(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284361
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】食品用保存剤および食品の保存方法
(51)【国際特許分類】
A23L 3/349 20060101AFI20180215BHJP
A23L 3/3517 20060101ALI20180215BHJP
A23L 3/3508 20060101ALI20180215BHJP
A23L 3/3472 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
A23L3/349 501
A23L3/3517
A23L3/3508
A23L3/349
A23L3/3472
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2013-272026(P2013-272026)
(22)【出願日】2013年12月27日
(65)【公開番号】特開2015-123062(P2015-123062A)
(43)【公開日】2015年7月6日
【審査請求日】2016年11月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000189659
【氏名又は名称】上野製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(72)【発明者】
【氏名】小堺 博
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 亜紀
【審査官】
西 賢二
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−150366(JP,A)
【文献】
特開2005−080617(JP,A)
【文献】
特開2009−039053(JP,A)
【文献】
特開2013−233094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 3/00−3/3598
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エタノール10〜40重量%、ならびにカプリン酸、モノグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、乳酸および乳酸ナトリウムを含有する食品用保存剤であって、該モノグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリンカプリル酸エステルであり、且つ、該デカグリセリン脂肪酸エステルがデカグリセリンカプリル酸エステルであるか、または該モノグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリンカプリン酸エステルであり、且つ、該デカグリセリン脂肪酸エステルがデカグリセリンカプリン酸エステルである、食品用保存剤。
【請求項2】
エタノール100重量部に対し、カプリン酸0.02〜0.2重量部、モノグリセリン脂肪酸エステル0.1〜1.5重量部、デカグリセリン脂肪酸エステル0.05〜0.3重量部、乳酸1〜6重量部および乳酸ナトリウム0.1〜3重量部を含有する、請求項1に記載の食品用保存剤。
【請求項3】
モノグリセリン脂肪酸エステルがモノグリセリンカプリル酸エステルであり、且つ、デカグリセリン脂肪酸エステルがデカグリセリンカプリル酸エステルである、請求項1または2に記載の食品用保存剤。
【請求項4】
モノグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が5〜9であり、且つ、デカグリセリン脂肪酸エステルのHLB値が14〜18である、請求項1〜3のいずれかに記載の食品用保存剤。
【請求項5】
さらにステビア抽出物および/またはカンゾウ抽出物を含有する、請求項1〜4のいずれかに記載の食品用保存剤。
【請求項6】
pHが3.5〜5である、請求項1〜5のいずれかに記載の食品用保存剤。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の食品用保存剤を食品と接触させる工程を含む、食品の保存方法。
【請求項8】
食品用保存剤を食品と接触させる工程が、塗布、噴霧および浸漬のいずれかの方法によって行われるものである、請求項7に記載の食品の保存方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エタノールを含有する液状の食品用保存剤に関する。
