(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
牛糞,豚糞,鶏糞等の家畜糞を堆肥化する方法が広く知られている(例えば、特許文献1)。
特許文献1の堆肥製造方法では、鶏糞に木片チップと微生物を混入した60℃以上の混合物を、堆肥舎で6.5日間、その後発酵槽で23.5日間発酵させる。得られた発酵物から、選別機で木片チップを回収した後、鶏糞堆肥を養生施設に送り、切返しをしながら60℃以上で3.8日間発酵させて、鶏糞堆肥が完成する。
このように製造された家畜糞堆肥は、低コストなだけでなく、含有するリン酸の殆どが、植物の根から分泌される有機酸により溶解・吸収される緩効性で、土壌に固定されにくく持続性ある水不溶クエン酸溶性リン酸であって、化成肥料のリン酸と同様以上の高い肥効を示す。
【0003】
また、家畜糞堆肥は、毎日膨大な量が発生し廃棄物となるべき家畜糞をリサイクルするものであって、畜産業側の廃棄コストを大幅に削減すると同時に、耕種側でも、高価な化成リン酸肥料の代替品となるため、畜産業側,耕種側双方の大幅なコスト削減につながるものである。
更に、天然資源であるリン鉱石は枯渇の危機に瀕しており、リン鉱石をほぼ全量輸入に依存しているわが国において、リン資源の確保は重要な課題となっている中、化成肥料と同様以上の肥効を示し、リン酸を含有する家畜糞堆肥は、化成肥料の代替品として益々重要度を増している。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下に説明する構成は、本発明を限定するものではなく、本発明の趣旨に沿って各種改変することができることは勿論である。
本実施形態は、家畜糞処理液と鶏糞を原料として
製造される、鉄水和酸化物の一種であるフェリハイドライトと鶏糞中の有機物との複合体からなる鶏糞堆
肥である。
本実施形態では、家畜糞として鶏糞を用いるが、そのほか、牛,豚,羊,山羊等を含むあらゆる家畜の糞についても適用可能である。
ここで、フェリハイドライトと鶏糞中の有機物との複合体とは、非晶質フェリハイドライト(以下フェリハイドライトという)と有機物との複合体をいう。
【0022】
フェリハイドライト(Ferrihydrite)とは、一般式5Fe
2O
3・9H
2Oで表される非晶質水和酸化物である。一般的には、地球表層において初期段階で形成される低結晶度の鉄鉱物として知られている。
フェリハイドライトは、有機化合物のカルボキシル基やカルボニル基のOH端、O端と配位結合する性質があり凝集体を形成する。比表面積が約200(m
2/g)と大きく、有機化合物のOH端、O端との反応に供される場が広いため、触媒能が高く、凝集体を形成する能力が高いことが分かっている
。
【0023】
(家畜糞処理液)
家畜糞処理液は、玄武岩、安山岩等の堆積岩土壌に、無機酸を添加して抽出した天然由来のイオン化ミネラル濃縮液を用いる。このイオン化ミネラル濃縮液としては、例えば、株式会社リオン製のクレイエクストラクトを使用することができる。
家畜糞処理液は、玄武岩、安山岩等の堆積岩土壌(粘土)に、濃度10〜20重量%の硫酸水溶液を添加して酸可溶成分を抽出したものである。なお、硫酸の代わりに、硝酸、これらの無機酸を混合したもの、またはその水溶液等を用いてもよいが、濃度10〜20重量%の硫酸水溶液を用いると、家畜糞処理液を効率よく得ることができる。
【0024】
家畜糞処理液は、鉄(Fe)を主要構成成分とし、その他マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のカチオンも含む。ただし、マグネシウム量およびカルシウム量の和は、ミネラル液に含有される鉄の量の30重量%未満である。
家畜糞処理液は、鉄を7000〜15000(ppm)程度含み、pHは、0.1〜0.2程度である。
また、家畜糞処理液に含まれる高分子の径は、3〜8(nm)程度である。
【0025】
家畜糞処理液に含まれる鉄は、pHによって異なる形態で存在する。pH3以下では、鉄は、Fe
3+、pH3〜pH4では、Fe
3+とFe(OH)
2+、pH4〜pH5では、Fe
3+とFe(OH)
2+とFe(OH)
2+、pH5より高いpHでは、Fe(OH)
2+とFe(OH)
