(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
近年、外装材や内装材としてブロック積み形状の模様表面を持つ窯業系サイディングボードが、建築物の外壁に貼り合わせるだけで適用でき、施工が容易であるため多用されてきている。
【0003】
主なサイディングボードは、溝部を目地部の外観を呈するように塗装し、凸部をレンガ、石、又はタイル等の外観を呈するように塗装して、レンガ積みや石積み、又はタイルを貼り付けた様な外観を有するような意匠性を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
既設建築物の外装材等では、様々な原因で塗膜の傷や剥れが生じ、補修を余儀なくされる。その主なものには、下地層との付着性不良による剥がれや、トップコート層の経年劣化によるワレ、水廻りによるふくれ、太陽熱を原因とするふくれ、ストレスによるワレ等がある。また、環境中の水性及び油性の汚染物質が付着し、外装材等の表面に施した塗膜の劣化と共に変色していく。昨今では、雨の流れに沿って筋状に汚染物質が付着する雨筋汚染が、景観の悪化等の理由により問題視されてきている。
【0005】
これら汚染物質は、高圧水洗浄、洗剤を用いた洗浄、又はケレン等による補修洗浄等により除去されている。しかしながら多彩模様等を有する意匠性塗膜の場合は、経年劣化により表面のクリヤー層が劣化し模様がくすんでいる場合がある。
【0006】
外装材表面の塗膜が意匠性を有するものでなく単一色の仕上げ塗膜等の場合は、その塗膜上から又は劣化した塗膜を剥離した後、単色のエナメル塗装を施すことにより、補修することができる。しかしながら、意匠性が高い塗膜に適用した場合は、エナメル塗装で補修することにより、その意匠性は損なわれることとなり外観は大きく変わってしまう。
【0007】
外壁に塗装された旧塗膜上にポリイソシアネート化合物と有機溶剤を含有する補修剤を塗布し、旧塗膜を再溶解後に、旧塗膜成分を硬化させることによって、下地層を形成し、この下地層上にトップコート層を形成する外壁塗膜の補修方法がある(例えば、特許文献2参照)。しかし、補修後の塗膜については、汚染防止の効果はさほど期待できない。また、旧塗膜の補修方法としては、エポキシ基を有するシリカゾル複合オルガノポリシロキサンを結合剤とする塗料組成物を塗布し、乾燥させて補修を施す方法がある(例えば、特許文献3参照)。しかし、耐候性には優れるものの旧塗膜への密着性や長期の汚染防止効果は低いことが懸念される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。
【0015】
まず、本発明に係る建築外装材の補修方法を説明する。本発明の補修方法は、建築外装材の表面上の旧塗膜を剥離又は除去することなく、該旧塗膜上の汚染物質を除去した後、該旧塗膜上にシーラーとして、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料を塗布し、下塗塗膜を形成する工程と、該下塗塗膜上に水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を塗布し、上塗塗膜を形成する工程と、を含むことを特徴とする。本発明によれば、旧塗膜への密着性が良好であり、耐候性に優れた塗膜を形成することができる。
【0016】
本発明に係る建築外装材の補修方法における建築外装材の表面上の旧塗膜は、複層硬質塗膜、複層弾性塗膜、厚付け塗膜、マスチック塗膜及び透湿性塗膜等が挙げられる。本発明は、このどんなタイプの旧塗膜にも対応可能である。旧塗膜中のバインダーとしては、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ビニル樹脂、アクリルスチレン樹脂、アクリルウレタン樹脂及びフッ素樹脂等の溶剤系並びに水系樹脂等が挙げられる。しかしながら、建築外装材表面の旧塗膜が、酸化チタンによる光触媒機能を有する塗膜の場合には、下塗塗膜が太陽光により分解される恐れがあるため好ましくない。
【0017】
旧塗膜上にシーラーとして用いられる水性下塗塗料は、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する。また、水性上塗塗料は、水分散液(B)を含有する。
【0018】
本発明の水性塗料に含有する水分散液(A)及び水分散液(B)は、水系樹脂を含有し、水に溶解状態にある水溶性樹脂又は分散状態にある合成樹脂エマルションであればどのような樹脂を用いても良く、耐水性の観点から合成樹脂エマルションが好ましい。例えば、水溶性樹脂としては、アクリル樹脂、シリコーン樹脂、アクリルシリコン樹脂、フッ素樹脂、エポキシ樹脂、酢酸ビニル樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、ポリスチレン樹脂、メラミン樹脂、ケトン樹脂、酢酸ビニル/アクリル樹脂、エチレン/酢酸ビニル樹脂及びスチレン/アクリレート樹脂等が挙げられる。合成樹脂エマルションとして、例えば、アクリル樹脂系エマルション、アクリルウレタン樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルション、フッ素樹脂系エマルション、塩化ビニル樹脂系エマルション及びアクリルシリコン樹脂系エマルションが挙げられる。また、これらの樹脂と共に架橋剤を添加することもできる。
