特許第6284024号(P6284024)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284024細胞生死判定システム、細胞生死判定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284024
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】細胞生死判定システム、細胞生死判定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/45 20060101AFI20180215BHJP
   C12M 1/34 20060101ALI20180215BHJP
   C12Q 1/06 20060101ALI20180215BHJP
   G06T 1/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01N21/45 Z
   C12M1/34 B
   C12M1/34 D
   C12Q1/06
   G06T1/00 295
【請求項の数】8
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-92481(P2014-92481)
(22)【出願日】2014年4月28日
(65)【公開番号】特開2015-210212(P2015-210212A)
(43)【公開日】2015年11月24日
【審査請求日】2016年10月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(72)【発明者】
【氏名】谷口 大相
(72)【発明者】
【氏名】石川 徹也
【審査官】 伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】 特開2014−029287(JP,A)
【文献】 特開2013−118848(JP,A)
【文献】 特開2010−022318(JP,A)
【文献】 特表2007−524834(JP,A)
【文献】 特開2010−281637(JP,A)
【文献】 特開平05−046766(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0031819(US,A1)
【文献】 LIYUN,Y. et al.,Spermatogonium image recognition using Zernike moments,COMPUTER METHODS AND PROGRAMS IN BIOMEDICINE,2009年,95,10-22
【文献】 Hu,M.K.,Visual Pattern Recognition by Moment Invariants,IRE TRANSACTIONS ON INFORMATION THEORY ,米国,1962年 2月,8/2,179-187
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00−21/01
G01N 21/17−21/61
C12M 1/00− 1/42
C12Q 1/00−1/70
G06T 1/00−1/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、
前記細胞に関するテンプレート画像を取得するテンプレート画像取得部と、
前記細胞に関するHuモーメントの特徴量評価値を線形結合するためのパラメータ取得するパラメータ取得部と、
取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、
前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、
連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、
連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、
算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定部と、
を備えたことを特徴とする細胞生死判定システム。
【請求項2】
前記連続画像取得部は、各画像を取得した時刻を記録し、
前記判定部は、この時刻に基づいて、生細胞が死細胞に変化した時刻を記録することを特徴とする請求項1に記載の細胞生死判定システム。
【請求項3】
基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、
取得した画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付部と、
受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成部と、
取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、
抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、
連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、
連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、
算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出部と、
を備えたことを特徴とする細胞生死判定システム。
【請求項4】
前記パラメータ算出部は、サポートベクターマシンを用いてパラメータの値を設定することを特徴とする請求項3に記載の細胞生死判定システム。
【請求項5】
