【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成23年度、財団法人福岡県産業・科学技術振興財団「構造を制御した機能性炭素を利用する蓄電デバイスの開発」委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記充放電工程と吸蔵工程との間に、蓄電デバイス用セル内の非水電解液の少なくとも一部を入れ替える入れ替え工程をさらに含むことを特徴とする請求項1に記載の蓄電デバイスの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施の一形態について、以下に詳細に説明する。本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。尚、本明細書においては特記しない限り、数値範囲を表す「A〜B」は、「A以上、B以下」を意味する。
【0014】
<A.蓄電デバイス>
本発明に係る蓄電デバイスは、貫通孔を有する正極集電体上に形成された、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を正極活物質として含む正極と、貫通孔を有する負極集電体上に形成された、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する、炭素質材料、リチウムを吸蔵する金属材料および合金材料からなる群から選ばれる一種以上の材料を負極活物質として含む負極と、リチウム塩を含む非水電解液と、を有する蓄電デバイスである。当該蓄電デバイスは、正極および負極を隔てるセパレータや、電極部、外装部材等をさらに有している。以下、これら各種構成要件について説明する。
【0015】
<1.正極>
<1−1.正極が含む炭素質材料>
前記正極が含む正極活物質としての炭素質材料は、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料であって、下記(i),(ii)の何れかを満足する炭素質材料が好ましい。
(i) (002)面に非晶質部が複数個分散しており、前記非晶質部の平均面積が1.5nm
2以上である炭素質材料、または、
(ii) (002)面に非晶質部が複数個分散しており、前記(002)面内における前記非晶質部の総面積の、(002)面内における前記非晶質部および結晶質部の面積の合計に対する割合が、30%以上である炭素質材料。
【0016】
例えば、前記(i)の炭素質材料は、層状構造を有する炭素質材料の(002)面に適切な面積の非晶質部が複数個分散しているため、アニオンの挿入、脱離サイトを増大させることができる。しかもこれら非晶質部は、放電後も残存している。従って、この炭素質材料を蓄電デバイスの電極として用いた場合には、炭素質材料の非晶質部に電解質のイオンが優先的にかつ容易に挿入、脱離するため、炭素質材料における挿入、脱離量を増大させることができ、蓄電デバイスの放電容量を向上させることができる。
【0017】
また、前記(ii)の炭素質材料であれば、層状構造を有する炭素質材料の(002)面に適切な割合の非晶質部が複数個分散し、その面積割合が30%以上にも達しているため、電解質のアニオンの挿入、脱離サイトを増大させることができる。そしてこの非晶質部は、放電後も残存している。従って、この炭素質材料を蓄電デバイスの電極として用いた場合には、炭素質材料の非晶質部に電解質のアニオンが優先的にかつ容易に挿入、脱離するため、炭素質材料における挿入、脱離量を増大させることができ、蓄電デバイスの放電容量を向上させることができる。
【0018】
前記(i),(ii)の何れかを満足する炭素質材料としては、グラファイト(市販品)が好ましい。グラファイトは(002)面に層状構造を有する。ここで、「(002)面」とは、X線回折で測定される炭素002面(黒鉛層と水平な面)を指す。
【0019】
尚、正極が含む層状構造を有する炭素質材料としては、グラファイトが好ましいものの、グラファイトに限らず、層状構造を有する炭素質材料であって前記(i),(ii)の何れかを満足する炭素質材料であれば好適に用いることができる。例えば、前記炭素質材料として、特開2010−254537号公報に記載の炭素質材料を利用することもできる。本発明においては、前記正極が含む炭素質材料として、蓄電デバイス用セルを作製する前に予め充放電処理がなされている炭素質材料を用いる必要は無い。
【0020】
<1−2.正極の製造方法>
正極は、貫通孔を有する正極集電体上に前記炭素質材料を塗布することによって形成することができる。具体的には、正極集電体としての電極板における負極と対向する表面(片面または両面)に前記炭素質材料を塗布し、当該表面を被覆することによって正極を形成することができる。
【0021】
前記電極板としては、表裏面を貫通する貫通孔を有するアルミニウム板が好ましく、具体的には、厚さ10〜40μmで開口率20〜40%の多孔アルミニウム箔(市販品)がより好ましい。尚、正極集電体としては、アルミニウム板に限らず、リチウムイオン電池の正極用電極板として使用可能な、表裏面を貫通する貫通孔を有する金属板であれば好適に用いることができる。
【0022】
