(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
iPS細胞のような誘導幹細胞は、細胞に遺伝子等の誘導因子を導入することによって樹立され、拡大培養、凍結保存される。しかし、例えば臨床用iPS細胞(例えば、GLP,GMPグレード)を作製し産業化するには、以下のような問題点がある。
【0006】
1) コスト
臨床用iPS細胞は非常に綺麗に保たれたクリーンルームで作製、保存される必要がある。しかし、要求されるレベルの清潔度を維持するコストは非常に高額である。そのため、iPS細胞を作るのにコストがかかり、産業化への大きな障害となっている。
【0007】
2) 品質
幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であり、手作業によるところが多い。また、幹細胞の作製は、個人の技量に負っているところがある。その為、作製者や実験バッチによって、iPS細胞の品質のばらつきが生じうる。
【0008】
3) 時間
クリーンルームの中で特定のドナー以外の他人のiPS細胞とのクロスコンタミネーションを防ぐために、一人の人間のみに由来するiPS細胞が所定の時間をかけてクリーンルーム内で作製される。またiPS細胞の樹立、品質評価には長時間を要する。しかし、iPS細胞は、クリーンルームで一度に一人の人間のためだけに作製されるので、多くの希望者のiPS細胞を作製するのに非常に長い時間を要する。
【0009】
4) 人材
上述したように、現状、iPS細胞の作製は手作業によるところが大きい。しかし、臨床用iPS細胞を作製することができるのに必要な技術を有する技術者は少ない。
【0010】
幹細胞の樹立から保存までの一連の作業が複雑であるという問題がある。これに対し、本発明は、幹細胞を製造可能な幹細胞製造システムを提供することを目的の一つとする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の態様によれば、細胞を含む溶液が通過する導入前細胞送液路と、導入前細胞送液路に接続され、細胞に多能性誘導因子を導入して誘導因子導入細胞を作製する因子導入装置と、誘導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複数の細胞魂を作製する細胞塊作製装置と、導入前細胞送液路、誘導因子送液機構、因子導入装置、及び細胞塊作製装置を格納する筐体と、を備え、細胞塊作製装置が、因子導入装置で作製された誘導因子導入細胞を培養する初期化培養装置と、初期化培養装置で樹立された幹細胞からなる複数の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置と、を備え、初期化培養装置が、誘導因子導入細胞に培地を補給する第1の培地補給装置を備え、拡大培養装置が、複数の細胞塊に培地を補給する第2の培地補給装置を備える、幹細胞製造システムが提供される。
【0012】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1の培地補給装置が、誘導因子導入細胞に培地を連続的に補給してもよい。
【0013】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1の培地補給装置が、誘導因子導入細胞に培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0014】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第2の培地補給装置が、複数の細胞塊に培地を連続的に補給してもよい。
【0015】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第2の培地補給装置が、複数の細胞塊に培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0016】
上記の幹細胞製造システムにおいて、因子導入装置が、導入前細胞送液路に接続された因子導入部と、多能性誘導因子を保存する因子保存部と、因子保存部から因子導入部に多能性誘導因子を流すための因子送液路と、因子送液路内の液体を流すためのポンプと、を備えていてもよい。
【0017】
上記の幹細胞製造システムにおいて、因子導入部において、RNAリポフェクションにより、細胞に多能性誘導因子が導入されてもよい。
【0018】
上記の幹細胞製造システムにおいて、多能性誘導因子がDNA、RNA、又はタンパク質であってもよい。
【0019】
上記の幹細胞製造システムにおいて、多能性誘導因子がベクターに組み込まれていてもよい。
【0020】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ベクターがセンダイウイルスベクターであってもよい。
【0021】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0022】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養装置が、誘導因子導入細胞とゲル培地が入れられる透析チューブと、透析チューブが入れられ、透析チューブの周囲にゲル培地が入れられる容器と、を備える、浮遊培養器を備えていてもよい。
【0023】
上記の幹細胞製造システムにおいて、透析チューブの分画分子量が0.1KDa以上であってもよい。
【0024】
上記の幹細胞製造システムにおいて、透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなっていてもよい。
【0025】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1の培地補給装置が、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を補給してもよい。
【0026】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1の培地補給装置が、透析チューブ内にゲル培地を補給してもよい。
【0027】
上記の幹細胞製造システムが、補給されるゲル培地が流れる培地送液路を更に備えていてもよい。
【0028】
上記の幹細胞製造システムにおいて、培地送液路が二酸化炭素透過性であってもよい。
【0029】
上記の幹細胞製造システムが、培地送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0030】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0031】
上記の幹細胞製造システムが、補給されるゲル培地を冷蔵保存する冷蔵保存部を更に備えていてもよい。
【0032】
上記の幹細胞製造システムが、容器に接続された廃液送液路であって、容器内のゲル培地を外部に流出させるための廃液送液路を更に備えていてもよい。
【0033】
上記の幹細胞製造システムが、因子導入装置から初期化培養装置に誘導因子導入細胞を送るための導入細胞送液路を更に備えていてもよい。
【0034】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入細胞送液路が二酸化炭素透過性であってもよい。
【0035】
上記の幹細胞製造システムが、導入細胞送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0036】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0037】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養装置が、複数の細胞塊とゲル培地が入れられる透析チューブと、透析チューブが入れられ、透析チューブの周囲にゲル培地が入れられる容器と、を備える、浮遊培養器を備えていてもよい。
【0038】
上記の幹細胞製造システムにおいて、透析チューブの分画分子量が0.1KDa以上であってもよい。
【0039】
上記の幹細胞製造システムにおいて、透析チューブがセルロースエステル、セルロースエステル類、再生セルロース、及びセルロースアセテートから選択される少なくとも一つからなっていてもよい。
【0040】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第2の培地補給装置が、容器内の透析チューブの周囲にゲル培地を補給してもよい。
【0041】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第2の培地補給装置が、透析チューブ内にゲル培地を補給してもよい。
【0042】
上記の幹細胞製造システムが、補給されるゲル培地が流れる培地送液路を更に備えていてもよい。
【0043】
上記の幹細胞製造システムにおいて、培地送液路が二酸化炭素透過性であってもよい。
【0044】
上記の幹細胞製造システムが、培地送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0045】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0046】
上記の幹細胞製造システムが、補給されるゲル培地を冷蔵保存する冷蔵保存部を更に備えていてもよい。
【0047】
上記の幹細胞製造システムが、容器に接続された廃液送液路であって、容器内のゲル培地を外部に流出させるための廃液送液路を更に備えていてもよい。
【0048】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養装置から拡大培養装置に誘導因子導入細胞を送るための導入細胞送液路を更に備えていてもよい。
【0049】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養装置の浮遊培養器の透析チューブ内と、拡大培養装置の浮遊培養器の透析チューブ内と、を接続する導入細胞送液路を更に備えていてもよい。
【0050】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入細胞送液路が二酸化炭素透過性であってもよい。
【0051】
上記の幹細胞製造システムが、導入細胞送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0052】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0053】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養装置及び拡大培養装置の少なくとも一方が、内部に培地が入れられる二酸化炭素透過性バッグを備えていてもよい。
【0054】
上記の幹細胞製造システムにおいて、細胞塊作製装置が、初期化培養装置で樹立された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第1の分割機構と、拡大培養装置で拡大培養された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第2の分割機構と、を更に備えていてもよい。
【0055】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1の分割機構が、初期化培養装置から拡大培養装置に誘導因子導入細胞を送るための導入細胞送液路に設けられていてもよい。
【0056】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構の少なくとも一方が、細胞塊をシングルセルに分割してもよい。
【0057】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構の少なくとも一方が、内部に貫通孔を有する分割器を備え、貫通孔が、大孔径部と、大孔径部と連通し、大孔径部より孔径が小さい小孔径部と、を交互に有し、細胞塊を含む培地が、貫通孔を流れてもよい。
【0058】
上記の幹細胞製造システムにおいて、大孔径部の中心軸と、小孔径部の中心軸と、がオフセットしていてもよい。
【0059】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構の少なくとも一方が、それぞれ、内部に貫通孔が設けられた連結ブロックを備え、当該連結ブロックの第1の端部に凹部が、当該連結ブロックの第2の端部に凸部が設けられており、当該連結ブロックが複数ある場合に、凸部が隣接する連結ブロックの凹部と勘合し、貫通孔が、凹部と連通する第1の大孔径部と、第1の大孔径部と連通し、第1の大孔径部より孔径が小さい小孔径部と、小孔径部と連通し、小孔径部より孔径が大きく、凸部の先端に開口を有する第2の大孔径部と、を有し、細胞塊を含む培地が、貫通孔を流れてもよい。
【0060】
上記の幹細胞製造システムにおいて、連結ブロックが複数あり、当該複数の連結ブロックを連結した場合に、第2の大孔径部が、隣接する連結ブロックの第1の大孔径部と平滑に連通してもよい。
【0061】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の大孔径部の中心軸と、小孔径部の中心軸と、がオフセットしていてもよい。
【0062】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構が、それぞれ、内部に貫通孔が設けられた先端ブロックを更に備え、当該先端ブロックの第1の端部に凹部が、当該先端ブロックの第2の端部にノズルが設けられており、当該先端ブロックの凹部が、連結ブロックの凸部と勘合し、貫通孔が、凹部と連通する大孔径部と、大孔径部と連通し、大孔径部より孔径が小さく、ノズルの先端に開口を有する小孔径部と、を有していてもよい。
【0063】
上記の幹細胞製造システムにおいて、連結ブロックと先端ブロックとを連結した際、連結ブロックの第2の大孔径部と、先端ブロックの大孔径部と、が、平滑に連通してもよい。
【0064】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構が、それぞれ、内部に貫通孔が設けられた末端ブロックを更に備え、当該末端ブロックの第1の端部に凹部が、末端ブロックの第2の端部に凸部が設けられており、当該末端ブロックの凸部が、連結ブロックの凹部と勘合してもよい。
【0065】
上記の幹細胞製造システムにおいて、第1及び第2の分割機構が、それぞれ、末端ブロックの凹部に挿入される挿入ノズルと、挿入ノズルに連通する、細胞塊を含む培地を吸引排出する吸引排出器と、を更に備えていてもよい。
【0066】
上記の幹細胞製造システムにおいて、複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージするパッケージ装置を更に備え、筐体がパッケージ装置を格納してもよい。
【0067】
上記の幹細胞製造システムにおいて、細胞塊作製装置が、複数の細胞魂をパッケージ装置に順次送る細胞魂搬送機構を更に備えていてもよい。
【0068】
上記の幹細胞製造システムにおいて、パッケージ装置が、ペルチェ素子又は液体窒素を用いて細胞塊を凍結してもよい。
【0069】
上記の幹細胞製造システムにおいて、パッケージ装置が、気化圧縮又は気化吸収により細胞塊を凍結してもよい。
【0070】
上記の幹細胞製造システムが、筒状部材と、筒状部材の内部に配置された液体透過フィルターと、を備える溶液置換器であって、筒状部材に、液体透過フィルター上に、複数の細胞塊を含む溶液を導入するための細胞塊導入孔と、液体透過フィルター上に、置換溶液を導入するための置換溶液導入孔と、液体透過フィルター上に、複数の細胞塊を含む置換溶液を流出するための細胞塊流出孔と、液体透過フィルターを透過した溶液が流出する廃液流出孔と、が設けられている溶液置換器を更に備えていてもよい。
【0071】
上記の幹細胞製造システムが、廃液流出孔に接続された廃液送液路を更に備え、複数の細胞塊を含む溶液の溶液を廃棄する際に廃液送液路における溶液の流動が許容され、置換溶液中に複数の細胞塊を分散させる際に廃液送液路における溶液の流動が許容されなくともよい。
【0072】
上記の幹細胞製造システムにおいて、置換溶液が培地、凍結保存液、又は細胞塊分割酵素溶液であってもよい。
【0073】
上記の幹細胞製造システムが、拡大培養装置から溶液置換器に複数の細胞塊を送るための導入細胞送液路を更に備えていてもよい。
【0074】
上記の幹細胞製造システムが、拡大培養装置の浮遊培養器の透析チューブ内と、溶液置換器の細胞塊導入孔と、を接続する導入細胞送液路を更に備えていてもよい。
【0075】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入細胞送液路が二酸化炭素透過性であってもよい。
【0076】
上記の幹細胞製造システムが、導入細胞送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0077】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0078】
上記の幹細胞製造システムが、血液から細胞を分離する分離装置を更に備え、分離装置で分離された細胞を含む溶液が導入前細胞送液路を通過してもよい。
【0079】
上記の幹細胞製造システムにおいて、分離装置が、磁気細胞分離方法又は赤血球凝固剤を用いる方法によって血液から単核球を分離してもよい。
【0080】
上記の幹細胞製造システムにおいて、分離装置が、単核球を精製する単核球精製フィルターを更に備えていてもよい。
【0081】
上記の幹細胞製造システムが、導入前細胞送液路内の液体を流すためのポンプを更に備えていてもよい。
【0082】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ポンプがダイヤフラムポンプ、チュービングポンプ、又はペリスタポンプ(登録商標)であってもよい。
