特許第6284418号(P6284418)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284418ガラス融液の攪拌機構、ガラス溶解用スターラーのカバー及びガラスの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284418
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】ガラス融液の攪拌機構、ガラス溶解用スターラーのカバー及びガラスの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03B 5/182 20060101AFI20180215BHJP
【FI】
   C03B5/182
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-85793(P2014-85793)
(22)【出願日】2014年4月17日
(65)【公開番号】特開2015-205786(P2015-205786A)
(43)【公開日】2015年11月19日
【審査請求日】2017年4月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000136561
【氏名又は名称】株式会社フルヤ金属
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(72)【発明者】
【氏名】星野 明紀
(72)【発明者】
【氏名】上野 幸夫
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2006−188375(JP,A)
【文献】 特開2015−202968(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/133084(WO,A1)
【文献】 特開平10−59726(JP,A)
【文献】 特開昭50−101415(JP,A)
【文献】 国際公開第2013/188484(WO,A2)
【文献】 特表2015−521577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 5/182
C03B 7/092
F27D 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イリジウム又はイリジウム基合金からなり、回転軸と該回転軸の下端部に設けられた攪拌部とを有するガラス溶解用スターラーと、
前記回転軸の表面のうち前記攪拌部よりも上方の表面領域を包囲するカバーとを備えるガラス融液の攪拌機構であって、
前記カバーは、前記回転軸を非接触で挿通させる白金又は白金基合金からなる内管と、前記内管の側面を覆う白金又は白金基合金からなる外管と、前記内管と前記外管との間に設けられたガス流路とを有する二重管構造をなし、前記内管は、該内管内と前記ガス流路とを連通させる横孔を有することを特徴とするガラス融液の攪拌機構。
【請求項2】
前記ガラス融液の攪拌機構は、前記内管の内表面と前記回転軸の外表面との間の隙間に介在する介在部材を備えることを特徴とする請求項1に記載のガラス融液の攪拌機構。
【請求項3】
前記カバーは、前記回転軸の表面のうち使用時にガラス融液に浸漬されない表面領域を包囲することを特徴とする請求項1又は2に記載のガラス融液の攪拌機構。
【請求項4】
前記カバーは、ガラス溶解炉に固定するための固定手段を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載のガラス融液の攪拌機構。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一つに記載されたガラス融液の攪拌機構に用いられることを特徴とするガラス溶解用スターラーのカバー。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか一つに記載されたガラス融液の攪拌機構を用いたガラスの製造方法であって、
前記カバーの下端の位置をガラス融液の液面から所定の高さに調整する工程と、
前記ガス流路に不活性ガスを供給し、前記横孔から前記回転軸に向けて不活性ガスを吹き付ける工程と、を有することを特徴とするガラスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス融液の攪拌機構、ガラス溶解用スターラーのカバー及びガラスの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ガラスの製造工程において、ガラスを溶融する溶解炉内は、例えば1400〜1600℃の高温酸素含有ガス雰囲気となる。ガラス溶解用のスターラーに使用する材料には、高温酸素含有ガス雰囲気で高い強度を有すること、寿命が長いことが求められる。1000℃以上の高温で使用できる材料としては、白金、イリジウムが知られている。白金は1000℃以上の酸素含有ガス雰囲気であっても極めて安定であり、酸化揮発消耗が少ない。しかし、1500℃を超える高温域では粒成長しやすく、強度が低下する問題がある。一方、イリジウムは、1000℃以上の高温域において白金よりも高い強度を有する。しかし、イリジウムの酸化揮発量は白金の約100倍であり、高温酸素含有ガス雰囲気で使用すると寿命が短いという問題がある。
