(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284163
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】胃腸管内における傷の保護、止血、または癒着の防止のための医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 9/14 20060101AFI20180215BHJP
A61P 7/04 20060101ALI20180215BHJP
A61P 17/02 20060101ALI20180215BHJP
A61P 1/04 20060101ALI20180215BHJP
A61K 38/18 20060101ALI20180215BHJP
A61L 26/00 20060101ALI20180215BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20180215BHJP
A61K 47/32 20060101ALI20180215BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20180215BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20180215BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
A61K9/14
A61P7/04
A61P17/02
A61P1/04
A61K38/18
A61L26/00
A61K47/02
A61K47/32
A61K47/34
A61K47/38
A61K47/36
【請求項の数】11
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2015-555902(P2015-555902)
(86)(22)【出願日】2013年10月31日
(65)【公表番号】特表2016-506949(P2016-506949A)
(43)【公表日】2016年3月7日
(86)【国際出願番号】KR2013009783
(87)【国際公開番号】WO2014119836
(87)【国際公開日】20140807
【審査請求日】2016年8月5日
(31)【優先権主張番号】10-2013-0010579
(32)【優先日】2013年1月30日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】506122512
【氏名又は名称】デウン カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515207651
【氏名又は名称】シージー バイオ カンパニー,リミテッド
(73)【特許権者】
【識別番号】515207662
【氏名又は名称】ユタ−インハ ディーディーエス アンド アドバンスト セラピューティクス リサーチ センター
(74)【代理人】
【識別番号】100077012
【弁理士】
【氏名又は名称】岩谷 龍
(72)【発明者】
【氏名】キム,インエ
(72)【発明者】
【氏名】キム,サンヒ
(72)【発明者】
【氏名】チュン,ジフン
(72)【発明者】
【氏名】チャン,ヒチョル
(72)【発明者】
【氏名】メン,ジンヒ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン,スグン
(72)【発明者】
【氏名】イ,ドンヘン
(72)【発明者】
【氏名】ミン,ギョンヒョン
【審査官】
石井 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2011/083154(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 9/00− 9/72
A61K 47/00−47/69
A61L 15/00−33/18
A61K 38/18
A61P 1/04
A61P 7/04
A61P 17/02
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘膜付着性ポリマーとしてのヒドロキシエチルセルロースと、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、およびその混合物からなる群から選択される吸湿剤とを含み、前記粘膜付着性ポリマーおよび吸湿剤が、組成物の全重量に対して、それぞれ70〜95wt/wt%および5〜30wt/wt%の範囲の量で存在することを特徴とする、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための、粉末状の医薬組成物。
【請求項2】
粘膜付着性ポリマーとしてのヒドロキシエチルセルロースとポリエチレンオキシドとの混合物と、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、およびその混合物からなる群から選択される吸湿剤と、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびその混合物からなる群から選択される無機物を含み、前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物が、組成物の全重量に対して、それぞれ40〜75wt/wt%、5〜30wt/wt%、および10〜40wt/wt%の範囲の量で存在することを特徴とする、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための、粉末状の医薬組成物。
【請求項3】