【0083】
上記の幹細胞製造システムが、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、の少なくともいずれかを格納するケースであって、筐体内に配置されるケースを更に備えていてもよい。
【0084】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、ケースと、が使い捨て可能であってもよい。
【0085】
上記の幹細胞製造システムが、分離装置と、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、溶液置換器と、の少なくともいずれかを格納するケースであって、筐体内に配置されるケースを更に備えていてもよい。
【0086】
上記の幹細胞製造システムにおいて、分離装置と、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、溶液置換器と、ケースと、が使い捨て可能であってもよい。
【0087】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内に配置される複数のケースを更に備え、複数のケースのそれぞれに、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、の少なくともいずれかが格納されてもよい。
【0088】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、複数のケースと、が使い捨て可能であってもよい。
【0089】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内に配置される複数のケースを更に備え、複数のケースのそれぞれに、分離装置と、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、溶液置換器と、の少なくともいずれかが格納されてもよい。
【0090】
上記の幹細胞製造システムにおいて、分離装置と、因子導入部と、初期化培養装置の浮遊培養器と、拡大培養装置の浮遊培養器と、溶液置換器と、複数のケースと、が使い捨て可能であってもよい。
【0091】
上記の幹細胞製造システムにおいて、ケースと筐体が、互いに勘合する勘合部を備え、ケースが筐体内の所定の位置に配置されてもよい。
【0092】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の送液路と、ケース外のポンプと、が接続されてもよい。
【0093】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の因子導入部と、ケース外の因子保存部と、が接続されてもよい。
【0094】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の初期化培養装置の浮遊培養器及び拡大培養装置の浮遊培養器と、ケース外の培地を保存する培地保存部と、が接続されてもよい。
【0095】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の初期化培養装置の浮遊培養器及び拡大培養装置の浮遊培養器と、ケース外の廃液を保管する廃液保管部と、が接続されてもよい。
【0096】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の分離装置と、ケース外の血液を保存する血液保存部と、が接続されてもよい。
【0097】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の分離装置と、ケース外の血液分離剤を保存する分離剤保存部と、が接続されてもよい。
【0098】
上記の幹細胞製造システムにおいて、筐体内にケースが配置されると、ケース内の溶液置換器と、ケース外の凍結保存液を保存する凍結保存液保存部と、が接続されてもよい。
【0099】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養装置で培養される細胞を撮影する初期化培養撮影装置と、拡大培養装置で培養される細胞を撮影する拡大培養撮影装置と、を更に備えていてもよい。
【0100】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置及び拡大培養撮影装置は、それぞれ、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。
【0101】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養撮影装置及び拡大培養撮影装置の少なくともいずれかで得られた画像にハイパスフィルタを適用する画像処理部を更に備えていてもよい。
【0102】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、ハイパスフィルタを適用した画像に分水嶺アルゴリズムを適用して、画像中の細胞塊を抽出してもよい。
【0103】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistanceTransform法を適用してもよい。
【0104】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、抽出した細胞魂の大きさを算出してもよい。
【0105】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさが閾値以上である場合、初期化培養装置で樹立された幹細胞からなる複数の細胞塊が拡大培養装置に移行されてもよい。
【0106】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさが閾値以上である場合、拡大培養装置において、複数の細胞塊が継代されてもよい。
【0107】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさに応じて、初期化培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0108】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさに応じて、拡大培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0109】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、抽出した細胞魂の数を算出してもよい。
【0110】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の数に応じて、初期化培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0111】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の数に応じて、拡大培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0112】
上記の幹細胞製造システムが、培地の濁度と、培地中の細胞魂の密度と、の関係を記憶する関係記憶装置を更に備え、初期化培養撮影装置及び拡大培養撮影装置の少なくともいずれかで得られた画像に基づき、細胞が培養されている培地の濁度の値を算出し、算出された濁度の値と、関係と、に基づき、撮影された細胞魂の密度の値を算出する画像処理部を更に備えていてもよい。
【0113】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度が閾値以上である場合、初期化培養装置で樹立された幹細胞からなる複数の細胞塊が拡大培養装置に移行されてもよい。
【0114】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度が閾値以上である場合、拡大培養撮影装置において、複数の細胞塊が継代されてもよい。
【0115】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度に応じて、初期化培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0116】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度に応じて、拡大培養装置において培地の供給速度が変化してもよい。
【0117】
上記の幹細胞製造システムが、培地の色と、培地の水素イオン指数と、の関係を記憶する関係記憶装置を更に備え、初期化培養撮影装置及び拡大培養撮影装置の少なくともいずれかで得られた画像における培地の色の値を算出し、算出された色の値と、関係と、に基づき、撮影された培地の水素イオン指数の値を算出する画像処理部を更に備えていてもよい。
【0118】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養撮影装置で撮影された画像から算出された水素イオン指数が所定の範囲外である場合、初期化培養装置において培地が交換されてもよい。
【0119】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養撮影装置で撮影された画像から算出された水素イオン指数が所定の範囲外である場合、拡大培養装置において培地が交換されてもよい。
【0120】
上記の幹細胞製造システムにおいて、培地の色が、培地の色相であってもよい。
【0121】
上記の幹細胞製造システムにおいて、初期化培養装置で測定された水素イオン指数が所定の範囲外である場合、初期化培養装置において培地が交換されてもよい。
【0122】
上記の幹細胞製造システムにおいて、拡大培養装置で測定された水素イオン指数が所定の範囲外である場合、拡大培養装置において培地が交換されてもよい。
【0123】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入前細胞送液路の内壁が、細胞非接着性であってもよい。
【0124】
上記の幹細胞製造システムにおいて、導入前細胞送液路と、誘導因子送液機構と、が、基板上に設けられていてもよい。
【0125】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内の気体を清浄にする空気清浄装置を更に備えていてもよい。
【0126】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内の気体の温度を管理する温度管理装置を更に備えていてもよい。
【0127】
上記の幹細胞製造システムが、初期化培養装置及び拡大培養装置における培地の温度を管理する温度管理装置を更に備えていてもよい。
【0128】
上記の幹細胞製造システムにおいて、温度管理装置が、培地の温度が所定の範囲より低い場合は、培地の温度を上昇させ、培地の温度が所定の範囲より高い場合は、培地の温度を低下させてもよい。
【0129】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内の気体の二酸化炭素濃度を管理する二酸化炭素濃度管理装置を更に備えていてもよい。
【0130】
上記の幹細胞製造システムが、筐体内を乾熱滅菌又はガス滅菌する滅菌装置を更に備えていてもよい。
【0131】
上記の幹細胞製造システムにおいて、誘導因子送液機構、因子導入装置、及び細胞塊作製装置が、サーバーによって作業手順に基づいて制御され、サーバーが、誘導因子送液機構、因子導入装置、及び細胞塊作製装置が作業手順に基づいて稼働しているか否か監視し、稼働記録を作成してもよい。
【0132】
また、本発明の態様によれば、内部に細胞塊を含む培地が流れる貫通孔が設けられた連結ブロックを備え、当該連結ブロックの第1の端部に凹部が、当該連結ブロックの第2の端部に凸部が設けられており、当該連結ブロックが複数ある場合に、凸部が隣接する連結ブロックの凹部と勘合し、貫通孔が、凹部と連通する第1の大孔径部と、第1の大孔径部と連通し、第1の大孔径部より孔径が小さい小孔径部と、小孔径部と連通し、小孔径部より孔径が大きく、凸部の先端に開口を有する第2の大孔径部と、を有する、細胞塊分割器が提供される。
【0133】
上記の細胞塊分割器において、連結ブロックが複数あり、当該複数の連結ブロックを連結した場合に、第2の大孔径部が、隣接する連結ブロックの第1の大孔径部と平滑に連通してもよい。
【0134】
上記の細胞塊分割器において、第1及び第2の大孔径部の中心軸と、小孔径部の中心軸と、がオフセットしていてもよい。
【0135】
上記の細胞塊分割器が、内部に貫通孔が設けられた先端ブロックを更に備え、当該先端ブロックの第1の端部に凹部が、当該先端ブロックの第2の端部にノズルが設けられており、当該先端ブロックの凹部が、連結ブロックの凸部と勘合し、貫通孔が、凹部と連通する大孔径部と、大孔径部と連通し、大孔径部より孔径が小さく、ノズルの先端に開口を有する小孔径部と、を有していてもよい。
【0136】
上記の細胞塊分割器において、連結ブロックと先端ブロックとを連結した際、連結ブロックの第2の大孔径部と、先端ブロックの大孔径部と、が、平滑に連通してもよい。
【0137】
上記の細胞塊分割器が、内部に貫通孔が設けられた末端ブロックを更に備え、末端ブロックの第1の端部に凹部が、末端ブロックの第2の端部に凸部が設けられており、当該末端ブロックの凸部が、連結ブロックの凹部と勘合してもよい。
【0138】
上記の細胞塊分割器が、末端ブロックの凹部に挿入される挿入ノズルと、挿入ノズルに連通する、細胞塊を含む培地を吸引排出する吸引排出器と、を更に備えていてもよい。
【0139】
また、本発明の態様によれば、培養細胞を撮影する撮影装置と、撮影装置で得られた画像にハイパスフィルタを適用する画像処理部と、を備える、幹細胞製造システムが提供される。
【0140】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置は、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。
【0141】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、ハイパスフィルタを適用した画像に分水嶺アルゴリズムを適用して、画像中の細胞塊を抽出してもよい。
【0142】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistanceTransform法を適用してもよい。
【0143】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、抽出した細胞魂の大きさを算出してもよい。
【0144】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさが閾値以上である場合、初期化培養で樹立された幹細胞からなる複数の細胞塊が拡大培養に移行されてもよい。
【0145】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさが閾値以上である場合、拡大培養において、複数の細胞塊が継代されてもよい。
【0146】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の大きさに応じて、培養器における培地の供給速度が変化してもよい。
【0147】
上記の幹細胞製造システムにおいて、画像処理部が、抽出した細胞魂の数を算出してもよい。
【0148】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の数に応じて、培養器における培地の供給速度が変化してもよい。
【0149】
また、本発明の態様によれば、培養細胞を撮影する撮影装置と、培地の濁度と、培地中の細胞魂の密度と、の関係を記憶する関係記憶装置と、撮影装置で得られた画像に基づき、細胞が培養されている培地の濁度の値を算出し、算出された濁度の値と、関係と、に基づき、撮影された細胞魂の密度の値を算出する画像処理部と、を備える、幹細胞製造システムが提供される。
【0150】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置は、テレセントリックレンズを介して細胞を撮影してもよい。
【0151】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度が閾値以上である場合、初期化培養で樹立された幹細胞からなる複数の細胞塊が拡大培養に移行されてもよい。
【0152】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度が閾値以上である場合、拡大培養において、複数の細胞塊が継代されてもよい。
【0153】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された細胞塊の密度に応じて、培養器において培地の供給速度が変化してもよい。
【0154】
また、本発明の態様によれば、培養細胞を撮影する撮影装置と、培地の色と、培地の水素イオン指数と、の関係を記憶する関係記憶装置と、撮影装置で得られた画像における培地の色の値を算出し、算出された色の値と、関係と、に基づき、撮影された培地の水素イオン指数の値を算出する画像処理部と、を備える、幹細胞製造システムが提供される。
【0155】
上記の幹細胞製造システムにおいて、撮影装置で撮影された画像から算出された水素イオン指数が所定の範囲外である場合、培養器において培地が交換されてもよい。
【0156】
上記の幹細胞製造システムにおいて、培地の色が、培地の色相であってもよい。
【発明の効果】
【0157】
本発明によれば、幹細胞を製造可能な幹細胞製造システムを提供可能である。
