(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下に、本実施の形態について説明する。なお、同一または相当する部分に同一の参照符号を付し、その説明を繰返さない場合がある。
【0024】
なお、以下に説明する実施の形態において、個数、量などに言及する場合、特に記載がある場合を除き、本発明の範囲は必ずしもその個数、量などに限定されない。また、以下の実施の形態において、各々の構成要素は、特に記載がある場合を除き、本発明にとって必ずしも必須のものではない。
【0025】
[実施の形態1]
<システムの全体構成>
図1および
図2を参照して、実施の形態1に従う計測システムの全体構成について説明する。
図1は、実施の形態1に従う計測システム1の全体構成を示す図である。
図2は、バッターの右手甲上に設定される相対座標系を説明するための図である。具体的には、
図2(a)は、バッターの右手甲側から視認したときの相対座標系を示す図である。
図2(b)は、バッターの右手甲の側面側から視認したときの相対座標系を示す図である。なお、本願明細書において、「手甲」部分とは、橈骨、尺骨を含む手首から五指の付け根までを含む手の甲部分である。
【0026】
図1を参照して、被験者のスイング時の動きを計測するための計測システム1は、端末装置10と、ピッチングマシン22に取り付けられたセンサ装置20と、被験者(バッター)の手甲に取り付けられたセンサ装置30と、バッターの腰部に取り付けられたセンサ装置40とを含む。実施の形態1では、被験者が左利きのバッターであるとする。また、ピッチングマシン22側からバッターに向かって対象物(ボール)が放たれ(発射され)、バッターが当該ボールに対して打球具(ここでは、バット)をスイングする場面を想定する。
【0027】
実施の形態1においては、端末装置10がスマートフォンである場合について説明する。ただし、端末装置10は、種類を問わず任意の装置として実現できる。例えば、端末装置10は、タブレット端末、PDA(Personal Digital Assistance)、ノートPC(personal Computer)、デスクトップPCなどであってもよい。
【0028】
端末装置10は、センサ装置20,30,40と無線通信可能に構成されている。たとえば、端末装置10は、Bluetooth(登録商標)、無線LAN(Local Area Network)、赤外線通信などを利用してセンサ装置20,30,40と通信する。なお、端末装置10は、USB(Universal Serial Bus)などを利用した有線通信が可能に構成されていてもよい。
【0029】
端末装置10は、センサ装置20から送信されるピッチングマシン22の動き情報を受信し、センサ装置30およびセンサ装置40の各々から送信されるバッターの動き情報を受信する。端末装置10は、これらの動き情報に基づいて所定の処理を実行し、処理結果をディスプレイに表示する。
【0030】
センサ装置20は、互いに直交する3軸(
図1におけるa軸,b軸,c軸)方向の加速度を計測可能な加速度センサとを含む。なお、センサ装置20は、互いに直交する3軸(
図1におけるa軸,b軸,c軸)まわりの角速度を計測可能な角速度センサを含んでいてもよい。
【0031】
センサ装置30は、互いに直交する3軸(
図2におけるX軸,Y軸,Z軸)まわりの角速度を計測可能な角速度センサと、互いに直交する3軸(
図2におけるX軸,Y軸,Z軸)方向の加速度を計測可能な加速度センサとを含む。
【0032】
センサ装置40は、互いに直交する3軸(
図1におけるX軸,Y軸,Z軸)まわりの角速度を計測可能な角速度センサと、互いに直交する3軸(
図1におけるX軸,Y軸,Z軸)方向の加速度を計測可能な加速度センサとを含む。
【0033】
図1を参照して、センサ装置20は、加速度センサにおける上記3軸(
図1におけるa軸,b軸,c軸)のうちの1つがボールの発射方向(
図1におけるa軸)に向くように、取付部材(図示しない)を介してピッチングマシン22に取り付けられる。なお、b軸は地面と平行な方向に延びる軸に設定され、c軸はa軸およびb軸の垂直方向に延びる軸に設定される。
【0034】
取付部材は、センサ装置20を所定の方向に沿ってピッチングマシン22に固定可能に構成されている。ピッチングマシン22に取り付けられたセンサ装置20は、ボールが放たれる(発射される)ときのピッチングマシン22の動きに関する動き情報を取得可能に構成されている。具体的には、この動き情報は、ピッチングマシン22の取付箇所における3軸(
図1におけるa軸,b軸,c軸)方向のそれぞれの加速度を含む。
【0035】
センサ装置40は、角速度センサおよび加速度センサにおける上記3軸のうちの1つがバッターの体軸方向(
図1におけるX軸:腰部から頭部方向に延びる軸)に向くように、腰部取付部材(図示しない)を介してバッターの腰部に取り付けられる。なお、Y軸はバッターのスイング方向に延びる軸に設定され、Z軸はX軸およびY軸の垂直方向に延びる軸に設定される。ここで、スイング方向とは、ボールが打ち出される方向(打球方向)である。
【0036】
腰部取付部材は、センサ装置40を所定の方向に沿ってバッターの腰部に固定可能に構成されている。バッターの腰部に取り付けられたセンサ装置40は、バッターのスイング時の腰部の動きに関する動き情報を取得可能に構成されている。具体的には、この動き情報は、腰部における3軸(
図1におけるX軸,Y軸,Z軸)のそれぞれのまわりの角速度および3軸方向の加速度を含む。
【0037】
図2を参照して、センサ装置30は、角速度センサおよび加速度センサにおける上記3軸のうちの1つがバッターの掌の中心から中指方向に延びる軸(
図2におけるX軸)に向くように、手甲取付部材(図示しない)を介してバッターの手甲に取り付けられる。なお、Y軸は直交するバッターの掌の幅方向に延びる軸に設定され、Z軸は手甲に直交する方向に延びる軸(掌から手甲に延びる軸)に設定される。
【0038】
手甲取付部材は、センサ装置30を所定の方向に沿ってバッターの手甲に固定可能に構成されている。バッターの手甲に取り付けられたセンサ装置30は、バッターのスイング時の手甲の動きに関する動き情報を取得可能に構成されている。具体的には、この動き情報は、手甲における3軸(
図2におけるX軸,Y軸,Z軸)のそれぞれのまわりの角速度および3軸方向の加速度を含む。
【0039】
なお、右利きバッターおよび左利きバッターに関わらず、右手甲と左手甲のどちらにセンサ装置30を取り付けて計測を行なってもよい。
【0040】
ここで、センサ装置20,30,40は、互いに時刻同期がとられた状態であるとする。例えば、端末装置10は、時刻同期のための同期信号を生成して、当該同期信号を各センサ装置20,30,40に送信する。これにより、各センサ装置20,30,40において取得される各センサデータに関連付けられる時刻データが同期される。なお、その他の公知の手法を用いて、センサ装置20,30,40における時刻同期を実現する構成であってもよい。
【0041】
<システムの動作概要>
図3は、実施の形態1に従う計測システム1の動作概要を説明するためのフローチャートである。
【0042】
図3を参照して、実施の形態1に従う計測システム1では、まず、センサ装置20は、ピッチングマシン22側から被験者(バッター)に向かってボールが発射されるときのピッチングマシン22の動き情報(装着位置における加速度データ)を検出(取得)する(ステップS100)。