前記組成物が、内視鏡を通じて胃腸管内に投与するためのものであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物が、組成物の全重量に対して、それぞれ50〜70wt/wt%、10〜20wt/wt%、10〜30wt/wt%の範囲の量で存在することを特徴とする請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項5】
表皮成長因子、ケラチノサイト成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、およびその混合物からなる群から選択される傷治療剤をさらに含む請求項1または請求項2に記載の医薬組成物。
【請求項6】
前記傷治療剤が表皮成長因子であることを特徴とする請求項5に記載の医薬組成物。
【請求項7】
ヒドロキシエチルセルロース90wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム5wt/wt%、およびデンプングリコール酸ナトリウム5wt/wt%からなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項8】
ヒドロキシエチルセルロース85wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム7.5wt/wt%、およびデンプングリコール酸ナトリウム7.5wt/wt%からなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項9】
ヒドロキシエチルセルロース89.99wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム5wt/wt%、デンプングリコール酸ナトリウム5wt/wt%、および表皮成長因子0.01wt/wt%からなる請求項6に記載の医薬組成物。
【請求項10】
ヒドロキシエチルセルロース90wt/wt%およびデンプングリコール酸ナトリウム10wt/wt%からなる請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項11】
ヒドロキシエチルセルロース30wt/wt%、ポリエチレンオキシド20wt/wt%、デンプングリコール酸ナトリウム20wt/wt%、および塩化カルシウム30wt/wt%からなる請求項2に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための医薬組成物に関する。さらに詳しくは、本発明は、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための、特定の粘膜付着性ポリマーと特定の吸湿剤とを含む、粉末状の医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
胃腸管出血は、ごく一般的な医学的問題である。胃潰瘍の患者の約50%は、出血性胃潰瘍と診断される。症例の約80%において、胃腸管出血は、主として上部胃腸管で発生する。上部胃腸管出血において、出血は、食道、胃、または十二指腸から発生し、吐血やメレナを引き起こす。上部胃腸管出血の出血部位は、内視鏡的方法によって識別することができ、その識別率は、約90%である。胃がんまたは大腸がんの治療を目的として、胃または大腸のポリープ切除術、内視鏡的粘膜切除術、および内視鏡処置が多様に行われている。しかし、このような治療の間または治療後に、胃または大腸からの出血が起こることがあり、緊急の外科的介入を必要としたり、患者の死亡につながることもある。
【0003】
最近では、胃腸管出血の処置として内視鏡的止血法が行われている。内視鏡的止血法としては、例えば、高張食塩水、エピネフリン、またはアルコールの直接局所注射;電熱、アルゴンまたはレーザーを用いた凝固法;およびクリップを用いた物理的な止血法などが挙げられる。しかし、このような従来の方法は、潰瘍の周りの血管内に液剤を注射して圧迫することによって、または血管自体を結紮することによって、出血量を抑えることを目的としている。したがって、潰瘍部は、粘膜が剥離した状態のまま残り、結果として、治療後もしばしば出血が続く。調査によると、従来の内視鏡的止血治療の成功率は、症例の70〜80%に過ぎない。さらに、そのうち20〜25%は、内視鏡的止血治療の3〜4日後に再び出血が起こる。再出血は血管からの出血を意味し、潰瘍の周りの組織の再生によって潰瘍が完全に治癒する前に発生する。したがって、潰瘍の粘膜が剥離している場合、出血を止めるための従来の内視鏡的止血法によっては解決し難い制約が存在する。すなわち、従来の内視鏡的止血法では、潰瘍または病巣の治癒速度が遅いため、再出血の起こる頻度が高い。このような問題を解決するために、韓国特許公開第10−2006−0040329号には、体内で使用するための止血剤および該止血剤を人体内部の潰瘍に塗布する方法が開示されている。該方法では、ポリマー溶液形態のコーティング剤を内視鏡方法により潰瘍上に分散させてコーティングし、潰瘍からの出血を止め、再出血の可能性を最小限に抑える。
【0004】
一方、潰瘍または病巣の治癒速度を高め、また再出血の可能性を最小限に抑えるために、出血を止めること(すなわち、止血の提供)だけではなく、傷(例えば、潰瘍および/または病巣)を効果的に保護すること、および癒着を防止することができる多機能製剤が必要となる。すなわち、内視鏡カテーテルを通じて胃腸管内に投与され(または注射され)、傷を保護し、止血を提供し、および/または癒着を防止する製剤が必要となる。胃腸管内に局所投与を行うためには、適切な粘度および粘膜への付着性、(すなわち、粘膜付着性)を有するだけではなく、標的部位で止血を行うための物理的な保護シールドを形成することが必要とされる。
【0005】
