【実施例】
【0033】
以下に実施例を示す。本発明はこれらの実施例によって制限されない。
[参考例1]
ジアリールエテン2a、3a、および4aを、前述の非特許文献に記載の方法に準じて合成した。これらの化合物を、ヘキサン:酢酸エチル=8:2の混合溶媒を展開溶媒として、分取シリカゲルカラム(和光純薬工業株式会社製、Wakosil 5SIL)を用いて高速液体クロマトグラフィーにて精製した。次いで、トルエンとアセトンを用いて当該化合物の再結晶を行い、純粋な化合物2a、3a、および4aを得た。これらは無色の化合物であった。これらは、本発明で最も好ましい化合物である。すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
【0034】
【化4】
【0035】
得た化合物について、蛍光光度計(株式会社日立製作所製、F−2500)で蛍光特性を測定した。通常の1cmの蛍光セルに当該化合物の入った溶液を加え、L−42のバンドパスフィルターで励起光中に含まれる微量の紫外光を除去して測定を行った。溶媒として、トルエンと1,4−ジオキサンを用いた。トルエン溶液中の化合物2a、3aは、488nmおよび500nmの光励起で無蛍光であった。トルエン溶液中の化合物4aは550nmの光励起で無蛍光であった。1、4−ジオキサン溶液とした場合も、蛍光は観察されなかった。
【0036】
[実施例1]ジアリールエテン/溶媒組成物
化合物2a、3a、および4aのそれぞれ20mgをトルエン4mLに完全に溶解し、20mLのガラス瓶中に入れた。同様に化合物2a、3a、および4aのそれぞれ20mgを1,4−ジオキサンに完全に溶解し、20mLのガラス瓶中に入れた。大阪府立大学放射線研究所の第三照射室にて、この溶液にコバルト60のガンマ線を1時間かけて0.05Gy、0.1Gy、0.3Gy、0.5Gy、1Gy、1.5Gy、2Gy照射した。
また、化合物の量を2mgに変更したトルエンおよび1,4−ジオキサン溶液を同様に調製し、それぞれ20mLのガラス瓶中に入れた。当該ガラス瓶をアルミ箔で被覆して遮光した状態で、当該瓶に大阪府立大学の照射プールにてコバルト60ガンマ線を10Gy、100Gy照射した。
すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
【0037】
トルエン溶液中の化合物2aにガンマ線を照射すると、ガンマ線によって2aが2b(閉環体)に転化した。2bの生成は蛍光スペクトルの測定により488nmまたは500nmの光励起によって現れる蛍光により確認できる。この蛍光性物質が2bの化学構造を有することは、非特許文献3、4から明らかである。この結果を
図1に示す。トルエンの代わりに1、4−ジオキサンを用いた場合も、蛍光を発する2bの生成が確認できた。
【0038】
トルエン溶液中の化合物2aにガンマ線を照射した後、励起光488nmにおける蛍光スペクトルを測定した結果を
図1に示す。0.05Gyから蛍光値が変化し、ガンマ線照射量の増大に伴い蛍光値が増大した。530nmにて検出したときの蛍光強度を
図2に示す。放射線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0039】
トルエン溶液中の化合物3aについても同様の検討を行った。ガンマ線を照射した後、励起光488nmにおける蛍光スペクトルを530nmにて検出した結果を
図3に示す。0.05Gyで蛍光値が変化しガンマ線照射量の増大に伴い蛍光値が増大した。放射線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0040】
トルエン溶液中においてチオフェン環を置換基として有する化合物4aについても検討を行った。励起光を550nmとし、586nmにて検出したときの蛍光強度を
図4に示す。ガンマ線照射量増大に伴い蛍光強度が増大し、両者の関係は線形的に変化した。
【0041】
1,4−ジオキサン溶液中においても同様の測定を行った。これらの条件に基づく蛍光の測定値における数値の変化を表1にまとめた。
【0042】
【表1】
【0043】
ガンマ線照射量の最小照射限界は0.05Gyである。この照射量においても再現性良く蛍光値の変化が認められたことから、溶液中においてmGyレベルでの放射線線量の検出が可能であることが明らかとなった。また、表1において、化合物2aのトルエン溶液の入った容器の周りに、結晶状態の塩化セリウム・7水和物を配置し、1Gyのガンマ線を照射した。その結果、何も配置せず照射量を1Gyとした場合の蛍光値38.96と比べて、蛍光値が増大し放射線感度が若干向上した。塩化セリウム・7水和物は、ガンマ線を紫外線へと変換することから、放射線感受性を向上させる効果があることが明らかとなった。
【0044】
[実施例2]ジアリールエテン/ポリマー組成物
本例では、化合物2a〜4aを透明なポリスチレンHF−77(ポリスチレンジャパン株式会社製)に添加して薄膜を形成した。代表例として化合物2aを用いた場合の手順を示す。すべての作業は紫外線および波長が430nm未満の可視光線を遮蔽した環境下で行った。
