特許第6283664号(P6283664)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283664
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】銅箔、キャリア箔付銅箔及び銅張積層板
(51)【国際特許分類】
   C25D 1/04 20060101AFI20180208BHJP
   C23C 28/00 20060101ALI20180208BHJP
   C25D 5/12 20060101ALI20180208BHJP
   C25D 7/00 20060101ALI20180208BHJP
   H05K 1/09 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C25D1/04 311
   C23C28/00 Z
   C25D5/12
   C25D7/00 J
   H05K1/09 A
【請求項の数】6
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2015-515306(P2015-515306)
(86)(22)【出願日】2014年8月20日
(86)【国際出願番号】JP2014071798
(87)【国際公開番号】WO2015040998
(87)【国際公開日】20150326
【審査請求日】2015年10月9日
【審判番号】不服2016-17833(P2016-17833/J1)
【審判請求日】2016年11月29日
(31)【優先権主張番号】特願2013-195940(P2013-195940)
(32)【優先日】2013年9月20日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006183
【氏名又は名称】三井金属鉱業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124327
【弁理士】
【氏名又は名称】吉村 勝博
(72)【発明者】
【氏名】津吉 裕昭
(72)【発明者】
【氏名】細川 眞
【合議体】
【審判長】 板谷 一弘
【審判官】 河本 充雄
【審判官】 金 公彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−249519(JP,A)
【文献】 特開2003−8199(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/110092(WO,A1)
【文献】 特開2011−219790(JP,A)
【文献】 特開2010−236058(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 1/04
C23C28/00
C25D 5/12
C25D 7/00
H05K 1/09
H05K 1/09, 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなり走査型電子顕微鏡観察像における最大長さが100nm以上500nm以下のサイズの針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層と、当該粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層とを少なくとも一面に備え、
前記銅箔の前記粗化処理層側の表面のL表色系における明度Lの値が25以下であり、
前記粗化処理層の表面にクリプトンを吸着して測定した比表面積が0.035m/g以上であり、
X線光電子分光分析法により前記粗化処理層の構成元素を分析したときに得られるCu(I)のピーク面積とCu(II)のピーク面積との合計面積に対して、Cu(I)のピーク面積が占める割合が50%以上99%以下であることを特徴とする銅箔。
【請求項2】
走査型電子顕微鏡を用いて、傾斜角45°、50000倍以上の倍率で前記粗化処理層の表面を観察したときに、互いに隣接する凸状部のうち、他の凸状部と分離観察可能な先端部分の長さが250nm以下である請求項1に記載の銅箔。
【請求項3】
前記凸状部の前記最大長さに対して、前記凸状部の前記先端部分の長さが1/2以下である請求項2に記載の銅箔。
【請求項4】
前記シランカップリング剤処理層は、オレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、ビニル官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを用いて形成したものである請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の銅箔。
【請求項5】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の銅箔の片面に接合界面層を介してキャリア箔を備えたことを特徴とするキャリア箔付銅箔。
【請求項6】
請求項1〜請求項のいずれか一項に記載の銅箔を備えたことを特徴とする銅張積層板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本件出願は、銅箔、キャリア箔付銅箔及びこれらの銅箔を用いて得られる銅張積層板に関する。特に、銅箔の表面に、従来に比べて、より微細な凹凸構造を有する粗化処理層を備えた銅箔に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、市場を流通する銅箔の主な用途の一つに、プリント配線板の回路形成用途がある。当該用途の銅箔には、絶縁樹脂基材との密着性を向上させるため、接着面となる銅箔の表面に、アンカー効果を発揮する形状が設けられる場合が多い。従来、アンカー効果を発揮する形状を設けるために、特許文献1等に開示されているような「微細銅粒の付着」、特許文献2等に開示されているような「エッチングによる凹凸形成」等の粗化処理を銅箔の表面に施すことが行われてきた。
【0003】
ところが、近年は、ファインピッチ回路の形成に対する要求が顕著で、プリント配線板の製造技術も大きく進歩した結果、特許文献3及び特許文献4等に開示されるように、ファインピッチ回路を形成する際に、無粗化銅箔を使用する場合も増えてきた。
【0004】
特許文献3には、強靭、かつ、反応性に富む接着剤により、銅箔と積層基材とが強固に接着されたプリント回路用銅張積層板を提供するため、「積層基材の片面または両面に銅箔が積層接着された銅張積層板において、a.前記銅箔上に一般式QRSiXYZ …〔1〕(但し、式中Qは下記の樹脂組成物と反応する官能基、RはQとSi原子とを連結する結合基、X,Y,ZはSi原子に結合する加水分解性の基または水酸基を表す)で示されるシランカップリング剤、または、一般式 T(SH)n ・・・〔2〕(但し、Tは芳香環,脂肪族環,複素環,脂肪族鎖であり、nは2以上の整数)で示されるチオール系カップリング剤よりなる接着性下地を介し、b.(1)アクリルモノマ、メタクリルモノマ、それらの重合体またはオレフィンとの共重合体、(2)ジアリルフタレート、エポキシアクリレートまたはエポキシメタクリレートおよびそれらのオリゴマの過酸化物硬化性樹脂組成物、(3)エチレンブチレン共重合体とスチレン共重合体とを分子内に含有する熱可塑性エラストマの過酸化物硬化性樹脂組成物、(4)グリシジル基を含有するオレフィン共重合体の樹脂組成物、(5)不飽和基を含む側鎖を有するポリビニルブチラール樹脂の樹脂組成物、または、(6)ポリビニルブチラール樹脂とスピロアセタール環を有するアミノ樹脂とエポキシ樹脂の樹脂組成物、からなる接着剤により積層基材と接着されているか、あるいは前記樹脂組成物の接着剤を兼ねた積層基材と直接接着されていることを特徴とするプリント回路用銅張積層板。」を採用すること等が開示されている。
【0005】
特許文献4には、表面処理層にクロムを含まず、プリント配線板に加工して以降の回路の引き剥がし強さ、当該引き剥がし強さの耐薬品性劣化率等に優れる銅箔の提供を目的として、「絶縁樹脂基材と張り合わせて銅張積層板を製造する際に用いる銅箔の張り合わせ面に表面処理層を設けた銅箔であって、当該表面処理層は、銅箔の張り合わせ面に亜鉛成分を付着させ、融点1400℃以上の高融点金属成分を付着させ、更に炭素成分を付着させて得られることを特徴とする銅箔。」を採用すること等が開示され、この中で「前記銅箔の張り合わせ面は、粗化処理を施すことなく、表面粗さ(Rzjis)が2.0μm以下のものを用いることが好ましい。」ことが開示されている。
【0006】
このような無粗化銅箔は、絶縁樹脂基材との接着表面に、粗化処理により形成された凹凸形状が存在しない。このため、当該銅箔をエッチング加工して回路形成を行う際に、絶縁樹脂基材側に埋まり込んだ状態のアンカー形状(凹凸形状)を除去するためのオーバーエッチングタイムを設ける必要がない。よって、無粗化銅箔を用いれば、エッチングファクターの良好なファインピッチ回路を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平05−029740号公報
