特許第6284375号(P6284375)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284375
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】無段変速機のプーリ比演算装置
(51)【国際特許分類】
   F16H 61/02 20060101AFI20180215BHJP
   F16H 61/662 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   F16H61/02
   F16H61/662
【請求項の数】4
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-12597(P2014-12597)
(22)【出願日】2014年1月27日
(65)【公開番号】特開2015-140819(P2015-140819A)
(43)【公開日】2015年8月3日
【審査請求日】2016年12月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】000231350
【氏名又は名称】ジヤトコ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【弁護士】
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100082670
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 民雄
(74)【代理人】
【識別番号】100180068
【弁理士】
【氏名又は名称】西脇 怜史
(72)【発明者】
【氏名】大津 重任
(72)【発明者】
【氏名】高野 亮
(72)【発明者】
【氏名】中野 晴久
(72)【発明者】
【氏名】山本 明弘
【審査官】 増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】 特開2012−241799(JP,A)
【文献】 特開昭62−147155(JP,A)
【文献】 特開平3−189457(JP,A)
【文献】 特開2003−42867(JP,A)
【文献】 特開2005−133805(JP,A)
【文献】 特開2005−36893(JP,A)
【文献】 特開2006−29379(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 61/02
F16H 61/662
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対のプーリの間にベルトを巻き掛け、一方のプーリに対するベルト巻き掛け半径と、他方のプーリに対するベルト巻き掛け半径を変更して無段階の変速を行う無段変速機において、
前記プーリを前記ベルトに押し付ける力であるプーリ押付力を計測するプーリ押付力計測手段と、
前記プーリを回転可能に支持する軸受けに負荷される力、若しくは、前記軸受けを支持する変速機ケースに負荷される力を計測し、前記プーリが前記ベルトから受ける力であるプーリ受け力を求めるプーリ受け力計測手段と、
前記プーリ受け力を前記プーリ押付力で除した値に基づいて、前記一方のプーリに対するベルト巻き掛け半径と、前記他方のプーリに対するベルト巻き掛け半径との比率であるプーリ比を演算するプーリ比演算手段と、
を備えることを特徴とする無段変速機のプーリ比演算装置。
【請求項2】
請求項1に記載された無段変速機のプーリ比演算装置において、
前記プーリ受け力計測手段は、前記軸受け又は前記変速機ケースに設けた歪みゲージによって構成する
ことを特徴とする無段変速機のプーリ比演算装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された無段変速機のプーリ比演算装置において、
前記プーリ押付力計測手段は、前記プーリをスライド動作させるプーリ作動油圧を検出するプーリ油圧センサによって構成する
ことを特徴とする無段変速機のプーリ比演算装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載された無段変速機のプーリ比演算装置において、
前記一対のプーリを、入力軸が連結したプライマリプーリと、出力軸が連結したセカンダリプーリと、から構成し、
前記セカンダリプーリには、プーリ作動油圧としてライン圧を供給し、
前記プーリ押付力計測手段は、前記セカンダリプーリが前記ベルトを押し付ける力を計測し、
