(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、無線LANの普及に伴い、無線通信端末が無線LANを利用する場合に、無線アクセスポイントを介して無線通信を行うインフラストラクチャー・モードは良く知られている。このモードでは、無線アクセスポイントが通信できる範囲にいるすべての無線通信端末と通信を行うことができ、また無線アクセスポイントを用いて有線ネットワークと接続することによって、その先のネットワーク上にある無線通信端末とも通信(インターネット通信)を行うことができる。
【0003】
ところで、無線アクセスポイントと無線通信端末との間で無線通信を行うために、従来の一般的な方法として、接続したい無線通信端末が、接続候補の無線アクセスポイントを探すことから始める。無線アクセスポイントは、ビーコンフレームに無線アクセスポイント自身のSSID情報などを含めて、ブロードキャストを行っている。その一方、無線通信端末は、接続したい無線アクセスポイントについて通信するかもしれない全てのチャネルを全て検索(スキャン)し、検出した無線アクセスポイントの一覧を作成する。その後、無線通信端末は、検出した無線アクセスポイントから、ビーコンフレームに含まれるSSIDが一致する無線アクセスポイントに対し、接続確立プロセスを開始する(パッシブスキャン)。しかし、無線通信端末が無線アクセスポイントからのビーコンフレームを一定時間受信できなかった場合には、無線通信端末自身が接続したいSSIDを含むプローブ要求(ProbeRequest)を周囲の無線アクセスポイントへブロードキャストし、そのSSIDと同じ無線アクセスポイントからの応答であるプローブ応答(ProbeResponse)を受けた後、接続確立プロセスを開始する(アクティブスキャン)。
【0004】
ここで、従来の一般的な方法では、無線通信端末は、無線通信状況を特に考慮せずに無線アクセスポイントのスキャンを定期的かつ常に同一の手順で行っている。このため、例えば無線通信端末が周辺のいずれのアクセスポイントからも接続許可が得られない(電波受信環境が悪いなど)場所に位置した場合、接続可能な無線アクセスポイントを検出できる見込みがない状況にあるにもかかわらず、すべての無線チャネルに対するスキャンを繰り返し実行する。このようなことは、無線通信端末や無線アクセスポイントの消費電力の増加を招き、バッテリ寿命を短縮させ、周辺の無線帯域の負荷を増加させる。
【0005】
このため、特許文献1では、接続可能な無線アクセスポイントが検出できない状況において、無線アクセスポイントの通信品質の時間変動量が許容範囲内にあるか否かを判定し、通信品質の追跡対象をこの許容範囲内にある少数の無線アクセスポイントに制限し、さらにこの制限された無線アクセスポイントが使用する無線チャネルに対してのみスキャンを行う無線通信端末を開示している。
【0006】
つぎに、特許文献2では、無線アクセスポイントから送信する無線通信端末宛の送信パケットについて、送信に成功したパケット数と、送信に失敗したエラーパケット数を無線LAN端末毎にカウントし、一定時間内で送信に成功したパケット数とエラーパケット数から送信エラー率を算出する。そのエラー率がしきい値を下回ると無線通信端末宛のRTP送信パケット回数(再送回数)を減少させることで、無線帯域の負荷増大を抑制する無線アクセスポイントおよびその通信方法を開示している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示の無線通信端末は、少数の無線アクセスポイントに制限し、その無線アクセスポイントの無線チャネルに対してのみスキャンを行うことで、無線通信端末の消費電力の低減には寄与しているものの、周辺の無線帯域の負荷増大および無線アクセスポイントの消費電力への配慮という問題については、解決していない。
【0009】
また、特許文献2に開示の無線アクセスポイントは、圏外へ移動した無線通信端末宛のRTP送信パケットを減少させることで、無線帯域の負荷増大の抑制を図っているが、送信エラー率を算出するために一定時間のRTPパケット再送(再送信)が続かざるを得ず、そのRTPパケット再送のあいだ、無線帯域の負荷は低下しない。
【0010】
