特許第6284019号(P6284019)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284019窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284019
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01B 21/064 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C01B21/064 M
【請求項の数】11
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2014-76760(P2014-76760)
(22)【出願日】2014年4月3日
(65)【公開番号】特開2015-196632(P2015-196632A)
(43)【公開日】2015年11月9日
【審査請求日】2017年1月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】特許業務法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森下 卓也
(72)【発明者】
【氏名】岡本 浩孝
(72)【発明者】
【氏名】松下 光正
(72)【発明者】
【氏名】片桐 好秀
(72)【発明者】
【氏名】福森 健三
【審査官】 廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−079715(JP,A)
【文献】 特表2012−512811(JP,A)
【文献】 特表2005−502792(JP,A)
【文献】 特開2008−280243(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 21/064
C04B 35/56−35/599
B01J 21/00−38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
超酸と、前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートと、を備えることを特徴とする窒化ホウ素ナノシート含有分散液。
【請求項2】
前記超酸の少なくとも一部が、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着していることを特徴とする請求項1に記載の窒化ホウ素ナノシート含有分散液。
【請求項3】
前記窒化ホウ素ナノシートが、層数が10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化ホウ素ナノシート含有分散液。
【請求項4】
窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に、前記超酸と前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートとを備える窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得ることを特徴とする窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法。
【請求項5】
前記混合が、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含むことを特徴とする請求項4に記載の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法。
【請求項6】
窒化ホウ素ナノシートと、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着している超酸と、を備えることを特徴とする窒化ホウ素ナノシート複合体。
【請求項7】
前記窒化ホウ素ナノシートが、層数が10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることを特徴とする請求項6に記載の窒化ホウ素ナノシート複合体。
【請求項8】
請求項6又は7に記載の窒化ホウ素ナノシート複合体と超酸以外の溶媒とを含有することを特徴とする窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液。
【請求項9】
窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に該窒化ホウ素ナノシートに超酸を吸着させることを特徴とする窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項10】
前記混合が、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含むことを特徴とする請求項9に記載の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法。
【請求項11】
請求項9又は10に記載の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法により得られた窒化ホウ素ナノシート複合体を用い、該窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去して窒化ホウ素ナノシート薄層体を得ることを特徴とする窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノ構造体は、熱伝導性、電気伝導性、機械的特性に優れ、貯蔵安定性等も優れることから注目され、例えば、電子デバイス材料、顕微鏡探針、電界放出ディスプレイ用エミッタ、リチウム二次電池負極、電界効果トランジスタ、ドラッグデリバリーシステム用材料、樹脂やセラミックスとの複合材料、分子貯蔵材料等への用途展開に向けた開発が進められている。このようなカーボンナノ構造体は、溶媒、樹脂、金属及びセラミックス中での分散性が極めて悪いため、分散性の改善が俟たれていた。近年、グラファイトを剥離することにより得られる1層や数層からなるグラフェンの特性が注目されており、各種用途への応用展開に向け、世界中で研究が盛んに行われている。
【0003】
一方、六方晶系の窒化ホウ素は、グラファイトと類似な構造を有する層状物質であり、高熱伝導性、高絶縁性、高耐熱性、高摺動性、低熱線膨張率、高耐酸化性、高化学安定性、遠紫外線発光特性等の特性に優れており、例えば、樹脂と複合化することにより、樹脂に様々な機能を付与できることが知られている。特に、窒化ホウ素ナノシートは、窒化ホウ素と比較して極めて大きな比表面積を有し、かつ二次元平面構造を有することから、樹脂と複合化することにより、樹脂複合材の更なる機能性向上や、樹脂への少量添加による機能性付与が期待されている。更に、窒化ホウ素ナノシートは、高い絶縁性を示すことから、高熱伝導性と絶縁性の両方の特性が要求される、自動車等の移動媒体の各種部品、電気・電子機器用各種部品等の用途への応用も期待されている。しかしながら、窒化ホウ素は、グラファイトと比較して化学的な安定性に優れ、耐酸化性も極めて高いため、窒化ホウ素の剥離において酸化処理等の化学反応の利用は困難であり、また、窒化ホウ素の層間の相互作用はグラファイトの層間のファンデルワールス力と比較して強いため、窒化ホウ素の剥離は容易ではないという問題を有していた。
【0004】
このような課題を解決するために、特開2011−79751号公報(特許文献1)には、多層の六方晶系窒化ホウ素の層が剥離された形態のシートであって、3層構造の六方晶系窒化ホウ素を含む超薄窒化ホウ素ナノシート、並びに、六方晶系窒化ホウ素粉末をジメチルホルムアルデヒド等の窒化ホウ素と比較的高い親和性を有する特定の有機溶媒に分散させた分散液を比較的強い超音波処理を施した後遠心分離処理して乾燥することを特徴とする超薄窒化ホウ素ナノシートの製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献1に開示されている超薄窒化ホウ素ナノシート及びその製造方法は、得られる窒化ホウ素ナノシートの収率が約0.1%と低いものであり、また2層以下の層数を有する窒化ホウ素ナノシートを得ることは困難であり、必ずしも十分なものではなかった。
【0005】
また、特開2012−255055号公報(特許文献2)には、マトリックスとしての樹脂中に高熱伝導性フィラーとしての窒化ホウ素粒子が剥離扁平粒子の状態で分散した構造を有する無機有機複合組成物からなる複合材料、並びに、一次粒子の積層体である窒化ホウ素粒子の二次粒子を、湿式ジェットミルを用い、液中において高圧下、高いせん断速度で層間剥離させる剥離工程を実施することにより剥離扁平粒子を得、これを高熱伝導性フィラーとしてマトリックスとしての樹脂中に分散させることにより窒化ホウ素粒子と樹脂とを複合化させる複合材料の製造方法が開示されている。しかしながら、特許文献2に開示されている無機有機複合組成物からなる複合材料及びその製造方法においても、層数が10層以下といった層数の少ない窒化ホウ素ナノシートを効率良く作製することは困難であり、必ずしも十分なものではなかった。また、前記特許文献1及び2においては、強力な超音波処理や湿式ジェットミル使用により窒化ホウ素に高せん断を付与しているため、窒化ホウ素ナノシートの六方晶のシート構造へのダメージによる窒化ホウ素ナノシートの本来の特性の低下があり、必ずしも十分なものではなかった。
【0006】
更に、窒化ホウ素ナノシートは、層間の相互作用が高いことから一旦物理的に剥離しても溶媒や樹脂の中での分散安定性が低く、再凝集しやすいという課題があり、窒化ホウ素ナノシートの各種用途への応用のためには、溶媒中での分散安定性の向上が求められるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2011−79751号公報
【特許文献2】特開2012−255055号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、溶媒中や樹脂中での分散性に優れた窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、超酸と窒化ホウ素ナノシートとを共存することにより、驚くべきことに得られる窒化ホウ素ナノシート含有分散液を窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散したものとすること、及び得られる窒化ホウ素ナノシート複合体が溶媒中や樹脂中での分散性に優れたものとすることが可能となることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は、超酸と、前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートと、を備えることを特徴とするものである。
【0011】
本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液においては、前記超酸の少なくとも一部が、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着していることが好ましい。
【0012】
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液においては、前記窒化ホウ素ナノシートが、層数が10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが好ましい。
【0013】
本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法は、窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に、前記超酸と前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートとを備える窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得ることを特徴とする方法である。
【0014】
本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法においては、前記混合が、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含むことが好ましい。
【0015】
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体は、窒化ホウ素ナノシートと、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着している超酸と、を備えることを特徴とするものである。
【0016】
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体においては、前記窒化ホウ素ナノシートが、層数が10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが好ましい。
【0017】
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と超酸以外の溶媒とを含有することを特徴とするものである。
【0018】
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法は、窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に該窒化ホウ素ナノシートに超酸を吸着させることを特徴とする方法である。
【0019】
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記混合が、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含むことが好ましい。
【0021】
本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法により得られた窒化ホウ素ナノシート複合体を用い、該窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去して窒化ホウ素ナノシート薄層体を得ることを特徴とする方法である。
【0022】
なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法によって、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液、及び、窒化ホウ素ナノシート複合体が溶媒中や樹脂中での分散性に優れたものとなる理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液において、六方晶の窒化ホウ素(h−BN)等の窒化ホウ素はグラファイトと比較して層間の相互作用が強いため剥離が極めて困難であるが、超酸として、例えば、クロロスルホン酸中やフルオロスルホン酸等の超酸を用い、このような超酸中で弱い超音波処理等の混合処理を施すと、窒化ホウ素(BN)の分散と剥離が進行する。すなわち、超音波処理等の混合処理により僅かにできた窒化ホウ素の層間のスペースに、窒化ホウ素のN原子に超酸のプロトン(H)が結合(配位結合(共有結合)及び/又は非共有結合)することにより、窒化ホウ素の層間での正電荷同士の反発や超酸アニオンと窒化ホウ素間の相互作用による超酸アニオンの吸着等により窒化ホウ素どうしの再凝集が抑制され、窒化ホウ素の剥離が十分に進行することが可能となる。また、超酸(超酸由来化合物を含む)が窒化ホウ素の表面に吸着することにより、超酸中やその他の溶媒(水や各種有機溶媒)中での分散性(分散安定性)が向上するものと本発明者らは推察する。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、溶媒中や樹脂中での分散性に優れた窒化ホウ素ナノシート複合体及びその製造方法を提供することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0025】