2+とFe(OH)
3として存在する。
【0026】
また
、家畜糞処理液の母材である土壌を硫酸抽出した残渣は、純鉄(Fe(3+))と、非結晶質の針鉄鉱(α−FeOOH)とを含んでいる。ここで、純鉄(Fe(3+))とは、変化しにくい安定した鉄をいい、酸化されず、溶出しないという性質を有する鉄をいう。
【0027】
家畜糞処理液の一例の組成を、表1に示す。
【表1】
【0028】
また
、家畜糞処理液の母材である土壌を硫酸で抽出した残渣の一例を、メスバウア分光分析法で測定した結果、常磁性のFe(3+)と、スピネル8面体位置のFe
3O
4、スピネル・4面体位置のFe
3O
4と、α−Fe
2O
3とを含んでいることが分かった。残渣に含まれるFeのうち、6%が常磁性のFe(3+)、38%がスピネル・8面体位置のFe
3O
4、31%がスピネル・4面体位置のFe
3O
4、25%がα−Fe
2O
3であるとの測定結果を得た。
【0029】
家畜糞処理液は、消臭殺菌効果を有する。
これは、Fe(OH)
3からフェリハイドライトの複合体が形成され、複合体形成時、有機物の芳香環や−SH基等が切断されて、糞臭が除去されると考えられる。
また、家畜糞処理液のpH5以上における主成分Fe(OH)
3の鉄が次の化学式(1)により反応して2価になるときに発生するスーパーオキサイドにより、臭い物質を酸化分解すると考えられる。
4Fe(OH)
3+8H
+→4Fe
2++10H
2O+O
2・・・(化学式1)
【0030】
また、一般的に、酸化状態では、O
2が電子受容体となるため、酸化状態における有機物の最終産物はCO
2とH
2Oであるが、還元状態では、NO
3,SO
4,CO
2が電子受容体となるため、有機物の最終産物としてN
2,H
2S,CH
4も発生する。
式1の反応の酸化還元電位は、EH=―0.183Vであり、メタンガスの発生する電位はEH=―0.253Vであるため、嫌気状態になるのを防ぎ、メタンガス等の発生を抑制する。
【0031】
(家畜糞堆肥の製造方法)
本実施形態の家畜糞堆肥の製造方法について、鶏糞を用いて鶏糞堆肥を製造する場合を例として説明する。
まず、家畜糞処理液を、水で10倍〜3000倍に希釈し、pH5以上、好ましくはpH5〜6の希釈液を得る。このとき、同じ倍率で希釈しても、希釈に用いる水の種類によって得られる希釈液のpHが変化するが、本実施形態では、純水を用いる。
次いで、採卵鶏の鶏糞を準備する。採卵鶏の鶏糞としては、pH5以上のものを用いる。なお、鶏の腸内pHを下げるよう腸内pH調整を行わなければ、採卵鶏の鶏糞のpHは通常6前後であり、そのまま用いることができる。鶏糞のpHが5未満の場合、pH5以上に調整する。
【0032】
家畜糞処理液は、pH5未満では、Fe(OH)
3が存在せず、Fe
3+とFe(OH)
2+とFe(OH)
2+の形態となる。Fe
3+とFe(OH)
2+とFe(OH)
2+の形態のときには、鶏糞中の有機物は、鉄ではなくアルミニウム、マグネシウム、カルシウム等の他の元素と複合体を形成してしまうため、鉄と有機物との複合体であるフェリハイドライトができない。したがって、フェリハイドライトを形成させるためには、家畜糞堆肥製造方法の各工程において、鶏糞と家畜糞処理液の希釈液を混合したもののpHが、5以上になっていることが必要である。
【0033】
次いで、採卵鶏の鶏糞1kg当たり0.2〜1.5Lの希釈液を、公知のスプレーを用いて鶏糞に散布する添加工程を行った後、5〜15分間撹拌混合する撹拌工程を行い、鶏糞と処理液の混合物を得る。なお、希釈液の添加量は、鶏糞の水分量に応じて決められる。また、添加工程は、スプレーを用いた散布に限られず、希釈液をそのまま注入したり、振り掛けたりしてもよい。
混合物をシート上に薄く広げ、5〜14日間天日干しにより、水分が10〜25%程度になるよう乾燥する乾燥工程を行い、乾燥混合物を得る。ここで、天日干しの日数を5日以上としたのは、5日未満であると、家畜糞特有の臭気が完全に除去されないためである。また、14日間以下としたのは、14日間天日干しすれば家畜糞特有の臭気が略完全に除去されるためである。また、14日より長い日数天日干しをすると、鶏糞の処理効率が低下し、処理待ちの鶏糞を保管する施設を大型化する必要が生じるためである。