【背景技術】
【0002】
食品の腐敗や食中毒を引き起こす微生物汚染を防止するために、従来からエタノールが広く利用されてきた。しかしながら、エタノール単独で十分な殺菌または静菌効果を得るためには、高濃度でエタノールを使用する必要があるため、食品に使用した場合にはアルコール臭が強くなり、食品の風味を著しく損なう他、タンパク質の変性や品質の劣化、変色等を引き起こすなどの問題があった。この様な問題を解決するため、これまでにもエタノールと有機酸、有機酸塩、脂肪酸、脂肪酸モノグリセライド等を組み合わせた食品保存剤が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エタノール、ならびにクエン酸やリンゴ酸等の有機酸、フマル酸一ナトリウム等の有機酸塩およびカプリル酸やカプリン酸等の中鎖脂肪酸からなる防腐用組成物が開示されている。しかし、このような防腐用組成物は、殺菌効果はあるものの、有機酸や有機酸塩による酸味や酸臭、中鎖脂肪酸による異臭などにより、食品の風味を損なうことがあった。
【0004】
特許文献2には、エタノールおよびラウリン酸と、特定のデカグリセリン脂肪酸エステルや特定のショ糖脂肪酸エステルとを混合溶解した液状の食品保存剤が開示されている。しかし、かかる食品保存剤はエタノールが低濃度である場合や低温での保管時に成分の一部が析出するなど、安定性に問題があった。
【0005】
又、エタノールを高濃度で含有する組成物は、殺菌効果が高い反面、引火性が高く安全性の点でも問題があった。
【0006】
したがって、十分な殺菌効果を有し、保管時に成分の析出等が発生せず、安全性の高い食品用保存剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特公昭59−45643号公報
【特許文献2】特開2005−80617号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、食品の風味や品質を低下させることがなく、優れた殺菌効果を有し、保管時の安定性に優れ、且つ安全性の高い食品用保存剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、低濃度のエタノールに、脂肪酸、モノグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、乳酸および乳酸ナトリウムを配合することによって、食品の品質を低下させることなく食品の保存性を向上させ得る、安全性の高い食品用保存剤が得られることを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
すなわち、本発明は、エタノール10〜40重量%、ならびに脂肪酸、モノグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、乳酸および乳酸ナトリウムを含有する食品用保存剤を提供する。
【0011】
本発明は、又、上記食品用保存剤を食品と接触させる工程を含む食品の保存方法も提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の食品用保存剤の構成成分であるエタノールは特に制限はなく、工業用エタノールや変性剤として食品香料等を任意の割合で含有する変性エタノールであってもよい。
【0013】
本発明の食品用保存剤におけるエタノールの割合は、該保存剤全重量に対して10〜40重量%であればよく、15〜35重量%が好ましく、17〜33重量%がより好ましい。エタノールの割合が食品用保存剤全重量に対して10重量%未満の場合、殺菌効果が不十分になる傾向があると共に、配合されるモノグリセリン脂肪酸エステルが、その種類や含有量によっては保管中に析出する場合がある。一方、エタノールの割合が食品用保存剤全重量に対して40重量%を超える場合、該保存剤を適用した食品にアルコール臭が残り易く、食品の風味が損なわれる傾向がある他、引火の危険性が高くなり、該保存剤の取り扱いにも注意が必要となる。
【0014】
本発明の食品用保存剤の構成成分である脂肪酸は、食品添加物として用い得るものであれば特に限定されないが、炭素数8〜14の中鎖脂肪酸が好ましく、溶解性と食品の味質に対する影響の点でカプリン酸(炭素数10)がより好ましい。
【0015】
