特許第6284476号(P6284476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284476難燃剤、該難燃剤を含有する難燃性水性樹脂組成物及び難燃性ウレタン樹脂組成物、並びにそれらの用途
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284476
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】難燃剤、該難燃剤を含有する難燃性水性樹脂組成物及び難燃性ウレタン樹脂組成物、並びにそれらの用途
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20180215BHJP
   C08K 5/5399 20060101ALI20180215BHJP
   C09K 21/12 20060101ALI20180215BHJP
   C08G 18/32 20060101ALI20180215BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20180215BHJP
   C09D 5/18 20060101ALI20180215BHJP
   C09D 5/02 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 13/288 20060101ALI20180215BHJP
   D06M 13/447 20060101ALI20180215BHJP
   D06N 3/14 20060101ALI20180215BHJP
   C07F 9/6571 20060101ALN20180215BHJP
【FI】
   C08L101/00
   C08K5/5399
   C09K21/12
   C08G18/32 003
   C09D201/00
   C09D5/18
   C09D5/02
   D06M13/288
   D06M13/447
   D06N3/14 102
   !C07F9/6571
【請求項の数】20
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2014-522623(P2014-522623)
(86)(22)【出願日】2013年6月24日
(86)【国際出願番号】JP2013067266
(87)【国際公開番号】WO2014002958
(87)【国際公開日】20140103
【審査請求日】2016年5月13日
(31)【優先権主張番号】特願2012-145979(P2012-145979)
(32)【優先日】2012年6月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000149561
【氏名又は名称】大八化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】植木 健博
(72)【発明者】
【氏名】竹本 智恵
(72)【発明者】
【氏名】辻 裕志
【審査官】 内田 靖恵
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−162912(JP,A)
【文献】 国際公開第2003/046083(WO,A1)
【文献】 国際公開第2003/048247(WO,A1)
【文献】 中国特許出願公開第101608348(CN,A)
【文献】 国際公開第2008/085926(WO,A1)
【文献】 S.WAGNER et al.,Synthesis of New Organophosphorus Compounds Using the Atherton-Todd Reaction as a Versatile Tool,Heteroatom Chemistry,2012年 2月24日,Vol.23, No.2,pages 216-222
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00−101/16
C08K 5/5399
C07F 9/6571
C09D 5/02
C09D 5/18
C09D 101/00−201/10
C09K 21/12
D06M 13/288
D06M 13/447
D06N 3/14
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式(I):
【化1】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜6のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Aは水素原子又は一般式(Ia):
【化2】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキル基であり、R14及びR15はそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である)で表される有機基である。
ここで、Bが炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが水素原子である場合には、BとR13−Aとが結合して、これらが結合している窒素原子と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが一般式(Ia)で表される有機基であって、Bが炭素数1〜6のアルキル基である場合には、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。]
で表されるホスホロアミデート化合物を含有する難燃剤と、水性樹脂エマルジョンを含有してなる、難燃性水性樹脂組成物
【請求項2】
前記一般式(I)において、R及びRがメチル基であり、R11及びR12がメチレン基である請求項1に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項3】
前記一般式(I)において、Aが一般式(Ia)で表される有機基であり、R及びRがメチル基であり、R14及びR15がメチレン基である請求項1又は2に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項4】
前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜4のアルキレン基である請求項3に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項5】
前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜2のアルキレン基である請求項4に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項6】
前記一般式(I)において、B及びBが水素原子である請求項3〜5のいずれか1項に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項7】
前記一般式(I)において、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって5〜8員の非芳香族含窒素複素環を形成している請求項3〜5のいずれか1項に記載の難燃性水性樹脂組成物
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性水性樹脂組成物を含んでなるバックコート剤。
