【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例および比較例により説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0080】
(実施例1)
まず、酵母および乳酸菌が棲みついたヒノキ樽に、以下に示す非加熱状態にある植物原材料125種と、粗糖とを充填した後、25℃(環境温度)の条件で15日間静置した。その後、ヒノキ樽から植物原材料を取り出し、樽内に残存している溶液を植物エキスとした。
【0081】
植物原材料は、リンゴ、パイナップル、ダイコン、ゴボウ、ニンジン、タマネギ、ジャガイモ、シイタケ、バナナ、レンコン、ニンニク、茶葉、キャベツ、ショウガ、しどけ、ホウレンソウ、ニラ、アスパラガス、こごみ、マイタケ、ミョウガ、緑豆モヤシ、ナガイモ、フキ、小松菜、ビワ、サクランボ、タラの芽、マンゴー、アボカド、ブドウ、エノキタケ、トマト、インゲン、メロン、イチゴ、グレープフルーツ、キウイフルーツ、わかめ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ、ナス、緑ピーマン、ミカン、甘夏、キンカン、いよかん、レモン、ユズ、カボス、キュウリ、赤パプリカ、黄色パプリカ、オレンジパプリカ、カブ、カボチャ、イチジク、パパイヤ、青パパイヤ、ヤマイモ、パセリ、ネギ、レタス、ザクロ、ラディッシュ、クレソン、高菜、白菜、つまみ菜、菜の花、ルッコラ、水菜、かつお菜、モモ、ナシ、スイカ、梅、エシャロット、オクラ、ゴーヤ、クマザサ、青ジソ、春菊、サラダ菜、グリーンリーフ、紫キャベツ、ブロッコリースプラウト、アルファルファスプラウト、サンチュ、クレススプラウト、サニーレタス、柿、ブルーベリー、ラズベリー、アシタバ、ビート、ミニトマト、ミツバ、チャービル、モロヘイヤ、ズッキーニ、サツマイモ、ブナシメジ、なめこ、マッシュルーム、ヒラタケ、ハナビラタケ、エリンギ、ラッキョウ、ウド、シシトウ、ワケギ、大豆モヤシ、モロッコインゲン、ユリ根、ヨモギ、サトイモ、トウガン、ウリ、黒ゴマ、ローズマリー、バジル、オレガノおよびセージの全125種をバランスよく使用した。
【0082】
次に、得られた植物エキスを上記ヒノキ樽とは異なるタンクへ移した後、該植物エキスを40℃(環境温度)の条件で2か月間静置することにより、第一の植物発酵液を調製した。なお、上述した植物エキスを2か月間静置している際には、該植物エキスの液温が、酵母及び乳酸菌による発酵に伴い生じた発酵熱による影響で、2〜3℃程度上昇することがあった。
【0083】
次いで、得られた第一の植物発酵液をステンレス製の容器に移し、上記第一の植物発酵液を撹拌しながら、25℃(環境温度)の条件で1週間保存し、第二の植物発酵液を調製した。
【0084】
次いで、ステンレス製の容器中の第二の植物発酵液を、室温(環境温度)が30℃となるように制御された部屋内で1か月間保存した。かかる第二の植物発酵液の保存期間中においては、毎日、午前9時半、午後2時、午後6時に、ステンレス製の容器内に保管されている該第二の植物発酵液を約3分間撹拌した。こうすることで、第二の植物発酵液中に含まれている水分を自然蒸発させつつ、該第二の植物発酵液を熟成させることに成功した。
【0085】
次に、上述した方法で濃縮された第二の植物発酵液と、プルーンエキスと、多孔質体である難消化性デキストリン粉末とを混合することにより、実施例1の植物発酵ペーストを得た。
【0086】
その結果、得られた実施例1の植物発酵ペーストは、水を要することなく摂取できる程度にペースト化されたものであることが確認された。また、実施例1の植物発酵ペーストは、実用上問題ないレベルにペースト化されたものである、使用した植物原材料が呈する自然な甘みや旨みの強さという点において、嗜好性に優れたものであることが確認された。
また、実施例1の植物発酵ペーストは、植物原材料が発現する抗酸化力に着目し、適切に選択された合計126種の植物原材料を用いて作製したものである。そして、一般に、植物原材料に由来する抗酸化成分は、熱などによる影響を受けにくい成分であることを踏まえると、実施例1の植物発酵ペーストは、合計126種の植物原材料に由来する抗酸化成分をバランスよく含んだものであるといえる。そのため、実施例1の植物発酵ペーストは、従来品と比べて、結果として、抗酸化力の高い植物発酵食品であると考えられる。
【0087】
また、実施例1の植物発酵ペースト中の各種栄養成分含有量は、以下の通りであった。
・マグネシウム:19.2mg/100g(ICP発光分析法により定量)
・鉄:0.51mg/100g(ICP発光分析法により定量)
・カリウム:323mg/100g(ICP発光分析法により定量)
・カルシウム:17.9mg/100g(原子吸光光度法により定量)
【0088】
(比較例1)
ステンレス製の容器中の第二の植物発酵液を、室温(環境温度)が30℃となるように制御された部屋内で1か月間保存することなく、該第二の植物発酵液と、プルーンエキスと、多孔質体である難消化性デキストリン粉末とを混合した点以外は、実施例と同様の方法で、比較例1の植物発酵ペーストを作製した。かかる比較例1の植物発酵ペーストは、水分量が多いために、十分にペースト化されていないことが確認された。そのため、比較例1の植物発酵ペーストは、ペースト品として市場に流通させるには実用上問題があることが確認された。また、比較例1の植物発酵ペーストは、上述したように、水分量が多いため、呈味の嗜好性という点においても改善の余地があるものであった。
【0089】
(比較例2)
第一の植物発酵液を調製した温度と同一温度、すなわち、40℃(環境温度)の温度条件で第二の植物発酵液を調製した点以外は、実施例と同様の方法で、比較例2の植物発酵ペーストを作製した。かかる比較例2の植物発酵ペーストは、使用した植物原材料本来の呈味とは異なる雑味が感じられるものであった。そのため、比較例2の植物発酵ペーストは、呈味の嗜好性という点において、改善の余地を有するものであった。
【0090】
(比較例3)
非加熱状態にある植物原材料125種と、粗糖とを充填したヒノキ樽を40℃(環境温度)で15日間静置することにより植物エキスを調製した点、すなわち、25℃(環境温度)ではなく、第一の植物発酵液を調製した温度と同一の40℃(環境温度)で植物エキスを調製した点以外は、実施例と同様の方法で、比較例3の植物発酵ペーストを作製した。かかる比較例3の植物発酵ペーストは、使用した植物原材料本来の呈味とは異なる雑味が感じられるものであった。そのため、比較例3の植物発酵ペーストは、呈味の嗜好性という点において、改善の余地を有するものであった。
【0091】
(比較例4)
得られた第一の植物発酵液をステンレス製の容器に移すことなく、上記第一の植物発酵液を撹拌しながら、25℃(環境温度)の条件で1週間保存し、第二の植物発酵液を調製した点以外は、実施例と同様の方法で、比較例4の植物発酵ペーストを作製した。かかる比較例4の植物発酵ペーストは、使用した植物原材料本来の呈味とは異なる雑味が感じられるものであった。そのため、比較例4の植物発酵ペーストは、呈味の嗜好性という点において、改善の余地を有するものであった。
【0092】
(参考例)
ステンレス製の容器中の第二の植物発酵液を、室温(環境温度)が30℃となるように制御された部屋内で1か月間保存することなく、該第二の植物発酵液を多孔質体である難消化性デキストリン粉末に吸着させた点以外は、実施例と同様の方法で、ペースト状ではなく、粉末状である参考例の植物発酵粉末を作製した。かかる参考例の植物発酵粉末中の各種栄養成分含有量は、以下の通りであった。
・マグネシウム:1.7mg/100g(ICP発光分析法により定量)