なお、本実施形態では、天日干しにより乾燥工程を行うが、コンベア式乾燥機,ドラム式乾燥機等の乾燥機で乾燥してもよい。
乾燥混合物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成する。
【0034】
本実施形態の家畜糞堆肥を製造する方法では、家畜糞処理液の希釈液のpHを5以上に調整し、かつ、pH5以上の鶏糞を用いているため、以降の工程において、家畜糞処理液の希釈液のpHを5以上に保持することが可能となり、家畜糞処理液の希釈液中に、フェリハイドライトの原料となるFe(OH)
3(水酸化鉄)を存在させることが可能となる。
【0035】
(家畜糞堆肥)
上記家畜糞堆肥の製造方法により製造された鶏糞堆肥は、緑色から黒色の粉末からなり、粉末状の家畜糞堆肥製品の形態においても、粉末に水を加えたペースト状の形態においても、従来の家畜糞堆肥特有の悪臭がない。
また、鶏糞堆肥は、pH8以下であるとよい。pH8より高くなると、独特のみそ臭が生じる場合があるが、pH8以下になると、このみそ臭が和らげられるか、なくなるためである。
なお、鶏糞堆肥は、鶏に与えた飼料,水や、鶏の生育した環境などにより、組成や性質が変化するため、鶏糞堆肥のpHが同じであっても、みそ臭が生じる場合も生じない場合もあり、みそ臭の発生頻度が異なる。鶏糞堆肥がpH6以下となると、どのような条件でも、ほぼ完全にみそ臭の発生が防止される。
【実施例】
【0036】
以下、上記家畜糞堆肥の製造方法により製造した鶏糞堆肥の実施例1〜5について説明する。
(実施例1)
家畜糞処理液を水で10倍希釈した希釈液0.5Lを、採卵鶏の鶏糞2kgに散布して、5分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物2.5kgを得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、0.35kgの乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
【0037】
(実施例2)
家畜糞処理液を水で100倍希釈した希釈液0.5Lを、採卵鶏の鶏糞2kgに散布して、5分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物2.5kgを得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、0.28kgの乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
【0038】
(実施例3)
家畜糞処理液を水で1000倍希釈した希釈液0.3Lを、採卵鶏の鶏糞1kgに散布して、5分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物1.3kgを得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、0.14kgの乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
【0039】
(実施例4)
家畜糞処理液を水で500倍希釈した希釈液0.5Lを、採卵鶏の鶏糞2kgに散布して、5分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物2.5kgを得た。混合物をシート上に薄く広げ、11日間天日干しをして、0.45kgの乾燥混合物を得た。このうち0.215kgの乾燥混合物を廃棄して0.235kgの乾燥混合物をサンプルとした。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
【0040】
(実施例5)
家畜糞処理液を水で1000倍希釈した希釈液0.5Lを、採卵鶏の鶏糞2kgに散布して、5分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物2.5kgを得た。混合物をシート上に薄く広げ、11日間天日干しをして、0.469kgの乾燥混合物を得た。このうち0.134kgの乾燥混合物を廃棄して0.335kgの乾燥混合物をサンプルとした。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
