【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 特許法第30条第2項適用、Journal of Applied Physics 114,223717 2013年12月12日発行に発表
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記無電解メッキ液を交換する回数を調整することにより、一方の電極と他方の電極との隙間を一定に保ちながら、対向する面を縦方向に延ばす、請求項7に記載の電極対の作製方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の技術で作製したナノギャップ電極の構造の詳細、特に断面構造の詳細は分かっておらず、ナノギャップ電極を用いたデバイスの創成に支障をきたしていた。断面構造は、ナノギャップ電極間に導入されるナノ粒子や分子などの機能性材料の個数を制御し、ゲート電極と機能性材料間の静電容量、すなわちゲート容量を左右するからである。また、ナノギャップに限らず、滑らかな表面を有してギャップを保ちながら対向面積を調整して電極対を作製することが望まれている。これによりデバイスの性能が決まるからである。
【0006】
そこで、本発明の目的は、上記課題に鑑み、デバイスの性能を精度よく発揮させることができる電極対及びその作製方法と、その電極対を備えたデバイス用基板及びデバイスとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では次のような手段が講じられる。
[1] 基板と、一方の電極と他方の電極とが
ナノギャップを有するように前記基板上に設けられた電極の対と、前記電極の対を
直接覆うように設けられた絶縁層と、を備え、
前記一方の電極
の側面と前記他方の電極
の側面と前記基板
と前記絶縁層との間に空間が形成されている、デバイス用基板。
[2] 一方の電極と他方の電極とが
ナノギャップを有して向かい合うように同一面上に設けられ、前記一方の電極と前記他方の電極との向かい合う部分が、互いに近づくにつれて前記面から遠ざかるように湾曲しており、
前記一方の電極及び前記他方の電極をソース、ドレインの各電極とし、
前記ナノギャップに、ナノ粒子又は機能性分子が配置されており、
前記一方の電極と前記他方の電極と前記ナノ粒子又は前記機能性分子が絶縁層で
直接被覆されており、
前記一方の電極
の側面と前記他方の電極
の側面と前記面と前記絶縁層との間に空間が形成されている、デバイス。
[3] 前記一方の電極及び前記他方の電極が、一方向に延びた本体部と、該本体部から互いの先端が向かい合うように延びて近接する近接部と、をそれぞれ備え、
前記本体部が前記面に接触しており、前記近接部が前記面に接触しておらず前記近接部が前記先端に近づくに従い前記面から遠ざかるように湾曲している、前記[2]に記載のデバイス。
[4] 前記近接部は、前記本体部から前記先端に向かう軸に対して垂直な断面積が前記先端に近づくに従い小さくなる凸の外形曲面を有している、前記[3]に記載のデバイス。
[5] 前記一方の電極と前記他方の電極が、それぞれ、金属層と、該金属層と前記面との間に設けられ該金属層を前記面に密着させる密着層とで構成され、
前記近接部が前記金属層で構成されている、前記[3]に記載のデバイス。
[6] 一方の電極と他方の電極とが
ナノギャップを有して向かい合うように同一面上に設けられ、前記一方の電極と前記他方の電極との向かい合う部分が、互いに近づくにつれて前記面から遠ざかるように湾曲しており、
前記向かい合う部分
の先端が、ナノメートルオーダーの一定の範囲のギャップを保ちながら向き合う
一定の面積の対向面を有する、電極対。
[7] 初期ギャップを有するように間隔をあけて種電極の対が形成された基板をサンプルとして準備し、
前記サンプルを無電解メッキ液に浸漬する際、一定時間経過すると前記無電解メッキ液を交換する
ことにより、ナノギャップを有する電極対を作製する、電極対の作製方法。
