特許第6284186号(P6284186)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284186
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】放射線線量の測定方法およびその線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/10 20060101AFI20180215BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G01T1/10
   C09K11/06
【請求項の数】3
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-54007(P2014-54007)
(22)【出願日】2014年3月17日
(65)【公開番号】特開2015-174963(P2015-174963A)
(43)【公開日】2015年10月5日
【審査請求日】2017年3月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】300071579
【氏名又は名称】学校法人立教学院
(73)【特許権者】
【識別番号】505399605
【氏名又は名称】国立大学法人兵庫教育大学
(73)【特許権者】
【識別番号】503005032
【氏名又は名称】株式会社KANKO
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075270
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 泰
(74)【代理人】
【識別番号】100101373
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 茂雄
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100129311
【弁理士】
【氏名又は名称】新井 規之
(72)【発明者】
【氏名】入江 正浩
(72)【発明者】
【氏名】山口 忠承
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼島 一郎
【審査官】 古妻 泰一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−172139(JP,A)
【文献】 特表平09−511055(JP,A)
【文献】 米国特許第05712166(US,A)
【文献】 国際公開第2010/134524(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0063289(US,A1)
【文献】 特開2005−008753(JP,A)
【文献】 特開2005−082507(JP,A)
【文献】 特開2002−285146(JP,A)
【文献】 特開平02−216493(JP,A)
【文献】 JEONG Yong-chul et.al.,Development of highly fluorescent photochromic material with high fatigue resistance,Tetrahedron,2006年 5月 5日,62,pp.5855-5861
【文献】 JEONG Yong-chul et.al.,A High-Content Diarylethene Photochromic Polymer For an Efficient Fluorescence Modulation,Macromolecular Rapid Communications,2006年,27,pp.1769-1773
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/10
C09K 11/06
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で、式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を準備する工程、
【化1】
(式中、RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基であり、
およびRはそれぞれ独立して非置換のまたは炭素数1〜3のアルキル基を置換基として有するフェニル基またはチエニル基であ
前記組成物に紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で放射線を照射して式1bで表されるジアリールエテンを生成する工程、
【化2】
(式中、Rは前記のとおり定義される)
ならびに、
前記工程で得た組成物の蛍光強度を測定する工程、
を含む、放射線線量の測定方法。
【請求項2】
紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮光する容器内に収納した、式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を備える、放射線線量計。
【化3】
(式中、Rは前記のとおり定義される)
