【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人科学技術振興機構「地域卓越研究者戦略的結集プログラム(エキゾチック・ナノカーボンの創成と応用プロジェクト)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
半導体の製造分野において、例えばシリコンウェハ等は、高温・高圧のアルコール、高圧の二酸化炭素(CO
2)等を用いた超臨界流体で洗浄及び表面処理が行われている。エタノールの臨界点は、臨界温度513.9K、臨界圧力6.14MPa、密度276g/cm
3であり、二酸化炭素の臨界点は、臨界温度304.1K、臨界圧力7.38MPa、密度0.469g/cm
3である。これらの超臨界流体は、臨界点以下にすれば気化するので、回収して再利用可能であり、一般に多く用いられている。
【0003】
このような超臨界流体を用いた洗浄には高圧容器が用いられ、該高圧容器を密封するためにシール部材が用いられている。
【0004】
また、半導体の製造工程においては、高温による処理も行われるため、高圧容器に用いられるシール部材に対して耐熱性も求められる。
【0005】
しかしながら、このような高圧容器に用いられるシール部材は、高圧容器内を高圧と大気圧との間で繰り返し圧力が変化するため、膨潤、クラックなどの耐性(本明細書では、これを「耐ブリスター性」という。)が必要となる(例えば、特許文献1、2参照)。
【0006】
また、本発明者他が先に提案した炭素繊維複合材料によれば、エラストマーを用いることで、これまで困難とされていたカーボンナノファイバーの分散性を改善し、エラストマーにカーボンナノファイバーを均一に分散させることができた(例えば、特許文献3参照)。
【0007】
このような炭素繊維複合材料の製造方法によれば、エラストマーとカーボンナノファイバーを混練し、剪断力によって凝集性の強いカーボンナノファイバーの分散性を向上させている。より具体的には、エラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、エラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合し、この状態で、分子長が適度に長く、分子運動性の高い(弾性を有する)エラストマーとカーボンナノファイバーとの混合物に強い剪断力が作用すると、エラストマーの変形に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、エラストマー中に分散していた。
【0008】
このように、マトリックスへのカーボンナノファイバーの分散性を向上させることで、高価なカーボンナノファイバーを効率よく複合材料のフィラーとして用いることができるようになった。
【0009】
また、耐熱性が要求されるシール材として、本発明者他は、パーフルオロエラストマー(FFKM)にカーボンナノファイバーを配合したシール部材を提案した(特許文献4参照)。
【0010】
しかしながら、このような耐熱性に優れたシール部材であっても、耐ブリスター性の要
求を満たすことができていない。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。
【0021】
本発明の一実施の形態にかかる炭素繊維複合材料は、パーフルオロエラストマーと、平均直径が2nm以上110nm以下のカーボンナノファイバーと、平均粒径が1μm以上100μm以下の瀝青炭粉砕物と、平均粒径が100nm以上300nm以下のカーボンブラックと、を含み、前記パーフルオロエラストマーが100質量部に対して、前記カーボンナノファイバーが5質量部以上20質量部未満であり、前記瀝青炭粉砕物が10質量部以上15質量部以下であり、かつ、前記カーボンナノファイバー、前記瀝青炭粉砕物及び前記カーボンブラックの総量が45質量部以上55質量部以下であ
り、前記カーボンナノファイバーは、平均直径が40nm以上80nm以下の第1のカーボンナノファイバーと、平均直径が9nm以上20nm以下の第2のカーボンナノファイバーと、を含み、前記パーフルオロエラストマー100質量部に対して、前記第1のカーボンナノファイバーが5質量部以上10質量部以下であり、前記第2のカーボンナノファイバーが1質量部以上5質量部以下であることを特徴とする。
【0022】
本発明の一実施の形態にかかるシール部材は、前記炭素繊維複合材料を成形して得ることを特徴とする。