[8] 前記無電解メッキ液を交換する回数を調整することにより、一方の電極と他方の電極との隙間を一定に保ちながら、対向する面を縦方向に延ばす、前記[7]に記載の電極対の作製方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、一方の電極と他方の電極とが向き合うように同一面上に配置され、一方の電極と他方の電極との向かい合う部分が、互いに近づくにつれてその面から遠ざかるように湾曲している。そのため、電極間に小さな電圧を印加することでギャップ間に強い電界を印加することができる。よって、ギャップにナノ粒子や分子を配置してデバイスを構成したり、電極対を光伝導アンテナとして用いてデバイスを構成したりすることにより、各デバイスの性能を効率良く実現することができる。また、本発明によれば、初期ギャップを有するように間隔をあけて種電極の対が形成された基板をサンプルとして準備し、サンプルを無電解メッキ液に浸漬する際、一定時間経過すると無電解メッキ液を交換する。よって、滑らかな表面を有してギャップを保ちながら対向面積を調整して電極対を作製することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態を説明するが、特許請求の範囲に記載した発明の範囲において適宜変更して実施することができる。
【0012】
〔電極対及びそれを備えたデバイス用基板〕
図1は、本発明の第1実施形態に係る電極対を示し、(A)は(B)のX1−X1線に沿う断面図であり、(B)は平面図である。本発明の実施形態に係る電極対10は、一方の電極12Aと他方の電極12Bとがギャップ17を有して向かい合うように同一面上に設けられて構成されており、一方の電極12Aと他方の電極12Bとの向かい合う部分が、互いに近づくにつれてその面から遠ざかるように湾曲している。以下、その面が基板11の表面である場合を例にとって説明する。
【0013】
電極対10は、
図1に示すように、半導体基板11A上に絶縁層11Bを有して構成された基板11上に、ナノギャップを有するように向かい合って設けられた一方の電極12A及び他方の電極12Bで構成される。
【0014】
一方の電極12A及び他方の電極12Bは、それぞれ、
図1に示すように一方向に延びた本体部15と、本体部15から向かい合って各先端16Aが互いに近接するように延びる近接部16を備える。各近接部16は、相対する電極12(以下、一方の電極と他方の電極を区別しない場合には単に電極12と表記することにする。)に向かって平面視で本体部15から軸方向に延び、各先端16A同士でギャップ17を形成する。ギャップ17は、デバイスに応じて設定され、一方の電極12Aの先端16Aと他方の電極12Bの先端16Aとの距離が例えば数μmであってもよいし、数nm、例えば0.3nm〜12nmであってもよい。
図1(A),(B)に示すように、一方向をx方向、電極12の幅方向をy方向、電極12の厚み方向をz方向と呼ぶことにする。一方の電極12Aの先端16Aと他方の電極12Bの先端16Aはギャップ17を有しつつ相対しており、ギャップ17のy方向の長さは無電解メッキの溶液及びメッキ条件により決まり、0.3nm以上でもよく、本体部15のy方向の幅の9割程度であってもよい。
【0015】
本発明の第1実施形態では、本体部15は絶縁層11Bに接触しており、近接部16が絶縁層11Bに接触しておらず、近接部16が先端16Aに近づくに従い絶縁層11Bから遠ざかるように湾曲している。近接部16は、本体部15から先端16Aに向かう軸に対して垂直な断面が先端16Aになるに従い小さくなる凸の外形曲面を有している。つまり、本体部15の軸方向(x方向)に直交する断面積が先端16Aに近づくに従い小さくなり、先端16Aが最小の断面積、すなわち最小の寸法となる。近接部16は、本体部15と異なりあたかも庇のように近接部16の直下では「空」の状態であり、空間13Aが形成されている。このような空間を形成する近接部16の形状を「庇構造」と呼ぶ。
【0016】
図1(A)に示すように、近接部16は、電極12の厚さ方向(z方向)のほぼ中間面に対して上下に略対称であることが好ましい。特に、電極12の本体部15が延びる軸線(X1−X1線)を含んで基板11に垂直な断面形状のうち上部16Pと下部16Qとが、それぞれ略円弧や楕円弧のような二次曲線の一部の如く湾曲しているとよい。また、近接部16は、電極12の幅方向(y方向)のほぼ中間面に対して略対称であることが好ましい。特に、電極12の幅方向の線を含んで基板11に垂直な断面形状のうち手前部16Rと奥部16Sとが、それぞれ略円弧や楕円弧のような二次曲線の一部の如く湾曲している。近接部16の構造において、電極12の本体部15が延びる軸線を含んで基板11に垂直な断面形状のうち、上部16P及び下部16Qの各曲率中心と、電極12の幅方向の線を含んで基板11に垂直な断面形状のうち、手前部16R及び奥部16Sの曲率中心は、何れも近接部16内に存在する。