【特許文献2】特開2000−282265号公報
【特許文献3】特開平09−074273号公報
【特許文献4】特開2008−297569号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、この無粗化銅箔は、絶縁樹脂基材側に埋まり込んだ状態のアンカー形状(凹凸形状)が存在しないため、無粗化銅箔の絶縁樹脂基材に対する密着性は、粗化処理を施した銅箔に比べて低下する傾向にある。
【0009】
そのため、市場では、無粗化銅箔と絶縁樹脂基材との密着性よりも良好な密着性を有し、且つ、無粗化銅箔と同等の良好なエッチング性能を備える銅箔に対する要求が存在していた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
そこで、本件発明者等の鋭意研究の結果、以下に示す粗化処理層を備えた銅箔を採用することで、当該粗化処理層の微細凹凸構造によるナノアンカー効果により、絶縁樹脂基材との間の良好な密着性を得ることができると共に、無粗化銅箔を用いた場合と同等の良好なエッチングファクターを備えたファインピッチ回路の形成が可能になることが分かった。さらに、粗化処理層の表面にシランカップリング層を設けることにより、従来の粗化銅箔と同等の耐吸湿劣化特性を備えることも見出した。以下、本件出願に係る銅箔について説明する。
【0011】
銅箔: 本件出願に係る銅箔は、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる最大長さが100nm以上500nm以下のサイズの針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層と、当該粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層とを少なくとも一面に備え、X線光電子分光分析法により前記粗化処理層の構成元素を分析したときに得られるCu(I)のピーク面積とCu(II)のピーク面積との合計面積を100%としたとき、当該合計面積に対して、Cu(I)のピーク面積が占める割合が50%以上99%以下であることを特徴とする。
【0012】
キャリア箔付銅箔: 本件出願に係るキャリア箔付銅箔は、上記記載の銅箔の片面に接合界面層を介してキャリア箔を備えたことを特徴とする。
【0013】
銅張積層板: 本件出願に係る銅張積層板は、上述の粗化処理層及びシランカップリング層を備える銅箔又はキャリア箔付銅箔を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本件出願に係る銅箔又はキャリア箔付銅箔は、「酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる最大長さが500nm以下の針状又は板状の凸状部により形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層」を備えている。このため、当該粗化処理層を備える面を絶縁樹脂基材との接着面とすることにより、当該微細凹凸構造を形成する凸状部によるナノアンカー効果により、無粗化銅箔の絶縁樹脂基材に対する密着性に比べて、良好な密着性を確保することができる。また、当該微細凹凸構造は、最大長さが500nm以下の極めて短い針状又は板状の凸状部により形成されているため、エッチングにより回路形成を行う際に、僅かな時間のオーバーエッチングタイムを設けることにより絶縁樹脂基材側に埋まり込んだ状態の凸状部を溶解除去することができる。従って、無粗化銅箔と同等の良好なエッチング性能を実現することができ、エッチングファクターの良好なファインピッチ回路を形成することができる。さらに、この粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層を設けることにより、従来の粗化銅箔と同等の耐吸湿劣化特性を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本件出願に係る銅箔の粗化処理層の形態を説明するための走査型電子顕微鏡観察像である。
図2】本件出願に係る銅箔において、電解銅箔の電極面及び析出面にそれぞれ粗化処理層を設けたときの、各粗化処理面の表面を示す走査型電子顕微鏡観察像である。
図3】本件出願に係る銅箔の粗化処理層が有する微細凹凸構造の断面を示す走査型電子顕微鏡観察像である。
図4】比較例2の銅箔の粗化処理層の表面を示す走査型電子顕微鏡観察像である。
図5】比較例3の銅箔の還元黒化処理層の表面を示す走査型電子顕微鏡観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本件出願に係る「銅箔の形態」、「キャリア箔付銅箔の形態」及び「銅張積層板の形態」に関して説明する。
【0017】
銅箔の形態: 本件出願に係る銅箔は、当該銅箔の少なくとも一つの表面に、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる最大長さが500nm以下のサイズの針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層と、当該粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層とを備えたことを特徴とする。
【0018】
ここで、本件出願に係る銅箔は、「銅箔の少なくとも一つの表面」に上記粗化処理層を備えていればよく、銅箔の両面に粗化処理層を備えた両面粗化処理銅箔、銅箔の一方の面にのみ粗化処理層を備えた片面粗化処理銅箔のいずれであってもよい。また、本件出願に係る銅箔において、上記銅箔は、電解銅箔、圧延銅箔のいずれであってもよい。また、このときの銅箔の厚さに関しても、特段の限定は無く、一般的に200μm以下の厚さの銅箔と認識すれば足りる。さらに、以下において、当該銅箔の当該粗化処理層及びシランカップリング剤層が設けられた側の面を粗化処理面と称する場合がある。
【0019】
本件出願に係る銅箔において、上述したとおり、当該粗化処理層は酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる最大長さが500nm以下のサイズの針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造を有する。ここで、両面平滑電解銅箔に対して、本件出願にいう粗化処理層を設けたときの当該粗化処理層の表面を示す走査型電子顕微鏡観察像(倍率:20000倍)を図1(a)に示す。図1(a)に示すように、針状又は板状に突出した微細な凸状部が互いに隣接しながら密集することにより、電解銅箔の表面に極微細な凹凸構造が形成されており、これらの凸状部が電解銅箔の表面形状に沿って、電解銅箔の表面を被覆するように設けられている状態が観察される。なお、図1(b)は、図1(a)に示す粗化処理層の表面を更に拡大したものであり、倍率50000倍のときの走査型電子顕微鏡観察像である。但し、本件出願において、「凸状部」とは、当該銅箔の断面を観察したときに、銅箔の表面から針状又は板状に延びた突出部分をいうものとする。当該突出部分は銅複合化合物の単結晶又は複数の結晶の集合体により構成されており、図1(a)、(b)に示すように銅箔の表面に当該凸状部が密集して設けられている。
【0020】
次に、図2に、一般的な電解銅箔の電極面及び析出面と、各面に対して上記粗化処理層を設けたときのそれぞれの表面の観察像を示す。図2に示すように、マクロ的に観察した場合、粗化処理層を設ける前後において、上記電解銅箔の各面の表面形状は、各面の粗化処理前の表面形状に沿って上記微細凹凸構造が形成されており、各面の粗化処理前のマクロ的表面形状が粗化処理後も維持されていることが確認できる。すなわち、本件出願に係る銅箔の場合、粗化処理層はnmオーダーの針状又は板状の凸状部が銅箔の表面形状に沿って、銅箔の表面を薄く被覆するように、銅箔の表面に密集して設けられるため、粗化処理前の銅箔のマクロ的表面形状を維持することができると考えられる。
【0021】
この点に関して、粗化処理層を形成する前後における表面粗さの変化に基づいて検証する。上述した粗化処理前の両面平滑電解銅箔の析出面を、Zygo株式会社製 非接触三次元表面形状・粗さ測定機(型式:New−View 6000)を用いて、倍率:20倍、視野角:2.0、測定エリア:180μm×130μmの条件で測定すると、Ra=1.6nm、Rz=26nmであった。一方、図1(a)に示した本件出願にいう銅箔の表面を上記と同様に測定すると、Ra=2.3nm、Rz=39nmであった。すなわち、本件出願にいう粗化処理層は、nmオーダーの凸状部により形成された微細凹凸構造を有し、この凸状部の最大長さは上述のとおり500nm以下と極めて小さいため、粗化処理前後における粗化処理面側の表面粗さの変化を抑制することができる。換言すれば、表面の平滑な銅箔に対して、当該粗化処理層を設けることにより、粗化処理層を設ける前の平滑な表面を維持した状態で、その表面に上記微細凹凸構造によるナノアンカー効果を発現させることができる。