【0043】
次に、ピッチングマシン22から発射されたボールに対してバッターがバットをスイングすると、センサ装置30はバッターの手甲部における動き情報(加速度データ)を取得する(ステップS110)。また、センサ装置40はバッターの腰部における動き情報(角速度データ)を取得する(ステップS120)。バットは、バッター自身が用意したものや他の者が用意したものなど、いずれのバットであってもよい。
【0044】
次に、センサ装置20,30,40の各々は、取得した動き情報を端末装置10に送信する(ステップS130)。
【0045】
次に、端末装置10は、センサ装置20,30,40の各々から送信された動き情報を受信して、各動き情報に基づいてバッターのスイングを評価するための少なくとも1つの評価パラメータを算出する(ステップS140)。
【0046】
そして、端末装置10は、算出した少なくとも1つの評価パラメータを出力する(ステップS150)。具体的には、端末装置10は、当該評価パラメータをディスプレイに表示する。なお、端末装置10は、当該評価パラメータと予め定められたルールとに基づいて、バッターのスイングレベルを評価し、評価パラメータとともにスイングレベルをディスプレイに表示してもよい。たとえば、予め定められたルールとは、評価パラメータの各々について、当該評価パラメータの値に応じて作成されたスイング評価レベルである。
【0047】
<ハードウェア構成>
(端末装置10)
図4は、実施の形態1に従う端末装置10のハードウェア構成を示すブロック図である。
図4を参照して、端末装置10は、主たる構成要素として、CPU(Central Processing Unit)102と、メモリ104と、タッチパネル106と、ボタン108と、ディスプレイ110と、無線通信部112と、通信アンテナ113と、メモリインターフェイス(I/F)114と、スピーカ116と、マイク118と、通信インターフェイス(I/F)120とを含む。
【0048】
CPU102は、メモリ104に記憶されたプログラムを読み出して実行することで、端末装置10の各部の動作を制御する。より詳細にはCPU102は、当該プログラムを実行することによって、後述する端末装置10の処理(ステップ)の各々を実現する。
【0049】
メモリ104は、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read-Only Memory)、フラッシュメモリなどによって実現される。メモリ104は、CPU102によって実行されるプログラム、またはCPU102によって用いられるデータなどを記憶する。
【0050】
タッチパネル106は、表示部としての機能を有するディスプレイ110上に設けられており、抵抗膜方式、静電容量方式などのいずれのタイプであってもよい。
【0051】
ボタン108は、端末装置10の表面に配置されており、ユーザからの指示を受け付けて、CPU102に当該指示を入力する。
【0052】
無線通信部112は、通信アンテナ113を介して移動体通信網に接続し無線通信のための信号を送受信する。これにより、端末装置10は、例えば、LTE(Long Term Evolution)などの移動体通信網を介して所定の通信装置との通信が可能となる。
【0053】
メモリインターフェイス(I/F)114は、外部の記憶媒体115からデータを読み出す。CPU102は、メモリインターフェイス114を介して外部の記憶媒体115に格納されているデータを読み出して、当該データをメモリ104に格納する。CPU102は、メモリ104からデータを読み出して、メモリインターフェイス114を介して当該データを外部の記憶媒体115に格納する。
【0054】
なお、記憶媒体115としては、CD(Compact Disc)、DVD(Digital Versatile Disk)、BD(Blu-ray(登録商標) Disc)、USB(Universal Serial Bus)メモリ、メモリカード、FD(Flexible Disk)、ハードディスクなどの不揮発的にプログラムを格納する媒体が挙げられる。
【0055】
スピーカ116は、CPU102からの命令に基づいて音声を出力する。マイク118は、端末装置10に対する発話を受け付ける。
【0056】
通信インターフェイス(I/F)120は、たとえば、センサ装置20,30,40との間でデータを送受信するための通信インターフェイスであり、アダプタやコネクタなどによって実現される。なお、通信方式としては、たとえば、Bluetooth(登録商標)、無線LANなどによる無線通信あるいはUSBを利用した有線通信である。
【0057】
(センサ装置20,30,40)
図5は、実施の形態1に従うセンサ装置20,30,40のハードウェア構成を示すブロック図である。
図5を参照して、センサ装置20,30,40は、主たる構成要素として、各種処理を実行するためのCPU202と、CPU202によって実行されるプログラム、動き情報などを格納するためのメモリ204と、3軸方向の加速度を計測可能な加速度センサ206と、3軸のそれぞれのまわりの角速度を計測可能な角速度センサ208と、端末装置10と通信するための通信インターフェイス(I/F)210と、センサ装置20,30,40の各種構成要素に電力を供給する蓄電池212とを含む。
【0058】
<評価パラメータの算出方式>
次に、本実施の形態に従う評価パラメータの算出方式について説明する。
【0059】
バッターは、ピッチャーが投げる球種、速度、コースを見極めてスイングする必要がある。一般的には、ピッチャーから投げ出された(リリースされた)ボールが、バッターの打撃位置に到達するまでの時間は、速度および球種にも依存するが、約0.4秒〜0.6秒程度と短い。そのため、バッターのスイング開始タイミングがわずかでもずれると、振り遅れ等が生じて上手く打撃できなくなる。したがって、バッターのスイングを評価する上で、当該開始タイミングは極めて重要な指標となる。
【0060】
本発明者が上記の開始タイミングに着目して鋭意検討した結果、バッターのスイングを評価する際に重要であることが判明した評価パラメータの算出方式について説明する。
【0061】
図6は、複数の動き情報から算出される評価パラメータの算出方式を説明するための図である。具体的には、
図6(a)は、被験者が野球の熟練者である場合における複数の動き情報の時間変化を示す図である。
図6(b)は、被験者が野球の未熟練者である場合における複数の動き情報の時間変化を示す図である。
図6(a)および
図6(b)の横軸は時刻(ms)を示し、縦軸(左側)は加速度(G)を示し、縦軸(右側)は角速度(deg/s)を示している。なお、「熟練者」としては野球経験が3年以上のバッターが選定されており、「未熟練者」としては3年未満のバッターが選定されている。
【0062】
図6(a),
図6(b)中のグラフ61A,61B(実線)は、ピッチングマシン22におけるボールの発射方向(
図1中のa軸方向)の加速度を示している。グラフ61A,61Bの元データは、センサ装置20により取得される。
【0063】
グラフ62A,62B(一点鎖線)は、それぞれ熟練者,未熟練者の手甲部における3軸方向の合成加速度を示している。グラフ62A,62Bの元データは、センサ装置30により取得される。
【0064】
グラフ63A,63B(点線)は、それぞれ熟練者,未熟練者の腰部における体軸(