【0019】
例えば、アクリル樹脂系エマルションの場合、アクリル酸エステル及びメタクリル酸エステルの少なくとも1種を含有するアクリル単量体の混合物を、乳化剤又は分散安定剤の存在下で、水中にて攪拌下乳化重合した樹脂エマルションであり、必要に応じて、中和や変性を行う場合がある。
【0020】
アクリル樹脂系エマルションに使用される単量体としては、共重合可能なα,β−エチレン性不飽和単量体が挙げられ、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、sec−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、n−アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシプロピル(メタ)アクリレート、エトキシプロピル(メタ)アクリレート、スチレン、α−メチルスチレン、クロロスチレン、ビニルトルエン、及びアクリロニトリルが挙げられる。これらから選ばれた1種又は2種以上の単量体が使用できる。
【0021】
更に、本発明ではα,β−エチレン性不飽和単量体として、カルボキシル基含有単量体、ヒドロキシル基含有単量体及びアルコキシシリル基含有単量体の群の中から選ばれる少なくとも一種を含むことが好ましい。
【0022】
カルボキシル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、クロトン酸及びマレイン酸等が挙げられる。これらは、固形分中0.5〜5質量%であることが、重合時の安定性、貯蔵時の安定性、及び他の成分と混合する際にエマルション成分が凝集しないという塗料化時の安定性の点において好ましい。
【0023】
また、ヒドロキシル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール−モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール−モノ(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのε−カプロラクトン重付加物、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートのβ−メチル−δ−バレロラクトン重付加物、グリセロールモノ(メタ)アクリレート及びグリセロールジ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート類;アリルアルコール、グリセロールモノアリルエーテル及びグリセロールジアリルエーテル等のアリル化合物;並びにこれらの炭素数2〜4のアルキレンオキシド付加物(アルキレンオキシドの付加モル数は、通常0〜30モル、好ましくは20〜30モルである)等が挙げられる。特に好適には、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートが挙げられる。また、上記ヒドロキシル基を有する単量体は、得られる塗膜表面に親水性を付与することで低汚染機能を発現する。但し、耐水性を低下させる場合もあるため、共重合に用いる量としては固形分中5質量%以下である。
【0024】
また、アルコキシシリル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体としては、例えばビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルメチルジメトキシシラン、ビニルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリメトキシシラン、β−(メタ)アクリロキシエチルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルメチルジプロポキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシブチルフェニルジメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロキシプロピルジメチルメトキシシラン、及びγ−(メタ)アクリロキシプロピルジエチルメトキシシラン等が挙げられる。これらアルコキシシリル基を有するα,β−エチレン性不飽和単量体を用いると、得られる塗膜の耐汚染性や耐候性が向上する。
【0025】
更には、分子中に少なくとも1つのエチレン性不飽和基及びポリオキシアルキレン基を有する水溶性マクロマー又はガラス転移温度が90〜180℃である単一のα,β−エチレン性不飽和単量体を含むことが好ましい。
【0026】