【0022】
次に、図3を参照しながら、上記凸状部の最大長さについて説明する。図3は、本件出願に係る銅箔の断面を示す走査型電子顕微鏡観察像である。図3に示すように、当該銅箔の断面において、細い線状に観察される部分が凸状部である。図3から、互いに密集した無数の凸状部により銅箔の表面が覆われており、各凸状部は銅箔の表面形状に沿って銅箔の表面から突出して設けられていることが確認される。本件出願において、「凸状部の最大長さ」とは、当該銅箔の断面において上記線(線分)状に観察される各凸状部の基端から先端までの長さを測定したときの最大値をいうものとする。当該凸状部の最大長さは400nm以下であることが好ましく、300nm以下であることが更に好ましい。当該凸状部の最大長さが短くなるほど、銅箔の表面により微細な凹凸構造を付与することができ、且つ、粗化処理前の銅箔の表面形状を維持することができることから、表面粗さの変化を抑制することができる。このため、微細なナノアンカー効果により当該銅箔と絶縁樹脂基材との良好な密着性を得ることができ、且つ、無粗化銅箔を用いた場合と同等のより良好なエッチングファクターを備えたファインピッチ回路の形成が可能になる。
【0023】
ここで、本件出願に係る銅箔において、「粗化処理層の厚さ」とは、当該銅箔の表層部分に設けられた微細凹凸構造の厚さに相当する。微細凹凸構造を形成する各凸状部の長さや突出方向は一定ではなく、各凸状部の突出方向は銅箔の厚さ方向に対して平行ではない。このため、上記凸状部の長さと、当該銅箔の厚さ方向における当該凸状部の高さとは一致せず、上記凸状部の最大長さと、粗化処理層の最大厚さとも一致せず、(当該粗化処理層の厚さ)≦(上記凸状部の最大長さ)の関係を有する。また、当該微細凹凸構造は、凸状部が銅箔表面に密集して設けられることにより形成されたものであるため、粗化処理層の厚さにはバラツキがある。しかしながら、当該凸状部の最大長さと、粗化処理層との間には一定の相関関係があり、本件発明者等が繰り返し試験を行った結果、当該粗化処理層の平均厚さが400nm以下である場合、上記凸状部の最大長さは500nm以下となり、当該粗化処理層の平均厚さが100nm以上である場合、上記凸状部の最大長さは100nm以上となる。絶縁樹脂基材との良好な密着性を得る上で、当該粗化処理層の平均厚さは100nm以上であることが好ましく、粗化処理層の平均厚さが100nm以上350nm以下の範囲内である場合、「絶縁樹脂基材に対する無粗化銅箔以上の良好な密着性」と「無粗化銅箔と同等の良好なエッチング性能」を兼ね備えることが可能であると判断している。なお、図3では、粗化処理層の平均厚さが250nmのものを示している。
【0024】
また、本件出願に係る銅箔において、走査型電子顕微鏡を用いて、傾斜角45°、50000倍以上の倍率で当該粗化処理層の表面を平面的に観察したときに、互いに隣接する凸状部のうち、他の凸状部と分離観察可能な先端部分の長さが250nm以下であることが好ましい。ここで、「他の凸状部と分離観察可能な先端部分の長さ(以下、「先端部分の長さ」と略す場合があるものとする)」とは、以下に示す長さをいう。例えば、走査型電子顕微鏡により上述のように粗化処理層の表面を観察すると、図1(a)、(b)を参照しながら上述したように、当該粗化処理層は銅箔の表面から凸状部が針状又は板状に突出しており、当該凸状部が銅箔の表面に密集して設けられているため、銅箔の表面から凸状部の基端部、すなわち銅複合化合物からなる凸状部と銅箔との界面を観察することができない。そこで、上述のように当該銅箔を平面的に観察したときに、互いに密集しながら隣接する凸状部のうち、他の凸状部と分離して、一つの凸状部として独立に存在し得ると観察することが可能な部分を上記「他の凸状部と分離観察可能な先端部分」と称し、この先端部分の長さとは、当該凸状部の先端(すなわち先端部分の先端)から、他の凸状部と分離観察可能な最も基端部側の位置までの長さをいうものとする。
【0025】
当該凸状部の先端部分の長さが、250nm以下である場合、上記凸状部の最大長さは概ね500nm以下となり、上述したとおり、当該粗化処理層の微細凹凸構造によるナノアンカー効果により、絶縁樹脂基材との間の良好な密着性を得ることができると共に、無粗化銅箔を用いた場合と同等の良好なエッチングファクターを備えたファインピッチ回路の形成が可能になる。また、他の凸状部と分離観察可能な先端部分の長さが250nm以下である場合、銅箔の表面から長く突出する凸状部が存在せず、当該粗化処理層の表面に他の物体が接触しても、折れにくくなる。すなわち、耐擦傷性の高い粗化処理層とすることができる。従って、当該銅箔は、ハンドリングの際等にいわゆる粉落ちが生じにくく、表面の微細凹凸構造を維持することができ、周囲に酸化銅の微粉が飛散したり、付着するのを防止することができる。従って、当該銅箔を用いて、プリント配線板の回路形成を行った場合、粉落ちに起因した配線間の絶縁不良を生じにくくすることができる。これらの観点から、当該凸状部の先端部分の長さは、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。また、絶縁樹脂基材との良好な密着性を得る上で、当該凸状部の先端部分の長さは、30nm以上であることが好ましく、50nm以上であることがより好ましい。
【0026】
さらに、当該凸状部の上記最大長さに対して、当該凸状部の上記先端部分の長さが1/2以下であることが好ましい。当該比率が1/2以下である場合、他の凸状部と分離しながら、銅箔の表面から凸状部の先端部分が突出することにより、上記ナノアンカー効果を発揮させることができると共に、当該凸状部の基端部側において隣接する凸状部同士が互いに接触しながら銅箔表面に密集するため、銅箔表面をこの微細凹凸構造により密に被覆することができる。
【0027】
そして、本件出願に係る銅箔の場合、粗化処理層の表面に、シランカップリング剤処理層が存在することにより、プリント配線板に加工したときの耐吸湿劣化特性の改善が可能となる。当該粗化処理面に設けるシランカップリング剤処理層は、シランカップリング剤としてオレフィン官能性シラン、エポキシ官能性シラン、ビニル官能性シラン、アクリル官能性シラン、アミノ官能性シラン及びメルカプト官能性シランのいずれかを使用して形成することが可能である。これらのシランカップリング剤は、一般式 R−Si(OR’)nで表記される(ここで、R:アミノ基やビニル基などに代表される有機官能基、OR’:メトキシ基またはエトキシ基などに代表される加水分解基、n:2または3である。)。
【0028】
ここで言うシランカップリング剤を、より具体的に示すとすれば、プリント配線板用にプリプレグのガラスクロスに用いられると同様のカップリング剤を中心にビニルトリメトキシシラン、ビニルフェニルトリメトキシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、4−グリシジルブチルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−3−(4−(3−アミノプロポキシ)プトキシ)プロピル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、イミダゾールシラン、トリアジンシラン、3−アクリロキシプロピルメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を用いることが可能である。
【0029】
ここに列挙したシランカップリング剤は、銅箔の絶縁樹脂基材との接着面に使用しても、後のエッチング工程及びプリント配線板となった後の特性に悪影響を与えないものである。このシランカップリング剤の中でいずれの種類を使用するかは、絶縁樹脂基材の種類、銅箔の使用方法等に応じて、適宜選択が可能である。
【0030】
以上に述べたシランカップリング剤は、水を主溶媒として、当該シランカップリング剤成分を0.5g/L〜10g/Lの濃度範囲となるように含有させ、室温レベルの温度としたシランカップ剤処理液を用いることが好ましい。このシランカップ剤処理液のシランカップリング剤濃度が0.5g/Lを下回る場合は、シランカップリング剤の吸着速度が遅く、一般的な商業ベースの採算に合わず、吸着も不均一なものとなる。一方、当該シランカップ剤濃度が10g/Lを超えるものとしても、特に吸着速度が速くなることもなく、耐吸湿劣化性等の性能品質を特に向上させるものでもなく、不経済となるため好ましくない。
【0031】
このシランカップリング剤処理液を用いた銅箔表面へのシランカップリング剤の吸着方法は、浸漬法、シャワーリング法、噴霧法等の採用が可能であり、特に限定はない。即ち、工程設計に合わせて、最も均一に銅箔とシランカップリング剤処理液とを接触させ、吸着させることのできる方法であればよい。
【0032】
