特許第6284140号(P6284140)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284140
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】Ga2O3系半導体素子
(51)【国際特許分類】
   H01L 29/786 20060101AFI20180215BHJP
   H01L 21/336 20060101ALI20180215BHJP
   H01L 21/28 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   H01L29/78 618B
   H01L29/78 620
   H01L29/78 626C
   H01L21/28 301B
   H01L21/28 301R
   H01L29/78 617T
   H01L29/78 619A
【請求項の数】6
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-126849(P2013-126849)
(22)【出願日】2013年6月17日
(65)【公開番号】特開2015-2293(P2015-2293A)
(43)【公開日】2015年1月5日
【審査請求日】2016年6月10日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年〜平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「省エネルギー革新技術開発事業/挑戦研究(事前研究一体型)/超高耐圧酸化ガリウムパワーデバイスの研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】390005223
【氏名又は名称】株式会社タムラ製作所
(73)【特許権者】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 公平
(72)【発明者】
【氏名】東脇 正高
【審査官】 市川 武宜
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/035842(WO,A1)
【文献】 特開2013−016783(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/035843(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/027577(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/786
H01L 21/28
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
β−Ga基板上に形成されたβ−Ga単結晶層と、
前記β−Ga単結晶層上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、
前記β−Ga単結晶層上の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成されたゲート電極と、
前記β−Ga単結晶層の表面の前記ソース電極と前記ゲート電極との間の領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の領域を覆う、(AlGa1−x(0<x≦1)を主成分とするパッシベーション膜と、
を有するGa系半導体素子。
【請求項2】
前記ゲート電極は、ゲート絶縁膜を介して前記β−Ga単結晶層上に形成される、
請求項1に記載のGa系半導体素子。
【請求項3】
前記パッシベーション膜と前記ゲート絶縁膜は、同じ材料からなり、一体に形成される、
請求項2に記載のGa系半導体素子。
【請求項4】
前記ゲート電極は、前記β−Ga単結晶層上に直接形成される、
請求項1に記載のGa系半導体素子。
【請求項5】
前記パッシベーション膜は、Alを主成分とする、
請求項1〜4のいずれか1項に記載のGa系半導体素子。
【請求項6】
前記パッシベーション膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触する、
請求項1〜のいずれか1項に記載のGa系半導体素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Ga系半導体素子に関する。
【背景技術】
【0002】
従来のGa系半導体素子として、β−Ga基板上に形成されたβ−Ga結晶膜を用いた素子が知られている(例えば、特許文献1参照)。Gaは、SiやGaN、SiC等の他の半導体材料と比べて絶縁破壊電界強度が大きく、Gaを用いて超高耐圧の電子デバイスを形成することができる。
【0003】
