特許第6284457号(P6284457)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6284457-核燃料物質の回収方法 図000002
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284457
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】核燃料物質の回収方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/30 20060101AFI20180215BHJP
   G21F 9/02 20060101ALI20180215BHJP
   G21C 19/44 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   G21F9/30 535A
   G21F9/02 531Z
   !G21C19/44 F
【請求項の数】10
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2014-173571(P2014-173571)
(22)【出願日】2014年8月28日
(65)【公開番号】特開2016-48209(P2016-48209A)
(43)【公開日】2016年4月7日
【審査請求日】2016年10月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】深澤 哲生
(72)【発明者】
【氏名】矢澤 紀子
(72)【発明者】
【氏名】中村 友隆
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−217705(JP,A)
【文献】 特開昭56−084600(JP,A)
【文献】 特開2014−029319(JP,A)
【文献】 特開平11−337688(JP,A)
【文献】 特公昭48−017435(JP,B1)
【文献】 特開2014−109444(JP,A)
【文献】 特開2002−236198(JP,A)
【文献】 欧州特許出願公開第1237162(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/30
G21F 9/28
G21F 9/02
G21C 19/44
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原子炉格納容器に取り囲まれた原子炉圧力容器内に乾燥ガスを供給して前記原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリ及び炉内構造物のそれぞれの表面を乾燥させ、前記原子炉圧力容器内に存在する前記燃料デブリ及び前記炉内構造物が乾燥した後に、前記原子炉圧力容器内にフッ素ガスを供給し、前記フッ素ガスが前記原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性のウランフッ化物及び揮発性のプルトニウムフッ化物を生成し、生成された前記揮発性のウランフッ化物及び前記揮発性のプルトニウムフッ化物を、前記原子炉圧力容器から、前記原子炉格納容器の外部に存在するコールドトラップに導いて前記コールドトラップ内で固化して回収することを特徴とする核燃料物質の回収方法。
【請求項2】
前記原子炉圧力容器内で乾燥処理に使用された前記乾燥ガスは乾燥ガス処理装置に導かれ、前記乾燥ガスに含まれる放射性物質が前記乾燥ガス処理装置内で除去される請求項に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項3】
ッ素ガス供給装置に接続された第1供給配管、乾燥ガス供給装置に接続された第2供給配管及び前記コールドトラップに接続された排出配管が前記原子炉圧力容器にそれぞれ接続され、前記原子炉圧力容器内への前記乾燥ガスの供給は、前記乾燥ガス供給装置から前記第2供給配管を通して行われ、前記原子炉圧力容器への前記フッ素ガスの供給は、前記フッ素ガス供給装置から前記第1供給配管を通して行われ、前記原子炉圧力容器から前記コールドトラップへの前記揮発性のウランフッ化物及びプルトニウムフッ化物の供給は、前記排出配管を通して行われる請求項1に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項4】
前記原子炉圧力容器から前記コールドトラップに前記揮発性のウランフッ化物及び前記揮発性のプルトニウムフッ化物と共に導かれた不純物の揮発性フッ化物は、前記コールドトラップ内で固化されず、不純物除去装置に導かれて除去される請求項1またはに記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項5】
原子炉格納容器に取り囲まれた原子炉圧力容器内にフッ素ガスを供給し、前記フッ素ガスが前記原子炉圧力容器内に存在する第1燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性の第1ウランフッ化物及び揮発性の第1プルトニウムフッ化物を生成し、生成された前記揮発性の第1ウランフッ化物及び前記揮発性の第1プルトニウムフッ化物を、前記原子炉圧力容器から、前記原子炉格納容器の外部に存在する第1コールドトラップに導いて前記第1コールドトラップ内で固化して回収し、
前記原子炉圧力容器内への前記フッ素ガスの供給を行いながら、前記原子炉圧力容器と前記原子炉格納容器の間の空間にフッ素ガスを供給し、前記フッ素ガスが前記原子炉圧力容器と前記原子炉格納容器の間の空間に存在する第2燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性の第2ウランフッ化物及び揮発性の第2プルトニウムフッ化物を生成し、生成された前記揮発性の第2ウランフッ化物及び前記揮発性の第2プルトニウムフッ化物を、前記空間から、前記原子炉格納容器の外部に存在する第2コールドトラップに導いて前記第2コールドトラップ内で固化して回収することを特徴とする核燃料物質の回収方法。
【請求項6】
前記原子炉圧力容器及び前記空間内への前記フッ素ガスの供給の前に、前記原子炉格納容器の漏洩検査を実施し、この漏洩検査によって前記原子炉格納容器に漏洩箇所が見つかったとき、前記漏洩箇所を封鎖し、前記漏洩箇所が封鎖された後、前記原子炉圧力容器及び前記空間内への前記フッ素ガスの供給を実施する請求項に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項7】
前記空間内に乾燥ガスを供給して前記空間に存在する前記第2燃料デブリ、配管及び機器のそれぞれの表面を乾燥させ、前記空間内への前記フッ素ガスの供給が、前記空間に存在する前記第2燃料デブリ、配管及び機器が乾燥した後に行われる請求項に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項8】