【発明を実施するための形態】
【0159】
以下に本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号で表している。但し、図面は模式的なものである。したがって、具体的な寸法等は以下の説明を照らし合わせて判断するべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0160】
本発明の実施の形態に係る幹細胞製造システムは、
図1に示すように、血液から細胞を分離する分離装置10と、分離装置10で分離された細胞を含む溶液が通過する導入前細胞送液路20と、導入前細胞送液路20内に多能性誘導因子を送る誘導因子送液機構21と、導入前細胞送液路20に接続され、細胞に多能性誘導因子を導入して誘導因子導入細胞を作製する因子導入装置30と、誘導因子導入細胞を培養して幹細胞からなる複数の細胞魂を作製する細胞塊作製装置40と、複数の細胞塊のそれぞれを順次パッケージするパッケージ装置100と、を備える。
【0161】
幹細胞製造システムは、さらに、分離装置10、導入前細胞送液路20、誘導因子送液機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100を格納する小型の筐体200を備える。
【0162】
幹細胞製造システムは、さらに、筐体200内の気体を清浄にする空気清浄装置、筐体200内の気体の温度を管理する温度管理装置、及び筐体200内の気体の二酸化炭素(CO
2)濃度を管理する二酸化炭素濃度管理装置を備えていてもよい。空気清浄装置は、筐体200内の気体の清浄度を監視する清浄度センサーを備えていてもよい。空気清浄装置は、例えば、HEPA(High Efficiency Particulate Air)フィルター等を用いて、筐体200内の空気を清浄化する。空気清浄装置は、例えば、筐体200内の空気の清浄度を、ISO基準 14644−1でISO1からISO6のクラスにする。温度管理装置は、筐体200内の気体の温度を監視する温度センサーを備えていてもよい。CO
2濃度管理装置は、筐体200内の気体のCO
2濃度を監視するCO
2濃度センサーを備えていてもよい。
【0163】
筐体200には、例えば扉等が設けられているが、扉が閉じられた状態では、内部が完全に閉鎖され、内部の空気の清浄度、温度、及びCO
2濃度を一定に保つことが可能である。筐体200は、外部から内部の装置の状態を観察できるよう、透明であることが好ましい。また、筐体200は、ゴム手袋等のグローブが一体化された、グローブボックスであってもよい。
【0164】
分離装置10は、例えばヒトの血液が入ったバイアルを受け取る。分離装置10は、例えば、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、ヘパリン、及び生物学的製剤基準血液保存液A液(ACD−A液、テルモ株式会社)等の抗凝固剤を保存する抗凝固剤タンクを備えている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、抗凝固剤タンクから、ヒトの血液に、抗凝固剤を添加する。
【0165】
また、分離装置10は、例えば、Ficoll−Paque PREMIUM(登録商標、GEヘルスケア・ジャパン株式会社)等の単核細胞分離用試薬を保存する分離用試薬タンクを備えている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、分離用試薬タンクから、例えば15mLチューブ2本に、単核細胞分離用試薬を5mLずつ分注する。なお、チューブの代わりに、樹脂バッグを用いてもよい。
【0166】
さらに、分離装置10は、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等の緩衝液を保存する緩衝液タンクを備えている。分離装置10は、ポンプ等を用いて、緩衝液タンクから、例えばヒトの血液5mLに、緩衝液5mLを加えて希釈する。またさらに、分離装置10は、ポンプ等を用いて、希釈されヒトの血液を、チューブ中の単核細胞分離用試薬上に、5mLずつ加える。
【0167】
分離装置10は、温度設定可能な遠心機をさらに備える。遠心機は、例えば18℃に設定される。分離装置10は、移動装置等を用いて、単核細胞分離用試薬及びヒトの血液等が入れられたチューブを、遠心機のホルダーに入れる。遠心機は、チューブ中の溶液を、例えば400×gで30分間遠心する。チューブの代わりに、樹脂バッグを遠心させてもよい。
【0168】
遠心後、分離装置10は、チューブ中の溶液の単核球で白く濁った中間層をポンプ等で回収する。分離装置10は、ポンプ等を用いて、回収した単核球の懸濁液を、導入前細胞送液路20に送り出す。あるいは、さらに、分離装置10は、回収した単核球溶液2mLに対し、例えばPBS12mLを加えて、チューブを遠心機のホルダーに入れる。遠心機は、チューブ中の溶液を、例えば200×gで10分間遠心する。
【0169】
遠心後、分離装置10は、ポンプ等を用いて、チューブ中の溶液の上清を吸引して除去し、X−VIVO 10(登録商標、ロンザジャパン株式会社)等の単核球培地3mLをチューブ中の単核球溶液に加えて懸濁する。分離装置10は、ポンプ等を用いて、単核球懸濁液を、導入前細胞送液路20に送り出す。なお、分離装置10は、透析膜を使用して、血液から単核球を分離してもよい。また、皮膚等から予め分離された繊維芽細胞等の体細胞を使用する場合は、分離装置10は無くともよい。
【0170】
分離装置10は、遠心分離以外の方法で、誘導に適した細胞を分離してもよい。例えば、分離すべき細胞がT細胞であればCD3,CD4,CD8のいずれかが陽性である細胞をパニングにより分離すればよい。分離すべき細胞が血管内皮前駆細胞であればCD34が陽性である細胞をパニングにより分離すればよい。分離すべき細胞がB細胞であれば、CD10,CD19,CD20のいずれかが陽性である細胞をパニングにより分離すればよい。また、パニングに限らず、磁気細胞分離方法(MACS)やフローサイトメトリー等により分離してもよい。また、誘導に適した細胞は、血液由来の細胞に限定されない。
【0171】
誘導因子送液機構21は、誘導因子導入試薬溶液等を保存する誘導因子導入試薬タンクを備える。遺伝子導入試薬溶液等の誘導因子導入試薬溶液は、例えば、Human T Cell Nucleofector(登録商標、ロンザジャパン株式会社)溶液等のエレクトロポレーション溶液、サプリメント溶液、及びプラスミドセットを含む。プラスミドセットは、例えば、pCXLE−hOCT3/4−shp53−Fを0.83μg、pCXLE−hSKを0.83μg、pCE−hULを0.83μg、及びpCXWB−EBNA1を0.5μg含む。誘導因子送液機構21は、マイクロポンプ等を用いて、誘導因子導入試薬溶液中に単核球懸濁液が懸濁されるように、誘導因子導入試薬溶液を、導入前細胞送液路20に送り出す。
【0172】
導入前細胞送液路20の内壁には、細胞が接着しないよう、poly−HEMA(poly 2−hydroxyethyl methacrylate)をコーティングして、細胞非接着性にしてもよい。あるいは、導入前細胞送液路20の材料に、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、導入前細胞送液路20の材料に、温度伝導率が良く、CO
2透過性の材料を用いることにより、導入前細胞送液路20内の条件が、筐体200内の管理された温度及びCO
2濃度と同等になる。さらに、導入前細胞送液路20には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0173】
導入前細胞送液路20に接続された因子導入装置30は、例えばエレクトロポレーターであり、誘導因子導入試薬溶液と単核球懸濁液の混合液を受け取り、単核球に対してプラスミドのエレクトロポレーションを実施する。因子導入装置30は、エレクトロポレーションを実施後、プラスミドをエレクトロポレーションされた単核球を含む溶液に、単核球培地を加える。因子導入装置30は、ポンプ等を用いて、プラスミドをエレクトロポレーションされた単核球(以下、「誘導因子導入細胞」という。)を含む溶液を、導入細胞送液路31に送り出す。
【0174】
なお、因子導入装置30は、エレクトロポレーターに限定されない。因子導入装置30は、細胞に初期化因子をコードしているRNAをリポフェクション法により導入してもよい。リポフェクション法とは、陰性荷電物質である核酸と、陽性荷電脂質と、の複合体を、電気的な相互作用により形成し、複合体をエンドサイトーシスや膜融合により細胞内に取り込ませる方法である。リポフェクション法は、細胞へのダメージが少なく、導入効率に優れており、操作が簡便であり、時間がかからない等の利点を有する。また、リポフェクション法においては、細胞のゲノムに初期化因子が挿入される可能性がないため、得られた幹細胞を全ゲノムシークエンスして、外来遺伝子の挿入の有無を確認する必要がない。多能性誘導因子としての初期化因子RNAは、例えば、Oct3/4のmRNA、Sox2のmRNA、Klf4のmRNA、及びc−MycのmRNAを含む。
【0175】
初期化因子RNAのリポフェクションには、例えば、低分子干渉RNA(siRNA)或いはリポフェクション試薬が用いられる。RNAのリポフェクション試薬としては、siRNAのリポフェクション試薬及びmRNAのリポフェクション試薬が使用可能である。より具体的には、RNAのリポフェクション試薬としては、Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX(Thermo Fisher Scientific)、Lipofectamine(登録商標)MessengerMAX(Thermo Fisher Scientific)、Lipofectamin(登録商標)2000、Lipofectamin(登録商標)3000、NeonTransfection System(Thermo Fisher scientific)、Stemfect RNA transfection reagent(Stemfect)、NextFect(登録商標)RNA Transfection Reagent(BiooSientific)、Amaxa(登録商品)Human T cell Nucleofector(登録商品)kit(Lonza社、VAPA−1002)、Amaxa(登録商品)Human CD34 cell Nucleofector(登録商品)kit(Lonza社、VAPA−1003)、及びReproRNA(登録商標)トランスフェクション試薬(STEMCELL Technologies)等が使用可能である。
【0176】
因子導入装置30が、リポフェクション法により細胞に初期化因子を導入する場合は、初期化因子RNA及び試薬等が、誘導因子送液機構21により導入前細胞送液路20に送り出される。
【0177】
導入細胞送液路31の内壁には、細胞が接着しないよう、poly−HEMAをコーティングして、非接着性にしてもよい。あるいは、導入細胞送液路31の材料に、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、導入細胞送液路31の材料に、温度伝導率が良く、CO
2透過性の材料を用いることにより、導入細胞送液路31内の条件が、筐体200内の管理された温度及びCO
2濃度と同等になる。さらに、導入細胞送液路31には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。また、エレクトロポレーションの後は、多くの細胞が死に、死んだ細胞の細胞塊ができることがある。そのため、導入細胞送液路31に、死細胞塊を除去するフィルターを設けてもよい。あるいは、
図2に示すように、導入細胞送液路31内部に、内径を断続的に変化させる一又は複数の襞を設けてもよい。またあるいは、
図3に示すように、導入細胞送液路31の内径を断続的に変化させてもよい。
【0178】
図1に示すように、導入細胞送液路31に接続された細胞塊作製装置40は、因子導入装置30で作製された誘導因子導入細胞を培養する初期化培養装置50と、初期化培養装置50で樹立された幹細胞からなる細胞塊(細胞コロニー)を複数の細胞塊に分割する第1の分割機構60と、第1の分割機構60で分割された複数の細胞塊を拡大培養する拡大培養装置70と、拡大培養装置70で拡大培養された幹細胞からなる細胞塊を複数の細胞塊に分割する第2の分割機構80と、複数の細胞魂をパッケージ装置100に順次送る細胞魂搬送機構90と、を備える。
【0179】
初期化培養装置50は、内部にウェルプレートを格納可能である。また、初期化培養装置50は、ピペッティングマシンを備える。初期化培養装置50は、導入細胞送液路31から誘導因子導入細胞を含む溶液を受け取り、ピペッティングマシンで、溶液をウェルに分配する。初期化培養装置50は、ウェルに誘導因子導入細胞を分配後、例えば3、5、7日目に、StemFit(登録商標、味の素株式会社)等の幹細胞培地を加える。培地にサプリメントとして塩基性の線維芽細胞成長因子(basic FGF)を添加してもよい。なお、StemBeads FGF2(フナコシ)のような、FGF−2(basic FGF,bFGF,FGF−b)を培地に供給し続ける徐放性ビーズを培地に添加してもよい。また、FGFは不安定な場合があるので、ヘパリン模倣ポリマーをFGFに共役させ、FGFを安定化させてもよい。さらに、培地に、トランスフォーミング増殖因子ベータ(TGF−β)や、アクチビン(Activin)等を添加してもよい。初期化培養装置50は、ウェルに誘導因子導入細胞を分配後、例えば9日目に、培地交換を行い、以降、iPS細胞の細胞塊(コロニー)が1mmを越える程度まで、2日おきに培地交換を行う。なお、培地を交換するとは、培地を一部置換することや、補給することも含む。
【0180】
細胞塊が形成されると、初期化培養装置50は、ピペッティングマシンで細胞塊を回収し、回収した細胞塊にTrypLE Select(登録商標、ライフテクノロジーズ社)等のトリプシン代替組み替え酵素を添加する。さらに、初期化培養装置50は、回収した細胞塊が入っている容器をインキュベーターに入れて、37℃、CO
25%で10分間、細胞塊と、トリプシン代替組み替え酵素と、を反応させる。なお、物理的に細胞塊を砕ける場合は、トリプシン代替組み替え酵素はなくともよい。例えば、初期化培養装置50は、ピペッティングマシンによるピペッティングにより、細胞塊を砕く。またあるいは、初期化培養装置50は、フィルターが設けられたパイプや、
図2又は
図3に示した導入細胞送液路31と同様に、内径を断続的に変化させるパイプに細胞塊を通して、細胞塊を砕いてもよい。その後、初期化培養装置50は、砕かれた細胞塊が入れられた溶液に、StemFit(登録商標、味の素株式会社)等の多能性幹細胞用培地を加える。
【0181】
なお、初期化培養装置50における培養は、ウェルプレートではなく、CO
2透過性のバッグの中で行ってもよい。また、培養は接着培養であってもよいし、浮遊培養であってもよい。浮遊培養である場合は、攪拌培養を行ってもよい。また、培地が寒天状であってもよい。寒天状の培地としては、ゲランガム(gellan gum)ポリマーが挙げられる。寒天状の培地を用いると、細胞が沈んだり、接着したりすることがないため、浮遊培養でありながら、攪拌する必要がなく、一細胞由来の単一細胞塊を作製する事が出来るさらに、初期化培養装置50における培養は、ハンギングドロップ培養であってもよい。
【0182】
初期化培養装置50は、ウェルプレートやCO
2透過性のバッグに培養液を含む培地を補給する第1の培地補給装置を備えていてもよい。第1の培地補給装置は、ウェルプレートやCO
2透過性のバッグ内の培養液を回収し、フィルターや透析膜を用いて培養液をろ過して、浄化された培養液を再利用してもよい。また、その際、再利用される培養液に成長因子等を添加してもよい。また、初期化培養装置50は、培地の温度を管理する温度管理装置、及び培地近傍の湿度を管理する湿度管理装置等をさらに備えていてもよい。
【0183】
初期化培養装置50において、例えば、細胞を、
図4に示すような透析膜等の培養液透過性のバッグ301に入れ、培養液透過性のバッグ301を、培養液非透過性のCO
2透過性のバッグ302に入れて、バッグ301、302に培養液を入れてもよい。初期化培養装置50は、新鮮な培養液が入ったバッグ302を複数用意しておき、所定の期間ごとに、細胞が入ったバッグ301を入れるバッグ302を、新鮮な培養液が入っているバッグ302に交換してもよい。
【0184】
また、初期化培養装置50における培養方法は、上記の方法に限定されず、
図5に示すような浮遊培養器を用いてもよい。
図5に示す浮遊培養器は、誘導因子導入細胞とゲル培地が入れられる透析チューブ75と、透析チューブ75が入れられ、透析チューブ75の周囲にゲル培地が入れられる容器76と、を備える。また、浮遊培養器は、透析チューブ75の周囲にゲル培地の水素イオン指数(pH)を測定するpHセンサーを備えていてもよい。
【0185】
透析チューブ75は、半透膜からなり、例えば、ROCK阻害剤を透過させる。透析チューブ75の分画分子量は、0.1KDa以上、10KDa以上、あるいは50KDa以上である。透析チューブ75は、例えば、セルロースエステル、エチルセルロース、セルロースエステル類、再生セルロース、ポリスルホン、ポリアクリルニトリル、ポリメチルメタクリレート、エチレンビニルアルコール共重合体、ポリエステル系ポリマーアロイ、ポリカーボネート、ポリアミド、セルロースアセテート、セルロースジアセテート、セルローストリアセテート、銅アンモニウムレーヨン、鹸化セルロース、ヘモファン膜、フォスファチジルコリン膜、及びビタミンEコーティング膜等からなる。
【0186】
容器76としては、遠心チューブのような円錐チューブが使用可能である。容器76は、例えば、ポリプロピレンからなる。容器76は、CO
2透過性であってもよい。CO
