特許第6284184号(P6284184)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284184π共役化合物、π共役化合物を用いた接着剤、接着剤の使用方法、接合部の剥離方法、及びπ共役化合物の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284184
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】π共役化合物、π共役化合物を用いた接着剤、接着剤の使用方法、接合部の剥離方法、及びπ共役化合物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 69/767 20060101AFI20180215BHJP
   C07C 67/333 20060101ALI20180215BHJP
   C09J 9/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C07C69/767CSP
   C07C67/333
   C09J9/00
【請求項の数】10
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-32173(P2014-32173)
(22)【出願日】2014年2月21日
(65)【公開番号】特開2015-157769(P2015-157769A)
(43)【公開日】2015年9月3日
【審査請求日】2017年1月12日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 発行日 平成25年8月22日 刊行物 第24回基礎有機化学討論会 要旨集 〔刊行物等〕 開催日 平成25年9月5日 集会名 第24回基礎有機化学討論会 開催場所 学習院大学目白キャンパス創立百周年記念会館(東京都豊島区目白1−5−1) 〔刊行物等〕 開催日 平成25年11月20日 集会名 錯体化学研究室セミナー 開催場所 近畿大学東大阪キャンパス(大阪府東大阪市小若江3−4−1) 〔刊行物等〕 発行日 平成25年12月15日 刊行物 超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2013 要旨集 〔刊行物等〕 開催日 平成25年12月16日 集会名 超分子化学と機能性材料に関する国際シンポジウム2013 開催場所 東京大学浅野キャンパス武田先端知ビル武田ホール(東京都文京区弥生2−11−16) 〔刊行物等〕 開催日 平成26年2月7日 集会名 The 391st MANA Seminar and The 1st Colloquium on New Organic Materials 開催場所 物質・材料研究機構 総合研究棟(WPI−MANA棟)Auditorium(茨城県つくば市並木1−1)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業さきがけ「分子技術と新機能創出」領域「『π電子系を動かす』技術に基づく新規機能材料の創出」の委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人名古屋大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 尚平
(72)【発明者】
【氏名】山口 茂弘
(72)【発明者】
【氏名】小谷 真央
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 淳
【審査官】 福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】 Chunxue Yuan et al,"A π-Conjugated System with Flexibility and Rigidity That Shows Environment-Dependent RGB Luminesce,J.Am.Chem.,米国,2013年,135,8842-8845
【文献】 Chunxue Yuan et al,Hybridization of a Flexible Cyclooctatetraene Core and Rigid Aceneimide Wings for Multiluminescent F,Chem.Eur.J,2014年,20,2193-2200
【文献】 有機π電子系化合物の粉末X線回折による構造解析,2013年度公共等利用成果報告書,あいちシンクロトロン光センター,実験番号:2503029,URL,http://www.astf-kha.jp/synchrotron/publication/files/2503029.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 69/767
CAplus/REGISTRY(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるπ共役化合物。
【化1】

[式中、R下記式(2)で表される基を示し、nは1〜3の整数を示す。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のnは互いに同一であっても異なっていても良い。]
【化2】

[式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基又は炭素原子数3〜20のアルコキシ基を示し、pは1〜5の整数を示す。pが2以上のとき、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【請求項2】
35〜150℃の少なくとも一部の温度域で液晶状態を示す、請求項に記載のπ共役化合物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のπ共役化合物を含む、接着剤。
【請求項4】
請求項に記載の接着剤を用いて接合された接合部を備える、構造体。
【請求項5】
請求項に記載の接着剤の使用方法であって、
2部材間に、前記π共役化合物が液体状態をなす温度に加熱された前記接着剤を介在させる工程と、