本発明は、上述の問題を鑑みてなされたものであり、無線LAN通信システムにおける無線アクセスポイントと、圏外および無線通信環境が劣化した無線通信端末との無線通信において、無線アクセスポイントからの不要な再送信を抑えることで、無線アクセスポイントの消費電力の低減と、周囲の無線帯域の負荷を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一態様に係る無線アクセスポイントは、無線通信端末と無線通信を確立するために送信される該無線通信端末からの情報を受信する無線アクセスポイントであって、無線通信端末から送信される無線通信端末の属性情報を含む信号を受信する受信部と、属性情報を含む信号をもとに無線通信端末からの受信信号強度を取得する情報取得部と、受信信号強度と判断部に設定された複数のしきい値との大小関係によって無線通信端末に再応答する回数を判断する判断部と、判断部の指示をもとに無線通信端末へ再応答する送信部と、を備える無線アクセスポイントである。
【0012】
これによれば、無線通信端末からの受信信号強度を取得し、その受信信号強度と判断部に設定された複数のしきい値との大小関係を比較し、複数のしきい値に対応した適切な再送回数を決定する。このように再送回数を制限することで、周辺の周波数帯域を無駄に占有することなく、また帯域負荷を減らすことで、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることができる。また、無線アクセスポイントの消費電力の低減もできる。
【0013】
ここでいう「受信信号強度と判断部に設定された複数のしきい値との大小関係によって」とは、複数のしきい値を設定することにより、受信信号強度軸を3つ以上の領域に分割し、実際に受信した信号強度がどの領域に当てはまるかによって、という意味である。
【0014】
また、判断部はさらに、自身が判断した回数に従って無線通信端末に再応答している間に当該無線通信端末から新たな属性情報を含む信号を受信した場合に、新たな属性情報に基づいて再応答する回数を判断し直す、としてもよい。
【0015】
これによれば、判断部で決定された再送回数に応じて、再送を行っている際に新たな属性情報(受信信号強度が異なる信号を含む)を受信すると、判断部で再び、再送回数を制限するか否かの判断を行うことができ、無線通信端末の移動または停止など、その時々の状況変化にも柔軟に対応できる。
【0016】
本発明の一態様に係るプログラムは、無線通信端末と無線通信を確立するために送信される該無線通信端末からの情報を受信する無線アクセスポイントを、無線通信端末から送信される無線通信端末の属性情報を含む信号を受信する受信部と、属性情報を含む信号をもとに無線通信端末からの受信信号強度を取得する情報取得部と、受信信号強度と判断部に設定された複数のしきい値との大小関係によって無線通信端末に再応答する回数を判断する判断部と、判断部の指示をもとに無線通信端末へ再応答する送信部、として機能させるためのプログラムである。
【0017】
これによれば、無線通信端末からの受信信号強度を取得し、その受信信号強度と判断部に設定された複数のしきい値との大小関係を比較し、複数のしきい値に対応した適切な再送回数を決定する。このように再送回数を制限することを機能させるプログラムとしてコンピュータ(無線アクセスポイント)に機能させることで、周辺の周波数帯域を無駄に占有することなく、また帯域負荷を減らすことで、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることができる。また、無線アクセスポイントの消費電力の低減もできる。
【0018】
また、さらに判断部は、自身が判断した回数に従って無線通信端末に再応答している間に無線通信端末から新たな属性情報を含む信号を受信した場合に、新たな属性情報に基づいて再応答する回数を判断し直す、ことを機能させるためのプログラムであってもよい。
【0019】
これによれば、判断部で決定された再送回数に応じて、再送を行っている際に新たな属性情報(受信信号強度が異なる信号を含む)を受信すると、判断部で再び、再送回数を制限するか否かの判断を行うことを機能させるプログラムとしてコンピュータ(無線アクセスポイント)に実現させることで、無線通信端末の移動または停止など、その時々の状況変化にも柔軟に対応できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、無線通信環境の状況に応じて、動的に再送回数を制限することで周辺の周波数帯域を無駄に占有することなく、また帯域負荷を減らすことで、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることができる。また、無線アクセスポイントの消費電力の低減もできる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、実施の形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置などは、一例であり、発明の範囲内において種々の変形や変更が可能である。
