(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6283977
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】サンゴ礁再生方法
(51)【国際特許分類】
A01K 61/00 20170101AFI20180215BHJP
【FI】
A01K61/00 301
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-89514(P2013-89514)
(22)【出願日】2013年4月22日
(65)【公開番号】特開2014-212702(P2014-212702A)
(43)【公開日】2014年11月17日
【審査請求日】2015年12月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001373
【氏名又は名称】鹿島建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】山木 克則
【審査官】
大熊 靖夫
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−075420(JP,A)
【文献】
特開2007−135511(JP,A)
【文献】
特開2012−213349(JP,A)
【文献】
特開2010−011822(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2012/0096570(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 61/00−63/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生存するサンゴ断片が重なり合って集合したサンゴ断片集合群を、
生分解性素材で略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆する工程を少なくとも含むサンゴ礁再生方法。
【請求項2】
前記各サンゴ断片は、他のサンゴ断片又は死サンゴ礫と接触した状態で集合している請求項1記載のサンゴ礁再生方法。
【請求項3】
略格子状又は網状に形成されることによって前記被覆部材に形成された孔であり、該被覆部材の実体部分である脚部に周囲を囲まれた部分である空隙部の寸法が20〜100mmである請求項1又は2記載のサンゴ礁再生方法。
【請求項4】
前記サンゴ断片集合群が、サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底に形成された請求項1〜3のいずれか一項記載のサンゴ礁再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主に、台風などの暴波浪でサンゴ群体が破壊されることにより荒廃したサンゴ礁を再生する技術などに関する。より詳細には、複数のサンゴ断片が集合して形成されたサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆する工程を少なくとも含むサンゴ礁再生方法などに関する。
【背景技術】
【0002】
サンゴは、刺胞動物門に属する動物であり、炭酸カルシウムを主成分とする固い骨格を発達させるという特徴を有する。
【0003】
サンゴの個体は、ポリプ(polyp)と呼ばれる構造をとる。サンゴのポリプは、ほとんどが1cm以下の大きさで、岩盤などに定着・固着するとともに、海水中の二酸化炭素やカルシウム分を取り込み、炭酸カルシウムを主成分とした外骨格をつくる。
【0004】
各個体はそれぞれ他のポリプと接近した場所に定着・固着し、集まって群体を形成する。群体内で隣り合ったポリプ同士は、共通骨格を形成するとともに、共肉部という生きた組織で繋がっており、栄養のやり取りなども行う。
【0005】
サンゴ群体の中には、大規模な骨格を自ら形成し、サンゴ礁を形成するものがあり、造礁サンゴと呼ばれる。造礁サンゴの大部分は、花虫綱六放サンゴ亜綱イシサンゴ目に属する。また、ヒドロ虫綱ヒドロサンゴ目のアナサンゴモドキ、花虫綱六放サンゴ亜綱根生目のクダサンゴなども造礁サンゴである。
【0006】