【0023】
A.原料
まず、本実施の形態にかかる炭素繊維複合材料に用いる原料について説明する。
【0024】
A−1.パーフルオロエラストマー
炭素繊維複合材料に用いるパーフルオロエラストマーは、いわゆるFFKMであって、主鎖炭素(C)−炭素(C)結合を構成する炭素原子に結合している水素原子(H)が完全にフッ素化されているフッ素ゴムである。
【0025】
また、炭素繊維複合材料に用いるパーフルオロエラストマーは、ムーニー粘度ML
(1+10)121℃が30〜80であることができる。パーフルオロエラストマーのムーニー粘度がこの範囲であると、カーボンナノファイバーと混練する加工が比較的容易である。
【0026】
さらに、炭素繊維複合材料に用いるパーフルオロエラストマーは、フッ素含有量が72%以上であることができる。パーフルオロエラストマーのフッ素含有量がこの範囲であると、耐薬品性に優れるため好ましい。
【0027】
このような低温特性に優れたパーフルオロエラストマーとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)/パーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)系共重合体などを挙げることができ、ここで用いることができるパーフルオロアルキルビニルエーテル(PAVE)としては、例えば、パーフルオロメトキシビニルエーテル(PMOVE)、パーフルオロメチルビニルエーテル(PMVE)、パーフルオロエチルビニルエーテル(PEVE)、パーフルオロプロピルビニルエーテル(PPVE)およびその他の同様の化合物を挙げることができる。
【0028】
パーフルオロエラストマーは、パーオキサイド架橋系であることができる。
【0029】
A−2.カーボンナノファイバー
炭素繊維複合材料に用いるカーボンナノファイバーは、平均直径(繊維径)が2nm以
上110nm以下である。さらに、炭素繊維複合材料に用いるカーボンナノファイバーは、平均直径が40nm以上80nm以下であることができる。
【0030】
また、炭素繊維複合材料に用いるカーボンナノファイバーは、平均直径が40nm以上80nm以下の第1のカーボンナノファイバーと、平均直径が9nm以上20nm以下の第2のカーボンナノファイバーと、を含
む。
【0031】
カーボンナノファイバーは、その平均直径が比較的細いため、比表面積が大きく、マトリックスであるパーフルオロエラストマーとの表面反応性が向上し、パーフルオロエラストマー中におけるカーボンナノファイバーの分散不良を改善しやすい傾向がある。平均直径(繊維径)が2nm以上110nm以下であるカーボンナノファイバーを用いることで、パーフルオロエラストマーを補強することができる。
【0032】
カーボンナノファイバーによって形成される微小セル構造は、カーボンナノファイバーが3次元に張り巡らされた網目構造によってマトリックス材料を囲むように形成されることができる。これまでの研究結果から1つのセルの最大径はおおよそカーボンナノファイバーの平均直径の2倍〜10倍程度になることが判っている。カーボンナノファイバーの平均直径は、電子顕微鏡による観察によって計測することができる。
【0033】
なお、本発明の詳細な説明においてカーボンナノファイバーの平均直径は、繊維の外径であり、電子顕微鏡による例えば5,000倍の撮像(カーボンナノファイバーのサイズによって適宜倍率は変更できる)から200箇所以上の直径及び長さを計測し、その算術平均値として計算して得ることができる。
【0034】
カーボンナノファイバーとしては、例えば、いわゆるカーボンナノチューブなどが例示できる。カーボンナノチューブは、炭素六角網面のグラファイトの1枚面を1層に巻いた単層カーボンナノチューブ(シングルウォールカーボンナノチューブ:SWNT)、2層に巻いた2層カーボンナノチューブ(ダブルウォールカーボンナノチューブ:DWNT)、3層以上に巻いた多層カーボンナノチューブ(MWNT:マルチウォールカーボンナノチューブ)などが適宜用いられる。また、部分的にカーボンナノチューブの構造を有する炭素材料も使用することができる。なお、カーボンナノチューブという名称の他にグラファイトフィブリルナノチューブや気相成長炭素繊維といった名称で称されることもある。
【0035】
