(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
非接触で互いに噛み合う雄雌一対のスクリュロータと、
前記スクリュロータが収容されるロータ室を有するケーシングと、
前記スクリュロータの回転軸を支持する軸受と、
前記軸受側に配置されるオイルシール部と、前記ロータ室側に配置されるエアシール部とを有して前記回転軸を軸封する軸封装置と、
前記ケーシングに形成された大気開放孔と、
前記オイルシール部と前記エアシール部との間に位置するように前記軸封装置に形成された少なくとも1つの連通孔と、
前記大気開放孔と前記少なくとも1つの連通孔とを連通する環状空間と、を備え、
前記環状空間が、前記ケーシングの内周側において環状に形成される内周環状空間を備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記内周環状空間の開口断面積をS1とし、前記連通孔の総開口断面積をS2とし、前記連通孔のうちのi番目の開口断面積をS2i、前記連通孔の個数をn(nは1以上の自然数)とするとき、以下の関係を満たすように構成され
、
前記環状空間が、前記軸封装置の外周側において前記内周環状空間に対向配置されるとともに、前記連通孔よりも前記回転軸の軸線方向に幅広である外周環状空間をさらに備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記外周環状空間の開口断面積をS3とするとき、以下の関係を満たすように構成され、
前記ケーシングが鋳物で作られて、
前記回転軸の軸線方向における前記内周環状空間の開口部の幅が、前記回転軸の軸線方向における前記外周環状空間の開口部の幅よりも、鋳物の製造公差を考慮した分だけ大きい、オイルフリースクリュ圧縮機。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に開示された無給油式スクリュ圧縮機では、エアシールとビスコシールとの間に形成されたシールボックス部又はシールボックスの連通孔が、ケーシングに形成された大気開放孔に連通している。これにより潤滑油がロータ室に流入するのを防止している。また、特許文献2に開示されたオイルフリースクリュ圧縮機では、固定式ねじシールとガス用軸封装置との間に設けられた複数の小孔が、ケーシングの大気開放孔に連通している。上記2つの特許文献における大気開放孔や連通孔及び小孔は、いずれも、アンロード運転時にロータ室が負圧になった場合、潤滑油がロータ室に流入するのを防止するために設けられている。
【0007】
しかしながら、特許文献1では、溝形状の環状空間が、軸封装置の外周面に形成されており、当該環状空間での開口断面積が小さいと、圧力損失を生じてしまう。また、特許文献1では、Oリングが軸封装置のエアシール及びビスコシールの両方に配設されていて、当該2つのOリングの間には連通孔及び溝形状の環状空間が形成されている。当該構成では、軸封装置における軸線方向のスペースが2つのOリングによって制約されるため、軸線方向における環状空間の幅を適切に確保することが困難である。したがって、特許文献1に開示された軸封装置に形成された環状空間によって、圧力損失の低減に対して適切に対処することが困難である。
【0008】
また、特許文献2においても、特許文献1と同様に、軸部の外周面に形成された環状空間が開示されている。特許文献2において固定式ねじシールを図示する断面図では、複数の連通孔が固定式ねじシールに形成されいる。図示された固定式ねじシールでは、1つの連通孔の開口断面積が環状空間の開口断面積と同程度の大きさを有するとともに、当該連通孔が複数個形成されている。このことから、連通孔の総開口断面積は、環状空間の開口断面積よりも、おおよそ連通孔の個数分大きくなる。したがって、特許文献2においても、複数の連通孔のところよりも、環状空間のところで、大きな圧力損失が生じてしまう。
【0009】
このように、特許文献1,2のいずれにおいても、大きな圧力損失が、大気開放孔と連通孔とを連通する環状空間のところで生じることによって、アンロード運転時におけるロータ室への潤滑油の流入防止作用が十分に機能しない恐れがある。それにもかかわらず、特許文献1,2のいずれもが、この点について特段の考慮をしていない。
【0010】
したがって、この発明の解決すべき技術的課題は、大気開放孔と連通孔とを連通する環状空間での圧力損失をできるだけ小さくして、アンロード運転時における潤滑油の流入を防止する、オイルフリースクリュ圧縮機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記技術的課題を解決するために、この発明によれば、以下のオイルフリースクリュ圧縮機が提供される。
