(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フッ素系有機化合物を含む被処理水に硫酸及び/又は電解硫酸を添加し、この被処理水に浸された陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、前記被処理水に含まれる硫酸を前記陽極にて酸化させ電解硫酸とすることを特徴とする請求項1又は2記載のフッ素系有機化合物の分解方法。
硫酸及び分解対象であるフッ素系有機化合物を含む被処理水を収容可能な槽と、前記被処理水が存在したときに、前記被処理水に浸るように設けられ電源に接続可能な陽極及び陰極と、前記被処理水に光を照射するための光照射手段と、を備え、
前記被処理水の存在時に前記陽極及び前記陰極の間に電圧を印加して前記陽極側にて硫酸を酸化させて電解硫酸を生じさせ、この電解硫酸の存在下で前記被処理水に光照射することで前記フッ素系有機化合物を分解させることを特徴とするフッ素系有機化合物の分解装置。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明のフッ素系有機化合物の分解方法の実施態様について説明する。本発明は、分解対象であるフッ素系有機化合物に対して、電解硫酸の存在下で光照射することを特徴とするフッ素系有機化合物の分解方法である。まずは、本発明のフッ素系有機化合物の分解方法の第一実施態様について述べる。
【0019】
一般にフッ素系有機化合物は、安定なフッ素−炭素結合を有する分子であるため、その分解には高温での処理が必要とされる。しかしながら、本発明の方法によれば、これらの化合物を特に高温を必要とすることなくフッ化物イオンや二酸化炭素等へ分解することができるので、分解のためのエネルギー消費を抑制することができる。本発明の方法において分解対象となるフッ素系有機化合物は、フッ素原子を含む化合物であり、このような化合物としては、フッ素化カルボン酸類、フッ素化スルホン酸類、フッ素化アルコール類等が挙げられる。これらの中でも、下記一般式(1)で表されるフッ素化カルボン酸類が好ましく挙げられる。
R
1C(O)OH (1)
【0020】
上記一般式(1)におけるR
1は、少なくとも1つのフッ素原子を含むアルキル基である。これらのアルキル基は、フッ素原子の他に、水素原子や、塩素原子等のハロゲン原子を含んでいてもよい。理解を助けるためにこのようなアルキル基の一例を示すとすれば、−CClF
2、−CCl
2F、−CHF
2、−CH
2F、−CBrF
2等を挙げることができる。アルキル基の炭素数は、特に制限ないが、一般的には1〜10である。
【0021】
フッ素化カルボン酸の好ましい態様としては、炭素原子とフッ素原子のみからなるアルキル基を備えたパーフルオロカルボン酸が挙げられる。このパーフルオロカルボン酸では、上記一般式(1)におけるR
1が全てフッ素化されたアルキル基となっており、通常、R
fC(O)OHで表される。このようなパーフルオロカルボン酸としては、トリフルオロ酢酸、ペンタフルオロプロピオン酸、パーフルオロ−n−オクタン酸等が挙げられるが、これらの中でもトリフルオロ酢酸が好ましく挙げられる。
【0022】
電解硫酸は、硫酸の水溶液を電気分解した際に酸化雰囲気となる陽極側で生成するものであり、硫酸が酸化されて生成したペルオキソ二硫酸、ペルオキソ一硫酸及び過酸化水素を含む。このような物質は、硫酸水溶液の電気分解という比較的容易な操作によって得ることができるので、例えば、半導体製造工程におけるレジスト除去や洗浄用として既に工業的に利用されている。
【0023】
