(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記リスク回路は、求めた中心傾向測定値を用い、かつ対象者についての心不全入院の履歴データを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する、請求項1に記載の装置。
前記リスク回路は、対象者に対する急性心不全のリスクを回帰的に定量し、急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準を回帰的に調整する、請求項1乃至15のいずれか1項に記載の装置。
【発明を実施するための形態】
【0010】
携行型医療装置は、例えば日常生活動作中に長期にわたって、対象者とともに移動することができる。そのような装置は、本願に記載する特徴、構造、方法又はそれらの組み合わせのうちの1つ以上を包含し得る。例えば、心臓モニタ又は心臓刺激装置は下記に述べる有益な特徴及び/又はプロセスの1つ以上を包含するように実施され得る。そのようなモニタ、刺激装置、又は他の植込み型もしくは部分植込み型装置は、本願に記載する特徴のすべてを備える必要はないが、独特の構造又は機能性を提供する選択された特徴を備えるように実施され得ることが意図される。そのような装置は様々な治療又は診断機能を提供するように実施され得る。
【0011】
本願では、患者の急性心不全の評価のためのシステム及び方法の改良について記載する。慢性心不全を有する患者は急性心不全イベント(例えば心不全代償不全イベント)を経験することがある。限られた保険医療資源のために、危険に瀕しているそれらの患者を識別し、それに従って医療資源を割り当てることが望ましいことがある。心不全に対する装置生成リスク指標は、比較的高い急性心不全のリスクを有するそれらの患者を識別するか、又は、これに代わって、比較的低い急性心不全のリスクを有する患者を識別し、すべての心不全患者に対して同様の保険医療の質を維持しながら、心不全を監視及び治療するための資源を割り当てることを支援し得る。
【0012】
医療用電子装置は患者の生理学的状態に関連する情報を得るために用いることができる
。
図1は、植込み型医療装置110を含むシステム100の一部の図である。植込み型医療装置110の例としては、ペースメーカー、除細動器、心臓再同期療法(CRT)装置又はそのような装置の組み合わせが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。植込み型医療装置110は、1つ以上のリード108A〜108Cによって心臓105に接続され得る。心臓リード108A〜108Cは、植込み型医療装置110に接続された基端部と、電気接点又は「電極」によって心臓105の1つ以上の部分に接続された先端部とを備える。前記電極は、カルディオバージョン、除細動、ペーシング、又は再同期療法、又はそれらの組み合わせを提供するために、心臓105に電気的刺激を送達するように構成され得る。前記電極は、電気的心臓信号を感知するために、センス増幅器に電気的に接続されていてもよい。
【0013】
医療用電子装置はまた、他の生理学的パラメータを監視するために他の生理学的センサーを備えてもよい。例えば、着用型装置は、心電計(ECG)のような心臓信号を感知するために表面電極(例えば皮膚接触用電極)を備え得る。別の例において、生理学的センサーは、心音を感知する心音センサー回路を備え得る。心音は、対象者の心臓の活動及び心臓を通る血液の流れからの機械的振動に関連している。心音は各心周期で繰り返し、振動に関連する活動に従って分離され、分類され得る。第1心音(S1)は、僧帽弁の緊張中に心臓によって生成される震動音である。第2心音(S2)は、大動脈弁の閉鎖及び心拡張期の開始を示している。第3心音(S3)及び第4音(S4)は心拡張期中における左心室の充満圧に関連する。心音センサー回路は、患者の心臓の機械的活動を示す電気的な生理学的信号を生成することができる。心音センサー回路は、心臓内、心臓付近、植込み型医療装置内、患者の皮膚上の着用型パッチ内、又は心音の音響エネルギーが感知され得る別の場所に配置され得る。いくつかの例において、前記心音センサー回路は、
図1の植込み型医療装置内に配置された加速度計を備える。別の例において、心音センサー回路は、心臓105の音響エネルギー又は振動を感知するためにマイクロホンを備える。
【0014】
図1に示したように、前記システムは無線信号190によって植込み型医療装置110と通信する医療装置プログラマ又は他の外部システム170を備え得る。いくつかの例において、無線通信は高周波(RF)を用いることを含み得る。しかしながら、他の適当な遠隔測定信号(テレメトリー信号)を用いることができる。
【0015】
生理学的センサーは、診断専用装置に備えられ得る。前記診断専用装置は、経静脈リード又は非経静脈リードであり得る1つ以上のリードによって皮下植込み可能であってもよい。前記生理学的センサーは、患者の皮膚に接触するパッチ電極を備えた着用型表面ICD(S−ICD)に備えられ得る。さらに別の例において、前記生理学的センサーは、例えば迷走神経又は頚動脈洞のような神経部位に電気的刺激を提供する神経刺激装置に備えられ得る。
【0016】
図2は、患者202に治療を提供するために植込み型医療装置、着用型医療装置又は他の携行型医療装置210を用いるシステム200の一部の図である。システム200は、ネットワーク294を介して遠隔システム296と通信する外部装置270を含み得る。ネットワーク294は、電話ネットワーク又はコンピュータネットワーク(例えばインターネット)のような通信ネットワークであり得る。いくつかの例において、外部装置270はリピーターを備え、有線又は無線であり得るリンク292を用いて、前記ネットワークを介して通信する。いくつかの例において、遠隔システム296は患者管理機能を提供し、その機能を実行するために1つ以上のサーバ298を備え得る。装置の通信は、急性心不全イベントの遠隔監視を可能にし得る。対象者が臨床状況において検査される状況のスナップショットのみを提供する従来の臨床診断とは対照的に、装置に基づくセンサーデータは対象者の心不全の状況の連続的な指標を提供し得る。
【0017】
図3は、対象者を急性心不全のリスクについて監視するために携行型医療装置を操作する方法300の流れ図である。方法300は、装置に基づくセンサーのような1つ以上のセンサーからデータを収集することを含み得る。前記センサーは、患者の生理学的性質を感知する。前記センサーのいくつかの例としては、心音センサー、呼吸センサー、姿勢センサー、胸郭内インピーダンスセンサー、心臓信号センサー、及び化学センサーが挙げられる。前記センサーは、植込み型医療装置(例えばペースメーカー、ICD、S−ICD及び診断専用装置、神経刺激装置、など)の1つ以上に備えられていてもよいし、又は着用型装置又はパッチとして提供されてもよい。
【0018】
方法300は、対象者に対して特定の時間フレーム内(例えば次の一か月間、3か月間、6か月間又は12か月間)における急性心不全イベントのリスクを定量し得る。いくつかの状況において、急性心不全イベントのリスクは、1つ以上のセンサーから収集したデータ、対象者の心不全履歴情報、又は収集データ及び履歴情報の双方を用いて定量され得る。
【0019】