当該粗化処理層の表面にシランカップリング剤を吸着させた後は、十分な乾燥を行い、当該粗化処理層の表面にある−OH基と、吸着したシランカップリング剤との縮合反応を促進させ、縮合の結果生じる水分を完全に蒸発させる。このときの乾燥方法に関して特段の限定は無い。例えば、電熱器を使用しても、温風を吹き付ける衝風法であっても、特に制限はなく、製造ラインに応じた乾燥方法と乾燥条件を採用すればよい。
【0033】
以上に述べた当該銅箔の粗化処理面には、500nm以下の最大長さの針状又は板状の凸状部が互いに隣接しながら密集して設けられており、各凸状部間の距離(ピッチ)は可視光の波長域よりも短いと考えられる。このため、粗化処理層に入射した可視光は、微細凹凸構造内で乱反射を繰り返す結果、減衰する。すなわち、当該粗化処理層は、光を吸収する吸光層として機能し、当該粗化処理面の表面は粗化処理前と比較すると黒色化、茶褐色化等に暗色化する。即ち、本件出願に係る銅箔の粗化処理面は、その色調にも特色があり、L表色系の明度L の値は25以下となる。この明度L の値が25を超えて明るい色調となる場合、粗化処理層を構成する上記凸状部の最大長さが500nmを超える場合があるため好ましくない。また、Lの値が25を超える場合、上記凸状部の最大長さが500nm以下であっても、当該凸状部が銅箔の表面に十分に密集して設けられていない場合がある。このように、明度L の値が25を超える場合、粗化処理が不十分である、又は粗化処理の状態にムラがあることが考えられ、「絶縁樹脂基材に対する無粗化銅箔以上の良好な密着性」を得ることが出来ない恐れがあるため好ましくない。すなわち、この明度L の値は、「粗化処理面の表面状態」を表す指標として用いることができ、明度Lの値が25よりも小さくなるほど、「絶縁樹脂基材に対する無粗化銅箔以上の良好な密着性」を得る上で、より良好な表面状態であると考えることができ、当該明度Lの値が20以下であると絶縁樹脂基材との密着性に対する信頼性が飛躍的に向上するため好ましい。本件出願における明度L の測定は、日本電色工業株式会社製 分光色差計 SE2000を用いて、明度の校正には測定装置に付属の白色板を用い、JIS Z8722:2000に準拠して行った。そして、同一部位に関して3回の測定を行い、3回の明度L の測定データの平均値を、本件出願に言う明度L の値として記載している。なお、念のために記載しておくが、このL表色系の明度L の値は、シランカップリング剤処理層の有無によって、変動することはなく、粗化処理層の微細凹凸構造の表面形状のみにより定まるものである。
【0034】
そして、本件出願に係る銅箔の粗化処理層において、微細凹凸構造を形成する凸状部は、銅複合化合物からなる。本件出願において、この銅複合化合物は、酸化銅及び亜酸化銅を含有する。
【0035】
ところで、上述したように、従来、絶縁樹脂基材との密着性を得るためには、「微細銅粒の付着」、「エッチングによる凹凸形成」等の粗化処理を銅箔の表面に施すことが行われてきた。しかしながら、高周波回路を形成する際に、このような従来の粗化処理が施された銅箔を用いた場合、銅箔表面に形成された凹凸構造は導体であるため、いわゆる表皮効果のため高周波信号の伝送損失が生じる。これに対して、本件出願に係る銅箔では、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる凸状部により、上記微細凹凸構造を形成しているため、銅箔の表面に設けられた粗化処理層には高周波信号が流れない。つまり、本件出願に係る銅箔を用いれば、高周波信号の伝送損失に関して、粗化処理層を備えていない無粗化銅箔と同等の高周波特性を示す。また、当該粗化処理層は、高周波基板に使用される低誘電率、低誘電正接の絶縁樹脂基材に対する密着性が良好である。従って、本件出願に係る銅箔は、例えば、以下のような高周波特性の優れた未処理銅箔に対して、上記粗化処理層を設けることにより、高周波回路形成材料として極めて好適である。
【0036】
具体的には、以下のような特性を有する未処理銅箔に対して、上記粗化処理層を設けることにより、高周波回路形成材料に適した銅箔とすることができる。また、下記の特性を有する未処理銅箔に対して、上記粗化処理層を設けることにより、本件出願に係る銅箔はマイクロストリップライン、或いはストリップラインを製造する際にも好適に用いることができる。但し、マイクロストリップライン、或いはストリップライン用途に当該銅箔を用いる場合、それぞれ絶縁樹脂基材との密着する側の面の表面粗さ(Rz)、光沢度(Gs60°)が下記の範囲内であることが好ましい。即ち、ストリップライン用途に当該銅箔を用いる場合、両面に絶縁樹脂基材が密着されるため、両面の表面特性が以下の範囲内であることが好ましい。
【0037】
表面粗さ(Rz):1.5μm以下、好ましくは1.0μm以下
表面の光沢度(Gs60°):100以上、好ましくは300以上
未処理銅箔自体の導電率:99.8%以上
未処理銅箔内の不純物濃度:100ppm以下(但し、不純物とはS、N、C、Clの総含有量をいうものとする。)
【0038】
また、本件出願に係る銅箔において、X線光電子分光分析法(X−ray Photoelectron Spectroscopy;以下、「XPS」と称する。)により上記粗化処理層の構成元素を分析したときに得られるCu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対して、Cu(I)のピーク面積が占める割合(以下、占有面積率)が50%以上である。
【0039】
ここで、XPSにより、上記微細凹凸構造層の構成元素を分析する方法を説明する。XPSにより微細凹凸構造層の構成元素を分析すると、Cu(I)及びCu(II)の各ピークを分離して検出できる。但し、Cu(I)及びCu(II)の各ピークを分離して検出した場合、大きなCu(I)ピークのショルダー部分に、Cu(0)ピークが重複して観測される場合がある。このようにCu(0)のピークが重複して観察された場合は、このショルダー部分を含めてCu(I)ピークとみなすものとする。すなわち、本願発明では、XPSを用いて微細凹凸構造層を形成する銅複合化合物の構成元素を分析し、Cu 2p 3/2の結合エネルギーに対応する932.4eVに現れるCu(I)、及び934.3eVに現れるCu(II)の光電子を検出して得られる各ピークを波形分離して、各成分のピーク面積からCu(I)ピークの占有面積率を特定する。但し、XPSの分析装置としてアルバック・ファイ株式会社製のQuantum2000(ビーム条件:40W、200μm径)を用い、解析ソフトウェアとして「MultiPack ver.6.1A」を用いて状態・半定量用ナロー測定を行うことができる。
【0040】
以上のようにして得られたCu(I)ピークは、亜酸化銅(酸化第一銅:CuO)を構成する1価の銅に由来すると考えられる。そして、Cu(II)ピークは、酸化銅(酸化第二銅:CuO)を構成する2価の銅に由来すると考えられる。更に、Cu(0)ピークは、金属銅を構成する0価の銅に由来すると考えられる。従って、Cu(I)ピークの占有面積率が50%未満の場合には、当該粗化処理層を構成する銅複合化合物における亜酸化銅が占める割合が酸化銅が占める割合よりも小さい。酸化銅は、亜酸化銅と比較すると、エッチング液等の酸に対する溶解性が高い。従って、Cu(I)ピークの占有面積率が50%未満の場合には、当該銅箔の粗化処理面側を絶縁樹脂基材に張り合わせ、エッチング法により回路形成を行った場合、エッチング液に粗化処理層が溶解し易くなり、事後的に銅配線と絶縁樹脂基材との間の密着性が低下する場合がある。当該観点から、XPSにより粗化処理層を形成する銅複合化合物の構成元素を分析したときの、上記Cu(I)ピークの占有面積率が70%以上であることがより好ましく、80%以上であることが更に好ましい。Cu(I)ピークの占有面積率が増加する程、酸化銅よりもエッチング液等に対する耐酸溶解性の高い亜酸化銅の成分比が高くなる。従って、粗化処理層のエッチング液等に対する耐酸溶解性が向上し、回路形成時におけるエッチング液の差し込みを低減することが可能になり、絶縁樹脂基材と密着性の良好な銅配線を形成することができる。一方、Cu(I)ピークの占有面積率の上限値は特に限定されるものではないが、99%以下とする。Cu(I)ピークの占有面積率が低くなるほど、絶縁樹脂基材に対して当該銅箔の粗化処理面側を張り合わせたときの両者の密着性が向上する傾向にある。従って、両者の良好な密着性を得るため、Cu(I)ピークの専有面積率は98%以下が好ましく、95%以下がより好ましい。なお、Cu(I)ピークの占有面積率は、Cu(I)/{Cu(I)+Cu(II)} ×100(%)の計算式で算出するものとする。
【0041】
