(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
光ファイバをセンサとして用い、後方ラマン散乱光のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の強度比から前記光ファイバに沿った温度分布を算出する分布型温度測定装置において、
折り返し地点を中心として往復するように配置された光ファイバと、
前記光ファイバからの一端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第1の算出手段と、
前記光ファイバからの他端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第2の算出手段と、
前記第1の算出手段および前記第2の算出手段により得た算出結果の双方に基づいて双方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第1の温度分布情報を出力する第1の出力手段と、
前記第1の算出手段または前記第2の算出手段により得た算出結果の一方に基づいて片方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第2の温度分布情報を出力する第2の出力手段と、
前記光ファイバに沿った温度が急激に変化する温度変化点を抽出する抽出手段と、
前記抽出手段により抽出された温度変化点以外の地点については前記第1の出力手段により出力された前記第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については前記第2の出力手段により出力された前記第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成する合成手段と、
を備えることを特徴とする分布型温度測定装置。
前記合成手段は、前記温度変化点について、第2の出力手段から出力された前記第2の温度分布情報の空間分解能が維持される形態で温度分布を合成することを特徴とする請求項1に記載の分布型温度測定装置。
前記合成手段は、前記温度変化点について、第2の出力手段から出力された前記第2の温度分布情報から、互いに異なる測定位置間のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の変化幅比を算出し、この変化幅比を用いて前記温度変化点についての温度分布を得ることを特徴とする請求項1または2に記載の分布型温度測定装置。
光ファイバをセンサとして用い、後方ラマン散乱光のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の強度比から前記光ファイバに沿った温度分布を算出する分布型温度測定方法において、
折り返し地点を中心として往復するように配置された光ファイバを用い、
前記光ファイバからの一端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第1の算出ステップと、
前記光ファイバからの他端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第2の算出ステップと、
前記第1の算出ステップおよび前記第2の算出ステップにより得た算出結果の双方に基づいて双方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第1の温度分布情報を出力する第1の出力ステップと、
前記第1の算出ステップまたは前記第2の算出ステップにより得た算出結果の一方に基づいて片方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第2の温度分布情報を出力する第2の出力ステップと、
前記光ファイバに沿った温度が急激に変化する温度変化点を抽出する抽出ステップと、
前記抽出ステップにより抽出された温度変化点以外の地点については前記第1の出力ステップにより出力された前記第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については前記第2の出力ステップにより出力された前記第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成する合成ステップと、
を備えることを特徴とする分布型温度測定方法。
【背景技術】
【0002】
光ファイバをセンサとして用いた温度測定装置の一種に、光ファイバに沿った温度分布を測定するように構成された分布型温度測定装置(例えば、特開2012−27001号公報に開示された装置)がある。この技術は光ファイバ内で発生する後方散乱光を利用している。
【0003】
後方散乱光には、レイリー散乱光、ブリルアン散乱光、ラマン散乱光などがあるが、温度測定には温度依存性の高い後方ラマン散乱光が利用され、この後方ラマン散乱光を波長分波して測定を行う。後方ラマン散乱光には、入射光の波長に対して短い波長側に発生するアンチストークス光ASと、長い波長側に発生するストークス光STがある。
