(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
駆動源の出力回転が入力されるコンバータカバーと、当該コンバータカバーと一体に回転するポンプインペラとで構成したコンバータハウジング内に、共通の回転軸上で前記ポンプインペラに対向配置されたタービンランナと、前記ポンプインペラと前記タービンランナとの間に介在させたステータと、前記ポンプインペラとで形成した流体伝導部を備えており、
前記タービンランナのハブに支持させたロックアップクラッチピストンを、前記タービンランナと前記コンバータカバーとの間に配置して、前記ロックアップクラッチピストンの前記流体伝導部側をアプライ室、前記コンバータカバー側をリリーフ室としたロックアップクラッチ付きトルクコンバータ装置において、
前記ロックアップクラッチピストンを、第1ピストンと、前記第1ピストンよりも外径が小さい第2ピストンとから構成し、
前記第2ピストンを、前記第1ピストンの前記コンバータカバー側で、前記アプライ室と前記リリーフ室との間に差圧を発生させた際に前記第1ピストンよりも先に前記コンバータカバーに接触する位置に配置し、
前記第1ピストンと前記第2ピストンとを、前記第1ピストンと前記第2ピストンとの間に介在させた弾性部材により、前記回転軸方向に相対変位可能、かつ前記回転軸回りに相対回転不能に連結したことを特徴とするロックアップクラッチ付きトルクコンバータ装置。
前記弾性部材の弾性力は、トルクコンバータ装置を備える自動変速機を搭載した車両でのトルク要求値に応じて設定されることを特徴とする請求項1に記載のロックアップクラッチ付きトルクコンバータ装置。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施の形態にかかるトルクコンバータ装置を説明する図である。
【
図2】実施の形態にかかるトルクコンバータ装置の要部を説明する図である。
【
図3】ロックアップクラッチの動作を説明する図である。
【
図4】実施の形態にかかるトルクコンバータ装置におけるトルク伝達容量を説明する図である。
【
図5】変形例に係るトルクコンバータ装置1Aを説明する図である。
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明する。
図1は、実施の形態にかかるトルクコンバータ装置1を説明する断面図である。
図2は、トルクコンバータ装置1のロックアップクラッチピストン周りを説明する図であり、(a)ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)周りの拡大図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であり、(c)は、内径側壁部401とフェーシング材92との間の隙間Saを説明する図であり、(d)は、変形例に係るフェーシング材92Aを説明する図である。
【0012】
図1に示すように、トルクコンバータ装置1は、ポンプインペラ3とコンバータカバー4とで構成したコンバータハウジング2内に、ポンプインペラ3と、タービンランナ5と、ステータ6とから構成される流体伝動部15を備えている。
【0013】
ポンプインペラ3とタービンランナ5は、共通の回転軸X上で相対回転可能に設けられており、これらポンプインペラ3とタービンランナ5の互いの対向面には、回転軸Xの軸方向(以下、回転軸X方向)から見て放射状に配置された複数のブレード31、51がそれぞれ固定されている。
【0014】
ポンプインペラ3とタービンランナ5は、互いのブレード31、51を対向させた向きで配置されており、これらポンプインペラ3とタービンランナ5の間には、ステータ6が位置している。
このステータ6は、図示しない変速機ケースに固定されたステータシャフト61に、ワンウェイクラッチOWCを介して支持されており、回転軸X回りの周方向における一方向にのみ回転できるようになっている。
【0015】
コンバータカバー4は、図示しないドライブプレートを介してエンジンのクランク軸と連結されており、エンジンの回転駆動力が、コンバータカバー4を介してポンプインペラ3に入力されると、入力された回転駆動力が、コンバータハウジング2内のオイルを介して、タービンランナ5に伝達されるようになっている。
【0016】