【0017】
図2は、本発明の第2実施形態に係る電極対を示し、(A)は(B)のX2−X2線に沿う断面図であり、(B)は平面図である。
図1に示す電極対と同一又は対応する部位については同一の符号が付されている。第2実施形態では、絶縁層11B上にギャップを有するように密着層14A,14Bの対が設けられ、密着層14A,14Bの対のそれぞれに金属層12C,12Dが設けられている点で異なる。
【0018】
第2実施形態では、一方の電極12Aが密着層14A及び金属層12Cで構成され、他方の電極12Bが密着層14B及び金属層12Dで構成される。
図2に示すように、各近接部16は、金属層12C,12Dのうち密着層14A,14Bと接触していない部位でのみ構成される。よって、第1実施形態と同様、近接部16が絶縁層11Bに接触しておらず近接部16が先端に近づくに従い絶縁層11Bから遠ざかるように湾曲している。近接部16は、本体部15から先端16Aに向かう軸に対して垂直な断面が、先端16Aに近づくに従い小さくなる凸の外形曲面を有している。つまり、本体部15の軸方向(x方向)に直交する断面積が小さくなり、先端16Aが最小の面積となる。
【0019】
第2実施形態においては、金属層12C及び12Dが密着層14A,14Bを介在して絶縁層12上に設けられているため、金属層12C及び12Dが絶縁層11Bから剥離し難い。
【0020】
図3は、本発明の第3実施形態に係る電極対50を示し、(A)は(B)のX3−X3線に沿う断面図であり、(B)は平面図である。
図1に示す電極対と同一又は対応する部位には同一の符号が付されている。第3実施形態は、第1実施形態と次の点で異なる。すなわち、一方の電極12Aと他方の電極12Bとが、一定の範囲のギャップを保ちながら対向面16Bで向き合っており、対向面16Bが一定の面積を有している点で異なっている。一定の面積とは、電極幅を10nm〜80nm、電極高さを2nm〜70nmとすると、例えば20nm
2〜560nm
2の範囲である。一方の電極12A及び他方の電極12Bは、第1及び第2実施形態と比べて大きい厚み、すなわち高さを有する。第3実施形態であっても、本体部15は絶縁層11Bに接触しており、近接部16が絶縁層11Bに接触しておらず、近接部16が先端16Aに近づくに従い絶縁層11Bから遠ざかるように湾曲している。また、近接部16は、本体部15から先端16Aに向かう軸に対して垂直な断面が、先端16Aになるに従い小さくなる凸の外形曲面を有している。つまり、本体部15の軸方向(x方向)に直交する断面積が先端16Aに近づくに従い小さくなり、先端16Aが最小の断面積となる。第3実施形態では、先端16Aの先端の面が上下方向に殆ど変化しておらず、一定の面積を有する。
【0021】
一方の電極12Aと他方の電極12Bとは対向して配置されており、ギャップ17の大きさが例えばナノメートルオーダーで一定の範囲に収まる。よって、対向面16Bの大きさとギャップの大きさとを自由に設計することができるため、ナノサイズの電極であっても非常に大きな容量を形成することができるという利点がある。なお、第3実施形態においても、
図2に示すように密着層14A,14Bを設けることが望ましい。
【0022】
第1乃至第3実施形態では、半導体基板11AとしてSi基板やGaAs基板などの各種半導体基板が用いられる。絶縁層11Bは、SiO
2、Si
3N
4など各種絶縁材料により形成される。第1実施形態における一方の電極12A及び他方の電極12B、第2実施形態における金属層12C,12Dは、Au、Al、Ag、Cu、Niなどの金属により形成され得る。第2実施形態における密着層14A,14BはTi、Cr、Niなどで形成され得る。なお、金属層12C,12Dは、密着層14A,14B上にAu、Al、Ag、Cu、Niなどの別の又は同一の金属で形成され得る。
【0023】
