(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記算出手段は、前記第2時点における実測値と予測値とが同じと判定されるまで、未知数aの仮定値の変更および前記暫定値の算出を繰り返す、請求項1に記載の熱貫流率推定システム。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一または相当部分には同一符号を付してその説明は繰返さない。
【0020】
本実施の形態では、建物の屋内空間と屋外空間との間に位置する面部材の断熱性能を表わす指標として、面部材の熱貫流率を推定する熱貫流率推定システムについて説明する。断熱性能の評価対象の面部材は、外壁、1階の床、および最上階の天井などを含み、屋外空間は、床下空間および小屋裏空間を含む。なお、面部材は、単層の部材に限定されず、複数層で構成された部材であってもよい。
【0021】
(概略構成について)
はじめに、本実施の形態に係る熱貫流率推定システムの概略構成について説明する。
図1を参照して、熱貫流率推定システム1は、評価対象の面部材(以下「対象物」ともいう)80に取付けられる熱貫流率試験装置(以下「試験装置」と略す)10と、試験装置10と電気的に接続され、熱貫流率を推定するための処理を行う推定装置13とを備えている。
【0022】
試験装置10は、評価対象の面部材(以下「対象物」という)80の屋内面(屋内側の面)に接触状態で配置される装置本体11と、対象物80の屋外面(屋外側の面)側に配置され、対象物80の屋外側温度を検知する外付けの温度センサ12とを有している。
図2に示されるように、装置本体11は、基準板21と、ヒータ22と、断熱部材23と、2つの温度センサ24,25とを含む。なお、
図2では、ヒータ22および温度センサ24,25の配線の図示は省略されている。
【0023】
基準板21は、装置本体11の一方面(表面)を形成する板状部材であり、対象物80の屋内面に当接状態で配置(密着)される。つまり、基準板21は、対象物80の屋内面に当接する表面21aと、その反対側に位置する裏面21bとを有している。基準板21の熱貫流率U
1は既知である。
【0024】
基準板21は、たとえば、押出法ポリスチレンフォームなど樹脂系の断熱材により形成されている。なお、基準板21は、対象物80に熱を伝えることができ、かつ、熱抵抗が高すぎない材質であればよい。また、断熱性能が経年変化しないことが望ましい。あるいは、経年変化した場合に交換可能なものであることが望ましい。また、基準板21の表面21aは、円滑であり、対象物80の屋内面との密着度が確保できるものであることが望ましい。また、その形状は、たとえば矩形形状である。
【0025】
ヒータ22は、基準板21の裏面側に設けられる発熱部材である。ヒータ22がON状態(発熱状態)とされた場合に、基準板21を介して対象物80に熱が伝えられる。ヒータ22は、面状の発熱体により構成され、基準板21と略同じ面積であることが望ましい。ヒータ22のON/OFFは、推定装置13によって制御される。
【0026】
断熱部材23は、ヒータ22の屋内側に設けられ、基準板21とヒータ22と断熱部材23とが、層状に形成されている。断熱部材23の厚みは、基準板21の厚みよりも大きい。断熱部材23の熱抵抗は、基準板21の熱抵抗よりも十分に高く、ヒータ22の熱が屋内空間側へ逆流するのを防止する。その結果、ヒータ22の熱の大部分を対象物80側に伝えられることができる。なお、ヒータ22の熱を基準板21に均等に伝えるために、ヒータ22と基準板21との間には、均熱板(図示せず)が設けられていてもよい。
【0027】
温度センサ24は、基準板21の裏面21bに設けられ、基準板21の裏面21b側の温度を検知する。温度センサ25は、基準板21の表面21aに設けられ、基準板21の表面21a側の温度を検知する。ここで、基準板21の表面21aは、対象物80の屋内面に当接状態で配置されるため、温度センサ25により検知される温度は、対象物80の屋内面の温度と等しい。
【0028】
温度センサ12は、対象物80の屋外面であって、装置本体11の温度センサ24,25と同じライン上に配置されることが望ましい。つまり、対象物80が外壁の場合は、温度センサ12の位置と、温度センサ24,25の位置とが略同じ高さであることが望ましい。なお、ヒータ22の加熱による対象物80の屋外面の温度の上昇率は僅かであるため、温度センサ12は、対象物80の屋外面そのものの温度に限らず、対象物80の屋外側の温度を検知すればよい。つまり、対象物80の屋外面の温度は、外気温で代替してもよいし、外気温に空気の熱伝達率を掛けて対象物80の屋外面の温度を推定してもよい。たとえば対象物80が1階床の場合、対象物80の屋外面の温度は、床下温度に代替することができる。このような場合、温度センサ12の設置位置は、特に限定されない。
【0029】
温度センサ24,25、および、温度センサ12による検知信号は、推定装置13に入力され、推定装置13において、対象物80の熱貫流率が推定される。
【0030】