サンゴ群体の形状には、典型的には、樹枝状、塊状、葉状、被覆盤状がある。サンゴ群体の形状は、多くの場合、種によって決まっており、また、生育環境に適応している。
【0007】
遠浅の海域など、比較的静穏な海域では、樹枝状のサンゴ群体が比較的多い。それらの比較的静穏な海域に生息する樹枝状のサンゴ群体には、成長は速いが波や流れの力に弱いものが多く、例えば、台風などの暴波浪などによりそのサンゴ群体は、比較的簡易に破壊される。
【0008】
一方、それらの樹枝状のサンゴ群体は、群体の生育・増殖によるだけでなく、サンゴ断片による群体の再生などによっても増殖する。例えば、樹枝状のサンゴ群体が台風などの暴波浪などにより破壊されると、それらのサンゴ断片の一部は、生存した状態のまま、元の場所又はその近隣で群体を再生する。また、その一部は波などで運ばれ、増殖に適した新たな場所に定着し、その場所で群体を再生することにより、繁殖域を拡げていく。
【0009】
なお、本発明に関連のある技術として、例えば、特許文献1にはサンゴの海上養殖方法が、特許文献2にはサンゴ礁海域型人工漁礁が、特許文献3にはサンゴ造礁用構造物が、特許文献4にはサンゴ育成用構造物が、特許文献5にはサンゴ増殖・移植用マットが、それぞれ開示されている。
【特許文献1】特開2005−160316号公報
【特許文献2】特開2004−129640号公報
【特許文献3】特開2007−267699号公報
【特許文献4】特開2012−223128号公報
【特許文献5】特開2011−125247号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
近年の台風などの暴波浪の大型化により、樹枝状サンゴのサンゴ断片が大量に発生することが増えている。また、航路浚渫、港湾埋め立てなど、サンゴ礁域における工事などでは、サンゴ礁の保全などのため、その場所で生育していたサンゴ群体を他の場所へ移動・移設することが増えているが、その作業の際などにも、サンゴ断片が大量に発生する。
【0011】
一方、近年、陸域からの土砂流出、生活排水などによる水質悪化と富栄養化、港湾での浚渫事業などにより、暴波浪などにより破壊されたサンゴ群体が充分に再生せず、サンゴ礁が荒廃することが多くなっている。また、地球温暖化の影響などにより、近年、サンゴの死滅とサンゴ礁の破壊が地球レベルで急速に進んでおり、サンゴ礁を簡易かつ有効に再生する技術が必要とされている。
【0012】
そこで、本発明は、台風などの暴波浪やサンゴ礁域における工事などにより発生したサンゴ断片を有効活用するとともに、簡易かつ有効にサンゴ礁を再生する手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明では、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆する工程を少なくとも含むサンゴ礁再生方法を提供する。
【0014】
例えば、台風などの暴波浪などにより樹枝状サンゴなどが折れ、サンゴ礁が荒廃した場合、そのサンゴ礁のあった場所やその近隣の海底などにそれらのサンゴ断片が多数堆積し、それらの領域にサンゴ断片集合群が形成される。略格子状又は網状に形成された略平板状の被覆部材でそのサンゴ断片集合群を被覆することにより、まず、波浪などによるサンゴ断片の流失を防止でき、サンゴ断片集合群をそれらの領域に長期間保持することが可能になる。
【0015】
また、例えば、航路浚渫、港湾埋め立てなど、サンゴ礁域における工事などにおいて、元々生育していた場所から他の場所へサンゴ群体を移動・移設する際などにサンゴ断片が大量に発生した場合に、略格子状又は網状に形成された略袋状などの被覆部材にそれらのサンゴ断片を収容する。これにより、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆した状態を人為的に作出できる。海底の特定領域にこの被覆部材を設置することにより、サンゴ断片集合群をその領域に長期間保持することが可能になる。なお、略袋状の被覆部材を用いることには、サンゴ断片の回収、移動などの作業を容易にできるという利点もある。
【0016】
