特許第6284168号(P6284168)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284168稼働中の風力タービンブレードの地上からの非破壊音響ドップラー検査
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284168
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】稼働中の風力タービンブレードの地上からの非破壊音響ドップラー検査
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20180215BHJP
   G01N 29/14 20060101ALI20180215BHJP
   F03D 1/06 20060101ALI20180215BHJP
   F03D 17/00 20160101ALI20180215BHJP
   G01N 29/12 20060101ALI20180215BHJP
   G01N 29/46 20060101ALI20180215BHJP
   G01M 99/00 20110101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01H17/00 Z
   G01N29/14
   F03D1/06 A
   F03D17/00
   G01N29/12
   G01N29/46
   G01M99/00 A
【請求項の数】13
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-503345(P2016-503345)
(86)(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公表番号】特表2016-519292(P2016-519292A)
(43)【公表日】2016年6月30日
(86)【国際出願番号】US2014030189
(87)【国際公開番号】WO2014145423
(87)【国際公開日】20140918
【審査請求日】2016年4月11日
(31)【優先権主張番号】13/840,470
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515255283
【氏名又は名称】デジタル ウインド システムズ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】ニューマン,ジョン ダブリュ
【審査官】 田中 秀直
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−174538(JP,A)
【文献】 特開2010−281279(JP,A)
【文献】 特開2011−038935(JP,A)
【文献】 特開2012−018066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 1/00−17/00
F03D 1/00−80/80
G01N 29/00−29/52
G01M 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転中の風力タービンブレードを検査するための装置であって、
前記ブレードの内部または表面下の欠陥からブレード外側モールドライン内の裂け目を通って出てくる空気によって発生する音響信号を受けるために、ブレード先端の回転時の最下レベルの下の箇所におけるタービンディスクの平面内に略配置されたマイクロフォンと、
少なくとも一部は、受け取った音響信号の最大欠陥ドップラー偏移周波数と最小欠陥ドップラー偏移周波数の差に基いて、ブレードの根元に対する、潜在的欠陥の存在と位置とを検出するために、受け取った音響信号を分析するためのコンピュータと、
を備える装置。
【請求項2】
前記コンピュータは、スペクトログラムを表示する表示装置を備えている、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項3】
回転中の風力タービンブレードを検査するための装置であって、
回転中の風力タービンの近くに配置されて、風力タービンブレードの異常によって放射された音響信号を受け取るように構成されたマイクロフォンと、
受け取った音響信号を記録するように構成された信号記録装置と、
