(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下図面に基づいて本発明の集積回路の処理方法を説明する。
〔加熱処理〕
加熱処理は、金を含む金属及び樹脂を含有する集積回路を加熱し、該樹脂を分解する処理である。
金を含む金属及び樹脂を含有する集積回路は、金で形成されたワイヤー(金ワイヤー)を樹脂で被覆したボンディングワイヤーを含む集積回路であってもよい。また、集積回路は、ボンディングワイヤーを構成するする樹脂とは異なる樹脂を含んでいてもよい。
金ワイヤーを被覆した樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等が挙げられる。
集積回路に含有される樹脂としては、熱硬化性エポキシ樹脂及びフェノール樹脂等が挙げられる。
【0011】
集積回路としては、ロジック、トランジスタアレイ、CPU、周辺LSI、メモリー、PLD、ドライバー、レギュレータ、オペアンプ、高周波アンプ、コンバータ、アナログスイッチ、リセットIC、フォトカップラと種々のものがある。加熱処理に先立ち、集積回路は粗破砕しなくてよい。粗破砕せずに加熱処理することで、工程が簡略化されるだけでなく、展延性に富む金の形状を変化させることなく分離出来るため金を高純度に回収することができる。
【0012】
集積回路を加熱装置に搬入する際はベルトコンベア、板、網板(金網、ネットコンベア)に集積回路を載せて、搬入することができる。網板12を用いる場合は、例えば、ネットコンベアや金網であってもよく、網板の網目又は孔の大きさ(粗さ)は、集積回路自体を通さない大きさである。
【0013】
集積回路は、その種類、大きさ、又は材質ごとに分別して加熱処理に供することができる。これにより、各種金属などの有価物の分離及び高純度での回収を容易且つ確実に行え、資源の有効利用が可能となる。
【0014】
図1に示すように、集積回路21はそれぞれ網板12に載置する。
例えば、加熱処理装置10に配設され、加熱装置15が側壁に備えられている加熱炉11内に、網板12を搬入する。
【0015】
処理しようとする集積回路21はそれぞれその種類ごとに網板12に載置することができ、ベルトコンベア等で搬送して、加熱処理に供してもよい。この載置は、手作業或いは適当なガイド手段などにより集積回路21を揃えるようにしてもよい。炭化した樹脂を網板12の網目から落下させ、炭化した樹脂を容器17に回収することもできる。
【0016】
加熱処理における加熱の温度は、集積回路21に含まれる樹脂材料が分解する温度である必要がある。具体的には610℃〜900℃が好ましく、610℃〜800℃であることが更に好ましく、610℃〜730℃であることが特に好ましい。
加熱処理における加熱に供する時間は加熱の温度によって異なるが、10分〜5時間が好ましく、10分〜3時間であることが更に好ましい。加熱時間を上記の範囲にすることで、モールド樹脂を完全に分解させ、モールド樹脂よりボンディングワイヤーを分離することが出来、金を効率良く高純度に回収することができる。
【0017】
加熱方法は、加熱流体を集積回路21に吹き付けるのでもよく、加熱流体の雰囲気炉内に滞留させるものでもよく、加熱効率、処理装置の建設コストを勘案して処理できるものである。
加熱流体は高温空気による加熱でもよいが、水蒸気加熱、特に過熱水蒸気は熱容量が大きく、熱効率が良いので過熱水蒸気による加熱が最も好ましい。該加熱により集積回路に含まれる樹脂を効率よく脆性化、分解して炭化するものである。
加熱流体の雰囲気が炉内に滞留する方が熱容量は大きく短時間で処理できる。加熱流体を吹き付ける方法は熱容量が小さく、処理時間が長くなるが装置が簡素化できるメリットはある。加熱温度、加熱方法、及び加熱時間については全体の処理コストを勘案して処理できる。
【0018】
該加熱流体の加熱はガス等燃料の燃焼での加熱、電熱ヒーター等による加熱、誘導加熱装置による加熱等が利用できる。樹脂が酸化しないように真空加熱炉を使用することも可能である。炉は横型でも、縦型でも可能である。
【0019】
〔分別処理〕
分別処理は炭化物と金属とを分離する処理である。
本発明によれば加熱処理した集積回路は、樹脂が充分に炭化するため、分別処理によって、加熱処理により炭化した樹脂(炭化物)と金ワイヤー、金以外の金属ワイヤー並びに金属(金属片)を容易に分離することができる。
前述したように、集積回路に含まれる金はボンディングワイヤーに含有されており、ボンディングワイヤーは金ワイヤーが樹脂(熱硬化性エポキシ樹脂)でモールディングされている。
炭化物と金属とを分離する際にボンディングワイヤーに含有されていた金を選択的に分離回収することで、金の回収がより効率良く行える。
分離は、振動篩い、比重選別により行うことができる。
