特許第6283766号(P6283766)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6283766血液障害の処置に使用するためのGLYT1阻害剤
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283766
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】血液障害の処置に使用するためのGLYT1阻害剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/437 20060101AFI20180208BHJP
   A61K 31/496 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 3/12 20060101ALI20180208BHJP
   A61P 7/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   A61K31/437
   A61K31/496
   A61P3/12
   A61P7/00
【請求項の数】3
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2017-505724(P2017-505724)
(86)(22)【出願日】2015年4月27日
(65)【公表番号】特表2017-511385(P2017-511385A)
(43)【公表日】2017年4月20日
(86)【国際出願番号】EP2015059037
(87)【国際公開番号】WO2015165842
(87)【国際公開日】20151105
【審査請求日】2016年10月18日
(31)【優先権主張番号】14166497.9
(32)【優先日】2014年4月30日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】591003013
【氏名又は名称】エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】アルベラティ,ダニエーラ
(72)【発明者】
【氏名】コーナー,アネット
(72)【発明者】
【氏名】ピナール,エマニュエル
(72)【発明者】
【氏名】ウィンター,ミヒャエル
【審査官】 横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−501820(JP,A)
【文献】 特表2008−529982(JP,A)
【文献】 The Hematology Journal,2000年,Vol.1,pp.243-249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00−33/44
A61P1/00−43/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Science Direct
PubMed
CiNii
医中誌WEB
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サラセミア、鉄過剰症候群及び遺伝性ヘモクロマトーシスからなる群から選択される血液障害の治療又は予防に使用するための、
[4−(2−フルオロ−4−メタンスルホニル−フェニル)−ピペラジン−1−イル]−(2−イソプロポキシ−5−メタンスルホニル−フェニル)−メタノン、
[5−メタンスルホニル−2−(2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−[4−(5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−メタノン、
4−イソプロポキシ−N−メチル−3−[4−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピペラジン−1−カルボニル]−ベンゼンスルホンアミド、
[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノン、
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノン、
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−ピロロ[3,4−c]ピリジン−2−イル)−メタノン、又は
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(5−メトキシ−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−メタノンから選択される化合物を有効成分とする医薬組成物
【請求項2】
前記化合物が、
【化7】

[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【請求項3】
前記化合物が、
【化8】

[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンから選択される、請求項1に記載の医薬組成物