図1中のX軸)まわりの角速度を示している。グラフ63A,63Bの元データは、センサ装置40により取得される。
【0065】
端末装置10は、センサ装置20により取得された動き情報に基づいてボールが発射されるタイミング(発射タイミング)を算出する。端末装置10は、センサ装置30により取得された動き情報に基づいて、バッターがスイングするときに当該バッターの手甲部が始動するタイミング(手甲部始動タイミング)を算出する。端末装置10は、センサ装置40により取得された動き情報に基づいて、バッターがスイングするときに当該バッターの腰部が始動するタイミング(腰部始動タイミング)を算出する。
【0066】
そして、端末装置10は、評価パラメータP1として、発射タイミングと手甲部始動タイミングとの時間差を算出し、評価パラメータP2として、発射タイミングと腰部始動タイミングとの時間差を算出する。
【0067】
具体的には、発射タイミングは、センサ装置20により計測されたボールの発射方向の加速度の絶対値が閾値Th1(例えば、10G)に到達した時刻T
1である。手甲部始動タイミングは、センサ装置30により計測された手甲部における合成加速度の絶対値が閾値Th2(例えば、8G)に到達した時刻T
2である。そのため、評価パラメータP1は、時刻T
1と時刻T
2との時間差T
12となる。
【0068】
また、腰部始動タイミングは、センサ装置40により計測された腰部における体軸まわりの角速度の絶対値が閾値Th3(例えば、230deg/s)に到達した時刻T
3である。そのため、評価パラメータP2は、時刻T
1と時刻T
3との時間差T
13となる。
【0069】
より詳細には、発射タイミングである時刻T
1は、ピッチングマシン22からバッターに向かってボールが発射(リリース)される瞬間の時刻を示している。ピッチングマシン22からボールが発射される瞬間においては、大きな運動量が失われるため反作用が働き、発射方向の加速度が急激に変化する。そのため、加速度が急峻に変化してある閾値よりも大きくなった(加速度の絶対値が閾値Th1に到達した)時刻T
1は、ボールが発射される瞬間の時刻とみなすことができる。
【0070】
閾値Th1は、ボールの発射に伴う加速度の急峻変化とみなすことができる値に設定され、例えば、10Gに設定される。なお、閾値Th1の設定方法は、ピッチングマシン22によるボールの発射時に得られる加速度を実測することにより設定されてもよいし、シミュレーション等により設定されてもよい。
【0071】
手甲部始動タイミングである時刻T
2は、ピッチングマシン22からバッターに向かって発射されたボールに対して、被験者がスイングするときの手甲部の始動時刻を示している。バッターがスイングを開始する際には、スイング動作に伴って手甲部において大きな加速度が発生する。そのため、3軸方向の合成加速度(以下、単に「3軸合成加速度」とも称する。)が急峻に変化してある閾値以上になった(加速度の絶対値が閾値Th2に到達した)時刻T
2は、バッターの手甲部に着目した場合のスイング開始時刻とみなすことができる。なお、3軸合成加速度を用いることにより、加速度センサの装着方向、あるいは使用中の装着方向のズレを考慮する必要がなく実用的である。
【0072】
閾値Th2は、バッターのスイング動作による加速度の急峻変化とみなすことができる値に設定され、例えば、8Gに設定される。なお、閾値Th2は、バッターのスイング開始時に得られる手甲部の加速度を実測することにより予め設定されてもよいし、シミュレーション等により予め設定されてもよい。
【0073】
腰部始動タイミングである時刻T
3は、ピッチングマシン22からバッターに向かって発射されたボールに対して、バッターがスイングするときの腰部の始動時刻を示している。具体的には、バッターのスイング開始時には、腰部における体軸まわりの回旋運動により大きな角速度が発生する。そのため、体軸まわりの角速度が急峻に変化してある閾値以上になった(角速度の絶対値が閾値Th3に到達した)時刻T
3は、バッターの腰部に着目した場合のスイング開始時刻とみなすことができる。
【0074】
閾値Th3は、バッターのスイング動作による角速度の急峻変化とみなすことができる値に設定され、例えば、230deg/sに設定される。なお、閾値Th3は、バッターのスイング開始時に発生する腰部の角速度を実測することにより予め設定されてもよいし、シミュレーション等により予め設定されてもよい。
【0075】
図6(a)に示す熟練者の場合、ボールが発射されてからバッターの手甲部が始動するまでの反応時間である時間差T
12(=T
2−T
1)は、308msである。時間差T
12が短いほど発射されたボールに対してバッターの手甲部が早く反応できていると考えられるため、スイングレベルが高いと推定される。このことは、熟練者における時間差T
12=308ms(
図6(a)参照)が、未熟練者における時間差T
12=378ms(
図6(b)参照)よりも短くなっていることからもわかる。
【0076】
また、
図6(a)に示す熟練者の場合、ボールが発射されてからバッターの腰部が始動するまでの反応時間である時間差T
13(=T
3−T
1)は、278msである。時間差T
13が短いほど発射されたボールにバッターの腰部が早く反応できていると考えられるため、スイングレベルが高いと推定される。このことは、熟練者における時間差T
13=278ms(
図6(a)参照)が、未熟練者における時間差T
13=293ms(
図6(b)参照)よりも短くなっていることからもわかる。
【0077】
ここで、複数の熟練者および未熟練者にバットをスイングさせて、時間差T
12および時間差T
13を計測した結果について説明する。
【0078】
複数の熟練者および未熟練者における時間差データを表1に示す。表1には、No.1〜No.8までの8名の熟練者、およびNo.9〜No.14までの6名の未熟練者にスイングさせて、各々の時間差T
12および時間差T
13を計測した結果が示されている。なお、表1に示された各バッターにおける時間差T
12,T
13の計測結果は、各バッターが4回スイングした際に計測される4回分の時間差T
12,T
13の平均値である。
【0080】
表1を参照すると、熟練者の方が未熟練者よりも、時間差T
12および時間差T
13が短い傾向にあることがわかる。続いて、表1に基づいて算出された、熟練者および未熟練者の各々についての平均値および標準偏差の算出結果を表2に示す。具体的には、熟練者についての各時間差T
12,T
13の平均値および標準偏差は、8名の熟練者の各時間差に基づいて算出される。また、未熟練者についての時間差T
12,T
13の平均値および標準偏差は、6名の熟練者の各時間差に基づいて算出される。
【0082】
図7は、熟練者および未熟練者との時間差の傾向を示す図である。具体的には、
図7の内容は、表2の内容をグラフ化して示したものに相当する。表2および
図7を参照すると、熟練者の方が未熟練者よりも、時間差T
12が平均で41.6ms短く、時間差T
13が平均で41.8ms短いことがわかる。また、時間差T
12,T
13は、統計的5%有意水準で熟練者と未熟練者とでは有意な差があった。このことから、熟練者の方が有意に、手甲部および腰部ともに短い時間で始動しているといえる。したがって、時間差T
12および時間差T
13は、スイング(技量)を評価するためのパラメータとして用いることができる。
【0083】
<判別方式>
