【実施例】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施例を詳細に説明する。
図1は本発明の一実施例(実施例1)に係る車両用シートの概略斜視図を示す。また、
図2(A)はシートから分離された本発明の一実施例(実施例1)におけるシートクッションの平面図、(B−1)〜(B−3)は隔離表皮を介在させた場合、(C−1)〜(C−3)は隔離表皮を介在させない場合での本発明の一実施例(実施例1) における牽引手段を異にする具体例の模式図をそれぞれ示す。
なお、前後は、ドライバーシートに着座したドライバーから見た方向をいい、適宜、Fr、Rrで示す。また、左右方向は前後方向と直交する方向をいう。
【0021】
図1に示すように、車両用シート10は、シートクッション12と、シートクッションの後端に設けられたシートバック14とを有して構成され、ヘッドレスト14hがシートバック上端部に設けられている。そして、シートベルト15、たとえば、三点式シートベルトがシート10に装備され、着座者はシートベルトによってシートに拘束される。なお、参照符号12sはシートクッション側部の土手部(盛上り部;左右の側部)を示す。
【0022】
シートクッション12、シートバック14の基本的な構造は周知であり、たとえば、
図2(A)(B−1)(C−1)に示すように、シートクッションは骨格となるシートフレーム12fにシートパッド(クッション部材)12pを載せ、トリムカバー(表皮)12cでシートパッドを被覆して形成されている。たとえば、Sばねからなる略矩形のばねアッセンブリー12f’がシートフレームの左右のサイドフレーム間に架設されてシートフレームの一部を構成し、ばねアッセンブリーにシートパッドが載せられている。シートバック14も同様の構成をしている。
三点式シートベルト(シートベルト)15は公知のものであり、本発明の要部でないため、その詳細は省略する。
【0023】
シートクッションのトリムカバー12cは、シートクッションの左右の側部12sから分離された中央片12c’を有し、中央片は前後方向でシートパッド12pを周回して巻装された帯状に形成されている。
図2(B−1)〜(B−3)に示すように、隔離表皮16が、トリムカバーの帯状の中央片(帯状中央片)12c’、シートパッド12pの間に配置され、その前端16f、後端16rが固定されている。実施例では、隔離表皮の前端16fはシートパッド12pの下面に、後端16rはばねアッセンブリー12f’の下面にそれぞれ固定されているが、前端、後端を固定する構成はこれに限定されない。
【0024】
隔離表皮16は、トリムカバーの帯状中央片12c’をシートパッド12pから隔離して、隔離表皮を介在したシートパッド上での帯状中央片の滑動を可能としている。隔離表皮16は摩擦抵抗の小さな布素材、たとえば、トリムカバーの帯状中央片に接する面(上面)が滑面の布素材から成形される。トリムカバーの帯状中央片12c’に接する面にシリコンスプレー、粉末減摩剤などの摩擦軽減剤が塗布あるいは浸透された布素材から、隔離表皮16を成形してもよい。
隔離表皮16によって帯状中央片12c’はシートパッド12pから隔離されるため、帯状中央片を牽引すれば、シートパッド上で帯状中央片が滑動(移動)される。これに対して、隔離表皮の前端16f、後端16rが固定されているため、隔離表皮16は移動不能であり、シートパッド上をトリムカバーの帯状中央片と一体的に滑動しない。
【0025】
また、トリムカバーの帯状中央片12c’に接するシートパッド12pの面にシリコンスプレーなどの摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透させてもよい。この場合には、
図2(C−1)〜(C−3)に示すように隔離表皮16は省略され、トリムカバーの帯状中央片12c’は隔離表皮を介することなくシートパッド上を滑動する。
【0026】
図3は車両用シートの制御系の概略ブロック図を示す。
図3に示すように、シート10は、牽引手段20、圧力検出手段22、衝突検出手段24、衝突検知手段26、中央制御手段28を備えている。
牽引手段20は、たとえば、(1)プリテンショナー、(2)ソレノイド、引張コイルばね、(3)モータ、駆動ローラなどを備えて構成され、シートクッションの裏側に配置されて、トリムカバーの帯状中央片12c’を牽引する。
【0027】
隔離表皮16を介在させた
図2(B−1)〜(B−3)、隔離表皮を省略した
図2(C−1)〜(C−3)は、牽引手段20をそれぞれ異にしている。
すなわち、