〔デバイス〕
前述した電極対10,20を用いたデバイス10A,20Aを説明する。ここでのギャップ17はナノサイズを有するように設定されるので、ギャップ17が「ナノギャップ」と呼ばれ、そのような電極対が「ナノギャップ電極」と呼ばれる。
図1及び
図2に点線で示すように、ギャップ17間に、金属ナノ粒子や機能性分子(「機能性分子」は「機能分子」とも呼ばれる。)18を配置し、その金属ナノ粒子や機能性分子18及び電極12上に絶縁層13を設ける。絶縁層13を絶縁層11Bと区別するために、絶縁層11Bを第1の絶縁層と呼び、絶縁層13を第2の絶縁層と呼ぶことがある。さらに、
図1及び
図2に示すように、金属ナノ粒子や機能性分子18に対して電位を印加するために、第2の絶縁層13上にトップゲート19を設け、一方の電極12A及び他方の電極Bと同一面上にサイドゲート(図示せず)を設ける。これにより、金属ナノ粒子18と電極12との間にトンネル接合が形成され、トップゲート19やサイドゲートにより金属ナノ粒子の電位を調整することができ、単電子デバイスが構成される。また、機能性分子18として例えばフラーレンを配置すれば、分子デバイスが構成される。このようにナノギャップ電極を利用したナノデバイスを提供することができる。
【0024】
ここで、第2の絶縁層13は、ギャップ17の最も小さい領域から基板11側には形成されず、一方の電極12A、他方の電極12B、第1絶縁層11B及び第2絶縁層13との間に空間13Aが形成されている。従来のように、第1の絶縁層11B及び電極12の相対する先端面が基板11に対して垂直な面であって、その先端面の下端が基板11に接触している場合と比較すると、次のようになる。本発明の第1及び第2の実施形態に係る電極対、従来型の電極対の何れにおいても、ナノギャップ電極間に電圧が印加されると、電界強度はナノギャップ間で最大となる。これにより、電極12Aと電極12Bの間に印加した電圧が効率的に金属ナノ粒子18や機能性分子18に加わることになる。本実施形態の電極対では、空間13Aがあるため、第1絶縁層11Bに加わる電界強度の最大値は、従来型の電極対のそれと比較すると低くなる。ナノギャップ電極を用いたデバイスでは、そのデバイスのメモリ機能とかスイッチング機能を発揮させるために、ギャップの部分に電圧を加える。その際、第1絶縁層11Bにも電界が加わることになるが、その電界強度は小さい方がリーク電流の減少、ひいては絶縁破壊を防止するという観点において優れている。このように本発明の第1及び第2の実施形態では、空間13Aを有していることにより、リーク電流の低下、高耐電圧のナノギャップ電極を実現することになる。さらに、本発明の第1及び第2実施形態に係る電極対が有する断面構造は、近接部16の断面積が3次元で等方的に小さくかつその断面積は任意の寸法を有する。よって、ナノギャップ電極間に導入されるナノ粒子や分子などの機能性材料の個数を制御することができる。このような断面構造を備えたデバイスは、トップゲート19やサイドゲート(図示しない)と機能性材料間の静電容量を調整でき、各種のメモリ機能又は論理機能を実現することができる。
【0025】
図4は、本発明の実施形態に係るデバイスの模式図である。本発明の実施形態に係るデバイスは、
図4に示すように、光伝導アンテナ素子31であり、THz電磁波を発生するシステム30を構成している。光伝導アンテナ素子31は、例えば平行伝送線路(coplanar transmission line)32に、アンテナ33を接続して構成され、アンテナ33の中央には微小なギャップを有する。このギャップの寸法は通常μm〜数nmのオーダーを有するように設定される。ギャップ間には適当な直流バイアス電圧が印加される。
【0026】
THz電磁波発生器及び検出器においては、バタフライ型、パラレルライン型、ボウタイ型、対数スパイラル型、フィンガーギャップ型、アレイ型等のアンテナが用いられている。
図4では、アンテナ33がダイポール型である場合を示している。フェムト秒のパルスレーザー光を用いて半導体中に光キャリアを発生させ,光伝導電流をサブピコ秒で変調することにより、THz電磁波を発生させることができる。
【0027】