図3に示されるように、推定装置13は、各種演算処理および各部の制御を行う制御部31と、各種データおよびプログラムを記憶する記憶部32と、ユーザからの指示を受け付ける操作部33と、各種情報を表示する表示部34と、ネットワーク通信を行うための通信部35と、電源部36と、計時動作を行う計時部(図示せず)とを含む。推定装置13は、また、制御部31からの指示に基づき、ヒータ22の出力を制御する加熱制御部37と、温度センサ24,25,12からの信号を入力して、制御部31に出力する入力部(図示せず)とを含む。制御部31は、たとえばCPU(Central Processing Unit)などの演算処理装置により実現される。記憶部32は、たとえば不揮発性の記憶装置により実現される。あるいは、制御部31と記憶部32とは、1つのハードウェア(記憶・演算部)として構成されてもよい。
【0031】
図1に示したように、試験装置10と推定装置13とが分離されている場合、推定装置13は、ヒータ22および温度センサ24,25,12それぞれの配線の端子が接続されるコネクタ(図示せず)を含んでいればよい。
【0032】
なお、試験装置10の装置本体11と推定装置13とは、
図23に示されるように、1つの筐体100内に設けられることが望ましい。つまり、熱貫流率推定システム1は、単体の装置(熱貫流率推定装置)1Aによって構成されることが望ましい。この場合、推定装置13の操作部33および表示部34は、筐体100上に設けられればよく、その場合、操作部33および表示部34は、タッチパネルとして一体的に構成されていてもよい。また、装置本体11と推定装置13との間には、仕切り板101が設けられていてもよい。
【0033】
また、上述のように、対象物80の屋外面の温度が、外気温や床下温度で代替される場合には、温度センサ12自体を設けず、推定装置13の操作部33または通信部35を介して、対象物80の屋外側温度が入力されてもよい。つまり、試験装置10は、装置本体11のみで構成されてもよい。
【0034】
(機能構成について)
次に、熱貫流率推定システム1の機能構成について説明する。
【0035】
図3に示されるように、推定装置13は、その機能構成として、上記した加熱制御部37に加え、計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44を含んでいる。計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44の機能は、試験装置10が対象物80に取り付けられた状態において、制御部31により実現される。記憶部32には、基準板21の熱貫流率U
1が予め記憶されている。
【0036】
計測処理部41は、温度センサ24,25,12からの検知信号に基づいて、ヒータ22により対象物80に熱が伝えられた状態における、各位置の温度を計測する。すなわち、
図4を参照して、基準板21の裏面側温度Th、基準板21の表面側温度(対象物80の屋内面温度)Ts、および、対象物80の屋外側温度Tgを計測する。計測された各点の温度(℃)は、制御部31の内部メモリなどの記憶手段に一時記憶される。
【0037】
また、計測処理部41は、加熱制御部37を介してヒータ22の運転を行い、対象物80を屋内空間側から加熱する。つまり、加熱制御部37は、計測処理部41からの指示に応じて、ヒータ22の出力を制御する。加熱制御部37によるヒータ22の出力制御については後述する。
【0038】
推定部43は、対象物80の加熱後の3点の温度勾配から、対象物80の熱貫流率を推定する。対象物80の熱貫流率は、各位置の温度Th、Ts、Tgと、記憶部32に記憶された基準板21の熱貫流率U
1とに基づいて推定される。推定部43による対象物80の熱貫流率の推定原理は、以下の通りである。
【0039】
基準板21の熱貫流率は既知であるため、その値U
1と、基準板21の表裏温度(表面側温度および裏面側温度)Th、Tsとから、基準板21を通過する熱流W
1(単位:W/m
2)を推定することができる。すなわち、次式(1)により、基準板21を通過する熱流W
1を推定することができる。
【0040】
W
1=U
1×(Th−Ts) ・・・(1)
一方、対象物80を通過する熱流W
0は、未知の熱貫流率U
0と、対象物80の表裏温度(Ts、Tg)とから、次式(2)が成り立つ。
【0041】
W
0=U
0×(Ts−Tg) ・・・(2)
ここで、対象物80を通る熱流W
0と、基準板21を通る熱流W
1とは、一元で考えると同じであるため、次式(3)が成り立つ。
【0042】
U
1×(Th−Ts)=U
0×(Ts−Tg) ・・・(3)
よって、求めたい対象物80の熱貫流率U
0は、次式(4)により求められる。
【0043】
U
0=U
1×(Th−Ts)/(Ts−Tg) ・・・(4)
すなわち、推定部43は、基準板21の表裏温度Th,Tsの温度差と、基準板21の熱貫流率U
1とを乗算することにより得られる基準板21の熱流の推定値(W
0)を、対象物80の表裏温度Ts,Tg(基準板21の表面側温度Tsおよび対象物80の屋外側温度Tg)との温度差で除算することにより、対象物80の熱貫流率U
0を導出することができる。
【0044】
上記推定原理に基づいて、本実施の形態では、式(4)で表される算出式に、基準板21の熱貫流率と計測された3点の温度とを代入することで、対象物80の熱貫流率U
0を推定(算出)する。
【0045】
ここで、推定部43により対象物80の熱貫流率U
