特許第6284235号(P6284235)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284235
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】吹付けノズル装置
(51)【国際特許分類】
   E02D 17/20 20060101AFI20180215BHJP
   B05B 7/08 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   E02D17/20 104B
   E02D17/20 102F
   B05B7/08
【請求項の数】2
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-125235(P2014-125235)
(22)【出願日】2014年6月18日
(65)【公開番号】特開2016-3512(P2016-3512A)
(43)【公開日】2016年1月12日
【審査請求日】2017年2月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】390036504
【氏名又は名称】日特建設株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000431
【氏名又は名称】特許業務法人高橋特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】三 上 登
(72)【発明者】
【氏名】石 垣 幸 整
(72)【発明者】
【氏名】中 野 亮
【審査官】 袴田 知弘
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−280081(JP,A)
【文献】 特開平09−313990(JP,A)
【文献】 特開2003−129482(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2005/0226092(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/20
B05B 7/08
E04G 21/02
E21D 11/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吹付け材を噴射するための吹付けノズルと、吹付けノズルの周辺部に配置された円環状部材と、円環状部材に配置された複数の液体用噴射ノズルと、円環状部材を介して複数の液体用噴射ノズルに連通する液体供給系統を有しており、
前記液体用噴射ノズルは液体を霧状に噴射する機能と、噴射方向を変更する機能を有し、吹付け材が植生基盤材であり、前記複数の液体用噴射ノズルから噴射される液体が水であり、前記複数の液体用噴射ノズルの一部の噴射方向が円環状部材の半径方向内側に向かっており、前記複数の液体用噴射ノズルのその他の噴射方向が法面側に向かっていることを特徴とする吹付けノズル装置。
【請求項2】
吹付けノズルから吹付け材を噴射すると共に、吹付けノズルの周辺部に配置された円環状部材に設けられた複数の液体用噴射ノズルから液体を霧状に噴射し、吹付け材ノズルから植生基盤材が噴射され、前記複数の液体用噴射ノズルから水が噴射され、前記複数の液体用噴射ノズルの一部から噴射される水は円環状部材の半径方向内側に向かって噴射され、前記複数の液体用噴射ノズルのその他から噴射される水は法面側に向かって噴射されることを特徴とする吹付け工法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、傾斜面(法面)に吹付け材(例えばモルタル)や植生基盤材を吹付けて被覆し、当該傾斜面を安定化する吹付け工に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、斜面に吹付け材(例えばモルタル)や植生基盤材を吹き付けて当該斜面を被覆し、以って当該傾斜面を安定化する吹付け工法は、広く行われている。
ここで、吹付け材としてモルタルを用いる場合(モルタル吹付け工法)には、吹付け面が乾燥して吸水性が高ければ事前に撒水などを行い、当該吹付け面を湿らせて、適正に調整、配合されたモルタルの水分が乾燥した法面に吸収されないようにする必要がある。
乾燥した吹付け面に吹き付けたモルタルが(当該乾燥した吹付け面に)水分を奪われると、吹き付けられたモルタルに含有される水分が不足してしまい、その結果、吹付けられたモルタルによる被覆層の品質が低下して、モルタル被覆層にクラックが発生してしまうからである。