図2(B−1)(C−1)ではプリテンショナーを牽引手段とし、
図2(B−2)(C−2)ではソレノイド、引張コイルばねの組合せを牽引手段とし、
図2(B−3)(C−3)ではモータ、駆動ローラの組合せを牽引手段としている。プリテンショナーなどからなる牽引手段の詳細は後述する。
【0028】
圧力検出手段22は、たとえば、
図2(A)に示すように、前後、左右に分散してシートパッド12pに配置された一連の圧力センサーからなり、シートパッドに加わる着座者の圧力分布を検出する。
衝突検出手段24は、たとえば、車両のフロントグリルなどの車両前部やシートバックに設けられた加速度センサーからなり、加速度の変化から車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態を検出する。
衝突検知手段26は、たとえば、フロントグリルなどの車両前部に設けられた光センサーからなり、前方の障害物(先行車両を含む)との距離をレーザー光で計測して前方障害物との衝突の危険を予知する。
【0029】
中央制御手段28は、たとえばCPU(Central Processing Unit)、MPU(Micro Processing Unit)などからなるECU(エンジンコントロールユニット;Engine Control Unit)であり、牽引手段20、圧力検出手段22、衝突検出手段24、衝突検知手段26の動作などを制御する。
たとえば、圧力センサー(圧力検出手段)22、加速度センサー(衝突検出手段)24、光センサー(衝突検知手段)26が検出、計測したデータ(圧力データ、加速度データ、距離データ)は、中央制御手段28に出力される。そして、中央制御手段28が、圧力データから浅座りを、加速度データから車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態を、距離データから前方障害物との衝突の危険を判断し認識すると、対応した制御を即座に行う。すなわち、中央制御手段28は牽引手段20を駆動し、トリムカバーの帯状中央片12c’を後方に牽引して、シートバック側に深く腰掛けた着座位置まで着座者を後方に移動させて、浅座り状態の着座姿勢を是正する。
【0030】
(1)プリテンショナー、(2)ソレノイド、引張コイルばね、(3)モータ、駆動ローラを備えた牽引手段について以下に説明する。
図4、
図5は、プリテンショナーを備えた牽引手段を具備するシートクッションの側面図、底面図をそれぞれ示す。
【0031】
実施例では、シート10はシートスライド装置122に積載されて前後方向にスライド可能とされ、シートスライド装置の左右の可動レール122aに連結ロッド122bが架設されている。そして、プリテンショナー120を備えた牽引手段20−1は連結ロッド122bに沿って連結ロッドに取付けられている。参照符号122cはシートスライド装置の固定レールを示す。
【0032】
プリテンショナー120の構成は公知であり、その基本的な構成を簡単に述べると、インフレーターによって高圧ガスを発生させ、高圧ガスをシリンダに供給してピストンをシリンダ内に引き込み、ピストンに連結されたワイヤ120aを引くように構成されている。実施例では、プリテンショナーのワイヤ120aはシートクッション12の裏側でトリムカバーの帯状中央片12c’に連結されている。そのため、プリテンショナー120が駆動してワイヤ120aが引かれると、帯状中央片12c’の上面が矢視のように後方に牽引される(
図2(B−1)(C−1)、
図4参照)。
【0033】
プリテンショナーのワイヤ120aをトリムカバーの帯状中央片12c’に連結する構成について
図4、
図5を参照しながら以下に詳細に述べる。
実施例では、トリムカバーの帯状中央片12c’の前後の端12c’−fe、12c’−reは連結プレート30を介在してプリテンショナーのワイヤ120aに連結されている。
たとえば、連結プレート30は、前側に頂部を、後側に麓部を持ち、頂部が左右一方にずれて位置する非対称の山形形状で、その麓部が左右方向でトリムカバーの帯状中央片12c’の幅よりも大きく形成されている。もちろん、非対称でなく、左右に対称な山形形状に連結プレート30を形成してもよいし、山形形状以外の形状としてもよい。
【0034】
帯状中央片12c’の幅よりも長い左右方向の長溝30aが連結プレート30の麓部に形成され、帯状中央片の後側の端12c’−reは、連結プレートの長溝30aを挿通して折り返されて重ね合わされ、その重ね合わせ部が縫合されている。また、複数のフック30bが帯状中央片の前側の端12c’−feに取付けられて長溝30aに係止され、それによって、帯状中央片の前後の端が連結プレート30を介して接続されて、帯状中央片12c’が成形されている。