電解硫酸を得るには、電気分解を行う電解反応槽の内部に硫酸水溶液を入れ、その硫酸水溶液中に陽極と陰極とを対向して配置し、両極の間にイオン透過性の隔膜を配置した上で電流を流せばよい。そうすると、陰極側では水が還元されて水素が生じるとともに、陽極側で硫酸及び水が酸化されて電解硫酸及び酸素が生じる。電気分解の対象である硫酸水溶液は上記の隔膜によって陽極側と陰極側とが隔てられているので、生成した電解硫酸は陽極側に留まり、陰極側へ移動して再び硫酸にまで還元されてしまうことが抑制される。電気分解を行ったのち(あるいは、電気分解を行いながら新たな硫酸水溶液を供給しながら連続的に)、電解硫酸を含む陽極側の溶液を採取し、これを本発明の方法における電解硫酸として用いればよい。なお、上記隔膜は、電解硫酸の生成される陽極液とそうでない陰極液との混合を抑制するとともに、上記のように電解硫酸が陰極側で還元されるのを抑制して電解硫酸を高濃度化させるのを容易にしたり、陰極ガス(水素)を空気や陽極ガス(酸素)から分離して安全性を高めたりするのを助けるので、電解硫酸の生成においてこれが存在するのが好ましい。しかし、隔膜の存在は必須ではなく、これが無くても電解硫酸を生成させることは可能である。
【0024】
陽極及び陰極として用いられる電極は、硫酸による腐食や陽極における酸化に耐えるものであればよく、白金電極や導電性ダイヤモンド電極(ホウ素ドープダイヤモンド電極)等が挙げられる。これらの中でも、電気分解の際に良好な酸化力を発現し、電解硫酸の生成効率を向上させることができるとの観点からは導電性ダイヤモンド電極が好ましく選択される。両極間の電流密度は、種々の条件を勘案して適宜選択されればよいが、電極面積を基準として10A/dm
2〜200A/dm
2程度を挙げることができる。また、陽極側の溶液(陽極液)及び陰極側の溶液(陰極液)をそれぞれ外部の槽と循環させる機構を設けることにより、小さい電解槽によって大量の硫酸水溶液を電解処理することができるので好ましい。
【0025】
電気分解に用いる硫酸水溶液の濃度としては、特に限定されないが、1〜12mol/Lを挙げることができ、2〜9mol/Lを好ましく挙げることができ、3〜7mol/Lをより好ましく挙げることができる。硫酸水溶液を調製するには、市販の濃硫酸(98%、18mol/L)を純粋で希釈し、所望の濃度とすればよい。なお、電解硫酸として用いられるのは陽極液であり、陰極液は陰極にて水の還元反応を生じさせるものであれば足りるので、陰極液については電流を流すことのできる(すなわちイオンを含む)ものであれば特に限定されない。また、陰極液として硫酸水溶液を用いる場合には、硫酸の濃度が陽極液と陰極液との間で異なってもよい。
【0026】
特に限定されないが、理解を助けるために電解硫酸を調製する際の条件の一例を下記に示す。なお、下記の条件は、電解面積1.000dm
2の導電性ダイヤモンド電極(ホウ素ドープダイヤモンド電極)を陽極及び陰極に用いた隔膜付き電解反応槽を用いて、陽極液及び陰極液をそれぞれ外部と循環させながら硫酸水溶液を電気分解する場合のものである。
・セル電流:100A
・電流密度:100A/dm
2
・硫酸濃度:7.12mol/L(陽極液、陰極液とも同じ)
・陽極液量:300mL
・陰極液量:300mL
・液温度:28℃
・陽極液流量:1L/min
・陰極液流量:1L/min
・隔膜:住友電工ファインポリマー株式会社製、ポアフロン(登録商標)
【0027】
既に述べたように、電解硫酸には、ペルオキソ二硫酸又はペルオキソ二硫酸イオン、ペルオキソ一硫酸又はペルオキソ一硫酸イオン、及び過酸化水素が含まれる。これらの化学種を含む電解硫酸の溶液にフッ素系有機化合物を加え、次いで光照射することでフッ素系有機化合物が分解される。
【0028】
電解硫酸に含まれるペルオキソ二硫酸は、過硫酸とも呼ばれ、化学式H
2S
2O
8で表される。また、これがイオンになったペルオキソ二硫酸イオンは、過硫酸イオンとも呼ばれ、化学式S
2O