受け取った音響信号の最大欠陥ドップラー偏移周波数と最小欠陥ドップラー偏移周波数を測定して、少なくとも一部は、最大欠陥ドップラー偏移周波数と最小欠陥ドップラー偏移周波数の差に基いて、ブレードの根元に対して、回転中の風力タービンブレード内または前記風力タービンブレード上の異常の位置を計算することによって、受け取った音響信号を分析するためのコンピュータと、
を備える装置。
【請求項4】
前記コンピュータはさらに、回転中のブレードの音響スペクトルを測定するように構成されて配置される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項5】
前記コンピュータはさらに、動作中の各ブレードからのアコースティックエミッションの相対音レベルを測定して、ブレード表面の形状変化による変化を検出するように構成されて配置される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項6】
前記コンピュータはさらに、前記ブレード内の構造欠陥による空気流の変化を測定するように構成されて配置される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項7】
前記コンピュータはさらに、なくなったかまたは剥離している前縁保護テープを測定するように構成されて配置される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項8】
前記コンピュータはさらに、前記ブレード複合材料に対する損傷を測定するように構成されて配置される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項9】
ブレードシリアル番号を撮影するためのカメラをさらに備える、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項10】
前記カメラは、スペクトログラムソフトウェアによって起動される、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項11】
前記カメラは、検出された異常を伴う前記ブレードを識別するために、GPS信号と同期される、請求項10に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項12】
前記マイクロフォンはパラボラリフレクタと光学照準装置とを含む、請求項に記載の回転中の風力タービンブレードを検査するための装置。
【請求項13】
回転中の風力タービンブレードの異常を検出する方法であって、
風力タービンブレードからのアコースティックエミッションをモニタするステップと、
前記風力タービンブレードの根元に対して、前記風力タービンブレードの異常を識別して位置を見つけるために、前記アコースティックエミッションに対してドップラー解析を実行するステップであって、前記ドップラー解析は、少なくとも、最大欠陥ドップラー偏移周波数と最小欠陥ドップラー偏移周波数を測定することを含むドップラー解析を実行するステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願人は、2012年12月30日に出願された米国特許非仮出願第13/731,085号明細書、2013年3月15日に出願された同第13/837,145号明細書および2013年3月15日に出願された同第13/839,908号明細書に関する開示全体を参照により、本願明細書に完全に記載されているかのように本願明細書に組み込むものとする。
【0002】
発明の分野
本発明は、回転中の風力発電機における風力タービンブレードおよび発電装置を検査するための方法および装置に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
風力タービンブレードは、その大きなサイズ、大きな表面積および複雑な形状により、工場内でさえ、非破壊的に検査することは難しい。目視検査では、表面の下の欠陥が見えない。アクティブサーモグラフィ検査法は、表面近くの欠陥に対しては有効であるが、材料の厚さおよび表面放射率の変動により、誤検出や検出漏れを生じる可能性がある。斜角超音波法は非常に遅く、厚い炭素繊維のスパーキャップに対処できない可能性がある。その結果、ブレードは塔(タワー)に設置され、潜在的な製造欠陥に関してかなりの可能性を伴った状態で運転が開始される。