前記プーリ受け力計測手段は、前記セカンダリプーリを回転可能に支持する軸受けに負荷される力、若しくは、前記軸受けを支持する変速機ケースに負荷される力を計測し、前記セカンダリプーリが前記ベルトから受けるプーリ受け力を求める
ことを特徴とする無段変速機のプーリ比演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一対のプーリに巻き掛けられたベルト巻き掛け半径の比であるプーリ比を演算する無段変速機のプーリ比演算装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、一対のプーリの間にベルトを巻き掛けた無段変速機において、一対のプーリの回転速度をそれぞれ回転センサによって計測し、各回転速度の比からベルト巻き掛け半径の比である無段変速機のプーリ比を求めるプーリ比演算装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
また、一対のプーリの軸方向動作量をそれぞれストロークセンサによって計測し、各軸方向動作量から無段変速機のプーリ比を求めるプーリ比演算装置が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-48365号公報
【特許文献2】特開平1-266355号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の無段変速機のプーリ比演算装置にあっては、回転速度の比からプーリ比を求める場合では、回転センサでは計測できない低回転速度領域のとき、プーリ比を求めることができないという問題が発生する。
また、プーリの軸方向動作量からプーリ比を求める場合では、ストロークセンサのコストが比較的高く、コストが増加してしまうという問題が生じる。また、ストロークセンサは搭載スペースを比較的大きく確保する必要があり、レイアウトが制限されてしまうという問題もあった。
【0005】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、コストの増加を抑制しつつ、プーリ比を常時求めることができる無段変速機のプーリ比演算装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するため、本発明の無段変速機のプーリ比演算装置は、一対のプーリの間にベルトを巻き掛け、一方のプーリに対するベルト巻き掛け半径と、他方のプーリに対するベルト巻き掛け半径を変更して無段階の変速を行う無段変速機において、プーリ押付力計測手段と、プーリ受け力計測手段と、プーリ比演算手段と、を備えている。
前記プーリ押付力計測手段は、前記プーリを前記ベルトに押し付ける力であるプーリ押付力を計測する。
前記プーリ受け力計測手段は、前記プーリを回転自在に支持する軸受けに負荷される力、若しくは、前記軸受けを支持する変速機ケースに負荷される力を計測し、前記プーリが前記ベルトから受ける力であるプーリ受け力を求める。
前記プーリ比演算手段は、前記プーリ受け力を前記プーリ押付力で除した値に基づいて、前記一方のプーリに対するベルト巻き掛け半径と、前記他方のプーリに対するベルト巻き掛け半径との比率であるプーリ比を演算する。
【発明の効果】
【0007】
よって、本発明の無段変速機のプーリ比演算装置にあっては、プーリ受け力をプーリ押付力で除した値に基づいてプーリ比が演算される。
ここで、プーリ受け力は、プーリを回転可能に支持する軸受け及びこの軸受けを支持する変速機ケースに伝達される。すなわち、軸受けに負荷される力若しくは変速機ケースに負荷される力は、プーリがベルトから受ける力であるため、これらの力を計測することで、プーリ受け力を求めることができる。さらに、プーリ押付力を計測すれば、プーリ受け力をプーリ押付力で除した値を求めることができる。
このとき、プーリ受け力は、ベルトの巻付き角が一定であれば、プーリ押付力に比例する。すなわち、プーリ受け力をプーリ押付力で除した値は、プーリ比に応じて一義的に決まる。
そのため、プーリ受け力をプーリ押付力で除した値に基づいてプーリ比を演算することができ、プーリの回転速度とは無関係にプーリ比を求めることができる。これにより、回転センサで計測できない低回転速度領域であっても、プーリ比を演算することができる。また、比較的コストのかかるストロークセンサが不要となるので、コストの増加を抑制することができる。この結果、コストの増加を抑制しつつ、プーリ比を常時求めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例1のプーリ比演算装置を備える無段変速機を示す全体システム図である。