ブロック305では、携行型医療装置によって、生理学的センサー信号が生成され得る。前記生理学的センサー信号は、生理学的センサーによって感知される生理学的パラメータに少なくとも部分的に基づいている。前記生理学的センサー信号は対象者の心臓血管機能を表し得る。前記生理学的センサー信号の例としては、完全に網羅しているわけではないが、心音信号、呼吸信号、心臓活動信号及びバイオマーカー信号が挙げられる。本願において前述したように、心音信号は対象者の心臓の機械的活動を表しており、呼吸信号は対象者の呼吸を表し得る。心臓活動信号は、対象者の電気的な心臓活動を表しており、例えば心室の興奮に関連するQRS群(QRS complex)のような心臓興奮に対応する1つ以上の基準フィーチャ(fiducial features)を含み得る。バイオマーカー信号は対象者におけるバイオマーカーの濃度(level)を表している。前記バイオマーカーはB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)を含み得る。BNPは、心不全による心筋の過剰な伸張に応答して心臓の心室によって分泌される。特定の例において、前記バイオマーカーは、B型ナトリウム利尿ペプチドと共に分泌されるN−末端アミノ酸(NT−Pro−BNP)を含む。いくつかの例では、ブロック305における方法は、本願に記載した生理学的センサー信号のうちのいずれかの組み合わせを生成することを含み得る。
【0020】
ブロック310では、生理学的センサー信号を用いて第1の生理学的測定値が求められる。いくつかの例において、前記生理学的センサー信号の中心傾向を求めることができ、その中心傾向信号から生理的パラメータが測定されるが、これは必須ではない。前記生理学的測定値の例としては、完全に網羅しているわけではないが、ポストS2心音エネルギー(例えばS3心音エネルギー)の大きさ、呼吸数の大きさ、バイオマーカーの濃度の大きさ、1つ以上の生理学的センサー信号中の基準フィーチャ間の時間間隔の大きさ、又はそのような測定された時間間隔の比が挙がられる。
【0021】
いくつかの例によれば、前記パラメータを求めるために用いられる生理学的センサー信号は、前記生理学的センサーによって感知された複数信号から生成される。例えば、前記生理学的センサー信号は第1タイプの生理学的センサー信号を生成し得る。中心傾向信号は、複数の心周期(例えば8〜16心周期)又は時間間隔(例えば30秒)の間に得られたこのタイプの複数の信号から(例えばアンサンブル平均することによって)生成することができる。中心傾向信号を用いることは、1つの瞬時信号とは対照的に、急性心不全の予測により有用であり得る。単一の瞬時信号は、分析に過度に影響を及ぼす要因を含むことがある。前記生理学的測定値は、中心傾向センサー信号である生理学的センサー信号を用いて求められ得る。
【0022】
ブロック315では、複数の生理学的センサー信号が所定の(例えば、プログラムされた)第1期間にわたって生成され得、複数の生理学的センサー信号を用いて複数の生理学的測定値が求められ得る。いくつかの例において、第1期間は、複数日(例えば1日間、5日間、一週間、10日間、一か月間、など)である。前記複数の信号は異なるタイプの生理学的信号であってもよい。
【0023】
ブロック320では、複数の生理学的測定値の中心傾向が求められて、中心傾向測定値を生成し得る。中心傾向測定値のいくつかの例としては、所定期間に得られた生理学的測定値の平均、又は前記生理学的測定値のメジアン値が挙げられる。中心傾向測定値を求めるための期間(例えば一日以上)は、中心傾向信号を生成するのに用いられる期間(例えば30秒)よりも長い時間スケールを有することに留意されたい。前記期間はプログラミングによって規定され得るが、これは必須ではない。
【0024】
ブロック325では、求めた中心傾向測定値を用いて対象者に対する急性心不全のリスクが定量される。リスクの定量は、求めた中心傾向測定値を、急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準と比較することを含み得る。例えば、求めた中心傾向測定値は、10日間にわたって得られたポストS2心音強度の測定値の平均であり得る。平均された測定値が急性心不全検知強度閾値を超える場合には、その対象者はより高いリスクスコアを割り当てられ得るか、又は高リスクカテゴリを割り当てられ得る。このように、急性心不全を経験するリスクを階層化することができる。
【0025】
生理学的測定値の中心傾向を求めることは、生理学的データに従って急性心不全のリスクを階層化するために用いられる測定値において有用であり得る。これは、前記生理学的測定値は、心拍数の変化により、生理学的センサーによって生成された信号の変化により、又は一日の間における測定値の変化により、層別化を混乱させ得る測定値の一時的な変動を含み得るためである。
【0026】
図4は、ある患者が心不全患者として最初に登録された時から始まる、急性心不全イベントを経験しなかった患者集団の割合のグラフの例を示している。患者は、S3心音の振幅の高い測定値を有する患者と、S3心音の振幅の低い測定値を有する患者とに分けられた。このグラフは、低S3振幅を有する患者(グラフ405)の方が高S3振幅を有する患者(グラフ410)よりも無症候(event−free)である割合が高いことを示している。よって、このグラフは、急性心不全のリスクを評価するためにS3の振幅を用いることができることを示している。
【0027】
図5は、患者集団のS3エネルギーデータの回帰モデルからのp値のグラフ505の例を示している。横軸は、患者に対して急性心不全のリスクを評価するために用いられたS3エネルギーデータの日数を表わしている。前記グラフにおいて、1日以上にわたって平均されたS3エネルギー測定値は、S3エネルギー測定値が1日未満のデータについて平均されたときよりも低いp値を生じた。より低いp値ほどリスクデータのより良好な分離に対応する。よって、複数日わたってデータを平均することにより、急性心不全のリスクのより良好な評価が提供される。
図5の例では、グラフ505は、5日以上からのデータが用いられたときにp値が安定することを示している。
【0028】
図3の方法によって求めた定量化リスクは、その後の数分間、その後の1時間、又は同日のその後の間に起こる急性心不全イベントのリスクではなく、むしろより長期間(例えば1〜12か月)にわたって心不全イベントを経験する対象者のリスクの現れである。
図6は、S3心音のエネルギーに基づいた患者集団のリスク指標を用いる例を示す。前記図は、患者の心不全患者としての最初の登録時から始まる、急性心不全イベントを経験しなかった患者集団の割合を示している。前記患者は、S3心音エネルギーの高い測定値を有
する患者と、S3心音エネルギーの低い測定値を有する患者とに分けられた。前記グラフは、心不全患者として登録した時と登録後6か月以降との間において、急性心不全イベントを経験した低S3エネルギー群の割合と、急性心不全イベントを経験した高S3エネルギー群との割合との間で強い分離を示している。
【0029】
より長期におけるリスクの評価は、すべての心不全患者に対して高い標準治療を維持しながら、心不全を監視及び治療するために、より良好な資源の配分を可能にし得る。例えば、患者に対する中心傾向測定値がリスク基準を満たす場合には、患者は高リスクとして分類され、その患者にはより多くの監視資源が割り当てられ得る。患者に対する中心傾向測定値がリスク基準を満たさない場合には、患者は低リスクとして分類され、それに応じて資源が割り当てられ得る。
【0030】