【請求項9】
請求項に記載のバックコート剤でバックコートされた難燃性繊維布帛。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の難燃性水性樹脂組成物を含んでなるコーティング剤。
【請求項11】
一般式(I):
【化3】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜6のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Aは水素原子又は一般式(Ia):
【化4】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキル基であり、R14及びR15はそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である)で表される有機基である。
ここで、Bが炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが水素原子である場合には、BとR13−Aとが結合して、これらが結合している窒素原子と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが一般式(Ia)で表される有機基であって、Bが炭素数1〜6のアルキル基である場合には、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。]
で表されるホスホロアミデート化合物を含有する難燃剤、ポリオール、及びイソシアネートを含有する合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項12】
前記一般式(I)において、R及びRがメチル基であり、R11及びR12がメチレン基である請求項11に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項13】
前記一般式(I)において、Aが一般式(Ia)で表される有機基であり、R及びRがメチル基であり、R14及びR15がメチレン基である請求項11又は12に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項14】
前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜4のアルキレン基である請求項13に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項15】
前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜2のアルキレン基である請求項14に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項16】
前記一般式(I)において、B及びBが水素原子である請求項13〜15のいずれか1項に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項17】
前記一般式(I)において、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって5〜8員の非芳香族含窒素複素環を形成している請求項13〜15のいずれか1項に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項18】
さらに、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミド、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、及びトルエンからなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒を含む、請求項11〜17のいずれか1項に記載の合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【請求項19】
基布の少なくとも片面に、請求項11〜18のいずれか1項に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物を含む層を設けた難燃性合成皮革。
【請求項20】
前記難燃性合成皮革が、少なくとも基布、接着層及び表皮層をこの順で有し、前記接着層が請求項11〜18のいずれか1項に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物で形成されている、請求項19に記載の難燃性合成皮革。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃剤、該難燃剤を含む難燃性水性樹脂組成物及び難燃性ウレタン樹脂組成物、並びにそれらの用途に関する。より詳しくは、本発明は、特定の構造を有するホスホロアミデート化合物を含む難燃剤、該難燃剤を含み、難燃性のバックコート剤及びコーティング剤等に好適に使用することができる難燃性水性樹脂組成物、さらに該難燃性水性樹脂組成物を用いたコーティング剤、バックコート剤、及び該バックコート剤でバックコートされた難燃性繊維布帛、並びに該難燃剤を含む難燃性ウレタン樹脂組成物及び該難燃性ウレタン樹脂組成物を用いた合成皮革に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車輌(自動車、鉄道車輌)、及び航空機等で使用される繊維内装材では、繊維の抜け落ち防止及び強度向上の目的から、繊維の裏面にバックコート剤(バッキング剤)を塗布するバックコート(バッキング処理;裏打加工)が施されている。近年は、特に自動車等の分野において、安全上の問題から使用する材料の難燃化が望まれており、これらの材料に使用するバックコート剤についても高い難燃性が要求されている。バックコート剤において一般的に使用される難燃剤としては、酸化アンチモンと組み合わせたデカブロモジフェニルエーテル等のハロゲン系難燃剤が挙げられる。
【0003】
しかし、ハロゲン系難燃剤は、一般に難燃剤としての性能は優れているが、塩素、臭素等のハロゲン元素を含んでいるため、これを含有するバックコート剤を使用した製品が廃棄され、焼却処理される場合に、環境負荷物質であるハロゲン化水素が発生し、ハロゲン系難燃剤の種類によっては、さらに環境負荷の大きい物質であるハロゲン化ダイオキシン等が発生するといった問題があり、その使用の回避又は使用量の低減が望まれている。
【0004】
ハロゲン系難燃剤以外の有効な難燃剤として、ポリリン酸系難燃剤がある。しかし、ポリリン酸系難燃剤は耐水性が十分とは言えず、特に、繊維製品表面にキワツキが生じることにより製品の風合いを損ねるという問題も存在する。ここで、キワツキとは、車輌用シート製造において使用される高温蒸気、及び雨、汗等の水分が繊維製品表面に付着することにより難燃剤の水溶性成分が溶け出し、後に乾燥したときにその濡れていた部分が白い斑点状又は染み状になる現象をいう。このキワツキの発生を抑えるため、これまでにポリリン酸系難燃剤表面をケイ素化合物又はメラミン樹脂でコートする等の種々の試みが行われてきた(特許文献1及び2)。これらの方法により、常温の水に対するキワツキはかなり改善されたものの、高温の蒸気又は水に対してはまだ十分な防止効果が得られているとは言えず、キワツキ防止のために、その原因となる熱水溶解性の低い化合物が望まれている。
【0005】