【請求項3】
前記容器の周囲に配置された、紫外領域に発光特性を有するシンチレーション材料をさらに備える、請求項に記載の放射線線量計。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放射線線量の測定方法およびその線量計に関し、より詳しくは放射線の照射により蛍光特性を示すようになる化合物を用いた放射線線量の測定方法およびその線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
紫外線と可視光線とを交互に光照射することにより、2つの構造異性体を可逆的に生成する現象をフォトクロミズムといい、フォトクロミズムを示す化合物をフォトクロミック化合物という。フォトクロミック化合物は、光記録材料、表示材料、光センサー、調光材料等の用途に使用されている。
【0003】
フォトクロミック化合物の1つであるジアリールエテンは、上記用途への応用において特に重要な特性である熱安定性、化学的安定性、および繰り返し耐久性に優れており、実用化に向けた検討が行われている。例えば、非特許文献1は、ジアリールエテンの応用について開示する。
【0004】
ジアリールエテンは、下記の一般式で示されるように、紫外線と可視光線とを交互に照射することによって、異性体(開環体と閉環体)を可逆的に生成する。ジアリールエテンの開環体は通常無色である。開環体に紫外線を照射するとジアリールエテンの閉環体が生成する。ジアリールエテンの閉環体は着色している。着色したジアリールエテンの閉環体に可視光線を照射すると元の無色の開環体にもどる。
【化1】
【0005】
特許文献1にはジアリールエテン中のアリール骨格がベンゾスルホン骨格であるジアリールエテンが開示されている。具体的にはベンゾチオフェン−1,1−ジオキシド−3−イル基を有する化合物が開示されている。この化合物は、上記一般式に示される通常のジアリールエテンと同様に、開環体に紫外線を照射すると可視部に吸収帯をもつ閉環体へ変換し、その閉環体に可視光線を照射すると元の開環体へ戻る。
【0006】
非特許文献2や非特許文献3には、上記のベンゾスルホン型ジアリールエテンの製造方法と、1,4−ジオキサン中等の有機溶剤中における閉環体の蛍光量子収率が記載されている。
【0007】
ジアリールエテンに放射線を照射すると着色することを利用した放射線カラー線量計に関する研究が行われている。特許文献2には、チオフェン環やチアゾール環を有するジアリールエテンの開環体を含むポリスチレン膜に放射線を照射すると、閉環体が生成し、生成した閉環体の着色量により照射線量が求められることが開示されている。
【0008】
特許文献2には、チオフェン環やチアゾール環を有するジアリールエテンと、シンチレーション材料を直接混在させたポリスチレン膜に関する研究が開示されている。シンチレーションの材料として、BaFCl:Eu2+やCeMgAl1119、CaWO、ZnSAgが用いられている。これらを添加すると、シンチレーション材料を加えていない場合に比べて、着色量が最大8倍も増大することが開示されている。
【0009】
特許文献3には、ジアリールエテン閉環体を含む溶液に放射線を照射し、着色量によって照射線量を測定する方法が開示されている。また、特許文献4には、ポリスチレン等の芳香族基をもつ高分子媒体を用いると、放射線感受性が高まることが開示されている。特許文献5〜7には、ジアリールエテンにメトキシ置換基を導入することにより放射線感受性および着色体の安定性の向上を行うことも開示されている。
【0010】
特許文献2〜7に記載の技術は、ジアリールエテンの着色の程度を、吸収スペクトロメーター等を用いて検出することにより、あるいは一定の濃度に着色した標準サンプルとの比較により、照射線量を測定する方法である。
一方、超高密度光メモリに関する非特許文献4に開示されているように、実験的に、すでに1分子レベルにおいて蛍光性化合物を検出することが可能であることが実証されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2012−172139号公報
【特許文献2】特開2003−64353号公報
【特許文献3】特開平11−258348号公報
【特許文献4】特開2001−354862号公報
【特許文献5】特開2002−309244号公報
【特許文献6】特開2002−334498号公報
【特許文献7】特開2004−45037号公報
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】入江正浩、Chemical Reviews、(米国)、American Chemical Society、2000年5月、第100巻、第5号、p.1685−1716
【非特許文献2】入江正浩、他、Journal of the American Chemical Society、(米国)、American Chemical Society、2011年、第133巻、p.13558−13564
【非特許文献3】入江正浩、他6人、Photochemical & Photobiological Science、(イギリス)、The Royal Society of Chemistry、2012年、第11巻、p.1661−1665