前記2部材間に介在させた前記接着剤を、前記π共役化合物が固体状態をなす温度に冷却して、前記2部材を接合する工程と、
を含む、使用方法。
【請求項6】
前記2部材を接合する前記接着剤に、前記π共役化合物が液晶状態を示す温度域下で、300nm〜400nmの波長の紫外線を照射するとともに、前記2部材を剥離させる工程をさらに含む、請求項に記載の使用方法。
【請求項7】
0.5〜200J/cmの積算光量で前記紫外線を照射する、請求項に記載の使用方法。
【請求項8】
請求項に記載の接着剤を用いて接合された接合部を剥離する方法であって、
前記接合部に、前記π共役化合物が液晶状態を示す温度域下で、300nm〜400nmの波長の紫外線を照射する工程を含む、剥離方法。
【請求項9】
請求項1又は2に記載のπ共役化合物の製造方法であって、
下記式(3)で表されるテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとを反応させる工程を含む、製造方法。
【化3】

[式中、nは1〜3の整数を示す。]
【請求項10】
前記2−ブテン二酸ジエステルが、下記式(4)で表される化合物である、請求項に記載の製造方法。
【化4】

[式中、R前記式(2)で表される基を示す。]
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、π共役化合物及びその製造方法に関する。また本発明は、π共役化合物を用いた接着剤及びその使用方法に関する。また、本発明は、接着剤を用いて接合された接合部を備える構造体、及び、接着剤を用いて接合された接合部の剥離方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノインプリント、フォトレジスト、光学部品の加工、半導体実装部品の加工等をはじめとする種々の広い分野で解体性接着剤が使用されている。また、被着材リサイクルの観点からも解体性接着剤が注目されている。
【0003】
一方、光照射により可逆的に流動化−非流動化させることのできる材料が知られている。この性質を利用した解体性接着剤として、糖アルコール骨格と複数のアゾベンゼン基を組み合わせた液晶性化合物が提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−256291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1に記載の接着剤では、室温で光照射されることで流動性が変化し、脱着を起こすため、半導体製造プロセスにおけるリソグラフ工程のように紫外線が照射される環境下で使用すると、意図しない被着体の剥離等が生じるおそれがある。
【0006】
本発明は、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持される一方、所定の高温領域下で光照射することで流動化させて被着体を剥離させることが可能な解体性接着剤、及びそのような解体性接着剤を実現可能な化合物を提供することを目的の一つとするものである。
【0007】
また、本発明は、上記化合物の製造方法、上記接着剤の使用方法、上記接着剤を用いて接合された接合部を備える構造体、及び、上記接着剤を用いて接合された接合部の剥離方法を提供することを目的の一つとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく、平面性が高く剛直なπ共役骨格と、分子骨格の動きに伴い分子物性を変換できる柔軟なπ共役骨格との両方の特長を併せ持つ特殊なπ共役化合物を設計し、液晶のような凝集状態で上記柔軟なπ共役骨格を動かすことができれば、外部刺激に応答して物性を可逆的に制御することができると着想して、鋭意検討を行った。その結果、剛直なアセン骨格と柔軟なシクロオクタテトラエン骨格とを有する特定のπ共役化合物が、液晶状態を示す温度域での光照射により流動性を制御できることを見出した。
【0009】
本発明の一態様は、下記式(1)で表されるπ共役化合物に関するものである。
【化1】

[式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基を示し、nは1〜3の整数を示す。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のnは互いに同一であっても異なっていても良い。]
【0010】
上記π共役化合物は、固体状態を示す温度域と液晶状態を示す温度域と液体状態を示す温度域とを有しており、液体状態を示す温度域まで加熱して部材間に介在させた後、固体状態まで冷却することで、部材間を接着することができる。また、上記π共役化合物は、固体状態で光照射しても物性にほとんど変化が生じないが、液晶状態で光照射すると一部の分子構造に変化が生じて流動性の液体状態に転移する。このため、上記π共役化合物によれば、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持されるにも関わらず、所定の高温領域下で光照射することで流動化して被着体が剥離可能となる解体性接着剤を、容易に実現することができる。
【0011】
また、液晶状態における光照射後は、例えば150℃を超える温度に加熱した後冷却することで、上記π共役化合物の分子構造を初期の状態に戻すことができる。すなわち、上記π共役化合物によれば、所定の温度域下で光照射して流動化させて被着体を剥離させた後、加熱処理を経ることで再利用可能となる、解体性接着剤を実現することができる。
【0012】
上記態様において、上記Rは、下記式(2)で表される基であってよい。
【化2】

[式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基又は炭素原子数3〜20のアルコキシ基を示し、pは1〜5の整数を示す。pが2以上のとき、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。]
【0013】
が上記式(2)で表される基であるπ共役化合物は、製造が容易であり、またR及びpを変更することで液晶状態を示す温度域を適宜調整することができる。
【0014】
上記態様において、上記π共役化合物は、35〜150℃の少なくとも一部の温度域で液晶状態を示すものであってよい。このようなπ共役化合物によれば、35〜150℃の半導体製造プロセスに悪影響を及ぼしにくい温度域下で、接合部の剥離が可能となるため、実用上有用である。