また、本願発明において、粗化処理層の表面にクリプトンを吸着させて測定したときの比表面積(以下、単に「比表面積」と称する。)が、0.035m/g以上であることが好ましい。このように測定した比表面積が、0.035m/g以上であると、当該粗化処理層を備えた粗化処理面を絶縁樹脂基材に張り合わせたときに、良好な密着性を確保することができる。比表面積の上限値は特に限定されるものではないが、当該微細凹凸構造は、最大長さが500nm以下の針状又は板状の凸状部が密集して形成されたものであり、当該微細凹凸構造の表面形状を満足する上で上記比表面積の上限値は計算上0.3m/g程度となり、実際には0.2m/g程度が上限値となる。なお、当該比表面積は、マイクロメリティクス社製 比表面積・細孔分布測定装置 3Flexを用いて、試料に300℃×2時間の加熱を前処理として行い、吸着温度に液体窒素温度、吸着ガスにクリプトン(Kr)を用いることにより、上記測定を行うことができる。
【0042】
以上述べた本件出願に係る粗化処理層は、例えば、次のような湿式による粗化処理を銅箔の表面に施すことにより形成することができる。まず、溶液を用いた湿式法で銅箔の表面に酸化処理を施すことで、銅箔表面に酸化銅(酸化第二銅)を含有する銅化合物を形成する。その後、当該銅化合物を還元処理して酸化銅の一部を亜酸化銅(酸化第一銅)に転換させることにより、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる「針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造」を銅箔の表面に形成することができる。ここで、本件出願にいう「微細凹凸構造」自体は、銅箔の表面を湿式法で酸化処理した段階で、酸化銅を含有する銅化合物により形成される。そして、当該銅化合物を還元処理したときに、この銅化合物により形成された微細凹凸構造の形状をほぼ維持したまま、酸化銅の一部が亜酸化銅に転換されて、酸化銅及び亜酸化銅を含有する銅複合化合物からなる「微細凹凸構造」となる。このように銅箔の表面に湿式法で適正な酸化処理を施した後に、還元処理を施すことで、上述のようなnmオーダーの「微細凹凸構造」の形成が可能となる。なお、酸化銅及び亜酸化銅を主成分とする銅複合化合物に金属銅が少量含有してもよい。
【0043】
例えば、上記湿式による粗化処理を施す際には、水酸化ナトリウム溶液等のアルカリ溶液を用いることができる。アルカリ溶液により、銅箔の表面を酸化することにより、銅箔の表面に針状又は板状の酸化銅を含有する銅化合物からなる凸状部を形成することができる。ここで、アルカリ溶液により銅箔の表面に対して酸化処理を施した場合、当該凸状部が長く成長し、最大長さが500nmを超える場合があり、本件出願にいう微細凹凸構造を形成することが困難になる。そこで、上記微細凹凸構造を形成するために、銅箔表面における酸化を微細に抑制可能な酸化抑制剤を含むアルカリ溶液を用いることが好ましい。
【0044】
このような酸化抑制剤として、例えば、アミノ系シランカップリング剤を挙げることができる。アミノ系シランカップリング剤を含むアルカリ溶液を用いて、銅箔表面に酸化処理を施せば、当該アルカリ溶液中のアミノ系シランカップリング剤が銅箔の表面に吸着し、アルカリ溶液による銅箔表面の酸化を微細に抑制することができる。その結果、酸化銅の針状結晶の成長を抑制することができ、nmオーダーの極めて微細な凹凸構造を有する本件出願にいう粗化処理層を形成することができる。
【0045】
上記アミノ系シランカップリング剤として、具体的には、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン等を用いることができる。これらはいずれもアルカリ性溶液に溶解し、アルカリ性溶液中に安定に保持されると共に、上述した銅箔表面の酸化を微細に抑制する効果を発揮する。
【0046】
以上のように、アミノ系シランカップリング剤を含むアルカリ溶液により、銅箔の表面に酸化処理を施すことにより形成された微細凹凸構造は、その後、還元処理を施してもその形状がほぼ維持される。その結果、酸化銅及び亜酸化銅を含み、これら銅複合化合物からなる最大長さが500nm以下の針状又は板状の凸状部により形成されたnmオーダーの微細凹凸構造を有する粗化処理層を得ることができる。なお、還元処理において、還元剤濃度、溶液pH、溶液温度等を調整することにより、粗化処理層を形成する銅複合化合物の構成元素をXPSを用いて定性分析したときに得られるCu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対して、Cu(I)のピークの占有面積率を適宜調整できる。また、上記方法で形成した粗化処理層の微細凹凸構造の構成元素をXPSにより分析すると、「−COOH」の存在が検出される。
【0047】
上述したように酸化処理及び還元処理は、各処理溶液を用いた湿式法により行うことができるため、処理溶液中に銅箔を浸漬する等の方法により銅箔の両面に上記粗化処理層を簡易に形成することができる。よって、この湿式法を利用すると、多層プリント配線板の内層回路の形成に適した両面粗化処理銅箔を容易に得ることが可能となり、内層回路の両面においてそれぞれ層間絶縁層等との良好な密着性を確保することができる。
【0048】
また、本件出願に係る粗化処理層は、上述したとおり、ハンドリングの際等にいわゆる粉落ちが生じにくく、表面の微細凹凸構造を維持することができる。従って、両面粗化処理銅箔とした場合にも、ハンドリングを容易にすることができる。
【0049】
キャリア箔付銅箔の形態: 本件出願に係るキャリア箔付銅箔の場合、上述の銅箔に適用した概念の全てを適用することが可能である。よって、相違する部分に関してのみ詳細に説明する。
【0050】
本件出願に係るキャリア箔付銅箔は、キャリア箔/接合界面層/銅箔層の層構成を備えるキャリア箔付銅箔であって、当該キャリア箔の外表面及び当該銅箔層の外表面の内の少なくとも銅箔層の外表面に、銅複合化合物からなる最大長さが500nm以下のサイズの針状又は板状の凸状部より形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層を備え、当該粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層を設けたことを特徴とする。ここで、本件出願に係るキャリア箔付銅箔においても、粗化処理層が設けられた側の面を粗化処理面と称する。また、本件出願に係るキャリア箔付銅箔は、「キャリア箔の外表面及び銅箔層の外表面の双方の表面が粗化処理面である場合」も含まれる。ここで、念のために述べておくが、「キャリア箔の外表面」とは、キャリア箔付銅箔を構成するキャリア箔の表面に露出した面のことであり、「銅箔層の外表面」とは、キャリア箔付銅箔を構成する銅箔層の表面に露出した面のことである。
【0051】
ここで言うキャリア箔に関して、特に材質の限定はない。キャリア箔として、銅箔(ここでは、圧延銅箔、電解銅箔等を含む概念であり、その製造方法は問わない。)、表面が銅でコーティングされた樹脂箔等、銅成分が表面に存在する箔である限り使用可能である。コスト的観点から判断すると、銅箔の使用が好ましい。また、キャリア箔としての厚さについても、特に限定はない。工業的視点から、箔としての概念は、一般に200μm厚以下のものを箔と称しており、この概念を用いれば足りる。
【0052】
次に、接合界面層に関しては、キャリア箔を引き剥がすことの可能なピーラブルタイプの製品とできるものであれば、特段の限定は無く、接合界面層に要求される特性を満足する限り、無機剤から構成される無機接合界面層、有機剤から構成される有機接合界面層のいずれも用いることができる。無機接合界面層を構成する無機剤としては、例えば、クロム、ニッケル、モリブデン、タンタル、バナジウム、タングステン、コバルト及びこれらの酸化物から選ばれる1種又は2種以上を混合して用いることができる。また、有機剤から構成される有機接合界面層としては、窒素含有有機化合物、硫黄含有有機化合物及びカルボン酸の中から選択される1種又は2種以上からなるものを用いることができる。具体的には、窒素含有有機化合物としては、置換基を有するトリアゾール化合物である1,2,3−ベンゾトリアゾール、カルボキシベンゾトリアゾール、N’,N’−ビス(ベンゾトリアゾリルメチル)ユリア、1H−1,2,4−トリアゾール及び3−アミノ−1H−1,2,4−トリアゾール等を用いることが好ましい。硫黄含有有機化合物には、メルカプトベンゾチアゾール、チオシアヌル酸及び2−ベンズイミダゾールチオール等を用いることが好ましい。カルボン酸は、特にモノカルボン酸を用いることが好ましく、中でもオレイン酸、リノール酸及びリノレイン酸等を用いることが好ましい。本件出願においては、無機接合界面層及び有機接合界面層のいずれも好ましく用いることができるが、絶縁樹脂基材との積層時において熱が負荷された場合などにもキャリア箔の適正な引き剥がし強さを安定的に確保できるという観点から、有機接合界面層を用いることがより好ましい。
【0053】
この有機剤による接合界面層の形成方法は、上述した有機剤を溶媒に溶解させ、その溶液中にキャリア箔を浸漬させるか、接合界面層を形成しようとする面に対するシャワーリング、噴霧法、滴下法及び電着法等を用いて行うことができ、特に限定した手法を採用する必要性はない。このときの溶媒中の有機剤の濃度は、上述した有機剤の全てにおいて、濃度0.01g/L〜10g/L、液温20〜60℃の範囲が好ましい。また、有機接合界面層を形成した後、接合界面層の耐熱性等を向上するために、当該有機接合界面層の表面にNi、Co等の補助金属層を形成しても良い。