電極板の表面を前記炭素質材料で被覆する方法としては、例えば、バインダを溶解させた溶媒に、炭素質材料と必要に応じて導電助材とを分散させてなる分散液(スラリー)を調製し、この分散液をドクターブレード等の塗工機(横型塗工機並びに縦型塗工機)を用いて電極板の表面に塗布した後、溶媒を乾燥(揮発)させる方法が好適である。尚、電極板の表面を前記炭素質材料で被覆する方法としては、前記方法に限らず、公知の方法を好適に採用することができる。また、乾燥後の炭素質材料の厚さ、即ち、正極の厚さ(片面)は、当該正極の大きさ(面積)等に応じて適宜設定すればよいが、30〜150μmが好ましく、50〜90μmがより好ましい。
【0023】
前記バインダとしては、カルボキシメチルセルロースとSBRゴムとの混合物、ポリフッ化ビニルデン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。正極中に含まれるバインダの量は、1〜20重量%が好ましい。
【0024】
前記溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、水等が好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0025】
<2.負極>
<2−1.負極が含む炭素質材料等の材料>
前記負極が含む負極活物質としての炭素質材料は、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料である。負極が含む炭素質材料としては、グラファイト、難黒鉛性カーボン、天然黒鉛、人造黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、活性炭等が好ましく、グラファイト、難黒鉛性カーボンまたは人造黒鉛がより好ましい。
【0026】
尚、負極が含む層状構造を有する炭素質材料としては、前記例示の炭素質材料に限らず、層状構造を有する炭素質材料であって、リチウムイオンを挿入、脱離し得る炭素質材料であれば好適に用いることができる。例えば、前記炭素質材料として、特開2009−260187号公報に記載の炭素質材料を利用することもできる。本発明においては、前記負極が含む炭素質材料として、蓄電デバイス用セルを作製する前に予めリチウムイオンの吸蔵処理(リチウムのプレドープ)がなされている炭素質材料を用いる必要は無い。
【0027】
また、炭素質材料に替えて、リチウムを吸蔵する金属材料或いは合金材料を用いることもできる。つまり、負極が含む負極活物質としては、炭素質材料、リチウムを吸蔵する金属材料および合金材料からなる群から選ばれる一種以上の材料が挙げられる。
【0028】
前記リチウムを吸蔵する金属材料としては、シリコン、錫、ゲルマニウム、鉛、アンチモン、アルミニウム、インジウム、亜鉛、ビスマス等が挙げられる。また、前記リチウムを吸蔵する合金材料としては、シリコン合金や錫合金が挙げられる。シリコン合金としては、シリコンに、鉄、コバルト、アンチモン、ビスマス、鉛、ニッケル、銅、亜鉛、ゲルマニウム、インジウム、錫およびチタンからなる群から選ばれる少なくとも1つの異種元素が含有された合金が挙げられる。錫合金としては、錫に、ニッケル、マグネシウム、鉄、銅およびチタンからなる群から選ばれる少なくとも1つの異種元素が含有された合金が挙げられる。
【0029】
以下、便宜上、「炭素質材料、リチウムを吸蔵する金属材料および合金材料からなる群から選ばれる一種以上の材料」として、「炭素質材料」を挙げて説明することとする。
【0030】
<2−2.負極の製造方法>
負極は、貫通孔を有する負極集電体上に前記炭素質材料を塗布することによって形成することができる。具体的には、負極集電体としての電極板における正極と対向する表面(片面または両面)に前記炭素質材料を塗布し、当該表面を被覆することによって負極を形成することができる。
【0031】
前記電極板としては、表裏面を貫通する貫通孔を有する銅板が好ましく、具体的には、厚さ10〜40μmで開口率20〜40%の多孔銅箔(市販品)がより好ましい。尚、負極集電体としては、銅板に限らず、リチウムイオン電池の負極用電極板として使用可能な、表裏面を貫通する貫通孔を有する金属板であれば好適に用いることができる。
【0032】
電極板の表面を前記炭素質材料で被覆する方法としては、例えば、バインダを溶解させた溶媒に、炭素質材料と必要に応じて導電助材とを分散させてなる分散液(スラリー)を調製し、この分散液をドクターブレード等の塗工機(横型塗工機または縦型塗工機)を用いて電極板の表面に塗布した後、溶媒を乾燥(揮発)させる方法が好適である。尚、電極板の表面を前記炭素質材料で被覆する方法としては、前記方法に限らず、公知の方法を好適に採用することができる。また、乾燥後の炭素質材料の厚さ、即ち、負極の厚さ(片面)は、当該負極の大きさ(面積)等に応じて適宜設定すればよいが、30〜150μmが好ましく、50〜90μmがより好ましい。
【0033】
前記バインダとしては、カルボキシメチルセルロースとSBRゴムとの混合物、ポリフッ化ビニルデン、ポリアミドイミド、ポリイミド、ポリテトラフルオロエチレン等が好ましく、ポリフッ化ビニリデンがより好ましい。負極中に含まれるバインダの量は、1〜20重量%が好ましい。
【0034】
前記溶媒としては、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチル−2−ピロリドン、水等が好ましく、N−メチル−2−ピロリドンがより好ましい。
【0035】
<3.非水電解液>
前記非水電解液は、電解質としてリチウム塩を含む。つまり、前記非水電解液は、有機溶媒に溶解された電解質(溶質)としてのリチウム塩を含む有機電解液である。非水電解液は、必要に応じてリチウム塩以外の他の電解質を含んでいてもよい。
【0036】