【0004】
光ファイバを用いた分布型温度測定装置は、これらアンチストークス光の強度Iasとストースク光の強度Istとを測定してその強度比から温度を算出し、光ファイバに沿った温度分布を表示するものであり、プラント設備の温度管理、防災関連の調査・研究、発電所や大型建設物の空調関連などの分野で利用されている。
【0005】
このような後方ラマン散乱光を利用した分布型温度測定装置は、光パルスを光ファイバの片側からのみ入射する片方向測定方式と、光パルスを光ファイバの両側から入射する双方向測定方式とに大別される。
【0006】
片方向測定方式の場合、ストークス光とアンチストークス光の波長差による光ファイバの伝送損失差の影響で、実際には同一温度であっても測定位置により温度測定値が一定ではなくなる。これに対し、特開2013−92388号公報等に開示された双方向測定方式では、ストークス光とアンチストークス光ともに双方向から測定した結果を合成することにより、光ファイバの伝送損失差が自動的に相殺され、測定位置に基づく誤差が大幅に抑制される。
【0007】
このような利点から、石油プラント等における温度測定では、双方向測定方式を用いた温度測定が主流となっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、双方向測定方式を用いた場合に、光ファイバ伝送中の分散による空間分解能の劣化を回避できないという問題がある。分散には主として波長分散とモード分散がある。光ファイバを用いた分布型温度測定装置では、光通信で使用されるシングルモードファイバではなく、ラマン散乱光の発生効率のよいマルチモードファイバが使われることが多い。このマルチモードファイバを用いる場合、片方向測定方式および双方向測定方式によらず、主にモード分散の影響による光パルスの劣化が問題となる。この分散の影響は、ファイバ長が増すにつれて顕著となり、分布型温度測定装置の性能の一つを示す空間分解能を悪化させる要因となる。
【0010】
本発明の目的は、空間分解能の優れた分布型温度測定装置等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の分布型温度測定装置は、光ファイバをセンサとして用い、後方ラマン散乱光のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の強度比から前記光ファイバに沿った温度分布を算出する分布型温度測定装置において、折り返し地点を中心として往復するように配置された光ファイバと、前記光ファイバからの一端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第1の算出手段と、前記光ファイバからの他端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第2の算出手段と、前記第1の算出手段および前記第2の算出手段により得た算出結果の双方に基づいて双方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第1の温度分布情報を出力する第1の出力手段と、前記第1の算出手段または前記第2の算出手段により得た算出結果の一方に基づいて片方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第2の温度分布情報を出力する第2の出力手段と、前記光ファイバに沿った温度が急激に変化する温度変化点を抽出する抽出手段と、前記抽出手段により抽出された温度変化点以外の地点については前記第1の出力手段により出力された前記第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については前記第2の出力手段により出力された前記第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成する合成手段と、を備えることを特徴とする。
この分布型温度測定装置によれば、温度変化点以外の地点については第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成するので、温度変化点における空間分解能を向上させつつ、双方向測定方式の利点であるファイバ損失差相殺効果を維持することができる。
【0012】
前記合成手段は、前記温度変化点について、第2の出力手段から出力された前記第2の温度分布情報の空間分解能が維持される形態で温度分布を合成してもよい。
【0013】
前記合成手段は、前記温度変化点について、第2の出力手段から出力された前記第2の温度分布情報から、互いに異なる測定位置間のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の変化幅比を算出し、この変化幅比を用いて前記温度変化点についての温度分布を得てもよい。
【0014】