特許文献1によれば、例えば、β−Ga系MESFET(Metal-Semiconductor Field Effect Transistor)のドレイン電極−ソース電極間のオフリーク電流は、3×10−6〜4×10−6Aであり、オンオフ比(ゲート電極とソース電極との間の電圧VGSが0Vであるときにソース電極からドレイン電極に流れる電流IDSと、電圧VGSが−20Vであるときに流れる電流IDSとの比)が4桁程度である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2013/035842号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、よりリーク電流が小さく、オンオフ比が大きいGa系半導体素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、[1]〜[6]のGa系半導体素子を提供する。
【0007】
[1]β−Ga基板上に形成されたβ−Ga単結晶層と、前記β−Ga単結晶層上に形成されたソース電極及びドレイン電極と、前記β−Ga単結晶層上の前記ソース電極と前記ドレイン電極との間に形成されたゲート電極と、前記β−Ga単結晶層の表面の前記ソース電極と前記ゲート電極との間の領域及び前記ゲート電極と前記ドレイン電極との間の領域を覆う、(AlGa1−x(0<x≦1)を主成分とするパッシベーション膜と、を有するGa系半導体素子。
【0008】
[2]前記ゲート電極は、ゲート絶縁膜を介して前記β−Ga単結晶層上に形成される、前記[1]に記載のGa系半導体素子。
【0009】
[3]前記パッシベーション膜と前記ゲート絶縁膜は、同じ材料からなり、一体に形成される、前記[2]に記載のGa系半導体素子。
【0010】
[4]前記ゲート電極は、前記β−Ga単結晶層上に直接形成される、前記[1]に記載のGa系半導体素子。
【0012】
]前記パッシベーション膜は、Alを主成分とする、前記[1]〜[4]のいずれか1項に記載のGa系半導体素子。
【0013】
]前記パッシベーション膜は、前記ソース電極及び前記ドレイン電極に接触する、前記[1]〜[]のいずれか1項に記載のGa系半導体素子。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、よりリーク電流が小さく、オンオフ比が大きいGa系半導体素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1図1は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETの垂直断面図である。
図2図2(a)〜(e)は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETの製造工程を表す垂直断面図である。
図3図3は、ゲート電圧が0Vであるときの、β−Ga単結晶層のドナー濃度と空乏層厚の関係を表すグラフである。
図4図4(a)、(b)は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETのIDS−VDS特性を表すグラフである。
図5図5(a)、(b)は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETのIDS−VGS特性を表すグラフである。
図6図6は、比較例としてのMESFETのIDS−VGS特性を表すグラフである。
図7図7は、第2の実施の形態に係るGa系MISFETの断面図である。
図8図8は、第3の実施の形態に係るGa系MESFETの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1の実施の形態〕
第1の実施の形態は、Ga系半導体素子としてのプレーナゲート構造を有するGa系MISFET(Metal Insulator Semiconductor Field Effect Transistor)についての形態である。
【0017】
(Ga系半導体素子の構成)
図1は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETの垂直断面図である。Ga系MISFET10は、高抵抗β−Ga基板2上に形成されたβ−Ga単結晶層3と、β−Ga単結晶層3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と、ソース電極12とドレイン電極13との間のβ−Ga単結晶層3上に絶縁膜16を介して形成されたゲート電極11と、β−Ga単結晶層3中のソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたソース領域14及びドレイン領域15を含む。
【0018】
高抵抗β−Ga基板2は、Mg、H、Li、Na、K、Rb、Cs、Fr、Be、Ca、Sr、Ba、Ra、Mn、Fe、Co、Ni、Pd、Cu、Ag、Au、Zn、Cd、Hg、Tl、Pb、N、又はP等のp型ドーパントを添加することにより高抵抗化したβ−Ga基板である。
【0019】