分子中に少なくとも1つのエチレン性不飽和基及びポリオキシアルキレン基を有する水溶性マクロマーとして、例えば、
α−スルホナト−ω−(1−(アリルオキシメチル−アルキルオキシポリオキシエチレンアンモニウム塩(第一工業製薬(株)製、アクアロンKH10)、
2ポリオキシエチレン−4−ノニル−2−プロペニルフェニルエーテル(第一工業製薬(株)製、アクアロンRN10)(ADEKA(株)製、アデカリアソープSR10)、
α−スルホ−ω−(1−(ノニルフェノキシ)メチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル)アンモニウム塩(ADEKA(株)製、アデカリアソープSE10)、
α−ヒドロ−ω−(1−アルコキシメチル−2−(2−プロペニルオキシ)エトキシ)−ポリ(オキシ−1,2−エタンジイル))(ADEKA(株)製、アデカリアソープER20)、
ポリオキシアルキレンアルケニルエーテル硫酸アンモニウム(花王(株)製、ラテムルPD−104)、
ビス(ポリオキシエチレン多環フェニルエーテル)メタクリレート硫酸エステル塩(日本乳化剤(株)製、アントックスMS60)、
ポリエチレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPE−350)、
ポリプロピレングリコールモノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPP−1000)、
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノメタクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーPEPシリーズ)、及び
ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノアクリレート(日本油脂(株)製、ブレンマーAEPシリーズ)
等が挙げられる。これらポリオキシアルキレン基を有する水溶性マクロマーは、1種又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらは、固形分中1.0質量%〜10質量%で貯蔵時の安定性、塗膜の耐水性及び耐アルコール性の点で好ましい。
【0027】
また、ガラス転移温度90〜180℃である単一のα,βエチレン性不飽和単量体としては、メチルメタクリレート(105℃)、t−ブチルメタクリレート(107℃)、Nメチロールアクリルアミド(110℃)、アクリロニトリル(100℃)、アクリルアミド(153℃)、アクリロイルモルホリン(145℃)、イソボルニルアクリレート(97℃)、2−メチル−2アダマンチルアクリレート(153℃)、ジシクロペンテニルアクリレート(120℃)、ジシクロペンタニルアクリレート(120℃)及びスチレン(100℃)等が挙げられる。特に、メチルメタクリレート、スチレン又はt−ブチルメタクリレートを用いることが好適である。
【0028】
これら水分散液の調製においては、上記成分に必要に応じて界面活性剤、重合開始剤促進剤及び連鎖移動剤等の添加剤を添加し、従来から公知の1段階又は多段階にて乳化重合することによって得ることができる。
【0029】
重合時に用いる重合開始剤としては、例えば、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム及び過硫酸カリウム等の過硫酸塩;過酸化水素;アゾビス−2メチルプロピオンアミジン塩酸塩、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル及び2,2’−アゾビス−(2−メチルブチロニトリル)等のアゾ化合物;ベンゾイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド及びt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等の過酸化物等が挙げられることができる。
【0030】
促進剤としては、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ナトリウム、モール塩、ピロ重亜硫酸ナトリウム、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシレート及びアスコルビン酸等の還元剤;並びにエチレンジアミン、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム及びグリシン等のアミン化合物が挙げられ、これらを併用することもできる。
【0031】
また、連鎖移動剤としては、特に限定されないが、親水性連鎖移動剤としては、チオール系連鎖移動剤及び1級又は2級アルコール等が挙げられ、疎水性連鎖移動剤としては、四塩化炭素等のハロゲン化物及びα−メチルスチレンダイマー等の不飽和炭化水素化合物が挙げられる。これらの重合開始剤、促進剤及び連鎖移動剤は、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0032】