本発明の分布型温度測定方法は、光ファイバをセンサとして用い、後方ラマン散乱光のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の強度比から前記光ファイバに沿った温度分布を算出する分布型温度測定方法において、折り返し地点を中心として往復するように配置された光ファイバを用い、前記光ファイバからの一端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第1の算出ステップと、前記光ファイバからの他端側からの測定により前記光ファイバに沿った前記強度比を算出する第2の算出ステップと、前記第1の算出ステップおよび前記第2の算出ステップにより得た算出結果の双方に基づいて双方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第1の温度分布情報を出力する第1の出力ステップと、前記第1の算出ステップまたは前記第2の算出ステップにより得た算出結果の一方に基づいて片方向測定方式を用いて前記光ファイバに沿った第2の温度分布情報を出力する第2の出力ステップと、前記光ファイバに沿った温度が急激に変化する温度変化点を抽出する抽出ステップと、前記抽出ステップにより抽出された温度変化点以外の地点については前記第1の出力ステップにより出力された前記第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については前記第2の出力ステップにより出力された前記第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成する合成ステップと、を備えることを特徴とする。
この分布型温度測定方法によれば、温度変化点以外の地点については第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成するので、温度変化点における空間分解能を向上させつつ、双方向測定方式の利点であるファイバ損失差相殺効果を維持することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明の分布型温度測定装置によれば、温度変化点以外の地点については第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成するので、温度変化点における空間分解能を向上させつつ、双方向測定方式の利点であるファイバ損失差相殺効果を維持することができる。
【0016】
また、本発明の分布型温度測定方法によれば、温度変化点以外の地点については第1の温度分布情報のみを用いるとともに、前記温度変化点については第2の温度分布情報を用いることにより、温度分布を合成するので、温度変化点における空間分解能を向上させつつ、双方向測定方式の利点であるファイバ損失差相殺効果を維持することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の分布型温度測定装置の実施形態について説明する。
【0019】
図1は、本実施形態の分布型温度測定装置の構成を示す図である。
【0020】
図1に示すように、本実施形態の分布型温度測定装置は、温度分布測定部1と、温度分布測定部1に接続された光ファイバFBと、温度分布測定部1および光ファイバFBを結合する光スイッチ3と、を備える。
【0021】
温度分布測定部1は、光ファイバFB内で生ずる後方ラマン散乱光(ストークス光および反ストークス光)を受光して光ファイバFBの長さ方向における温度分布を測定する光ファイバ測定装置(R−OTDR)として構成されている。光ファイバFBとして、例えば数Km〜数十Km程度の長さを有する石英系マルチモード光ファイバを用いることができる。なお、シングルモード光ファイバを用いてもよい。
【0022】
光ファイバFBは先端と後端とが光スイッチ3を介して温度分布測定部1に接続されることで、双方向ファイバとして機能する。光スイッチ3をチャネルA(先端)とチャネルB(後端)との何れかに切り替えることで、ファイバFBの先端または後端のいずれかと、温度分布測定部1とを選択的に接続する。これにより、光ファイバFBの温度分布を双方向測定することが可能となる。
【0023】
光ファイバFBは、光ファイバFBの中央を折り返し地点Pとして実質的に同一の温度測定点を通って往復するように配置される。
【0024】
なお、光ファイバFBの先端および後端は光スイッチ3に接続されるが、光スイッチ3から温度分布測定部1の内部にまで光ファイバは延在されている。ここでは、光スイッチ3を基端としてループ状に配置された光ファイバFBを双方向ファイバとして機能させている。
【0025】