基準データ作成用の細胞の位相差画像および観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、
取得した基準データ作成用の細胞の位相差画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付部と、
受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成部と、
取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、
抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、
連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、
連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、
算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出部と、
算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定部と、を備えたことを特徴とする細胞生死判定システム。
【請求項6】
観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得ステップと、
前記細胞に関するテンプレート画像を取得するテンプレート画像取得ステップと、
前記細胞に関するHuモーメントの特徴量評価値を線形結合するためのパラメータ取得するパラメータ取得ステップと、
取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、
前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、
連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、
算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする細胞生死判定方法。
【請求項7】
基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得ステップと、
取得した画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付ステップと、
受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成ステップと、
取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、
抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、
連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、
算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出ステップと、
を有することを特徴とする細胞生死判定方法。
【請求項8】
基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する基準データ作成用画像取得ステップと、
取得した基準データ作成用画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付ステップと、
受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成ステップと、
取得した各基準データ作成用画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、
抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
連続する基準データ作成用画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、
連続する基準データ作成用画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、
算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出ステップと、
観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する観察対象画像取得ステップと、
取得した各観察対象画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、
前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、
連続する観察対象画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、
連続する観察対象画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、
算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定ステップと、
を有することを特徴とする細胞生死判定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞の生死を判定する技術に関し、特に、長時間に渡ってリアルタイムで細胞の生死判定を行なうための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、細胞の生死を判定する場合、色素や内在性の蛍光物質をマーカーとして用いる手法が広く行なわれており、