本発明の食品用保存剤における脂肪酸の割合は、特に限定されないが、エタノール100重量部に対して、0.02〜0.2重量部が好ましく、0.05〜0.17重量部がより好ましく、0.07〜0.15重量部がさらに好ましい。脂肪酸の割合が、エタノール100重量部に対して0.02重量部未満の場合、十分な殺菌効果が得られない傾向があり、エタノール100重量部に対して0.2重量部を超える場合、食品用保存剤を適用した食品の味質や風味が低下する傾向がある。
【0016】
本発明の食品用保存剤の構成成分であるモノグリセリン脂肪酸エステルは、食品用乳化剤として用い得るものであれば特に限定されないが、モノグリセリンカプリル酸エステルおよびモノグリセリンカプリン酸エステルが好ましく、溶解性の点でモノグリセリンカプリル酸エステルがより好ましい。また、モノグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が5〜9のものが好ましく、5.5〜8.5のものがより好ましく、6〜8のものがさらに好ましい。本明細書において、HLB値はグリフィン法により求めたものをいう。
【0017】
本発明の食品用保存剤におけるモノグリセリン脂肪酸エステルの割合は、特に限定されないが、エタノール100重量部に対して、0.1〜1.5重量部が好ましく、0.15〜1.3重量部がより好ましく、0.2〜1.1重量部がさらに好ましい。モノグリセリン脂肪酸エステルの割合が、エタノール100重量部に対して0.1重量部未満の場合、十分な殺菌効果が得られない傾向があり、エタノール100重量部に対して1.5重量部を超える場合、臭気を生じ、保管中にモノグリセリン脂肪酸エステルが析出する傾向がある。
【0018】
本発明の食品用保存剤の構成成分であるデカグリセリン脂肪酸エステルは、食品用乳化剤として用い得るものであれば特に限定されないが、デカグリセリンカプリル酸エステルおよびデカグリセリンカプリン酸エステルが好ましく、溶解性の点でデカグリセリンカプリル酸エステルがより好ましい。また、デカグリセリン脂肪酸エステルは、HLB値が14〜18のものが好ましく、14.5〜17.5のものがより好ましく、15〜17のものがさらに好ましい。HLB値はグリフィン法により求めたものをいう。
【0019】
本発明の食品用保存剤におけるデカグリセリン脂肪酸エステルの割合は、特に限定されないが、エタノール100重量部に対して、0.05〜0.3重量部が好ましく、0.1〜0.25重量部がより好ましく、0.15〜0.2重量部がさらに好ましい。デカグリセリン脂肪酸エステルの割合が、エタノール100重量部に対して0.05重量部未満の場合、保管中に白濁を生じる傾向があり、エタノール100重量部に対して0.3重量部を超える場合、食品用保存剤を適用した食品の味質や風味が低下する傾向がある。
【0020】
本発明の食品用保存剤における乳酸の割合は、特に限定されないが、エタノール100重量部に対して、1〜6重量部が好ましく、2〜5.5重量部がより好ましく、3〜5.2重量部がさらに好ましい。乳酸の割合が、エタノール100重量部に対して1重量部未満の場合、十分な殺菌効果が得られない傾向があり、エタノール100重量部に対して6重量部を超える場合、食品用保存剤のpHが低下し、酸度が上昇するため、該食品用保存剤を適用した食品の味質や風味が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の食品用保存剤における乳酸ナトリウムの割合は、特に限定されないが、エタノール100重量部に対して、0.1〜3重量部が好ましく、0.3〜2.8重量部がより好ましく、0.5〜2.5重量部がさらに好ましい。乳酸ナトリウムの割合が、エタノール100重量部に対して0.1重量部未満の場合、食品用保存剤を適用した食品の味質や風味が低下する傾向があり、エタノール100重量部に対して3重量部を超える場合、食品用保存剤の酸度が低下するため十分な殺菌効果が得られない傾向がある。
【0022】
本発明の食品用保存剤のpHは、食品への適用時において、3.5〜5であることが好ましく、3.6〜4.8であることがより好ましく、3.7〜4.6であることがさらに好ましい。本発明の食品用保存剤のpHが3.0未満の場合、殺菌効果は増すが該食品用保存剤を適用した食品の味質や風味への影響が大きくなり、該食品用保存剤のpHが5.0を超える場合、殺菌効果が低下する傾向がある。
【0023】
本発明の食品用保存剤には、必要に応じて、ステビア抽出物、カンゾウ抽出物等の副成分を添加してもよい。これら副成分の割合は、エタノール100重量部に対して、1重量部以下が好ましく、0.8重量部以下がより好ましく、0.2〜0.6重量部がさらに好ましい。
【0024】
