特許第6284221号(P6284221)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284221
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】極細アラミド繊維
(51)【国際特許分類】
   D01F 6/60 20060101AFI20180215BHJP
   D02G 3/38 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 15/53 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 15/507 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 101/36 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   D01F6/60 371Z
   D02G3/38
   D06M15/53
   D06M15/507
   D06M101:36
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-239075(P2013-239075)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-98665(P2015-98665A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000219266
【氏名又は名称】東レ・デュポン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115440
【弁理士】
【氏名又は名称】中山 光子
(72)【発明者】
【氏名】森 拓也
(72)【発明者】
【氏名】川口 昭次
【審査官】 清水 晋治
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03767756(US,A)
【文献】 特開2004−250835(JP,A)
【文献】 特開平02−216280(JP,A)
【文献】 特開2007−009378(JP,A)
【文献】 特開昭63−315630(JP,A)
【文献】 特開昭48−000897(JP,A)
【文献】 特開2010−150699(JP,A)
【文献】 特開2012−028121(JP,A)
【文献】 特開2012−214298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F 1/00−6/96
9/00−9/04
D06M 13/00−15/715
D02G 1/00−3/48
D02J 1/00−13/00
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単糸繊度が3.5〜10dtexで、単糸強度が21cN/dtex以上であり、かつ総繊度が10〜100dtexであり、かつ油剤が0.3〜5.0重量%付着しているアラミドマルチフィラメントであることを特徴とする極細アラミド繊維。
【請求項2】
油剤が、ポリエーテル及び/又はポリエステルを主成分とする油剤である請求項記載の極細アラミド繊維。
【請求項3】
補強用糸あるいはカバリング糸の鞘糸に用いられる請求項1または2のいずれか1項記載の極細アラミド繊維。
【請求項4】
請求項1〜のいずれか1項記載の極細アラミド繊維を鞘糸に用いたことを特徴とするカバリング糸。
【請求項5】
請求項1〜のいずれか1項記載の極細アラミド繊維を少なくとも経糸又は緯糸の一部に用いていることを特徴とする織編物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチフィラメントからなる極細アラミド繊維に関する。さらに詳しくは、単糸繊度が太く毛羽や断糸が少ない極細アラミド繊維に関する。
【背景技術】
【0002】
従来細繊度の糸条を効率的に生産する方法として、太繊度の多条繊維を分割して細繊度の糸条を得る「分繊」と呼ばれる方法が提案されている。しかし、分繊時に各糸条に分けて取り出そうとしても、高強度かつ高弾性率、高耐熱性といった特性を有するアラミド繊維、特にパラ系アラミド繊維は、分繊時に毛羽や断糸が発生し易いため、安定に分繊することが難しい。
【0003】
そこで、特許文献1には、分繊時における毛羽の発生が無く強度低下が生じないアラミド繊維として、油剤を付着させ、かつ交絡数を5〜60個/mの範囲に限定した糸条が提案されている。この方法によれば、通常のアラミド繊維よりも細繊度(総繊度220dtex)の糸条は得られるものの、本発明が目指している領域から見ると満足できる細繊度とは言えない。
【0004】
また、上記の特性を有するアラミド繊維、特にパラ系アラミド繊維は、製糸工程及び撚糸工程でガイドやロールから摩擦抵抗を受けることによって、毛羽や断糸が発生する問題点を有しており、結果として、強度が低いアラミド繊維が製造されることとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−011043号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、製糸工程及び撚糸工程における毛羽や断糸の発生が少なく、製糸及び撚糸工程通過性が良好な極細アラミド繊維を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を用いて総繊度を細くすることにより、上記課題を効率的に解決できるとの知見に基づいてなされたのである。
