特許第6284368号(P6284368)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ナブテスコ株式会社の特許一覧

<>
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000002
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000003
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000004
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000005
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000006
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000007
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000008
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000009
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000010
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000011
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000012
  • 特許6284368-歯車伝動装置 図000013
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284368
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】歯車伝動装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 1/32 20060101AFI20180215BHJP
   F16C 19/36 20060101ALI20180215BHJP
   F16C 33/46 20060101ALI20180215BHJP
   F16C 33/58 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   F16H1/32 A
   F16C19/36
   F16C33/46
   F16C33/58
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-212(P2014-212)
(22)【出願日】2014年1月6日
(65)【公開番号】特開2015-129527(P2015-129527A)
(43)【公開日】2015年7月16日
【審査請求日】2016年12月15日
(73)【特許権者】
【識別番号】503405689
【氏名又は名称】ナブテスコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】特許業務法人快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 和哉
【審査官】 高橋 祐介
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−159774(JP,A)
【文献】 特開2013−023068(JP,A)
【文献】 特開2013−057357(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/051422(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 1/32
F16C 19/36
F16C 33/46
F16C 33/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアが軸受を介してケースに支持されている歯車伝動装置であり、
前記軸受は、
キャリアに設けられているインナーレースと、
ケースに設けられているアウターレースと、
インナーレースとアウターレースの間に配置されており、軸受中心軸に対して傾いた回転軸を有している複数のローラと、
隣り合うローラの間隔を保持するリテーナと、を備えており、
インナーレースの外周面及びアウターレースの内周面に、ローラが前記回転軸方向に移動することを規制するリブが設けられておらず、
前記リテーナの小径部側に、前記軸受中心軸に向けて突出している突出部が設けられており、
キャリアとインナーレースの少なくとも一方に、前記突出部が当接する当接面が設けられており、
前記突出部が前記当接面に接触することにより、ローラの前記回転軸方向への移動が規制される歯車伝動装置。
【請求項2】
前記当接面に溝が設けられおり、
前記突出部にリブが設けられており、