ここでは、熟練者および未熟練者の判別方式について説明する。以下の説明では、表1に示す8名の熟練者を「熟練者群」と称し、6名の未熟練者を「未熟練者群」と称する。表1に示すデータに基づいて、熟練者群および未熟練者群の分散共分散行列の等分散性に関する検定を行ったところ、P=0.607が得られた。ここで、危険率5%とした場合には、P値が0.05よりも小さい場合に有意となるため、検定は有意でなく、熟練者群および未熟練者群は等分散ということになる。したがって、表1に示すデータに基づいて、以下の式(1)のような線形判別関数が得られる。
【0084】
Z=-0.03033×T
12−0.06925×T
13+29.95099・・・(1)
ここで、式(1)を用いると、Z≧0の場合には「熟練者群」と判別され、Z<0の場合には「未熟練者群」と判別することができる。
【0085】
なお、マハラノビスの平方距離D
2を用いると誤判別率Peは以下の式(2)のように表わすことができる。φは、標準正規分布の下側確率を示す。
【0086】
Pe=φ(-D/2) ・・・(2)
ここで、表1のデータを用いると、マハラノビスの平方距離D
2=4.1562と算出されるため、この値と式(2)とを用いるとPe=0.1540と算出される。これにより、式(1)を用いた場合の判別結果の正判別率は84.60%と推定される。
【0087】
ここで、式(1)の判別関数から得られるZを算出するとともに、この判別関数が妥当であるか否かを検証したところ、表3のような結果が得られた。
【0089】
表3によると、熟練者群についての正判別率が75%であり、未熟練者群についての正判別率が83.3%であることから、全体の正判別率は78.6%となる。一般的に、判別分析では、正判別率が75%を超える場合に判別関数は妥当性があるとされるため、上記判別関数は妥当であると判断できる。すなわち、Zの値が正であるか否かは、熟練者なのか未熟練者なのかを識別するための有効な指標であるといえる。なお、上記正判別率(78.6%)は、マハラノビスの平方距離を用いた場合に推定された正判別率(84.6%)と比較的近い値となっている。
【0090】
次に、他の判別方式として、時間差T
12と時間差T
13とを単独で用いて判別する方式について説明する。具体的には、熟練者および未熟練者の各時間差の平均値を閾値として判別する方式である。
【0091】
詳細には、時間差T
12を用いる場合の閾値U1は346.0(=(325.2+366.8)/2)となる。すなわち、T
12<U1が成立する場合には熟練者と判別され、T
12≧U1が成立する場合には未熟練者と判別される。また、時間差T
13を用いる場合の閾値U2は281.0(=(260.1+301.9)/2)となる。すなわち、T
13<U2が成立する場合には熟練者と判別され、T
13≧U2が成立する場合には未熟練者と判別される。この判別方式を用いた場合の妥当性について検証したところ、表4のような結果が得られた。
【0093】
表4によると、時間差T
12を用いた場合には、熟練者群についての正判別率が75%であり、未熟練者群についての正判別率が66.6%であることから、全体の正判別率は71.4%となる。時間差T
13を用いた場合には、熟練者群についての正判別率が75%であり、未熟練者群についての正判別率が83.3%であることから、全体の正判別率は84.6%となる。これにより、時間差T
13を用いた判別方式の方が正判別率が良いことがわかる。
【0094】
腰部における反応時間(時間差T
13)を確認した方が正判別率は高いものの、手甲部での判別方式でも比較的高い正判別率が得られている。また、手甲部での評価は簡便性に優れているため、簡易計測という観点からは効果的であるといえる。
【0095】
なお、No.11の被験者(バッター)では、手甲部での判別結果では誤判別されているが、腰部での判別結果では正判別されている。これは、当該被験者のスイングが手打ちになっていることから、手甲部の反応時間は早いが腰部の反応時間は遅くなっていると考えられる。
【0096】
上述の判別方式を用いて、被験者のスイングの上手さ(スイングレベル)を判定するルールを作成してもよい。具体的には、判別関数を用いる場合には、計測された時間差T
12,T
13を式(1)に代入して、Z≧0の場合には被験者を「熟練者」と判定し、Z<0の場合には被験者を「未熟練者」と判定するルールが考えられる。
【0097】
時間差T
12の平均値を用いる場合には、被験者の時間差T
12を計測し、T
12<U1が成立する場合には被験者を「熟練者」と判定し、T
12≧U1が成立する場合には未熟練者と判定するルールが考えられる。同様に、時間差T
13の平均値を用いる場合には、被験者の時間差T
13を計測し、T
13<U1が成立する場合には被験者を「熟練者」と判定し、T
12≧U1が成立する場合には未熟練者と判定するルールが考えられる。
【0098】
なお、時間差T
12および時間差T
13の両方を用いて、T
12<U1が成立し、かつT
13<U2が成立する場合には被験者を「熟練者」と判定し、それ以外の場合には被験者を「未熟練者」と判定するルールであってもよい。
【0099】
<処理手順>
次に、
図8および
図9を参照して、計測システム1が備えるセンサ装置30,40および端末装置10の詳細な処理手順について説明する。
【0100】
(センサ装置20,30,40)
センサ装置20,30,40の処理手順は基本的に同様であるため、ここでは、主にセンサ装置20の処理手順について説明する。
【0101】
図8は、実施の形態1に従うセンサ装置20の処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、CPU202がメモリ204に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0102】
まず、センサ装置20がピッチングマシン22の所定取付箇所に取り付けられて、センサ装置20の電源スイッチがONされる(ステップS10)。
【0103】
次に、センサ装置20が取り付けられたピッチングマシン22からボールが発射されると、CPU202は、ピッチングマシン22の取付箇所の動き情報(以下「PM情報」とも称する。)として、ボールの発射方向(
図1中のa軸方向)の加速度を取得する(ステップS11)。具体的には、CPU202は、加速度センサ206による加速度に対応する信号の入力を受け付ける。CPU202は、入力される信号に基づいて、当該加速度を算出することでPM情報を取得する。
【0104】
CPU202は、通信インターフェイス210を介して取得したPM情報を端末装置10に送信して(ステップS12)、処理を終了する。
【0105】
なお、センサ装置30が実行する処理手順では、上記のステップS10において、バッターの手甲に取り付けられたセンサ装置30の電源スイッチがONされ、上記のステップS11において、CPU202は、バッターのスイング時の手甲の動き情報(手甲情報)を取得する。そして、上記のステップS12において、CPU202は、通信インターフェイス210を介して取得した手甲情報を端末装置10に送信する。手甲情報は、バッターの手甲部の3軸方向のそれぞれの加速度を含む。
【0106】