図示した例では、光伝導アンテナ素子31がGaAs基板34上に形成され、光伝導アンテナ素子31が半導体でなる半球レンズ35の平面上に設けられる。アンテナ33のギャップに、フェムト秒のレーザ光を照射することにより、基板34の光パルスが照射された領域、つまり、アンテナ33のプラス電極近傍に自由電子がキャリアとして生成され、生成された自由電子が直流バイアス電界によって、プラス電極へ引き寄せられ、テラヘルツ波の放射源である瞬時電流を生じさせる。このように光伝導電流が流れ、THz電磁波パルスが発生する。
【0028】
光照射時の光電流は、バイアス電圧に起因したバイアス電界に比例する。アンテナのギャップ長を狭くすると、バイアス電界はギャップ長の逆数に比例して大きくなる。
図5は、
図4のX4−X4線に沿う概略断面図である。本発明の実施形態では、
図1及び
図2に示すナノデバイスと同様、一方の電極33A、他方の電極33B、基板34の間に空間38が形成される。電極33が基板34に対して垂直な一定寸法の断面を形成することで、電極33の先端部分が基板34から離れないため、本発明の実施形態のような空間38が形成されない従来型の場合と比較すると、本発明の実施形態の方が、基板34に印加される電界強度の最大値は大きくなる。すなわち、一方の電極33A、他方の電極33Bが庇構造を有することにより、基板34の下に存在する半導体への電荷を誘起する効果が、庇構造を有さない従来型と比較して大きくなり、ギャップ直下の基板34表面の電極の延びる方向の電界強度の最大値は大きくなる。このため、本発明の実施形態では、基板と電極が接触している部分を用いた構造よりも、無電解メッキによるひさし構造のために、半導体基板34に高電界を加えることが可能となるため、テラヘルツ波発生効率が高くなる。
【0029】
図4では発生器としてのシステムを示しているが、検出器としてのシステムについても、直流バイアスの代わりに電流検出器を配置すればよく、検出器としての性能も電界が掛かりやすくなるため、検出効率が高くなる。
【0030】
第3実施形態に係る電極対50を用いたデバイスとしては、ギャップを狭くして対向する面積を大きくしたコンデンサを挙げることができる。このようなコンデンサは、大きな容量を有する。よって、このような電極対50をコンデンサとして備えたLC共振器においては、共振周波数を下げることができる。
【0031】
〔作製方法〕
次に、本発明の各実施形態に係るナノギャップ電極の作製方法について説明する。以下では
図2に示すナノギャップ電極を例にとって説明する。
第1ステップ:半導体基板11A上に第1の絶縁層11Bを形成する。
第2ステップ:第1の絶縁層11B上に、密着層14A,14Bを形成する。
第3ステップ:無電解メッキ法により電極対を形成し、その後必要に応じて分子定規無電解メッキ法によりギャップ長が所定の値になるようにギャップ長を狭める。
【0032】
具体的には、第2ステップにおいて、例えば、第1の絶縁層11B上に最終のギャップ長よりも大きいギャップを有するように密着層14A,14Bを形成する。その後、種電極層12E,12Fを密着層14A,14B上に間隔をあけて対を成すように形成しておく。このようにして、初期ギャップを有するように間隔をあけて種電極の対が形成された基板をサンプルとして用意する。
【0033】
次に、第3ステップにおいて、無電解メッキ法により電極対を形成する。その際、サンプルを無電解メッキ液に浸漬する。メッキ液に含まれる金属イオンの濃度に応じて、浸漬時間は設定される。サンプルをメッキ液に浸漬して一定時間経過すると、メッキ液を交換する。これにより、フラットな表面を形成することができる。フラットな表面は必ずしも平面に限らないが、段差のある部分では滑らかな曲面が含まれてもよい。ここで、フラットな平面とは、基準面に対して凹凸の高さ、深さが5nm以上30nm以下であることを意味する。
【0034】
第3ステップにおいて、メッキ液の交換回数を少なくしてメッキ液へ浸漬するトータルの時間を短くすると、第2実施形態のような電極対が作製されることができる。一方、メッキ液の交換回数を多くしてメッキ液への浸漬するトータルの時間を長くすると、第3実施形態のような電極対が作製されることができる。
【0035】
