特許第6283792号(P6283792)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6283792微小体の封入、回収方法及びそれに用いられる封入用液体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283792
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】微小体の封入、回収方法及びそれに用いられる封入用液体
(51)【国際特許分類】
   C12N 11/04 20060101AFI20180215BHJP
   B01J 19/00 20060101ALI20180215BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C12N11/04
   B01J19/00 321
   G01N37/00 101
【請求項の数】2
【全頁数】6
(21)【出願番号】特願2014-31587(P2014-31587)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-154759(P2015-154759A)
(43)【公開日】2015年8月27日
【審査請求日】2016年11月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000236920
【氏名又は名称】富山県
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(72)【発明者】
【氏名】大永 崇
(72)【発明者】
【氏名】高田 耕児
【審査官】 川合 理恵
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−506813(JP,A)
【文献】 特開2013−029391(JP,A)
【文献】 特開2006−314337(JP,A)
【文献】 特開2005−087128(JP,A)
【文献】 特開2006−288251(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 11/00−11/18
C12Q 1/00−1/70
C12M 1/00−3/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
封入目的とする微小体を付着又は固定したマイクロ流路デバイス中に、ゲル化可能な液体を注入するステップと、
前記マイクロ流路中の前記液体をゲル化するステップとを有することを特徴とする微小体の封入方法。
【請求項2】
請求項1記載の封入方法により得られた微小体を封入したゲル封入体を前記マイクロ流路デバイスから取り出すことを特徴とする微小体の封入回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は解析、診断等に必要な微小体の封入及び回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
本願出願に係る発明者は、これまでに血液中の浮遊癌細胞を捕捉できるマイクロチップを提案している(特許文献1)。
この特許文献1に示すように細胞や細菌等の微小体を捕捉し、解析,研究,診断,治療等に用いるには、血液,体液,サンプルが含まれる液体中から、目的とする微小体を捕捉できるマイクロチップと称されるマイクロ流路デバイスが用いられている。
この分野におけるマイクロ流路デバイスは流路中に、捕捉を目的とする微小体と結合又は付着する反応性のある抗体等のタンパク質や官能基を有するポリマーが形成されている。
例えば特許文献1は、血液中にわずかに浮遊する癌細胞を捕捉するのにミクロな構造を有する流路に、癌細胞表面に存在する抗原と結合する抗体を固定したマイクロチップを提案している。
これにより試料液体中に有するわずかな量の微小体をミクロ流路中に捕捉できる。
捕捉した微小体を用いて解析,研究,診断,治療等に展開するには捕捉した微小体を標本化、回収できるのが好ましい。
しかし、マイクロ流路中に固定又は付着した微小体を流路から分離しようとしてもタンパク質分解酵素等が充分に作用しなかったり再付着したりして、回収が難しい問題があった。
また、マイクロ流路を形成した例えば蓋体を開き流路を開放すると、流体とともに流れ紛失する恐れもあった。