前記突出部が前記当接面に接触しているときに、前記リブが前記溝内に挿入されている請求項1に記載の歯車伝動装置。
【請求項3】
前記軸受が、円錐ころ軸受である請求項1又は2に記載の歯車伝動装置。
【請求項4】
前記軸受が、円筒ころ軸受である請求項1又は2に記載の歯車伝動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書は、歯車伝動装置に関する技術を開示する。
【背景技術】
【0002】
キャリアがケースに対して相対回転し、キャリア又はケースが出力部を構成している歯車伝動装置が知られている。このような歯車伝動装置では、キャリアが軸受を介してケースに支持されている。特許文献1には、ケースとキャリアの間に円筒ころ軸受が配置された歯車伝動装置が開示されている。特許文献1の円筒ころ軸受は、ローラ(ころ)の回転軸が軸受中心軸に対して傾いており、アンギュラころ軸受を構成している。特許文献1のアンギュラころ軸受は、インナーレースの外周面及びアウターレースの内周面に、ローラが回転軸方向に移動することを規制するリブが設けられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−159774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ローラの回転軸が軸受中心軸に対して傾いている場合、歯車伝動装置の駆動中に、ローラに対して、ローラを回転軸方向に沿って外側に移動させる力が作用する。特許文献1では、リテーナの大径側の端部をケースに接触させることにより、ローラが回転軸方向の外側に移動することを規制している。ローラが外側に移動しようとすると、リテーナの大径側の端部の外周がケースに接触する。そのため、ローラに加わる力が大きくなると、リテーナがケースに対して滑り、リテーナの大径側が径方向の内側に変形し、ローラの軸方向への移動を規制できなくなることが起こり得る。その結果、ローラがケースに接触し、ローラ及び/又はケースが摩耗することが起こり得る。あるいは、リテーナが変形することにより、ローラがスムーズに回転しないことが起こり得る。本明細書は、上記課題を解決するものであり、ローラの軸方向への移動をより確実に規制する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本明細書が開示する技術は、キャリアが軸受を介してケースに支持されている歯車伝動装置に関する。その軸受は、キャリアに設けられているインナーレースと、ケースに設けられているアウターレースと、インナーレースとアウターレースの間に配置されている複数のローラと、隣り合うローラの間隔を保持するリテーナを備えている。ローラは、軸受中心軸に対して傾いた回転軸を有している。上記軸受では、インナーレースの外周面及びアウターレースの内周面に、ローラが自身の回転軸方向に移動することを規制するリブが設けられていない。また、リテーナの小径部側には、軸受中心軸に向けて突出している突出部が設けられている。キャリアとインナーレースの少なくとも一方には、上記突出部が当接する当接面が設けられている。本明細書で開示する歯車伝動装置では、上記突出部が上記当接面に接触することにより、ローラの回転軸方向への移動が規制される。
【0006】
上記の歯車伝動装置によると、ローラを回転軸方向に沿って外側に移動させる力がローラに作用したときに、リテーナの小径部に設けられている突出部がキャリア又はインナーレースと接触し、ローラの移動が規制される。すなわち、突出部が、キャリア又はインナーレースに引っかかることにより、リテーナの動きが規制され、ローラが回転軸方向に移動することが規制される。突出部の内径は当接面の外径より小さいので、ローラに加わる力が大きくなっても、突出部が当接面から外れることはない。上記の歯車伝動装置は、従来の歯車伝動装置と比較して、ローラが回転軸方向に移動することをより確実に規制することができる。
【0007】
なお、「インナーレースが、キャリアに設けられている」とは、キャリアとは別部品のインナーレースがキャリアに固定されている形態だけでなく、キャリアの外周面を加工することによりキャリアがインナーレースとして機能する形態も含む。同様に、「アウターレースが、ケースに設けられている」とは、ケースとは別部品のアウターレースがケースに固定されている形態だけでなく、ケースの内周面を加工することによりケースがアウターレースとして機能する形態も含む。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】第一実施例の歯車伝動装置の断面図を示す。
図2図1の破線IIで囲った部分の拡大断面図を示す。
図3】第二実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図4】第三実施例の歯車伝動装置の断面図を示す。
図5図4の破線Vで囲った部分の拡大断面図を示す。