【0003】
(乾燥した吹付け面に)事前に撒水を行う手法としては、モルタル吹付けに先立って、モルタルの吹付けノズルから水を吐出させて撒水を行う方法が存在する。また、モルタルの吹付けの直前に、或いはモルタル吹付けと並行して、モルタルの吹付けを行う作業者とは別の作業者により撒水を行う方法が存在する。
しかし、モルタルを吹付けるに先立ち撒水を行う方法では、撒水した法面は直ぐに乾燥してしまうため、当該撒水とモルタル吹付けとの間の時間が経過にするに連れて、撒水の効果が発揮されなくなる。
一方、モルタルの吹付けを行う作業者とは別の作業者により撒水を行う方法では、吹付け作業に必要な作業者数が1名多くなるため、その分だけ施工コストが増大するという問題が存在する。
【0004】
また、モルタル吹付け工法において、吹き付けられたモルタルが吹付け面で跳ね返ってしまうと(リバウンドすると)、吹付け材による被覆層(吹付け層)の厚さが所定の寸法(厚さ寸法)にはならないという問題が存在する。また、リバウンドした吹付け材(モルタル)が付着した場所(吹付け材が跳ねた場所)では、当該リバウンドした吹付け材により、吹付け面が不均一となり、その品質が低下してしまう。
そのためモルタル吹付け工法では、吹き付けられたモルタルがリバウンドするのを低減する必要がある。モルタルがリバウンドするのを低減する方法として、モルタル製造時にリバウンド低減材(例えば増粘剤)を混合し、吹付け材(モルタル)の粘性を増加させる方法や、吹付けノズル内で吹付け材にリバウンド低減材(例えば急結材)を添加する方法がある。
しかし、モルタル製造時に増粘剤を混合すると、材料の粘性が増加するため圧送性が低下し、施工効率が低下してしまう。一方、吹付けノズル内で急結材を添加する方法では、急結材がノズル内でモルタルと反応して固結し、ノズルを閉塞させてしまう恐れがある。
【0005】
吹付け材として、植生基盤材を用いる場合(植生基盤材の吹付け工法)においては、材料合時に水を添加するとリバウンドを低減できることが知られている。しかし、水の添加量が多くなり植生基盤材の粘性が増加すると、圧送系路(ホース等)が閉塞する恐れがある。
そのため、植生基盤材の吹付け工法ではリバウンド低減のために添加できる水の量は制限され、充分にリバウンドが低減される程度まで植生基盤材に水を含有することができない。そして、吹き付けられた植生基盤材のリバウンドが低減しないと、リバウンドした植生基盤材が粉塵となり、作業環境を低下させるという問題も生じる。
【0006】
また、植生基盤材の吹付け工法においては、早期発芽、生育の課題が存在する。植生基盤材の吹付け工法では、植生基盤材に混合された状態で吹付け面に吹き付けられた植物の種子は、早期に発芽し、生育することが好ましく、吹付け面が好適に緑化するか否かについて多大な影響を及ぼす。
混合した種子を早期に発芽させるためには、種子の休眠打破処理(例えば、種子を過酸化水素水に浸漬させて、発芽を速くする処理)や、種子の給水処理が行われる。そして休眠打破処理、給水処理が行なわれると、種子の発芽が速くなる。しかし、法面(吹付け面)に吹付けられた後の植物の生育は植生基盤材の状態に左右され、法面のような乾燥し易い条件下では、発芽しても枯死してしまう恐れがある。
発芽した植物の枯死を防止するため、吸水ポリマー等の保水材を植生基盤材に混入する方法が存在するが、材料費が高価であるため、施工コストが高騰してしまう。また植生基盤材にあらかじめ水を添加する方法も考えられるが、上述のように水の添加量を多くすると植生基盤材の粘性が増加し、圧送系路(ホース等)が閉塞する恐れがあるため、植物育成に充分な量の水を含有させることは困難である。
【0007】
さらに、植生基盤材吹付け工法においては、接合剤(浸食防止剤)使用についても問題が存在する。
植生基盤材に使用される接合剤は、主に液体タイプと粉末タイプの2種類がある。ここで液体タイプの接合剤は粘性が高く、圧送経路におけるホースが閉塞されてしまう恐れがある。また液体タイプの接合剤は、植生基盤材のその他の原料と均一に攪拌されないという問題を有している。そのため、植生基盤材の接合剤としては、粉末タイプの接合剤が多く使用されている。
しかし、粉末タイプの接合剤は水と反応して効果を発揮するが、上述した様に植生基盤材の含水量を多くすると水と固形物が分離して圧送経路(ホース等)を閉塞する恐れがある。そのため、植生基盤材における水の添加量は制限されており、そのため、粉末タイプの接合剤は植生基盤材中の水とは十分に反応することが出来ない。その結果、粉末タイプの接合剤では、効果が発現するまで時間が掛かってしまう場合が多く、降雨により植生基盤材が侵食される場合が多くなってしまう。