図2は、温度分布測定部1の構成を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、温度分布測定部1は、光パルスを発生させるタイミング等を制御するパルス発生部11と、光パルスを射出する光源12と、光の方向を制御する方向性結合器13と、方向性結合器13からの光を受ける光フィルタ14と、光量を電圧値あるいは電流値に変換する一対の光電変換器15aおよび光電変換器15bと、光電変換器15aおよび光電変換器15bの出力をそれぞれ増幅する一対の増幅回路16aおよび増幅回路16bと、増幅回路16aおよび増幅回路16bから出力されるアナログ信号をそれぞれデジタル信号に変換するA/D変換回路17aおよびA/D変換回路17bと、A/D変換回路17aおよびA/D変換回路17bから出力されるサンプリングデータを平均化する平均化回路18と、平均化回路18からの出力に基づいて光ファイバFBの温度分布を算出する演算部19と、温度分布測定部1の内部の温度を与える温度基準部21と、光ファイバを着脱可能に接続するためのコネクタCNと、を備える。
【0027】
次に、温度分布測定部1に設けられた各要素の機能について説明する。
【0028】
パルス発生部11は、光源12からパルス光を発生させるタイミングおよび平均化回路18を動作させるタイミングを規定するパルス信号を出力する。光源12は、例えば半導体レーザ等を備えており、パルス発生部11からパルス信号が出力されるタイミングでパルス状のレーザ光を射出する。なお、光源12から射出されるレーザ光の波数をk0とする。方向性結合器13は、光源12から射出されたレーザ光が温度基準部21に導かれ、かつ、光ファイバFBで生じた後方散乱光が光フィルタ14に導かれるように、光源12、温度基準部21および光フィルタ14を光学的に結合する。
【0029】
温度基準部21は、巻き回された光ファイバ21aと温度センサ21bとを備えており、温度分布測定部1内部の温度(基準温度)を得るためのものである。光ファイバ21aは、一端が方向性結合器13と光学的に結合され、他端がコネクタCNと光学的に結合された数十〜数百m程度の全長を有する光ファイバである。温度センサ21bは、例えば白金測温抵抗体を備えており、光ファイバ21b近傍の温度を測定する。温度センサ21bの測定結果は演算部19に出力される。
【0030】
光フィルタ14は、方向性結合器13からの後方散乱光に含まれる後方ラマン散乱光(ストークス光STおよび反ストークス光AS)を抽出するとともにストークス光STと反ストークス光ASとを分離して出力するフィルタである。なお、光ファイバFBで生ずるラマンシフト(波数)をkrとすると、ストークス光STの波数はk0−krで表され、反ストークス光ASの波数はk0+krで表される。
【0031】
光電変換回路15a,15bは、例えばアバランシェ・フォトダイオード等の受光素子を備えており、光フィルタ14から出力されるストークス光STおよび反ストークス光ASをそれぞれ光電変換する。増幅回路16a,16bは光電変換回路15a,15bから出力される光電変換信号をそれぞれ所定の増幅率で増幅する。
【0032】
A/D変換回路17a,17bは、増幅回路16a,16bで増幅された光電変換信号をサンプリングし、デジタル化したサンプリングデータを出力する。これらA/D変換回路17a,17bは、光スイッチ3の位置(チャネルAおよびチャネルBの出口)を原点とし、光ファイバFBの長手方向に一定間隔(例えば、1mの間隔)で設定されたサンプリングポイントにおいて生ずる後方ラマン散乱光(ストークス光STおよび反ストークス光AS)の光電変換信号をサンプリングするように動作タイミングが設定される。
【0033】
平均化回路18は、パルス発生部11からのパルス信号によって動作し、光源12から複数回に亘って射出されるレーザ光が光ファイバFBに入射される度に得られるA/D変換回路17a,17bのサンプリングデータを、それぞれ個別に平均化する。光ファイバFBで生ずる後方ラマン散乱光(ストークス光STおよび反ストークス光AS)は微弱であるため、光ファイバFBに対して複数回に亘ってレーザ光を入射させて得られるサンプリングデータを平均化することにより、所望の信号対雑音比(S/N比)を得ている。
【0034】
演算部19は、温度センサ21bの測定結果を参照しつつ、平均化回路18により平均化されたストークス光STおよび反ストークス光ASのサンプリングデータを用いて、サンプリングポイント毎の強度比を求める演算を行う。かかる演算によってサンプリングポイント毎の温度が求められ、これにより光ファイバFBの長さ方向における温度分布が得られる。なお、演算部19では、光ファイバFBの特定部位の温度を測定する温度センサ(不図示)の測定結果に基づいて、上記温度分布を補正する。
【0035】
次に温度分布測定の原理を説明する。ストークス光およびアンチストークス光の信号強度を光源1における発光タイミングを基準にした時間の関数として表すと、光ファイバFB中の光速が既知であるので、光スイッチ3を基準にして光ファイバFBに沿った距離の関数に置き換えることができる。すなわち、横軸を距離とし、光ファイバの各距離地点で発生したストークス光およびアンチストークス光の強度、つまり距離分布とみなすことができる。
【0036】