0を精度良く推定するためには、本来、基準板21の表裏温度(Th,Ts)および対象物80の屋外側温度(Tg)がそれぞれ略一定となり安定するまで待つ必要がある。なお、上述のように、対象物80の屋外側温度(Tg)は、対象物80の加熱状態に関わらず一定とみなせるため、実際には、基準板21の表裏温度(Th,Ts)が安定するまで待つ必要がある。基準板21の表裏温度が安定するまでの時間は、対象物80の熱容量の大きさによって異なる。一般的に、床材の熱容量は、外壁の熱容量よりも大きい。床材は、典型的には、屋内空間に面する合板(たとえばフローリング、木床など)と、その裏側に設けられた断熱材(たとえばポリスチレンフォーム)とで構成されている。
【0046】
対象物80が床材のような熱容量の大きい面部材である場合に、仮に、ヒータ22の出力を一定出力として対象物80を加熱した場合、
図24(A)に示すように、基準板21の裏面側温度Thと、基準板21の表面側温度(対象物80の屋内面温度)Tsとの双方が安定するまでに、9時間近く掛かることがある。この場合、当然ながら、
図24(B)に示すように、対象物80の熱貫流率U
0が真値Utと近い値となるまでに、9時間近く掛かる。これは、熱容量の大きい対象物80の場合、ヒータ22からの熱が対象物80に蓄熱されながら、2点の温度Th,Tsが上昇するためであると考えられる。
図24において、基準板21の表裏温度Th,Tsの双方が安定し、推定U値が真値と略一致したときの時間が、「tz」で示されている。また、1階床の屋外面温度がTg
1で示され、床下温度がTg
2で示されている。
【0047】
入居中の実物件での断熱性能診断を可能にするためには、理想的には2時間以下の短時間で、対象物80の断熱性能を評価(診断)する必要がある。
図24に示すようなケースにおいて、加熱開始から理想の測定終了時間(二点鎖線で示されている)となったタイミングで熱貫流率の算出を試みた場合、その時点では基準板21の表裏温度Th,Tsは未だ上昇を続けており、それぞれの安定温度TSh,TSsに達していない。したがって、その時点で得られた基準板21の表裏温度Th,Tsを上記算出式(4)に当て嵌めたとしても、推定U値と真値(Ut)との誤差は非常に大きい。
【0048】
そこで、本実施の形態では、基準板21の裏面側温度Thを一定に制御し、変数を基準板21の表面側温度Tsのみとすることにより、加熱開始から短時間で、表面側温度Tsの安定温度を予測することとした。ヒータ22の一定温度制御は加熱制御部37により行われ、基準板21の表面側安定温度の予測は予測処理部42により行われる。なお、以下の説明においては、理解を容易にするために、基準板21の裏面側温度Thを「ヒータ温度Th」、基準板21の表面側温度Tsを「対象面温度Ts」という。
【0049】
加熱制御部37は、
図5のグラフに示されるように、運転開始直後からヒータ22の温度を急速に上げて、計測処理部41により計測されたヒータ温度Thが設定温度TShとなるように制御する。このような一定温度制御は、たとえばヒータ22のON/OFFを繰り返すことにより実現される。なお、温度センサ24からの検知信号は、計測処理部41を経由することなく加熱制御部37に入力されてもよい。
【0050】
予測処理部42は、加熱制御部37による一定温度制御が行われている際に、時系列に得られる対象面温度(実測値)Tsに基づいて、対象面(すなわち対象物80の屋内面)の安定温度TSsを予測する。なお、測定開始後、安定温度TSsが予測可能となるのは、ヒータ温度Thが略一定となり、対象面温度Tsの上昇勾配が安定した時点(
図5の時間ta)以降である。対象面の安定温度の予測方法については、
図6のグラフを参照して説明する。
【0051】
図6に示す時間tbが、理想の測定終了時間(典型的には、測定開始後60分〜120分の間)であると仮定する。時間tbの段階では、対象面温度Tsは安定しておらず、上昇を続けている。通常、対象面温度Tsの上昇は、理想終了時間tbから長時間経過してやっと収束する。予測処理部42は、時間tb以前の温度変化から関数近似を行って収束値bを導出することで、対象面の安定温度TSsを予測する。つまり、予測処理部42は、対象面温度の変化過程において、ヒータ温度が一定の状態のときに得られる実測値(Ts)に基づいて、近似曲線の収束値bを算出することによって、対象面の安定温度TSsを予測する。
【0052】
近似曲線は、次式(5)により表わされる。
【0053】
y=−Ca
x+b (ただし、0<a<1) ・・・(5)
ここで、
図6のグラフに示されるように、測定開始時ではなく、特定時点を近似曲線のx=0とし、特定時点における実測値をy
0とする。その場合、式(5)の近似式に、x=0、y=y
0を代入すると、
y
0=−Ca
0+b=−C+b
となるため、
C=b−y
0
が成り立つ。よって、式(5)の近似式を、次式(6)の方程式に置き換える。
【0054】
y=−(b−y
0)a
x+b ・・・(6)
この方程式(6)を用いる場合、未知数bは、最終的に求めたい収束値であるが、未知数aが定まれば計算できる。したがって、予測処理部42は、特定時点よりも後の第1時点(x
1)および第2時点(x
2)の実測値(y
1,y
2)から、方程式(6)の未知数aを導出する。なお、本実施の形態において、特定時点は、典型的には、ヒータ温度Thが安定した時点(時間ta)である。したがって、特定時点を以下「ヒータ安定時点」という。第1時点は、ヒータ安定時点よりもΔt1分後の時点であり、第2時点は、ヒータ安定時点よりもΔt2分(Δt2>Δt1)後の時点である。なお、特定時点は、時間taよりも後であってもよい。
【0055】