手術部位での癒着を防止するために、ゲル形態またはゾルゲル形態の製剤が開発されている。しかし、低粘度のゲル製剤は、上部胃腸管への塗布の過程で多くの損失が発生し、これは物理的保護シールドの形成を制限する。また、高粘度のゲル製剤は優れた粘膜付着性を有するものの、これにも欠点があり、例えば高圧噴出装置を必要とするため、それによって多くの損失が発生する。ゾルゲル製剤は、特定温度(例えば、体温)でゾル形態(例えば、体内に塗布する前の形態)からゲル形態へと変化する製剤である。しかし、従来のゾルゲル製剤は、ゲル化時間が非常に短く、体内へ塗布する前にカテーテル内でゲル化するおそれがあり、やはり塗布の過程における損失が多い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明者らは、内視鏡を通じて胃腸管内に投与(または注射)され、それによって胃腸管における傷を保護し、止血を行い、かつ/または癒着を防止する医薬製剤を開発するために多様な研究を行った。驚くべきことに、特定の粘膜付着性ポリマーと特定の吸湿剤との組み合わせによって得られた粉末状の製剤が、カテーテルの通過および/または身体への塗布に適した移動性(または流動性)を有し、塗布部位で即時にゲル化してシールドを形成することによって損失を最小限に抑え、速やかに傷の保護、止血、および抗癒着(すなわち、癒着防止)を提供することが、本発明によって新たに見出された。
【0007】
したがって、本発明の目的は、特定の粘膜付着性ポリマーと特定の吸湿剤とを含む、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための、粉末状の医薬組成物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様によれば、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキシド、およびその混合物からなる群から選択される粘膜付着性ポリマーと、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、およびその混合物からなる群から選択される吸湿剤とを含む、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための粉末状の医薬組成物が提供される。
【0009】
本発明の医薬組成物は、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびその混合物からなる群から選択される無機物をさらに含んでもよい。好ましくは、本発明の医薬組成物は、内視鏡を通じて胃腸管内に投与するためのものであってもよい。
【0010】
一実施形態において、前記粘膜付着性ポリマーおよび吸湿剤は、組成物の全重量に対して、それぞれ70〜95wt/wt%および5〜30wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。
【0011】
別の一実施形態において、前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物は、組成物の全重量に対して、それぞれ40〜75wt/wt%、5〜30wt/wt%、および10〜40wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。好ましくは、前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物は、組成物の全重量に対して、それぞれ50〜70wt/wt%、10〜20wt/wt%、および10〜30wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。
【0012】
本発明の医薬組成物は、表皮成長因子、ケラチノサイト成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、およびその混合物からなる群から選択される傷治療剤、好ましくは表皮成長因子をさらに含んでもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明による医薬組成物は粉末形態を有することによって、従来の溶液、ゲル、またはゾルゲル形態の製剤に伴う問題を回避することができる。すなわち、本発明による粉末状の医薬組成物は、カテーテルの通過および/または身体への塗布に適した移動性(または流動性)を有し、塗布部位で即時にゲル化してシールドを形成することによって損失を最小に抑え、速やかに傷の保護、止血、および抗癒着(すなわち、癒着防止)を提供することができる。特に、即時にゲル化する本発明の組成物は、出血部位に単に吸着される従来の止血製剤に比べ、より優れた止血能および抗癒着能を示す。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図2】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図3】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図4】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図5】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図6】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図7】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図8】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図9】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図10】