その他、例えば、海底の特定領域に、多数のサンゴ断片を人為的に集合させることによりサンゴ断片集合群を形成し、そのサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆することによっても、サンゴ断片集合群をその領域に長期間保持することが可能になる。
【0017】
サンゴ断片のいくつかは、樹枝が折れた後もしばらくの間、生存している。一方、本発明では、サンゴ断片を略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆するため、被覆部材の空隙部を介して、光がサンゴ断片に到達でき、また、有機物などを含む海水も自由に流通できる。そのため、サンゴ断片は、被覆部材で被覆された後も、生存・増殖することができる。
【0018】
また、それらのサンゴ断片を被覆部材で被覆することにより、波浪などによるサンゴ断片の動揺を抑止できるため、サンゴ断片同士の癒着、及び、被覆部材へのサンゴの着生を早めることができる。これにより、サンゴ群体の再生を図ることができ、サンゴ礁を比較的早期に再生させることができる。
【0019】
その他、例えば、サンゴ断片集合群が、元々サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底に形成され、そのサンゴ断片集合体を略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆した場合には、破壊前にサンゴ群体が実際に形成されていた海底又はその近隣の海底でサンゴ礁の再生を図ることができるという有利性がある。元々サンゴが生育していた場所は、サンゴの生育に適した条件・環境を有していることが多いため、サンゴ群体が良好に生育・増殖しやすく、より短期間で確実にサンゴ礁を再生できる。
【0020】
各サンゴ断片は、他のサンゴ断片又は死サンゴ礫と接触した状態で集合していることが好ましい。例えば、各サンゴ断片が他のサンゴ断片又は死サンゴ礫と接触した状態で、その被覆部材を敷設することにより、サンゴ断片同士の癒着、及び、被覆部材へのサンゴの着生を早めることができ、サンゴ礁を比較的短期間で再生させることができる。
【0021】
例えば、サンゴ断片が形成された後、できるだけ早期にその被覆部材を海底などに敷設することにより、新しいサンゴ断片、即ち、生存するサンゴ断片の割合を高くできるため、サンゴ礁の再生効率を高めることができる。また、台風などの暴波浪などによりサンゴ礁が破壊された場合において、サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底におけるサンゴ礁の再生を図る場合、早期にそれらの領域に被覆部材を敷設することにより、再度の暴波浪の襲来などによる被害を抑制でき、より確実かつ高効率にサンゴ礁を再生できる。
【0022】
本発明に係る被覆部材は、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを採用してもよい。被覆部材は、サンゴ礁が再生するまでの間、サンゴ断片の流失を防ぎ、また、サンゴ断片の動揺を防ぐことにより、サンゴ群体の生育・増殖、及び、サンゴ礁の再生を補助する。しかし、サンゴ群体が順調に再生し始めた後は、被覆部材がサンゴ群体の生育・増殖を阻害する恐れがある。そこで、例えば、被覆部材の材料に、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを用いることにより、所定期間が経過した後、被覆部材を消失させることができるため、サンゴ群体の生育・増殖、及び、サンゴ礁の再生をさらに促進できる。また、被覆部材の材料に、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを採用することには、環境負荷を低減できるという利点もある。
【0023】
上述の通り、従来、樹枝状のサンゴ群体は、自然の営みの中で、繁殖戦略として、暴波浪などによるサンゴ断片の形成と、サンゴ断片からの群体の再生、それによるサンゴ礁の再生及び繁殖域の拡大を行ってきた。しかし、近年の環境の急激な変化に伴い、暴波浪などの後、サンゴ礁が再生しきれずに荒廃することが多くなっている。それに対し、本発明は、被覆部材を用いてサンゴ群体の再生を補助することにより、従来の自然の営みに即してサンゴ礁を再生するための技術であり、本発明により、台風などの暴波浪などによりサンゴ群体が破壊されたサンゴ礁を、簡易かつ比較的短期間で再生することができる。