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の化合物についての新たな医療用途、及び、それを含有する医薬組成物に関する。本発明は、血液障害の処置に使用するため、特に、鎌状赤血球症及びサラセミアの処置に使用するため、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスを患う患者を処置するための、GlyT1阻害剤である化合物に関する。別の態様では、本発明は、本発明の化合物と薬学的に許容し得る担体とを含む、血液障害の処置に使用するための医薬組成物に関する。
【発明の概要】
【0002】
本発明の一態様は、上記疾患の処置に使用するための式Iで表されるGlyT1阻害剤に関する。ここで、GlyT1阻害剤は、式
【化1】

[式中、
は、ハロゲン、ハロゲンにより置換されている低級アルキル、シアノ、又はS(O)−低級アルキルであり、
は、低級アルキル、ハロゲンにより置換されている低級アルキルであるか、又は、(CH−シクロアルキルであり、
は、低級アルキル、NH、又は1つ若しくは2つの低級アルキルにより置換されているアミノであり、
Xは、C又はNであり、
nは、1又は2であり、
oは、0、1、又は2である]
で表される化合物及びその薬学的に許容し得る酸付加塩から選択される。
【0003】
式Iで表される化合物は公知であり、その調製法と共に、国際公開公報第2005/014563号に記載されている。
【0004】
下記の具体例は、式Iで表される化合物に関する。
[4−(2−フルオロ−4−メタンスルホニル−フェニル)−ピペラジン−1−イル]−(2−イソプロポキシ−5−メタンスルホニル−フェニル)−メタノン
[5−メタンスルホニル−2−(2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−[4−(5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−メタノン
4−イソプロポキシ−N−メチル−3−[4−(4−トリフルオロメチル−フェニル)−ピペラジン−1−カルボニル]−ベンゼンスルホンアミド、又は
[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノン
【0005】
本発明の1つの更なる目的は、上記疾患の処置に使用するための式IIで表される化合物に関する。ここで、GlyT1阻害剤は、式
【化2】

[式中、
は、ハロゲン、低級アルキル、ハロゲンにより置換されている低級アルキル、低級アルコキシ、シアノ、又はS(O)−低級アルキルであり、
は、低級アルキル、ハロゲンにより置換されている低級アルキルであるか、又は、(CH−シクロアルキルであり、
は、低級アルキル、NH、又は1つ若しくは2つの低級アルキルにより置換されているアミノであり、
Xは、C又はNであり、
は、C又はNであり、ここで、X及びXの一方のみが、Nであり、
nは、1又は2であり、
oは、0、1、又は2である]
で表される化合物及びその薬学的に許容し得る酸付加塩から選択される。
【0006】
式IIで表される化合物は公知であり、その調製法と共に、国際公開公報第2006/082001号に記載されている。
【0007】
下記の具体例は、式IIで表される化合物に関する。
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノン
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−ピロロ[3,4−c]ピリジン−2−イル)−メタノン、又は
[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(5−メトキシ−6−トリフルオロメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル)−メタノン
【0008】
グリシントランスポーター阻害剤は、神経障害及び精神神経障害の処置に適していることが公知である。関連する疾患状態の大部分は、精神病、統合失調症(Armer RE and Miller DJ, Exp. Opin. Ther. Patents, 11 (4): 563-572, 2001)、情動精神病、例えば、重篤な大うつ病性障害、精神障害、例えば、急性躁病又はうつ病に関連する気分障害、双極性障害に関連する気分障害、及び統合失調症に関連する気分障害(Pralong ET et al., Prog. Neurobiol., 67: 173-202, 2002)、自閉症性障害(Carlsson ML, J. Neural Trans,. 105: 525-535, 1998)、認知障害、例えば、加齢性認知症及びアルツハイマー型の老年性認知症を含む認知症、ヒトを含む哺乳類における記憶障害、注意欠陥障害及び疼痛(Armer RE and Miller DJ, Exp. Opin. Ther. Patents, 11 (4): 563-572, 2001)である。このため、GlyT−1阻害を介したNMDAレセプター活性化の増大は、精神病、統合失調症、認知症、及び、認知過程が損なわれる他の疾患、例えば、注意欠陥障害又はアルツハイマー病を処置する薬剤をもたらすことができる。
【0009】