82−で表される。ペルオキソ二硫酸及びペルオキソ二硫酸イオンは、イオンになっていないかいるかの違いであり、光照射の際にフッ素系有機化合物を分解する挙動はいずれも共通である。そのため、以下の説明では、ペルオキソ二硫酸イオンの挙動を主として説明する。イオンでないペルオキソ二硫酸の場合は、それから生じる各化学種がイオンになっていない点のみが異なるので、下記の説明を適宜読み替えて理解することができる。
【0029】
ペルオキソ二硫酸イオンは、光照射を受けるとそれに含まれるO−O結合が開裂し、化学式SO
4−・で表される硫酸イオンラジカルになってフッ素系有機化合物を分解する。電解硫酸中のペルオキソ二硫酸イオン及びペルオキソ二硫酸の含有量としては、特に制限はないが、フッ素系有機化合物の1質量部に対して0.5質量部以上であることを好ましく挙げられ、フッ素系有機化合物の1質量部に対して3質量部以上であることをより好ましく挙げることができる。電解硫酸中のペルオキソ二硫酸イオンの含有量は、例えばATR(減衰全反射)−IR分光法により求めることができる。
【0030】
光照射に用いる光の波長は、320nm以下が好ましく挙げられ、240〜260nmがより好ましく挙げられる。光照射量としては、数mW/cm
2程度以上が好ましい。光照射に用いる光源としては、水銀キセノンランプ、殺菌ランプ(低圧水銀灯)、高圧水銀灯、メタルハライドランプ等を挙げることができる。また、光照射時間は、数時間〜1日程度が好ましい。光照射を行っているときの溶液温度(すなわち反応温度)は、0〜90℃が好ましく、10〜30℃程度がより好ましい。
【0031】
本発明の方法におけるフッ素系有機化合物の分解反応機構は、必ずしも明らかではないが、ペルオキソ二硫酸イオンが光照射されて生成した硫酸イオンラジカルが、フッ素系有機化合物と反応することにより開始されるものと推察される。以下に、パーフルオロカルボン酸の分解を例として、推察される反応機構を説明する。
【0032】
光照射によりペルオキソ二硫酸イオンから生成した硫酸イオンラジカルは、まず、パーフルオロカルボン酸を下記式のように酸化するものと考えられる。このように推察される理由は、反応の進行に伴って反応系内の硫酸イオン濃度や二酸化炭素濃度の上昇が観察されるためである。なお、下記式において、R
fはパーフルオロアルキル基を意味する。
R
fC(O)O
−+SO
4−・ → ・R
f+CO
2+SO
42−
【0033】
上記式のように、パーフルオロカルボン酸が一旦R
fラジカルまで分解されると、不安定なR
fラジカルは、溶液中にて容易に酸化反応を生じ、フッ素−炭素結合が切断されてフッ化物イオン等にまで分解されるものと推察される。この酸化反応に用いられる化学種としては、溶液中に溶存する酸素や電解硫酸に含まれる過酸化水素等が考えられる。以下に、トリフルオロメチルラジカル(・CF
3;トリフルオロ酢酸が上記反応で分解されて生成する。)がフッ化物イオンと二酸化炭素まで分解される反応機構を示す。
【0034】
・CF
3+O
2 → CF
3O
2・
CF
3O
2・+HO
2・ → CF
3O
2H+O
2
CF
3O
2H → CF
3O・+・OH
CF
3O・+HO
2・ → CF
3OH+O
2
CF
3OH → COF
2+HF
COF
2+H
2O → CO
2+2HF
【0035】
上記の一連の反応から理解されるように、溶液中に含まれていたパーフルオロカルボン酸は、同じく溶液中に含まれていた電解硫酸が光照射されて生じた硫酸イオンラジカル等により二酸化炭素とフッ化物イオンにまで分解され、無機化される。
【0036】
なお、上記反応機構によれば、ペルオキソ二硫酸イオンから生じた硫酸イオンラジカルが一連の分解反応における最初の反応を担っており、電解硫酸に含まれるペルオキソ二硫酸がフッ素系有機化合物の分解反応の中心的な役割を担っているということができる。しかしながら、例えばペルオキソ二硫酸カリウム(K
2S
2O