同様に、センサ装置40が実行する処理手順では、上記のステップS10において、バッターの手甲に取り付けられたセンサ装置40の電源スイッチがONされ、上記のステップS11において、CPU202は、バッターのスイング時の腰部の動き情報(腰部情報)を取得する。そして、上記のステップS12において、CPU202は、通信インターフェイス210を介して取得した腰部情報を端末装置10に送信する。腰部情報は、バッターの腰部の体軸まわり(
図1中のX軸まわり)の角速度を含む。
【0107】
(端末装置10)
図9は、実施の形態1に従う端末装置10の処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、CPU102がメモリ104に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0108】
図9を参照して、端末装置10のCPU102は、通信インターフェイス120を介して、センサ装置20からPM情報を受信する(ステップS21)。続いて、CPU102は、通信インターフェイス120を介してセンサ装置30から手甲情報を受信したか否かを判断する(ステップS23)。手甲情報を受信している場合には(ステップS23においてYES)、CPU102は、センサ装置40から腰部情報を受信したか否かを判断する(ステップS25)。
【0109】
腰部情報を受信している(すなわち、手甲情報および腰部情報を受信している)場合には(ステップS25においてYES)、CPU102は、受信したPM情報、手甲情報および腰部情報に基づいて、評価パラメータとして、時間差T
12および時間差T
13を算出して(ステップS27)、後述するステップS35の処理を実行する。
【0110】
ここで、ステップS27における処理を具体的に説明する。CPU102は、PM情報に含まれるボールの発射方向の加速度と、手甲情報に含まれる手甲部における3軸方向の加速度とに基づいて、当該発射方向の加速度の絶対値が閾値Th1に到達した時刻T
1と、3軸方向の合成加速度の絶対値が閾値Th2に到達した時刻T
2との時間差T
12を算出する。また、CPU102は、PM情報に含まれるボールの発射方向の加速度と、腰部情報に含まれる体軸まわりの角速度とに基づいて、当該発射方向の加速度の絶対値が閾値Th1に到達した時刻T
1と、当該角速度が閾値Th3に到達した時刻T
3との時間差T
13を算出する。
【0111】
ステップS25において、腰部情報を受信していない(すなわち、手甲情報のみを受信している)場合には(ステップS25においてNO)、CPU102は、受信した手甲情報に基づいて、評価パラメータとして、時間差T
12を算出して(ステップS29)、後述するステップS35の処理を実行する。
【0112】
次に、ステップS23において、手甲情報を受信していない場合(ステップS23においてNO)、CPU102は腰部情報を受信したか否かを判断する(ステップS31)。腰部情報を受信している(すなわち、腰部情報のみを受信している)場合には(ステップS31においてYES)、CPU102は、時間差T
13を算出して(ステップS33)、後述するステップS35の処理を実行する。これに対して、腰部情報を受信していない(すなわち、手甲情報および腰部情報のいずれも受信していない)場合には、CPU102は、ステップS35の処理を実行することなく処理を終了する。
【0113】
CPU102は、算出された結果を出力する(ステップS35)。具体的には、CPU102は、ステップS27において時間差T
12,T
13を算出している場合には、これらの評価パラメータをディスプレイ110に表示する。CPU102は、ステップS29において時間差T
12を算出している場合には、この評価パラメータをディスプレイ110に表示する。また、CPU102は、ステップS33において時間差T
13を算出している場合には、この評価パラメータをディスプレイ110に表示する。
【0114】
なお、CPU102は、算出された結果から被験者のスイングレベルを評価して、その評価結果をディスプレイ110に表示してもよい。具体的には、CPU102は、算出された時間差T
12および時間差T
13の少なくとも一方と上述したルールとに基づいて、被験者のスイングレベルが「熟練者」レベルなのか「未熟練者」レベルなのかを評価して、その評価結果(スイングレベル)をディスプレイ110に表示する。
【0115】
CPU102は、各々の評価結果を別々に表示してもよいし、各々の評価結果を総合して1つの評価結果を表示してもよい。すなわち、被験者に対して、自身のスイングレベルを報知可能な表示態様であればよい。
【0116】
[実施の形態2]
実施の形態1に従う計測システム1では、端末装置10がセンサ装置20,30,40から受信した動き情報に基づいて、評価パラメータを算出し、その算出結果を出力する場合について説明した。実施の形態2では、センサ装置が有するセンサ機能を端末装置が有しており、被験者のスイング時の動きを計測するための計測装置として機能する構成について説明する。なお、実施の形態2では、実施の形態1との相違点について説明し、同じ構成および機能についてはその詳細な説明は繰り返さない。
【0117】
図10は、実施の形態2に従う計測システム2の全体構成を示す図である。計測システム2は、バッターの腰部に取り付けられた端末装置10Aと、ピッチングマシン22に取り付けられたセンサ装置20と、バッターの手甲に取り付けられたセンサ装置30とを含む。
【0118】
端末装置10Aは、実施の形態1におけるセンサ装置40の代わりに腰取付部材を介してバッターの腰部に取り付けられる。そのため、端末装置10Aは、スマートフォンあるいはタブレット端末など携帯できるものが好ましい。すなわち、端末装置10Aは、バッターの腰部に取り付けられ、バッターの動きを計測するための計測装置として機能する。
【0119】
図11は、実施の形態2に従う端末装置10Aのハードウェア構成を示す図である。端末装置10Aは、主たる構成要素として、CPU102と、メモリ104と、タッチパネル106と、ボタン108と、ディスプレイ110と、無線通信部112と、通信アンテナ113と、メモリインターフェイス(I/F)114と、スピーカ116と、通信インターフェイス(I/F)118と、マイク118と、加速度センサ206と、角速度センサ208とを含む。
【0120】
加速度センサ206および角速度センサ208は、被験者のスイング時の腰部の動きに関する動き情報を取得することが可能な検出部として機能する。なお、端末装置10Aのその他の構成については、
図4で示す端末装置10の構成と同様であるため、その詳細な説明は繰り返さない。
【0121】
図12は、実施の形態2に従う端末装置10Aの処理手順を示すフローチャートである。以下の各ステップは、CPU102がメモリ104に格納されたプログラムを実行することによって実現される。
【0122】
まず、端末装置10Aがバッターの腰部に取り付けられて、端末装置10Aの電源スイッチがONされる(ステップS41)。続いて、端末装置10AのCPU102は、通信インターフェイス120を介して、センサ装置20からPM情報を受信する(ステップS43)。
【0123】
次に、端末装置10Aが取り付けられたバッターがスイングすると、CPU102は、角速度センサ208を介して、バッターのスイング時の腰部情報に含まれる体軸まわりの角速度を取得する(ステップS45)。
【0124】
次に、CPU102は、通信インターフェイス120を介して、バッターの手甲に取り付けられたセンサ装置30により取得された手甲情報を受信したか否かを判断する(ステップS47)。手甲情報を受信している場合には(ステップS47においてYES)、CPU102は、PM情報と、腰部情報と、手甲情報とに基づいて、時間差T