ここで、式I及びIIで表される化合物は、鎌状赤血球症及びサラセミア等の血液疾患の処置、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスの処置に使用することができることが見出された。
【0010】
鎌状赤血球症及びその臨床症状は、数世紀の間に西アフリカで認められてきたが、医学文献に出された鎌状赤血球症の最初の報告は、1910年になって、James B. Herrickによってようやくなされた。
【0011】
今日、世界中には、400万人を超える鎌状赤血球症患者がいると考えられている。その大部分は、アフリカにおり、その大部分は、中央及び西部地域にいる。アフリカ又はラテン起源の約10万人の患者が、米国に住んでいる。別の10万人は、欧州に住んでいる。また、中東、インド、南アメリカ、及びカリブ海の400〜500万人がこの疾患に冒されている。
【0012】
この遺伝性疾患は、アフリカ西部及び中部で始まったと考えられる。これらの地域では、鎌状赤血球の形質又はキャリア状態は、実際には、1つの遺伝子によりマラリアからヒトが保護されるため有益であった。結果として、この遺伝子を有するものが、アフリカの感染地域におけるマラリア流行を生き残った。しかしながら、両親から影響を受けた遺伝子を受け継いだ人々は、鎌状赤血球貧血と呼ばれる症状を有した。
【0013】
鎌状赤血球貧血とは別に、他の遺伝的変化が、同様の症状をもたらすおそれがあり、鎌状赤血球症に分類される。鎌状赤血球貧血は、最も一般的な種類の鎌状赤血球症である。同じ分類における他の主要な症状は、SC症(鎌状変異とヘモグロビンC変異との組み合わせ)及びSβ−サラセミア又はSα−サラセミア(鎌状変異とβ−サラセミア変異又はα−サラセミアとの組み合わせ)を含む。これらの症状すべてにおいて、患者は、重篤な痛みのあるエピソード又は臓器損傷を有するおそれがある。
【0014】
鎌状赤血球貧血及び鎌状ヘモグロビン(HbS)の存在は、分子レベルで理解されるべき最初の遺伝的疾患であった。今日では、ベータグロビン鎖の6位におけるグリシンのバリンへの置換の形態学的及び臨床的結果として認識されている。鎌状赤血球症を患う患者の病的状態及び死亡の主な原因は、鎌状赤血球による血管閉塞である。鎌状赤血球は、急性及び慢性両方の形式において、疼痛の繰返しエピソードを引き起こし、時間の経過と共に進行する臓器損傷も引き起こす。
【0015】
完全な脱酸素化に基づく鎌状赤血球の変形及び歪みは、鎌状ヘモグロビンSの多量体化及び細胞内ゲル化により引き起こされる。HbSの細胞内ゲル化及び多量体化は、赤血球の血管通過中のいつでも起こるおそれがある。このため、鎌状赤血球症を患う患者の多量体化されたヘモグロビンSを含有していない赤血球は、微小循環を通過することができ、鎌状になることなく肺に戻ることができるが、血管中で鎌状になるおそれがあり、又は、毛細血管中で鎌状になるおそれがある。毛細血管中で鎌状になった赤血球には、結果として生じる可能性のある数多くのイベントが存在する。このイベントは、通過時間に影響を及ぼさない〜毛細血管を閉塞させる、最終的には周囲の細胞の虚血若しくは梗塞をもたらし、赤血球の破壊をもたらすおそれがあるより永続的な遮断までの範囲である。血管が遮断されると、酸素及び栄養を、影響を受けた血管によりカバーされていた領域に運ぶことができず、その領域の組織は死に、重篤な炎症及び心臓発作を引き起こすであろう。これが、1度や2度だけではなく、1年に複数回近く発生する。
【0016】
今日、鎌状赤血球症を処置する手段は限られている。この50年間にわたって、抗生物質が、この疾患を患う小児の致命的な感染を予防するためによく使用されており、先進国における生存率の主な改善をもたらしている。鎌状赤血球症の治癒は、幹細胞移植のみである。しかしながら、マッチしたドナーが不足しているため、非常に限られた数の患者しか利用できない。
【0017】
90年代半ばから、ヒドロキシ尿素と呼ばれる経口薬が、「疼痛発作」の予防に利用されてきた。この薬を定期的に摂取することができるものについては、その生活の質が非常に改善された。しかしながら、ヒドロキシ尿素は、特定の種類のガンのために元々設計された医薬であり、感染と戦う白血球の抑制、皮膚潰瘍、胃の障害、及び貧血を含む、多くの副作用を有する。
【0018】
ここで、式I及びIIで表される本化合物は、固有の作用機序及び十分規定された用量依存性作用により、ヘム及びヘモグロビンの生成と、発達中の赤芽球及び網状赤血球における鉄の吸収とを減少させることができることが見出された。この効果は、細胞内Hb濃度の減少の利益を得るであろう、疾患中の小球性低色素細胞の産生を誘導し、酸化体損傷及び鉄の増大した赤血球取込みにより特徴付けられる、疾患中の赤血球新生鉄吸収を減少させる機会を提供する。
【0019】
動物実験において、式I又はIIで表される化合物で処置した場合、細胞内Hb値(MCH)が、最大用量において最大約20%まで、用量依存的に低下したことが観察された。その結果として、正色素性又は低色素性段階に進行した再生小球性赤血球新生は、実験したすべての種(マウス、ラット、カニクイザル、及びヒト)における全身性Hbレベルの低下をもたらす。
【0020】
したがって、式I及びIIで表される本化合物は、血液障害の処置に、特に、鎌状赤血球症及びサラセミアに使用するのに、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスの処置に有用であることができる。