ブロック330において、求めた中心傾向測定値が急性心不全のリスクを示す基準を満たす場合には表示が生成され得る。前記表示は、医師又は介護者に対して表示装置上で対象者のリスクカテゴリを提示する警告を含み得る。前記表示はプログラミング装置又はサーバ上で実行するプロセスに提供され得る。対象者に対する経過観察予定は、前記表示に従って自動的に調整される(例えば、経過観察通院(follow−up visits)をより頻繁にすることができる)か、又は医師又は介護者による選択のために提案される経過観察予定が示され得る。
【0031】
図7は、対象者に対する急性心不全のリスクを評価する携行型医療装置700の例の一部のブロック図を示している。装置700は、少なくとも、第1の生理学的センサー回路705と、生理学的センサー回路705に通信可能に接続された制御回路710とを備える。生理学的センサー回路705と制御回路710との間には介在する回路構成が存在し得るが、前記通信可能な接続は、生理学的センサー回路705と通信回路710との間で通信される電気信号を提供する。
【0032】
生理学的センサー回路705は、対象者の心臓血管機能を表す第1の生理学的信号と、制御回路710とを生成することができる。生理学的センサー回路の一例は本願において前述した心音センサー回路である。生理学的なセンサー回路705の別の例は呼吸センサー回路である。呼吸センサー回路は、対象者についての呼吸情報を含む呼吸信号を生成することができる。前記呼吸信号は、対象者の呼吸の吸気体積又は流量、呼気体積又は流量、呼吸数又はタイミング、又は任意の組み合わせ、置換又は構成要素のような対象者の呼吸を示す任意の信号を含み得る。呼吸センサー回路は、加速度計、インピーダンスセンサー、体積又は流量センサー及び圧力センサーのうちの1つ以上のような植込み型センサーを含み得る。
【0033】
生理学的センサー回路705のさらに別の例は心臓信号センサー回路である。心臓信号センサー回路は、対象者の電気的な心臓活動を表す心臓活動信号を生成する。心臓信号センサー回路の一例としては、1つ以上の電極に接続可能な1つ以上のセンス増幅器が挙げられる。生理学的センサー回路705のさらに別の例はバイオマーカーセンサー回路である。本願において前述したように、バイオマーカーセンサー回路は、対象者におけるバイオマーカーの濃度を表すバイオマーカー信号を生成する。
【0034】
制御回路710は、ソフトウェアモジュール又はファームウェアモジュール内の命令を解釈又は実行するマイクロプロセッサ、デジタルシグナルプロセッサ、特定用途向け集積回路(ASIC)又は他のタイプのプロセッサを備え得る。制御回路710は、記載した前記機能を実行するために他の回路又はサブ回路を備え得る。これらの回路は、ソフトウェア、ハードウェア、ファームウェア又はそれらの任意の組み合わせを含み得る。複数の機能は、回路及びサブ回路の1つ以上において所望通りに実行され得る。
【0035】
制御回路710は、(例えばプログラムすることによって、かつ/又は論理回路によって)第1の生理学的センサー信号を用いて第1の生理学的測定値を求めるように構成された信号処理回路715を含む。本願において前述したように、生理学的センサー回路705が心音センサー回路を含む場合には、第1の生理学的測定値は、ポストS2心音エネルギーの測定値を含み得る。前記測定値は、ポストS2心音エネルギーの振幅、強度、及び出力のうちの1つ以上を含み得る。特定の例において、前記測定値は、S3心音エネルギー及びS4心音エネルギーのうちの1つ以上の測定値を含む。
【0036】
信号処理回路715は、第1所定期間(例えば複数日)にわって生理学的センサー回路705によって生成された複数の生理学的信号を用いて、複数の生理学的測定値を求めることができる。次に、信号処理回路715は、複数の生理学的測定値を用いて生理学的測定値の中心傾向を求める。
【0037】
制御回路710はまた、求めた中心傾向測定値を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するリスク回路720も含み得る。いくつかの例において、急性心不全のリスクの定量は、求めた中心傾向測定値を急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準と比較することを含む。いくつかの例において、前記基準は、対象者のリスクカテゴリを求める1つ以上の閾値との比較を含む。例えば、リスク回路720は、S3心音エネルギーの中心傾向測定値を第1のS3心音エネルギー閾値と比較し得る。前記中心傾向測定値が第1のS3心音エネルギー閾値を満たさない場合には、その対象者は低リスクカテゴリに配され得る。前記中心傾向測定値が第1のS3心音エネルギー閾値を満たす場合には、その対象者はより高いリスクカテゴリに配され得る。
【0038】
前記リスクを定量化するためにより多くのカテゴリを用いることができる。例えば、第1のS3心音エネルギー閾値と、第2のS3心音エネルギー閾値とを用いることができ、前記第2閾値は第1閾値よりも高い。前記S3中心傾向測定値が第1のS3心音エネルギー閾値又は第2のS3心音エネルギー閾値のいずれも満たさない場合には、その対象者は低リスクカテゴリに配され得る。前記S3中心傾向測定値が第1のS3心音エネルギー閾値を満たすが、第2のS3心音エネルギー閾値は満たさない場合には、その対象者は中リスクカテゴリに配され、前記S3中心傾向測定値が第2のS3心音エネルギー閾値を満たす場合には、その対象者は高リスクカテゴリに配され得る。拡大すると、より多くのカテゴリを用いることができ、対象者は求めた中心傾向測定値に従ってリスクカテゴリに配される。
【0039】
いくつかの例において、リスク回路720は、対象者に対するリスク指標を生成することによって急性心不全リスクを定量化する。前記リスク指標は、対象者の急性心不全のリスクを低リスク、中リスク、高リスクとして分類することを含み得る。前記リスク指標は、リスクをリスク四分位数(quartile)、十分位数(decile)、五分位数(quintile)などに従って分類することを含み得る。前記リスク指標は、急性心不全イベントのリスクを示す連続値であり得る(例えば、対象者に対するリスク指標を0.0〜1.0の連続スケール上の値による確率として計算する)。前記リスク指標は生理学的センサー信号の生の測定値(とりわけ、S3心音の振幅の生の測定値、呼吸数変動の生の測定値、対象者中に存在するバイオマーカーの濃度の生の測定値、及び1つ以上の生理学的信号において検知されるフィーチャの間の時間間隔の生の測定値など)であり得る。
【0040】
本願において前述したように、リスク回路720は求めた中心傾向測定値を第1のリスク検知閾値と比較してもよい。前記リスク指標は、求めた中心傾向測定値が所定期間内に第1リスク検知閾値を満たす回数(例えば頻度)の計数であり得る。リスク回路720は
、例えば予定に従って(毎日、毎週、毎月、又は一時間毎に)、前記リスク指標を回帰的に求めてもよい。前記リスク指標に従って通知が生成されてもよい。
【0041】
前記リスク指標を生成するために用いられる急性心不全のリスクを示す基準(例えば閾値中心傾向測定値)は、例えば6か月間又は12か月間のような所定期間にわたって起こる急性心不全イベントのリスクを定量化するために(例えばプログラム値又は通信値として)規定され得る。リスク基準は、いったん装置700において規定されたら固定されてもよいし、又はリスク回路720は急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準を調整するアルゴリズムを回帰的に実行してもよい。例えば、リスク回路720は、患者固有データ(例えば生理学的データ及びイベント履歴データのうちの一方又は双方)に基づいてリスク基準を調整してもよい。いくつかの例において、前記閾値は、ユーザーによってプログラム可能であり得る(例えば、医師の選択に従って、又は対象者に固有のデータに従ってプログラムされる)。
