【実施例】
【0018】
アイドリングストップ車用の液式鉛蓄電池を、硫酸バリウムの一次粒子の粒径分布と含有量とを変化させながら、他は同様にして作製した。なお硫酸バリウムは、調製条件を変えることにより、平均一次粒子径の分布を変化させた。負極格子と正極格子とに、共にPb-Ca-Sn系合金のエキスパンド格子を用いた。負極活物質には、ボールミル法による鉛粉に、リグニンとカーボンブラックと合成樹脂繊維と、種々の粒子径分布の硫酸バリウムとを加えて、硫酸によりペースト化したものを用いた。負極活物質を負極格子に充填し、乾燥と熟成とを施し、未化成の負極板とした。またボールミル法による鉛粉に合成樹脂繊維を混合し、硫酸によりペースト化して正極活物質とし、正極格子に充填し、乾燥と熟成とを施し、未化成の正極板とした。未化成の負極板と正極板との間にセパレータを挟みこみ、これらを電槽に収容し、硫酸を加えて、電槽化成を施し、55D23型の液式鉛蓄電池とした。
【0019】
鉛蓄電池に対し、回生受入性の初期値を測定した後、SBA S 0101に規定されるアイドリングストップ寿命試験を行い、寿命に達した時点で、回生受入性を再度測定した。測定条件は以下の通りである。
・ 回生受入性の初期値:25℃雰囲気中で、5時間率電流で0.5h放電した後、16h休止し、次いで14.4Vで最大電流100Aで5秒間充電し、5秒間の充電量を測定した。
・ アイドリングストップ寿命試験:25℃の雰囲気中で、45A×59秒間の放電と、300A×1秒間の放電と、14.0V×60秒間の充電から成るサイクルを3600サイクル繰り返す毎に、48h休止した。前記サイクル3600サイクルと休止とを繰り返し、放電電圧が7.2V未満となった時点を寿命とした。
・ 寿命試験後の回生受入性:寿命に達した鉛蓄電池に、5時間率電流で5hの回復充電を行い、電解液の比重と液面とを寿命試験前と同じになるように調整し、回生受入性の初期値と同様にして、回生受入性を測定した。なお硫酸バリウムは極板内で一次粒子が凝集した二次粒子としても存在しており、寿命試験の過程で、硫酸バリウムの平均二次粒子径が減少することを確認した。
【0020】
硫酸バリウムの粒子径分布は、以下のようにして測定する。化成後の鉛蓄電池を解体し、負極板を水洗及び乾燥し、負極活物質を採取する。負極活物質100g当たり、20mLの過酸化水素水(過酸化水素濃度は300g/L)を加え、60%の濃硝酸をその3倍の体積のイオン交換水で希釈した(1+3)硝酸1Lを加え、5h撹拌下に加熱して、Pbを硝酸鉛として溶解させる。次いで、カーボンブラック等の添加物をろ過あるいは遠心分離等により分離する。その後、多量の熱水による洗浄とろ過とを繰り返すことにより、硝酸鉛を除去し、硫酸バリウムを分離する。
【0021】
負極板から採取した硫酸バリウムに対し、レーザー回折式粒度分布測定装置(例えば島津製作所製「SALD-2000J」)により、一次粒子径の分布を測定し、第1および第2の粒子群の平均一次粒子径を計算する。SALD-2000Jの場合、サンプラ撹拌槽に250mLのイオン交換水を入れ、硫酸バリウム試料50mgを投入し、ポンプ速度を最大にして、超音波振動を加えることで一次粒子の凝集を抑制した状態で、撹拌開始から7分後の一次粒子径の分布を測定する。なお7分後には、粒子径の分布は安定しており、分布は体積頻度を基準として表す。SALD-2000Jのように、粒子径分布の測定間隔が、測定粒子径範囲を対数スケールで分割した間隔である場合、第1および第2の粒子群の平均一次粒子径は、次式で示される対数スケール上のそれぞれの平均値μを用いて、10
μでそれぞれ表される。測定した粒子径の単位と、10
μで表される平均一次粒子径は、単位が同じで、測定した粒子径がμm単位ならば、10
μで表される平均一次粒子径もμm単位となる。
【0022】
【数1】
【0023】
また、粒子径分布の測定間隔が、測定粒子径範囲を実数スケールで分割した間隔である場合、第1および第2の粒子群の平均一次粒子径は、前式と同様のパラメータを用いて、それぞれ次式のμで表される。
【0024】
【数2】
【0025】
なお、実施例ではSALD-2000Jにより測定をおこない、数1の計算式に基づき、第1および第2の粒子群の平均一次粒子径を計算した。測定粒子径範囲の下限は例えば0.05μm以下、上限は例えば100μm以上とし、測定粒子径範囲の分割数nは例えば40以上で、対数スケール上において等分割した測定間隔で測定を実施した。