前記リチウム塩としては、LiPF
6、LiBF
4、LiCIO
4、LiN(CF
3SO
2)
2、LiN(SO
2C
2F
5)
2、LiCF
3SO
3、LiC(SO
2CF
3)
3、LiAsF
6、およびLiSbF
6からなる群から選ばれる一種以上の塩が好ましく、LiPF
6がより好ましい。また、非水電解液におけるリチウム塩の濃度(電解質濃度)は、より高い方が望ましく、具体的には、0.5〜5.0mol/L(0.5〜5.0M)が好ましく、1.0〜1.5mol/Lがより好ましい。
【0037】
前記有機溶媒としては、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、スルホラン、ジメトキシエタン等が好ましい。これら有機溶媒は、単独溶媒として用いてもよく、二種以上の混合溶媒として用いてもよい。混合溶媒としては、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとの混合溶媒が好ましく、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを重量比1:1で混合してなる混合溶媒がより好ましい。
【0038】
尚、前記リチウム塩および有機溶媒として、前記例示の化合物以外の、公知のリチウム塩および有機溶媒を用いることもできる(前記例示の化合物以外の化合物を用いることを制限しない)。
【0039】
<4.その他の構成>
蓄電デバイスにおいて前記正極および負極を隔てるセパレータとしては、セルロース系、或いはポリエチレン等のポリオレフィン系等の重合体からなる多孔質の膜が好ましく、セルロース系の重合体からなる多孔質の膜がより好ましい。
【0040】
蓄電デバイスにおいて前記正極および負極を外部に導出する外部取り出し電極である電極部としては、公知の電極部を用いることができる。
【0041】
蓄電デバイスにおいてセル(蓄電デバイス用セル)を構成する外装部材としては、アルミニウムからなるラミネートフィルムが好ましい。従って、蓄電デバイスのセルは、アルミニウムからなるラミネート外装であることが好ましい。
【0042】
尚、前記セパレータおよび外装部材として、前記例示の物質以外の、公知のセパレータおよび外装部材を用いることもできる(前記例示の物質以外の物質を用いることを制限しない)。
【0043】
そして、本発明に係る蓄電デバイスは、その作製時に、外装部材で外装が構成される蓄電デバイス用セル内において、セパレータを介して前記正極および負極を積層してなる積層体に隣接して配置される、リチウムイオン供給源をさらに有している。つまり、本発明に係る蓄電デバイスは、その作製時に、金属リチウムが蓄電デバイス用セル内に配置されている。前記リチウムイオン供給源は、金属リチウムが圧着若しくは貼り合わされた銅箔(市販品)やニッケル箔等の金属箔である。リチウムイオン供給源は、前記金属箔からなる金属リチウム電極を外部に導出する外部取り出し電極である電極部を有している。リチウムイオン供給源は、正極および負極と直接、接触しないように蓄電デバイス用セル内に配置される。尚、リチウムイオン供給源は、蓄電デバイス用セル内の積層体一つに少なくとも一つ配置すればよいが、積層体を挟むようにして二つ以上配置することもできる。また、リチウムイオン供給源の金属リチウムは、蓄電デバイスの使用時には全てリチウムイオンとなっており、金属の状態では存在しない。
【0044】
金属リチウムの重量は、負極活物質としての炭素質材料が吸蔵し得るリチウムイオンの最大重量(理論重量)に対して、50〜90重量%であることが好ましく、60〜80重量%であることがより好ましく、70重量%であることがさらに好ましい。
【0045】
また、負極とリチウムイオン供給源との間で電気化学的接触を行い、リチウムイオンを吸蔵した負極を正極に対するリチウムイオン供給源として用いることができる。
【0046】
<5.蓄電デバイスの構成>
本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によって製造される蓄電デバイス(蓄電デバイス用セル作製工程によって作製される蓄電デバイス)について、
図1を参照しながら、以下に説明する。
図1は本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によって製造される蓄電デバイスの構成の一例を示す概略の断面図である。尚、以下の説明においては、蓄電デバイスが正極および負極を合わせて5層積層してなる積層体を有している場合を例に挙げることとする。
【0047】
図1に示すように、本発明に係る蓄電デバイス(蓄電デバイス用セル作製工程によって作製される蓄電デバイス)10は、外装部材7で外装が構成される蓄電デバイス用セル8内に、セパレータ3を介して正極1および負極2を積層してなる積層体6と、金属リチウム4を備えた金属箔からなるリチウムイオン供給源5とが配置され、非水電解液9が注入されることによって構成されている。蓄電デバイス用セル8は密封されている。尚、非水電解液9は積層体6内にも注入されている。
【0048】
積層体6は、最外層が負極2になるようにして、セパレータ3を介して正極1および負極2を合わせて5層積層することにより構成されている。従って、正極1は電極板における両面に炭素質材料が塗布されて構成されている。一方、内部に位置する負極2は電極板における両面に炭素質材料が塗布されて構成されており、最外層に位置する負極2は電極板における片面に炭素質材料が塗布されて構成されている。尚、積層体6における正極1および負極2は、合わせて2層以上積層されていればよく、好ましくは3層以上積層されていればよく、より好ましくは5層以上積層されていればよい。また、3層以上積層する場合において、積層体6の最外層は負極2であることが好ましい。