【0008】
その他の従来技術として、各種添加材を添加、混合して、ノズルから噴射する技術が提案されている(例えば、特許文献1〜4参照)。
しかし、これ等の従来技術(特許文献1〜4)は、何れもノズルよりも上流側で各種添加材を添加、混合するため、ノズル内部で材料が分離し、ノズル内の流路を閉塞されてしまう恐れがある。そのため、上述した問題を解消するずることは出来ない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許第3456418号公報
【特許文献2】特許第4937541号公報
【特許文献3】特許第3447239号公報
【特許文献4】特開2000−120268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上述した従来技術の問題点を解決することができて、吹付け面に適正で充分な給水を行い、吹付け材のリバウンドを低減させ、圧送経路を閉塞させる恐れがなく、吹付け面の品質を維持することができる吹付けノズル装置の提供を目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の吹付けノズル装置(1)は、吹付け材(M:例えば、モルタルや植生基盤材等)を噴射するための吹付けノズル(2)と、吹付けノズル(2)の周辺部(半径方向外方)に配置された円環状部材(3)と、円環状部材(3)に配置された複数の液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズル)と、円環状部材(3)を介して複数の液体用噴射ノズル(4)に連通する液体(L:水、リバウンド低減材)供給系統(6)を有しており、
前記液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズル)は液体を霧状に噴射する(噴霧する)機能と、噴射(噴霧)方向を変更する機能を有し、吹付け材(M)が植生基盤材であり、前記複数の液体用噴射ノズル(4)から噴射される液体(L)が水であり、前記複数の液体用噴射ノズル(4)の一部の噴射(噴霧)方向が円環状部材(3)の半径方向内側(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)に向かっており、前記複数の液体用噴射ノズル(4)のその他の噴射(噴霧)方向が法面(S)側(吹付け材Mを吹付けるべき法面Sの領域R側)に向かっているように構成されている。
【0015】
本発明の吹付け工法では、吹付けノズル(2)から吹付け材(例えば、モルタルや植生基盤材等)を噴射すると共に、吹付けノズル(2)の周辺部(半径方向外方)に配置された円環状部材(3)に設けられた複数の液体用噴射ノズル(4:円環状の部材に配置されたノズル)から液体(L:水、リバウンド低減材)を霧状に噴射(噴霧、吹付けノズル(2)から植生基盤材(吹付け材M)が噴射され、前記複数の液体用噴射ノズル(4)から水(液体L)が噴射(噴霧)され、前記複数の液体用噴射ノズル(4)の一部から噴射(噴霧)される水(液体L)は円環状部材(3)の半径方向内側(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)に向かって噴射(噴霧)され、前記複数の液体用噴射ノズル(4)のその他から噴射(噴霧)される水は法面(S)側(吹付け材Mを吹付けるべき法面Sの領域R側)に向かって噴射(噴霧)されるように構成されている。
【発明の効果】
【0019】
上述の構成を具備する本発明によれば、吹付け材(M:例えばモルタル)を吐出(噴射)すると同時に、吹付けノズル(2)の周囲に配置された液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズル)から水(液体L)を噴霧し、その範囲を下側の領域のノズル(例えば、図5で示す円環状部材3の水平方向中心線を起点に、−30°〜−150°の範囲に配置された液体用噴射ノズル4)に限定することにより、吹付け直前に噴霧すべき領域(R)のみに水が噴霧され、吹付け直後のモルタルに水を直接掛けてしまうことはない。そして、水が吐出(噴霧)された箇所を追いかけるようにして吹付け材(M)が吹付けられるので、吹付け直前の領域(R)に必要量の撒水を行なうことが出来る。