「色素で染色された細胞の吸光を測定する方法」
「色素で染色された細胞の蛍光、または内在性の蛍光物質を作る細胞の蛍光を測定する方法」
が代表的である。これらの方法は、例えば、図12に示す顕微鏡300を用いて行なわれる。
【0003】
「色素で染色された細胞の吸光を測定する方法」では、まず、観察対象の細胞に、死細胞のみが取り込む特殊な色素、例えば、トリパンブルーを含ませて試料部320として顕微鏡300に載置する。この色素が吸収する波長の光を透過撮影光源照射部310から試料部320の細胞に照射する。なお、透過撮影光源照射部310は、透過撮影用光源311、レンズ312、フィルタ313、レンズ314を含んでいる。
【0004】
照射した光に対する細胞による吸光の具合を対物レンズ330、フィルタ350、レンズ360を介して撮像装置370に取り込んで画像化する。色素で染色された死細胞は照射光を吸収するが、生細胞は吸収しないため、得られた画像において、死細胞は暗く写り、生細胞は明るく写る。この輝度差を利用して細胞の生死判定を行なうことができる。
【0005】
「色素で染色された細胞の蛍光、または内在性の蛍光物質を作る細胞の蛍光を測定する方法」では、生細胞または死細胞のみが染色される特殊な蛍光物質を観察対象の細胞に含ませて、あるいは、内在性の蛍光物質、例えば、蛍光タンパク質や自家蛍光物質を作ることのできる細胞を観察対象として用意して、試料部320として顕微鏡300に載置する。これらの蛍光物質が励起される波長の光を励起光照射部380からダイクロイックミラー340を介して試料部320の細胞に照射する。なお、励起光照射部380は、励起用光源381、レンズ382、フィルタ383を含んでいる。
【0006】
そして、細胞が発する蛍光を対物レンズ330、フィルタ350、レンズ360を介して撮像装置370に取り込んで画像化する。一般に、染色に用いる蛍光物質や細胞に含ませる蛍光物質は、蛍光の輝度値が生細胞と死細胞とで優位に異なるようにデザインされているため、輝度差を利用して細胞の生死判定を行なうことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2012−143231号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の方法のうち、「色素で染色された細胞の吸光を測定する方法」、「色素で染色された細胞の蛍光を測定する方法」では、色素で観察対象の細胞を染色する工程が必要である。生死判定に用いる染色色素は1度染色すると細胞に沈着し、長期的な染色では生細胞に対する細胞毒性を有するものがあるため、染色による細胞の生死判定はエンドポイントで行なうことになる。このため、長時間に渡ってリアルタイムで生死判定を行なうことができない。
【0009】
また、染色試薬の調整、染色作業、計測前の染色液の洗浄といった手間と金銭的コストがかかるのに加え、染色濃度や洗浄工程において作業者間誤差が生まれやすいため、測定結果の信憑性を担保するのにノウハウと習熟とが必要となる。
【0010】
上述の方法のうち色素の染色を行なわない「内在性の蛍光物質を用いる方法」でも、内在性の蛍光物質として蛍光タンパク質を利用する場合は、長時間の蛍光観察は細胞に対する光毒性があることが知られており、長時間に渡ってリアルタイムで生死判定を行なうことができない。また、遺伝子工学を適用して細胞に蛍光タンパク質遺伝子を事前に導入するという煩雑な作業が必要となる。
【0011】
内在性の蛍光物質として自家蛍光を利用する場合は、事前の遺伝子導入作業は不要であるが、弱い自家蛍光シグナルを検出するために強力な励起光を細胞に照射する必要がある。このため、光毒性の観点から、長時間に渡ってリアルタイムで生死判定を行なうことはできない。さらに、微弱な自家蛍光シグナルが培地の背景蛍光に埋もれないようにするために、培地を、蛍光を発しない無栄養な液体に交換しなければならず、この点においても、長時間に渡るリアルタイムでの生死判定は不可能である。
【0012】
そこで、本発明は、煩雑な作業を必要とせず、長時間に渡ってリアルタイムで細胞の生死判定を行なうことができる技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本発明の第1の態様である細胞生死判定システムは、観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、前記細胞に関するテンプレート画像を取得するテンプレート画像取得部と、前記細胞に関するHuモーメントの特徴量評価値を線形結合するためのパラメータ取得するパラメータ取得部と、取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定部と、を備えたことを特徴とする。
ここで、前記連続画像取得部は、各画像を取得した時刻を記録し、前記判定部は、この時刻に基づいて、生細胞が死細胞に変化した時刻を記録するようにしてもよい。
上記課題を解決するため、本発明の第2の態様である細胞生死判定システムは、基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、取得した画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付部と、受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成部と、取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出部と、を備えたことを特徴とする。
ここで、前記パラメータ算出部は、サポートベクターマシンを用いてパラメータの値を設定することができる。