高抵抗β−Ga基板2の主面は、面方位について特に限定されないが、(100)面から50°以上90°以下の角度だけ回転させた面であることが好ましい。すなわち、高抵抗β−Ga基板2において主面と(100)面のなす角θ(0<θ≦90°)が50°以上であることが好ましい。(100)面から50°以上90°以下回転させた面として、例えば、(010)面、(001)面、(−201)面、(101)面、及び(310)面が存在する。
【0020】
高抵抗β−Ga基板2の主面が、(100)面から50°以上90°以下の角度だけ回転させた面である場合、高抵抗β−Ga基板2上にβ−Ga系結晶をエピタキシャル成長させるときに、β−Ga系結晶の原料の高抵抗β−Ga基板2からの再蒸発を効果的に抑えることができる。具体的には、β−Ga系結晶を成長温度500℃で成長させたときに再蒸発する原料の割合を0%としたとき、高抵抗β−Ga基板2の主面が、(100)面から50°以上90°以下回転させた面である場合、再蒸発する原料の割合を40%以下に抑えることができる。そのため、供給する原料の60%以上をβ−Ga系結晶の形成に用いることができ、β−Ga系結晶の成長速度や製造コストの観点から好ましい。
【0021】
β−Ga結晶は単斜晶系の結晶構造を有し、その典型的な格子定数はa=12.23Å、b=3.04Å、c=5.80Å、α=γ=90°、β=103.7°である。β−Ga結晶においては、c軸を軸として(100)面を52.5°回転させると(310)面と一致し、90°回転させると(010)面と一致する。また、b軸を軸として(100)面を53.8°回転させると(101)面と一致し、76.3°回転させると(001)面と一致し、53.8°回転させると(−201)面と一致する。
【0022】
また、高抵抗β−Ga基板2の主面は、(010)面から37.5°以下の角度だけ回転させた面であってもよい。この場合、β−Ga単結晶層3の表面を原子レベルで平坦にすることができるため、絶縁膜16とβ−Ga単結晶層3との界面が急峻になり、より高いリーク抑制効果が得られる。
【0023】
β−Ga単結晶層3は、Sn、Ti、Zr、Hf、V、Nb、Ta、Mo、W、Ru、Rh、Ir、C、Si、Ge、Pb、Mn、As、Sb、Bi、F、Cl、Br、I等のn型ドーパントを含むn型のβ−Ga単結晶層である。β−Ga単結晶層3は、Ga系MISFET10のチャネル層として機能する。また、β−Ga単結晶層3の厚さは、例えば、10〜1000nm程度である。
【0024】
ゲート電極11、ソース電極12、及びドレイン電極13は、例えば、Au、Al、Ti、Sn、Ge、In、Ni、Co、Pt、W、Mo、Cr、Cu、Pb等の金属、これらの金属のうちの2つ以上を含む合金、又はITO等の導電性化合物からなる。また、異なる2つの金属からなる2層構造、例えばTi/Al、Ti/Au、Ti/Pt、Al/Au、Ni/Au、Au/Niを有してもよい。
【0025】
絶縁膜16は、(AlGa1−x(0<x≦1)、SiO、HfO、ZrO等の酸化物を主成分とする絶縁性の膜、又はこれらの酸化物のうちの異なる酸化物をそれぞれ主成分とする2以上の絶縁性の膜が積層された多層膜である。また、絶縁膜16は、主に非晶質であるが、一部もしくはその全体が結晶化していてもよい。絶縁膜16は、ソース電極12とドレイン電極13の間に形成される。絶縁膜16のゲート電極11の真下の部分はゲート絶縁膜として機能し、β−Ga単結晶層3の表面のソース電極12とゲート電極11との間の領域及びゲート電極11とドレイン電極13との間の領域を覆う部分はパッシベーション膜として機能する。すなわち、本実施の形態においては、ゲート絶縁膜とパッシベーション膜が同じ材料からなり、一体に形成される。
【0026】
本願発明者らは、高抵抗のGa基板を有する素子にリークが発生する場合、リーク電流はチャネル層の表面を流れる傾向があることを見出した。そこで、本実施の形態では、チャネル層として機能するβ−Ga単結晶層3の表面を絶縁膜16で覆うことにより、リークを抑制している。
【0027】
そして、本実施の形態におけるパッシベーション膜によるリーク電流の抑制効果は、Si基板を有するトランジスタ等の、リーク電流が基板内部を流れやすい素子におけるパッシベーション膜によるリーク電流の抑制効果よりも、格段に大きいことがわかった。
【0028】
リークを抑制するパッシベーション膜として機能する絶縁膜16の材料は、絶縁破壊電界強度が高く、また、β−Ga単結晶層3との界面で界面準位を形成しにくい材料であることが好ましい。
【0029】
絶縁破壊電界強度の大きな材料としては、酸化物の他に、SiN、AlN等の窒化物絶縁体が挙げられる。しかし、窒化物を絶縁膜16の材料に用いて、酸化物からなるβ−Ga単結晶層3の表面を覆った場合、絶縁膜16とβ−Ga単結晶層3が異種材料からなるため、これらの界面に多量の界面準位が形成され、それらがリーク源となるおそれがある。
【0030】
一方、酸化物を絶縁膜16の材料に用いた場合は、絶縁膜16とβ−Ga単結晶層3が同種材料からなるため、これらの界面には界面準位が形成されにくいと予想される。特に、酸化物の中でも、AlはGaと相性が良く、(AlGa1−x混晶膜を形成することができ、Alのみならず、Gaを含む(AlGa1−xも絶縁膜16の材料として用いることができる。
