特許第6284181号(P6284181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284181
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】環状RNA及びタンパク質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/09 20060101AFI20180215BHJP
   C12P 21/02 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C12N15/00 AZNA
   C12P21/02 C
【請求項の数】4
【全頁数】29
(21)【出願番号】特願2013-557601(P2013-557601)
(86)(22)【出願日】2013年2月8日
(86)【国際出願番号】JP2013053095
(87)【国際公開番号】WO2013118878
(87)【国際公開日】20130815
【審査請求日】2016年1月19日
(31)【優先権主張番号】特願2012-26506(P2012-26506)
(32)【優先日】2012年2月9日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100106057
【弁理士】
【氏名又は名称】柳井 則子
(72)【発明者】
【氏名】阿部 洋
(72)【発明者】
【氏名】阿部 奈保子
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 嘉浩
(72)【発明者】
【氏名】西原 みづき
【審査官】 鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/037835(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/038155(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/002713(WO,A1)
【文献】 RNA, 1998, Vol.4, pp.1047-1054
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00−15/90
C12P 21/00−21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
WPIDS/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上402以下の3の倍数であり、少なくとも1の開始コドンを有し、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有しておらず、前記開始コドンを含むKozak配列を有し、さらにIRES(Internal ribosome entry site)を含んでいない、環状RNA。
【請求項2】
真核細胞の発現系において、環状RNAを鋳型として、当該環状RNAがコードしているタンパク質を発現させ、
前記環状RNAが、タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上402以下の3の倍数であり、少なくとも1の開始コドン及び当該開始コドンを含むKozak配列を有し、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有しておらず、さらにIRESを含んでいない環状RNA、又は請求項1に記載の環状RNAである、
タンパク質の製造方法。
【請求項3】
前記環状RNAを真核細胞に導入する、又は前記環状RNAを真核細胞由来の無細胞発現系に添加することにより、当該環状RNAがコードしているタンパク質を発現させる請求項2に記載のタンパク質の製造方法。
【請求項4】
前記真核細胞が哺乳細胞である、請求項2又は3に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、環状RNAを用いて回転式タンパク質翻訳を行うことにより、繰り返し配列を有する長鎖タンパク質を製造する方法、及び当該方法に用いる環状RNAに関する。
【背景技術】
【0002】
終止コドンを持たない環状RNAを鋳型として回転式タンパク質翻訳(翻訳により、終わりのないペプチドリピート構造を有するタンパク質を合成する方法、ローリングサークル翻訳ともいう)を行うことにより、理論上無限鎖長の、繰り返し配列を有するタンパク質(タンパク質リピート)を合成できる。通常の翻訳系の場合、タンパク質合成の律速段階は、リボソームがRNAを認識して結合し、ペプチド伸長が開始するまでの開始段階である。
【0003】
例えば、非特許文献1には、大腸菌無細胞翻訳系を用いた環状RNAの翻訳反応により、タンパク質リピートを合成している。具体的には、SD(Shine−Dalgarno)配列−開始コドン(AUG)−DB(downstream box)配列の下流に、タンパク質のORF(オープンリーディングフレーム)を配した環状RNAを鋳型として、回転式タンパク質翻訳を行っている。
【0004】
真核細胞の翻訳系では、翻訳反応の開始において、様々な翻訳因子がmRNAの5’末端にあるキャップ構造及び3’末端にあるポリA鎖に結合して形成された複合体を、リボソームが認識し結合することによって、翻訳反応が開始する。このため、キャップ構造及びポリA鎖を有さない環状RNAを鋳型とした場合には、これらの構造の代替として機能し得るリボソーム結合部位(リボソームが認識し結合し得る構造)が必要であると考えられていた。そこで、例えば非特許文献2及び特許文献1では、ウサギ網状赤血球由来の無細胞翻訳系を用いた回転式タンパク質翻訳反応において、開始コドンの上流にウイルス(EMCV)由来の内部リボソーム導入部位(IRES;Internal Ribosome Entry Site)を配置した環状RNAを鋳型としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第1997/07825号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Perriman, R. and Ares, M., RNA (1998), Vol. 4, pp.1047-1054
【非特許文献2】Sarnow, P. and Chen, C., Science (1995), Vol. 268, pp.415-417
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1に記載の方法では、GFP(緑色蛍光タンパク質)のタンパク質リピート(ポリGFP)を合成しているが、環化前の直線RNAよりも翻訳効率が悪く、さらなる改善を要する。また、スプライシング反応を利用して環状RNAを調製しているため、環状RNAの合成自体が非常に複雑であるという問題もある。さらに、大腸菌体内のみで実現しており、動物細胞内での応用例はない。
【0008】
一方、非特許文献2及び特許文献1に記載の方法では、鋳型である環状RNAが約500塩基長もあるIRESを有しているため、環状RNAのサイズが大きくなってしまう上に、IRES部分も翻訳されるため、目的以外のタンパク質翻訳物が生ずるという問題がある。また、安全面での問題が懸念されるため、IRES配列を含む環状RNAは医療応用には適さないという問題もある。さらに、非特許文献1に記載の方法と同様、無細胞翻訳系のみで実現しており、動物細胞内での応用例の記載はない。
【0009】
本発明は、目的のタンパク質以外の翻訳領域が充分に短く、かつ高い翻訳効率で回転式タンパク質翻訳を行うために好適な環状RNA、及び当該環状RNAを鋳型としたタンパク質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者等は、前記課題を解決すべく鋭意検討した結果、回転式タンパク質翻訳において、鋳型とする環状RNAの塩基長を特定の範囲内にすることにより、翻訳効率を飛躍的に改善し得ること、また、真核細胞の翻訳系においても、IRESを有さない環状RNAを鋳型とした場合であっても、目的の繰り返し配列を有する長鎖タンパク質を合成し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の環状RNA及びタンパク質の製造方法は下記[1]〜[4]の構成をとる。
[1] タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上402以下の3の倍数であり、少なくとも1の開始コドンを有し、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有しておらず、前記開始コドンを含むKozak配列を有し、さらにIRES(Internal ribosome entry site)を含んでいない、環状RNA。