【0008】
すなわち、本発明は、単糸繊度が3.5〜10dtexで、単糸強度が21cN/dtex以上であり、かつ総繊度が10〜100dtexであり、かつ油剤が0.3〜5.0重量%付着しているアラミドマルチフィラメントであることを特徴とする極細アラミド繊維を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のアラミド繊維は、細繊度の極細繊維でありながら単糸繊度が大きく、そのため破断強力が向上することによって単糸切れが抑制され、効率よく生産することができる。また、フィラメント数が少ないことで、糸条とガイドやロールとの接地面積が減少するため、糸条が受ける摩擦抵抗が低減されることで、製糸工程及び撚糸工程における毛羽の発生が抑制される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について詳細を説明する。
【0011】
本発明におけるアラミド繊維は、パラ系アラミド繊維又はメタ系アラミド繊維である。パラ系アラミド繊維としては、ポリパラフェニレンテレフタルアミド(東レ・デュポン社製「ケブラー」、テイジンアラミド・ビー・ブイ社製「トワロン」)、コポリパラフェニレン−3,4’−ジフェニルエーテルテレフタルアミド(帝人テクノプロダクツ社製「テクノーラ」)等がある。メタ系アラミド繊維としては、ポリメタフェニレンイソフタルアミド(デュポン社製「ノーメックス」、帝人テクノプロダクツ社製「コーネックス」等がある。
【0012】
本発明におけるアラミド繊維としては、高強度、高弾性率、耐熱性に優れるパラ系アラミド繊維が好ましく、特に、耐切創性に優れるポリパラフェニレンテレフタルアミド(以下、「PPTA」と称する。)が好ましい。PPTAは、テレフタル酸とパラフェニレンジアミンを重縮合して得られる重合体であり、少量のジカルボン酸及びジアミンを共重合したものも使用することができる。
【0013】
本発明のアラミド繊維における単糸繊度は、3.5〜10dtex、好ましくは4.0〜8.0dtexとするのが適当である。単糸繊度が3.5dtex未満の場合には、単糸強力が弱く、特に油剤を付与する以前の工程中にあるロールやガイドから受ける摩擦抵抗により単糸切れを引き起こしやすくなるので好ましくない。一方、単糸繊度が10dtexを超える場合には、紡出時の脱硫酸効率が著しく低下するため、生産性が著しく低下する原因となるので好ましくない。
【0014】
本発明のアラミド繊維の総繊度は、10〜100dtexの範囲であり、好ましくは20〜100dtex、より好ましくは30〜100dtexの範囲である。総繊度が10未満の場合には、紡糸におけるポリマー吐出量が過剰に少なくなり安定した吐出状態を保つことが難しくなるため、アラミド繊維を安定に生産することが難しくなる。一方、総繊度が100を超える場合には、ロール・ガイドとの接触面積が増大し摩擦係数が高くなることで、毛羽や単糸切れを起こしやすくなる。
【0015】
アラミド繊維を構成するフィラメント数は2〜28本である。例えば、5dtexの単糸を20本程度束ねることによって、総繊度が100dtexとなる。
【0016】
アラミド繊維の単糸の引張強度は、15cN/dtex以上であることが好ましく、より好ましくは18cN/dtex以上、特に好ましくは21cN/dtex以上である。15cN/dtex以上あれば、高強力繊維としての機能を充分発揮できるからである。この点からはパラ系アラミド繊維が望ましい。
【0017】
本発明のアラミド繊維を得る方法には2通りあり、いずれの方法を適用しても良い。第1は、所望の紡糸口金から紡出した単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を、総繊度が10〜100dtexになるよう集束し、マルチフィラメントを直接得る方法である。
【0018】
第2は、所望の紡糸口金から紡出した単糸繊度3.5〜10dtexの単糸を適宜な大きさの繊維束としたマルチフィラメントを従来公知の分繊機にて適宜分割して得る方法である。
【0019】
PPTA繊維の場合は、PPTAを濃硫酸に溶解した濃度18〜20重量%の粘調な溶液を、直径0.05mm〜0.1mmの吐出孔を環状に配置した口金から、せん断速度25,000〜50,000sec−1で吐出させ、わずかの間空気中に紡出後、水中へ紡糸し、紡糸浴中で凝固した繊維を水酸化ナトリウム水溶液で中和処理した後、100〜300℃で5〜120秒間、熱処理を行い、水分率20%以下とすることで、製造することができる。紡糸工程通過時の張力を常に高張力に保つことで、繊維の交絡を抑制し、容易かつ安定的に分繊可能なアラミド繊維を製造することができる。
【0020】
そして、熱処理後の繊維は、一旦ボビンに巻き上げられた後、ボビンから巻き出されて、捲縮、撚糸等の加工処理が施され加工糸となる。繊維の捲縮処理、撚糸処理は従来公知の方法で行うことができる。
【0021】
PPTA繊維に対する油剤の付与は、紡糸工程中、1度でも複数回に分けて実施しても良い。複数回に分けて行う場合は、有効成分量が低い油剤を付与した後、有効成分量が高い油剤を付与することが好ましい。
【0022】