図6】第四実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図7】第五実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図8】第六実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図9】第七実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図10】第八実施例の歯車伝動装置の一部分の拡大断面図を示す。
図11】第九実施例の歯車伝動装置の断面図を示す。
図12図11の破線XIIで囲った部分の拡大断面図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本明細書で開示する歯車伝動装置の技術的特徴の幾つかを記す。なお、以下に記す事項は、各々単独で技術的な有用性を有している。
【0010】
歯車伝動装置は、キャリアとケースを備えている。キャリアは、第一軸受を介して、ケースに回転可能に支持されていてよい。ケース内には、複数の歯車が収容されていてよい。歯車伝動装置は、さらに、クランクシャフトと偏心回転歯車と自転歯車を備えていてよい。クランクシャフトは、キャリアに回転可能に支持されていてよい。クランクシャフトは、偏心体を備えていてよい。偏心回転歯車は、クランクシャフトの偏心体と係合し、クランクシャフトの回転に伴って偏心回転してよい。自転歯車は、偏心回転歯車と噛み合っており、偏心回転歯車の歯数と異なる歯数を有していてよい。偏心回転歯車が外歯歯車であり、自転歯車が内歯歯車であってよい。ケースの内周面に内歯が設けられており、ケースが内歯歯車を兼ねていてよい。
【0011】
第一軸受は、インナーレースとアウターレースと複数のローラを備えていてよい。インナーレースは、キャリアに設けられていてよい。なお、キャリアの外周面にインナーレースが固定されていてもよいし、キャリアの外周面がインナーレースとして機能してもよい。アウターレースは、ケースに設けられていてよい。ケースの内周面にアウターレースが固定されていてよいし、ケースの内周面がアウターレースとして機能してもよい。複数のローラは、インナーレースとアウターレースの間に配置されていてよい。
【0012】
インナーレースの外周面には、ローラが回転軸方向に移動することを規制するリブが設けられていなくてよい。すなわち、インナーレースの外周面に、ローラの回転軸方向の端部に接触する突出部が設けられていなくてよい。アウターレースの内周面には、ローラが回転軸方向に移動することを規制するリブが設けられていなくてよい。すなわち、アウターレースの内周面に、ローラの回転軸方向の端部に接触する突出部が設けられていなくてよい。
【0013】
複数のローラは、第一軸受の軸受中心軸に対して傾いた回転軸を有していてよい。ローラは、円筒状であってもよいし、円錐状であってもよい。ローラが円筒状の場合、第一軸受は、円筒ころ軸受(アンギュラころ軸受)である。ローラが円錐状の場合、第一軸受は、円錐ころ軸受である。ローラの回転軸は、歯車伝動装置の内側(歯車伝動装置の軸線方向における中心側)に向かうに従って、第一軸受の軸受中心軸に近づくように傾いていてよい。第一軸受が円錐ころ軸受の場合、ローラの小径部が大径部より歯車伝動装置の内側に位置していてよい。
【0014】
第一軸受は、隣り合うローラの間隔を保持するリテーナを備えていてよい。リテーナは、リング状であり、大径部と小径部を備えていてよい。リテーナの小径部が大径部より歯車伝動装置の内側に位置していてよい。リテーナの周方向に複数の孔(ポケット)が設けられており、ローラが、その孔内に配置されていてよい。リテーナの小径部側に、第一軸受の軸受中心軸に向けて突出している突出部が設けられていてよい。突出部は、リテーナの小径部側の端部に設けられていてよい。突出部は、軸受中心軸の周りを一巡していてよい。突出部の内周面の径が、リテーナの径の最小値であってよい。
【0015】
突出部が当接する当接面が、キャリアに設けられていてよい。当接面は、インナーレースに設けられていてもよい。当接面は、キャリアとインナーレースの双方に設けられていてもよい。当接面は、突出部より歯車伝動装置の外側(歯車伝動装置の軸線方向における端部側)に設けられていてよい。当接面は、突出部より歯車伝動装置の外側に設けられていてよい。当接面は、歯車伝動装置の軸線の周りを一巡していてよい。当接面は、歯車伝動装置の軸線方向に直交するように設けられていてよい。当接面に、歯車伝動装置の軸線の周りを一巡する溝が設けられていてよい。また、突出部にリブが設けられており、突出部が当接面に当接しているときに、上記リブが上記溝内に挿入されていてもよい。上記リブは、歯車伝動装置の軸線に沿って延びていてよい。
【実施例】
【0016】
(第一実施例)
