特許第6284427号(P6284427)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284427
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】光偏向器及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 26/10 20060101AFI20180215BHJP
   G02B 26/08 20060101ALI20180215BHJP
   B81B 3/00 20060101ALI20180215BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   G02B26/10 104Z
   G02B26/08 E
   B81B3/00
   B81C3/00
【請求項の数】7
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2014-105720(P2014-105720)
(22)【出願日】2014年5月21日
(65)【公開番号】特開2015-219516(P2015-219516A)
(43)【公開日】2015年12月7日
【審査請求日】2017年4月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000002303
【氏名又は名称】スタンレー電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000800
【氏名又は名称】特許業務法人創成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安田 喜昭
【審査官】 佐藤 洋允
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−169290(JP,A)
【文献】 特開2014−59527(JP,A)
【文献】 特開2006−81320(JP,A)
【文献】 特開2002−56554(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2010/0068697(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B26/10−26/12
G02B26/00−26/08
B81B1/00−7/04
B81C1/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を反射するミラー部と、
前記ミラー部の回転軸線となる第1軸線に沿って前記ミラー部の両側から突出するトーションバーと、
前記ミラー部及び前記トーションバーを包囲する可動枠部と、
前記可動枠部と前記トーションバーとの間に介在し、前記ミラー部と前記トーションバーとを前記第1軸線の回りに往復回動させる第1圧電アクチュエータと、
前記可動枠部を包囲する支持枠部と、
前記可動枠部と前記支持枠部との間に介在し、前記ミラー部が前記第1軸線に対して直交する回転軸線となる第2軸線の回りに往復回動するように、前記可動枠部を、前記第2軸線に対応する軸線の回りに往復回動させる第2圧電アクチュエータとを備える光偏向器であって、
前記第1圧電アクチュエータ、前記可動枠部、前記第2圧電アクチュエータ及び前記支持枠部は、第1SOIウェハの活性層を含み、
前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータは、前記第1SOIウェハの活性層の上に形成された圧電膜層を含み、
前記ミラー部、前記トーションバー、前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部は、第2SOIウェハの活性層を含み、
前記第1SOIウェハの活性層と前記第2SOIウェハの活性層とは、前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部において、前記第1SOIウェハの前記活性層が前記第2SOIウェハの前記活性層に対して上側となるように接合され、
前記ミラー部は、前記第1SOIウェハに形成された貫通孔を介して上方に開放され、かつ、前記第2SOIウェハの活性層の上に形成された金属膜をミラー面として有することを特徴とする光偏向器。
【請求項2】
請求項1記載の光偏向器において、
前記第2圧電アクチュエータは、ミアンダパターン配列で直列に結合された複数の圧電カンチレバーから構成され、
前記第1SOIウェハの活性層は、前記第2SOIウェハの活性層より薄いことを特徴とする光偏向器。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の光偏向器において、
前記支持枠部は、前記第1SOIウェハの活性層の下側に前記第1SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、
前記ミラー部は、前記第2SOIウェハの活性層の下側に前記第2SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、
前記支持枠部の内周側には、前記第1SOIウェハの前記埋め込み酸化膜層及び前記支持層が除去されて下方に開口する内側空間が形成されており、
前記第2SOIウェハは前記内側空間に配設され、
前記ミラー部における前記第2SOIウェハの前記支持層は、補強リブとして加工されていることを特徴とする光偏向器。
【請求項4】
請求項3に記載の光偏向器において、
前記可動枠部は前記第2SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、
前記支持枠部の下端は前記第2SOIウェハの前記支持層の下端より下に位置することを特徴とする光偏向器。
【請求項5】
請求項2に記載の光偏向器において、
前記圧電カンチレバーの幅は、前記第1SOIウェハの前記活性層の厚みの8倍より大きく、