【非特許文献4】入江正浩、他4人、「ネイチャー(Nature)」、2002年、第420巻、p.759−761
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
従来の放射線線量計は着色の度合いによって線量を測定するが、このような線量計は感度が不十分であった。かかる事情を鑑み、本発明は感度に優れた放射線線量の測定方法および線量計を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
発明者らは、その閉環体が蛍光特性を示すジアリールエテンを用いて蛍光強度により放射線線量を測定すれば、格段の高感度化が見込まれることを着想し本発明を完成した。すなわち、前記課題は以下の本発明により解決される。
(1)紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で、式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を準備する工程、
前記組成物に紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で放射線を照射して式1bで表されるジアリールエテンを生成する工程、ならびに、
前記工程で得た組成物の蛍光強度を測定する工程、
を含む、放射線線量の測定方法。
(2)前記Yがハロゲン原子であり、nが0であり、かつmが5である、(1)に記載の方法。
(3)前記RおよびRが、フェニル基またはチエニル基である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮光する容器内に収納した、式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を備える、放射線線量計。
(5)前記容器の周囲に配置された、紫外領域に発光特性を有するシンチレーション材料をさらに備える、(4)に記載の放射線線量計。
【発明の効果】
【0015】
本発明により感度に優れた放射線線量の測定方法および線量計を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】化合物2aのトルエン溶液中における蛍光スペクトルと放射線照射量との関係
図2】化合物2aの530nmにおける蛍光強度と放射線照射量との関係
図3】化合物3aの530nmにおける蛍光強度と放射線照射量との関係
図4】化合物4aの586nmにおける蛍光強度と放射線照射量との関係
図5】BaFCl:Eu薄膜に挟んだ、化合物2aを添加したポリスチレン薄膜の蛍光スペクトルと放射線照射量との関係
図6】BaFCl:Eu薄膜に挟んだ、化合物2aを添加したポリスチレン薄膜薄膜の530nmにおける蛍光強度と放射線照射量との関係
図7】化合物3aを添加したポリスチレン薄膜の蛍光スペクトルと放射線照射量との関係
図8】BaFCl:Eu薄膜に挟んだ、化合物3aを添加したポリスチレン薄膜の蛍光スペクトルと放射線照射量との関係
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において「X〜Y」は両端の値すなわちXとYの双方を含むことを意味する。
1.測定方法
本発明の放射線線量の測定方法は、
紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で、式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を準備する工程(準備工程)、
前記組成物に紫外線および波長が430nm未満の可視光線遮光下で放射線を照射して式1bで表されるジアリールエテンを生成する工程(照射工程)、ならびに
前記工程で得た組成物の蛍光強度を測定する工程(測定工程)、を含む。
【0018】
(1)準備工程
本工程では、式1aで表されるジアリールエテン(以下、「開環体」ともいう)を含む組成物を準備する。
【0019】
【化2】
【0020】
式中RおよびRはそれぞれ独立して炭素数1〜4のアルキル基である。本発明においてアルキル基は、直鎖状アルキル基および分岐状アルキル基の双方を含む。
およびRはそれぞれ独立して炭素数5〜10のアリール基である。本発明においてアリール基は、芳香族炭化水素基および複素芳香族炭化水素基を含む。アリール基としては、非置換のまたは置換基を有するフェニル基またはチエニル基が好ましい。この場合の置換基は、炭素数が1〜3のアルキル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0021】
nは独立に0または1であり、RおよびRの数を示す。RおよびRは炭素数1〜3のアルキル基である。RおよびRが存在すると合成が困難となる場合があるので、nは0であることが好ましい。ただし、nが1である場合、RおよびRはメチル基またはエチル基が好ましい。
−(CY)m−は脂環骨格を示す。Yは水素原子またはハロゲン原子であり、mは脂環骨格の員数を示し、5〜7の整数である。mは5であることが好ましく、Yはハロゲン原子であることが好ましく、フッ素原子であることがより好ましい。すなわちmが5でYがフッ素原子である場合、式1aの化合物は以下の脂環骨格を有することを意味する。