2透過性の容器76としては、G−Rex(登録商標、Wilson Wolf)が使用可能である。
【0187】
誘導因子導入細胞は、透析チューブ75内に入れられる。ゲル培地は、撹拌されない。また、ゲル培地は、フィーダー細胞を含まない。透析チューブ75には、透析チューブ75内に細胞を含む培地を送液するための送液路が接続されていてもよい。また、透析チューブ75には、透析チューブ75内の細胞を含む培地を容器外部に送液するための送液路が接続されていてもよい。
【0188】
ゲル培地は、例えば、血液細胞培地又は幹細胞用培地に脱アシル化ジェランガムを終濃度が0.5重量%から0.001重量%、0.1重量%から0.005重量%、あるいは0.05重量%から0.01重量%となるよう添加することにより調製される。例えば、初期化培養の当初は、血液細胞培地から作製したゲル培地を用い、その後は、幹細胞用培地から作製したゲル培地を用いる。
【0189】
幹細胞用培地としては、例えば、Primate ES Cell Medium(ReproCELL)等のヒトES/iPS培地を使用可能である。
【0190】
ただし、幹細胞用培地は、これに限定されず、種々の幹細胞培地が使用可能である。例えばPrimate ES Cell Medium、Reprostem、ReproFF、ReproFF2、ReproXF(Reprocell)、mTeSR1、TeSR2、TeSRE8、ReproTeSR(STEMCELL Technologies)、PluriSTEM(登録商標)Human ES/iPS Medium(Merck)、NutriStem (登録商標)XF/FF Culture Medium for Human iPS and ES Cells、Pluriton reprogramming medium(Stemgent)、PluriSTEM(登録商標)、Stemfit AK02N、Stemfit AK03(Ajinomoto)、ESC−Sure(登録商標)serum and feeder free medium for hESC/iPS(Applied StemCell)、及びL7(登録商標)hPSC Culture System (LONZA)等を利用してもよい。
【0191】
ゲル培地は、ジェランガム、ヒアルロン酸、ラムザンガム、ダイユータンガム、キサンタンガム、カラギーナン、フコイダン、ペクチン、ペクチン酸、ペクチニン酸、ヘパラン硫酸、ヘパリン、ヘパリチン硫酸、ケラト硫酸、コンドロイチン硫酸、デルタマン硫酸、ラムナン硫酸、及びそれらの塩からなる群から選択される少なくとも1種の高分子化合物を含んでいてもよい。また、ゲル培地は、メチルセルロースを含んでいてもよい。メチルセルロースを含むことにより、細胞同士の凝集がより抑制される。
【0192】
あるいは、ゲル培地は、poly(glycerol monomethacrylate) (PGMA)、poly(2-hydroxypropyl methacrylate) (PHPMA)、Poly (N-isopropylacrylamide) (PNIPAM)、amine terminated、carboxylic acid terminated、maleimide terminated、N-hydroxysuccinimide (NHS) ester terminated、triethoxysilane terminated、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylamide)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-acrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-butylacrylate)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid)、Poly (N-isopropylacrylamide-co-methacrylic acid-co-octadecyl acrylate)、及びN-Isopropylacrylamideから選択される少なくの温度感受性ゲルを含んでいてもよい。
【0193】
透析チューブ75内に入れられるゲル培地は、ROCK阻害剤を含んでいなくてもよい。容器76内の透析チューブ75の周囲に入れられるゲル培地には、例えば、ROCK阻害剤を終濃度が1000μmol/L以上0.1μmol/L以下、100μmol/L以上1μmol/L以下、あるいは5μmol/L以上20μmol/L以下となるよう、毎日添加する。ROCK阻害剤を透析チューブ75の周囲のゲル培地に添加することにより、ROCK阻害剤が透析チューブ75内に浸透し、細胞によるコロニー形成が促進される。
【0194】
ゲル培地は、例えば、basic fibroblast growth factor(bFGF)やTGF−β等の成長因子を含んでいてもよいし、含んでいなくともよい。
【0195】
透析チューブ75内で細胞を浮遊培養する間、容器76内の透析チューブ75の周囲のゲル培地は交換される。なお、培地を交換するとは、培地を一部置換することや、補充することも含む。この場合、透析チューブ75内にゲル培地を補給しなくともよい。あるいは、透析チューブ75内で細胞を浮遊培養する間、透析チューブ75内にゲル培地が補給される。この場合、容器76内の透析チューブ75の周囲にゲル培地を補給しなくともよい。
【0196】
実施の形態に係る幹細胞製造システムは、
図6に示すように、培地補給装置としての補給培地送液ポンプ77を用いて、容器76内の透析チューブ75の周囲のゲル培地を、交換、あるいは補給する。補給培地送液ポンプ77としては、点滴に用いられるポンプ等が使用可能である。補給培地送液ポンプ77と、浮遊培養器の容器76と、は、送液チューブ78で接続される。補給培地送液ポンプ77は、送液チューブ78を介して、浮遊培養器の容器76内にゲル培地を送液する。浮遊培養器の容器76には、廃液チューブ79が接続されている。浮遊培養器の容器76内のゲル培地は、廃液チューブ79を介して排出される。浮遊培養器の容器76内のゲル培地は、例えば、補給培地送液ポンプ77によって補給される新鮮なゲル培地による圧力によって排出されてもよいし、重力を利用して排出してもよいし、排出ポンプによって排出してもよい。
【0197】
補給培地送液ポンプ77から培養器に送液されるゲル培地の温度は、例えば、培養器中のゲル培地の温度が急激に変化しないように設定される。例えば、培養器中のゲル培地の温度が37℃である場合は、培養器に送液されるゲル培地の温度も37℃に設定される。ただし、培養器に送液される前の培地は、冷蔵保存部で、例えば4℃等の低温で冷蔵保存されていてもよい。
【0198】
例えば、補給培地送液ポンプ77によって浮遊培養器の容器76内に送液されるゲル培地の量と、浮遊培養器の容器76から排出されるゲル培地の量と、が同じになるよう、補給培地送液ポンプ77は制御される。補給培地送液ポンプ77は、浮遊培養器の容器76内に、常時、ゲル培地を送液してもよいし、適宜間隔をおいて、ゲル培地を送液してもよい。
【0199】
ゲル培地を常時送液する場合、送液されるゲル培地の流量は、一定であっても、一定でなくてもよい。例えば、後述するように、培地及び培地中の細胞塊を撮影装置で監視し、培地及び培地中の細胞塊の状態に応じて、送液されるゲル培地の流量を増加させたり、減少させたりしてもよい。
【0200】
また、ゲル培地を常時送液せずに、培地及び培地中の細胞塊の状態に応じて、ゲル培地の送液の開始及び終了をしてもよい。この場合も、培地及び培地中の細胞塊の状態に応じて、送液されるゲル培地の流量を増加させたり、減少させたりしてもよい。
【0201】
なお、培養器に送液されるゲル培地の流量が大きすぎると、培養器内の細胞がゲル培地の圧力によりダメージを受ける場合がある。そのため、培養器に送液されるゲル培地の流量は、細胞がダメージを受けないように設定される。
【0202】
培地を交換せずに細胞の培養を続けると、細胞が排出する乳酸等の老廃物の蓄積や、pHの変化が、細胞培養に悪影響を及ぼしうる。また、培地中に含まれるbFGFやリコンビナントタンパク質等の様々なタンパク質が分解され、細胞の培養に必要な成分が培地から損なわれうる。
【0203】
これに対し、補給培地送液ポンプ77で新鮮な培地を培養器中に送液し、古い培地を培養器から排出することにより、培養器中から老廃物を除去し、培地中のpHを適切な範囲内に保ち、細胞の培養に必要な成分を補給することが可能になる。これにより、培地の状態を一定に近い状態に保つことが可能である。
【0204】
なお、
図6においては、補給培地送液ポンプ77と、浮遊培養器の容器76と、が、送液チューブ78で接続される例を示した。これに対し、
図7に示すように、補給培地送液ポンプ77と、浮遊培養器の容器76内の透析チューブ75内と、を送液チューブ78で接続してもよい。透析チューブ75内に新鮮なゲル培地を送液することにより、透析チューブ75内の培地に含まれる老廃物が、透析チューブ75外に排出される。また、透析チューブ75内の培地のpHを適切な範囲内に保ち、透析チューブ75内の培地に細胞の培養に必要な成分を補給することが可能である。
【0205】
図1に示す幹細胞製造システムは、初期化培養装置50における培養を撮影する写真カメラやビデオカメラ等の初期化培養撮影装置をさらに備えていてもよい。ここで、初期化培養装置50で使用される培地に無色の培地を用いると、有色の培地を用いた場合に生じうる乱反射や自家蛍光を抑制することが可能となる。ただし、培地のpHを確認するために、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいてもよい。また、誘導された細胞と、誘導されなかった細胞とでは、細胞の形状及び大きさ等が異なるため、幹細胞製造システムは、初期化培養装置50における細胞を撮影することにより、誘導された細胞の割合を算出する誘導状態監視装置を、さらに備えていてもよい。あるいは、誘導状態監視装置は、抗体免疫染色法又はRNA抽出法により、誘導された細胞の割合を特定してもよい。さらに、幹細胞製造システムは、磁気細胞分離方法やフローサイトメトリー等により、誘導されていない細胞を取り除く、未誘導細胞除去装置を備えていてもよい。
【0206】
シャーレのような平らなディッシュ上で細胞を培養している場合は、細胞の存在範囲は、平面的に広がる。そのため、撮影装置のレンズの光軸がディッシュ面と直交するよう、撮影装置とシャーレを配置すれば、シャーレ上のほぼ全ての細胞に焦点を合わせることが可能である。
【0207】
しかし、細胞を培地の中に浮遊させて浮遊培養を行う場合、細胞の存在範囲が3次元的に広がるため、撮影装置から各細胞までの光軸方向の距離にばらつきが生じる。そのため、レンズを用いずに全ての細胞に焦点を合わせることが困難になりうる。
【0208】
これに対し、明るいレンズ(F値の小さいレンズ)を用いたり、明るい照明を被測定対象物に照射しつつ、レンズの絞りをできるだけ絞って撮像したりすることにより、被写界深度を深くすることが可能である。
【0209】
あるいは、レンズの焦点位置を少しずつ変化させながら複数枚の画像を撮像し、撮像した複数枚の画像を合成して、擬似的に深く焦点の合った画像を得てもよい。また、複数枚の画像のそれぞれは、焦点の合った細胞のと、焦点が合っていないぼやけた細胞と、が交ざった画像になる。そのため、複数枚の画像から焦点の合った部分画像を集めて、1枚の合成画像を生成してもよい。
【0210】
あるいは、
図8に示すように、初期化培養撮影装置171と、浮遊培養器内の細胞等の被写体と、の間には、テレセントリックレンズ172を配置してもよい。テレセントリックレンズ172は、細胞等の被写体からレンズ絞りの中心を通る主光線をレンズ光軸と平行にするため、初期化培養撮影装置171から浮遊培養器内の複数の細胞のそれぞれまでの距離が一様でなくても、撮像される細胞の大きさが距離に応じて変化しない。
【0211】
図9は、
図8に示した浮遊培養器等を上方から見た模式図である。なお、
図9においては、
図8に示した容器76が省略されている。初期化培養撮影装置171で細胞を撮像する場合、初期化培養撮影装置171の光軸に対して垂直な方向、あるいは垂直な方向から撮影装置に近い方向に細胞観察用照明光源173を配置し、細胞観察用照明光源173から細胞に照明光を照射する散乱光照明法を用いるとよい。これにより、細胞に当たった照明光による散乱光は初期化培養撮影装置171に届くが、細胞に当たらなかった照明光は培地を透過して初期化培養撮影装置171には届かなくなる。そのため、画像において培地の部分が相対的に暗くなり、細胞の部分の相対的に明るくなる。ただし、画像において細胞を認識できれば、照明法はこれに限定されない。
図10は、散乱光照明法で撮像された細胞の画像の一例である。培地の部分が相対的に暗くなり、細胞の部分の相対的に明るくなっている。
【0212】
実施の形態に係る幹細胞製造システムは、
図11に示すように、初期化培養撮影装置171が撮像した画像を画像処理する画像処理部501を備える中央演算処理装置(CPU)500を備えていてもよい。CPU500には、キーボード及びマウス等の入力装置401、並びにモニター等の出力装置402が接続されていてもよい。CPU500は、バス及び画像インターフェース等を介して、初期化培養撮影装置171から画像を受け取る。
【0213】
画像処理部501は、細胞の画像において、細胞又は細胞塊の輪郭を定義する輪郭定義部511を備えていてもよい。
図12は、マクロズームレンズ等を介して拡大して撮像されたiPS細胞塊の画像の一例である。
図12に示す画像において、白い塊に見える部分がiPS細胞塊であり、背景の暗い部分が培地である。
【0214】
ここで、
図12に示す画像が8ビットのグレースケール画像である場合、所定の閾値以上の輝度の値を有する画素の輝度の値を例えば255のような最高輝度の値にし、所定の閾値未満の輝度の値を有する画素の輝度の値を例えば0のような最低輝度の値に置き換える二値化処理を画像に加えると、
図13に示すように、培地の部分のみならず、細胞塊の内部も最低輝度の黒となり、細胞塊の内部と、培地の部分と、が連結した部分が生じうる。そのため、二値化処理では、細胞又は細胞塊を抽出できない場合がある。
【0215】
これに対し、
図11に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムの輪郭定義部511は、細胞の画像に、空間周波数に含まれる所定の周波数以上の高周波成分を通過させ、所定の周波数未満の低周波成分をブロックし、輝度値を例えば0のような最低値にするハイパスフィルタを適用する。細胞の画像において、細胞又は細胞塊の部分においては、空間周波数に含まれる高周波成分が多く、培地の部分においては、空間周波数に含まれる高周波成分が少ない。そのため、
図14に示すように、ハイパスフィルタを適用された細胞の画像においては、培地の部分の輝度の値が、例えば0のような最低値となり、細胞又は細胞塊の部分においては、輝度の値がそのままとなる。そのため、輝度が最低値とならなかった部分を、細胞又は細胞塊であるとみなすことが可能である。
【0216】
ここで、
図14に示す画像において、輝度が最低値とならなかった部分をブロブ(Blob)として、ブロブ解析により検出しても、例えば、互いに接している2つの細胞塊を、1つの細胞塊として認識してしまう場合がある。
【0217】
これに対し、
図11に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムの輪郭定義部511は、ハイパスフィルタを適用した画像に、分水嶺アルゴリズムを適用する。分水嶺アルゴリズムは、画像の輝度勾配を山の起伏と見なし、山の高い位置(輝度値の大きい位置)から低い位置(輝度値の小さい位置)へと流れ込む水の作る区域を1つの領域とするように、画像の分割を行う。
【0218】
例えば、実施の形態に係る幹細胞製造システムの輪郭定義部511は、画像に分水嶺アルゴリズムを適用する前に、画像にDistance Transform法で変換する。Distance Transform法とは、画像の各画素の輝度の値を、直近の背景画素までの距離に応じて置換する画像変換の方法である。例えば、
図15(a)に示すように、ハイパスフィルタを適用した画像において、培地の領域の輝度値を、一括して最高輝度値である255に変換し、
図15(b)に示すように白の背景にする。さらに、細胞領域内部の各画素の輝度の値を、直近の背景画素までの距離に応じて、0以上255未満に変換する。例えば、直近の背景画素から離れるほど、輝度の値を低くする。
【0219】
次に、実施の形態に係る幹細胞製造システムの輪郭定義部511は、Distance Transform法で変換された画像に、分水嶺アルゴリズムを適用する。
図15(b)に示す画像において、輝度の低い暗い部分を山の嶺とみなし、画像に対して垂直方向上から水を落としたときに、
図15(c)の矢印に示すように、水がどのように流れて行くかを推測し、
図15(c)の破線に示すように、様々な方向から流れてきた水がぶつかる箇所を谷とみなし、当該谷の底において、細胞領域を分割する。
【0220】
図14に示す画像の細胞領域の画素を、Distance Transform法で変換すると、
図16で示す画像が得られる。
図16で示す画像に分水嶺アルゴリズムを適用すると、
図17に示す画像が得られる。得られた分割線を
図12に示す元の画像に重ねると、
図18に示す画像が得られる。
図18において、分割線で分割された各領域に存在する細胞塊は、複数の細胞塊が接した塊ではなく、1個の細胞塊であるとみなすことが可能である。そのため、各領域において、
図19に示すように、細胞塊の輪郭を抽出することにより、1個の細胞塊を正確に抽出することが可能となる。
【0221】