8)及び精製水を原料として、電解硫酸と同濃度のペルオキソ二硫酸イオンを含有する水溶液を調製し、この水溶液と電解硫酸との間で光照射した際のフッ素系有機化合物の分解速度を比較してみると、意外にも、ペルオキソ二硫酸イオンの濃度が互いに同じであるにもかかわらず、電解硫酸を用いた場合の方が分解反応の速度が大きくなった。このような結果となる理由は、必ずしも明らかでないが、ペルオキソ二硫酸イオンとともに電解硫酸中に含まれるペルオキソ一硫酸イオン等の化学種が、ペルオキソ二硫酸イオンと間で何らかの相乗効果をもたらしてそのような結果に繋がった可能性がある。本発明はこのような知見によりなされたものであり、フッ素系有機化合物の光分解に際して、特に電解硫酸を用いる点に特徴を有する。なお、電解硫酸に加えて、ペルオキソ二硫酸カリウムのようなペルオキソ二硫酸塩を併用して本発明を実施してもよい。
【0037】
本発明の第一実施態様についてより具体的な例をさらに説明する。
まず、ステンレス製の反応容器の内部に、フッ素系有機化合物を含む水溶液と電解硫酸とを入れる。この反応容器は温度調節用の水浴に入っており、容器内で温度調整用の液体を循環させることで、反応容器の内部に存在する反応溶液の温度が10〜30℃(より具体的には25℃)程度に維持される。反応容器の上部にはサファイヤ製の窓があり、反応溶液はこの窓を通して光源から光照射を受けることになる。光源は、紫外・可視光(220nm〜460nm)を発する水銀キセノンランプを発光体として備えるが、波長320nm以下の紫外線を含むものならば発光体は特に限定されない。反応系内はアルゴンガスで満たすことが望ましいが、空気、窒素ガス等の気体で反応系内を満たしてもよい。
【0038】
次いで、光源における発光体を発光させ、反応溶液に光を照射する。この状態で数時間〜1日程度光照射を続け、フッ素系有機化合物の分解を確認する。
【0039】
次に、本発明のフッ素系有機化合物の分解方法の第二実施態様について説明する。本実施態様の説明では、上記第一実施態様と異なる点を中心に説明し、既に説明した内容と同様な説明については適宜省略する。
【0040】
上記第一実施態様では、予め調製しておいた電解硫酸を用いて、光照射下でのフッ素系有機化合物の分解を行ったが、本実施態様では、フッ素系有機化合物を含む被処理水に硫酸及び/又は電解硫酸を添加しておき、これを電気分解して電解硫酸を発生させながら被処理液に光照射を行ってフッ素系有機化合物を分解する。上記硫酸には、硫酸イオンを供給することのできる硫酸塩等の化合物が含まれる。
【0041】
既に説明したように、電解硫酸に含まれるペルオキソ二硫酸イオンが光照射によって硫酸イオンラジカル(SO
4−)に転換され、この硫酸イオンラジカルは、被処理液中に含まれるフッ素系有機化合物の分解に用いられた際に硫酸イオン(SO
42−)となってその分解能力を失う。したがって、上記第一実施態様では、最初に添加された電解硫酸がフッ素系有機化合物の分解反応で用い尽くされると、その時点でそれ以上の分解を行うことができなくなる。しかしながら、本実施態様のように、被処理液を電気分解しながら上記分解処理を行うと、フッ素系有機化合物の分解によって生じた硫酸イオンが再び陽極で酸化され電解硫酸として再生されるので、分解対象であるフッ素系有機化合物を反応槽に追加しながら連続的に分解を行うことも可能になる。
【0042】
すなわち、本実施態様では、上記第一実施態様で説明した要素に加えて、分解対象であるフッ素系有機化合物を含む被処理水に硫酸及び/又は電解硫酸を添加し、この被処理水に浸された陽極と陰極との間に電圧を印加することによって、被処理水に含まれる硫酸を陽極にて酸化して電解硫酸とすることを特徴とする。第一実施態様では電解硫酸を被処理水に添加したが、本実施態様では被処理水を電気分解するための陽極と陰極とを備えるので、電解硫酸に代えて硫酸を添加してもよい。被処理水に添加された硫酸や、分解反応の進行に伴って電解硫酸から生成した硫酸は、陽極にて酸化されて再び電解硫酸となる。勿論、第一実施態様と同様に、最初に被処理水に対して電解硫酸を添加しても差しつかえない。