【0035】
孔付の連結具120bがプリテンショナーのワイヤ120aの先端に取付けられている。また、係止孔30cが連結プレート30の頂部に形成され、連結片120c、たとえば、タイラップが連結具の孔、連結プレートの係止孔に挿通されて、プリテンショナーのワイヤ120a、帯状中央片12c’が連結プレートを介在して連結されている。
もちろん、プリテンショナーのワイヤ120a、帯状中央片12c’を連結する連結片120cはタイラップに限定されない。
【0036】
なお、
図4において、参照符号16aは隔離表皮の後端16rに取付けられたフックを示し、このフックがばねアッセンブリー12f’に係止されることによって、隔離表皮の後端がばねアッセンブリーに固定されている。
【0037】
圧力センサー22が検出した圧力データから浅座りと中央制御手段28が認識し、さらに、加速度センサー24、光センサー26が検出、計測したデータ(加速度データ、距離データ)から、車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態、または、前方障害物との衝突の危険を認識すると、中央制御手段はプリテンショナー20−1を駆動させる。
【0038】
プリテンショナー120が駆動されると、インフレーターが作動し、高圧ガスが発生してワイヤ120aを引く。プリテンショナーのワイヤ120aが引かれると、強力な引張力(牽引力)のもとで、帯状中央片12c’の上面は後方に牽引される。帯状中央片12c’の上面が後方に牽引されると、帯状中央片上でシートクッション12に着座する着座者は、帯状中央片の牽引に伴って後方に移動する。
【0039】
上記のように、シートクッションのトリムカバーの帯状中央片12c’は、
図2(B−1)に示すように、隔離表皮16で隔離されてシートパッド12pを周回して巻装されているため、プリテンショナー120によって距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
または、
図2(C−1)に示すように、トリムカバーの帯状中央片12c’に面する表面に摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透したシートパッド12pを周回して、帯状中央片が巻装されているため、距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
【0040】
そのため、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座するまで着座者を迅速に後方に移動させることができ、浅座り状態の着座姿勢が容易に是正される。そして、着座姿勢が是正されてシートバック側に深く腰掛けて着座することにより、サブマリン現象に対してシートベルト15が拘束性能を十分に発揮して有効に機能する。
【0041】
自重でシートクッション12に沈んだ着座者は、牽引されて張力の増したトリムカバーの帯状中央片12c’によって持ち上げられて後方に移動する。
特に、プリテンショナー120を牽引手段20−1とした構成では、プリテンショナーの駆動によって強力な牽引力が帯状中央片12c’に加わり、大きな張力が帯状中央片12c’に作用する。そのため、重量のある着座者であっても、沈んだ状態から持ち上げられて後方に円滑に移動される。
【0042】
実施例では、帯状中央片12c’の幅よりも長い連結プレートの長溝30aを介して、帯状中央片12c’の前後の端12c’−fe、12c’−reが接続されている。さらに、プリテンショナーのワイヤ120a、帯状中央片12c’が連結プレート30を介在して連結されている。そのため、プリテンショナー20−1が駆動してワイヤ120aが引かれると、帯状中央片12c’は幅方向に均一な張力のもとで牽引され、着座者は浅座りの着座位置からートバック側に深く腰掛けた着座位置まで円滑に移動される。
また、トリムカバー12c(正確にいえば、トリムカバーの帯状中央片12c’)を牽引しているにすぎないため、着座姿勢是正のための構成を小型化できる。
【0043】
図6、
図7、
図8は、ソレノイド、引張コイルばねを備えた牽引手段を具備するシートクッションの側面図、底面図、一部破断の側面図をそれぞれ示す。なお、
図6、
図7では引張コイルばねが伸長状態に保持され、
図8では伸長状態が解除されて引張コイルばねは縮退している。
【0044】