【0003】
本出願人は、ガラス溶融に使用できる部材として、イリジウム又はイリジウム基合金からなる構造体の表面を、白金又は白金ロジウム合金からなる外側層と金属種を含む白金又は白金ロジウム合金からなる内側層とが接合されてなり、かつ、内側層は外側層側とは反対側の表面に、金属種の酸化物粒子が分散状態で析出している二層構造のカバーで被覆した複合構造体を提案している(例えば、特許文献1を参照。)。特許文献1の複合構造体では、構造体のイリジウムとカバーの白金との接触によって電位差が生じ、ガラス融液中で白金側から気泡が発生する問題があった。そこで、本出願人は、構造体とカバーとの間に生じる電位差を、逆電位を印加して打ち消すガラス融液の均質化方法を提案している(例えば、特許文献2を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−37244号公報
【特許文献2】特開2011−51858号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ガラス溶解用のスターラーの回転軸を、耐熱温度の向上及び高温域での強度向上を目的として白金からイリジウムに替えると、イリジウムの酸化揮発の問題が生じる。そこで、イリジウムからなる回転軸の表面を白金からなるカバーで被覆すると、回転軸のイリジウムとカバーの白金との間で拡散や起電力の発生が問題となる。特許文献1では、拡散の問題を、内側層の外側層側とは反対側の表面に、金属種の酸化物粒子を分散状態で析出させることで解決してきた。しかし、特許文献1では起電力が発生する場合があった。特許文献2では、起電力発生の問題を、回転軸とカバーとの間に生じる電位差を逆電位で打ち消すことで解決してきた。しかし、特許文献2の方法では、スターラーの形状によっては均一に逆電位をかけることができず、ガラス融液中での気泡の発生を防止することができない場合があった。そこで、本発明者は、拡散の問題及び起電力発生の問題を生じさせずに、イリジウムの酸化揮発を抑制する手段を鋭意検討した。
【0006】
本発明の目的は、イリジウム又はイリジウム基合金からなるガラス溶解用スターラーを、拡散及び起電力の問題を生じさせずに、高温酸素含有ガス雰囲気に長時間暴露される環境であっても、高い強度を保ちながら長寿命で使用できるガラス融液の攪拌機構、ガラス溶解用スターラーのカバー及びガラスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るガラス融液の攪拌機構は、イリジウム又はイリジウム基合金からなり、回転軸と該回転軸の下端部に設けられた攪拌部とを有するガラス溶解用スターラーと、前記回転軸の表面のうち前記攪拌部よりも上方の表面領域を包囲するカバーとを備えるガラス融液の攪拌機構であって、前記カバーは、前記回転軸を非接触で挿通させる白金又は白金基合金からなる内管と、前記内管の側面を覆う白金又は白金基合金からなる外管と、前記内管と前記外管との間に設けられたガス流路とを有する二重管構造をなし、前記内管は、該内管内と前記ガス流路とを連通させる横孔を有することを特徴とする。
【0008】
本発明に係るガラス融液の攪拌機構では、前記ガラス融液の攪拌機構は、前記内管の内表面と前記回転軸の外表面との間に介在する介在部材を備えることが好ましい。ガス流路からガスが漏れることを抑制することができる。また、カバーが回転軸に接触することを防止することができる。
【0009】
本発明に係るガラス融液の攪拌機構では、前記カバーは、前記回転軸の表面のうち使用時にガラス融液に浸漬されない表面領域を包囲することが好ましい。回転軸のイリジウムが酸化揮発することを抑制することができる。
【0010】
本発明に係るガラス融液の攪拌機構では、前記カバーは、ガラス溶解炉に固定するための固定手段を有することが好ましい。カバーを回転軸に対して非接触の状態で配置することができる。
【0011】
本発明に係るガラス溶解用スターラーのカバーは、本発明に係るガラス融液の攪拌機構に用いられることを特徴とする。
【0012】
本発明に係るガラスの製造方法は、本発明に係るガラス融液の攪拌機構を用いたガラスの製造方法であって、前記カバーの下端の位置をガラス融液の液面から所定の高さに調整する工程と、前記ガス流路に不活性ガスを供給し、前記横孔から前記回転軸に向けて不活性ガスを吹き付ける工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、イリジウム又はイリジウム基合金からなるガラス溶解用スターラーを、拡散及び起電力の問題を生じさせずに、高温酸素含有ガス雰囲気に長時間暴露される環境であっても、高い強度を保ちながら長寿命で使用できるガラス融液の攪拌機構、ガラス溶解用スターラーのカバー及びガラスの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構の一例を示す正面図であり、カバー及び炉体は断面図で示した。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0016】