【0015】
本発明の他の態様は、上記π共役化合物を含む、接着剤に関するものである。このような接着剤は上記π共役化合物を含むため、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持される一方、所定の高温領域下で光照射することで流動化させて被着体を剥離させることが可能であり、解体性接着剤として好適に用いることができる。
【0016】
本発明の他の態様は、上記接着剤を用いて接合された接合部を備える、構造体に関するものである。このような構造体は、接合部が上記接着剤を用いて接合されているため、低温下で光照射されても接合部の剥離が生じにくいが、所定の高温領域下で光照射することで接合部を容易に剥離させて解体することができる。
【0017】
本発明の他の態様は、上記接着剤の使用方法に関するものである。当該使用方法は、2部材間に、上記π共役化合物が液体状態をなす温度に加熱された上記接着剤を介在させる工程と、上記2部材間に介在させた上記接着剤を、上記π共役化合物が固体状態をなす温度に冷却して、上記2部材を接合する工程と、を含む。
【0018】
上記態様において、上記使用方法は、上記2部材を接合する上記接着剤に、上記π共役化合物が液晶状態を示す温度域下で、300nm〜400nmの波長の紫外線を照射するとともに、上記2部材を剥離させる工程をさらに含むものであってよい。このような工程によれば、2部材を容易に剥離させることができる。
【0019】
上記態様において、上記紫外線は、例えば0.5〜200J/cmの積算光量となるように照射することができる。
【0020】
本発明の他の態様は、上記接着剤を用いて接合された接合部を剥離する、剥離方法に関するものである。当該剥離方法は、上記接合部に、上記π共役化合物が液晶状態を示す温度域下で、300nm〜400nmの波長の紫外線を照射する工程を含む。
【0021】
本発明の他の態様は、上記π共役化合物の製造方法に関するものである。当該製造方法は、下記式(3)で表されるテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとを反応させる工程を含む。
【化3】

[式中、nは1〜3の整数を示す。]
【0022】
このようなテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとの反応によれば、アセン骨格を伸張することができるとともに、両末端のベンゼン環にそれぞれ2つのエステル基を設けることができる。上記態様において、2−ブテン二酸ジエステルを適宜選択することで、上記反応による生成物として上記π共役化合物を得ることができる。また、上記π共役化合物は、テトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとの反応で生成したテトラエステル化合物のエステル交換反応等を経て、得ることもできる。
【0023】
上記態様において、上記2−ブテン二酸ジエステルは、下記式(4−1)又は(4−2)で表される化合物であってもよい。このような2−ブテン二酸ジエステルを用いることで、上記テトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとの反応によって直接上記π共役化合物を合成することができる。
【化4】

[式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基を示す。]
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持される一方、所定の高温領域下で光照射することで流動化させて被着体を剥離させることが可能な解体性接着剤、及びそのような解体性接着剤を実現可能な化合物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の好適な実施形態について以下に説明する。
【0026】
(π共役化合物)
本実施形態に係るπ共役化合物は、下記式(1)で表される化合物である。
【0027】
【化5】
【0028】
式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基を示し、nは1〜3の整数を示す。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよく、複数のnは互いに同一であっても異なっていても良い。
【0029】
上記π共役化合物は、固体状態を示す温度域と液晶状態を示す温度域と液体状態を示す温度域とを有しており、液体状態を示す温度域まで加熱して部材間に介在させた後、固体状態まで冷却することで、部材間を接着することができる。また、上記π共役化合物は、固体状態で光照射しても物性にほとんど変化が生じないが、液晶状態で光照射すると一部の分子構造に変化が生じて流動性の液体状態に転移する。このため、上記π共役化合物によれば、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持されるにも関わらず、所定の高温領域下で光照射することで流動化して被着体が剥離可能となる解体性接着剤を、容易に実現することができる。
【0030】
また、液晶状態における光照射後は、例えば上記π共役化合物が液体状態を示す温度(例えば150℃を超える温度)に加熱した後冷却することで、上記π共役化合物の分子構造を初期の状態に戻すことができる。すなわち、上記π共役化合物によれば、所定の温度域下で光照射して流動化させて被着体を剥離させた後、加熱処理を経ることで再利用可能となる、解体性接着剤を実現することができる。
【0031】
より詳細には、上記π共役化合物は、シクロオクタテトラエン骨格で折れ曲がったV字型の分子骨格を有すると考えられ、ある特定の温度領域においてこのV字型の分子骨格が積み重なった集積構造を取ることで液晶状態を示すと考えられる。
【0032】
下記式(1−a)は、式(1)のRが炭素原子数12のアルキル基を有する基であり、nが2であるπ共役化合物の一つを例に取り、V字型の分子骨格を説明する式である。これ以外のπ共役化合物も同様のV字型の分子骨格を有する。
【化6】
【0033】