第3ステップについてさらに詳細に説明すると、ヨウ素無電解メッキ法(Iodine Electroless plating method)を用いて種電極層12E,12Fの上に金属を析出させて金属層12C及び12Dの一部を形成する。そして、必要に応じて分子定規無電解メッキ法を用いて、金属を析出させることにより、金属層12C及び12Dの残部を形成する。その際、分子定規無電解メッキ法の採用は必須ではなく、ヨウ素無電解メッキ法だけ採用して金属層の全てを形成してもよい。ヨウ素無電解メッキ法及び分子定規無電解メッキ法は、メッキとエッチングが共存する条件において、メッキが進行する。メッキのみが優先して起こる場合には、突起状の尖った部分の方が平坦な表面と比較して、メッキ浴のポテンシャル勾配が急になる。そのため優先的にメッキが進行し、表面は凸凹になりやすい。一方、ヨウ素無電解メッキ法及び分子定規無電解メッキ法では、尖った部分で優先的にメッキが進行した周囲はエッチングが優先される状況となり、結果としてエッチングが起こり、尖った部分が消失する。このような理由から、両メッキ法で作製された電極表面はスムースかつフラットになり、全ての電極表面にてメッキがエッチングと共存しつつ進行する。何れのメッキ処理においても複数回に分けて行うことが好ましい。これは、メッキ時間が長くなると、メッキが進行する電極近傍の状態がメッキ条件からエッチング条件に変化するので、析出した金属がエッチングされることを防止するためである。このような理由から、電極表面はフラットになり、メッキされる表面の曲率半径が大きくなるようにメッキが進行するため、庇構造が形成される。
【0036】
ヨウ素無電解メッキ法や分子定規無電解メッキ法では無電解メッキ液にサンプルを浸漬する。ヨウ素無電解メッキ法の無電解メッキ液は、金属イオンを含む電解液に還元剤が混入されて作製される。一方、分子定規無電解メッキ法の無電解メッキ液は、金属イオンを含む電解液に還元剤及び界面活性剤が混入されて作製される。無電解メッキ液にサンプルを浸すと、金属イオンが還元剤と金属表面の自己触媒反応により還元され、金属が金属層の表面に析出して金属層12Cと金属層12Dとなり、種電極層12E,12Fのギャップが狭くなる。無電解メッキ液に含まれる界面活性剤は、その析出により形成される金属層12C,12Dに化学吸着する。界面活性剤は電極間のギャップの長さをナノメートルサイズに制御する。電解液中の金属イオンが還元剤により還元されて金属が析出するため、このような手法は無電解メッキ法に分類される。種電極層12E、12F上に金属層12C、12Dがメッキにより形成され、電極12A,12Bの対が得られる。なお、分子定規無電解金メッキのメッキ温度は界面活性剤の種類により異なる。例えば、モノアルキルトリメチルアンモニウムブロマイドC
nH
2n+1N
+(CH
3)
3Br
-の場合、n=12,14,16,18の最適メッキ温度は、それぞれ60℃,65℃,73℃,78℃となる。電極12A,12B表面に保護基である界面活性剤分子を分子定規として用いた無電解メッキ法を用いることにより、界面活性剤の分子がギャップ長を制御し、ナノギャップ電極を再現性良くかつ精度よく形成することができる。その後、UV洗浄及び/又はO
2プラズマアッシングを行うことで、電極12A,12Bの表面に付着した分子を灰化処理し、その後カーボンを取り除く。
【0037】
その後、デバイスを構成するためには、
図2に一点破線で示すように、金属ナノ粒子や機能性分子18をナノギャップ間に導入し、CAT−CVD(Catalytic Chemical Vapor Deposition,触媒化学気相成長)法や光CVD法などを用いて、第2の絶縁層13を形成する。以上のプロセスを経ることにより、
図2に示すデバイスが得られる。
【実施例】
【0038】
図6は実施例で作製したサンプルを模式的に示し、(A)が断面図、(B)が平面図である。なお、
図6では電極構造を観察するためにサンプルを加工した後の状態も併せて示している。ヨウ素無電解メッキ法及び分子定規無電解メッキ法を用いて、
図6に示すサンプルを以下の要領で作製した。
【0039】
最初に、シリコン基板11A上にシリコン酸化膜11Bを全面に設けた基板11を用意し、その基板11上にレジストを塗布し、EBリソグラフィー技術によりギャップ長25nmとなる密着層14A,14Bのパターンを描画した。その際、サイドゲートが形成される領域の内側に密着層14C,14Dのパターンを描画した。現像後、EB蒸着により密着層14A,14B,14C,14Dとして2nmのTi層を形成し、密着層14A,14B,14C,14D上にAuを10nm蒸着して、種電極層を作製した。