図1を参照し、歯車伝動装置100について説明する。なお、以下の説明では、機能が実質的に同じ部品について、参照番号に付しているアルファベットの記号を省略して説明することがある。歯車伝動装置100は、内歯歯車60とキャリア2とクランクシャフト10と外歯歯車28を備えている。内歯歯車60は、ケース59と複数の内歯ピン58を備えている。ケース59は、外歯歯車28の径方向の外側を囲っている。内歯ピン58は、円柱状であり、ケース59の内周面に配置されている。キャリア2は、一対の第一軸受20(20a,20b)によって、ケース59に回転可能に支持されている。内歯ピン58は、第一軸受20a,20bの間に配置されている。第一軸受20は、キャリア2がケース59に対してアキシャル方向及びラジアル方向に移動することを規制している。歯車伝動装置100では、第一軸受20として円錐ころ軸受を用いている。
【0017】
第一軸受20aは、インナーレース12,アウターレース16,ローラ14及びリテーナ18を備えている。インナーレース12は、キャリア2と一体である。より具体的には、キャリア2の外周面が、インナーレース12を兼ねている。すなわち、インナーレース12は、キャリア2の一部である。アウターレース16は、ケース59に取り付けられている。アウターレース16は、ケース59の内周面に嵌め込まれている。第一軸受20aは、複数のローラ14を備えている。図1には、複数のローラ14のうちの一部が示されている。
【0018】
インナーレース12の外周面とアウターレース16の内周面は、回転軸25に向けて突出する突出部を備えていない。すなわち、インナーレース12の外周面とアウターレース16の内周面は、ローラ14が回転軸25方向に移動することを規制するリブを備えていない。隣り合うローラ14同士の間隔は、リテーナ18によって保持されている。具体的には、リテーナ18の周方向に複数の孔(図示省略)が設けられており、各々の孔内にローラ14が配置されている。ローラ14の回転軸25は、軸線56に対して傾いている。軸線56は、キャリア2又はケース59の回転軸であり、第一軸受20の軸受中心軸でもある。
【0019】
第一軸受20bは、インナーレース42,アウターレース46,ローラ44及びリテーナ48を備えている。インナーレース42は、キャリア2と一体である。キャリア2の外周面が、インナーレース42を兼ねている。すなわち、インナーレース42は、キャリア2の一部である。アウターレース46は、ケース59に取り付けられている。アウターレース46は、ケース59の内周面に嵌め込まれている。第一軸受20bは、複数のローラ44を備えている。
【0020】
インナーレース42の外周面とアウターレース46の内周面は、回転軸35に向けて突出する突出部を備えていない。すなわち、インナーレース42の外周面とアウターレース46の内周面は、ローラ44が回転軸35方向に移動することを規制するリブを備えていない。隣り合うローラ44同士の間隔は、リテーナ48によって保持されている。リテーナ48の周方向に複数の孔(図示省略)が設けられており、各々の孔内にローラ44が配置されている。ローラ44の回転軸35は、軸線56に対して傾いている。回転軸25,35は、歯車伝動装置100の内側に向かうに従って軸線56に近づいている。軸線56に対する回転軸25の傾斜角の絶対値は、軸線56に対する回転軸35の傾斜角の絶対値と等しい。すなわち、回転軸25と回転軸35が交わる位置は、軸線56方向における、第一軸受20aと第一軸受20bの中点である。
【0021】
キャリア2は、第一プレート2aと第二プレート2cを備えている。第一プレート2aは、柱状部2bを備えている。柱状部2bは、第一プレート2aから第二プレート2cに向けて延びており、第二プレート2cに固定されている。第一プレート2aと第二プレート2cは、着脱可能である。第一プレート2aとケース59の間に、オイルシール22が設けられている。また、歯車伝動装置100は、軸線56に沿って貫通孔4を備えている。すなわち、キャリア2及び外歯歯車28の中央に貫通孔が設けられている。
【0022】
クランクシャフト10は、一対の第二軸受6によって、キャリア2に支持されている。第二軸受6aが第一プレート2aに取り付けられており、第二軸受6bが第二プレート2cに取り付けられている。一対の第二軸受6は、クランクシャフト10がキャリア2に対してアキシャル方向及びラジアル方向に移動することを規制している。歯車伝動装置100では、一対の第二軸受6として円錐ころ軸受を用いている。
【0023】
クランクシャフト10は、シャフト部8(8a,8b)と2個の偏心体34(34a,34b)を備えている。偏心体34a,34bは、シャフト部8a,8bの間に設けられている。第二軸受6は、シャフト部8に固定されている。そのため、偏心体34は、第二軸受6a,6bの間に配置されているということもできる。偏心体34aと,偏心体34bは、クランクシャフト10の回転軸54に対して、偏心の向きが対称である。偏心体34aは、円筒ころ軸受32aを介して外歯歯車28aに係合している。偏心体34bは、軸受32bを介して外歯歯車28bに係合している。円筒ころ軸受32は、第二軸受6によって、軸方向(回転軸54方向)に移動することが規制されている。
【0024】