そのため、吹付け面である法面(S)が乾燥していても、吹付け材(M)中の水分が法面(S)に吸水されることがなく、吹付けたモルタルの品質は低下せず、吹付けられたモルタル被覆層にクラックが発生するのを抑制することが出来る。
これにより、撒水が必要な法面(S)において、単独の作業者により吹付けと撒水を同時に確実に行うことが可能となり、施工能率、経済性を低下せず、しかも、モルタルが吹付けられたモルタル被覆層について所望の品質を維持することが出来る。
【0020】
そして本発明によれば、吹付け材(M:例えばモルタル)を吐出(噴射)すると同時に、吹付けノズル(2)の周囲に配置された液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズル)から、水或いはリバウンド低減材(液体L)を吐出(噴霧)することが出来る。
すなわち、水或いはリバウンド低減材は、液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズル)から霧状に吐出される(噴霧される)ので、吹付けノズル(2)から噴射した吹付け材(M)が(噴霧された)水或いはリバウンド低減材の霧の中を通過する際に、吹付け材(M)の表面に確実に水或いはリバウンド低減材を纏わせることができる。
水(液体L)が纏わり付くことにより、吹付け材(M)の粒子表面が濡れて、吹付け材(M)が法面(S)に付着し易くなって、リバウンドが減少する。或いは、吹付け材(M)の粒子表面に纏わり付いた増粘材や急結材(液体L)により、リバウンドが抑制される。
リバウンドが抑制される結果として、吹付け層の厚さが所定の厚さにならない事態が防止され、リバウンドした吹付け材(M)が落ちた場所(吹付け材Mが跳ねた場所)の品質が低下してしまう事態が防止される。
【0021】
本発明において、液体用噴射ノズル(4)の噴射角度を円環状部材(3)のやや半径方向内側(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)に向けることにより、吹付けノズル(2)から吹付けられた吹付け材(M)が、確実に、噴霧された水或いはリバウンド低減材(液体L)の霧の中を通過して、吹付け材(M)表面にリバウンド低減材を纏わせることが出来る。
また本発明を植生基盤材吹付け工法に適用する場合において、複数の液体用噴射ノズル(4)の一部のノズルの向き(噴射方向)を円環状部材(3)の半径方向内側(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)にして、他のノズルの向き(噴射方向)を法面(S)側(吹付け材Mを吹付けるべき法面Sの領域R側)にすることにより、吹付け材のリバウンドの抑制と、粉塵対策を同時に達成することが出来る。
【0022】
上述したように、本発明によれば、モルタル吹付け工法において、リバウンド低減材(液体L)を吹付けノズル内部で混入、添加する必要が無くなるので、ノズル内の流路を閉塞してしまう危険性が無くなる。したがって、施工性を落とさずにリバウンドの低減材の使用が可能となる。
また、植生基盤材吹付け工法においては、吹付けノズル(2)の周囲に配置された液体用噴射ノズル(4:円環状部材3に配置されたノズルで吹付けノズル(2)の外側に配置されたノズル)で水(液体L)を添加するので、吹付けノズル(2)から噴射する以前の段階で吹付け材(M)に水を添加することを考慮する必要がなくなる。すなわち、水を添加して植生基盤材が法面に付着させるため、水を添加することを考える必要がない。そのため、圧送に適当な含水量の植生基盤材をそのまま圧送することが出来る。
その結果、添加する水量を考慮することなく、閉塞しない程度の含水量で吹付け材(M)を圧送すればよいので、施工性が向上する。
それに加えて、上述した通り、リバウンドを大きく低減することができて、粉塵の発生も軽減できるので、吹付け工法の施工現場における作業環境が大幅に向上する。
【0023】
上述したように、本発明によれば、吹付けノズル(2)の周辺部に取り付けた円環状部材(3)から水(液体L)を噴霧しているので、吹付けられた植生基盤材中の含水量を多くして、植生基盤材中の種子の発芽を促進することが出来る。
すなわち、吹付(材料吐出)と同時に、液体用噴射ノズル(4)から水を噴霧することにより、植生基盤材の含水量における制限(含水量が多くなることにより、植生基盤材の粘性が増加して圧送経路が閉塞する恐れを無くするため、含水量を所定量以下にすること)が存在しても、吹付け工法の施工性に影響を与えず、法面(S)に吹付けられた植生基盤材の含水比を大きく増加させることができる。その結果、混合した種子の早期発芽・生育が期待できるようになる。