【0054】
そして、銅箔層は、12μm以下の極薄銅箔といわれる銅箔のみならず、12μmより厚い銅箔で形成された層を含むものとして記載している。12μm以上の厚さの銅箔層の場合には、キャリア箔を表面の汚染防止として利用される場合があるからである。
【0055】
以上に述べてきたキャリア箔付銅箔の銅箔層の表面に、上述の銅箔の説明で述べた粗化処理層及びシランカップリング剤処理層を設けたものが、本件出願に係るキャリア箔付銅箔である。すなわち、上記銅箔層の表面に粗化処理(酸化処理と還元処理)、シランカップリング剤処理を施したものが本件出願に係るキャリア箔付銅箔である。よって、ここでの重複した説明は省略する。
【0056】
銅張積層板の形態: 本件出願に係る銅張積層板は、上述の粗化処理層を備える銅箔又はキャリア箔付銅箔を備えたことを特徴とする。このときの銅張積層板は、本件出願に係る銅箔又はキャリア箔付銅箔を使用して得られるものであれば、使用した絶縁樹脂基材の構成成分、厚さ、張り合わせ方法等に関して、特段の限定は無い。また、ここでいう銅張積層板は、リジッドタイプ、フレキシブルタイプの双方を含む。なお、厳密に言えば、キャリア箔付銅箔の場合、キャリア箔付銅箔と絶縁樹脂基材とを張り合わせた後に、キャリア箔を除去することで、プリント配線板製造材料としての銅張積層板が得られる。
【実施例1】
【0057】
実施例1では、以下に記載した組成の銅電解液を用い、陽極にDSA、陰極(表面を2000番の研磨紙で研磨したチタン板電極)を用い、液温50℃、電流密度60A/dmの条件で電解して、18μm厚さの電解銅箔を得た。得られた電解銅箔の析出面の表面粗さ(Rz)は0.2μm、光沢度(Gs60°)は600であった。なお、光沢度の測定及び表面粗度の測定は、以下のとおりである。
【0058】
〔銅電解液組成〕
銅濃度 : 80g/L
フリー硫酸濃度 : 140g/L
ビス(3−スルホプロピル)ジスルフィド濃度 : 5mg/L
ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体濃度 : 30mg/L
塩素濃度 : 25mg/L
【0059】
〔光沢度の測定〕
日本電色工業株式会社製光沢計PG−1M型を用い、光沢度の測定方法であるJIS Z 8741−1997に準拠して、光沢度の測定を行った。
【0060】
〔粗度の測定〕
株式会社キーエンス レーザーマイクロスコープ VK−X100を用い、表面粗度の測定方法であるJIS B 0601−2001に準拠して、測定範囲:150μm角として、表面粗度の測定を行った。
【0061】
予備処理: 上述のように製造した電解銅箔を、水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して、アルカリ脱脂処理を行い、水洗を行った。そして、このアルカリ脱脂処理の終了した電解銅箔を、硫酸濃度が5質量%の硫酸系溶液に1分間浸漬した後、水洗を行った。
【0062】
粗化処理: 前記予備処理の終了した銅箔に対して、酸化処理を施した。酸化処理では、当該電解銅箔を、液温70℃、pH12、亜塩素酸濃度150g/L、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン濃度10g/Lを含む水酸化ナトリウム溶液に2分間浸漬して電解銅箔の表面に銅化合物からなる微細凹凸構造を形成した。このときの銅化合物の主成分は酸化銅であると考えられる。
【0063】
次に、酸化処理の終了した電解銅箔に対して、還元処理を施した。還元処理では、酸化処理の終了した電解銅箔を、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いてpH=12に調整したジメチルアミンボラン濃度20g/Lの水溶液(室温)中に1分間浸漬して還元処理を行い、その後、水洗し、乾燥した。これらの工程により、電解銅箔の表面に上記酸化銅の一部を還元して亜酸化銅にすることにより、酸化銅及び亜酸化銅を含む銅複合化合物からなる微細凹凸構造を有する粗化処理層を形成した。
【0064】
シランカップリング剤処理: 還元処理が完了すると、水洗後、シランカップリング剤処理液(イオン交換水を溶媒として、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシランを5g/L濃度含有させた水溶液)を、シャワーリング法で上記粗化処理後の電解銅箔の粗化処理面に吹き付け、シランカップリング剤の吸着を行った。そして、シランカップリングの吸着が終了すると、電熱器を用いて雰囲気温度120℃とした雰囲気中で、表面の水分を蒸発させ、当該粗化処理面にある−OH基とシランカップリング剤との縮合反応を促進させ、粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層を備えた本件出願に係る銅箔を得た。
【0065】
<銅箔の評価>
粗化処理面の形状観察結果: この実施例で得られた銅箔の走査型電子顕微鏡観察像を図1に示す。
【0066】
粗化処理面の定性分析結果: この粗化処理面をXPSを用いて定性分析をすると、「酸化銅」、「亜酸化銅」の存在が明瞭に確認され、Cu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対する、Cu(I)のピークの占有面積率は95%であった。また、この定性分析の結果、粗化処理面には「−COO基」の存在も明瞭に確認された。
【0067】
粗化処理面の明度L: この実施例で得られた銅箔の明度L の値は10であった。
【0068】
耐吸湿劣化性能評価結果: 実施例1の銅箔と、100μm厚さの絶縁樹脂基材(パナソニック株式会社製 MEGTRON4)とを用い、真空プレス機を使用して、プレス圧を2.9MPa、温度190℃、プレス時間90分の条件で張り合わせて銅張積層板を製造した。次に、この銅張積層板を用いて、エッチング法で、3.0mm幅の引き剥がし強さ測定用直線回路を備える試験基板を作製した。そして、この試験基板を用いて、常態引き剥がし強さ及び吸湿処理後の引き剥がし強さをそれぞれ測定した。但し、吸湿処理は、沸騰させたイオン交換水中でこの試験基板を2時間煮沸処理することにより行った。また、吸湿処理後、乾燥させた試験基板について引き剥がし強さを測定し、このときの値を吸湿処理後の引き剥がし強さとした。これらの測定結果に基づき、[耐湿性劣化率(%)]=100×{[常態引き剥がし強さ]−[吸湿処理後の引き剥がし強さ]}/[常態引き剥がし強さ]の計算式に従って、吸湿劣化率を算出した。その結果、実施例1の電解銅箔の[常態引き剥がし強さ]=0.68kgf/cm、[吸湿処理後の引き剥がし強さ]=0.58kgf/cm、[耐湿性劣化率(%)]=14.8%であった。
【実施例2】
【0069】
この実施例2では、実施例1で製造した電解銅箔(未処理銅箔)をキャリア箔とするキャリア箔付銅箔を以下の手順で製造した。
【0070】
まず、キャリア箔の析出面側に、有機剤層を接合界面層として形成した。具体的には、硫酸濃度150g/L、銅濃度10g/L、CBTA濃度800ppm、液温30℃の有機材含有希硫酸水溶液に対して、キャリア箔を30秒間浸漬した。これにより、キャリア箔の表面に付着した汚染成分が酸洗浄されると共に、キャリア箔の表面にCBTAが吸着され、CBTAを主成分とする有機剤層を形成した。
【0071】
次に、上記接合界面層上にニッケル層を耐熱金属層として形成した。具体的には、硫酸ニッケル(NiSO・6HO)濃度330g/L、塩化ニッケル(NiCl・6HO)濃度45g/L、ホウ酸濃度35g/L、pH3のワット浴を用いて、液温45℃、電流密度2.5A/dmの電解条件で電解して、換算厚さが0.01μmのニッケル層を上記接合界面層上に形成した。
【0072】
そして、上記耐熱金属層上に電解銅箔層を形成した。具体的には、銅濃度65g/L、硫酸濃度150g/Lの銅電解溶液を用い、液温45℃、電流密度15A/dmの電解条件で電解して、耐熱金属層上に厚さが2μmの電解銅箔層を形成した。このとき、この電解銅箔層の析出面側の表面粗さ(Rz)は0.2μm、光沢度[Gs(60°)]は600であった。このようにして形成したキャリア箔付電解銅箔の電解銅箔層の表面に対して、以下の手順で表面処理を施した。
【0073】
予備処理: 当該キャリア箔付銅箔を、実施例1と同様にしてアルカリ脱脂処理及び硫酸処理を行い、水洗した。
【0074】
粗化処理: 前記予備処理の終了したキャリア箔付銅箔の電解銅箔層に対して、実施例1と同様の方法でその表面を酸化処理し、電解銅箔層の表面に銅化合物からなる微細凹凸構造を形成した。次に、酸化処理の終了したキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の銅複合化合物を形成した表面を、実施例1と同様に還元処理を施し、電解銅箔層の表面に酸化銅及び亜酸化銅を含む銅複合化合物からなる微細凹凸構造を有する粗化処理層を形成した。