ソレノイド、引張コイルばねを備えた牽引手段を具備するシートクッションにおいて、プリテンショナーを牽引手段とするシートクッションと共通する部材については同じ参照符号を付してその説明を省略し、異なる構成を主として説明する。
ソレノイド222、引張コイルばね224の組合せを牽引手段20−2とする実施例においては、引張コイルばねは、トリムカバーの帯状中央片12c’、シートスライド装置の連結ロット122bの間に伸長状態で架設され、ソレノイドによる規制のもとで帯状中央片を牽引可能に構成されている。
【0045】
すなわち、連結具120b’の孔120b’−1は、ソレノイドのプランジャ222aが挿通されるように、上記の連結具120bの孔よりも大きく形成されている。
ソレノイド222はシートクッション12の裏側でシートフレーム12fの下面に取付けられている。そして、ソレノイド222はばねを内蔵し、その付勢力によってソレノイドのプランジャ222aが突出し、連結具の孔120b’−1に挿通されて、連結具の孔、つまりは連結具120b’に係止される。また、引張コイルばね224は引張られ、十分に伸長されて引張力を生じた状態で、一端が連結片120cとは逆側で連結具の孔120b’−1、つまりは連結具120b’に係止され、他端は左右の可動レール122aの間の連結ロッド122bに係止されている。いうまでもなく、引張コイルばね224の両端はいずれもフック形状であるため、連結具120b’、連結ロッド122bに容易に係止できる。
なお、
図7において、連結具120b’の孔形状が隠されているため、矢視のように連結具を取り出して連結具の孔形状を明確化している。
【0046】
たとえば、以下のようにして伸長状態の引張コイルばね224が設定される。
先ず、引張コイルばね224の一方の端を連結ロッド122bに係止するとともに、プランジャ222aを連結具の孔120b’−1に挿通させる。それから、引張コイルばねを引張り、伸長させながら他方の端を連結具の孔120b’−1を挿通させれば、伸長状態の引張コイルばね224が設定される。
図6、
図7では、ソレノイドのプランジャ222aが連結具の孔120b’−1を挿通されて、引張コイルばね224が伸長状態に保持されている。
【0047】
上記のように、プランジャ222aは、ソレノイドに内蔵されたばねの付勢力によって突出されているため、プランジャ222aは引張コイルばね224の引張力に抗して連結具の孔120b’−1に挿通する状態が維持され、押し戻されるおそれはない。
【0048】
中央制御手段28が着座者は浅座りの状態にあると認識し、さらに、車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態または前方障害物との衝突の危険を認識すると、中央制御手段はソレノイド222への通電信号を出力し、その信号を受けてソレノイドが通電され、発生した磁力のもとでばねの付勢力に抗してプランジャ222aはその突出位置から吸引される。
【0049】
突出位置から吸引されると、プランジャ222aは連結具の孔120b’−1から抜け出し、離脱する。すると、引張コイルばね224は、
図8に矢視するように減縮し、引張力が連結具120b’を介して連結プレート30に作用してトリムカバーの帯状中央片12c’を牽引し、帯状中央片の上面は
図2(B−2)(C−2)、
図6で矢視するように後方に牽引される。
【0050】
隔離表皮16をトリムカバーの帯状中央片12c’、シートパッド12pとの間に介在した構成(
図2(B−2)参照)、および、シートパッドの表面に摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透させて隔離表皮を省略した構成(
図2(C−2)参照)のいずれにおいても、帯状中央片は距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
そのため、いずれの構成においても、牽引されて張力の増した帯状中央片12c’は、自重で沈んだ状態から着座者を持ち上げ、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座させる位置まで移動して、浅座り状態の着座姿勢が是正される。したがって、サブマリン現象に対してシートベルト15は拘束性能を十分に発揮して有効に機能する。
【0051】
ソレノイド222、引張コイルばね224の組合せを牽引手段20−2とする構成では、ソレノイドから突出したプランジャ222aを連結具の孔120b’−1に挿通させることにより、引張コイルばねの伸長状態に再度設定でき、牽引手段を繰り返し利用できる。