タービンランナ5では、ブレード51を保持した弧状のシェル50の内径側が、回転軸X方向から見てリング状を成す接続部501となっており、この接続部501は、ハブ7のフランジ状の連結部72に、リベットRで固定されている。
【0017】
ハブ7において連結部72は、円筒状の基部71の一端側に設けられており、基部71は、入力軸10の外周に、スプライン嵌合して取り付けられている。
そのため、タービンランナ5は、ハブ7を介して、入力軸10に相対回転不能に連結されており、コンバータハウジング2内のオイルを介して、ポンプインペラ3側からタービンランナ5に伝達されたエンジンの回転駆動力は、最終的に入力軸10に伝達されるようになっている。
【0018】
図2の(a)に示すように、ハブ7における基部71の外周71aには、回転軸X方向に間隔を開けて凹溝710、710が設けられており、これら凹溝710、710は、回転軸X回りの周方向の全周に亘って設けられている。
凹溝710、710には、回転軸X方向から見てリング状を成すシールリングS、Sが外嵌して取り付けられており、シールリングS、Sの各々は、基部71に外挿された第1ピストン8の筒部81の内周と第2ピストン9の筒部91の内周に、それぞれ圧接している。
この状態において、ハブ7と、第1ピストン8および第2ピストン9とは、回転軸X周りの周方向で相対回転可能となっており、これら第1ピストン8と第2ピストン9は、筒部81、91の内周にシールリングS、Sが圧接する範囲内で、回転軸X方向(
図1、
図2の(a)における左右方向)に変位可能となっている。
【0019】
図1に示すように、実施の形態にかかるトルクコンバータ装置1では、コンバータハウジング2内の空間が、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)により、流体伝動部15側のアプライ室R1と、コンバータカバー4の壁部40側のリリーフ室R2とに区画されている。
【0020】
リリーフ室R2は、前記したハブ7の先端を回転可能に支持するスラストベアリングBを介して、入力軸10に設けられた油路10aと連通している。
アプライ室R1は、ポンプインペラ3から延びるコンバータスリーブ32の内壁とステータシャフト61の外壁との間の油路16と連通している。
【0021】
これら油路10a、16は、図示しない油圧制御装置に接続されており、トルクコンバータ装置1の状態を流体伝動状態(トルコン状態)にする際には、リリーフ室R2とアプライ室R1が同圧にされるようになっている。
【0022】
また、入力軸10がコンバータカバー4(エンジン)と一体回転するロックアップ状態にする際には、アプライ室R1の油圧を増大させると共に、リリーフ室R2の油圧を低下させて、アプライ室R1とリリーフ室R2に差圧を発生させるようになっている。
この差圧は、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)を、回転軸X方向でコンバータカバー4の壁部40に向けて変位させるので、差圧が発生すると、第1ピストン8と第2ピストン9のフェーシング材82、92が、コンバータカバー4の壁部40に押し付けられるようになっている。
これにより、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)とコンバータカバー4の壁部40とは、互いに相対回転するスリップ状態を経て、相対回転不能なロックアップ状態に変更されるようになっている。
【0023】
ここで、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)がロックアップ状態になると、コンバータカバー4とロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)とが一体に回転軸X周りに回転するようになっており、第1ピストン8や第2ピストン9に入力された回転駆動力は、第1ピストン8と第2ピストン9との間のダンパ装置30と、ハブ7を介して、入力軸10に伝達されるようになっている。
【0024】
図2の(a)に示すように、第1ピストン8は、筒部81の一端から径方向外側に延びるディスク部80を有している。このディスク部80は、回転軸X方向から見てリング状を成しており、内径側よりも外径側の方が、コンバータカバー4の壁部40側(図中右側)に位置するように、断面視において段階的に屈曲した形状に形成されている。