前記トーションバーの幅は、前記第2SOIウェハの前記活性層の厚みの2倍未満であることを特徴とする光偏向器。
【請求項6】
光を反射するミラー部と、前記ミラー部の回転軸線となる第1軸線に沿って前記ミラー部の両側から突出するトーションバーと、前記ミラー部及び前記トーションバーを包囲する可動枠部と、前記可動枠部と前記トーションバーとの間に介在し、前記ミラー部と前記トーションバーとを前記第1軸線の回りに往復回動させる第1圧電アクチュエータと、前記可動枠部を包囲する支持枠部と、前記可動枠部と前記支持枠部との間に介在し、前記ミラー部が前記第1軸線に対して直交する回転軸線となる第2軸線の回りに往復回動するように、前記可動枠部を、前記第2軸線に対応する軸線の回りに往復回動させる第2圧電アクチュエータとを備える光偏向器の製造方法であって、
第1SOIウェハに対し、その活性層の上に圧電膜層を形成した後、前記活性層より上の前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータの上側部分を作製する工程と、
前記第1SOIウェハに対し、下からのエッチングにより、前記活性層の下面より下でかつ前記支持枠部が包囲する内側空間を形成する工程と、
前記ミラー部と前記トーションバーと前記第1圧電アクチュエータの下側部分と前記可動枠部の下側部分とが形成された第2SOIウェハと、第1SOIウェハとを前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部において接合する工程と、
前記第1SOIウェハの活性層に対し、前記第2SOIウェハの前記ミラー部の上方範囲において貫通孔を形成する工程と、
前記貫通孔を介して前記ミラー部の上面に金属膜を成膜して前記ミラー部のミラー面を形成する工程とを備えることを特徴とする製造方法。
【請求項7】
請求項6記載の製造方法において、
前記第1SOIウェハの活性層は、前記第2SOIウェハの活性層より薄いことを特徴とする製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光スキャナ等に装備されるMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)の光偏向器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、画像表示装置の一形態として、光偏向器を用いて光源からの光を偏向してスクリーンに投影し、スクリーン上に画像を映し出すようにしたプロジェクションディスプレイが提案されている。光偏向器としては、例えば、半導体プロセスやマイクロマシン技術を用いたMEMSデバイスとして、半導体基板上にミラーや圧電アクチュエータ等の機構部品を一体的に形成したMEMSの光偏向器が知られている。
【0003】
MEMSの光偏向器の典型的な構造では、光偏光器は、光源からの光を反射するミラー部と、ミラー部の回転軸線に沿ってミラー部の両側から突出するトーションバーと、ミラー部及びトーションバーを包囲する枠部と、枠部とトーションバーとの間に介在してミラー部を回転軸線の回りに往復回動させる圧電アクチュエータとを備えている。このような光偏光器は、小型で簡単な構造で大きな駆動力が得られるという利点をもつ。
【0004】
レーザ光源を光偏向器の往復回動するミラー部に反射させて、縦横の2軸方向に走査して2次元の投影画像を得る方法は2つある。第1は、ミラー部が1つの回転軸線の回りにのみ往復回動する1軸方式の光偏向器を2つ組合せる方法であり、第2は、ミラー部が直交する2つの回転軸線の回りに往復回動する2軸方式の光偏向器(例:特許文献1)を用いる方法である。
【0005】
第1の1軸方式の光偏向器の組合せによる方法は、光を2枚のミラーで計2回反射させるため、ミラーが1枚で済む第2の2軸方式の光偏向器に比べて光の利用効率が低く、また、小型化が難しいという問題がある。したがって、近年では難易度が高いものの、第2の2軸方式の光偏向器への要求が高まっている。
【0006】
2軸方式のMEMS光偏向器の従来の製造方法は、光偏向器を1つのSOI(Silicon on Insulator)ウェハから製造するものであり、SOIウェハの上面全体に圧電膜層を形成してから、該圧電膜層をエッチングして、圧電アクチュエータを加工するとともにミラー部の活性層を露出させ、露出した活性層に金属蒸着によりミラー面を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−40240号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の光偏向器の製造方法によれば、ミラー部のミラー面を形成する下地となるSOIウェハの活性層の部位が、圧電膜層の形成時の高温(例:一般的なぺロブスカイト型圧電体薄膜では500〜600℃)と圧電膜層の加工時の衝撃とにさらされることになる。この高温や衝撃の履歴はウェハ全体に残り、ミラー部の活性層には、ミラー面形成時に残留応力や表面荒れが生じている。これは、ミラー部に形成するミラー面の品質低下の原因になる。
【0009】
本発明の目的は、圧電膜層の形成や加工に伴うミラー部の高熱及び衝撃の履歴が残らないようにして、ミラー部のミラー面の品質を改善する光偏向器及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の光偏向器は、光を反射するミラー部と、前記ミラー部の回転軸線となる第1軸線に沿って前記ミラー部の両側から突出するトーションバーと、前記ミラー部及び前記トーションバーを包囲する可動枠部と、前記可動枠部と前記トーションバーとの間に介在し、前記ミラー部と前記トーションバーとを前記第1軸線の回りに往復回動させる第1圧電アクチュエータと、前記可動枠部を包囲する支持枠部と、前記可動枠部と前記支持枠部との間に介在し、前記ミラー部が前記第1軸線に対して直交する回転軸線となる第2軸線の回りに往復回動するように、前記可動枠部を、前記第2軸線に対応する軸線の回りに往復回動させる第2圧電アクチュエータとを備える。