【0049】
さらに、積層体6およびリチウムイオン供給源5間、積層体6および外装部材7間、並びに、リチウムイオン供給源5および外装部材7間には、互いに接触しないように、セパレータ3が挿入されている。つまり、セパレータ3が挿入されることによって、外装部材7、正極1、負極2、およびリチウムイオン供給源5は、互いに接触しないようになっている。
【0050】
<B.蓄電デバイスの製造方法>
本発明に係る蓄電デバイスの製造方法は、貫通孔を有する正極集電体上に形成された、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を正極活物質として含む正極1と、貫通孔を有する負極集電体上に形成された、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を負極活物質として含む負極2と、リチウム塩を含む非水電解液9と、を有する蓄電デバイスの製造方法であって、蓄電デバイス用セル8となる外装部材7内に、セパレータ3を介して前記正極1および負極2を積層してなる積層体6とリチウムイオン供給源5とを配置すると共に、前記非水電解液9を注入する蓄電デバイス用セル作製工程と、正極1とリチウムイオン供給源5との間で充放電を行う充放電工程と、負極2とリチウムイオン供給源5との間で電気化学的接触を行い、負極2にリチウムイオンを吸蔵させる吸蔵工程と、を含む方法である。
【0051】
前記吸蔵工程および前記充放電工程を行う順序は、特に限定されるものではなく、前記吸蔵工程の後に前記充放電工程を行ってもよく、前記充放電工程の後に前記吸蔵工程を行ってもよい。
【0052】
尚、前記吸蔵工程の後に前記充放電工程を行う場合には、前記吸蔵工程で負極2とリチウムイオン供給源5との間で電気化学的接触を行い、リチウムイオンを吸蔵した負極2をリチウムイオン供給源として機能させ、その後の前記充放電工程で正極1とリチウムイオンを吸蔵した負極2との間で充放電を行うことが好ましい。これにより、正極1はセパレータ3を介して近接する負極2との間で個々に充放電を行うので、正極1のアニオンの挿入、脱離サイトの増大量の均一性を向上させることができる。また、前記充放電工程の後に前記吸蔵工程を行う場合には、前記充放電工程でリチウムイオン供給源5と正極1との間で充放電を行い、前記吸蔵工程で負極2とリチウムイオン供給源5との間で電気化学的接触を行い、負極2にリチウムイオンを吸蔵させる。
【0053】
以下、説明の便宜上、充放電工程の後に吸蔵工程を行う場合を例に挙げて、これら各工程について説明する。
【0054】
<6.蓄電デバイス用セル作製工程>
先ず、前記方法により、貫通孔を有する正極集電体上に形成された、アニオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を正極活物質として含む正極1を製造すると共に、貫通孔を有する負極集電体上に形成された、リチウムイオンを挿入、脱離し得る層状構造を有する炭素質材料を負極活物質として含む負極2とを製造する。そして、セパレータ3を介して正極1および負極2を積層することによって積層体6を作製する。また、非水電解液9や、金属リチウム4を備えた金属箔からなるリチウムイオン供給源5を作製(または準備)する。さらに、正極1、負極2およびリチウムイオン供給源5に電極部を取り付ける。積層体6の作製方法や非水電解液9の作製方法は、特に限定されるものではなく、公知の作製方法を採用することができる。
【0055】
次に、
図1に示すように、蓄電デバイス用セル8となる外装部材7内に、前記積層体6とリチウムイオン供給源5とをセパレータ3を介して配置すると共に、非水電解液9を注入する。その後、外装部材7を密閉することによって蓄電デバイス用セル8を密封することにより、本発明に係る蓄電デバイス、つまり、蓄電デバイス10を作製する(蓄電デバイス用セル作製工程)。
【0056】
蓄電デバイス用セル作製工程は、公知の蓄電デバイスの製造方法と同様に、露点が−35℃以下、より好ましくは−60℃以下のドライ雰囲気下または不活性ガス雰囲気下で行われる。
【0057】
<7.充放電工程>
次いで、蓄電デバイス用セル作製工程で作製された蓄電デバイス10における正極1の電極部と、リチウムイオン供給源5の電極部との間で充放電を行う(充放電工程)。つまり、正極1およびリチウムイオン供給源5間に、一定電流を流して充電し、その後放電する、充放電サイクルを少なくとも1回行う。
【0058】
充電は、例えば、電流密度1.85mA/cm
2の定電流で、電圧が所定電圧に達するまで行われる。ここで、充電時の所定電圧(正極電位)は、金属リチウムを基準として、充電電圧を5.0V以上、6.0V以下とすることがより好ましい。また、充放電サイクルは、少なくとも1回行えばよいが、複数回行ってもよい。正極1およびリチウムイオン供給源5間に充電電流を流すと、非水電解液9中のカチオンはリチウムイオン供給源5の金属リチウム4に吸着され、アニオンは正極の層状構造を有する炭素質材料(例えばグラファイトの層間)に挿入される。所定電圧になるまで充電を行った後、今度は金属リチウムを基準として3.0Vになるまで放電を行う。尚、充放電サイクルの具体的な条件は、特に限定されるものではない。
【0059】