【0031】
(AlGa1−x(0<x≦1)を絶縁膜16の材料として用いることで、広い範囲で素子特性を制御することができる。具体的には、Alの割合が大きい(xが1に近い)ほど、絶縁膜16の絶縁破壊電界強度が高くなるため、Ga系MISFET10の耐電圧特性を向上させ、また、ゲートリーク電流を低減することができる。一方、Gaの割合が大きい(xが0に近い)ほど、絶縁膜16の結晶構造がβ−Ga単結晶層3の結晶構造に近づくため、β−Ga単結晶層3の表面のダングリングボンドをより低減し、界面準位をより低減することができる。
【0032】
また、Alは原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法によって高品質な膜を形成できることが知られている。ALD法は他の製法に比べて被覆性に優れた成膜方法であり、高品質な界面を実現出来る。また、大面積での膜厚制御性に優れた製法のため、高い量産性が期待される。このため、(AlGa1−x(0<x≦1)の中でも、ALD法を用いることにより高い界面リーク低減効果と高い量産性を実現することのできるAl(x=1)が絶縁膜16の材料として特に好ましいといえる。
【0033】
絶縁膜16のパッシベーション膜として機能する部分は、β−Ga単結晶層3の表面のなるべく広い領域を覆っていることが好ましく、ソース電極12とドレイン電極13に接触していることが好ましい。
【0034】
ソース領域14とドレイン領域15は、β−Ga単結晶層3中に形成されるn型ドーパントの濃度が高い領域であり、それぞれソース電極12とドレイン電極13が接続される。ソース領域14とドレイン領域15の深さは、例えば、150nmである。また、ソース領域14とドレイン領域15の平均n型ドーパント濃度は、例えば、5×1019cm−3である。
【0035】
ソース領域14とドレイン領域15に主に含まれるn型ドーパントとβ−Ga単結晶層3に含まれるn型ドーパントは、同じであってもよいし、異なっていてもよい。なお、ソース領域14とドレイン領域15はGa系MISFET10に含まれなくてもよい。
【0036】
Ga系MISFET10は、ゲート直下のβ−Ga単結晶層3のドナー濃度と厚さに依存して、ノーマリーオン型又はノーマリーオフ型になる。
【0037】
Ga系MISFET10がノーマリーオン型である場合、ソース電極12とドレイン電極13は、β−Ga単結晶層3を介して電気的に接続されている。そのため、ゲート電極11に電圧を印加しない状態でソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加すると、ソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れる。一方、ゲート電極11に電圧を印加すると、β−Ga単結晶層3のゲート電極11下の領域に空乏層が形成され、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加してもソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れなくなる。
【0038】
Ga系MISFET10がノーマリーオフ型である場合、ゲート電極11に電圧を印加しない状態では、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加しても電流は流れない。一方、ゲート電極11に電圧を印加すると、β−Ga単結晶層3のゲート電極11下の領域の空乏層が狭まり、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加するとソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れるようになる。
【0039】
以下に、本実施の形態に係るGa系MISFETの製造方法の一例について説明する。
【0040】
(Ga系半導体素子の製造方法)
図2(a)〜(e)は、第1の実施の形態に係るGa系MISFETの製造工程を表す垂直断面図である。
【0041】
最初に、図2(a)に示されるように、高抵抗β−Ga基板2上にβ−Ga単結晶層3を形成する。高抵抗β−Ga基板2は、例えば、フローティングゾーン法で育成したFeドープ高抵抗β−Ga結晶を、所望の厚さにスライス、研磨加工することにより得られる。高抵抗β−Ga基板2の主面は、例えば、(010)面とする。
【0042】
β−Ga単結晶層3は、例えば、PLD(Pulsed Laser Deposition)法、CVD(Chemical Vapor Deposition)法、又は分子線エピタキシー(MBE;Molecular Beam Epitaxy)法により形成される。
【0043】
β−Ga単結晶層3にn型ドーパントを導入する方法としては、例えば、β−Ga単結晶膜を成長させた後でイオン注入法によりn型ドーパントを注入する方法や、n型ドーパントを含んだβ−Ga単結晶膜をエピタキシャル成長させる方法がある。