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図11】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図12】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図13】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図14】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図15】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図16】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図17】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図18】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図19】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図20】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図21】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図22】本発明による粉末製剤の止血能の評価において得られた写真である。
【
図23】ウサギの粘膜切除によって誘発される胃出血モデルに対する、本発明の粉末製剤の止血作用を示す。
【
図24】ミニブタの内視鏡的粘膜切除によって誘発される胃出血モデルに対する、本発明の粉末製剤の止血作用を示す。A)処置前の胃出血、B)処置3分後の胃潰瘍の内視鏡検査画像、C)処置6分後の胃潰瘍の内視鏡検査画像。
【
図25】本発明の粉末製剤による処置後の、潰瘍面積の減少(潰瘍の治癒)を示す(
****p<0.0001)。
【
図26】ウサギの胃潰瘍および出血モデルに対する、本発明の粉末製剤による処置後の粘膜治癒(厚さ)の組織学的観察結果を示す(
**p<0.01)。
【
図27】ミニブタモデルにおける内視鏡的粘膜切除による胃出血に対する、本発明の粉末製剤の潰瘍被覆の拡がりおよび止血作用を72時間まで内視鏡により観察した結果を示す。
【
図28】ミニブタにおける、対照群(未処置)の粘膜および本発明の粉末製剤で処置された粘膜のヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色画像を示す。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキシド、およびその混合物からなる群から選択される粘膜付着性ポリマーと、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、クロスポビドン、およびその混合物からなる群から選択される吸湿剤とを含む、胃腸管内における傷の保護、止血、または抗癒着のための、粉末状の医薬組成物を提供する。
【0016】
本明細書において、用語「粉末状」は、例えば、通常の製剤化方法に従って得られる医薬的粉末形状および医薬的顆粒形状(すなわち、顆粒)を含む、あらゆる粉末形状を包含する。
【0017】
本発明者らは、粘膜付着性ポリマーと吸湿剤との多様な組み合わせに関して、即時的なゲル化による保護シールド形成能、ゲル強度および止血能を含む多様な項目を評価した。驚くべきことに、特定の粘膜付着性ポリマーと特定の吸湿剤との組み合わせによって得られた粉末状の製剤が、カテーテルの通過および/または身体への塗布に適した移動性(または流動性)を有し、塗布部位で即時にゲル化してシールドを形成することによって損失を最小限に抑え、速やかに傷の保護、止血、および抗癒着(すなわち、癒着防止)を提供することが、本発明によって新たに見出された。
【0018】
本発明の医薬組成物は、内視鏡(すなわち、内視鏡カテーテル)を通じて胃腸管内に投与するためのものであってもよい。
【0019】
一実施形態において、本発明の医薬組成物は、粘膜付着性ポリマーと吸湿剤とを含んでもよく、前記粘膜付着性ポリマーおよび吸湿剤は、組成物の全重量に対して、それぞれ70〜95wt/wt%および5〜30wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。
【0020】
別の一実施形態において、本発明の医薬組成物は、粘膜付着性ポリマーと吸湿剤とに加えて、塩化カルシウム、リン酸カルシウム、水酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫酸カルシウム、およびその混合物からなる群から選択される無機物を含んでもよい。この実施形態において、前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物は、組成物の全重量に対して、それぞれ40〜75wt/wt%、5〜30wt/wt%、および10〜40wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。好ましくは、前記粘膜付着性ポリマー、吸湿剤、および無機物は、組成物の全重量に対して、それぞれ50〜70wt/wt%、10〜20wt/wt%、および10〜30wt/wt%の範囲の量で存在してもよい。
【0021】
本発明の医薬組成物は、胃腸管内の傷(例えば、潰瘍および/または病巣)の治癒を促進するための傷治療剤をさらに含んでもよい。例えば、本発明の医薬組成物は、表皮成長因子、ケラチノサイト成長因子、塩基性線維芽細胞成長因子、およびその混合物からなる群から選択される傷治療剤、好ましくは表皮成長因子をさらに含んでもよい。該傷治療剤は、治療有効量で使用してもよく、その量は当業者によって容易に決定されうる。