単層カーボンナノチューブもしくは多層カーボンナノチューブは、アーク放電法、レーザーアブレーション法、気相成長法などによって望ましいサイズに製造される。なお、第1のカーボンナノファイバーは、エラストマーと混練される前に、あらかじめ表面処理、例えば、イオン注入処理、スパッタエッチング処理、プラズマ処理、酸化処理などを行うことによって、エラストマーとの接着性やぬれ性を改善することができる。
【0036】
A−3.瀝青炭粉砕物
炭素繊維複合材料に用いる瀝青炭粉砕物(bitumious coal)は、石炭の一種で高品位炭と呼ばれる瀝青炭(JIS M1002の石炭分類でB1、B2、C)を含む石炭一般を、平均粒径1μm〜100μmに粉砕したものである。さらに、瀝青炭粉砕物の平均粒径は1μm〜10μmであることができ、特に、瀝青炭粉砕物の平均粒径は3μm〜8μmであることができる。
【0037】
瀝青炭粉砕物の平均粒径は、市販されている場合はメーカーで平均粒径を測定し公表しているが、瀝青炭粉砕物を走査型電子顕微鏡の撮像によって観察して単一粒子(基本粒子)とみなしての粒子直径を2000個以上測定して算術平均値として求めることができる。
【0038】
また、瀝青炭粉砕物は、比重が1.6以下であることができ、さらに1.35以下であることができる。
【0039】
A−4.カーボンブラック
炭素繊維複合材料に用いるカーボンブラックは、種々の原料を用いた種々のグレードのカーボンブラックを用いることができる。カーボンブラックは、10nm〜500nmであることができ、さらに平均粒径が100nm以上300nm以下であることができる。カーボンブラックの平均粒径は、走査型電子顕微鏡の撮像によって観察して基本構成粒子の粒子直径を2000個以上測定して算術平均して求めることができる。
【0040】
このようなカーボンブラックとしては、例えば、SAF,ISAF,HAF,SRF,T,GPF,FT,MTなどの補強用カーボンブラックなどを用いることができる。比較的大きな粒径を有するカーボンブラックを用いることにより、炭素繊維複合材料の柔軟性を維持しつつ、カーボンブラックの間にできた隙間にあるパーフルオロエラストマーを分散したカーボンナノファイバーによって囲むように構成することで、カーボンナノファイバーによって囲まれた微小セルを形成して補強することができる。MTグレードのカーボンブラックを用いることができる。
【0041】
なお、炭素繊維複合材料は、上記成分以外にも、例えば、内部離型剤、加工助剤、酸化亜鉛などの金属酸化物または水酸化物、あるいはハイドロタルサイト類化合物である受酸剤、可塑剤などゴム工業で一般に使用される配合剤を適宜添加して用いることができる。
【0042】
B.炭素繊維複合材料
炭素繊維複合材料は、パーフルオロエラストマーと、平均直径が2nm以上110nm以下のカーボンナノファイバーと、平均粒径が1μm以上100μm以下の瀝青炭粉砕物と、平均粒径が10nm以上500nm以下のカーボンブラックと、を含む。
【0043】
炭素繊維複合材料における充填剤の配合量は、パーフルオロエラストマーが100質量部に対して、カーボンナノファイバーが5質量部以上20質量部未満であり、瀝青炭粉砕物が10質量部以上15質量部以下であり、かつ、カーボンナノファイバー、瀝青炭粉砕物及びカーボンブラックの総量が45質量部以上55質量部以下である。
【0044】
このような炭素繊維複合材料によれば、耐熱性及び耐ブリスター性に優れることができる。特に、瀝青炭粉砕物の配合量が10質量部以上で耐ブリスター性が向上し、20質量部以下であれば圧縮永久ひずみ特性、加工性、引裂き疲労性及び切断時伸び(Eb)に優れることができる。
【0045】
さらに、カーボンナノファイバーの配合量は、5質量部以上15質量部以下であることができる。
【0046】
カーボンブラックの配合量は、パーフルオロエラストマーが100質量部に対して、20質量部以上35質量部以下であることができる。
【0047】
カーボンナノファイバーは、平均直径が40nm以上80nm以下の第1のカーボンナノファイバーと、平均直径が9nm以上20nm以下の第2のカーボンナノファイバーと、を含み、パーフルオロエラストマー100質量部に対して、第1のカーボンナノファイバーが5質量部以上10質量部以下であり、第2のカーボンナノファイバーが1質量部以上5質量部以下であ
る。このような炭素繊維複合材料によれば、耐ブリスター性に優れた特徴を有する上に、引裂き疲労試験における疲労寿命を向上することができる。特に、第2のカーボンナノファイバーを3質量部以上5質量部以下とすることで、引裂き疲労試験における疲労寿命を格段に向上することができる。