上記π共役化合物は、液晶状態で光照射を受けると、アセン骨格又はシクロオクタテトラエン骨格の光二量化反応により二量体を形成すると考えられる。そして、液晶状態のπ共役化合物の一部が二量化することで、上述の集積構造が崩れ、液晶状態が液体状態へと変化して、流動性が発現すると考えられる。また、この二量化反応は、液晶状態での光照射により生じるもので、固体状態での光照射によっては生じないため、固体状態を示す温度域下で光を照射しても流動化が生じない。
【0034】
また、上記π共役化合物では、例えばπ共役化合物が液体状態を示す温度にまで加熱することで上記二量化反応の逆反応が生じて、二量体から単量体が生じると考えられる。このため、上記π共役化合物は、液晶状態における光照射によって二量体が混在して液晶状態を示さなくなった場合でも、加熱して二量化反応の逆反応を生じさせることによって、再度、液晶状態を示すようになる。
【0035】
光照射は、液晶状態のπ共役化合物が二量体を形成し得るものであればよい。例えば、光照射は、300〜400nmの波長の紫外線の照射であってよい。このような紫外線によれば、液晶状態のπ共役化合物を容易に流動化させることができる。
【0036】
また、式(1)中のnが1のとき、照射される光は254nmの波長の光を含むことが好ましく、式(1)中のnが2のとき、照射される光は365nmの波長の紫外線を含むことが好ましい。これにより、効率良くπ共役化合物の流動化を生じさせることができる。
【0037】
式(1)中、Rは、炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基を示す。Rがこのような基であることで、剛直なアセン骨格と柔軟なシクロオクタテトラエン骨格とを有しながら、所定の温度域で液晶状態を示すπ共役化合物が実現される。また、このようなπ共役化合物では、Rが有するアルキル基の炭素原子数を変更することで、容易に液晶状態を示す温度域を調整することができる。
【0038】
が有するアルキル基は、分岐状であっても直鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、アルキル基の炭素原子数は、好ましくは4〜20であり、より好ましくは6〜20である。複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。複数のRが互いに同一なπ共役化合物は、製造が容易という利点がある。
【0039】
式(1)中、nは、1〜3の整数を示す。nは互いに同一であっても異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。複数のnが互いに同一なπ共役化合物は、製造が容易という利点がある。
【0040】
としては、下記式(2)で表される基が好適である。このようなRを有するπ共役化合物は、後述の製造方法によって容易に製造することができる。また、このようなπ共役化合物は、R2及びpを変更することで容易に液晶状態を示す温度域を調整することができる。
【0041】
【化7】
【0042】
式中、Rは炭素原子数3〜20のアルキル基又は炭素原子数3〜20のアルコキシ基を示し、pは1〜5の整数を示す。pが2以上のとき、複数のRは互いに同一であっても異なっていてもよい。
【0043】
のアルキル基は、分岐状であっても直鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、アルキル基の炭素原子数は、4〜20であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。
【0044】
のアルコキシ基は、分岐状であっても直鎖状であってもよいが、直鎖状であることが好ましい。また、アルコキシ基の炭素原子数は、4〜20であることが好ましく、6〜20であることがより好ましい。
【0045】
pは、好ましくは1〜3であり、より好ましくは1又は2である。
【0046】
式(2)で表される基のうち、Rとしては下記式(2−1)、(2−2)、(2−3)又は(2−4)で表される基が特に好適である。
【0047】
【化8】
【0048】
は、上記の基に限定されず、炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基であればよい。Rは、π共役化合物に液晶性を付与する基であってよく、またRは、π共役化合物が所定の温度域で液晶状態を示すように選択された基であってよい。また、Rは、例えば、Chemical Review,2009,vol 109,6275−6540に記載されたような、液晶性を付与するために導入される置換基全般から選択することもできる。
【0049】
上記π共役化合物は、35〜150℃(より好ましくは40〜140℃、さらに好ましくは70〜100℃)の少なくとも一部の温度域で液晶状態を示すことが好ましい。このようなπ共役化合物は、接着剤として使用したとき、半導体製造プロセスに悪影響を及ぼし難い温度域下で接合部の剥離が可能となるため、実用上有用である。
【0050】
また、上記π共役化合物は、液晶状態を示す温度域が、35℃以上にあることが好ましく、40℃以上にあることがより好ましく、65℃以上にあることがさらに好ましい。液晶状態を示す温度域が35℃以上であると、プロセス中の予期しない光照射による流動化が生じ難くなり、解体性接着剤としてより好適に用いることができる。
【0051】
また、上記π共役化合物は、液晶状態を示す温度域が、150℃以下にあることが好ましく、145℃以下にあることがより好ましい。このようなπ共役化合物では、比較的容易にπ共役化合物を液体状態にすることができるため、解体性接着剤として用いたとき、部材間の接続を容易に行うことができる。
【0052】
(π共役化合物の製造方法)
上記π共役化合物の製造方法の一態様について以下に説明する。本実施形態に係る製造方法は、下記式(3)で表されるテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとを反応させる工程を含む。なお、式中、nは1〜3の整数を示す。
【0053】
【化9】
【0054】
このようなテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとの反応によれば、アセン骨格を伸張することができるとともに、両末端のベンゼン環にそれぞれ2つのエステル基を設けることができる。すなわち、上記反応によれば、下記式(5)で表される化合物を得ることができる。式中、Rは2−ブテン二酸ジエステルのエステル部分に由来する基を示す。
【0055】
【化10】
【0056】
式(5)で表される化合物は、Rが炭素原子数3〜20のアルキル基を少なくとも一つ有する基であるとき、式(1)で表される化合物に相当する。すなわち、2−ブテン二酸ジエステルとして、エステル部分に式(1)のRに相当する基を有する2−ブテン二酸ジエステルを用いると、上記反応によって上記π共役化合物を得ることができる。なお、2−ブテン二酸ジエステルとしては、フマル酸ジエステルを用いることも、マレイン酸ジエステルを用いることもできる。
【0057】
ここで、エステル部分に式(1)のRに相当する基を有する2−ブテン二酸ジエステルは、下記式(4−1)又は(4−2)で表すことができる。式中、Rは式(1)のRと同義である。
【0058】
【化11】
【0059】
また、式(5)で表される化合物において、Rは、式(1)のRに相当する基でなくてもよい。この場合、式(5)で表される化合物のエステル交換反応を行って、Rを式(1)のRに相当する基に変換することによって、上記π共役化合物を得ることができる。
【0060】
なお、式(3)で表されるテトラホルミル化合物は、公知の方法で製造することができ、例えばJ.Am.Chem.Soc.,2013,135,8842(Yuan,C.;Saito,S.;Camacho,C.;Irle,S.;Hisaki,I.;Yamaguchi,S.)の記載等を参考に製造することができる。
【0061】
上記テトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとの反応の反応条件は、例えば、C.Lin etal,Chem.Commun.2009,45,803や、Y.Lin etal,Org.Biomol.Chem.2011,9,4507に記載のアセン類の伸張反応の記載を参考に、適宜設定することができる。
【0062】
例えば、上記反応は、窒素雰囲気下、塩化メチレン溶媒中で、トリブチルホスフィン及びジアザビシクロウンデセンの存在下にテトラホルミル化合物と2−ブテン二酸ジエステルとを反応させることにより実施することができる。また、当該反応により得られた化合物は、例えばカラムクロマトグラフィー(シリカゲルカラムクロマトグラフィー及び/又は高速液体クロマトグラフィー)により精製することができる。
【0063】
上記反応に用いる反応溶媒としては、上述の塩化メチレン以外に、例えば、1,2−ジクロロエタンなどのハロゲン系溶媒、トルエンなどの芳香族系溶媒等を用いることができる。
【0064】
上記反応では、上述のトリブチルホスフィンに代えて、例えばトリメチルホスフィン、トリエチルホスフィン、トリプロピルホスフィン等のトリアルキルホスフィンを用いることもできる。また、上記反応では、上述のジアザビシクロウンデセンの塩基を用いることもできる。具体的には、例えばカリウムtert−ブトキシド、水素化ナトリウムなどの強塩基を好適に用いることができる。
【0065】
上記反応の反応温度は、例えば25℃以上とすることができ、使用した溶媒の沸点まで昇温してもよい。
【0066】
(接着剤)
上記π共役化合物を用いた解体性接着剤について以下に説明する。本実施形態に係る接着剤は、上記π共役化合物を含むものである。このような接着剤は上記π共役化合物を含むため、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持される一方、所定の高温領域下で光照射することで流動化させて被着体を剥離させることが可能であり、解体性接着剤として好適に用いることができる。
【0067】
本実施形態では、上記π共役化合物が液体状態を示す温度域に加熱された上記接着剤を部材間に介在させた後、冷却することで、部材間を接着することができる。
【0068】
本実施形態では、部材間の接合部は、室温のような比較的低温の温度領域下では光照射を受けても接着力が維持される。また、上記π共役化合物が液晶状態を示す温度域にまで加熱した後、上記接合部に光照射することで、上記接着剤が流動し、接合部の剥離が可能となる。
【0069】
接合部への光照射は、300〜400nmの波長の紫外線の照射であることが好ましい。また、接合部へ照射される光は、積算光量が0.5〜200J/cmであることが好ましい。光照射における積算光量は、より好ましくは1.0〜150J/cmであり、さらに好ましくは3.0〜180J/cmである。
【0070】
上記接着剤は、上述の解体性接着剤としての機能が維持される範囲において、上記π共役化合物以外の成分を含有していてもよい。このような成分としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸エステル、ポリシロキサン、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエステル、ポリアミド、スチレン系ポリマー等の熱可塑性高分子;(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ系化合物等の硬化性モノマー成分;光開始剤等が挙げられる。
【0071】
(構造体)
本実施形態に係る構造体は、上記接着剤を用いて接合された接合部を備える。本実施形態に係る構造体は、接合部が上記接着剤を用いて接合されているため、低温下で光照射されても接合部の剥離が生じにくいが、所定の高温領域下で光照射することで接合部を容易に剥離させて解体することができる。
【0072】
構造体は、上記接着剤を用いて接合された接合部を備えるものであればよく、その他の構成要素は特に制限されない。
【0073】
構造体の一例としては、光学部品を備える構造体、半導体実装部品を備える構造体等が挙げられる。これらの構造体は、例えば、光学部品製造プロセス又は半導体製造プロセスにおいて、一時的に製造され、所定の工程を経た後、上記接合部を剥離して解体されるものであってよい。
【0074】
(接着剤の使用方法)
