(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283793
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】内燃機関、及び点火コイル
(51)【国際特許分類】
F02P 15/00 20060101AFI20180215BHJP
F02P 13/00 20060101ALI20180215BHJP
H01F 38/12 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
F02P15/00 303E
F02P13/00 301B
F02P15/00 303H
H01F38/12
【請求項の数】11
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2014-560831(P2014-560831)
(86)(22)【出願日】2014年2月10日
(86)【国際出願番号】JP2014053012
(87)【国際公開番号】WO2014123240
(87)【国際公開日】20140814
【審査請求日】2017年2月9日
(31)【優先権主張番号】特願2013-22847(P2013-22847)
(32)【優先日】2013年2月8日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504293528
【氏名又は名称】イマジニアリング株式会社
(72)【発明者】
【氏名】池田 裕二
(72)【発明者】
【氏名】片野 博樹
【審査官】
齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−159476(JP,A)
【文献】
特開2010−1827(JP,A)
【文献】
特開2007−180461(JP,A)
【文献】
特開2007−201084(JP,A)
【文献】
特開2002−81360(JP,A)
【文献】
特開2009−267047(JP,A)
【文献】
実開昭62−87180(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02P 13/00 − 15/12
H01F 38/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
プラグホールが形成された内燃機関本体と、
前記プラグホールに挿入される略柱状の点火コイルとを備えた内燃機関であって、
前記点火コイルの一端側のヘッド部に、前記内燃機関本体の燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子が設けられ、
前記点火コイルの他端側の取付部が、前記プラグホールの前記燃焼室側に位置する点火プラグに取り付けられた場合に、前記内燃機関本体の振動に伴って前記点火コイルに生じる振動の固有振動モードのノーダルポイント又はその近傍で、前記点火コイルを支持する複数の支持部材を備えたことを特徴とする内燃機関。
【請求項2】
前記点火コイルでは、前記ヘッド部又は前記取付部にダイナミックダンパが取り付けられていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項3】
前記ダイナミックダンパは、前記ヘッド部に取り付けられたバネ部材と、前記バネ部材を介して前記ヘッド部に接続された質量体とを備え、
前記バネ部材に前記質量体が積層されていることを特徴とする、請求項2に記載の内燃機関。
【請求項4】
前記点火コイルは、前記電磁波用の素子を実装する実装部材と、前記実装部材よりも剛性が低い固体、又は、流体であって、前記ヘッド部において前記実装部材を設置するための設置面と前記実装部材との間に設けられるダンピング材とを備えていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項5】
前記ダンピング材は、前記実装部材よりも剛性が低い固体であって、
前記実装部材及び前記電磁波用の素子の固有周波数が前記内燃機関本体の基本次数の振動の周波数よりも小さくなるように、前記ダンピング材のバネ定数が設定されていることを特徴とする、請求項4に記載の内燃機関。
【請求項6】
前記点火コイルは、前記電磁波用の素子を実装する実装部材と、前記実装部材とは別体の部材であって、前記実装部材と接触する領域に生じる摩擦力によって前記実装部材の保持する保持部材を有し、
前記実装部材を前記ヘッド部に一体化することなく、前記保持部材と前記実装部材の摩擦力によって前記実装部材が支持されていることを特徴とする、請求項1に記載の内燃機関。
【請求項7】