【0012】
すなわち、
非接触で互いに噛み合う雄雌一対のスクリュロータと、
前記スクリュロータが収容されるロータ室を有するケーシングと、
前記スクリュロータの回転軸を支持する軸受と、
前記軸受側に配置されるオイルシール部と、前記ロータ室側に配置されるエアシール部とを有して前記回転軸を軸封する軸封装置と、
前記ケーシングに形成された大気開放孔と、
前記オイルシール部と前記エアシール部との間に位置するように前記軸封装置に形成された少なくとも1つの連通孔と、
前記大気開放孔と前記少なくとも1つの連通孔とを連通する環状空間と、を備え、
前記環状空間が、前記ケーシングの内周側において環状に形成される内周環状空間を備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記内周環状空間の開口断面積をS1とし、前記連通孔の総開口断面積をS2とし、前記連通孔のうちのi番目の開口断面積をS2i、前記連通孔の個数をn(nは1以上の自然数)とするとき、以下の関係を満たすように構成され
、
前記環状空間が、前記軸封装置の外周側において前記内周環状空間に対向配置されるとともに、前記連通孔よりも前記回転軸の軸線方向に幅広である外周環状空間をさらに備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記外周環状空間の開口断面積をS3とするとき、以下の関係を満たすように構成され、
前記ケーシングが鋳物で作られて、
前記回転軸の軸線方向における前記内周環状空間の開口部の幅が、前記回転軸の軸線方向における前記外周環状空間の開口部の幅よりも、鋳物の製造公差を考慮した分だけ大きい、ことを特徴とする。
【0013】
上記構成によれば、環状空間としての内周環状空間がケーシング側に形成されることで、回転軸の軸線方向における内周環状空間の開口部の幅を確保することについての制約が緩和される。そして、環状空間が軸封装置側に形成される場合よりも、内周環状空間の開口断面積S1を大きくすることができる。その結果、次の関係を満たすことが容易になる。
そして、環状空間での圧力損失を低減させることができ、アンロード運転時において潤滑油の流入を防止することができる。
また、この発明によれば、以下のオイルフリースクリュ圧縮機が提供される。
すなわち、
非接触で互いに噛み合う雄雌一対のスクリュロータと、
前記スクリュロータが収容されるロータ室を有するケーシングと、
前記スクリュロータの回転軸を支持する軸受と、
前記軸受側に配置されるオイルシール部と、前記ロータ室側に配置されるエアシール部とを有して前記回転軸を軸封する軸封装置と、
前記ケーシングに形成された大気開放孔と、
前記オイルシール部と前記エアシール部との間に位置するように前記軸封装置に形成された少なくとも1つの連通孔と、
前記大気開放孔と前記少なくとも1つの連通孔とを連通する環状空間と、を備え、
前記環状空間が、前記ケーシングの内周側において環状に形成される内周環状空間を備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記内周環状空間の開口断面積をS1とし、前記連通孔の総開口断面積をS2とし、前記連通孔のうちのi番目の開口断面積をS2i、前記連通孔の個数をn(nは1以上の自然数)とするとき、以下の関係を満たすように構成され、
前記ケーシングが鋳物で作られて、
前記回転軸の軸線方向における前記内周環状空間の開口部の幅が、前記連通孔の開口径よりも、鋳物の製造公差を考慮した分だけ大きい、ことを特徴とする。
さらに、この発明によれば、以下のオイルフリースクリュ圧縮機が提供される。
すなわち、
非接触で互いに噛み合う雄雌一対のスクリュロータと、
前記スクリュロータが収容されるロータ室を有するケーシングと、
前記スクリュロータの回転軸を支持する軸受と、
前記軸受側に配置されるオイルシール部と、前記ロータ室側に配置されるエアシール部とを有して前記回転軸を軸封する軸封装置と、
前記ケーシングに形成された大気開放孔と、
前記オイルシール部と前記エアシール部との間に位置するように前記軸封装置に形成された少なくとも1つの連通孔と、
前記大気開放孔と前記少なくとも1つの連通孔とを連通する環状空間と、を備え、