(実施の形態)
【0023】
図1は本実施の形態に係る無線通信システム10の全体図である。
無線アクセスポイント1は、無線通信インタフェースを有する無線アクセスポイントであり、無線通信可能エリアに存在する無線通信端末2、無線通信端末3及び無線通信端末4との間で無線通信を行う。
【0024】
無線通信端末2、無線通信端末3及び無線通信端末4は、無線通信インタフェースを有するものであり、例えばノートPC、タブレット、スマートフォン等である。なお、無線通信は、例えばIEEE802.11規格などに適合する無線LANにより実現される。
【0025】
図2は、本発明の実施の形態に係る無線アクセスポイント1、無線通信端末2、無線通信端末3及び無線通信端末4のハードウェア構成図である。これらの装置は同じハードウェア構成を備えている。
【0026】
図2に示すCPU(Central Processing Unit)20、ROM(Read Only Memory)21、RAM(Random Access Memory)22、記憶装置23、WNIC(Wireless Network Interface Card)24、および各構成部品間を接続している内部バス25などを備えている。
【0027】
CPU20は、ROM21に格納された制御プログラムを実行するプロセッサである。
【0028】
ROM21は、制御プログラム等を保持する読み出し専用記憶領域である。
【0029】
RAM22は、CPU20が制御プログラムを実行するときに使用するワークエリアとして用いられる記憶領域である。
【0030】
記憶装置23は、制御プログラム、制御情報、装置情報、または認証情報などを保持する記憶領域である。
【0031】
WNIC24は、無線通信を行う無線通信インタフェースを備えている。例えば、IEEE802.11a、b、g、n、ac規格等に適合する無線LANの通信インタフェースである。
【0032】
内部バス25は、CPU20,ROM21、RAM22、記憶装置23、WNIC24を電気的に接続している内部バスである。
【0033】
図3は、無線アクセスポイント1の機能ブロック図である。
【0034】
受信部30は、周囲の無線通信端末から無線接続を確立するための一連のプロセスで送信されるデータを受信し、無線接続確立後は接続している無線通信端末から随時送信されるデータを受信する。ここで、無線接続を確立するための一連のプロセスとは無線認証手続き、接続許可手続き、暗号鍵の交換などである。
【0035】
情報取得部31は、周囲の無線通信端末から送信された無線通信端末自身の属性情報などを含むデータ(パケット)から、無線接続を確立するために必要な情報(例えば、受信信号強度、SSID、MACアドレスなど)を抽出し、記憶装置23に記憶する。
【0036】
判断部32は、本発明において主要な役割を担う部分であり、情報取得部31で取得した受信信号強度をもとに無線接続を確立しようとする無線通信端末への応答に対し、再送回数を制限する、または再送を行わない(再送を停止)することを判断する。
【0037】
送信部33は、判断部32で決定した再送回数を上限として、接続しようとしている無線通信端末、または接続中の無線通信端末に応答の再送信を行う。あるいは、再送を行わない(再送を停止)旨の決定にもとづいて応答を送信しない。また、無線接続確立後は接続している無線通信端末へ随時、データの送信を行う。
【0038】
つぎに、
図4を参照して、無線アクセスポイントの判断部32について説明する。
【0039】