水分散液(A)及び水分散液(B)は、アクリルシリコン樹脂系エマルションを含むことが耐汚染性及び耐候性に優れる塗膜を形成するために良好である。本発明で用いるアクリルシリコン樹脂系エマルションにおいては、それを構成するα,β−エチレン性不飽和単量体の少なくとも一成分が、下記一般式(イ):
R
1nSi(OR
2)
4−n (イ)
〔式中、R
1は、炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はビニル基であり、R
2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、nは0〜2である。〕
で示されるシラン化合物及び/又はその部分加水分解縮合物を含有する乳化共重合体で形成されている。なお、α,β−エチレン性不飽和単量体としては、上述したものが挙げられる。
【0033】
上記の一般式(イ)において、R
1は、炭素数1〜8のアルキル基、シクロアルキル基、アリール基又はビニル基である。このアルキル基は、直鎖でも分岐したものでもよく、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基及びオクチル基等のアルキル基を挙げることができる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜4個のものである。上記のシクロアルキル基として、例えば、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基及びシクロオクチル基等を好適なものとして挙げることができる。上記のアリール基として、例えば、フェニル基等を挙げることができる。
【0034】
上記の各官能基は、任意に置換基を有していてもよい。このような置換基として、例えば、ハロゲン原子(例えば、塩素原子、臭素原子又はフッ素原子)、(メタ)アクリロイル基、メルカプト基及び脂環式基等を挙げることができる。
【0035】
上記の一般式(イ)において、R
2は、炭素数1〜5のアルキル基であり、直鎖でも分岐したものでもよい。このアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基及びペンチル基等を挙げることができる。好ましいアルキル基は、炭素数が1〜3個のものである。
【0036】
上記の一般式(イ)で示されるシラン化合物の具体例として、例えば、
テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラプロポキシシラン、
エトキシトリメトキシシラン、ジエトキシジメトキシシラン、トリエトキシメトキシシラン、
メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、
エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、
n−プロピルトリメトキシシラン、n−プロピルトリエトキシシラン、
i−プロピルトリメトキシシラン、i−プロピルトリエトキシシラン、
γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリエトキシシラン、
ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、
3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、
シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、
γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシラン、
γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、
フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、
ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、
ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、
メチルフェニルジメトキシシラン、エチルフェニルジエトキシシラン及びジメチルジプロポキシシラン等を挙げることができる。特に好ましいシラン化合物として、テトラエトキシシラン、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、γ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン及びγ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシランを挙げることができる。これらのシラン化合物は、一種単独で使用することも、二種以上を併用することもできる。これらの中でも、耐候性やコスト的にも優れるγ−メタクリルオキシプロピルトリメトキシシラン又はγ−メタクリルオキシプロピルトリエトキシシランを使用することが好ましい。これら分子中に珪素原子に直結した加水分解性基を有するエチレン性不飽和単量体が、該水分散液中に0.1〜10質量%を占めている乳化共重合体で形成されていることが好ましい。