【0004】
さらに、複合ブレードは極度の温度変動にさらされる。ブレード内に封じ込められた水は、内部損傷を引き起こす凍結融解サイクルを経る可能性がある。ブレードが回転する際の重力の周期的な力およびブレードに作用する風の変動する力が、疲労損傷または経時的な潜在的欠陥の伝搬を引き起こす可能性があり、同時に製造プロセスのミスがブレードの初期故障につながる可能性もある。欠陥は、クラックや損傷が表面に出てくるまでは、ブレードの表面の下で成長する可能性があり、また、視覚的に検出することができ、該損傷はタワー上で修復可能できない可能性がある。
【0005】
現場での風力タービンブレードにおける進行性の表面下損傷および欠陥の伝搬の検出は困難である。検査者によるスカイクレーンまたはロープアクセスを用いた検査は費用がかかり、時間がかかり、人を非常に危険な作業環境に配置する。非破壊検査用の携帯機器を用いたアクセスもまた、ロープアクセスまたはスカイプラットフォームおよびクレーンを必要とする。現場検査用の非破壊検査センサを備えたブレードおよびタワークローラーが既に開発されてテストされているが、コストがかかり、検査速度が遅く、有効性に疑問の余地がある。タワー上での近接アクセスは、検査者が、そのようなブレードの欠陥を後縁亀裂、クラック、落雷による損傷およびブレードの腐食として視覚的に検出することを可能にする。
【0006】
したがって、風力タービンブレードの異常およびその他の異常を検出するための、風力タービンブレードの高速で費用効率の高い非破壊検査方法に対する要求が高まっている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
したがって、本発明の目的は、風力タービンブレードの異常およびその他の異常を検出するための風力タービンブレードの高速で費用効率の高い非破壊検査方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の上記およびその他の目的を達成するために、本発明の第1の態様による回転中の風力タービンブレードを検査するための装置は、ブレードの内部または表面下の欠陥からブレード外側モールドライン内の裂け目を通って出てくる空気によって発生するアコースティック信号(音響信号)を受けるために、ブレード先端の回転時の最下レベルの下の箇所におけるタービンディスクの平面内に略配置されているマイクロフォンと、潜在的欠陥の存在を検出するために、このようにして受け取った音響信号を分析するためのシステムとを含む。
【0009】
本発明の第2の態様による、回転中の風力タービンブレードにおける異常を検出する方法は、風力タービンブレードからのアコースティックエミッションをモニタするステップと、風力タービンブレードの異常を識別するために、アコースティックエミッションに対してドップラー解析を実行するステップとを含む。
【0010】
本発明を特徴付ける新規性に関するこれらおよびその他のさまざまな利点および特徴は、本願明細書に添付され、および本願明細書の一部を構成するクレームにおいて詳細に指摘されている。しかし、本発明、その利点およびその利用によって得られる目的のより良好な理解のためには、本発明の追加的な部分を構成する図面、および本発明の好適な実施形態が例示されおよび記載されている添付の説明事項を参照すべきである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実用規模の水平軸風力発電機の概略図である。
図2図2は、風力タービンブレードの断面の概略図である。
図3図3は、内部先端圧力対速度のグラフである。
図4図4は、3つのブレードと欠陥を有する風力タービンタワーを示す概略図である。
図5図5は、6つの位置を有する風力タービン敷地の平面図を示す。
図6図6は、風力タービンブレードの3つの音放射欠陥を示す音響スペクトログラムである。
図7図7は、本発明の好適な実施形態による風力タービンブレードセットの音響スペクトル検査を実行するためのシステムの概略図である。
図8図8は、図7に示すシステムの動作中の概略図である。
図9図9は、風力タービンブレードが音響センサを通過する際の経時的な音の強度を示す音響スペクトログラムである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
好適な実施形態の詳細な説明