具体的には、まず、未知数aを1未満の任意の数値として仮定する。そして、次式(7)により、第1時点の実測値から、収束値bの暫定値(以下、「暫定収束値b
*」と表わす)を求める。
【0056】
b
*=(y
1−y
0a
x1)/(1−a
x1) ・・・式(7)
暫定収束値b
*が求められると、それよりも後の時間における対象面温度Tsの予測式を次式(8)のように設定することができる。
【0057】
y=−(b
*−y
0)a
x+b
* ・・・式(8)
予測式は、第1時点の実測値に基づき算出された暫定収束値b
*が用いられることから、本実施の形態では、第1時点、すなわちヒータ安定時点(x=0)からΔt1分経過した時点を「予測式作成タイミング」という。なお、
図7には、第1時点が「予測式作成時刻」として示されている。
【0058】
図7には、予測式作成タイミング(x
1)において、未知数a=0.50と仮定したときの予測式のグラフ、未知数a=0.90と仮定したときの予測式のグラフ、未知数a=0.99と仮定したときの予測式のグラフが示されている。当然ながら、未知数aの仮定値によって、暫定収束値b
*は様々な値をとる。たとえば、x
1=10、未知数a=0.90と仮定した場合、暫定収束値b
*は、「b
*={y
10−y0(0.9)
10}/{1−(0.9)
10}」として表せる。なお、「y
10」は、x=10のときの対象面温度Ts(実測値)である。
【0059】
次に、予測処理部42は、ヒータ安定時点からΔt2時間(x
2)経過した第2時点において、予測式(8)より算出される予測値「−(b
*−y
0)a
x2+b
*」と、そのときの実測値y
2とを比較する。これにより、未知数aの仮定値が正しいかどうかを判定(確認)する。
【0060】
予測値と実測値y
2とが異なる場合には、未知数aが正しくないと判定できる。この場合、予測処理部42は、予測値と実測値y
2とが同じになるまで未知数aの仮定値を変更する。たとえば、
図8に示されるように、予測値が実測値y
2よりも小さい場合、仮定した未知数aは本来の値よりも小さすぎることが分かる。逆に、
図9に示されるように、予測値が実測値y
2よりも大きい場合、未知数aの仮定値は本来の値よりも大きすぎることが分かる。
【0061】
これに対し、
図10に示すように、予測値と実測値y
2とが一致していれば、未知数aの仮定値は正しいとみなすことができる。したがって、予測処理部42は、このときの予測値の算出に用いた暫定収束値b
*を、収束値bとして判定することで、安定表面温度TSsを予測することができる。
【0062】
このように、第2時点の実測値に基づき未知数aの仮定値および暫定収束値b
*が正しいかを確認することから、本実施の形態では、第2時点、すなわちヒータ安定時点(x=0)からΔt2分経過した時点を「確認タイミング」という。なお、
図8〜
図10には、第2時点が「確認時刻」として示されている。
【0063】
このような予測方法を用いることで、対象面温度Tsが安定していない段階で、その収束値b、すなわち安定温度TSsを予測することができる。したがって、短時間で、対象物80の熱貫流率U
0を推定することができる。
【0064】
なお、温度センサ25の特性上、2点の実測値y
1,y
2の一方または双方には、±0.5℃以下の誤差が含まれる可能性がある。実測値y
1,y
2のいずれかに誤差があれば、収束値bの算出結果にも影響する。したがって、予測処理部42は、確認タイミングにおいて収束値bとして予測した値(収束値bの候補値)が、異常値でないか否かを判定することが望ましい。このような異常判定処理については後述する。
【0065】
また、本実施の形態のような安定温度の予測方法によれば、ヒータ安定時点と予測式作成タイミングとの時間差Δt1、および、予測式作成タイミングと確認タイミングとの時間差(Δt2−Δt1)は、等しくなくてもよい。そのため、予測式作成タイミングおよび確認タイミングを、理想終了時間内で自由に設定できる。
【0066】
したがって、実測値y
0とy
1との差、および、実測値y
1とy
2との差が、それぞれ比較的大きくなる2点を、予測式作成タイミングおよび確認タイミングとして選択することができる。その結果、収束値の算出誤差を低減することができる。
【0067】
また、確認タイミングを自由に設定できることから、確認タイミングを、測定開始時を基準とした理想終了時間tbとして定めてもよい。この場合、理想終了時間tbから安定時間taを引いた時間が、x
2の値(Δt2)となる。あるいは、確認タイミングを、ヒータ安定時点からの目標予測時間として定めてもよい。
【0068】
なお、予測式作成タイミングおよび確認タイミングをそれぞれ特定するための情報は、予め記憶部32に記憶されていてもよいし、測定開始時にユーザにより入力されてもよい。後者の場合、具体的な時刻(時分)が入力されてもよいし、安定時間taからの経過時間(Δt1,Δt2)が入力されてもよい。あるいは、測定開始時からの経過時間(ta+Δt1,ta+Δt2)が入力されてもよい。
【0069】
再び
図3を参照して、推定装置13の結果処理部44は、推定部43による推定結果(対象物80の熱貫流率U
0)を記憶部32に記憶する処理を行う。この際、対象物80を識別するための識別情報と、熱貫流率の推定データとを関連付けて、記憶部32に記憶させることが望ましい。また、結果処理部44は、推定結果をユーザに報知するために、推定結果を表示部34に表示する処理を行う。なお、記憶部32は、基準板21の熱貫流率U