【0052】
ここで、ソレノイド222は、引張コイルばね224を拘束して引張コイルばねによる帯状中央片12c’の牽引を規制しており、規制部材として機能している。しかし、規制部材は、通常時は引張コイルばね224を拘束して帯状中央片12c’の牽引を規制し、浅座りの状態に加えて車両の緊急事態などを認識した非常時には、引張コイルばねの拘束を解除して帯状中央片の牽引を可能とするものであれば足り、ソレノイドに限定されない。
たとえば、ソレノイド222のプランジャ222aを突出させる代わりに、シリンダからピストンを突出させて帯状中央片12c’の牽引を規制してもよい。すなわち、油圧、空圧などによってシリンダからピストンを突出させ、連結具の孔120b’−1に挿通させて引張コイルばね224を拘束し、浅座りの状態、車両の緊急事態などを認識すると、ピストンを連結具の孔から離脱させる構成としてもよい。
しかし、ソレノイド222を規制部材とすれば、油圧、空圧などによってピストンを突出させる構成に比較して、構成を簡単化、小型化できる。
【0053】
図9は、モータ、駆動ローラを備えた牽引手段の側面図を示す。
モータ322、駆動ローラ324を備えた牽引手段20−3も、シートクッション12の裏側に配置される。モータ322は減速機構を内蔵し、そのモータシャフト322aに駆動ローラ324が固定され、減速機構で減速された高トルクの駆動力が駆動ローラに出力される。駆動ローラ324は、シートクッション12の裏側でトリムカバーの帯状中央片12c’の裏面に押圧されて接する。たとえば、駆動ローラ324は、帯状中央片12c’の左右方向の中央に整列される。
【0054】
モータ、駆動ローラを組合せた牽引手段20−3においても、着座者が浅座りの状態にあると認識され、さらに、車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態または前方障害物との衝突の危険を認識すると、中央制御手段28の制御のもとでモータ322が駆動され、駆動ローラ324が回転駆動される。
そして、
図2(B−3)(C−3)に示すように、駆動ローラ324が時計方向に回転駆動すると、駆動ローラ、帯状中央片12c’間の摩擦力によって帯状中央片の上面は矢視のように後方に牽引される。
【0055】
シートクッションのトリムカバーの帯状中央片12c’は、
図2(B−3)に示すように、隔離表皮16で隔離されてシートパッド12pを周回して巻装されているため、駆動ローラ324の回転駆動のもとで、距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
または、
図2(C−3)に示すように、トリムカバーの帯状中央片12c’に面する表面に摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透したシートパッド12pを周回して、帯状中央片が巻装されているため、距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
【0056】
そのため、後方に牽引されて張力の増した帯状中央片12c’は、自重で沈んだ状態から着座者を持ち上げ、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座させる位置まで移動して、浅座り状態の着座姿勢が是正される。したがって、サブマリン現象に対してシートベルト15は拘束性能を十分に発揮して有効に機能する。
【0057】
なお、モータ、駆動ローラを組合せた牽引手段20−3においては、帯状中央片12c’の前後の端を連結プレート30で連結しても、連結プレートを利用せず直接縫合して連結してもよい。しかし、連結プレート30を介在して連結すれば、連結プレートに隣接する部分で帯状中央片12c’にしわが生じ難くなり、駆動ローラ324の押圧のもとでの帯状中央片の牽引が円滑に行える。
【0058】
プリテンショナー120を備えた牽引手段20−1、ソレノイド222、引張コイルばね224を備えた牽引手段20−2では、中央制御手段28が浅座りを認識しただけでは駆動せず、浅座りの認識に加えて、車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態または前方障害物との衝突の危険を認識すると、牽引手段が駆動する。