そして、前記第1圧電アクチュエータ、前記可動枠部、前記第2圧電アクチュエータ及び前記支持枠部は、第1SOIウェハの活性層を含み、前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータは、前記第1SOIウェハの活性層の上に形成された圧電膜層を含み、前記ミラー部、前記トーションバー、前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部は、第2SOIウェハの活性層を含み、前記第1SOIウェハの活性層と前記第2SOIウェハの活性層とは、前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部において、前記第1SOIウェハの前記活性層が前記第2SOIウェハの前記活性層に対して上側となるように接合され、前記ミラー部は、前記第1SOIウェハに形成された貫通孔を介して上方に開放され、かつ、前記第2SOIウェハの活性層の上に形成された金属膜をミラー面として有することを特徴とする。
【0011】
本発明によれば、光偏向器のミラー部は、第1及び第2圧電アクチュエータの圧電膜層が形成された第1SOIウェハとは別の第2SOIウェハに形成されて、第2SOIウェハが第1SOIウェハに接合される。したがって、第1SOIウェハにおいて圧電膜層の形成及び加工を終えてから、第1SOIウェハに、ミラー部が形成された第2SOIウェハを接合することができる。これにより、圧電膜層の形成や加工に伴うミラー部の高熱及び衝撃の履歴が残らないようして、ミラー部のミラー面の品質を改善することができる。
【0012】
本発明の光偏向器において、前記第2圧電アクチュエータは、ミアンダパターン配列で直列に結合された複数の圧電カンチレバーから構成され、前記第1SOIウェハの活性層は、前記第2SOIウェハの活性層より薄いことが好ましい。
【0013】
この構成によれば、第1SOIウェハの活性層の厚みと、第2SOIウェハの活性層の厚みとを別々に設定することが可能になり、かつ第1SOIウェハの活性層は第2SOIウェハの活性層より薄くされる。これにより、第2圧電アクチュエータの活性層を十分に薄くする一方、トーションバーを十分に厚くすることができる。この結果、低周波数の非共振駆動における第2軸線の回りのミラー部の往復回動量を増大させつつ、トーションバーの剛性の増大及び共振体の共振周波数の高周波化も支障なく達成することができる。
【0014】
本発明の光偏向器において、前記支持枠部は、前記第1SOIウェハの活性層の下側に前記第1SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、前記ミラー部は、前記第2SOIウェハの活性層の下側に前記第2SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、前記支持枠部の内周側には、前記第1SOIウェハの前記埋め込み酸化膜層及び前記支持層が除去されて下方に開口する内側空間が形成されており、前記第2SOIウェハは前記内側空間に配設され、前記ミラー部における前記第2SOIウェハの前記支持層は、補強リブとして加工されていることが好ましい。
【0015】
この構成によれば、ミラー部における第2SOIウェハの支持層は、補強リブとして加工されている。従来の1枚のSOIウェハからの光偏向器の製造では、SOIウェハの裏側における支持枠部が包囲する内側空間の作製において、第1段階で、SOIウェハの支持層に対するマスキング及びエッチングにより補強リブの下端まで加工し、第2段階で再び該支持層に対するマスキング及びエッチングによりSOIウェハの活性層の下面まで掘り下げて、内側空間を形成していた。これに対して、内側空間の加工を第1SOIウェハにおいて1段階で行うことができるので、加工が簡単となる。また、第2SOIウェハとして支持層の厚みが補強リブの高さの寸法に揃えたものを使用すれば、第2SOIウェハにおいて補強リブの下端までのエッチングを省略することができるとともに、補強リブの厚みを高い加工精度で均一化することができる。
【0016】
本発明の光偏向器において、前記可動枠部は前記第2SOIウェハの埋め込み酸化膜層及び支持層を含み、前記支持枠部の下端は前記第2SOIウェハの前記支持層の下端より下に位置することが好ましい。
【0017】
この構成によれば、第2SOIウェハは、第1SOIウェハの支持枠部の内側空間に収まるので、第2SOIウェハの活性層の厚みが第1SOIウェハの活性層の厚みより厚くなっても、第2SOIウェハに形成されている素子が支持枠部の下端にはみ出ることを防止することができる。
【0018】
本発明の光偏向器において、前記圧電カンチレバーの幅は、前記第1SOIウェハの前記活性層の厚みの8倍より大きく、前記トーションバーの幅は、前記第2SOIウェハの前記活性層の厚みの2倍未満であることが好ましい。
【0019】
この構成によれば、第1SOIウェハの活性層の厚みと、第2SOIウェハの活性層の厚みとを別々に設定することが可能になる。そして、カンチレバー型圧電アクチュエータの幅を、第1SOIウェハの活性層の厚みの8倍より大きくする一方、トーションバーの幅を、第2SOIウェハの活性層の厚みの2倍未満にする。この結果、第2圧電アクチュエータの駆動力を確保しつつ、低周波数の非共振駆動における第2軸線の回りのミラー部の往復回動量を増大させることができる。また、それと共に、トーションバーの角型化による剛性増大及び第1軸線の回りのミラー部の往復回動の共振周波数の高周波数化を確実に実施することできる。
【0020】