[2] 真核細胞の発現系において、環状RNAを鋳型として、当該環状RNAがコードしているタンパク質を発現させ、前記環状RNAが、タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上402以下の3の倍数であり、少なくとも1の開始コドン及び当該開始コドンを含むKozak配列を有し、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有しておらず、さらにIRESを含んでいない環状RNA、又は前記[1]に記載の環状RNAである、タンパク質の製造方法。
[3] 前記環状RNAを真核細胞に導入する、又は前記環状RNAを真核細胞由来の無細胞発現系に添加することにより、当該環状RNAがコードしているタンパク質を発現させる前記[2]に記載のタンパク質の製造方法。
[4] 前記真核細胞が哺乳細胞である前記[2]又は[3]に記載のタンパク質の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明の環状RNA及びこれを鋳型として用いた本発明のタンパク質の製造方法により、目的の繰り返し配列を有する長鎖のタンパク質を効率よく合成することができる。特に、ヒト細胞内においても環状RNAを鋳型とした回転式タンパク質翻訳が実施できることは、本発明によって初めて可能となったものである。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例1において、合成された環状RNAの合成スキームを模式的に示した図である。
図2】実施例1において、L126の合成のためのリガーゼ反応後の反応物の変性PAGEの結果に得られた核酸染色像である。
図3】実施例1において、C126の合成のためのリガーゼ反応後の反応物を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図4】実施例1において、L84の合成のためのリガーゼ反応後の反応物を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図5】実施例1において、C84、C168、C126、及びC252の合成のためのリガーゼ反応後の反応物を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図6】実施例1において、L126、L126+stop、C126、及びC126+stopを鋳型とした無細胞翻訳反応の反応液の電気泳動の結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図7】実施例1において、C84、C126、C168、及びC252を鋳型とした無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図8】実施例2において、精製後の環化体を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図9】実施例2において、精製後の環化体を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図10】実施例2において、精製後の環化体を電気泳動した後、核酸染色した染色像である。
図11】実施例2において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図12】実施例2において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図13】実施例2において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図14】実施例2において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図15】実施例3において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質のバンドの染色像である。
図16】実施例4において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質及びアクチンタンパク質のバンドの染色像である。
図17】実施例5において、無細胞翻訳反応の反応液を電気泳動した結果得られた、FLAGを含むタンパク質及びアクチンタンパク質のバンドの染色像である。
図18】実施例6において、10倍の対物レンズを使用して蛍光顕微鏡観察を行った結果を示したものである。
図19】実施例6において、60倍の対物レンズを使用して蛍光顕微鏡観察を行った結果を示したものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[真核細胞の翻訳系用の環状RNA]
本発明の環状RNAのうち、真核細胞の翻訳系において回転式タンパク質翻訳の鋳型となる環状RNA(以下、「本発明の真核細胞用環状RNA」ということがある)は、タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上の3の倍数であり、少なくとも1の開始コドンを有しており、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有しておらず、さらにIRESを含んでいないことを特徴とする。IRESとは、キャップ構造の代替として機能し得るリボソーム結合部位をいう。IRESを有していない環状RNAを鋳型とした場合に動物細胞翻訳系において回転式タンパク質翻訳が可能であることや、無細胞系ではなく、動物細胞内で回転式タンパク質翻訳が起こることは、本発明者らによって初めて明らかにされた。
【0015】
IRESを必須とする環状RNAの場合、必要な環のサイズが256塩基(IRESの全長)ほど大きくなってしまうが、環状RNAの大きさがあまりに大きくなりすぎると、分解等の影響を受けやすくなり、環状RNAの安定性が低下してしまうおそれがある。さらに、IRESも翻訳されてしまう結果、目的のタンパク質以外の領域を多く含むタンパク質リピートが合成されてしまう。
【0016】
これに対して本発明の真核細胞用環状RNAは、IRES等のキャップ構造の代替として機能し得るリボソーム結合部位を必要とせず、合成する目的のタンパク質をコードする領域以外の配列を最小化することができる。このため、本発明の真核細胞用環状RNAを鋳型とした場合、翻訳されたタンパク質中の目的のタンパク質以外の領域を少なくすることができる。例えば、目的のタンパク質をコードする領域の末端同士を環状に連結するための1〜10塩基のリンカーを有しているだけの環状RNAや、合成する目的のタンパク質のORFのみからなるであっても、全長の塩基数が102以上の3の倍数であり、かつ少なくとも1の開始コドンを有している限り、回転式タンパク質翻訳の鋳型として機能し得る。
【0017】
本発明の真核細胞用環状RNAの全長の塩基数は、102以上の3の倍数である。全長の塩基数が3の倍数であるため、翻訳時に読み枠がずれることがない。また、環状RNAの全長が短すぎる場合には、翻訳反応の鋳型として機能しない場合もあるが、本発明においては、全長の塩基数が102以上であるため、回転式タンパク質翻訳の鋳型として機能し得る。本発明の真核細胞用環状RNAの全長の塩基数の上限値は、回転式タンパク質翻訳の鋳型として機能可能な長さであれば特に限定されるものではないが、翻訳効率がより高いため、561以下であることが好ましく、501以下であることがより好ましく、450以下であることがさらに好ましく、402以下であることがよりさらに好ましい。
【0018】
本発明の真核細胞用環状RNAは、目的のタンパク質を発現させるための開始コドン(例えば、AUG)を少なくとも1つ有している。合成されるタンパク質リピートの均質性の点からは、本発明の真核細胞用環状RNAが有する開始コドンは1つのみであることが好ましいが、同じ読み枠の開始コドンが2以上あってもよい。同じ読み枠の場合、それぞれの開始コドンから合成されるタンパク質リピートは、N末端部が相違するものの、同じタンパク質が繰り返し合成されているためである。一方で、目的のタンパク質を発現させるための開始コドンとは異なる読み枠のAUGが存在する場合、目的のタンパク質以外のタンパク質リピートも翻訳されてしまうため、この場合には、異なる読み枠のAUGが存在しないようにコドンを改変することが好ましい。
【0019】
本発明の真核細胞用環状RNAは、目的のタンパク質を発現させるための開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有していない。このため、理論上無限鎖長のタンパク質リピートを合成できる。なお、目的のタンパク質を発現させるための開始コドンとは異なる読み枠の終止コドンは、有していてもよい。
【0020】