【0021】
したがって、本発明の目的は、鎌状赤血球症の処置に使用するための、本明細書で記載された式I及びIIで表される化合物である。
【0022】
本発明の1つの更なる目的は、サラセミアの処置に使用するための、式I及びIIで表される化合物である。
【0023】
本発明の1つの更なる目的は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスの処置に使用するための、式I及びIIで表される化合物である。
【0024】
本発明の1つの更なる目的は、式Iで表される特定の化合物の使用である。この化合物は、
【化3】

[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンである。
【0025】
本発明の1つの更なる目的は、式IIで表される特定の化合物の使用である。この化合物は、
【化4】

[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンである。
【0026】
本発明の1つの目的は、処置を必要とする対象における、血液障害の治療若しくは予防のための方法、特に、鎌状赤血球症及びサラセミアにおける使用方法、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスを患う患者の処置のための方法であって、治療的に有効量の本明細書で記載されたGlyT1阻害剤を、前記対象に投与することを含む方法に関する。
【0027】
本発明の1つの更なる目的は、血液障害の治療又は予防のための、特に、鎌状赤血球症及びサラセミアにおける使用のための、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスの処置のための、薬学的に許容し得る形態における、本明細書で記載されたGlyT1阻害剤を含む、医薬組成物に関する。
【0028】
本発明の更なる態様は、血液障害の処置又は予防のための、特に、鎌状赤血球症及びサラセミアにおける使用のための、又は、鉄過剰症候群、例えば、遺伝性ヘモクロマトーシスを患う患者の処置のための、医薬を調製するための本明細書で記載されたGlyT1阻害剤の使用に関する。
【0029】
本説明で使用される一般的な用語の下記定義は、当該用語が単独又は他の基との組み合わせで現れるかどうかとは無関係に適用する。
【0030】
単独又は他の基との組み合わせでの「低級アルキル」という用語は、直鎖又は1つ若しくは複数の分岐を有する分岐鎖でもよい炭化水素基を意味する。ここで、アルキル基は、一般的には、1〜6個の炭素原子を含み、例えば、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n−ブチル、i−ブチル、2−ブチル、t−ブチル、イソペンチル、2−エチル−プロピル、1,2−ジメチル−プロピル等である。
【0031】
「ハロゲンにより置換されている低級アルキル」又は「ヒドロキシにより置換されている低級アルキル」という用語は、1つ又は複数のハロゲン又はヒドロキシにより置換されている、本明細書で定義されたC1〜6アルキルを意味し、例えば、CF、CH(CH)CF、CHCFCF、CHCFCHF、C(CHOH、又はCH(CH)OHである。
【0032】
単独又は他の基との組み合わせでの「ハロゲン」という用語は、クロロ(Cl)、ヨード(I)、フルオロ(F)、及びブロモ(Br)を意味する。好ましい「ハロゲン」は、Fである。
【0033】
「シクロアルキル」という用語は、3〜6個の環炭素原子の、一価の飽和の単環式炭化水素基を意味する。単環式シクロアルキルの例は、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、又はシクロヘキシルである。
【0034】
「薬学的に許容し得る塩」という用語は、ヒト及び動物の組織と接触させて使用するのに適した塩を意味する。無機酸及び有機酸との適切な塩の例は、酢酸、クエン酸、ギ酸、フマル酸、塩酸、乳酸、マレイン酸、リンゴ酸、メタンスルホン酸、硝酸、リン酸、p−トルエンスルホン酸、コハク酸、硫酸(sulfuric acid)、硫酸(sulphuric acid)、酒石酸、トリフルオロ酢酸等であるが、これらに限定されない。特に、ギ酸、トリフルオロ酢酸、及び塩酸である。特に、塩酸、トリフルオロ酢酸、及びフマル酸である。
【0035】
酸との対応する薬学的に許容し得る塩は、当業者に公知の標準的な方法により、例えば、式Iで表される化合物を適切な溶媒、例えば、ジオキサン又はTHF等に溶解させ、適量の対応する酸を加えることにより得ることができる。生成物は、通常、ろ過又はクロマトグラフィーにより単離することができる。式(I)又は(II)で表される化合物の塩基との薬学的に許容し得る塩への変換は、このような化合物とこのような塩基との処理により行うことができる。このような塩を形成するための1つの可能性のある方法は、例えば、1/n当量の塩基性塩、例えば、M(OH)(式中、M=金属又はアンモニウムカチオン、及び、n=水酸化物アニオンの数)を、適切な溶媒(例えば、エタノール、エタノール−水混合物、テトラヒドロフラン−水混合物)における化合物の溶液に加え、蒸発又は凍結乾燥により溶媒を除去することによる。