【0044】
前者の方法を用いる場合は、例えば、分子線エピタキシー法を用いて、高抵抗β−Ga基板2上に厚さ300nmのβ−Ga単結晶膜をホモエピタキシャル成長させた後に、その全面にSiの多段イオン注入を施す。ここで、注入深さを300nm、注入Siの平均濃度を3×1017cm−3とすることで、ノーマリーオン型のGa系MISFET10が得られる。また、例えば注入深さを300nm、注入Siの平均濃度を1×1016cm−3とすることで、ノーマリーオフ型のGa系MISFET10が得られる。
【0045】
後者の方法を用いる場合は、例えば、分子線エピタキシー法を用いて、高抵抗β−Ga基板2上にSnを含む厚さ300nmのβ−Ga単結晶膜をホモエピタキシャル成長させる。ここで、Snのドープ量は、例えば、7×1017cm−3とすることで、ノーマリーオン型のGa系MISFET10が得られる。また、例えばSnのドープ量を1×1016cm−3とすることで、ノーマリーオフ型のGa系MISFET10が得られる。
【0046】
図3は、ゲート電圧が0Vであるときの、β−Ga単結晶層3のドナー濃度と空乏層厚の関係を表すグラフである。ゲート電極11の材料はPt(障壁高さ=1.5eV)であり、β−Gaの比誘電率を10と仮定した。図3によれば、例えば、ドナー濃度が3×1017cm−3の場合、ゲート電圧0Vのときに空乏層厚は90nm程度となる。このことは、チャネル層の厚さを90nmより厚くするとノーマリーオン型のGa系MISFET10が得られ、90nmより薄くするとノーマリーオフ型のGa系MISFET10が得られることを示している。
【0047】
次に、図2(b)に示されるように、β−Ga単結晶層3にSi等のn型ドーパントを多段イオン注入により導入し、ソース領域14及びドレイン領域15を形成する。
【0048】
n型ドーパントは、例えば、フォトリソグラフィを用いて形成されたマスクを用いてβ−Ga単結晶層3に選択的に注入される。注入後、窒素雰囲気下、925℃、30分の処理条件で活性化アニール処理を行い、β−Ga単結晶層3に注入されたn型ドーパントの活性化を行う。
【0049】
次に、図2(c)に示されるように、β−Ga単結晶層3上にソース電極12及びドレイン電極13を形成する。ソース電極12及びドレイン電極13は、それぞれソース領域14及びドレイン領域15に接続される。
【0050】
例えば、フォトリソグラフィによりマスクパターンをβ−Ga単結晶層3上に形成した後、Ti/Au等の金属膜をβ−Ga単結晶層3上の全面に蒸着し、リフトオフによりマスクパターン及びその上の金属膜を除去することにより、ソース電極12及びドレイン電極13が形成される。ソース電極12及びドレイン電極13を形成した後、例えば、窒素雰囲気下、450℃、1分の処理条件で電極アニール処理を施す。このアニール処理により、β−Ga単結晶層3とソース電極12、ドレイン電極13との間でオーミックコンタクトが得られる。
【0051】
次に、図2(d)に示されるように、β−Ga単結晶層3上の全面にAl等の酸化物絶縁体を主成分とする材料を堆積させ、絶縁膜16を形成する。
【0052】
絶縁膜16は、例えば、酸素プラズマ等の酸化剤を用いたALD(Atomic Layer Deposition)法を用いて、厚さ20nmのAl膜をβ−Ga単結晶層3上の全面に形成することにより得られる。なお、ALD法の代わりに、CVD法、PVD(Physical Vapor Deposition)法等の他の方法を用いて絶縁膜16を形成してもよい。
【0053】
次に、図2(e)に示されるように、β−Ga単結晶層3上に、絶縁膜16を介してゲート電極11を形成する。ゲート電極11は、ソース電極12とドレイン電極13との間に形成される。
【0054】
例えば、フォトリソグラフィによりマスクパターンを絶縁膜16上に形成した後、Ti/Pt等の金属膜を絶縁膜16上の全面に蒸着し、リフトオフによりマスクパターン及びその上の金属膜を除去することにより、ゲート電極11が形成される。
【0055】
ゲート電極11を形成した後、ソース電極12及びドレイン電極13上の絶縁膜16をドライエッチング等で除去し、ソース電極12及びドレイン電極13を露出させる。
【0056】
以下に、本実施の形態に係るGa系MISFETの評価結果の一例について説明する。この評価においては、高抵抗β−Ga基板2の主面を(010)面とした。
【0057】
(Ga系半導体素子の評価)
以下に、β−Ga単結晶膜を成長させた後でイオン注入法によりn型ドーパントを注入する方法(以下、第1の方法と呼ぶ)によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合、及びn型ドーパントを含んだβ−Ga単結晶膜をエピタキシャル成長させる方法(以下、第2の方法と呼ぶ)によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合の、Ga系MISFET10のIDS−VDS特性及びIDS−VGS特性を示す。
【0058】