以上の方法により、蓄電デバイス用セル8内で、充放電処理(事前処理)がなされている正極、即ち、蓄電デバイスに用いる正極が作製される。
【0060】
これにより、層状構造を有する炭素質材料に前記非晶質部を形成することができ、アニオンの挿入、脱離サイトを増大させることができる。また、放電後においても非晶質部は残存する。従って、炭素質材料の非晶質部に電解質のアニオンが優先的にかつ容易に挿入、脱離するため、炭素質材料における挿入、脱離量を増大させることができ、蓄電デバイスの放電容量を向上させることができる。このことは、例えばグラファイト内における非晶質部の形成の有無および層間距離の拡大と、挿入、脱離量とに関連があることが推察される。即ち、非晶質部が増加し、層間距離が広がり、その結果、アニオンが非晶質部に対して優先的に挿入、脱離し易くなって蓄電量が増加するということが言える。
【0061】
<8.吸蔵工程>
続いて、蓄電デバイス用セル作製工程で作製された蓄電デバイス10における負極2の電極部と、リチウムイオン供給源5の電極部との間で電気化学的接触を行い、負極2にリチウムイオンを吸蔵させる(吸蔵工程)。ここで、電気化学的接触による負極2の電位は、金属リチウムを基準として、0.01V以上、0.1V以下とすることがより好ましい。つまり、負極2の電極部とリチウムイオン供給源5の電極部とを外部回路を通して短絡させる(または電流を流す)ことにより、負極2の層状構造を有する炭素質材料と金属リチウム4とを電気化学的に反応させる。尚、吸蔵工程における具体的な吸蔵条件は、特に限定されるものではない。
【0062】
以上の方法により、蓄電デバイス用セル8内で、リチウムプレドープ処理(事前処理)がなされている負極、即ち、蓄電デバイスに用いる負極が作製される。
【0063】
負極2の炭素質材料に吸蔵させる金属リチウムの重量は、当該炭素質材料が吸蔵し得るリチウムイオンの最大重量(理論重量)に対して、50〜90重量%であることが好ましく、60〜80重量%であることがより好ましく、70重量%であることがさらに好ましい。この範囲内であれば、蓄電デバイス10の容量と比較して負極2の容量が小さ過ぎないため、負極2に十分な量のリチウムイオンを吸蔵させることができる。また、負極2の重量の増加を抑えることによって、蓄電デバイス10の重量が増加することを防止することができるため、蓄電デバイス10の容量密度も低下しない。また、負極2に吸蔵されるリチウムイオンの量が適量であるため、蓄電デバイス10の容量密度を維持することができ、フロート荷電における容量低下も防止することができる。
【0064】
<9.その他の工程>
本発明に係る蓄電デバイスの製造方法においては、前記充放電工程と吸蔵工程との間に、蓄電デバイス用セル8内の非水電解液9の少なくとも一部を入れ替える入れ替え工程を行うことがより好ましい。
【0065】
これにより、前記充放電工程時に正極に付着する(トラップされる)ことによって減少するアニオン量(不可逆容量)を補充すること、つまり、非水電解液中の電解質の濃度を維持することができるので、長期特性に優れた蓄電デバイスを製造することができる。
【0066】
<10.変形例>
吸蔵工程の後に充放電工程を行う場合には、前記<7.充放電工程>および<8.吸蔵工程>を行う順序を入れ替えて、<8.吸蔵工程>に続いて<7.充放電工程>を行えばよい。この順番で両工程を行う場合においても、前記吸蔵工程と充放電工程との間に、蓄電デバイス用セル8内の非水電解液9の少なくとも一部を入れ替える入れ替え工程を行うことがより好ましい。
【0067】
<11.充放電電圧の最高電圧>
本発明に係る製造方法で製造される蓄電デバイスは、当該蓄電デバイスの作動電圧範囲(充放電電圧)の上限電圧が5.0V以上、6.0V以下となるようにして、充放電を行うことが好ましい。
【0068】
前記構成の蓄電デバイス用セル(蓄電デバイス)において、上限電圧が5.0V以上、6.0V以下となるようにして充放電を行うことにより、公知のリチウムイオン電池等の蓄電デバイスよりも大きな蓄電容量を発生させることができる。例えば、本発明に係る蓄電デバイスによれば、従来のEDLC(充放電電圧範囲0V〜2.7V程度)、リチウムイオンキャパシタ(充放電電圧範囲2.2V〜3.8V程度)に比べて、また、従前の高容量型リチウムイオン電池(充放電電圧範囲2.5V〜4.2V程度)に比べて、容量密度、出力密度の何方か一方、或いは両方の点で優れているという効果を有する。
【0069】
一般に蓄電デバイスは、充放電電圧の上限電圧の値が低くなるに従って、充放電容量が低減する。しかしながら、本発明に係る蓄電デバイスでは、作動電圧範囲(充放電電圧)の上限電圧が5.0V以上、6.0V以下であるため、十分な充放電容量が得られる。尚、上限電圧が6.0Vを超えると、電解液の分解が進行して特性が低下するおそれがある。また、蓄電デバイスの作動電圧範囲(充放電電圧)の下限電圧は3V付近であればよく、特に限定されるものではない。
【0070】
本発明に係る製造方法によって製造される蓄電デバイスは、作動電圧範囲(充放電電圧)の上限電圧が5.0V以上、6.0V以下と高く、大容量な蓄電池である。それゆえ、当該製造方法によって製造される蓄電デバイス、或いは当該蓄電デバイスを備えた蓄電装置は、ノート型パソコンや携帯電話等の各種携帯機器等の一般電気機器、電気自動車やハイブリッド自動車に搭載される自動車用の蓄電装置、或いは、太陽電池や風力発電等の新エネルギーシステムと組み合わせた電力貯蔵用蓄電池等の種々の分野に広く利用することができる。