12,T
13,を算出する(ステップS49)。そして、CPU102は、その算出結果を表示して(ステップS53)、処理を終了する。
【0125】
これに対して、手甲情報を受信していない場合には(ステップS47においてNO)、CPU102は、PM情報および腰部情報に基づいて、時間差T
13を算出して(ステップS51)、その算出結果を表示する(ステップS53)。そして、CPU102は処理を終了する。
【0126】
実施の形態2では、端末装置10Aがバッターの腰部に取り付けられる場合について説明したが、実施の形態1におけるセンサ装置30の代わりに手甲に取り付けられる場合であってもよい。この場合、バッターの腰部にはセンサ装置40が取り付けられる。そして、端末装置10Aは、取得した手甲情報と、センサ装置40から受信した腰部情報とに基づいて、少なくとも1つの評価パラメータを算出する。
【0127】
[その他の実施の形態]
ここでは、上述した実施の形態の変形例および特徴点などを列挙する。
【0128】
(1)上述した実施の形態においては、被験者の腰部および手甲にセンサ機能を有する装置を取り付ける構成について説明したが、これに限られない。たとえば、被験者の手甲部のみ(あるいは腰部のみ)にセンサ装置を取り付けて、時間差T
12(あるいは時間差T
13)を算出して、算出結果を出力する構成であってもよい。
【0129】
(2)上述した実施の形態においては、ピッチングマシン22からボールが発射される構成について説明したが、これに限られない。例えば、ピッチングマシンの代わりに人(ピッチャー)が被験者に向かってボールを投じる構成であってもよい。この場合、センサ装置20は、ピッチャーの手甲部に取り付けられ、ピッチャーによりボールが投じられる方向の加速度を取得する。このように、被験者の相手は、人(ピッチャー)であってもよく、装置(ピッチングマシン)には限られない。
【0130】
(3)上述した実施の形態においては、センサ装置20がピッチングマシン22に取り付けられる構成について説明したが、これに限られない。例えば、センサ装置20は、ボールの内部に取り付けられる構成(すなわち、ボールに内蔵されている構成)であってもよい。
【0131】
この場合、加速度センサにおける3軸方向のうちの1つ(例えば、a軸)の方向と、ボールが投じられる方向とを合わせるため、例えば、ピッチャーがa軸方向の向きを把握できるようにボールに目印をつけておき、ピッチャーによりa軸方向にボールが投じられる。これにより、ボールが放たれるタイミング(すなわち、ボールのリリースタイミング)は、ボールが放たれる方向(ここでは、a軸方向)の加速度の絶対値が閾値Th1に到達した時刻として算出できる。
【0132】
ただし、加速度センサの3軸方向のうちの1つの方向を、ボールが放たれる方向(すなわち、ボールが投じられる方向)に合わせるのが難しい場合もある。そこで、以下のような方式によりボールが放たれるタイミングを算出してもよい。
【0133】
図13は、ボールに内蔵されたセンサ装置20により取得される加速度の時間変化を示す図である。
図13に示される加速度は、3軸のうちの任意の1軸(ここでは、a軸とする)である。ここでは、センサ装置20が内蔵されたボールをピッチャーが投げて、相手が当該ボールをキャッチする場面を想定する。
【0134】
図13を参照して、センサ装置20は、サンプリング周期(例えば、2ms)ごとにa軸方向の加速度を時系列に検出することにより、
図13に示すような加速度の時系列データを取得する。
【0135】
端末装置10は、センサ装置20により取得された動き情報(すなわち、
図13中の加速度の時系列データ)を受信する。端末装置10は、現在のサンプリング時刻t(m)において検出された加速度K(m)と、1サンプリング周期前のサンプリング時刻t(m−1)において検出された加速度K(m−1)との差分を順次算出する。
【0136】
端末装置10は、この差分が閾値Th4(例えば、2G)以上となるサンプリング時刻t(m)を、ボールが放たれたタイミングとして算出する。
図13の例では、時刻T
4が、ボールが放たれたタイミングとして算出されている。
【0137】
ボールが放たれた後、空中に存在している期間では、この差分は閾値Th4未満となる。そして、端末装置10は、差分は閾値Th4未満となる状態を経た後、閾値Th5(例えば、45G)以上となるサンプリング時刻t(m)を、ボールがキャッチされたタイミングとして算出する。
図13の例では、時刻T
5が、ボールがキャッチされたタイミングとして算出されている。上記方式によると、ピッチャーは、加速度センサの軸方向を意識することなくボールを投じることができる。
【0138】
(4)上述した実施の形態においては、センサ装置30を被験者の手甲部に取り付ける構成について説明したが、これに限られない。例えば、センサ装置30は、被験者が用いる打球具(例えば、バット)のグリップ端に取り付けられる構成であってもよい。この場合、センサ装置30は、バットのスイング中にも動かないように強固にグリップ端に固定される。好ましくは、センサ装置30に含まれる加速度センサは、バットの長軸回りの回転による遠心加速度の影響を除外するため、バットの長軸上に配置される。
【0139】
(5)上述した実施の形態においては、評価パラメータまたはスイングレベルをディスプレイに表示する構成について説明したが、これに限られない。たとえば、評価パラメータまたはスイングレベルをスピーカなどで音声により被験者に報知する構成であってもよい。
【0140】
(6)上述した実施の形態においては、端末装置は、センサ装置から送信されてきた動き情報を受信して、当該動き情報に基づいて、評価パラメータを算出する場合について説明したが、これに限られない。たとえば、端末装置は、タッチパネルまたはボタンを介して、ユーザからセンサ装置で取得された動き情報の入力を受け付ける構成であってもよい。
【0141】
(7)上述した実施の形態においては、端末装置10は、被験者がスイングするときの手甲部および腰部の始動タイミングを、それぞれ手甲部における合成加速度および腰部における体軸まわりの角速度に基づいて算出する構成について説明した。スイング時においては、手甲部の動きは並進運動が支配的であり、腰部の動きは回転運動が支配的であるため、当該構成によると精度よく手甲部および腰部の始動タイミングを算出できると考えられる。
【0142】
しかし、精度が多少落ちてもよい場合には、手甲部の始動タイミングを手甲部における合成角速度によって算出する構成であってもよいし、腰部の始動タイミングを腰部の合成加速度によって算出する構成であってもよい。例えば、角速度センサよりも加速度センサの方が安価である。そのため、手甲部および腰部のそれぞれの始動タイミングを各部における合成加速度によって算出する構成を採用すれば、コストの低減を図ることができる。
【0143】
(8)上述した実施の形態においては、手甲部始動タイミングは、バッターの手甲部における3軸方向の合成加速度の絶対値が閾値Th2に到達した時刻T
2である構成について説明したが、当該構成に限られない。例えば、手甲部始動タイミングは、手甲部における1軸方向の加速度の絶対値が閾値Thxに到達した時刻であってもよいし、手甲部における2軸方向の合成加速度の絶対値が閾値Thyに到達した時刻であってもよい。この場合、加速度センサの装着方向、あるいは使用中の装着方向のズレを考慮すればよい。