【0037】
エポキシ樹脂系エマルション、ウレタン樹脂系エマルション、ポリエステル樹脂系エマルション、及び塩化ビニル樹脂系エマルション等の他の合成樹脂エマルションも、アクリル樹脂系エマルションの場合と同様に、既に公知である通常の合成手法によって調製される。これらは塗膜形成環境によっては、アミン系、イソシアネート系等の一般的な架橋樹脂を併用することが可能である。また、これらの樹脂エマルションを2種以上併用することもできる。
【0038】
本発明で使用される水性下塗塗料に含まれる密着付与剤(C)は、建築外装材との密着性に寄与し、強固な下塗塗膜を形成するために使用される。この成分は、シラン系カップリング剤であることが好ましく、更にはエポキシ基含有シランカップリング剤であることが特に好ましい。
【0039】
シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルトリクロルシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、β−(3、4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイソプロぺニルオキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリイミノオキシシラン、γ−メタクリロキシトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、及び3−トリエトキシシリル−N−(1、3−ジメチル−ブチリデン)等が挙げられる。
【0040】
この中でも特に、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、及びγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランのようなエポキシ基を含有するシラン系カップリング剤が好ましい。これらのシラン系カップリング剤は、一種単独で使用することも、二種以上を併用することもできる。これらの中でも密着性やコスト的にも優れるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン又はγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランを使用することが特に好ましい。密着付与剤(C)の配合量は、水性下塗塗料中においては0.1〜10質量%が好ましく、より好ましくは1〜5質量%である。
【0041】
本発明において用いられる下塗塗料及び上塗塗料には、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、着色顔料、硬化触媒、紫外線吸収剤、光安定剤、顔料分散剤、消泡剤、表面調整剤、沈降防止剤、成膜助剤、濡れ剤、防藻剤、防カビ剤、防腐剤及び増粘剤等の各種添加剤機溶剤を必要に応じて配合しても構わない。
【0042】
本発明に係る建築外装材の補修方法は、水分散液(A)と密着付与剤(C)を含有する水性下塗塗料と、水分散液(B)を含有する水性上塗塗料を用いるが、いずれも顔料成分を含むこともできるが、被塗装物である建築外装材が高い意匠性を有する場合は、形成する塗膜が、下地の色彩を隠蔽しない透明なクリヤー塗膜であることが好ましく、隠蔽性顔料を含むことは望ましくない。塗膜が、透明性が高いカラークリヤー程度の着色であれば非隠蔽性の着色顔料を少量含有してもよく、既存の高い意匠性を保つことができる。
【0043】
各々の塗料は、スプレー塗装や、ローラー塗装又はハケ塗装等の手段により塗布され、そのまま常温乾燥するか又は赤外線ランプ等を照射することにより強制乾燥させ硬化させることができる。
【0044】
建築外装材としては、その材質や形状により制限されるものではなく、従来から建材に用いられている種々の建築用資材を挙げることができ、例えば、サイディングボード、フレキシブルボード、ケイ酸カルシウム板、石膏スラグバーライト板、木片セメント板、プレキャストコンクリート板、軽量気泡コンクリート板及び石膏ボード等の無機質材料、並びにアルミニウム、鉄及びステンレス等の金属材料であり、これらを組合せてなる材料であっても良い。これらの基材については、その表面が平滑なものであっても、また、多彩模様、比較的細かな凹凸形状及び/又は比較的大きな凹凸形状を有する意匠性を有する基材であってもよい。中でも、表面に多彩模様等の高い意匠性を形成したサイディングボードが好ましい。
【0045】