そこで本発明者は、マイクロ流路中に捕捉した微小体をそのまま封入し、回収できる技術を開発,検討した結果、本発明に至った。
【0003】
特許文献2,3には微小物体を光硬化樹脂にて固定する技術を開示するが、同技術は多数の微小体の中から特定の微小物体を選んで固定、回収するのが目的であり、特定の微小物体を多くの微小物体の中から見つけ出し、その特定の微小物体の部分にのみ光を照射しなければならず、必ずしも実用的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2013−29391号公報
【特許文献2】特許第4446486号公報
【特許文献3】特許第3877164号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明はマイクロ流路デバイス中に付着、固定した微小体を封入、回収する方法及びそれに用いられる封入用液体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る微小体の封入方法は、封入目的とする微小体を付着又は固定したマイクロ流路デバイス中に、ゲル化可能な液体を注入するステップと、前記マイクロ流路中の前記液体をゲル化するステップとを有することを特徴とする。
このようにゲル中に微小体を封入することにより、この微小体を封入したゲル封入体をマイクロ流路デバイスから、例えば流路の蓋体を開いて取り出すことで微小体を取り逃がすことなく回収できる。
このような封入及び回収に用いる微小体の封入用液体は、重合性モノマーと、当該重合性モノマーと均一に混合する常温で不揮発性の溶媒と、重合触媒とを含有することを特徴とする。
【0007】
ここで、重合性モノマー及び不揮発性の溶媒は水溶性であり、重合性モノマーは水酸基を有するアクリレート,水酸基を有するメタクリレートのうち1つ以上を主成分とする架橋性モノマーであるのが好ましい。
微小体がマイクロ流路に付着又は固定した細胞である場合に、細胞中に水分が含まれているので、この水分がゲル中に液滴となると顕微鏡観察等の妨げとなる恐れがあることから、細胞中の水分との親和性を高くするのに重合性モノマー及び不揮発性溶媒が水溶性であるのが好ましい。
このような重合性モノマーとしては、ヒドロキシエチルアクリレートを主成分とするモノマー又はヒドロキシエチルメタクリレートを主成分とするモノマーが好ましい。
ここで、主成分と表現したのは、架橋性モノマーとしてゲル化できれば物性に影響を与えない範囲で他の成分が含まれていてもよいという意味である。
本発明において、ゲル化前の液体は低粘度でマイクロ流路に流れ込みやすいものが好ましい。
ゲル化前の液体の粘度は不揮発性溶媒に大きく影響されるので、この不揮発性溶媒は常温における粘度が2Pa・s以下であるのが好ましい。
【0008】
このような条件を満たす水溶性の不揮発性溶媒は、グリセリン又はジメチルスルホキシドであるのが好ましい。
ここで、常温で不揮発性とは、沸点が約150℃以上を有し、常温で揮発しにくいものをいう。
プロトン性溶媒であるグリセリンは、融点17.8℃,沸点290℃,粘度1.412Pa・s(25℃)である。
非プロトン性溶媒であるジメチルスルホキシドは、融点19℃,沸点189℃,粘度2.00×10−3Pa・s(20℃)である。
【0009】
本発明でゲル封入体は、流路に注入した液体を重合によりゲル化し、微小体を封入及び回収するものであり、重合性モノマーと不揮発性溶媒の配合比率を適宜選定し、これに重合触媒を加えればよい。
ゲル封入体の配合は、顕微鏡観察等を行うのに重合性モノマーの配合比率の高い方が透明度が高くなり、好ましい。
しかし、重合性モノマーの配合比率が高くなりすぎると、ゲル化時の収縮率が高くなり、マイクロ流路デバイスから剥離しにくくなったり、ゲル表面に大きな凹凸ができて顕微鏡観察の際に像の歪みが発生する恐れもある。
そこで、透明性,剥離性、観察性等を考慮すると下記のような配合比率が理想的である。
(1)ヒドロキシエチルアクリレートとグリセリンの配合比率は、質量比で45/55〜75/25の範囲がよい。
(2)ヒドロキシエチルメタクリレートとグリセリンの配合比率は、質量比で45/55〜75/25の範囲が好ましい。
これに対して、
(3)ヒドロキシエチルアクリレートとジメチルスルホキシドの配合比率は、質量比で25/75〜75/25の範囲が好ましい。
【0010】
本発明で重合触媒は、光重合触媒が好ましく、ベンゾインエーテル系,ケタール系,アセトフェノン系,ベンゾフェノン系,チオキサントンが例として挙げられる。