図2】実施例1の無段変速機のベルトの一部を示す斜視図である。
図3】実施例1のプーリ比演算部にて実行されるプーリ比演算処理の流れを示すフローチャートである。
図4】プーリ受け力をプーリ押付力で除した値とプーリ比の関係特性を示す特性線図の一例である。
図5】無段変速機におけるプーリ押付力を示す説明図である。
図6】無段変速機におけるプーリ受け力を示す説明図である。
図7】プーリ比が最ハイ状態のときのプーリ受け力を示す模式図である。
図8】プーリ比が最ロー状態のときのプーリ受け力を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の無段変速機を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【0010】
(実施例1)
まず、実施例1の無段変速機のプーリ比演算装置の構成を、「ベルト式無段変速機の全体システム構成」、「プーリ比演算処理」に分けて説明する。
【0011】
図1は、実施例1のプーリ比演算装置を備える無段変速機を示す全体システム図である。図2は、実施例1のベルトの一部を示す斜視図である。以下、図1,図2に基づいて、実施例1のベルト式無段変速機の全体システム構成について説明する。
【0012】
実施例1の無段変速機CVTは、図1に示すように、プライマリプーリ1と、セカンダリプーリ2と、ベルト3と、を備えている。この無段変速機CVTでは、プライマリプーリ1に対するベルト3の巻き掛け半径(ベルト接触径)と、セカンダリプーリ2に対するベルト3の巻き掛け半径(ベルト接触径)を変更して巻き掛け半径の比であるプーリ比を変化させる。これにより、変速機入力回転数と変速機出力回転数の比である変速比を無段階に変化させる。
【0013】
前記プライマリプーリ1は、シーブ面11aを有する固定プーリ11と、シーブ面12aを有する駆動プーリ12と、の組み合わせにより構成される。
【0014】
前記固定プーリ11は、シーブ面11a側を正面側としたとき、背面側に入力シャフト部11bを一体に有し、正面側にプーリ支持シャフト部11cを一体に有する。入力シャフト部11bは、プライマリ第1ベアリング51を介して変速機ケース4に対し回転可能に支持されている。また、プーリ支持シャフト部11cは、プライマリ第2ベアリング52を介して変速機ケース4に対し回転可能に支持されている。さらに、入力シャフト部11b及びプーリ支持シャフト部11cの軸心位置には、プライマリ圧油路13が形成されている。
なお、入力シャフト部11bには、図示しないエンジン等により回転駆動する駆動源出力軸X(入力軸)がスプライン結合により連結される。
【0015】
前記駆動プーリ12は、シーブ面12a側を正面側としたとき、背面側に大径円筒状のシリンダ12bと、小径円筒状のボス部材12cと、が一体に形成されている。シリンダ12bには、プライマリ圧室14を液密状態にする環状のシールリング15が摺動するシリンダ内周面12dを有する。シールリング15は、プーリ支持シャフト部11cに固定され、対向間隔が最大のときにボス部材12cのボス端面12eに接触する固定ピストンプレート16の外周位置の凹溝に装着されている。ボス部材12cとプーリ支持シャフト部11cの間には、駆動プーリ12を軸方向に移動可能で回転方向に固定するボールスプライン機構17が介装されている。シールリング15は、フッ素樹脂を素材として形成されている。
【0016】
前記セカンダリプーリ2は、シーブ面21aを有する固定プーリ21と、シーブ面22aを有する駆動プーリ22と、の組み合わせにより構成される。
【0017】
前記固定プーリ21は、シーブ面21a側を正面側としたとき、背面側にケース支持シャフト部21bを一体に有し、正面側にプーリ支持シャフト部21cを一体に有する。ケース支持シャフト部21bは、セカンダリ第1ベアリング53を介して変速機ケース4に対し回転可能に支持されている。また、プーリ支持シャフト部21cは、セカンダリ第2ベアリング54を介して変速機ケース4に対し回転可能に支持されている。さらに、ケース支持シャフト部21b及びプーリ支持シャフト部21cの軸心位置には、セカンダリ圧油路23が形成されている。
なお、プーリ支持シャフト部21cは、変速機出力軸(出力軸)に相当し、図示しない終減速機構に噛み合うギヤYが取り付けられる。
【0018】