1の記憶用のメモリと、推定結果の記憶用のメモリとを、個別に含んでいてもよい。
【0070】
なお、本実施の形態では、上記した計測処理部41、予測処理部42、推定部43、および結果処理部44の機能は、制御部31がソフトウェアを実行することで実現されるものとしたが、これらのうちの少なくとも1つについては、ハードウェアにより実現されてもよい。
【0071】
(動作について)
次に、熱貫流率推定システム1の動作について説明する。当該システム1の動作は、制御部31が、記憶部32に記憶されたプログラムを読み出して熱貫流率測定処理を実行することで実現される。
【0072】
図11は、本実施の形態における熱貫流率測定処理を示すフローチャートである。なお、
図11に示す処理は、装置本体11が対象物80の屋内面に接触した状態で、操作部33を介してユーザから測定開始の指示が入力された場合に開始されるものとする。
【0073】
図11を参照して、はじめに、計測処理部41は、加熱制御部37を介してヒータ22の加熱処理を開始するとともに(ステップS2)、加熱処理に並行して、上記した各位置の温度計測を開始する(ステップS4)。つまり、計測処理部41は、ヒータ22の加熱中、温度センサ24,25,12からの検知信号に基づいて、ヒータ温度Th、対象面温度Ts、および、対象物80の屋外側温度Tgを計測する。推定装置13に入力された各温度センサからの検知信号は、デジタル信号に変換されて制御部31に出力される。なお、上述のように、対象物80の屋外側温度Tgは、対象物80の加熱状態に関わらず一定とみなせるため、当該温度の計測タイミングは問わない。
【0074】
加熱制御部37は、ヒータ温度Thが設定温度となるように、ヒータ22の一定温度制御を行う。設定温度は、予め記憶部32に記憶されていてもよい。
【0075】
続いて、予測処理部42は、安定温度予測処理を実行する(ステップS6)。安定温度予測処理については、
図12にサブルーチンを挙げて説明する。
【0076】
図12を参照して、予測処理部42は、処理期間中、時系列に得られる各点の温度データをたとえば内部メモリに一時記憶する(ステップS22)。変数iを測定開始からの経過時間とすると、時間iに計測されたヒータ温度Thiおよび対象表面温度Tsiが順次保存される。
【0077】
予測処理部42は、まず、ヒータ温度が安定したか否かを判断する(ステップS24)。具体的には、たとえば、時間iにおいて、前10点のヒータ温度のデータの平均値と、前100点のヒータ温度のデータの平均値とが略同じになった場合に、ヒータ温度が安定したと判断する。
【0078】
ヒータ温度が安定したと判断した場合(ステップS24にてYES)、そのときの時間iを「x
0」、対象表面温度Tsiを「y
0」として保存する(ステップS26にてNO、ステップS28)。なお、ヒータ温度の安定の有無は、ヒータ温度Thiの変動だけを検出するのではなく、対象表面温度Tsiの勾配が安定したか否かも検出される。したがって、対象表面温度y
0にはセンサ誤差がないとみなすことができる。
【0079】
その後、予測処理部42は、予測式作成タイミングとなったか否かを判断する(ステップS30)。予測式作成タイミングか否かは、記憶部32に記憶された情報または操作部33を介して入力された情報に基づいて判断される。
【0080】
経過時間iが予測式作成タイミングを示していれば(ステップS30にてYES)、現在の経過時間iから、保存したx
0時間を引いた時間Δt1を「x
1」とし、そのときの対象表面温度Tsiを「y
1」として保存する(ステップS32)。
【0081】
続いて、予測処理部42は、未知数aを任意の数値(0<a<1)に設定し(ステップS34)、上記式(7)に基づき、未知数aの仮定値および保存したx
1,y
1に基づき、暫定収束値b
*を算出する(ステップS35)。
【0082】
暫定収束値b
*が求まると、予測処理部42は、その後の対象面温度の予測式を、上記式(8)のように設定する(ステップS36)。未知数aの仮定値がたとえば0.90の場合、予測方程式は、「y=−(b
*−y
0)(0.9)
x+b
*」として表される。
【0083】
予測式が作成されると、ステップS22に戻る。ステップS22では、時間iにおける各点温度データを追加保存し、(上記した各種の判断の後に、)確認タイミングとなったか否かが判断される(ステップS38)。確認タイミングか否かについても、記憶部32に記憶された情報または操作部33を介して入力された情報に基づいて判断される。
【0084】
確認タイミングであると判断された場合(ステップS38にてYES)、現在の経過時間iから、保存したx
0時間を引いた時間Δt2を「x
2」とし、そのときの対象表面温度Tsiを「y
2」として保存する(ステップS40)。
【0085】
次に、予測処理部42は、実測値y
2が、ステップS36で作成した予測式の「x」に、x
2の値を代入して得られる予測値「−(b
*−y
0)a
x2+b
*」と同じか否かを判断する(ステップS42)。具体的には、実測値と予測値とが、小数点第3位以上一致していれば、これらは同じであると判断する。なお、実測値と予測値とが、小数点第2位以上一致していれば、これらは同じであると判断してもよい。
【0086】
実測値と予測値とが異なっていれば(ステップS42にてNO)、予測式の未知数aの仮定値を変更し、暫定収束値b