本願明細書においては、動作中の水平軸風力タービン(horizontal axis wind turbine:HAWT)ブレードの非破壊検査のための方法および装置が記載されている。以下に記載されているシステムおよび方法は、ブレードが空気中で動く際に該ブレードによって生成された音響信号と、該タービンブレード内の圧縮空気が各ブレードの外側モールドライン内の裂け目を通って出てくるときに放射される音によって生成された音響信号とを検出して分析することによって、風力タービンブレードにおける異常の検出および位置特定を可能にする。クラック、後縁亀裂、ライティングホール、損傷、ブレード腐食および間違ったブレードピッチ角等のタービン異常は数秒で検出することができ、また多くの場合、それらのブレード上の位置を判断することができる。加えて、ナセル内のタービン発電機構における異常または状態変化は地上から検出することができる。このような情報は、コストを低減するための最適な風力資産管理およびメンテナンススケジューリングのための相当の商業的可能性を有している。
【0013】
風力タービンブレードが空気中を回転する際、複数のソースによって音が発生する。先ず、稼働中の風力タービンブレード内の空気は、求心加速度により、ブレード先端に向かって圧縮される。排水溝の穴の場合でも、クラックや後縁亀裂は、それらが放射する音によって明らかになる。タワーのベース近傍で地上から記録されたそれらの音響信号は、ドップラー偏移されて、タービン軸またはブレードの根元(末端)からの欠陥距離の計算が可能になる。次に、高感度広帯域マイクロフォンを用いて、地上または海面からモニタされた各ブレードの通過に伴う乱気流の広帯域の音響的特性は、ブレード腐食または故障したセンサまたはピッチアクチュエータに関する問題を示す風速または方向に対して正しくないブレードピッチ角に一致するパターンを明らかにするためのスペクトラムアナライザによって分析することができる。
【0014】
好適な実施形態は、100Hz〜80kHzの広い周波数範囲にわたって検知できるマイクロフォンと、ブレードが空気中で動く際に生成された音響信号とブレード外側モールドライン内のクラック、ホールおよび裂け目を通って出てくる空気によって放射された音によって生成された音響信号とを分析するためのソフトウェアを備えたコンピュータとを含む。リアルタイムスペクトログラムに基づいて、該コンピュータにより、時間信号により、または、オペレータによって手動で起動されるスチルカメラまたはビデオカメラは、異常を伴う何らかのブレードのブレードシリアル番号を識別するのに用いられる。ブレードの歪み、腐食および間違ったピッチ角によって引き起こされた異常な乱気流によるノイズも検出されて、ブレードに関する傾向および変化を識別するために、定期的に受ける検査と比較することができる。加えて、そのうちのいくつかがタービンが回転する際に継続的に作動するブレードピッチアクチュエータ等のナセル内およびハブ内のタービン発電機械における異常または状態変化は、地上から検出することができる。
【0015】
風力タービンは通常風速の何倍ものブレード先端速度で作動する。例えば、49mのブレード長と、3mのブレード径とを有する典型的な2.3MWタービン発電機(Siemens Model SWT−2.3−101)は、ブレード先端において、C=π×101=317.3mの掃引周囲長を有する。15rpmという典型的な動作速度では、先端速度Vt=317.3m×15rpm=4759.5m/分、または、60で割って、79.3m/秒(260.2ft/秒または177.4mph)である。このタービン発電機は3〜4m/秒という典型的なカットイン風速を有し、11m/秒即ち先端速度のわずか13.8%の風速で公称出力を生じる。ブレード上の任意の位置の回転速度は、V=2πL/τで表すことができ、ただし、Lはタービン軸からの距離であり、τはタービンの秒単位の回転周期である。この一次方程式は、説明するように、回転中のブレード内の空気圧の計算を可能にし、回転中のタービンブレード上の音放射欠陥の位置L=L−Hを判断するのに用いることができ、ただし、Lはブレード末端からの欠陥距離であり、Lはタービン軸からの欠陥の距離であり、Hはタービンハブの半径である。
【0016】
中空の回転風力タービンブレードは、求心加速度により、該ブレード内の空気柱をブレード先端に向かって圧縮するように作用する。この先端部で増加した空気圧は、以下のように計算することができる。
【0017】

【数1】