前記環状空間が、前記ケーシングの内周側において環状に形成される内周環状空間を備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面における前記内周環状空間の開口断面積をS1とし、前記連通孔の総開口断面積をS2とし、前記連通孔のうちのi番目の開口断面積をS2i、前記連通孔の個数をn(nは1以上の自然数)とするとき、以下の関係を満たすように構成され、
前記ケーシングが鋳物で作られて、
前記内周環状空間が、内周環状溝と、前記回転軸の軸線方向における前記内周環状溝の両端側に形成された先細のテーパー状拡張部とを備え、
前記回転軸の軸線方向に沿って切断した部分断面において、前記内周環状溝が略半円形状をしていることを特徴とする。
【発明を実施するための形態】
【0015】
この発明の第1実施形態に係るオイルフリースクリュ圧縮機1について、
図1乃至3を参照しながら説明する。まず、第1実施形態に係るオイルフリースクリュ圧縮機1の概略構成について、
図1を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
オイルフリースクリュ圧縮機1では、雄雌咬合する一対のスクリュロータ16が、ケーシング12に形成されたロータ室15内に収容されている。ケーシング12は、例えば、ケーシング本体、吐出側ケーシング部及び吸込側ケーシング部によって構成することができる。
【0017】
ケーシング12は、ロータ室15に圧縮対象の空気を供給する吸込口17と、ロータ室15内でスクリュロータ16によって圧縮された圧縮空気を排出する吐出口18とを、備えている。スクリュロータ16の吐出側及び吸込側の各端部には、回転軸21がそれぞれ設けられている。吐出側及び吸込側における回転軸21の各端部には、駆動ギア28及びタイミングギア27が分かれて取り付けられている。図示しないモータの回転駆動力は、駆動ギア28を介して一方のスクリュロータ16に伝達され、一方のスクリュロータ16に伝達された回転駆動力は、タイミングギア27を介して他方のスクリュロータ16に伝達される。一対のスクリュロータ16が非接触状態で互いに噛み合って回転することにより、空気が吸込口17から吸い込まれる。吸込口17から吸い込まれた空気は、所定の圧力まで圧縮され、圧縮空気が吐出口18から吐出される。
【0018】
ケーシング12の吐出側には、吐出側の軸封装置装填空間10が形成されている。吐出側の軸封装置装填空間10には、吐出側の回転軸21を回転可能に支持する玉軸受(2列のアンギュラ玉軸受)19及び軸受(ローラ軸受)22と、吐出側の軸封装置20とが装填される。ケーシング12の吸込側においても、吸込側の軸封装置装填空間10が形成されている。吸込側の軸封装置装填空間10には、吸込側の回転軸21を回転可能に支持する軸受(ローラ軸受)22と、吸込側の軸封装置20とが装填される。
【0019】
ケーシング12の外側(大気側)及び内周側をつないで大気に連通する大気開放孔24aが、ケーシング12に設けられている。また、軸受19,22やタイミングギア27に潤滑油を供給するためのオイル供給孔26が、ケーシング12に設けられている。
【0020】
吐出側及び吸込側の軸封装置装填空間10のそれぞれに装填される軸封装置20は、ロータ室15に関して、実質的に対称に構成されている。以下、
図2及び3を参照しながら、吐出側の軸封装置20及びその周辺部について詳細に説明する。
【0021】
図2は、
図1に示したオイルフリースクリュ圧縮機1での吐出側の軸封装置20及びその周辺部を示す部分断面図である。
【0022】
軸受22側からロータ室15側に向けて順に、軸受22と、潤滑油をシールする第1軸封部30と、圧縮空気をシールする第2軸封部40とが、軸封装置装填空間10に装填されている。軸封装置装填空間10に装填された軸受22での反ロータ室15側の端部が、ストッパ29によって規制されている。なお、第1軸封部30及び第2軸封部40が、後述する嵌合構造によって一体的に連結されることにより、軸封装置20が構成される。
【0023】
軸封装置20が軸封装置装填空間10に対して容易に着脱自在に組み付けられるように、軸封装置装填空間10と軸封装置20との間には、すき間ばめ(JIS B 0401)よりも大きめのクリアランスが設けられている。大きめのクリアランスを設けると軸封能力が犠牲になるため、オイルシール31とケーシング12との間及びパッキンケース41とケーシング12との間には、それぞれ、Oリング35,46が配設されている。当然のことながら、Oリング35,46による軸封能力を発揮し得る範囲で、クリアランスの寸法が設定されている。好ましくは、Oリング35,46は、それぞれ、オイルシール31の凹部(環状の溝)34と、パッキンケース41の凹部(環状の溝)45と、に分かれて配設されている。オイルシール31の凹部(環状の溝)34と、パッキンケース41の凹部(環状の溝)45とは、それぞれ、オイルシール31及びパッキンケース41の外周面において周方向に沿って形成されている。オイルシール31のOリング35とパッキンケース41のOリング46とによって、ケーシング12と第1軸封部30及び第2軸封部40との間での圧縮空気の漏洩をそれぞれ防止することができる。