【0022】
【化3】
【0023】
開環体は公知の方法、例えば非特許文献2または3に記載の方法で合成できる。
開環体を溶媒に溶解または分散させることにより組成物を調製できる。組成物は、前記の場合は溶液となり、後者の場合は分散液となる。溶媒は特に限定されないが、トルエン等の芳香族炭化水素や、1,4−ジオキサン等のエーテルが好ましい。当該溶媒と開環体との配合比は、溶媒1Lに対して開環体1〜10gが好ましい。
【0024】
また、開環体をポリマー中に溶解または分散させることにより組成物を調製できる。ポリマーとしては限定されないが、ポリスチレン、芳香族ポリエステル等の芳香環を有するポリマーが好ましい。芳香環を有するポリマーは紫外線を吸収するので、本願発明で用いるジアリールエテンに対して紫外線を遮蔽する効果を有するからである。
【0025】
開環体をポリマー中に溶解または分散させる方法も限定されないが、例えば、開環体の溶液とポリマーの溶液とを準備し、両者を混合した後に溶媒を除去することにより組成物を調製できる。この際、キャストフィルムとすると取扱性が向上するので好ましい。当該ポリマーと開環体との配合比は、ポリマー1gに対して開環体0.01〜0.5gが好ましく、0.05〜0.1gがより好ましい。
【0026】
本発明においては、紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮光した状態で組成物を準備する。環境光に含まれる紫外線および波長が430nm未満の可視光線は当該開環体を閉環体に転化するので、開環体を線量計に用いる際に正しい測定ができなくなるためである。また、紫外線より短波長の光が有意に存在する環境下で組成物を準備することは現実的には想定できないのであえて規定はしていないが、本発明の趣旨から、放射線等の紫外線より短波長の光の影響を受けずに組成物を準備することは必須である。すなわち、波長が430nm未満の光線の影響を受けずに組成物を準備することは必須である。
【0027】
紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下、例えば当該光線を遮蔽するフィルターを通した光の環境下で、開環体の合成および組成物の調製を実施することができる。あるいは、前記光線を遮蔽しない環境下で前記ジアリールエテンの合成を行い、その後、可視光線に十分暴露してジアリールエテンを完全に開環体とした後に、前記光線を遮蔽した環境下にて組成物を調製してもよい。さらには、前記光線を遮蔽しない環境下で前記ジアリールエテンの合成および組成物の調製を行い、その後、可視光線に十分暴露してジアリールエテンを完全に開環体とした後に、前記光線を遮蔽した環境下にて組成物を調製してもよい。
【0028】
(2)照射工程
本工程では、前工程で得た組成物に紫外線および波長が430nm未満の可視光線で放射線を照射して、式1bで表されるジアリールエテン(以下「閉環体」ともいう)を生成させる。放射線としては、ガンマ線、X線などの電磁放射線、α線、β線、電子線などの粒子放射線が挙げられる。生成した閉環体は可視領域(l>400nm)に吸収を有する安定な化合物であり、熱的に元の開環体へ戻ることはない。前述のとおり、本工程も照射する放射線以外の光の影響を受けない条件下で実施される。
【0029】
(3)測定工程
吸収帯の存在する可視光線を閉環体に照射すると、光励起された閉環体は蛍光を発して基底状態となる。閉環体の生成量は放射線の照射線量に依存して線形的に増加し、さらにその生成量は蛍光強度の増加として検出できる。このため、本発明の組成物により、放射線量を高感度で測定できる。
【0030】
2.線量計
本発明の放射線線量計は、紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮光する容器内に収納した式1aで表されるジアリールエテンを含む組成物を備える。ジアリールエテンを含む組成物についてはすでに述べたとおりである。
【0031】
紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮光する容器は限定されない。組成物が溶液である場合、当該溶液を容器内に収納するとは、当該溶液を、前記光線を遮蔽するフィルターからなる容器、当該フィルターで被覆したガラス容器またはポリマー容器、金属箔からなる容器、金属箔で被覆したガラス容器またはポリマー容器、金属容器等に収容することを含む。また、組成物がポリマー組成物である場合、当該ポリマー組成物を容器内に収納するとは、前記フィルターや金属箔等で当該組成物を被覆することを含む。このように容器の形状、寸法は限定されず、使用する状況に応じて適宜適切な形状、寸法としてよい。
【0032】
前記容器の周囲には、紫外領域に発光特性をもつシンチレーション材料を配置してもよい。当該材料としてはBaFCl:Eu等が挙げられる。シンチレーション材料は、放射線の照射を受けると紫外領域に蛍光またはりん光を発生する。これらの光が本発明のジアリールエテンの開環体に吸収されると紫外線照射の場合と同様に可視部に吸収をもつ閉環体の生成が誘起される。よって、シンチレーション材料により本発明の線量計の放射線感受性が向上する。
【実施例】
【0033】