図11に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムの画像処理部501は、細胞評価部512をさらに備えていてもよい。細胞評価部512は、輪郭定義部511が抽出した1個の細胞塊の大きさ等を評価する。例えば、細胞評価部512は、輪郭定義部511が抽出した1個の細胞塊の面積を算出する。さらに、例えば、1個の細胞塊の形状が円形とみなせる場合、細胞評価部512は、下記(1)式を用いて、面積から、1個の細胞塊の直径を算出する。
D=2(s/π)
1/2 (1)
ここで、Dは直径、Sは面積を表す。
【0222】
細胞塊が大きく成長しすぎると、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、細胞が分化してしまう場合がある。また、細胞塊が小さすぎる状態のままROCK阻害剤を用いない拡大培養に移行すると、細胞死や核型異常が生じる場合がある。したがって、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが適切な範囲外になった場合、警告を発してもよい。また、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが所定の閾値以上になった場合、拡大培養に移行するタイミングであることを出力してもよい。さらに、算出された細胞塊の大きさに応じて、初期化培養装置50における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の大きさが大きくなるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0223】
実施の形態に係る幹細胞製造システムの画像処理部501は、画像処理された画像から得られる情報を統計処理する統計処理部513をさらに備えていてもよい。
図20は、
図10で示した画像に画像処理をして、細胞塊の部分を抽出して輪郭を付した例である。
図21は、
図20に示した画像に基づいて作成された、細胞塊のサイズのヒストグラムの一例である。このように、細胞の情報を連続的、かつ定期的に取得することにより、細胞塊の成長度、数、及び密集度等を定量的に把握することが可能であり、培養結果を安定化させることが可能である。また、算出された細胞塊の数に応じて、初期化培養装置50における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の数が増えるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0224】
図11に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムの画像処理部501は、培地の画像から培地の濁度を算出し、培地の濁度に基づき、培地中の細胞塊の密度を算出する密度算出部514をさらに備えていてもよい。
【0225】
例えば、CPU500には、揮発性メモリ、又は不揮発性メモリ等を備える関係記憶装置403が接続されている。関係記憶装置403は、例えば、予め取得された、培地の濁度と、培地中の細胞塊の密度と、の関係を保存する。密度算出部514は、関係記憶装置403から、濁度と密度の関係を読み出す。さらに、密度算出部514は、培地の画像から算出した培地の濁度の値と、濁度と密度の関係と、に基づいて、培地中の細胞塊の値の密度を算出する。これにより、培地から細胞塊を採取することなく、非破壊的に、細胞塊の密度を測定することが可能である。
【0226】
また、密度算出部514は、細胞塊の密度が所定の閾値以上になった場合、拡大培養に移行するするタイミングであることを出力してもよい。さらに、密度算出部514は、培地中の細胞塊の密度を経時的に算出し、細胞塊の増殖速度を算出してもよい。異常な増殖速度は、細胞が異常であることを表す場合がある。例えば、密度算出部514は、異常な増殖速度が算出された場合は、警告を発する。この場合、細胞の培養を中止してもよい。
【0227】
培地中の細胞塊の密度が高くなり、細胞塊同士の距離が近くなりすぎると、複数の細胞塊同士が接着して一つの大きな細胞塊となる場合がある。大きな細胞塊においては、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、内部の細胞が分化してしまう場合がある。反面、培地中の細胞塊の密度が好適な範囲より低いと、細胞塊の成長速度、及び細胞塊の形成能が著しく減少する場合がある。
【0228】
これに対し、密度算出部514によれば、細胞塊の密度を算出することが可能であるため、細胞塊の密度が好適な範囲内にあるか否かを容易に判断することが可能である。細胞塊の密度が好適な範囲より低くなった場合は、例えば培養を中止する判断をしてもよい。さらに、算出された細胞塊の密度に応じて、初期化培養装置50における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の密度が増えるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0229】
また、細胞の代謝等に伴う培地の色の変化を観察するために、
図22に示すように、浮遊培養器を挟んで初期化培養撮影装置171と対向する位置に、培地観察用照明光源174を配置してもよい。培地観察用照明光源174としては、例えば面光源が使用可能であり、培地観察用照明光源174は、例えば、白色平行光を発する。培地観察用照明光源174で発せられた照明光は、培地を透過して初期化培養撮影装置171に入射するため、初期化培養撮影装置171で培地の色を撮像することが可能である。
【0230】
通常、細胞培養を行う場合、培地のpHは6.8から7.2付近の一定の値にされる。培地のpHを測定する際には、培地にはフェノールレッド等のpH試薬が添加される。フェノールレッドは、培地のpHによって変化する。培地と接する気体中の二酸化炭素濃度が十分でない場合、培地に含まれる重炭酸由来の二酸化炭素と、気体中の二酸化炭素が平衡化しないため、培地はアルカリ性になり、培地の色は赤紫色になる。また、細胞が排出した乳酸を主とする老廃物が蓄積すると、培地は酸性になり、培地の色は黄色になる。培地が酸性になることは、培地中の栄養分が枯渇していることも表している。
【0231】
図11に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムの画像処理部501は、培地観察用照明光源で照明された培地の画像に基づいて、培地の評価をする培地評価部515をさらに備えていてもよい。培地評価部515は、例えば、培地の画像を画像処理して、HSVによって、培地の色を、色相(Hue)、彩度(Saturation)、明度(Value)の3つパラメーターで表現する。このうち、色相は、一般に「色合い」とか「色味」といわれる概念に対応するパラメーターである。色相は、一般に、角度の単位で表現される。
【0232】
図23は、培地を交換せずに細胞を長期間培養した場合における培地の色相の変化と、培地のpHの変化と、の関係を示すグラフの一例である。培養開始直後、培地のpHは7.7近くであったが、時間の経過とともに、培地のpHは7.1近くまで低下した。これに伴い、培地の色相も、培養開始直後は40近くであったのが、時間の経過とともに、60近くまで上昇した。このように、培地の色相は、培養時間、及び培地のpHと相関する。したがって、
図11に示す培地評価部515は、培地の色相を監視することにより、培地の状態を判断する。
【0233】
例えば、関係記憶装置403は、予め取得された、培地の色相と、培地のpHと、の関係を保存する。培地評価部515は、関係記憶装置403から、色相とpHの関係を読み出す。さらに培地評価部515は、培地の画像から算出した培地の色相の値と、色相とpHの関係と、に基づいて、撮影された培地のpHの値を算出する。例えば、培地評価部515は、経時的に培地の画像を取得し、培地のpHの値を算出してもよい。
【0234】
なお、
図7に示すように、培地のpHはpHセンサー271により測定してもよい。また、培地の温度を温度計272で測定してもよい。この場合、培地評価部515は、pHセンサー271から培地のpHの値を受信し、温度計272から培地の温度の値を受信してもよい。
【0235】
培地評価部515は、培地の色相又は培地のpHが所定の範囲以外になった場合、培地の交換を促進すると判断したり、培地においてコンタミネーションが生じていると判断したりしてもよい。なお、培地を交換するとは、培地を一部置換することや、補充することも含む。
【0236】
培地の成分を化学的に分析することは、コストがかかり、また、化学的に培地を分析するために培地をシステムの外部に取り出すと、培地の無菌状態が保たれないおそれがある。これに対し、培地の色相を監視することにより、培地の状態を監視することは、低コストであり、また、培地の無菌状態に影響を与えない。
【0237】
培地評価部515が培地の色相又は培地のpHが所定の範囲以外であると判断した場合、例えば
図6に示す補給培地送液ポンプ77によって、浮遊培養器の透析チューブ75の周囲の培地が交換される。あるいは、培地の交換が常にされている場合は、補給培地送液ポンプ77による浮遊培養器の透析チューブ75の周囲の培地の交換速度が上昇され、交換される培地の流量が上昇する。これにより、培地のpHを細胞培養に適した範囲に維持し、培地に十分な栄養分を補給することが可能である。
【0238】
さらに、培地評価部515は、培地の色相の変化速度から、細胞の増殖速度を算出してもよい。例えば、関係記憶装置403は、予め取得された、培地の色相の変化速度と、細胞の増殖速度と、の関係を保存する。培地評価部515は、関係記憶装置403から、色相の変化速度と増殖速度の関係を読み出す。さらに、培地評価部515は、算出された色相の変化速度の値と、色相の変化速度と増殖速度の関係と、に基づいて、細胞の増殖速度の値を算出する。
【0239】
また、培地評価部515は、培地の温度が所定の範囲以外であると判断した場合、培養器の周囲の温度、あるいは供給される培地の温度を変更するよう、温度管理装置を制御してもよい。例えば、培地の温度が所定の範囲より低い場合は、培地評価部515は、培地の温度が上がるよう、温度管理装置を制御する。また、培地の温度が所定の範囲より高い場合は、培地評価部515は、培地の温度が下がるよう、温度管理装置を制御する。
【0240】
図1に示す初期化培養装置50には、第1細胞塊送液路51が接続されている。初期化培養装置50は、トリプシン代替組み替え酵素と細胞塊の含有液を、ポンプ等を用いて、第1細胞塊送液路51に送り出す。なお、物理的に細胞塊を砕ける場合は、トリプシン代替組み替え酵素はなくともよい。また、第1細胞塊送液路51は、所定の大きさ未満の誘導された細胞のみを通す内径を有し、所定の大きさ以上の誘導されていない細胞を除去する分岐流路に接続されていてもよい。上述したように、ゲル培地を用いる場合は、ゲル培地を吸い上げることにより、細胞塊を回収することが可能である。
【0241】
細胞塊を含む溶液を第1細胞塊送液路51に送り出すポンプは、例えば、
図11に示した細胞評価部512が算出した細胞塊の大きさの値が、所定の閾値以上になった場合に、駆動されてもよい。あるいは、細胞塊を含む溶液を
図1に示す第1細胞塊送液路51に送り出すポンプは、例えば、
図11に示した密度算出部514が算出した細胞塊の密度の値が、所定の閾値以上になった場合に、駆動されてもよい。
【0242】
図1に示す第1細胞塊送液路51の内壁には、細胞が接着しないよう、poly−HEMAをコーティングして、細胞非接着性にしてもよい。あるいは、第1細胞塊送液路51の材料に、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、第1細胞塊送液路51の材料に、温度伝導率が良く、CO
2透過性の材料を用いることにより、第1細胞塊送液路51内の条件が、筐体200内の管理された温度及びCO
2濃度と同等になる。さらに、第1細胞塊送液路51には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0243】
第1細胞塊送液路51は、第1の分割機構60に接続されている。第1の分割機構60は、例えば、メッシュを備える。溶液に含まれる細胞塊は、水圧によってメッシュを通過する際、メッシュの各孔の大きさの複数の細胞塊に分割される。例えば、メッシュの各孔の大きさが均一であれば、分割後の複数の細胞塊の大きさも、ほぼ均一となる。あるいは、第1の分割機構60は、ノズルを備えていてもよい。例えば、略円錐状のノズルの内部を階段状に微細加工することにより、溶液に含まれる細胞塊がノズルを通過する際に、複数の細胞塊に分割される。
【0244】
またあるいは、第1の分割機構60は、
図24に示すように、末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63を備える細胞塊分割器を備えていてもよい。末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63は、それぞれ、内部に細胞塊を含む培地が流れる貫通孔が設けられている。
図25及び
図26に示すように、末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63は連結される。細胞塊分割器は、一つの連結ブロック62を備えていてもよいし、複数の連結ブロック62を備えていてもよい。
【0245】
図24に示すように、連結ブロック62の第1の端部には凹部62aが、連結ブロック62の第1の端部と対向する第2の端部には凸部62bが設けられている。凸部62bは、例えば円柱状である。
図25及び
図26に示すように、連結ブロック62が複数ある場合、凸部62bは、隣接する連結ブロック62の凹部62aと勘合する。
図24に示す凸部62bの側壁は、平滑であってもよいし、雄ネジが設けられていてもよい。凹部62aの内壁は、平滑であってもよいし、雌ネジが設けられていてもよい。
【0246】
連結ブロック62に設けられた貫通孔は、凹部62aと連通する第1の大孔径部62cと、第1の大孔径部62cと連通し、第1の大孔径部62cより孔径が小さい小孔径部62dと、小孔径部62dと連通し、小孔径部62dより孔径が大きく、凸部62bの先端に開口を有する第2の大孔径部62eと、を有する。
【0247】
第1の大孔径部62c、小孔径部62d、及び第2の大孔径部62eのそれぞれの断面形状は、例えば円である。第1の大孔径部62cの孔径と、第2の大孔径部62eの孔径と、は、例えば同じである。これにより、
図25及び
図26に示すように連結ブロック62が複数あり、複数の連結ブロック62を連結した場合に、第2の大孔径部62eが、隣接する連結ブロック62の第1の大孔径部62cと平滑に連通する。
【0248】
図24に示す第1及び第2の大孔径部62c、62eの孔径は、例えば2.0mm以上4.0mm以下であるが、特に限定されない。小孔径部62dの孔径は、例えば0.4mm以上1.2mm以下であるが、特に限定されない。第1の大孔径部62cから小孔径部62dに連続する部分には、段が形成されている。また、小孔径部62dから第2の大孔径部62eに連続する部分にも、段が形成されている。段の側壁は、貫通孔の中心軸に対して垂直であってもよいし、90°未満に傾斜していてもよい。
【0249】
連結ブロック62の第1及び第2の大孔径部62c、62eの中心軸と、小孔径部62dの中心軸と、は、一致していてもよい。あるいは、
図27に示すように、連結ブロック62の第1及び第2の大孔径部62c、62eの中心軸と、小孔径部62dの中心軸と、は、オフセットしていてもよい。
【0250】
図24に示す先端ブロック63の第1の端部には凹部63aが、先端ブロック63の第1の端部と対向する第2の端部にはノズル部63bが設けられている。先端ブロック63と、連結ブロック62と、を連結する際、先端ブロック63の凹部63aは、連結ブロック62の凸部62bと勘合する。凹部63aの内壁は、平滑であってもよいし、雌ネジが設けられていてもよい。
【0251】
先端ブロック63に設けられた貫通孔は、凹部63aと連通する大孔径部63cと、大孔径部63cと連通し、大孔径部63cより孔径が小さく、ノズル部63bの先端に開口を有する小孔径部63dと、を有する。
【0252】
大孔径部63c及び小孔径部63dのそれぞれの断面形状は、例えば円である。先端ブロック63の大孔径部63cの孔径と、連結ブロック62の第2の大孔径部62eの孔径と、は、例えば同じである。これにより、
図25及び
図26に示すように、連結ブロック62と、先端ブロック63と、を連結した場合に、連結ブロック62の第2の大孔径部62eが、隣接する先端ブロック63の大孔径部63cと平滑に連通する。
【0253】
図24に示す大孔径部63cの孔径は、例えば2.0mm以上4.0mm以下であるが、特に限定されない。小孔径部63dの孔径は、例えば0.4mm以上1.2mm以下であるが、特に限定されない。大孔径部63cから小孔径部63dに連続する部分には、段が形成されている。段の側壁は、貫通孔の中心軸に対して垂直であってもよいし、90°未満に傾斜していてもよい。
【0254】
末端ブロック61の第1の端部には凹部61aが、末端ブロック61の第1の端部と対向する第2の端部には凸部61bが設けられている。末端ブロック61と、連結ブロック62と、を連結する際、末端ブロックの凸部61bは、連結ブロック62の凹部62aと勘合する。末端ブロックの凸部61bの側壁は、平滑であってもよいし、雄ネジが設けられていてもよい。
【0255】
末端ブロック61に設けられた貫通孔は、凹部61aと連通し、凸部61bの先端に開口を有する大孔径部61cを少なくとも有する。
【0256】
凹部61a及び大孔径部61cのそれぞれの断面形状は、例えば円である。末端ブロック61の大孔径部61cの孔径と、連結ブロック62の第2の大孔径部62eの孔径と、は、例えば同じである。これにより、
図25及び
図26に示すように、末端ブロック61と、連結ブロック62と、を連結した場合に、末端ブロック61の大孔径部61cが、隣接する連結ブロック62の大孔径部62cと平滑に連通する。