上記課題を解決するため、本発明の第3の態様である細胞生死判定システムは、基準データ作成用の細胞の位相差画像および観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得部と、取得した基準データ作成用の細胞の位相差画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付部と、受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成部と、取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出部と、抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出部と、連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結部と、連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出部と、算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出部と、算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定部と、を備えたことを特徴とする。
上記課題を解決するため、本発明の第4の態様である細胞生死判定方法は、観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得ステップと、前記細胞に関するテンプレート画像を取得するテンプレート画像取得ステップと、前記細胞に関するHuモーメントの特徴量評価値を線形結合するためのパラメータ取得するパラメータ取得ステップと、取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする。
上記課題を解決するため、本発明の第5の態様である細胞生死判定方法は、基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する連続画像取得ステップと、取得した画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付ステップと、受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成ステップと、取得した各画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、連続する画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、連続する画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出ステップと、を有することを特徴とする。
上記課題を解決するため、本発明の第6の態様である細胞生死判定方法は、基準データ作成用の細胞の位相差画像を連続的に取得する基準データ作成用画像取得ステップと、取得した基準データ作成用画像の一部について、細胞領域および細胞の生死情報の入力を受け付ける細胞情報入力受付ステップと、受け付けた細胞領域に基づいてテンプレート画像を生成するテンプレート画像生成ステップと、取得した各基準データ作成用画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、抽出された細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、連続する基準データ作成用画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、連続する基準データ作成用画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、算出した特徴量評価値をパラメータで線形結合した値が前記同一細胞として連結された細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定するパラメータ算出ステップと、観察対象の細胞の位相差画像を連続的に取得する観察対象画像取得ステップと、取得した各観察対象画像から前記テンプレート画像を用いて細胞領域を抽出する細胞領域抽出ステップと、前記細胞領域毎にHuモーメントの複数個の特徴量を算出する特徴量算出ステップと、連続する観察対象画像に含まれる細胞領域について、同一の細胞を連結する同一細胞連結ステップと、連続する観察対象画像における同一細胞の前記特徴量の分散に関する特徴量評価値を特徴量毎に算出する特徴量評価値算出ステップと、算出した特徴量評価値を前記パラメータで線形結合した値に基づいて、細胞の生死を判定する判定ステップと、を有することを特徴とする。


【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、煩雑な作業を必要とせず、長時間に渡ってリアルタイムで細胞の生死判定を行なうことができる技術が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態に係る細胞生死判定システムの機能構成を示すブロック図である。
図2】位相差顕微鏡のハードウェア構成を模式的に示す図である。
図3】基準データ生成部の動作について説明するフローチャートである。
図4】細胞領域の指定の受け付けを説明する図である。
図5】切り出された細胞の画像とぼかし処理を施して作成したテンプレート画像とを示す図である。
図6】生成したテンプレート画像を示す図である。
図7】Huモーメントを説明する式である。
図8】細胞のラベリングを説明する図である。
図9】細胞の生死情報の入力受け付けを説明する図である。
図10】特徴量評価値について説明する図である。