【0042】
制御回路710は、リスク回路720によって定量されたリスクの表示を生成することができる。例えば、制御回路710は、求めたリスク指標に基づいて高リスクの表示を生成し得る。装置700が着用型装置に備えられている場合、前記表示は、例えば警告を表示することによって、リスクの警告をユーザーに提示するために用いられ得る。
【0043】
装置700は、別体の装置と信号を通信する通信回路725を備え得る。前記通信は、無線(例えばRF遠隔測定)又は有線(例えばユニバーサルシリアルバス)のインターフェースを介し得る。前記リスクの表示は、高リスクの警告が表示もしくは通信される別体の装置上のプロセスに通信されてもよいし、又はリスクのレベルが前記プロセスに通信され得る。いくつかの例において、別体の装置(例えばサーバ)は、前記リスクの表示に基づいて対象者の経過観察通院の予定を調整してもよい。いくつかの例において、リスクの定量化は別体の装置によって行われる。例えば、リスク回路720は別体の装置に備えられてもよく、装置700は、リスクが定量化される別体の装置に測定値を通信する。
【0044】
一部の例において、いくつかの予備信号処理は、生理学的センサー信号において、その信号が中心傾向測定値を求めるために用いられる前に実施され得る。例えば、第1の生理学的センサー回路705は第1の生理学的センサー信号タイプを生成し得る。信号処理回路715は、複数の心周期について得られた第1の生理学的センサー信号タイプの複数の信号を用いて、中心傾向信号(例えばアンサンブル平均)を求め得る。信号処理回路715は、複数の中心傾向信号を用いて生理学的測定値を求め(例えば、ポストS2心音エネルギーの大きさが心音信号のアンサンブル平均から得られる)、中心傾向測定値は複数の生理学的測定値を用いて得られる。上述したように、中心傾向信号は、30秒のような短期間にわたって求められるか、又は8〜10心周期から得られた信号を用いて求められる。前記中心傾向測定値は、一日以上の期間に得られた測定値を用いて計算される。リスクの定量化は、次の数か月から約1年のうちに急性心不全を経験する対象者のリスクを評価するために用いられる。
【0045】
前記中心傾向測定値のいくつかの例としては、ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値、S3心音エネルギーの中心傾向測定値、呼吸数の中心傾向測定値、呼吸数の変動の中心傾向測定値、対象者において検知されたバイオマーカーの濃度の中心傾向測定値、1つ以上の生理学的センサー信号中の基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、及び時間間隔の中心傾向測定値の比が挙げられる。測定値の組み合わせもまた急性心不全のリスクを評価するのに有用であり得る。
【0046】
いくつかの例によれば、心不全イベントに対するリスクの評価は、ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値及び呼吸数の中心傾向測定値の双方を用いて行うことができる。
第1の生理学的センサー回路705は心音センサー回路を含み、かつ装置700は呼吸センサー回路を含む第2生理学的センサー回路を備える。信号処理回路715は、複数の心音信号を用いて、複数のポストS2心音エネルギーの測定値を求め、複数の呼吸信号を用いて、複数の呼吸数の測定値を求める。次に、前記信号処理回路は、ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値及び呼吸数の中心傾向測定値を求める。前記リスク回路は、前記呼吸数の中心傾向測定値とポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。特定の例において、前記ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値は、S3エネルギーの中心傾向測定値を含み得る。また前記呼吸数の中心傾向測定値は、呼吸数の変動の測定値の中心傾向を含み得る。
【0047】
図8は、S3エネルギー及び呼吸数(RR)変動に基づくリスク指標の例を示す。前記図面は、低S3エネルギー及び低呼吸数変動が測定された患者に対する無症候患者の割合のグラフ805、低S3エネルギー及び高呼吸数変動が測定された患者に対する無症候患者の割合のグラフ810、高S3エネルギー及び低呼吸数変動が測定された患者に対する無症候患者の割合のグラフ815、及び高S3エネルギー及び高呼吸数変動が測定された患者に対する無症候患者の割合のグラフ820を示している。低S3エネルギー及び低呼吸数変動が測定された患者は低リスク群に配され、高S3エネルギー及び高呼吸数変動が測定された患者は高リスク群に配され得る。残りの患者は中リスク群に配され得る。中心傾向測定値が低いか、又は高いかの判定は、前記測定値の測定閾値との比較を含み得る。急性心不全のリスクの表示は、リスク評価の表示、患者の経過観察予定の変更のうちの1つ以上において用いることができる。低リスク群、中リスク群及び高リスク群により、異なる3レベルの応答が生成され得る。
【0048】
心不全イベントのリスクを評価するために、リスクを判定するための他のグループ化(例えば4つの個々のリスク群)を用いることができる。センサーを融合させる他の方法も用いることができる。例えば、S3エネルギーは、リスク指標を求める際に呼吸数変動とは異なる重みを与えられてもよい。
【0049】
急性心不全のリスクを定量化するために、心音信号からの他の測定値を用いることができる。例えば、心音信号の2つの基準フィーチャ間で測定される時間間隔は、ポストS2心音エネルギー及び呼吸数の中心傾向測定値の1つ以上と組み合わせて用いることができる。いくつかの例において、信号処理回路715は、心音信号の2つの基準フィーチャ間の時間間隔と、複数の心音信号を用いて複数の前記時間間隔とを求める。信号処理回路705は前記時間間隔の中心傾向測定値を求め、前記リスク回路は、前記時間間隔の中心傾向測定値を用い、かつ呼吸数の中心傾向測定値及びポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値のうちの少なくとも一方を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0050】
いくつかの例において、前記時間間隔は、S1心音を示す第1基準フィーチャと、S2心音を示す第2基準フィーチャとの間において測定される。リスク回路720は、S1心音とS2心音との間で測定された複数の時間間隔の中心傾向測定値を用いて、かつ呼吸数の中心傾向測定値及びポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値の少なくとも一方を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0051】
センサーデータの他のグループ化を用いることができる。例えば、感知した心臓活動信号の2つの基準フィーチャ間において測定された時間間隔は、ポストS2心音エネルギー及び呼吸数の中心傾向測定値のうちの1つ以上と組み合わせて用いられ得る。第1の生理学的センサー回路705は、心音センサー回路又は呼吸センサー回路の少なくとも一方を含み得る。装置700は、心臓信号センサー回路を含む第2生理学的センサー回路を備えてもよい。信号処理回路715は、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔
を測定し、複数の心臓活動信号を用いて、複数の前記時間間隔の測定値を求める。信号処理回路715は、複数の前記時間間隔の測定値を用いて、中心傾向時間間隔を求める。信号処理回路715はまた、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値の少なくとも一方を生成する。リスク回路720は、前記中心傾向時間間隔と、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値のうちの少なくとも一方とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0052】
いくつかの例において、前記心臓活動信号中の基準フィーチャはR波であり、前記心臓活動信号における時間間隔は第1R波から第2R波までの時間間隔を含む。リスク回路720は、測定されたR波−R波時間間隔の中心傾向と、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値の少なくとも一方とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0053】
別のセンサーデータのグループ化において、感知した心臓活動信号の少なくとも1つの基準フィーチャと感知した心音信号の少なくとも1つの基準フィーチャとの間で測定される時間間隔を、ポストS2心音エネルギー及び呼吸数の中心傾向測定値のうちの1つ以上と組み合わせて用いることができる。第1の生理学的センサー回路705は心音センサー回路を含むことができ、かつ装置700は呼吸センサー回路を含む第2生理学的センサー回路と、心臓信号センサー回路を含む第3生理学的センサー回路とを備える。
【0054】
信号処理回路715は、心臓活動信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間における時間間隔を測定し、複数の心臓活動信号及び心音信号を用いて、複数の前記時間間隔の測定値を求める。信号処理回路705は、複数の時間間隔測定値を用いて、中心傾向時間間隔を測定し、複数の心音信号から得られた複数のポストS2心音エネルギーを用いてポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値、又は複数の呼吸信号から得られた複数の呼吸数測定値を用いて呼吸数の中心傾向測定値のうちの少なくとも一方を求める。リスク回路720は、前記中心傾向時間間隔と、前記中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値のうちの少なくとも一方とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0055】
心臓活動信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔は、i)R波とS1心音との間の時間間隔、ii)Q波とS1心音との間の時間間隔、iii)R波と大動脈弁の開放(Ao)を表す基準との間の時間間隔、iv)Q波とAoを表す基準との間の時間間隔、又はv)Aoを表す基準フィーチャと、大動脈弁の閉鎖(Ac)を表す基準フィーチャとの間の時間間隔のうちの少なくとも1つを含み得る。
【0056】
時間間隔の比を用いることができる。信号処理回路715は、前記時間間隔のうちの2つの中心傾向を求め、それらの中心傾向測定値の比を求め得る。
別のセンサーデータのグループ化では、急性心不全のリスクを評価するために、ポストS2心音エネルギーの大きさ、呼吸数の大きさ、又は時間間隔の大きさのうちの少なくとも1つと組み合わせて、対象者中に存在するバイオマーカーの濃度の大きさが用いられ得る。第1の生理学的センサー回路705は、心音センサー回路、呼吸センサー回路又は心臓信号センサー回路のうちの少なくとも1つを含む。装置700は、バイオマーカーセンサー回路を含む第2生理学的センサー回路を備える。
【0057】
信号処理回路715は、複数のバイオマーカー信号を用いて、対象者におけるバイオマーカーの濃度の複数の表示を求め、そのバイオマーカーの濃度の複数の表示を用いて、バイオマーカー濃度の表示の中心傾向を生成する。信号処理回路715はまた、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値、中心傾向呼吸数測定値、心音信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間
隔の中心傾向測定値、又は心臓信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔の中心傾向測定値のうちの少なくとも1つも生成する。
【0058】
リスク回路720は、前記バイオマーカー濃度の表示の中心傾向と、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値、中心傾向呼吸数測定値、心音信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、又は心臓信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔の中心傾向測定値のうちの少なくとも1つとを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。
【0059】
いくつかの例によれば、心不全イベントのリスクの評価において、心不全履歴データを用いることができる。リスク回路720は、求めた中心傾向測定値(例えばポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値)を用いて、かつ対象者の心不全入院の履歴データを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化する。いくつかの例において、急性心不全のリスクを示す基準は、求めた中心傾向測定値に対する第1リスク検知閾値を含み得る。リスク回路720は、対象者についての生理学的データ及び心不全入院の履歴データの一方又は双方に従って第1リスク検知閾値を調整することができる。前記履歴データは、制御回路710に一体化されているか、又は制御回路710に接続されたメモリ内に格納されていてもよいし、又は前記履歴データは別体の装置に格納されていてもよい。
【0060】
図9は、S3エネルギー及び心不全入院の履歴を用いて求めたリスク指標の例を示している。心不全入院は、患者が、病院内で、又は外来患者として、心不全に対する治療を受けたかどうかを表している。いくつかの例において、患者が最近6か月間に少なくとも1回の治療を受けたか、又は最近12か月間に少なくとも2回の治療を受けたならば、心不全入院は正又は真となり得る。前記図面は、低S3エネルギーの大きさを有し、かつその履歴に心不全入院がない患者に対する無症候患者の割合のグラフ905、低S3エネルギーの大きさを有し、その履歴に心不全入院がある患者に対する無症候患者の割合のグラフ910、高S3エネルギーの大きさを有し、かつその履歴に心不全入院がない患者に対する無症候患者の割合のグラフ915、及び高S3エネルギーの大きさを有し、かつその履歴に心不全入院がある患者に対する無症候患者の割合のグラフ920を示している。低S3エネルギーを有し、かつ心不全入院履歴がない患者は、低リスク群に配され、高S3エネルギーを有し、かつ心不全入院履歴がある患者は高リスク群に配され得る。残りの患者は、中リスク群に配されて、生じた反応の3つのレベルを形成し得るか、又は他の患者は低リスク群に配されてもよい。対象者履歴が心不全入院のいくつかのエピソードを有する場合には、リスク回路720は、評価の感度を増大させるように、1つ以上のリスク検知閾値を調整し得る。同様に、対象者履歴が心不全入院の少数のエピソードを有するか、又はそのようなエピソードを含まない場合には、リスク回路720は、評価の感度を低下させるように、1つ以上のリスク検知閾値を調整し得る。