【0024】
ケーシング12における、Oリング35に対応する位置とOリング46に対応する位置との間であって、オイルシール31に対向する部分には、大気開放孔24aが形成されている。大気開放孔24aは、ケーシング12を貫通して、軸封装置装填空間10とケーシング12の外側(大気側)とを連通する。
【0025】
第1軸封部30は、オイルシール部32を有する非接触のオイルシール31である。オイルシール部32は、例えば、オイルシール31の内周面に螺旋状の溝が形成されたビスコシール32である。ビスコシール32は、回転軸21の回転で、ビスコシール32の内周面と回転軸21の外周面との間にある空気の粘性によってポンプ作用を生じる。ポンプ作用で潤滑油が軸受22の方に押しやられることによって、ロータ室15方向への潤滑油の流出が防止される。なお、ビスコシール32の螺旋状の溝は、図示されていない。ビスコシール32の螺旋状の溝が、オイルシール31の内周面に形成されるため、オイルシール31は切削のしやすい金属材料からできている。
【0026】
オイルシール31のロータ室15側の端部36には、ロータ室15側に向けて突出する円筒形状の外周面を有する嵌合凸端部33が形成されている。嵌合凸端部33は、後述するパッキンケース41の嵌合凹端部44に対して、締まりばめ(JIS B 0401)又は中間ばめ(JIS B 0401)によって嵌合するように構成されている。オイルシール31及びパッキンケース41は、嵌合構造によって一体的に連結されている。嵌合凹端部44と嵌合凸端部33との隙間が、非常に小さくて実質的には無いように構成されているので、当該隙間からの圧縮空気の漏洩が防止される。
【0027】
第2軸封部40は、軸受22側に配置された第1エアシール40Aと、ロータ室15側に配置された第2エアシール40Bと、を備える。
【0028】
第1エアシール40Aは、パッキンケース41と、非接触のシールリング42と、弾性体43と、から構成されている。パッキンケース41のロータ室15側の端部には、径方向内側に突出した突出部49が形成されている。オイルシール31の端部36とパッキンケース41の突出部49との間の空間には、円筒形状のシールリング収容空間48が形成されている。シールリング収容空間48には、弾性体43と、該弾性体43によって回転軸21の軸線方向(本実施形態においては、軸受22の方向)に付勢されて支持されるシールリング42とが、収容されている。シールリング42は、その内径が回転軸21の外径よりも僅かに大きいように寸法構成されている。そして、シールリング42は、例えば、回転軸21と同じ材質(例えばステンレス鋼)を母材にして、母材の表面に摩擦係数の小さい皮膜をコーティングしたものを用いることができる。弾性体43は、金属製の弾性部材(例えば、波形ばね、波形ワッシャ又は圧縮コイルばね等)である。
【0029】
弾性体43によって弾性的に支持されたシールリング42は、回転軸21が撓んだ場合でも、径方向に移動することができる。シールリング42の内周面と、回転軸21の外周面との間には、第2軸封部40の第1エアシール部61が形成される。圧縮空気が第1エアシール部61の微小隙間を通過しようとするときに大きな圧力損失が生じることによって、圧縮空気の漏洩を抑制することができる。
【0030】
第1エアシール40Aのロータ室15側には、第2エアシール40Bが配置されている。第2エアシール40Bは、非接触のシールリング52と弾性体53とから構成されている。ケーシング12における軸封装置装填空間10のロータ室15側の端部には、ガスシール収容空間58が形成されている。ガスシール収容空間58には、弾性体43と、該弾性体53によって回転軸21の軸線方向(本実施形態においては、軸受22の方向)に付勢されて支持されるシールリング52とが、収容されている。ガスシール収容空間58は、第1エアシール40Aよりも小さな内径寸法を有する円筒形状をしている。
【0031】