【0071】
また、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法には、以下の発明も包含される。
1. 層間にアニオンが挿入脱離する炭素質材料を正極活物質に、層間にカチオンが挿入脱離する炭素質材料を負極活物質に用い、それぞれを、表裏面を貫通する孔を備えた正極集電体および負極集電体上に形成した正極と負極を、セパレータを介して交互に三層以上積層するセル構造とすると共に、これに対向してリチウムイオン供給源を配置した構成とし、これにリチウム塩を溶解した非水電解液を備える非水電解液二次電池において、先ずリチウム供給源と正極との間で充放電を行う工程と、その後リチウム供給源と負極との間で電気化学的接触を行い負極に予めカチオンとしてリチウムイオンを挿入する工程を含むことを特徴とする、非水電解液二次電池の製造方法。
2. 前記リチウム供給源と正極との間の充放電を行う工程と、その後リチウム供給源と負極との間で電気化学的接触を行い負極に予めカチオンとしてリチウムイオンを挿入する工程の間に、リチウム塩を溶解した非水電解液を交換する工程を含むことがより好ましい。
3. 層間にアニオンが挿入脱離する炭素質材料を正極活物質に、層間にカチオンが挿入脱離する炭素質材料を負極活物質に用い、それぞれを、表裏面を貫通する孔を備えた正極集電体および負極集電体上に形成した正極と負極を、セパレータを介して交互に三層以上積層するセル構造とすると共に、これに対向してリチウムイオン供給源を配置した構成とし、これにリチウム塩を溶解した非水電解液を備える非水電解液二次電池において、先ずリチウム供給源と負極との間で電気化学的接触を行い負極に予めカチオンとしてリチウムイオンを挿入する工程と、その後リチウム供給源と正極との間で充放電を行う工程を含むことを特徴とする、非水電解液二次電池の製造方法。
4. 前記リチウム供給源と負極との間で電気化学的接触を行い負極に予めカチオンとしてリチウムイオンを挿入する工程と、その後リチウム供給源と正極との間の充放電を行う工程の間に、リチウム塩を溶解した非水電解液を交換する工程を含むことがより好ましい。
5. 前記リチウム供給源と正極との間の充放電が金属リチウム基準として5.0〜6.0Vとすることがより好ましい。
6. リチウム供給源と負極との間で電気化学的接触による負極の電位が金属リチウム基準として0.01〜0.1Vとすることがより好ましい。
7. 電池の作動電圧範囲の上限電圧5.0〜6.0Vとする前記非水電解液二次電池の製造方法により製造された非水電解液二次電池。
【0072】
本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、明細書に記載した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても、本発明の技術的範囲に含まれる。また、本明細書中に記載された文献の全てが参考として援用される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明は係る実施例のみに限定されるものではない。
【0074】
〔実施例1〕
図1に示す構成の蓄電デバイス10を作製した。即ち、下記製造方法により、本実施例に係る蓄電デバイスを作製した。
【0075】
<正極1の作製>
バインダであるポリフッ化ビニリデンを溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに溶解した後、得られた溶液に正極活物質としてグラファイト(KS6:Timcal社製)を分散させ、スラリー(分散液)とした。このスラリーを正極集電体である多孔アルミニウム箔(市販品;厚さ20μm、開口率30%)の表裏面にドクターブレードを用いて塗工し、乾燥させて正極1を作製した。塗工されたスラリーの乾燥後の厚さ、即ち、正極1の厚さ(片面)は、80μmであった。また、グラファイトとポリフッ化ビニルデンとの重量比(グラファイト:ポリフッ化ビニルデン)は、90:10であった。
【0076】
<負極2の作製>
バインダであるポリフッ化ビニリデンを溶媒であるN−メチル−2−ピロリドンに溶解した後、得られた溶液に負極活物質として人造黒鉛(市販品;グラファイト)を分散させ、スラリー(分散液)とした。このスラリーを負極集電体である多孔銅箔(市販品;厚さ15μm、開口率20%)の表裏面または片面にドクターブレードを用いて塗工し、乾燥させて負極2を作製した。塗工されたスラリーの乾燥後の厚さ、即ち、負極2の厚さ(片面)は、90μmであった。また、人造黒鉛とポリフッ化ビニルデンとの重量比(人造黒鉛:ポリフッ化ビニルデン)は、90:10であった。
【0077】
<蓄電デバイス10の作製>
エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとを重量比1:1で混合してなる混合溶媒に、電解質(リチウム塩)であるリチウムヘキサフルオロフォスフェート(LiPF
6)を、その濃度(電解質濃度)が1.5mol/L(1.5M)となるように溶解することにより、非水電解液9を作製した。
【0078】
そして、ドライ雰囲気下で蓄電デバイス10を作製した。即ち、作製した前記正極1および負極2を、最外層が負極2になるようにして、セパレータ3を介して5層積層することによって積層体6を作製した。さらに、積層体6にセパレータ3を介して、金属リチウム4を備えた銅箔からなるリチウムイオン供給源(市販品)5を積層した。金属リチウムの重量は、負極2が吸蔵し得るリチウムイオンの最大重量(理論重量)に対して、70重量%となる量に設定した。そして、正極1、負極2およびリチウムイオン供給源5にそれぞれ電極部を取り付けた。