ここで、第1の方法では、分子線エピタキシー法を用いて厚さ300nmのドーパントを含まないβ−Ga単結晶膜を成長させた後、その全面にSiの多段イオン注入を施して深さ300nm、平均Si濃度3×1017cm−3のSi低濃度ドープ領域を形成し、β−Ga単結晶層3を得た。また、ゲート電極11のゲート長及びゲート幅をそれぞれ2μm、500μmとし、ソース電極12とドレイン電極13との距離を20μmとした。
【0059】
また、第2の方法では、分子線エピタキシー法を用いて厚さ300nmのSnを含むβ−Ga単結晶膜を成長させた。Snのドープ量は、7×1017cm−3とした。また、ゲート電極11のゲート長及びゲート幅をそれぞれ4μm、500μmとし、ソース電極12とドレイン電極13との距離を20μmとした。
【0060】
図4(a)は、第1の方法によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合のIDS−VDS特性を表すグラフであり、図4(b)は、第2の方法によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合のIDS−VDS特性を表すグラフである。
【0061】
ここで、IDSはドレイン電流(ソース電極12からドレイン電極13に流れる電流)を表し、VDSはドレイン電圧(ドレイン電極13とソース電極12の間の電圧)を表す。
【0062】
図4(a)、(b)ともに、良好な立ち上がり特性を示し、また、ゲート電圧VGSによって電流IDSを良好に変調できていることを示している。これは、パッシベーション膜として機能する絶縁膜16が、β−Ga単結晶層3の表面のリーク電流を効果的に抑制していることによると考えられる。ここで、ゲート電圧VGSは、ゲート電極11とドレイン電極13の間の電圧を表す。
【0063】
図5(a)は、第1の方法によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合のIDS−VGS特性を表すグラフであり、図5(b)は、第2の方法によりβ−Ga単結晶層3を形成した場合のIDS−VGS特性を表すグラフである。いずれも、ドレイン電圧VDSは25Vとした。
【0064】
また、図6は、比較例としてのMESFETのIDS−VGS特性を表すグラフである。この比較例としてのMESFETは、前述の国際公開第2013/035842号に開示された、パッシベーション膜を有さないMESFETと同じ構造を有する。ドレイン電圧VDSは40Vである。
【0065】
図5(a)、(b)ともに、オフリーク電流の大きさが1×10−12A程度と非常に小さく、また、オンオフ比(ゲートがオフの時のドレイン電流の大きさに対するオンの時のドレイン電流の大きさの比の値)が10桁以上と非常に大きい。これも、パッシベーション膜として機能する絶縁膜16が、β−Ga単結晶層3の表面のリーク電流を効果的に抑制していることによると考えられる。
【0066】
一方、図6は、オフリーク電流の大きさが1×10−6A以上と比較的大きく、また、オンオフ比が4桁程度と比較的小さいことを示している。この原因の1つとして、比較例としてのMESFETがパッシベーション膜を有さないことが考えられる。
【0067】
〔第2の実施の形態〕
第2の実施の形態は、ゲート絶縁膜とパッシベーション膜が、それぞれ独立して形成される点で第1の実施の形態と異なる。なお、第1の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0068】
図7は、第2の実施の形態に係るGa系MISFETの断面図である。Ga系MISFET20は、高抵抗β−Ga基板2上に形成されたβ−Ga単結晶層3と、β−Ga単結晶層3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と、ソース電極12とドレイン電極13との間のβ−Ga単結晶層3上にゲート絶縁膜22を介して形成されたゲート電極11と、β−Ga単結晶層3中のソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたソース領域14及びドレイン領域15と、β−Ga単結晶層3の表面のソース電極12とゲート電極11との間の領域及びゲート電極11とドレイン電極13との間の領域を覆うパッシベーション膜21と、を含む。
【0069】
パッシベーション膜21は、第1の実施の形態の絶縁膜16と同様の材料からなる。また、パッシベーション膜21は、β−Ga単結晶層3の表面のなるべく広い領域を覆っていることが好ましく、ソース電極12とドレイン電極13に接触していることが好ましい。
【0070】
ゲート絶縁膜22は、SiO、HfO、ZrO、AlN、SiN、(AlGa1−y(0<y≦1)等の材料からなる。ゲート絶縁膜22の材料は、パッシベーション膜21の材料と同一であってもよいし、異なっていてもよい。なお、ゲート絶縁膜22の材料としてパッシベーション膜21の材料よりも誘電率の高いものを用いることにより、ゲートリーク等を第1の実施の形態のGa系MISFET10よりも効果的に抑えることができる。