設定部40は、受信信号強度のしきい値(後述する)、ならびにプローブ要求およびパケット受信に対する応答の再送回数を設定する。これらの各設定は、あらかじめ工場出荷時までに設定されていてもよいし、ユーザが運用時、アプリケーションで行う設定によって定めてもよい。ここで、受信信号強度は、無線通信において安定的に通信ができるか否かの目安の一つであり、ビーコン、プローブ要求、プローブ応答など無線通信データの属性情報として格納されている。また、再送回数とは、通常無線アクセスポイントと無線通信端末とのあいだで、送信側がデータ送信したことに対して受信側から応答がない場合、送信したデータを送信側が再送する回数である。
【0040】
判定部41は、設定部40においてあらかじめ設定した複数の受信信号強度のしきい値と、無線通信端末から送信され記憶装置23に格納されている属性情報のうち受信信号強度の値とを比較し、プローブ応答の再送回数を制限したり、またはプローブ応答の再送を行わないこと(再送を停止)を決定する。そして判定部はこの判定結果を処理部42へ通知する。なお、しきい値と受信信号強度との大小関係に基づいて、プローブ応答の再送回数と再送を行わない決定、所定の数値および一定の数値毎に再送回数を設定することについては、後述詳細に説明する。
【0041】
処理部42は、判定部41で決定されたプローブ応答の再送回数と再送を行わないことを送信部33へ通知する。また、処理部42はプローブ応答の再送信中に同じ無線通信端末から新たなプローブ要求を受けた場合、判定結果に従って再送を実行している途中であったとしても、記憶装置23に格納されているその新たなプローブ要求の属性情報に基づいて、そのプローブ要求に対するプローブ応答の再送回数、または再送しないこと(再送を停止)を再決定するように判定部41に促す。
【0042】
<従来のパケット応答の通信について>
ここで、本発明の理解のため、図示しない従来の無線アクセスポイント11と無線通信端末12をもとに
図5を参照しながら、まず従来技術の無線通信におけるパケットの送受信のシーケンスを説明する。
【0043】
(1)データ送受信が完了する。
図5では、無線アクセスポイント11から無線通信端末12へパケットを送信する(ステップS50)。無線通信端末12がパケットを受信すれば、無線通信端末12は無線アクセスポイント11にACK応答を送信し、パケットを受け取ったことを通知する(ステップS51)ことで、無線アクセスポイント11はパケットの送信が完了したとみなし、次の動作を行う。
【0044】
(2)送信が失敗したとみなし、再送信が行われる。
所定の時間が経過しても、無線通信端末12からのACK応答を無線アクセスポイント11が受信できなければ(ステップS52)、送信が失敗したものとみなし、無線アクセスポイント11は送信したパケットを再送信する。
【0045】
この場合のACK応答を受信できないのは、例えば無線アクセスポイント11の受信感度が無線通信端末12の受信感度より優れており、一旦無線接続が確立された後、通信状況が悪化し、無線アクセスポイント11側では無線通信端末12からの受信信号強度が一定の値を満たしている一方、無線通信端末12側では、無線アクセスポイントからの受信信号強度が一定の値を満たしていないほど低下している状況が考えられる。この状況では、無線アクセスポイントは、無線通信端末12と無線通信を継続しようとする一方、無線通信端末12は、無線アクセスポイント11との接続が切断されたと判断し、ACK応答を返さない状況になる。
【0046】
このように、無線アクセスポイント11は、ACK応答を受け取れないため、パケットの再送処理を一定回数あるいは所定の時間のあいだ、継続し続けることになり、無線アクセスポイント11の周辺の周波数帯域を無駄に占有することで、周波数帯域に負荷がかかり、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に、通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などの影響を与えることになる。ここで、上述の無線アクセスポイント11側と無線通信端末12側でそれぞれの受信信号強度が異なる原因は、個々の装置固有のもの(例えば、無線ICチップ、アンテナの性能など)、または周囲の電波環境(例えば、周囲にノイズが多く、装置間が製品仕様で想定していない距離を離れている)などが考えられる。
【0047】
また、従来技術では、無線アクセスポイント11がACK応答を受信できない場合、パケット再送処理を最大で何回まで行うか、または送信が失敗したと判断する時間(タイムアウトなど)をどの程度の時間設定し、再送処理を行うかなどのパラメータは、プロトコルとして決められているわけではなく、それぞれの装置に実装されている無線ICチップなどハードウェア、または、それらの動作を制御するデバイスドライバに依存する。