【0025】
第1ピストン8のディスク部80は、内径側から順番に、基部801、接続部802、支持部803となっている。
回転軸X方向において基部801は、壁部40から最も離れた位置に配置されており、接続部802は、基部801よりも壁部40で、基部801と、壁部40(外径側壁部402)に近接配置された支持部803とを接続している。
【0026】
基部801の内周に設けられた筒部81は、壁部40から離れる方向(図中、左方向)に延びており、その先端を、ハブ7の連結部72に当接させた初期位置(トルクコンバータ装置1がトルコン状態のときの位置)に配置されている。
【0027】
支持部803の外周部では、コンバータカバー4の壁部40(外径側壁部402)との対向面に、回転軸X方向から見てリング状を成すフェーシング材82が取り付けられており、このフェーシング材82は、第1ピストン8が壁部40側に変位した際に、変位量に応じて、壁部40の外径側壁部402に圧接するようになっている。
【0028】
第2ピストン9は、筒部91の一端から径方向外側に延びるディスク部90を有しており、このディスク部90は、前記した第1ピストン8のディスク部80よりも小さい外径を有している。
このディスク部90は、筒部91を第1ピストン8側に向けて設けた状態で、ハブ7の基部71で支持されている。
ディスク部90は、回転軸X方向から見てリング状を成しており、内径側よりも外径側の方が、第1ピストン8側(図中左側)に位置するように、断面視において屈曲した形状に形成されている。
【0029】
第2ピストン9のディスク部90は、内径側が基部901、外径側が接続部902となっており、回転軸X方向において基部901は、内径側壁部401の近傍に位置している。
第2ピストン9のディスク部90は、回転軸X方向で、第1ピストン8のディスク部80との間に間隔を開けて配置されており、第2ピストン9の基部901と、第1ピストン8の基部801の間に、ダンパ装置30を収容可能な空間が確保されている。
【0030】
基部901における接続部902寄りの外周部では、コンバータカバー4の壁部40(内径側壁部401)との対向面に、回転軸X方向から見てリング状を成すフェーシング材92が取り付けられており、このフェーシング材92は、第2ピストン9がコンバータカバー4の壁部40側に変位した際に、変位量に応じて、壁部40の内径側壁部401に圧接するようになっている。
【0031】
実施の形態では、アプライ室R1とリリーフ室R2の間に差圧を生じさせていない状態で、第2ピストン9のフェーシング材92と、コンバータカバー4の壁部40(内径側壁部401)との離間距離W1が、第1ピストン8のフェーシング材82と、コンバータカバー4の壁部40(外径側壁部402)との離間距離W2よりも狭い幅となるように設定されている(W1<W2)。
そのため、アプライ室R1とリリーフ室R2の間の差圧により、第1ピストン8と第2ピストン9が、コンバータカバー4の壁部40側(図中、右側)に変位すると、第2ピストン9のフェーシング材92のほうが、第1ピストン8のフェーシング材82よりも先に、壁部40に接触するようになっている。
【0032】
第1ピストン8の接続部802と、第2ピストン9の接続部902との間には、回転軸X方向から見てリング状を成す皿バネ20が設けられている。
この皿バネ20の外周部21は、リベットRaにより第1ピストン8の接続部802に固定されており、皿バネ20と第1ピストン8との回転軸X周りの周方向の相対回転が、リベットRaにより規制されている。
【0033】
皿バネ20の内周部22(
図2の(b)参照)は、内径側(回転軸X側)に突出する突出部22aを有しており、この突出部22aは、第2ピストン9の接続部902に固定された保持部材25の凹部25aに、回転軸Xの径方向外側から係合している。
そのため、第1ピストン8と第2ピストン9の回転軸X周りの周方向の相対回転が、保持部材25の凹部25aに係合させた皿バネ20の突出部22aにより規制されている。
【0034】
第2ピストン9において保持部材25は、回転軸X周りの周方向に、所定間隔で複数設けられており、皿バネ20の突出部22aも、回転軸X周りの周方向に、所定間隔で保持部材25と同数設けられている。
【0035】