【0043】
陽極及び陰極の材質、並びに両極間に電圧を印加する際の電流密度等の条件については、第一実施態様で説明した電解硫酸の生成におけるものと同様である。また、被処理水を照射するのに用いる光についても第一実施態様と同様のものを用いることができる。第一実施態様と同様に、陽極と陰極との間にはイオン透過性の隔膜が設けられ、電気分解のための電流を確保しながら陽極液と陰極液との間の液体の流通を抑制する。このとき、電解硫酸は陽極側に生じるので、陽極側に存在する陽極液中へ分解対象であるフッ素系有機化合物を導入する。
【0044】
なお、上記陽極及び陰極が設置された電解反応槽にて電気分解を行いつつ、この電解反応槽の陽極液である被処理水に光照射を行ってフッ素系有機化合物を分解してもよいし、電解反応槽の陽極液である被処理水を、ポンプ等の移送手段により、光照射のための光源を備えた分解槽と上記電解反応槽との間で循環させてもよい。前者の場合は、電気分解とフッ素系有機化合物の分解とを同じ槽で行うことになり、後者の場合は、電気分解とフッ素系有機化合物の分解とを異なる槽で行うことになる。本実施態様における方法は、いずれの方法で行ってもよい。
【0045】
本発明の分解方法によれば、電解硫酸の存在下で光照射をすることで、化学的に安定なフッ素−炭素結合を備えた難分解性のフッ素系有機化合物を分解することが可能である。この方法であれば、高温での焼却を行うことなく難分解性のフッ素系有機化合物を分解することができるので、分解に要するエネルギーを低減させることが可能になる。
【0046】
上記の分解方法を実施するのに適したフッ素系有機化合物の分解装置(以下、単に分解装置とも呼ぶ。)も本発明の一つである。この分解装置は、上記の反応原理に基づいたものであり、フッ素系有機化合物の分解に用いられる。この分解装置は、硫酸及び分解対象であるフッ素系有機化合物を含む被処理水を収容可能な槽と、被処理水が存在したときに、その被処理水に浸るように設けられ電源に接続可能な陽極及び陰極と、上記被処理水に光を照射するための光照射手段を備える。そして、この装置では、上記被処理水の存在時に上記陽極及び陰極の間に電圧を印加することで陽極側にて硫酸を酸化させて電解硫酸を生じさせ、この電解硫酸の存在下で上記被処理水に光照射することで、分解対象であるフッ素系有機化合物を分解させる。次に、このような本発明の分解装置の実施形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の分解装置の第一実施形態を示す模式図である。
図2は、本発明の第二実施形態を示す模式図である。なお、本発明における「硫酸」には、硫酸のみならず、硫酸イオンを供給することのできる硫酸塩も含まれる。以下の説明において、電気分解の条件、分解における反応機構、用いられる各材料等の説明については既に述べたものと同様であるのでこれらの説明を省略し、分解装置の機構を中心に説明を行う。
【0047】
まずは、本発明の分解装置の第一実施形態(分解装置1)について
図1を参照しながら説明する。分解装置1は、電解反応槽2と、陽極3と、陰極4と、陽極3及び陰極4に電圧を印加する電源7と、電解反応槽2の内部に存在する被処理水に光を照射するための光照射手段6と、を備える。
【0048】
電解反応槽2には、隔膜10を挟んで陽極3と陰極4とが対向して配置される。隔膜10、陽極3及び陰極4については既に説明した通りである。隔膜10は、電解反応槽2の内部を二分しており、その陽極3の側には陽極液51が陽極3を浸すように収容され、その陰極4の側には陰極液52が陰極4を浸すように収容されている。陽極液51には硫酸が含まれ、既に述べたように、この硫酸が電気分解により酸化されて電解硫酸となる。陽極液51は、分解対象となるフッ素系有機化合物を含む被処理水である。陰極液52は、電気分解のための電流を流すことのできる電解液であればよく、陽極液51と同様に硫酸を含むものでもよいし、その他のイオン成分を含むものでもよい。