内燃機関のプラグホールに挿入されて、前記プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、
前記点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、前記燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、
前記ヘッド部又は前記取付部に取り付けられたダイナミックダンパとを備えていることを特徴とする点火コイル。
【請求項8】
前記ダイナミックダンパは、前記ヘッド部に取り付けられたバネ部材と、前記バネ部材を介して前記ヘッド部に接続された質量体とを備え、
前記バネ部材に前記質量体が積層されていることを特徴とする、請求項7に記載の点火コイル。
【請求項9】
内燃機関のプラグホールに挿入されて、前記プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、
前記点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、前記燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、
前記電磁波用の素子を実装する実装部材と、
前記実装部材よりも剛性が低い固体、又は、流体であって、前記ヘッド部において前記実装部材を設置するための設置面と前記実装部材との間に設けられるダンピング材とを備えていることを特徴とする点火コイル。
【請求項10】
前記ダンピング材は、前記実装部材よりも剛性が低い固体であって、
前記実装部材及び前記電磁波用の素子の固有周波数が前記内燃機関の基本次数の振動の周波数よりも小さくなるように、前記ダンピング材のバネ定数が設定されていることを特徴とする、請求項9に記載の点火コイル。
【請求項11】
内燃機関のプラグホールに挿入されて、前記プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、
前記点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、前記燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、
前記電磁波用の素子を実装する実装部材と、
前記実装部材とは別体の部材であって、前記実装部材と接触する領域に生じる摩擦力によって前記実装部材の保持する保持部材とを備え、
前記実装部材を前記ヘッド部に一体化することなく、前記保持部材と前記実装部材の摩擦力によって前記実装部材が支持されていることを特徴とする点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、電磁波を出力する電磁波用の素子を備えた点火コイルを有する内燃機関などに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、一般的に点火コイルと呼ばれる装置として、マイクロ波発振装置が設けられた点火装置が記載されている(
図3参照)。マイクロ波発振装置は、増幅素子を備えている。点火装置のヘッド部には取付フランジが設けられている(
図4参照)。点火装置は、取付フランジを貫通する取付ボルトによって内燃機関本体に固定されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許2010−001827号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、従来の点火コイルでは、点火コイルのヘッド部が内燃機関に固定されているため、内燃機関の振動がヘッド部に伝わりやすい。従って、電磁波を出力する電磁波用の素子及び電気回路をヘッド部に設ける場合に、この電磁波用の素子等がヘッド部と共に強く振動し、電磁波用の素子の変形(瞬間的なたわみ変形)、電気回路の振動などが原因で、電磁波用の素子が誤動作するおそれがある。
【0005】
このような点を鑑みて、本開示は、点火コイルのヘッド部に設けられた電磁波用の素子に作用する振動の強さを低減できる内燃機関などを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示における内燃機関は、プラグホールが形成された内燃機関本体と、プラグホールに挿入される略柱状の点火コイルとを備えた内燃機関であって、点火コイルの一端側のヘッド部に、内燃機関本体の燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子が設けられ、点火コイルの他端側の取付部が、プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに取り付けられた場合に、内燃機関本体の振動に伴って点火コイルに生じる振動の固有振動モードのノーダルポイント又はその近傍で、点火コイルを支持する複数の支持部材を備えている。この場合、ヘッド部に最も近い支持部材よりもヘッド部側では、点火コイルが支持されていないようにすることが好ましい。