一方、アンチストークス光強度Iasとストークス光強度Istはいずれも光ファイバFBの温度に依存し、さらに、両光の強度比Ias/Istも光ファイバFBの温度に依存する。したがって、強度比Ias/Istが分かればラマン散乱光が発生した箇所の温度を知ることができる。ここで、強度比Ias/Istは距離xの関数Ias(x)/Ist(x)であるから、この強度比Ias(x)/Ist(x)から光ファイバFBに沿った温度分布T(x)を求めることができる。
【0037】
次に、本実施形態の分布型温度測定装置の動作について説明する。
【0038】
図3は、本実施形態の分布型温度測定装置の動作を示すフローチャートである。
【0039】
図3のステップS1では、光スイッチ3をそれぞれチャネルAおよびチャネルBに設定した状態で温度分布測定部1を動作させ、チャネルAから光パルスを入射する順方向測定(
図1(a))およびチャネルBから光パルスを入射する逆方向測定(
図1(b))を行う。これにより、順方向測定および逆方向測定におけるアンチストークス光強度Iasとストークス光強度Istのデータを取得する。
【0040】
次に、ステップS2では、ステップS1により取得されたデータを用いて演算部19において双方向測定方式により温度分布を算出する。(1)式は双方向測定方式により得られるアンチストークス光強度Iasとストークス光強度Istの強度比G(X)を示す。ここで、Xは測定位置を示す0〜mのいずれかの整数であり、mは光ファイバFBの全長を、Xは測定位置を示す。
【0041】
図4は、mとXの関係を示す図であり、測定位置XはチャネルAの出口からの距離に相当するとともに、測定位置XはチャネルBの出口からm−Xの距離にある。折り返し地点Pは、測定位置X=m/2に対応する。
【0043】
次に、ステップS3では、演算部19において、ステップS1で取得したデータに基づいて、急激に温度が変化する地点である温度変化点を抽出する。なお、温度変化点を抽出する具体的な方法については後述する。
【0044】
次に、ステップS4では、演算部19において、ステップS2において抽出された温度変化点について、隣接する測定位置間における、(2.1)式または(2.2)式に示す強度Iasと強度Istの変化幅比D(X)を算出する。この変化幅比D(X)は、測定位置の間隔が十分に小さければ微分値dG(X)/dXと等価と看做せるパラメータである。(2.1)式は、折り返し地点Pを境界としてチャネルAに近い測定位置X(X≦m/2)について採用される。また、(2.2)式は、折り返し地点Pを境界としてチャネルBに近い測定位置X(X≧m/2)について採用される。(2.1)式または(2.2)式において、X−1はXより1つ手前(チャネルA寄り)の測定位置を示す。
【0046】
ステップS5では、演算部19において、ステップS2において算出された温度分布と、ステップS4において算出されたD(X)とを用いて最終的な強度比G(X)を算出する。具体的には、ステップS3において抽出された温度変化点以外の位置については、ステップS2において算出された双方向測定方式により得られた強度比G(X)を採用する。一方、ステップS3において抽出された温度変化点については、ステップS4において算出されたD(X)を使用して強度比G(X)を算出する。そして、ステップS5では、これらの強度比G(X)を合成して光ファイバFBの全長にわたる温度分布を得る。
【0047】
(3)式は、(2.1)式または(2.2)式により算出されたD(X)を用いて表される強度比G(X)を示す。
【0049】
(3)式に示すように、1つ手前の測定位置における強度比G(X−1)にD(X)を加算することにより、強度比G(X)を順次、求めることができる。
【0050】
このように、本実施形態では、温度変化点ではチャネルAの出口またはチャネルBの出口から近い方のデータのみを用いた片方向測定方式を用いることを特徴とする。
【0051】
ところで、
図1(a)では、チャネルAの出口から入射されて光ファイバFBを進む光パルス41a、41b、41c、41dの形状を、
図1(b)では、チャネルBの出口から入射されて光ファイバFBを進む光パルス42a、42b、42c、42dの形状を、それぞれ模式的に示している。このように、光パルス41a、41b、41c、41d、42a、42b、42c、42dの形状は光ファイバFBを進む距離の増大に応じて劣化し、空間分解能の劣化を招く。しかし、本実施形態では、熱源の存在などにより生ずる温度変化点ではスイッチ3から近い位置についてのデータのみを用いた片方向測定方式を適用し、双方向測定方式により得られた温度変化点以外における強度比G(X)に連続させるように補間しているため、温度変化点における空間分解能を向上させることができる。
【0052】
図5は、本発明の分布型温度測定装置における測定結果と従来の双方向測定方式による測定結果を対比した例を示す図である。
図5では、横軸に測定位置Xを、縦軸に強度比G(X)を示すグラフであり、実線51が本発明の分布型温度測定装置における測定結果の例を、点線52が従来の双方向測定方式による測定結果の例を、それぞれ示している。
【0053】