【0144】
このことから、手甲部始動タイミングは、3軸方向のうちの少なくとも1軸方向の合成加速度の絶対値が所定の閾値に到達した時刻であればよい。なお、閾値Thxおよび閾値Thyは、バッターのスイング開始時に得られる手甲部の加速度を実測することにより予め設定されてもよいし、シミュレーション等により予め設定されてもよい。
【0145】
(9)上述した実施の形態においては、被験者がバッターであり、バットのスイング時の動きを計測する場合について説明したが、これに限られない。野球(またはソフトボール等)のように対戦型であって、相手側から発射または投じられた対象物(球体等)に素早く反応してスイングすることが求められるスポーツ(例えば、テニス、卓球、バドミントン、クリケット等)であれば、被験者のスイング時の動きを計測し、スイング評価を行なうことが可能である。
【0146】
また、対戦型であって、相手側から放たれた対象物に素早く反応するスポーツの被験者の動きを評価することもできる。本願発明者らは、このようなスポーツとして、例えば、サッカーを選定し、以下のような評価実験を行なった。
【0147】
被験者の動きを計測するための計測システムは、端末装置10と、サッカーボールの発射装置に取り付けられたセンサ装置Xa(
図1のセンサ装置20に対応)と、被験者の腰部に取り付けられたセンサ装置Xb(
図1のセンサ装置40に対応)と、被験者の足部(例えば、足首)に取り付けられたセンサ装置Xcとを含む。なお、各センサ装置Xa〜Xcの機能およびハードウェア構成は、センサ装置20〜40と同様である。
【0148】
センサ装置Xaは、加速度センサにおける3軸のうちの1つがボールの発射方向に向くように、取付部材を介して発射装置に取り付けられる。センサ装置Xbは、角速度センサおよび加速度センサにおける3軸のうちの1つが被験者の体軸方向に向くように、被験者の腰部に取り付けられる。センサ装置Xcは、角速度センサおよび加速度センサにおける3軸のうちの1つが被験者の下腿の長手方向に沿うように、被験者の足部に取り付けられる。
【0149】
被験者としては、サッカー経験者である熟練者と、サッカー未経験者である未熟練者とが選定された。熟練者および未熟練者の各々は、発射装置から所定距離(例えば、5.0m)離れたところに立ち、ランダムな方向に発射されるサッカーボールを素早く足で受け取ることが求められる。これは、サッカーにおけるパスを受け取る動作を想定している。
【0150】
端末装置10は、各センサ装置Xa〜Xcから取得した動き情報に基づいて、サッカーボールの発射タイミングと、発射されるボールに対して腰部が始動するタイミングと、ボールに対して足部が始動するタイミングとを算出する。
【0151】
具体的には、端末装置10は、サッカーボールの発射タイミングとして、センサ装置Xaにより計測されたボールの発射方向の加速度の絶対値が閾値Tha(例えば、2G)に到達した時刻Taを算出する。端末装置10は、腰部の始動タイミングとして、センサ装置Xbにより計測された腰部における体軸まわりの角速度の絶対値が閾値Thb(例えば、10deg/s)に到達した時刻Tbを算出する。端末装置10は、足部の始動タイミングとして、センサ装置Xcにより計測された足部における少なくとも1軸方向の合成加速度の絶対値が閾値Thc(例えば、2G)に到達した時刻Tcを算出する。
【0152】
端末装置10は、時刻Taと時刻Tbとの時間差Tab(すなわち、発射タイミングから腰部始動タイミングまでの時間)と、時刻Taと時刻Tcとの時間差Tac(すなわち、発射タイミングから足部始動タイミングまでの時間)とを算出する。さらに、端末装置10は、時刻Tbと時刻Tcとの時間差Tbc(すなわち、腰部始動タイミングから足部始動タイミングまでの時間)も算出する。
図14には、端末装置10により算出された各時間差が示されている。
【0153】
図14は、熟練者および未熟練者の時間差の傾向の一例を示す図である。具体的には、
図14(a)は時間差Tabの傾向を示す図であり、
図14(b)は時間差Tacの傾向を示す図であり、
図14(c)は時間差Tbcの傾向を示す図である。
図14に示す時間差の計測結果は、発射装置からボールが5回発射される場合に、各被験者が動作した際に計測される5回分の時間差の平均値である。
【0154】
図14(a)を参照すると、熟練者の時間差Tabは103.8msであり、未熟練者の時間差は147.4msであったため、熟練者の方が未熟練者よりも時間差Tabが平均で43.6ms短い。すなわち、熟練者の方が未熟練者よりも腰部の始動タイミングが早いことがわかる。
【0155】
図14(b)を参照すると、熟練者の時間差Tacは318.6msであり、未熟練者の時間差Tacは173msであったため、熟練者の方が未熟練者よりも時間差Tacが平均で145.6ms長い。すなわち、熟練者の方が未熟練者よりも足部の始動タイミングが遅いことがわかる。
【0156】
図14(c)を参照すると、熟練者の時間差Tbcは214.8msであり、未熟練者の時間差Tbcは25.6msであったため、熟練者の方が未熟練者よりも時間差Tbcが平均で189.2ms長い。すなわち、熟練者は、未熟練者よりも腰部および足部の始動タイミングの差が大きい。
【0157】
図14の結果より、熟練者は、移動方向に姿勢を向けた(すなわち、腰部を始動させた)後に足部を始動させていることがわかる。そのため、熟練者は、始動後の動きがスムーズとなりボールを適切に受け取ることができると考えられる。また、各時間差Tab,Tac,Tbcは被験者の動きの評価パラメータとして利用できる。
【0158】
上記の結果より、被験者の動作能力(動作レベル)を判定するルールを作成してもよい。例えば、時間差Tab<閾値Uaが成立する場合には熟練者レベルと判定され、時間差Tab≧閾値Uaが成立する場合には未熟練者レベルと判定される。閾値Uaは、例えば、熟練者の時間差Tab(=103.8)と未熟練者の時間差Tab(=147.4)との平均値(125.6)が使用される。
【0159】
なお、本願発明者らは、追加で以下のような評価実験も行なった。この評価実験では、熟練者および未熟練者の各々は、発射装置から所定距離(例えば、5.0m)離れたところに立ち、ランダムな方向に発射されるサッカーボールを素早く受け取る(この場合、手の使用可)ことが求められる。これは、サッカーにおけるPK(penalty kick)を想定している。
図15には、端末装置10により算出された各時間差が示されている。
【0160】
図15は、熟練者および未熟練者の時間差の傾向の他の例を示す図である。具体的には、
図15(a)は時間差Tabの傾向を示す図であり、
図15(b)は時間差Tacの傾向を示す図である。
図15に示す時間差の計測結果は、発射装置からボールが6回発射される場合に、各被験者が動作した際に計測される6回分の時間差の平均値である。
【0161】
図15(a)を参照すると、熟練者の時間差Tabは281.8msであり、未熟練者の時間差は−76.7msであった。
図15(b)を参照すると、熟練者の時間差Tacは176.8msであり、未熟練者の時間差Tacは−54.7msであった。
【0162】
このことから、PKを想定した条件では、熟練者はボール発射後に始動、未熟練者は発射前から始動する傾向があることがわかる。そのため、未熟練者はボールを適切に受け取れない可能性が高いと考えられる。