【0007】
また、本開示における点火コイルは、内燃機関のプラグホールに挿入されて、プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、ヘッド部又は取付部に取り付けられたダイナミックダンパとを備えている。
【0008】
また、本開示における点火コイルは、内燃機関のプラグホールに挿入されて、プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、電磁波用の素子を実装する実装部材と、実装部材よりも剛性が低い固体、又は、流体であって、ヘッド部において実装部材を設置するための設置面と実装部材との間に設けられるダンピング材とを備えている。
【0009】
また、本開示における点火コイルは、内燃機関のプラグホールに挿入されて、プラグホールの燃焼室側に位置する点火プラグに一端側の取付部が取り付けられる略柱状の点火コイルであって、点火コイルの他端側のヘッド部に設けられて、燃焼室へ放射される電磁波を出力する電磁波用の素子と、電磁波用の素子を実装する実装部材と、実装部材とは別体の部材であって、実装部材と接触する領域に生じる摩擦力によって実装部材の保持する保持部材とを備え、実装部材をヘッド部に一体化することなく、保持部材と実装部材の摩擦力によって実装部材が支持されている。
【発明の効果】
【0010】
本開示における内燃機関では、点火コイル30が、ノーダルポイント又はその近傍で支持されている。そのため、例えばヘッド部32がシリンダヘッド21に固定される従来の点火コイルに比べて、ヘッド部32の振動の強さを低減することができ、増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。また、点火コイル30とシリンダヘッドとの間に適度の隙間(ギャップ)ができることで、熱的な影響を減ずることもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、第1の実施形態に係る内燃機関の概略構造図である。
【
図2】
図2(a)は、第2の実施形態に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図であり、
図2(b)は、ダイナミックダンパを含む振動系の模式図である。
【
図3】
図3(a)は、第3の実施形態に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図であり、
図2(b)は、第3の実施形態の変形例に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図である。
【
図4】
図4(a)は、第4の実施形態に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図であり、
図4(b)は、第4の実施形態の変形例1に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図であり、
図4(c)は、第4の実施形態の変形例2に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図である。
【
図5】
図5は、第5の実施形態に係る点火コイルのヘッド部側の概略構造図である。
【
図6】
図6は、その他の実施形態に係る点火コイルの概略構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、以下の実施形態は、本質的に好ましい例示であって、本発明、その適用物、あるいはその用途の範囲を制限することを意図するものではない。
【0013】
<第1の実施形態>
以下、図面を参照して、点火コイル30(コイルアッシー)を備えた内燃機関20について説明する。内燃機関20は、本発明の一例である。
【0014】
−内燃機関−
内燃機関20は、
図1に示すように、レシプロタイプの内燃機関である。内燃機関20は、シリンダヘッド21とシリンダ22とピストン23とを有する内燃機関本体28を備えている。シリンダ22内には、ピストン23が往復自在に設けられている。シリンダヘッド21、シリンダ22及びピストン23は、燃焼室24を形成している。シリンダ22内においてシリンダ22の軸方向にピストン23が往復運動すると、ピストン23の往復直線運動がコネクティングロッド(図示省略)によって回転運動に変換される。