【0061】
他の例としては、心不全入院履歴、並びに、呼吸数の中心傾向測定値及び心不全入院履歴、バイオマーカー濃度の中心傾向測定値及び心不全入院履歴、1つ以上の生理学的信号の基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値のうちの少なくとも1つを用いて、又はポストS2心音エネルギー、呼吸数、バイオマーカー濃度及び時間間隔の任意の組み合わせを用いて、リスクを評価することが挙げられる。
【0062】
これらのいくつかの装置及び方法の例は、対象者の生理学的イベントの監視が、その対象者が将来に心不全の悪化を経験するリスクを予測するのに有用であり得ることを示している。これは、患者の心不全を監視及び治療するための医療資源の効率的な配分を可能にする。
【0063】
附記及び実施例
実施例1は、少なくとも、対象者の心臓血管機能を表す第1の生理学的信号を生成するように構成された第1の生理学的センサー回路と、その第1の生理学的センサー回路に通信可能に接続された制御回路とを備える主題(装置、デバイス又はシステムなど)を含むか、又は使用することができる。前記制御回路は信号処理回路とリスク回路とを含む。前記信号処理回路は、第1の生理学的センサー信号を用いて第1の生理学的測定値を求め、第1所定期間にわたって生成される複数の第1の生理学的信号を用いて複数の第1の生理学的測定値を求め、複数の生理学的測定値の中心傾向測定値を求めるように構成されている。前記リスク回路は、求めた中心傾向測定値を用いて、対象者に対する急性心不全(WHF)のリスクを定量化するように構成されており、前記リスクの定量は、求めた中心傾向測定値を、急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準と比較することを含む。前記制御回路は、前記中心傾向測定値が前記急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準を満たす場合に警告を生成するように構成されている。
【0064】
実施例2は、第1の生理学的信号タイプを生成するように構成された第1の生理学的センサー回路と、複数の心周期について得られた第1の生理学的センサー信号タイプの複数の信号を用いて第1の中心傾向信号を生成し、その第1の中心傾向信号を用いて第1の生理学的測定値を求めるように任意で構成された信号処理回路とを備え得るか、又はそれらを備えるように任意で実施例1の主題と組み合わせられ得る。
【0065】
実施例3は、複数日を含む第1所定期間を含み得るか、又はそれを含むように任意で実施例1及び実施例2のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と組み合わせられ得る。
実施例4は、対象者の心臓の機械的活動を表す心音信号を生成するように構成された心音センサー回路を含む生理学的センサー回路を備え得るか、又はそれを備えるように任意で実施例1乃至3のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と組み合わせられ得る。前記信号処理回路は、任意で、前記心音信号を用いてポストS2心音エネルギーの測定値と、複数の心音信号を用いて複数のポストS2心音エネルギーの測定値とを求めて、ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値を求めるように構成され得る。前記リスク回路は、任意で、前記ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成され得る。
【0066】
実施例5は、対象者の呼吸を表す呼吸信号を生成するように構成された呼吸センサー回路を含む生理学的センサー回路を備え得るか、又はそれを備えるように任意で実施例4の主題と組み合わせられ得る。前記信号処理回路は、任意で、前記呼吸信号を用いて呼吸数の測定値と、複数の呼吸信号を用いて複数の呼吸数の測定値とを求めて、呼吸数の中心傾向測定値を求めるように構成され得る。前記リスク回路は、任意で、前記呼吸数の中心傾向測定値とポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成され得る。
【0067】
実施例6は、前記複数の呼吸数の測定値を用いて、呼吸数の変動を求めるように構成された信号処理回路と、前記呼吸数の変動とポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成されたリスク回路とを備え得るか、又はそれらを備えるように実施例5の主題と任意で組み合わせられ得る。
【0068】
実施例7は、前記心音信号を用いてS3心音エネルギーの測定値と、複数の心音信号を用いてS3心音エネルギーの複数の測定値とを求めて、S3心音エネルギーの中心傾向測定値を求めるように構成された信号処理回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例4乃至6のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。前記リスク回路は、任意で、S3心音エネルギーの中心傾向測定値を用いて、対象者に対する
急性心不全のリスクを定量化するように構成され得る。
【0069】
実施例8は、対象者の心臓の機械的活動を表す心音信号を生成するように構成された心音センサー回路を含む第1の生理学的センサー回路と、対象者の呼吸を表す呼吸信号を生成するように構成された呼吸センサー回路を含む第2生理学的センサー回路と、対象者の電気的な心臓活動を表す心臓活動信号を生成するように構成された心臓信号センサー回路を含む第3生理学的センサー回路とを備え得るか、又はそれらを備えるように任意で実施例1乃至3のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と組み合わせられ得る。前記信号処理回路は、任意で、複数の心音信号を用いて複数のポストS2心音エネルギーの測定値、又は複数の呼吸信号を用いて複数の呼吸数の測定値のうちの少なくとも一方を求め、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値の少なくとも一方を生成し、心臓活動信号中の少なくとも1つの基準フィーチャと、心音信号中の少なくとも1つの基準フィーチャとの間の1つ以上の時間間隔を測定し、複数の心臓活動信号及び心音信号を用いて、複数の前記時間間隔の測定値を求め、前記時間間隔の複数の測定値を用いて、中心傾向時間間隔又は前記時間間隔の比の中心傾向の少なくとも一方を求めるように構成され得る。前記リスク回路は、任意で、中心傾向時間間隔と、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値のうちの少なくとも一方とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成され得る。
【0070】