・鉄:未検出(ICP発光分析法により定量、定量下限値:0.1mg/mg)
・カリウム:5.7mg/100g(ICP発光分析法により定量)
・カルシウム:9.3mg/100g(原子吸光光度法により定量)
【0093】
実施例1の植物発酵ペーストは、第二の植物発酵液の水分含有量を低減させることなく用いて作製した参考例の植物発酵粉末と比べて、鉄分や、マグネシウム、カリウムおよびカルシウムなどのミネラル分に富んだものであった。
【0094】
(実施例2)
本実施例では、実施例1の植物発酵ペーストの抗酸化能を検証するとともに、表皮細胞を用いて酸化ストレスに対する効果を調査した。また、活性酸素を多量に産生するミトコンドリアに対しても植物発酵ペーストが及ぼす影響を調査した。
【0095】
(I.材料と方法)
(1.細胞毒性試験)
細胞毒性試験では次に記述した細胞および試薬を用いた。
正常ヒト表皮細胞[クラボウ、NHEK(AD)、Cat.No.KK−4109]、ラット褐色脂肪細胞(コスモバイオ、褐色脂肪細胞培養キットF−8)、骨格筋細胞(L6)(ATCC、Cat.No.CRL−1458)、ヒト単球系細胞THP−1(ATCC、ATCC TIB−202)、HuMedia−KG2(クラボウ、KK−2150S)、褐色脂肪細胞培養キット付属専用培地(分化誘導培地、細胞維持培地、増殖用培地)、MEM培地(nacalai tesque,Cat.No.21442−25)、FETAL BOVINE SERUM(FBS)(Cell Culture Bioscience, Cat.No.171012)、RPMI−1640培地(SIGMA,R8758)、FBS(Invitrogen,Cat.No.10091−148)、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque,Cat.No.07553)。
【0096】
正常ヒト表皮細胞はHuMedia−KG2培地(クラボウ、KK−2150S)、ラット褐色脂肪細胞はキット付属専用培地(分化誘導培地、細胞維持培地、増殖用培地)、骨格筋細(L6)は10%FBSおよび1%抗生物質を含むMEM培地、マクロファージ前駆細胞(THP−1)は10%FBSおよび1%抗生物質を含むRPMI−1640培地にて、37℃、5%CO
2条件下で培養した。細胞の継代にはトリプシン/EDTA溶液を用いて細胞をフラスコから剥離し、試験培地でトリプシンを中和した後に遠心(200×g、10分)、で細胞を回収し、再び試験培地に細胞を懸濁し細胞懸濁液として使用した。以後、全ての試験において細胞の継代は上述の作業を行った。
【0097】
植物発酵ペーストを10%(100mg/mL)となるように各試験培地に溶解・撹拌した後、遠心分離(12000rpm、3分)にて不溶性物質を除去し、上清を濾過滅菌したものを実験に用いた。
【0098】
正常ヒト表皮細胞は1.0×10
4cells/well、ラット褐色脂肪細胞は1.0×10
4cells/well、骨格筋細胞(L6)は4.0×10
3cells/well、マクロファージ前駆細胞(THP−1)は7.5×10
4cells/wellとなるように96ウェルプレートに播種した。培養した翌日、各ウェルから培養上清を除去した後、調整した植物発酵ペーストを添加した各種培地に置換し、さらに24時間培養した。培養終了後、各ウェルから培養上清を除去し、100μLの生細胞数測定試薬SFを含む培地に交換し、30分後と90分後のウェル上清の吸光度(測定波長450nm、参照波長660nm)をプレートリーダー(Varioskan Flash,Thermo Scientific,型番5250040)を用いて測定し,両値から1時間当たりの吸光度変化量を算出し生細胞数とした。
【0099】
(2.抗酸化能試験)
抗酸化試験では次に記述した試薬を用いた。
SOD Assay Kit−WST (同仁化学研究所、Cat.No.S311)、OxiSelect Hydroxyl Radical Antioxidant Capacity(HORAC)、Activity assay(Cell Biolabs, Inc.,STA−346)、OxiSelect Catalase Activity Assay Kit、Colorimetric(Cell Biolabs,Inc.,STA−341)、2,2−Diphenyl−1−picrylhydrazyl(DPPH)(SIGMA,Cat.No.D9132−1G)、L−Ascorbic acid Phosphate Magnesium Salt n−Hydrate(Wako,Cat.No.013−19641)、Ethanol(99.5%)(Wako,Cat.No.057−00456)、Acetic acid(Wako.Cat.No.012−00245)、Sodium Acetate Trihydrate (Wako,Cat.No.198−01055)。
【0100】
各試験に用いた測定用緩衝液に植物発酵ペーストを溶解し、撹拌後に遠心分離した(12000rpm、3分)。遠心分離後に不溶性物質を除去し、上清を濾過滅菌して各試験に使用した。
【0101】
カタラーゼ様活性はOxiSelect Catalase Activity Assay Kit,Colorimetricを用いて測定した。96ウェルマイクロプレートの各ウェルに20μLの標準試料または測定用緩衝液で調整した植物発酵ペースト試料を添加し、さらに各ウェルに50μLのHydrogen Peroxide Working Solution(12mM)を添加した後、緩やかに撹拌し、1分間反応させた。反応後、各ウェルに50μLのCatalase Quencherを添加し、緩やかに撹拌させ反応を停止させた。反応停止後の溶液を新たな別のプレートに5μLずつ移した。各ウェルに250μLのChromogenic Working Solutionを添加し、60分間緩やかに撹拌し、プレートリーダー(Assay Plate 96 well Flat Bottom,Costar,Cat.No.3370)で520nmの吸光度を測定した。
【0102】
抗ラジカル試験では、植物発酵ペーストを0.1M酢酸緩衝液(pH5.5)に溶解し、調整した。調整した植物発酵ペースト試料2mLとエタノール2mLを混合して撹拌した後、5mM DPPHエタノール溶液1mLを加えて、30分間室温に静置した。反応後の溶液を517nmの吸光度で測定した(Precision microplate reader,Molecular Devices)。
【0103】
ヒドロキシルラジカル消去能はOxiSelect Hydroxyl Radical Antioxidant Capacity(HORAC) Activity assayを用いて測定した。標準曲線は、抗ヒドロキシラジカル剤として知られるGallic Acidを用いて算出した。キットに付属される5mM Gallic acidと測定希釈溶液を用いて900、800、700、600、500、400、300、200、100μM溶液を作製した。植物発酵ペーストはキットに付属される測定希釈溶液を用いて調整した。作製したGallic acid溶液または植物発酵ペースト試料20μLを96ウェルプレートの各ウェルに添加し、さらに各ウェルに140μLの1 X Fluorescein Solutionを加え、室温で30分間反応させた。反応後、20μLの1 X Hydroxyl Radical Inhibitorを添加した直後に20μLのFenton Reagentを添加し、15秒間撹拌した。マイクロプレートリーダー(Varioskan Flash,Thermo Scientific,型番5250040)にて各ウェルの蛍光(励起波長480nm、蛍光波長530nm)を0〜70分間、3分ごとに測定した。測定データからGallic acid溶液または植物発酵ペーストの上清液のAUC(Area under the curve)およびNet AUC値を算出し、HORAC値を求めた。