本発明の製造方法は、光を反射するミラー部と、前記ミラー部の回転軸線となる第1軸線に沿って前記ミラー部の両側から突出するトーションバーと、前記ミラー部及び前記トーションバーを包囲する可動枠部と、前記可動枠部と前記トーションバーとの間に介在し、前記ミラー部と前記トーションバーとを前記第1軸線の回りに往復回動させる第1圧電アクチュエータと、前記可動枠部を包囲する支持枠部と、前記可動枠部と前記支持枠部との間に介在し、前記ミラー部が前記第1軸線に対して直交する回転軸線となる第2軸線の回りに往復回動するように、前記可動枠部を、前記第2軸線に対応する軸線の回りに往復回動させる第2圧電アクチュエータとを備える光偏向器の製造方法である。そして、第1SOIウェハに対し、その活性層の上に圧電膜層を形成した後、前記活性層より上の前記第1圧電アクチュエータ及び前記第2圧電アクチュエータの上側部分を作製する工程と、前記第1SOIウェハに対し、下からのエッチングにより、前記活性層の下面より下でかつ前記支持枠部が包囲する内側空間を形成する工程と、前記ミラー部と前記トーションバーと前記第1圧電アクチュエータの下側部分と前記可動枠部の下側部分とが形成された第2SOIウェハと、第1SOIウェハとを前記第1圧電アクチュエータ及び前記可動枠部において接合する工程と、前記第1SOIウェハの活性層に対し、前記第2SOIウェハの前記ミラー部の上方範囲において貫通孔を形成する工程と、前記貫通孔を介して前記ミラー部の上面に金属膜を成膜して前記ミラー部のミラー面を形成する工程とを備えることを特徴とする。
【0021】
本発明によれば、ミラー部が、第1及び第2圧電アクチュエータの圧電膜が形成される第1SOIウェハとは別の第2SOIウェハに形成され、ミラー部が作製済みとなった第2SOIウェハを、圧電膜層の形成及び加工後の第1SOIウェハに接合する。これにより、圧電膜層の形成や加工に伴うミラー部の高熱及び衝撃の履歴を排除して、ミラー部のミラー面の品質を改善した光偏向器を製造することができる。
【0022】
本発明の光偏向器の製造方法において、前記第1SOIウェハの活性層は、前記第2SOIウェハの活性層より薄いことが好ましい。
【0023】
この構成によれば、第1SOIウェハの活性層の厚みは第2SOIウェハの活性層の厚みより薄くされる。これにより、厚みの増大によるトーションバーの剛性の増大を図りつつ、共振体の共振周波数を十分に高めることができる。また、トーションバーの耐久性も向上する。さらに、第2圧電アクチュエータは、活性層を十分に薄くすることができるので、低周波数の非共振駆動によるミラー部の往復回動量を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】光偏向器を斜め前方から見た斜視図。
図2】2つのSOIウェハを接合する前の状態で光偏向器の構成を示す図。
図3】第1SOIウェハと第2SOIウェハとの接合過程における第1段階を示す図。
図4】第1SOIウェハと第2SOIウェハとの接合過程における第2段階を示す図。
図5】第1SOIウェハと第2SOIウェハとの接合過程における第3段階を示す図。
図6】光偏向器の製造方法の第1過程を示す図。
図7】光偏向器の製造方法の第2過程を示す図。
図8】光偏向器の製造方法の第3過程を示す図。
図9】光偏向器の製造方法の第4過程を示す図。
図10】圧電カンチレバー及びトーションバーの横断面の寸法関係についての説明図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態について説明する。図1は光偏向器1を斜め前方から見た斜視図である。光偏向器1は、中心に配置される円形のミラー部2と、ミラー部2を包囲する可動枠部3と、可動枠部3を包囲する支持枠部4とを備えている。可動枠部3は、内周が円形で、外周がほぼ正方形になっている。支持枠部4は、内周及び外周共に矩形になっている。
【0026】
図1において、軸線Ly(「第1軸線」に相当)は、ミラー部2が往復回動する2つ回転軸線のうちの一方の回転軸線となっている。軸線Lxは、可動枠部3が往復回動する回転軸線となっている。軸線Lxは、静止部としての支持枠部4の長辺に対して平行であり、軸線Lxと軸線Lyとは、ミラー部2の上面(表面側の面)の中心において直交する。軸線Lyを含みかつ支持枠部4の長辺及び短辺に対して平行な面を基準面と呼ぶことにする。図1の光偏向器1は、可動部としてのミラー部2の上面の法線が基準面に対して直交している状態で示されている。
【0027】
ミラー部2の他方の回転軸線としての軸線Lx'(図示せず/「第2軸線」に相当)は、ミラー部2の上面に含まれ、かつミラー部2の上面の中心において軸線Lyと直交する。軸線Lx'と軸線Lxを含む平面は、基準面に対して垂直な平面となる。軸線Lyが基準面にあるときは、軸線Lx'は軸線Lxに一致する。
【0028】
共振駆動用の圧電アクチュエータ8は、円周状に形成され、可動枠部3の内側に配設されている。圧電アクチュエータ8は、ミラー部2及びトーションバー7を包囲するとともに、トーションバー7の突出側の端部に結合している。圧電アクチュエータ8は、軸線Lyに対して対称に配置された2つの半円弧状の圧電円弧レバー10から構成される。連結部9は、各圧電円弧レバー10の中間部から軸線Lxに沿って突出し、可動枠部3の内周縁に結合している。
【0029】
非共振駆動用の圧電アクチュエータ14は、軸線Lxの方向に可動枠部3の両側に配設される。各圧電アクチュエータ14は、ミアンダパターン配列の複数の圧電カンチレバー15を有する。各圧電カンチレバー15は、長手方向を軸線Lyに対して平行に揃えられ、折り返し部16を介して隣りの圧電カンチレバー15に直列に結合している。圧電アクチュエータ14は、連結部19を介して可動枠部3に結合しているとともに、連結部20を介して支持枠部4に結合している。
【0030】
複数の電極パッド23は、支持枠部4の上面の一方の長辺部上に一列に配備される。各電極パッド23は、光偏向器1がパッケージ(図示せず)に収納される時に、パッケージの対応電極にボンディングワイヤ(図示せず)を介して接続される。
【0031】
光偏向器1の全体の作用について、概略的に説明する。なお、ミラー部2とトーションバー7とは、軸線Lyの回りに所定の共振周波数(例:25kHz)で共振する共振体を構成する。
【0032】
ミラー部2の上面のミラー面128(図5参照)の中心には、光偏向器1の前方のレーザ光源(図示せず)からの光が入射する。ミラー部2は、後述するように、圧電アクチュエータ8,14の駆動により、軸線Ly,Lx‘の回りに往復回動する。
【0033】