前記空間内で乾燥処理に使用された前記乾燥ガスは乾燥ガス処理装置に導かれ、この乾燥ガスに含まれる放射性物質が前記乾燥ガス処理装置内で除去される請求項に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項9】
第1フッ素ガス供給装置に接続された第1供給配管及び前記第1コールドトラップに接続された第1排出配管が前記原子炉圧力容器にそれぞれ接続され、前記原子炉圧力容器への前記フッ素ガスの供給は、前記第1フッ素ガス供給装置から前記第1供給配管を通して行われ、前記原子炉圧力容器から前記第1コールドトラップへの前記揮発性の第1ウランフッ化物及び第1プルトニウムフッ化物の供給は、前記第1排出配管を通して行われ、
第2フッ素ガス供給装置に接続された第2供給配管及び前記第2コールドトラップに接続された第2排出配管が前記原子炉格納容器にそれぞれ接続され、前記空間への前記フッ素ガスの供給は、前記第2フッ素ガス供給装置から前記第2供給配管を通して行われ、前記空間から前記第2コールドトラップへの前記揮発性の第2ウランフッ化物及び第2プルトニウムフッ化物の供給は、前記第2排出配管を通して行われる請求項に記載の核燃料物質の回収方法。
【請求項10】
前記空間から前記第2コールドトラップに前記揮発性の第2ウランフッ化物及び前記揮発性の第2プルトニウムフッ化物と共に導かれた不純物の揮発性フッ化物は、前記第2コールドトラップ内で固化されず、不純物除去装置に導かれて除去される請求項またはに記載の核燃料物質の回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、核燃料物質の回収方法に係り、特に、原子炉圧力容器及び原子炉格納容器の少なくとも一方からの燃料デブリの回収に適用するのに好適な核燃料物質の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の大規模な炉心破損・溶融事故は、米国のスリーマイル島の原子力発電プラント、及びロシア(ウクライナ)のチェルノブイリの原子力発電プラントで発生している。これらの原子力発電プラントの事故で発生した溶融核燃料物質は、スリーマイル島の原子力発電プラントでは機械的な方法で原子炉圧力容器から回収して別の場所で保管されている。チェルノブイリの原子力発電プラントでは、溶融核燃料物質は、石棺で覆われたこの原子力発電プラント内に保管されている。2011年3月の福島第1原子力発電所の複数の原子力プラント(1号機ないし3号機)では、炉心溶融が発生し、燃料デブリが原子炉圧力容器及び原子炉格納容器内に存在していると考えられている。燃料デブリは、原子炉圧力容器の炉心に装荷された燃料集合体に含まれる核燃料棒内に存在する核燃料物質、及び燃料集合体の構造物(燃料被覆管、燃料スペーサ、下部タイプレート及びチャンネルボックス等)の溶融物の混合物であり、原子炉圧力容器の下鏡部上に落下した燃料デブリには、原子炉圧力容器内に設置された炉心支持板及び制御棒案内管等の炉内構造物、及び制御棒案内管内に配置された制御棒の溶融物が含まれている可能性がある。さらに、原子炉格納容器の底部に燃料デブリが落下している場合には、この落下した燃料デブリに原子炉圧力容器の下鏡部が溶融して混じっている可能性があり、さらに、原子炉格納容器底部のコンクリートも溶融して燃料デブリに混じっている可能性もある。
【0003】
炉心内の核燃料物質の溶融が生じたスリーマイル島の原子力発電プラントで行われた燃料デブリの回収作業は、臨界及び核燃料物質の飛散を防止しながら行う必要があるため、非常に困難で多大の労力を要する作業であった。このため、その燃料デブリの回収作業には、非常に長時間を要した。
【0004】
チェルノブイリの原子力発電プラント及び福島第1原子力発電所の複数の原子力プラントでも、スリーマイル島の原子力発電プラントでの経験を参考にして、燃料デブリの機械的回収方法を検討中である。しかしながら、チェルノブイリの原子力発電プラント及び福島第1原子力発電所の複数の原子力プラントにおける燃料デブリは、スリーマイル島の原子力発電プラントにおける燃料デブリには含まれていない溶融したコンクリートを含んでいる可能性があり、燃料デブリの機械的回収方法には、さらなる困難が伴うことが予想される。
【0005】
福島第1原子力発電所の複数の原子力プラントから回収される燃料デブリに対しては、保管、長期貯蔵、前処理、再処理及び処分等の処置方策が検討されているが、核兵器国(米国及びロシア等)ではない日本は、国際原子力機関(IAEA)の核査察を受ける必要がある。このため、日本では、回収した燃料デブリの正確な計量管理等の保障措置及びそのための処理が必要になると考えられる。
【0006】
このため、回収した燃料デブリから核燃料物質を分離することが望ましく、種々の再処理技術の適用が考えられている。これらの再処理技術は、いずれも処理対象物質(使用済核燃料及び燃料デブリ)を再処理施設に持ち込んで処理する技術である。現在唯一実用化されている再処理技術であるピューレックス法は、処理対象物質を再処理施設の前処理工程において硝酸で溶解する必要がある。
【0007】
使用済核燃料の他の再処理技術として、特開2000−284089号公報、特開2002−257980号公報及び特開2004−233066号公報に記載された使用済核燃料にフッ素を反応させ、使用済核燃料に含まれているウラン及びプルトニウムをフッ化物として揮発させて回収する方法が提案されている。
【0008】
さらに、特開2014−29319号公報は、特開2000−284089号公報、特開2002−257980号公報及び特開2004−233066号公報に記載された使用済核燃料に含まれるウランの揮発性のフッ化物化を燃料デブリに適用し、燃料デブリにフッ素を接触させてフッ化処理を行い、燃料デブリに含まれたウランをUF6として回収することを記載している。
【0009】
特開2013−2013−113596号公報は原子炉格納容器内の調査方法を記載している。この調査方法では、放射線検出器が原子炉格納容器を貫通して原子炉格納容器に設けられた予備のペネトレーションを利用して原子炉格納容器内に挿入され、挿入された放射線検出器によって原子炉格納容器内の線量が測定される。
【0010】
特開2012−233700号公報は原子炉格納容器の冷却方法を記載している。この原子炉格納容器の冷却方法では、原子炉格納容器と原子炉格納容器の周囲を取り囲んでいる生体遮へい壁の間の環状の間隙に冷却水を供給し、この冷却水によって原子炉格納容器の外面を冷却している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2000−284089号公報
【特許文献2】特開2002−257980号公報
【特許文献3】特開2004−233066号公報
【特許文献4】特開2014−29319号公報