本発明の食品用保存剤を構成する、エタノール、脂肪酸、モノグリセリン脂肪酸エステル、デカグリセリン脂肪酸エステル、乳酸、乳酸ナトリウム、ならびに必要に応じて添加する副成分以外の残部は、水である。
【0025】
したがって、本発明の食品用保存剤を調製する方法は、特に限定されない。例えば、該食品用保存剤は、各成分と水を単純に混合することによって調製することができる。本発明の食品用保存剤は、調製したものをそのまま食品に適用してもよく、また、食品用保存剤における各成分の割合が上記した範囲内であれば、調製した食品用保存剤を水でさらに希釈して得た希釈液を食品に適用してもよい。例えば、希釈液を食品に適用する場合、該希釈液におけるエタノールの濃度は10〜40重量%であることが好ましい。
【0026】
本発明の食品用保存剤の使用方法は特に限定されないが、通常、本発明の食品用保存剤を保存対象食品、例えば該食品の表面と接触させることにより、食品保存効果を得ることができる。本発明の食品用保存剤を食品と接触させる方法としては、例えば、該保存剤を食品の表面に塗布する方法、スプレー容器等に充填した該保存剤を食品の表面に噴霧する方法、容器に移した該保存剤に食品を浸漬する方法等が挙げられる。
【0027】
本発明の食品用保存剤を食品に接触させる時間は、0.5〜5分間が好ましく、0.75〜3分間がより好ましく、1〜2分間がさらに好ましい。該保存剤と食品との接触時間が0.5分間未満の場合、十分な殺菌効果が得られない傾向があり、該接触時間が5分間を超える場合、食品の味質や風味への影響が大きくなる傾向がある。
【0028】
本発明の食品用保存剤を適用し得る食品としては、ハム、ソーセージ、ベーコン等の食肉加工品、かまぼこ、はんぺん、なると巻等の水産練り製品、キュウリ、トマト、キャベツ、タマネギ、レタス、セロリ等の野菜、さらに各種の魚肉および畜肉が例示されるが、該保存剤は特にハム、ソーセージ等の食肉加工品に好ましく適用し得る。
【0029】
以下、実施例により本発明をさらに説明する。
【実施例】
【0030】
実施例1〜6および比較例1〜6
表1に示す組成の製剤を調製し、製剤安定性、殺菌力、官能評価の各試験を実施した。
【0031】
製剤安定性試験
表1に示す組成の各製剤を30ml容ネジ蓋付き試験管に入れ、調製直後の透明性を目視にて確認した後、分光光度計により波長650nmにおける透過率(T650)を測定した。また、各製剤を−5℃で7日間保管し、室温で2時間静置した後の各製剤の透明性を目視にて確認し、透過率(T650)を分光光度計により測定した。
【0032】
殺菌力試験
表1に示す組成の各製剤を調製し、さらにこれらの製剤を該製剤濃度が25重量%、50重量%および75重量%となるように水で希釈した希釈液を調製した。各製剤およびその希釈液10mLに馬血清を5重量%となるように添加した後、下記供試菌iを1mL接種し、1分間経過後、菌接種後の製剤および希釈液から10μLを取り、MRS(デ・マン,ロゴサ,シャープ)ブイヨン培地にて、30℃で48時間培養した。菌未接種のMRS培地をコントロールとし、目視で培地の濁りを比較して、各製剤およびその希釈液の殺菌効果を判定した。
また、供試菌iiについて、使用する培地をBHI(ブレイン,ハート,インフュージョン)ブイヨン培地に変更した以外は、上記と同様の方法により、各製剤およびその希釈液の殺菌効果を判定した。
供試菌i :Lactobacillus brevis IFO03345
供試菌ii:Leuconostoc mesenteroides IAM1046
【0033】
官能評価
表1に示す組成の製剤を各5L調製し、市販ウインナー130本(約2886g)を該製剤に1分間浸漬した後、25分間液切りし、4℃で4日間保管した。保管後のウインナーの苦味、酸味およびアルコール臭を、未処理の市販ウインナーを対照として、下記評価基準で6名のパネラーにより評価した。
[評価基準]
苦味/酸味/アルコール臭が強い :−2点
苦味/酸味/アルコール臭がやや強い :−1点
苦味/酸味/アルコール臭が対照と同等: 0点
苦味/酸味/アルコール臭がやや弱い : 1点
苦味/酸味/アルコール臭が弱い : 2点
【0034】
上述した各試験の結果を表2〜7に示す。本発明の食品用保存剤は、殺菌力に優れ、ウインナーの風味を低下させることがなく、製剤としての保管安定性にも優れていた。尚、比較例4および6は、成分が不溶であったため、透過率の測定および殺菌力試験は実施しなかった。
【0035】
【表1】
【0036】
【表2】
【0037】
【表3】
【0038】
【表4】
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
【表7】