前記駆動プーリ22は、シーブ面22a側を正面側としたとき、背面側に大径円筒状のシリンダ22bと、小径円筒状のボス部材22cと、が一体に形成されている。シリンダ22bには、セカンダリ圧室24を液密状態にする環状のシールリング25が摺動するシリンダ内周面22dを有する。シールリング25は、プーリ支持シャフト部21cに固定され、対向間隔が最大のときにボス部材22cのボス端面22eに接触する固定ピストンプレート26の外周位置の凹溝に装着されている。ボス部材22cとプーリ支持シャフト部21cの間には、駆動プーリ12を軸方向に移動可能で回転方向に固定するボールスプライン機構27が介装されている。シールリング25は、フッ素樹脂を素材として形成されている。
【0019】
前記ベルト3は、プライマリプーリ1のV字形状をなすシーブ面11a,12aと、セカンダリプーリ2のV字形状をなすシーブ面21a,22aに掛け渡されている。このベルト3は、図2に示すように、環状リングを内から外へ多数枚重ね合わせた2組の積層リング3a,3aと、抜き打ち板材により形成され、2組の積層リング3a,3aに沿って挟み込みにより環状に積層して取り付けられた多数のエレメント3bにより構成される。そして、各エレメント3bには、両側位置にプライマリプーリ1のシーブ面11a,12aと、セカンダリプーリ2のシーブ面22a,22bと接触するフランク面3c,3cを有する。
【0020】
前記無段変速機CVTの制御系は、図1に示すように、油圧制御回路6と、CVTコントロールユニット7と、を備えている。
【0021】
前記油圧制御回路6は、プライマリ圧室14に導かれるプライマリ油圧Ppriと、セカンダリ圧室24に導かれるセカンダリ油圧Psecと、を作り出す油圧回路である。この油圧制御回路6は、ライン圧ソレノイド61と、プライマリ圧ソレノイド62と、を有する。
【0022】
前記ライン圧ソレノイド61は、CVTコントロールユニット7から出力されるライン圧指示に応じ、図示しないオイルポンプから圧送される作動油を、指示されたライン圧に調圧する。このライン圧は、そのままセカンダリ圧室24に導かれ、ライン圧=セカンダリ油圧Psecとなる。
【0023】
前記プライマリ圧ソレノイド62は、CVTコントロールユニット7から出力されるプライマリ圧指示に応じ、ライン圧を元圧として指示されたプライマリ油圧Ppriに減圧調整する。
【0024】
前記CVTコントロールユニット7は、スロットル開度等に応じた目標ライン圧を得る指示をライン圧ソレノイド61に出力するライン圧制御や、車速やスロットル開度等に応じて目標変速比を得る指示をプライマリ圧ソレノイド62に出力する変速油圧制御、等を行う。また、このCVTコントロールユニット7は、プーリ比を演算するプーリ比演算部71(プーリ比演算装置)を有している。ここで、「プーリ比」とは、プライマリプーリ1に巻き掛けられたベルト3の円弧半径(ベルト巻き掛け径)と、セカンダリプーリ2に巻き掛けられたベルト3の円弧半径(ベルト巻き掛け径)の比率であり、セカンダリプーリ側ベルト巻き掛け径を、プライマリプーリ側ベルト巻き掛け径で割った値となる。
このプーリ比演算部71では、セカンダリプーリ2がベルト3からシーブ面21a,22aに垂直な方向に受ける力であるプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を、セカンダリプーリ2をベルト3に押し付ける力であるプーリ押付力Fsで除した値に基づいてプーリ比を演算する。このプーリ比演算部71は、後述するプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値とプーリ比の関係特性を示す特性線図(図4参照)をあらかじめ記憶している。
【0025】
そして、このCVTコントロールユニット7には、セカンダリ油圧センサ72、歪みゲージ73、等からのセンサ情報が入力される。さらに、図示しないプライマリ油圧センサ、アクセル開度センサ、車速センサ、等からの情報も入力される。
【0026】
前記セカンダリ油圧センサ72は、セカンダリ圧室24に導かれ、セカンダリプーリ2の駆動プーリ22を動作させるセカンダリ油圧Psec(=ライン圧)を検出する油圧センサである。このセカンダリ油圧センサ72によって検出されたセカンダリ油圧Psecに、セカンダリ油圧Psecを受ける受圧面積であるシリンダ内周面22dで囲まれた面積を積算することで、セカンダリプーリ2をベルト3に押し付ける力であるプーリ押付力Fsが求められる。つまり、このセカンダリ油圧センサ72は、プーリ押付力Fsを計測するプーリ押付力計測手段に相当する。
【0027】