図1は、本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構の一例を示す正面図である。本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1は、イリジウム又はイリジウム基合金からなり、回転軸11と回転軸11の下端部に設けられた攪拌部12とを有するガラス溶解用スターラー10と、回転軸11の表面のうち攪拌部12よりも上方の表面領域S1を包囲するカバー100とを備えるガラス融液の攪拌機構であって、カバー100は、回転軸11を非接触で挿通させる白金又は白金基合金からなる内管101と、内管101の側面を覆う白金又は白金基合金からなる外管102と、内管101と外管102との間に設けられたガス流路103とを有する二重管構造をなし、内管101は、内管101内とガス流路103とを連通させる横孔104を有する。
【0017】
ガラス融液の攪拌機構1は、ガラス溶解炉2に取付けられ、ガラス溶解用スターラー10とカバー100とを備える。
【0018】
ガラス溶解炉2は、例えば、光学ガラスの溶解炉、液晶ディスプレイ用ガラスの溶解炉である。
【0019】
ガラス溶解用スターラー10は、ガラス融液を攪拌するための攪拌棒であり、回転軸11と攪拌部12とを有する。
【0020】
回転軸11は、図1に示すように筒状であるか、又は棒状であってもよい(不図示)。回転軸11を筒状とする場合は、筒の内部が酸素含有ガスに晒されないように筒内を真空封じしておくか、又は密封化しておくことが好ましい。回転軸11の下端部には攪拌部12が設けられ、回転軸11の上端部にはモーター(不図示)が接続される。
【0021】
回転軸11は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。イリジウム基合金は、主成分をイリジウムとする合金である。イリジウム基合金においてイリジウムと合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。イリジウム基合金中のイリジウムの含有量は、例えば90質量%以上である。
【0022】
攪拌部12は、図1では一例として複数本の丸棒状の攪拌翼12aを有する形態を示したが、本発明はこれに限定されず、例えば、らせん状の攪拌翼を有する形態(不図示)、ヘリカルリボン状の攪拌翼を有する形態(不図示)であってもよい。
【0023】
攪拌部12は、イリジウム又はイリジウム基合金からなる。イリジウム基合金は、主成分をイリジウムとする合金である。イリジウム基合金においてイリジウムと合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。イリジウム基合金中のイリジウムの含有量は、例えば90質量%以上である。回転軸11と攪拌部12とは、一体であるか、又は別体であってもよい。回転軸11と攪拌部12とが別体であるとき、回転軸11及び攪拌部12は、同じ材質で形成することが好ましい。
【0024】
カバー100は、ガラス溶解用スターラー10のカバーであり、回転軸11の外側に全周にわたって配置される。カバー100は、内管101と外管102とガス流路103とを有する二重管構造をなす。
【0025】
内管101は、上端及び下端が開口した筒状である。内管101は、回転軸11の外側に非接触で配置される。内管101の内表面と回転軸11の外表面との間隔は、5〜30mmであることが好ましく、5〜10mmであることがより好ましい。内管101と回転軸11との間の空間50を効率的に不活性ガス雰囲気とすることができる。
【0026】
内管101は、内管101の側面を貫通して設けられた横孔104を有する。横孔104は、内管101の周方向に間隔をあけて複数個配置されるとともに、内管101の軸方向に沿って複数段配置されることが好ましい。回転軸11の周囲に不活性ガス雰囲気を効率的に作り出すことができる。本発明は、横孔104の形状、個数及び配置に限定されない。例えば、横孔104は内管101の軸方向に延びるスリット(不図示)であってもよい。
【0027】
内管101は、白金又は白金基合金からなる。白金基合金は、主成分を白金とする合金である。白金基合金において白金と合金を構成する金属成分は、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、レニウム(Re)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、ニオブ(Nb)、Ta(タンタル)、Zr(ジルコニウム)及びHf(ハフニウム)から選択される少なくとも1種であることが好ましい。白金基合金中の白金の含有量は、70質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましい。また、白金又は白金基合金は、酸化物分散強化型であってもよい。酸化物分散強化型白金又は白金基合金とは、分散粒子として酸化物粒子を含む白金又は白金基合金をいう。酸化物粒子は、例えば、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化イットリウム(Y)である。本実施形態では、内管101は、カバー100をより長寿命とすることができる点で、酸化物分散強化型白金又は白金基合金であることが好ましく、酸化物分散強化型白金ロジウム合金であることがより好ましい。