【特許文献5】特開2013−113596号公報
【特許文献6】特開2012−233700号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
特開2014−29319号公報に記載された燃料デブリのフッ化処理を実施するためには、炉心溶融を起こした原子炉において、燃料デブリが存在する原子炉圧力容器及び原子炉格納容器内から燃料デブリを切断して原子炉圧力容器及び原子炉格納容器外に取り出す必要がある。このような燃料デブリの切断及び取出しには、前述したように、困難を伴い、それらの作業に長時間を要する恐れがある。
【0013】
このため、炉心溶融が生じた原子炉では、原子炉圧力容器、場合によっては、原子炉格納容器内から、溶融して燃料デブリとなっている核燃料物質の回収に要する時間を短縮することが望まれている。
【0014】
本発明の目的は、溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮することができる核燃料物質の回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記した目的を達成する本発明の特徴は、原子炉格納容器に取り囲まれた原子炉圧力容器内に乾燥ガスを供給して原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリ及び炉内構造物のそれぞれの表面を乾燥させ、原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリ及び炉内構造物が乾燥した後に、原子炉圧力容器内にフッ素ガスを供給し、フッ素ガスが原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性のウランフッ化物及び揮発性のプルトニウムフッ化物を生成し、生成された揮発性のウランフッ化物及びプルトニウムフッ化物を、原子炉圧力容器から、原子炉格納容器の外部に存在するコールドトラップに導いてこのコールドトラップ内で固化して回収することにある。
【0016】
原子炉圧力容器内に乾燥ガスを供給して原子炉圧力容器内に存在する燃料デブリ及び炉内構造物のそれぞれの表面を乾燥させた後に原子炉圧力容器内で燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムとフッ素ガスを反応させて揮発性のウランフッ化物及び揮発性のプルトニウムフッ化物を生成させるため、原子炉圧力容器内からのウラン及びプルトニウムの回収が容易であり、揮発性のウランフッ化物及び揮発性のプルトニウムフッ化物の生成が早くなって溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮することができる。
上記した目的は、原子炉格納容器に取り囲まれた原子炉圧力容器内にフッ素ガスを供給し、フッ素ガスが原子炉圧力容器内に存在する第1燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性の第1ウランフッ化物及び揮発性の第1プルトニウムフッ化物を生成し、生成された揮発性の第1ウランフッ化物及び揮発性の第1プルトニウムフッ化物を、原子炉圧力容器から、原子炉格納容器の外部に存在する第1コールドトラップに導いてこの第1コールドトラップ内で固化して回収し、
原子炉圧力容器内へのフッ素ガスの供給を行いながら、原子炉圧力容器と原子炉格納容器の間の空間にフッ素ガスを供給し、その空間に存在する第2燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムのそれぞれと反応して揮発性の第2ウランフッ化物及び揮発性の第2プルトニウムフッ化物を生成し、生成された揮発性の第2ウランフッ化物及び揮発性の第2プルトニウムフッ化物を、その空間から、原子炉格納容器の外部に存在する第2コールドトラップに導いてこの第2コールドトラップ内で固化して回収することによっても達成することができる。
原子炉圧力容器内で第1燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムとフッ素ガスを反応させて揮発性の第1ウランフッ化物及び揮発性の第1プルトニウムフッ化物を生成させ、さらに、原子炉圧力容器と原子炉格納容器の間の空間内で第2燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムとフッ素ガスを反応させて揮発性の第2ウランフッ化物及び揮発性の第2プルトニウムフッ化物を生成させるため、原子炉圧力容器内及び原子炉圧力容器と原子炉格納容器の間の空間内のそれぞれからのウラン及びプルトニウムの回収が容易であり、原子炉圧力容器内及び原子炉圧力容器と原子炉格納容器の間の空間内からの溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の好適な一実施例である実施例1の核燃料物質の回収方法の手順を示すフローチャートである。
図2図1に示す核燃料物質の回収方法を沸騰水型原子力プラントに適用する際に使用される核燃料物質回収装置の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施例を以下に説明する。
【実施例1】
【0020】
本発明の好適な一実施例である実施例1の核燃料物質の回収方法を、図1及び図2を用いて説明する。
【0021】
本実施例の核燃料物質の回収方法を説明する間に、本実施例の核燃料物質の回収方法が適用される沸騰水型原子力プラントの構成を、図2を用いて説明する。
【0022】
沸騰水型原子力プラント11は、原子炉12及び原子炉格納容器27を備えている。原子炉格納容器27は、原子炉建屋32内に設置されて、上端部に上蓋であるヘッド28が取り付けられて密封されている。原子炉格納容器27は、内部に形成されたドライウェル29、及び冷却水が充填された圧力抑制プールが内部に形成された圧力抑制室30を有する。ドライウェル29に連絡される複数の排出管53の一端が、原子炉格納容器27に接続される。環状のヘッダー54が、原子炉格納容器27を取り囲むドーナツ状の圧力抑制室30内に配置され、各排出管53の他端がヘッダー54に接続される。複数のベント管(図示せず)が、ヘッダー54の下側に取り付けられてヘッダーに連絡される。各ベント管は圧力抑制室30内の圧力抑制プールの冷却水中に浸漬されている。原子炉建屋32内に形成された環状の生体遮へい壁52が、原子炉格納容器27の周囲を取り囲んでいる。生体遮へい壁52と原子炉格納容器27の間には、環状の隙間(図示せず)が形成されている。
【0023】