上記接着剤の使用方法の一形態について、以下に説明する。本実施形態に係る接着剤の使用方法は、2部材間に、上記π共役化合物が液体状態をなす温度に加熱された上記接着剤を介在させる工程と、上記2部材間に介在させた上記接着剤を、上記π共役化合物が固体状態をなす温度に冷却して、上記2部材を接合する工程(以下、場合により「接合工程」という。)と、を含む。
【0075】
上記使用方法は、上記2部材を接合する上記接着剤に、上記π共役化合物が液晶状態を示す温度域下で、300nm〜400nmの波長の紫外線を照射するとともに、上記2部材を剥離させる工程(以下、場合により「剥離工程」という。)をさらに含むものであってよい。このような工程によれば、2部材を容易に剥離させることができる。
【0076】
上記紫外線は、例えば0.5〜200J/cmの積算光量となるように照射することができる。また、紫外線の積算光量は、好ましくは1.0〜150J/cmであり、より好ましくは3.0〜180J/cmである。
【0077】
また、使用方法は、接合工程の後、例えば半導体製造プロセスにおけるリソグラフィ工程のような種々の工程を経た後、剥離工程に供することができる。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0080】
(製造例1:フマル酸ジエステルの合成)
マレイン酸(81.7mg,0.70mmol)と炭酸セシウム(688.2mg,2.10mmol)を無水ジメチルホルムアミド(3mL)に溶かし、室温、窒素雰囲気下で50分間撹拌した。反応溶液に3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジルブロミド(1.91g,3.50mmol)を滴下し、60℃で3日間撹拌した。室温に戻した後、反応溶液に水を加えて反応をクエンチし、塩化メチレンで抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄した後、無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去した。残留物をヘキサン−塩化メチレン混合溶媒(混合比1:2,R=0.35)を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離精製することで,白色固体としてビス(3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジル)フマレート(305.3mg,0.29mmol,収率42%)を得た。
【0081】
なお、ビス(3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジル)フマレートのスペクトルデータは以下のとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl):δ 6.83−6.92(m,8H),5.13(s,4H),3.98(t,J=6.6Hz,8H),1.77−1.84(m,8H),1.26−1.45(m,72H),0.86−0.89(m,12H);
13CNMR(100MHz,CDCl):δ 164.9,149.7,149.4,133.9,127.9,121.7,114.7,113.9,69.6,69.5,67.4,32.1,29.9,29.8,29.8,29.6,29.6,29.5,29.5,29.4,26.2,26.2,22.8,14.2;
HRMS(APCI,positive):[M]calcd. for C66112,1032.8352;found 1032.8379.
【0082】
(実施例1)
下記式で表される反応により、π共役化合物A1を製造した。
【化12】
【0083】
具体的には、ビス(3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジル)フマレート(1.25g,1.20mmol)の塩化メチレン溶液(30mL)にトリブチルホスフィン(325μL,1.30mmol)を窒素雰囲気下0℃で滴下し、反応溶液を室温で40分間撹拌した。その後、反応溶液を、窒素雰囲気下0℃に冷やしたテトラホルミル化合物1(208.6mg,0.50mmol)(上記式中の化合物1)の塩化メチレン溶液(60mL)に滴下し、さらに塩基であるジアザビシクロウンデセン(5μL,0.05mmol)を滴下した。50℃で2日間撹拌した後、反応溶液に水を加えて反応をクエンチし、塩化メチレンで3回抽出した。抽出後の有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を留去した。残留物をヘキサン−塩化メチレン−トリエチルアミン混合溶媒(混合比2:48:1)(R=0.80)を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離することで粗生成物を得た。さらに、クロロホルム−トリエチルアミン混合溶媒(混合比50:1)を溶媒として高速液体クロマトグラフィーにより精製することで黄色固体としてπ共役化合物A1(343.6mg,0.14 mmol,収率28%)(上記式中の化合物A1)を得た。
【0084】
π共役化合物A1は、後述する示査走査熱量(DSC)の結果、並びに、偏光顕微鏡観察及びX線回折測定の結果から、68〜143℃において液晶性を示すことが確認された。また、π共役化合物A1のスペクトルデータは以下に示すとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl):δ 8.32(s,8H),7.81(s,4H),7.16(s,4H),6.82−6.95(m,12H),5.17(s,8H),3.95−4.00(q,J=6.6Hz,16H),1.76−1.83(m,16H),1.23−1.45(m,144H),0.87−0.92(m,24H);
13C NMR(100MHz,CDCl):δ 167.9,149.9,149.7,136.2,133.6,132.3,131.8,131.1,128.7,128.6,128.3,128.0,122.0,115.0,114.1,69.8,68.0,32.4,30.2,30.1,29.9,29.9,29.8,29.8,26.6,26.5,23.2,14.6;
MALDI−TOFMS(positive)[(M+Na)]calcd. for C160236NaO16,2436.754;found 2437.034.