【0041】
(試験例1)
以上のように調整した実施例1〜5の家畜糞堆肥の臭気について試験した結果を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
実施例1,2,4,5では、原料である鶏糞の臭気を100とした場合、撹拌工程中の臭気が50程度であった。また、乾燥工程開始後6日目に、鶏糞特有の臭気が全く感じられず、臭気が完全に除去された。また、その後、そのまま糞臭が復活することなく、製品形態である家畜糞堆肥及び家畜糞堆肥に水を添加したペーストに至るまで、糞臭のないものであった。
【0044】
また、実施例3では、原料である鶏糞の臭気を100とした場合、撹拌工程中の臭気が50程度であった。また、7日間の乾燥工程終了後、感じられるか感じられないかの境界程度の臭気を有していた。乾燥工程終了後の臭気は、従来の鶏糞堆肥の臭気よりも非常に弱いレベルであった。
【0045】
実施例2に係る家畜糞堆肥の分析結果を、表3に示す。
【0046】
【表3】
【0047】
実施例2に係る鶏糞堆肥は、リン酸量が8.6%で、窒素量の2.77倍、カリウム量の4.10倍であった。従来の鶏糞堆肥は、リン酸量が4〜6%でカリウム量の2倍未満であるため、従来の鶏糞堆肥と対比しても、リン酸の含有比率が高いことが分かった。
【0048】
(実施例6)
家畜糞処理液を水で10倍希釈した希釈液1Lを、採卵鶏の鶏糞10kgに散布して、水分60%とし、10分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物を得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
得られた家畜糞堆肥は、pH5.54で、無臭であった。
【0049】
(実施例7)
家畜糞処理液を水で10倍希釈した希釈液1Lを、pH6.33の採卵鶏の鶏糞10kgに散布して、水分60%とし、10分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物を得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
得られた家畜糞堆肥は、pH5.17で、無臭であった。
【0050】
(実施例8)
家畜糞処理液を水で10倍希釈した希釈液1Lを、採卵鶏の鶏糞10kgに散布して、水分60%とし、10分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物を得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
得られた家畜糞堆肥は、pH7.56で、若干のみそ臭があったが、肥料臭気としては、合格品として許容される程度であった。
【0051】
(実施例9)
家畜糞処理液を水で5倍希釈した希釈液1Lを、対比例1で用いたものと同じ採卵鶏の鶏糞10kgに散布して、水分60%とし、10分間撹拌混合した後、数分間放置して、鶏糞と処理液の混合物を得た。混合物をシート上に薄く広げ、7日間天日干しをして、乾燥混合物を得た。次いで、混合乾燥物を粉砕して粉砕物を得て、家畜糞堆肥を完成した。
得られた家畜糞堆肥は、pH8.03で、若干のみそ臭があったが、肥料臭気としては、合格品として許容される程度であった。
【0052】
(試験例2)
実施例6〜9で製造した鶏糞堆肥について、pHと臭気との関連を検討した。
実施例8,9より、家畜糞処理液で処理した鶏糞堆肥は、pH7.56,pH8.03で若干のみそ臭があったが、許容できる程度のわずかなみそ臭であった。従って、pH8以下程度で、アルカリ性の家畜糞堆肥特有のみそ臭がなくなることが分かった。
また実施例6,7より、家畜糞処理液で処理した鶏糞堆肥は、pH5.54,pH5.17で、全くの無臭になっていた。
実施例6〜9では、家畜糞処理液により、中性又は酸性の鶏糞堆肥となっており、アルカリ特有の悪臭がしないことが確認された。臭気の確認をしたところ、アンモニアの発生も抑えられており、真の発酵食品と同程度の系に入っているものと思われた。