ポリリン酸系難燃剤以外にもリンを含有する難燃剤は存在し、その中でも成形樹脂、発泡ウレタン及び繊維などに幅広く用いられているリン酸エステル系難燃剤には耐水性に優れた化合物が存在する。しかし、リン酸エステル系難燃剤は、バックコート用途では難燃性の低い化合物が多い。
【0006】
また、近年、自動車等の繊維内装材として合成皮革が用いられているが、合成皮革に対しても高い難燃性が要求されている。合成皮革に使用される難燃剤として、上記バックコート剤と同様のハロゲン系難燃剤が使用されていたが、前述のように燃焼時にハロゲン化ガスを発生することから環境上の問題があった。
【0007】
そこでハロゲン系難燃剤以外の有効な難燃剤として、リン酸エステル系の難燃剤が検討されてきた(特許文献3及び4)。しかし、リン酸エステル系難燃剤は、ハロゲン系難燃剤に比べて一般的に難燃効果が低く、リン酸エステル系難燃剤だけで高い難燃性を達成しようとすると、特殊な難燃剤の使用、難燃剤の使用量の増加等が必要となり、いずれも製造コストの上昇が問題となっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−063125号公報
【特許文献2】特開2006−233152号公報
【特許文献3】特開平6−146174号公報
【特許文献4】特開2011−236284号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の主な目的は、ハロゲンを含有せず、難燃性が良好でキワツキを生じない難燃剤、該難燃剤を含む水性樹脂組成物を提供することであり、さらに該難燃性水性樹脂組成物を用いたコーティング剤、バックコート剤、及び該バックコート剤でバックコートされた難燃性繊維布帛を提供することである。さらに、本発明の別の目的は、難燃剤を含む難燃性ウレタン樹脂組成物、及び該難燃性ウレタン樹脂組成物を用いた難燃性合成皮革を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、ハロゲンを含有しない特定構造を有するホスホロアミデート化合物は難燃性が良好で、キワツキの原因となる熱水溶解性が低いことから、このホスホロアミデート化合物を難燃剤として用いることで上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、下記の難燃剤、難燃性水性樹脂組成物及び難燃性ウレタン樹脂組成物等を提供する。
【0012】
項1. 一般式(I):
【0013】
【化1】
【0014】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜6のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Aは水素原子又は一般式(Ia):
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキル基であり、R14及びR15はそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である)で表される有機基である。
ここで、Bが炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが水素原子である場合には、BとR13−Aとが結合して、これらが結合している窒素原子と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが一般式(Ia)で表される有機基であって、Bが炭素数1〜6のアルキル基である場合には、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。]で表されるホスホロアミデート化合物を含有する難燃剤。
【0017】
項2.前記一般式(I)において、R及びRがメチル基であり、R11及びR12がメチレン基である項1に記載の難燃剤。
【0018】
項3.前記一般式(I)において、Aが一般式(Ia)で表される有機基であり、R及びRがメチル基であり、R14及びR15がメチレン基である項1又は2に記載の難燃剤。
【0019】
項4.前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜4のアルキレン基である項3に記載の難燃剤。
【0020】
項5.前記一般式(I)において、R13が炭素数1〜2のアルキレン基である項4に記載の難燃剤。
【0021】
項6.前記一般式(I)において、B及びBが水素原子である項3〜5のいずれか1項に記載の難燃剤。
【0022】
項7.前記一般式(I)において、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって5〜8員の非芳香族含窒素複素環を形成している項3〜5のいずれか1項に記載の難燃剤。
【0023】
項8.項1〜7のいずれか1項に記載の難燃剤及び水性樹脂エマルジョンを含有してなる、難燃性水性樹脂組成物。
【0024】
項9.項8に記載の難燃性水性樹脂組成物を含んでなるバックコート剤。
【0025】
項10.項9に記載のバックコート剤でバックコートされた難燃性繊維布帛。
【0026】
項11.項8に記載の難燃性水性樹脂組成物を含んでなるコーティング剤。
【0027】
項12.項1〜7のいずれか1項に記載の難燃剤、ポリオール、及びイソシアネートを含有する合成皮革用難燃性ウレタン樹脂組成物。
【0028】
項13.基布の少なくとも片面に、項12に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物を含む層を設けた難燃性合成皮革。
【0029】
項14.前記難燃性合成皮革が、少なくとも基布、接着層及び表皮層をこの順で有し、前記接着層が項12に記載の難燃性ウレタン樹脂組成物で形成されている、項13に記載の難燃性合成皮革。
【発明の効果】
【0030】
本発明の難燃剤は、ハロゲンを含まないホスホロアミデート化合物を含有するため、環境への負荷が少ない。また、このホスホロアミデート化合物は難燃性が良好な上、キワツキの原因となる熱水溶解性が低い。よって、このホスホロアミデート化合物を含む難燃剤を用いることで、難燃性が良好でキワツキを生じない難燃性水性樹脂組成物、バックコート剤及びコーティング剤、さらには、難燃性が良好な難燃性ウレタン樹脂組成物及び難燃性合成皮革を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0031】
本発明の難燃剤は、一般式(I):
【0032】
【化3】
【0033】
[式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキル基であり、R11及びR12はそれぞれ独立して炭素数1〜3のアルキレン基であり、R13は炭素数1〜6のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基であり、Aは水素原子又は一般式(Ia):
【0034】
【化4】
【0035】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキル基であり、R14及びR15はそれぞれ独立して炭素数が1〜3のアルキレン基であり、Bは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基である)で表される有機基である。