【0015】
シリンダヘッド21には、シリンダヘッド21を真っ直ぐに貫通するプラグホール25が形成されている。プラグホール25は、円形断面の貫通孔である。シリンダヘッド21には、プラグホール25の燃焼室24側の位置に、点火プラグ26が固定されている。点火プラグ26には、略柱状の点火コイル30が取り付けられている。また、シリンダヘッド21には、燃焼室24に開口する吸気ポート及び排気ポート(図示省略)が形成されている。吸気ポートには、吸気バルブが設けられている。一方、排気ポートには、排気バルブが設けられている。さらに、燃焼室又は吸気ポートにインジェクターが設けられている。なお、内燃機関20は、レシプロタイプの内燃機関に限定されない。
【0016】
−点火コイル−
点火コイル30は、いわゆるスティックコイルである。点火コイル30は、
図1に示すように、円柱状の本体部31と、本体部31の一端側に位置するヘッド部32と、本体部31の他端側に位置する取付部33とを備えている。本体部31、ヘッド部32、及び取付部33は一体化されている。なお、点火コイル30は、スティックコイルに限定されず、後述するコイル部がヘッド部32に設けられていてもよい。
【0017】
本体部31は、本体部31のケース内に、一次コイル、二次コイル及び鉄心などを有するコイル部(変圧器)を収容している。本体部31のケースは円筒状に形成されている。本体部31の取付部33側には、コイル部の出力側に接続された高圧端子が設けられている。
【0018】
ヘッド部32は、イグナイタ(トランジスタなどを有するスイッチング回路)と、マイクロ波用の増幅素子35(例えば、半導体素子により構成されたICチップ)とを備えている。マイクロ波用の増幅素子35は、例えばイグナイタのトランジスタに追加して設置されるため大きな面積を占めることになる。イグナイタと増幅素子35とは、ヘッド部32のケース内に固定された基板36(実装部材)に実装されている。増幅素子35は、基板36に一体化されている。また、ヘッド部32には、点火信号用の第1入力端子と、バッテリー接続用の第2入力端子と、マイクロ波用の第3入力端子とが設けられている。なお、ヘッド部32に、マイクロ波を生成するマイクロ波発振素子(例えば、水晶振動子)を設けてもよい。増幅素子35とマイクロ波発振素子は電磁波用の素子に相当する。
【0019】
取付部33は、略円筒状に形成されている。取付部33は、ゴムなどの弾力性を有する部材により形成されている。取付部33の内側には、点火プラグ26が嵌め込まれる。
【0020】
点火コイル30では、コイル部の一次コイル側に、第2入力端子を介してバッテリーからの電流が流れることによって、鉄心が磁化して磁気エネルギーが蓄えられる。この状態で、第1入力端子から点火信号が入力されると、イグナイタのスイッチングによって一次電流が遮断され、鉄心の周囲の磁界が変化して、一次コイルに電圧が発生する。その結果、二次コイルにおいて高電圧パルスが生成され、高電圧パルスが高圧端子から点火プラグ26に出力される。また、第3入力端子からマイクロ波(例えばマイクロ波パルス)が入力されると、増幅素子35によってマイクロ波が増幅される。ここで、点火コイル30には、高電圧パルスとマイクロ波を混合する混合回路が、本体部31又はヘッド部32に設けられている。増幅素子35から出力されたマイクロ波は、混合回路を経て点火プラグ26へ出力される。例えば、点火コイル30に点火信号とマイクロ波がほぼ同じタイミングで入力された場合は、高電圧パルスとマイクロ波とが、ほぼ同じタイミングで点火コイル30から点火プラグ26へ出力される。点火プラグ26のスパークギャップでは、高電圧パルスによる火花放電によって小さいプラズマが生成され、そのプラズマがマイクロ波によって拡大されて、マイクロ波プラズマが生成される。
【0021】
点火コイル30は、取付部33側からプラグホール25に挿入して、取付部33に点火プラグ26の入力端子側を嵌め込むことによって、点火プラグ26に取り付けられる。点火コイル30が点火プラグ26に取り付けられた取付状態では、本体部31内のバネ部材によって、高圧端子が点火プラグ26の入力端子に押し付けられている。また、ヘッド部32全体がプラグホール25の外側に位置している。プラグホール25の壁面と本体部31の外周面の間と、プラグホール25の壁面と取付部33の外周面の間には、隙間が形成されている。内燃機関20が駆動して振動すると、内燃機関20の振動が取付部33などから点火コイル30に伝わる。なお、取付状態では、取付部33と点火プラグ26の間に、少し遊び(隙間)があってもよい。
【0022】