先ず、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は、超酸と、前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートと、を備えることを特徴とする。このような窒化ホウ素ナノシート含有分散液により、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液とすることができる。
【0026】
(窒化ホウ素ナノシート)
本発明に用いられる窒化ホウ素ナノシートは、多層構造を有する窒化ホウ素の層が剥離された形態のシートである。このような本発明に用いられる窒化ホウ素ナノシートとしては、特に制限されないが、具体的には、窒化ホウ素ナノシート、炭窒化ホウ素(B−C−N材料)ナノシート、これらシートのリボン様のものとして窒化ホウ素ナノリボンや炭窒化ホウ素ナノリボン、前記シートのスクロール様のものとして窒化ホウ素ナノスクロール、炭窒化ホウ素ナノスクロールが挙げられる。その中でも、絶縁性、耐熱性、耐酸化性等を十分に発現する観点から、窒化ホウ素ナノシートがより好ましい。
【0027】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシートの厚みとしては、特に制限されないが、20nm以下の窒化ホウ素ナノシートが含まれるものであることが好ましく、10nm以下の窒化ホウ素ナノシートが含まれるものであることがより好ましく、5nm以下の窒化ホウ素ナノシートが含まれるものであることが更に好ましく、2nm以下の窒化ホウ素ナノシートが含まれるものであることが特に好ましく、1nm以下の窒化ホウ素ナノシートが含まれるものであることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートの厚みが前記上限を超えると、本発明の窒化ホウ素ナノシートからなる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導性等の向上効果が低下する傾向にある。
【0028】
なお、本発明において、窒化ホウ素ナノシートの厚みは、透過型電子顕微鏡写真において窒化ホウ素ナノシートのエッジ部を確認できる箇所として、大きさで35nm×35nmの範囲を任意に25箇所抽出して測定を実施し、これらの測定値を平均した値である。
【0029】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートの層数としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシートの比表面積が増大し、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物の熱伝導性を向上させる観点から、50層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが好ましく、30層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがより好ましく、10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが更に好ましく、6層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが特に好ましく、2層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがとりわけ好ましく、単層の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが最も好ましい。
【0030】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、10層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、10層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合が前記下限未満になると、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。
【0031】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、6層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、6層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合が前記下限未満になると、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。
【0032】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、3層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、3層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合が前記下限未満になると本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。
【0033】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、2層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、2層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合が前記下限未満になると、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。
【0034】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、単層構造の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましく、10%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、単層構造の窒化ホウ素ナノシートの存在割合が前記下限未満になると、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。
【0035】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシートにおいて、窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さの下限としては、特に制限されないが、得られる窒化ホウ素ナノシート複合体や樹脂複合材の熱伝導率の向上の観点から、0.001μm以上であることが好ましく、0.01μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、0.5μm以上であることが特に好ましく、1μm以上であることが最も好ましい。前記窒化ホウ素ナノシートにおいて、窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さが前記下限未満になると、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体及びそれを含む樹脂組成物等の熱伝導率(熱伝導性)等の向上効果が低下する傾向にある。なお、従来技術では、例えば一辺の長さが1μm以上といった一辺の長さの大きな窒化ホウ素ナノシートの分散は、一辺の長さが1μm未満の窒化ホウ素ナノシートと比較して難しい傾向にあるが、本発明の超酸を用いた場合、一辺の長さの大きな窒化ホウ素ナノシートの分散性が大きく向上する傾向にある。
【0036】
(超酸)
本発明に用いられる超酸は、25℃でのハメットの酸度関数(H)が−12未満(すなわち、より負)の酸度関数(H)を有する酸である。ここで、ハメットの酸度関数(H)は、酸性度の指標として一般的に使用され、超酸や酸の種類と組成及び濃度に固有の値であり、温度によって変化する(LOUIS P.HAMMETTら,J.Am.Chem.Soc.,54巻、1932年、2721頁を参照)。なお、25℃での各種超酸のHについては、例えば、化学便覧基礎編(改訂5版、日本化学会編)等に詳述されている(同便覧IIの表11.47、表11.51、表11.52、表11.53等が参照される)。
【0037】
このような本発明において用いる超酸としては、酸度関数(H)の上限が、窒化ホウ素ナノシートへの吸着量及び/又は窒化ホウ素ナノシートの剥離性の観点から、−12.5未満であることが好ましく、−13未満であることがより好ましい。また、酸度関数(H)の下限が、得られる窒化ホウ素ナノシート複合体の分散性の観点から、−60以上であることが好ましく、−30以上であることがより好ましく、−25以上であることが更に好ましく、−20以上であることが特に好ましい。
【0038】
また、このような本発明において用いる超酸としては、具体的には、クロロスルホン酸(塩化スルホン酸、HSOCl)、フルオロスルホン酸(FSOH)、フッ化水素酸(HF)、トリフルオロメタンスルホン酸(CFSOH)、ペンタフルオロエタンスルホン酸(CHFS)、テトラフルオロホウ酸(HBF)、六フッ化リン酸、塩化フッ化ホウ素酸、五フッ化アンチモンとフルオロスルホン酸との混合物、五フッ化アンチモンとフッ化水素酸との混合物、六フッ化アンチモン酸、六フッ化砒素酸、カルボラン酸、フッ素置換カルボラン酸、ジフルオロメタンジスルホン酸、テトラフルオロエタンジスルホン酸、ヘキサフルオロプロパンジスルホン酸、二硫酸、トリフルオロエタントリスルホン酸、ペンタフルオロプロパントリスルホン酸、ヘプタフルオロブタントリスルホン酸、ヘキサフルオロブタンテトラスルホン酸、オクタフルオロペンタンテトラスルホン酸、デカフルオロへキサンテトラスルホン酸等及びそれらの塩や誘導体等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよく、複数種を組み合わせて用いてもよい。これらの超酸の中で、窒化ホウ素ナノシートの剥離性、得られる窒化ホウ素ナノシート複合体の溶媒中、樹脂中での分散性の観点から、クロロスルホン酸、フルオロスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、テトラフルオロホウ素酸からなる群から選択される少なくとも一種であることが好ましく、ハロゲンが直接S原子に結合したスルホン酸であるクロロスルホン酸及び/又はフルオロスルホン酸であることがより好ましく、クロロスルホン酸であることが特に好ましい。また、本発明においては、前記超酸と超酸以外の酸との混合物も用いることができる。
【0039】
(窒化ホウ素ナノシート含有分散液)
本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は、前記超酸と前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートとを備えている。
【0040】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液においては、含有する窒化ホウ素ナノシートの濃度としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシートの有する熱伝導率等の特性をより好ましく発現する観点から、0.01mg/mL以上であることが好ましく、0.1mg/mL以上であることがより好ましく、0.2mg/mL以上であることが更に好ましく、0.5mg/mL以上であることが特に好ましい。
【0041】
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液においては、前記超酸の少なくとも一部が、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着していることが好ましい。このようにすることにより、窒化ホウ素の剥離を効率的に進行させ、層数の少ない窒化ホウ素ナノシートを含有する分散液をより高濃度で得ることができる傾向にある。
【0042】
更に、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び後述の本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液においては、各種フィラーを更に添加して用いることができる。このようなフィラーとしては、特に制限されないが、例えば、アルミナ、窒化アルミ、立方晶窒化ホウ素、窒化ケイ素、炭化ケイ素、カーボンナイトライド、ダイヤモンド、酸化亜鉛、グラファイト、炭素繊維や、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノプレートレット、グラフェン、数層グラフェン、ナノグラファイト(グラフェンナノリボン等)、ナノグラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノコイル、フラーレン等のカーボン系ナノフィラーや、遷移金属ダイカルコゲナイド、13族カルコゲナイド、14族カルコゲナイド及びビスマスカルコゲナイド等のカルコゲナイド系層状物質や、層状高温超伝導化合物、雲母,滑石,カオリン等の層状ケイ酸塩、酸化チタン系及びペロブスカイト系ナノシート等の層状酸化物が好ましいものとして挙げられる。これらの中でも、例えば、グラファイト、数層グラフェン、六方晶窒化ケイ素、六方晶炭化ケイ素及びカルコゲナイド系層状物質等の層状物質と窒化ホウ素又は窒化ホウ素ナノシートとを超酸中で混合した場合、これらの物質の剥離又は分散も進行した分散液を得ることもできる。また、これら混合物の分散液から溶媒を除去し、前記層状物質の剥離により得られたナノシートと窒化ホウ素ナノシート又は窒化ホウ素ナノシート複合体を配向、配列させることで、前記層状物質の剥離により得られたナノシートと窒化ホウ素ナノシート又は窒化ホウ素ナノシート複合体からなる積層体を作製することもできる。
【0043】
なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液においては、前記分散液の色調としては、特に制限されないが、窒化ホウ素種と超酸種の組み合わせにより異なる傾向にあり、白色、淡黄色、黄色、淡橙色あるいは橙色を示す。なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び後述のろ過により窒化ホウ素ナノシート複合体を得た後のろ液が淡橙色或いは橙色に呈色する理由は明確ではないが、超酸のプロトンが窒化ホウ素ナノシート表面に結合(配位結合(共有結合)及び/又は非共有結合)した際に、超酸のカウンターアニオン(例えば、塩化スルホン酸の場合、スルホナートアニオン)と窒化ホウ素ナノシートとの間のアニオン−π相互作用や超酸と窒化ホウ素間での電荷移動相互作用が呈色に関与していることや、超酸のプロトンの窒化ホウ素ナノシートの窒素原子への結合(共有結合及び/又は非共有結合)により、超酸中の一部のアニオン種が遊離し、呈色に関与していることが原因として推察される。
【0044】
[窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法は、窒化ホウ素と超酸とを混合(混合処理)して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に、前記超酸と前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートとを備える窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得ることを特徴とする方法である。本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造法においては、超酸の存在下で窒化ホウ素に混合処理を施すことにより、窒化ホウ素の剥離が進行し、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した分散性に優れる分散液を得ることができる。なお、窒化ホウ素ナノシート及び超酸は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液で説明した窒化ホウ素ナノシート及び超酸を用いることができる。
【0045】
(窒化ホウ素)
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法においては、原料として用いられる窒化ホウ素としては、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、菱面体晶窒化ホウ素(r−BN)及び乱層構造窒化ホウ素(t−BN)等の層状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素であれば特に制限はないが、このような窒化ホウ素ナノシート含有分散液を用いて得られる窒化ホウ素ナノシート複合体等の熱伝導率、絶縁性、耐熱性の観点から、特に好ましくは六方晶窒化ホウ素を含む窒化ホウ素である。このような窒化ホウ素の形状としては、特に制限されないが、パウダー、フレーク、ビーズ等、様々なタイプの窒化ホウ素を用いることができる。また、このような窒化ホウ素としては、窒化ホウ素の類縁体として炭素原子も含む炭窒化ホウ素(B−C−N材料)やシランカップリング剤等で表面処理を施した窒化ホウ素も用いることができるが、窒化ホウ素ナノシートの有する熱伝導率、絶縁性、耐熱性、耐酸化性等を十分に発現する観点や、超酸と窒化ホウ素ナノシートとの間の共有結合の形成による欠陥の増大を抑制する観点から、BNの純度が高い窒化ホウ素であることがより好ましい。本発明の窒化ホウ素のBNの純度としては、特に制限されないが、得られる窒化ホウ素ナノシート複合体、窒化ホウ素ナノシート含有分散液、窒化ホウ素ナノシート複合体からなる樹脂組成物、窒化ホウ素ナノシート積層体の熱伝導率及び耐酸化性の向上の観点から、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることが更に好ましく、97質量%以上であることが特に好ましく、99質量%以上であることが最も好ましい。窒化ホウ素のBN純度としては、不活性ガス融解熱伝導度法を用いて求めることができる。
【0046】
原料として用いる窒化ホウ素の平均二次粒子径は、特に制限されないが、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法においては、超酸を用いることによって、通常、剥離と孤立分散が困難な平均二次粒子径の大きな窒化ホウ素も分散させることができる。原料として用いる窒化ホウ素の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましく、0.3μm以上であることが特に好ましく、0.4μm以上であることが最も好ましい。また、原料として用いられる窒化ホウ素の二次粒子を構築する窒化ホウ素一次粒子の一辺の平均サイズの下限としては、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、0.2μm以上であることが特に好ましく、0.3μm以上であることが最も好ましい。
【0047】
(混合/混合処理)
本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法においては、前記窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に、前記超酸と前記超酸に分散している窒化ホウ素ナノシートとを備える窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得る必要がある。
【0048】
このような本発明の混合処理としては、特に制限されないが、超音波処理、振動処理、攪拌処理、粉砕処理、外場の印加(例えば、電場印加、磁場印加等)、混練から選ばれる少なくとも一種の混合処理であることが好ましい。これらの混合処理の中でも、前記混合(混合処理)としては、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含む混合処理であることがより好ましい。この層間剥離処理により、窒化ホウ素の剥離を効率的に進行させ、層数の少ない窒化ホウ素ナノシートを含有する窒化ホウ素ナノシート複合体が得られる傾向にある。なお、このような混合(混合処理)としては、超音波処理であることが特に好ましい。
【0049】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液の製造方法においては、前記窒化ホウ素ナノシート含有分散液で説明したように、各種フィラーを更に添加して用いることができる。なお、このような各種フィラーの中でも、例えば、グラファイト、数層グラフェン、六方晶窒化ケイ素、六方晶炭化ケイ素、及びカルコゲナイド系層状物質等の層状物質と窒化ホウ素又は窒化ホウ素ナノシートとを超酸中で混合した場合、これらの物質の剥離又は分散が進行した分散液を得ることができる。また、これら混合物の分散液から溶媒を除去し、前記層状物質の剥離により得られたナノシートと窒化ホウ素ナノシート又は窒化ホウ素ナノシート複合体を配向、配列させることで、前記層状物質の剥離により得られたナノシートと窒化ホウ素ナノシート又は窒化ホウ素ナノシート複合体からなる積層体を作製することができる。
【0050】
[窒化ホウ素ナノシート複合体]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体は、前記窒化ホウ素ナノシートと、前記窒化ホウ素ナノシートに吸着している前記超酸とを備えることを特徴とする。
【0051】
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体において、窒化ホウ素ナノシート及び超酸は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液で説明した窒化ホウ素ナノシート及び超酸を用いることができる。なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体において用いる超酸としては、超酸由来化合物を含んでもよい。超酸由来化合物としては、例えば、超酸として塩化スルホン酸を用いた場合、窒化ホウ素ナノシートの表面や層間に吸着している塩化スルホン酸の少なくとも一部が水と反応することで生成した塩酸や硫酸を挙げることができる。窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している塩化スルホン酸が水と反応して生成した塩化水素は、沸点が低いため通常ガスとして揮発するが、塩化水素が水と混和して生じた塩酸の少なくとも一部が、硫酸や塩化スルホン酸とともに、超酸由来化合物として、窒化ホウ素ナノシート表面や層間に吸着することもある。このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体において用いる超酸中に含まれる超酸由来化合物の量としては、特に制限はないが、窒化ホウ素ナノシート複合体の超酸以外のその他の溶媒中での分散性の向上の観点から、超酸(超酸由来化合物を含む)100質量%のうち90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましく、70%質量以下であることが更に好ましく、50%質量以下であることが特に好ましい。
【0052】
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体において、前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸との吸着は、非共有結合による吸着であっても、共有結合(配位結合も含む)による吸着であっても、またこれらの組み合わせであってもよいが、前記吸着のうち、少なくとも一部以上が非共有結合による吸着であることが、窒化ホウ素ナノシート複合体の熱伝導性の向上の観点から好ましく、全てが非共有結合であることが特に好ましい。本発明においては、窒化ホウ素ナノシートに超酸を共存することにより、超酸を構成するプロトン(H)と窒化ホウ素の窒素原子とのカチオン−π相互作用(非共有結合)及び/又は超酸を構成するプロトンの窒化ホウ素の窒素原子への結合(配位結合(共有結合)及び/又は非共有結合)が生じ、超酸を構成するアニオンと窒化ホウ素の間でのアニオン−π相互作用や超酸と窒化ホウ素間での電荷移動相互作用やファンデルワールス力等の非共有結合も生じる。また、窒化ホウ素ナノシート複合体を多量の水で繰り返し洗浄すると、超酸のプロトンと窒化ホウ素ナノシートの窒素原子との間で形成した配位結合の一部又は全てが取り除かれ、超酸(超酸由来化合物を含んでもよい)や超酸を構成するアニオンと窒化ホウ素ナノシートとの間の非共有結合のみによる吸着を有する窒化ホウ素ナノシートを得ることができる。このように、超酸(超酸由来化合物を含んでもよい)が非共有結合により窒化ホウ素ナノシートに吸着した窒化ホウ素ナノシート複合体は、共有結合により吸着した窒化ホウ素ナノシート複合体と比較して窒化ホウ素ナノシート表面に欠陥が少ない若しくは欠陥がなく、窒化ホウ素ナノシートが本来有する特性を発現できるため、窒化ホウ素ナノシート複合体及びこれを含んでなる分散液、樹脂組成物の熱伝導性の向上の観点から好ましい。
【0053】
本発明において「非共有結合による吸着」とは、前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸との間に生じる共有結合以外の相互作用による吸着を意味する。このような非共有結合による吸着としては、例えば、前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸のプロトンとの間に生じるカチオン−π相互作用、前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸のアニオンとの間に生じるアニオン−π相互作用、前記超酸と前記窒化ホウ素間での電荷移動相互作用及びファンデルワールス力等の相互作用のうちの1種以上の相互作用を利用するもの等が挙げられる。このような窒化ホウ素ナノシートへの超酸の吸着は、超酸以外のその他の溶媒中に窒化ホウ素ナノシート複合体を分散させたり、前記溶媒により窒化ホウ素ナノシート複合体を洗浄ろ過した場合においても窒化ホウ素ナノシート複合体中に残存していることが好ましい。なお、非共有結合による吸着であっても洗浄等により超酸が脱離しない理由は必ずしも定かではないが、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体においては、カチオン−π相互作用、アニオン−π相互作用、電荷移動相互作用及びファンデルワールス力等の相互作用が強く働いているためと推察される。
【0054】
また、本発明において「共有結合による吸着」とは、前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸とが共有結合を介して吸着するものであれば特に制限されないが、例えば、窒化ホウ素ナノシートの平面や端部に存在する微量の残存炭素原子、窒素原子等が超酸のプロトンによりプロトネーションされた場合等を挙げることができる。また、前記窒化ホウ素ナノシートの構造中にカルボキシル基、ニトロ基、アミノ基、アルキル基、有機シリル基等の置換基、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の高分子、ポリアニリン、ポリピロール、ポリアセチレン、ポリ(パラフェニレン)、ポリチオフェン又はポリフェニレンビニレンといった導電性高分子等が化学結合により導入されたもの、窒化ホウ素ナノシートを金属ナノ粒子やカーボン系ナノフィラー等の他のナノ構造体で被覆したものも用いることができる。
【0055】
なお、このような窒化ホウ素ナノシートと超酸との吸着は、超酸に対する良溶媒中に窒化ホウ素ナノシート複合体を再分散させたり、前記良溶媒により窒化ホウ素ナノシート複合体を洗浄ろ過した場合においても窒化ホウ素ナノシート複合体中に残存していることが好ましい。
【0056】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体においては、前記超酸の吸着量は、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシート複合体の分散性及び流動性(成形加工性)の向上の観点から、窒化ホウ素ナノシート100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.3質量部以上が更に好ましく、0.4質量部以上が特に好ましく、0.5質量部以上が最も好ましい。前記超酸の吸着量が前記下限未満になると、窒化ホウ素ナノシートの分散性及び流動性(成形加工性)が低下しやすい傾向にある。また、前記超酸の吸着量は、窒化ホウ素ナノシート100質量部に対して100000質量部以下が好ましく、10000質量部以下がより好ましく、窒化ホウ素ナノシート複合体を含む樹脂組成物や樹脂複合材の剛性や吸着安定性の向上の観点から、1000質量部以下が更に好ましく、100質量部以下が特に好ましく、90質量部以下が最も好ましい。なお、窒化ホウ素ナノシートへの超酸の吸着量については、熱重量分析により超酸に由来する重量減少を求めることにより算出することができる。
【0057】
また、超酸の窒化ホウ素ナノシート表面への吸着については、前述の熱重量分析やX線光電子分光分析により確認することができる。具体的には、超酸として、クロロスルホン酸を用いた場合、X線光電子分光分析によりクロロスルホン酸のCl2pのピーク及びS2pのピークを確認でき、X線光電子分光分析による窒化ホウ素ナノシート複合体の表面の元素分析によってもCl原子とS原子の存在を確認できる。
【0058】
更に、前記窒化ホウ素ナノシート複合体に含まれる窒化ホウ素ナノシートの層数としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシート複合体の熱伝導率の向上の観点から、50層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが好ましく、30層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがより好ましく、10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが更に好ましく、6層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが特に好ましく、2層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがとりわけ好ましく、単層の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが最も好ましい。