また、翻訳効率を向上させることができるため、目的のタンパク質を発現させるための開始コドンを含むKozak配列を有することも好ましい。Kozak配列の具体的な塩基配列は、発現させるタンパク質をコードする領域の塩基配列、翻訳系の真核細胞の生物種等を考慮して適宜決定することができる。
【0021】
[原核細胞の翻訳系用の環状RNA]
本発明の環状RNAのうち、原核細胞の翻訳系において回転式タンパク質翻訳の鋳型となる環状RNA(以下、「本発明の原核細胞用環状RNA」ということがある)は、タンパク質をコードし、全長の塩基数が102以上360以下の3の倍数であり、1の原核細胞由来のリボソームが認識するリボソーム結合部位と、前記リボソーム結合部位の下流1〜20塩基以内に少なくとも1の開始コドン(例えば、AUG)を有しており、前記開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有していないことを特徴とする。全長の塩基数が102以上360以下であることにより、原核細胞の翻訳系において、翻訳効率を顕著に高めることができる。
【0022】
全長の塩基数が上記範囲内であることによって翻訳効率が高められる理由は明らかではないが、リボソームのRNAに対する結合領域が30〜40塩基であることから、本発明の原核細胞用環状RNAには、1の環状RNAにリボソームが1個のみ結合し、翻訳が起こっていると推察される。1の環状RNAにリボソームが1個のみ結合するシングルリボソームのタンパク質合成により、ポリリボソームで起こる、リボソーム同士の立体的阻害効果が解消され、翻訳の効率が上がるためと推察される。
【0023】
本発明の原核細胞用環状RNAは、本発明の真核細胞用環状RNAと同様、全長の塩基数が3の倍数であるため、翻訳時に読み枠がずれることがない。また、目的のタンパク質を発現させるための開始コドンと同じ読み枠の終止コドンを有していないため、理論上無限鎖長のタンパク質リピートを合成できる。
【0024】
本発明の原核細胞用環状RNAは、少なくとも1のリボソーム結合部位を有している。リボソーム結合部位としては、原核細胞由来のリボソームによって認識され、当該リボソームが結合する部位であれば特に限定されるものでなく、例えば、SD配列が挙げられる。SD配列の具体的な塩基配列は、用いる翻訳系の原核細胞の生物種等を考慮して決定することができる。
【0025】
本発明の原核細胞用環状RNAは、前記リボソーム結合部位の下流1〜20塩基以内に1の開始コドンを有している。合成されるタンパク質リピートの均質性の点からは、本発明の原核細胞用環状RNAが有する開始コドンは、前記リボソーム結合部位の下流1〜20塩基以内にのみ存在していることが好ましいが、その他の部位にあってもよい。開始コドンがその他の部位にあった場合であっても、リボソーム結合部位の直後にある開始コドンからの翻訳が優先的に行なわれるため、目的のタンパク質リピートを主に合成することができる。
【0026】
[環状RNAの合成]
本発明の真核細胞用環状RNA及び本発明の原核細胞用環状RNA(以下、合わせて「本発明の環状RNA」ということがある)の合成方法は特に限定されるものではない。例えば、公知の化学合成反応により一本鎖RNAを合成した後、これをリガーゼにより連結することで環状RNAを合成することができる。複数本の一本鎖RNAを合成した後、これらをそれぞれ適切な順番にリガーゼにより連結することによっても、環状RNAを合成することができる。リガーゼ反応の際に、非特許文献2に記載の環状RNAの合成方法と同様に、連結させる2本の一本鎖RNAの両端とハイブリダイズするDNAプローブを用いることにより、効率よくリガーゼ反応を行うことができる。その他、非特許文献1に記載の環状RNAの合成方法と同様に、スプライシング反応を利用して調製してもよい。
【0027】
また、ポリメラーゼによる転写反応を利用して環状RNAを合成することもできる。まず、プロモーター配列の下流に、合成する目的の環状RNAと相補的な塩基配列を配置した二本鎖DNAを鋳型として、無細胞系にてポリメラーゼによる転写反応を行い、一本鎖RNAを合成する。合成された線状一本鎖RNAの5’末端と3’末端を連結することにより、目的の環状RNAを合成することができる。
【0028】
[タンパク質の合成]
本発明の真核細胞用環状RNAを真核細胞に導入する、又は真核細胞由来の無細胞発現系に添加することにより、当該真核細胞用環状RNAがコードしているタンパク質を繰り返し配列構造として有するタンパク質リピートが翻訳され、合成される。同様に、本発明の原核細胞用環状RNAを原核細胞に導入する、又は原核細胞由来の無細胞発現系に添加することにより、当該原核細胞用環状RNAがコードしているタンパク質を繰り返し配列構造として有するタンパク質リピートが翻訳され、合成される。本発明の環状RNAを鋳型とする回転式タンパク質翻訳においては、リボソームが一度環状RNAに結合し、タンパク質合成を開始すると、原理的には永久にタンパク質合成が進行する。つまり、翻訳開始の律速段階は最初のリボソーム結合時のみであり、それ以降のタンパク質合成は効率よく行われるという利点がある。
【0029】
本発明の環状RNAの真核細胞又は原核細胞への導入方法は、特に限定されるものではなく、リン酸カルシウム法、DEAEデキストラン法、リポフェクチン法、エレクトロポレーション法等の当該技術分野で公知の手法の中から、細胞種を考慮して適宜選択することができる。本発明の原核細胞用環状RNAが導入される細胞は、原核細胞であれば特に限定されるものではないが、組換えタンパク質の発現等で汎用されていることから大腸菌であることが好ましい。また、本発明の真核細胞用環状RNAが導入される細胞は、真核細胞であれば特に限定されるものではなく、酵母や糸状菌等の真菌であってもよく、植物細胞であってもよく、昆虫細胞、哺乳細胞等の動物細胞であってもよい。例えば、ヒトへ適用される医薬品等の材料となるタンパク質リピートを合成する場合には、ヒト由来の培養細胞を用いることが好ましい。
【0030】
本発明の環状RNAを添加する無細胞系は、リボゾーム、tRNA等の翻訳に必要な成分を全て含有する細胞外の翻訳系である。無細胞系としては、具体的には、真核細胞又は原核細胞の抽出液が使用可能である。前記真核細胞及び原核細胞としては従来公知のものが何れも使用可能であり、具体的に例示すれば、大腸菌、好熱性細菌、小麦胚芽、ウサギ網状赤血球、マウスL−細胞、エールリッヒ腹水癌細胞、HeLa細胞、CHO細胞及び出芽酵母などが挙げられ、特に大腸菌由来のもの(例えば大腸菌S30細胞抽出液)又は高度好熱菌(Thermus thermophilus)由来のものが高い合成量を得る点において望ましい。
当該大腸菌S30細胞抽出液は、大腸菌A19(rna、met)、BL21、BL21star、BL21コドンプラス株等から公知の方法(Pratt, J.M. et al., Transcription and translation - a practical approach, (1984), pp.179-209, Henes, B.D.とHiggins, S.J.編、IRL Press, Oxford参照)に従って調製できる。また、プロメガ社やノバジェン社から市販されるものを使用してもよい。また、バッチ法、フロー法の他、従来公知の技術(例えば、Spirin, A et al., Methods in Enzymol., 217, 123-142, 1993参照)がいずれも適用可能である。
【0031】
本発明の環状RNAを用いることにより、長鎖のタンパク質リピートを簡単に合成できる。このため、本発明の環状RNAが繰り返し構造部分をコードする領域を有することにより、シルクやコラーゲン等の繰り返し構造を有するタンパク質をより簡便に合成することができる。また、環状RNA内に、目的のタンパク質をコードする領域に加えて、ヒスチジンタグやFlagタグ等のタグペプチドをコードする領域を有する場合には、繰り返し配列構造内にタグペプチドを有するタンパク質リピートが合成できる。この場合、タグペプチドを利用して、合成されたタンパク質リピートを簡便に精製することができる。
【0032】
本発明の環状RNAが、目的のタンパク質をコードする領域とプロテアーゼにより認識され切断されるペプチドをコードする領域とを有する場合、当該環状RNAを鋳型として合成されたタンパク質リピートをプロテアーゼ処理することにより、一分子のタンパク質リピートから多数分子の目的のタンパク質を得ることができる。また、比較的分子量の小さいペプチドを合成する場合、ペプチドをコードする領域を複数連結させた環状RNAを鋳型としてもよい。複数のペプチドをコードする領域と、当該領域の間にプロテアーゼにより認識され切断されるペプチドをコードする領域を配置した環状RNAを鋳型とすることによって、大量のペプチドを合成することができる。
【0033】