ここで、点火コイル30は、形状が略柱状(略梁状)であるために、本体部31の軸心に直交する方向の振動の振幅が特に大きくなる。従来の点火コイルであれば、点火コイルは、ヘッド部の位置で、エンジンカバーと共にシリンダヘッド21の上部に共締めされる。点火コイルは、シリンダヘッド21に対してヘッド部と取付部が支持される。そのため、シリンダヘッド21の振動がヘッド部に伝わりやすく、シリンダヘッド21と一体的にヘッド部が振動し、増幅素子に強い振動が作用してしまう。その結果、半導体素子である増幅素子において、振動による変形に起因する電圧信号が生じるおそれがあり、その場合に増幅素子が誤動作するおそれがある。さらに、増幅素子が故障しやすくもなる。
【0023】
それに対して、本実施形態の内燃機関20は、増幅素子35に作用する振動の強さを低減する点火コイル30の支持構造を有する。支持構造は、内燃機関20の振動に伴って点火コイル30が振動する場合に、点火コイル30に生じる振動(本体部31の軸心に直交する方向(以下、「ノーマル方向(normal direction)」という。)の曲げ振動)のノーダルポイント50(基本1次モードの節の位置)で、点火コイル30を支持する第1支持部材41及び第2支持部材42を備えている。各支持部材41、42は、プラグホール25の壁面に対して、ノーダルポイント50で点火コイル30の本体部31を支持している。そして、支持構造は、第1支持部材41及び第2支持部材42のうちヘッド部32側の第1支持部材41よりもヘッド部32側では、点火コイル30を支持していない。
【0024】
点火コイル30では、各部分の質量及び曲げ剛性などによって、共振周波数及び振動モードが決まる。振動モードが定まると、振動中の点火コイル30の節の位置(ノーダルポイント50)と腹の位置も定まる。ノーダルポイント50は、点火コイル30に固有の位置である。点火コイル30に生じるノーダルポイント50は、有限要素法などを用いた解析等により知ることができる。
図1には、点火コイル30の上下方向の位置における左右方向(ノーマル方向)の振幅の大きさを示す第1の線と、左右方向の振幅がゼロの位置を示すための第2の線とを破線で記載している。点火コイル30の上下方向において、第1の線と第2の線が交わる位置が、左右方向の振幅がゼロになるノーダルポイント50である。
【0025】
本実施形態では、解析などによって予め取得したノーダルポイント50に、各支持部材41、42が配置されている。なお、各支持部材41、42は、点火コイル30の本体部31の外周面に固定してもよいし、プラグホール25の壁面に固定してもよい。また、各支持部材41、42は、本体部31の外周面又はプラグホール25の壁面から突出する突起であってもよい。また、本実施形態では、各支持部材41、42がノーダルポイント50に位置しているが、各支持部材41、42はノーダルポイント50の近傍に位置していてもよい。
【0026】
各支持部材41、42は、弾力性を有する部材(例えば、ゴム製の部材)である。点火コイル30は、各支持部材41、42によって弾性支持される。また、各支持部材41、42は、例えばリング状に形成されている。なお、本実施形態では、各ノーダルポイント50に対応して支持部材41、42を1つずつ設けているが、各ノーダルポイント50に対応して複数の支持部材を設けてもよい。
【0027】
また、各支持部材41、42として、弾力性のない部材(例えば、鋼製の部材)を用いてもよい。その場合に、点火コイル30のケースうち各支持部材41、42に接触する部分が、弾力性のある素材であれば、点火コイル30は、各支持部材41、42によって弾性支持される。
【0028】
−本実施形態の効果−
本実施形態では、点火プラグ26による支持を除いて、ノーダルポイント50に位置する支持部材41、42だけによって、点火コイル30が支持されている。そのため、例えばヘッド部32がシリンダヘッド21に固定される従来の点火コイルに比べて、ヘッド部32の振動の強さを低減することができ、増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。また、点火コイル30とシリンダヘッドとの間に適度の隙間(ギャップ)ができることで、熱的な影響を減ずることもできる。
【0029】
<第2の実施形態>
本実施形態は、ダイナミックダンパ60を用いて、点火コイル30のヘッド部32に作用する振動の強さを低減している。以下、第1の実施形態と異なる点などを説明する。
【0030】
図2(a)に示すように、点火コイル30は、ダイナミックダンパ60を備えている。ダイナミックダンパ60は、