実施例9は、R波とS1心音との間の時間間隔、Q波とS1心音との間の時間間隔、R波とR波との間の時間間隔、Q波とQ波との間の時間間隔、S1心音とS2心音の間の時間間隔、R波とS2心音との間の時間間隔、Q波とS2心音との間の時間間隔、R波と大動脈弁の開放(Ao)を表す基準との間の時間間隔、Q波とAoを表す基準との間の時間間隔、又はAoを表す基準フィーチャと大動脈弁(Ac)の閉鎖を表す基準フィーチャと間の時間間隔のうちの少なくとも1つを含み得る、心臓活動信号中の少なくとも1つの基準フィーチャと心音信号中の少なくとも1つの基準フィーチャとの間において測定される時間間隔を含み得るか、又はそれを含むように実施例8の主題と任意で組み合わせられ得る。
【0071】
実施例10は、対象者の心臓の室の機械的作動を表す心音信号を生成するように構成された心音センサー回路、対象者の呼吸を表す呼吸信号を生成するように構成された呼吸センサー回路、又は対象者の電気的な心臓活動を表す心臓信号を生成するように構成された心臓信号センサー回路のうちの少なくとも1つを含む第1の生理学的センサー回路と、対象者におけるバイオマーカーの濃度を表すバイオマーカー信号を生成するように構成されたバイオマーカーセンサー回路を含む第2生理学的センサー回路とを備え得るか、又はそれらを備えるように実施例1乃至3のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。前記信号処理回路は、任意で、複数の心音信号を用いて複数のポストS2心音エネルギーの測定値、複数の呼吸信号を用いて複数の呼吸数の測定値、心音信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の複数の測定値、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の複数の測定値、又は心臓信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔の複数の測定値のうちの少なくとも1つを求めるように構成され得る。前記信号処理回路は、任意で、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値、中心傾向呼吸数測定値、心音信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、又は心臓信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔の中心傾向測定値のうちの少なくとも1つを生成するように構成され得る。前記信号処理回路は、任意で、複数のバイオマーカー信号を用いて、対象者のバイオマーカーの濃度の複数の表示を求め、そのバイオマーカーの濃度の複数の表示を用いて、バイオマーカー濃度の表示の中心傾向を生成するように構成され得る。前記リスク回路は、任意で、前記バイオマーカー濃度の表示の中心傾向と、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値、中心傾向呼吸数測定
値、心音信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、心臓活動信号中の2つの基準フィーチャ間の時間間隔の中心傾向測定値、又は心臓信号中の基準フィーチャと心音信号中の基準フィーチャとの間の時間間隔の中心傾向測定値のうちの少なくとも1つとを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成され得る。
【0072】
実施例11は、対象者中のB型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)の濃度、又は対象者のNT−Pro−BNPの濃度のうちの少なくとも一方を表すバイオマーカー信号を生成するように構成されたバイオマーカーセンサー回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例10の主題と任意で組み合わせられ得る。
【0073】
実施例12は、求めた中心傾向測定値を用い、かつ対象者についての心不全入院の履歴データを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化するように構成されたリスク回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例1乃至11のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。
【0074】
実施例13は、求めた中心傾向測定値を第1リスク検知閾値と比較し、求めた中心傾向測定値が所定期間内に第1リスク検知閾値を満たす頻度に従って、急性心不全に対するリスク指標を求めるように構成されたリスク回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例1乃至12のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得、前記制御回路はそのリスク指標に従って警告を生成するように構成されている。
【0075】
実施例14は、求めた中心傾向測定値に対する第1リスク検知閾値を含む急性心不全のリスクを示す基準と、対象者についての生理学的データ及び心不全入院の履歴データの一方又は双方に従って第1リスク検知閾値を調整するように任意で構成されたリスク回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例1乃至13のうちの1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。
【0076】
実施例15は、対象者に対する急性心不全のリスクを回帰的に定量し、急性心不全のリスクを示すための1つ以上の基準を回帰的に調整するように構成されたリスク回路を備え得るか、又はそれを備えるように実施例1乃至14の1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。
【0077】
実施例16は、携行型医療装置の第1の生理学的センサーを用いて、心臓血管機能を表す第1の生理学的センサー信号を生成することと、第1の生理学的センサー信号を用いて、第1の生理学的測定値を求めることと、第1所定期間にわたって複数の第1の生理学的センサー信号を生成することと、複数の第1の生理学的センサー信号を用いて、複数の生理学的測定値を求めることと、前記複数の生理学的測定値の中心傾向測定値を求めることと、求めた中心傾向測定値を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化することとを含む主題(例えば、装置、行為を実施するための手段、又は機械によって実行されたときに、その機械に行為を実施させる指示を含む機械可読媒体を操作する方法など)を含み得るか、又はそれを含むように実施例1乃至15の1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。急性心不全のリスクの定量は、任意で、求めた中心傾向測定値を、急性心不全のリスクを示す1つ以上の基準と比較することを含み得る。前記主題は、任意で、求めた中心傾向測定値が急性心不全のリスクを示す基準を満たす場合に、装置によって警告を生成することを含み得る。
【0078】