【0079】
積層体6とリチウムイオン供給源5とからなる前記積層体を、セパレータ3を介して外装部材(アルミニウムからなるラミネートフィルム)7内に収容する(外装する)と共に、当該外装部材7内に前記非水電解液9を注入した。続いて、外装部材7を密閉することによって蓄電デバイス用セル8を密封することにより、蓄電デバイス(蓄電デバイス用セル作製工程によって作製される蓄電デバイス)10を作製した。
【0080】
作製した蓄電デバイス10における正極1およびリチウムイオン供給源5間に、金属リチウムを基準として、正極電位を5.3Vとして一定電流を流して充電し、その後放電する、充放電サイクルを1回行った。
【0081】
その後、蓄電デバイス10における負極2およびリチウムイオン供給源5間を、外部回路を通して短絡させることにより、負極2にリチウムイオンを吸蔵させた。
【0082】
これにより、実施例1に係る蓄電デバイスを作製した。
【0083】
〔実施例2〕
実施例1と同様にして、蓄電デバイス(蓄電デバイス用セル作製工程によって作製される蓄電デバイス)10を作製した。
【0084】
作製した蓄電デバイス10における負極2およびリチウムイオン供給源5間を、外部回路を通して短絡させることにより、負極2にリチウムイオンを吸蔵させた。
【0085】
その後、蓄電デバイス10における正極1およびリチウムイオン供給源5間に、金属リチウムを基準として、正極電位を5.3Vとして一定電流を流して充電し、その後放電する、充放電サイクルを1回行った。
【0086】
これにより、実施例2に係る蓄電デバイスを作製した。
【0087】
〔実施例3〕
実施例1と同様にして、蓄電デバイス(蓄電デバイス用セル作製工程によって作製される蓄電デバイス)10を作成した。
【0088】
その後、蓄電デバイス10における正極1と、吸蔵工程によりリチウムイオンを吸蔵させることによってリチウムイオン供給源5として機能する負極2間に、金属リチウムを基準として、正極電位を5.3Vとして一定電流を流して充電し、その後放電する、充放電サイクルを1回行った。
【0089】
これにより、実施例3に係る蓄電デバイスを作製した。
【0090】
〔比較例1〕
<正極の作製>
実施例1の<正極1の作製>と同様にして、正極を作製した。次いで、作製した正極の事前処理(充放電)を行った。即ち、石油コークスを水蒸気賦活することによって得られた比表面積2000m
2/gの活性炭、導電性カーボンブラック、およびバインダであるポリテトラフルオロエチレンを、活性炭80重量%、導電性カーボンブラック10重量%、およびポリテトラフルオロエチレン10重量%の割合で混合し、エチルアルコールを用いて混練して圧延することにより、シート状の成形物に成形した。成形物の厚さは400μmであった。この成形物を、導電性接着剤を用いてアルミニウム箔に接着することにより、正極処理用負極を作製した。
【0091】
また、4−トリフルオロメチル−1,3−ジオキソラン−2−オンと1,1,2,2−テトラフルオロエチル−2,2,3,3−テトラフルオロプロピルエーテル「H(CF
2)
2CH
2O(CF
2)
2H」とを重量比1:1で混合してなる混合溶媒100重量部に、電解質塩(SBP−PF6;日本カートリット株式会社製)100重量部を溶解することにより、非水電解液を作製した。
【0092】
製作した正極および正極処理用負極をセルロース系の多孔質セパレータを介して対向させると共に、正極および正極処理用負極に電極部を取り付け、外装部材(アルミニウムからなるラミネートフィルム)内に収容した(外装した)。次いで、当該外装部材内に前記非水電解液を注入した。続いて、外装部材を密閉することによって充放電用セルを密封することにより、充放電用デバイスを作製した。
【0093】
作製した充放電用デバイスにおける正極および正極処理用負極間に、直流電流を流すことによって0Vから3.5Vになるまで充電し、その後直ちに0Vになるように放電した。放電後、充放電用デバイスを解体して正極のみを取り出した。
【0094】
<負極の作製>
実施例1の<負極2の作製>と同様にして、負極を作製した。次いで、実施例1の<蓄電デバイス10の作製>と同様にして、負極にリチウムイオンを吸蔵させる事前処理(リチウムのプレドープ)を行った。即ち、ドライ雰囲気下で、製作した負極と、金属リチウムを備えた銅箔からなるリチウムイオン供給源(市販品)とを、セルロース系の多孔質セパレータを介して対向させると共に、負極およびリチウムイオン供給源に電極部を取り付け、外装部材(アルミニウムからなるラミネートフィルム)内に収容した(外装した)。次いで、当該外装部材内に実施例1で作製したのと同様の非水電解液を注入した。続いて、外装部材を密閉することによって吸蔵処理用セルを密封することにより、吸蔵処理用デバイスを作製した。その後、作製した吸蔵処理用デバイスにおける負極およびリチウムイオン供給源間を、外部回路を通して短絡させることにより、負極にリチウムイオンを吸蔵させた。吸蔵処理後、吸蔵処理用デバイスを解体して負極のみを取り出した。
【0095】
<蓄電デバイスの作製>