【0036】
実験データ
[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノン及び[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンに対する曝露により、すべての用量レベルにおけるラットにおいて、小球性低色素赤血球新生が誘導された。この小球性低色素赤血球新生は、総ヘモグロビン濃度の低下(図1及び2)と、細胞内ヘモグロビンMCHの減少(図3及び4)により特徴付けられた。総ヘモグロビン濃度における全体での最大低下は、20%を超えなかった。この効果は、処置の中断に基づいて可逆性であった。
【図面の簡単な説明】
【0037】
図1】メスのラットでの平均群ヘモグロビンにおける[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンの効果(8週での実験)。[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンを、食餌混入により、メスのWistarラットに毎日8週間投与し、1、3、及び8mg/kg/日の用量を達成し、続けて、処置を行わない4週間の回復期間を与えた。対照群には、全実験期間中に、標準的な食餌のみを与えた。実験中の種々の時点において、末梢血中のHbを含む血液学的パラメータを、SYSMEX XT分析器を使用し調査した。データは、群平均値を表し、エラーバーは、標準偏差(SD)を示す。
図2】メスのラットでの平均群ヘモグロビンにおける[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンの効果(26週での実験)。[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンを、経口経管栄養により、群当たりに20匹のメスのWistarラットに、2、6、及び12mg/kg/日の用量で、毎日26週間投与し、続けて、用量群当たりに分配した6匹の追加のメスについて、処置を行わない4週間の回復期間を与えた。対照群を、投与期間中に、媒体対照により処置した。実験中の種々の時点において、末梢血中のHbを含む血液学的パラメータを、Bayer, ADVIA 120血液学分析器を使用して調査した。データは、群平均値を表し、エラーバーは、標準偏差(SD)を示す。
図3】メスのラットでの平均群MCHにおける[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンの効果(8週での実験)。[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンを、食餌混入により、メスのWistarラットに毎日8週間投与し、1、3、及び8mg/kg/日の用量を達成し、続けて、処置を行わない4週間の回復期間を与えた。対照群には、全実験期間中に、標準的な食餌を与えた。実験中の種々の時点において、末梢血中のMCHを含む血液学的パラメータを、SYSMEX XT分析器を使用して調査した。データは、群平均値を表し、エラーバーは、標準偏差(SD)を示す。
図4】メスのラットでの平均群MCHにおける[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンの効果(26週での実験)。[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−(3−トリフルオロメチル−5,7−ジヒドロ−ピロロ[3,4−b]ピリジン−6−イル)−メタノンを、経口経管栄養により、群当たりに20匹のメスのWistarラットに、2、6、及び12mg/kg/日の用量で、毎日26週間投与し、続けて、用量群当たりに分配した6匹の追加のメスについて、処置を行わない4週間の回復期間を与えた。対照群を、投与期間中に、媒体対照により処置した。実験中の種々の時点において、末梢血中のHbを含む血液学的パラメータを、Bayer, ADVIA 120血液学分析器を使用して調査した。データは、群平均値を表し、エラーバーは、標準偏差(SD)を示す。加えて、[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンは、[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンで処置されたカニクイザルの末梢血サンプル中の骨髄赤芽球により発現された、切断型タンパク質である可溶性トランスフェリンレセプター(sTrfR)の用量依存的な減少を誘導した(図5)。この減少は、これらの細胞中への減少した鉄の取込みを示す。