実施例17は、複数の心音信号を生成することと、前記複数の心音信号を用いて複数のポストS2心音エネルギーの測定値を求めることと、ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値を求めることと、前記ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値を用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化することとを含み得るか、又はそれらを含むよ
うに実施例16の主題と任意で組み合わせられ得る。
【0079】
実施例18は、呼吸センサー回路を用いて複数の呼吸信号を生成することと、前記複数の呼吸信号を用いて複数の呼吸数の測定値を求めることと、前記複数の呼吸数の測定値を用いて、呼吸数の中心傾向測定値を求めることと、前記ポストS2心音エネルギーの中心傾向測定値と、呼吸数の中心傾向測定値とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化することとを含み得るか、又はそれらを含むように実施例16乃至17の1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。
【0080】
実施例19は、複数の心音信号又は複数の呼吸信号のうちの少なくとも一方を生成することと、心音信号は対象者の心臓の機械的活動を表しており、呼吸信号は対象者の呼吸を表すことと、複数のポストS2心音エネルギーの測定値又は複数の呼吸数の測定値のうちの少なくとも一方を求めることと、中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値の少なくとも一方を求めることを含む、中心傾向測定値を求めることと、複数の心臓活動信号を生成することと、心臓活動信号は対象者の電気的な心臓活動を表すことと、心音信号中の少なくとも1つの基準フィーチャと心臓活動信号中の少なくとも1つの基準フィーチャとの間の時間間隔の複数の測定値を求めることと、心音信号中の少なくとも1つの基準フィーチャと心臓活動信号中の少なくとも1つの基準フィーチャとの間の時間間隔の中心傾向測定値を求めることとを含み得るか、又はそれらを含むように実施例16の主題と任意で組み合わせられ得る。前記主題は任意で、前記時間間隔の中心傾向測定値と、前記中心傾向ポストS2心音エネルギー測定値又は中心傾向呼吸数測定値のうちの少なくとも一方とを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化することを含む。
【0081】
実施例20は、対象者についての心不全入院の履歴データを格納することと、求めた中心傾向測定値と対象者についての心不全入院の履歴データとを用いて、対象者に対する急性心不全のリスクを定量化することとを含み得るか、又は含むために実施例16乃至19の1つ又は任意の組み合わせの主題と任意で組み合わせられ得る。
【0082】
実施例21は、実施例1乃至20の機能のいずれか1つ以上を実行するための手段か、又は機械によって実行されたときに、前記機械に実施例1乃至20の機能のいずれか1つ以上を実行させる指示を含む機械可読媒体を備え得る主題を含むか、又はそれを含むように実施例1乃至20のいずれか1つ以上の任意の部分又は任意の部分の組み合わせと任意で組み合わせられ得る。
【0083】
上記の詳細な説明は、該詳細な説明の一部を形成する添付図面への言及を含む。前記図面は、例証として、本発明が実施され得る特定の実施形態を示している。これらの実施形態はまた本願では「実施例」とも称される。本文書と、参照により援用された文書との間で用法が一致しない場合には、援用された参考文献における用法は、本文書のそれに対する補足であると考えられるべきであり、相容れない矛盾については本文書における用法が支配する。
【0084】
本文書において、用語「a」又は「an」は、特許文献において一般的であるように、「少なくとも1つ(at least one)」又は「1つ以上(one or more)」の任意の他の例又は用法とは無関係に、1つ又は2つ以上を含むように用いられる。この文書において、用語「又は」は、別段の指示がない限り、「A又はB」が、「AだがBではない」、「BだがAではない」、及び「A及びB」を含むように、非排他的論理和を示すために用いられる。添付する請求項において、用語「備える(including)」及び「前記〜において(in which)」は、「備える(comprising)」及び「前記〜において(wherein)」という各用語の平易な英語の同意義
として用いられる。また、以下の請求項において、用語「備える(including)」及び「備える(comprising)」は非制限的であり、すなわち、請求項においてそのような用語の後に列記されたものに加えて要素を含むシステム、装置、物品又はプロセスは、依然としてその請求項の範囲内にあると見なされる。さらに、以下の請求項において、用語「第1」、「第2」、及び「第3」などは、単に標識として用いられており、それらの対象に対して数的な要件を課するようには意図されない。
【0085】
本願に記載した方法の例は、少なくとも一部分において、機械によって実施されるか、又はコンピューターによって実施され得る。いくつかの例としては、上記の例に記載したような方法を行うために電子デバイスを構成するように作動可能な命令によってコード化されたコンピューター可読媒体又は機械可読媒体が挙げられる。そのような方法の実施は、マイクロコード、アセンブリ言語コード、高水準言語コードなどのようなコードを含み得る。そのようなコードは、様々な方法を行うためのコンピューター可読命令を含み得る。前記コードは、コンピュータプログラム製品の一部を形成し得る。さらに、前記コードは、実行の間に、又は他の時に、1つ以上の揮発性又は不揮発性のコンピューター可読媒体上に具体的に格納され得る。これらのコンピューター可読媒体としては、ハードディスク、リムーバル磁気ディスク、リムーバル光ディスク(例えばコンパクトディスク及びデジタルビデオディスク)、磁気カセット、メモリーカード又はメモリースティック、ランダムアクセスメモリー(RAM)、読出し専用メモリー(ROM)などを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。いくつかの例において、キャリア媒体は、前記方法を実施するコードを保持することができる。用語「キャリア媒体」はコードが伝送される搬送波を表わすために用いられ得る。
【0086】
上記の説明は、例示であり、限定的なものではないことが意図される。例えば、上述の例(又はそれらの1つ以上の態様)は互いに組み合わせて用いてもよい。上記の説明の検討により、当業者などによって、他の実施形態が用いられ得る。要約書は、読者が技術的な開示の性質を迅速に確認できるようにするために、米国特許法施行規則第1.72条(b)に準拠するために提供される。要約書は、特許請求の範囲又は意味を解釈又は限定するためには用いられないという理解で提出されている。また、上記の詳細な説明において、様々な特徴は開示を簡素化するためにグループ化され得る。これは、権利請求されていない開示された特徴が任意の請求項に対して必須であることを意図していると解釈されるべきでない。むしろ、本発明の主題は、特定の開示された実施形態のすべての特徴よりも少ない状態にあってもよい。したがって、以下の特許請求の範囲は、これにより詳細な説明に援用され、各請求項は別個の実施形態として自立している。本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲、並びに係る特許請求の範囲が権利を享受する均等物の全範囲を参照して決定されるべきである。