ヘッド28の真上に複数に分割された放射線遮へい体であるシールドプラグ37が配置される。これらのシールドプラグ37が、原子炉ウェル34内に配置され、原子炉建屋32の運転床33に設置されている。機器仮置きプール(ドライヤセパレータプール)35及び燃料貯蔵プール36が、原子炉ウェル34に隣接して配置され、運転床33に取り囲まれている。機器仮置きプール35と原子炉ウェル34の間、及び燃料貯蔵プール36と原子炉ウェル34の間は、それぞれ、取り外し可能なゲート部材(図示せず)により仕切られている。
【0024】
原子炉12は、上蓋14が取り付けられて構成される原子炉圧力容器13、核燃料物質を含む複数の燃料集合体18が装荷された炉心17、気水分離器21及び蒸気乾燥器22等を備えている。炉心17、気水分離器21及び蒸気乾燥器22は原子炉圧力容器13内に配置される。原子炉圧力容器13内に設置された炉心シュラウド16が、炉心17を取り囲んでいる。炉心17内に装荷された各燃料集合体18は、下端部が炉心支持板19によって支持され、上端部が上部格子板20によって保持される。気水分離器21は炉心17の上端部に位置する上部格子板20よりも上方に配置され、蒸気乾燥器22が気水分離器21の上方に配置される。
【0025】
複数の制御棒案内管23が、原子炉圧力容器13内で炉心支持板19の下方に配置される。炉心17内の燃料集合体18間に出し入れされて原子炉出力を制御する制御棒(図示せず)が、各制御棒案内管23内に配置されている。複数の制御棒駆動機構ハウジング24が、原子炉圧力容器13の下鏡部15に取り付けられている。制御棒駆動機構(図示せず)が、それぞれの制御棒駆動機構ハウジング24内に設置され、制御棒案内管23内の制御棒と連結されている。
【0026】
原子炉圧力容器13内に設置された炉心シュラウド16、炉心支持板19、上部格子板20、気水分離器21、蒸気乾燥器22及び制御棒案内管23は、炉内構造物である。
【0027】
原子炉圧力容器13は、原子炉格納容器27内の底部に設けられたコンクリートマット26上に設けられた円筒状のペデスタル25上に据え付けられている。筒状のγ線遮蔽体31が、ペデスタル25の上端に設置され、原子炉圧力容器13を取り囲んでいる。
【0028】
このような沸騰水型原子力プラント11が、地震等により、緊急停止された状態において、沸騰水型原子力プラントに電流を供給する全ての電源が消失して非常用炉心冷却系が作動しなかった状態が生じたことを想定する。ここでの全ての電源の消失とは、沸騰水型原子力プラント11の緊急停止によって所内電源が消失した状態で、非常用電源(例えば、ディーゼル発電機)が作動しなく、原子力発電所の外部の電源への接続が遮断されている状態を意味する。全ての電源が消失して非常用炉心冷却系のポンプ等が作動しなくなり、炉心17内の各燃料集合体18に含まれる各燃料棒の冷却が損なわれた場合には、これらの燃料棒に含まれる核燃料物質(例えば、UO2:融点2800℃)が溶融し、核燃料物質の溶融によって燃料集合体18の構造部材、例えば、燃料棒の被覆管、燃料集合体18のチャンネルボックス及び上部タイプレート及び下部タイプレートも溶融される。沸騰水型原子力発電プラントの運転中に炉心17に存在する燃料集合体18に含まれる核燃料物質は、その運転中に生成されたプルトニウムを含んでいる。ウラン及びプルトニウムを含む核燃料物質、及び燃料集合体18のジルコニウム合金製の構造部材等の溶融物を含んでいる燃料デブリ38は、原子炉圧力容器3の底部である下鏡部15の内面上に落下する可能性がある。下鏡部15の内面上に落下した燃料デブリ38には、炉心支持板19及び制御棒案内管23等の炉内構造物の溶融物、及び制御棒案内管23内に存在する制御棒の構造物及び中性子吸収材であるホウ素の溶融物が含まれる。燃料デブリ38は原子炉圧力容器13の下鏡部15を溶融し、燃料デブリ38の一部は溶融した下鏡部15を含む燃料デブリ39となって、ペデスタル25の内側で原子炉格納容器27の底部上に落下する。溶融した燃料デブリ38及び39は、やがて冷却されて固まる。
【0029】
万が一、このような燃料デブリ38の原子炉圧力容器13の底部及び燃料デブリ39の原子炉格納容器27の底部へのそれぞれの落下が生じた場合には、固まった燃料デブリ38及び39のそれぞれの切断及び原子炉圧力容器13外への搬出が実施される。さらに燃料デブリ38及び39の落下が生じている沸騰水型原子力プラント11に対して、廃炉処理が実施される。
【0030】
さらに、本実施例の核燃料物質の回収方法に用いられる核燃料物質回収装置51を、図2に基づいて説明する。
【0031】
核燃料物質回収装置51は、フッ素ガス供給装置1,1A、揮発性フッ化物回収装置5,5A、乾燥ガス供給装置42,42A及び乾燥ガス処理装置50を備えている。フッ素ガス供給装置1は、フッ素ガスボンベ2及び供給配管3を有する。開閉弁4が設けられた供給配管3がフッ素ガスボンベ2に接続される。フッ素ガス供給装置1Aは、フッ素ガスボンベ2A及び供給配管3Aを有する。開閉弁4Aが設けられた供給配管3Aがフッ素ガスボンベ2Aに接続される。乾燥ガス供給装置42は、送風機45及び供給配管43を有する。開閉弁44が設けられた供給配管43が送風機45に接続される。供給配管43の他端が開閉弁4の下流で供給配管3に接続される。乾燥ガス供給装置42Aは、送風機45A及び供給配管43Aを有する。開閉弁44Aが設けられた供給配管43Aが送風機45Aに接続される。供給配管43Aの他端が開閉弁4Aの下流で供給配管3Aに接続される。供給配管3,3A,43及び43Aは、例えば、耐フッ素性が高い、モネル(登録商標)の一種であるモネル400(Niを65wt%、Cuを33wt%、及びFeを2wt%含んでいる)で作られている。開閉弁4,4A,8,8A,44,44A,47及び47Aも、モネル400で作られる。排出配管7,7A,40及び40A、及び開閉弁8,8A,41及び41Aも、モネル400で作られている。モネル400の代りにニッケル金属を用いてもよい。
【0032】
揮発性フッ化物回収装置5は、コールドトラップ6及び排出配管7を有する。開閉弁8が設けられた排出配管7がコールドトラップ6に接続される。揮発性フッ化物回収装置5Aは、コールドトラップ6A及び排出配管7Aを有する。開閉弁8Aが設けられた排出配管7Aがコールドトラップ6Aに接続される。開閉弁41が設けられた排出配管40が、コールドトラップ6及び不純物除去装置49にそれぞれ接続される。開閉弁41Aが設けられた排出配管40Aは、一端がコールドトラップ6Aに接続され、他端が開閉弁47と不純物除去装置49の間で排出配管46に接続される。排出配管40Aは、実質的には、コールドトラップ6A及び不純物除去装置49に接続される。開閉弁47が設けられて乾燥ガスを排出する排出配管46が、開閉弁8よりも上流で排出配管7に接続され、さらに、乾燥ガス処理装置50に接続される。開閉弁47Aが設けられて乾燥ガスを排出する排出配管46Aが、開閉弁8Aよりも上流で排出配管7Aに接続され、さらに、乾燥ガス処理装置50に接続される。
【0033】