図11】細胞生死判定部の動作について説明するフローチャートである。
図12】従来の細胞生死判定を行なう顕微鏡を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1は、本実施形態に係る細胞生死判定システム100の機能構成を示すブロック図である。本図に示すように、細胞生死判定システム100は、位相差顕微鏡10、基準データ生成部20、細胞生死判定部30を備えている。
【0017】
位相差顕微鏡10は、光線の位相差をコントラストに変換して観察できる光学顕微鏡であり、光学系11、試料部12、連続画像生成部16を備えている。試料部12は、基準データの作成に用いる基準データ作成用試料13と、観察対象の細胞である観察対象試料14と、観察対象試料14を長時間培養するための培養管理部15とを含んでいる。ここで、基準データは、観察対象試料14の生死判定を行なう際に用いるテンプレート画像とパラメータであり、細胞生死判定部30が行なう生死判定に先立ち、基準データ生成部20が作成するデータである。
【0018】
連続画像生成部16は、例えば、10fps以上のビデオレートで画像を撮影し、無劣化の連続画像として出力する。基準データ作成用試料13の連続画像は、基準データ生成部20が取り込み、観察対象試料14の連続画像は、細胞生死判定部30が取り込む。
【0019】
図2は、位相差顕微鏡10のハードウェア構成の一例を模式的に示す図である。本図の例では、光学系11として、透過撮影光源照射部110、対物レンズ130、干渉光結像部140を備えている。透過撮影光源照射部110は、透過撮影用光源111、レンズ112、リングスリット113、レンズ114を含み、干渉光結像部140は、位相板141、レンズ142を含んでいる。位相板141は、光の位相を1/4λずらす1/4波長板と、光を吸収するNDフィルタがリング状に形成されており、それ以外の部分は透明になっている。また、撮像装置160で連続画像生成部16を構成している。
【0020】
試料部12の培養管理部150としては、培養液151、温度コントローラ152を含んでいる。すなわち、本実施形態において、観察対象試料14である細胞はいかなる色素でも染色されず、温度コントローラ152により温度管理された培養液151に浸っている。
【0021】
なお、基準データ作成用試料13は、観察対象試料14の細胞と同じ生物の同じ部位の細胞を用いるものとする。ここで、基準データ作成用試料13については、後述するようにエンドポイントでの観察を行なうため、従来同様の色素による染色を用いた生死判定を行なうことができる。
【0022】
位相差顕微鏡10では、透過撮影光源照射部110から照射された光の一部(実線)は細胞を透過し、残りの光(破線)は細胞によって回折して対物レンズ130に向かう。回折光は位相板141をそのまま通過するが、透過光は位相板141のリング状の部分で波長が1/4波長分だけ遅れ、かつ強度も減る。
【0023】
これにより、透過光と回折光の槽が合わさって干渉するようになり、撮像装置160の結像面で生成される像中では、細胞が存在する部分は明るくなり、細胞のいない部分は暗くなる。これを利用し、細胞の輪郭形状が際立ったハイコントラスト画像(位相差画像)が取得される。本実施形態では、位相差顕微鏡10による位相差画像を用いることで、透明で見にくい細胞でも、精度高く検出できるようにしている。
【0024】
図1の説明に戻って、基準データ生成部20は、連続画像取得部21、細胞情報入力受付部22、テンプレート画像生成部23、細胞領域抽出部24、特徴量算出部25、同一細胞連結部26、特徴量評価値算出部27、パラメータ算出部28を備えている。なお、特に図示していないが、基準データ生成部20は、取得した連続画像を格納したり、生成したテンプレート画像、パラメータ等を保存する記憶領域を有している。
【0025】
連続画像取得部21は、位相差顕微鏡10の連続画像生成部16から、基準データ作成用試料13の連続画像を取得する。細胞情報入力受付部22は、取得した連続画像の一部について、オペレータから細胞の領域と生死情報の入力を受け付ける。
【0026】
テンプレート画像生成部23は、オペレータから入力した細胞の領域に基づいて細胞検出用のテンプレート画像を作成する。細胞領域抽出部24は、テンプレート画像に基づいて、基準データ作成用試料13の連続画像のそれぞれから細胞領域を抽出する。特徴量算出部25は、抽出された各細胞領域について複数個の特徴量を算出する。ここで、特徴量はHuモーメントを用いるものとし、1画像中の各細胞について6つの特徴量を算出するものとする。
【0027】
同一細胞連結部26は、基準データ作成用試料13の連続画像から、同一の細胞を追跡してそれぞれを連結する。同一細胞の追跡は、前後する画像において最も距離の近い細胞を同一の細胞とみなして行なう。特徴量評価値算出部27は、連続画像において連結された各細胞について、特徴量毎の特徴量評価値を算出する。ここで、特徴量評価値は、時系列で変化する各特徴量の分散に関する値とする。本実施形態では、各細胞について6つの特徴量を算出するため、特徴量評価値も各細胞について6つ算出される。
【0028】
パラメータ算出部28は、パラメータを用いて複数個の特徴量評価値を線形結合させたときに、その値の符号が細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定する。ここで、パラメータの値の設定には、サポートベクターマシンと呼ばれる機械学習手法を用いる。パラメータは、各細胞について6つの特徴量に対応する6つの係数と、1つの定数項の合計7つ設定するものとする。
【0029】