本発明に係る建築外装材の補修方法においては、既存の多彩模様等の高い意匠性を有する塗膜を活かすために旧塗膜を剥離又は除去することなく塗り替えを行う。しかしながら、建築外装材の旧塗膜上には、空気中の塵や埃等の汚染物質が付着しており、これらの汚染物質が残存していると、シーラーとしての下塗塗膜の密着性が悪くなり宜しくない。そのため、汚染物質の除去方法としては、高圧水洗浄や、カセイソーダ等のアルカリ洗浄、無機酸又は有機酸による酸性洗浄、過塩素酸等の漂白剤を用いた洗浄、ケレン及び布拭き等による洗浄が挙げられる。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について、実施例により更に詳細に説明する。なお、実施例中の「部」や「%」は、特に断らない限り、質量基準で示す。
【0047】
(i)塗料組成物の調製及び試験板の作製
<水分散液の調製>
各水分散液に用いられる合成樹脂エマルションは、還流冷却器及び攪拌機を備えた反応容器に適量のイオン交換水と界面活性剤を仕込んで、加熱下攪拌しながら、下記不飽和単量体と重合開始剤の混合物とを滴下し、各エマルションを得た。単量体組成は下記の通りである。
・エマルションA(NV=46%):アクリルシリコン樹脂系エマルション(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びアルコキシシラン含有単量体(1%)の混合物)
・エマルションB(NV=45%):アクリルシリコン樹脂系エマルション(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びアルコキシシラン含有単量体(0.1%)の混合物)
・エマルションC(NV=45%):耐候性アクリル樹脂系エマルション(メチルアクリレート、メチルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート及びHALS単量体(0.1%)の混合物)
・エマルションD(NV=15%):カチオン系アクリルエマルション
各水分散液は表1に示すように、上記エマルションA〜D、溶剤及び成膜助剤等を配合し、良く混合させて攪拌して使用した。なお、密着付与剤は、表2に示すように、該当のシランカップリング剤を有効成分100%として使用し、下塗塗料中の配合量は5質量%である。
【0048】
【表1】
【0049】
【表2】
【0050】
<実施例1〜3及び比較例1〜3>
表3に示すように各成分を配合し、実施例1〜3及び比較例1〜3のクリヤー塗料組成物を得た。得られた各塗料は、良く混合させて攪拌し、下記の塗装に使用した。
【0051】
<試験板の作製>
試験板として、光触媒を含有しないアクリルシリコン塗料を塗装後1年経過したタイル調の意匠性を有するサイディングボードを用いることとし、該サイディングボード表面上の汚染物質を高圧水洗浄によって除去した。汚染物質が除去された旧塗膜上に上記で作製した各塗料を塗装し、1昼夜自然乾燥させ各種試験に供した。塗装は、下塗塗料をローラー塗装によって膜厚約10μmのクリヤーな下塗塗膜を形成し、上塗塗料をローラー塗装によって膜厚約10μmのクリヤーな上塗塗膜を形成し、塗板を形成した。
【0052】
(ii)評価方法及び評価結果
下記のような試験を行い、評価結果を表3に示す。
【0053】
<塗膜外観>
上記のように作製した塗板の塗膜表面の外観を、以下のように目視にて評価した。
5・・・変化なし
4・・・やや白濁(一部白濁)
3・・・白濁した(全体的に白濁)
2・・・白濁と光沢劣化
1・・・塗膜の剥離又は脱落(評価中止)
【0054】
<初期密着性>
上記のように作製した塗板を、JIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準拠して、塗膜を4mm間隔で5×5の碁盤目にカットし、粘着テープ貼付後の剥離試験を実施して、塗膜が残存するマス目数に基づいて評価判定した。
【0055】
<二次密着性>
試験後の塗板を1昼夜自然乾燥させ、JIS K 5600−5−6(クロスカット法)に準拠して、塗膜を4mm間隔で5×5の碁盤目にカットし、粘着テープ貼付後の剥離試験を実施して、塗膜が残存するマス目数に基づいて評価判定した。
【0056】
<耐水性>
上記のように作製した塗板を20℃の水道水中に30日間浸漬した後の塗膜外観と二次密着性を上記に従い評価判定した。
【0057】
<耐温水性>
上記のように作製した塗板を50℃の温水中に7日間浸漬した後の塗膜外観と二次密着性を上記に従い評価判定した。
【0058】
<耐湿性>
上記のように作製した塗板を温度50℃、湿度98%RHの耐湿試験を20日間行い、乾燥後の塗膜外観と二次密着性を上記に従い評価判定した。
【0059】
<凍害性>
上記のように作製した塗板を用い、凍結融解サイクル試験機でASTM−C666A法により200サイクル行い、乾燥後の塗膜外観と二次密着性を上記に従い評価判定した。
【0060】
<温水徐冷試験>
上記のように作製した塗板を50℃の温水中に24時間浸漬した後、浸漬したまま保温を止めて徐冷し、24時間後に取り出して24時間自然乾燥させ塗膜外観と二次密着性を上記に従い評価判定した。
【0061】
<耐候性>
上記のように作製した塗板を用い、沖縄県にある屋外暴露場にて3年間暴露試験を行い、塗膜外観と色差計を用いて未暴露塗膜との色差(ΔE)を測定し、評価判定した。
【0062】
【表3】