本発明の環状RNAを用いることにより、医療材料などの機能材料調製に応用できる。例えば、本発明の環状RNAを細胞内へ導入することによって、生理活性ペプチドを当該細胞内で産生させることができるため、本発明の環状RNAは、新たな医薬品として使用することもできる。また、原理的には、タンパク質リピートの生成より、シグナル増幅メカニズムとしての利用も可能である。
【実施例】
【0034】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は以下の記載によっては限定されない。
【0035】
[実施例1]
1又は複数のFLAGペプチドをコードする領域を有する原核細胞用環状RNAを合成し、これらを鋳型として無細胞系においてタンパク質を合成した。
<環状RNAの合成>
(1)オリゴヌクレオチドの調製
具体的には、まず、環状RNA又は直鎖状RNAのフラグメントである4種類のRNAオリゴヌクレオチド(F35、F49、F42、F42’)、及び酵素T4 DNAリガーゼを用いた連結反応に鋳型として用いる5種類のDNAオリゴヌクレオチド(G1、G2、G3、G3’、G4)をそれぞれ化学合成した。なお、F42’は、F42の3’末端にUAAUAAを付加した48塩基長である。各オリゴヌクレオチドの配列を表1、及び配列表の配列番号1〜9に示す。表1中、囲み部分はリボソーム結合配列を表し、太字の塩基(AUG)は開始コドンを表し、下線部位はFLAGコード配列を表し、二重下線部は終止コドンを表す。pは5’末端がリン酸化されていることを示す。
【0036】
【表1】
【0037】
9種全てのオリゴヌクレオチドは、それぞれ、β−シアノエチルホスホロアミダイト試薬(Glen Research社製)を用い、H−8−SE DNA合成機(ジーンワールド社製)により合成した。RNAアミダイト試薬は2’−O−TOM保護体を使用した。その際、RNAオリゴヌクレオチド(F35、F49、F42、F42’)は、全て化学リン酸化試薬(Glen Research社製)を用いて5’末端をモノリン酸化した。合成したRNAは全て定法に従い脱保護し、変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動(PAGE)により精製した。一方、DNAオリゴヌクレオチド(G1、G2、G3、G3’、G4)は合成後、定法に従い脱保護し、Micropure IIカートリッジ(Biosearch Technologies社製)により精製した。
【0038】
(2)合成スキーム
2分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する84塩基の環状RNA(C84)及び4分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する168塩基の環状RNA(C168)は、F35及びF49を、G1及びG4を鋳型として連結することにより合成した。3分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する126塩基の環状RNA(C126)及び6分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する252塩基の環状RNA(C252)は、F35、F49、及びF42を、G1、G2、及びG3を鋳型として連結することにより合成した。各合成スキームを模式的に図1に示す。
また、3分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する126塩基の直鎖状RNA(L126)は、F35、F49、及びF42を、G1及びG2を鋳型として連結することにより合成した。3分子のFLAGペプチドをコードする領域及び終止コドンを有する132塩基の直鎖状RNA(L126+stop)は、F35、F49、及びF42’を、G1及びG2を鋳型として連結することにより合成し、3分子のFLAGペプチドをコードする領域及び終止コドンを有する132塩基の環状RNA(C126+stop)は、F35、F49、及びF42’を、G1、G2、及びG3’を鋳型として連結することにより合成した。
C84、C126、C168、C252、C126+stopの配列を表2、及び配列表の配列番号10〜14に示す。表2中、囲み部分はリボソーム結合配列を表し、太字の塩基(AUG)は開始コドンを表し、下線部位はFLAGコード配列を表し、二重下線部は終止コドンを表す。また、いずれも、5’末端及び3’末端の両末端で連結された環状構造を形成する。なお、L126及びL126+stopは、それぞれC126及びC126+stopと同じ塩基配列を有しているが、環状構造を有しない直鎖状RNAである。
【0039】
【表2】
【0040】
(3)L126の合成
L126は、F35、F49、及びF42を、G1及びG2を鋳型としてリガーゼにより連結することによって合成した。リガーゼ反応は、5μMのF35、5μMのF49、15μMのF42、10μMのG1、20μMのG2、35units/μLのT4 DNAリガーゼ(タカラバイオ社製)、66mMのTris−HCl(pH7.6)、6.6mMのMgCl、10mMのDTT、0.1mMのATP、10%(w/v)のPEG6000を含む反応液(反応液量:1.7mL)で行った。
具体的には、PEG6000及びT4 DNAリガーゼ以外を全て添加した反応液を90℃で3分間加熱した後、室温まで徐冷した。その後、当該反応液にPEG6000及びT4 DNAリガーゼを加え、37℃で約5時間インキュベートした。当該反応液に等量のクロロホルムを加えてPEG6000を抽出・除去した後、3Mの酢酸ナトリウム水溶液(pH5.2)及びイソプロピルアルコールを加えて冷却し、RNAを沈殿させて回収した。回収されたRNAの一部を変性PAGE分析(8% ポリアクリルアミド、7.5M 尿素、25% ホルムアミド、1×TBE)し、ゲルをSYBR Green II(タカラバイオ社製)により染色して可視化し、リガーゼ反応の進行を確認した後、同じく変性PAGEを用いて、残りのRNAから連結生成物(L126)を単離した。UV shadowing法により、目的物を含むバンドを可視化して切り出して細かく粉砕した後、溶出液[10mM EDTA(pH 8.0)]1mLで2回RNAを抽出した。得られた抽出液を遠心エバポレーターにより濃縮し、さらにマイクロコンYM−3(ミリポア社製)を用いて濃縮した。濃縮後の前記抽出液からRNAを、アルコール沈殿により脱塩・回収した。得られたRNA(L126) は超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、収量を算出した(収量:2.17nmol、収率:26%)。図2に、SYBR Green II(タカラバイオ社製)により変性PAGEゲル中の核酸を染色した結果に得られた染色像を示す。レーン1はssRNAマーカーを、レーン2は酵素反応前の反応液を、レーン3は酵素反応後の反応液を、それぞれアプライした。図2に示すように、酵素反応後には、F35、F49、及びF42からL126が合成された。
【0041】
(4)C126の合成
L126をリガーゼ反応により環状にすることによって、C126を合成した。リガーゼ反応は、1μMのL126、1μMのG3、17.5units/μLのT4 DNAリガーゼ(タカラバイオ社製)、6mMのTris−HCl(pH7.6)、6.6mMのMgCl、10mMのDTT、0.1mMのATP、10%(w/v)のPEG6000を含む反応液(反応液量:2mL)で行った。
具体的には、PEG6000及びT4 DNAリガーゼ以外を全て添加した反応液を90℃で3分間加熱した後、室温まで徐冷した。その後、当該反応液にPEG6000及びT4 DNAリガーゼを加え、37℃で7時間インキュベートした。当該反応液に等量のクロロホルムを加えてPEG6000を抽出・除去した後、3Mの酢酸ナトリウム水溶液(pH5.2)及びイソプロピルアルコールを加えて冷却し、RNAを沈殿させて回収した。回収されたRNAの一部を変性PAGE分析(6% ポリアクリルアミド、7.5M 尿素、25% ホルムアミド、1×TBE)し、ゲルをSYBR Green II(タカラバイオ社製)により染色して可視化し、リガーゼ反応の進行を確認した後、同じく変性PAGEを用いて、残りのRNAから連結生成物(C126)を単離した。UV shadowing法により、目的物を含むバンドを可視化して切り出して細かく粉砕した後、溶出液[10mM EDTA(pH 8.0) ]0.5mLで2回RNAを抽出した。得られた抽出液を遠心エバポレーターにより濃縮し、さらにマイクロコンYM−3(ミリポア社製)を用いて濃縮した。濃縮後の前記抽出液からRNAを、アルコール沈殿により脱塩・回収した。得られたRNA(L126) は超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、収量を算出した(収量:0.40nmol、収率:20%)。図3に、SYBR Green II(タカラバイオ社製)により変性PAGEゲルを染色した結果に得られた染色像を示す。レーン1はssRNAマーカーを、レーン2は酵素反応前の反応液を、レーン3は酵素反応後の反応液を、それぞれアプライした。図3に示すように、酵素反応後には、L126からC126が合成された。