また、種子の休眠打破処理や種子の吸水処理と併用して、発芽を促進することが可能となる。
【0024】
さらに本発明によれば、吹付けノズル(2)の周辺部に取り付けた円環状部材(3)から水(液体L)を噴霧することにより、吹付け材(M)中に包含されている粉体タイプの接合剤が効果を発現するのに十分な水を、吹付け材(M)に対して添加することが出来る。
上述したように、本発明によれば、植生基盤材の含水量における制限が存在しても、吹付け工法の施工性に影響を与えず、法面(S)に吹付けられた植生基盤材の含水比を大きく増加させることができるので、粉体タイプの接合剤の反応が進み、早期に侵食防止効果が発揮されるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の実施形態の概要を示す説明図である。
図2】本発明の実施形態に係る吹付けノズル装置の側面図である。
図3図2で示す吹付けノズル装置の正面図である。
図4】実施形態に係る吹付けノズル装置の要部を示す説明図である。
図5】実施形態に係る吹付けノズル装置の作用効果を説明する正面図である。
図6図5と共に作用効果を説明する側面図である。
図7図5図6とは異なる作用効果を説明する側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。
図1において、全体を符号1で示す吹付けノズル装置では、符号2で示す部分から吹付け材用の吹付けノズルから吹付け材Mを噴射すると同時に、その周辺部(吹付け材Mの噴射箇所2の半径方向外方の領域)の符号4で示す箇所から液体Lを噴射する様に構成されている。ここで液体Lは、水やリバウンド低減材等であって、吹付け材Mに添加するのが好適な液体である。
吹付けノズルの周辺部4から噴射される液体(L:水やリバウンド低減材等)は、例えばジェット噴流のような勢いが強い噴流として噴射されるのではなく、霧状に噴霧されている。そのため、吹付け材M(モルタルや植生基盤材)は、周辺部4から噴霧される液体L(水、リバウンド低減材等)により分断されたり、ダメージを受けることはない。
【0027】
図1で示す状態を実現するため、図示の実施形態は図2図3で示す様な構造となっている。
図1において符号2で示す部分は、図2図3において、吹付け材M(例えば、モルタルや植生基盤材等)を噴射するための吹付けノズルである。そして図1において符号4で示す部分は、図2図3において、円環状部材3に配置された複数の液体用噴射ノズル(円環状部材3に配置されたノズル)である。
吹付けノズル2の周辺部(半径方向外方)には金属製の円環状部材3が設けられており、円環状部材3には液体用噴射ノズル4が取り付けられている。
【0028】
図3では、円環状部材3上には液体用噴射ノズル4の取付箇所が6箇所形成されており、当該6個の取付箇所には、3つの液体用噴射ノズル4と、3つのプラグ5が取り付けられている。
ここでプラグ5は、液体用噴射ノズル4が取り付けられていない箇所を塞ぐために設けられている栓部材であり、液体用噴射ノズル4が取り付けられていない箇所から水やリバウンド低減材等が漏出してしまうことを防止している。
【0029】
円環状部材3には配管コネクタ7を介して液体供給系統6が接続されており、液体供給系統6、円環状部材3を介して液体用噴射ノズル4に液体L(図1参照:水、リバウンド低減材)を供給している。なお円環状部材3には、液体供給配管6と複数の液体用噴射ノズル4を連通する供給配管(図示せず)が設けられている。
図示はされていないが、吹付けノズル2は図示しない吹付け材供給源と連通しており、吹付け材Mが供給される。また、液体供給配管6は図示しない液体供給源(図示せず)に連通しており、水やリバウンド低減材等が供給される。
【0030】
図3で明示されているように、液体用噴射ノズル4は、吹付けノズル2の半径方向外方において、円環状部材3上に、円環状部材3及び吹付けノズル2の中心点における中心角が60°毎になる様に(等間隔にて)、6箇所配置されている。換言すれば、円環状部材3には、液体用噴射ノズル4の取付箇所が6箇所形成されており、吹付け工に際しては、水やリバウンド低減材等の噴霧が必要な箇所にのみ液体用噴射ノズル4を取り付け、他の箇所はプラグ5で閉塞している。そして、液体用噴射ノズル4またはプラグ5が取り付けられている箇所(液体用噴射ノズル4の取付箇所)には、液体供給配管6からの図示しない供給系統(図示せず)が連通している。