ここで、皿バネ20は外周部21のみが第1ピストン8に固定されているので、第1ピストン8が第2ピストン9に近づく方向に変位すると、皿バネ20の内周部22が、回転軸X側(内径側)に変位するようになっている。
そのため、皿バネ20の突出部22aと保持部材25とが干渉して、第1ピストン8の第2ピストン9に近づく方向への変位が阻害されないようにするために、アプライ室R1とリリーフ室R2の間に差圧を生じさせていない状態(トルコン状態)で、皿バネ20の突出部22aと、保持部材25の凹部25aとの間に、回転軸Xの径方向の間隙W3が確保されている。
【0036】
以下、トルクコンバータ装置1におけるロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)の動作と、トルク伝達容量の変化を説明する。
【0037】
図3は、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)の動作を説明する図であり、(a)は、アプライ室R1とリリーフ室R2の間に差圧を生じさせていない状態(トルコン状態)での第1ピストン8と第2ピストン9の配置を示した図であり、(b)は、アプライ室R1とリリーフ室R2の間に発生させた差圧により、第2ピストン9のフェーシング材92が壁部40(内径側壁部401)に圧接した状態を示す図であり、(c)は、アプライ室R1とリリーフ室R2の間に発生させた差圧により、さらに第1ピストン8のフェーシング材82が壁部40(外径側壁部402)に圧接した状態(ロックアップ状態)を示す図であり、(d)は、トルコン状態での皿バネ20の突出部22aと保持部材25の凹部25aの位置関係を示す図であり、(e)は、ロックアップ状態での皿バネ20の突出部22aと保持部材25の凹部25aの位置関係を示す図である。
図4は、トルクコンバータ装置1が、トルコン状態からロックアップ状態に移行する過程でのトルク伝達容量の変化と、差圧の大きさとの関係を説明する図である。
【0038】
図3の(a)に示すように、アプライとリリーフ室R2の間に差圧を生じさせていない状態(トルコン状態)では、第1ピストン8のフェーシング材82と、第2ピストン9のフェーシング材92は、それぞれ外径側壁部402と内径側壁部401との間に間隙を開けて配置されている。
この状態においてトルクコンバータ装置1では、駆動源から入力された回転駆動力をコンバータハウジング2内の流体を介して入力軸10に伝達している。
【0039】
この状態から、アプライ室R1内の圧力をリリーフ室R2内の圧力よりも高くして、アプライ室R1とリリーフ室R2との間に差圧を発生せると、第1ピストン8と第2ピストン9の両方が、油圧により押されて壁部40側(図中右側)に変位することになる。
【0040】
そうすると、第2ピストン9のフェーシング材92と、コンバータカバー4の内径側壁部401との離間距離W1が、第1ピストン8のフェーシング材82と、コンバータカバー4の外径側壁部402との離間距離W2よりも狭い幅に設定されているので(
図2の(a)参照、W1<W2)、第2ピストン9のフェーシング材92が、第1ピストン8のフェーシング材82よりも先に、内径側壁部401に接触することになる(
図3の(b)参照)。
【0041】
ここで、フェーシング材92が内径側壁部401に接触した直後では、第2ピストン9のフェーシング材92と内径側壁部401とがスリップ状態で接触している。
そして、差圧が大きくなって、油圧により押されたフェーシング材92の内径側壁部401に対する圧接力が高くなるにつれて、第2ピストン9と内径側壁部401との相対回転が少なくなってスリップ状態が徐々に解消することになる。
そのため、フェーシング材92の内径側壁部401への接触により、第2ピストン9を介したトルクの伝達が開始される(
図4、差圧p1)と共に、スリップ状態の解消に伴って第2ピストン9を介したトルク伝達量が増加することになる(
図4、符号A参照)。
【0042】
ここで、第2ピストン9を介したトルクの伝達が開始されると、第2ピストン9は、コンバータカバー4から伝達される回転駆動力により、回転軸X回りに回転することになる。
【0043】
なお、第2ピストン9の接続部902と、第1ピストン8の接続部802との間には、皿バネ20が介在しており、第2ピストン9と第1ピストン8は、回転軸X周りの相対回転が、前記した皿バネ20の突出部22aと第2ピストン9に固定された保持部材25とにより規制されている。