【0018】
ブレードが回転し、含まれている空気容量が圧縮されるため、部分的な真空が該ブレードの末端に形成されて、ブレード末端の隔壁にボルトで固定されたマンウェイカバープレートの縁部における間隙を通って該ブレード内に空気が引き込まれる。前縁および後縁に沿った接着剤結合部における外郭構造のクラックおよび亀裂を通って出てくる圧縮された空気は、地上から検出することができる笛音を生成する。ブレード先端内に排水溝の穴が存在する場合でも、空気圧は回転するブレードの内部で高まるであろう。多くの場合、より大きなブレードのクラックおよび亀裂が、特にナセルの上部から容易に聴ける、タービン稼働中の強い音響信号をよく生成することは以前から知られている。タービンの笛音を聴いている風力タービンの保守要員は、ブレードに亀裂があることは分かるが、どのブレードに欠陥があるか、どのくらいの数の欠陥が存在するのか、または、それらの欠陥がどこに位置しているのかは分からない。さらに、他の欠陥は、低振幅でまたは人の聴覚範囲を超える周波数で音響信号を放射する可能性がある。本願明細書に開示されているシステムは、距離位置を測定するためにドップラー偏移を用いて、それらの音響信号を地上から検出する。
【0019】
広帯域マイクロフォンは、ブレード欠陥から放射された音響信号を検出するのに用いられ、該音響信号は、人の聴覚範囲以上の超音波領域にかなりの成分を有している可能性がある。ブレードの回転は、該マイクロフォンで受けた音が、該ブレードが近付くにつれて、実際の放射トーンよりも高くなるように、該欠陥からの放射周波数ドップラーシフト(ドップラー偏移)させる。該ブレードが該マイクロフォンから遠ざかるにつれて、該マイクロフォンで受けたような放射トーンの音は、より低くドップラー偏移される。本願明細書において導出された等式を用いて、クラックまたは異常からブレードハブまでの距離を計算することができる。さらに、該システムは、腐食によるブレード表面への変化によって放射されるドップラー偏移した音響的特性と、ブレードが間違った迎え角で作動しているときの乱気流からの信号とを検出する。そして、この発明は、ブレードの固有シリアル番号を識別するためのいくつかの手段を教示する。
【0020】
稼働中の風力タービンブレードに対する音響検査を実行するために、マイクロフォンがタワーの近くに配置されて、手によって保持されるか、または、三脚上に取り付けられる。その位置は重要ではないが、タービンブレード先端を含む平面の風上または風下の3〜5mの範囲内、およびタワーベースからブレードスパンの約50%以内にすべきである。該マイクロフォンは、現場での検査中の1つのタワーから次のタワーへの迅速な移動のために、ブレードディスクまで視野が遮られないクリアな状態で、三脚または車両(陸上または水面)に取り付けることができる。
【0021】
該マイクロフォンは、録音能力と、音響スペクトル解析ソフトウェアとを含むコンピュータのサウンドカードに信号を供給する。該システムソフトウェアは、手動で作動させることができ、または、完全に自動化することができる。該検査は、まず、ブレードの通過に対する音響信号の信号利得を設定することによって実施される。スペクトルアナライザは、該信号の全スペクトルを表示し、また、その最大周波数は、音響信号スペクトルの最適な分解能をもたらすように調節することができる。第1の測定は、第1のブレード通過信号ピークから同じピークが第4のブレード通過信号で繰り返されるまでの秒単位の時間である、タービンの秒単位の周期を測定することである。オペレータは、スペクトル表示を停止することによって、グラフィックイメージインタフェースを用いることができ、また、スペクトル表示の4つのピーク間の時間を秒単位で測定することができる。リアルタイムでまたは全期間スペクトルがスクリーン上で停止した場合、欠陥からの信号は、可能性のある倍音を伴って、ブレードが頭上を通過する際に該ブレードによって生成される空力騒音の上部のスペクトルにおける波線として現れる。ブレードとしての視点にある(理論的にブレードに同乗している)場合またはタービン軸に近いタービンナセルから聴いている場合、欠陥からの信号は、安定した周波数またはトーンである。地上のタワーベースからまたは海上タービンタワーに隣接するボートのフローティングから聴いたときのブレード欠陥からの音響信号は、ドップラー偏移されて、ブレードがマイクロフォンに向かって下方向に動くにつれて、笛音を高周波数音からより低い周波数音に変え、または、ブレードがマイクロフォンから離れて動くにつれて笛音に変える。