【0026】
試料A26(
図8)のように、第1の粒子群と第2の粒子群の一次粒子径の分布範囲が重なる場合があるが、この場合は、1.4μmを境として、1.4μm未満の粒子群を第1の粒子群、1.4μm以上の粒子群を第2の粒子群とする。この場合も、第1の粒子群と第2の粒子群が請求の範囲を満たしていれば、本発明の効果が損なわれることはない。
【0027】
表1〜表7に、硫酸バリウムの一次粒子径分布の影響を示し、
図1〜
図17に一次粒子径の分布を示す。特性は比較例の試料A1等との相対値で示す。添加量は、負極活物質中の鉛を金属鉛に換算した際の、金属鉛100mass%に対する、硫酸バリウムの含有量をmass%単位で示す。
【0028】
表1は第1の粒子群と第2の粒子群とを共存させる意義を示し、これらを特定の割合で共存させることにより、回生受入性の初期値と寿命試験後の回生受入性とを改善できることが分かる。このことは、蓄電池の寿命初期から末期にかけて、良好な回生受入性が維持されていることを示している。平均一次粒子径が大きな第2の粒子群を添加すると、寿命性能が低下することが予想されるが、第2の粒子群が70mass%(第1の粒子群が30mass%)までは、寿命性能の低下は見られない。
【0029】
これは寿命試験の過程で、第2の粒子群からなる二次粒子の平均二次粒子径が減少することにより、その作用が第1の粒子群ないしはその二次粒子群と類似するようになることと、回生受入性の向上が寿命性能にも寄与していること、とのためと推定される。また第2の粒子群が70mass%(第1の粒子群が30mass%)までは、寿命試験後の回生受入性が改善する。このことから第1の粒子群は、硫酸バリウムの全量に対し、28mass%以上72mass%以下が好ましく、特に30mass%以上70mass%以下が好ましい。
【0030】
第1の粒子群が35mass%〜50mass%の範囲では、寿命性能も改善し、回生受入性も大きく改善する。このことから第1の粒子群は、硫酸バリウムの全量に対し、33mass%以上55mass%以下が好ましく、特に35mass%以上50mass%以下が好ましい。
【0031】
【表1】
【0032】
表1の試料では、一次粒子径が10μmを越える硫酸バリウムは存在しない。表2に、一次粒子径が10μmを越える硫酸バリウムの影響を示し、硫酸バリウムの全量に対し5mass%以下で有れば影響が小さいことが分かる。
【0033】
【表2】
【0034】
表3は、第1の粒子群及び第2の粒子群の平均一次粒子径の影響を示す。これらのいずれかが所定の範囲から外れると、寿命性能が低下し、あるいは寿命時の回生受入性が低下する。
【0035】
【表3】
【0036】
表4〜表6に、硫酸バリウム添加量の影響を示す。各添加量で、基準試料(平均一次粒子径が0.3μmのものが80mass%、2μmのものが20mass%)と比較すると、添加量によらず効果が得られた。ただし、硫酸バリウム添加量が少なすぎるとそもそもの寿命改善効果が得られず、添加量が多すぎると相対的に金属鉛の含有率が低下して却って寿命性能が低下することが考えられ、金属鉛100mass%に対し、0.2mass%〜3mass%、特に0.3mass%〜2mass%が好ましい。
【0037】
【表4】
【0038】
【表5】
【0039】
【表6】
【0040】
主な試料の、平均一次粒子径の分布を
図1〜
図13に示す。実施例(
図1〜
図9)では、平均一次粒子径の分布に2つのピークがあり、比較例(
図10〜
図13)ではピークは単一である。
【0041】
2種類の硫酸バリウムを例えば混合することにより、第1の粒子群の一次粒子径に分布の極大値が2つ以上あり、また第2の粒子群の一次粒子径に分布の極大値が2つ以上あるようにできる。このような試料とその特性を表7に示し、一次粒子径の分布を
図14〜
図17に示す。なお
図16,17では、0.7〜0.8μm付近に第1の粒子群の一次粒子径に小さなピークがある。第1の粒子群の一次粒子径に分布の極大値が複数あり、また第2の粒子群の一次粒子径に分布の極大値が複数有っても良いことが分かる。
【0042】
【表7】
【0043】
実施例の鉛蓄電池は回生受入性が高く、かつアイドリングストップ寿命性能も高くできるので、アイドリングストップ車や充電制御車の鉛蓄電池に適している。ただし鉛蓄電池の用途は任意である。