2つの軸線Ly,Lx‘の回りのミラー部2の回動により、ミラー部2からの反射光は、それぞれ支持枠部4の長辺方向及び短辺方向の2軸方向に往復する走査光となって、光偏向器1から出射する。
【0034】
圧電アクチュエータ8の駆動によるミラー部2の往復回動について説明する。ミラー部2及びトーションバー7は、圧電アクチュエータ8に支持されて、軸線Lyの回りに共振振動する共振体として作用する。圧電アクチュエータ8の2つの圧電円弧レバー10の圧電膜には、共振体の共振周波数(例:25kHz)でかつ相互に逆位相で増減する駆動電圧が電極パッド23を介して供給される。
【0035】
これにより、2つの圧電円弧レバー10は、湾曲量の増減が相互に逆の関係になり、トーションバー7を軸線Lyの回りに各時点で同一の回転向きで駆動するとともに、駆動力の回転向きを共振体の共振周波数で切替えて、共振体を軸線Lyの回りに共振周波数で往復回動させる。この結果、ミラー部2からの反射光としての走査光は、支持枠部4の長辺方向に共振周波数で往復する。
【0036】
圧電アクチュエータ14の駆動によるミラー部2の往復回動について説明する。可動枠部3は、圧電アクチュエータ14を介して支持枠部4に支持されている。一方、圧電カンチレバー15の圧電膜には、共振体の前述の共振周波数より十分に低い非共振周波数(例:60Hz)で増減する駆動電圧が電極パッド23を介して供給される。
【0037】
圧電カンチレバー15に供給される駆動電圧は、軸線Lx方向に可動枠部3の方から支持枠部4の方へ数えて奇数番の圧電カンチレバー15と偶数番の圧電カンチレバー15とで相互に逆位相とされる。この結果、奇数番の圧電カンチレバー15と偶数番の圧電カンチレバー15とは、湾曲量の増減が相互に逆の関係になり、各圧電カンチレバー15は、軸線Lxの回りの可動枠部3の回転に対して各時点で同一回転方向の駆動力を発生しつつ、回転方向を非共振周波数で変化させる。
【0038】
これにより、可動枠部3は、軸線Lxの回りの非共振周波数で往復回動し、可動枠部3により支持されている共振体は、軸線Lx’の回りに共振周波数で往復回動する。この非共振周波数での軸線Lx‘の回りのミラー部2の往復回動は、ミラー部2からの反射光としての走査光を支持枠部4の短辺方向に往復させる。
【0039】
走査光が往復する走査方向としての支持枠部4の短辺方向及び長辺方向は、典型的には、光偏向器1が装備される光スキャナやプロジェクションディスプレイにおいて垂直及び水平の走査方向にそれぞれ対応付けられる。そして、水平走査をミラー部2の共振周波数である高周波数(例:25kHz)で駆動し、垂直走査を一般的なビデオフレームレートである低周波数の60Hzで駆動することにより、HD解像度に対応している。
【0040】
図2は光偏向器1を構成する2つのSOIウェハ26(「第1SOIウェハ」に相当)及びSOIウェハ27(「第2SOIウェハ」に相当)に分解して示した図である。光偏向器1は、上側でかつ収容側のSOIウェハ26と、SOIウェハ26の包囲する内側空間120(図3)内に下側から挿入されて、SOIウェハ26に接合される被収容側のSOIウェハ27とを有する。
【0041】
光偏向器1の素子の内、支持枠部4、圧電アクチュエータ14、及び連結部19,20は、SOIウェハ26のみに形成される。光偏向器1の素子の内、ミラー部2及びトーションバー7は、SOIウェハ27のみに形成される。可動枠部3及び圧電アクチュエータ8は、SOIウェハ26に形成される上側部分3a,8aと、SOIウェハ27に形成される下側部分3b,8bとを有する。上側部分8aは、さらに、2つの圧電円弧レバー10の上側部分10aから成り、下側部分8bは、さらに、2つの圧電円弧レバー10の下側部分10bから成る。上側部分3aと下側部分3b、及び上側部分8aと下側部分8bとは、SOIウェハ26とSOIウェハ27との接合に伴い、一体となる。なお、連結部9も、SOIウェハ26に形成される上側部分9aと、SOIウェハ27に形成される下側部分9bとを有する。
【0042】
SOIウェハ26において、圧電アクチュエータ8の内周側は円形の貫通孔30になっている。SOIウェハ27に形成されたミラー部2及びトーションバー7は、SOIウェハ26の貫通孔30を介して上方範囲を開放され、SOIウェハ26の上方に露出する。
【0043】
SOIウェハ27は、ミラー部2及びトーションバー7がSOIウェハ26の中心部の貫通孔30に臨むようにしつつ、圧電アクチュエータ8、連結部9及び可動枠部3(図1参照)においてSOIウェハ26と接合される。後述するように、SOIウェハ26へのSOIウェハ27の接合時では、SOIウェハ27側の各素子部分は、完成されている。これに対し、SOIウェハ26側の各素子部分は、SOIウェハ26へのSOIウェハ27の接合前は、SOIウェハ26の活性層102(図3参照)より上側の範囲のみの完成に留め、接合後に、活性層102の範囲を加工して、全体を完成させる。
【0044】
図3図5は、SOIウェハ26とSOIウェハ27とを接合する過程の模式図である。SOIウェハ26とSOIウェハ27との接合過程は、図3図5の順番に進む。図3図5は、接合過程の特徴を中心に説明するものであり、各素子の形状や位置は、模式的な図示に留めており、実際のものとは多少異なっている。図3図5において、各符号は、光偏向器1全体の製造方法についての後述の図6図9に記載した符号に一致させている。
【0045】
SOIウェハ26は、上の層から下の層へ順番に活性層(Siから成る/「デバイス層」ともいう)102、埋め込み酸化膜層(酸化膜はSiOから成る/「Box層」ともいう)103及び支持層(「ハンドリング層」ともいう)104の3層を備える。支持層104の下側の熱酸化膜層105は、図7で説明するように、SOIウェハ26の下面を熱酸化処理することにより追加された層となっている。図3の製造段階では、SOIウェハ26は、活性層102の加工のみを残して、活性層102より上の部分についてすでに完成済みとなっている。
【0046】
一方、SOIウェハ27は、上の層から下の層へ順番に活性層142、埋め込み酸化膜層143及び支持層144を備える。SOIウェハ27の各素子及び素子部分は、ミラー部2のミラー面128(図5参照)を除いて、加工済みとなっている。