図2(b)に示すように、点火コイル30のうちダイナミックダンパ60を除く部分65(大質量部)を主振動系とした場合に副振動系として機能する小質量部61(重り)と、小質量部61をヘッド部32に接続する弾性部材62(例えば、ゴム製の部材)とを有する。小質量部61の質量(モード質量)は、大質量部65の質量(モード質量)よりも小さい。ダイナミックダンパ60は、小質量部61と弾性部材62の系の共振振動数(固有振動数)が大質量部65からなる全体共振を分割するように、小質量部61の質量及び弾性部材62のバネ定数kが決められている。なお、
図2(b)において、Kは大質量部65のバネ定数を表す。
【0031】
図2(a)では、小質量部61が例えば板状の鋼材により構成され、弾性部材62が例えば板状のゴム材により構成されている。弾性部材62は、ヘッド部32のケースの上面に固定されて、小質量部61が、弾性部材62の上面に固定されている。ダイナミックダンパ60は、内燃機関20及び点火コイル30の振動に伴って、その振動と逆位相となる方向に小質量部61が振動するように設けられている。
【0032】
−本実施形態の効果−
本実施形態では、ヘッド部32にダイナミックダンパ60が取り付けられているため、ダイナミックダンパ60に振動エネルギーを吸収させて、大質量部65の一部であるヘッド部32の振動の強さを低減することができ、増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。なお、ダイナミックダンパ60は、点火コイル30の固有の振動モードにおいて振動の腹の位置に取り付ければよく、取付部33に取り付けてもよい。
【0033】
<第3の実施形態>
本実施形態は、ヘッド部32に対する増幅素子35及び基板36の一体性が低下するように基板36を柔に支持するフローティング構造を用いて、増幅素子35に作用する振動の強さを低減している。以下、第1の実施形態と異なる点などを説明する。
【0034】
図3(a)に示すように、点火コイル30は、フローティング構造として、支持部材70を備えている。支持部材70は、例えば柔軟性を有するシート材である。支持部材70は、基板36よりも剛性が低い。
【0035】
支持部材70は、ヘッド部32のケース内の部品設置面32aに固定されている。支持部材70の上面には、増幅素子35を実装する基板36が固定されている。
【0036】
ここで、基板36及び増幅素子35からなる振動体のノーマル方向の固有振動周波数f1は、基板36及び増幅素子35の合計質量と、支持部材70のバネ定数とから決まる。本実施形態では、基板36及び増幅素子35の合計質量と、支持部材70のバネ定数とが、内燃機関20のノーマル方向の基本次数(例えば、4気筒の場合は2次)の振動の周波数Nよりも固有振動周波数f1が小さくなるように決められている。
【0037】
−本実施形態の効果−
本実施形態では、基板36と部品設置面32aの間にフローティング構造の支持部材70を介在させているため、ヘッド部32から基板36への振動の伝達率が低減される。そのため、増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。
【0038】
また、本実施形態では、基板36の背面が全面に亘って支持部材70に接着されているため、基板36の一部が支持部材70に接着されている場合に比べて基板36が変形しにくい。そのため、振動による増幅素子35の変形を抑制することができる。
【0039】
−本実施形態の変形例−
変形例では、フローティング構造として、
図3(b)に示すように、複数の支持部材71が設けられている。基板36は、複数の支持部材71によって支持されている。各支持部材71は、一端が部品設置面32aに固定され、他端が基板36に固定されている。複数の支持部材71は、例えば基板36の四隅で基板36を支持している。支持部材71としては、例えば極小のラバーボール又はボンディング材を用いることができる。変形例によれば、部品設置面32aと基板36の間の柔軟性を向上させることができるため、増幅素子35の振動の強さをさらに低減することができる。
【0040】
<第4の実施形態>
本実施形態は、振動を減衰させる性質を有するダンピング材80を用いて、増幅素子35に作用する振動の強さを低減している。以下、第1の実施形態と異なる点などを説明する。
【0041】
図4(a)に示すように、点火コイル30は、ダンピング材80を備えている。ダンピング材80は、基板36よりも剛性(弾性率)が小さい固体(例えば、柔軟性を有するシート材)である。ダンピング材80は、ヘッド部32のケース内の部品設置面32aに固定されている。ダンピング材80の上面には、増幅素子35を実装する基板36が固定されている。
【0042】
−本実施形態の効果−