【0040】
ヨウ素無電解メッキ液を次のように準備した。金箔1枚(36mg)を、1.5 ml(ミリリットル)のヨードチンキに超音波洗浄器を用いて[AuI
4]
-イオンとして金を溶かす。L(+)−アスコルビン酸を0.6g加え、85℃で湯煎し、[AuI
2]
-イオンに還元する。上澄み液を別容器に取り出し、L(+)−アスコルビン酸を0.3g加え、85℃で湯煎し、メッキ原液とする。
メッキは次のように行う。8mlの超純水を測り取り、8μl(マイクロリットル)のメッキ原液を加え、サンプルを所望の時間、室温下でメッキ液に浸漬させる。メッキ原液に対する超純水の希釈割合は1対1000となる。このサンプルを取り出し、超純水でのリンス、アセトンボイル、エタノールボイルを行い、窒素ガンでサンプルをブローする。このメッキプロセスを2回繰り返すにより、ヨウ素無電解メッキ法を用いて、種電極層にメッキを施す。
【0041】
次に、別の無電解メッキ液を用意した。分子定規として、アルキル鎖の両端にトリメチルアンモニウム基を有する臭化ヘキサメトニウムビス(トリメチルアンモニウムブロマイド)C
6H
12[N
+(CH
3)
3Br
-]
2水溶液(25mM)を28ml用意する。これに、50mMの塩化金酸HAuCl
4溶液を120μl加える。これに酢酸(99.9%)を1ml又は2ml加える。還元剤となるL(+)−アスコルビン酸(Ascorbic acid)(0.1M)を3.6ml加え、よく撹拌してメッキ液とした。室温下でこのメッキ液にサンプルを25分浸すことを2回行うことにより、金属12C、12D、12X、12Yを作製した。なお、メッキ温度は25℃とした。
【0042】
以上のプロセスにより、ヨウ素無電解メッキ法と分子定規無電解メッキ法とを用いてナノギャップ電極を作製した。
【0043】
その後、酸素プラズマアッシングを行って、分子定規として用いた界面活性剤のアルキル鎖を有する分子の一部を除去した。
【0044】
図7は、実施例で作製したナノギャップ電極のSEM像の図である。この像から、第1電極と第2電極との間のギャップ長が1.98nmであることが分かった。このことは、第1電極と第2電極との間に電圧を掃引しても0.1pAのオーダー以下であることから裏付けされる。上方から観察したSEM像から、近接部は平面視で湾曲した形状を有しており、具体的には、幅方向の中間面に対して手前方向と奥行き方向に略対称であり、しかも平面視で第1電極及び第2電極の各先端部が略半円弧状の輪郭を有することが分かった。第1電極と第2電極との間に形成されるギャップの最短部分は、本体部の幅よりも極めて狭いことも分かった。
【0045】
次に、実施例で作製したナノギャップ電極の断面を観察するために、サンプルを次のように加工した。
図6に示すように、ナノギャップ電極上に絶縁層13としてSiNを50nm堆積させた。SiNの堆積には、真空チャンバー内にサンプルを設置し、シランガス、アンモニアガス及び水素ガスを導入して触媒CVD法により処理した。その後、ナノギャップの部分を覆うように、保護層21,22として、順に白金を5〜10nm、タングステンWを1〜2μm蒸着した。
【0046】
その後、集束イオンビーム(FIB)によりサンプルを加工した。その際、FIBカラムとSEMカラムとを同一のチャンバー内でサンプルに対して一定の角度を持たせて配置した複合イオンビーム装置を用いた。この装置を用いて、FIBにより平面視で第1及び第2電極手前に大きな溝を作製し、各電極の側面から徐々に削った。
【0047】
図8は、サンプル加工後のナノギャップ電極のSEM像とSTEM像を示す図である。
図8から、ナノギャップ電極の断面部分におけるギャップの近接部は、酸化膜の上面よりも上方に離れた位置に在り、近接部は、断面のほぼ中心に位置している。つまり、
図7の平面視のSEM像と
図8の各像とを総合的に考察すると、Si基板11Aの絶縁層11B上に、それぞれナノギャップ電極12Aが形成されていること、さらに、ナノギャップ電極の先端部は、絶縁層11Bには接しておらず、近接部を上下に分けると上部及び下部の断面の各曲率の中心はそれぞれの本体部内にあるように、近接部が湾曲していること、が分かった。