欠陥表示の最大および最少ドップラー偏移周波数の測定は、グラフィカルユーザインタフェース上のスペクトル表示を用いて行うことができ、またはソフトウェアによって自動的に実施することができる。空気温度に関する情報は、コンピュータに手動で入力することができ、または、ストアルックアップテーブルまたはデータが集められたときの該タービンタワーにおける計算から空中での音の速度を測定するセンサを用いて測定することができる。高度による空気密度の変化または気圧の変化による誤差は、スペクトル測定で生じる他の誤差よりも概してかなり小さく、一般的には考慮されない。
【0022】
洋上風力タービンの場合、想定される波高レベルよりも上のタワー上にマイクロフォンを恒久的に設置することが有利である可能性がある。データは、セルラーCSMの無線を通じて、海岸の受信機へ送信することができる。そのユニット全体は、太陽電池の小さなアレイと充電式電池とを用いた太陽光発電式にすることができる。2つ以上のマイクロフォンを異なる高さに設置することにより、洋上タワーのために備えられた大きな塔のより良好な音響的対象範囲と、欠陥位置のより良好な精度とが可能になるであろう。
【0023】
最新のタービンブレードの形状は、高度に精密なスーパークリティカル翼型である。複合表面のブレード剥離ならびにスパーウェブとスパーキャップとの接合部の脆弱な、損壊したまたは欠如は、動作中にブレードのねじれの増大またはブレードの曲げを可能にし、空気流および乱気流ノイズを変化させる。加えて、正しいブレードピッチ角の公称値からの逸脱は、乱気流の発生を開始して、ノイズを発生させる可能性がある。落雷によるブレードへの損傷、表面形状を変えるブレード表面におけるクラック、ブレード断面形状を変える剥離は、乱気流による騒音を引き起こしたり、また、ブレード表面の空気流を変化させる可能性がある。ブレードの音響的特性が、大幅に変わる可能性がある。加えて、スパーウェブとスパーキャップとの間の接合部の欠如は、変動する重力および風圧荷重により、回転サイクル中に、ここでもまた音響的特性を変化させる他のブレードよりもより大きくブレードを曲げる可能性がある。
【0024】
ここで説明した検査方法および装置は、それによって欠陥位置を測定することができる、音響スペクトルの変化、信号強度および信号のドップラー偏移を検出するための定期点検にも用いることができる。ブレード上の音放射欠陥の翼長位置を判断するためには、
τ=タービン周期、秒
=最大欠陥ドップラー偏移周波数
=最少欠陥ドップラー偏移周波数
T=空気温度
を測定する必要がある。回転する風力タービンの幾何学形状から、欠陥の放射周波数Fは、方程式2に示すように、信号に対する高低のドップラー偏移周波数の平均として決定することができる。
【0025】
【数2】
【0026】
周期τ(秒)のタービンの場合、タービンハブから距離Lにおけるブレード欠陥の接線速度Vは、方程式3に示すように表すことができる。
【0027】
【数3】
【0028】
【数4】
【0029】
ほとんどの風力タービンは、海抜5,000フィート以下の高度に位置しているため、Vの精密な測定のためにはどのような手段を用いてもよいが、Vは、タワーにおける温度に対して補正されたルックアップテーブルから判断することができる。
【0030】
【数5】
【0031】
その結果、ブレード末端から欠陥までの距離は、
方程式11:L=L−Rであり、ただし、Rは、タービンハブの半径である。
【0032】
図1は、陸上のタービン発電機および洋上タービン発電機の両方の典型であるHAWTの概略図である。風を受けるタービンの後からの外観1は、直接駆動発電機でない限り、発電機および歯車減速機を収容できるナセル8を支持するために、地面または海面28から上方に延びているタワー6を含む。この発明が船上において洋上風力タービンブレードを検査するのに利用される場合、符号28はそこから検査が実行されるその船のデッキになることに留意されたい。波動は一般にドップラー偏移周波数測定値にかなりの影響を与えるには小さすぎる速度成分を有している。典型的には、実用規模の3つのブレード11があり、風力タービンは、末端10およびブレード先端12を有している。側面3から見て分かるように、ブレード末端は、回転自在のハブ18に取り付けられている。風4の方を向いているブレード側部16は多くの場合高圧側と呼ばれている。風から離れる方に向いているブレード側部14は、低圧または吸込み側と呼ばれる。ブレード速度17が増すにつれて、ブレードピッチは、発電機を駆動するのに必要な最大揚力およびトルクを生みだすように、風4に対する最適な迎え角に調節される。