【0048】
炭素繊維複合材料は、切断時伸び(Eb)が70%以上であることができる。切断時伸び(Eb)が70%以上であると、炭素繊維複合材料をシール部材に用いる際に、装置への装着性を容易とすることができる。
【0049】
炭素繊維複合材料は、260℃、70時間における圧縮永久ひずみ(CS)が50%未満であることができる。圧縮永久ひずみ(CS)が50%未満であると、炭素繊維複合材料をシール部材に用いる際に、高温時におけるシール性に優れ、シール材として長寿命とすることができる。
【0050】
C.炭素繊維複合材料の製造方法
炭素繊維複合材料の製造方法について
図1〜
図3を用いて詳細に説明する。
【0051】
図1〜
図3は、本発明の一実施形態にかかるオープンロール法による炭素繊維複合材料の製造方法を模式的に示す図である。
【0052】
図1〜
図3に示すように、2本ロールのオープンロール2における第1のロール10と第2のロール20とは、所定の間隔d、例えば0.5mm〜1.5mmの間隔で配置され、
図1〜
図3において矢印で示す方向に回転速度V1,V2で正転あるいは逆転で回転する。
【0053】
まず、
図1に示すように、第1のロール10に巻き付けられたパーフルオロエラストマー30の素練りを行ない、パーフルオロエラストマー分子鎖を適度に切断してフリーラジカルを生成する。素練りによって生成されたパーフルオロエラストマーのフリーラジカルがカーボンナノファイバーと結びつきやすい状態となる。
【0054】
次に、
図2に示すように、第1のロール10に巻き付けられたパーフルオロエラストマー30のバンク34に、カーボンナノファイバー、瀝青炭粉砕物及びカーボンブラックなどの充填剤80を投入し、混練する。この混練におけるパーフルオロエラストマー30の温度は、例えば0℃〜50℃であることができ、さらに10℃〜20℃であることができる。パーフルオロエラストマー30と充填剤80とを混合する工程は、オープンロール法に限定されず、例えば密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。
【0055】
さらに、
図3に示すように、第1のロール10と第2のロール20とのロール間隔dを、例えば0.5mm以下、より好ましくは0mm〜0.5mmの間隔に設定し、混合物36をオープンロール2に投入して薄通しを行なう。
【0056】
薄通しの回数は、例えば1回〜10回程度行なうことができる。
【0057】
第1のロール10の表面速度をV1、第2のロール20の表面速度をV2とすると、薄通しにおける両者の表面速度比(V1/V2)は、1.05〜3.00であることができ、さらに1.05〜1.2であることが好ましい。このような表面速度比を用いることにより、所望の剪断力を得ることができる。
【0058】
このように狭いロール間から押し出された炭素繊維複合材料50は、パーフルオロエラストマーの弾性による復元力で
図3のように大きく変形し、その際にパーフルオロエラストマーと共にカーボンナノファイバーが大きく移動する。
【0059】
薄通しして得られた炭素繊維複合材料50は、ロールで圧延されて所定厚さのシート状に分出しされる。
【0060】
この薄通しの工程では、できるだけ高い剪断力を得るために、ロール温度を例えば0〜50℃、より好ましくは5〜30℃の比較的低い温度に設定して行われ、パーフルオロエラストマーの実測温度も0〜50℃に調整されることができる。
【0061】
このようにして得られた剪断力により、パーフルオロエラストマーに高い剪断力が作用し、凝集していたカーボンナノファイバーがパーフルオロエラストマー分子に1本ずつ引き抜かれるように相互に分離して解繊し、パーフルオロエラストマー中に分散される。特に、パーフルオロエラストマーは、弾性と、粘性と、カーボンナノファイバーとの化学的相互作用と、を有するため、カーボンナノファイバーを容易に分散することができる。そして、カーボンナノファイバーの分散性および分散安定性(カーボンナノファイバーが再凝集しにくいこと)に優れた炭素繊維複合材料50を得ることができる。
【0062】