【0059】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートにおいて、10層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートにおいて、6層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートにおいて、3層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートにおいて、2層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートにおいて、単層の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましく、10%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。
【0060】
[窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と超酸以外の溶媒とを含有することを特徴とする。なお、窒化ホウ素ナノシート、超酸及び窒化ホウ素ナノシート複合体は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及びその製造方法、窒化ホウ素ナノシート複合体で説明した窒化ホウ素ナノシート、超酸及び窒化ホウ素ナノシート複合体を用いることができる。
【0061】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液においては、含有する窒化ホウ素ナノシート複合体の濃度としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシートの有する熱伝導率等の特性をより好ましく発現する観点から、0.01mg/mL以上であることが好ましく、0.05mg/mL以上であることがより好ましく、0.1mg/mL以上であることが更に好ましく、0.2mg/mL以上であることが特に好ましい。
【0062】
また、前記窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液に含まれる窒化ホウ素ナノシートの層数としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシート含有分散液の熱伝導率の向上の観点から、50層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが好ましく、30層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがより好ましく、10層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが更に好ましく、6層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが特に好ましく、2層以下の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることがとりわけ好ましく、単層の窒化ホウ素ナノシートを含むものであることが最も好ましい。
【0063】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の窒化ホウ素ナノシートにおいて、10層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましく、80%以上であることが特に好ましく、90%以上であることが最も好ましい。また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の窒化ホウ素ナノシートにおいて、6層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、10%以上であることが好ましく、20%以上であることがより好ましく、30%以上であることが更に好ましく、40%以上であることが特に好ましく、50%以上であることが最も好ましい。更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の窒化ホウ素ナノシートにおいて、3層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の窒化ホウ素ナノシートにおいて、2層以下の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、15%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の窒化ホウ素ナノシートにおいて、単層の窒化ホウ素ナノシートの存在割合としては、特に制限されないが、4%以上であることが好ましく、5%以上であることがより好ましく、8%以上であることが更に好ましく、10%以上であることが特に好ましく、20%以上であることが最も好ましい。
【0064】
(超酸以外の溶媒)
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液においては、超酸以外の前記溶媒としては、特に制限されないが、例えば、有機溶媒及び水が挙げられ、これらは単独で用いても混合して用いてもよい。前記有機溶媒としては、例えば、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジイソブチルケトン、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸アミル、テトラヒドロフラン、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコール、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロフェノール、フェノール、テトラヒドロフラン、スルホラン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、1,5−ジメチル−2−ピロリドン、ペンタン、ヘキサン、ネオペンタン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン、デカン、ジエチルエーテル等が挙げられる。これらの有機溶媒も1種を単独で用いても2種以上を混合して用いてもよい。
【0065】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液における溶媒においては、有機溶媒として、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体やその製造時に用いた超酸、特に超酸を構成するアニオン種と親和性の高いものが好ましく、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアルデヒド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド、アセトニトリル、ヘキサフルオロイソプロパノール、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、γ−ブチロラクトン、1,5−ジメチル−2−ピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘキサフルオロイソプロパノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコール、テトラエチレングリコール、ヘキサメチレングリコール、ジエチレングリコールを好ましく挙げることができる。また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液においては、スチレン、(メタ)アクリル酸等のビニル系モノマーやエポキシ樹脂等の硬化樹脂の主剤や架橋剤等の原料も溶媒として用いることができ、これら溶媒中で窒化ホウ素ナノシート複合体を分散させ、重合を行うことで窒化ホウ素ナノシート複合体が高度に分散した樹脂複合体を得ることができる。
【0066】
(窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の製造)
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液においては、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を前記超酸中で調製してそのまま分散液として使用することもできるが、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体は超酸以外の溶媒への再分散性に優れているため、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を超酸以外の溶媒に添加して超音波処理等を施して混合することにより、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を製造することができる。また、窒化ホウ素又は窒化ホウ素ナノシート、超酸及び超酸以外の溶媒を一括又は分割して混合して窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を製造することもできる。更に、一括で混合して製造する場合、超酸が超酸以外の溶媒中で窒化ホウ素に吸着、窒化ホウ素を剥離し、窒化ホウ素ナノシート複合体を形成し、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を得ることができる。
【0067】
前記混合方法としては、特に制限されないが、超音波処理、振動処理、攪拌処理、粉砕処理、外場の印加(例えば、電場印加、磁場印加等)、混練から選ばれる少なくとも一種の混合処理であることが好ましい。これらの方法の中でも、超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の混合処理であることが、窒化ホウ素の剥離を効率的に進行させ、層数の少ない窒化ホウ素ナノシートを含有する分散液をより高濃度で得る上でより好ましい。なお、より分散安定性に優れ、かつより高濃度の分散液を得る観点から、これら混合処理の中で超音波処理であることが更に好ましい。また、窒化ホウ素ナノシートへのダメージを抑制しつつより高度に分散させる観点から、前記混合処理の中で超音波洗浄機を用いた超音波処理が特に好ましい。
【0068】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の製造方法においては、前記混合(混合処理)を行った後、遠心分離操作及び/又は静置により、分散液中に存在する大きな粒子や物理的な絡み合い等により剥離が困難な窒化ホウ素粒子を除去することが好ましい。なお、遠心分離操作及び/又は静置の際には、高濃度の分散液を得る観点及び取扱い安全性の観点から不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。また、分散液の取扱い性の向上の観点から、溶媒を超酸からその他の溶媒(有機溶媒又は水)に交換することが好ましい。また、溶媒を他の溶媒に交換してから、遠心分離及び/又は静置により、分散液中に存在する大きな粒子や物理的な絡み合い等により剥離が困難な窒化ホウ素粒子を除去することが、層数の少ない窒化ホウ素ナノシート複合体やそれを含有する分散液を得る観点から好ましい。
【0069】
[窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法は、窒化ホウ素ナノシートと前記窒化ホウ素ナノシートに吸着している超酸とを備える窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法であって、窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に該窒化ホウ素ナノシートに超酸を吸着させることを特徴とする方法である。なお、窒化ホウ素ナノシート及び超酸は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体で説明した窒化ホウ素ナノシート及び超酸を用いることができる。
【0070】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法としては、前記混合処理(混合)を含むこと以外は、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に該窒化ホウ素ナノシートに前記超酸を吸着させることが可能な方法であれば特に制限はないが、例えば、以下の方法が挙げられる。
(i)前記窒化ホウ素と前記超酸とを溶媒を使用せずに混合して層間剥離処理を施す方法。
(ii)前記窒化ホウ素と前記超酸とを溶媒中で混合して層間剥離処理を施す方法。
(iii)前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸とを溶媒を使用せずに混合する方法。
(iV)前記窒化ホウ素ナノシートと前記超酸とを溶媒中で混合する方法。
【0071】
これらの製造方法は単独で実施しても2つ以上を組み合わせて実施してもよい。
【0072】
(窒化ホウ素)
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、原料として用いられる窒化ホウ素としては、六方晶窒化ホウ素(h−BN)、菱面体晶窒化ホウ素(r−BN)及び乱層構造窒化ホウ素(t−BN)等の層状窒化ホウ素を含む窒化ホウ素であれば特に制限はないが、得られる窒化ホウ素ナノシート複合体の熱伝導率、絶縁性、耐熱性の観点から特に好ましくは六方晶窒化ホウ素を含む窒化ホウ素である。このような窒化ホウ素の形状としては、特に制限されないが、パウダー、フレーク、ビーズ等、様々なタイプの窒化ホウ素を用いることができる。また、このような窒化ホウ素としては、窒化ホウ素の類縁体として炭素原子も含む炭窒化ホウ素(B−C−N材料)やシランカップリング剤等で表面処理を施した窒化ホウ素も用いることができるが、窒化ホウ素ナノシートの有する熱伝導率、絶縁性、耐熱性、耐酸化性等を十分に発現する観点から、BNの純度が高い窒化ホウ素であることがより好ましい。
【0073】
原料として用いる窒化ホウ素の平均二次粒子径は、特に制限されないが、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、超酸を用いることによって、通常、剥離と孤立分散が困難な平均二次粒子径の大きな窒化ホウ素も分散させることができる。原料として用いる窒化ホウ素の平均二次粒子径の下限は、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.2μm以上であることが更に好ましく、0.3μm以上であることが特に好ましく、0.4μm以上であることが最も好ましい。また、原料として用いられる窒化ホウ素の二次粒子を構築する窒化ホウ素一次粒子の一辺の平均サイズの下限としては、特に制限されないが、0.01μm以上であることが好ましく、0.05μm以上であることがより好ましく、0.1μm以上であることが更に好ましく、0.2μm以上であることが特に好ましく、0.3μm以上であることが最も好ましい。
【0074】
(混合/混合処理)
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記窒化ホウ素と超酸とを混合して、前記窒化ホウ素の層間を剥離し窒化ホウ素ナノシートを得ると共に該窒化ホウ素ナノシートに超酸を吸着させる工程を含むことが必要である。