【0024】
また、上述の通り、航路浚渫、港湾埋め立てなど、サンゴ礁域における工事などの際にも、サンゴ断片が大量に発生する。それに対し、本発明では、それらのサンゴ断片の有効活用が可能であり、本発明により、簡易かつ有効なサンゴ礁の再生が可能となる。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、台風などの暴波浪やサンゴ礁域における工事などにより発生したサンゴ断片を有効活用することができるとともに、簡易、有効かつ短期間にサンゴ礁を再生することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
本発明に係るサンゴ礁再生方法の例について、以下、
図1及び
図2を用いて説明する。なお、本発明は、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆する工程を少なくとも含むサンゴ礁再生方法を広く包含し、以下の実施形態のみに狭く限定されない。
【0027】
図1は本発明で用いる被覆部材の例を示す正面模式図である。
【0028】
図1の被覆部材Aは、略格子状に形成され、骨組みを形成する脚部1と、脚部1(例えば、
図1中、符号11、12、13、14)により周囲を囲まれた空隙部2とを備える。
【0029】
被覆部材Aの形状は、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を被覆でき、かつ、空隙部2が形成され、空隙部2から光がサンゴ断片に到達でき、有機物などを含む海水も自由に流通できるものであればよく、
図1のような略格子状のものに狭く限定されない。例えば、略格子状又は網状に形成されたものを好適に用いることができる。また、被覆部材Aの全体形状についても、例えば、略平板状、略袋状などのように、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を平面的に又は立体的に被覆できるもの全てを包含し、特に限定されない。
【0030】
被覆部材Aの材質については、特に限定されないが、被覆部材Aは、生分解性素材又は鉄材で形成されていることが好適である。上記の通り、被覆部材Aの材料に、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを用いることにより、所定期間が経過した後、被覆部材を消失させることができるため、サンゴ群体の生育・増殖、及び、サンゴ礁の再生をさらに促進できる。また、被覆部材の材料に、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを採用することには、環境負荷を低減できるという利点もある。
【0031】
生分解性素材の例として、例えば、ポリブチレンサクシネート系樹脂(例えば、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリブチレンサクシネート/テレフタレートなど)、ポリ乳酸、ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリビニルアルコール、デンプン、酢酸セルロースなどが挙げられる。また、目的・用途などに応じて、これらのいずれか複数の混合物、又は、これらを主成分とし、他の成分も含有させたものなどを、適宜、採用してもよい。
【0032】
被覆部材Aの大きさは、目的・用途に応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。例えば、縦・横とも0.2〜10.0mの範囲のものを用いてもよい。また、例えば、複数枚の被覆部材Aを繋ぎ合わせて用いてもよい。
【0033】
被覆部材Aには、サンゴの着生基盤となるもの、例えば、被覆部材Aの表面(即ち、脚部1の表面)が粗面形成されたものを用いてもよい。表面が粗面形成された部材を用いることにより、表面のざらつき(細かい凹凸)がサンゴの固着・定着を容易にする。そのため、サンゴ断片に生存する個体由来のサンゴが、被覆部材Aに固着・定着し、成長するため、サンゴ群体の再生を促進できる。なお、金型成型などの際に成型品の表面を粗面形成する技術は、公知の方法、例えば、シボ加工などにより、表面を滑面形成する場合よりも、簡易かつ安価に行うことができる。