燃料デブリ38の原子炉圧力容器13の底部及び燃料デブリ39の原子炉格納容器27の底部へのそれぞれの落下が生じている場合における本実施例の核燃料物質の回収方法を、図1に示された手順に沿って説明する。
【0034】
燃料デブリが存在する場所を確認する。(ステップS1)。所内電源が消失し、非常用電源が作動せず、さらに外部の電源との接続が遮断された状態がある時間以上経過したとき、炉心に装荷された燃料集合体の冷却水による冷却が不可能になり、炉心に装荷された燃料集合体に含まれた核燃料物質の溶融(炉心溶融)が生じ、燃料デブリが発生する。燃料デブリの回収作業を行うときには、燃料デブリが存在している位置を確認する必要がある。燃料デブリの存在位置を確認する方法としては、(a)線量分布の計測、及び(b)宇宙線に含まれるミューオンの利用等がある。
【0035】
線量分布の計測には、放射線検出器が用いられる。複数の予備のペネトレーション(図示せず)が原子炉格納容器27を貫通して原子炉格納容器27に設けられている(特開2013−113596号公報の図2参照)。これらの予備のペネトレーションは、原子炉格納容器27の高さ方向において異なる位置にそれぞれ設けられている。原子炉圧力容器13の下鏡部15付近に位置する予備のペネトレーション(鋼製のチューブ)、及び圧力抑制室30が配置された原子炉建屋32内のトーラス室(特開2013−113596号公報の段落0055参照)内に配置されて原子炉格納容器27のドライウェル29に達している配管を利用して、放射線検出器をドライウェル29内に挿入する。後者の配管は、ドライウェル29内で原子炉格納容器27の底部まで伸びている。各予備のペネトレーション、及びトーラス室内に配置された配管を通してドライウェル29内への放射線検出器の挿入は、例えば、特開2013−113596号公報の発明を実施するための形態の欄において実施例1または2に記載された方法で行われる。トーラス室内に配置されたその配管を通してドライウェル29内への放射線検出器の挿入には、可撓性のある、胃カメラの挿入部の先端部に取り付けられた放射線検出器を用いるとよい。さらに、ドライウェル29内に挿入される放射線検出器は放射線遮へい体で覆われており、この放射線遮へい体の先端部には放射線を放射線検出器に入射する開口部が形成される。開口部が形成された放射線遮へい体の先端部はコリメータとして機能する。
【0036】
原子炉圧力容器13の下鏡部15付近に位置する予備のペネトレーション、及び原子炉格納容器27内の底部に達する、トーラス室内に配置された配管のそれぞれを通してドライウェル29内に挿入された複数の放射線検出器によって、ドライウェル2内の線量が測定される。測定されたこれらの線量に基づいて原子炉格納容器27内の高さ方向の線量分布を得ることができ、この線量分布に基づいて燃料デブリの存在する場所を推定することができる。本実施例では、その線量分布において、原子炉圧力容器13の下鏡部15付近、及び原子炉格納容器27内の底部付近における線量が高くなった。このため、図2に示されるように、原子炉圧力容器13内で下鏡部15の内面上に燃料デブリ38が存在し、原子炉格納容器27内の底部に燃料デブリ39が存在することが確認された。
【0037】
(b)宇宙線に含まれるミューオンの利用では、燃料デブリを透過したミューオンのエネルギーを測定し、透過前と透過後のエネルギーの差によって燃料デブリの存在位置を確認する。
【0038】
原子炉格納容器の漏洩検査を実施する(ステップS2)。炉心17に装荷されている複数の燃料集合体18が前述した原因により溶融した沸騰水型原子力プラント11の原子炉格納容器27に漏洩箇所が存在するか否かを確認する検査を実施する。この検査は、例えば、原子炉格納容器27内に空気を供給し、空気が噴出する箇所が存在するか否かを確認することによって行われる。空気が噴出する箇所が原子炉格納容器27の漏洩箇所である。漏洩箇所を確認するために原子炉格納容器27内に空気を供給する場合には、例えば、乾燥ガス供給装置42が接続された供給配管3を、例えば、原子炉格納容器27を貫通して原子炉格納容器27に設けられている上記した予備のペネトレーションのうち、原子炉格納容器27の底部に近い位置に存在する予備のペネトレーションに接続する。開閉弁4を閉じて送風機45を駆動してドライウェル29に空気を供給し、原子炉格納容器27の漏洩箇所の有無及び漏洩箇所が存在する場合には漏洩箇所の位置を確認する。
【0039】
原子炉格納容器27内への空気の供給により原子炉格納容器27の漏洩箇所を確認する場合には、その漏洩箇所から外部に流出する空気に原子炉格納容器27内に存在する放射性物質が同伴する恐れがある。このため、原子炉格納容器27内の空気を吸引することによっても漏洩箇所を確認することができる。漏洩箇所を通して外部の空気が原子炉格納容器27内に流入するため、その漏洩箇所を確認することができる。原子炉格納容器27内の空気を吸引するため、漏洩箇所から放射性物質が外部に流出することを防ぐことができる。
【0040】
原子炉格納容器の漏洩検査は、原子炉圧力容器13及び原子炉格納容器27のそれぞれに接続された配管に設けられた各弁を閉じて行われる。これらの弁は、電源車(図示せず)で発生した電力を用いて閉じられる。このため、原子炉格納容器27内に供給された空気が、弁が開いている配管を通して流出することを避けることができ、その漏洩検査がしやすくなる。
【0041】
原子炉格納容器27に漏洩箇所が存在しない場合には、後述のステップS4の工程が実施される。原子炉格納容器27に漏洩箇所が存在する場合には、ステップS3の工程が実施される。
【0042】
原子炉格納容器の漏洩箇所を封鎖する(ステップS3)。フッ素ガスを、後述するように、原子炉格納容器及び原子炉圧力容器内に供給したとき、フッ素ガスが外部の環境に流出することを回避するために、ステップS1の検査工程で確認した原子炉格納容器27の漏洩箇所を封鎖する。この封鎖は、原子炉格納容器27の漏洩箇所を樹脂で封鎖する。この樹脂は、耐フッ素性及び耐放射線性に優れている特性を有する物質であることが望ましい。この特性を有する樹脂としては、例えば、塩化ビニル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂及びフッ素ゴムがあり、これらのいずれかの樹脂を、原子炉格納容器27の漏洩箇所を封鎖するために用いるとよい。
【0043】