前記歪みゲージ73は、セカンダリプーリ2のケース支持シャフト部21bを回転可能に支持するセカンダリ第1ベアリング53のアウターレースに取り付けられ、このセカンダリ第1ベアリング53の歪み量を検出するセンサである。この歪みゲージ73によって検出されたセカンダリ第1ベアリング53の歪みから求められる力は、セカンダリプーリ2がシーブ面21a,22aに接触しているベルト3のエレメント3bから受ける力である。つまり、この歪みゲージ73は、セカンダリプーリ2を回転可能に支持するセカンダリ第1ベアリング53に負荷される力を計測し、セカンダリプーリ2がベルト3から受ける力であるプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めるプーリ受け力計測手段に相当する。
【0028】
[プーリ比演算処理]
図3は、実施例1のプーリ比演算装置におけるプーリ比演算部にて実行されるプーリ比演算処理の流れを示すフローチャートである。
【0029】
ステップS1では、セカンダリ油圧センサ72により、セカンダリ圧室24に導かれ、セカンダリプーリ2の駆動プーリ22を軸方向に移動させるセカンダリ油圧Psecを計測し、ステップS2へ進む。
【0030】
ステップS2では、ステップS1でのセカンダリ油圧Psecの計測に続き、この計測したセカンダリ油圧Psecに基づいて、セカンダリプーリ2をベルト3に押し付ける力であるプーリ押付力Fsを算出し、ステップS3へ進む。
ここで、プーリ押付力Fsは、セカンダリ油圧Psecに、このセカンダリ油圧Psecを受ける受圧面積であるシリンダ内周面22dで囲まれた面積を積算して求める。
【0031】
ステップS3では、ステップS2でのプーリ押付力Fsの算出に続き、歪みゲージ73により、セカンダリ第1ベアリング53の歪み量を計測し、ステップS4へ進む。
【0032】
ステップS4では、ステップS3でのベアリング歪み量の計測に続き、この計測したセカンダリ第1ベアリング53の歪み量から、セカンダリ第1ベアリング53に負荷されている力を求め、ステップS5へ進む。
ここで、このセカンダリ第1ベアリング53に負荷されている力は、セカンダリプーリ2がベルト3のエレメント3bから受ける力(=プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|)であり、このステップS4では、セカンダリ第1ベアリング53の歪み量からプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めることとなる。
【0033】
ステップS5では、ステップS4でのプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|の演算に続き、このステップS4にて求めたプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を、ステップS2にて算出したプーリ押付力Fsで除した値を演算し、ステップS6へ進む。
【0034】
ステップS6では、ステップS5でのプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値の演算に続き、演算された値と、図4に示す特性線図に基づいて、プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2に巻き掛けられたベルト3の巻き掛け半径の比率であるプーリ比を演算し、エンドへ進む。
ここで、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|は、ベルト3の巻付き角が一定であれば、プーリ押付力Fsに比例する。つまり、同じ巻付き角であれば、プーリ押付力Fsが大きいほどプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|が大きくなる。そのため、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値は、プーリ比に応じて一義的に決まる。なお、図4に示す特性線図は、予め実験によって設定する。
【0035】
次に、作用を説明する。
まず、「プーリ押付力とプーリ受け力について」を説明し、続いて、実施例1のプーリ比演算装置における「プーリ比演算作用」を説明する。
【0036】
[プーリ押付力とプーリ受け力について]
図5は無段変速機におけるプーリ押付力を示す説明図であり、図6は無段変速機におけるプーリ受け力を示す説明図である。以下、図5及び図6に基づき、プーリ押付力とプーリ受け力について説明する。
【0037】
無段変速機CVTにおいて、プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2の間にベルト3を巻き掛け、両プーリ1,2とベルト3によってトルクを伝達する場合、ベルト3のエレメント3bは、両サイドのシーブ面11a,12a又は21a,22aで押し付けられたまま回転することにより、摩擦でトルク伝達を行う。なお、図5ではセカンダリプーリ2を示す。