油剤の付着量は、水分量を0%に換算したアラミド繊維重量に対して、0.3〜5.0重量%が好ましく、より好ましくは0.5〜3.0重量%が適当である。油剤付着量が0.3重量%未満の場合には、油剤機能である制電性、平滑性が十分に発揮されなくなり、ロール・ガイドとの摩擦係数が高くなることで、製糸工程及び加工工程での毛羽や単糸切れ発生等の操業不調を引き起こすため好ましくない。一方、油剤付着量が5.0重量%を超える場合には、繊維表面に付着した余剰油剤がロール・ガイドと接触した際に脱落し、製糸工程及び加工工程でのスカム増加による操業不調を引き起こすため好ましくない。
【0023】
油剤の種類は特に限定されるものではなく、平滑剤、制電剤、乳化剤、添加剤等を混合分散させた従来公知の油剤を用いることができる。
【0024】
油剤のなかでも、ポリエーテル及び/又はポリエステルを主成分とする油剤が、平滑性に優れており、走行糸条が接触する機材の摩耗が少なく、毛羽や糸切れも抑制される点で好ましい。
【0025】
ポリエーテル及びポリエステルは、従来公知の化合物を用いることができる。具体的な化合物としては、例えば、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドとの共重合体の片末端又は両末端を脂肪酸で封鎖した化合物などのポリエーテル;多価アルコールと脂肪酸とのエステル化物のアルキレンオキサイド付加物、そのカルボン酸エステルなどのポリエステルが挙げられる。これらの主成分に、アニオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、鉱物油等を1種又は2種以上混合した油剤を適用できる。
【0026】
アラミド繊維に付着した油剤量は、n−ヘキサン等の有機溶媒で油剤成分のみ抽出し、溶媒を留去することにより測定することができる。
【0027】
本発明のアラミド繊維は極細繊維であるため、該繊維を織編物の素材として或いはカバリング糸の鞘糸として用いることにより、軽量かつ着用感、フィット性に優れた衣料やスポーツ着を製造することができる。また、高密度で製織することが容易であるため、防弾チョッキ、作業用手袋などの防護衣料として好適な、カバーファクターが大きい織物を製造することができる。
【0028】
あるいは、電線ケーブル、光ファイバーケーブル、補強用糸として用いることにより、従来よりも細い高強度のケーブルを提供することができる。
【実施例】
【0029】
以下、実施例により本発明をより詳細に説明する。ただし、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【0030】
(実施例1)
通常の方法で得られたPPTA(分子量約20,000)1kgを4kgの濃硫酸に溶解し、直径0.1mmのホールを25個有する口金から剪断速度30,000sec−1となるよう吐出し、4℃の水中に紡糸した後、10重量%の水酸化ナトリウム水溶液で10℃×15秒の条件で中和処理した。その後、150℃×15秒間の加熱処理をした後、ポリエーテルを主成分とする油剤を2.0重量%付与し、巻き取り工程にてボビンに巻き取り、水分率10%のPPTA繊維を得た。
【0031】
(実施例2)
実施例1において、直径0.1mmのホールを12個有する口金を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を得た。
【0032】
(実施例3)
実施例1において、紡糸以降巻き取り工程までで糸にかかる張力をいずれの工程においても1g/dtex以上の張力を保ったまま処理を行うことで得た総繊度100dtexのPPTA繊維を、分繊機にて2分割分繊を行って、総繊度50dtexのPPTA繊維を得た。
【0033】
(比較例1)
実施例1において、直径0.1mmのホールを50個有する口金を用いた以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を得た。
【0034】
(比較例2)
実施例1において、直径0.1mmのホールを25個有する口金から剪断速度20,000sec−1で吐出した以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を得た。
【0035】
(比較例3)
実施例1において、油剤の付与量を0.2%とした以外は、実施例1と同様の方法で、PPTA繊維を得た。
【0036】
<ロールとフィラメント間の摩擦係数>
得られたPPTA繊維について、セラミックロール、梨地表面金属ロール、鏡面金属ロールとの摩擦係数を測定した。
【0037】
<毛羽発生頻度>
得られたPPTA繊維について、撚糸加工を行った際の毛羽発生頻度を目視観察により評価した。
【0038】
実施例及び比較例で得たPPTA繊維の物性、ならびに、単糸強度(JIS L−1013準拠)の測定結果、摩擦係数及び毛羽発生の有無の評価結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
本発明のアラミド繊維は、単糸繊度が大きいので、従来のアラミド繊維に比べて単糸の引張強度が高く単糸切れを抑制することができ、また、フィラメント数が少ないので、撚糸工程等におけるロール素材との接触面積が小さく、その結果、摩擦抵抗が低減し毛羽発生を抑制することができた。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明のアラミド繊維は、毛羽の無い極細繊維であるため、新規な特性を付与する繊維として各種用途に有用である。