細胞生死判定部30は、テンプレート画像取得部31、パラメータ取得部32、連続画像取得部33、細胞領域抽出部34、特徴量算出部35、同一細胞連結部36、特徴量評価値算出部37、判定部38を備えている。なお、特に図示していないが、細胞生死判定部30は、取得したテンプレート画像、パラメータ、連続画像を格納したり、細胞の生死判定結果や死亡時刻等を記録する記憶領域を有している。
【0030】
テンプレート画像取得部31は、基準データ生成部20のテンプレート画像生成部23が生成したテンプレート画像を取得する。パラメータ取得部32は、基準データ生成部20のパラメータ算出部28が算出したパラメータを取得する。連続画像取得部33は、位相差顕微鏡10の連続画像生成部16から、観察対象試料14の連続画像をリアルタイムで取得する。
【0031】
細胞領域抽出部34は、テンプレート画像に基づいて、観察対象試料14の連続画像のそれぞれから細胞領域を抽出する。特徴量算出部35は、抽出された各細胞領域について複数個の特徴量を算出する。特徴量は、基準データ生成部20の特徴量算出部25が用いた特徴量と同様とする。
【0032】
同一細胞連結部36は、観察対象試料14の連続画像から、同一の細胞を追跡してそれぞれを連結する。特徴量評価値算出部37は、連続画像において連結された各細胞について、複数個の特徴量評価値を算出する。特徴量評価値は、基準データ生成部20の特徴量評価値算出部27が算出する特徴量評価値と同様とする。
【0033】
判定部38は、パラメータを用いて特徴量評価値を線形結合し、その値の符号に基づいて、各細胞の生死をリアルタイムに判定する。ある細胞が生細胞から死細胞に変化した場合には、その時刻を特定し、記録する。
【0034】
基準データ生成部20、細胞生死判定部30は、それぞれのブロックとして動作するアプリケーションソフトウェアをインストールしたPC等の情報処理装置で構成することができる。基準データ生成部20、細胞生死判定部30は、同一の情報処理装置で構成してもよいし、別々の情報処理装置で構成してもよい。基準データ生成部20と細胞生死判定部30とを別々の情報処理装置で構成する場合には、基準データ生成部20がテンプレート画像とパラメータとを生成するサービスを行ない、細胞生死判定部30がテンプレート画像とパラメータの提供を受ける形態としてもよい。
【0035】
次に、基準データ生成部20の動作について図3のフローチャートを参照して説明する。
【0036】
まず、連続画像取得部21が位相差顕微鏡10の連続画像生成部16から、基準データ作成用試料13のN枚の連続画像を取得する(S101)。ここで、基準データ作成用試料13は、観察対象試料14の細胞と同じ生物の同じ部位の細胞であり、あらかじめ従来の染色手法等により、各細胞の生死が判明しているものとする。取得する連続画像の枚数Nは、例えば、10fpsで30秒間撮影した300枚とすることができる。連続画像は無劣化のフォーマットで格納する。
【0037】
細胞情報入力受付部22は、取得したN枚の連続画像からランダムに数枚を抜き出して、それぞれの画像についてオペレータから細胞領域の指定を受け付ける(S102)。細胞領域の指定は、例えば、図4(a)に示すような画像について、図4(b)に示すように、画像に含まれる細胞を中心とした正方領域の指定をオペレータの操作により受け付けることで行なうことができる。
【0038】
基準データ作成用試料13の細胞の生死は判明しているため、生細胞の数と死細胞の数がほぼ同数となるように、細胞領域を指定することが望ましい。オペレータは、例えば、生細胞、死細胞それぞれ5個程度となるように複数枚の画像から細胞領域を指定する。この個数は、後のテンプレートマッチング処理による細胞検出率が、例えば、95%以上となるように適宜変更することができる。
【0039】
細胞領域の指定を受け付けると、細胞情報入力受付部22が、細胞領域を切り出し、テンプレート画像生成部23がテンプレート画像を生成して(S103)、保存する。テンプレート画像は、切り出された細胞の画像にぼかし処理を施すことで作成する。これは、後のテンプレートマッチング処理による細胞検出率を高めるためである。
【0040】
図5は、切り出された細胞の画像とぼかし処理を施して作成したテンプレート画像とを示している。ぼかし処理は、例えば、ガウス関数を積分核として切り出された細胞の画像との畳み込み積分により行なうことができる。この場合、ガウス関数の分散値は、例えば、細胞半径の1/10程度に設定する。ただし、他のアルゴリズムによりぼかし処理を行なってもよい。
【0041】
テンプレート画像は、オペレータによって指定された細胞領域の個数分生成されることになる。この結果、図6に示すように、生細胞、死細胞についてそれぞれ複数個のテンプレート画像が生成され、保存される。ただし、テンプレート画像自体に生細胞、死細胞の情報は不要である。
【0042】
次に、細胞領域抽出部24が、N枚の連続画像から処理対象画像を順次設定し(S104)、細胞領域の抽出を行なう(S105)。処理対象画像は、例えば、N枚の連続画像の1枚目から時系列順に設定していく。
【0043】
細胞領域の抽出は、テンプレート画像を用いたテンプレートマッチングにより行なう。テンプレートマッチングは、各テンプレート画像を、処理対象画像中をラスタスキャンしながら類似度を算出し、類似度が所定の基準値以上であればその領域を細胞領域と判定する。類似度は、例えば、画素毎の差に基づいて評価することができる。所定の基準値は細胞検出率が、例えば、95%以上となるように適宜調整することができる。細胞領域抽出部24は、検出した全細胞領域について、細胞領域の中心座標を記録する。
【0044】
処理対象画像から細胞領域が検出されると、特徴量算出部25が、それぞれの細胞領域について特徴量を算出する(S106)。ここで、特徴量は、Huモーメントを用いる。Huモーメントは、画像中に存在する物体の並進と回転、および画像全体の輝度値の定数倍に対して不変な量であり、H〜Hの7つの特徴量で類似画像を検出するものである。ただし、本実施形態では、図7に示すH〜Hの6つの特徴量を用いるものとする。これは、本実施形態に係る細胞生死判定システム100の実装上、Hで表わされる特徴量の寄与度が低いためである。