ここで、Bが炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが水素原子である場合には、BとR13−Aとが結合して、これらが結合している窒素原子と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが一般式(Ia)で表される有機基であって、Bが炭素数1〜6のアルキル基である場合には、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成してもよい。]で表されるホスホロアミデート化合物を含有する。
【0036】
一般式(I)における炭素数1〜3のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基が挙げられる。これらの中で、メチル基及びエチル基が好ましく、難燃性の点からメチル基が特に好ましい。炭素数1〜3のアルキレン基として、メチレン基、エチレンル基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基が挙げられる。これらの中で、メチレン基及びエチレン基が好ましく、難燃性の点からメチレン基が特に好ましい。
【0037】
炭素数1〜6のアルキル基として、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられる。これらの中で、メチル基及びエチル基が好ましく、難燃性の点からメチル基が特に好ましい。炭素数1〜6のアルキレン基として、メチレン基、エチレン基、n−プロピレン基及びイソプロピレン基、n−ブチレン基、イソブチレン基、tert−ブチレン基、n−ペンチレン基、n−ヘキシレン基等が挙げられる。これらの中で、炭素数4以下のアルキレン基が好ましく、難燃性の点からメチレン基及びエチレン基が特に好ましい。
【0038】
Aが水素原子である場合に形成される非芳香族含窒素複素環は、3〜13員、好ましくは4〜8員の、窒素を1つ含有する複素環である。
【0039】
Aが一般式(Ia)で表される有機基である場合に形成される非芳香族含窒素複素環は、5〜20員、好ましくは5〜8員の、窒素を2つ含有する複素環である。
【0040】
一般式(I)で表されるホスホロアミデート化合物としては、Aが水素原子である一般式(II):
【0041】
【化5】
【0042】
[式中、R、R、R11、およびR12は一般式(I)の定義と同じであり、Rは炭素数1〜6のアルキル基であり、Rは炭素数1〜6のアルキル基または水素原子である]で表される化合物、
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが水素原子であって、BとR13−Aとが結合して、これらが結合している窒素原子と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成している、一般式(III):
【0043】
【化6】
【0044】
[式中、R、R、R11、およびR12は一般式(I)の定義と同じであり、R16は炭素数2〜12のアルキレン基である]で表される化合物、
Aが一般式(Ia)で表される有機基であり、BおよびBがそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である、一般式(IV):
【0045】
【化7】
【0046】
[式中、R、R、R11、R12、およびR13は一般式(I)の定義と同じであり、R、R、R14、およびR15は一般式(Ia)の定義と同じであり、RおよびRはそれぞれ独立して水素原子または炭素数1〜6のアルキル基である]で表される化合物、ならびに
が炭素数1〜6のアルキル基であり、且つAが一般式(Ia)で表される有機基であって、Bが炭素数1〜6のアルキル基であり、BとBとが結合して、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって非芳香族含窒素複素環を形成している、一般式(V):
【0047】
【化8】
【0048】
[式中、R、R、R11、R12、およびR13は一般式(I)の定義と同じであり、R、R、R14、およびR15は一般式(Ia)の定義と同じであり、R17は炭素数2〜12のアルキレン基である]で表される化合物等が挙げられる。
【0049】
一般式(II)で表される化合物としては、以下の式(1)〜(5)等の化合物、一般式(III)で表される化合物としては、以下の式(6)〜(8)等の化合物、一般式(IV)で表される化合物としては、以下の式(9)〜(13)等の化合物、一般式(V)で表される化合物としては、以下の式(14)〜(18)等の化合物が挙げられる。
【0050】
【化9】
【0051】
【0052】
一般式(I)で表されるホスホロアミデート化合物の中でも、難燃性の観点から、RおよびRはメチル基であり、R11およびR12はメチレン基である化合物が好ましい。
【0053】
一般式(I)のAは、一般式(Ia)で表される有機基であることが好ましく、難燃性の観点から、RおよびRはメチル基であり、R14およびR15はメチレン基であることが好ましい。
【0054】
一般式(I)のR13は、難燃性の観点から、炭素数1〜4であることが好ましく、炭素数1〜2であることがさらに好ましい。
【0055】
一般式(I)のAが一般式(Ia)で表される有機基である場合、一般式(I)のBおよび一般式(Ia)のBは、難燃性の観点から、結合しない場合は水素原子であることが好ましく、結合する場合にはエチレン基を形成し、これらが結合している窒素原子及びR13と一緒になって5〜8員の非芳香族含窒素複素環を形成することが好ましい。
【0056】
前記式(1)〜(18)の化合物の中では、好ましい化合物としては、式(9)〜(11)、(14)及び(16)の化合物が挙げられ、式(9)及び(14)の化合物がより好ましい。
【0057】
これらのホスホロアミデート化合物は、良好な難燃性を有すると共に熱水溶解性が低く、これらを含有する難燃性水性樹脂組成物でバックコートされた難燃性布帛は良好な難燃性を有すると共にキワツキを生じない。
【0058】
これらのホスホロアミデート化合物は単独で用いても良く、複数種を混合して用いても良い。
【0059】
本発明の難燃剤であるホスホロアミデート化合物は、難燃性水性樹脂組成物を含むバックコート剤及びコーティング剤を均一に塗布するという点で、粒径は小さい方が好ましい。具体的には、ホスホロアミデート化合物の平均粒径は50μm以下が好ましく、さらに好ましくは平均粒径20μm以下である。
【0060】
一般式(I)で表されるホスホロアミデート化合物の配合量は、少なすぎると難燃性が不足し、多すぎるとバックコート層の強度又は風合いの低下を招くことから、難燃性水性樹脂組成物の全固形分のうち5〜80重量%が好ましく、20〜70重量%がより好ましく、40〜60重量%が特に好ましい。
【0061】
一般式(I)で表されるホスホロアミデート化合物を合成する方法は特に限定されないが、下記一般式(VI):
【0062】
【化10】
【0063】
[ここで、R1、、R11、およびR12は一般式(I)の定義と同じであり、XはBr、Cl等のハロゲン原子を表す]で表される化合物と、対応するアミン化合物と反応させることにより得る方法が挙げられる。
【0064】