加熱処理により炭化した樹脂(炭化物)は脆く壊れやすいので、殆どの炭化物は分離されるが、炭化物の一部は金(金ワイヤー)から分離されずに表面に付着したまま残ることがある。金ワイヤー、金以外の金属ワイヤー並びに金属(金属片)と炭化物の分離を促進するため、振動又は機械的外力を与えることができる。振動と機械的外力を組み合わせて与えることもできる。機械的外力としては、ブラシ、ショットブラスト等による処理が挙げられる。
機械的な外力を与えることにより、炭化物は、金ワイヤー、金以外の金属ワイヤー並びに金属(金属片)から容易に剥離される。
【0020】
振動篩いによる分別処理として、タイラー(Tyler)標準篩9メッシュ〜150メッシュの範囲のいずれかの篩い目を有する振動篩い機を用いることができる。これにより、炭化物と金ワイヤー、金以外の金属ワイヤー並びに金属(金属片)を分級することができ、さらに粒度の異なる金属より金ワイヤー及び金属ワイヤーを効率よく分離回収することができる。
なお、前記した9メッシュ、150メッシュのタイラー標準篩とは、それぞれ篩目の開き量が2mm、106μmとなるような篩いである。
【0021】
さらに、水力分別や風力分別等による比重選別によって、金ワイヤーを単体分離することが出来る。
【0022】
〔酸洗処理〕
分別処理された各金属及び金属ワイヤーを酸で洗浄する酸洗処理について説明する。
酸洗処理により、各金属及び金属ワイヤー表面に残存する、わずかな種類の異なる金属を効果的に除去することができる。
【0023】
例えば、炭化物と分別処理により分離して回収した各金属及び金属ワイヤーを、塩酸に浸漬する。該塩酸の濃度は、10〜35質量%(更に好ましくは、15〜35質量%)であることが好ましい。すなわち、塩化水素を10〜35質量%(更に好ましくは、15〜35質量%)含有する水溶液を使用するのがよい。
ここで、塩酸の代わりに硫酸や硝酸を使用することもできるが、塩酸の方が後処理が容易である。この場合の塩酸による酸洗時間は、常温で5〜30分程度が好ましいが、濃度によって異なる。
酸洗浄した各金属及び金属ワイヤーは水洗を行うことが好ましい。
また、公知の方法(特開平6−127946号公報)により、酸洗に用いた塩酸液から、溶解させた金属を分離回収することができる。
【0024】
分別して回収した各金属及び金属ワイヤーは更に、溶解処理に供することにより、高い純度で分離回収することができる。
【0025】
〔溶解処理〕
酸洗浄し、水洗した各金属及び金属ワイヤーを、塩化第二鉄水溶液、又は塩酸が添加された塩化第二鉄水溶液を用いて該金属及び金属ワイヤーに含有される金属成分を溶解させてもよい。
【0026】
ここで、使用する塩化第二鉄水溶液中の塩化第二鉄(FeCl
3)の濃度は、概ね10質量%以上(望ましくは30質量%以上)でよいが、経済性を考慮すれば、60質量%以下(好ましくは55質量%以下)である。
また、塩化第二鉄水溶液中に、更に塩酸(HCl)を添加することも可能であるが、この場合、塩化水素35質量%水溶液の塩酸と塩化第二鉄50質量%水溶液を20:80〜50:50の体積比率で混合するのがよい。
【0027】
上記した塩化第二鉄水溶液と、塩酸が添加された塩化第二鉄水溶液には、新たに製造した新液(再生液を含む)と、新液を使用した後の廃液(例えば、塩化銅や塩化ニッケルが溶存している液、更には塩化第一鉄が存在している液)のいずれも使用できる。
これにより、金属成分中の各種金属は塩化物を形成し、塩化第二鉄水溶液に溶解する。
【0028】
具体的には、銅は塩化銅(CuCl
2)、ニッケルは塩化ニッケル(NiCl
2)、クロムは塩化クロム(CrCl
3)、錫は塩化錫(SnCl
2)、鉛は塩化鉛(PbCl
2)、ルテニウムは塩化ルテニウム(RuCl
3)、アルミニウムは塩化アルミニウム(AlCl
3)、インジウムは塩化インジウム(InCl
3)となる。
【0029】
一方、塩化第二鉄水溶液に溶解させた金属成分は、この塩化第二鉄水溶液(廃液)から析出させて回収する。この方法としては、従来公知の方法を使用でき、例えば、金属成分が、銅とニッケルを含んでいる場合には、特開平6−127946号公報に記載の方法を使用できる。また、錫や銀、インジウム等も、同様の方法を使用できる。なお、クロムとアルミニウムは、水酸化物として回収される。
この具体的な方法は、特許第4018832号公報に記載されているため、以下簡単に説明する。
【0030】
上記した金属成分を含有する塩化第二鉄水溶液中に鉄粉を添加し、塩化第二鉄水溶液中に溶存する塩化銅(塩化物)を置換させ、銅を析出させて分離回収する。なお、塩化第二鉄水溶液中に塩化第二鉄が残存している場合は、鉄粉を添加して先に塩化第一鉄に還元しておく方が、銅の回収効率が向上し、望ましい。
次に、銅が除去された脱銅水溶液中に鉄粉を添加し、かつ鉄イオン濃度を制御してニッケルを析出させ分離回収する。これにより、塩化第二鉄水溶液中から銅とニッケルを回収できる。
以上の方法により、集積回路に含まれる金以外の金属成分も回収することで、これらを再利用できるので、資源の有効利用が図れる。