これに対して、モータ、駆動ローラを備えた牽引手段20−3では、浅座りが認識されたときに、直ちに、モータ320を駆動させて、帯状中央片の上面を後方に牽引し、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座させる位置まで移動させて、浅座り状態の着座姿勢を是正してもよい。つまり、浅座りの認識に加えて、車両の前突、急減速、急停車などの緊急事態または前方障害物との衝突の危険を認識したとき、牽引手段を駆動させるだけでなく、浅座りを認識したとき、牽引手段を直ちに駆動させてもよい。
【0059】
帯状中央片12c’は、駆動ローラ324が回転駆動して駆動ローラ、帯状中央片間に作用する摩擦力のもとで牽引される。そのため、大きな摩擦力が生じるように、たとえば、駆動ローラ324の表面に滑り止めシートを粘着させるなどの滑り止め加工を駆動ローラ、帯状中央片12c’の間に施すことが好ましい。
【0060】
モータ、駆動ローラの組合せを牽引手段20−3とする構成では、駆動ローラ324の回転駆動を制御することによって帯状中央片の牽引、つまりは着座者の移動距離を制御できる。
つまり、圧力センサー22が検出した圧力データ、つまりは圧力分布から浅座りを中央制御手段28が認識し、中央制御手段からオン信号がモータ322に送られてモータの回転駆動が開始される。圧力センサー22の検出した圧力分布(圧力データ)は着座者の後方移動中にも圧力センサー22から中央制御手段28に出力される。着座者が浅座り状態の着座姿勢を是正する距離だけ、つまり、シートバック側に深く腰掛けた位置まで後方に移動したと圧力分布から中央制御手段28が判断すると、オフの信号が出力されてモータ322が停止し、帯状中央片の牽引が終了して、着座者の移動距離が制御される。
【0061】
また、駆動ローラ324を反時計方向に回転駆動すれば、牽引前の初期位置にトリムカバーの帯状中央片12c’を戻すことができる。つまり、圧力センサー22の検出した圧力分布から中央制御手段28が着座者の離席を認識すれば、中央制御手段の制御のもとでモータ322が逆方向に駆動される。そして、駆動ローラ324を反時計方向に回転駆動させれば、帯状中央片12c’の上面は前方に牽引されて、牽引前の初期位置に帯状中央片は戻される。そのため、帯状中央片12c’はいつも同じ状態で待機し、違和感を与えることがない。
【0062】
図10(A)はシートから分離された本発明の別実施例(実施例2)におけるシートクッションの平面図、(B)(C)は隔離表皮を介在させた場合、隔離表皮を介在させない場合での模式図をそれぞれ示す。
上記実施例(実施例1)では、シートパッド12pは前後方向に一体に成形されているのに対して、別実施例(実施例2)では、シートパッドは前後方向に3つに分割して成形されている点で相違し、他の構成は実施例1、2で共通している。
【0063】
実施例2では、シートパッド12pは前後方向に3つに分割して成形され、シートパッドに対応してトリムカバーの帯状中央片12c’も前後方向に3つに分割されている。そして、帯状中央片の前部片12c’−f、中央部片12c’−c、後部片12c’ −rが対応するシートパッドの前部12p−f、中央部12p−c、後部12p−rを周回して巻装されている。
【0064】
帯状中央片の前部片12c’−f、中央部片12c’−c、後部片12c’ −rのうち、シートパッドの中央部12p−cを周回、巻装する帯状中央片の中央部片だけが、牽引手段の牽引によってシートパッド上を滑動可能(移動可能)となっている。
つまり、
図10(B)に示すように、その前後端が固定された隔離表皮16がシートパッドの中央部12p−c、帯状中央片の中央部片12c’−cの間に配置され、牽引手段が帯状中央片の中央部片に連結されて、帯状中央片の中央部片がシートパッド上を滑動可能となっている。または、
図10(C)に示すように、トリムカバーの帯状中央片の中央部片12c’ −cに接するシートパッドの中央部12p−cの面に、シリコンスプレーなどの摩擦軽減剤が塗布あるいは浸透され、牽引手段が帯状中央片の中央部片に連結されて、帯状中央片の中央部片がシートパッド上を滑動可能となっている。
【0065】
たとえば、一連の圧力センサーからなる圧力検出手段22は、
図10(A)に示すように、シートパッドの中央部12p−cに配置される。
実施例1と同様に、プリテンショナーからなる牽引手段20−1が、シートバックの裏側に配置され、帯状中央片の中央部片12c’−cに連結されて帯状中央片の中央部片を牽引可能に構成されている。
プリテンショナーが帯状中央片12c’の中央部片12c’−cを牽引する点を除けば、実施例2においても、実施例1と同じ構成とされる。そして、隔離表皮16をトリムカバーの帯状中央片の中央部片12c’−c、シートパッドの中央部12p−cとの間に介在した構成(