*を更新する(ステップS44)。具体的には、実測値と予測値との大小関係に応じて、予測値が実測値に近付くように、未知数aを変更する。つまり、実測値が予測値よりも小さい場合に、未知数aの仮定値を元の仮定値よりも小さく変更し、実測値が予測値よりも大きい場合には、未知数aの仮定値を元の仮定値よりも大きく変更する。未知数aの値の変更は、たとえば、まず、0.1単位で行い、小数点第1位の数字が確定した後に、小数点第2位の数字を変更する。
【0087】
実測値と予測値とが同じと判定されるまで、未知数aの仮定値の変更および暫定収束値b
*の算出が繰り返される(ステップS42,44)。実測値と予測値とが同じと判定された場合(ステップS42にてYES)、予測処理部42は、実測値と同じと判定された予測値の算出に用いた最新の暫定収束値b
*を収束値b(候補)として判定する。これにより、収束値bが出力される(ステップS46)。
【0088】
次に、
図13を参照して、予測処理部42は、収束値b(候補)についての異常判定処理を実行する。具体的には、
図14のグラフに示されるように、予測処理部42は、確認タイミングx
2よりも所定時間前の時点x
2’における実測値y
2’と、x
2時点よりも所定時間後の時点x
2’’における実測値y
2’’とを取得する。そして、実測値y
2’から収束値b’を計算するとともに、実測値y
2’’から収束値b’’を計算する(ステップS48)。これらの収束値b’,b’’の計算に用いられる未知数aの値は、判定対象の収束値bの算出に用いられた値と同じである。
【0089】
次に、予測処理部42は、収束値の候補値bと、ここで計算した収束値b’,b’’との平均値Baveを算出する(ステップS50)。収束値の候補値bが平均値Baveと略一致した場合(ステップS52にてYES)、収束値の候補値bは正しいと判断し、収束値bを予測値として決定する(ステップS54)。なお、収束値の候補値bと平均値Baveとが、たとえば小数点第2位以上一致していれば、これらは略一致していると判断する。
【0090】
収束値の候補値bが平均値Baveと一致しない場合(ステップS52にてNO)、収束値の候補値bは異常であると判断し、収束値bの再計算を実行する(ステップS56)。収束値bの再計算が行われると、上記ステップS46に戻り、上記処理を繰り返す。なお、本実施の形態では、確認タイミング付近の3点の実測値y
2,y
2’,y
2’’に基づいて、収束値bの異常の有無を判定したが、限定的ではなく、4点以上の実測値’に基づいて収束値bの異常の有無を判断してもよい。
【0091】
収束値bの再計算処理の一例について、
図15のフローチャートを参照して説明する。予測処理部42は、予測式作成タイミングを前または後にずらして「x
1」の値を変更し、そのときの実測値を「y
1」に変更する(ステップS60)。これにより、式(7)に基づき暫定収束値b
*を再計算し、予測式(8)を再作成する(ステップS62)。具体的には、
図12のステップS34〜S36と同様の処理が行われる。なお、暫定収束値b
*の計算に用いられる未知数aの仮定値は、直前の異常判定対象の収束値b(候補)の算出に用いられた数値と同じであってもよい。
【0092】
変更前の予測式作成タイミングを「x
p1」、そのときの実測値を「y
p1」と表わした場合において、実測値y
p1に誤差があった場合に再作成された予測式(8)のグラフの一例が
図16に示されている。
【0093】
その後、確認タイミング(x
2)おける実測値y
2が、再作成した予測式から得られる予測値と同じとなる未知数aを判定し、暫定収束値b
*を更新する(ステップS64)。これにより、再作成した予測式に応じた暫定収束値b
*が、新たな収束値b(候補)として再度出力される(
図12のステップS46)。
【0094】
このような再計算処理は、特に、最初の予測式作成タイミングにおける実測値y
1に誤差があった場合に有効である。
【0095】
なお、二度目の異常判定処理(
図13のステップS48,S50,S52)においても、収束値bの候補が異常と判断された場合には、確認タイミングにおける実測値y
2に誤差があったと仮定して、再計算処理を実行してもよい。
【0096】
この場合の再計算処理の例が、
図17のフローチャートに示される。
図17を参照して、予測処理部42は、確認タイミングを前または後にずらして「x
2」の値を変更し、そのときの実測値を「y
2」に変更する(ステップS70)。次に、変更後の実測値y
2が、変更後の「x
2」を代入して得られる予測値と同じになる未知数aを判定し、暫定収束値b
*を更新する(ステップS72)。具体的には、
図12のステップS42,S44と同様の処理が行われる。更新後の暫定収束値b
*が、新たな収束値b(候補)として再度出力される(
図12のステップS46)。
【0097】
変更前の確認タイミングを「x
p2」、そのときの実測値を「y
p2」と表わした場合において、実測値y
p2に誤差があった場合に、未知数aおよび暫定収束値b
*が更新された予測式のグラフの一例が
図18に示されている。
【0098】
なお、予測式作成タイミングおよび確認タイミングにおける実測値は、それぞれ、移動平均処理が行われることによって、計測値の極端なばらつきが抑えられていることが望ましい。また、測定開始時においても、一定時間(たとえば5分程度)継続して実測値の移動平均処理を行うことにより、滑らかな曲線を得ておくことが望ましい。