核燃料物質回収装置を原子炉格納容器及び原子炉圧力容器に接続する(ステップS4)。ステップS2の原子炉格納容器27の漏洩検査開始前に予備のペネトレーションに接続された核燃料物質回収装置51の供給配管3以外の、核燃料物質回収装置51の供給配管3A及び排出配管7及び7Aを原子炉格納容器27及び原子炉圧力容器13に接続する。具体的には、揮発性フッ化物回収装置5及び排出配管46に接続された排出配管7を、原子炉格納容器27に設けられた予備のペネトレーションのうちできるだけ上方に位置している予備のペネトレーションに接続する。フッ素ガスボンベ2A及び供給配管4Aに接続された供給配管3Aは、原子炉圧力容器13に接続された配管、例えば、残留熱除去系配管(図示せず)に接続される。揮発性フッ化物回収装置5A及び排出配管46Aに接続された排出配管7Aは、原子炉格納容器27の外部で、原子炉圧力容器13に接続された主蒸気配管(図示せず)に接続される。開閉弁4,4A,8,8A,44,44A,47及び47Aは閉じている。供給配管3Aと残留熱除去系配管の接続点と原子炉圧力容器13の間で残留熱除去系配管に設けられた各弁は、電源車からの電力の供給により開けられる。これらの弁以外で残留熱除去系配管に設けられた弁、及び残留熱除去系配管に接続された配管に設けられた各弁は閉じている。また、排出配管7Aと主蒸気配管の接続点と原子炉圧力容器13の間で主蒸気配管に設けられた各弁(例えば、隔離弁)も、電源車からの電力の供給により開けられる。排出配管7Aと主蒸気配管の接続点よりも下流側で主蒸気配管に設けられた弁、排出配管7Aと主蒸気配管の接続点よりも下流側で主蒸気配管に接続された各配管に設けられた弁は閉じている。開閉弁4,4A,8,8A,44,44A,47及び47Aの開閉は、電源車から供給される電力よって行われる。
【0044】
なお、残留熱除去系配管の、供給配管3Aと残留熱除去系配管の接続点と原子炉圧力容器13の間に存在する部分、主蒸気配管の、排出配管7Aと主蒸気配管の接続点と原子炉圧力容器13の間の部分、及び原子炉格納容器27に取り付けられた各予備のペネトレーションは、ステップS2の漏洩検査によって漏洩箇所が存在しないことを確認済である。
【0045】
また、各排出管53の原子炉格納容器27への開口部が、モネル400で製作された封鎖部材を用いて封鎖される。この封鎖によって、圧力抑制室30内の圧力抑制プールの冷却水の蒸気がドライウェル29に流入することを防止することができる。さらに、ステップS6でドライウェル29に供給されたフッ素ガスが、排出管53、ヘッダー54及びベント管を通って圧力抑制プールの冷却水中に溶解することを防止することができ、そのフッ素ガスを後述するウラン及びプルトニウムのフッ化処理に効果的に使用できる。
【0046】
供給配管3及び排出配管7が原子炉格納容器27に接続され、供給配管3A及び排出配管7Aが原子炉圧力容器13に接続された状態で、フッ素ガスボンベ2及び2A、コールドトラップ6及び6A、送風機45及び45A、不純物除去装置49及び乾燥ガス処理装置50は、原子炉建屋32の外部に配置される。
【0047】
原子炉格納容器及び原子炉圧力容器内に対して乾燥作業を実施する(ステップS5)。開閉弁44を開けて乾燥ガス供給装置42の送風機45を駆動する。送風機45の駆動は、電源車からの電力を用いて行われる。このとき、開閉弁4及び8は閉じており、開閉弁47は開けられる。送風機45の駆動によって原子炉建屋32外の空気(乾燥ガス)が送風機45に流入し、送風機45で昇圧されたその空気が供給配管4及びを通って原子炉格納容器27内のドライウェル29に供給される。送風機45の駆動によって送風機45から排出される空気の温度がいくらかドライウェル29に流入した空気と接触する原子炉格納容器27の内面、ドライウェル29内に存在する配管及び機器の表面、さらには、原子炉格納容器27内の底部に存在する燃料デブリ39の表面が乾燥される。
【0048】
送風機45の駆動と共に、電源車の電力を用いて乾燥ガス供給装置42Aの送風機45Aを駆動する。原子炉建屋32外の空気(乾燥ガス)が送風機45Aで昇圧されて供給配管4A及びA及び残留熱除去系配管を通って原子炉圧力容器13内に供給される。このとき、開閉弁4A及び8Aは閉じており、開閉弁47Aは開けられる。送風機45Aによって供給された空気によって、原子炉圧力容器13の内面、及び原子炉圧力容器13内に存在する炉内構造物(炉心シュラウド16及び気水分離器21等)の表面及び燃料デブリ38の表面が乾燥される。原子炉圧力容器13内に供給される空気も、送風機45の駆動により温度がいくらか上昇する。
【0049】
原子炉建屋32外の空気は、湿分の含有量が少なく、一般的には、乾燥ガスである。開閉弁44の下流で供給配管4に、開閉弁44Aの下流で供給配管4Aに、湿分を凝縮して除去する冷却器、または除湿剤が充填された除湿塔をそれぞれ設置し、湿分がさらに低減された空気をドライウェル29、及び原子炉圧力容器13内に供給してもよい。
【0050】
ドライウェル29に供給された空気は、ドライウェル29内を上昇し、ドライウェル29内での乾燥作業において水分の蒸発によって生じた蒸気を含んで排出配管7に流出し、排出配管46を通って乾燥ガス処理装置50に導かれる。原子炉圧力容器13内に供給された空気は、原子炉圧力容器13内を上昇し、原子炉圧力容器13内での乾燥作業において水分の蒸発によって生じた蒸気を含んで主蒸気配管に流出し、排出配管7A及び46Aを通って乾燥ガス処理装置50に導かれる。乾燥ガス処理装置50では、排出配管46及び46Aで導かれた空気に含まれる蒸気及び放射性物質が除去される。これらが除去された空気は、外部に排出される。空気からの蒸気の除去は、空気を冷却器(図示せず)で冷却して蒸気を凝縮させることにより行われる。
【0051】
所定時間の間、空気がドライウェル29及び原子炉圧力容器13に供給されたとき、ステップS5の乾燥作業が終了する。
【0052】
フッ素ガスを原子炉格納容器及び原子炉圧力容器内に供給する(ステップS6)。送風機45及び45Aの駆動を停止し、開閉弁44,44A,47及び47Aを閉じる。開閉弁4,4A,8,8A,41及び41Aを開ける。フッ素ガスボンベ2内の高圧のフッ素ガスであるF2ガスが、供給配管3を通ってドライウェル29に供給される。フッ素ガスボンベ2は多数本存在しており、供給配管3に接続されて開閉弁4を有する枝管がそれぞれのフッ素ガスボンベ2に接続されている。ドライウェル29に到達したフッ素ガスは、デスタル25に形成された、保守点検のために制御棒駆動機構ハウジング24から取り外された制御棒駆動装置のペデスタル25外への搬送用の貫通孔を通してペデスタル25の内側に流入し、ペデスタル25内で原子炉格納容器27の底部に存在する燃料デブリ39の表面と接触する。燃料デブリ39に含まれているウラン及びプルトニウムがフッ素と反応してそれぞれのフッ化物である揮発性の六フッ化ウラン(UF6)及び六フッ化プルトニウム(PuF6)が生成される。燃料デブリ39の温度は、溶融しない程度に高くなっているため、ウラン及びプルトニウムがフッ素と反応が促進される。
【0053】
燃料デブリ39に含まれる、ウラン及びプルトニウム以外の大部分の元素は、燃料デブリ39とフッ素ガスの接触により、フッ化物を生成しないか、不揮発性のフッ化物になるため、ペデスタル25内で原子炉格納容器27の底部にとどまっている。しかし、燃料デブリ39に含まれる、炉内構造物の成分である炭素及びケイ素、及び中性子吸収材であるホウ素のそれぞれは、フッ素ガスと接触することによって、UF6及びPuF6よりも揮発性の高いフッ化物になる。