【0257】
図24に示す大孔径部61cの孔径は、例えば2.0mm以上4.0mm以下であるが、特に限定されない。
【0258】
末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63のそれぞれの材料としては、ポリプロピレン等の樹脂が挙げられるが、これに限定されない。
【0259】
図25、
図26、及び
図27に示すように、末端ブロック61の凹部61aには、例えば、挿入ノズル64が挿入される。挿入ノズル64には、直接、又はチューブ等を介して、細胞塊を含む培地を吸引排出する吸引排出器が接続される。末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63を連結し、先端ブロック63のノズル部63bを、細胞塊を含む培地に刺し、吸引排出器で培地の吸引排出を1回するか、あるいは培地の吸引排出を繰り返すと、細胞塊を含む培地は、連結ブロック62、及び先端ブロック63内の貫通孔内を往復する。連結ブロック62、及び先端ブロック63内の貫通孔には、段が設けられているため、培地中の細胞塊は効率的に小さな細胞塊に分割される。
【0260】
従来、細胞塊の分割は、テクニシャンがピペットマン等を用いて行っていた。しかし、
図32(a)に示すように、従来の方法では、分割された細胞塊の大きさが不均一であった。また、テクニシャンによって、得られる細胞塊の大きさがまちまちであった。分割後の細胞塊が大きすぎると、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、細胞が分化してしまう場合がある。また、細胞塊が小さすぎると、ROCK阻害剤を用いない場合、細胞死や核型異常が生じる場合がある。これに対し、
図25、
図26、及び
図27に示したような細胞塊分割器を用いると、
図32(b)に示すように、細胞塊を、均一な大きさの細胞塊に分割することが可能である。なお、細胞塊分割器を用いて細胞塊を分割する際に、培地が、トリプシン、あるいはTrypLE Express(登録商標、ThermoFisher SCIENTIFIC)、TrypLE Select(登録商標、ThermoFisher SCIENTIFIC)、又はTrypLE Select(登録商標、ThermoFisher SCIENTIFIC)等の酵素を含んでいてもよい。また、連結ブロック62を増やしたり、培地を吸引排出する際の圧力を上昇させたりすることにより、細胞塊をシングルセルにまで分解することも可能である。
【0261】
なお、大孔径部と小孔径部の適当な繰り返し数、長さ等が決定された場合は、細胞塊分割器は、複数のブロックから構成されなくともよい。例えば、細胞塊分割器は、
図28に示すような、内部に貫通孔を有する一体型の柱状形状を有し、細胞塊を含む培地が流れる貫通孔が、大孔径部65a、65c、65e、65gと、大孔径部65a、65c、65e、65gと連通し、大孔径部65a、65c、65e、65gより孔径が小さい小孔径部65b、65d、65fと、を交互に有していてもよい。この場合も、
図29に示すように、大孔径部65a、65c、65e、65gの中心軸と、小孔径部65b、65d、65fの少なくとも一部の中心軸と、がオフセットしていてもよい。
【0262】
また、細胞塊分割器に1回のみ培地を通して、培地中の細胞塊を小さな細胞塊に分割してもよい。その場合、
図30に示すように、細胞塊分割器の両端にチューブ等を挿入可能な挿入部66a、66bを設けてもよい。培地は、挿入部66aから貫通孔を経て挿入部66bから排出され、その間に、培地に含まれる細胞塊が分割される。この場合も、
図31に示すように、大孔径部65a、65c、65e、65gの中心軸と、小孔径部65b、65d、65fの少なくとも一部の中心軸と、がオフセットしていてもよい。
【0263】
図1に示す第1の分割機構60には、拡大培養装置70が接続されている。第1の分割機構60で分割された細胞塊を含む溶液は、拡大培養装置70に送られる。
【0264】
拡大培養装置70は、内部にウェルプレートを格納可能である。また、拡大培養装置70は、ピペッティングマシンを備える。拡大培養装置70は、第1の分割機構60から複数の細胞塊を含む溶液を受け取り、ピペッティングマシンで、溶液をウェルに分配する。拡大培養装置70は、ウェルに細胞塊を分配後、37℃、CO
25%で細胞塊を例えば8日前後培養する。また、拡大培養装置70は、適宜培地交換を行う。
【0265】
その後、拡大培養装置70は、細胞塊にTrypLE Select(登録商標、ライフテクノロジーズ社)等のトリプシン代替組み替え酵素を添加する。さらに、拡大培養装置70は、細胞塊が入っている容器をインキュベーターに入れて、37℃、CO
25%で1分間、細胞塊と、トリプシン代替組み替え酵素と、を反応させる。なお、物理的に細胞塊を砕ける場合は、トリプシン代替組み替え酵素はなくともよい。例えば、拡大培養装置70は、ピペッティングマシンによるピペッティングにより、細胞塊を砕く。またあるいは、拡大培養装置70は、フィルターが設けられたパイプや、
図2又は
図3に示した導入細胞送液路31と同様に、内径を断続的に変化させるパイプに細胞塊を通して、細胞塊を砕いてもよい。その後、拡大培養装置70は、細胞塊が入れられた溶液に、維持培養培地等の培地を加える。さらに、拡大培養装置70は、接着培養である場合は、自動セルスクレーパー等で容器から細胞塊を剥がし、細胞塊を含む溶液を、拡大培養送液路71を介して、第1の分割機構60に送る。
【0266】
なお、拡大培養装置70における培養は、ウェルプレートではなく、CO
2透過性のバッグの中で行ってもよい。また、培養は接着培養であってもよいし、浮遊培養であってもよいし、ハンギングドロップ培養であってもよい。浮遊培養である場合は、攪拌培養を行ってもよい。また、培地が寒天状であってもよい。寒天状の培地としては、ゲランガム(gellan gum)ポリマーが挙げられる。寒天状の培地を用いると、細胞が沈んだり、接着したりすることがないため、浮遊培養でありながら、攪拌する必要がない。
【0267】
拡大培養装置70は、ウェルプレートやCO
2透過性のバッグに培養液を補給する第2の培地補給装置を備えていてもよい。第2の培地補給装置は、ウェルプレートやCO
2透過性のバッグ内の培養液を回収し、フィルターや透析膜を用いて培養液をろ過して、浄化された培養液を再利用してもよい。また、その際、再利用される培養液に成長因子等を添加してもよい。また、拡大培養装置70は、培地の温度を管理する温度管理装置、及び培地近傍の湿度を管理する湿度管理装置等をさらに備えていてもよい。
【0268】
拡大培養装置70においても、例えば、細胞を、
図4に示すような透析膜等の培養液透過性のバッグ301に入れ、培養液透過性のバッグ301を、培養液非透過性のCO
2透過性のバッグ302に入れて、バッグ301、302に培養液を入れてもよい。初期化培養装置50は、新鮮な培養液が入ったバッグ302を複数用意しておき、所定の期間ごとに、細胞が入ったバッグ301を入れるバッグ302を、新鮮な培養液が入っているバッグ302に交換してもよい。
【0269】
また、拡大培養装置70における培養方法は、上記の方法に限定されず、初期化培養装置50における培養方法と同様に、
図5に示すような浮遊培養器を用いてもよい。拡大培養装置70においては、
図5に示す浮遊培養器の透析チューブ75に、複数の細胞塊が入れられる。浮遊培養器の詳細は、上述したとおりである。また、拡大培養装置70においても、
図6に示すように、補給培地送液ポンプ77を用いて、容器76内の透析チューブ75の周囲のゲル培地を、交換、あるいは補給する。あるいは、
図7に示すように、補給培地送液ポンプ77と、浮遊培養器の容器76内の透析チューブ75内と、を送液チューブ78で接続して、透析チューブ75内の培地に細胞の培養に必要な成分を補給してもよい。
【0270】
図1に示す幹細胞製造システムは、拡大培養装置70における培養を撮影する拡大培養撮影装置をさらに備えていてもよい。ここで、拡大培養装置70で使用される培地に無色の培地を用いると、有色の培地を用いた場合に生じうる乱反射や自家蛍光を抑制することが可能となる。ただし、培地のpHを確認するために、フェノールレッド等のpH指示薬を含んでいてもよい。また、誘導された細胞と、誘導されなかった細胞とでは、細胞の形状及び大きさ等が異なるため、幹細胞製造システムは、拡大培養装置70における細胞を撮影することにより、誘導された細胞の割合を算出する誘導状態監視装置を、さらに備えていてもよい。あるいは、誘導状態監視装置は、抗体免疫染色法又はRNA抽出法により、誘導された細胞の割合を特定してもよい。さらに、幹細胞製造システムは、磁気細胞分離方法やフローサイトメトリー等により、誘導されていない細胞を取り除く、未誘導細胞除去装置を備えていてもよい。
【0271】
拡大培養撮影装置は、
図8に示した初期化培養撮影装置171と同様であり、テレセントリックレンズ172を介して拡大培養装置70における培養を撮影してもよい。拡大培養撮影装置が撮影する際の照明の方法等も、初期化培養撮影装置171が撮影する際の照明の方法等と同様であり、上述したとおりである。
【0272】
拡大培養撮影装置も、
図11に示す画像処理部501を備えるCPU500と接続されている。輪郭定義部511、細胞評価部512、統計処理部513、密度算出部514、及び培地評価部515を備える画像処理部501は、初期化培養撮影装置171が撮像した画像と同様に、拡大培養撮影装置が撮像した画像を画像処理する。画像処理部501の詳細は、上述したとおりである。
【0273】
例えば、拡大培養において、細胞塊が大きく成長しすぎると、培地中に含まれる栄養やホルモンが内部に行き届かず、細胞が分化してしまう場合がある。また、細胞塊が小さすぎる状態のまま継代すると、ROCK阻害剤を用いない場合、細胞死や核型異常が生じる場合がある。したがって、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが適切な範囲外になった場合、警告を発してもよい。また、細胞評価部512は、個々の細胞塊の大きさが所定の閾値以上になった場合、継代するタイミングであることを出力してもよい。この場合、細胞塊を粉砕して個々の細胞塊を小さくし、再度培養器中で培養を再開する継代をしてもよい。さらに、継代において細胞塊を破砕した後に個々の細胞塊の大きさを算出することにより、破砕が適切になされたか否かを判断することも可能である。またさらに、算出された細胞塊の大きさに応じて、拡大培養装置70における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の大きさが大きくなるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0274】
また、統計処理部513で算出された細胞塊の数に応じて、拡大培養装置70における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の数が増えるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0275】
密度算出部514は、細胞塊の密度が所定の閾値以上になった場合、継代するタイミングであることを出力してもよい。細胞塊の密度が好適な範囲より高くなった場合は、例えば継代することにより、細胞塊の密度を好適な範囲内に調整することが可能である。さらに、継代において細胞塊を破砕した後に細胞塊の密度を算出することにより、破砕が適切になされたか否かを判断することも可能である。さらに、算出された細胞塊の密度に応じて、拡大培養装置70における培地の供給速度を変化させてもよい。例えば、細胞塊の密度が増えるにつれて、培地の供給速度を上昇させてもよい。
【0276】
培地評価部515が培地の色相又は培地のpHが所定の範囲以外であると判断した場合、拡大培養装置70においても、例えば
図6に示す補給培地送液ポンプ77によって、浮遊培養器の透析チューブ75の周囲の培地が交換される。あるいは、培地の交換が常にされている場合は、補給培地送液ポンプ77による浮遊培養器の透析チューブ75の周囲の培地の交換速度が上昇され、交換される培地の流量が上昇する。これにより、培地のpHを細胞培養に適した範囲に維持し、培地に十分な栄養分を補給することが可能である。
【0277】
図1に示す第1の分割機構60で分割された細胞塊は、再び拡大培養装置70内で培養される。必要な細胞の量が得られるまで、第1の分割機構60における細胞塊の分割と、拡大培養装置70内での細胞塊の培養が繰り返される。
【0278】
拡大培養装置70中の細胞塊を含む溶液を、拡大培養送液路71を介して、第1の分割機構60に送り出すポンプは、例えば、
図11に示した細胞評価部512が算出した細胞塊の大きさの値が、所定の閾値以上になった場合に、駆動されてもよい。あるいは、細胞塊を含む溶液を
図1に示す第1細胞塊送液路51に送り出すポンプは、例えば、
図11に示した密度算出部514が算出した細胞塊の密度の値が、所定の閾値以上になった場合に、駆動されてもよい。
【0279】
拡大培養装置70には、第2細胞塊送液路72が接続されている。拡大培養装置70は、拡大培養され、容器から剥離された細胞塊の含有液を、ポンプ等を用いて、第2細胞塊送液路72に送り出す。ただし、浮遊培養の場合は、剥離は不要である。第2細胞塊送液路72は、所定の大きさ未満の誘導された細胞のみを通す内径を有し、所定の大きさ以上の誘導されていない細胞を除去する分岐流路に接続されていてもよい。
【0280】
第2細胞塊送液路72の内壁には、細胞が接着しないよう、poly−HEMAをコーティングして、細胞非接着性にしてもよい。あるいは、第2細胞塊送液路72の材料に、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、第2細胞塊送液路72の材料に、温度伝導率が良く、CO
2透過性の材料を用いることにより、第2細胞塊送液路72内の条件が、筐体200内の管理された温度及びCO
2濃度と同等になる。さらに、第2細胞塊送液路72には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0281】
第2細胞塊送液路72は、第2の分割機構80に接続されている。第2の分割機構80は、例えば、メッシュを備える。溶液に含まれる細胞塊は、水圧によってメッシュを通過する際、メッシュの各孔の大きさの複数の細胞塊に分割される。例えば、メッシュの各孔の大きさが均一であれば、分割後の複数の細胞塊の大きさも、ほぼ均一となる。あるいは、第2の分割機構80は、ノズルを備えていてもよい。例えば、略円錐状のノズルの内部を階段状に微細加工することにより、溶液に含まれる細胞塊がノズルを通過する際に、複数の細胞塊に分割される。
【0282】
あるいは、第2の分割機構80は、第1の分割機構60と同様に、
図24から
図27に示す末端ブロック61、連結ブロック62、及び先端ブロック63を備える細胞塊分割器、あるいは
図28から
図31に示す一体型の細胞分割器を備えていてもよい。細胞塊分割器の詳細は、上述したとおりである。
【0283】
図1に示す第2の分割機構80に、複数の細胞魂をパッケージ装置100に順次送る細胞魂搬送機構90が接続されている。細胞魂搬送機構90と、パッケージ装置100と、の間には、パッケージ前細胞流路91が接続されている。細胞魂搬送機構90は、ポンプ等を用いて、第2の分割機構80で分割された細胞塊のそれぞれを、パッケージ前細胞流路91を介して、パッケージ装置100に順次送る。
【0284】
パッケージ前細胞流路91には、細胞が接着しないよう、poly−HEMAをコーティングしてもよい。あるいは、パッケージ前細胞流路91の材料に、細胞が接着しにくい材料を用いてもよい。また、パッケージ前細胞流路91の材料に、温度伝導率が良く、CO
2透過性の材料を用いることにより、パッケージ前細胞流路91内の条件が、筐体200内の管理された温度及びCO
2濃度と同等になる。パッケージ前細胞流路91には、コンタミネーション防止の観点から、逆流防止弁が設けられていてもよい。
【0285】
パッケージ前細胞流路91には、凍結保存液送液機構110が接続されている。凍結保存液送液機構110は、細胞凍結保存液をパッケージ前細胞流路91に送り込む。これにより、パッケージ前細胞流路91内で、細胞塊が細胞凍結保存液で懸濁される。
【0286】
パッケージ装置100は、パッケージ前細胞流路91を介して送られてきた複数の細胞塊のそれぞれを順次凍結する。例えば、パッケージ装置100は、細胞塊を受け取るたびに細胞塊をクライオチューブ等の凍結保存容器に入れ、細胞塊溶液を例えば−80℃以下で瞬間的に凍結する。体積あたりの表面積が小さい凍結保存容器を用いると、凍結に時間がかかる傾向にあるため、体積あたりの表面積が大きい凍結保存容器を用いることが好ましい。体積あたりの表面積が大きい凍結保存容器を用いることにより、解凍後の細胞の生存率を高くすることが可能となる。凍結保存容器の形状としては、キャピラリー状及び球状が挙げられるが、これらに限定されない。また、必要とされる解凍後の細胞の生存率によっては、必ずしも瞬間凍結をしなくともよい。
【0287】
凍結には、例えば、ガラス化(Vitrification)法を用いる。この場合、細胞凍結保存液としては、DAP213(コスモバイオ株式会社)及びFreezing Medium(リプロセル株式会社)が使用可能である。凍結は、ガラス化法以外の通常の方法で行ってもよい。この場合、細胞凍結保存液としては、CryoDefend−Stem Cell(R&Dシステム社)や、STEM−CELLBANKER(登録商標、日本全薬工業株式会社)等が使用可能である。凍結は、液体窒素によって行ってもよいし、ペルチェ素子によっておこなってもよい。ペルチェ素子を用いると、温度変化を制御したり、温度のムラを抑制したりすることが可能となる。パッケージ装置100は、凍結保存容器を、筐体200の外に搬出する。凍結細胞が臨床用途である場合は、凍結保存容器は完全閉鎖系であることが好ましい。ただし、パッケージ装置100は、幹細胞を凍結することなく、保存容器内にパッケージしてもよい。
