品(光学素子ブランク)を作製した。
【0096】
ガラス塊に被覆剤を被覆しなかった比較例1〜5のガラス成形品についても、実施例1〜12と同様に、得られたガラス成形品の表面を観察したところ、ガラス成形品の表面は結晶化し、硬化被膜が形成されていた。また、比較例1〜5で得られたガラス成形品は失透していた。
【0097】
[実施例13〜24]球面レンズの作製
実施例1のガラス成形品(レンズブランク)をアニールして光学特性を目的のレンズの光学特性に一致させると共に、ガラス中の歪を低減した。その後、レンズブランクを公知の方法で、研削および研磨して加工し、球面レンズを作製した(実施例13)。
【0098】
実施例13と同様に、実施例2〜12の各ガラス成形品(光学素子ブランク)から実施例14〜24の各球面レンズを作製した。
【0099】
実施例13〜24では球面レンズを作製したが、実施例1〜12のガラス成形品からプリズムなどのその他の光学素子を製造することもできる。
【0100】
最後に、本発明の実施の形態を総括する。
[1] 本実施の形態のガラス成形品の製造方法は、ガラス塊の表面に被覆剤を被覆する工程A、および
被覆剤が被覆されたガラス塊を、加熱し、軟化させ、成形する工程B、を含み、
被覆剤は、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む。
【0101】
[2] 好ましくは、上記[1]に記載のガラス成形品の製造方法では、工程Bにおいて、ガラス塊を構成するガラスの粘度が10
6dPa・s以下となる温度にて、ガラス塊を加熱する。
【0102】
[3] 好ましくは、上記[1]または[2]に記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、ホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上を含む。
【0103】
[4] 好ましくは、上記[1]〜[3]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0104】
[5] 好ましくは、上記[1]〜[4]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、溶液からなる。
【0105】
[6] 好ましくは、上記[1]〜[5]のいずれか記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、ホウ酸またはリン酸を含有する水溶液からなる。
【0106】
[7] 好ましくは、上記[1]〜[6]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法において、工程Bは、プレス成形工程を含む。
【0107】
[8] 好ましくは、本実施形態に係るガラス成形品は、上記[1]〜[7]のいずれかに記載の製造方法により得られる。
【0108】
[9] 別の局面では、本実施の形態のガラス成形品は、ガラス塊を所定の形状に成形したガラス成形品であって、
ガラス成形品本体部と、本体部の表面に形成された表面層とを有し、
表面層は、本体部を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分を含む。
【0109】
[10] 好ましくは、上記[9]に記載のガラス成形品において、表面層におけるホウ素、リン、ケイ素およびビスマスからなる群から選択される一種以上の成分の含有量は、本体部の内部における当該成分の含有量に比べて大きい。
【0110】
[11] 好ましくは、上記[9]または[10]に記載のガラス成形品において、表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0111】
[12] 好ましくは、上記[9]〜[11]のいずれかに記載のガラス成形品において、表面層の厚さは、1〜100μmである。
【0112】
[13] 別の局面では、本実施の形態の光学素子ブランクは、上記[8]〜[12]のいずれかに記載のガラス成形品からなる。
【0113】
[14] 別の局面では、本実施の形態の光学素子は、上記[8]〜[12]のいずれかに記載のガラス成形品からなる。
【0114】
[15] 別の局面では、本実施の形態の光学素子の製造方法は、上記[13]に記載の光学素子ブランクを、さらに加工する工程Cを含む。
【0115】
[16] 好ましくは、上記[15]に記載の光学素子の製造方法において、工程Cは、光学素子ブランクの表面層を除去する工程を含む。
【0116】
さらに、本実施の形態の他の局面では、
[A1] 本実施の形態のガラス成形品の製造方法は、ガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる被覆剤をガラス塊の表面に被覆する工程A、および
被覆剤が被覆されたガラス塊を加熱して軟化させて成形する工程B、を含む。
【0117】
[A2] 好ましくは、上記[A1]に記載のガラス成形品の製造方法では、工程Bにおいて、ガラス塊を構成するガラスの粘度が10
6dPa・s以下となる温度でガラス塊を加熱する。
【0118】
[A3] 好ましくは、上記[A1]または[A2]に記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0119】
[A4] 好ましくは、上記[A1]または[A2]に記載のガラス成形品の製造方法において、被覆剤は、ホウ酸またはリン酸を含有する水溶液である。
【0120】
[A5] 好ましくは、上記[A1]〜[A4]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法において、工程Bの成形はプレス成形である。
【0121】
[A6] 好ましくは、上記[A3]に記載のガラス成形品の製造方法において、ガラス成形品はガラス塊とその表面に形成された表面層とを有し、
表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0122】
[A7] 好ましくは、本実施の形態のガラス成形品の製造方法は、上記[A1]〜[A6]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法で得られたガラス成形品を加工する工程Cを含む。
【0123】
[A8] 好ましくは、本実施の形態のガラス成形品の製造方法は、上記[A6]に記載のガラス成形品の製造方法で得られたガラス成形品を加工し、表面層を除去する工程Cを含む。
【0124】
[A9] 好ましくは、上記[A1]〜[A8]のいずれかに記載のガラス成形品の製造方法において、ガラス成形品は光学素子または光学素子ブランクである。
【0125】
[A10] 別の局面での本実施の形態のガラス成形品は、ガラス塊とその表面に形成された表面層とを有するガラス成形品であって、表面層がガラス塊を構成するガラスの軟化温度以下の温度で融液となる成分からなる。
【0126】
[A11] 好ましくは、上記[A10]に記載のガラス成形品において表面層は、ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸エステル、ホウ酸ビスマス含有ガラス、ホウ酸亜鉛含有ガラス、ケイ酸アルカリ塩、リン酸およびリン酸塩からなる群から選ばれる1種以上の成分を含む。
【0127】
[A12] 好ましくは、上記[A10]または[A11]に記載のガラス成形品において、表面層の厚さは1〜100μmである。
【0128】
[A13] 好ましくは、上記[A10]〜[A12]のいずれかに記載のガラス成形品において、ガラス成形品は光学素子または光学素子ブランクである。