【0049】
陽極3及び陰極4は、それぞれ電源7の正極(図示せず)及び負極(図示せず)に電気的に接続される。そして、電源7は、電気分解のための電圧を陽極4及び陰極5へ印加する。この電気分解により、陽極液51にて硫酸が酸化され電解硫酸を生じる。
【0050】
光源6は、被処理水である陽極液51に光照射を行うための装置である。光源6からは、既に述べたように、320nm以下の波長の光が照射され、この光が陽極液51に含まれる電解硫酸(特にペルオキソ二硫酸)から硫酸イオンラジカルを生成させる。この硫酸イオンラジカルによりフッ素系有機化合物が分解されることについては、既に述べた通りである。
【0051】
次に、本発明の分解装置の第二実施形態(分解装置1A)について
図2を参照しながら説明する。なお、第二実施形態の説明では、上記第一実施形態と重複する箇所には同一の符号を付し、その箇所の説明を省略する。
【0052】
分解装置1Aは、電気分解を行う電解反応槽2と、光源6からの光照射によりフッ素系有機化合物の分解を行う分解槽8とが別々の構成となっている点で上記分解装置1と異なる。したがって、光源6は、電解反応槽2ではなく分解槽8に設けられる。電解反応槽2にて電気分解を受けた陽極液51は、ポンプ93を備えた往路ライン91を経由して分解槽8へ移送されて光源6からの光照射を受け、その後、ポンプ94を備えた復路ライン92を経由して再度電解反応槽2の陽極3の側へ戻される。この過程で、電気分解により硫酸から転換された電解硫酸は、分解槽8にて硫酸ラジカルを経て硫酸に転換され、硫酸の状態で再度電解反応槽2の陽極3へ戻されて電気分解を受ける。このように、本実施形態の分解装置1Aでは、電解硫酸又は硫酸が電解反応槽2及び分解槽8の間を循環する点で上記第一実施形態の分解装置1と異なるが、電気分解で生成させた電解硫酸を光照射によって硫酸ラジカルに転換させ、これをフッ素系有機化合物の分解に用いるという本質部分はいずれも同じである。
【実施例】
【0053】
以下、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0054】
電解面積1dm
2の導電性ダイヤモンド電極(ホウ素ドープダイヤモンド電極)を陽極及び陰極として、カチオン交換膜であるイオン交換膜(日本ゴア株式会社製、ゴアセレクト(登録商標))を隔膜としてそれぞれ備えた電解反応槽(電解セル)を用いて、陽極液及び陰極液をそれぞれ独立した外部の循環経路へ循環させながら、電流密度50A/dm
2、液温度30℃の条件にて硫酸水溶液を電気分解し、陽極液を回収することで電解硫酸を調製した。原料となる陽極液及び陰極液はいずれも7.12mol/Lの硫酸水溶液とし、それぞれ300mLを用いて電気分解を行った。電気分解後、総酸化性物質濃度1.1mol/Lを含む硫酸濃度3.7mol/Lの陽極液が得られた。これを純水にて20倍希釈し、総酸化性物質濃度53mmol/L、硫酸濃度1.5wt%の電解硫酸溶液を得た。なお、総酸化性物質濃度とは、ヨウ化カリウム法から得られる酸化性物質濃度をペルオキソ二硫酸濃度に換算した値である。
【0055】
上記で得られた電解硫酸に含まれるS
2O
82−及びH
2O
2の濃度をATR(減衰全反射)−IR分光法及びTi−ポルフィリン法で測定したところ、この電解硫酸がS
2O
82−及びH
2O
2をそれぞれ31mM及び0.58mM含んでいることがわかった。この電解硫酸を用いて、後述するトリフルオロ酢酸の分解実験を行った。なお、Ti−ポルフィリン法は、過酸化水素の吸光光度定量法の一つであり、過酸化水素がTi−ポルフィリンの中心金属であるチタンに配位したときに、432nmにおける吸光度の変化を観察することで溶液中の過酸化水素濃度を定量するものである。このとき、過酸化水素1Mあたりの吸光度(432nm)の変化量は190,000M