詳細には、ホスホロアミデート化合物が一般式(II)で表される化合物である場合には、一般式(VI)の化合物と、アミン(例えば、メチルアミン)とを1:1(モル比)で反応させればよい。ホスホロアミデート化合物が一般式(III)で表される化合物である場合には、一般式(VI)の化合物と、環状アミン(例えば、ピペリジン)とを1:1(モル比)で反応させればよい。ホスホロアミデート化合物が一般式(IV)で表される化合物である場合には、一般式(VI)の化合物と、ジアミン(例えば、エチレンジアミン)とを2:1(モル比)で反応させればよい。ホスホロアミデート化合物が一般式(V)で表される化合物である場合には、一般式(VI)の化合物と、環状ジアミン(例えば、ピペラジン)とを2:1(モル比)で反応させればよい。
【0065】
本発明の難燃性水性樹脂組成物は、上記のホスホロアミデート化合物、水性樹脂エマルジョン、及び必要であれば増粘剤等の添加剤を混合して攪拌することにより調製することができる。
【0066】
本発明において使用される水性樹脂エマルジョンは、合成樹脂の微細な粒が水の中に分散したものである。水性樹脂エマルジョンは、水性媒体中で、原料単量体を乳化重合させることによって製造することも可能であるし、一般に繊維加工用として市販されているものを適宜使用してもよい。水性樹脂エマルジョンの製造に用いられる水性媒体とは、水に各種の添加剤を配合したものであり、添加剤として、各種重合体の乳化重合法による製造方法において使用する公知の添加剤、具体的には、触媒、乳化剤、連鎖移動剤等を挙げることができる。乳化重合における反応条件は、特に限定されるものではなく、単量体の種類、添加剤の種類等によって適宜設定することができる。合成樹脂がアクリル系樹脂又はウレタン系樹脂である水性樹脂エマルジョンを使用するのが好ましい。
【0067】
なお、本発明の難燃性水性樹脂組成物は、その固形分が30〜70重量%であるのが好ましく、40〜60重量%がより好ましい。
【0068】
本発明の難燃性水性樹脂組成物の加工安定性を向上させるために、さらに増粘剤を添加することができる。増粘剤としては、例えば、カルボキシメチルセルロース(CMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、デンプン、キサンタンガム、アラビアガム、アルギン酸ナトリウム、ポリビニルアルコール、ゼラチン、ポリビニルピロリドン、アクリル系共重合体樹脂、ウレタン変性型界面活性剤等が挙げられる。増粘する場合、難燃性水性樹脂組成物の粘度としては、5000〜50000mPa・sが好ましい。
【0069】
本発明の難燃性水性樹脂組成物には、本発明の目的を損なわない範囲で、一般式(I)で表される構造を有するホスホロアミデート化合物以外の難燃剤、例えば、ポリリン酸アンモニウム塩、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、リン酸エステル、アルキルホスフィン酸金属塩等を併用することができる。
【0070】
本発明の難燃性水性樹脂組成物には、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、顔料、表面改質剤、抗菌剤、防虫剤、帯電防止剤等を添加することができる。
【0071】
混合及び攪拌の操作は、慣用の攪拌装置、例えば、各種ミル、ホモジナイザー等を用いて行うことができる。各種成分を均一に混合することができれば、その添加順序は問わない。全成分を一度に攪拌装置に入れて混合及び攪拌してもよい。或いは水性樹脂エマルジョンを攪拌しながら、そこにホスホロアミデート化合物を添加してもかまわない。
【0072】
本発明の難燃性水性樹脂組成物は、バックコート剤、コーティング剤等のような難燃性が要求される各種分野の組成物及び材料に好適に使用することができる。よって、本発明の別の態様によれば、本発明の難燃性水性樹脂組成物を含んでなる、バックコート剤及びコーティング剤が提供される。該難燃性水性樹脂組成物を含むバックコート剤及びコーティング剤は、その中に上記のようなホスホロアミデート化合物を含有するため、良好な難燃性を有するとともに、熱水溶解性が低い。
【0073】
本発明のバックコート剤が適用される繊維布帛としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、あるいはレーヨン、アセテート等の再生繊維、ポリアミド、ポリ塩化ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリエステル等の合成繊維などからなる織布、編布等が挙げられる。
【0074】
本発明のバックコート剤の生地布帛裏面への塗布方法は特に限定されず、例えばロールコーター、ナイフコーター、ブレードコーター、バーコーター、カレンダーコーター等の公知の塗布方法により行うことができる。
【0075】
バックコート剤の繊維への塗布量は、難燃性繊維布帛の用途、必要とする難燃レベル等により異なるが、車輌シート表皮用途では、乾燥後の固形分が20〜200g/mとなるのが好ましい。20g/mより少ないと十分な難燃性を付与することができず、200g/mより多くなると風合いが硬くなることがある。
【0076】
塗布後の乾燥条件としては、100〜180℃で1〜10分が好ましい。
【0077】
このようにして得られた繊維布帛は、該難燃性水性樹脂組成物を含むバックコート剤でバックコートされているので、良好な難燃性を有するとともに、キワツキを生じない。
【0078】
本発明の難燃剤であるホスホロアミデート化合物は、良好な難燃性を有しているので、該難燃剤をウレタン樹脂組成物に添加して難燃性のウレタン樹脂組成物とし、該難燃性ウレタン樹脂組成物を使用することで難燃性を有する合成皮革を得ることができる。
【0079】
本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物は、ポリオール、イソシアネート、及び難燃剤であるホスホロアミデート化合物を含むポリウレタン樹脂組成物である。本発明のウレタン樹脂組成物は、良好な難燃性を有するホスホロアミデート化合物が含まれており、この結果、良好な難燃性を発揮する。よって、本発明のウレタン樹脂組成物は、難燃性を有するウレタンフィルム、ウレタン系接着剤、ウレタン系シーラント、ウレタン系塗料等の構成樹脂として用いることができる。但し、その形態及び求められる物性が相違するので、本発明のウレタン樹脂組成物は、発泡ポリウレタンフォームには不適である。
【0080】
本発明のウレタン樹脂組成物は、上記のホスホロアミデート化合物を含むことにより難燃性が付与されているものであれば、熱可塑性であるか熱硬化性であるかを問わない。また、ウレタン樹脂組成物の形態は、無溶剤系(無溶媒系) 、ホットメルト系、溶剤系、水系を問わず、さらには、一液型、二液硬化型を問わず使用可能であり、その目的及び用途に応じて適宜選択すればよい。
【0081】
本発明のウレタン樹脂組成物を構成するために用いられるポリオールは、ウレタン樹脂を構成するための成分として従来公知のものであれば、特に限定することなく用いることができる。本発明におけるポリオールとして、例えば、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリカプロラクトンポリオール等を挙げることができる。上記ポリオールは、ウレタン樹脂中に1種又は2種以上の組合せ(縮合重合物を含む)で存在していてもよい。なお、本発明におけるポリオールは、上述のとおり、一般的にウレタン樹脂の製造において用いられるポリオールから適宜選択して用いることができる。
【0082】
上記ポリエーテルポリオールとしては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリ−2−メチルテトラメチレングリコール等が挙げられる。
【0083】