図3の例では、液体用噴射ノズル4は、6個の取付箇所のうち1箇所おきに3箇所に取り付けられており、他の3箇所はプラグ5で閉塞されている。図示の実施形態はそれに限るものではなく、図3の円環状部材3の下半分の3箇所にのみ液体用噴射ノズル4を取り付け、上半分の3箇所をプラグ5で閉塞する場合も存在する。或いは、全ての取付箇所に液体用噴射ノズル4を取り付ける場合も存在する。
【0031】
明確には図示されていないが、液体用噴射ノズル4には、ボールジョイント機構(図示せず)により円環状部材3に取り付けられている。そのため、液体Lの噴霧方向を自在に設定できる。液体用噴射ノズル4からの噴霧の方向については、図4以下を参照して後述する。
なお、図2において、液体供給配管6が接続している配管コネクタ7は直角に折れ曲っているが、液体用噴射ノズル4から噴霧される液体(L:水やリバウンド低減材等)は比較的吐出圧が低いので、配管コネクタ7で折れ曲ることによる損失(流体抵抗)は無視することができる。
【0032】
ノズル装置1の具体的な構造について、図4を参照して、さらに説明する。
図4において、円環状部材3には円環状のブラケット10が取り付けられており、当該ブラケット10を介して円環状部材3は吹付けノズル2に取り付けられている。環状のブラケット10の端面10eは溶接wにより円環状部材3に固着されており、環状のブラケット10は締結部材11により吹付けノズル2に固定されている。
図4の例では、円環状部材3には、液体用噴射ノズル4が取り付けられているとともに、プラグ5で閉塞された取付箇所が存在している。
図4において、液体供給配管6は液体ホース8、液体ホース8に介装された開閉バルブ9を備えている。
【0033】
図示はされていないが、液体用噴射ノズル4はボールジョイント機構を有しており、液体Lを霧状に噴射する方向(噴霧方向)を自在に変更する機能を有している。
例えば、液体Lの噴射(噴霧)方向は、液体用噴射ノズル4の中心軸LCに対して45°〜60°の範囲(符号θ)内において、各々の液体用噴射ノズル4で独立に設定可能である。
【0034】
次に、図5図7を参照して、図1図4で示すノズル装置1の作用効果を説明する。
最初に、図5図6を参照して、モルタル吹付け工における吹付け面が乾燥して吸水性が高い場合における撒水について、図1図4で示すノズル装置1を適用した場合を説明する。この場合、液体用噴射ノズル4から噴霧される液体Lは水である。
図5で示すように、吹付け面が乾燥して吸水性が高い場合における撒水に図示の実施形態を適用する場合には、液体用噴射ノズル4は円環状部材3上の6箇所の取付箇所の内、下半分(図5では水平線Hよりも下方の領域)の3箇所にのみ取り付けられ、他の3箇所の取付箇所(図5では水平線Hよりも上方の領域の取付箇所)はプラグ5で塞がれている。
【0035】
図5において、3つの液体用噴射ノズル4は、液体用噴射ノズル4の中心を通り、円環状部材3の半径方向に延在する直線(図5では一点鎖線で示す)が水平線Hとの為す角度が、−30°〜−150°の範囲に配置されている。ここで、「−」は、3つの液体用噴射ノズル4が水平線Hに対して下方に位置していることを意味している。
換言すれば、図5で示す3つの液体用噴射ノズル4は、水平方向中心線Hを起点に、−30°〜−150°の範囲に配置されている。
【0036】
図5図6において、円環状部材3の下半分(図5では水平線Hよりも下方の領域)に取り付けられた3箇所の液体用噴射ノズル4の各々は、図示しないボールジョイント機構により、水L(図6)を噴霧する方向は、円環状部材3の半径方向外側の方向となっており、吹付け面S(図6)に水Lが噴霧される領域R(図6)が、吹付け面SにモルタルMが吹き付けられている領域MSよりも下方(図6では左下方向)となる様に設定される。
なお、前記3つの液体用噴射ノズル4における水Lの噴霧方向は、それぞれ異なっている。
【0037】
図6において、モルタル吹付け工の対象となる法面S(吹付け面)に対して、吹付けノズル装置1の吹付けノズル2から、モルタルMが吹き付けられている。図6では、モルタルMが吹き付けられている領域が、符号MSで示されている。
モルタルMの吹き付けと同時に、吹付けノズル2の周囲に配置された液体用噴射ノズル4(図5において、水平線Hの下方の領域における3個の液体用噴射ノズル4)からは、それぞれ水Lが、法面Sの少し下方(図6では左下方向)の領域Rに向けて噴霧されている。
ここで、モルタル吹付け工では、モルタルMの吹付けは、法面Sの上方から下方に向かって、図6の矢印A方向に吹付けを行っている。そのため、図6で示すように、モルタルMの吹付けと水Lの噴霧を同時に行うと、領域Rに先行して水Lが噴霧された直後に、モルタルMが当該領域Rに吹付けられることになる。