【0047】
支持枠部4は、SOIウェハ26の活性層102、埋め込み酸化膜層103、支持層104及び熱酸化膜層105を全部含む。内側空間120は、活性層102より下で支持枠部4の内周により包囲される部分として形成され、SOIウェハ26の下方に開口している。
【0048】
ミラー部2及び下側部分3bは、SOIウェハ27の活性層142、埋め込み酸化膜層143及び支持層144を全部含む。ミラー部2の支持層144は、ミラー部2を補強するための環状の補強リブ150となっている。
【0049】
SOIウェハ26では、接合用Au(金)膜122は、活性層102の下面側における上側部分3a,10aの対応部位に、SOIウェハ26へのSOIウェハ27の接合に先立ち、金属蒸着により生成されている。SOIウェハ27では、接合用のAu膜122は、下側部分3b,10bの上面に、SOIウェハ26へのSOIウェハ27の接合に先立ち、金属蒸着により生成されている。
【0050】
SOIウェハ26のAu膜122とSOIウェハ27のAu膜122とが、上下から重なるように、SOIウェハ27がSOIウェハ26に当てられる。なお、図では、1つの光偏向器1しか示されていないが、光偏向器1の実際の製造では、共通のSOIウェハ26に、図3に図示のSOIウェハ26が、ダイシング前の状態で格子状に多数並んでいる。一方、図3に図示のSOIウェハ27は、ダイシング後の状態になっている。この場合、光偏向器1ごとにSOIウェハ27をSOIウェハ26の内側空間120に挿入するとするならば、挿入作業が煩雑になる。
【0051】
これを回避するために、SOIウェハ27の方はダイシング後、SOIウェハ26の内側空間120に対応する配列で所定の貼付け部材に貼り付けられてから、図3の段階が実行される。したがって、図3図5に接合は、個々の光偏向器1ごとに行われるのではなく、共通のSOIウェハ26に対して複数の光偏向器1をまとめて行われる。共通のSOIウェハ26におけるダイシングによる光偏向器1の個々の分離は、光偏向器1の最後の製造段階(後述の図8のS12より後)で行われる。
【0052】
SOIウェハ26,27は、Au膜122同士の重ね合わせにより仮接合の状態になり、所定の固着力が保持される。SOIウェハ26,27は、この仮接合の状態に保持されて、300℃〜400℃に加熱される。これにより、SOIウェハ26とSOIウェハ27とは、図4に示すように、Au膜122において強固に接合された本接合の状態になる。
【0053】
Au−Au接合はAuの固層拡散による接合であり、その接合強度は引張り試験において破断面がバルクのSi層であって接合界面ではないほど強固なものである。ただし、SOIウェハ26の圧電アクチュエータ8,14の高駆動力が確保できれば、Au−Au接合以外の接合でも構わない。例えば、Si層−Si層の直接接合、Si層−SiO層の陽極酸化接合、AuSn共晶結合、ハンダ結合、フリットガラス結合、Cu−Cu接合及び接着剤接合などが挙げられる。
【0054】
SOIウェハ26,27の接合後の状態では、光偏向器1の完成後の光偏向器1の作動中、光偏向器1の全部の可動素子が内側空間120の下端より下に越えて変位しないように、SOIウェハ26,27の高さ寸法が設定される。すなわち、SOIウェハ26,27の接合後の状態において、全体が可動素子なっているSOIウェハ27の下端は、SOIウェハ26の下端より適当に上になるように、SOIウェハ26,27の寸法関係が規定される。SOIウェハ26,27の寸法関係の詳細については、トーションバー7や圧電カンチレバー15の幅及び高さの寸法関係と共に後の図10で再説明する。
【0055】
図5の製造段階では、SOIウェハ26の上からのエッチングによりSOIウェハ26の活性層102に貫通孔30及び貫通部125が形成される。ミラー部2は、貫通孔30により、SOIウェハ26の上側に露出する。貫通部125は、SOIウェハ26の圧電カンチレバー15等の、SOIウェハ26に形成される全部の可動素子が基準面に対して垂直方向に変位自在になるように、基準面に対して平行な方向に相互に分離する。
【0056】
ミラー部2は、貫通孔30による上方への開放後、上面にミラー面128としての金属膜をマスク蒸着される。SOIウェハ26における圧電膜層112の形成や圧電円弧レバー10(「第1圧電アクチュエータ」に相当」)及び圧電カンチレバー15(「第2圧電アクチュエータ」に相当」)の輪郭形成(パターニング)のための圧電膜層112には、高熱や衝撃の履歴が残る。これに対し、ミラー部2の活性層142は、SOIウェハ27に存在しているので、そのような履歴存在しない。これにより、ミラー面128は、残留応力や表面荒れのない活性層142に形成されるので、品質が向上する。
【0057】
なお、図5において、h1,h2は、SOIウェハ26における活性層102の厚み及び支持層104の厚みを示す。上側部分3a,10a及び圧電カンチレバー15は同一の厚みh1になっている。w1は、軸線Lx(図1)方向の圧電カンチレバー15の寸法としての圧電カンチレバー15の幅を示している。h3,h4は、SOIウェハ27における活性層142の厚み及び支持層144の厚みを示している。なお、h2,h4は、埋め込み酸化膜層103,143の厚み(例:1μm)を加えて、h2=埋め込み酸化膜層103の厚み+支持層104の厚み、及びh4=埋め込み酸化膜層143の厚み+支持層144の厚みとして定義してもよい。
【0058】
図5は、模式図であるので、上下方向(基準面に対して直角方向/図5の紙面では縦に相当)の寸法が軸線Lx方向(図5の紙面では横に相当)の寸法に比して、誇張して図示されている。寸法関係については、後述の図10において再説明する。
【0059】
図6図8は、光偏向器1の製造方法の過程を、SOIウェハ26,27の接合段階を含めて順番に示している。
【0060】