【0045】
図7に示すようにH〜Hの6つの特徴量は、細胞領域内の各画素(x、y)の輝度分布に基づいて算出することができる(詳細については、Ming-Kuei Hu, "Visual Pattern Recognition by Moment Invariants," Information Theory IRE Transactions, vol.8, pp. 179-187, 1962.)。
【0046】
本実施形態では、後述するように、細胞の形態の時間的な変化の度合いにより、リアルタイムで細胞の生死を判定するが、Huモーメントを用いることで、透過撮影用光源111の光量変化や、層流や渦等の試料部12内の流体の流れによって細胞重心が動いてしまったり、細胞が回転するといった事象にも影響を受けずに、細胞の形態変化を適切に評価することができる。
【0047】
処理画像中の全細胞領域について特徴量を算出すると、全画像に対する処理が終了してなければ(S107:No)、次の処理対象画像を設定し(S104)、細胞領域の抽出(S105)、各細胞の特徴量算出(S106)を行なう。
【0048】
N枚の全画像に対する処理が終了すると(S107:Yes)、同一細胞連結部26が、前後の画像について同一の細胞を追跡し、各細胞を時系列に連結する(S108)。同一の細胞の追跡は、連続画像の撮影時間間隔が短いため、前後する画像において最も距離の近い細胞が同一であるとみなすことにより行なう。
【0049】
例えば、図8に示すように、画像に写っているM=6個の全細胞をnの値でラベリングしたとすると、時刻jΔtに取得された画像に写っている細胞Cと時刻(j+1)Δtに取得された画像に写っている細胞Cとの対応付けは、[数1]を満たすnでラベリングされた細胞を特定することで行なうことができる。
【数1】
この処理を、1枚目の画像から最後の画像まで各細胞について行なうことで、同一細胞を時系列的に連結することができる。これにより、同一細胞の形態の時間的変化を把握することができるようになる。
【0050】
次に、細胞情報入力受付部22が、連結された同一細胞について、それぞれの細胞の生死情報の入力をオペレータから受け付ける(S109)。生死情報の入力は、図9に示すように、ある画像、例えば、1枚目の画像を細胞領域とともに表示して、それぞれの細胞領域毎に、生細胞、死細胞の指示をオペレータの操作により受け付けることで行なうことができる。ただし、生死情報の入力は、別のタイミングで受け付けるようにしてもよい。例えば、処理(S102)におけるオペレータによる細胞領域の指定の受け付けとともに、生死情報の入力を受け付けるようにしてもよい。
【0051】
全画像の各細胞領域について算出された特徴量に基づいて、特徴量評価値算出部27が、同一細胞として連結された細胞毎に特徴量評価値を算出する(S110)。
【0052】
ここで、本実施形態の特徴量評価値について説明する。仮にある細胞が、時刻t1〜t4にかけて、図10(a)に示すような動きをしたとする。試料部12中の流体の動き等により、生死状態に関わらず細胞は平行移動したり回転するため、図10(a)の動きだけで細胞の生死を精度高く判定することはできない。
【0053】
しかしながら、生細胞であれば、図10(b)に示すように、細胞の形態自体が自発的に変化する。このため、Huモーメントの各特徴量が頻繁に変化し、特徴量の時間的な分散値が大きくなる。一方、死細胞であれば、図10(c)に示すように、細胞の形態は変化しないため、物体の並進と回転、および画像全体の輝度値の定数倍に対して不変なHuモーメントの各特徴量はほとんど変化せず、分散値は小さくなる。
【0054】
そこで、本実施形態では、Huモーメントの各特徴量のN枚の画像における分散値に関する値を特徴量評価値として用いるものとする。ただし、分散値をそのまま特徴量評価値として用いると、生細胞と死細胞とでオーダーが異なるため、[数2]に示すように、便宜的に各特徴量の分散値の常用対数を特徴量評価値として用いるものとする。なお、細胞により、形態の変化の態様が異なるため、細胞の性質に適した撮像レートと撮像時間、あるいは特徴量評価値を選択することが望ましい。
【数2】
本実施形態において、Huモーメントの特徴量は、各細胞についてH〜Hの6種類算出するため、特徴量評価値も各細胞についてV〜Vの6種類得られる。
【0055】
各細胞について、V〜Vの6種類の特徴量評価値を算出すると、パラメータ算出部28が、[数3]に示すように、c〜cの7つのパラメータを用いて複数個の特徴量評価値を線形結合させたときに、その値の符号が細胞の生死を表わすようにパラメータの値を設定する。[数3]において、c(k=1,2,3,4,5,6)は、Vの係数となるパラメータであり、cは定数項である。
【数3】
ここで、パラメータの値の設定には、サポートベクターマシンと呼ばれる機械学習手法を用いる。機械学習の際には、処理(S109)でオペレータから入力された細胞の生死情報を基準に各パラメータを最適化する。ただし、他の手法を用いてパラメータを設定するようにしてもよい。なお、[数3]に示すような線形結合に限られず、例えば、AdaBoost等の手法で生死の判定を行なうようにしてもよい。AdaBoostは、機械学習の一手法であり、弱い識別器をその重要度に合わせて重みをつけて組み合わせることにより強い識別器を生成するものである。
【0056】
基準データ生成部20は、以上の手順により生成したテンプレート画像とパラメータとを記録し、細胞生死判定部30が参照できるようにする。基準データ生成部20と細胞生死判定部30とを別の装置で構成する場合には、通信ネットワークや可搬型の記録媒体等を用いることにより、細胞生死判定部30がテンプレート画像とパラメータとを参照できるようにする。