シャフト部8bに、入力歯車52が固定されている。入力歯車52は、第二軸受6a,6bの外側でシャフト部8bに固定されている。入力歯車52には、モータ(図示省略)のトルクが伝達される。入力歯車52にモータのトルクが伝達されると、クランクシャフト10が回転軸54の周りを回転する。クランクシャフト10が回転すると、偏心体34が回転軸54の周りを偏心回転する。偏心体34の偏心回転に伴って、外歯歯車28が、内歯歯車60と噛み合いながら偏心回転する。外歯歯車28は、歯車伝動装置100の軸線56の周りを偏心回転する。外歯歯車28aと外歯歯車28bは、軸線56に対して対称に偏心回転する。外歯歯車28の歯数と内歯歯車60の歯数(内歯ピン58の数)は異なる。外歯歯車28は、クランクシャフト10を介してキャリア2に支持されている。そのため、外歯歯車28が偏心回転すると、外歯歯車28と内歯歯車60の歯数差に応じて、キャリア2が、内歯歯車60(ケース59)に対して回転する。
【0025】
図2を参照し、第一軸受20について詳細に説明する。なお、以下の説明では、第一軸受20aの構造について説明する。第一軸受20bについては、第一軸受20aと構造が実質的に同一であるため説明を省略する。
【0026】
図2に示すように、リテーナ18の小径部18aに、突出部62が設けられている。突出部62は、軸線56に向けて突出している(図1も参照)。突出部62は、軸線56の周りを一巡している。突出部62の内周面が形成する円の径は、リテーナ18の内周面が形成する円のうちの最小径である。軸線56方向において、突出部62は、キャリア2に対向している。なお、上記したように、キャリア2の外周面は、インナーレース12を兼ねている。そのため、突出部62は、インナーレース12に対向しているということもできる。突出部62のキャリア2に対向する部分に、平坦面64が設けられている。なお、平坦面64は、軸線56方向に直交している。すなわち、平坦面64の全体が、軸線56に直交する一平面に含まれる。
【0027】
キャリア2は、突出部62に対向する部分に、当接面66を備えている。当接面66は、軸線56方向に直交している。すなわち、当接面66の全体が、軸線56に直交する一平面に含まれる。ローラ14を外側(回転軸25方向における歯車伝動装置100の端部側)に移動させる力がローラ14に加わると、ローラ14とともにリテーナ18が外側に移動し、突出部62(平坦面64)が当接面66に当接する。キャリア2は、突出部62の径方向内側に、規制部65を備えている。規制部65は、リテーナ18が内側(回転軸25方向における歯車伝動装置の中心側)に移動することを規制し、ローラ14が内側に移動することを規制する。
【0028】
歯車伝動装置100の利点を説明する。歯車伝動装置100が駆動すると、第一軸受20aのローラ14を外側に移動させる力が、ローラ14に加わる。同様に、第一軸受20bのローラ44を回転軸35方向の外側に移動させる力が、ローラ44に加わる。以下、第一軸受20aについてのみ説明する。上記したように、インナーレース12とアウターレース16は、ローラ14の移動を規制するリブを備えていない。そのため、ローラ14の大径部側の端部に、インナーレース12及びアウターレース16が接触することがない。ローラ14が摩耗することを防止することができる。
【0029】
ローラ14の移動は、リテーナ18によって規制される。そのため、ローラ14を外側に移動させる力がローラ14に加わると、ローラ14とともにリテーナ18が外側に移動しようとする。リテーナ18が外側に移動しようとすると、リテーナ18の突出部62が当接面66に当接し、ローラ14の移動が規制される。歯車伝動装置100の場合、突出部62が、リテーナ18の小径部18aから内側(軸線56側)に向けて延びている。そのため、ローラ14を外側に移動させる力が大きくなっても、リテーナ18は変形し得ない。
【0030】
歯車伝動装置100は、突出部62と当接面66が当接した後は、突出部62及び/又は当接面66が破損しない限り、ローラ14が外側に移動することを規制し続けることができる。一方、従来の歯車伝動装置は、上記したように、リテーナの大径部をケースに当接させることにより、ローラが外側に移動することを規制している。そのため、ローラを外側に移動させる力が大きくなると、リテーナがケースに対して滑り、リテーナの大径部が内側に変形し、ローラの移動を規制することができない。歯車伝動装置100は、従来の歯車伝動装置に比べ、より確実にローラの移動を規制することができる。
【0031】
図1から明らかなように、リテーナ18の大径部は、ケース59及びキャリア2に接触しない。そのため、リテーナ18によって、ケース59とキャリア2の間の隙間が塞がれることを防止するができる。すなわち、第一軸受20の外側空間24(回転軸25方向における第一軸受20よりも外側の空間)と第一軸梅20の内側空間26(回転軸25方向における第一軸受20よりも内側の空間)を、リテーナ18が遮ることが防止されている。外側空間24と内側空間26の間において、潤滑剤等の移動が制限されることを防止することができる。
【0032】
また、リテーナ18がケース59に接触しないので、ケース59が摩耗することを防止することができる。さらに、歯車伝動装置100は、従来の歯車伝動装置に比べ、リテーナの大径部と接触する部分をケースに設ける必要がない(特に、第一軸受20bを参照)。歯車伝動装置100は、従来の歯車伝動装置に比べ、小型化・軽量化を実現することができる。