事前処理を行った前記正極および負極を用いて、実施例1の<蓄電デバイス10の作製>と同様にして、蓄電デバイスを作製した。即ち、ドライ雰囲気下で、作製した前記正極および負極を、最外層が負極になるようにして、セパレータを介して5層積層することによって積層体を作製した。そして、正極および負極にそれぞれ電極部を取り付けた。前記積層体を、セパレータを介して外装部材(アルミニウムからなるラミネートフィルム)内に収容する(外装する)と共に、当該外装部材内に実施例1で作製したのと同様の非水電解液を注入した。続いて、外装部材を密閉することによって蓄電デバイス用セルを密封することにより、蓄電デバイスを作製した。従って、蓄電デバイスの作製時には充放電処理および吸蔵処理を行わなかった。これにより、比較例1に係る(従来の)蓄電デバイスを作製した。
【0096】
<結果>
<i.生産性>
比較例1に係る蓄電デバイスの製造時間を100(基準)とした場合に、蓄電デバイスの作製前に正極および負極の事前処理(充放電処理および吸蔵処理)を行わなくてもよい実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10の製造時間は30であった。つまり、実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10を製造するのに要する時間は、比較例1に係る蓄電デバイスを製造するのに要する時間の3割であった。
【0097】
従って、製造工程が簡略化された本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によれば、蓄電デバイスの製造時間(タクトタイム)を大幅に短縮することができることが判る。即ち、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法は、生産性に優れていることが判る。
【0098】
また、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によれば、蓄電デバイスの作製前に正極および負極の事前処理(充放電処理および吸蔵処理)を行わなくてもよい。つまり、正極の事前処理(充放電)を行うための充放電用デバイス、並びに、負極の事前処理(吸蔵処理)を行うための吸蔵処理用デバイスを作製する必要が無い。従って、当該充放電用デバイスおよび吸蔵処理用デバイスを作製するための正極処理用負極や非水電解液、多孔質セパレータ、電極部、外装部材等を作製(または準備)する必要が無い。それゆえ、製造工程が簡略化された本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によれば、蓄電デバイスの製造コスト(材料に掛かるコスト)を大幅に削減することができることが判る。即ち、蓄電デバイスを低コストで製造することができる。
【0099】
尚、比較例1に係る蓄電デバイスの製造コストを100(基準)とした場合に、蓄電デバイスの作製前に正極および負極の事前処理(充放電処理および吸蔵処理)を行わなくてもよい実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10の製造コストは40であった。
【0100】
<ii.性能>
前記実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10、および比較例1に係る蓄電デバイスについて、充放電サイクル試験を行った。充放電サイクル試験の条件は、25℃の恒温槽内で、作動電圧範囲を3.0〜5.3Vとし、2C−CC充電レートおよび0.5C−CC放電レートとした。
【0101】
そして、前記実施例1に係る蓄電デバイス10および比較例1に係る蓄電デバイスについて、充放電サイクル試験を100サイクル行い、試験前および試験後(100サイクル後)の容量を測定して容量変化を測定した。つまり、試験前の容量(初期容量)を100(基準)とした場合の試験後の容量変化(低下)を測定して、両蓄電デバイスの性能を評価した。結果を表1に示す。尚、前記実施例1に係る蓄電デバイス10および比較例1に係る蓄電デバイスの初期容量は互いに同一であった。
【0102】
同様に、前記実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10、および比較例1に係る蓄電デバイスについて、充放電サイクル試験を500サイクル行い、試験前および試験後(500サイクル後)の容量を測定して容量変化を測定した。つまり、試験前の容量(初期容量)を100(基準)とした場合の試験後の容量変化(低下)を測定して、各蓄電デバイスの性能を評価した。結果を表2に示す。尚、前記実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10、および比較例1に係る蓄電デバイスの初期容量は互いに同一であった。
【0103】
【表1】
【0104】
【表2】
【0105】
表1,2の記載から明らかなように、実施例1、実施例2並びに実施例3に係る蓄電デバイス10は、比較例1に係る蓄電デバイスと比較して、試験後の容量変化(低下)が少なく、長期特性に優れた性能を有していることが判る。即ち、本発明に係る蓄電デバイスの製造方法によって製造される蓄電デバイスは、長期安定性に優れていることが判る。尚、比較例1に係る蓄電デバイスにおいて、試験後の容量変化(低下)が多い要因としては、電極の事前処理を行った後、充放電用デバイスおよび吸蔵処理用デバイスから正極および負極を取り出して蓄電デバイスを作製するときにおける、ドライ雰囲気中に残存する酸素との接触による電極や非水電解液の性能の低下、並びに、充放電用デバイスおよび吸蔵処理用デバイスの解体によって生じる異物(例えば、外装部材の破片等)の蓄電デバイスへの混入等が考えられる。