【0048】
図7による平面視のSEM像と
図8の断面SEM像、STEM像の結果から、ナノギャップ電極の近接部の各断面積は、ナノギャップ電極の幅と高さに対して小さいことが分かった。ナノギャップ電極の近接部の断面積の寸法は、無電解メッキの条件を調整することで調節することができる。よって、ナノギャップ電極の近接部の寸法の調整が、ナノギャップの先端部及びその近傍に導入する機能やナノギャップに配置するナノ粒子の数の制御を可能にし、特に複数のナノ粒子を導入できる寸法とすることで、デバイスによる電気特性のばらつきを抑えることになる。
【0049】
図9は、サンプル加工後のナノギャップ電極のSTEM像及びその拡大像の図である。なお、像の下側に像のイメージ図を示している。この像からも上述のことが裏付けられる。
図10(A)(B)及び(C)は、サンプルのEELS(Electron. Energy-Loss Spectroscopy)スペクトラムイメージ、窒素(N)のピークカウント数のイメージ図、シリコン(Si)のピークカウント数を示すイメージ図である。EELSによる元素分析により、濃淡のデータが白色になっている部分がその元素の密度が高いことを表している。
【0050】
図10のEELS分析結果から、ギャップの上部にはSiNが堆積していることが分かる。一方、ギャップの下部にはSiのピークしか観察されておらず、窒化されていない状態で存在していることが分かった。
【0051】
これらの結果から、CAT-CVDによりパッシベーション膜としてSiNを堆積させた際には、SiNはナノギャップ電極の近接部と基板面との間の領域には堆積しておらず、空間が存在していることが初めて分かった。
【0052】
以上の実施例では、電極対がナノギャップ電極の場合を説明したが、無電解メッキの時間を調整することにより、ギャップをμm〜数nmオーダーで形成することは、本発明の技術の分野における通常の知識を有する者であれば当然に成し得る。
【0053】
従って、テラヘルツ光伝導体アンテナとして、μmオーダーのギャップを有する電極対を無電解メッキ法により作製することにより、アンテナを構成する電極対は、基板面から離れて庇のような近接部を有する。よって、フェムト秒レーザなどにより励起する際に、GaAs基板表面近傍に電界が印加されやすくなり、THz電磁波の発生効率を高めたり、逆に、検出器として構成することで検出効率を高めたりすることができる。
【0054】
(比較例)
比較例として次のようなサンプルを作製した。
最初に、実施例と同様に、シリコン基板11A上にシリコン酸化膜11Bを全面に設けた基板11を用意し、密着層14A,14B,14C,14Dとして2nmのTi層を形成し、密着層14A,14B,14C,14D上にAuを10nm蒸着して、種電極層を作製した。
【0055】
次に、ヨードチンキ溶液に金箔を溶かす際に、実施例よりも濃度が10倍高くなるよう、メッキ原液に対する純水の割合を1対100として、還元剤としてL(+)-アスコルビン酸を加え、[AuI
2]
-イオンに還元してメッキ液とした。室温下でメッキ液にサンプルを浸すことを2回繰り返すにより、ヨウ素無電解メッキ法を用いて、種電極層にメッキを施した。
【0056】
次に、別の無電解メッキ液を用意した。実施例とは異なり、塩化金酸水溶液HAuCl
4の濃度が約10倍となるようにした。室温下でこのメッキ液にサンプルを25分浸すことを2回行うことにより、金属12C、12D、12X、12Yを作製した。
【0057】
以上のプロセスにより、ヨウ素無電解メッキ法と分子定規無電解メッキ法とを用いてナノギャップ電極を作製した。
【0058】
図11は、比較例で作製したサンプルのSEM像である。比較例では、メッキ液の濃度が高いため、表面の凹凸が大きいことが分かる。よって、メッキ液の濃度が所定の範囲内であることが必要なことが分かった。
【0059】
また、ヨウ素メッキの際のメッキ原液の希釈の割合と、分子定規無電解の塩化金酸の濃度を変化させたところ、次のことが好ましいことが分かった。
ヨウ素メッキの際のメッキ原液の希釈の割合は、500倍〜2000倍が好ましい。
分子定規無電解の塩化金酸の濃度は、0.1mM〜0.5mMが好ましい。