【0288】
あるいは、パッケージ装置100においては、
図33に示すような溶液置換器101を用いて、細胞塊の溶液を培地から凍結保存液に置換してもよい。溶液置換器101の内部には、底面上に、細胞塊が透過しない細孔が設けられたフィルター102が設けられている。また、溶液置換器101には、内部のフィルター102上に細胞塊を含む培地を送液する第1の送液流路103が接続された細胞塊導入孔、内部のフィルター102上に細胞塊を含まない凍結液を送液する第2の送液流路104が接続された置換溶液導入孔、内部のフィルター102上から細胞塊を含む凍結液を排出する第1の排出流路105が接続された細胞塊流出孔が設けられている。さらに、溶液置換器101には、フィルター102を透過した溶液を排出する第2の排出流路106が接続された廃液流出孔が設けられている。第1の送液流路103、第2の送液流路104、第1の排出流路105、及び第2の排出流路106のそれぞれには、チューブ等が使用可能である。
【0289】
まず、
図33(a)及び
図33(b)に示すように、第2の排出流路106における溶液の流動を停止させた状態で、第1の送液流路103から溶液置換器101内部に、細胞塊を含む培地を入れる。次に、
図33(c)に示すように、第2の排出流路106における溶液の流動を許容する状態にし、培地を溶液置換器101から排出する。この際、
図33(d)に示すように、細胞塊は、フィルター102上に残る。さらに、
図33(e)及び
図33(f)に示すように、第2の排出流路106における溶液の流動を停止させた状態で、第2の送液流路104から溶液置換器101内部に、凍結保存液を入れ、凍結保存液中に細胞塊を分散させる。その後、
図33(g)に示すように、第1の排出流路105から、細胞塊を含む凍結保存液を排出する。細胞塊を含む凍結保存液は、第1の排出流路105を経由して、凍結保存容器等に送られる。
【0290】
なお、
図33に示す溶液置換器101は、培地から凍結保存液への置換だけでなく、古い培地から新しい培地への置換にも使用可能である。この場合、第2の送液流路104は、新しい培地を送液する。あるいは、溶液置換器101は、細胞塊を分割する際に、培地を、細胞塊分割酵素を含む溶液に置換するためにも使用することができる。細胞塊分割酵素の例としては、例えば、トリプシンや、TrypLE Select(登録商標、ライフテクノロジーズ社)等のトリプシン代替組み替え酵素が挙げられる。この場合、第2の送液流路104は、細胞塊分割酵素を含む溶液を送液する。
【0291】
図1に示す幹細胞製造システムは、パッケージ装置100におけるパッケージ工程を撮影するパッケージ工程撮影装置をさらに備えていてもよい。
【0292】
幹細胞製造システムは、筐体200内を滅菌する滅菌装置をさらに備えていてもよい。滅菌装置は、乾熱滅菌装置であってもよい。この場合、分離装置10、導入前細胞送液路20、誘導因子送液機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100等の電気を使用する装置の配線は、耐熱性を有する配線であることが好ましい。あるいは、滅菌装置は、オゾンガス、過酸化水素ガス、又はホルマリンガス等の滅菌ガスを筐体200内に放出して、筐体200内を滅菌してもよい。
【0293】
幹細胞製造システムは、分離装置10、導入前細胞送液路20、誘導因子送液機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100等の動作記録、並びに撮影装置が撮影した画像を、有線又は無線により、外部のサーバーに送信してもよい。また、外部のサーバーにおいて、ニューラルネットワークにより、例えば、誘導因子導入条件、培養条件、及び凍結条件等の条件と、幹細胞の不完全な初期化、幹細胞の分化及び増殖の失敗、及び染色体異常等の結果と、の関連を分析し、結果を導く条件を抽出したり、結果を予測したりしてもよい。さらに、外部サーバーは、標準作業手順(SOP)に基づいて、幹細胞製造システムの分離装置10、誘導因子送液機構21、因子導入装置30、細胞塊作製装置40、及びパッケージ装置100等を制御し、SOPに基づいて各装置が稼働しているか否かを監視し、各装置の稼働記録を自動的に生成してもよい。
【0294】
以上説明した幹細胞製造システムによれば、全自動で、iPS細胞等の幹細胞の誘導、樹立、拡大培養、及び凍結保存を一括して行うことが可能となる。
【0295】
なお、実施の形態に係る幹細胞製造システムは、
図1に示す構成に限定されない。例えば、
図34に示す実施の形態に係る幹細胞製造システムにおいては、血液保存部201から単核球分離部203に、血液送液路202を経由して血液が送液される。血液保存部201及び単核球分離部203としては、例えばチューブが使用可能である。血液送液路202は、例えば、樹脂チューブやシリコンチューブ等である。後述する他の送液路も同様である。血液保存部201には、バーコード等の識別子を付けて、血液の情報を管理してもよい。送液には、ポンプ204が使用される。ポンプ204としては、容積式ポンプが使用可能である。容積式ポンプの例としては、ピストンポンプ、プランジャーポンプ、及びダイヤフラムポンプを含む往復ポンプ、あるいは、ギアポンプ、ベーンポンプ、及びネジポンプを含む回転ポンプが挙げられる。ダイヤフラムポンプの例としては、チュービングポンプ及び圧電(ピエゾ)ポンプが挙げられる。チュービングポンプの例としては、ペリスタポンプ(登録商標、アトー株式会社)、並びにRP−Q1及びRP−TX(高砂電気工業株式会社)が挙げられる。圧電ポンプの例としては、SDMP304、SDP306、SDM320、及びAPP−20KG(高砂電気工業株式会社)が挙げられる。また、様々な種類のポンプを組み合わせたマイクロ流体チップモジュール(高砂電気工業株式会社)を用いてもよい。ペリスタポンプ(登録商標)、チュービングポンプ、及びダイヤフラムポンプ等の密閉型ポンプを用いると、血液送液路202内部の血液にポンプが直接接触することなく、送液することが可能である。後述する他のポンプにおいても同様である。あるいは、ポンプ204、並びに後述するポンプ207、ポンプ216、ポンプ222、ポンプ225、ポンプ234、ポンプ242、及びポンプ252としては、シリンジポンプを使用してもよい。密閉型ポンプ以外のポンプであっても、加熱滅菌処理等により再利用が可能である。
【0296】
単核球分離部203には、分離剤保存部205から、送液路206及びポンプ207を介して、赤血球凝固剤が送られる。分離剤保存部205としては、例えばチューブが使用可能である。分離剤保存部205には、バーコード等の識別子を付けて、分離剤の情報を管理してもよい。赤血球凝固剤としては、例えば、HetaSep(登録商標、STEMCELL Technologies)や赤血球凝固剤(ニプロ)等が使用可能である。単核球分離部203内において、赤血球凝固剤によって赤血球が沈降し、単核球が分離される。単核球分離部203内の単核球を含む上澄みは、単核球送液路208及びポンプ209を介して、単核球精製フィルター210に送られる。単核球精製フィルター210において、単核球以外の成分が除去され、単核球を含む溶液が得られる。単核球精製フィルター210としては、Purecell(登録商標、PALL)、セルソーバE(旭化成株式会社)、セパセルPL(旭化成株式会社)、アダカラム(登録商標、JIMRO)、及び分離バック(二プロ株式会社)等が使用可能である。
【0297】
図34においては、単核球分離部203、分離剤保存部205、単核球精製フィルター210、及びポンプ204、207、209等が、分離装置を構成している。
【0298】
単核球を含む溶液は、導入前細胞送液路211及びポンプ212を介して、因子導入部213に送られる。因子導入部213としては、例えばチューブが使用可能である。因子導入部213には、多能性誘導因子を含む因子保存部214から、因子送液路215及びポンプ216を介して、多能性誘導因子が送られる。因子保存部214としては、例えばチューブが使用可能である。因子保存部214には、バーコード等の識別子を付けて、多能性誘導因子の情報を管理してもよい。因子保存部214及びポンプ216等が、誘導因子送液機構を構成している。因子導入装置としての因子導入部213において、多能性誘導因子が、例えばRNAリポフェクション法によって細胞に導入され、誘導因子導入細胞が作製される。ただし、誘導因子のトランスフェクションの方法は、RNAリポフェクション法に限定されない。例えば、多能性誘導因子を含むセンダイウイルスベクターを用いてもよい。あるいは、多能性誘導因子がタンパク質であってもよい。
【0299】
誘導因子導入細胞は、導入細胞送液路217及びポンプ218を介して、細胞塊作製装置の一部としての初期化培養器219に送られる。導入細胞送液路217は、例えば、温度透過性かつCO
2透過性である。初期化培養器219としては、
図5に示す浮遊培養器を用いてもよい。この場合、誘導因子導入細胞は、透析チューブ内に入れられる。
図34に示す初期化培養器219には、細胞に多能性誘導因子が導入されてから最初の数日間、血液細胞培地を含む血液細胞培地保存部220から、培地送液路221及びポンプ222を介して、血液細胞培地が補給される。培地送液路221は、例えば、温度透過性かつCO
2透過性である。血液細胞培地保存部220には、バーコード等の識別子を付けて、血液細胞培地の情報を管理してもよい。血液細胞培地保存部220、培地送液路221、及びポンプ222は、培地補給装置を構成している。ポンプ222は、
図11に示したCPU500の指示に従って、血液細胞培地を連続的に補給してもよいし、血液細胞培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0300】
その後、
図34に示す初期化培養器219には、幹細胞培地を含む幹細胞培地保存部223から、培地送液路224及びポンプ225を介して、幹細胞培地が補給される。幹細胞培地保存部223には、バーコード等の識別子を付けて、幹細胞培地の情報を管理してもよい。培地送液路224は、例えば、温度透過性かつCO
2透過性である。幹細胞培地保存部223、培地送液路224、及びポンプ225は、培地補給装置を構成している。ポンプ225は、
図11に示したCPU500の指示に従って、幹細胞培地を連続的に補給してもよいし、幹細胞培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0301】
血液細胞培地保存部220及び幹細胞培地保存部223は、例えば、冷蔵保存部259で4℃等の低温で冷蔵保存されていてもよい。血液細胞培地保存部220及び幹細胞培地保存部223から送られる培地は、例えば、冷蔵保存部259の外の加熱器で37℃に昇温されてから培養器に送れてもよい。あるいは、低温保存されていた培地は、送液路を進む間に37℃に昇温するよう、送液路の周囲の温度を設定してもよい。初期化培養器219内の古くなった培地は、廃液送液路226及びポンプ227を介して、廃液保管部228に送られる。廃液保管部228には、バーコード等の識別子を付けて、廃液の情報を管理してもよい。
【0302】
初期化培養器219で培養された細胞塊は、導入細胞送液路229、ポンプ230、及び細胞塊分割器231を介して、細胞塊作製装置の一部としての第1の拡大培養器232へ送られる。細胞塊分割器231は、例えば、
図30又は
図31に示す構成を備えていてもよい。細胞塊分割器231を通過することにより、細胞塊は、より小さな細胞塊に分割される。
図34に示す第1の拡大培養器232としては、
図5に示す浮遊培養器を用いてもよい。この場合、細胞塊は、透析チューブ内に入れられる。
図34に示す第1の拡大培養器232には、幹細胞培地を含む幹細胞培地保存部223から、培地送液路233及びポンプ234を介して、幹細胞培地が補給される。導入細胞送液路229及び培地送液路233は、例えば、温度透過性かつCO
2透過性である。幹細胞培地保存部223、培地送液路233、及びポンプ234は、培地補給装置を構成している。ポンプ234は、
図11に示したCPU500の指示に従って、幹細胞培地を連続的に補給してもよいし、幹細胞培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0303】
図34に示す第1の拡大培養器232内の古くなった培地は、廃液送液路235及びポンプ236を介して、廃液保管部228に送られる。
【0304】
第1の拡大培養器232で培養された細胞塊は、導入細胞送液路237、ポンプ238、細胞塊分割器239を経て、細胞塊作製装置の一部としての第2の拡大培養器240へ送られる。細胞塊分割器239は、例えば、
図30又は
図31に示す構成を備えていてもよい。細胞塊分割器239を通過することにより、細胞塊は、より小さな細胞塊に分割される。
図34に示す第2の拡大培養器240としては、
図5に示す浮遊培養器を用いてもよい。この場合、細胞塊は、透析チューブ内に入れられる。
図34に示す第2の拡大培養器240には、幹細胞培地を含む幹細胞培地保存部223から、培地送液路241及びポンプ242を介して、幹細胞培地が補給される。導入細胞送液路237及び培地送液路241は、例えば、温度透過性かつCO
2透過性である。幹細胞培地保存部223、培地送液路241、及びポンプ242は、培地補給装置を構成している。ポンプ242は、
図11に示したCPU500の指示に従って、幹細胞培地を連続的に補給してもよいし、幹細胞培地を所定のタイミングで補給してもよい。
【0305】
図34に示す第2の拡大培養器240内の古くなった培地は、廃液送液路243及びポンプ244を介して、廃液保管部228に送られる。
【0306】
第2の拡大培養器240で培養された細胞塊は、導入細胞送液路245及びポンプ246を経て、溶液置換器247へ送られる。溶液置換器247は、例えば
図33に示す構成を備えていてもよい。
図34に示す溶液置換器247内において、細胞塊はフィルターで保持され、培地は、廃液送液路248及びポンプ249を介して、廃液保管部228に送られる。
【0307】
ポンプ249の駆動停止により廃液送液路248内の溶液の流動を停止した後、あるいは弁等で廃液送液路248を閉じた後、溶液置換器247には、凍結保存液を含む凍結保存液保存部250から、送液路251及びポンプ252を介して、凍結保存液が入れられる。これにより、凍結保存液中に細胞塊が分散する。
【0308】
細胞塊を分散させた凍結保存液は、パッケージ装置の一部としての送液路253及びポンプ254を介して、凍結保存容器255内に送られる。凍結保存容器255は、低温保管庫256に入れられている。低温保管庫256には、液体窒素保管庫257から送液路258を介して、例えば−80℃の液体窒素が送られる。これにより、凍結保存容器255内の細胞塊が凍結させられる。ただし、細胞塊の凍結は、液体窒素に依らなくともよい。例えば、低温保管庫256が、圧縮式冷凍庫、吸収式冷凍庫、あるいはペルチェ式冷凍庫等の冷凍庫であってもよい。
【0309】
上述した送液路には、適宜、逆流防止弁を設けてもよい。上述した送液路、単核球分離部203、単核球精製フィルター210、因子導入部213、初期化培養器219、第1の拡大培養器232、第2の拡大培養器240、及び溶液置換器247等は、樹脂等からなる例えばカセット状のケース259に格納されている。ケース259は、例えば、滅菌処理可能な耐熱性材料からなる。ケース259内は、例えば、37℃、CO
2濃度5%のように、細胞培養に適した環境にされる。培地が流れる送液路は、例えば、CO
2透過性材料からなる。ただし、ケース259はカセット状に限られない。例えば、可撓性のバックであってもよい。また、上述した送液路、単核球分離部203、単核球精製フィルター210、因子導入部213、初期化培養器219、第1の拡大培養器232、第2の拡大培養器240、及び溶液置換器247等は、複数のケースに分割されて格納されてもよい。
【0310】
ケース259は、筐体200内に配置される。ポンプ、血液保存部201、分離剤保存部205、因子保存部214、血液細胞培地保存部220、幹細胞培地保存部223、廃液保管部228、凍結保存容器255、低温保管庫256、及び液体窒素保管庫257は、筐体200の内部かつケース259の外部に配置される。
【0311】
ケース259と、筐体200は、例えば、互いに勘合する勘合部を備える。そのため、ケース259は、筐体200内の所定の位置に配置される。また、筐体200内において、ポンプ、血液保存部201、分離剤保存部205、因子保存部214、血液細胞培地保存部220、幹細胞培地保存部223、廃液保管部228、凍結保存容器255、低温保管庫256、及び液体窒素保管庫257は、所定の位置に配置される。ケース259が筐体200内の所定の位置に配置されると、ケース259内の送液路は、ポンプ、血液保存部201、分離剤保存部205、因子保存部214、血液細胞培地保存部220、幹細胞培地保存部223、廃液保管部228、凍結保存容器255、低温保管庫256、及び液体窒素保管庫257と接する。
【0312】
例えば、ケース259及びその内包物は使い捨て可能であり、細胞塊の凍結が完了した後は、廃棄して、新しいものと交換してもよい。あるいは、ケース259及びその内包物を再利用する場合は、ケース259にバーコード等の識別子を付け、使用回数等を管理してもよい。
【0313】
以上説明した実施の形態に係る幹細胞製造システムによれば、人を介さずに、血液から自動的にiPS細胞等の幹細胞の冷凍保存物を製造することが可能である。
【0314】
(その他の実施の形態)