【0033】
(第二実施例)
図3を参照し、歯車伝動装置200について説明する。歯車伝動装置200は歯車伝動装置100の変形例であり、歯車伝動装置100と同じ部品には、同じ符号又は下二桁が同じ符号を付すことにより説明を省略することがある。歯車伝動装置200は、第一軸受220の周囲の構造が歯車伝動装置100の第一軸受20の周囲の構造と異なるだけである。歯車伝動装置200の他の構造は、歯車伝動装置100と実質的に同一である。なお、図3は、歯車伝動装置200の一部分(図2に相当する部分)のみを示している。
【0034】
歯車伝動装置200は、第一軸受220を備えている。第一軸受220は、インナーレース212,アウターレース16,ローラ14及びリテーナ218を備えている。キャリア202の外周面が、インナーレース212を兼ねている。リテーナ218の小径部218aに、軸線56(第一軸受220の軸受中心軸,図1も参照)に向けて延びている突出部262が設けられている。突出部262には、軸線56に沿って延びているリブ268が設けられている。リブ268は、軸線56の周りを一巡している。リブ268は、突出部262の軸線56側の端部に設けられている。リブ268は、小径部218aの内周面の一部を形成している。
【0035】
インナーレース212(キャリア202)は、突出部262の平坦面264が当接する当接面266を備えている。当接面266の一部に、溝270が設けられている。溝270は、軸線56の周りを一巡している。ローラ14が外側に移動しようとすると、平坦面264が当接面266に当接するとともに、溝270内にリブ268が挿入される。これにより、より確実にローラ14の移動を規制することができる。
【0036】
(第三実施例)
図4図5を参照し、歯車伝動装置300について説明する。歯車伝動装置300は歯車伝動装置100の変形例であり、歯車伝動装置100と同じ部品には、同じ符号又は下二桁が同じ符号を付すことにより説明を省略することがある。歯車伝動装置300は、第一軸受320のインナーレース312がキャリア302と別部品であることが歯車伝動装置100と異なる。以下の説明では、第一軸受320aについて説明し、第一軸受320bの説明は省略する。
【0037】
キャリア302は、第一プレート302aと第二プレート302cを備えている。第一プレート302aは、柱状部302bを備えている。インナーレース312は、キャリア302の外周に嵌め込まれている。インナーレース312の軸線56方向の端部は、キャリアに接触している。これにより、インナーレース312は、キャリア302に対して位置決めされている。当接面366が、インナーレース312に設けられている。ローラ14を外側に移動させる力がローラ14に加わると、突出部62(平坦面364)が当接面366に当接する。歯車伝動装置300は、キャリア302の外周を斜めに加工することを省略することができる。
【0038】
(第四〜第八実施例)
図6図10を参照し、第四実施例の歯車伝動装置400、第5実施例の歯車伝動装置500、第6実施例の歯車伝動装置600、第7実施例の歯車伝動装置700及び第8実施例の歯車伝動装置800について説明する。歯車伝動装置400〜800は、歯車伝動装置300の変形例である。歯車伝動装置400〜800について、歯車伝動装置300と同じ部品には、同じ符号又は下二桁が同じ符号を付すことにより説明を省略することがある。歯車伝動装置400〜800は、リテーナの周囲の構造が歯車伝動装置300のリテーナ318の周囲の構造と異なるだけである。歯車伝動装置400〜800の他の構造は、歯車伝動装置300と実質的に同一である。なお、図6図10は、歯車伝動装置400〜800の一部分(図5に相当する部分)のみを示している。
【0039】
歯車伝動装置400は、第一軸受420を備えている。インナーレース312,アウターレース16及びローラ14は、第一軸受320(図5を参照)と同一である。第一軸受420は、リテーナ418の形状が第一軸受320と異なる。リテーナ418は、リテーナ218と実質的に同一である(図3を参照)。すなわち、突出部462にリブ468が設けられている。リブ468は、インナーレース312の内周面より軸線56側(図4も参照)に位置している。歯車伝動装置400では、キャリア402に溝470が設けられている。より詳細には、インナーレース312の径方向の内側に位置するキャリア402の一部を切り欠き、その切り欠き部分と規制部465の外周面とインナーレース312の内周面とによって溝470が形成される。
【0040】
歯車伝動装置500は、第一軸受520を備えている。第一軸受520のリテーナ518は、第一軸受420のリテーナ418と同様に、突出部562にリブ568が設けられている。突出部562の軸線56に向けての突出長さは、リテーナ418の突出部462の突出長さより短い。換言すると、突出部562の内径は、突出部462の内径よりも大きい。第一軸受520は、第一軸受420よりもリテーナのサイズを小さくすることができる。歯車伝動装置500は、リブ568が挿入される溝570を備えている。溝570は、インナーレース512に設けられた溝567とキャリア502に設けられた溝569とによって形成されている。換言すると、溝570は、インナーレース512の内周面の一部を切り欠き、その切り欠き部分に対応する位置のキャリア502の外周面を切り欠き、両者の切り欠き部分によって形成されている。