【0085】
[示査走査熱量計による測定]
セイコーインスツル社製示査走査熱量計(型式:Exstar 6000 DSC 6200)にて、π共役化合物A1を窒素雰囲気下、2℃/分の速度で液体状態を示す200℃まで加熱した。200℃で10分間保持した後、2℃/分の速度で冷却したところ、補外開始点142.7℃で、液体から液晶への相転移に伴う18.3mJ/mgの発熱ピークが観察された。さらに補外開始点67.3℃で、液晶から結晶への相転移に伴う14.8mJ/mgの発熱ピークが観察された。
【0086】
(実施例2)
下記式で表される反応により、π共役化合物A2を製造した。
【化13】
【0087】
具体的には、ビス(3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジル)フマレート(495.5mg,0.48mmol)の塩化メチレン溶液(4mL)にトリブチルホスフィン(130μL,0.52mmol)を窒素雰囲気下0℃で滴下し、反応溶液を室温で40分間撹拌した。その後、反応溶液を、窒素雰囲気下0℃に冷やしたテトラホルミル化合物3(52.6mg,0.16mmol)(上記式中の化合物3)の塩化メチレン溶液(8mL)に滴下し、さらに塩基であるジアザビシクロウンデセン(2μL,0.02mmol)を滴下した。室温で16時間撹拌した後、反応溶液に水を加えて反応をクエンチし、塩化メチレンで3回抽出した。抽出後の有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を留去した。残留物を塩化メチレン(R=0.75)を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離することで粗生成物を得た。さらに、クロロホルムを溶媒としてサイズ排除クロマトグラフィーにより精製することで白色固体としてπ共役化合物A2(131.1mg,0.056mmol,35%)(上記式中の化合物A2)を得た。
【0088】
π共役化合物A2は、示差走査熱量測定(DSC)、偏光顕微鏡観察及びX線回折測定の結果から、35〜103℃において液晶性を示すことが確認された。また、π共役化合物A2のスペクトルデータは以下に示すとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl):δ 8.07(s,4H),7.62(s,4H),7.04(s,4H),6.80−6.90(m,12H),5.13(s,8H),3.94−3.98(m,16H),1.75−1.80(m,16H),1.25−1.44(m,144H),0.86−0.89(m,24H);
13CNMR(100MHz,CDCl):δ 167.5,149.5,149.4,137.4,133.4,132.3,130.1,128.9,128.3,121.5,114.7,113.9,69.5,67.7,32.1,29.8,29.6,29.6,29.5,29.5,29.2,26.2,26.2,22.8,14.2;
MALDI−TOFMS(positive)[(M+Na)]calcd. for C152232NaO16,2338.453;found 2338.585.
【0089】
(比較例1)
下記式で表される反応により、π共役化合物B1を製造した。
【化14】
【0090】
具体的には、ビス(3,4−ビス(ドデシルオキシ)ベンジル)フマレート(252.7mg,0.24mmol)の塩化メチレン溶液(10mL)にトリブチルホスフィン(65μL,0.26mmol)を窒素雰囲気下0℃で滴下し、反応溶液を室温で40分間撹拌した。その後、反応溶液を、窒素雰囲気下0℃に冷やしたジホルミル化合物4(38.0mg,0.20mmol)(上記式中の化合物4)の塩化メチレン溶液(3mL)に滴下し、塩基であるジアザビシクロウンデセン(2μL,0.02mmol)を反応溶液に滴下した。室温で2日間撹拌した後、反応溶液に水を加えて反応をクエンチし、塩化メチレンで3回抽出した。抽出後の有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した後、溶媒を留去した。残留物を塩化メチレン(R=0.50)を用いてシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより分離することで粗生成物を得た。さらに、クロロホルムを溶媒としてサイズ排除クロマトグラフィーにより精製することで黄色固体としてπ共役化合物B1(148.2mg,0.125mmol,収率62%)(上記式中の化合物B1)を得た。
【0091】
π共役化合物B1は、示差走査熱量測定(DSC)、偏光顕微鏡観察及びX線回折測定の結果から、23〜34℃において液晶性を示すことが確認された。また、π共役化合物B1のスペクトルデータは以下に示すとおりであった。
H NMR(400MHz,CDCl):δ 8.48(s,2H),8.42(s,2H),8.01−8.04(m,2H),7.54−7.56(m,2H),6.84−6.97(m,6H),5.21(s,4H),3.96−4.02(m,8H),1.76−1.84(m,8H),1.24−1.51(m,72H),0.85−0.88(m,12H);
13CNMR(100MHz,CDCl):δ 167.4,149.2,149.1,132.9,131.2,130.3,128.2,128.1,127.6,126.6,121.3,114.4,113.6,69.2,67.4,31.7,29.5,29.5,29.3,29.3,29.2,29.2,25.9,25.9,22.5,13.9;
HRMS(APCI,positive):[M]calcd. for C4436,692.2405;found 692.2399.