【0042】
(5)L126+stop、C126+stopの合成
F42に代えてF42’を、G3に代えてG3’を、それぞれ用いた以外は、上記(2)及び(3)と同様にして、L126+stop及びC126+stopを合成した。
【0043】
(6)C84、C168、C252の合成
図1及び上記(2)で示すように、各フラグメントを適宜用いた以外は、上記(3)L126の合成及び(4)C126の合成と同様にして、C84、C168、C252を合成した。
図4に、L84(2分子のFLAGペプチドをコードする領域を有する84塩基の直鎖状RNA)を合成するためのリガーゼ反応の反応物を8%変性PAGE分析した結果に得られた染色像を示す。レーン1は酵素反応前の反応液を、レーン2は酵素反応後の反応液を、レーンMはssRNAマーカーを、それぞれアプライした。図4に示すように、酵素反応後には、F35及びF49からL84が合成された。
図5に、環状RNA合成反応の反応物を8%変性PAGE分析した結果に得られた染色像を示す。レーン1はL84を鋳型としたリガーゼ反応の反応前の反応液を、レーン2はL84を鋳型としたリガーゼ反応の反応後の反応液を、レーンMはssRNAマーカーを、レーン3はL126を鋳型としたリガーゼ反応の反応前の反応液を、レーン4はL126を鋳型としたリガーゼ反応の反応後の反応液を、それぞれ示す。図5に示すように、酵素反応後には、L84からC84及びC168が、L126からC126及びC252が、それぞれ合成された。
【0044】
<環状RNAを鋳型としたタンパク質の合成>
(7)L126、L126+stop、C126、C126+stopを鋳型とした無細胞翻訳反応
L126、L126+stop、C126、又はC126+stopを1μMとなるように無細胞翻訳液(PURExpress、New England Biolabs社製) に加え、37℃で3時間インキュベートした(反応液量:25μL)。対照として、RNA無添加の反応液も同様にインキュベートした。反応液から1μLサンプリングし、5μLの2×サンプル緩衝液[0.125M Tris−HCl(pH8.0)、2% SDS、30% グリセロール、0.02% ブロモフェノールブルー、5% 2−メルカプトエタノール]及び4μLの超純水と混合した。これを95℃で5分間加熱後、10−20% 勾配ポリアクリルアミドゲル(ATTO社製)を用いて電気泳動した(泳動用緩衝液: 25mM Tris−HCl、0.1% SDS、192mM グリシン)。ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜(ミリポア社製)に転写後、マウス産生抗FLAG抗体、抗マウスIgG抗体ペルオキシダーゼ(HRP)複合体(いずれもSigma−Aldrich社製)と反応させ、HRP基質(SuperSignal West Femto Maximun Sensitivity Substrate、Thermo社製)を用いて、FLAG配列特異的にバンドを可視化(Light−Capture、ATTO社製)した。図6に、FLAGを含むタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。レーン1はL126を添加した反応液、レーン2はL126+stopを添加した反応液、レーン3はC126+stopを添加した反応液、レーン4はC126を添加した反応液、レーン5はRNA無添加の反応液を、それぞれアプライした。図6に示すように、C126を添加した反応液では、C126+stopやL126を添加した反応液で合成された15〜20kDaのタンパク質よりもはるかに長鎖のタンパク質が多く発現していた。特に、250kDa以上のタンパク質が発現しており、C126では、リボソームが10回以上回転して連続的に翻訳反応が進行し、タンパク質リピートが合成されていることが示唆された。
【0045】
(8)C84、C126、C168、及びC252を鋳型とした無細胞翻訳反応
鋳型として、C84、C126、C168、又はC252を用いた以外は、上記(7)と同様にして、無細胞翻訳反応を行い、その後反応液を10−20% 勾配ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜に転写後、FLAG配列特異的にバンドを可視化した。図7に、FLAGを含むタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。レーン1及び3はRNA無添加の反応液、レーン2はC84を添加した反応液、レーン4はC126を添加した反応液、レーン5はC168を添加した反応液、レーン6はC252を添加した反応液を、それぞれアプライした。図7に示すように、C84を鋳型とした場合には、連続的翻訳反応の反応産物である長鎖ペプチドは生成しなかった。一方、C126、C168、及びC252を鋳型とした場合には、連続的翻訳反応の反応産物である長鎖ペプチド(タンパク質リピート)の生成が観察された。特に、C126及びC168を鋳型とした場合には、C252を鋳型とした場合よりも、翻訳効率が高く、より大量のタンパク質リピートが合成されていた。
【0046】
[実施例2]
複数のFLAGペプチドをコードする領域を有する真核細胞用環状RNAを合成し、これらを鋳型としてウサギ由来の無細胞系においてタンパク質を合成した。
<環状RNAの合成>
真核細胞用環状RNAは、ポリメラーゼによる転写反応を利用して合成した。まず、DNAオリゴヌクレオチドをDNA合成機で合成し(表3のFragment1〜Fragment3;これらの配列を、配列番号15〜17に示した)、T4 DNAリガーゼで連結させた後、アニーリング又はPCR法によって155、284、290、413塩基対の二本鎖DNAオリゴヌクレオチド(鋳型DNA)を合成した(表4及び5)。次いで、当該二本鎖DNAオリゴヌクレオチドを鋳型としてT7 RNAポリメラーゼによるin vitro転写を行い、129、258、264、387塩基の直鎖状の一本鎖RNAを合成し(表6及び7)、T4 RNAリガーゼを用いて5’末端と3’末端を連結して環状RNAを合成した。詳細を以下に示す。
【0047】
(1)オリゴヌクレオチドの調製
ポリメラーゼ反応の鋳型とした各種オリゴヌクレオチドの配列を表3に示す。表3中、pは5’末端がリン酸化されていることを示す。
表3中、DNAオリゴヌクレオチドはβ−シアノエチルホスホロアミダイト試薬(Glen Research社製)を用い、H−8−SE DNA合成機(ジーンワールド社製)により合成した。Fragment1及びFragment2は、化学リン酸化試薬(Glen Research社製)を用いて5’末端をモノリン酸化した。各オリゴヌクレオチドは、定法に従い脱保護し、Micropure IIカートリッジ(Biosearch Technologies社製)により精製した。Fragment1、Fragment2、Fragment3、及びFragment1 DNA senseは、さらに変性PAGEにより精製した。
【0048】
【表3】
【0049】
(2)in vitro転写反応の鋳型DNAの合成
表3、及び配列表の配列番号18〜35に記載の各種オリゴヌクレオチドを用いて、表4及び5に記載のin vitro転写反応の鋳型DNAを合成した。表4及び5中、下線部位はT7プロモーター配列を表す。
【0050】
【表4】
【0051】
【表5】
【0052】
4×FLAG DNA(配列番号36)は、5.22μMのFragment1(配列番号15)及びFragment2(配列番号16)の混合DNA(混合モル比=1:1)、40mM Tris−HCl(pH8.0)、8mM MgCl、2mM スペルミジンを含む反応液を、90℃、3分間加熱後、室温まで徐冷することによって得た。
8×FLAG DNA(配列番号37)は、Adaptor1(配列番号18)を鋳型として、Fragment1(配列番号15)及びFragment2(配列番号16)をT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、得られた連結物を変性PAGEにより精製することによってアンチセンス鎖を合成し、当該アンチセンス鎖とForward primer1(配列番号21)をPrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR法により二本鎖DNAを合成し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製することによって得た。