上記ポリエステルポリオールとしては、例えば、アジピン酸と多価アルコールとの縮合物であるポリブタンジオールアジペート、ポリ−3−メチルペンタンジオールアジペート、ポリ−1,6−ヘキサンジオールアジペート、ポリネオペンチルグリコールアジペート;アルキレンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、ジメチロールヘプチン、ノナンジオール等とセバシン酸、アゼライン酸、イソフタル酸、フタル酸等の二塩基酸とのエステル化物等が挙げられる。
【0084】
上記ポリカーボネートポリオールとしては、例えば、ポリ−1,6−ヘキサンジオールカーボネートのほかに、プロピレングリコール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、3−メチルペンタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ノナンジオール、デカンジオール等のアルキレングリコールを適宜組み合わせて合成して得られるポリアルキレンカーボネートポリオールが挙げられる。
【0085】
上記ポリシロキサンポリオールとしては、例えば、ジメチルポリシロキサンポリオール、メチルフェニルポリシロキサンポリオール等が挙げられる。
【0086】
本発明のウレタン樹脂組成物を構成するために用いられるイソシアネートは、ウレタン樹脂を構成するための成分として従来公知のものであれば、特に限定することなく用いることができる。例えば、トリレンジイソシアネート(以下、「TDI」ともいう)、イソホロンジイソシアネート(以下、「IPDI」ともいう)、ノルボルナンジイソシアネート(以下、「NBDI」ともいう)、ヘキサメチレンジイソシアネート(以下、「HDI」ともいう)、ヘキシルメタンジイソシアネート(以下、「HMDI」ともいう)、ジフェニルメタンジイソシアネート(以下、「MDI」ともいう)等を挙げることができる。なお、本発明に於いてイソシアネートは、単独で用いてもよいし、2種以上のものを組み合わせて用いてもよい。
【0087】
本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物において、ポリオール、イソシアネート及び難燃剤の配合割合は、目的とするウレタン樹脂製品、又はウレタン樹脂に求められる物性を勘案し、適宜決定することができる。
【0088】
本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物には、その使用目的に応じ、ウレタン樹脂の物性を損なわない範囲内で、さらに鎖伸長剤、酸化防止剤、各種触媒、シランカップリング剤、充填剤、チキソ付与剤、粘着付与剤、ワックス、熱安定剤、耐光安定剤、蛍光増白剤、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、染料、顔料、他の難燃剤、導電性付与剤、帯電防止剤、透湿性向上剤、撥水剤、撥油剤、中空発泡体、結晶水含有化合物、吸水剤、吸湿剤、消臭剤、防黴剤、防腐剤、防藻剤、顔料分散剤、ブロッキング防止剤、加水分解防止剤等の任意成分を、1種単独で又は2種以上組み合わせて用いて、目的に応じた種々のウレタン樹脂を製造することができる。
【0089】
本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物は、合成皮革に好ましく適用することができる。合成皮革において、本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物で形成した層を、基布の少なくとも片面に設けることにより、難燃性が付与された合成皮革を提供することが可能である。
【0090】
次に、本発明の難燃性合成皮革について説明する。本発明の難燃性合成皮革は、本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物を含む層が、基布の少なくとも片面に設けられることにより、良好に難燃性が示されるものであれば、特に限定されるものではない。例えば、基布と、接着層と、表皮層とをこの順で備える合成皮革の接着層として、本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物が良好に使用され、且つ合成皮革自体に優れた難燃性を付与することが可能である。また、本発明の難燃性合成皮革は、接着層と表皮層との間に、任意の構成の中間層が存在するものであってもよい。
【0091】
本発明の難燃性合成皮革における基布は、一般的に知られる材料を適宜選択して使用することができる。例えばポリエステル、ポリアミド、ポリアクリロニトリル等の合成繊維;綿、麻等の天然繊維;レーヨン、アセテート等の再生繊維の単独又はこれらの混紡繊維よりなる織布、編布、不織布等を使用することができる。基布の材料はこれらに限定されないが、好適にはポリエステル繊維が用いられる。
【0092】
ポリエステル繊維は、特に限定されないが、例えばポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレートなどを挙げることができる。また本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上記エチレン系ポリマー中に、アジピン酸、イソフタル酸などの酸成分、あるいはブタンジオール、ジエチレングリコールなどのジオールが含まれていてもよい。特に、ポリエチレンテレフタレートは、その汎用性や強度などの有利な物性を有することから、本発明において良好に用いることができる。また、同一のポリエステル繊維から構成されていてもよいし、異なるポリエステル繊維から構成されたものを用いてもよい。
【0093】
基布は、難燃性合成皮革用の基布であるため、その用途に合わせた物性や特徴を有していることが望ましい。例えば、本発明の基布は、車輛用、あるいは家具用の難燃性合成皮革用の基布として好ましく用いられるが、車輛用、あるいは家具用に用いる際には、特に繰り返し負荷がかかることが想定されるため、繰り返しの負荷に対しても優れた復元性を示すことが要求される。また引き裂き強度又は引っ張り強度にも優れていることが望ましい。
【0094】
本発明の難燃性合成皮革における表皮層としては、合成皮革用の表皮層として知られる合成樹脂からなる層であれば、いずれのものを選択してもよい。例えばポリウレタン系樹脂、ポリ塩化ビニル系樹脂あるいはアクリル系樹脂の表皮層が知られている。特にポリウレタン系樹脂の表皮層は、加工性又は風合いの良さから、良好に使用される。
【0095】
上記ポリウレタン系樹脂の表皮層としては、ポリカーボネート系ポリウレタン、ポリエーテル系ポリウレタン、ポリエステル系ポリウレタン、ポリエステル/ポリエーテル系ポリウレタン、ラクトン系ポリウレタン等の公知の合成皮革用表皮のいずれもが使用可能である。中でも、ポリカーボネート系ポリウレタンは、耐久性又は耐熱性において優れており、車輛用あるいは家具用の合成皮革の表皮として好適に使用される。さらに、上記ポリウレタン樹脂に加えて、天然ゴム、クロロプレン、SBR、アクリル系樹脂、シリコーン樹脂、塩化ビニル等の高分子重合体が併用されてもよい。本発明において表皮層の厚みは特に限定されないが、一般的には20〜200μm程度が好ましい。
【0096】
上記表皮層を構成する樹脂中には、さらに必要に応じて成膜助剤、着色剤、充填剤、光安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、撥水・撥油剤等の各種添加剤を混入することができる。