そのため、第2ピストン9が回転軸X回りに回転すると、第1ピストン8もまた、回転軸X回りに回転することになる。
【0044】
さらに差圧が大きくなると、第2ピストン9と第1ピストン8とが壁部40(内径側壁部401、外径側壁部402)に移動して、第2ピストン9が内径側壁部401に対して相対回転不能に締結されると共に、第1ピストン8のフェーシング材82が、外径側壁部402に接触する(
図4、差圧p2)。
【0045】
ここで、第1ピストン8は、この皿バネ20の弾性力により、第2ピストン9に近づく方向への変位が抑制されている。
そのため、アプライ室R1とリリーフ室R2の間の差圧がより大きくなって、第1ピストン8を外径側壁部402側に押圧する押圧力が、皿バネ20の弾性力よりも大きくなるまで(差圧p2まで)の間は、第2ピストン9のみが壁部40(内径側壁部401)に締結した状態で保持されることになる。
【0046】
なお、実施の形態では、第2ピストン9のフェーシング材92の内径側壁部401との接触から、第1ピストン8のフェーシング材82の外径側壁部402との接触までの差圧の変化量(差圧変化量P1)は、皿バネ20の弾性力に応じて決まるので、
例えば、皿バネを変更することで、第1ピストン8のフェーシング材82が接触する差圧p2を、この差圧p2よりも大きい差圧p2’までとして、第1ピストン8のフェーシング材82を外径側壁部402に当接させるまでに必要とされる差圧の変化量P1’を大きくすることも可能である。
すなわち、第2ピストン9のフェーシング材92の内径側壁部401との接触から、第1ピストン8のフェーシング材82の外径側壁部402との接触までの差圧変化量(P1)を、皿バネ20の弾性力を変更することで、適切に調節できるようになっている。
【0047】
フェーシング材82が外径側壁部402に接触した直後では、第1ピストン8のフェーシング材82と外径側壁部402とがスリップ状態で接触している。
そして、差圧がさらに大きくなって、油圧により押されたフェーシング材82の外径側壁部402に対する圧接力が高くなるにつれて、第1ピストン8と外径側壁部402との相対回転が少なくなってスリップ状態が徐々に解消することになる。
そのため、フェーシング材82の外径側壁部402への接触により、第1ピストン8を介したトルクの伝達が開始される(
図4、差圧p2)と共に、スリップ状態の解消に伴って第1ピストン8を介したトルク伝達量が増加することになる(
図4、符号B参照)。
【0048】
第1ピストン8を介したトルクの伝達が開始されると、第1ピストン8は、皿バネ20を回転軸X方向に押し縮めながら、外径側壁部402側に変位する。これにより、第1ピストン8に固定された皿バネ20の内周部22(突出部22a)は、回転軸X側(第2ピストン9に固定された保持部材25側)に変位することになる。
ここで、保持部材25の凹部25aと突出部22aの内周との間に、皿バネ20の内周部22の内径側への変位を許容するための間隙W3が設けられている。そのため、皿バネ20の内周部22の内径側への変位が規制されて、第1ピストン8の壁部40(外径側壁部402)側への移動が阻止されないようになっている(
図3の(d)、(e)参照)。
【0049】
そして、差圧がさらに大きくなると、第1ピストン8が壁部40(外径側壁部402)側にさらに移動して、第1ピストン8が外径側壁部402に対して相対回転不能に締結されることになる(
図4、差圧p3)。これにより、差圧が差圧p3となった以降は、第1ピストン8と第2ピストン9の両方を介したトルクの伝達が行われることになる。
そして、トルクコンバータ装置1によるトルク伝達容量が、差圧の増大と共に大きくなる(
図4、符号C参照)。
【0050】
なお、実施の形態では、第1ピストン8のフェーシング材82が外径側壁部402に接触する差圧p2から、第1ピストン8が外径側壁部402に相対回転不能に締結される差圧p3になるまでの差圧変化量(P2)は、皿バネ20の弾性力に応じて決まるので、
例えば、皿バネの弾性力を変更することで、第1ピストン8のフェーシング材82の外径側壁部402への接触から、第1ピストン8と壁部40(外径側壁部402)とが相対回転不能に締結されるまでのトルク伝達容量の変化率(図中、符号B1〜B3)を適宜調節して、第1ピストン8と壁部40(外径側壁部402)とが相対回転不能に締結されるまでに必要な差圧変化量P2、P2’を変更できるようになっている。