シールリング52も径方向に移動することができ、シールリング52の内周面と、回転軸21の外周面との間には、第2エアシール部62が形成される。そして、圧縮空気が第2エアシール部62の微小隙間を通過しようとするときに大きな圧力損失が生じることによって、圧縮空気の漏洩を抑制することができる。
【0032】
第2軸封部40が第1エアシール40Aに加えて第2エアシール40Bを備えることにより、第2軸封部40の軸封能力が向上する。第1エアシール40A及び第2エアシール40Bにおいて、シールリング42,52及び弾性体43,53をそれぞれ共有化することによって、低コスト化を図ることができる。
【0033】
次に、
図3を参照しながら、大気開放孔24aと連通孔31aとを連通する内周環状空間24gを説明する。
【0034】
ケーシング12の内周側には、内周環状溝24bが、大気開放孔24aの内側端部と重なるように形成されている。内周環状溝24bは、内周環状空間24gの一部を構成する。内周環状溝24bは、ケーシング12の内周面において周方向に沿って形成された環状の溝である。内周環状溝24bは、例えば、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面において、略半円形状をしている。
【0035】
回転軸21の軸線方向における内周環状溝24bのロータ室15側及び軸受22側には、それぞれ、ロータ室15側及び軸受22側のテーパー状拡張部24c(以下、単に、両側のテーパー状拡張部24cという。)が形成されている。両側のテーパー状拡張部24cは、回転軸21の軸線方向における内周環状溝24bの両端部を、C面又はR面に面取りすることによって形成される。両側のテーパー状拡張部24cにおいては、各端部が、ロータ室15側及び軸受22側に向けて先細に張り出している。C面で面取りされた両側のテーパー状拡張部24cは、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面において、略直角三角形状をしている。
図3では、内周環状溝24bと、両側のテーパー状拡張部24cとを備える内周環状空間24gが、ケーシング12に形成されている。第1実施形態に係る環状空間25は、内周環状空間24gによって構成される。軸封装置20を周方向で取り囲む空間(特許請求の範囲に記載の「環状空間」に対応)25である内周環状空間24gは、大気開放孔24aに連通して、大気開放されている。
【0036】
オイルシール31の凹部34とパッキンケース41の凹部45とにそれぞれ配設されたOリング35,46の突出高さを考慮して、両側のテーパー状拡張部24cが寸法構成される。すなわち、軸封装置20が軸封装置装填空間10に着脱される際に、軸封装置20の凹部34,45に配設されたOリング35,46に損傷を与えないように、両側のテーパー状拡張部24cが寸法構成される。回転軸21の軸線方向に対する、C面で面取りされた両側のテーパー状拡張部24cの傾斜面の傾斜角度θは、例えば、30度乃至45度に設定される。軸封装置20の外周面に対する、C面で面取りされた両側のテーパー状拡張部24cの高さHは、例えば、1mm以上に設定される。
【0037】
他方、軸封装置20のオイルシール31には、少なくとも1つ(通常、複数個)の連通孔31aが形成されている。当該連通孔31aは、オイルシール31を径方向に貫通している。また、当該連通孔31aは、形状を限定しないが、例えば連通孔31aの長さ直交方向の開口断面が円形である丸穴である。この発明を限定しない連通孔31aは、例えば、4つが90度の角度で等しく配置されている。
【0038】
各連通孔31aは、ケーシング12に形成された内周環状空間24gを介して、大気開放孔24aと連通している。したがって、軸封装置20側の連通孔31aと、ケーシング12側の内周環状空間24g及び大気開放孔24aとは、大気に連通していて、大気開放通路24を構成する。
【0039】
また、
図2及び3に示すように、第1軸封部30のビスコシール32と第2軸封部40のシールリング42との間の回転軸21の軸線方向の間隙には、エアシール部60の回転軸直交方向の軸封断面積よりも流路断面積の広い通気間隙50が配設されている。各連通孔31aと連通している通気間隙50は、大気開放された大気開放通路24と連通している。したがって、通気間隙50は、大気開放通路24を通じて大気開放されている。
【0040】
ケーシング12が鋳物で製造される場合、鋳物による公差が考慮される。その場合、