【0038】
そのため、図6で示すようにモルタルMの吹付けと水Lの噴霧を行えば、水Lが噴霧された直後に、水Lの噴霧を追いかけるようにして、水Lを噴霧した領域RにモルタルMが吹付けられるので、モルタルMを吹付ける直前の領域に、法面SがモルタルMから水分を吸収しない様にせしめる程度の撒水、すなわち必要量の撒水を行なうことが出来る。
そのため、吹付け面である法面Sが乾燥していても、吹付け材M中の水分が法面Sに吸水されることがなく、充分な保湿状態が実現でき、吹付けたモルタル等の品質が低下して、吹付けられたモルタルの被覆層にクラックが発生するのを抑制することが出来る。
また、吹付けられた直後のモルタルM(領域MSを被覆しているモルタル)に水Lが噴霧されてしまうことはなく、吹付けられた直後のモルタルMに撒水されて、モルタル吹付け箇所のモルタルが流出して、当該箇所の品質が低下してしまうことはない。
【0039】
さらに、単一のノズル装置1によりモルタルMの吹付けと水Lの噴霧が行われるので、撒水が必要な法面Sにおいて、単独の作業者によってモルタルMの吹付けと水Lの噴霧を確実に行うことが出来る。
その結果、モルタルMの吹付けを行う作業者と撒水する作業者の2名で作業を行う必要はなく、施工能率、経済性を低下させてしまうことも防止出来る。
【0040】
図7は、主として、吹き付け材のリバウンド低減という課題を解決するために、図示の実施形態を用いた場合について説明している。
図7で示す吹付け工においては、吹付けノズル装置1の吹付けノズル2からは、モルタル、植生基盤材等が法面Sに向けて吹付けられる。それと同時に、吹付けノズル2の半径方向外方の領域の液体用噴射ノズル4(図7の場合には、円環状部材3上の6箇所に取付けられた6個の液体用噴射ノズル4)からは、液体Lとして、リバウンド低減材が噴霧される。
上述した様に、リバウンド低減材は、モルタルに対しては例えば増粘剤、急結材であり、植生基盤材に対しては例えば水である。
【0041】
図7では、液体用噴射ノズル4からの噴霧方向は、図示しないボールジョイント機構により、円環状部材3の半径方向内方(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)に適切な角度で向かっていく方向に設定されている。霧状に噴射(噴霧)されたリバウンド低減材Lと噴射された吹付け材Mとが、確実に混合し合うようにするためである。
なお図7において、6個の液体用噴射ノズル4の全てからリバウンド低減材Lを噴霧しても良いし、施工現場の状況に応じて5個以下の液体用噴射ノズル4のみを使用しても良い。
【0042】
図7において、吹付けノズル2から法面Sに向かって吹付けられた吹付け材M(例えば、モルタル、植生基盤材)は、噴霧されたリバウンド低減材Lの霧の中を通過する際に、(吹付け材Mの)表面がリバウンド低減材Lの微小な粒子を纏い、或いは、吹付け材Mの表面或いはその一部がリバウンド低減材Lの微小粒子で被覆される。
吹付け材Mの表面にリバウンド低減材Lの微小粒子が纏わり付く(吹付け材Mの表面或いはその一部がリバウンド低減材Lの微小粒子で被覆される)ことにより、吹付け材Mが法面Sに衝突した際に吹付け材Mとリバウンド低減材Lが混合され、リバウンドが減少する。例えば、吹付け材Mがモルタルであり、リバウンド低減材Lが増粘材或いは急結材等であれば、モルタルMが法面Sに付着し易くなるので、リバウンドが低減(抑制)される。
リバウンドが抑制される結果として、吹付け材Mのリバウンドにより吹付け層の厚さが所定の厚さにならない事態が防止され、リバウンドした吹付け材Mが付着した場所(吹付け材Mが跳ねた場所)の品質が低下してしまう事態も防止される。
【0043】
図7において、吹付け材Mが植生基盤材の場合、リバウンド低減材Lとして水を添加すれば、水が霧状に噴霧された領域を植生基盤材が通過する際に、植生基盤材の表面にリバウンド低減材Lの微小粒子が纏わり付く(吹付け材Mの表面或いはその一部がリバウンド低減材Lの微小粒子で被覆される)。
植生基盤材の表面にリバウンド低減材Lの微小粒子が纏わり付くことにより、法面Sに吹き付けられた際に植生基盤材が含水され、植生基盤材に水が添加された場合と同様に、リバウンド防止効果が生じる。
【0044】