【0048】
<従来技術のプローブ要求および応答の通信について>
この様ないつまでも再送が行われるという問題が生じる具体例として、無線接続確立前のプロセスを説明する。上述したように無線接続確立前に行われる無線通信端末が無線アクセスポイントからのビーコンフレームを一定時間受信できなかった場合に行われるアクティブスキャンでは、無線通信端末自身が接続したい(自身の)SSIDを含むプローブ要求を周囲の無線アクセスポイントへブロードキャストし、そのSSIDと同じ無線アクセスポイントからの応答であるプローブ応答を受け、その無線通信端末と無線アクセスポイントとの間で無線接続確立のプロセスを開始する。このプローブ要求とプローブ応答は、それぞれ無線通信に必要な情報をパケットにし、データを送受信している。よって
図5の記載の説明と同様、データ送信側とデータ受信側との間でデータ送受信完了とみなす条件はデータ受信側から応答を通知し、この応答をデータ送信側が受信できたときである。
【0049】
そこで、図示しない従来の無線アクセスポイント11と無線通信端末12をもとに
図6を参照しながら従来技術のプローブ要求および応答のシーケンスを以下に説明する。
【0050】
(A)プローブ要求に対するプローブ応答することで送受信の完了。
無線通信端末12から無線アクセスポイント11へプローブ要求を送信する(ステップS60)。無線アクセスポイント11がプローブ要求を受信すれば、無線通信端末12にプローブ応答を送信し、無線アクセスポイント11がパケットを受け取ったことを通知する(ステップS61)ことで、無線通信端末12はパケットの送信が完了したとみなし、次の動作を行う。
【0051】
(B)プローブ要求に対するプローブ応答が受信できず、再送信を行う。
無線通信端末12から無線アクセスポイント11へプローブ要求を送信する(ステップS60)。これに対し、無線アクセスポイント11はプローブ応答を送信するのであるが、これを無線通信端末12が受信できずプローブ要求を再送信してくることに応じて、無線アクセスポイント11はプローブ応答を再送し続ける。
【0052】
<本発明の実施の形態に係るプローブ要求および応答の通信について>
つぎに、
図7を参照しながら本発明の実施の形態に係るプローブ要求および応答のシーケンスを以下に説明する。
【0053】
本実施形態の例では無線アクセスポイントが受信する無線信号強度を3つの領域に分けて、プローブ応答の再送の態様を変更する。領域の境界は、最低しきい値と中間しきい値と名付ける。この2つのしきい値は、判断部32であらかじめ設定されており、その無線信号強度は、例えば最低しきい値が−60dBm、中間しきい値が−40dBmなど、最低しきい値<中間しきい値の関係にある。
【0054】
(C)受信信号強度の値が、最低しきい値と中間しきい値のあいだの範囲の場合
無線通信端末2から無線アクセスポイント1へプローブ要求を送信する(ステップS70)。所定の時間が経過しても、無線アクセスポイント1からのプローブ応答を無線通信端末2が受信できなければ(ステップS71)、送信が失敗したものとみなし、無線通信端末2はプローブ要求を再送信する。つぎに、無線アクセスポイント1は、初めて無線通信端末2から受信したプローブ要求の属性情報をもとに、判断部32でプローブ応答の再送回数が決定し、送信部33から所定の回数を上限としてプローブ応答を繰り返す。例えば、
図7の場合は送信回数が2回行われている。この条件下では、プローブ要求の信号強度が判断部32であらかじめ設定した最低しきい値と中間しきい値のあいだにあることから再送回数の上限が決定される。
【0055】
このように、プローブ応答の再送信が行われる場合でも、無線アクセスポイント1は、受信信号強度が最低しきい値と中間しきい値のあいだにある場合、再送回数を制限することで、周辺の周波数帯域を無駄に占有することなく、また帯域負荷を減らすことで、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることができる。また、無線アクセスポイントの消費電力の低減もできる。
【0056】
(D)受信信号強度の値が最低しきい値以下の場合。