【0034】
脚部1は、被覆部材Aの実体部分であり、例えば、略格子状の被覆部材の場合の骨組みの部分、網状の被覆部材の場合の線材の部分である。
【0035】
脚部1の幅、厚さ、断面形状などは、目的・用途・被覆部材Aの材質などに応じて、適宜設定すればよく、特に限定されない。上述の通り、本発明では、被覆部材Aの材料に、生分解性素材又は鉄材で形成されたものを用いて、所定期間が経過した後、被覆部材が消失することがより好適である。脚部の幅・厚さなどが小さすぎると、強度が小さくなり、目的とする期間の経過前に物理的外力によって破断される可能性があり、また、目的とする期間の経過前に消失してしまう可能性がある。一方、脚部の幅・厚さなどが大きすぎると、目的とする期間が経過した後も、被覆部材Aが充分に消失しない可能性がある。本発明では、被覆部材Aを海底に敷設した後、好適には2〜8年、より好適には3〜7年、最も好適には4〜6年で被覆部材Aが消失することが好ましく、環境条件及び被覆部材Aの消失までの期間を考慮し、脚部1の幅、厚さ、断面形状などを設定する。被覆部材Aの材質などにもよるが、例えば、幅1.0〜10.0mm、厚さ0.1〜5.0mmのものを採用してもよい。
【0036】
本発明では、被覆部材Aを形成する複数の脚部1の接合部位である節部15の表面に凹部を設けてもよい。節部15に凹部を形成することにより、該部位にサンゴが固着・定着しやすくなるため、サンゴ断片に生存する個体由来のサンゴの被覆部材Aへの固着・定着を容易にすることができ、サンゴ群体の再生を促進できる。
【0037】
空隙部2は、脚部1(例えば、
図1中、符号11、12、13、14)に周囲を囲まれた部分であり、被覆部材Aに多数形成された孔である。空隙部2を介して、被覆部材Aの表側と裏側が連結されているため、光がサンゴ断片に到達でき、また、有機物などを含む海水も自由に流通できる。
【0038】
空隙部2の形状は、特に限定されず、例えば、四角形、多角形、略円形などに形成されたものを適宜採用できる。
【0039】
空隙部2の寸法dは、目的・用途などに応じて適宜設定でき、特に限定されない。空隙部2の寸法dが小さいと、被覆されたサンゴ断片に光や有機物などを含む海水が到達しにくくなり、サンゴ断片で生存するサンゴの生育を妨げる。一方、空隙部2の寸法dが大きすぎると、サンゴ断片が海流などによって流失するおそれがある。従って、空隙部2の寸法dは、サンゴ断片の長さよりも少し小さめの長さに設定することが好ましい。具体的には、被覆部材Aに形成された空隙部2の寸法dが20〜100mmであることが最も好適である。なお、本発明において、空隙部2の寸法dは、空隙部2の形状が四角形の場合は最も長い一辺の長さ、略円形の場合は直径又は長径、その他の多角形状の場合は最も長い対角線の長さである。
【0040】
図2は、本発明に係るサンゴ礁再生方法の例を示す模式図である。
【0041】
図2では、海底Bにおいて、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群Rを、略格子状又は網状に形成された略平板状の被覆部材Aで被覆している。なお、
図2中、符号Wは海水を、符号W1は海水面をそれぞれ表わす。
【0042】
サンゴ断片集合群Rは、海底Bにおいてサンゴ礁が再生する可能性のある領域に、多数のサンゴ断片3が集合している状態をいう。多数のサンゴ断片が重なり合って集合していればよく、集合群Rが形成された領域とそれ以外の領域との境界線が厳密に規定される必要はない。また、サンゴ断片集合群Rは、波浪などにより自然(非人為的)にサンゴ断片3が多数集積した場合、及び、人為的にサンゴ断片3を集合させた場合の両者を包含する。
【0043】
サンゴ断片集合群Rは、上述の通り、例えば、(1)台風などの暴波浪などにより樹枝状サンゴなどが折れ、そのサンゴ礁のあった場所やその近隣の海底などにそれらのサンゴ断片が多数堆積した場合、(2)航路浚渫、港湾埋め立てなど、サンゴ礁域における工事などにおいて、元々生育していた場所から他の場所へサンゴ群体を移動・移設する際などに大量に発生したサンゴ断片3を略袋状などの被覆部材Aに人為的に収容した場合、(3)その他、海底の特定領域に、多数のサンゴ断片を人為的に集合させた場合、などに形成される。