【0022】
本発明の一実施形態において、ヒドロキシエチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、およびデンプングリコール酸ナトリウムからなる医薬組成物が提供される。例えば、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシエチルセルロース90wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム5wt/wt%、およびデンプングリコール酸ナトリウム5wt/wt%からなっていてもよい。また、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシエチルセルロース85wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム7.5wt/wt%、およびデンプングリコール酸ナトリウム7.5wt/wt%からなっていてもよい。
【0023】
本発明の別の一実施形態において、ヒドロキシエチルセルロース、クロスカルメロースナトリウム、デンプングリコール酸ナトリウム、および表皮成長因子からなる医薬組成物が提供される。例えば、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシエチルセルロース89.99wt/wt%、クロスカルメロースナトリウム5wt/wt%、デンプングリコール酸ナトリウム5wt/wt%、および表皮成長因子0.01wt/wt%からなっていてもよい。
【0024】
本発明のさらにまた別の一実施形態において、ヒドロキシエチルセルロースおよびデンプングリコール酸ナトリウムからなる医薬組成物が提供される。例えば、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシエチルセルロース90wt/wt%およびデンプングリコール酸ナトリウム10wt/wt%からなっていてもよい。
【0025】
本発明のさらにまた別の一実施形態において、ヒドロキシエチルセルロース、ポリエチレンオキシド、デンプングリコール酸ナトリウム、および塩化カルシウムからなる医薬組成物が提供される。例えば、本発明の医薬組成物は、ヒドロキシエチルセルロース30wt/wt%、ポリエチレンオキシド20wt/wt%、デンプングリコール酸ナトリウム20wt/wt%、および塩化カルシウム30wt/wt%からなっていてもよい。
【0026】
以下、実施例により本発明についてさらに詳細に説明する。しかし、これら実施例は、本発明を例示的に説明するためのものであり、本発明の範囲はそれらによって限定されるものではない。
【実施例】
【0027】
実施例1:粉末製剤の調製および評価
(1)粉末製剤の調製
多様なタイプの粘膜付着性ポリマーに対して粘膜の付着性に関する予備試験を行った。また、多様な吸湿剤に対して吸湿能に関する予備試験を行った。予備試験の結果、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、アルギン酸ナトリウム、キトサン、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、およびポリエチレンオキシド(PEO)が粘膜への付着性に優れ、クロスカルメロースナトリウム(Ac−di−sol)、デンプングリコール酸ナトリウム、ケイ酸カルシウム、およびクロスポビドンが、非常に優れた吸湿能を示した。この予備試験の結果を踏まえ、粘膜付着性ポリマーと吸湿剤とを、任意に公知の止血性無機物(塩化カルシウム)を加えて混合することによって、下記表1に示した粉末製剤を調製した。表1の量は、製剤中のwt/wt%(重量パーセント)である。
【0028】
【表1】
【0029】
(2)特性の評価
試料の保護シールド形成時間、止血能およびゲル強度を下記表2および表3に示す。表2および表3において、「○」は「適合」を、「×」は「不適」を表す。
【0030】
【表2】
【0031】
【表3】
【0032】
(2−1)止血能
各試料と血液とをペトリ皿にて1:1で反応させた。1分間の反応の後、過量の水(10mL)を噴霧し、止血が維持されるか否かを試験した。塩化カルシウムを含有するS6〜S9は、優れた止血が得られた。また、塩化カルシウムを含有しない試料S2、S2−1〜S2−4、S2−7、S2−8、およびS3も即時にゲル化することにより物理的な保護シールドを形成し、止血が得られた。しかし、試料S2−5およびS2−6では止血が得られなかった。これは、化学的止血剤を欠くことによる。また、試料S1、S4、およびS5も止血が得られなかったが、これは、物理的保護シールドが形成されなかったことによる。
【0033】
(2−2)ゲル強度
各試料と水とを重量比1:10で反応させ、ゲルを得た。下記条件下、レオメータを用いてゲル強度を測定した。
− スピンドル:No.25
− 最大荷重:20N
− 引張距離:5mm
− クロスヘッド速度:120.0mm/分
【0034】
外部応力に耐える程度を比較するために、得られたゲルの引張強度を測定した。各試料の引張強度を下記式によって計算した。
引張強度(MPa)=最大荷重(N)/試料の断面積(A)
【0035】
その結果、即時的ゲル形成能において最も優れていた試料S2は、引張強度が最も高かった。試料S2−1〜S2−4、S2−7、S2−8、S6、S6−1、S6−3、S7、S8、およびS8−1は、比較的高い引張強度を示した。吸湿剤を含有せず、粘膜付着性ポリマーと止血性無機物とからなる試料S9は、引張強度が明らかに低かった。また、粘膜付着性ポリマーと吸湿剤とをいずれも含有する試料のうち、粘膜付着性ポリマーとしてアルギン酸ナトリウムまたはキトサンを含有する試料は、ゲル強度がほぼゼロ(0)であった。