無線通信端末2から無線アクセスポイント1へプローブ要求を送信する(ステップS70)。所定の時間が経過しても、無線アクセスポイント1からのプローブ応答を無線通信端末2が受信できなければ(ステップS71)、送信が失敗したものとみなし、無線通信端末2はプローブ要求を再送信する。つぎに、無線アクセスポイント1は、初めて無線通信端末2から受信したプローブ要求の属性情報をもとに、判断部32でプローブ応答の再送をしない(停止する)ことが決定され、送信部33から初めのプローブ応答だけが行われる。例えば、
図7(D)では応答のための再送信は行われていない。この条件下では、判断部32であらかじめ設定した最低しきい値よりも受信信号強度の値が低いことから応答のための再送を行わない(停止する)。
【0057】
このように、受信信号強度の値が最低しきい値よりもさらに低い場合、無線通信端末2は、すでに無線アクセスポイント1と無線通信できない状態であるとみなし、応答の再送信による周辺の周波数帯域の無駄な占有がなく、また帯域負荷を減らすことで、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることができる。また、無線アクセスポイントの消費電力の低減もできる。
【0058】
つぎに、
図8を参照しながら実施の形態に係る無線アクセスポイントの動作フローについて順をおって説明する。
【0059】
ステップ80にて、受信部30で無線通信端末2からプローブ要求を受信したか否か判断を行う。受信すれば、ステップ81へ遷移する(ステップ80においてYes)。また、受信しなければ、処理を終了する(ステップ80においてNo)。
【0060】
ステップS81にて、プローブ要求のデータ内に存在する無線接続の確立に必要となる属性情報を情報取得部31で取得し、記憶装置23へ格納する。
【0061】
ステップS82にて、記憶装置23に格納された属性情報をもとに無線接続の際に確認される無線通信端末2が要求するSSID(Service Set Identifier)と無線アクセスポイント1のSSIDが一致するか否かを判断する。これは無線通信を行うことを双方の装置が認められているかどうかを知るために行われ、SSIDが一致した装置間でしか無線通信を行えないようにすることができる。SSIDが一致すれば
ステップ83へ遷移する(ステップ82においてYes)。一致しなければ、処理を終了する(ステップ82においてNo)。
【0062】
ステップS83にて、無線接続の確立のための認証プロセスが行われていないかどうかの判断を行う。認証プロセスが行われていなければ、ステップ84へ遷移する(ステップ83においてYes)。行われていれば、処理を終了する(ステップ83においてNo)。
ここで、認証プロセスが行われているのであれば、プローブ要求に対してプローブ応答が無線通信端末2で受信できており、既に無線確立のための一連のプロセスは完了していることになる。よって、プローブ応答の再送信は行うことはないのである。
【0063】
ステップS84にて、設定部40であらかじめ設定した受信信号強度の中間しきい値と、情報取得部31で取得し記憶装置23へ格納している無線接続の確立に必要となる属性情報に含まれる受信信号強度の値とを判定部41で判定し、プローブ応答の再送信を行うか否かの判断を行う。中間しきい値より受信信号強度が低く本発明による再送信の制限を行う場合は、ステップ85へ遷移する(ステップ84においてYes)。中間しきい値より受信信号強度が高く通信状態が良好である場合は、処理を終了する(ステップ84においてNo)。
【0064】
ステップS85にて、判定部41でプローブ応答の再送回数および停止が判断される。上述した
図7の説明のように、受信信号強度の値が最低しきい値と中間しきい値のあいだの範囲の場合、設定した再送回数を上限として、プローブ応答の再送回数が決定される。また、受信信号強度の値が最低しきい値以下の場合、すでに無線アクセスポイント1と無線通信できない状態であるとみなし、プローブ応答の再送信を行わない(停止する)。
【0065】
ステップS86にて、ステップS85でプローブ応答の再送信を行う(つまり停止しない)ことが決定されたか否かの判断を行う。再送信を行う(停止しない)ことが決定された場合、ステップ87へ遷移する(ステップ86においてYes)。また、再送信を行なわない(停止する)ことが決定された場合、処理を終了する(ステップ86においてNo)。
【0066】
ステップS87にて、判断部32の判断結果をもとに送信部33から無線通信端末2へ所定の回数(判断部32で決定された再送回数)を上限として、プローブ応答の再送信を行う。