ここで、伝達可能なトルクは、摩擦クラッチと同じようにシーブ面の摩擦係数、ベルトピッチ半径、プーリ押付力、シーブ角などで決まる。
【0038】
このとき、ベルト3が滑ってしまうとトルクを伝達することができないため、プライマリプーリ1とセカンダリプーリ2は、いずれも安全率を乗じた値以上に設定されたプーリ押付力Fsによってベルト3に押し付けられる。つまり、下記式(1)を成立させる必要がある。
Fs>K×T×cos(α)/2×μ×R …(1)
ここで、「K」はベルト滑りに対する安全係数であり、「T」は伝達トルク(Nm)であり、「α」はプーリのシーブ角(rad)であり、「μ」はエレメントとプーリ間の摩擦係数であり、「R」はエレメントの走行半径(m)である。
【0039】
また、実施例1では、プライマリプーリ1及びセカンダリプーリ2は、いずれも固定プーリ11,21に対して駆動プーリ12,22を油圧で軸方向に移動させることで、シーブ面11a,12a、21a,22aをベルト3に押し付ける。
そのため、この駆動プーリ12,22を動作させる油圧(プライマリ油圧Ppri、セカンダリ油圧Psec)と、油圧を受ける受圧面積を積算することで、プーリ押付力Fsを求めることができる。
【0040】
一方、プーリ(プライマリプーリ1、セカンダリプーリ2)をベルト3に押し付けると、プーリ1,2は、図6に示すように、ベルト3を構成するエレメント3bからシーブ面11a,12a、21a,22aに垂直な方向に力(反力)(=|fs/cos(α)|)を受ける。このとき、プーリ1,2にはベルト巻付き角に応じた複数のエレメント3bが接触しているので、プーリ1,2がベルト3から受ける力であるプーリ受け力は、接触している複数のエレメント3bからの合力(=Σ|fs/cos(α)|)となる。
【0041】
[プーリ比演算作用]
図7はプーリ比が最ハイ状態のときのプーリ受け力を示す模式図であり、図8はプーリ比が最ロー状態のときのプーリ受け力を示す模式図である。以下、図7及び図8に基づき、実施例1のプーリ比演算作用について説明する。
【0042】
図7,8に示すように、ベルト3のプーリ1,2への巻付き角θが異なると、プーリ1,2に接触するエレメント3bの数が異なる。そのため、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|は、ベルト3のプーリ1,2への巻付き角θに応じて変化する。また、このベルト3のプーリ1,2への巻付き角θは、プーリ比(プライマリプーリ1に巻き掛けられたベルト3の円弧半径(ベルト巻き掛け径)Rpriと、セカンダリプーリ2に巻き掛けられたベルト3の円弧半径(ベルト巻き掛け径)Rsecの比率)に応じて変化する。
【0043】
一方、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|は、ベルト3のプーリ1,2への巻付き角θが一定であればプーリ押付力Fsに比例する。そのため、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値は、プーリ比に応じて一義的に決まる。
【0044】
なお、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|は、プーリ(プライマリプーリ1、セカンダリプーリ2)を回転可能に支持する軸受け(プライマリ第1ベアリング51、プライマリ第2ベアリング52、セカンダリ第1ベアリング53、セカンダリ第2ベアリング54)にそれぞれ伝達される。また、こられの各軸受け51〜54に伝達されたプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|は、この軸受け51〜54を支持する変速機ケース4にも伝達される。
【0045】
ここで、「各軸受け51〜54に伝達される力」とは、各軸受け51〜54に負荷される力であり、各軸受け51〜54の歪み量から求めることができる。また、「各軸受け51〜54を支持する変速機ケース4に伝達される力」とは、変速機ケース4に軸受け51〜54を介して負荷される力であり、各軸受け51〜54近傍の変速機ケース4の歪み量から求めることができる。
すなわち、各軸受け51〜54の歪み量、若しくは、各軸受け51〜54近傍の変速機ケース4の歪み量を計測することで、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めることができる。
【0046】