【0011】
また、本発明で微小体は特に制限がないか、細胞,細菌等が対象として好ましく、特許文献1に開示した癌細胞等にも適用できる。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る封入用液体を微小体を捕捉したマイクロ流路デバイスに注入し、その後に重合し、ゲル化することでゲル化物の表面又は中に微小体を封入及び回収できるので、標本化しやすく、その後の活用が容易である。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】(a)はデバイスの流路内部に封入用液体を注入した状態、(b)は紫外線を照射しゲル化した状態、(c)はゲル化物をデバイスから取り出す状態をそれぞれ示す。
図2】ゲル化物中の細胞の顕微鏡観察を示し、(a)は明視野像+蛍光像、(b)は蛍光像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明に係る微小体の封入及び回収例を以下具体的に説明する。
まず、特許文献1に開示する製造例に基づいて、マイクロ流路デバイスを製作した。
メタクリル酸グリシジル(和光純薬製)40重量部,ブレンマーPDE−100(日本油脂製)40重量部,n−ブチルアクリレート(和光純薬製)40重量部,コア・シェル型高分子微粒子としてパラペットSA−NW201(クラレ製)20重量部,及び光重合開始剤DAROCUR1173(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製)1重量部を混合したものを鋳型に流し込み、紫外線を照射し、硬化させた。
硬化して得られたデバイス本体11の模式図を図1(a)に示す。
次にデバイスの流路表面に、抗Mouse IgG抗体のPBS水溶液(抗体濃度20μg/mL)を4℃にて一晩接触させた後に洗浄し、さらにMouse抗EpCAM抗体のPBS水溶液(抗体濃度20μg/mL)を室温で1時間接触後洗浄することで、抗体をデバイスの流路表面に結合させた。
このようなデバイスに食道癌由来の癌細胞株であるKYSE510のPBS懸濁液を流入させ、癌細胞をマイクロ流路表面に捕捉させた。
捕捉した細胞は、Rabbit抗EpCAM抗体及びCy3抗Rabbit IgG抗体により蛍光染色した。
【0015】
なお、このような流路は、深さ50〜150μmの流路中に直径50〜200μmのマイクロ柱を間隔が50〜100μmに配設したものを用いるのが好ましい。
【0016】
このようにマイクロ流路表面に癌細胞を捕捉させた後に図1(a)に示すように、蓋体12に取り付けたチューブ12a,12bを介して本発明に係る封入用液体を注入した。
これにより、PBS水溶液の替わりに本発明に係る封入用液体がデバイス中部に充填される。
封入用液体13aとしては、ヒドロキシエチルアクリレート(和光純薬工業株式会社,含有不純物により単独で架橋する。)とグリセリン(和光純薬工業株式会社)の配合比率(質量比)で、40/60,45/55,50/50,75/25,80/20のものを比較評価した。
また、ヒドロキシエチルメタクリレート(和光純薬工業株式会社,含有不純物により単独で架橋する。)とグリセリンとの配合比率(質量比)も上記と同様のものを比較評価した。
また、ヒドロキシエチルアクリレートとジメチルスルホキシドの配合比率(質量比)20/80,25/75,50/50,75/25,80/20のものを比較評価した。
なお、1重量部の光重合触媒を液体に加えた。
上記それぞれの液体をデバイス中に注入した後に、図1(b)に示すように透明な蓋体12の上から紫外線を3分間照射し、ゲル化させた。
図1(c)に示すようにゲル化物13bを蓋体12を取り外した後にデバイスから取り出した。
すると、図1(c)の拡大図を模式的に示すようにゲル化物中に癌細胞a〜cが捕捉されている。
図2にその顕微鏡観察結果を示す。
これにより、癌細胞が明瞭に観察でき、蛍光強度は十分に保持されていることが分かる。
【0017】
なお、グリセリンとの配合でヒドロキシエチルアクリレート,ヒドロキシエチルメタクリレートの配合比率40以下になるとゲル化物が乳白色になり、80以上になると収縮が大きく、デバイスから剥がれにくくなっていた。
これに対して、ヒドロキシエチルアクリレートとジメチルスルホキシドの配合では、20/80が乳白色になったが、それ以外は問題がなかった。
【符号の説明】
【0018】
11 デバイス本体
12 蓋体
13a 液体
13b ゲル化物
図1
図2