本実施形態では、ダンピング材80を介して基板36がヘッド部32に支持されている。そのため、基板36上の増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。また、本実施形態では、基板36の背面が全面に亘ってダンピング材80に接着されているため、振動による増幅素子35の変形を抑制することができる。
【0043】
−本実施形態の変形例1−
変形例1では、
図4(b)に示すように、複数のダンピング材81によって基板36が支持されている。各ダンピング材81は、一端が部品設置面32aに固定され、他端が基板36に固定されている。複数のダンピング材81は、例えば基板36の四隅で基板36を支持している。変形例1によれば、部品設置面32aと基板36の間の柔軟性を向上させることができるため、増幅素子35の振動の強さをさらに低減することができる。
【0044】
−本実施形態の変形例2−
変形例2では、ダンピング材83が流体(例えばオイルなどの液体、不活性ガスなど)である。
図4(c)に示すように、点火コイル30は、部品設置面32aに固定された略矩形筒状の補助部材85を備えている。ダンピング材83は、補助部材85内における基板36と部品設置面32aとの間に封入されている。なお、基板36の周囲にはシール材を設けてもよい。
【0045】
<第5の実施形態>
本実施形態は、摩擦力だけを利用して基板36を支持することで増幅素子35に作用する振動の強さを低減している。以下、第1の実施形態と異なる点などを説明する。
【0046】
図5に示すように、点火コイル30は、基板36と接触する領域に生じる摩擦力によって基板36を保持する保持部材91を有する支持構造を備えている。支持構造は、基板36をヘッド部32に一体化することなく、保持部材91と基板36の摩擦力によって基板36を支持している。
【0047】
保持部材91は、基板36とは別体の部材(例えば、ゴム製の部材)である。保持部材91は、矩形筒状の本体部91aと、本体部91aの一端側から内側へ突出するストッパー91bとを備えている。本体部91aの他端側は、部品設置面32aに固定されている。本体部91aの内周は、矩形の基板36の外周よりも少しだけ小さい。本体部91aの内側には基板36を嵌め込まれている。この状態では、本体部91aの復元力によって、本体部91aが基板36を内側へ押し込み、本体部91aと基板36の接触領域の摩擦力によって基板36が保持されている。また、ストッパー91bは、基板36が本体部91aから抜け出すことを阻止している。なお、本実施形態では、保持部材91の数は1つであるが、複数の保持部材91によって基板36を挟み込むことによって、基板36を保持してもよい。
【0048】
また、支持構造は、さらに支持部材92を備えている。支持部材92は、基板36とは別体の部材であり、部品設置面32aに固定されている。これにより、
図5における下側への基板36の動きが、支持部材92によって阻止される。なお、支持構造は、さらに支持部材92を備えていなくてもよい。また、支持部材92の代わりに、基板36と部品設置面32aの間に流体を設けてもよい。
−本実施形態の効果−
本実施形態では、基板36がヘッド部32に一体化されておらず、摩擦力だけによって基板36が支持されている。そのため、基板36がヘッド部32に一体化されている場合に比べて、ヘッド部32から基板36へ伝達される振動の強さを低減させることができ、基板36上の増幅素子35の振動の強さを低減することができる。従って、点火コイル30の振動に起因する増幅素子35の誤動作を抑制することができる。
【0049】
<その他の実施形態>
上記実施形態は、以下のように構成してもよい。
【0050】
上記実施形態では、ヘッド部32において、電磁波用の素子(増幅素子35)がイグナイタと同じケース内に設けられているが、
図6に示すように、電磁波用の素子35をイグナイタと別のケース112内に設けもよい。ヘッド部32は、イグナイタを収容する第1ケース111と、電磁波用の素子35を収容する第2ケース112とを備えている。第2ケース112は、ネジなどを用いて、第1ケース111に固定されている。
【0051】
また、上記実施形態1に対して、第2の実施形態、第3の実施形態、第4の実施形態及び第5の実施形態を併用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本開示は、電磁波を出力する電磁波用の素子を備えた点火コイルを有する内燃機関などに適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
20 内燃機関
25 プラグホール
26 点火プラグ
28 内燃機関本体
30 点火コイル
31 本体部
32 ヘッド部
33 取付部
35 増幅素子(電磁波用の素子)
36 基板(実装部材)
41 第1支持部材
42 第2支持部材
50 ノーダルポイント