上記のように、本発明を実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす記述及び図面はこの発明を限定するものであると理解するべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施の形態及び運用技術が明らかになるはずである。例えば、因子導入装置30は、エレクトロポレーションやRNAリポフェクションではなく、レトロウイルス、レンチウイルス、及びセンダイウイルス等のウイルスベクターや、プラスミドを用いるトランスフェクション、あるいはタンパク質トランスフェクションにより、細胞を誘導してもよい。また、導入前細胞送液路20、導入細胞送液路31、細胞塊送液路51、拡大培養送液路71、細胞塊送液路72、及びパッケージ前細胞流路91はマイクロフルイディクス技術により基板上に設けられていてもよい。この様に、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態等を包含するということを理解すべきである。
【0315】
(実施例1)
(準備)
ヒト血液細胞は健康な成人男性から入手した。また、修飾化mRNA(TriLink社)、非接着ディッシュ、15mLチューブ、50mLチューブ、フィコール、サイトフローメータ(BD)、CD34に対する抗体(Miltenyi Biotec)、CD3に対する抗体(Miltenyi Biotec)、MACS(登録商標)バッファ(Miltenyi Biotec)、T細胞培地、低血清培地(Opti−MEM(登録商標)、Gibco)、siRNA導入試薬(Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX、ThermoFisherScience)、及びTRA−1−60に対する抗体(BD)を用意した。
【0316】
T細胞(CD3陽性細胞)培地は、以下A培地とB培地の混合液であった。A培地は、15mLのX vivo−10(Lonza社、04−743Q)及びIL−2(10μg/mL)の混合液であった。B培地は1.5mLチューブにX vivo−10及びDynabeadsCD3/CD28(Life Technologies社, 111−31D)50μLを混合し、5秒間ボルテックス後、スピンダウンし、DynaMag−2(Thermo fisher Science)に静置し、一分静置後、上清を取り除いたものであった。
【0317】
また、10mLの無血清培地(StemSpan H3000、STEMCELLTechnologies)に、10μLのIL−6(100μg/mL)、10μLのSCF(300μg/mL)、10μLのTPO(300μg/mL)、10μLのFlt3リガンド(300μg/mL)、及び10μLのIL−3(10μg/mL)を加えて血球培地(血液幹・前駆細胞培地)を調製した。
【0318】
また、それぞれ濃度が100ng/μLのOCT3/4のmRNA含有液、SOX2のmRNA含有液、KLF4のmRNA含有液、c−MYCのmRNA含有液、LIN28AのmRNA含有液、及び緑色蛍光タンパク質(GFP)のmRNA含有液を用意した。次に、385μLのOCT3/4のmRNA含有液、119μLのSOX2のmRNA含有液、156μLのKLF4のmRNA含有液、148μLのc−MYCのmRNA含有液、83μLのLIN28AのmRNA含有液、及び110μLのGFPのmRNA含有液を混合し、初期化因子混合液を得た。得られた初期化因子混合液を50μLずつ容量1.5mLのRNase−Freeのチューブ(エッペンドルフチューブ(登録商標)、エッペンドルフ)に分注し、−80℃の冷凍庫に保存した。
【0319】
(単核球の調製)
遠心機を18℃に設定した。5mLから50mLの血液を採血し、血液にEDTAを加えて優しく混ぜた。また、ヒトリンパ球分離用の媒体(Ficoll−Paque PREMIUM、GEヘルスケア・ジャパン)を5mLずつ2本の15mLチューブに分注した。5mLのPBSを血液に加えて希釈し、チューブ中のヒトリンパ球分離用の媒体の上に5mLずつ重層した。この時、界面を乱さないように、希釈血液をチューブの管壁を伝わらせてゆっくりと媒体上に加えた。
【0320】
チューブ中の溶液を、400×g、18℃で30分間遠心した。この際、加速、減速ともゆっくり行った。遠心後、チューブ中に白く濁った中間層が現れた。この白く濁った中間層は、単核球を含んでいる。チューブ中の白く濁った中間層をピペットマンでゆっくりと回収し、新しい15mLチューブに移した。この際、下層は吸い取らないようにした。白く濁った中間層は、1本のチューブより1mL程度回収できた。2本分の中間層をまとめて1本のチューブに移した。
【0321】
回収した単核球に対し、12mLのPBSを加えて、溶液をさらに200×g、18℃で10分間遠心した。その後、アスピレータを用いて溶液の上清を吸引して除去し、3mLの既知組成無血清造血細胞培地(X−VIVO(登録商標)10、ロンザ)を加えて懸濁し、単核球懸濁液を得た。そのうち10μLの単核球懸濁液をトリパンブルーで染色して血球計算盤でカウントした。
【0322】
(CD34又はCD3陽性細胞の分離)
1×10
7個の単核球と、CD34抗体又はCD3抗体と、を、4℃の溶液100μL中で15分反応させた。反応後、溶液に5mLのMACS(登録商標)バッファ(Miltenyi Biotec)を加え、270gで遠心した。遠心後、上清を除去し、1mLのMACSバッファを添加した。その後、自動磁気細胞分離装置(autoMACS、Miltenyi Biotec)の分離プログラムを利用して、単核球のうち、CD34陽性細胞又はCD3陽性細胞を分離した。
【0323】
(分離した細胞の培養)
分離した5×10
6個の単核球を1mLのT細胞培地、又は血液幹・前駆細胞培地に懸濁し、12ウェルプレートに播種し、培養した。培養条件は、CO
2濃度が5%、酸素濃度が19%、及び温度が37℃であった。
【0324】
(初期化因子のリポフェクション)
100μLの低血清培地(Opti−MEM(登録商標)、Gibco)と25μLの初期化因子混合液を混合し、第1の混合液とした。また、112.5μLの低血清培地(Opti−MEM(登録商標)、Gibco)と12.5μLのsiRNA導入試薬(Lipofectamine(登録商標)RNAiMAX、ThermoFisherScience)を混合し、第2の混合液とした。その後、第1の混合液と、第2の混合液と、を混合し、15分室温で静置してリポフェクション反応液とした。
【0325】
得られたリポフェクション反応液のうち60μLを、単核球を培養している12ウェルプレートに穏やかに添加し、引き続き、37℃で18時間、単核球をフィーダーフリーで培養した。培養条件は、CO
2濃度が5%、酸素濃度が19%、及び温度が37℃であった。リポフェクション反応液を添加した時の単核球の密度は3×10
6であった。18時間後、単核球を15mLチューブに回収し、300gで遠心し、上清を除去した。その後、1.25mLのCD34用血球培地を15mLチューブに添加して、単核球懸濁液を同じ12ウェルプレートに戻し、一晩37度で単核球をフィーダーフリーで培養した。培養条件は、CO
2濃度が5%、及び酸素濃度が19%であった。上記工程を2日に1回、7日間繰り返した。
【0326】
(GFPの発現の確認)
リポフェクションを開始してから7日目に、リポフェクションを合計4回した細胞の密度は、3×10
6であった。細胞の一部を12ウェルプレートから取り出し、蛍光顕微鏡でGFPの発現を確認したところ、
図35に示すように、GFPの発現が確認された。これにより、単核球にmRNAがトランスフェクションし、トランスフェクトされたmRNAからタンパク質が合成されていることが確認された。
【0327】
(TRA−1−60の発現の確認)
リポフェクションを開始してから7日目に、細胞の一部を12ウェルプレートから取り出し、取り出した細胞を、初期化され始めたiPS細胞で特異的に発現する表面抗原であるTRA−1−60に対する抗体であって、Allophycocyanin(APC)蛍光色素で標識された抗体で染色した。その後、蛍光活性化セルソータ(FACS(登録商標)、BD)で、TRA−1−60陽性細胞の割合を確認することによって、細胞においてリプログラミングが開始され、iPS細胞遺伝子が発現し、iPS細胞ができてくる事を確認した。
【0328】
図36に示すように、自家蛍光の強度をx軸に、蛍光標識抗TRA−1−60抗体の蛍光強度をy軸にとったドットプロットを作成した。遺伝子を導入しなかったネガティブコントロールでは、TRA−1−60陽性細胞は検出されなかった。これに対し、実験1,2及び3において、TRA−1−60陽性細胞が検出された。なお、実験1では、マーカーによる分離をしていない単核球全体から誘導した結果であり、実験2は、CD3陽性で分離した細胞から誘導した結果であり、実験3は、CD34陽性で分離した細胞から誘導した結果である。したがって、初期化因子RNAのリポフェクションを用いて、血液由来の細胞に初期化因子を導入し、iPS細胞を誘導できることが示された。
【0329】
(実施例2)
500mLのPrimate ES Cell Medium(ReproCELL)、及び0.2mLの濃度が10μg/mLのbFGF(Gibco PHG0266)を混合し、bFGF含有ヒトiPS培地を調製した。
【0330】
また、bFGF含有ヒトiPS培地に脱アシル化ジェランガム(日産化学)を濃度が0.02重量%となるよう添加し、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を調製した。さらに、5mLの濃度が2.5重量%のトリプシン、5mLの濃度が1mg/mLのコラゲネースIV、0.5mLの濃度が0.1mol/LのCaCl2、10mLのKnockOut血清代替(登録商標、Invitrogen 10828−028)、及び30mLの精製水を混合して、一般にCTK溶液と呼ばれる剥離液を調製した。
【0331】
フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュ(Thermoscientific 12−556−004)にCTK溶液を300μL添加し、CO
2インキュベーター中で3分インキュベートした。3分後、インキュベーターからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみが剥がれていることを確認し、アスピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、6ウェルディッシュにPBS(Santa Cruz Biotech sc−362183)を500μL添加し、iPS細胞を洗浄後、6ウェルディッシュからPBSを取り除き、0.3mLの剥離液(Accutase、登録商標)を6ウェルディッシュに添加し、CO
2インキュベーターに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF含有iPS培地を6ウェルディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0332】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mLの遠心チューブに添加し、血球計算版を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、5×10
5個ずつiPS細胞を15mLファルコンチューブ(登録商標、Corning 352096)又は非接着ディッシュに播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。
【0333】
15mLチューブにおいては、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を2mL用いた。非接着ディッシュにおいては、ゲル化していないbFGF含有ヒトiPS培地を2mL用いた。各培地にはROCK阻害剤(Selleck S1049)が10μmol/Lとなるよう添加した。その後、15mLチューブ及び非接着ディッシュに、毎日500μLのbFGF含有ヒトiPSゲル培地 を添加し、非接着ディッシュに、毎日500μLのbFGF含有ヒトiPS培地を添加した。また、15mLチューブ及び非接着ディッシュに、毎日、終濃度が10μmol/LとなるようROCK阻害剤を添加し、7日間、浮遊培養を続けた。
【0334】
その結果を
図37に示す。
図37(b)に示すように、非接着ディッシュでゲル化していないbFGF含有ヒトiPS培地を用いてiPS細胞を培養した場合、iPS細胞のコロニー同士の凝集が顕著に認められた。これに対し、
図37(a)に示すように、15mLチューブ中でbFGF含有ヒトiPSゲル培地を用いてiPS細胞を培養した場合、目立った凝集は認められなかった。
図38(a)は、15mLチューブにおいて、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を用いてiPS細胞を培養したときの1日目の写真であり、
図38(b)は、15mLチューブにおいて、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を用いてiPS細胞を培養したときの9日目の写真である。
図38(a)及び
図38(b)の写真から、異なる株のiPS細胞同士が凝集せずに、コロニーを形成したことが確認された。
【0335】
図39(a)は、ゲル培地中で7日間浮遊培養したiPS細胞のコロニーをフィーダー細胞上に再播種する直前時の写真である。
図39(b)は、その3日後にコロニーの形態を確認した時の写真である。その結果、
図40に示すように、95%以上のコロニーが未分化であることが確認された。よって、iPS細胞をゲル培地中で、未分化の状態を維持したまま培養することができることが示された。
【0336】
(実施例3)
実施例2と同じbFGF含有ヒトiPS培地、及びbFGF含有ヒトiPSゲル培地を調製した。フィーダー細胞上でiPS細胞を培養している6ウェルディッシュにCTK溶液を300μL添加し、CO
2インキュベーター中で3分間インキュベートした。3分後、インキュベーターからディッシュを取り出し、フィーダー細胞のみがはがれていることを確認し、アスピレータを用いてCTK溶液を取り除いた。CTK溶液を取り除いた後、ディッシュにPBSを500μL添加し、iPS細胞を洗浄後、ディッシュからPBSを取り除き、0.3mLのAccumaxをディッシュに添加し、ディッシュをCO
2インキュベーターに入れ、5分間インキュベートした。その後、0.7mLのbFGF含有iPS培地をディッシュに添加し、iPS細胞をシングルセルになるまで懸濁した。
【0337】
iPS細胞を懸濁後、4mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mL遠心チューブに添加し、遠心機を用いてiPS細胞懸濁液を270gで遠心した。遠心後、上清を取り除き、1mLのbFGF含有ヒトiPS培地を15mL遠心チューブに添加し、血球計算版を用いて細胞数を計算した。細胞計算後、5×10^5個ずつiPS細胞を、15mLチューブに播種し、以後攪拌することなく浮遊培養した。
【0338】
15mLチューブにおいては、bFGF含有ヒトiPSゲル培地を2mL用いた。各培地にはROCK阻害剤が10μmol/Lとなるよう添加した。その後、15mLチューブに、毎日500μLのbFGF含有ヒトiPSゲル培地を添加した。なお、500μLのゲル培地は、0.5μLのROCK阻害剤を含んでいた。また、コントロールとして、ROCK阻害剤を添加していない以外は同じ条件で、iPS細胞を、7日間、浮遊培養した。
【0339】
図41(a)に示すように、bFGF含有ヒトiPS培地にROCK阻害剤を添加しなかった場合、iPS細胞はコロニーを形成しなかった。これに対し、
図41(b)に示すように、bFGF含有ヒトiPS培地にROCK阻害剤を添加した場合、iPS細胞はコロニーを形成した。この結果から、シングルセルからiPS細胞を浮遊培養する場合、ROCK阻害剤が有効であることが示された。
【0340】
(実施例4)
透析チューブを格納する容器として、CO
2透過性ではない容器であるFalcon コニカルチューブ 50 mL(登録商標)と、CO
2透過性の容器であるG−Rex(登録商標、Wilson Wolf)を用いて、容器以外は同条件で細胞を浮遊培養した。その結果、
図42に示すように、CO
2透過性の容器を用いて培養したほうが、細胞の生存率は高かった。
【0341】
(実施例5)
iPS細胞を含有するゲル培地を分画分子量が100kDaの透析チューブを備える2つの透析モジュール(Spectrum G235035)のそれぞれに入れた。さらに、透析モジュールを50mL遠心チューブにそれぞれ入れ、遠心チューブ内の透析チューブの周囲にゲル培地を入れた。また、iPS細胞を含有するゲル培地を別の50mL遠心チューブに直接入れた。
【0342】
その後、数日間、内部に透析チューブを入れた2つの遠心チューブのうちの1つの遠心チューブに、
図6に示すようにポンプを接続して、遠心チューブ内のゲル培地を連続的に交換した。ゲル培地は4℃で保管し、遠心チューブに達するときには37℃になるよう設定した。内部に透析チューブを入れた2つの遠心チューブのうちの他方の遠心チューブには、ポンプを接続せず、遠心チューブ内のゲル培地を交換しなかった。また、内部に透析チューブを入れていない遠心チューブ内のゲル培地も交換しなかった。
【0343】
同じ期間培養した後、それぞれの容器内で培養された細胞を観察したところ、
図43及び
図44に示すように、細胞塊を透析チューブ内で培養し、透析チューブの周囲のゲル培地をポンプで連続的に交換した場合は、多数の細胞塊が形成された。また、分化した細胞は極めて少なかった。しかし、細胞塊を透析チューブ内で培養し、透析チューブの周囲のゲル培地をポンプで連続的に交換しなかった場合は、細胞塊は少なくなり、分化した細胞が増えた。また、透析チューブを用いずに細胞塊を培養し、ゲル培地をポンプで連続的に交換しなかった場合は、細胞塊はほとんど形成されなかった。