【0031】
本発明の集積回路の処理方法は、金を簡便かつ高純度に分離回収することができる。
【0032】
以上、説明したように、本明細書には、下記(1)の集積回路の処理方法が開示されている。
〔1〕
金を含む金属及び樹脂を含有する集積回路を過熱水蒸気により加熱することで、樹脂を炭化する加熱処理と、炭化物と金属とを分離する分別処理と、金属より金を分離回収する分離回収処理とを含む、集積回路の処理方法。
〔2〕
〔1〕に記載の集積回路の処理方法であって、
金を含む金属及び樹脂を含有する集積回路が、金で形成されたワイヤーを樹脂で被覆したボンディングワイヤーを含む集積回路である集積回路の処理方法。
〔3〕
〔1〕又は〔2〕に記載の集積回路の処理方法であって、
前記加熱が、610℃〜730℃で行われる集積回路の処理方法。
〔4〕
〔3〕に記載の集積回路の処理方法であって、
前記加熱における加熱時間が、10〜180分である集積回路の処理方法。
〔5〕
〔1〕〜〔4〕のいずれか1項に記載の集積回路の処理方法であって、
前記集積回路が、ロジック、トランジスタアレイ、CPU、周辺LSI、メモリー、PLD、ドライバー、レギュレータ、オペアンプ、高周波アンプ、コンバータ、アナログスイッチ、リセットIC、又はフォトカップラである集積回路の処理方法。
【実施例】
【0033】
以下、本発明にかかる集積回路の処理方法の作用、効果の確認のために行った実施例について説明する。
【0034】
〔実施例1〕
(加熱処理)
集積回路サンプルを610℃の過熱水蒸気雰囲気に投入し、集積回路の重量減少率の経時変化とサンプルの状況確認を実施した。
(1)加熱温度:610℃(過熱水蒸気雰囲気温度)
(2)加熱方法:過熱水蒸気雰囲気内に集積回路サンプルを投入した。
【0035】
以下表1に実施データを示す。また、
図2に加熱処理の処理時間と集積回路の重量減少率の関係を表す図を示した。
【0036】
【表1】
【0037】
610℃処理においては、加熱処理開始10分で7.8%の重量減となっており、その後は緩やかに重量減少し、経時変化とともに、集積回路の外観が黒色から白色へと変化していった。加熱処理開始180分経過後には、12.5%の重量減少となり、指で解す程度の力で集積回路サンプルが壊れ、モールド樹脂の分解及び集積回路サンプル内のボンディングワイヤーが単体分離していることを確認した。
【0038】
〔実施例2〕
(加熱処理)
実施例1における過熱水蒸気雰囲気を610℃から730℃に変更した以外は実施例1と同様にして集積回路の重量減少率の経時変化とサンプルの状況確認を実施した。
以下表2実施データを示す。また、
図3に加熱処理の処理時間と集積回路の重量減少率の関係を表す図を示した。
【0039】
【表2】
【0040】
また、730℃においては、加熱処理開始10分で、13.3%の重量減少となり、610℃、180分加熱処理した時と同様の現象を確認することが出来た。
【0041】
〔参考例1〕
(分別処理)
実施例1及び2の加熱処理後、振動篩い((株)興和工業所製振動篩い機KF−1200−2W、篩い目開き2mm、106μm)により炭化した樹脂の炭化物と金属片とを分離させた。振動篩い後、水力分別(表面積負荷9m
3/(m
2・h))により、金ワイヤーを単体回収することが出来た。回収した金の純度は、99.99%であった。
【0042】
(酸洗処理)
分別処理後、炭化物を除いた金属を籠に入れて、濃度が35質量%の塩酸に30分浸漬した。これによって、錫、鉛、亜鉛、アルミニウム、カルシウム、クロム、マグネシウムが塩酸に溶けた。
また、金属が溶解した塩酸より、特開平6−127946に記載の方法を用いて、錫、鉛を回収することができる。
なお、この酸洗処理は常温で行ったが加熱してもよい。
【0043】
(溶解処理)
実施例1及び2の酸洗後の金属を籠に入れて、温度が常温から60℃(この実施例では40℃)の塩化第二鉄液中に浸漬させ、含有される金属成分を塩化第二鉄液に溶解させた。なお、使用した塩化第二鉄液の塩化第二鉄の濃度は30〜50質量%、塩化第二鉄液への浸漬時間は60〜180分(平均120分)とした。特開平6−127946に記載の方法を用いて、塩化第二鉄液より該溶解金属である銅を回収した。回収した銅の純度は95.0%以上であった。
【0044】
以上のことから、本発明の集積回路の処理方法を使用することで、処理コストや設備コストを過剰にかけることなく、集積回路から金を個別に高純度に回収して再利用でき、資源の有効利用が図れることを確認できた。
【0045】
以上、本発明を、実施の形態を参照して説明してきたが、本発明は何ら上記した実施の形態に記載の構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載されている事項の範囲内で考えられるその他の実施の形態や変形例も含むものである。