12×FLAG DNA(配列番号38)は、Adaptor2(配列番号19)及びAdaptor3(配列番号20)を鋳型として、Fragment1(配列番号15)、Fragment2(配列番号16)、及びFragment3(配列番号17)をT4 DNAリガーゼを用いて連結させ、得られた連結物を変性PAGEにより精製することによってアンチセンス鎖を合成し、当該アンチセンス鎖とForward primer1(配列番号21)をPrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR法により二本鎖DNAを合成し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製することによって得た。
8×FLAG(2) DNA(配列番号39)及び8×FLAG(stop) DNA(配列番号40)は、12×FLAG DNA(配列番号38)を鋳型として、それぞれForward primer1(配列番号21)及びReverse primer3(配列番号24)、又はForward primer1(配列番号21)及びReverse primer4(配列番号28)をプライマーとして、PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR法により二本鎖DNAを合成し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製することによって得た。
8×FLAG(3) DNA(配列番号41)は、8×FLAG(2) DNA(配列番号39)を鋳型として、Forward primer2(配列番号35)及びReverse primer5(配列番号31)をプライマーとして、PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR法により二本鎖DNAを合成し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製することによって得た。
8×FLAG(3 stop) DNA(配列番号42)は、8×FLAG(stop) DNA(配列番号40)を鋳型として、Forward primer2(配列番号35)及びReverse primer6(配列番号32)をプライマーとして、PrimeSTAR(登録商標)HS DNA Polymerase(タカラバイオ社製)を用いてPCR法により二本鎖DNAを合成し、QIAquick PCR Purification Kit(QIAGEN社製)で精製することによって得た。
【0053】
(3)in vitro転写反応による直鎖状の転写RNAの合成
表4に記載の鋳型DNAを用いて、表6及び7に記載の直鎖状の転写RNAを合成した。表6及び7中、囲み部分はKozak配列を表し、太字の塩基(AUG)は開始コドンを表し、下線部位はFLAGコード配列を表し、二重下線部は終止コドン(UGA、UAG、UAA)を表す。
【0054】
【表6】
【0055】
【表7】
【0056】
4×FLAG RNA(配列番号43)、8×FLAG RNA(配列番号44)、及び12×FLAG RNA(配列番号45)は、それぞれ4×FLAG DNA(配列番号36)、8×FLAG DNA(配列番号37)、及び12×FLAG DNA(配列番号38)を鋳型として合成した。具体的には、T7 RNA Polymerase(タカラバイオ社製)を使用して行った。40mM Tris−HCl(pH8.0)、8mM MgCl、2mM スペルミジン、5mM DTT、各2mM rNTP(東洋紡社製)、20mM GMP(和光純薬工業社製)、1unit/μL Rnase Inhibitor(東洋紡社製)、2.5units/μL T7 RNA Polymerase、10ng/μL 鋳型DNAからなる反応液(反応液量:1mL)を各2本ずつ用意し、これらを42℃で2時間インキュベートし、転写反応を行った。8×FLAG DNA及び12×FLAG DNAを鋳型とした反応液に対しては、続けてDNase(プロメガ社製)を0.025units/μLとなるように添加し、37℃、15分間インキュベートし、反応液中の鋳型DNAの分解反応を行った。その後、各反応液に等量のTE飽和フェノール−クロロホルム混合液(5:1)を加えて核酸を抽出した後、3Mの酢酸ナトリウム水溶液(pH5.2)及びイソプロピルアルコールを加えてアルコール沈殿法によりRNAを回収し、変性PAGEを用いて転写産物である直鎖状RNAを単離した(5% ポリアクリルアミド、7.5M 尿素、25% ホルムアミド、1×TBE、1mm厚)。UV shadowing法により、目的物を含むバンドを可視化して切り出して細かく粉砕した後、溶出液[10mM EDTA(pH 8.0))で抽出した。抽出液をSep−Pak C18カートリッジ(ウォーターズ社製)で脱塩した後、50% アセトニトリルで溶出し、遠心エバポレーターにより濃縮した後に凍結乾燥した。RNAは、当該凍結乾燥物からアルコール沈殿により脱塩・回収した。得られたRNAは超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、収量を算出した(4×FLAG RNAの収量:3.56nmol、8×FLAG RNAの収量:10.06nmol、12×FLAG RNAの収量:5.75nmol)。
【0057】
8×FLAG(2) RNA(配列番号46)、8×FLAG(stop) RNA(配列番号47)、8×FLAG(3) RNA(配列番号48)、及び8×FLAG(3 stop) RNA(配列番号49)は、それぞれ8×FLAG(2) DNA、8×FLAG(stop) DNA、8×FLAG(3) DNA、及び8×FLAG(3 stop) DNAを鋳型としてMEGAscript(登録商標)T7 Kit(アンビオン社製)を使用して合成した。具体的には、製品マニュアル通りの反応液に、75mM GMP、5ng/μL 鋳型DNAを加えて反応液量400μL(但し、8×FLAG(stop) RNAは反応液量を600μLとした。)とし、各反応液を37℃、約16時間(但し、8×FLAG(3) RNA及び8×FLAG(3 stop) RNAは6時間)インキュベートし、転写反応を行った。その後、当該Kit付属のTURBO DNaseを反応液に添加し、製品マニュアル通り鋳型DNAの分解反応を行った。その後、各反応液に等量のTE飽和フェノール−クロロホルム混合液(5:1)を加えて核酸を抽出した後、3Mの酢酸ナトリウム水溶液(pH5.2)及びイソプロピルアルコールを加えてアルコール沈殿法によりRNAを回収し、変性PAGEを用いて転写産物である直鎖状RNAを単離した(5% ポリアクリルアミド、7.5M 尿素、25% ホルムアミド、1×TBE、1mm厚)。UV shadowing法により、目的物を含むバンドを可視化して切り出して細かく粉砕した後、溶出液[10mM EDTA(pH 8.0))で抽出した。抽出液全量(但し、8×FLAG(3) RNA及び8×FLAG(3 stop) RNAは抽出液全量の1/4量)をアミコンウルトラ−0.5mL(分画分子量:3K)(ミリポア社製)又はアミコンウルトラ−4(分画分子量:3K)(ミリポア社製)で脱塩した後、回収した。8×FLAG(3) RNA及び8×FLAG(3 stop) RNAの残った抽出液(抽出液全量の3/4量)は、Sep−Pak C18カートリッジ(ウォーターズ社製)で脱塩した後、50% アセトニトリルで溶出し、遠心エバポレーターにより濃縮した後に凍結乾燥し、RNAを当該凍結乾燥物からアルコール沈殿により脱塩・回収した。得られたRNAは超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、収量を算出した(8×FLAG(2) RNAの収量:0.975nmol、8×FLAG(stop) RNAの収量:2.01nmol、8×FLAG(3) RNAの収量:1.56nmol、8×FLAG(3 stop) RNAの収量:2.34nmol)。
【0058】
(4)転写RNAの環状化反応による環化体(環状RNA)の合成
Adaptor1(配列番号18)を用いて4×FLAG RNA(配列番号43)から4×FLAG RNA環化体(4×FLAG RNAの環状RNA)を、Adaptor2(配列番号19)を用いて8×FLAG RNA(配列番号44)から8×FLAG RNA環化体を、Adaptor3(配列番号20)を用いて12×FLAG RNA(配列番号45)から12×FLAG RNA環化体を、Adaptor4(配列番号29)を用いて8×FLAG(2) RNA(配列番号46)から8×FLAG(2) RNA環化体を、Adaptor5(配列番号30)を用いて8×FLAG(stop) RNA(配列番号47)から8×FLAG(stop) RNA環化体を、Adaptor6(配列番号33)を用いて8×FLAG(3) RNA(配列番号48)から8×FLAG(3) RNA環化体を、Adaptor7(配列番号34)を用いて8×FLAG(3 stop) RNA(配列番号49)から8×FLAG(3 stop) RNA環化体を、それぞれリガーゼ反応により合成した。リガーゼ反応は、1μMの転写RNA、5μMのDNAオリゴヌクレオチド(Adaptor1〜7)、0.0125units/μLのT4 RNA リガーゼ2(ニュー・イングランド・バイオラボ社製)、50mM Tris−HCl(pH 7.5)、2mM MgCl、1mM DTT、 0.4mM ATPを含む反応液(反応液量:800μL(但し、4×FLAG RNAの反応液は3000μL、8×FLAG RNA及び12×FLAG RNAの反応液は5000μL、8×FLAG(3) RNAの反応液は600μL、8×FLAG(3 stop) RNAの反応液は1000μLとした)で行った。