【0054】
フッ素ガスボンベ2A内の高圧のフッ素ガスであるF2ガスが、供給配管3A及び残留熱除去系配管を通って原子炉圧力容器13内に供給される。フッ素ガスボンベ2Aも多数本存在しており、供給配管3Aに接続されて開閉弁4Aを有する枝管がそれぞれのフッ素ガスボンベ2Aに接続されている。原子炉圧力容器13内に到達したフッ素ガスは、原子炉圧力容器13の炉底部に達して、原子炉圧力容器13内で下鏡部15の内面上に存在する燃料デブリ38の表面と接触する。燃料デブリ38に含まれているウラン及びプルトニウムがフッ素と反応してそれぞれのフッ化物である揮発性のUF6及びPuF6が生成される。燃料デブリ38とフッ素ガスとの接触によっても、燃料デブリ38に含まれた炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物が生成される。ドライウェル29、及び原子炉圧力容器13内に供給されるフッ素ガスとして、F2ガスの代りにHFガスを用いてもよい。
【0055】
ウランフッ化物及びプルトニウムフッ化物が回収される(ステップS7)。
【0056】
コールドトラップ6及び6Aのそれぞれが、液体窒素等の冷媒を用いて−70℃程度に冷却され、この温度に保持されている。フッ素ガスとの接触により燃料デブリ39から生成された揮発性のUF6及びPuF6は、ドライウェル29内を上昇し、排出配管7を通ってコールドトラップ6に供給される。UF6及びPuF6のそれぞれは、−70℃程度に冷却されたコールドトラップ6内で冷却されて固体になり、コールドトラップ6内に捕捉される。
【0057】
燃料デブリ39とフッ素ガスとの接触により生成された炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物、及びドライウェル29内の未反応のフッ素ガスは、UF6及びPuF6と共に、コールドトラップ6に導かれる。炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物及びフッ素ガスは、−70℃程度では固体にならなく、気体のまま、排出配管40を通って不純物除去装置49に導かれる。不純物除去装置49は、内部に、不純物である高揮発性のフッ化物(炭素、ケイ素及びホウ素等のそれぞれのフッ化物)を吸着する吸着材層を有する。不純物除去装置49に流入した不純物である高揮発性のフッ化物(炭素、ケイ素及びホウ素等のそれぞれのフッ化物)は、不純物除去装置49内の吸着材層に含まれる吸着材に吸着されて除去される。不純物が除去されて残ったフッ素ガスは、不純物除去装置49から回収されてドライウェル29、及び原子炉圧力容器13内に供給されるフッ素ガスとして再利用される。高揮発性のフッ化物を吸着した吸着材は、その高揮発性のフッ化物と共に適切に処分される。
【0058】
フッ素ガスとの接触により燃料デブリ38から生成された揮発性のUF6及びPuF6は、原子炉圧力容器13内を上昇し、主蒸気配管及び排出配管7Aを通ってコールドトラップ6Aに供給される。UF6及びPuF6のそれぞれは、−70℃程度に冷却されたコールドトラップ6A内で冷却されて固体になり、コールドトラップ6A内に捕捉される。
【0059】
複数のコールドトラップ6が、並列に、排出配管7に接続され、不純物除去装置49に接続される排出配管40が各コールドトラップ6に接続される。1つのコールドトラップ6が捕捉した固体のUF6及びPuF6で一杯になったとき、開閉弁を切り替えて別のコールドトラップ6に、ドライウェル29から排出されたUF6及びPuF6が供給される。複数のコールドトラップ6Aが、並列に、排出配管7Aに接続され、不純物除去装置49に接続される排出配管40Aが各コールドトラップ6Aに接続される。1つのコールドトラップ6Aが捕捉した固体のUF6及びPuF6で一杯になったとき、開閉弁を切り替えて別のコールドトラップ6Aに、原子炉圧力容器13から排出されたUF6及びPuF6が供給される。
【0060】
燃料デブリ38とフッ素ガスとの接触により生成された炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物、及び原子炉圧力容器13内の未反応のフッ素ガスは、UF6及びPuF6と共に、コールドトラップ6Aに導かれる。炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物(不純物の揮発性フッ化物)及びフッ素ガスは、気体のまま、排出配管40Aを通って不純物除去装置49に導かれ、内部に存在する吸着材層に含まれる吸着材に吸着されて除去される。排出配管40Aによって供給されたフッ素ガスも、不純物除去装置49から回収されてドライウェル29、及び原子炉圧力容器13内に供給されるフッ素ガスとして再利用される。
【0061】
フッ素ガスが内部に供給される原子炉格納容器27は、フッ素ガス及び放射性核種の外部環境への飛散を避けるためにも、フッ素ガスによる腐食を避ける必要がある。温度を低くすることによって原子炉格納容器27の腐食を避けることができる。このため、特開2012−233700号公報に記載されているように、冷却水を、生体遮へい壁52と原子炉格納容器27の間に形成された環状の隙間の上端部からその環状の隙間に供給し、原子炉格納容器27の外面に沿ってその環状の隙間を下方に向かって流下させる。冷却水を管状の隙間に供給する位置は、原子炉ウェル34、原子炉格納容器27及び原子炉圧力容器13の間をシールしている原子炉ウェルシール装置(図示せず)のちょうど下側あたりである。原子炉ウェルシール装置は、原子炉ウェル34と原子炉格納容器27の間、及び原子炉格納容器27と原子炉圧力容器13の間で、それぞれ、原子炉ウェル34の底面を形成している。原子炉ウェル34にも冷却水が充填される。この冷却水によって、原子炉格納容器27に取り付けられたヘッド28が冷却される。この結果、原子炉格納容器27及びヘッド28のフッ素ガスによる腐食が防止でき、原子炉格納容器27及びヘッド28の、フッ素ガスを閉じ込める機能を維持することができる。さらに、内面がフッ素ガスと接触する、供給配管3Aが接続された残留熱除去系配管及び排出配管7Aが接続された主蒸気配管も、フッ素ガスによる腐食を防止するために、それらの外面を冷却する。さらには、残留熱除去系配管及び主蒸気配管のそれぞれに設けられて内部にフッ素ガスに接触する各弁、及び残留熱除去系配管及び主蒸気配管のそれぞれに接続された各配管に設けられた弁で残留熱除去系配管または主蒸気配管内のフッ素ガスに接触する弁も、フッ素ガスによる腐食を防止するために、それらの外面を冷却する。
【0062】
上記した原子炉格納容器27等の冷却は、少なくとも、原子炉圧力容器13内、及びドライウェル29にフッ素ガスが存在する期間(少なくともステップS6及びS7の各工程を実施する期間)において行われる。
【0063】