【0097】
本発明の難燃性合成皮革における接着層は、表皮層と基布、あるいは基布と表皮層との間にさらに中間層が存在する場合には、当該中間層と基布とを良好に接着することができるものであれば、特に限定されるものではない。一般的には、乾式法により得られる合成皮革の接着層を構成する樹脂としては、ポリウレタン系樹脂が使用される。
【0098】
本発明の難燃性合成皮革においては、接着層を構成するポリウレタン系樹脂を本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物で形成することが好ましい。本発明の難燃性ウレタン樹脂組成を用いて接着層を形成する場合には、上述した本発明のウレタン樹脂組成物の構成成分であるポリオール、イソシアネート、及び難燃剤を、必要であれば架橋剤、架橋促進剤とともに、メチルエチルケトン(MEK)、ジメチルホルムアミド(DMF)、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、トルエン等の溶媒を用いて混合することによりポリウレタン系接着剤を製造することができる。本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物で接着層を形成し、該接着層だけで合成皮革に難燃性を付与する場合、例えば、接着層中に難燃剤が1〜50重量%含まれていればよく、好ましくは3〜40重量%であり、より好ましくは5〜30重量%である。
【0099】
本発明の難燃性合成皮革は、従来公知の合成皮革製造方法と同様の方法、例えば、以下の3工程を含む方法により製造することができる。
【0100】
まず、第1工程として、離型紙上に表皮層を形成するための樹脂組成物を塗布し乾燥させて表皮層用塗膜を形成する。
【0101】
第2工程として、次の3つの方法が例示される。
第1の方法は、前記表皮層用塗膜のさらに上面に、接着層を構成する難燃性ウレタン樹脂組成物を塗布した後、基布と表皮層とをその間に接着層が形成されるように重ね合わせる方法である。
第2の方法は、基布表面に接着層を構成する難燃性ウレタン樹脂組成物を塗布し、これを該表皮層用塗膜の面に対して、基布と表皮層とをその間に接着層が形成されるように重ね合わせる方法である。
第3の方法は、第1の方法と第2の方法の両方を施す方法である。すなわち、前記表皮層用塗膜のさらに上面及び基布表面の両方に、接着層を構成する難燃性ウレタン樹脂組成物を塗布し、双方の接着層を重ね合わせる方法である。
【0102】
最後に、第3工程は、第2工程の3つの方法のうちの1つの方法で各基材を重ね合わせた後、常温圧着又は熱圧着等の公知の圧着方法によって圧着させ、接着層を構成する樹脂を硬化させる方法である。
【0103】
上記の方法は、乾式による製造方法であるが、本発明の難燃性合成皮革の製造方法は上記方法に限定されることなく、湿式を含めた従来公知の方法でも製造することができる。いずれの方法であっても、合成皮革は、基布、接着層及び表皮層をこの順で有する。また、接着層と表皮層との間に、任意の構成の中間層が存在するものであってもよい。湿式による製造方法を用いた場合には、基布と接着層との間にミクロポーラス層等の中間層を有する合成皮革を製造することができる。
【0104】
樹脂組成物を塗布する方法は、従来公知の塗布方法であればよく、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、コンマコーター、Tダイコーター当の装置を用いて塗布することができる。離型紙は、表皮層を構成する樹脂に対して離型性を示すものであればよく、ポリエチレン樹脂又はポリプロピレン樹脂等からなるオレフィンシート又はフィルムが汎用されるが、これに限定されない。また、離型紙を用いずに表皮層を形成してもよい。例えば、カレンダー加工により表皮層を形成することができる。得られた合成皮革において、表皮層の厚みは特に限定されず、接着層の厚みは、一般的には、20〜200μmであるが、これに限定されるものではない。
【0105】
本発明の難燃性合成皮革は、少なくとも本発明の難燃性ウレタン樹脂組成物で形成した層を有することにより難燃性が良好に発揮される。この難燃性ウレタン樹脂組成物で形成した層は、接着層であることが好ましいが、表皮層であってもよく、又は中間層が存在する場合には、中間層であってもよい。
【0106】
本発明の合成皮革にさらに高い難燃性を付与するためには、上述の基布、接着層、および/または表皮層に、公知の手段により本発明の難燃剤以外の他の難燃剤を用いて難燃性を付与してもよい。
【0107】
例えば、基布に難燃性を付与する方法としては、基布がポリエステル繊維の場合には、ポリエステルの製造段階において他の難燃剤を共重合させて紡糸する方法と、先にポリエステル繊維を製造しその後に他の難燃剤を吸尽させる方法とに大別されるが、いずれの方法であってもよい。また、接着層あるいは表皮層に難燃性を付与する方法としては、接着層あるいは表皮層を構成する樹脂組成物に、他の難燃剤を添加するか、あるいは接着層を構成する樹脂に他の難燃剤を共重合させる方法が挙げられる。
【0108】
このとき使用される他の難燃剤は特に限定されるものではないが、本発明の趣旨を勘案すれば、非ハロゲン系の難燃剤を用いることが好ましい。
【実施例】
【0109】
以下の実施例によって本発明をより詳細に説明するが、本発明は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0110】
(合成例1)
式(9)の化合物の合成
【0111】
【化11】
【0112】
第一段反応として、撹拌機、温度計、塩酸回収装置を接続した還流管、アスピレーター、滴下ロートおよび加熱装置を備えた1Lの4ツ口フラスコに、ネオペンチルグリコール312.6g(3.00mol)及び1,4−ジオキサン109.5gを仕込み、50℃に加熱した。次いで、オキシ塩化リン460.5g(3.00mol)を、反応温度を45〜55℃に保持しながら2時間かけて追加し、追加終了後にさらに80℃で1時間撹拌しながら発生する塩酸を回収した。続いて80℃、80kPaにて減圧脱塩酸を3時間行い、白色スラリー662.8gを得た。
【0113】
第二段反応として、撹拌機、温度計、滴下ロートおよびウォーターバスを備えた2Lの4ツ口フラスコに、上記の第一段反応で得られた白色スラリー443.4gおよび1,4−ジオキサン370.2gを仕込んだ。反応温度を30℃に維持しながらエチレンジアミン72.3g(1.20mol)を2時間かけて追加し、追加終了後に30℃でさらに2時間撹拌した。次に、24%水酸化ナトリウム水溶液364.2g(2.19mol)を、反応温度を20〜30℃に保持しながら4.5時間かけて追加して得られた白色スラリーを濾過した。濾過ケーキと同重量の水で30分リパルプ洗浄を行い濾過する工程を、濾液が中性になるまで行った。得られた固体を80℃、2.7kPaで8時間乾燥させ、化合物(9)を主成分とする難燃化合物301.1g(収率77.4%)を得た。リン含有率17.1重量%。窒素含有率7.8重量%。得られた難燃化合物を、平均粒径20μm以下まで粉砕したものを以下の実施例にて使用した。
【0114】
(合成例2)
式(14)の化合物の合成
【0115】
【化12】
【0116】