図7では、全ての液体用噴射ノズル4からリバウンド低減材Lが吹付け材Mの方向に噴霧されているが、液体用噴射ノズル4の一部(例えば、図5の水平線Hよりも上方の領域における3箇所の液体用噴射ノズル4)の向きは半径方向内側(吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材M側)であるが、他の液体用噴射ノズル4(例えば、図5の水平線Hよりも下方の領域における3箇所の液体用噴射ノズル4)からの噴霧方向を、円環状部材3の半径方向外側で法面S側(噴霧された水Lが吹付けノズル2から吹付けられた吹付け材Mとは交じり合わない方向)にしても良い。
例えば、吹付け材Mが植生基盤材である場合に、液体用噴射ノズル4の一部から噴霧される水が法面Sに直接噴霧されれば、粉塵対策に有効である。従って、吹き付けられた植生基盤材のリバウンド抑制と、粉塵対策を同時に達成することが出来る。
【0045】
図7で示す様にノズル装置1で吹付け工を行えば、リバウンド低減材Lを吹付けノズル2内部で混入、添加する必要が無くなるので、吹付け材Mの粘性の増加による圧送性の低下や、吹付け材Mの固結による吹付けノズル2内の流路閉塞が防止される。
しかも、吹付け材Mの表面にリバウンド低減材Lの微小粒子が纏わり付く(吹付け材Mの表面或いはその一部がリバウンド低減材Lの微小粒子で被覆される)ため、リバウンドが確実に低減される。
その結果、施工性の向上と、リバウンド抑制が同時に達成される。
【0046】
図7において、液体用噴射ノズル4から水を噴霧した場合には、吹付けノズル2から吹付け材Mを噴射する以前の段階で、吹付け材Mに水を過剰に添加する必要がなくなる。その結果、圧送されている吹付け材Mが植生基盤材である場合に、植生基盤材の粘性を増加することが無く、ホース等を閉塞する恐れもない。その結果、圧送に適当な含水量に調整された吹付け材M(モルタル、植生基盤材)を、当該適当な含水量のまま圧送することが出来て、施工性が向上する。
それに加えて、上述した通り、リバウンドを大きく低減することができて、粉塵の発生も軽減できるので、吹付け工法の施工現場における作業環境が大幅に改善される。
【0047】
図7において、上述したように、吹付けノズル2の周辺部に配置された複数の液体用噴射ノズル4から水を噴霧して、吹付け材Mが法面Sに吹き付けられた際に、その含水量を多くすることが出来る。
従って、吹付け材Mが植生基盤材であれば、液体用噴射ノズル4から水を噴霧することにより、法面Sに吹き付けられた際における植生基盤材中の含水量を多くして、植生基盤材中の種子の発芽を促進することが出来る。
その場合、上述した様に植生基盤材が吹付けノズル2に供給されるまでの間に含水量を多くする必要はなく、圧送経路において植生基盤材の粘性が増加することが防止され、それに起因する圧送経路の閉塞が防止される。
ここで、種子の休眠打破処理や種子の吸水処理と併用すれば、さらに発芽が促進される。
【0048】
さらに吹付け材Mが植生基盤材であれば、図7において、吹付けノズル2の周辺部に配置された複数の液体用噴射ノズル4から水を噴霧して、植生基盤材が法面Sに吹き付けられた際における含水量を多くすることが出来る。
そのため、植生基盤材中に粉体タイプの接合剤が包含されていれば、粉体タイプの接合材が効果を発現するのに充分な水が、法面Sに吹き付けられた植生基盤材には含まれている。そのため、粉体タイプの接合剤の反応が進行して、早期に侵食防止効果が発揮され、降雨による植生基盤材の侵食が防止される。
【0049】
図示の実施形態はあくまでも例示であり、本発明の技術的範囲を限定する趣旨の記述ではないことを付記する。
例えば、図示の実施形態では、円環状部材3には液体噴射ノズル4の取付箇所が6箇所形成されているが、5箇所以下であっても、7箇所以上であっても良い。円環状部材3における液体噴射ノズル4の取付箇所の個数については、特に限定するものではない。同様に、図7における液体噴射ノズル4の個数も特に限定されるものではない。
また図6では円環状部材3に3つの液体噴射ノズル4を取り付けて水Lを噴霧しているが、図6で示す場合においても、液体噴射ノズル4の個数は3個に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0050】
1・・・吹付けノズル装置
2・・・吹付けノズル
3・・・円環状部材
4・・・液体用噴射ノズル
5・・・プラグ
6・・・液体供給系統
7・・・配管コネクタ
8・・・液体ホース
9・・・開閉バルブ
10・・・ブラケット
11・・・締結部材
M・・・吹付け材(モルタルや植生基盤材等)
L・・・液体(水、リバウンド低減材等)
S・・・法面(吹付け面)
R・・・吹付け材を吹付けるべき領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7