工程S1では、上から順番に活性層102、埋め込み酸化膜層103、及び支持層104を有するSOIウェハ26に対し、拡散炉において活性層102の上面側及び支持層104の下面側に熱酸化膜層101,105を形成する。各層の厚みを例示すると、熱酸化膜層101,105は1μm、活性層102は40μm、埋め込み酸化膜層103は1μm、支持層104は350μmである。
【0061】
工程S2では、工程S1終了後のSOIウェハ26の表側(上側に相当)に順番に、下部電極層111、圧電膜層112及び上部電極層113を成膜しつつ、積層していく。後から成膜したものほど、上層になる。具体的には、下部電極層111は、スパッタ法によって形成され、下側のTi層と上側のPt層から成る。下部電極層111の下側のTi層と上側のPt層の厚みは例えばそれぞれ50nm及び150nmである。
【0062】
圧電膜層112は、反応性アーク放電イオンプレーティング法によって圧電材料であるチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を成膜する。圧電膜層112の厚みは例えば3μmである。上部電極層113は、スパッタ法によって形成され、Ti層から成る。上部電極層113の厚みは、例えば150nmである。
【0063】
工程S3では、工程S2終了後のSOIウェハ26に対し、フォトリソ技術及びドライエッチング技術により、活性層102より上の上側部分10aと圧電カンチレバー15の部分とのパターニング(輪郭形成)を行う。
【0064】
具体的には、上部電極層113と圧電膜層112のパターニングを行い、上側部分10a及び圧電カンチレバー15に対応する上部電極層113及び圧電膜層112の輪郭を形成する。同様に、下部電極層111とその下の熱酸化膜層101もパターニングを行い、圧電カンチレバー15について下部電極層111及び熱酸化膜層101、並びに上側部分10aについて下部電極層111及び熱酸化膜層101のパターンを作製する。
【0065】
工程S4では、工程S3終了後のSOIウェハ26に対し、表面全体にプラズマCVDで厚み500nmの酸化シリコンの層間絶縁膜109を形成する。
【0066】
図7の工程S5では、工程S4終了後のSOIウェハ26の表面にフォトリソでレジストパターンを形成して、ドライエッチングで一部の酸化シリコンの層間絶縁膜109を除去し、上側部分10a、圧電カンチレバー15及び電極パッド23の対応部位にコンタクトホール115を開ける。
【0067】
工程S6では、工程S5終了後のSOIウェハ26に対して、フォトリソでレジストパターンを形成してからAlCu(1%Cu)膜をスパッタ成膜し、リフトオフにより配線116を形成する。配線116は、電極パッド23ごとに専用のものが存在し、相互に対応関係にある電極パッド23と上側部分10a及び圧電カンチレバー15の下部電極層111又は上部電極層113とを接続する。
【0068】
工程S7では、工程S6終了後のSOIウェハ26の裏側からのエッチングにより熱酸化膜層105を、支持枠部4の範囲を残しつつ、他の範囲を除去して、切除空間117を形成する。
【0069】
工程S8では、工程S7終了後のSOIウェハ26に対して切除空間117をさらなるエッチングにより活性層102の下面まで掘り進んで、活性層102より下で支持枠部4の内周側である内側空間120を形成する。
【0070】
図8の工程S9では、工程S8終了後のSOIウェハ26に対して、Au−Au接合のためのAu膜を活性層102の下面に成膜してから、パターニングすることにより、活性層102の下面側における上側部分10a及び可動枠部3(模式図のため可動枠部3の部位は不図示)の対応部位にAu膜122を形成する。
【0071】
次の工程S10以降では、SOIウェハ27は、模式化のために、ブロック輪郭で示している。SOIウェハ27の詳細な構造は、図9で後述する。
【0072】
工程S10では、SOIウェハ26とSOIウェハ27とが、位置合わせされて、Au膜122同士を重ねられる。なお、この時のSOIウェハ27は、シリコン加工(シリコン加工の詳細は後の図9で説明)とAu膜122のパターン加工について処理済みとなっており、SOIウェハ27における素子及び下側素子部分は、ミラー面128(図8の工程S12)を除いて、接合後の加工が不要になっているものである。
【0073】
工程S10において、さらに、SOIウェハ26とSOIウェハ27とが、Au膜122同士を当てられた状態を保持して、0.1気圧以下の圧力下、250℃の温度で7000Nの荷重を10分程度印加することにより、Au−Au接合される。なお、この250℃は、ミラー面128の品質に悪影響を与える温度より十分に低い。
【0074】
工程S11では、SOIウェハ26の下部電極層111をDRIE(Deep−RIE)加工して、下部電極層111に貫通孔30及び貫通部125を形成する。貫通孔30は、SOIウェハ27の中央部としてのミラー部2及びトーションバー7(SOIウェハ27の詳細な構造は図9で後述)を上方に開放する。貫通部125は、活性層102における上側部分10a及び圧電カンチレバー15の輪郭を形成する。
【0075】
工程S12では、上方に開放されたミラー部2に、アルミ反射膜(「金属膜」に相当)としてのミラー面128をマスク蒸着する。これにより、光偏向器1が完成する。
【0076】
図9は、図8の工程S10において、SOIウェハ26に接合する前に予め加工して用意しておくSOIウェハ27の作製工程を示している。
【0077】
工程Q1では、上から順番に活性層142、埋め込み酸化膜層143、及び支持層144を有するSOIウェハ27に対し、拡散炉によって活性層142の上面側及び支持層144の下面側に熱酸化膜としての熱酸化膜層141,145を形成する。各層の厚みを例示すると、熱酸化膜層141は1μm、活性層142は100μm、埋め込み酸化膜層143は1μm、支持層144は200μm、熱酸化膜層145は1μmである。
【0078】
工程Q2では、熱酸化膜層145及び支持層144を下側からDRIE加工して(※実際のDRIE加工では、SOIウェハ27を上下逆転して行うので、熱酸化膜層145は上側となり、加工は熱酸化膜層145の上側となる)、下側部分3bの内周側とミラー部2の補強リブ150の外周側との間でかつ活性層142の下面より下にミラー部2の揺動に必要な空間としての可動許容空間151を形成する。補強リブ150は、ミラー部2を補強する。