【0057】
次に、細胞生死判定部30の動作について図11のフローチャートを参照して説明する。まず、実際の観察に先立ち、生死判定観察の終了条件をオペレータから受け付ける(S201)。終了条件は、例えば、観察総時間、観察終了時刻、終了指示受け付け等とすることができる。
【0058】
また、テンプレート画像取得部31が、基準データ生成部20のテンプレート画像生成部が生成したテンプレート画像を取得し(S202)、パラメータ取得部32が、基準データ生成部20のパラメータ算出部28が算出したパラメータを取得する(S203)。
【0059】
生死判定観察を開始すると、連続画像取得部33が位相差顕微鏡10の連続画像生成部16から、観察対象試料14の画像を1枚取得し(S204)、記録する。この際に、画像を取得した時刻の情報も記録する。なお、生死判定観察において、観察対象試料14は、上述のように、いかなる色素でも染色されておらず、温度管理された培養液151に浸っている。また、位相差顕微鏡10の連続画像生成部16は、ビデオレートで観察対象試料14の連続画像を撮像し、リアルタイムで出力する。
【0060】
取得した画像について、細胞領域抽出部34が、テンプレート画像を用いたテンプレートマッチングを行ない、細胞領域を抽出する(S205)。テンプレートマッチングは、処理(S105)と同様とすることができる。
【0061】
抽出された各細胞領域について、特徴量算出部35が、それぞれの細胞領域について特徴量を算出する(S206)。特徴量は、処理(S106)と同様に、HuモーメントのH〜Hの6つの特徴量について算出する。
【0062】
次に、同一細胞連結部36が、抽出された各細胞領域を、先行する画像内の同一の細胞領域と連結する(S207)。同一細胞の連結は、前画像において最も距離の近い細胞が同一の細胞であるとみなすことにより行なう。なお、本処理は、前画像が存在しない1枚目の画像については省略する。
【0063】
同一の細胞について、特徴量が時系列で得られると、特徴量評価値算出部37が、細胞毎に特徴量評価値を算出する(S208)。特徴量評価値の算出は、処理(S110)と同様とすることができる。このため、例えば、直近のN枚の画像を用いて特徴量評価値、すなわち、特徴量の時間的分散に関する値を細胞毎に算出する。N枚の画像が揃う前は、得られた画像のみで特徴量評価値を算出してもよいし、N枚揃ってから特徴量評価値の算出を開始するようにしてもよい。
【0064】
各細胞について特徴量評価値を算出すると、判定部38が生死判定を行なう。生死判定は、各細胞について、[数3]に示すように、処理(S208)で算出した特徴量評価値V〜Vを、処理(S202)で取得したパラメータc〜cを用いて線形結合し、その値が正であれば生細胞であると判定し、その値が負であれば死細胞であると判定する。なお、すでに死細胞と判定されている細胞については判定を省略してもよい。
【0065】
前画像まで生細胞であると判定されていた細胞が、死細胞と判定された場合には、その画像を取得した時刻を死亡時刻として記録する(S210)。これにより、リアルタイムで死亡判定を行なうことができるのに加え、細胞の死亡タイミングを把握できるようになる。
【0066】
生死判定観察の終了条件を満たしていない場合(S211:No)は、連続画像取得部33が位相差顕微鏡10の連続画像生成部16から、次の画像を取得し(S204)、以降の処理を繰り返す。画像取得の間隔は、基準データの生成時と同様のビデオレートとすることができる。処理済みの画像は廃棄してもよいし、動画として保存しておいてもよい。動画として保存する場合には、生死判定をバッチ処理で行なうこともできる。
【0067】
生死判定観察の終了条件を満たした場合(S211:Yes)は、生死判定観察処理を終了する。生死判定観察の結果は、ファイル作成、画面表示等任意の形式で出力することができる。
【0068】
以上説明したように、本実施形態の細胞生死判定システム100は、観察対象試料である細胞を色素で染色したり、強い光にさらすことなく、温度管理された培養液151に浸しているため、細胞を長期に渡って観察することができる。また、位相差顕微鏡で得られたハイコントラスト画像を連続的に取り込んで、画像毎に細胞の生死を判定しているため、リアルタイムで細胞の生死判定を行なうことができるとともに、死亡時刻も把握することができる。
【0069】
さらに、客観的で精度の高い生死判定を自動的に高速に行なうことができるため、オペレータによる判定結果のばらつきがなくなり、生死判定解析のスループットを高めることができる。
【符号の説明】
【0070】
10…位相差顕微鏡、11…光学系、12…試料部、13…基準データ作成用試料、14…観察対象試料、15…培養管理部、16…連続画像生成部、20…基準データ生成部、21…連続画像取得部、22…細胞情報入力受付部、23…テンプレート画像生成部、24…細胞領域抽出部、25…特徴量算出部、26…同一細胞連結部、27…特徴量評価値算出部、28…パラメータ算出部、30…細胞生死判定部、31…テンプレート画像取得部、32…パラメータ取得部、33…連続画像取得部、34…細胞領域抽出部、35…特徴量算出部、36…同一細胞連結部、37…特徴量評価値算出部、38…判定部、100…細胞生死判定システム、110…透過撮影光源照射部、111…透過撮影用光源、112…レンズ、113…リングスリット、114…レンズ、130…対物レンズ、140…干渉光結像部、141…位相板、142…レンズ、150…培養管理部、151…培養液、152…温度コントローラ、160…撮像装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12