より具体的には、オープンロールでパーフルオロエラストマーとカーボンナノファイバーとを混合すると、粘性を有するパーフルオロエラストマーがカーボンナノファイバーの相互に侵入し、かつ、パーフルオロエラストマーの特定の部分が化学的相互作用によってカーボンナノファイバーの活性の高い部分と結合する。カーボンナノファイバーの表面の活性が適度に高いと、特にパーフルオロエラストマー分子と結合し易くなることができる。次に、パーフルオロエラストマーに強い剪断力が作用すると、パーフルオロエラストマー分子の移動に伴ってカーボンナノファイバーも移動し、さらに剪断後の弾性によるパーフルオロエラストマーの復元力によって、凝集していたカーボンナノファイバーが分離されて、パーフルオロエラストマー中に分散されることになる。
【0063】
本実施の形態によれば、炭素繊維複合材料が狭いロール間から押し出された際に、パーフルオロエラストマーの弾性による復元力で炭素繊維複合材料はロール間隔より厚く変形する。その変形は、強い剪断力の作用した炭素繊維複合材料をさらに複雑に流動させ、カーボンナノファイバーをパーフルオロエラストマー中に分散させると推測できる。そして、一旦分散したカーボンナノファイバーは、パーフルオロエラストマーとの化学的相互作用によって再凝集することが防止され、良好な分散安定性を有することができる。
【0064】
パーフルオロエラストマーにカーボンナノファイバーを剪断力によって分散させる工程は、前記オープンロール法に限定されず、密閉式混練法あるいは多軸押出し混練法を用いることもできる。要するに、この工程では、凝集したカーボンナノファイバーを分離できる剪断力をパーフルオロエラストマーに与えることができればよい。特に、オープンロール法は、ロール温度の管理だけでなく、混合物の実際の温度を測定し管理することができるため、好ましい。パーフルオロエラストマーとカーボンナノチューブとの混合前、混合中、あるいは薄通し後の分出しされた炭素繊維複合材料に、架橋剤を混合することができ、架橋して架橋体の炭素繊維複合材料とすることができる。パーフルオロエラストマーの架橋は、例えば、耐熱性に優れたパーオキサイド加硫を用いることができる。
【0065】
シール部材は、炭素繊維複合材料を成形して得る。シール部材の成形は、一般に採用されるゴムの成形加工例えば、射出成形法、トランスファー成形法、プレス成形法、押出成形法、カレンダー加工法などによって所望の形状例えば無端状に成形することで得ることができる。シール部材は、架橋された炭素繊維複合材料からなることができる。
【0066】
前記のように、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明の新規事項及び効果から実体的に逸脱しない多くの変形が可能であることは当業者には容易に理解できよう。したがって、このような変形例はすべて、本発明の範囲に含まれるものとする。
【実施例】
【0067】
以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0068】
(1)実施例及び比較例のサンプルの作製
ロール径が6インチのオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.5mm〜1.0mm)に、パーフルオロエラストマー(FFKM)を投入し素練りした後、表1〜5に示す配合に従って、カーボンナノファイバー(MWCNT−1、MWCTN−2)、カーボンブラック(MT−CB)及び瀝青炭粉砕物(オースチンブラック)をパーフルオロエラストマーに投入し、混練りを行った後、ロールから取り出した。
【0069】
次に、その混合物をオープンロール(ロール温度10〜20℃、ロール間隔0.3mm)で薄通しを繰り返し5回行なった。このとき、2本のロールの表面速度比を1.1とした。
【0070】
さらに、薄通しして得られた未架橋の炭素繊維複合材料に、架橋剤としてパーオキサイド(PO)を加えて混練し、分出ししたシートをプレス加硫、二次加硫で成形して厚さ1mmの実施例及び比較例のシート状の炭素繊維複合材料の架橋体サンプルを得た。
【0071】
また、分出ししたシートをOリングの金型内に入れ、プレス加硫、二次加硫で成形してAS568C−223のOリングを得た。
【0072】
実施例及び比較例の「FFKM」はムーニー粘度(ML
1+10121℃)の中心値が35、フッ素含有量が72%以上のパーフルオロエラストマーであり、「MT−CB」は平均粒径200nmのMTグレードのカーボンブラックであり、「オースチンブラック」はCoal Fillers社製Austin Black 325(平均粒径5.5μmの瀝青炭粉砕物)であり、「MWCNT−1」は平均直径68nmの多層カーボンナノチューブ(第1のカーボンナノファイバー)であり、「MWCNT−2」は平均直径15nmの多層カーボンナノチューブ(第2のカーボンナノファイバー)であった。