【0079】
工程Q3では、活性層142を上側からDRIE加工して、ミラー部2、及び下側部分3b,10bの間に貫通部153を形成し、SOIウェハ27における素子間を切り離す。
【0080】
工程Q4では、BOE(緩衝酸化物エッチング溶液)処理によって熱酸化膜層141,145を除去する。
【0081】
工程Q5では、Auパターンとしての接合用のAu膜122を下側部分3b,10bの上面にマスク成膜する。なお、Au膜122の成膜に関しては下地膜としてTiW膜を成膜してAuとSiとの反応によるシリサイドの形成を防止する。なお、図8の前述した工程S9における活性層102の下面へのAu膜122の成膜も、工程Q5と同様である。
【0082】
図10は、圧電カンチレバー15及びトーションバー7の横断面の寸法を示している。h1〜h4及びw1は図5において説明している。w2は、トーションバー7の幅を示し、詳細には、トーションバー7における活性層142の横断面の幅を示している。図5は模式図としたため、基準面に対して直角方向である厚み(h1等)が基準面方向の寸法(w1)に対して誇張されている。これに対して、図10では、厚み方向と基準面の方向(軸線Lx,Lyの方向が含まれる)との寸法比関係が現実の寸法比関係に近くなるように図示されている。
【0083】
寸法関係は次のように規定されている。h2,h4は図5に図示されているものである。
h1<h3・・・(1)
h2>h3+h4・・・(2)
w1>8・h1・・・(3)
w2<2・h3・・・(4)
【0084】
従来の光偏向器では、共通の1つのSOIウェハによりトーションバー7、圧電円弧レバー10及び圧電カンチレバー15を作製していたので、h1=h3に固定されており、h1≠h3とすることが困難であった。これに対し、光偏向器1では、非共振用の圧電アクチュエータ14と共振用のトーションバー7とをそれぞれ別のSOIウェハ26,27から作製するので、h1,h3を別個に設定することができる。この結果、光偏向器1は、(1)〜(4)の関係を同時に満足できるh1〜h4を有する構造とすることができる。
【0085】
(1)の関係が実現可能となることにより、圧電カンチレバー15を十分に薄くすることができる一方、ミラー部2及びトーションバー7から成る共振体を十分に厚くすることができる。これにより、圧電アクチュエータ14による非共振駆動(例:60Hz)での往復回動量を増大することができる。また、軸線Lyの回りの共振体の共振周波数を十分に高周波数(例:20kHz)に設定することができるとともに、トーションバー7の剛性を高めることができる。なお、共振周波数が高いほど、ミラー部2が基準面に対して直角方向に振動してしまうポンピングを抑制することができる。
【0086】
(2)の関係により、SOIウェハ27は、SOIウェハ26の支持枠部4の内側空間120に収まるので、SOIウェハ27の活性層142の厚みh3がSOIウェハ26の活性層102の厚みh1より厚くなっても、SOIウェハ27に形成されている素子が支持枠部4の下端にはみ出ることを防止することができる。
【0087】
(3)の関係が実現可能となることにより、圧電膜層112の面積を広げて、圧電アクチュエータ14の十分な駆動力を確保しつつ、圧電カンチレバー15を薄くして、圧電アクチュエータ14によるミラー部2の非共振駆動における往復回動量を円滑に増大することができる。
【0088】
(4)の関係が実現可能となることにより、トーションバー7の横断面が従来のフラット型から角型にすることができるので、トーションバー7を剛性化し易くなる。
【0089】
光偏向器1は、例えば、ピコプロジェクタ、車載ヘッドアップディスプレイ、レーザレーダ、3次元形状測定システム、車両用照明装置及びADB車両前照灯に装備されて、走査光の生成に利用される。
【0090】
本実施形態では、第1圧電アクチュエータは、半円弧状の圧電円弧レバー10として構成されている。第1圧電アクチュエータとしては、軸線Lxに対して平行な直線状の圧電レバーを採用してもよい。その場合、直線状の圧電レバーは、光偏向器1の全体では計4本となる。そして、軸線Lxの方向に各トーションバー7の両側に配設されるとともに、両端においてトーションバー7と可動枠部3とに結合することにより、トーションバー7と可動枠部3との間に介在する。
【0091】
本実施形態では、図2に図示されるように、可動枠部3における上側部分3aと下側部分3bとは形状及び寸法が同一になっている。下側部分3bは、SOIウェハ27がSOIウェハ26に接合されたときに、上側部分3aの下端面輪郭に収まる形状及び寸法であれば、上側部分3aと下側部分3bとは形状及び寸法が同一になっていなくてもよい。
【0092】
本実施形態では、ミラー部2は円形であるが、ミラー部は、所定面積のミラー面が確保されれば、円形以外の正方形等であってもよい。
【0093】
本実施形態では、連結部19,20は、支持枠部4の短辺方向に可動枠部3の端部に結合しているが、圧電アクチュエータ14の両端部の圧電カンチレバー15の長さを中間部の圧電カンチレバー15の長さの半分にして、支持枠部4の短辺方向の中心部において可動枠部3と圧電カンチレバー15とを結合するものであってもよい。
【符号の説明】
【0094】
1・・・光偏向器、2・・・ミラー部、3・・・可動枠部、4・・・支持枠部、7・・・トーションバー、10・・・圧電円弧レバー(第1圧電アクチュエータ)、15・・・圧電カンチレバー(第2圧電アクチュエータ)、26・・・SOIウェハ(第1SOIウェハ)、27・・・SOIウェハ(第2SOIウェハ)、30・・・貫通孔、102・・・活性層、103・・・埋め込み酸化膜層、104・・・支持層、112・・・圧電膜層、120・・・内側空間、128・・・ミラー面、142・・・活性層、143・・・埋め込み酸化膜層、144・・・支持層、150・・・補強リブ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10