図5】メスのカニクイザルでのsTrfRにおける[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンの効果。[4−(3−フルオロ−5−トリフルオロメチル−ピリジン−2−イル)−ピペラジン−1−イル]−[5−メタンスルホニル−2−((S)−2,2,2−トリフルオロ−1−メチル−エトキシ)−フェニル]−メタノンを、経口経管栄養経由でのカプセル剤により、群当たりに4匹のオス及び4匹のメスのカニクイザルに、対照媒体、1、3、及び9mg/kg/日の用量レベルで、36週間投与した。対照及び高用量群から性別当たりに追加の2匹の動物を、任意の知見の可逆性を評価するために、更に13週間の回復期の間維持した。末梢血サンプル中のsTfRの測定を、実験中のあらゆる状況で行った。測定を、質量分析法との組み合わせでSISCAPA(登録商標)ワークフローを使用する血清、血漿、及び血液中のヒトトランスフェリンレセプターの可溶性フラグメント(sTfR)を特定するのに設計された、SISCAPA Assay Technologies Inc.により開発されたアッセイ法を使用して行った。ヒトのアッセイ法を、カニクイザルのsTf測定に採用し、検証した。示されたデータは、群平均値を表し、エラーバーは、標準偏差を示す。
【0038】
医薬組成物
式I又はIIの化合物及びそれらの薬学的に許容し得る塩は、医薬として、例えば医薬製剤の形態で使用することができる。医薬製剤は、例えば、錠剤、コーティング錠剤、糖衣錠、硬及び軟ゼラチンカプセル剤、液剤、乳剤又は懸濁剤の形態で、経口投与され得る。しかし、投与は、例えば坐薬の形態で経直腸的に、又は例えば注射液の形態で非経口的に実施され得る。
【0039】
式I又はIIの化合物及び薬学的に許容し得る塩は、錠剤、コーティング錠剤、糖衣錠及び硬ゼラチンカプセル剤の製造のために、薬学的に不活性な、無機又は有機賦形剤と共に加工することができる。乳糖、トウモロコシデンプン又はその誘導体、タルク、ステアリン酸又はその塩等を、そのような賦形剤として、例えば、錠剤、糖衣錠及び硬ゼラチンカプセル剤向けに用いることができる。軟ゼラチンカプセル剤に適切な賦形剤は、例えば、植物油、ロウ、脂肪、半固体及び液体ポリオール等である。
【0040】
液剤及びシロップ剤の製造に適切な賦形剤は、例えば、水、ポリオール、ショ糖、転化糖、ブドウ糖等である。注射液に適切な賦形剤は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油等である。坐剤に適切な賦形剤は、例えば、天然又は硬化油、ロウ、脂肪、半液体又は液体ポリオール等である。
【0041】
更に、医薬製剤は、防腐剤、可溶化剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、甘味料、着色料、香味料、浸透圧を変えるための塩類、緩衝剤、マスキング剤又は抗酸化剤を含有することができる。それらは、他の治療上有用な物質も更に含有することができる。
【0042】
用量は、広い範囲内で変えることができ、当然それぞれの特定の症例における個別の要求に適合させなければならない。一般的に、経口投与の場合、一般式の化合物の、1人当たり約10〜1000mgの1日投与量が適切であるが、必要であれば上記の上限を超えることもできる。
【0043】
本発明による組成物の実施例は、非限定的に、下記のものである:
【0044】
例A
以下の組成の錠剤を常法で製造する:
【0045】
【表1】
【0046】
製造手順
1.成分1、2、3及び4を混合して、精製水で造粒する。
2.顆粒を50℃で乾燥する。
3.顆粒を適切な粉砕装置に通す。
4.成分5を加えて、3分間混合する;適切なプレス機で打錠する。
【0047】
例B−1
以下の組成のカプセル剤を製造する:
【0048】
【表2】
【0049】
製造手順
1.成分1、2及び3を適切なミキサーで30分間混合する。
2.成分4及び5を加えて、3分間混合する。
3.適切なカプセルに充填する。
【0050】
式I又はIIの化合物、乳糖及びトウモロコシデンプンは最初にミキサーで、次に粉砕機で混合する。この混合物をミキサーに戻す;タルクをそこに加え、充分に混合する。この混合物を機械で適切なカプセル、例えば、硬ゼラチンカプセルに充填する。
【0051】
例B−2
以下の組成の軟ゼラチンカプセル剤を製造する:
【0052】
【表3】
【0053】
【表4】
【0054】
製造手順
式I又はIIの化合物を他の成分の温溶融物に溶解して、この混合物を適切なサイズの軟ゼラチンカプセルに充填する。充填した軟ゼラチンカプセルは、常法により処理する。
【0055】
例C
以下の組成の坐剤を製造する:
【0056】
【表5】
【0057】
製造手順
坐剤用基剤はガラス又はスチール容器中で溶融し、充分に混合して、45℃に冷却する。その後すぐに、微粉化した式Iの化合物をそこに加えて、完全に分散するまで撹拌する。この混合物を適切なサイズの坐剤成形型に注ぎ入れ、冷却させる;次に坐剤を成形型から取り外し、個々にロウ紙又は金属箔に包装する。
【0058】
例D
以下の組成の注射液剤を製造する:
【0059】
【表6】
【0060】
製造手順
式I又はIIの化合物を、ポリエチレングリコール400及び注射用水(一部)の混合物に溶解する。酢酸によりpHを5.0に調整する。残量の水の添加により、容量を1.0mlに調整する。この溶液を濾過し、適切な過剰量を用いてバイアルに充填して滅菌する。
【0061】
例E
以下の組成のサッシェ剤を製造する:
【0062】
【表7】
【0063】
製造手順
式I又はIIの化合物を乳糖、微結晶セルロース及びカルボキシメチルセルロースナトリウムと混合して、水中のポリビニルピロリドンの混合物により造粒する。この顆粒をステアリン酸マグネシウム及び風味添加剤と混合してサッシェに充填する。
図1
図2
図3
図4
図5