−1cm
−1とされるので、測定で得られた吸光度の変化量を左記の数値で除して過酸化水素の濃度を求めることができる。この測定で用いられるTi−ポルフィリン試薬は、例えば東京化成工業株式会社から入手することができる。
【0056】
[実施例1]
上記の電解硫酸20mLにトリフルオロ酢酸(107.1μmol、5.35mM)を添加してから反応容器に入れ、この反応容器の内部を酸素ガスで0.5MPaまで加圧した後、撹拌しながら水銀キセノンランプから紫外及び可視光(220〜460nm)を照射した。このとき、反応容器内の溶液温度を25℃とした。光照射開始から1時間ごとに、反応溶液をイオンクロマトグラフィー及びイオン排除クロマトグラフィーで分析してトリフルオロ酢酸(TFA)及びフッ化物イオン(F
−)濃度を算出し、反応容器内の気相をガスクロマトグラフィーで分析して二酸化炭素(CO
2)の濃度を求めた。横軸を光照射時間、縦軸を各化学種の濃度としてこれらのデータをプロットした結果を
図3に示す。
【0057】
図3に示すように、電解硫酸の存在下で光照射を行うと、トリフルオロ酢酸の濃度は擬一次反応速度式に従って減少し(k=0.567h
−1)、6時間の光照射を行った後には検出限界以下となった。その一方で、光照射時間の増加に伴って二酸化炭素及びフッ化物イオンの濃度は増加し、トリフルオロ酢酸が二酸化炭素及びフッ化物イオンにまで分解されて無機化されたことがわかった。光照射6時間経過後のフッ化物イオン及び二酸化炭素の収率は、それぞれ85.1%及び84.1%だった。
【0058】
[実施例2]
電解硫酸の存在下で光照射してトリフルオロ酢酸を分解させた際の量子収率を求めるために、光源を254nmの単色光としたこと以外は実施例1と同様の手順で、トリフルオロ酢酸の濃度変化を観察した。その結果、トリフルオロ酢酸の減少速度は8.89×10
−8mol/minと算出された。このときの反応溶液に吸収された光量は4.30einstein/minだったので、トリフルオロ酢酸の分解における量子収率は0.21(=8.89×10
−8/4.30×10
−7)だった。
【0059】
[比較例1]
電解硫酸を用いる代わりに、上記電解硫酸中のペルオキソ二硫酸イオン(S
2O
82−)と同濃度のペルオキソ二硫酸カリウム(K
2S
2O
8)水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で光照射を行い、時間の経過に伴うトリフルオロ酢酸、フッ化物イオン及び二酸化炭素濃度の変化を求めた。横軸を光照射時間、縦軸を各化学種の濃度としてこれらのデータをプロットした結果を
図4に示す。
【0060】
図4に示すように、ペルオキソ二硫酸カリウム水溶液を用いた場合にもトリフルオロ酢酸の濃度は擬一次反応速度式に従って減少したが、その速度定数は実施例1(すなわち電解硫酸を用いた場合)よりも低かった(k=0.292h
−1)。
【0061】
[比較例2]
電解硫酸を用いる代わりに、上記電解硫酸中の過酸化水素(H
2O
2)と同濃度の過酸化水素水溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様の手順で光照射を行った。しかしながら、トリフルオロ酢酸は全く分解されなかった。
【0062】
以上の結果から、電解硫酸を用いた場合にペルオキソ二硫酸カリウムの水溶液を用いた場合よりも反応速度が速くなったのは、電解硫酸中に含まれるペルオキソ一硫酸イオン(HSO
5−)に起因するものであり、これが何らかの作用をもたらしたためと推測される。これらの結果から、本発明の方法によれば、新しく、効率の良いフッ素系有機化合物の分解方法が提供されることが理解される。