【0099】
再び
図11を参照して、安定温度予測処理が終わると、推定部43は、記憶部32から基準板21の熱貫流率U
1を示す数値データを読み出して(ステップS8)、対象物80の熱貫流率U
0を推定する(ステップS10)。具体的には、記憶部32から上記式(4)で示される算出式も読み出し、読み出した算出式に、ヒータ22の設定温度(Th)と、上記予測処理で求められた収束値(Ts)と、対象物80の屋外側温度(Tg)と、ステップS8で読み出した数値(U
1)とを代入することにより、対象物80の熱貫流率の推定値(U
0)を算出する。なお、式(4)の文字U
1に予め基準板21の熱貫流率が代入された算出式を、記憶部32に予め記憶させておいてもよい。ステップS8の処理(U
1値の読み出し)は、本測定処理の開始時に行われてもよい。
【0100】
対象物80の熱貫流率(U
0)が推定されると、結果処理部44は、推定結果(U
0)を表示部34に表示するとともに、記憶部32に記録する(ステップS12)。このように、対象物80の熱貫流率を記録することで、対象物80の面積を入力すれば、対象物80から逃げる熱量を求めることもできる。また、建物において、断熱性能の評価対象となる全ての面部材について、熱貫流率推定処理が終わると、記憶部32に記憶された面部材ごとの熱貫流率と、それらの面積とを参照して、建物全体の外皮平均熱貫流率や熱損失係数を推定することもできる。
【0101】
上述のように、本実施の形態によれば、試験装置10によって室内空間側から対象物80に強制的に熱を与えるため、実際の内外温度差が小さい時期であっても、対象物80の熱貫流率の推定を行うことができる。また、試験装置10の基準板21の面積は対象物80の面積よりも十分に小さく、対象物80の一部分のみを加熱するだけでよいため、従来よりも、短時間で断熱性能を評価することができる。
【0102】
また、熱貫流率を推定するために用いる機材としては、試験装置10を対象物80に設置するだけでよいため、システム構成を簡易にすることができる。
【0103】
また、熱流計により熱流を計測する場合、真値との誤差が生じやすいが、本実施の形態では、対象物80に熱が伝えられた状態において各位置の温度を計測するだけでよいため、誤差を少なくすることができる。
【0104】
さらに、本実施の形態では、ヒータ22の加熱開始後、早期の段階で、基準板21の表面側の安定温度(収束値)を予測可能である。そのため、熱容量の大きい対象物80を評価対象とする場合でも、測定時間を短時間(理想的には、1時間以下)に抑えることができる。したがって、本実施の形態のシステム1は、入居中の実物件にも適用することが可能である。
【0105】
また、本実施の形態のような対象面の安定温度の予測方法によれば、収束値の候補が異常値か否かの判定ができるため、精度良く対象面の安定温度を予測することができる。また、予測式作成タイミングおよび確認タイミングの一方を変更するだけで、収束値を再計算できるため、処理負荷を抑えることができる。なお、予測式作成タイミングおよび確認タイミングの双方を変更してもよい。
【0106】
なお、収束値の異常判定処理において、所定回数、収束値が異常と判断された場合には、判定対象となった収束値の最大値と最小値とから、幅をもった予測値を得てもよい。この場合、推定部43は、予測処理部42から得られた最大予測値と最小予測値とに基づいて、対象物80の推定U値の最大値および最小値を計算してもよい。つまり、結果処理部44において、熱貫流率の推定範囲が出力されてもよい。
【0107】
あるいは、収束値の異常判定処理は必須ではない。その場合、確認タイミング付近の実測値から算出される収束値の統計値を、対象面の安定温度として判定してもよい。具体的には、
図13のステップS50で算出したBave(収束値の候補と、確認タイミング前後の実測値から算出される収束値との平均)を、対象面の安定温度として判定してもよい。
【0108】
また、本実施の形態では、ヒータ22を一定温度制御して対象物80を加熱し、上昇過程の表面側温度に対し、上記予測処理を行った。しかし、表面側温度を、一旦急上昇させ、その後の下降過程における表面側温度に対し、予測処理を行うことも可能である。その場合、上記式(5)で示された近似式に代えて、次式(9)で示される近似式を用いればよい。
【0109】
y=Ca
x+b (ただし、0<a<1) ・・・式(9)
この場合、上昇過程の場合に用いた近似式(6)は、次式(10)の方程式に置き換えられる。ただし、この方程式(10)は、近似式(6)の未知数aの範囲を、「−1<a<0」とすることと同義である。
【0110】
y=(b−y
0)a
x+b ・・・(10)
なお、基準板21の表面側温度を急上昇させるためのシステム構成は、次の変形例に示すような構成であってもよい。
【0111】
(変形例)
図19および
図20を参照して、本実施の形態の変形例における熱貫流率推定システム1は、上記実施の形態で示した装置本体11に代えて、装置本体11Aを含んでいる。
【0112】
図19に示されるように、装置本体11Aは、上記した基準板21、ヒータ(以下「メインヒータ」という)22、断熱部材23、および温度センサ24,25に加え、基準板21の表面21aに重ねられたサブヒータ26を有している。つまり、本変形例では、対象物80に熱を伝える発熱部材として、メインヒータ22に加え、サブヒータ26がさらに設けられる。