【0075】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記混合(混合処理)としては、超音波処理、振動処理、攪拌処理、粉砕処理、外場の印加(例えば、電場印加、磁場印加等)、混練から選ばれる少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含む混合処理であることが好ましい。これらの混合処理の中でも、前記混合(混合処理)としては、前記超酸の存在下で前記窒化ホウ素に超音波処理、撹拌処理及び粉砕処理からなる群から選択される少なくとも一種の層間剥離処理を施す工程を含む混合処理であることがより好ましい。この層間剥離処理により、窒化ホウ素の剥離を効率的に進行させ、層数の少ない窒化ホウ素ナノシートを含有する窒化ホウ素ナノシート複合体が得られる傾向にある。なお、このような混合(混合処理)は、窒化ホウ素ナノシートの分散性、剥離性及び取扱い安全性の観点から、不活性ガス雰囲気下で行われることが好ましい。
【0076】
このような層間剥離処理を施す工程としては、分散性と再分散性に優れる窒化ホウ素ナノシート複合体及び高濃度で分散性に優れる窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を得る観点から、超音波処理及び撹拌処理からなる群から選択される少なくとも一種を不活性ガス雰囲気下で行うことが更に好ましく、不活性ガス雰囲気下で行う超音波処理であることが特に好ましい。このような超音波処理としては、特に制限されないが、例えば、超音波洗浄機を用いる方法や超音波ホモジナイザー(プローブ型ソニケーター)を用いる方法等が挙げられるが、窒化ホウ素ナノシートの表面へのダメージを抑制し、窒化ホウ素ナノシートの本来の特性を発揮する観点から、超音波洗浄機を用いる方法が特に好ましい。例えば、上記混合処理(i)及び(ii)において、窒化ホウ素を超酸中に分散させた後に分散溶液に超音波処理を行う場合、例えば、卓上型超音波洗浄機を用いて、超音波発振周波数を45kHzとした場合、超音波処理時間としては、特に制限されないが、1分以上であることが好ましく、より好ましくは1時間以上であり、更に好ましくは5時間以上であり、特に好ましくは25時間以上であり、最も好ましくは48時間以上である。従来技術では、超音波処理時間が短い場合、例えば、1分以上1時間未満の場合、本発明にかかる窒化ホウ素ナノシートを得ることが困難であったが、本発明においては超酸を用いることにより、窒化ホウ素の剥離を効率的に進行させることができ、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体及び本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を得ることができる。また、従来技術では、超音波処理時間が24時間程度を超えると六方晶のシート構造が破壊されサイズが小さくなってしまう課題があったが、本発明においては超酸を用いることによって、従来より大きな粒子径を有する窒化ホウ素粒子を原料として用いることが可能となり、かつ剥離が効率的に進行することから、六方晶のシート構造の破壊を抑制しつつ剥離を更に進行させることができ、収率を更に向上させることができる。なお、このような六方晶のシート構造破壊の抑制は、窒化ホウ素ナノシートの表面に超酸が吸着していることにより窒化ホウ素ナノシートへの剥離が速く進行し、かつ再凝集が抑制されるため、超音波処理条件下において二次粒子中や近接する窒化ホウ素ナノシート同士の直接の接触による構造破壊が低減され、六方晶のシート構造の構造破壊を抑制することが可能となるものと推察される。
【0077】
また、このような混合処理(層間剥離処理)として撹拌処理を行う場合には、撹拌処理の回転数としては、特に制限されないが、100rpm以上が好ましく、より好ましくは200rpm以上であり、更に好ましくは300rpm以上であり、特に好ましくは400rpm以上であり、最も好ましくは500rpm以上である。前記撹拌処理の回転数が前記下限未満では、10層以下の窒化ホウ素ナノシートの割合が低下し、かつ、窒素ホウ素ナノシート複合体の分散性が低下する傾向にある。
【0078】
更に、このような混合処理(層間剥離処理)として粉砕処理を行う場合には、粉砕処理方法としては、特に制限されないが、乳鉢、せん断式ミル、ジョークラッシャー、衝撃式クラッシャー、コーンクラッシャー、ロールクラッシャー、ハンマーミル、ボールミル、振動ミル、ピンミル、攪拌ミル、乾式ジェットミル、湿式ジェットミルによる粉砕方法、等を用いることができる。なお、このような粉砕処理により超酸の存在下、窒化ホウ素ナノシート複合体又は窒化ホウ素ナノシート複合体を製造する場合には、粉砕時間は特に制限はないが、5分以上であることが好ましく、30分以上であることがより好ましく、1時間以上であることが更に好ましく、2時間以上であることが特に好ましく、3時間以上であることが最も好ましい。超酸の存在下で窒化ホウ素を粉砕することで、窒化ホウ素及び窒化ホウ素ナノシートに加わるせん断力を適切に制御することができ、面方向への破壊を抑制したまま、剥離を効率的に進行させることができる。なお、超酸の非存在下において、直接窒化ホウ素又は窒化ホウ素ナノシートに粉砕処理を施す場合、超酸の存在下で粉砕処理を施す場合と比較してせん断が大きくなりすぎるため、剥離だけでなく面方向での破壊が生じ、一辺のサイズが小さくなる課題があり、本発明の窒化ホウ素ナノシート及び窒化ホウ素ナノシート複合体を得ることができない。
【0079】
本発明の層間剥離処理において、溶融混練を行う場合には、前記窒化ホウ素及び前記超酸、更に必要に応じて樹脂及び/又は添加剤をそれぞれペレット状、粉末状又は細片状にしたものを、撹拌機、ドライブレンダー又は手混合等により均一に混合した後、押出機、ゴムロール機、又はバンバリーミキサー等を用いて溶融混練することができる。
【0080】
(窒化ホウ素ナノシート複合体の製造)
本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記窒化ホウ素と前記超酸とを混合する方法については、特に制限されないが、一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序については、前記窒化ホウ素に前記超酸を添加してもよいし、前記超酸に前記窒化ホウ素を添加してもよいし、前記窒化ホウ素と前記超酸とを同時に添加してもよいし、少なくとも一部ずつを交互に添加してもよい。
【0081】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記窒化ホウ素と前記超酸とを混合する際に、他の溶媒、樹脂、フィラー、添加剤を添加してもよい。溶媒及びフィラーとしては、前記窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液で説明したものを用いることができる。このような樹脂や添加剤の混合も、一括で行っても分割して行ってもよい。また、その混合順序についても特に制限されない。
【0082】
更に、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記窒化ホウ素と前記超酸との混合比率については、特に制限されないが、前記超酸の添加量は、前記窒化ホウ素100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1.0質量部以上が更に好ましく、2.0質量部以上が特に好ましく、3.0質量部以上が最も好ましい。前記超酸の添加量が前記下限未満では、窒化ホウ素ナノシート複合体の溶媒中や樹脂中での分散性が低下しやすい傾向にある。また、前記超酸の添加量は、生産性の向上の観点から、前記窒化ホウ素100質量部に対して100000000質量部以下が好ましく、10000000質量部以下がより好ましく、1000000質量部以下が更に好ましく、500000質量部以下が特に好ましく、100000質量部以下が最も好ましい。
【0083】
また、このような本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記超酸と前記窒化ホウ素及び/又は窒化ホウ素ナノシートとの混合時の温度については、特に制限されないが、0℃未満でもよいが、室温(23℃)以上がより好ましく、30℃以上が更に好ましい。
【0084】
なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、前記混合(混合処理)により前記窒化ホウ素ナノシートに前記超酸を吸着させた後、そのまま、或いは水及び/又は有機溶媒に滴下し窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液としてから、必要に応じて、ろ過、遠心分離操作及び/又は静置とろ過との組み合わせ、再沈殿、溶媒の除去(乾燥等)、溶媒を含んだままの溶融混練、窒化ホウ素ナノシート複合体のサンプリング等を施し、窒化ホウ素ナノシート複合体を得ることができる。前記ろ過は、水及び/又は有機溶媒を用いた洗浄ろ過であることが、得られる窒化ホウ素ナノシート平面のN原子と超酸のプロトンとの間の共有結合(配位結合)を取り除き、窒化ホウ素ナノシート平面の欠陥を減少させる、或いは未吸着の超酸を取り除いて、窒化ホウ素ナノシート複合体及びこれを含んでなる樹脂組成物の熱伝導率を向上させる観点から好ましく、少なくとも水を含む溶媒による洗浄ろ過であることがより好ましい。前記水の容量としては、特に制限されないが、窒化ホウ素ナノシート平面のN原子と超酸のプロトンとの共有結合を取り除く、或いは未吸着の超酸を取り除く点から、製造時に用いた超酸の容量の3倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましい。
【0085】
なお、本発明の層間剥離処理において混合処理、中でも特に超音波処理又は撹拌処理を行う場合には、混合処理後に遠心分離操作及び/又は静置を行うことが好ましい。遠心分離操作及び/又は静置は、混合処理後の分散液中に存在する剥離の不十分な大きな粒子や物理的な絡み合い等により剥離が困難な窒化ホウ素粒子を除去するためであり、遠心分離操作又は静置により大きな粒子を除去した後の上澄み液は、更にろ過及び/又は乾燥により溶媒使用時には溶媒、又は/及び未吸着の超酸の少なくとも一部除去し、窒化ホウ素ナノシート複合体を得ることができる。なお、遠心分離操作における回転速度としては、特に制限されないが、300〜100000rpmの範囲にあることが好ましく、500〜10000rpmの範囲にあることがより好ましい。前記回転速度が前記上限を超えると、上澄み液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では10層以下の窒化ホウ素ナノシートの割合が低下し、かつ、窒素ホウ素ナノシート複合体の分散性が低下する傾向にある。また、相対遠心加速度は、特に制限されないが、10〜1000000Gの範囲にあることが好ましく、100〜100000Gの範囲にあることがより好ましい。前記相対遠心加速度が前記上限を超えると、上澄み液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では10層以下の窒化ホウ素ナノシートの割合が低下し、かつ、窒素ホウ素ナノシート複合体の分散性が低下する傾向にある。また、遠心分離操作の時間は、特に制限されないが、1分間〜24時間の範囲にあることが好ましく、5分間〜2時間の範囲にあることがより好ましい。前記遠心分離操作の時間が前記上限を超えると、上澄み液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では10層以下の窒化ホウ素ナノシートの割合が低下し、かつ、窒素ホウ素ナノシート複合体の分散性が低下する傾向にある。更に、静置させる場合、静置時間の下限としては、特に制限されないが、5分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、1時間以上が更に好ましく、10時間以上が特に好ましく、20時間以上が最も好ましい。静置時間の上限としては、特に制限されないが、30日以下であることが好ましく、15日以下であることがより好ましく、10日以下が更に好ましい。前記静置時間が前記上限を超えると、上澄み液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度が低下する傾向にあり、他方、前記下限未満では10層以下の窒化ホウ素ナノシートの割合が低下し、かつ、窒素ホウ素ナノシート複合体の分散性が低下する傾向にある。
【0086】
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法においては、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体を、例えば150℃以上の温度での加熱処理、アルカリを用いた処理、強力な洗浄処理、強力及び/又は長時間の超音波処理、電子線照射等の処理を行うことよって、窒化ホウ素ナノシートの表面に吸着している超酸の少なくとも一部を分解したり、取り除くことにより、超酸が実質的に表面から除かれた窒化ホウ素ナノシートを製造することができる。また、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は、高温での加熱処理、アルカリを用いた処理、強力な洗浄処理、強力及び/又は長時間の超音波処理、電子線照射等の処理によって超酸の少なくとも一部が超酸由来の残渣に変化しているものや、窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートの平面や端部にNH基やOH基が少量存在する場合には、これら官能基を利用した有機反応により、例えばアルキル基等の有機残基を導入したものも含む。
【0087】
更に、前記製造方法により前記窒化ホウ素ナノシートに前記超酸を吸着させた場合には、必要に応じて、混合後の分散液をろ過して超酸は回収して再利用することができる。更に、遠心分離操作等により沈殿した未剥離の窒化ホウ素粒子を回収し、再利用することで、窒化ホウ素ナノシート含有分散液や窒化ホウ素ナノシート複合体を製造することもできる。また、前記超酸に対する貧溶媒で再沈殿させることにより、窒化ホウ素ナノシート複合体を回収することもできる。更に、超酸中に分散した窒化ホウ素ナノシート、好ましくは超酸が吸着した窒化ホウ素ナノシート複合体を水や有機溶媒に添加することで、溶媒を超酸から水や有機溶媒に変換することができる。
【0088】
[窒化ホウ素ナノシート薄層体]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法により得られた窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去して得られたものであることを特徴とする。本発明においては、窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去して得たことにより、窒化ホウ素ナノシートが薄層化された超酸を含まない窒化ホウ素ナノシート(窒化ホウ素ナノシート薄層体)を得ることができる。このような窒化ホウ素ナノシート薄層体は、製造に用いた前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートの特徴である少ない層数と大きな一辺の長さを維持できるため、熱伝導性に優れる。また、超酸を除去しているため、例えば200℃以上の温度で例えば10年以上といった長時間使用する際に有用となる長期耐熱性に優れる。なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体においては、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体やその製造方法等で説明した窒化ホウ素ナノシートを用いることができる。
【0089】
[窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体の製造方法により得られた窒化ホウ素ナノシート複合体を用い、該窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去して窒化ホウ素ナノシート薄層体を得ることを特徴とする。このような本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法においては、窒化ホウ素ナノシート複合体に吸着している超酸を除去することにより、窒化ホウ素ナノシートが薄層化された超酸を含まない窒化ホウ素ナノシート(窒化ホウ素ナノシート薄層体)とすることができる。なお、本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法においては、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体やその製造方法等で説明した窒化ホウ素ナノシートを用いることができる。
【0090】
このような本発明の窒化ホウ素ナノシート薄層体の製造方法における超酸の除去方法としては、特に制限されないが、例えば150℃以上の温度での加熱処理、アルカリを用いた処理、強力な洗浄処理、強力及び/又は長時間の超音波処理、電子線照射等の処理であることが好ましい。これらの超酸の除去方法の中でも、窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシートの層数と大きな一辺のサイズを維持し、熱伝導性と長期耐熱性に優れる窒化ホウ素ナノシートを製造する観点から、150℃以上の温度での加熱処理であることがより好ましく、200℃以上の温度での加熱処理であることが更に好ましく、250℃以上の温度での加熱処理であることが特に好ましく、300℃以上の温度での加熱処理であることが最も好ましい。加熱処理時間としては、特に制限されないが、超酸を除去する際の窒化ホウ素ナノシートの再スタッキングを抑制する観点から、1分以上であることが好ましく、10分以上であることがより好ましく、30分以上であることが更に好ましい。
【0091】
[樹脂組成物]
次に、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を用いた樹脂組成物について説明する。本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を用いた樹脂組成物は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と樹脂とを含有することを特徴とする。
【0092】
前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体は、窒化ホウ素と比較して層数が少ないため、その比表面積が大きく、かつ表面に吸着した超酸により、有機溶媒や樹脂との親和性に優れることから、樹脂のフィラーとして用いた場合、添加量が少なくても得られる樹脂組成物の特性を向上することができる。
【0093】
このような樹脂組成物における窒化ホウ素ナノシート複合体の含有率としては、特に制限されないが、樹脂組成物100質量%に対して0.01質量%以上が好ましく、0.05質量%以上がより好ましく、0.1質量%以上が更に好ましく、0.2質量%以上が特に好ましく、また、90質量%以下が好ましく、50質量%以下がより好ましく、10質量%以下が更に好ましく、5質量%以下が特に好ましい。前記窒化ホウ素ナノシート複合体の含有率が前記下限未満では、本発明の樹脂組成物の熱伝導性及び機械強度の向上効果が得られにくい傾向にあり、他方、前記上限を超えると樹脂組成物の流動性が低下しやすい傾向にある。
【0094】
このような樹脂組成物における前記樹脂としては、特に制限されないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂、熱硬化性ポリアミドイミド、熱硬化性シリコーン樹脂、尿素樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ユリア樹脂、ベンゾグアナミン樹脂、アルキド樹脂、及びウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリスチレン、HIPS(耐衝撃性ポリスチレン)、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、MAS(メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−スチレン)樹脂、MABS(メタクリル酸メチル−アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、及びSBS(スチレン−ブタジエン−スチレン)樹脂といった芳香族ビニル系樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、これらの共重合体、及びアクリルゴムといったアクリル系樹脂、ポリアクリロニトリル、アクリロニトリル−アクリル酸メチル樹脂、及びアクリロニトリル−ブタジエン樹脂といったシアン化ビニル系樹脂、イミド基含有ビニル系樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン、エチレンプロピレンジエンモノマーゴム、及びエチレンプロピレンゴムといったポリオレフィン系樹脂、酸又は酸無水物変性ポリオレフィン系樹脂、エポキシ変性ポリオレフィン樹脂、酸又は酸無水物変性アクリル系エラストマー、エポキシ変性アクリルエラストマー、シリコーンゴム、フッ素ゴム、天然ゴム、ポリカーボネート、環状ポリオレフィン、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート、ポリアリレート、液晶ポリエステル、ポリフェニレンエーテル、ポリアリーレンスルフィド、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニルに代表されるフッ素系樹脂、ポリ乳酸、ポリ塩化ビニル、熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミド等の熱可塑性樹脂が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0095】
このような樹脂組成物における前記樹脂の中でも、窒化ホウ素ナノシートの白色性を活かすことのできるという観点から透明樹脂(例えば、ポリスチレン、SBS樹脂、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリル酸メチル、ポリメタクリル酸、これらの共重合体、及びアクリルゴムといったアクリル系樹脂、ポリカーボネート(特殊ポリカーボネートも含む)、環状ポリオレフィン、透明ABS樹脂、AS樹脂、MAS樹脂、透明MABS樹脂、ポリエーテルエーテルケトン、ポリメチルペンテン、フルオレン系ポリエステル、ポリエチレンナフタレート、脂環式エポキシ樹脂、透明ポリイミド、透明ポリアミド、透明フッ素樹脂、ポリ乳酸、導電性高分子、透明エラストマー)がより好ましく用いることができる。また、熱伝導性及び機械強度の観点から結晶性樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリイソプレン、ポリブタジエン等のポリオレフィン系樹脂、ポリアミド、ポリエチレンテレフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ1,4−シクロヘキサンジメチルテレフタレート、液晶ポリエステル、ポリアリーレンスルフィド、ポリオキシメチレン、ポリテトラフルオロエチレン、フッ素化エチレンプロピレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン及びポリフッ化ビニル等のフッ素系樹脂、ポリ乳酸、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトンケトン、ポリエーテルアミド等)がより好ましく用いることができる。
【0096】
なお、このような樹脂組成物においては、必要に応じて各種添加剤を配合することができる。このような添加剤としては、特に制限されないが、例えば、難燃剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、結晶核剤、粘度調整剤、着色剤、シランカップリング剤等の表面処理剤、タルク、モンモリロナイト等の粘土鉱物、雲母鉱物及びカオリン鉱物に代表される層状ケイ酸塩、ガラス繊維、炭素繊維、シリカや熱伝導性フィラー等の充填剤、エラストマー類等が挙げられる。
【0097】
このような熱伝導性フィラーとしては、特に制限されないが、例えば、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミ、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ダイヤモンド、酸化亜鉛、グラファイト、炭素繊維や、カーボンナノファイバー、カーボンナノチューブ、カーボンナノプレートレット、グラフェン、数層グラフェン、ナノグラファイト(グラフェンナノリボン等)、ナノグラフェン、カーボンナノホーン、カーボンナノコーン、カーボンナノコイル、フラーレン、等のカーボン系ナノフィラーが挙げられる。これらの熱伝導性フィラーは1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。このような熱伝導性フィラーの熱伝導率としては、特に制限されないが、0.5W/(m・K)以上が好ましく、1W/(m・K)以上がより好ましく、5W/(m・K)以上が更に好ましく、10W/(m・K)以上が特に好ましく、20W/(m・K)以上が最も好ましい。このような樹脂組成物における熱伝導性フィラーの含有率としては、特に制限されないが、樹脂組成物100質量%に対して0.1〜95質量%が好ましく、0.1〜90質量%がより好ましく、0.1〜80質量%が更に好ましく、0.1〜70質量%が特に好ましく、0.1〜50質量%が最も好ましい。前記熱伝導性フィラーの含有率が前記下限未満になると、得られる樹脂組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、樹脂組成物の流動性が低下しやすい傾向にある。
【0098】
このような樹脂組成物の調製の際に用いる窒化ホウ素ナノシート複合体は、乾燥処理が施されていてもよいし、溶媒(有機溶媒及び/又は水)を含んでいてもよい。乾燥処理の温度としては、特に制限されないが、乾燥時の凝集を防ぐ観点から凍結乾燥させることが好ましい。また、窒化ホウ素ナノシート複合体が凝集している場合には、それをそのまま用いても樹脂中で速やかに分散するが、粉砕や凍結粉砕を施して予め解砕することが好ましい。
【0099】
このような樹脂組成物の製造方法としては、特に制限されないが、樹脂中にフィラーを分散させる際に採用される従来公知の混合方法が挙げられる。例えば、溶媒中で樹脂と前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と必要に応じて各種添加剤とを混合する方法、押出機、ゴムロール機、又はバンバリーミキサー等を用いて樹脂と前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と必要に応じて各種添加剤とを溶融混練する方法等が挙げられる。溶媒中で樹脂と前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体と必要に応じて各種添加剤とを混合する方法の場合、混合後に溶媒を例えば溶液キャスト法、真空乾燥、再沈殿等の従来公知の方法により除去することによって窒化ホウ素ナノシート複合体が分散した樹脂組成物を得ることができる。ここで用いられる溶媒としては、窒化ホウ素ナノシート作製時に使用した超酸と親和性があるものが好ましく、また、前記溶媒は、用いる樹脂を溶解するものがより好ましく、使用する樹脂の種類によって適宜選択することができる。例えば、樹脂として、透明性の観点から好ましく用いられるアクリル系樹脂を選択した場合に適した溶媒としては、クロロホルムやN,N−ジメチルホルムアミド等を挙げることができる。また、樹脂として低粘度の熱硬化性樹脂を用いる場合には、自公転ミキサー等のミキサーを用いて複合化処理を施すことにより混合することも可能である。なお、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体、樹脂及び必要に応じ各種添加剤を混合する場合には、一括で混合しても分割して混合してもよい。また、その順序についても特に制限はなく、特定の成分を予備混合した後、残りの成分を混合してもよい。窒化ホウ素ナノシート複合体の樹脂中への分散性を向上させるという観点からは、樹脂の一部及び/又は各種添加剤を予め窒化ホウ素ナノシート複合体と予備混合させることが好ましい。予備混合の方法としては、例えば、溶媒中で混合させる方法、溶融させた樹脂と窒化ホウ素ナノシート複合体とを混合させる方法、攪拌機、ドライブレンダー又は手混合等により混合する方法、窒化ホウ素ナノシート複合体の製造時に樹脂の少なくとも一部及び/又は各種添加剤を混合する方法等が挙げられる。このような予備混合方法の中でも、溶媒中で混合させる方法が好ましく、樹脂の少なくとも一部及び/又は各種添加剤を溶媒中に溶解及び/又は分散(溶解を伴わないもの)させ、これに前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を添加して混合させる方法、又は、前記本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を含む分散液に樹脂の少なくとも一部及び/又は各種添加剤を添加して混合させる方法がより好ましい。なお、予備混合する際の樹脂の形状は特に制限されず、例えば、粉状、ペレット状、粒状、タブレット状、繊維状等が挙げられる。
【0100】
また、このような樹脂組成物の製造方法においては、側鎖等の樹脂骨格中に超酸を構成するアニオン種と同様又は類似の構造を導入した樹脂を用いて、窒化ホウ素ナノシート複合体と混合することにより、窒化ホウ素ナノシート複合体を樹脂中に高度に分散させることができる。また、樹脂中で窒化ホウ素ナノシートと前記超酸を混合し、窒化ホウ素ナノシートに前記超酸を吸着させることによっても製造することができる。前記混合方法としては、例えば、溶媒中での超音波処理、振動処理、攪拌処理、粉砕処理、外場の印加(例えば、電場印加、磁場印加等)、混練等による混合方法が好ましく挙げられる。
【0101】
また、このような樹脂組成物から成形体を製造する方法としては、特に制限されないが、本発明の樹脂組成物に、射出成形、プレス成形、押出成形、ブロー成形、圧縮成形、ガスアシスト成形、インサート成形、2色成形、外場を利用した成形(例えば、磁場成形、電場を利用した成形等)等の従来公知の成形加工を施すことにより樹脂複合材(成形体)を得ることができる。成形温度としては、特に制限されないが、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体が耐熱性に優れるため、例えば、290℃以上、300℃以上又は310℃以上の高温での成形も可能となる。
【実施例】
【0102】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体の各物性は以下の方法により測定した。
【0103】
<測定方法1:窒化ホウ素ナノシート複合体の超酸吸着量測定>