図3に示すように、回転軸21の軸線方向において、内周環状溝24bと両側のテーパー状拡張部24cとを足し合わせた幅(すなわち内周環状空間24gの開口部の幅)L1は、連通孔31aの開口径D2に対して大きめの所定サイズに寸法構成される。鋳物による公差を考慮して、回転軸21の軸線方向における、内周環状空間24gの幅L1は、連通孔31aの開口径D2よりも、例えば、3mm以上大きめに設定される。ケーシング12を鋳物で製造したときに、設計範囲の公差が発生しても、回転軸21の軸線方向において、各連通孔31aが内周環状空間24gに必ず重なり合って、回転軸21の軸線方向のズレを吸収することができる。そして、ケーシング12側の内周環状空間24gと、軸封装置20側の各連通孔31aとが確実に連通することができる。ケーシング12が鋳物で製造される場合、大気開放孔24aは鋳抜き穴を用いることができるが、機械加工によって形成することもできる。略半円形状の内周環状溝24bは、鋳物によってケーシング12を製造するときに同時に形成することができ、内周環状溝24bを作るための工数を削減することができる。
【0041】
ところで、アンロード運転時では、ロータ室15内が負圧になる。当該負圧は、回転軸21の外周面と軸封装置20の内周面との間に形成される間隙を通じて、軸受22における潤滑油をロータ室15内に引き寄せる働きをする。これに対して、大気開放された大気開放通路24及び通気間隙50の配設によって、軸受22における潤滑油がロータ室15内に流入することを防止しようとしている。しかしながら、アンロード運転時に大気開放通路24で生じる圧力損失によって、現実的には、通気間隙50での圧力が大気圧にはならない。
【0042】
ケーシング12の外側(大気側)から通気間隙50に至る大気開放通路24においては、様々な部位で圧力損失が生じ得る。この発明では、内周環状空間24gの開口断面積S1と連通孔31aの総開口断面積S2とに着目して、当該部分での圧力損失の低減を図るものである。なお、大気開放孔24aは、内周環状空間24gや連通孔31aよりも圧力損失が小さいように構成されている。
【0043】
回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面における内周環状空間24gの開口断面積をS1とし、連通孔31aの総開口断面積をS2とし、連通孔31aのうちのi番目の開口断面積をS2iとし、連通孔31aの個数をn(nは1以上の自然数)とする。そうすると、次のような関係になる。
また、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面における、内周環状溝24bの開口断面積及び両側のテーパー状拡張部24cの開口断面積を、それぞれ、Sr,Scとする。内周環状空間24gは、内周環状溝24bと両側のテーパー状拡張部24cとによって構成されるので、内周環状空間24gの開口断面積S1は、Sr+Scである。
【0044】
2つのOリング35,46が回転軸21の軸線方向に離間して軸封装置20に配設されているので、当該2つのOリング35,46の離間距離によって、回転軸21の軸線方向において環状空間25を設置することについての制約を受けてしまう。また、連通孔31aは、オイルシール31の周方向に形成されるため、その個数nを増やすことも容易であるので、連通孔31aの総開口断面積S2が大きくなる傾向にある。したがって、n個の連通孔31aよりも環状空間25において大きな圧力損失が生じる。
【0045】
そこで、この発明は、回転軸21の軸線方向において環状空間25を設置することについて制約が少ないケーシング12側に着目して、軸封装置20を周方向で取り囲む環状空間25としての内周環状空間24gをケーシング12側に配設するものである。それによって、環状空間25が軸封装置20側に配設される場合よりも、回転軸21の軸線方向における内周環状空間24gの幅L1を適切に確保することができる。
【0046】
以下の(1)式に示すように、内周環状空間24gの開口断面積S1(すなわち、環状空間25の開口断面積S)を、連通孔31aの総開口断面積S2よりも大きくする。これによって、内周環状空間24g(環状空間25)での圧力損失を連通孔31aでの圧力損失よりも小さくすることができる。
【0047】
したがって、環状空間25を構成する内周環状空間24gでの圧力損失を低減させることができ、アンロード運転時において潤滑油の流入を防止することができる。
【0048】
次に、この発明の第2実施形態について、
図4乃至6を参照しながら詳細に説明する。なお、第2実施形態において、上記第1実施形態での構成要素と同じ機能を有する構成要素には同じ符号を付して、重複する説明を省略する。