図5に示すように、本発明の分布型温度測定装置によれば、温度変化点における急激な温度変化がより正確に測定されており、従来の双方向測定方式よりも空間分解能が改善されていることが判る。本発明の分布型温度測定装置によれば、とくに温度分布測定部1ないしスイッチ3からの距離が近い地点、すなわちチャネルAの出口またはチャネルBの出口に近い地点についての空間分解能を大幅に向上させることが可能となる。
【0054】
従来の双方向測定方式では、例えば、順方向では温度分布測定部1からの距離が近い地点であっても、長距離となる逆方向からの測定結果が常に加味されるため、空間分解能については実質的に長距離となる逆方向からの測定結果が支配的となり、高い空間分解能が得られないという問題がある。これに対し、本発明によれば、より短距離での片方向測定における空間分解能をそのまま活かすことができるため、とくに温度分布測定部1からの距離が近い地点における空間分解能を大幅に向上させることが可能となる。
【0055】
次に、ステップS3(
図3)において、温度変化点を抽出する具体的な方法について説明する。
【0056】
温度変化点は、(2.1)式または(2.2)式により算出されるD(X)を用いて抽出することができる。例えば、D(X)の絶対値が所定の閾値よりも大きい場合に、その地点を温度変化点と看做し、(3)式を用いてG(X)を算出することができる。この場合、片方向測定方式におけるノイズや空間分解能自体が測定位置Xにより変化することを考慮して、測定位置Xに応じて閾値を変化させることができる。
【0057】
また、特定の測定位置XにおいてD(X)が所定の閾値よりも大きい場合に、その地点を含め、その前後を温度変化点と看做し、(3)式を用いてG(X)を算出することができる。この場合には、温度変化点と看做した区間において(3)式を用いてG(X)が連鎖的に算出され、この区間全体において空間分解能を高めることができる。
【0058】
また、測定位置Xと測定位置m−Xは温度の測定ポイントとしては実質的に同一であるため、例えば、X≦m/2の場合、順方向での光パルスにより片方向測定方式で測定された測定位置XのD(X)と、逆方向での光パルスにより片方向測定方式で測定された測定位置m−XのD(m−X)の両者を用いて温度変化点を抽出してもよい。この場合、例えば、D(X)とD(m−X)の平均値の絶対値と閾値とを比較してもよく、あるいは、D(X)またはD(m−X)のいずれかの絶対値が閾値を超える場合に、温度変化点と看做してもよい。
【0059】
また、温度変化点を抽出するに当たり、ステップS2において双方向方式により得られた温度分布を使用することもできる。この場合には、双方向方式により得られた温度分布が急激に変化する部分を何らかのアルゴリズムにより抽出し、この部分を温度変化点と看做すことができる。
【0060】
以上のように、本発明の分布型温度測定装置によれば、温度変化点以外では双方向測定方式により温度測定を採用し、温度変化点では片方向測定方式により双方向測定方式による温度測定を補間している。このため、本発明の分布型温度測定装置では、温度変化点における空間分解能を向上させつつ、双方向測定方式の利点であるファイバ損失差相殺効果を維持することができる。
【0061】
また、本発明の分布型温度測定装置では、従来の双方向測定方式による装置のシステム構成をそのまま利用することが可能であり、ソフトウェアのアルゴリズムのみの変更により本発明の分布型温度測定装置を構成することができる。
【0062】
本発明の分布型温度測定装置では、折り返し地点において空間分解能が最悪値をとる。例として光ファイバ長30kmの場合を考えると、本発明の分布型温度測定装置では空間分解能の最悪値は、片方向測定方式での15km地点の空間分解能とほぼ同等となる。すなわち、光ファイバ長30kmに対して、分散による影響を中間地点の15km相当まで抑制することができる。
【0063】
上記のように、分布型温度測定装置の光ファイバとしてマルチモードファイバが使用される場合が多いが、本発明はシングルモードファイバ等の異なる種類の光ファイバにも適用可能である。シングルモードファイバではモード分散は発生しないが、長距離になれば波長分散による空間分解能の劣化は起こり得る。本発明では波長分散、モード分散などの種類によらず、双方向測定方式での空間分解能の劣化を抑制できる。
【0064】
上記実施形態では、演算部19においてストークス光STおよび反ストークス光ASのサンプリングポイント毎の強度比を求めているが、ストークス光STおよび反ストークス光ASのそれぞれの強度を別々に算出してから、最後に光強度比を求めてもよい。
【0065】
双方向測定方式において2種類の光源を用いる方法など、種々の方式が知られているが、いずれの方式においても光ファイバの両端から光パルスを入射して温度測定する点は変わりがなく、理論上、本発明を適用することができる。
【0066】
本発明の適用範囲は上記実施形態に限定されることはない。本発明は、光ファイバをセンサとして用い、後方ラマン散乱光のアンチストークス光の強度とストースク光の強度の強度比から前記光ファイバに沿った温度分布を算出する分布型温度測定装置等に対し、広く適用することができる。