【0028】
外管102は、内管101の外側に非接触で配置されることが好ましく、内管101に対して同心状に配置されることがより好ましい。外管102の上端と内管101の上端とは、上端接合部108aで接合されていることが好ましい。また、外管102の下端と内管101の下端とは、下端接合部108bで接合されていることが好ましい。外管102の上端と内管101の上端との間又は外管102の下端と内管101の下端との間から不活性ガスが漏れることを防止し、不活性ガスを横孔104から回転軸11に向けてより効率的に吹き付けることができる。また、内管101と外管102との間を所定の間隔であけてガス流路103を形成することができる。内管101の外周面と外管102の内周面との間隔は、内管101と外管102との間に設けられたガス流路103内に不活性ガスを流通させることができればよく、特に限定されないが、1〜10mmであることが好ましく、2〜5mmであることがより好ましい。
【0029】
外管102は、白金又は白金基合金からなる。白金又は白金基合金は、内管101の材質で例示したものを使用できる。外管102は、カバー100をより長寿命とすることができる点で、酸化物分散強化型白金又は白金基合金であることが好ましく、酸化物分散強化型白金ロジウム合金であることがより好ましい。また、外管102は、内管101と同じ材質であることが好ましい。
【0030】
ガス流路103は、内管101の外周面と外管102の内周面との間に形成された空間である。ガス流路103には、ガス導入管107から不活性ガスが供給される。ガス導入管107は、例えば、外管102の外周面に取付けられる。より好ましくは、図1に示すように外管102の上端部の外周面に取付けられる。ガス流路103内の上部から下部までよどみなく不活性ガスを流すことができ、ガス流路103内に不活性ガスをより効率的に充満させることができる。内管101内の空間50とガス流路103とは、横孔104で連通しており、ガス流路103に不活性ガスが供給されると、横孔104から回転軸11に向かって不活性ガスが吹き付けられる。
【0031】
カバー100が設けられる表面領域S1は、回転軸11の表面のうち攪拌部12よりも上方の表面領域である。本明細書において、「上方」とは、回転軸11のモーター(不図示)が接続された側の端部に向かう方向をいう。また、「下方」とは、回転軸11の攪拌部12が設けられた側の端部に向かう方向をいう。
【0032】
表面領域S1は、図1に示すように、回転軸11の表面のうち使用時にガラス融液の液面L1よりも上方に配置される表面領域であることが好ましい。回転軸11の表面のうち使用時にガラス融液の液面L1よりも上方の表面領域は、例えば1000℃以上の高温であり、かつ、酸素ガス雰囲気、大気雰囲気、酸素分圧が調整されたガス雰囲気などの酸素含有ガス雰囲気に晒される。高温酸素ガス含有雰囲気に晒されると回転軸11のイリジウムが酸化揮発するところ、表面領域S1を二重管構造のカバー100で包囲して、横孔104から回転軸11に向けて不活性ガスを吹き付けることで、回転軸11の周辺に局部的に不活性ガス雰囲気を作り出し、イリジウムの酸化揮発消耗を最小限とすることができる。また、カバー100を液面L1に浸漬させると、カバー100の白金と回転軸11のイリジウムとが接触したときに電位差によってカバー100側から電解泡(気泡)が発生してガラス融液中に混入するおそれがあるところ、カバー100をガラス融液に浸漬させないことで、ガラス融液中に気泡が混入することを防止し、ガラスを均質化することができる。
【0033】
カバー100の下端から液面L1までの高さdは、10mm以下であることが好ましく、6mm以下であることがより好ましい。dを10mm以下とすることで、不活性ガスの吹き出しによって、回転軸11の表面のうちカバー100で包囲されておらず、ガラス融液の液面L1から出ている部分が酸素含有ガス雰囲気に晒されることを防止することができる。カバー100の下端から液面L1までの高さdは、2mm以上であることが好ましく、4mm以上であることがより好ましい。dが2mm未満では、カバー100の下方に存在するガラス融液の温度が下がって、ガラス融液の粘度が局所的に高くなる場合がある。本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1では、不活性ガスの加熱手段を備えることが好ましい。カバー100の下方に存在するガラス融液の温度が下がりにくくすることができる。不活性ガスの加熱手段は、特に限定されないが、例えば、ガス導入管107内に配置した発熱体(不図示)である。また、不活性ガスの流量を少なく制御することで、ガラス融液の温度低下を抑制してもよい。不活性ガスの流量は、1〜20NL/minであることが好ましく、3〜5NL/minであることがより好ましい。この範囲とすることで,ガラス融液の温度低下を抑制しつつ、回転軸11の周辺に局部的に不活性ガス雰囲気を効率的に作り出すことができる。ここで、NLはノルマルリットルであり、基準状態(温度0℃、大気圧1013hPa、相対湿度0%)での体積をいう。