【0036】
実施例2:In−vivo試験
(1)粉末製剤の調製
In−vivo試験において、本発明者らは、粘膜付着性ポリマー(ヒドロキシエチルセルロース)と吸湿剤(クロスカルメロースナトリウムおよびデンプングリコール酸ナトリウム)とからなる粉末製剤を、傷治療剤としての表皮成長因子(EGF)とともに用いた。この粉末製剤は、粉末製剤の1gにつき、ヒドロキシエチルセルロース(899.99mg)、クロスカルメロースナトリウム(50mg)、デンプングリコール酸ナトリウム(50mg)、およびEGF(10μg)を混合して調製した。この粉末製剤を、本実施例2において「製剤」と呼ぶ。
【0037】
(2)試験方法
<1>試験動物
In−vivo実験用に、体重35〜40kgの6匹の雌のミニブタ(Micro−pig(登録商標);Medi Kinetics、ピョンテク、韓国)、および体重2〜2.5kgの46匹の雄のウサギ(New Zealand White;Orient Bio、ソンナム、韓国)を用いた。動物の飼育および実験手順はすべて、イナ大学校実験動物研究委員会(インチョン、韓国))の指針に従って行われた。
【0038】
<2>胃出血の動物モデル
本試験において、胃出血モデルは、ウサギおよびミニブタを用いて作製した。ウサギの粘膜切除による胃出血モデルは、下記のように作製した。ウサギを手術前の24時間絶食させた後、ケタミン(4.2mg/kg)とキシラジン(11.7mg/kg)との混合物を筋肉内注射することにより麻酔した。ウサギをランダムに非処理群、エピネフリン注射群および製剤処理群に分けた。胃を露出させ、大彎に沿って切開した。次いで、等張性生理食塩水200μlを胃の粘膜下層に注射した。腫大した胃粘膜を外科用剪刀を使用して切除した。切除された部位は、直径約7〜10mmであった。処置の後、出血の持続時間を測定した。
【0039】
ミニブタの内視鏡的粘膜切除による胃出血モデルは、下記のように作製した。まず、内視鏡術前の36時間、食物を絶った。チレタミン/ゾラゼパム(Zoletil(登録商標)、Virbac Korea、ソウル、韓国)とキシラジン(Narcoxyl−2(登録商標)、Intervet Korea Ltd.、ソウル、韓国)とを筋肉内注射することによって麻酔を導入し、手術の間、イソフルラン(Ifran(登録商標);Hana Pharm.、キョンギド、韓国)を吸入させることによって、麻酔を維持した。内視鏡(GIF−Q260;Olympus Medical Systems、東京、日本)を側臥位の動物に挿入した。アルゴンプラズマ凝固装置を用いて標的部位のマーキングを行い、等張性生理食塩水を粘膜下層に注射した。内視鏡的粘膜下層剥離術により、胃の前壁および後壁に直径2.0〜3.0cmの急性潰瘍を生じさせた。
【0040】
<3>製剤の止血作用および潰瘍治癒作用
胃粘膜を切除したウサギモデルにおける製剤の止血作用を評価した。胃粘膜の腹腔鏡下切除の後、出血部位を製剤で覆い、平均出血時間を測定し、別の従来の処置、すなわちエピネフリン局所注射と比較した。ブタモデルにおいては、内視鏡を用いて粘膜切除を行った後、出血部位を製剤で覆った。処置後の急性出血および再出血に対する製剤の即時的止血作用を、内視鏡を通じて24時間観察した。最初の塗布の後、3分以内に再出血が見られた場合、最初の塗布と同様に2回目の塗布を行った。処置の後、動物を24時間観察した。
【0041】
製剤の潰瘍治癒効果を主に組織学的評価により観察した。処置の1日後、胃を回収し、潰瘍面積を期最初の潰瘍面積で除することにより、相対潰瘍面積を計算した。ブタモデルにおいては、内視鏡を用いて潰瘍を観察した。処置の3日後にミニブタを犠死させ、組織学的評価のために組織を採取し染色した。
【0042】
<4>組織学的試験
回収した粘膜組織を4%ホルマリンで固定し、パラフィンブロックで包埋した後、通常の手順によってヘマトキシリン・エオジン(H&E)染色を行った。H&E染色した切片を分析して胃腺構造を評価し、潰瘍部位で再生された胃粘膜の厚さを顕微鏡下で測定した。
【0043】
<5>統計分析
データはすべて、平均±SEMで表した。実験結果を、T−検定、一元配置分散分析で分析し、次いでテューキーの事後検定または二元配置分散分析を行い、PRISM5ソフトウェアを用いてボンフェローニ多重比較を行った。P値<0.05、<0.01、<0.001、または<0.0001を、統計的に有意と判断した。
【0044】
(3)結果
<1>製剤の止血機能
ウサギおよびミニブタの胃粘膜切除による出血における製剤の止血機能を観察した。ウサギモデルにおける、各処置下の平均出血時間を
図23に示す。非処置およびエピネフリン局所注射の出血時間は、それぞれ約548秒および約393秒であった。これに対し、本発明の製剤による処置では、出血時間が有意に短縮された(104秒、p<0.001)。該製剤は出血部位を覆い、即時的な止血機能を示した。出血は、12〜26分で止まり、最初の処置から72時間、安定していた(
図24)。この試験において、2回目の処置は不要であった。
【0045】
<2>製剤の潰瘍治癒活性
治癒のため1日間置いた後、ウサギをケタミン/キシラジン(10/3mg/kg)の筋肉内注射により犠死させた。胃組織を採取し、組織学的検査のために処理した。胃粘膜の傾向の視覚化により、製剤を用いた処置によって潰瘍の治癒が促進されたことが明らかになった(
図25)。相対的な潰瘍サイズは、非処置群に比べて有意に減少した(56.8%対26.0%、p<0.00001)。組織学的検査は、製剤が胃粘膜構造の回復を促進したことをさらに裏付けるものであった。ミニブタにおいても、内視鏡的粘膜切除による潰瘍は、製剤を用いた処置によって潰瘍の治癒および粘膜構造の回復の増進が見られた(
図26〜28)。本発明の製剤は、潰瘍病変上にハイドロゲル被覆を形成する(
図28)。