【0104】
Superoxide dismutase(SOD)様活性は、SOD Assay Kit−WSTを用いて測定した。96ウェルマイクロプレートの各ウェルに調整した植物発酵ペースト溶液(Sample,blank2)または純水(blank1, blank3)を20μL添加した。各ウェルにWST Working solutionを200μL添加し、プレートミキサーを用いて撹拌した。撹拌後、Blank2とBlank3のウェルにDilution bufferを20μL添加した。植物発酵ペースト溶液を添加したウェルとBlank1のウェルにEnzyme working solutionを20μL添加する。37℃で20分間インキュベートする。プレートリーダー(Assay Plate 96 well Flat Bottom,Costar,Cat.No.3370)で450nmの吸光度を測定した。SOD様活性は次の式から求めた。
SOD様活性値=[(blank1−blank3)−(sample−blank2)]/(blank1−blank3)×100
【0105】
(3.褐色脂肪細胞および骨格筋細胞におけるミトコンドリア賦活試験)
(3.1. 細胞および試薬)
ミトコンドリア賦活試験では次に記述した細胞および試薬を用いた。
ラット褐色脂肪細胞 (コスモバイオ、キットF−8)、骨格筋細胞(L6)(ATCC,Cat.No.CRL−1458)、褐色脂肪細胞培養キット付属専用培地(分化誘導培地、細胞維持培地、増殖用培地)、MEM培地(nacalai tesque, Cat.No. 21442−25)、FETAL BOVINE SERUM(FBS)(Cell Culture Bioscience,Cat.No.171012)、Penicillin−streptomycin solution(nacalai tesque,Cat.No.26253−84)、0.25% trypsin−EDTA solution(nacalai tesque,Cat.No.32777−44)、Albumin,from Bovine Serum, Fatty Acid Free (Wako,Cat.No.011−15144)、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque,Cat.No. 07553−44)、Dulbecco's PBS (日水製薬株式会社、Code No.05913)、MitoTracker Mitochondrion−Selective Probes(Invitrogen,M7512)、Thiazolyl Blue Tetrazolium Bromide(SIGMA,M5655−1G)、Sodium Dodecyl sulfate(SDS)(Wako,Cat.No.191−07145)、2mol/L Hydrochloric acid(SIGMA, Cat.No.13−1690)、Hoechist 33342 solution(DOJINDO,Cat.No.346−07951)、Resveratrol(SIGMA,Cat.No.R5010−100MG)。
【0106】
未分化の褐色脂肪細胞を増殖用培地で調整後、96ウェルプレート(蛍光観察用ブラックプレート)に細胞が1.0×10
4cells/wellとなるように播種した。24時間培養後に培養上清を分化誘導用培地に置換し、さらに48時間培養した。その後、脂肪細胞維持培地に置換後、3日間培養し、分化した細胞を褐色脂肪細胞として使用した。植物発酵ペースト(終濃度1%)を含む培地に置換後3日間および7日間さらに培養した。培養終了後に培養上清を除去した後、PBSで2回細胞を洗浄した。洗浄後、1000倍希釈したHoechist 33342 solution(核染色用試薬)と2000倍希釈したMitoTracker Mitochondrion−Selective Probes(ミトコンドリア染色試薬)を含む脂肪細胞維持培地を添加し、30分間、37℃にて培養した。その後、培養上清を除去し、PBSにて2回洗浄した。洗浄後、新たなPBSを添加し蛍光顕微鏡下にて核染色(生細胞)およびミトコンドリア染色画像を撮影し、その後、同プレートを蛍光プレートリーダーにて各蛍光強度を測定した(ヘキスト:励起波長 356nm、蛍光波長 465nm、MitoTracker:励起波長 579nm、蛍光波長 599nm)。蛍光強度測定後に各ウェルの反応液を除去し、細胞をPBSで1回洗浄した後、0.5mg/mL MTTを含むPBS 100μLを添加し、5時間、37℃にて反応させた。反応後に各ウェルに10%SDSを含む0.01M HCl 100 μLを添加し、室温にて24時間反応させ、MTTのホルマゾンを溶解させた。その後、プレートリーダーにて吸光度(測定波長 550nm、参照波長660nm)を測定した。
【0107】
骨格筋細胞(L6)を10%FBSおよび1%抗生物質を含むMEM培地で調整後、各ウェルに細胞が1.0×10
4cells/well(蛍光観察用ブラックプレート、96ウェルプレート)となるように播種し、2日間培養後に培養上清を2%FBSおよび1%抗生物質を含むMEM培地(筋管形成培地)に置換し、さらに5日間培養した。その後、植物発酵ペースト(終濃度0.1%)を含む筋管形成培地に置換し2、5、24、48時間培養した。培養終了後に培養上清を除去した後、生細胞数測定およびミトコンドリア染色、ミトコンドリア活性は褐色脂肪細胞試験と同手法にて測定した。
【0108】
(4.表皮細胞における酸化・紫外線ストレス試験)
酸化・紫外線ストレス試験では次に記述した細胞および試薬を用いた。
正常ヒト表皮細胞[クラボウ、NHEK(AD),Cat.No.KK−4109]、HuMedia−KG2(クラボウ、KK−2150S)、Hyaluronic acid sodium salt from Streptococcus equi(SIGMA,53747−1G)、2.5g/l−Trypsin/1mmol/l−EDTA Solution(nacalai tesque、Cat.No.32777−44)、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque,Cat. No.07553−44)、L−Ascorbic acid phosphate magnesium salt n−hydrate(ビタミンC)(Wako,013−19641)、Hydrogen Peroxide(Wako,Cat.No.081−04215)。
【0109】
表皮細胞は試験培地を用いて培養フラスコにて、必要細胞数に達するまで37℃、5% CO
2条件下で前培養した。
植物発酵ペーストを1%(10mg/mL)となるように表皮細胞専用培地に溶解し、十分撹拌した後に濾過滅菌し、使用した。なお、各試験区の陽性対照には0.1mMアスコルビン酸を用いた。
【0110】
過酸化水素による酸化ストレス回避試験では、96ウェルプレートの各ウェルに細胞を2.0×10
4cells/0.1mLの濃度で播種し、培養した。植物発酵ペースト処理および過酸化水素処理は以下の通りに実施した。植物発酵ペーストを含む培地に置換後、24時間培養、その後、植物発酵ペーストと0.25mM過酸化水素を含む培地に置換、5時間培養、その後、培養上清を、植物発酵ペーストを含む培地に置換後、24時間培養し生細胞数を生細胞数測定試薬SFにて測定した。