【0073】
カーボンブラックは、各サンプルの硬度が91〜95となるように調節しながら配合した。
【0074】
(2)常態物性評価
実施例及び比較例のサンプルについて、ゴム硬度(Hs(JIS−A))をJIS K
6253に基づいて測定した。
【0075】
実施例及び比較例のサンプルのJIS6号形ダンベル形状に打ち抜いた試験片について、島津製作所社製オートグラフAG−Xの引張試験機を用いて、23±2℃、引張速度500mm/minでJIS K6251に基づいて引張試験を行い、引張強さ(TS(MPa))、破断伸び(Eb(%))及び50%応力(σ50(MPa))を測定した。
【0076】
実施例及び比較例のサンプルのJIS大型試験片(直径29.0±0.5mm、厚さ12.5±0.5mmの試験片)を、JIS K6262に準拠して、200℃及び260℃、70時間、25%圧縮の条件で、圧縮永久ひずみ(CS(%))を測定した。
【0077】
実施例及び比較例のサンプルについて、短冊形(40×1×2(巾)mm)に切り出した試験片について、SII社製の動的粘弾性試験機DMS6100を用いて、チャック間距離20mm、測定温度20〜300℃、動的ひずみ±0.05%、周波数1HzでJIS K7244に基づいてDMA試験(動的粘弾性試験)を行った。この試験結果から測
定温度が200℃、260℃における貯蔵弾性率(E’)を測定した。
【0078】
実施例及び比較例のサンプルを、10mm×幅4mm×厚さ1mmの短冊状の試験片に打ち抜き、その試験片の長辺の中心から幅方向へ深さ1mmの切込みを入れ、SII社製TMA/SS6100試験機を用いて、大気雰囲気中、200℃、最大引張応力2N/mm、周波数1Hzの条件で繰り返し引っ張り荷重(0N/mm〜2N/mm)をかけて引裂き疲労試験を行い、試験片が破断するまでの引張回数(疲労寿命(回))を測定した。
【0079】
各測定結果を表1〜表5に示した。
【0080】
(3)耐ブリスター性試験
実施例及び比較例のAS568C−223のOリングサンプルの体積を測定した。
【0081】
次に、Oリングサンプルを、イソプロピルアルコール(IPA)と共に圧力容器中に入れ、IPAに60℃、120時間浸漬した。
【0082】
IPAから取り出したOリングサンプルを再び圧力容器中に入れ、液化炭酸ガス(CO
2)を封入し、260℃9MPaに加温、加圧し、設定温度到達後15分間保持し、3秒間で圧力を急速に開放した。この加圧、解放工程を10回繰り返した。
【0083】
圧力容器内を室温に冷却後、Oリングサンプルの体積を測定し、急速減圧試験前の体積に対する急速減圧試験後の体積変化を計算した。表1〜表5において、「体積変化」で示した。
【0084】
また、体積測定後のOリングサンプルを5mm幅にカットし、1サンプルにつき22の断面を光学顕微鏡でクラックの発生の有無を確認した。表1〜5において、「クラックの有無」で示した。さらに、
図4に実施例3のOリングサンプルの凍結割断面の写真を示し、
図5に比較例5のOリングサンプルの凍結割断面の写真を示した。
【0085】
なお、JIS硬度が90未満になるように配合した参考例の炭素繊維複合材料サンプルは、凍結割断面にクラックが発生していることを確認した。
【0086】
【表1】
【0087】
【表2】
【0088】
【表3】
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
表1〜表5及び
図4、
図5の結果によれば、
参考例1〜4及び実施例1〜
3の炭素繊維複合材料サンプルは、切断時伸び(Eb)が70%以上であった。また、
参考例1〜4及び実施例1〜
3の炭素繊維複合材料サンプルは、圧縮永久ひずみCS260℃(%)が50%未満であった。さらに、
参考例1〜4及び実施例1〜
3のOリングサンプルは、急速減圧試験後の顕微鏡観察でクラックが確認されなかった。
【0092】
実施例
1〜
3によれば、第1のカーボンナノファイバー(MWCNT−1)に加えて第2のカーボンナノファイバー(MWCNT−2)を配合することで、耐ブリスター性を備えながら、第1のカーボンナノファイバーを同量配合した
参考例2よりも疲労寿命がさらに向上した。特に、第2のカーボンナノファイバーを3質量部〜5質量部とした実施例
2,3においては、実施例
1よりもさらに疲労寿命が向上した。