撹拌機、温度計、滴下ロートおよびウォーターバスを備えた1Lの4ツ口フラスコに、上記合成例1の第一段反応で得られた白色スラリー100.6gおよび1,4−ジオキサン214.3gを仕込んだ。反応温度を30〜40℃に維持しながらトリエチルアミン61.8g(0.61mol)を30分かけて追加した。引き続き、ピペラジン23.4g(0.27mol)を、2時間かけて少量ずつ追加し、追加終了後に40℃にて4時間撹拌を行った。この反応スラリーに水169.3gを加え、30分間撹拌後に濾過した。その後、濾過ケーキと同重量の水で30分間リパルプ洗浄して濾過する工程を、濾液が中性になるまで繰り返した。得られた固体を80℃、2.7kPaで8時間乾燥させ、化合物(14)を主成分とする難燃化合物77.1g(収率74%)を得た。リン含有率15.6重量%。窒素含有率7.5重量%。得られた難燃化合物を、平均粒径20μm以下まで粉砕したものを以下の実施例にて使用した。
【0117】
(実施例1)
合成例1で得られた難燃化合物20重量部、イオン交換水20重量部、市販のアクリル樹脂エマルジョン(DIC製ボンコートAB−886:固形分50%)40重量部、及び28%アンモニア水溶液0.4重量部に、増粘剤としてSNシックナーA−812(サンノプコ株式会社製)0.7重量部を加え、ホモジナイザーで均一化し、粘度15000mPa・s(BM型粘度計4号ローター12rpm)のバックコート剤を得た。
【0118】
上記で得られたバックコート剤を、250g/mのポリエステルニットの裏面に、乾燥重量60g/mとなるように均一に塗布した後、150℃で3分間乾燥させ、難燃性繊維布帛を得た。
【0119】
(実施例2)
難燃化合物として、合成例2で得られた難燃化合物20重量部を用いた以外は実施例1と同じ方法で難燃性繊維布帛を得た。
【0120】
(比較例1)
難燃化合物として、ポリリン酸系難燃剤であるポリリン酸アンモニウムのシランコート物(ブーデンハイム社製 FRCROS486、以下APPと称する)20重量部を用いた以外は実施例1と同じ方法で難燃性繊維布帛を得た。
【0121】
(比較例2)
難燃化合物として、リン酸エステル系難燃剤である以下の構造:
【0122】
【化13】
【0123】
を有する化合物20重量部を用いた以外は実施例1と同じ方法で難燃性繊維布帛を得た。
【0124】
実施例1〜2および比較例1〜2の難燃性繊維布帛の難燃性及び難燃化合物の熱水溶解性を測定した。
【0125】
[難燃性試験]
難燃性試験は、米国自動車安全基準FMVSS302の試験方法に準じて行った。縦横5回ずつ試験を行い、その全てが、1)A標線(38mm)前に自消、2)A標線後の燃焼距離50mm以下かつ燃焼時間60秒以下、3)A標線後の燃焼速度80mm/分以下、のいずれかに該当するものを難燃性ありと判断し、合格とした。
【0126】
[熱水溶解性試験]
合成例1および2の難燃化合物、ならびに比較例1および2の難燃化合物5gを水45gに加え、90℃にて1時間撹拌し、熱時濾過した濾液中のリン含有量を測定することで90℃での熱水溶解度を測定した。なお、難燃化合物が完全に溶解した場合には、熱溶解度を「>10%」とした。
【0127】
難燃試験結果および熱水溶解性試験の結果を、使用した難燃化合物のリン含有率及び窒素含有率とともに以下の表1に示す。
【0128】
【表1】
【0129】
表1から、実施例1および2の繊維布帛は、難燃に寄与すると考えられる、難燃化合物中のリン含有率及び窒素含有率が比較例1の繊維布帛と比べて低いにも関わらず、良好な難燃性を示す。さらに、実施例1および2の繊維布帛に用いた難燃化合物はキワツキの原因となる熱水溶解性が低いことがわかる。一方、難燃化合物としてAPPを用いた比較例1は難燃試験には合格するが、熱水溶解性が高いため、キワツキを生じやすい。
【0130】
また、比較例2では、難燃化合物として、繊維への高温吸尽処理用として優れた難燃性を有するリン酸エステルを用いた。ここで、比較例2の難燃化合物は、実施例1の難燃化合物に類似する構造を有するリン酸エステルであり、リン含有量も実施例1の難燃化合物と同等である。しかし、表1に示すように、比較例2の難燃化合物は難燃性が低い上に熱水溶解性も高く、バックコート用難燃剤としては適さない。これらのことから、一般式(I)で表されるホスホロアミデートを含有するバックコート剤は、難燃性バックコート剤として非常に有効であることがわかる。
【0131】
(実施例3)
[表皮層の作成]
ポリウレタン材料(DIC製、クリスボンMP120、不揮発分30重量%)100重量部をトルエン30重量部の割合で混合して溶液とし、表皮層形成用樹脂組成物を調製した。
【0132】
そして、離型紙(大日本印刷製、DE73)に上記表皮層形成用樹脂組成物溶液を320μmに設定したアプリケーターで塗布して、110℃、4分間で乾燥させて乾燥後の平均膜厚が40μmである表皮層用塗膜を作成した。
【0133】
[接着層形成用樹脂組成物の調製]
接着用ポリウレタン材料(DIC製、クリスボン4010、不揮発分50重量%)を100重量部、イソシアネート系架橋剤(DIC製、バーノックD−750、不揮発分75重量%)を10重量部、架橋促進剤(DIC製、クリスボンアクセルHM、不揮発分15重量%)を3重量部、難燃剤として合成例1の難燃化合物(不揮発分100重量%)を6.45重量部、及びトルエンを22.8重量部用いて接着層形成用樹脂組成物を調製した。
【0134】
[合成皮革の調製]
上記接着層形成用樹脂組成物を、前記表皮層用塗膜のさらに上面に、320μmに設定したアプリケーターで塗布し、その上に基布(ポリエステルニット、目付250g/m)を重ね、圧着した。110℃で4分間加熱し、硬化を促進させるとともに溶剤を除去し、さらに25℃で3日間熟成して接着層の硬化を完了させ、離型紙を剥離して難燃性合成皮革を完成した。接着層の厚みは150μmであった。
【0135】
[難燃性試験]
上記難燃性合成皮革の難燃性試験は、米国自動車安全基準FMVSS302の試験方法に準じて行った。5回試験を行い、その全てがA標線(38mm)前に自消したものを難燃性ありと判断し、合格とした。結果を表2に示す。
【0136】
(実施例4)
難燃剤として、合成例2の難燃化合物を用いた以外は実施例3と同様に合成皮革を得て、難燃性を測定した。結果を表2に示す。
【0137】
(比較例3)
難燃剤として、比較例2で用いたリン酸エステル難燃化合物を用いた以外は実施例3と同様に合成皮革を得て、難燃性を測定した。結果を表2に示す。
【0138】
(比較例4)
難燃剤として、樹脂用に広く使用されているリン酸エステルである、テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)−m−フェニレンビスホスフェートを20重量部及びトルエンを39.2重量部用いた以外は実施例3と同様に合成皮革を得て、難燃性を測定した。結果を表2に示す。
【0139】
【表2】
【0140】
表2から、実施例3及び4の合成皮革は、繊維への高温吸尽処理用として優れた難燃性を有するリン酸エステルを用いた比較例3及び4の合成皮革に比べて難燃性が高いことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0141】
本発明の難燃剤は、良好な難燃性を有すると共に、ハロゲンを含まないために環境への負荷が少なく、さらに熱水溶解性が低いのでキワツキを生じない。本発明の難燃剤を含む難燃性水性樹脂組成物をバックコート剤として繊維布帛にバックコートすることにより、難燃性が良好な上にキワツキの生じない難燃性布帛を製造することができる。
【0142】
また、本発明の難燃剤を含む難燃性ウレタン樹脂組成物を用いることで、難燃性が良好な難燃性合成皮革を製造することができる。
【0143】
得られた難燃性布帛及び難燃性合成皮革は様々な用途に使用できる。