【0111】
UV−Bによる酸化ストレス回避試験では、96ウェルプレートの各ウェルに細胞を2.0×10
4cells/wellの濃度で播種し、培養した。翌日100%コンフルエントな状態で、UV−Bを照射(総光量84mJ/cm
2:試験時実測値:1500mW/cm
2、56秒照射)した。植物発酵ペースト処理および紫外線照射処理は以下の通りに実施した。新鮮な培地に置換後、24時間培養、その後、植物発酵ペーストを含む培地に置換し、同時に紫外線照射処理、さらに24時間培養し生細胞数を生細胞数測定試薬にて測定した。
【0112】
(5.成長因子発現解析試験)
成長因子発現解析試験では次に記述した細胞および試薬を用いた。
正常ヒト表皮細胞[クラボウ、NHEK(AD),Cat.No.KK−4109]、ヒト単球系細胞THP−1(ATCC社製、ATCC TIB−202)、HuMedia−KG2(クラボウ、KK−2150S)、RPMI−1640培地(SIGMA,R8758)、FBS(Invitrogen,Cat.No.10091−148)、Penicillin−streptmycin solution(nacalai tesque,Cat.No.26253−84)、生細胞数測定試薬SF(nacalai tesque,Cat.No.07553)、Phorbol 12−Myristate 13−Acetate(Wako,Cat.No.162−23591)、FastLane Cell cDNA for use in real−time RT−PCR(QIAGEN,Cat.No.215011)、SYBER Premix Ex Taq 5mL(Takara,RR041L)、Oligo nucleotides(primers)(FASMAC)。
【0113】
ヒト単球系細胞THP−1は、10%FBS、1%抗生物質添加RPMI−1640培地を用い、必要細胞数に達するまで37℃、5%CO
2条件下で培養した。マクロファージ分化誘導処理は次の通りに行った。ヒト単球系細胞THP−1を48ウェルプレートの各ウェルに3.0×10
5cells/wellとなるように播種し、播種と同時に終濃度0.5μg/mLとなるようにPhorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA)を添加後、4日間、37℃、5% CO
2条件下で培養した。マクロファージへと分化したことを確認するために、非特異的エステラーゼ染色を実施した。
【0114】
植物発酵ペーストを1%(w/v)の濃度となるようにTHP−1培養培地に添加、10分間撹拌後に遠心分離(12,000rpm、5分)により不溶性成分(沈殿)を除去する。その後、上清を滅菌フィルターにて濾過滅菌し試験に使用した。
【0115】
正常ヒト表皮細胞を48ウェルプレートの各ウェルに5.0×10
4cells/wellとなるように播種し、37℃、5%CO
2条件下で1日間培養後、1%植物発酵ペーストを含む試験培地に交換した。1%植物発酵ペースト添加後、2、10、24時間培養した。ヒト単球系細胞THP−1を48ウェルプレートの各ウェルに3.0×10
5cells/wellとなるように播種した。同時に終濃度0.5μg/mLとなるようにPhorbol 12−Myristate 13−Acetate(PMA)を添加し、4日間、37℃、5%CO
2条件下で培養した。その後、濃度を振り分けた植物発酵ペーストを含む培地に交換し、2時間、5時間、24時間培養した。
【0116】
各細胞からトータルRNAを回収し、real−timePCR法により各種成長因子遺伝子発現解析を実施した。RNA抽出およびcDNA化はFastLane Cell cDNA for use in real−time RT−PCR を用い、付属のマニュアルに従い行った。線維芽細胞成長因子(FGF)−1およびFGF−2、表皮成長因子(EGF)のプライマー配列を表1に示した。反応条件は、はじめに熱変性95°C、30秒を行い、その後熱変性95°C、10秒およびアニーリング/伸張60°C、30秒のサイクルを60回行った。
【0117】
【表1】
【0118】
(6.統計解析)
各値にて、平均値および標準誤差を算出した。また、比較試験区間では有意差検定を実施した。検定はStudent t検定として行いP<0.05を有意差ありと判断した。
【0119】
(II.結果)
(1.細胞毒性試験)
各細胞種の植物発酵ペースト存在下での生細胞数の結果を
図1に示す。正常ヒト表皮細胞および褐色脂肪細胞、マクロファージは10%濃度において細胞毒性を示した。骨格筋細胞1%以上の濃度において毒性を示した。なお図中における「植物発酵ペーストAO」は、実施例1で作製した植物発酵ペーストを指す。
【0120】
(2.抗酸化能試験)
抗過酸化水素試験(カタラーゼ様活性試験)では、事前に濃度検討試験を実施し植物発酵ペーストの最高濃度を10%とした。その結果、10%濃度において約14%の過酸化水素阻害を示した。陽性対照であるカタラーゼは25U/mLの濃度において約50%の過酸化水素阻害を示した(
図2A)。
【0121】
抗ラジカル試験では、濃度予備検討試験により4%濃度を最高濃度として本試験を実施した。0.5%濃度以上において著しく高い(90%以上)ラジカル消去能を示した。これは陽性対照であるアスコルビン酸(ビタミンC)と比較しても高いラジカル消去能であった。植物発酵ペーストの50%阻害濃度(IC50)は0.15%であった。陽性対照であるアスコルビン酸は1.08mMを濃度換算すると0.019%であったことから、植物発酵ペーストはアスコルビン酸の約8分の1の抗ラジカル能であると考えられる(
図2B)。
【0122】
抗ヒドロキシラジカル試験(HORAC assay)では、予備検討試験の結果から植物発酵ペーストの最高濃度を1%とした。スタンダードであるGallic acidのラジカル消去をもとに標準曲線を作成し、植物発酵ペーストのヒドロキシラジカル能をGallic acidによる消去能として算出した結果(HORAC値)、47.3μMole GAE/gであった(
図2C)。
【0123】
抗スーパーオキシドラジカル試験では、予備検討試験の結果から本試験での植物発酵ペーストの最高濃度を0.83%とした。0.083%以上において高い抗酸化能を示し、植物発酵ペーストの50%阻害濃度(IC50)は0.018%であった(
図2D)。陽性対照であるアスコルビン酸は1.04 mMを濃度換算すると0.0183%であったことから、植物発酵ペーストはアスコルビン酸とほぼ同程度の抗酸化能を有すると考えられる。
【0124】
(3.褐色脂肪細胞および骨格筋細胞におけるミトコンドリア賦活試験)
褐色脂肪細胞では植物発酵ペーストの3日間処理において1%植物発酵ペースト処理でミトコンドリア量(MitoTracker染色測定)およびミトコンドリア活性(MTT測定)(いずれも生細胞数において補正した場合)に有意に増大していた(
図3A)。一方、陽性対照であるレスベラトロールは培養3日間において、いずれにおいても有意な増加は認められなかった。さらに植物発酵ペーストを7日間処理した場合、植物発酵ペーストのミトコンドリア量および活性に及ぼす促進効果は顕著であった(
図3B)。処理培養期間が3日間から7日間にかけて未処理細胞においてミトコンドリア量は経時的な減少はあまり認められなかった(
図3A)。しかし、ミトコンドリア活性では未処理細胞において顕著な経時的減少が認められた(
図3B)。これは時間経過とともにミトコンドリア活性が減少する「劣化」と考えられる。植物発酵ペースト処理細胞において、この経時的ミトコンドリア劣化が顕著に抑制されていた(
図3B)。
【0125】