950mgのポリスチレンHF−77と5mLのトルエンを蓋付きガラス瓶に入れ、HF−77を2日かけて膨潤させた。別の蓋付きガラスビンに50mgの化合物2aと5mLのトルエンを入れ、LED赤色灯下で溶解させた。当該トルエン溶液を前記の膨潤したポリスチレンの入ったガラス瓶に入れ、溶解させた。この後、テフロン(登録商標)製の薄膜形成器の中に溶液をすべて注いだ。アルミホイルと黒色のゴミ袋をかぶせ、暗所下で7日間乾燥した。この方法により、化合物2aを含む、厚さ約0.5mm、幅25mm、長さ75mmのHF−77ポリスチレン薄膜を調製した。この薄膜を3等分し、厚さ約0.5mm、幅25mm、長さ25mmの膜に分割した後、真空乾燥機にて室温で12時間乾燥した。
【0045】
当該薄膜を2枚のガラス板(100mm×100mm)に挟んだ。ガラス板の間にはスペーサーとして2枚の0.2mmアルミ板を配置した。ガラス板の上に0.8kgの銅板(100mm×100mm)を置き、その上に望遠鏡用バランスウエイト2.8kgを載せ、真空乾燥機中(10mmHg)で90分間140℃に加熱圧縮した。このようにして平らで透明なHF−77膜を作製した。放射線を照射する前にこの膜をスタイロカッターを用いて4等分し、約10mm×10mm、厚さ0.54mm程度の膜とした。
【0046】
化合物3a、4aを用いた場合も同様にして薄膜を作製した。ただし、化合物の量を100mgとし、かつ薄膜の寸法を約10mm×10mm、厚さ0.27mmとした。
【0047】
蛍光光度計(株式会社日立製作所製、F−2500)の膜測定用のユニットを用いて前記薄膜の蛍光特性を評価した。測定においてはL−42のバンドパスフィルターで励起光中に含まれる微量の紫外光を除去した。さらに、これらの薄膜をアルミ箔により遮光した缶に入れて放射線を照射した。大阪府立大学放射線研究所の第三照射室でコバルト60のガンマ線を1時間かけて0.5Gy、1Gy、1.5Gy、2Gy照射した。
【0048】
50mgの化合物2aを含むポリスチレン薄膜を用いた場合、放射線を照射しない場合(0Gy)と比べて放射線を照射した試料は照射量に応じて蛍光値が増大した。この結果は溶液を用いた実験と同様に、ポリマー薄膜中でもガンマ線照射によって閉環体(2b)が生成することを示している。
【0049】
シンチレーション材料BaFCl:Eu膜(東芝マテリアル製、TB−80)を2枚用いて、化合物2aを含むポリスチレン薄膜を挟みガンマ線を照射した。ポリスチレン薄膜を取り出し蛍光スペクトルを測定した結果を
図5に示す。励起波長488nm、測定波長530nmで検出を行った。1Gyの比較において、BaFCl:Eu膜で取り囲むと蛍光値は表2に示すように8.65であり、同じ1Gyダイレクトに照射した値2.46と比べて約3.5倍蛍光強度が増大した。この結果は、組成物をBaFCl:Eu等のシンチレーション材料で取り囲むことによって、ガンマ線照射量に応じて蛍光発光体の生成量がさらに増大することを示している。さらに、0.5Gyのガンマ線照射で蛍光値が変化した。
図6に示すようにガンマ線照射量の増大に伴い530nmにおける蛍光検出値が増大することが明らかとなった。
【0050】
100mgの化合物3aを含むポリスチレン薄膜を用いた場合も、放射線を照射しない場合(0Gy)と比べて放射線を照射した試料は照射量に応じて蛍光値が増大した。
図7に、ガンマ線を直接照射した薄膜の488nmで励起した場合の蛍光値の変化を示す。この結果はガンマ線照射によって閉環体(3b)が生成することを示している。
【0051】
シンチレーション材料BaFCl:Eu膜(東芝マテリアル製、TB−80)を2枚用いて化合物3aを含むポリスチレン薄膜を挟みガンマ線を照射した。ポリスチレン薄膜を取り出し、蛍光スペクトルを測定した結果を
図8に示す。励起波長488nm、測定波長530nmで検出を行った。2Gyの比較において、BaFCl:Eu膜で取り囲むと蛍光値は4.89であり、同じ2Gyダイレクトに照射した値4.21と比べて約1.2倍蛍光強度が増大した。
【0052】
表2に、薄膜中における蛍光強度の変化の結果をまとめた。表2には化合物の添加量、照射量、放射条件、測定結果を示した。「ダイレクト」とは、ポリスチレン薄膜の周りに何も配置せずに膜にガンマ線を照射したことを示す。「BaFCl:Eu膜中」とは、2枚の東芝マテリアル製MB−80膜にポリスチレン薄膜を挟んで測定したことを示す。「BaFCl:Eu粉」とは、カプセルケースにBaFCl:Eu粉を約16g入れ、その粉の中にポリエチレンでシールしたポリスチレン薄膜を入れた状態でガンマ線を照射したことを示す。「CaWO
4粉」とは、カプセルケースにCaWO
4の粉を約15g入れ、その粉の中にポリエチレンでシールしたポリスチレン薄膜を入れた状態でガンマ線を照射したことを示す。CaWO
4粉を用いた場合においても、東芝マテリアルのBaFCl:Eu膜を用いた場合と同様に、蛍光強度の増大が認められた。
【0053】
【表2】
【0054】
溶液中の結果を示す
図2、
図3、
図4、および、ポリスチレン薄膜の結果を示す
図6から明らかなように、ガンマ線照射量に応じて蛍光強度が線形的に増大する。
つまり、本発明で用いた組成物は、ガンマ線照射量に応じて蛍光強度が増大する特徴を有する。したがって、本発明は照射線量を計測可能な放射線線量計として有用である。