【0113】
サブヒータ26は、メインヒータ22と同様に、面状の発熱体により構成されている。この場合、基準板21の表面側温度、すなわち対象物80の屋内面温度を検知する温度センサ25は、サブヒータ26の表面に設けられる。なお、サブヒータ26の面積は、メインヒータ22の面積よりも小さくてもよい。
【0114】
図20に示されるように、サブヒータ26は、推定装置13の加熱制御部37Aによって制御される。加熱制御部37Aは、加熱開始からの特定期間のみ、サブヒータ26を運転する。つまり、特定期間は、メインヒータ22およびサブヒータ26の双方を運転し、特定期間の後は、メインヒータ22のみを運転する。これにより、加熱初期の特定期間における対象物80の加熱強度が、その後の対象物80の加熱強度よりも大きくなるように、発熱部材の出力が制御される。
【0115】
なお、「特定期間」は、発熱部材の運転開始(加熱開始)から特定時までの期間を表わす。また、「特定時」は、たとえば、測定開始前に設定された設定時間であり、典型的には、記憶部32に予め記憶された時間(所定時間)である。設定時間は、たとえば30分以下である。なお、設定時間は、予め記憶部32に記憶された時間でなくてもよく、たとえば、測定開始時にユーザが入力した時間であってもよい。あるいは、「特定時」は、対象面温度Tsが閾値に達した時であってもよい。
【0116】
加熱制御部37Aの動作は、計測処理部41Aによって制御される。なお、加熱制御部37Aは、メインヒータ22のON/OFFを制御するメイン加熱制御部と、サブヒータ26のON/OFFを制御するサブ加熱制御部とを個別に含んでいてもよい。
【0117】
図21に示されるように、装置本体11Aの表面にサブヒータ26が配置されるため、基準板21の表面21aは、対象物80の屋内面に当接せず近接した状態で配置される。この場合、サブヒータ26によって対象物80を直接加熱することができるため、メインヒータ22は一定温度制御したままでも、対象面温度を急上昇させることができる。サブヒータ26の出力は、一定出力であってよい。
【0118】
なお、
図22に示されるように、サブヒータ26の表面にも、均熱板70を設けてもよい。均熱板70は硬い材質であるため、均熱板70の表面全体を対象物80の屋内面に密着させるためには、温度センサ25をサブヒータ26の裏面側に設けてもよい。その場合、基準板21の表面とサブヒータ26との間に均熱板70をさらに設けて、温度センサ25を基準板21の表面と均熱板70との間に配置してもよい。温度センサ25は、柔らかい材質の基準板21の表面に埋め込まれる。なお、メインヒータ22側の温度センサ24を基準板21の裏面と均熱板70との間に配置する場合も同様に、温度センサ24は、基準板21の裏面に埋め込まれる。
【0119】
なお、本実施の形態およびその変形例では、加熱制御部37(37A)は、メインヒータ22の一定温度制御を行うこととしたが、メインヒータ22の出力を一定出力としてもよい。このような加熱制御が行われたとしても、対象面温度Tsよりもヒータ温度Thの方が先に安定する場合、ヒータ温度Thが安定したと判断された段階で、対象面温度Tsの安定値を予測可能である。したがって、双方の温度が安定するのを待つよりも、測定時間を短縮することができる。このように、対象面の安定温度TSsは、ヒータ温度Thが安定した状態であれば、発熱部材の加熱制御方法に関わらず予測可能である。
【0120】
以上説明したように、本発明の実施の形態および変形例によれば、簡単かつ短時間で、対象物80の熱貫流率を精度良く推定することができる。したがって、既存の建物全体の断熱性能も容易に評価できるため、本システム1を利用することで、リフォーム事業を活性化することもできる。
【0121】
なお、上記熱貫流率推定方法をプログラムとして提供することもできる。このようなプログラムは、CD−ROMなどの光学媒体やメモリカードなどのコンピュータ読取り可能な一時的でない(non-transitory)記録媒体にて記録させて提供することができる。この場合、推定装置13は、記録媒体(図示せず)からプログラムやデータを読み出し/書き込み可能な駆動装置(図示せず)をさらに備えているものとする。また、通信部35によるネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0122】
また、本実施の形態およびその変形例では、試験装置10の装置本体11(11A)に電気的に接続された推定装置13において、対象物80の熱貫流率の推定が行われた。しかしながら、
図3に示した予測処理部42、推定部43、および結果処理部44の機能を含む推定装置が、試験装置10とは非接続の他のコンピュータにより実現されてもよい。このようなコンピュータは、たとえば一般的なパーソナルコンピュータまたは携帯端末であってよい。この場合、推定装置の記憶部には、基準板21の熱貫流率U
0だけでなく、対象物80の熱貫流率の推定に必要な各点の温度データも記憶されているものとする。
【0123】
この場合、試験装置10の装置本体11に電気的に接続され、現場での試験に用いられる装置(以下「制御装置」という)には、加熱制御部37(37A)と、加熱制御部37の制御や各位置の温度の計測を行う計測処理部41(41A)との機能が含まれていればよい。
【0124】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。