【0071】
パッシベーション膜21及びゲート絶縁膜22は、例えば、フォトリソグラフィとエッチングにより形成され、どちらが先に形成されてもよい。
【0072】
パッシベーション膜21を有するGa系MISFET20は、第1の実施の形態の絶縁膜16を有するGa系MISFET10と同様に、リーク電流が非常に小さく、オンオフ比が非常に大きい。
【0073】
〔第3の実施の形態〕
第3の実施の形態は、Ga系半導体素子がゲート絶縁膜を含まないGa系MESFETである点で第2の実施の形態と異なる。なお、第2の実施の形態と同様の点については、説明を省略又は簡略化する。
【0074】
図8は、第3の実施の形態に係るGa系MESFETの断面図である。Ga系MESFET30は、高抵抗β−Ga基板2上に形成されたβ−Ga単結晶層3と、β−Ga単結晶層3上に形成されたソース電極12及びドレイン電極13と、ソース電極12とドレイン電極13との間のβ−Ga単結晶層3上に直接形成されたゲート電極11と、β−Ga単結晶層3中のソース電極12及びドレイン電極13の下にそれぞれ形成されたソース領域14及びドレイン領域15と、β−Ga単結晶層3の表面のソース電極12とゲート電極11との間の領域及びゲート電極11とドレイン電極13との間の領域を覆うパッシベーション膜31と、を含む。
【0075】
パッシベーション膜31は、第2の実施の形態のパッシベーション膜21と同様の材料からなる。また、パッシベーション膜31は、β−Ga単結晶層3の表面のなるべく広い領域を覆っていることが好ましく、ソース電極12とドレイン電極13に接触していることが好ましい。
【0076】
ゲート電極11とβ−Ga単結晶層3はショットキー接合し、β−Ga単結晶層3中のゲート電極11下に空乏層が形成される。
【0077】
Ga系MESFET30は、ゲート直下のβ−Ga単結晶層3のドナー濃度と厚さに依存して、ノーマリーオン型又はノーマリーオフ型になる。
【0078】
Ga系MESFET30がノーマリーオン型である場合、ソース電極12とドレイン電極13は、β−Ga単結晶層3を介して電気的に接続されている。そのため、ゲート電極11に電圧を印加しない状態でソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加すると、ソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れる。一方、ゲート電極11に電圧を印加すると、ゲート電極11下の空乏層の深さが増し、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加してもソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れなくなる。
【0079】
Ga系MESFET30がノーマリーオフ型である場合、ゲート電極11に電圧を印加しない状態では、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加しても電流は流れない。一方、ゲート電極11に電圧を印加すると、β−Ga単結晶層3のゲート電極11下の領域の空乏層が狭まり、ソース電極12とドレイン電極13の間に電圧を印加するとソース電極12からドレイン電極13へ電流が流れるようになる。
【0080】
パッシベーション膜31を有するGa系MESFET30は、第1の実施の形態の絶縁膜16を有するGa系MISFET10と同様に、リーク電流が非常に小さく、オンオフ比が非常に大きい。
【0081】
(実施の形態の効果)
上記第1〜3の実施の形態によれば、高抵抗のβ−Ga基板と、酸化物絶縁体からなるパッシベーション膜とを組み合わせて用いることにより、リーク電流を顕著に減少させ、オンオフ比を顕著に向上させることができる。また、上記第1〜3の実施のトランジスタは、リーク電流の発生が抑えられるためにエネルギー効率が高く、省エネルギーを実現している。
【0082】
以上、本発明の実施の形態を説明したが、本発明は、上記実施の形態に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。例えば、上記実施の形態において、Ga系半導体素子をn型半導体素子として説明したが、p型半導体素子であってもよい。この場合、各部材の導電型(n型又はp型)が全て逆になる。
【0083】
また、発明の主旨を逸脱しない範囲内において上記実施の形態の構成要素を任意に組み合わせることができる。
【0084】
また、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。
【符号の説明】
【0085】
2…高抵抗β−Ga基板、 3…β−Ga単結晶層、 10、20…Ga系MISFET、 30…Ga系MESFET、 11…ゲート電極、 12…ソース電極、 13…ドレイン電極、 16…絶縁膜、 21、31…パッシベーション膜、 22…ゲート絶縁膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8