図10(B)参照)、および、シートパッドの表面に摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透させて隔離表皮を省略した構成(
図10(C)参照)のいずれにおいても、プリテンショナーの駆動によって、帯状中央片の中央部12c’−cは距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
そのため、
図10(B)(C)のいずれの構成においても、牽引されて張力の増した帯状中央片の中央部片12c’−cは、自重で沈んだ状態から着座者を持ち上げ、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座させる位置まで移動して、浅座り状態の着座姿勢が是正される。
【0066】
図11(A)はシートから分離された本発明の他の実施例(実施例3)におけるシートクッションの平面図、(B)は隔離表皮を介在させた場合、(C)は隔離表皮を介在させない場合での模式図をそれぞれ示す。
シートパッド12pは、上記実施例(実施例1)では前後方向に一体に成形され、別実施例(実施例2)では前後方向に3つに分割して成形されているのに対して、他の実施例(実施例3)では前後方向に2つに分割して成形されている点で相違し、他の構成は実施例1〜3で共通している。
【0067】
すなわち、実施例3では、シートパッド12pは前後方向に2つ(前半部、後半部)に分割して成形され、シートパッドに対応してトリムカバーの帯状中央片12c’も前後方向に2つ(前半部片、後半部片)に分割されている。そして、帯状中央片の前半部片12c’−f’、後半部片12c’ −r’が対応するシートパッドの前半部12p−f’、後半部12p−r’を周回して巻装されている。なお、シートパッドの後半部12p−r’は前半部12p−f’よりも長く、たとえば、前半部の1.5〜2.0倍の長さに形成される。
【0068】
そして、シートパッドの後半部12p−r’を周回、巻装する帯状中央片の後半部片12c’−r’だけが、牽引手段の牽引によってシートパッド上を滑動可能となっている。一連の圧力センサーからなる圧力検出手段22は、
図11(A)に示すように、シートパッドの後半部12p−r’に配置される。
【0069】
この実施例3においても、たとえば、プリテンショナーからなる牽引手段20−1が、シートバックの裏側に配置され、帯状中央片の後半部片12c’−r’に連結されて帯状中央片の後半部片を牽引可能に構成されている。
プリテンショナーが帯状中央片12c’の後半部片12c’−r’を牽引する点を除けば、実施例3においても、実施例1と同じ構成とされる。そして、隔離表皮16を帯状中央片の後半部片12c’−r’とシートパッドの後半部12p−r’との間に介在した構成(
図11(B)参照)、および、シートパッドの後半部の表面に摩擦軽減剤を塗布あるいは浸透させて隔離表皮を省略した構成(
図11(C)参照)のいずれにおいても、プリテンショナーの駆動によって、帯状中央片の後半部片12c’−r’は距離を限定することなく円滑に後方に牽引される。
そのため、
図11(B)(C)のいずれの構成においても、牽引されて張力の増した帯状中央部片の後半部片12c’−r’は、自重で沈んだ状態から着座者を持ち上げ、シートバック側に深く腰掛けた位置に着座させる位置まで移動して、浅座り状態の着座姿勢が是正される。
【0070】
図10(B)(C)、
図11(B)(C)では、プリテンショナーからなる牽引手段20−1が図示されている。しかし、実施例1と同様に、ソレノイドのような規制部材、引張コイルばねを備えた牽引手段20−2、モータ、駆動ローラを備えた牽引手段20−3を実施例2、3にも採用できることはいうまでもない。
【0071】
上記のように本発明によれば、シートクッションのトリムカバーの帯状中央片は牽引手段の駆動のもとで、距離を限定することなく後方に牽引され、牽引されて張力の増した帯状中央片はシートバック側に深く腰掛けた位置に着座者を着座させる位置まで移動して、浅座り状態の着座姿勢が是正される。そして、浅座りの着座姿勢が是正されてシートバック側に深く腰掛けて着座することにより、サブマリン現象に対してシートベルト15は拘束性能を十分に発揮でき、有効に機能する。
【0072】
上述した実施例は、この発明を説明するためのものであり、この発明を何等限定するものでなく、この発明の技術範囲内で変形、改造等の施されたものも全てこの発明に包含されることはいうまでもない。