本実施例によれば、ドライウェル29内及び原子炉圧力容器13内にそれぞれフッ素ガスを供給することにより、原子炉格納容器27の底部及び原子炉圧力容器13内で下鏡部15の上面のそれぞれに落下した燃料デブリ38に含まれているウラン及びプルトニウムがそのフッ素ガスと反応して揮発性のUF6及びPuF6を生成することができ、これらの揮発性のガスを原子炉圧力容器13及び原子炉格納容器27から容易に取り出すことができる。また、コールドトラップ6及び6A内で揮発性のUF6及びPuF6を冷却して固化するため、ウラン及びプルトニウムの回収が容易である。本実施例では、ドライウェル29内及び原子炉圧力容器13内にそれぞれ存在する燃料デブリに含まれているウラン及びプルトニウムとフッ素ガスを反応させるため、燃料デブリ38及び39を機械的に切断して原子炉格納容器27の外部に取り出す必要がなく、特開2014−29319号公報に記載された燃料デブリのハロゲン化処理よりも溶融した核燃料物質の回収に要する時間を短縮することができる。
【0064】
本実施例では、原子炉格納容器27に対して漏洩検査を実施するため、原子炉格納容器27の漏洩の有無を把握することができる。また、原子炉格納容器27に漏えい個所が存在する場合には、原子炉格納容器27の漏洩箇所を塞いだ後に、原子炉格納容器27内にフッ素ガスを供給するため、原子炉格納容器27の外部へのフッ素ガスが流出を避けることができ、フッ素ガスによる原子炉格納容器27内に存在する燃料デブリ39、及び原子炉格納容器27内で原子炉圧力容器13内に存在する燃料デブリ38にそれぞれ含まれているウラン及びプルトニウムのフッ化物化を効果的に行うことができる。
【0065】
本実施例では、燃料デブリ38及び39にフッ素ガスを接触させて燃料デブリに含まれるウラン及びプルトニウムとフッ素ガスを反応させる前に、原子炉圧力容器13内及びドライウェル29にそれぞれ空気を供給して燃料デブリ38及び39の表面、及び原子炉圧力容器13及びドライウェル29内の雰囲気に存在する湿分を除去するために、燃料デブリ38及び39のそれぞれに含まれたウラン及びプルトニウムとフッ素ガスとの反応効率を高めることができる。それだけ早く揮発性のUF6及びPuF6を生成することができ、燃料デブリ38及び39のそれぞれに含まれたウラン及びプルトニウムの回収時間を短縮できる。
【0066】
フッ素ガスとの反応により生成されたUF6及びPuF6を低温に保持したコールドトラップ6及び6Aで回収するため、UF6及びPuF6を不純物から容易に分離することができ、不純物の含有量が少ないウラン及びプルトニウムを回収することができる。
【0067】
炉心溶融が発生したときにおける燃料デブリの存在位置は、解析によって推定することができる。この解析によって、燃料デブリが原子炉圧力容器13の下鏡部15上及びペデスタル25の内側で原子炉格納容器27の底部に落下したことが推定されたとき、燃料デブリの存在位置の確認(ステップS1)を行わずに、安全性の観点から原子炉圧力容器13及び原子炉格納容器27を対象に、図1に示すステップS2以降の各工程を実施してもよい。
【実施例2】
【0068】
本発明の好適な他の実施例である実施例2の核燃料物質の回収方法を、図1及び図2を用いて説明する。
【0069】
本実施例の核燃料物質の回収方法では、実施例1と同様に、ステップS1〜S7の各工程が実施される。本実施例の核燃料物質の回収方法は、ステップS1で燃料デブリが原子炉圧力容器13外で原子炉格納容器27内に存在しなく、燃料デブリが原子炉圧力容器13内に存在することが確認された場合における核燃料物質の回収方法である。この場合には、本質的には、実施例1で実施される原子炉格納容器27の漏洩検査(ステップS2)、及び原子炉格納容器27に漏洩箇所が存在する場合におけるこの漏洩箇所の封鎖(ステップS3)を実施する必要はない。しかしながら、万が一、原子炉圧力容器13からフッ素ガスが漏洩した場合におけるフッ素ガスを閉じ込めるバウンダリーを確保するためにも、ステップS2及びS3の各工程は実施することが望ましい(ただし、ステップS3の工程はステップS2で漏洩箇所が見つかった時に実施)。
【0070】
本実施例では、ステップS4において核燃料物質回収装置51の供給配管3A及び排出配管7Aが、実施例1と同様に、原子炉圧力容器13に接続される。核燃料物質回収装置51の供給配管3及び排出配管7は、原子炉格納容器27に接続されない。
【0071】
ステップS5では、乾燥ガス供給装置42Aの送風機45Aが駆動され、原子炉建屋32の外部の空気が原子炉圧力容器13内に供給される。燃料デブリ38の表面、及び原子炉圧力容器13内の雰囲気に接触する炉内構造物の表面及び原子炉圧力容器13の内面から湿分が除去され、それらが乾燥される。原子炉圧力容器13から排出配管7Aに排出された空気は、乾燥ガス処理装置50に導かれ、実施例1と同様に、乾燥ガス処理装置50によって処理される。
【0072】
ステップS6では、フッ素ガスが、フッ素ガス供給装置1Aのフッ素ガスボンベ2Aから供給配管Aを通して原子炉圧力容器13内に供給される。フッ素ガスが燃料デブリ38と接触してUF6及びPuF6が生成される。
【0073】
ステップS7において、原子炉圧力容器13内で生成されたUF6及びPuF6が、実施例1と同様に、コールドトラップ6Aで捕捉される。及び燃料デブリ38とフッ素ガスとの接触により生成された炭素、ケイ素及びホウ素のそれぞれのフッ化物は、不純物除去装置49で除去され、未反応のフッ素ガスは回収されて再利用される。
【0074】
本実施例は、実施例1で得られる各効果を得ることができる。本実施例では、核燃料物質回収装置51の供給配管3及び排出配管7を原子炉格納容器27に接続する必要がないため、燃料デブリ38に含まれているウラン及びプルトニウムの回収に要する時間が、実施例1よりもさらに短縮される。
【0075】
実施例1と同様に、燃料デブリの存在位置を解析によって推定することができる。この解析によって燃料デブリが原子炉圧力容器13の下鏡部15上に存在し、原子炉格納容器27の底部に落下していないと推定されたときには、燃料デブリの存在位置の確認(ステップS1)を行わずに、原子炉圧力容器13を対象に、図1に示すステップS4以降の各工程を上記したように実施してもよい。
【0076】
実施例1及び実施例2は、炉心溶融が発生した加圧水型原子力発電プラントを対象にした、燃料デブリからのウラン及びプルトニウムの回収に適用することができる。
【符号の説明】
【0077】
1,1A…フッ素ガス供給装置、2,2A…フッ素ガスボンベ、5,5A…揮発性フッ化物回収装置、6,6A…コールドトラップ、12…原子炉、13…原子炉圧力容器、15…下鏡部、16…炉心シュラウド、17…炉心、18…燃料集合体、27…原子炉格納容器、29…ドライウェル、30…圧力抑制室、35…ペデスタル、38,39…燃料デブリ、42,42A…乾燥ガス供給装置、49…不純物除去装置、50…乾燥ガス処理装置、51…核燃料物質回収装置。
図1
図2