【0067】
ステップS88にて、送信部33から無線通信端末2へプローブ応答の再送信を1回行った後に、同じ無線通信端末2から新たなプローブ要求を受信していないか否かを判断する。受信していなければ、ステップ89へ遷移する(ステップ88においてYes)。受信していれば、ステップ81へ遷移し(ステップ88においてNo)、プローブ応答の再送回数および停止について、一連の処理を繰り返す。ここで、新たなプローブ要求を受信していないかを判断するのは、プローブ応答の再送信を繰り返している間に無線通信端末2が移動するなどして無線通信状況に変化があった場合に、受信信号強度が変動することも考えられるからである。
このように、ステップS88を設けることにより、無線通信端末2と無線アクセスポイント1との通信状況が時々刻々変動してもこれに柔軟に対応でき、効率のよいプローブ応答の再送信を行うことができる。
【0068】
ステップS89にて、ステップ85で決定されたプローブ応答の再送回数を上限として再送回数分を実行されたか否かを判断する。実行されたならば、処理を終了する(ステップ89においてYes)。実行されていなければ、ステップ87へ遷移する(ステップ89においてNo)。
【0069】
なお、ステップS84で、通信状況が良好であるため、本発明による再送信の制限は行わないとした場合でも、応答の再送信制限が行われることもある。ここで行われる再送信の制限とは、通信状況の如何に無関係に、それぞれの装置に実装されている無線ICチップなどハードウェア、または、それらの動作を制御するデバイスドライバによって決定される固有の再送回数上限に基づいて行われるものである。
【0070】
(その他の実施の形態)
<データフレーム送受信について>
上述した
図5に係る従来のパケット応答の通信と同様に、無線通信で送受信されるデータフレーム(図示しない)についても、無線アクセスポイントが無線通信端末へデータフレームを送信しているにもかかわらず、無線通信端末からの応答を無線アクセスポイントが受信できないと判断する場合、送信したデータフレームを再送信する。ここで、データフレームは、IEEE802.11規格で定めるデータフォーマットに準拠したデータの集まりである。
また、データフレームは物理層で付加されるプリアンブルを含む物理ヘッダと、フレームの種類、制御フレーム、および管理フレームなどの情報が格納されているフレームコントロールなどが含まれるヘッダ部およびデータ部を含むMACヘッダと、から構成されている。管理フレームに格納される情報には、例えばプローブ要求、プローブ応答、ビーコン、アソシエーション要求、アソシエーション応答などがある。
【0071】
このように、本発明のその他の実施の形態においては、無線通信端末と無線アクセスポイントとの間でデータのやりとりが行われている場合、上述したプローブ応答の再送信の場合と同様に、無線アクセスポイントが送受信時のデータフレームに含まれる受信信号強度を参照し、予め設定した受信信号強度のしきい値に中間しきい値を複数設け、設定した再送回数を上限とする制限を行うこと、また受信信号強度の値が最低しきい値以下の場合は再送信を行わない(停止する)こととする。これにより、無線接続確立前に送受信されるデータ量(プローブ要求、応答など)よりも、大量のデータ量を送受信するデータフレームへの適用となると、周辺の周波数帯域を無駄に占有することなく、隣接した他の無線通信端末および無線アクセスポイントの無線通信に対し通信速度低下、使用可能なチャネル数の減少などへの影響を抑えることにより一層の効果を奏する。さらに複数の無線アクセスポイントおよび無線通信端末が使用されている環境下においては、この効果は顕著である。
【0072】
<複数の中間しきい値を設けることについて>
また、上述した再送制限では、中間しきい値を1つだけ設定し、全体の強度領域を3つに分割すると説明したが、中間しきい値を複数設けて、それぞれのしきい値のあいだで定められる信号強度の領域に応じて再送回数を決定してもよい。例えば、
図9に示すとおり、−60から−40dBmの範囲を4つに細分化し、5dBm単位毎に再送回数を1回ずつ減じて、再送回数を決定してもよい。この所定の数値は、無線通信を行う様々なデータレートに対して、電波品質を確保できるように、あらかじめ設定される受信信号強度のしきい値などを考慮しつつ、決定されることが望ましい。