先ず、実施例のそれぞれにおいて、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体を80℃での真空乾燥により残留溶媒等の揮発分を除去した後、熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、室温から100℃まで昇温し、100℃で30分間保持した後、昇温速度10℃/分で100℃から800℃まで加熱して熱重量分析(TGA)を実施した。ここで、超酸の吸着量としては、100℃で30分間保持した後、100℃から800℃の温度範囲で観察された超酸(超酸由来化合物を含む)に由来する重量減少を吸着量とした。なお、窒化ホウ素は100℃から800℃の範囲において重量減少を示さない。これに対して、超酸は、例えば、塩化スルホン酸は約150℃から約220℃の範囲で重量減少を示し、塩化スルホン酸と水との反応で生成し窒化ホウ素ナノシートに吸着した硫酸は約290℃から約370℃の範囲で重量減少を示し、トリフルオロメタンスルホン酸は約160℃から約220℃の範囲で重量減少を示す。したがって、窒化ホウ素は800℃まで重量減少を示さず、超酸は600℃までに分解するために、窒化ホウ素ナノシート複合体において超酸(超酸由来化合物を含む)の吸着に由来する質量減少を確認することができる。これより、窒化ホウ素ナノシート複合体の質量減少のうちの超酸に由来するものを窒化ホウ素ナノシート複合体への超酸の吸着量とし、窒化ホウ素ナノシート100質量部に対する量(質量部)で表した。なお、ここで超酸の吸着量としては、例えば、塩化スルホン酸と水との反応で生成しそのまま吸着した硫酸のように、超酸由来生成物の吸着量も超酸の吸着量とみなす。また、超酸由来化合物の吸着量(実施例1〜3、及び5では硫酸、実施例4では超酸由来化合物は確認されず)についても、窒化ホウ素ナノシート100質量部に対する量(質量部)で表した。
【0104】
<測定方法2:窒化ホウ素ナノシート複合体の分散性測定>
まず、実施例で得られた窒化ホウ素ナノシート複合体及び比較例で得られた比較用窒化ホウ素ナノシートを用い、それぞれ4.0mgをイソプロピルアルコール(IPA)4mLに添加して溶解させ、これに超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を10分間施して窒化ホウ素ナノシート複合体又は比較用窒化ホウ素ナノシートをそれぞれ分散させた。次に、この分散液を20時間静置して得られた上澄み液を回収し、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液又は比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液をそれぞれ得た。
【0105】
次に、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液及び比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液について、イソプロピルアルコール(IPA)をリファレンスとしてUV−可視光吸収スペクトルを測定し、650nmの吸光度により分散性(耐沈降性、分散安定性)を評価した。なお、超酸、IPAは650nmで吸収を示さないため、650nmでの吸光度の値が大きいほど遠心分離操作後の分散液中に窒化ホウ素ナノシート複合体又は窒化ホウ素ナノシートが多く分散し、分散性に優れていることを意味する。
【0106】
<測定方法3:窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定>
前記窒化ホウ素ナノシート複合体の分散性測定(測定方法2)において得られた窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液(比較例の場合は、比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液)を用い、前記分散液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度を測定した。
【0107】
まず、洗浄ろ過に用いた桐山漏斗〔フィルター:テフロン(登録商標)製フィルター、孔径0.1μm〕の質量を予め測定した。次に、前記分散液をテフロン(登録商標)製フィルターを用いてアセトン(前記分散液に対して3倍量を複数回に分けて用いた)で洗浄しながら吸引ろ過し、窒化ホウ素ナノシート複合体(比較例の場合は、窒化ホウ素ナノシート)表面に未吸着の超酸を完全に除去した。次いで、洗浄ろ過後の濾滓の付いたテフロン(登録商標)製フィルターについて、80℃で12時間真空乾燥を行った後の質量を測定した。この質量からテフロン(登録商標)製フィルターの質量を減じ、窒化ホウ素ナノシート複合体(比較例の場合は、窒化ホウ素ナノシート)の質量を算出した。
【0108】
次に、熱重量分析装置(理学電機(株)製「Thermo plus TG8120」)を用いて窒素雰囲気下、室温から100℃まで昇温し、100℃で30分間保持した後、昇温速度10℃/分で100℃から800℃まで加熱して行った熱重量分析(TGA)により、窒化ホウ素ナノシート複合体中から吸着した超酸を取り除いた窒化ホウ素ナノシートの割合を算出し、窒化ホウ素ナノシートの窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中での濃度(比較例の場合は、窒化ホウ素ナノシートの比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液での濃度)を求めた。
【0109】
<測定方法4:窒化ホウ素ナノシート複合体の収率測定>
実施例のそれぞれにおいて、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体の質量を測定し、更に前記熱重量分析により窒化ホウ素ナノシート複合体中から超酸が吸着した分を除いた窒化ホウ素ナノシートの割合を算出することによって、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体中の窒化ホウ素ナノシートの質量を求め、原料として用いた窒化ホウ素に対する収率を求め、窒化ホウ素ナノシート複合体の収率とした。
窒化ホウ素ナノシート複合体の収率(%):100×(得られた窒化ホウ素ナノシート複合体中の窒化ホウ素ナノシートの質量)/(原料として用いた窒化ホウ素の質量)
<測定方法5:窒化ホウ素ナノシート複合体の窒化ホウ素ナノシート層数測定>
実施例及び比較例それぞれにおいて、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体(比較例の場合は、窒化ホウ素ナノシート)をイソプロピルアルコール(IPA)に入れ、超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を3分間施して得られた分散液をグリッド上に滴下し、室温で真空乾燥後、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)により加速電圧200kVにて観察を行った。窒化ホウ素ナノシートのエッジ部の観察により、窒化ホウ素ナノシートの層数を測定(確認)した。なお、窒化ホウ素ナノシートは、シート形状で厚さが薄く柔軟性があるため、エッジ部が容易に湾曲することから、エッジ部での層数の観察が可能である。
【0110】
(窒化ホウ素)
実施例及び比較例においては、以下に示す窒化ホウ素を使用した。なお、窒化ホウ素の平均二次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)観察により得た電子顕微鏡写真について、任意の20個の二次粒子(ここで各々の粒子は凝集した二次粒子を形成する)の粒子径を測定し、平均二次粒子径とした。また、二次粒子を形成する窒化ホウ素一次粒子(板状の窒化ホウ素)の一辺の大きさは、上記同様に走査型電子顕微鏡写真における任意の20個の一辺の大きさを測定しその平均値とした。ここで、窒化ホウ素一次粒子の一辺の大きさとしては長辺の長さを指す。
窒化ホウ素(a−1):
水島合金鉄(株)製六方晶窒化ホウ素HP−P1、平均二次粒子径:1.4μm、窒化ホウ素一次粒子の一辺の平均サイズ:0.5μm、窒化ホウ素純度:98.3質量%。
窒化ホウ素(a−2):
昭和電工(株)製六方晶窒化ホウ素UHP−1K、平均二次粒子径:24μm、窒化ホウ素一次粒子の一辺の平均サイズ:4μm、窒化ホウ素純度:99.9質量%。
窒化ホウ素(a−3):
昭和電工(株)製六方晶窒化ホウ素UHP−S1、平均二次粒子径:0.8μm、窒化ホウ素一次粒子の一辺の平均サイズ:0.4μm、窒化ホウ素純度:99.8質量%。
【0111】
(超酸)
実施例及び比較例においては、以下に示す超酸を使用した。
超酸(b−1):
クロロスルホン酸(ハメットの酸度関数(H):−13.8(25℃))。
超酸(b−2):
トリフルオロメタンスルホン酸(H:−14.1(25℃))。
【0112】
(超酸以外の酸)
比較例においては、更に、超酸以外の酸として以下に示す酸を使用した。
超酸以外の酸(c−1):
98%濃硫酸(H:−10.43(25℃))。
超酸以外の酸(c−2):
メタンスルホン酸(H:−1(25℃))。
【0113】
(実施例1)
窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の作製
まず、100mLの二口フラスコに六方晶窒化ホウ素(a−1)100mgを加え、真空下、500℃で1時間フレームドライを施し、窒化ホウ素及びフラスコ内から水分を除去した。次に、フラスコ内を窒素で満たし、窒素雰囲気下、超酸(b−1)を20mL滴下した。次いで、これに、窒素雰囲気下で超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を8時間施して窒化ホウ素ナノシートが超酸(b−1)中に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得た。得られた分散液は薄い茶色に呈色した。
【0114】
次に、得られた窒化ホウ素ナノシート含有分散液を、該分散液の100倍の容量の純水と撹拌子を含むビーカー中にゆっくりと一滴ずつ撹拌しながら滴下して、純水中に移し、白色の分散液を得た。次いで、得られた分散液を24時間静置して粗大粒子や未分散の粒子を沈殿させた後、上澄み液を回収し、窒化ホウ素ナノシート複合体が超酸(b−1)(超酸由来化合物を含む)と純水との混合溶媒中に分散した窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を得た。
【0115】
窒化ホウ素ナノシート複合体の作製
次に、上記で得られた窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を、桐山漏斗〔フィルター:テフロン(登録商標)製フィルター、孔径0.1μm〕を用いてろ過を行い、更に100mLの純水を複数回に分けて用いて濾滓の洗浄ろ過を行い、窒化ホウ素ナノシート表面に未吸着の超酸を完全に除去した。その後、濾滓を80℃で12時間真空乾燥して溶媒を完全に留去し、窒化ホウ素ナノシートに超酸及び超酸由来化合物(硫酸)が吸着し、薄く茶色に呈色した窒化ホウ素ナノシート複合体を得た。
【0116】
得られた窒化ホウ素ナノシート複合体の超酸吸着量測定、分散性測定及び収率測定を、前記測定方法1、前記測定方法2及び前記測定方法4によりそれぞれ行なった。得られた結果を表1に示す。
【0117】
また、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、前記分散性測定(測定方法2)において得られた窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を用い、該分散液中の窒化ホウ素ナノシートの濃度の測定を、前記測定方法3により行なった。得られた結果を表1に示す。更に、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、X線光電子分光分析(アルバック・ファイ(株)製、「Quantera SXM」、X線源:単色化されたAlKα線(1486.6eV)、光電子取出角:45°、分析領域:200μmφ)により、N1sのスペクトルを測定した結果、窒化ホウ素のN原子に相当する約398eVのピークが観測されたが、超酸のプロトンの窒化ホウ素ナノシート平面のN原子への配位結合により生成するプロトンが結合したN原子のピーク(約400eV〜402eVの範囲で観測される)は確認されなかった。この結果から、多量の水で洗浄して得た実施例1の窒化ホウ素ナノシート複合体は、超酸(b−1)が非共有結合により窒化ホウ素ナノシートに吸着したものであることが確認された。
【0118】
【表1】
【0119】
(実施例2)
窒化ホウ素(a−1)の代わりに窒化ホウ素(a−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体を作製した。なお、窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の作製において得られた純水に移液する前の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は極めて薄い淡黄色に呈色し、純水に移液後の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は白色であった。また、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体は極めて薄く茶色に呈色した。
【0120】
得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、超酸吸着量測定、分散性測定、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定、及び、窒化ホウ素ナノシート複合体の収率測定を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0121】
また、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、窒化ホウ素ナノシートの層数を前記方法(測定方法5)に従って確認した。なお、各サンプルについて任意の25個の窒化ホウ素ナノシートのエッジ部の観察により層数を確認し、10層以下、6層以下、3層以下、2層以下及び単層の構造を有するナノシートの割合を求めた。また、窒化ホウ素ナノシート複合体について、窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さを走査型電子顕微鏡観察により確認した。走査型電子顕微鏡観察により得た電子顕微鏡写真について、任意の20個の窒化ホウ素ナノシート複合体の一辺の長さを測定し、平均値を求めた。ここで、窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さは長辺の長さを指す。得られた結果を表2に示す。
【0122】
【表2】
【0123】
更に、実施例2で得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、実施例1と同様にしてX線光電子分光分析を行った結果、窒化ホウ素のN原子に相当する約398eVのピークが観測されたが、超酸のプロトンの窒化ホウ素ナノシート平面のN原子への配位結合に相当するN1sスペクトル(約400eV〜402eVの範囲で観測される)は確認されず、多量の水で洗浄して得た実施例2の窒化ホウ素ナノシート複合体は、超酸(b−1)が非共有結合により窒化ホウ素ナノシートに吸着したものであることが確認された。
【0124】
(実施例3)