【0075】
シランカップリング剤処理: 上述の還元処理が完了すると、実施例1と同様の手法でシランカップリング剤処理を施し、本件出願に係るキャリア箔付銅箔を得た。
【0076】
<キャリア箔付銅箔の評価>
粗化処理面の形状観察結果: この実施例2で得られたキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の粗化処理面の走査型電子顕微鏡観察像は、図1に示したと同様の形態を備えていた。
【0077】
粗化処理面の定性分析結果: このキャリア箔付銅箔の電解銅箔層及びキャリア箔の粗化処理面をXPSを用いて定性分析をすると、「酸化銅」、「亜酸化銅」の存在が明瞭に確認され、Cu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対する、Cu(I)のピークの占有面積率は92%であった。また、この定性分析の結果、粗化処理面には「−COO基」の存在も明瞭に確認された。
【0078】
粗化処理面の明度L: この実施例2で得られたキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の粗化処理面の明度L の値は18であった。
【0079】
耐吸湿劣化性能評価結果: 実施例2のキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の粗化処理面と、100μm厚さの絶縁樹脂基材(三菱瓦斯化学株式会社製 GHPL−830NS)とを、真空プレス機を使用して、プレス圧を3.9MPa、温度を220℃、プレス時間が90分の条件で張り合わせて銅張積層板を製造した。そして、この銅張積層板の表面にあるキャリア箔を除去して、露出した電解銅箔層を18μm厚さになるように電解銅めっきを行い、エッチング法により、引き剥がし強さ測定用の0.4mm幅の直線回路を備える試験基板を作製した。そして、この試験基板を用いて、常態引き剥がし強さ及びPCT吸湿処理後の引き剥がし強さを測定した。但し、PCT吸湿処理は、121℃×2気圧の高温高圧の水蒸気雰囲気中にこの試験基板を24時間保持(PCT試験)することにより行った。また、PCT処理後、乾燥させた試験基板について引き剥がし強さを測定し、このときの値をPCT吸湿処理後の引き剥がし強さとした。これらの測定結果に基づき、[耐PCT吸湿劣化率(%)]=100×{[常態引き剥がし強さ]−[PCT吸湿処理後の引き剥がし強さ]}/[常態引き剥がし強さ]の計算式に従って、耐PCT吸湿劣化率を算出した。その結果、実施例1の電解銅箔の[常態引き剥がし強さ]=0.75kgf/cm、[吸湿処理後の引き剥がし強さ]=0.68kgf/cm、[耐湿性劣化率(%)]=9.3%であった。
【実施例3】
【0080】
実施例1で製造した電解銅箔(未処理電解銅箔)を用いて、以下の手順で表面処理を施した。予備処理、粗化処理において行う酸化処理(酸化処理時間:2分間)及び粗化処理後のシランカップリング剤処理に関しては、実施例1と同じである。そして、この実施例3では、還元処理に用いる水溶液のpH及びジメチルアミンボラン濃度を下記のように変化させて、これらの影響を検証した。
【0081】
還元処理: 酸化処理の終了した電解銅箔を、炭酸ナトリウムと水酸化ナトリウムを用いてpH=11,12,13の3水準とし、ジメチルアミンボラン濃度が5g/L、10g/L、20g/Lの3水準を組合わせた9種類の各水溶液(室温)中に1分間浸漬して還元処理を行い、水洗し、乾燥して、本件出願に係る銅箔を得た。還元処理に用いる水溶液がpH=11のときに得られた銅箔を「実施試料11−a,実施試料11−b,実施試料11−c」とした。また、還元処理に用いる水溶液がpH=12のときに得られた銅箔を「実施試料12−a,実施試料12−b,実施試料12−c」とした。そして、還元処理に用いる水溶液がpH=13のときに得られた銅箔を「実施試料13−a,実施試料13−b,実施試料13−c」とした。そして、各実施試料を示す際の「−a」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が5g/Lの場合である。そして、「−b」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が10g/Lの場合である。「−c」表示が、還元処理に用いる水溶液中のジメチルアミンボラン濃度が20g/Lの場合である。
【0082】
この実施例3で得られた全ての実施試料の走査型電子顕微鏡観察像は、図1に示したと同様の形態であった。そして、この各実施試料の粗化処理層の表面にある「銅複合化合物からなる微細凹凸」を、XPSを用いて状態分析すると、「酸化銅」、「亜酸化銅」の存在が明瞭に確認され、Cu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対する、Cu(I)のピークの占有面積率は表3に示す。また、この定性分析の結果、粗化処理面には「−COO基」の存在も明瞭に確認された。さらに、実施例1と同様にして、各試料を用いて試験基板を作製した。そして、この試験基板を用いて実施例1と同様にして常態引き剥がし強さ、吸湿処理後の引き剥がし強さを測定した。これらの結果を併せて表3に示す。
【比較例】
【0083】
[比較例1]
比較例1の銅箔は、実施例1の銅箔において、シランカップリング剤処理を省略したものであり、実施例1に記載の銅箔と対比して、シランカップリング剤処理の有無が、耐吸湿劣化性能に与える影響を確認するためのものである。従って、シランカップリング剤処理を除いて、その他の製造条件に関しては、実施例と同様であるため、重複した説明は省略し、評価結果に関してのみ以下に述べる。
【0084】
<銅箔の評価>
粗化処理面の形状観察結果: この比較例1で得られた銅箔の走査型電子顕微鏡観察像は、図1に示したもので同様であった。
【0085】
粗化処理面の定性分析結果: この粗化処理面をXPSを用いて定性分析をすると、「酸化銅」、「亜酸化銅」の存在が明瞭に確認され、Cu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対する、Cu(I)のピークの占有面積率は95%であった。また、この定性分析の結果、粗化処理面には「−COO基」の存在も明瞭に確認された。
【0086】
粗化処理面の明度L: この比較例1で得られた銅箔の明度L の値は10であった。
【0087】
耐吸湿劣化性能評価結果: 比較例1の銅箔を用いて、実施例1と同様にして試験基板を作製した。そして、この試験基板を用いて実施例1と同様にして常態引き剥がし強さ、吸湿処理後の引き剥がし強さを測定した。その結果、比較例1の電解銅箔の[常態引き剥がし強さ]=0.65kgf/cm、[吸湿処理後の引き剥がし強さ]=0.40kgf/cm、[耐湿性劣化率(%)]=38.6%であった。
【0088】
[比較例2]
比較例2のキャリア箔付銅箔は、実施例2で用いたキャリア箔付銅箔に下記の手順で粗化処理、防錆処理、シランカップリング剤処理を施したものある。ここでは、実施例2に記載のキャリア箔付銅箔と対比して、粗化処理層の相違が耐PCT吸湿劣化率に与える影響を確認するためのものである。従って、製造条件に関しては、実施例2と異なる部分に関して述べ、重複した説明は省略する。
【0089】
粗化処理: 粗化処理工程では、キャリア箔付銅箔の電解銅箔層の表面に微細銅粒を析出付着させた。このとき、硫酸銅溶液(硫酸濃度100g/L、銅濃度18g/L)、液温25℃、電流密度10A/dm、通電時間が10秒のヤケメッキ条件を採用した。そして、この微細銅粒の脱落を防止するため、被せメッキとして、硫酸銅溶液(硫酸濃度150g/L、銅濃度65g/L)、液温45℃、電流密度15A/dm、通電時間が20秒の平滑メッキ条件を採用して、電解銅箔層の表面に微細銅粒子を定着させた。
【0090】
防錆処理: ここでは粗化処理の終了したキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の表面に、防錆元素として亜鉛を用いて防錆処理を施した。このときの防錆処理層は、硫酸亜鉛浴を用い、硫酸濃度70g/L、亜鉛濃度20g/Lの硫酸亜鉛溶液を用いて、液温40℃、電流密度15A/dm、通電時間が20秒の条件を採用して亜鉛防錆処理層を形成した。
【0091】
以下、実施例2と同様に、シランカップリング剤処理及び乾燥を行って、比較例2のキャリア箔付銅箔を得た。
【0092】
<キャリア箔付銅箔の評価>
粗化処理面の形状観察結果: この比較例2で得られたキャリア箔付銅箔の電解銅箔層の粗化表面の走査型電子顕微鏡観察像を図4に示す。
【0093】
粗化処理面の定性分析結果: この粗化処理面をXPSを用いて定性分析をすると、亜鉛成分が検出された一方で、「酸化銅」、「亜酸化銅」及び「−COO基」は、殆ど確認されなかった。
【0094】
粗化処理面の明度L: この比較例2で得られた銅箔の明度L の値は46であった。
【0095】