【0059】
具体的には、T4 RNA リガーゼ2以外を全て添加した反応液を90℃で3分間加熱した後、室温まで徐冷した。その後、当該反応液にT4 DNAリガーゼ2を加え、37℃で3時間(但し、8×FLAG(2) RNA及び8×FLAG(2 stop) RNAの反応液は約16時間とした)インキュベートした。当該反応液に酢酸ナトリウム水溶液、グリコーゲン水溶液、及びイソプロピルアルコールを加えて冷却し、RNAを沈殿させて回収し、変性PAGEを用いて環化体(環状RNA)を単離した(5% ポリアクリルアミド、7.5M 尿素、25% ホルムアミド、1×TBE、1mm厚)。環化反応後の反応液を変性PAGEした後、SYBR Green II(タカラバイオ社製)により染色した結果、いずれの環状化反応液においても、環化体が形成されていることが確認された。
【0060】
UV shadowing法により、目的物を含むバンドを可視化して切り出して細かく粉砕した後、溶出液[10mM EDTA(pH 8.0)]で抽出した。抽出液をアミコンウルトラ−0.5mL(分画分子量:3K)(ミリポア社製)又はアミコンウルトラ−4(分画分子量:3K)(ミリポア社製)で脱塩し濃縮した後、RNAをアルコール沈殿により脱塩・回収した。4×FLAG RNA、8×FLAG RNA、及び12×FLAG RNAの反応液は、アミコンウルトラ−0.5mL等を用いて脱塩し濃縮した後、さらにマイクロコンウルトラセルYM−10(分画分子量:10K)で脱塩し濃縮した後、アルコール沈殿によりRNAを回収した。得られたRNAは超純水に溶解し、適宜希釈後UV吸収スペクトルを測定し、収量を算出した(4×FLAG RNA環化体の収量:375pmol(収率:12.5%)、8×FLAG RNA環化体の収量:396pmol(収率:7.93%)、12×FLAG RNA環化体の収量:253pmol(収率:5.05%)、8×FLAG(2) RNA環化体の収量:69.99pmol(収率:8.75%)、8×FLAG(stop) RNA環化体の収量:56.71pmol(収率:7.09%)、8×FLAG(3) RNA環化体の収量:35.56pmol(収率:5.93%)、8×FLAG(3 stop) RNA環化体の収量:84.82pmol(収率:8.48%))。精製後の各環化体を、変性PAGEにより電気泳動し、SYBR Green II(タカラバイオ社製)により染色した結果に得られた染色像を図8〜10に示す。図8のレーン1は4×FLAG RNAを、レーン2は4×FLAG RNA環化体を、レーン3は8×FLAG RNAを、レーン4は8×FLAG RNA環化体を、レーン5は12×FLAG RNAを、レーン6は12×FLAG RNA環化体を、それぞれアプライした。図9のレーン1は8×FLAG(2) DNAを、レーン2は8×FLAG(2) RNAを、レーン3は8×FLAG(2) RNA環化体を、レーン4は8×FLAG(stop) DNAを、レーン5は8×FLAG(stop) RNAを、レーン6は8×FLAG(stop) RNA環化体を、それぞれアプライした。図10のレーン1は8×FLAG(3) DNAを、レーン2は8×FLAG(3) RNAを、レーン3は8×FLAG(3) RNA環化体を、レーン4は8×FLAG(3 stop) DNAを、レーン5は8×FLAG(3 stop) RNAを、レーン6は8×FLAG(3 stop) RNA環化体を、それぞれアプライした。
【0061】
<RNA環化体(環状RNA)を鋳型としたタンパク質の合成>
(5)ウサギ網状赤血球抽出液を用いた翻訳反応
1.843μMのRNA環化体又は1.843μMの環化前の直鎖状の転写RNAを65℃、3分間加熱後、氷水で急冷した後、ウサギ網状赤血球抽出液に添加し、翻訳反応を行った。具体的には、479.2nMの急冷後のRNA、70% Rabbit Reticulocyte Lysate(プロメガ社製)、10μM Amino Acid Mixture Minus Methionine、10μM Amino Acid Mixture Minus Leucine(いずれも、Rabbit Reticulocyte Lysate System(プロメガ社製)に付属)、0.8units/μL RNase Inhibitor(東洋紡社製)からなる反応液(反応液量:25μL)とし、各反応液を30℃で1.5〜19時間インキュベートし、翻訳反応を行った。その後、各反応液から2.5μLをサンプリングし、2×SDSサンプル緩衝液[0.125M Tris−HCl(pH 8.0)、2% SDS、 30% グリセロール、0.02% ブロモフェノールブルー、5% 2−メルカプトエタノール]5μLと混合し、70℃で15分間加熱後、5%ポリアクリルアミドゲル又は10−20%勾配ポリアクリルアミドゲル(ATTO社製)を用いて電気泳動した(泳動用緩衝液: 25mM Tris−HCl、0.1% SDS、192mM グリシン)。ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜(ミリポア社製)に転写後、マウス産生抗FLAG抗体、抗マウスIgG抗体ペルオキシダーゼ(HRP)複合体(いずれもSigma−Aldrich社製)と反応させ、HRP基質(SuperSignal West Femto Maximun Sensitivity Substrate、Thermo社製)を用いて、FLAG配列特異的にバンドを可視化(Light−Capture、ATTO社製)した。図11〜14に、FLAGを含むタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。図11〜14の各レーンには、それぞれ、表8〜11に記載の反応液をアプライした。
【0062】
【表8】
【0063】
【表9】
【0064】
【表10】
【0065】
【表11】
【0066】
この結果、図11に示す通り、4×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合(レーン3)及び8×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合(レーン5)において、高分子量の翻訳産物(タンパク質リピート)が検出された。中でも、8×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合に最も多くのタンパク質リピートが合成されていた。また、図12に示す通り、翻訳反応の時間が長くなるほど、高分子量の翻訳産物(タンパク質リピート)が多く検出された。また、図13及び14に示す通り、終止コドンを有する8×FLAG(stop) RNA環化体や8×FLAG(3 stop) RNA環化体でも、少量ではあるが、高分子量の翻訳産物が検出された。
【0067】
[実施例3]
実施例2で合成されたRNA環化体及び環化前の直鎖状の転写RNAを鋳型として、ヒト由来の無細胞系においてタンパク質を合成した。
鋳型RNAを終濃度1.2μMとなるように、AvidExpress(登録商標)Cell−Free Translation System(ヒトHeLaS3細胞由来、Avidity社製)を用いて製品マニュアルどおりに翻訳反応を行った。反応終了後、各反応液から2.5μLをサンプリングし、実施例2と同様にして10−20%勾配ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜に転写後、抗FLAG抗体、抗マウスIgG抗体HRP複合体を反応させ、HRP基質と反応させることでFLAG配列特異的なタンパク質のバンドを可視化した。
【0068】
図15に、FLAGを含むタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。図15の1レーンにはRNA無添加の反応液を、レーン2は4×FLAG RNAを添加した反応液を、レーン3は4×FLAG RNA環化体を添加した反応液を、レーン4は8×FLAG RNAを添加した反応液を、レーン5は8×FLAG RNA環化体を添加した反応液を、レーン6は12×FLAG RNAを添加した反応液を、レーン7は12×FLAG RNA環化体を添加した反応液を、それぞれアプライした。図15に示す通り、8×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合(レーン5)及び12×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合(レーン7)において、高分子量の翻訳産物(タンパク質リピート)が検出された。中でも、8×FLAG RNA環化体を鋳型とした場合に最も多くのタンパク質リピートが合成されていた。