以下に実施例を示す。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
[参考例1]
ジアリールエテン2a、3a、および4aを、前述の非特許文献に記載の方法に準じて合成した。これらの化合物を、ヘキサン:酢酸エチル=8:2の混合溶媒を展開溶媒として、分取シリカゲルカラム(和光純薬工業株式会社製、Wakosil 5SIL)を用いて高速液体クロマトグラフィーにて精製した。次いで、トルエンとアセトンを用いて当該化合物の再結晶を行い、純粋な化合物2a、3a、および4aを得た。これらは無色の化合物であった。これらは、本発明で最も好ましい化合物である。すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
【0034】
【化4】
【0035】
得た化合物について、蛍光光度計(株式会社日立製作所製、F−2500)で蛍光特性を測定した。通常の1cmの蛍光セルに当該化合物の入った溶液を加え、L−42のバンドパスフィルターで励起光中に含まれる微量の紫外光を除去して測定を行った。溶媒として、トルエンと1,4−ジオキサンを用いた。トルエン溶液中の化合物2a、3aは、488nmおよび500nmの光励起で無蛍光であった。トルエン溶液中の化合物4aは550nmの光励起で無蛍光であった。1、4−ジオキサン溶液とした場合も、蛍光は観察されなかった。
【0036】
[実施例1]ジアリールエテン/溶媒組成物
化合物2a、3a、および4aのそれぞれ20mgをトルエン4mLに完全に溶解し、20mLのガラス瓶中に入れた。同様に化合物2a、3a、および4aのそれぞれ20mgを1,4−ジオキサンに完全に溶解し、20mLのガラス瓶中に入れた。大阪府立大学放射線研究所の第三照射室にて、この溶液にコバルト60のガンマ線を1時間かけて0.05Gy、0.1Gy、0.3Gy、0.5Gy、1Gy、1.5Gy、2Gy照射した。
また、化合物の量を2mgに変更したトルエンおよび1,4−ジオキサン溶液を同様に調製し、それぞれ20mLのガラス瓶中に入れた。当該ガラス瓶をアルミ箔で被覆して遮光した状態で、当該瓶に大阪府立大学の照射プールにてコバルト60ガンマ線を10Gy、100Gy照射した。
すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
【0037】
トルエン溶液中の化合物2aにガンマ線を照射すると、ガンマ線によって2aが2b(閉環体)に転化した。2bの生成は蛍光スペクトルの測定により488nmまたは500nmの光励起によって現れる蛍光により確認できる。この蛍光性物質が2bの化学構造を有することは、非特許文献3、4から明らかである。この結果を図1に示す。トルエンの代わりに1、4−ジオキサンを用いた場合も、蛍光を発する2bの生成が確認できた。
【0038】
トルエン溶液中の化合物2aにガンマ線を照射した後、励起光488nmにおける蛍光スペクトルを測定した結果を図1に示す。0.05Gyから蛍光値が変化し、ガンマ線照射量の増大に伴い蛍光値が増大した。530nmにて検出したときの蛍光強度を図2に示す。放射線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0039】
トルエン溶液中の化合物3aについても同様の検討を行った。ガンマ線を照射した後、励起光488nmにおける蛍光スペクトルを530nmにて検出した結果を図3に示す。0.05Gyで蛍光値が変化しガンマ線照射量の増大に伴い蛍光値が増大した。放射線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0040】
トルエン溶液中においてチオフェン環を置換基として有する化合物4aについても検討を行った。励起光を550nmとし、586nmにて検出したときの蛍光強度を図4に示す。ガンマ線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0041】
1,4−ジオキサン溶液中においても同様の測定を行った。これらの条件に基づく蛍光の測定値における数値の変化を表1にまとめた。
【0042】
【表1】
【0043】
ガンマ線照射量の最小照射限界は0.05Gyである。この照射量においても再現性良く蛍光値の変化が認められたことから、溶液中においてmGyレベルでの放射線線量の検出が可能であることが明らかとなった。また、表1において、化合物2aのトルエン溶液の入った容器の周りに、結晶状態の塩化セリウム・7水和物を配置し、1Gyのガンマ線を照射した。その結果、何も配置せず照射量を1Gyとした場合の蛍光値38.96と比べて、蛍光値が増大し放射線感度が若干向上した。塩化セリウム・7水和物は、ガンマ線を紫外線へと変換することから、放射線感受性を向上させる効果があることが明らかとなった。
【0044】
[実施例2]ジアリールエテン/ポリマー組成物
本例では、化合物2a〜4aを透明なポリスチレンHF−77(ポリスチレンジャパン株式会社製)に添加して薄膜を形成した。代表例として化合物2aを用いた場合の手順を示す。すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