【0049】
第2実施形態に係るオイルフリースクリュ圧縮機1が、軸封装置20及びその周辺部において、軸封装置20を周方向で取り囲む空間(特許請求の範囲に記載の「環状空間」に対応)25を構成する内周環状空間24g及び外周環状空間31bを備えている。
【0050】
図5に示すように、軸封装置20のオイルシール31の外周側には、環状空間25の一部を構成する外周環状空間31bが形成されている。外周環状空間31bは、内周環状空間24gに臨むように軸封装置20の外周面において周方向に沿って形成された環状の溝である。外周環状空間31bは、例えば機械加工によって形成される。外周環状空間31bは、形状を限定しないが、例えば回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面において、矩形形状をしている。回転軸21の軸線方向における外周環状空間31bの開口部の幅L3は、連通孔31aの開口径D2以上であり、且つ、回転軸21の軸線方向における内周環状空間24gの開口部の幅L1よりも小さい。
【0051】
各連通孔31aは、外周環状空間31b及び通気間隙50に連通している。通気間隙50は、軸封装置20側の各連通孔31a及び外周環状空間31bと、ケーシング12側の内周環状空間24gとを介して、大気開放孔24aに連通している。したがって、軸封装置20側の連通孔31a及び外周環状空間31bと、ケーシング12側の内周環状空間及び大気開放孔24aとは、大気に連通していて、大気開放通路24を構成する。
【0052】
上記第1実施形態と同様に、ケーシング12が鋳物で製造される場合、鋳物による公差が考慮される。その場合、
図6に示すように、回転軸21の軸線方向において、内周環状溝24bと両側のテーパー状拡張部24cとを足し合わせた幅、すなわち内周環状空間24gの開口部の幅L1は、外周環状空間31bの開口部の幅L3に対して大きめの所定サイズに寸法構成される。鋳物による公差を考慮して、回転軸21の軸線方向における、内周環状空間24gの開口部の幅L1は、外周環状空間31bの開口部の幅L3よりも、例えば、3mm以上大きめに設定される。ケーシング12を鋳物で製造したときに、設計範囲の公差が発生しても、回転軸21の軸線方向において、外周環状空間31bの開口部が内周環状空間24gの開口部に必ず重なり合って、回転軸21の軸線方向のズレを吸収することができる。そして、ケーシング12側の内周環状空間24gと、軸封装置20側の外周環状空間31bとが、確実に連通することができる。
【0053】
第2実施形態に係る環状空間25は、ケーシング12側の内周環状空間24gと軸封装置20側の外周環状空間31bとによって構成されている。環状空間25がケーシング12側及び軸封装置20側の両方に形成されることによって、内周環状空間24gがケーシング12側だけに配設される場合よりも、内周環状空間24gの開口断面積S1を小さくすることができ、ケーシング12側における内周環状空間24gの配設の制約が緩和される。したがって、内周環状空間24gをケーシング12に配設する際の自由度が高まる。
【0054】
上記第1実施形態と同様に、連通孔31aの総開口断面積をS2とし、連通孔31aのうちのi番目の開口断面積をS2iとし、連通孔31aの個数をn(nは1以上の自然数)とする。以下の(2)式に示すように、内周環状空間24gの開口断面積S1と外周環状空間31bの開口断面積S3とを足し合わせた環状空間25の開口断面積Sを、連通孔31aの総開口断面積S2よりも大きくする。これによって、内周環状空間24g及び外周環状空間31b(環状空間25)での圧力損失を、連通孔31aでの圧力損失よりも小さくすることができる。
【0055】
したがって、環状空間25を構成する内周環状空間24g及び外周環状空間31bでの圧力損失を低減させることができ、アンロード運転時において潤滑油の流入を防止することができる。
【0056】
なお、上記実施形態では、吐出側の軸封装置20を説明したが、吸込側の軸封装置20についてもこの発明を適用することができる。軸封装置20における第2軸封部40の構造は、上記実施形態に限定されるものではなく、エアシール部の個数やシールリングの向きは、適宜に変更することができる。第2軸封部40としては、シールリング42,52の代わりに、ラビリンスシール等の公知のシール部材を用いることもできる。第1軸封部30のオイルシール部32として、所謂ビスコシール32を例示したが、ラビリンスシール等の公知のシール構造を用いることができる。
【0057】