窒化ホウ素(a−1)の代わりに窒化ホウ素(a−3)を用いた以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体を作製した。なお、窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の作製において得られた純水に移液する前の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は極めて薄い淡黄色に呈色し、純水に移液後の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は白色であった。また、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体は極めて薄く茶色に呈色した。
【0125】
得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、超酸吸着量測定、分散性測定、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定、及び、窒化ホウ素ナノシート複合体の収率測定を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0126】
また、実施例3で得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、実施例1と同様にしてX線光電子分光分析によりN1sのスペクトルを測定した結果、超酸のプロトンの窒化ホウ素ナノシート平面のN原子への配位結合に相当するN1sスペクトルは確認されず、その吸着は非共有結合によるものであることが確認された。
【0127】
(実施例4)
超酸(b−1)の代わりに超酸(b−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体を作製した。なお、窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液の作製において得られた純水に移液する前の窒化ホウ素ナノシート含有分散液は淡橙色に呈色し、純水に移液後の窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液は白色であった。また、得られた窒化ホウ素ナノシート複合体は白色に呈色した。
【0128】
得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、超酸吸着量測定、分散性測定、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定、及び、窒化ホウ素ナノシート複合体の収率測定を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0129】
(実施例5)
まず、100mLの二口フラスコに六方晶窒化ホウ素(a−1)100mgを加え、真空下、500℃で1時間フレームドライを施し、窒化ホウ素及びフラスコ内から水分を除去した。次に、フラスコ内を窒素で満たし、窒素雰囲気下、超酸(b−1)を20mL滴下した。次いで、撹拌子を用いて500rpmの回転速度で5日間、撹拌処理を施して窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得た。得られた分散液は極めて薄く茶色に呈色した。
【0130】
次に、得られた窒化ホウ素ナノシート含有分散液を、該分散液の100倍の容量の純水と撹拌子を含み、氷浴で冷やしたビーカー中にゆっくりと一滴ずつ撹拌しながら滴下して、純水中に移し、白色の分散液を得た。次いで、得られた分散液を24時間静置して粗大粒子や未分散の粒子を沈殿させた後、上澄み液を回収し、窒化ホウ素ナノシート複合体が超酸(b−1)(超酸由来化合物も含む)と純水との混合溶媒中に分散した窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液を得た。
【0131】
次に、実施例1と同様にして、テフロン(登録商標)製フィルターを用いて上記で得られた窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液のろ過を行い、更に100mLの純水を複数回に分けて用いて濾滓の洗浄ろ過を行い、窒化ホウ素ナノシート表面に未吸着の超酸を完全に除去した。その後、濾滓を80℃で12時間真空乾燥して溶媒を完全に留去し、白色の窒化ホウ素ナノシート複合体を得た。
【0132】
得られた窒化ホウ素ナノシート複合体について、超酸吸着量測定、分散性測定、窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定、及び、窒化ホウ素ナノシート複合体の収率測定を実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0133】
(比較例1)
まず、スクリュー管瓶に80℃で12時間真空乾燥を行った後の六方晶窒化ホウ素(a−1)100mg及び超酸の代わりに溶媒としてジメチルホルムアミド(DMF、関東化学(株)製)20mLを入れ、これに超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を8時間施して分散液を得た。次に、この分散液を24時間静置し、粗大粒子や未分散の粒子を沈殿させ、得られた上澄み液を回収し、比較用の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得た。
【0134】
次に、上記で得られた窒化ホウ素ナノシート含有分散液を、桐山漏斗〔フィルター:テフロン(登録商標)製フィルター、孔径0.1μm〕を用いてろ過を行い、更に100mLのイソプロピルアルコール(IPA、和光純薬工業(株)製)を複数回に分けて用いて濾滓の洗浄ろ過を行った。その後、濾滓を80℃で12時間真空乾燥して溶媒を完全に留去し、比較用の窒化ホウ素ナノシートを得た。
【0135】
得られた比較用窒化ホウ素ナノシートについて、DMFやIPA等の溶媒の吸着量測定として、前記測定方法1に準じて熱重量分析を行った結果、DMFやIPA等の溶媒に由来する重量減少は確認されず、用いた溶媒の吸着は認められなかった。
【0136】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの分散性測定、及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定を、実施例1と同様に前記測定方法2及び3により行なった。その結果を表1に示す。
【0137】
更に、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの収率測定を、前記測定方法4に準じて、比較用窒化ホウ素ナノシートの質量を測定し、原料として用いた窒化ホウ素に対する収率を求め、比較用窒化ホウ素ナノシートの収率とした。その結果を表1に示す。
【0138】
(比較例2)
窒化ホウ素(a−1)の代わりに窒化ホウ素(a−2)を用いた以外は、比較例1と同様にして比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び比較用窒化ホウ素ナノシートを作製した。
【0139】
得られた比較用窒化ホウ素ナノシートについて、溶媒の吸着量測定を比較例1と同様に行なった結果、溶媒に由来する重量減少は確認されず、用いた溶媒の吸着は認められなかった。
【0140】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの分散性測定、及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定を、実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0141】
更に、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの収率測定を比較例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0142】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの層数及び窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さの測定を実施例2と同様に行なった。その結果を表2に示す。
【0143】
(比較例3)
超酸の代わりの溶媒としてDMFの代わりにイソプロピルアルコール(IPA、和光純薬工業(株)製)を用いた以外は、比較例2と同様にして比較用窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び比較用窒化ホウ素ナノシートを作製した。
【0144】
得られた比較用窒化ホウ素ナノシートについて、溶媒の吸着量測定を比較例1と同様に行なった結果、溶媒に由来する重量減少は確認されず、用いた溶媒の吸着は認められなかった。
【0145】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの分散性測定、及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定を、実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0146】
更に、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの収率測定を比較例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0147】
(比較例4)
100mLの二口フラスコに80℃で12時間真空乾燥を行った後の六方晶窒化ホウ素(a−2)100mg及び酸(c−1)20mLを入れ、これに超音波処理(BRANSON社製卓上型超音波洗浄機「BRANSONIC B−220」を使用、発振周波数45kHz)を8時間施して、比較用の窒化ホウ素ナノシート含有分散液を得た。得られた分散液は白色であった。次に、実施例1と同様の方法で、前記分散液から比較用窒化ホウ素ナノシートを作製した。
【0148】
得られた比較用窒化ホウ素ナノシートについて、溶媒の吸着量測定を比較例1と同様に行なった結果、酸(c−1)に相当する重量減少は確認されず、酸(c−1)の吸着は認めらなかった。この結果から、98%濃硫酸は窒化ホウ素ナノシートに吸着しておらず、実施例1〜3及び5において超酸(b−1)を用いて製造した窒化ホウ素ナノシート複合体で超酸由来化合物として硫酸の吸着が確認された理由としては、超酸が一旦窒化ホウ素ナノシート表面に吸着した後、その少なくとも一部が水との反応で硫酸を生成したためと考えられる。
【0149】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの分散性測定、及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定を、実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0150】
更に、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの収率測定を比較例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0151】
(比較例5)
窒化ホウ素(a−1)の代わりに窒化ホウ素(a−2)を用い、超酸の代わりの溶媒として超酸以外の酸(c−2)を用いた以外は、実施例1と同様にして比較用窒化ホウ素ナノシート分散液及び比較用窒化ホウ素ナノシートを作製した。
【0152】
得られた比較用窒化ホウ素ナノシートについて、溶媒の吸着量測定を比較例1と同様に行なった結果、酸(c−2)の吸着量は0.3質量部であった。
【0153】
また、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの分散性測定、及び窒化ホウ素ナノシート複合体含有分散液中の窒化ホウ素ナノシート濃度測定を、実施例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0154】
更に、得られた比較用窒化ホウ素ナノシートの収率測定を比較例1と同様に行なった。その結果を表1に示す。
【0155】
<評価結果>
表1に示した実施例1〜5の結果と比較例1〜5の結果との比較から明らかなように、実施例1〜5の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体は、分散性(分散安定性)に優れていることが確認された。
【0156】
なお、実施例1〜5と比較例1〜5との比較から、実施例1〜5においては超酸を用いることにより窒化ホウ素ナノシートの収率が高くなり、剥離性が向上したことが確認された。また、実施例1〜5において得られた窒化ホウ素ナノシート複合体は、比較例1〜5の比較用窒化ホウ素ナノシートと比較して、IPA中での分散性にも優れ、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した高濃度の分散液を作製できることが確認された。更に、実施例1と実施例4との比較から、超酸としてハロゲンが直接S原子に結合したクロロスルホン酸を用いることにより、トリフルオロメタンスルホン酸を用いた場合と比較して、吸着性、収率及び得られた窒化ホウ素ナノシート複合体のIPA中での分散性に優れることが確認された。また、実施例1と実施例5との比較から、窒化ホウ素ナノシート含有分散液において、高回転数で長時間撹拌するより、比較的弱い超音波処理を比較的短時間施す混合処理とすることで、吸着性、収率及び得られた窒化ホウ素ナノシート複合体のIPA中での分散性が大きく向上することが確認された。
【0157】
また、表2より、実施例2の窒化ホウ素ナノシート複合体は、比較例2と比較して層数が少なく、3層以下の窒化ホウ素ナノシートも得られていることが確認された。更に、実施例2の窒化ホウ素ナノシート複合体は、比較例2と比較して窒化ホウ素ナノシートの一辺の長さが大きいことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0158】
以上説明したように、本発明によれば、窒化ホウ素ナノシートが超酸中に高度に分散した窒化ホウ素ナノシート含有分散液、溶媒中や樹脂中での分散性に優れた窒化ホウ素ナノシート複合体を得ることが可能となる。また、本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体は耐熱性や耐酸化性に優れているため、製造時に高温が要求される高耐熱樹脂等へ添加するといった高温での使用や均一分散が可能となる。
【0159】
したがって、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液、窒化ホウ素ナノシート複合体及び本発明の窒化ホウ素ナノシート複合体を用いた樹脂組成物は、窒化ホウ素ナノシートが本来備える特性を活かすことができる用途、例えば、機械特性が求められる用途、電磁波遮蔽が求められる用途、耐熱性が求められる用途、寸法性(熱線膨張係数の低下)が求められる用途、高絶縁性と熱伝導性が求められる用途、電気伝導性が求められる用途、遠紫外線発光特性が要求される用途、高温での耐酸化性や耐化学反応性が求められる用途等幅広い用途に展開可能であり、例えば、自動車・航空機等の移動媒体用各種部品、電気・電子機器用各種部品、高熱伝導性シート、放熱板、電磁波吸収体、絶縁被膜、コーティング、グラフェンやカーボンナノチューブ等の機能性素材用の基板、リチウム二次電池等の二次電池の電解液、電気二重層コンデンサ(キャパシタ)、燃料電池用の電解質、各種熱流体、光学デバイス素材、マイクロエレクトロニクス部品(半導体関連の各種部品等)等に好適に用いることができる。
また、本発明の窒化ホウ素ナノシート含有分散液及び窒化ホウ素ナノシート複合体の製造においては高価又は複雑な製造プロセスは不要とすることができ、窒化ホウ素ナノシート含有分散液や窒化ホウ素ナノシート複合体及び窒化ホウ素ナノシート複合体を用いて得られる樹脂組成物等の生産コストを削減することも可能となる。