【0033】
図2は、典型的なHAWTブレードの構造断面を示す。風力タービンブレードは、一般的に、高圧側16および低圧側14を形成する接着接合された複合材シェルで製造されている。後縁21は、場合によっては、サンドイッチパネル18を構成する内側および外側のガラス繊維スキンによって形成された2つのフランジ22間の接着接合により、前縁20の場合と同様に、接着接合されたシェル14および16によって形成されている。繊維ガラスまたは炭素繊維積層板または他の複合材料から形成することができる2つのスパーキャップ26は、サンドイッチパネル18の縁部に接合されている。ブレードスパーウェブ30は、固い繊維ガラス積層板、または、繊維ガラスまたは炭素繊維の表面板と、発泡体、バルサ材または高圧縮強度を有する他の適当な材料で形成されたコア材料とを有するサンドイッチ構造とすることができる。スパーウェブ30は、I字型の桁を形成するように、接着剤28でスパーキャップ26に接合される。箱型桁を形成する第2のまたは第3のスペアウェブが存在する場合もある。スパーキャップ26とスパーウェブ30との接着剤28による結合部に存在する接着剤の剥離または接合不良等の欠陥は、稼働中のブレードの壊滅的な故障につながる可能性がある。また、固いスパーキャップ26の積層板内の繊維波動も、亀裂や、最終的には、ブレードの故障につながる可能性がある。さらに、高圧側16および低圧側14のシェル接着剤24の結合部における後縁21の亀裂またはクラックは、動作中の兆候またはブレードの過剰な曲げである可能性がある。末端10の方の最大翼弦幅の領域における後縁21の接着剤24の結合部は、ブレードのねじり荷重を支持する。それらの位置における接着剤結合部24のクラックや裂け目もまた、遅れずに検出されない限り、また、タービンの停止が速やかに修理されない限り、ブレードの故障につながる可能性がある。
【0034】
図3は、空気圧に、(k)cosθMG期間を付加することになるであろう重力の影響を含まない、回転速度(rpm)の関数としての50mのタービンブレード内部の空気圧の増加を示すプロットであり、ただし、kは、タービンRPMの増加に伴って減少する定数である。Mは、ブレード内部の空気の質量であり、Gは、重力による加速度である。図3は、ブレード先端の排水溝の穴の存在を無視した、12〜21rpmの50メートル長のブレード回転速度の外側先端における大気以上の内部ブレード圧力を示す。密封されたブレードの場合、該末端隔壁内部での大気以下の圧力低下は、これらの値の負の値になるであろう。
【0035】
図4は、3つのブレードと、タービン軸124から距離104の1つのブレード上に位置する欠陥100とを有する風力タービンタワー6の概略を示す。該欠陥は、直径104の円108で(タービンの前方から見て分かるように)時計回りに回転する。周波数116でトーンが放射されると、その欠陥信号は、タワー6のベースのマイクロフォン122に近づいたときに、高い周波数118にドップラー偏移される。その信号周波数は、円108およびマイクロフォン122に接する、ライン118上の位置110に欠陥がある場合に最大値になる。同様に、ドップラー偏移による欠陥信号の最少周波数は、タワー6のベースのマイクロフォン122から遠ざかるときである。該信号周波数は、欠陥が円108およびマイクロフォン122に接するライン上の位置110にあるときに、最小値120にシフトされる。
【0036】
図5は、タービン軸136からより近い距離148に位置する欠陥150を別にすれば、図4と同様の形状を示す。欠陥100の場合よりも短い距離148のため、結果として生じるドップラー偏移134および138間の差は著しく小さい。
【0037】
図6は、それぞれ、1.5MWタービン上の3つのブレードにある3つの音放射欠陥の音響スペクトログラムを示す。該ブレードの周期160は、同じ欠陥からの、繰り返しピーク周波数信号166および172間の時間によって測定することができる。
【0038】
その欠陥信号のうちの2つの場合の最小ドップラー偏移周波数164および170と最大ドップラー偏移周波数162および168が図示されており、これらの周波数はスペクトロメータを用いて測定することができる。