骨格筋細胞において、0.1%植物発酵ペーストによる2時間、5時間、24時間、48時間処理におけるミトコンドリア量および活性を比較したところ、0.1%植物発酵ペースト48時間処理においてミトコンドリア量がもっとも増大していた(
図4A)。一方、ミトコンドリア活性はコントロールと有意な差異は認められなかった(
図4B)。これらの結果から植物発酵ペーストには骨格筋細胞におけるミトコンドリア量を増大させる機能があることが考えられる。しかし、褐色脂肪細胞での試験結果と異なりミトコンドリア活性においては、促進効果は認められなかった。
【0126】
(4.表皮細胞における酸化・紫外線ストレス試験)
酸化ストレス試験を実施するにあたり、至適過酸化水素濃度を決定した。その結果、無刺激の約50%の生細胞数を示す0.25mM 過酸化水素濃度が適していると判断した(データ表示なし)。紫外線ストレス試験を実施するにあたり、至適紫外線ストレス強度を検証した。その結果、UV−Bを52秒間(83.2mJ/cm
2)照射することで約50%の細胞障害率を示した(データ表示なし)。
【0127】
本試験において植物発酵ペーストの酸化・紫外線ストレス保護能を評価するため、植物発酵ペーストの処理時期を3パターン設定した。(1)ストレス前処理:植物発酵ペーストによる保護効果が細胞内に充分に存在する状態にて検証した。これにより植物発酵ペーストによる抗酸化系遺伝子の発現誘導も含めた抗酸化能を検証した。(2)ストレス同時処理:植物発酵ペースト自体の抗酸化能を検証した。(3)ストレス後処理:ストレスを受けた細胞が植物発酵ペーストによってどの程度修復できるかを主に検証した。
【0128】
酸化ストレス試験では、(1ストレス前処理にてもっとも顕著な酸化ストレス保護性を示した(
図5A)。これは、陽性対照であるビタミンCより顕著であった。一方、(2)ストレス同時および(3)ストレス後処理では保護性は認められなかったことから、植物発酵ペーストの直接的な抗酸化能の可能性は低いと思われる。これらの結果から植物発酵ペーストには細胞内の抗酸化遺伝子を誘導し、それにより酸化耐性をもたらしたものと考えられる((2)、(3)試験においてはデータ表示なし)。
【0129】
紫外線ストレス試験では、(1)ストレス前処理区および(3)ストレス後処理区においては植物発酵ペーストによるストレス保護性は認められなかったが、(2)ストレス同時処理区において有意な保護性が認められた(
図5B)((1)、(2)試験においてデータ表示なし)。これは植物発酵ペーストによる紫外線遮蔽もしくは紫外線照射により発生した活性酸素を消去することで、細胞を紫外線ストレスから保護した可能性が考えられる。
【0130】
(5.成長因子発現解析試験)
表皮細胞に植物発酵ペーストを含む培地を処理し、処理後2、10、24時間後の細胞からトータルRNAを抽出しFGF−1、FGF−2遺伝子発現解析を実施した。FGF−1遺伝子発現では培地置換後2時間でFGF−1の発現が上昇していたが(
図6A)、植物発酵ペースト含有培地でも同じ傾向にあったことから新鮮な培地への置換により発現が上昇していると思われる。FGF−1遺伝子発現においては植物発酵ペーストによる発現誘導は認められてなかった。FGF−2遺伝子発現において培地置換後2時間、10時間において発現上昇を示し、植物発酵ペースト含有培地において置換2時間後に未処理細胞と比較して顕著に発現の上昇を示した(
図6B)。一方、置換10、24時間後において未処理細胞と発現差異はなくなっていた。これらの結果から植物発酵ペーストにFGF−2発現促進作用があることが考えられる。
【0131】
マクロファージは免疫の重要な因子であるが、皮膚組織においては皮膚の再生において重要な働きを担う。マクロファージから分泌された線維芽細胞成長因子(FGF)や表皮成長因子(EGF)が皮膚組織の線維芽細胞や表皮細胞の細胞分裂を促進し、皮膚の再生を行うとされる。マクロファージからの成長因子遺伝子発現における植物発酵ペーストの作用を検証したところ、植物発酵ペーストによりFGF−1およびEGF遺伝子の発現が促進した(
図6C〜E)。これらの結果は、植物発酵ペーストがマクロファージからの成長因子分泌を促進させ、皮膚細胞の増殖を促進、皮膚の健全性を維持していることが考えられる。
【0132】
(III.考察)
活性酸素とは、酸素分子が紫外線や電子供与などの外部刺激により活性化した状態を指す。一般に細胞内では酸素を大量に消費するミトコンドリアや代謝過程で生じる。まず、酸素が紫外線などで励起した状態が一重酸素であり、これに電子が供与されるとスーパーオキシドアニオンラジカルとなる。スーパーオキシドアニオンラジカルが2分子重合すると過酸化水素となり、過酸化水素が均等分裂した状態がヒドロキシラジカルとなる。一重酸素およびスーパーオキシドアニオンラジカル、過酸化水素、ヒドロキシラジカルの分子種が活性酸素と呼ばれる一方で、他の分子種がこれらの活性酸素により電子(ラジカル)転移を受けて活性化した分子をフリーラジカルと呼ぶ。本研究では、植物発酵ペーストによるスーパーオキシドラジカルおよび過酸化水素、ヒドロキシラジカル、フリーラジカルの消去能を評価した結果、いずれの活性酸素ならびにフリーラジカルに対しても消去能を示した。なかでも、スーパーオキシドラジカルおよびヒドロキシラジカル、フリーラジカル消去能において優れた効果を示した。しかし、過酸化水素については消去能を示すものの、その効果は強力ではないと考えられる。
【0133】
抗酸化作用を示す植物発酵ペーストは細胞のストレス耐性をもたらす可能性がある。そこで、ヒト表皮細胞を用いて酸化ストレス耐性試験を行ったところ、植物発酵ペーストの抗酸化作用によってストレスが抑制される結果が確認された。また、紫外線は活性酸素やフリーラジカルを発生させる要因となり、皮膚は紫外線による刺激をもっとも多く受ける組織である。そこで、過酸化水素や紫外線(UV−B)で刺激した表皮細胞に対して、植物発酵ペーストが抗酸化作用を発揮するかどうか検証した。過酸化水素を用いて表皮細胞における酸化ストレスを再現した場合、植物発酵ペーストは事前に表皮細胞と合わせることで酸化ストレスから保護する効果を示した。一方で、植物発酵ペーストを過酸化水素とともに表皮細胞に添加した場合には酸化ストレスに対する保護性を示さなかった。これらの結果から、植物発酵ペーストは細胞内の抗酸化関連遺伝子を誘導することで酸化ストレス耐性を示すと考えられる。次に、表皮細胞に紫外線(UV−B)を照射して酸化ストレス状態を再現した試験において、紫外線照射および植物発酵ペーストを表皮細胞に同時添加・処理した際に、酸化ストレスからの保護性を示した。UV−Bはミトコンドリアの呼吸反応連鎖を刺激することで、スーパーオキシドラジカルを生成し、スーパーオキシドラジカルは自然発生的に過酸化水素へと変化する。植物発酵ペーストは過酸化水素に対しても消去能を示したことから、紫外線照射によって発生した活性酸素を除去したことで、細胞の保護性を示したと考えられる。
【0134】
ミトコンドリアは非ストレス下においても大量に活性酸素が発生していることから、非ストレス下にあるミトコンドリアに対しても植物発酵ペーストが機能する可能性がある。そこで、ミトコンドリアを多く含む骨格筋細胞や褐色脂肪細胞においてミトコンドリア活性を評価した。両細胞において、植物発酵ペーストを添加することで、ミトコンドリア量が増大し、褐色脂肪細胞においては、ミトコンドリア活性の増大も認められた。これらの結果から植物発酵ペーストには褐色脂肪細胞のミトコンドリア量および活性を促進させる機能があり、さらにミトコンドリアの経時的劣化を抑制させることができると考えられる。ミトコンドリア活性の上昇には、ミトコンドリアの糖取込み機能の亢進が原因の一つと考えられるが、本研究では骨格筋細胞および褐色脂肪細胞のどちらにおいても、植物発酵ペーストによる糖取込み機能の亢進が認められなかった(データ表示なし)。このことから、植物発酵ペーストによるミトコンドリア賦活作用は糖取込み機能以外の経路によってもたらされたと考えられる。