これに対し、プーリ押付力Fsは、上述のように、駆動プーリ12,22を動作させる油圧(プライマリ油圧Ppri、セカンダリ油圧Psec)を計測し、この油圧と、油圧を受ける受圧面積を積算することから求められる。
すなわち、駆動プーリ12,22を動作させる油圧(プライマリ油圧Ppri、セカンダリ油圧Psec)を計測することで、プーリ押付力Fsを求めることができる。
【0047】
そして、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|とプーリ押付力Fsを求めたら、このプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値も求めることができる。
ここで、プーリ比は、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|をプーリ押付力Fsで除した値から一義的に決まるため、プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|とプーリ押付力Fsを求めることで、プーリ比を演算することが可能となる。
【0048】
これにより、回転センサで計測できない低回転速度領域であっても、プーリ比を演算することができる。また、比較的コストのかかるストロークセンサが不要となるので、コストの増加を抑制することができる。この結果、コストの増加を抑制しつつ、プーリ比を常時求めることができる。
【0049】
また、実施例1では、歪みゲージ73によってセカンダリ第1ベアリング53の歪み量を計測し、計測した歪み量からプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めている。つまり、この歪みゲージ73によってプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めるプーリ受け力計測手段を構成している。
そのため、ストロークセンサを用いる場合と比較して、歪みゲージ73を搭載するためのスペース確保が容易になる。また、歪みゲージ73は、一般的にストロークセンサよりも簡易な構成であり、安価である。そのため、ストロークセンサを用いる場合よりもコストの低減を図ることができる。
【0050】
また、実施例1では、セカンダリ油圧センサ72によってセカンダリ油圧Psecを計測し、計測したセカンダリ油圧Psecからプーリ押付力Fsを求めている。つまり、このセカンダリ油圧センサ72によってプーリ押付力Fsを求めるプーリ押付力計測手段を構成している。
そのため、簡易な構成で容易にプーリ押付力Fsを求めることができ、コストの増加を抑制することができる。
【0051】
そして、実施例1では、セカンダリ第1ベアリング53の歪み量からプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求め、セカンダリ油圧Psecからプーリ押付力Fsを求めている。さらに、セカンダリプーリ2には、プーリ作動油圧であるセカンダリ油圧Psecとしてライン圧を供給している。
つまり、変速制御を行ってもセカンダリ油圧Psecは変動せず、プーリ押付力Fsの変動を抑制することができる。そのため、プライマリプーリ1においてプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|やプーリ押付力Fsを求める場合と比べて、誤差を抑制することができ、プーリ比の演算精度の向上を図ることができる。
【0052】
次に、効果を説明する。
実施例1の無段変速機のプーリ比演算装置にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0053】
(1) 一対のプーリ(プライマリプーリ1、セカンダリプーリ2)の間にベルト3を巻き掛け、一方のプーリ(プライマリプーリ1)に対するベルト巻き掛け半径Rpriと、他方のプーリ(セカンダリプーリ2)に対するベルト巻き掛け半径Rsecを変更して無段階の変速を行う無段変速機CVTにおいて、
前記プーリ(セカンダリプーリ2)を前記ベルト3に押し付ける力であるプーリ押付力Fsを計測するプーリ押付力計測手段(セカンダリ油圧センサ)72と、
前記プーリ(セカンダリプーリ2)を回転可能に支持する軸受け(セカンダリ第1ベアリング53)に負荷される力を計測し、前記プーリ(セカンダリプーリ2)が前記ベルト3から受ける力であるプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めるプーリ受け力計測手段(歪みゲージ73)と、