耐吸湿劣化性能評価結果: 比較例2の銅箔を、実施例2と同様にして、試験基板を作製した。そして、この試験基板を用いて実施例2と同様にして常態引き剥がし強さ、吸湿処理後の引き剥がし強さを測定した。その結果、比較例2の電解銅箔の[常態引き剥がし強さ]=0.59kgf/cm、[吸湿処理後の引き剥がし強さ]=0.46kgf/cm、[耐湿性劣化率(%)]=22.0%であった。
【0096】
[比較例3]
比較例3では、実施例1と同じ電解銅箔を用いて、実施例1と同じ予備処理を施し、実施例の粗化処理に代えて、黒化処理及び還元処理を施し比較試料3を得た。以下、黒化処理及び還元処理について説明する。
【0097】
黒化処理: 前記予備処理の終了した電解銅箔を、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製の酸化処理液である「PRO BOND 80A OXIDE SOLUTION」を10vol%、「PRO BOND 80B OXIDE SOLUTION」を20vol%含有する液温85℃の水溶液に5分間浸漬して、表面に一般的な黒化処理を形成した。
【0098】
還元処理: 酸化処理の終了した電解銅箔を、ローム・アンド・ハース電子材料株式会社製の還元処理液である「CIRCUPOSIT PB OXIDE CONVERTER 60C」を6.7vol%、「CUPOSIT Z」を1.5vol%含有する液温35℃の水溶液に5分間浸漬して、水洗し、乾燥して、図5に示す還元黒化処理層を備える比較試料を得た。
【0099】
この比較例で得られた表面処理銅箔(比較試料)の粗化処理層の表面をXPSを用いて状態分析すると、「Cu(0)」の存在が確認された。また、「Cu(II)」及び「Cu(I)」の存在も確認され、Cu(I)のピーク面積と、Cu(II)のピーク面積との合計面積に対する、Cu(I)のピークの占有面積率は表3に示すとおりである。しかしながら、この定性分析の結果、粗化処理面には「−COO基」の存在は確認されなかった。
【0100】
[実施例と比較例との対比]
実施例1と比較例1との対比: この実施例1と比較例1との対比は、シランカップリング剤処理の効果を確認するためのものである。実施例1と比較例1との評価結果を、以下の表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
この表1から明らかなように、比較例1の銅箔は、実施例1の銅箔のシランカップリング剤処理を省略したものであるから、「粗化処理面の形状」、「粗化処理面の定性分析」、「粗化処理面の明度L」においては、同一の評価結果を示している。そして、引き剥がし強さに関しても、「常態引き剥がし強さ」に関しては、実施例1と比較例1とに大きな差異は見られない。ところが、「吸湿処理後の引き剥がし強さ」は、比較例1の値が、実施例1の値に比べ、低くなっている。その結果、実施例1の耐湿性劣化率が14.8%であるのに対し、比較例1の耐湿性劣化率は38.6%まで低下している。よって、比較例1の銅箔は、水又は各種水溶液に多く晒されるプリント配線板製造には適さないことが明らかである。
【0103】
実施例2と比較例2との対比: この実施例2と比較例2との対比は、本件出願に係るキャリア箔付銅箔が、従来の粗化処理等を施したキャリア箔付銅箔に対して、どのような優位性を発揮するかを確認するためのものである。実施例2と比較例2との評価結果を、以下の表2に示す。
【0104】
【表2】
【0105】
比較例2のキャリア箔付銅箔は、実施例2のキャリア箔付銅箔と、粗化処理方法が異なり、その結果、この表2から明らかなように、「粗化処理面の形状」が異なる。また、実施例2と比較例2とでは、粗化処理方法が異なるため、粗化処理層を構成する成分が異なる。具体的には、実施例2のキャリア箔付銅箔の粗化処理面からは、XPSにより「酸化銅」、「亜酸化銅」、「−COO基」が検出されたが、比較例2の粗化処理面からはこれらの成分は殆ど検出されず、比較例の粗化処理層は銅箔表面に電着させた微細銅粒により構成されるため、その主成分は主として「銅」又は「銅合金」である。そして、実施例2の明度Lの値は比較例2の明度Lの値はよりも小さいことから、実施例2の粗化処理層において、銅複合化合物からなる針状又は板状の凸状部により形成された凹凸構造は、比較例2の粗化処理層において銅箔の表面に付着された微細銅粒により形成された凹凸構造よりも微細であることがわかる。
【0106】
また、「常態引き剥がし強さ」をみると、比較例2のキャリア箔付銅箔を用いて回路形成を行った場合よりも、実施例2のキャリア箔付銅箔を用いて回路形成を行った方が引き剥がし強さが高い値を示している。このことは、実施例としての図1と比較例としての図4における表面の粗化状態の違いからも明らかである。すなわち、比較例2の粗化処理層と比べると、実施例2の粗化処理層の方が微細な凸状部により形成されており、比表面積が多いためと考えられる。そして、「吸湿処理後の引き剥がし強さ」も、比較例2の値が、実施例2の値に比べ、低くなっている。その結果、実施例2の耐湿性劣化率が9.3%であるのに対し、比較例2の耐湿性劣化率は22.0%まで低下している。よって、比較例2のキャリア箔付銅箔は、実施例2のキャリア箔付銅箔に比べて、水又は各種水溶液に多く晒されるプリント配線板製造には適さないことが明らかである。
【0107】
実施例3と比較例3との対比:次に、以下の表3を参照して、実施例3と比較例3との対比を行う。
【0108】
【表3】
【0109】
表3において、Cu(I)ピークの占有面積率に着目し、還元処理に用いる水溶液がpH=11のときに得られた表面処理銅箔(実施試料11−a,実施試料11−b,実施試料11−c)と、還元処理に用いる水溶液がpH=12のときに得られた表面処理銅箔(実施試料12−a,実施試料12−b,実施試料12−c)と、還元処理に用いる水溶液がpH=13のときに得られた表面処理銅箔(実施試料13−a,実施試料13−b,実施試料13−c)とをみると、Cu(I)ピークの占有面積率が、59%〜99%の範囲となっている。これに対し、比較試料でも、Cu(I)ピークの占有面積率が83%となっている。よって、Cu(I)ピークの占有面積率においては、実施例3と比較例3との差異は無いことが分かるが、上述のXPSによる状態分析でみると、検出成分が異なり、比較例3の試料の粗化処理面には「−COO基」の存在は確認されなかった。一方、比較試料3の粗化処理面の平面観察を行うと、長く、太い針状の凸状部が観察され、黒化処理により形成された凸状部の形状が実施試料で実施した酸化処理後に形成された凸状部の形状とは異なり、その先端部が鋭く尖っている。黒化処理によって形成されたこの凹凸構造層の厚さは700nmであった。しかし、還元処理を行って還元黒化処理すると、凸状部の先端部が丸くなり、還元処理により表面の凹凸形状が大きく変化した。比較試料3について、還元処理後の断面を観察すると、黒化処理後に形成された針状の凸状部が、還元処理により細く、微細に断裂していることが確認された。これに対して、実施例3等の実施試料では、酸化処理により形成された微細凹凸構造の表面形状が、還元処理後も維持されていることが確認された。すなわち、実施試料に比べ、比較試料において形成した凸状部は非常に脆く、いわゆる粉落ちの問題が生じることが予測できる。
【0110】
そこで、実施例3と比較例3とで得られた表面処理銅箔の引き剥がし強さを対比してみる。この結果、実施試料の引き剥がし強さは、0.69kgf/cm〜0.81kgf/cmである。これに対して、比較試料の引き剥がし強さは0.33kgf/cmであり、実施試料よりも低いことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0111】
以上に述べた本件出願に係る銅箔又はキャリア箔付銅箔は、「最大長さが500nm以下の針状又は板状の凸状部により形成された微細凹凸構造を有する粗化処理層」を備えている。このため、当該粗化処理層を備える面を絶縁樹脂基材との接着面とすることにより、当該微細凹凸構造を形成する凸状部によるナノアンカー効果により、無粗化銅箔の絶縁樹脂基材に対する密着性に比べて、良好な密着性を確保することができる。また、当該微細凹凸構造は、最大長さが500nm以下の極めて短い針状又は板状の凸状部により形成されているため、エッチングにより回路形成を行う際に、僅かな時間のオーバーエッチングタイムを設けることにより絶縁樹脂基材側に埋まり込んだ状態の凸状部を溶解除去することができる。従って、無粗化銅箔と同等の良好なエッチング性能を実現することができ、エッチングファクターの良好なファインピッチ回路を形成することができる。さらに、この粗化処理層の表面にシランカップリング剤処理層を設けることにより、従来の粗化銅箔と同等の耐吸湿劣化特性を実現することができる。 従って、全てのプリント配線板製造材料等として有用に使用することが可能である。また、上述のように、本件出願に係る銅箔は、銅箔の両面に粗化処理層を設けることができ、且つ、粉落ち等が抑制されているため、多層プリント配線板の内層回路形成に好適な両面粗化処理銅箔とすることができる。
図1
図2
図3
図4
図5