【0163】
以上のように、対戦型であって、相手側から放たれた対象物に素早く反応するスポーツ(例えば、スイングを行なわないスポーツ)であっても、上述したような各時間差に基づいて、被験者の動きを評価することができる。上記では、当該スポーツとしてサッカーを例として説明したが、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール等でも、被験者の動きを評価できる。
【0164】
バレーボールの場合には、相手(例えば、アタッカー、あるいはボール発射装置)から放たれたボールを被験者(例えば、レシーバー)が受ける場面が想定される。相手が人(アタッカー)である場合には、アタッカーの手甲部または腕にセンサ装置を取り付け、相手がボール発射装置である場合には当該装置に取り付けられる。ボールが放たれるタイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。また、被験者の手甲部、腕部または足部にセンサ装置が取り付けられ、被験者の腰部または後頸部(首の後ろ部分)に他のセンサ装置が取り付けられる。手甲部、腕部または足部の始動タイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。腰部または後頸部の始動タイミングは、体軸まわりの角速度の絶対値が閾値に到達した時刻である。
【0165】
バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボールおよびハンドボールの場合には、相手(例えば、パスを出す人)から放たれたボールを被験者(例えば、パスの受け手)が受ける場面が想定される。この場合、相手の手甲部または腕にセンサ装置を取り付けられる。ボールが放たれるタイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。また、被験者の手甲部、腕部または足部にセンサ装置が取り付けられ、被験者の腰部または後頸部に他のセンサ装置が取り付けられる。手甲部、腕部または足部の始動タイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。腰部または後頸部の始動タイミングは、体軸まわりの角速度の絶対値が閾値に到達した時刻である。
【0166】
なお、ハンドボールの場合には、相手(例えば、シューター、あるいはボール発射装置)から放たれたボールを被験者(例えば、キーパー)が受ける場面も想定される。相手が人(シューター)である場合には、シューターの手甲部または腕にセンサ装置が取り付けられ、相手がボール発射装置である場合には当該装置に取り付けられる。ボールが放たれるタイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。また、被験者(キーパー)の手甲部、腕部または足部にセンサ装置が取り付けられ、被験者の腰部または後頸部に他のセンサ装置が取り付けられる。手甲部、腕部または足部の始動タイミングは、加速度センサの加速度が閾値に到達した時刻である。腰部または後頸部の始動タイミングは、体軸まわりの角速度の絶対値が閾値に到達した時刻である。
【0167】
上記によると、バレーボール、バスケットボール、ラグビー、アメリカンフットボール、ハンドボール等でも、各始動タイミングの時間差を算出できるため、各時間差に基づいて被験者の動きを評価することができる。
【0168】
(10)上述した実施の形態において、コンピュータを機能させて、上述のフローチャートで説明したような制御を実行させるプログラムを提供することもできる。このようなプログラムは、コンピュータに付属するフレキシブルディスク、CD−ROM(Compact Disk Read Only Memory)、ROM、RAMおよびメモリカードなどの一時的でないコンピュータ読取り可能な記録媒体にて記録させて、プログラム製品として提供することもできる。あるいは、コンピュータに内蔵するハードディスクなどの記録媒体にて記録させて、プログラムを提供することもできる。また、ネットワークを介したダウンロードによって、プログラムを提供することもできる。
【0169】
プログラムは、コンピュータのオペレーティングシステム(OS)の一部として提供されるプログラムモジュールのうち、必要なモジュールを所定のタイミングで呼出して処理を実行させるものであってもよい。その場合、プログラム自体には上記モジュールが含まれずOSと協働して処理が実行される。このようなモジュールを含まないプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。
【0170】
また、本実施の形態にかかるプログラムは他のプログラムの一部に組込まれて提供されるものであってもよい。その場合にも、プログラム自体には上記他のプログラムに含まれるモジュールが含まれず、他のプログラムと協働して処理が実行される。このような他のプログラムに組込まれたプログラムも、本実施の形態にかかるプログラムに含まれ得る。
【0171】
(11)上述の実施の形態として例示した構成は、本発明の構成の一例であり、別の公知の技術と組み合わせることも可能であるし、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、一部を省略する等、変更して構成することも可能である。
【0172】
また、上述した実施の形態において、他の実施の形態で説明した処理や構成および変形例で説明した処理や構成を適宜採用して実施する場合であってもよい。
【0173】
[実施の形態の効果]
本実施の形態によると、スイング時において重要となる腰および手甲(腕)に関する各々の動きの特徴を客観的に知ることができる。
【0174】
本実施の形態によると、被験者が実際にボールを打撃する際のスイング時の動きを計測できる。また、専用のバット、ラケットなどの打球具を必要とせず、被験者自身が所有する慣れた打球具でスイング時の動きを計測できる。そのため、被験者は、実戦により近いスイング時の動きの特徴およびスイングレベルを把握することができる。
【0175】
本実施の形態によると、被験者の腰部および手甲に小型装置を取り付けてスイングするだけでよいため、被験者に対して負担をかけることなく簡易な計測が可能である。また、被験者は、リアルタイムでスイング評価結果を得ることができるため、迅速なフィードバックにより効率的なトレーニング効果を期待できる。
【0176】
本実施の形態によると、打球具等のスイングを行なわない対戦型スポーツであっても、被験者の動きを評価することができる。
【0177】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなく、請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
対象物に対する被験者の動きを計測するための計測システムは、被験者の相手または対象物に取り付けられ、相手側から被験者に向かって対象物が放たれるときの相手の動きに関する第1の動き情報を検出可能な第1の検出手段と、被験者の腰部に取り付けられ、対象物に対する被験者の腰部の動きに関する第2の動き情報を検出可能な第2の検出手段と、第1の動き情報と第2の動き情報とに基づいて、被験者の動きの評価パラメータを算出する処理手段と、処理手段により求められた評価パラメータを出力する出力手段とを備える。