950mgのポリスチレンHF−77と5mLのトルエンを蓋付きガラス瓶に入れ、HF−77を2日かけて膨潤させた。別の蓋付きガラスビンに50mgの化合物2aと5mLのトルエンを入れ、LED赤色灯下で溶解させた。当該トルエン溶液を前記の膨潤したポリスチレンの入ったガラス瓶に入れ、溶解させた。この後、テフロン(登録商標)製の薄膜形成器の中に溶液をすべて注いだ。アルミホイルと黒色のゴミ袋をかぶせ、暗所下で7日間乾燥した。この方法により、化合物2aを含む、厚さ約0.5mm、幅25mm、長さ75mmのHF−77ポリスチレン薄膜を調製した。この薄膜を3等分し、厚さ約0.5mm、幅25mm、長さ25mmの膜に分割した後、真空乾燥機にて室温で12時間乾燥した。
【0045】
当該薄膜を2枚のガラス板(100mm×100mm)に挟んだ。ガラス板の間にはスペーサーとして2枚の0.2mmアルミ板を配置した。ガラス板の上に0.8kgの銅板(100mm×100mm)を置き、その上に望遠鏡用バランスウエイト2.8kgを載せ、真空乾燥機中(10mmHg)で90分間140℃に加熱圧縮した。このようにして平らで透明なHF−77膜を作製した。放射線を照射する前にこの膜をスタイロカッターを用いて4等分し、約10mm×10mm、厚さ0.54mm程度の膜とした。
【0046】
化合物3a、4aを用いた場合も同様にして薄膜を作製した。ただし、化合物の量を100mgとし、かつ薄膜の寸法を約10mm×10mm、厚さ0.27mmとした。
【0047】
蛍光光度計(株式会社日立製作所製、F−2500)の膜測定用のユニットを用いて前記薄膜の蛍光特性を評価した。測定においてはL−42のバンドパスフィルターで励起光中に含まれる微量の紫外光を除去した。さらに、これらの薄膜をアルミ箔により遮光した缶に入れて放射線を照射した。大阪府立大学放射線研究所の第三照射室でコバルト60のガンマ線を1時間かけて0.5Gy、1Gy、1.5Gy、2Gy照射した。
【0048】
50mgの化合物2aを含むポリスチレン薄膜を用いた場合、放射線を照射しない場合(0Gy)と比べて放射線を照射した試料は照射量に応じて蛍光値が増大した。この結果は溶液を用いた実験と同様に、ポリマー薄膜中でもガンマ線照射によって閉環体(2b)が生成することを示している。
【0049】
シンチレーション材料BaFCl:Eu膜(東芝マテリアル製、TB−80)を2枚用いて、化合物2aを含むポリスチレン薄膜を挟みガンマ線を照射した。ポリスチレン薄膜を取り出し蛍光スペクトルを測定した結果を図5に示す。励起波長488nm、測定波長530nmで検出を行った。1Gyの比較において、BaFCl:Eu膜で取り囲むと蛍光値は表2に示すように8.65であり、同じ1Gyダイレクトに照射した値2.46と比べて約3.5倍蛍光強度が増大した。この結果は、組成物をBaFCl:Eu等のシンチレーション材料で取り囲むことによって、ガンマ線照射量に応じて蛍光発光体の生成量がさらに増大することを示している。さらに、0.5Gyのガンマ線照射で蛍光値が変化した。図6に示すようにガンマ線照射量の増大に伴い530nmにおける蛍光検出値が増大することが明らかとなった。
【0050】
100mgの化合物3aを含むポリスチレン薄膜を用いた場合も、放射線を照射しない場合(0Gy)と比べて放射線を照射した試料は照射量に応じて蛍光値が増大した。図7に、ガンマ線を直接照射した薄膜の488nmで励起した場合の蛍光値の変化を示す。この結果はガンマ線照射によって閉環体(3b)が生成することを示している。
【0051】
シンチレーション材料BaFCl:Eu膜(東芝マテリアル製、TB−80)を2枚用いて化合物3aを含むポリスチレン薄膜を挟みガンマ線を照射した。ポリスチレン薄膜を取り出し、蛍光スペクトルを測定した結果を図8に示す。励起波長488nm、測定波長530nmで検出を行った。2Gyの比較において、BaFCl:Eu膜で取り囲むと蛍光値は4.89であり、同じ2Gyダイレクトに照射した値4.21と比べて約1.2倍蛍光強度が増大した。
【0052】
表2に、薄膜中における蛍光強度の変化の結果をまとめた。表2には化合物の添加量、照射量、放射条件、測定結果を示した。「ダイレクト」とは、ポリスチレン薄膜の周りに何も配置せずに膜にガンマ線を照射したことを示す。「BaFCl:Eu膜中」とは、2枚の東芝マテリアル製MB−80膜にポリスチレン薄膜を挟んで測定したことを示す。「BaFCl:Eu粉」とは、カプセルケースにBaFCl:Eu粉を約16g入れ、その粉の中にポリエチレンでシールしたポリスチレン薄膜を入れた状態でガンマ線を照射したことを示す。「CaWO粉」とは、カプセルケースにCaWOの粉を約15g入れ、その粉の中にポリエチレンでシールしたポリスチレン薄膜を入れた状態でガンマ線を照射したことを示す。CaWO粉を用いた場合においても、東芝マテリアルのBaFCl:Eu膜を用いた場合と同様に、蛍光強度の増大が認められた。
【0053】
【表2】
【0054】
溶液中の結果を示す図2図3図4、および、ポリスチレン薄膜の結果を示す図6から明らかなように、ガンマ線照射量に応じて蛍光強度が線形的に増大する。
つまり、本発明で用いた組成物は、ガンマ線照射量に応じて蛍光強度が増大する特徴を有する。したがって、本発明は照射線量を計測可能な放射線線量計として有用である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8