【0044】
海底Bにおいてサンゴ礁が再生する可能性のある領域に、多数のサンゴ断片3により形成されたサンゴ断片集合群を、略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆した状態を作出することにより、波浪などによって流失することなくサンゴ断片集合群Rをその領域に長期間保持することが可能になり、サンゴ群体の再生を図ることができ、サンゴ礁を比較的早期に再生させることができる。
【0045】
被覆部材Aの敷設方法については、特に限定されない。例えば、海底Bのサンゴ断片集合群R上に、略平板状の被覆部材Aを設置し、被覆部材Aを海底面に固定することにより、行ってもよい。また、例えば、略袋状の被覆部材Aにサンゴ断片集合群R(多数のサンゴ断片3)を収容し、その被覆部材Aを海底Bに設置・固定してもよい。固定手段は、海底U字杭などの留具を打ち込むなど、公知の方法を広く採用でき、特に限定されないが、海流などに耐え、長期間、固定された状態を維持できるように、しっかりと固定する必要がある。
【0046】
上述の通り、各サンゴ断片3は、他のサンゴ断片又は死サンゴ礫と接触した状態で集合していることが好ましい。例えば、各サンゴ断片3が他のサンゴ断片又は死サンゴ礫と接触した状態で集合している領域にその被覆部材Aを敷設することにより、サンゴ断片同士の癒着、及び、被覆部材へのサンゴの着生を早めることができ、サンゴ礁を比較的短期間で再生させることができる。
【0047】
被覆部材Aを設置する時期については、特に限定されないが、例えば、サンゴ群体の破壊などによりサンゴ断片が形成された後、できるだけ早期にその被覆部材を敷設することにより、新しいサンゴ断片、即ち、生存するサンゴ断片の割合を高くできるため、サンゴ礁の再生効率を高めることができる。また、台風などの暴波浪などによりサンゴ礁が破壊された場合において、サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底におけるサンゴ礁の再生を図る場合、早期にそれらの領域に被覆部材を敷設することにより、再度の暴波浪の襲来などによる被害を抑制でき、より確実かつ高効率にサンゴ礁を再生できる。
【0048】
被覆部材Aの設置場所についても、海底Bにおいて多数のサンゴ断片3によりサンゴ断片集合群Rが形成されている領域であれば適用可能であり、特に限定されない。なお、例えば、サンゴ断片集合群Rが、サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底に形成され、そのサンゴ断片集合体Rを略格子状又は網状に形成された被覆部材Aで被覆する場合、元々サンゴが生育していた場所は、サンゴの生育に適した条件・環境を有していることが多いため、サンゴ群体が良好に生育・増殖しやすく、より短期間で確実にサンゴ礁を再生できる。
【0049】
例えば、元々サンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底に形成されたサンゴ断片集合群Rに被覆部材Aを設置した場合、約1〜3カ月でサンゴ断片3同士、又は、サンゴ断片3と被覆部材Aとが癒着し始め、6カ月目以降には、被覆部材Aと癒着したサンゴが被覆部材Aの下面から上面に向けて伸長する。そして、約3〜5年後、サンゴ群体が再生して元のサンゴ礁の状態に近づき、サンゴ礁を住処とする魚類・底生生物などが集まり始め、生物多様性が回復してくる。また、被覆部材Aに生分解性素材又は鉄材を採用した場合には、サンゴ礁の再生と併せ、被覆部材Aが消失していく。
【0050】
本発明は、サンゴ礁を再生するための方法であり、サンゴ群体の形状には特に限定されない。即ち、サンゴ礁の再生に有効である限り、例えば、樹枝状、塊状、葉状、被覆盤状のいずれのサンゴ群体にも適用可能である。但し、サンゴ群体のうち、樹枝状のサンゴ群体は、外力などによりサンゴ断片が形成されやすいため、本発明の有効性が最も高い。
【0051】