【0069】
[実施例4]
実施例2で合成されたRNA環化体及び環化前の直鎖状の転写RNAを鋳型として、ヒト細胞内の翻訳系を用いてタンパク質を合成した。
まず、細胞培養用12ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に、1ウェルあたりOpti−MEM I Reduced−Serum Medium(インビトロジェン社製)145μL及び2.4μMの鋳型RNA溶液5μLを混合し、Lipofectamine RNAiMAX(インビトロジェン社製)2μLを添加して混合し、15分間静置した。その後、10%ウシ胎児血清(インビトロジェン社製)を含有させたDulbecco’s Modified Eagle Medium(和光純薬工業社製)を用いて1mLあたり100,000個に希釈したHeLa細胞(ヒト子宮頸部癌由来の培養細胞株、理化学研究所バイオリソースセンターより提供)を850μL添加して37℃、5% CO環境下で24時間培養した(RNA終濃度:12nM)。1ウェルあたり細胞溶解バッファー(CSTジャパン社製)200μLを添加して細胞を溶解させた後、遠心分離処理を行った。得られた上清7.5μLをサンプリングし、実施例2と同様にして10−20%勾配ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜に転写した。その後、抗FLAG抗体又は抗アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)、抗マウスIgG抗体HRP複合体を反応させ、HRP基質と反応させることによって、FLAG配列特異的なタンパク質のバンド又はアクチンタンパク質のバンドを可視化した。
【0070】
図16に、FLAGを含むタンパク質及びアクチンタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。図16の1レーンにはRNA無添加の反応液を、レーン2は8×FLAG(2) RNAを添加した反応液を、レーン3は8×FLAG(2) RNA環化体を添加した反応液を、レーン4は8×FLAG(stop) RNAを添加した反応液を、レーン5は8×FLAG(stop) RNA環化体を添加した反応液を、それぞれアプライした。図16に示す通り、8×FLAG(2) RNA環化体を鋳型とした場合(レーン3)において、高分子量の翻訳産物(タンパク質リピート)が検出された。また、アクチンタンパク質のバンドが全てのレーンにおいてほぼ同程度の濃さであったことから、各反応液に添加した細胞溶解液中のタンパク質量が同程度であることが示された。
本実施例により、本発明の真核細胞用環状RNAを哺乳細胞内へ導入することにより、回転式タンパク質翻訳を行うことが可能であることが示された。
【0071】
[実施例5]
実施例2で合成されたRNA環化体及び環化前の直鎖状の転写RNAを鋳型として、ヒト細胞内の翻訳系を用いてタンパク質を合成した。
まず、細胞培養用24ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に、1ウェルあたりOpti−MEM I Reduced−Serum Medium(インビトロジェン社製)45μL及び2μMの鋳型RNA溶液4μLを混合し、Lipofectamine RNAiMAX(インビトロジェン社製)1μLを添加して混合し、15分間静置した。その後、10%ウシ胎児血清を含有したDulbecco’s Modified Eagle Medium(和光純薬工業社製)を用いて1mLあたり143,000個に希釈したHeLa細胞を350μL添加して37℃、5% CO環境下で24時間培養した(RNA終濃度:20nM)。1ウェルあたり細胞溶解バッファー(CSTジャパン社製)30μLを添加して細胞を溶解させた後、遠心分離処理を行った。得られた上清のタンパク量をCoomassie Plus(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて測定し、細胞溶解バッファーを用いてタンパク濃度を1.5 mg/mLに調製した。タンパク質濃度調整後に、7.5μLをサンプリングし、実施例2と同様にして10−20%勾配ポリアクリルアミドゲルを用いて電気泳動し、ゲル中に展開されたタンパク質をPVDF膜に転写した。その後、抗FLAG抗体又は抗アクチン抗体(Santa Cruz Biotechnology社製)、抗マウスIgG抗体HRP複合体を反応させ、HRP基質と反応させることによって、FLAG配列特異的なタンパク質のバンド又はアクチンタンパク質のバンドを可視化(ChemiDoc XRS Plus、バイオ・ラッド ラボラトリーズ社製)した。
【0072】
図17に、FLAGを含むタンパク質及びアクチンタンパク質のバンドを可視化した結果を示す。図17の1レーンにはRNA無添加の反応液を、レーン2は8×FLAG(3) RNAを添加した反応液を、レーン3は8×FLAG(3) RNA環化体を添加した反応液を、レーン4は8×FLAG(3 stop) RNAを添加した反応液を、レーン5は8×FLAG(3 stop) RNA環化体を添加した反応液を、それぞれアプライした。図17に示す通り、8×FLAG(3) RNA環化体を鋳型とした場合(レーン3)において、高分子量の翻訳産物(タンパク質リピート)が検出された。また、アクチンタンパク質のバンドが全てのレーンにおいてほぼ同程度の濃さであったことから、各反応液に添加した細胞溶解液中のタンパク質量が同程度であることが示された。
【0073】
[実施例6]
実施例2の(4)で合成された8×FLAG RNAの環状RNAをHeLa細胞にトランスフェクションし、蛍光標識した抗-FALG抗体を用いた細胞染色により、細胞内に導入したRNAの翻訳産物の検出を行った。
まず、カバーガラスを各ウェルに入れた細胞培養用24ウェルプレート(日本ベクトン・ディッキンソン社製)に、10%ウシ胎児血清を含有したDulbecco’s Modified Eagle Medium(和光純薬工業社製)を用いて、1mLあたり100,000個に希釈したHeLa細胞を1ウェル当たり500μl添加して、37℃、5% CO環境下で一晩培養した。その後、各ウェルから培地を除き、Opti−MEM I Reduced−Serum Medium(インビトロジェン社製)を200μL添加した。Opti−MEM I Reduced−Serum Medium(インビトロジェン社製)32.5μL及び2μg/mLの鋳型RNA溶液2.5μLを混合し、この溶液にOpti−MEM I Reduced−Serum Medium(インビトロジェン社製)12μL及びOligofectamine(インビトロジェン社製)3μLを混合した溶液を添加し、15分間静置した後、各ウェルに加え、37℃、5% CO環境下で6時間培養した。
トランスフェクション6時間後、培地を取り除き、10%ウシ胎児血清を含有したDulbecco’s Modified Eagle Medium(和光純薬工業社製)を1ウェル当たり500μL加え、更に37℃、5%CO環境下で24時間培養した。その後、培地を取り除き、洗浄後、4%PFA/PBSで細胞を固定化した。0.3%Triton X−100/PBSで細胞を処理し、次いで1%BSA/PBSでブロッキングを行った後、1%BSA/PBSで調製したマウス抗-FLAG抗体(シグマアルドリッチジャパン合同会社製)を添加して、1時間インキュベートした。洗浄後、1%BSA/PBSで調製したAlexa Flour 488標識抗-マウスIgG抗体(ライフテクノロジーズ・ジャパン株式会社製)を添加して、1時間インキュベートした。洗浄後、顕微鏡観察を行った。結果を図18、19に示す。
【0074】
図18及び図19の結果より、環状化体のRNAについては、蛍光が細胞内で広く分布し、直鎖状RNAについては、蛍光は小さな点として検出されることがわかった。また、RNAなしの対照では、発光は見られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0075】
本発明の環状RNA及び当該環状RNAを利用したタンパク質の製造方法により、タンパク質リピートを無細胞系のみならず、細胞内においても、簡便に合成することができるため、研究等の学術分野のみならず、ペプチドやタンパク質を利用する医薬品、飲食品、化粧品、化製品等の製造分野において好適に用いられる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]