【0034】
本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1では、カバー100と回転軸11とが接触しない構造を有することが好ましい。異種金属同士の接触をなくすことで、電位差が生じず、ガラス融液中に気泡が混入することを防止し、ガラスを均質化することができる。また、カバー100が回転軸11の表面のうち使用時に高温となる部分に接触すると、例えばカバー100の白金と回転軸11のイリジウムとが相互拡散によって合金化し、回転軸11が破損するおそれがあるところ、カバー100と回転軸11とが接触しない構造とすることで、回転軸11をより長寿命とすることができる。
【0035】
本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1は、内管101の内表面と回転軸11の外表面との間の隙間に介在する介在部材105を備えることが好ましい。介在部材105は、内管101の上端から所定の長さにおいて内管101の内表面と回転軸11の外表面との間に介在する環状部105aと環状部105aの上端から外側に延出するフランジ部105bとを有することが好ましい。環状部105aを内管101の上部に嵌合させ、フランジ部105bをカバー100の上端に係止させることで、介在部材105を容易に取付けることができる。介在部材105の材質は、特に限定されないが、例えば、酸化アルミニウム(Al)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ジルコニウム(ZrO)、酸化シリコン(SiO)などのセラミックスである。
【0036】
介在部材105は、カバー100のがたつきを制限し、カバー100が回転軸11に接触することを防止するスペーサーとしての役割をもつ。また、介在部材105は、ガス流路103からのガス漏れを減少させるシール材としての役割ももつ。介在部材105を設けることで、回転軸11の周辺に不活性ガス雰囲気をより効率的に作り出すことができる。
【0037】
本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1では、カバー100は、ガラス溶解炉2に固定するための固定手段106を有することが好ましい。固定手段106は、ガラス溶解炉2の構造に応じて適宜設計すればよく、その形状は特に限定されず、例えば、図1に示すように、外管102の外周面から外側に突出するフランジ状とし、炉体に係止させる。カバー100をガラス溶解炉2に固定することで、カバー100を回転軸11に固定せずとも攪拌機構1をガラス溶解炉2に取付けることができ、カバー100を回転軸11に対して非接触の状態で配置することができる。固定手段106は、図1に示すように外管102と一体であるか、又は別体であってもよい(不図示)。固定手段106を外管102と別体とする場合は、固定手段106の材質は、特に限定されず、外管102と同じ材質で形成するか、又は外管102とは異なる材質で形成してもよい。固定手段106を外管102と異なる材質で形成する場合は、固定手段106の材質を、例えば、耐熱金属(ステンレス、インコネル(登録商標)、パラジウムなど)とし、固定手段106を外管102に例えば溶接によって接合する。
【0038】
本実施形態に係るガラスの製造方法は、本実施形態に係るガラス融液の攪拌機構1を用いたガラスの製造方法であって、カバー100の下端の位置をガラス融液の液面L1から所定の高さに調整する工程と、ガス流路103に不活性ガスを供給し、横孔104から回転軸11に向けて不活性ガスを吹き付ける工程と、を有する。
【0039】
カバー100の下端の位置をガラス融液の液面L1から所定の高さに調整する工程では、高さ調整手段で、ガラス融液の液面L1に対するカバー100の下端の高さを調整する。カバー100の下端の高さは、ガラス融液の液面L1よりも上方になるように調整することが好ましい。高さ調整手段は、例えば、ガラス溶解用スターラー10の上下取付位置の調整機構、ガラス融液の液量の調整機構、ガラス溶解炉の高さ調整機構である。このうち、ガラス溶解用スターラー10の上下取付位置の調整機構及び/又はガラス融液の液量の調整機構であることが好ましい。
【0040】
ガス流路103に供給される不活性ガスは、例えば、窒素ガス、アルゴンガスである。ガス流路103に供給された不活性ガスは、横孔104から回転軸11に向けて吹き付けられて、内管101内の空間50を局部的に不活性ガス雰囲気とする。回転軸11に吹き付けられた不活性ガスは、内管101の下端から吹き出してカバー100の下端とガラス融液の液面L1との間を通って炉内に放出される。
【符号の説明】
【0041】
1 ガラス融液の攪拌機構
2 ガラス溶解炉
10 ガラス溶解用スターラー
11 回転軸
12 攪拌部
12a 攪拌翼
50 内管と回転軸との間の空間
100 カバー
101 内管
102 外管
103 ガス流路
104 横孔
105 介在部材
105a 環状部
105b フランジ部
106 固定手段
107 ガス導入管
S1 回転軸の表面のうち攪拌部よりも上方の表面領域
L1 ガラス融液の液面
図1