樹枝状のサンゴ群体を形成するサンゴとして、例えば、ハナヤサイサンゴ科(ハナヤサイサンゴ属、トゲサンゴ属、ショウガサンゴ属、パラオサンゴ属)、ミドリイシ科(ミドリイシ属、トゲミドリイシ属、コモンサンゴ属)、ハマサンゴ科(ハマサンゴ属、アワサンゴ属)、ヒラフキサンゴ科(センベイサンゴ属)、ビワガライシ科(アザミサンゴ属、エダアザミサンゴ属)、オオトゲサンゴ科(タバサンゴ属)、サザナミサンゴ科(イボサンゴ属)、キクメイシ科(タバネサンゴ属)、アナサンゴモドキ科(アナサンゴモドキ属)のものなどが挙げられる。
【実施例1】
【0052】
実施例1では、多数のサンゴ断片が集合した領域に略格子状の被覆部材を敷設し、サンゴ礁が再生するか、実証実験を行った。
【0053】
沖縄県の、台風襲来前には樹枝状サンゴ(ミドリイシ)によるサンゴ礁が形成されていた海域(水深-3m)において、2011年11月の台風襲来の翌日に海底の状況を観察した結果、ミドリイシのサンゴ断片が海底に多数散乱し、堆積していた。堆積したサンゴ断片の中には、生存したサンゴ断片が散在していた。
【0054】
この海底のサンゴ断片が散乱した領域(計4カ所)に、350×350mm角で略平板状の生分解性略格子状部材(開口サイズ:20×20mm、縦線の幅2mm、横線の幅3mm、厚さ1mm)を敷設し、U字型鉄筋を用いて海底面に固定し、3ヶ月間、その領域のサンゴ断片の目視観察によるモニタリングを行った。比較実験として、実験開始時にサンゴ断片が同程度に散乱していた他の領域(計4カ所)について、生分解性網状部材を敷設せずに、同様にモニタリングを行った。
【0055】
その結果、生分解性略格子状部材を敷設した領域では、実験開始から1カ月後に、サンゴ断片と同部材が接触している部位(同部材の裏面)において、サンゴ断片の一部の同部材への活着がみられた。また、実験開始から3カ月後には、新しいサンゴ組織が同部材の裏面から表面に向けて成長していることが確認された。それに対し、生分解性網状部材を敷設していない領域では、実験開始から1カ月後において、既に、実験当初観察されたサンゴ断片は確認できず、死サンゴ礫のみが散在した状態となった。
【0056】
この結果は、多数のサンゴ断片により形成されたサンゴ断片集合群を略格子状又は網状に形成された被覆部材で被覆することにより、波浪などによるサンゴ断片の流失を防止でき、サンゴ断片集合群をそれらの領域に長期間保持できること、それにより、サンゴ断片同士又はサンゴ断片と死サンゴ礫を接触させた状態を保持できること、さらには、それにより、サンゴ礁を、簡易、有効かつ比較的短期間で再生することができることを示唆する。
【産業上の利用可能性】
【0057】
サンゴ礁の荒廃は、魚類・底生生物など、サンゴ礁にすむ多くの生物の生態系に影響を与えている。また、サンゴ礁の美しい外観は、観光産業にも大きく寄与しており、観光産業への影響からも、サンゴ礁の再生が望まれている。一方、上述の通り、近年の台風などの暴波浪の大型化などに伴い、サンゴ群体が破壊され、サンゴ断片が大量に発生し、充分に再生せず、サンゴ礁が荒廃することが多くなっている。また、航路浚渫、港湾埋め立てなど、サンゴ礁域における工事などでは、サンゴ礁の保全などのため、その場所で生育していたサンゴ群体を他の場所へ移動・移設することが増えているが、その作業の際などにも、サンゴ断片が大量に発生する。
【0058】
それに対し、本発明は、台風などの暴波浪やサンゴ礁域における工事などにより発生したサンゴ断片を有効活用できるとともに、簡易かつ有効にサンゴ礁を再生することができ、産業上有用である。
【0059】
加えて、日本を含む各国の法制度においては、サンゴの移動・採取が厳しく規制されており、台風などの暴波浪により形成されたサンゴ断片であっても自由に採取できない。そのため、サンゴ断片を採取・移動せずに、台風などの暴波浪で荒廃したサンゴ礁を短期間で再生する技術が必要とされている。
【0060】
それに対し、本発明は、例えば、台風などによる破壊前にサンゴ群体が形成されていた海底又はその近隣の海底において、サンゴ断片を採取・移動せずにサンゴ礁の再生を図ることもできる技術であり、産業上有用である。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明で用いる被覆部材Aの例を示す正面模式図。
【
図2】本発明に係るサンゴ礁再生方法の例を示す模式図。
【符号の説明】
【0062】
1 脚部
2 空隙部
A 被覆部材
B 海底
R サンゴ断片集合群
W 海水域
W1 海水面