【0041】
歯車伝動装置600は、第一軸受620を備えている。第一軸受620のリテーナ618は、リテーナ418,518と同様に、突出部662にリブ668が設けられている。突出部662の軸線56に向けての突出長さは、突出部562の突出長さより短い。すなわち、突出部662の内径は、突出部562の内径よりもさらに大きい。第一軸受620は、第一軸受520よりもリテーナのサイズを小さくすることができる。歯車伝動装置600は、リブ668が挿入される溝670を備えている。溝670は、インナーレース612に設けられている。溝670は、インナーレース612の内周面の一部を切り欠き、その切り欠き部分とキャリア302(規制部665)の外周面とインナーレース612の残部によって形成されている。
【0042】
歯車伝動装置700は、第一軸受720を備えている。第一軸受720のリテーナ718には、リテーナ18と同様に、突出部762にリブが設けられていない(図2,5も参照)。突出部762の軸線56に向けての突出長さは、突出部62の突出長さより長い。径方向(軸線56に直交する方向)において、突出部762は、インナーレース612の内周面より軸線56側まで突出している。突出部762におけるリテーナ718の内径は、インナーレース712の内径より小さい。歯車伝動装置700では、キャリア702に当接面766が設けられている。当接面766は、キャリア702の外周面の一部を切り欠き、規制部765を形成した残部である。
【0043】
歯車伝動装置800は、第一軸受820を備えている。第一軸受820のリテーナ818には、リテーナ418,518,618と同様に、突出部862にリブ868が設けられている。突出部862の軸線56に向けての突出長さは、突出部462の突出長さより長い(図6も参照)。径方向において、突出部862は、インナーレース812の内周面よりも軸受中心軸56側まで突出している。突出部862におけるリテーナ818の内径は、インナーレース812の内径よりも小さい。歯車伝動装置800では、当接面866及び溝870が、キャリア802に設けられている。当接面866は、キャリア802の外周面の一部を切り欠いて規制部865を形成した後、溝870を形成した残部である。
【0044】
(第九実施例)
図11図12を参照し、歯車伝動装置900について説明する。歯車伝動装置900は歯車伝動装置100の変形例であり、歯車伝動装置100と同じ部品には、同じ符号又は下二桁が同じ符号を付すことにより説明を省略することがある。歯車伝動装置900は、第一軸受920が円筒ころ軸受(アンギュラころ軸受)を形成していることが、歯車伝動装置100と異なる。なお、上記したように、歯車伝動装置100の第一軸受20は、円錐ころ軸受である。以下の説明では、第一軸受920aについて説明し、第一軸受920bの説明は省略する。
【0045】
第一軸受920は、インナーレース912,アウターレース916,ローラ914及びリテーナ918を備えている。キャリア902(902a)の外周面が、インナーレース912を兼ねている。インナーレース912の外周面とアウターレース916の内周面は、軸線56に対する傾斜角が等しい。
【0046】
上記したように、第一軸受920では、キャリア902がインナーレース912を兼ねている。しかしながら、第一軸受320,420,520,620,720,820のように、キャリアとインナーレースが別体であってもよい。また、第一軸受220,420,520,620,820のように、突出部にリブが設けられていてもよい。重要なことは、第一軸受のローラの回転軸が軸受中心軸に対して傾いており、リテーナの小径部に軸受中心軸に向けて突出する突出部が設けられており、キャリア及び/又はインナーレースに突出部と当接する当接面が設けられていることである。
【0047】
以上、本発明の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組み合わせによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組み合わせに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数の目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0048】
2:キャリア
12:インナーレース
14:ローラ
16:アウターレース
18:リテーナ
20:軸受(第一軸受)
56:軸受中心軸
59:ケース
62:突出部
66:当接面
100:歯車伝動装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12