【0092】
(実施例3:π共役化合物A1の接着剤としての使用1)
ガラス板に6mmΦの円形に打ち抜いたシリコーンテープ(中興化成工業社製、チューコーフローAGF−100、厚み0.13mm、幅13mm)を貼り、円形部に実施例1で得られたπ共役化合物A1の粉末を置いた。当該ガラス板をホットプレート上に載せ、170℃で30分加熱し、π共役化合物A1を液化させた。その後、液化したπ共役化合物A1に重なるようにガラス板を載せ、500gの分銅を載せて荷重をかけ、25℃まで冷却しガラス積層体を作製した。作製したガラス板積層体の片側をクランプで固定し、別のガラス板側の穴にプッシュプルゲージ(株式会社シロ産業、WPARX−10)の先端を引っかけた。プッシュプルゲージにてガラス積層体が剥離するまでの引張せん断接着強さを測定した。この測定を5回繰り返し、接着強さを算術平均した結果、1.84MPaであった。
【0093】
(実施例4:π共役化合物A1の接着剤としての使用2)
実施例1と同様にガラス板積層体を作製後、当該ガラス板積層体の片側をクランプで固定し、接着部が100℃になるまでドライヤーで加熱した。接着部を100℃に保持した状態で、実施例1と同様にプッシュプルゲージを用いて引張せん断接着強さを測定した結果、1.55MPaであった。
【0094】
(実施例5:π共役化合物A1の接着剤としての使用3)
実施例1と同様にガラス板積層体を作製後、当該ガラス板積層体の片側をクランプで固定し、接着部が100℃になるまでドライヤーで加熱し、100℃に保持した状態で365nmの波長の紫外線(照度2.6W/cm)を10秒間、接着部に照射した。紫外線照射直後に実施例1と同様にプッシュプルゲージを用いて引張せん断接着強さを測定した結果、ガラスの自重で接着部が剥がれ、強度を示さなかった。
【0095】
(実施例6:π共役化合物A2の接着剤としての使用1)
π共役化合物A1をπ共役化合物A2に変更し、加熱温度を170℃から120℃に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で引張せん断接着強さを測定した。測定の結果、引張せん断接着強さは1.45MPaであった。
【0096】
(実施例7:π共役化合物A2の接着剤としての使用2)
π共役化合物A1をπ共役化合物A2に変更し、保持温度を100℃から70℃に変更したこと以外は、実施例4と同様の方法で引張りせん断接着強さを測定した。測定の結果、引張せん断接着強さは1.33MPaであった。
【0097】
(実施例8:π共役化合物A2の接着剤としての使用3)
π共役化合物A1をπ共役化合物A2に変更し、保持温度を100℃から70℃に変更したこと以外は、実施例5と同様にプッシュプルゲージを用いて引張せん断接着強さを測定したところ、ガラスの自重で接着部が剥がれ、強度を示さなかった。
【0098】
(比較例2:π共役化合物B1の接着剤としての使用1)
π共役化合物A1をπ共役化合物B1に変更し、加熱温度を170℃から95℃に変更したこと以外は、実施例3と同様の方法で引張りせん断接着強さを測定した。測定の結果、引張せん断接着強さは0.65MPaであった。
【0099】
(比較例3:π共役化合物B1の接着剤としての使用2)
π共役化合物A1をπ共役化合物B1に変更し、保持温度を100℃から28℃に変更したこと以外は、実施例5と同様にプッシュプルゲージを用いて引張せん断接着強さを測定した。紫外線照射前の引張せん断接着強さは0.71MPaであり、紫外線照射後の引張せん断接着強さは0.65MPaであり、紫外線照射の前後で強度の差異は観られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0100】
本発明のπ共役化合物は、光照射と温度の制御により、可逆的に流動化−非流動化させることができるので、ナノインプリント等のように、プラスチック等の各種基材上へ微細構造を形成する材料等への応用が期待できる。また接着剤の分野をはじめとする種々の広い分野での応用が期待できる。特に、本発明の接着剤は、温度をかけた状態で光照射することにより、はじめて脱着できるため、半導体製造プロセスにおける仮固定用接着剤として好適である。本接着剤で接合された部材は、π共役化合物の液晶領域未満の温度に雰囲気温度を設定することで、紫外線が照射されても脱着されることがなく、リソグラフィ工程等のプロセスに曝すことが可能である。一方、部材を脱着する際は、液晶領域の温度に雰囲気温度を設定して紫外線照射することで行うことができる。また半導体製造プロセスにおける仮固定用接着剤の他にも、様々な用途に適用可能な解体性接着剤としても有益である。