また、上記実施形態では、オイルシール31及びパッキンケース41は、それぞれ、単一の部材で構成されているが、組付け時に一体的な構成となるものであれば、それぞれ、回転軸21の軸線方向に分割された2以上の部材で構成されてもよい。また、オイルシール31は、オイルシール部32と、オイルシール部32を保持する本体部と、から構成されてもよい。また、回転軸21の表面は、母材そのものであっても、母材表面に各種皮膜等が設けられていてもよい。また、この発明における回転軸21は、回転軸21が単独で用いられる態様と、回転軸21の外周面側に対して、図示しないスリーブが固定された態様とを含む。
【0058】
以上の説明から明らかなように、この発明に係るオイルフリースクリュ圧縮機1では、軸封装置20を周方向で取り囲む空間である環状空間25が、ケーシング12の内周側において環状に形成される内周環状空間24gを備え、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面における内周環状空間24gの開口断面積をS1とし、連通孔31aの1つの開口断面積をS2とし、連通孔31aの個数をnとするとき、S1≧n×S2となるように構成される。当該構成によれば、環状空間25としての内周環状空間24gがケーシング12側に形成されることで、回転軸21の軸線方向における内周環状空間24gの開口部の幅L1を確保することについての制約が緩和される。そして、環状空間25が軸封装置20側に形成される場合よりも、内周環状空間24gの開口断面積S1を大きくすることができる。その結果、S1≧n×S2とすることが容易になり、環状空間25での圧力損失を低減させることができ、アンロード運転時において潤滑油の流入を防止することができる。
【0059】
この発明は、上記特徴に加えて次のような特徴を備えることができる。
【0060】
すなわち、軸封装置20を周方向で取り囲む空間である環状空間25が、軸封装置20の外周側において内周環状空間24gに対向配置されるとともに、連通孔31aよりも回転軸21の軸線方向に幅広である外周環状空間31bをさらに備え、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面における外周環状空間31bの開口断面積をS3とするとき、S1+S3≧n×S2となるように構成される。当該構成によれば、環状空間25がケーシング12側及び軸封装置20側の両方に形成されることによって、内周環状空間24gがケーシング12側だけに配設される場合よりも、内周環状空間24gの開口断面積S1を小さくすることができ、ケーシング12側における内周環状空間24gの配設の制約が緩和される。したがって、内周環状空間24gをケーシング12に配設する際の自由度が高まる。
【0061】
ケーシング12が鋳物で作られて、回転軸21の軸線方向における内周環状空間24gの開口部の幅L1が、連通孔31aの開口径D2よりも、鋳物の製造公差を考慮した分だけ大きい。当該構成によれば、鋳物による設計範囲の公差が発生しても、回転軸21の軸線方向において、連通孔31aが内周環状空間24gに必ず重なり合って、回転軸21の軸線方向のズレを吸収することができる。
【0062】
ケーシング12が鋳物で作られて、回転軸21の軸線方向における内周環状空間24gの開口部の幅L1が、回転軸21の軸線方向における外周環状空間31bの開口部の幅L3よりも、鋳物の製造公差を考慮した分だけ大きい。当該構成によれば、鋳物による設計範囲の公差が発生しても、回転軸21の軸線方向において、外周環状空間31bが内周環状空間24gに必ず重なり合って、回転軸21の軸線方向のズレを吸収することができる。
【0063】
ケーシング12が鋳物で作られて、内周環状空間24gが、内周環状溝24bと、回転軸21の軸線方向における内周環状溝24bの両端側に形成された先細のテーパー状拡張部24cとを備え、回転軸21の軸線方向に沿って切断した部分断面において、内周環状溝24bが略半円形状をしている。当該構成によれば、鋳物によってケーシング12を製造するときに内周環状溝24bも同時に形成することができ、内周環状溝24bを作るための工数を削減することができる。
【0064】
テーパー状拡張部24cのそれぞれは、軸封装置20の外周側に装着されたOリング35,46の突出高さを考慮した傾斜角度θ及び高さHを有する。当該構成によれば、軸封装置20が軸封装置装填空間10に着脱される際に、軸封装置20の凹部34,45に配設されたOリング35,46に損傷を与えないようにすることができる。