【0135】
ミトコンドリアの賦活化によってATP産生が増大することから、植物発酵ペーストにより細胞機能が亢進した可能性があった。そこで、細胞機能を確認するため表皮細胞やマクロファージにおいて成長因子の発現量を確認したところ、EGFやFGFの発現促進が認められた。本試験では、植物発酵ペーストによるストレス耐性が確認されており、これらの作用にEGFやFGFが関与している可能性がある。
【0136】
以上の結果より、植物発酵ペーストがスーパーオキシドラジカルおよびヒドロキシラジカル、フリーラジカル消去能を示すことが確認され、その作用によって紫外線や酸化ストレスなどの刺激に対して、表皮細胞を保護する働きを示した。皮膚組織は、肌表面から表皮、基底膜、真皮の順に構成されている。表皮の表皮細胞は乾燥や紫外線から肌を守り、真皮の線維芽細胞は肌の張りや弾力のもととなるコラーゲンやヒアルロン酸を生成する。また、真皮にはマクロファージが存在し、皮膚の新陳代謝や免疫を制御している。表皮細胞やマクロファージから線維芽細胞成長因子(FGF)や表皮成長因子(EGF)が分泌され、それら成長因子が線維芽細胞や表皮細胞を活性化することで皮膚の健全性が維持されている。本研究では、抗酸化作用を示す植物発酵ペーストの添加により、表皮細胞やマクロファージからの成長因子の遺伝子発現量が増大したことから、成長因子の分泌が促進された可能性があった。したがって、植物発酵ペーストは抗酸化作用を発揮することで、紫外線や酸化ストレスなどの刺激によって生成された活性酸素を除去し、細胞機能を維持および亢進することで、皮膚機能の維持または向上をもたらすことが示唆される。
【0137】
(結論)
植物発酵ペーストの抗酸化能によりミトコンドリアの賦活性がもたらされた。また、ミトコンドリア賦活によって細胞機能が促進し、皮膚におけるFGFやEGFの産生促進がもたらされ、肌機能の維持または向上に繋がることが示唆された。
【0138】
(実施例3)
本実施例では、日ごろ疲れやすいと自覚している健常な日本人成人女性を対象に、植物発酵物を含む植物発酵ペーストの抗酸化作用および肌の状態に与える影響を検証した。
【0139】
(I.対象と方法)
(1.研究デザイン)
本研究は、非盲検試験で実施した。試験実施計画書は、医療法人社団盛心会タカラクリニック(東京都品川区)の倫理委員会にて2016年6月13日に承認(1606−1605−YK01−02−TC)を得た後、UMIN臨床試験登録システム(UMIN−CTR)に登録した(UMIN000022761)。また、ヘルシンキ宣言(2013)および人を対象とする医学系研究に関する倫理指針の趣旨に則り、医学倫理に十分配慮し実施した。試験参加者の募集は、株式会社オルトメディコ(東京都文京区)が運営するモニター募集サイトGO106(http://monitor−touroku.jp/)で2016年6月18日から8月13日まで行い、試験参加を希望する者に、試験内容を十分に説明した上でインフォームドコンセントを書面にて取得した。本研究の実施期間は、2016年8月15日から11月19日であった。
【0140】
(2.研究参加者)
本研究は、登録基準として健常な日本人成人女性で、日ごろ疲れやすいと自覚している者を対象とした。また、試験参加にあたり次の条件を除外基準とした。(a)悪性腫瘍、心不全、心筋梗塞の治療の既往歴がある者、(b)疾患等による除外(心房細動、肝障害、腎障害、脳血管障害、リウマチ、糖尿病、脂質異常症、高血圧、過敏性腸症候群、その他の慢性疾患)、(c)医薬品(漢方薬を含む)・サプリメント・特定保健用食品、機能性表示食品を常用している者、(d)アレルギー(大豆、りんご、バナナ、もも、キウイフルーツ、やまいも、ごま、医薬品・試験食品関連食品)がある者、(e)妊娠中、授乳中、あるいは試験期間中に妊娠する意思のある者、(f)3ヶ月以内に他の臨床試験に参加した者、(g)その他、試験責任医師が本試験の対象として不適切と判断した者。
【0141】
試験責任医師が試験参加に問題ないと判断した者のうち、尿中8−OHdGが相対的に高値および血中PAOが相対的に低値の者を選抜し、試験適格者とした。症例数はR(ver.3.3.1)とpwrパッケージ(ver.1.1−4)を用いて決定した。植物発酵ペーストをヒトに摂取させ、抗酸化能を測定した研究はこれまでにない。そこで、本試験では試験食品群と対照食品群の差が大きいと仮定した。Cohenの示唆に基づくと効果量dは0.80となる。よって、α値を0.05、β値を0.80とし症例数を計算すると、1グループ当たりの症例数は約26名となった。また、試験期間中の脱落を考慮して1名を追加し、27名を試験に組み入れた。
【0142】
(3.介入)
試験食品は1包あたり5gの植物発酵ペーストであり、含有成分として植物発酵液が含まれる。試験参加者には、上記の植物発酵ペーストを朝食前に1日1包摂取させた。介入期間は8週間であった。
【0143】
(4.評価項目)
主要アウトカム:酸化ストレスマーカー(尿中8−OHdG、尿中PRL、尿中HEL、血中PAO)
摂取前、摂取8週間後の検査日に、尿中8−OHdGと尿中PRL、尿中HEL、血中PAOを測定した。採尿および血液採集は広尾皮フ科クリニック(東京都渋谷区)において行われた。尿中8−OHdGと血中PAOの検査は日研ザイル株式会社(静岡県袋井市)に委託され、全自動マイクロプレートEIA分析装置AP−960および臨床化学自動分析装置7020(協和メデックス株式会社、東京都中央区)を用いて行われた。尿中PRLと尿中HELの検査は株式会社ヘルスケアシステムズ(愛知県名古屋市)に委託され、化学発光検出解析装置Lumi Vision (アイシン精機株式会社、愛知県刈谷市)を用いて行われた。
【0144】
主要アウトカム:簡易酸化ストレスプロファイル
摂取前、摂取8週間後に簡易酸化ストレスプロファイルを評価した。簡易酸化ストレスプロファイルは、体内の酸化損傷度と抗酸化能のバランス(酸化ストレス)の検査で、老化や疾病の原因となる酸化ストレスの状態を調べることができる。簡易酸化ストレスプロファイルは、日研ザイル株式会社にて摂取前、摂取8週間後に採集した尿と血清から、その成分のバランスを分析することで酸化ストレスプロファイル(総合評価、酸化ストレスの状態、抗酸化能の状態)が評価された。総合評価では、「危険ゾーン(酸化ストレスが高く、抗酸化能が低い状態)」を1、「警告ゾーン(抗酸化能が高いが、酸化ストレスも高い状態)」を2、「低活性ゾーン(抗酸化能は低いが、酸化ストレスも低い状態)」を3、「良好ゾーン(酸化ストレスは少なく、抗酸化能が高い状態)」を4と得点化して評価した。また、酸化ストレスの状態および抗酸化能の状態は、「低い」を1、「平均的」を2、「高い」を3と得点化して評価した。
【0145】
副次アウトカム:肌測定
摂取前、摂取8週間後の検査日に肌評価を行った。試験参加者の顔面画像を撮影した後、画像解析を行い、シミ、シワしみ、シワ、肌のきめ、うるおい、赤味等を数値化し評価した。項目は色素沈着数、色素沈着総面積、シワ総長さ、シワ総面積、赤味数、赤味総面積、水分値、油分値、きめであった。測定はロボスキンアナライザーCS50(株式会社インフォワード、東京都渋谷区)を用い、広尾皮フ科クリニックにおいて行われた。
【0146】
副次アウトカム:肌弾力測定