前記プーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を前記プーリ押付力Fsで除した値に基づいて、前記一方のプーリ(プライマリプーリ1)に対するベルト巻き掛け半径Rpriと、前記他方のプーリ(セカンダリプーリ2)に対するベルト巻き掛け半径Rsecとの比率であるプーリ比を演算するプーリ比演算手段(プーリ比演算部71)と、
を備える構成とした。
これにより、コストの増加を抑制しつつ、プーリ比を常時求めることができる。
【0054】
(2) 前記プーリ受け力計測手段は、前記軸受け(セカンダリ第1ベアリング53)に設けた歪みゲージ73によって構成した。
これにより、ストロークセンサを用いる場合と比べて、歪みゲージ73の搭載スペースを確保しやすく、また、低コストで実現することができる。
【0055】
(3) 前記プーリ押付力計測手段は、前記プーリ(セカンダリプーリ2の駆動プーリ22)をスライド動作させるプーリ作動油圧(セカンダリ油圧Psec)を検出するプーリ油圧センサ(セカンダリ油圧センサ72)によって構成した。
これにより、簡易な構成で容易にプーリ押付力Fsを求めることができ、コストの増加を抑制することができる。
【0056】
(4) 前記一対のプーリを、入力軸(駆動源出力軸X)が連結したプライマリプーリ1と、出力軸(プーリ支持シャフト部21c)が連結したセカンダリプーリ2と、から構成し、
前記セカンダリプーリ2には、プーリ作動油圧(セカンダリ油圧Psec)としてライン圧を供給し、
前記プーリ押付力計測手段(セカンダリ油圧センサ72)は、前記セカンダリプーリ2を前記ベルト3に押し付けるプーリ押付力Fsを計測し、
前記プーリ受け力計測手段(歪みゲージ73)は、前記セカンダリプーリ2を回転可能に支持する軸受け(セカンダリ第1ベアリング53)に負荷される力を計測し、前記セカンダリプーリ2が前記ベルト3から受けるプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求める構成とした。
これにより、計測誤算変動が小さくなり、プーリ比の演算誤差を抑制することができる。
【0057】
以上、本発明の無段変速機のプーリ比演算装置を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0058】
実施例1では、セカンダリ油圧Psecを計測してプーリ押付力Fsを求め、セカンダリ第1ベアリング53の歪み量を計測してプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求める例を示したが、これに限らない。
例えば、セカンダリ第2ベアリング54の歪み量からプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めてもよい。また、セカンダリ第1ベアリング53の近傍位置で、このセカンダリ第1ベアリング53を支持する変速機ケース4の歪み量や、セカンダリ第2ベアリング54の近傍位置で、このセカンダリ第2ベアリング54を支持する変速機ケース4の歪み量を計測し、計測した変速機ケース4の歪み量からプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めてもよい。
【0059】
また、プライマリ油圧Ppriを計測してプーリ押付力Fsを求め、プライマリ第1ベアリング51又はプライマリ第2ベアリング52の歪み量又は、これらのベアリング51,52の近傍位置の変速機ケース4の歪み量を計測してプーリ受け力Σ|fs/cos(α)|を求めてもよい。
【符号の説明】
【0060】
CVT 無段変速機
1 プライマリプーリ
11 固定プーリ
11a シーブ面
12 駆動プーリ
12a シーブ面
2 セカンダリプーリ
21 固定プーリ
21a シーブ面
21c プーリ支持シャフト(出力軸)
22 駆動プーリ
22a シーブ面
3 ベルト
3a 積層リング
3b エレメント
3c フランク面
4 変速機ケース
51 プライマリ第1ベアリング
52 プライマリ第2ベアリング
53 セカンダリ第1ベアリング(軸受け)
54 セカンダリ第2ベアリング
6 油圧制御回路
7 CVTコントロールユニット
71 プーリ比演算部(プーリ比演算手段)
72 セカンダリ油圧センサ(プーリ油圧センサ、プーリ押付力計測手段)
73 歪みゲージ(プーリ受け力計測手段)
Ppri プライマリ油圧
Psec セカンダリ油圧(プーリ作動油圧)
X 駆動源出力軸(入力軸)
図1
図2
図3
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図8