【0039】
これらの値は、ブレードに沿った欠陥の位置を計算するのに用いることができる。
【0040】
図7は、風力タービンブレードセットの音響スペクトル検査を実行するための設備の概略図を示す。音178は、コンピュータ182内のサウンドカードに信号を送るマイクロフォン122に入る。現場のタービンにおける空気中の音の速度を測定するために、温度センサ180は、空気温度の測定値を該コンピュータに送る。この温度値は、手動で入力することもできる。スペクトログラムはリアルタイムでモニタ182に表示される。異常を伴うブレードは、遠隔制御によって手動でカメラ188を起動して、ブレードシリアル番号の画像を形成する光186を捉えるのに用いることができる。別の実施形態においては、ドップラー偏移信号にタイムスタンプを記録するためにおよび欠陥を伴うブレードを識別するために、GPS時間信号をビデオカムコーダのサウンドトラックに記録することができる。別のカメラトリガは、リアルタイムのスペクトログラムを利用して設定することができる。もしあれば、マウスまたはタッチスクリーン機能を用いて、該スペクトルを停止させることができ、また、欠陥信号を伴うブレードをコンピュータスクリーン上で識別することができる。該スペクトルは、同じ時間基準を用いて再起動して、新たな信号を取得することができる。該コンピュータは、当該ブレードが視界に入る度に、信号を送って該シリアル番号カメラを起動することになる。
【0041】
図8は、分析のためにハブまたはナセル内の機械からの信号190を受信するための皿型パラボラリフレクタ191を含む機器構成の概略図である。この皿型パラボラリフレクタは、細い円錐形状から信号を受信し、そしてビデオカメラとすることのできる照準器194を用いて標的に向けられる。これは、車両または三脚に取り付けて、方位および仰角のモータ駆動を利用する遠隔制御によって標的に向けることができる。また、皿型パラボラリフレクタ191は、ブレード上の欠陥からタービンハブ近傍からの遠隔信号を検出するのに用いてもよい。一般に、ブレード先端からの信号は、該皿型パラボラリフレクタの場合の感度の円錐角の外側にある可能性がある。取外し可能なマイクロフォン122を有する皿型パラボラリフレクタ191は、1つのマイクロフォンを、近くの欠陥信号および遠くの欠陥信号の両方に利用できるようにするであろう。
【0042】
図9は、ブレードがマイクロフォン122を通過する際の経時的な音の強度197を示すラインスキャン196を伴うスペクトログラムである。そのグラフィック表示は音の強度がグレーレベル値であることを示している。クロは無音であり、白はピーク強度が測定されている。1つのブレードの場合の音響強度プロット198は、他の2つのブレードの場合のプロット199および200よりもかなり大きい。強度プロット198を伴うブレードは、欠陥性ブレードピッチ角アクチュエータを有していた。該ブレードは、正しいピッチ角のセットではなく、音のプロット198は乱気流の結果であり、その結果として生じる障害であり、タービン効率を低下させた。間違ったピッチ角の原因は、ブレードピッチアクチュエータ、制御回路または欠陥性ブレードピッチベアリングに関連する障害である可能性がある。
【0043】
ここで説明した検査方法および装置は、音響スペクトログラムの変化、信号強度、およびそれによって欠陥位置を測定することができる信号のドップラー偏移を検出するための定期点検に用いることもできる。加えて、タービン発電機ベアリング、歯車減速機、ブレードピッチアクチュエータおよびその他の機械コンポーネントの音響スペクトルは、コンポーネントの劣化または故障を示す経時的な変化を調べることができる。この情報は、さらなる被害、損傷または壊滅的故障を防ぐための最適な風力資産管理、メンテナンススケジューリングまたはタービンの稼働停止にとって重要である。
【0044】
上記の説明においては、本発明の構造および機能に関する詳細とともに、本発明の多くの特徴および利点を記載してきたが、その開示は例示的なものにすぎず、また、添付クレームが記述される用語の幅広い意味によって示される最大限の本発明の原理の範囲内で、特に、部材の形状、サイズおよび配置に関して、細部にわたって変更を行ってもよいことを理解すべきである。
図1
図2
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図4
図5
図6
図7
図8
図9