摂取前、摂取8週間後の検査日に、肌弾力性を定量的に測定し、年齢別の平均データと比較した数値として測定した。測定部位は左右の3箇所(目尻、頬、顎)であった。測定はトリプルセンス(株式会社モリテックス、埼玉県朝霞市)を用い、広尾皮フ科クリニックにおいて行われた。
【0147】
副次アウトカム:自覚症状
摂取前、摂取8週間後の検査日に、リッカートスケール法を用い、自覚症状を評価した。調査項目は「化粧のノリが悪い」「肌に弾力がない」「肌に潤いがない」「肌がべとついている」「肌のキメが悪い」「肌がくすんでいる」「肌がたるんでいる」「よく冷えを感じる」「クマ、くすみが気になる」「代謝が悪い」「体が疲れやすい」「寝ても疲れがとれない」「むくみやすい」「倦怠感がある」「体調不良に陥りやすい」「口内炎ができやすい」「頭がすっきりしない」であった。選択肢は、1.「まったくあてはまらない」、2.「ほとんどあてはまらない」、3.「あまりあてはまらない」、4.「少しあてはまる」、5.「かなりあてはまる」、6.「非常によくあてはまる」であり、選択肢番号を得点化して評価した。測定は広尾皮フ科クリニックにおいて行われた。
【0148】
安全性項目
身体測定・理学検査では、身長、体重、BMI、体脂肪率、収縮期血圧、拡張期血圧、心拍数を測定した。身長のみ、事前説明会終了後に測定した。そのほかは摂取前、摂取8週間後の検査日に測定した。身長は手動身長計(HP−I、TTM、東京)、体重と体脂肪率はInner Scan 50 BC−309−PR(株式会社タニタ、東京都板橋区)、血圧と心拍数は電子血圧計ES−P370(テルモ株式会社、東京都渋谷区)を使用して測定した。またBMIは体重(kg)を身長(m)の二乗で除して求めた。測定は株式会社オルトメディコおよび広尾皮フ科クリニックにて実施した。
【0149】
尿検査では、摂取前、摂取8週間後の検査日に約50mL採尿し、蛋白質、ブドウ糖、ウロビリノーゲン、ビリルビン、pH、潜血、ケトン体を測定した。採尿は広尾皮フ科クリニックで行われた。検査は株式会社LSIメディエンス(東京都板橋区)に委託され、US−3100R(栄研化学株式会社、東京都文京区)を用いて行われた。
【0150】
末梢血液検査では、摂取前、摂取8週間後に静脈血を約1mL採血した。血液学検査では、白血球数、赤血球数、ヘモグロビン、ヘマトクリット値、血小板数、MCV(平均赤血球容積)、MCH(平均赤血球色素量)、MCHC(平均赤血球色素濃度)、白血球像(好中球率、リンパ球率、単球率、好酸球率、好塩基球率、好中球数、リンパ球数、単球数、好酸球数、好塩基球数)を測定した。血液採取は広尾皮フ科クリニックで行われた。検査は株式会社LSIメディエンスに委託され、XE−2100、HEG−L(シスメックス株式会社、兵庫県神戸市)、光学顕微鏡BX41(オリンパス株式会社、東京都新宿区)を用いて行われた。血液生化学検査では、AST(GOT)、ALT(GPT)、γ−GT(γ−GTP)、ALP、LD(LDH)、LAP、総ビリルビン、直接ビリルビン、間接ビリルビン、コリンエステラーゼ(ChE)、ZTT、総蛋白、尿素窒素、クレアチニン、尿酸、CK、カルシウム、血清アミラーゼ、総コレステロール、HDL−コレステロール、LDL−コレステロール、トリグリセリド(TG:中性脂肪)、遊離脂肪酸、グリコアルブミン、血清鉄(Fe)、ナトリウム(Na)、カリウム(K)、クロール(Cl)、無機リン(IP)、グルコース、ヘモグロビンA1c(HbA1c:NGSP)を測定した。検査は株式会社LSIメディエンスに委託され、H7700(株式会社日立ハイテクノロジーズ、東京都港区)とJCA−BM9130(日本電子株式会社、東京都昭島市)を用いて行われた。
【0151】
(5.統計解析)
酸化ストレスマーカーおよび肌測定、肌弾力測定、身体測定・理学検査、末梢血液検査については、摂取前ならびに摂取8週間後の測定値を対応のあるt検定を用いて比較した。簡易ストレスプロファイルおよび自覚症状の評価については、摂取前ならびに摂取8週間後の測定値をWilcoxonの符号付き順位検定を用いて比較した。尿検査については、摂取前ならびに摂取8週間後の測定値をMcNemar検定を用いて比較した。なお、多項目の検定に対する多重性の補正は行わなかった。全ての統計解析は両側検定で行い、有意水準は5%に設定した。対応のあるt検定はMicrosoft Excel 2013(日本マイクロソフト株式会社、東京都港区)、Wilcoxonの符号付き順位検定およびMcNemar検定はIBM SPSS ver23.0(日本アイ・ビー・エム、東京都中央区)を用いた。また、摂取率が90%に満たないなど遵守事項が守れなかった者は解析から除外した。
【0152】
(II.結果)
(1.分析対象)
図7に試験参加者の追跡フローチャートを示した。本試験は日ごろ疲れやすいと自覚している健常な日本人成人女性を対象とした。試験参加に同意した39名のうち試験責任医師の問診や選抜基準により12名を除外し、27名を本試験に組み入れた。試験食品の摂取率が90%を下回る者はおらず、解析対象者は計27名(51.1±9.8歳)であった。
【0153】
また、肌の状態とBMIは関連が深く、BMIが18.5kg/m
2以上25.0kg/m
2未満の間(標準体型)の者は安定した肌の状態が示唆されている。そこで、本試験の解析対象者27名のうち、体型が標準体型(BMI 18.5kg/m
2以上25.0kg/m
2未満)の者17名(52.2±9.9歳)についても解析を行った。
【0154】
(2.酸化ストレスマーカーおよび簡易ストレスプロファイル)
酸化ストレスおよび抗酸化関連の平均値と標準偏差、中央値と四分位範囲の統計解析の結果を表2と表3に示した。
【0155】
【表2】
【0156】
【表3】
【0157】
試験参加者全体で解析を行ったところ、摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は、尿中8−OHdG(P<0.001)、尿中8−OHd (クレアチニン補正)(P<0.001)、尿中クレアチニン(P=0.017)、酸化ストレスの状態(P<0.001)であった。また、有意に上昇した項目はPAO(P=0.033)、総合評価(P<0.001)であった。
【0158】
標準体型の者を対象とした解析では、摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は、尿中8−OHdG(P=0.011)、尿中8−OHdG(クレアチニン補正)(P<0.001)、酸化ストレスの状態(P<0.001)であった。また、有意に上昇した項目は、PAO(P=0.006)、総合評価(P<0.001)であった。
【0159】
(3.肌測定)
肌測定の平均値と標準偏差、統計解析の結果を表4に示した。
試験参加者全体で解析を行ったところ、摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は、目尻のシワの総長さ(P=0.015)、目尻のシワの総面積(P=0.041)であった。また有意に上昇した項目は、赤味数(合計)(P=0.005)、赤味数(平均)(P=0.005)、赤味面積(合計)(P=0.002)、赤味面積(平均)(P=0.002)であった。
【0160】
追加解析を行ったところ、摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は色素沈着数(小)(P=0.021)、色素沈着面積(小)(P=0.041)、目尻のシワの総面積(P=0.029)であった。また、有意に上昇した項目は赤味数(合計)(P=0.028)、赤味数(平均)(P=0.028)、赤味面積(合計)(P=0.015)、赤味面積(平均)(P=0.015)であった。
【0161】
【表4】
【0162】
(4.肌弾力測定)
簡易肌弾力測定の平均値と標準偏差、統計解析の結果を表5に示した。
摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は、目尻(左右平均)(P=0.006)、頬(左右平均)(P<0.001)、顎(左右平均)(P=0.033)であった。
【0163】
【表5】
【0164】
(5.自覚症状(リッカートスケール法))
自覚症状(リッカートスケール法)の中央値と四分位範囲、統計解析の結果を表6に示した。
摂取前と比較して摂取8週間後に有意に低下した項目は、「化粧のノリが悪い」(P=0.012)、「肌に弾力がない」(P=0.021)、「肌がべとついている」(P<0.001)、「肌のキメが悪い」(P=0.001)、「肌がくすんでいる」(P=0.003)、「肌がたるんでいる」(P<0.001)、「クマ、くすみが気になる」(P=0.005)、「体が疲れやすい」(P=0.001)、「寝ても疲れがとれない」(P=0.002)、「むくみやすい」(P=0.025)、「倦怠感がある」(P=0.001)、「体調不良に陥りやすい」(P=0.008)、「口内炎ができやすい」(P<0.001)、「頭がすっきりしない」(P=0.018)であった。
【0165】
【表6】
【0166】
(6.安全性の評価)
身体測定・理学検査、尿検査、末梢血液検査の平均値と標準偏差、統計解析の結果を表7−1〜表7−3に示した。
【0167】
摂取前と比較して、摂取8週間後に軽微な変動が散見されたものの、試験食品摂取に伴う医学的に問題のある変化ではないことが試験責任医師により判断された。
【0168】
【表7-1】
【0169】
【表7-2】
【0170】
【表7-3】
【0171】
(III.考察)
本試験では、植物発酵ペーストの継続摂取が日ごろ疲れやすいと自覚している健常な日本人成人女性に及ぼす影響を検討した。主要アウトカムとして、酸化ストレスマーカーとして尿中の8−OHdG、PRL、HEL、血中PAOを測定し、酸化ストレスと抗酸化能のバランスを簡易酸化ストレスプロファイルについても評価した。副次アウトカムとして、自覚症状(リッカートスケール法)および肌の弾力、肌の状態について評価した。
【0172】
先行研究において、ビタミン類やポリフェノール類を含有する食品は抗酸化作用を示すことが知られている。本研究で用いた植物発酵ペーストは、ビタミン類やポリフェノール類を成分として含むニンジンおよびバナナ、トマト、茶葉、りんご、ぶどう等が含有される。そのため、植物発酵ペーストは抗酸化作用を示す食品として期待される。事実、本試験ではDNA酸化損傷マーカーである尿中8−OHdG濃度が有意に低下し、血中の抗酸化能を表すPAOの数値が上昇した。また、体内における酸化ストレスと抗酸化能のバランスについても調査したところ、これらのバランスが有意に改善された。これらの結果から、植物発酵ペーストは抗酸化作用を示す食品であることが確認された。
【0173】
肌のシミ、シワ、きめ、うるおい、赤味、弾力等の肌状態を評価したところ、植物発酵ペーストの摂取後、目尻のシワの改善と赤味の増加、目尻と頬、顎における肌の弾力の低下が認められた。肌の状態は活性酸素との関連もあり、活性酸素によってコラーゲンに特異的な酵素の発現が促進され、コラーゲンの分解が促進される。コラーゲンが分解されると、真皮の構造が脆弱になり、皮膚表面にシワが生じる。したがって、植物発酵ペーストの抗酸化作用によって活性酸素が除去され、コラーゲンの分解が抑制されたことで肌のコラーゲンの合成が正常に行われ、シワの改善に至ったと考えられる。顔面の赤味については、三浦らの研究において抗酸化作用に優れた食品は血流を改善することが確認されている。また、他の先行研究においても、血流の増加は顔面の赤味を増加させることが報告されている。したがって、植物発酵ペーストの摂取によって顔面における血流が改善されたことで、顔面の赤味が増したと示唆される。目尻と頬、顎における肌の弾力の低下は、顔面のむくみが解消されたことが原因と考えられる。血行不良による顔のむくみに悩む女性は多く、むくみは血行をよくすることで解消されることが知られている。本試験も女性を対象としており、植物発酵ペーストの摂取によって顔面の赤味が増したことは顔面の血流の向上を示唆しており、自覚症状の評価ではむくみに対する自覚が緩和された。したがって、植物発酵ペーストの摂取によって顔面のむくみが改善されたことで、肌の弾力が低下したと推察される。これらの結果から、植物発酵ペーストの摂取が肌状態の向上に寄与することが確認された。
【0174】
本試験では、肌の状態に関する多くの自覚症状が改善し、客観的な評価だけでなく主観的な評価においても植物発酵ペーストの肌改善効果が確認された。また、「体が疲れやすい」や「寝ても疲れがとれない」等の疲労に関する項目も改善された。抗酸化作用を示す食品の摂取は疲労回復をもたらすことが知られている。したがって、本試験においても植物発酵ペーストの抗酸化作用によって疲労に関する自覚症状が緩和されたと考えられる。
【0175】
本試験では日ごろ疲れやすいと自覚している健常な日本人成人女性を対象としたが、近年の研究から、肌の状態はBMIと関連があることが明らかにされている。BMI 18.5kg/m
2未満の痩せ型には乾燥肌が多く、BMI 25.0kg/m
2以上の肥満型には脂性肌が多いことが報告されている。痩せ型にみられる乾燥肌の原因の一つには食事量の不足による栄養素量の低下と、それが原因で生じる新陳代謝(ターンオーバー)の異常が考えられている。また、脂性肌において皮脂は体内の水分の蒸発を保護する働きもあるが、多量にある場合に吹き出物の原因になることや、皮脂の過酸化反応によって肌の状態を悪化させることが知られ、これらはターンオーバーの異常に繋がる原因とされている。つまり、痩せ型(BMI 18.5kg/m
2未満)および肥満型(BMI 25.0kg/m
2以上)の体型の者は、肌の状態が不安定であると考えられる。そこで、肌の状態が安定した者においても植物発酵ペーストが示す抗酸化作用や肌改善効果が認められるか検証するために、安定した肌の状態と示唆されているBMI 18.5以上25kg/m
2未満の者を対象に解析を行った。結果として、尿中8−OHdG濃度の有意な低下や血中PAOの有意な上昇、脂質損傷マーカーのPRLの減少傾向が認められた。また、体内における酸化損傷度と抗酸化能のバランスについても酸化ストレスの状態が有意に改善された。肌状態の評価では、シワの減少と赤味の増加の他に、シミの数を表す色素沈着数に有意な減少が認められた。ヒトを対象にした研究において、抗酸化作用を示すサプリメントの摂取によってシミが減少することが報告されている。したがって、顔のシワやシミの減少と赤味の増加は、植物発酵ペーストの抗酸化作用による影響であると示唆される。
【0176】
以上の結果より、植物発酵ペーストの摂取は日ごろ疲れやすいと自覚している健常な日本人成人女性の抗酸化能を向上させ、酸化損傷度と抗酸化能のバランスを良好な状態に改善することで、肌状態の向上および肌に関する自覚症状を改善させることが示唆された。また、これらの効果は安定した肌の状態においても確認され、酸化損傷度と抗酸化能のバランスの改善とシワの減少、赤味の増加の他に、シミの減少が示された。しかし、本研究は非盲検試験にて行われたことから、植物発酵ペーストが示す抗酸化作用や肌改善効果についてより詳細に検証するために、今後は比較対照群を設定する二重盲検ランダム化比較試験やランダム化クロスオーバー比較試験の実施を検討していきたい。
【0177】
(IV.結論)
本研究の結果から、植物発酵ペーストの継続摂取は体内の酸化ストレスおよび抗酸化能のバランスを改善し、シワやシミを減少させるとともに肌や疲労に関する自覚症状を改善することが示唆された。