なお、実施の形態では、皿バネの弾性力は、車両におけるトルク要求値に応じて設定されている。
【0051】
以上の通り、実施の形態では
(1)駆動源の出力回転が入力されるコンバータカバー4と、当該コンバータカバー4と一体に回転するポンプインペラ3とで構成したコンバータハウジング2内に、共通の回転軸X上でポンプインペラ3に対向配置されたタービンランナ5と、ポンプインペラ3とタービンランナ5との間に介在させたステータ6と、ポンプインペラ3とで形成した流体伝導部15を備えており、
タービンランナ5のハブ7に支持させたロックアップクラッチピストンを、タービンランナ5とコンバータカバー4との間に配置して、ロックアップクラッチピストンの流体伝導部15側をアプライ室R1、コンバータカバー4側をリリーフ室R2としたロックアップクラッチ付きトルクコンバータ装置1において、
ロックアップクラッチピストンを、第1ピストン8と、第1ピストン8よりも外径が小さい第2ピストン9とから構成し、
第2ピストン9を、第1ピストン8のコンバータカバー4の壁部40側で、アプライ室とリリーフ室の間に差圧を発生させた際に第1ピストン8よりも先にコンバータカバー4に接触する位置に配置し、
第1ピストン8と第2ピストン9とを、第1ピストン8と第2ピストン9との間に介在させた皿バネ20(弾性部材)により、回転軸X方向に相対変位可能、かつ回転軸X回りに相対回転不能に連結した構成のロックアップクラッチ付きトルクコンバータ装置1とした。
【0052】
このように構成すると、アプライ室R1とリリーフ室R2との間に差圧を発生させると、第1ピストン8は、第2ピストン9に遅れてコンバータカバー4の壁部40に接触する。
ここで、第1ピストン8と第2ピストン9との間に皿バネ20が介在しているので、弾性力の異なる複数の皿バネの中から、適切な弾性力の皿バネ20を選択して採用することで、第2ピストン9に遅れてコンバータカバー4の壁部40に接触した第1ピストン8の圧接力を、適切に調整できるので、トルク伝達容量の変化を細かく設定できることになる
【0053】
(2)皿バネ20の弾性力は、トルクコンバータ装置1を備える自動変速機を搭載した車両でのトルク要求値に応じて設定される構成とした。
【0054】
このように構成すると、弾性力の異なる皿バネを複数用意しておき、車両でのトルク要求値に応じて皿バネを取り替えることで、車両毎にトルク伝達容量を最適化することが可能になる。
【0055】
(3)皿バネ20弾性部材は、回転軸X方向から見てリング状を成す皿バネ20であり、
皿バネ20の外周部21は、第1ピストン8の接続部802にリベットRaによりに固定され、
皿バネ20の内周部22には、径方向内側に突出部22aが、回転軸X周りの周方向に所定間隔で複数設けられており、
突出部22aの各々は、第2ピストン9の接続部902に固定された保持部材25の凹部25aで、回転軸Xの径方向に移動可能に支持されており、
凹部25aに支持された突出部22aにより、第1ピストン8と第2ピストン9の回転軸X周りの相対回転が規制され、
凹部25aで、回転軸Xの径方向に移動可能に支持された突出部22aにより、第1ピストン8と第2ピストン9の回転軸X方向の相対移動が可能とされている構成とした。
【0056】
このように構成すると、突出部22aを有する皿バネ20を、第1ピストン8側に固定し、この突出部22aを、第2ピストン9側に固定した保持部材25の凹部25aに支持させるという簡単な構成で、第1ピストン8と第2ピストン9とを、回転軸X方向に相対変位可能、かつ回転軸X回りに相対回転不能に連結できる。
【0057】
なお、皿バネ20を第2ピストン9側に固定すると共に、保持部材25を第1ピストン8側に固定する構成としても良い。このように構成することによっても、前記した実施の形態の場合と同様の効果が奏されることになる。
【0058】
なお、前記した実施の形態では、ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)のフェーシング材82、92の回転軸X方向の厚みWxが同じ厚みである場合を例示したが、この厚みWxが、内径側(回転軸X)側に向かうにつれて薄くなるようにしたフェーシング材82A、92Aとしても良い。
【0059】
ロックアップクラッチピストン(第1ピストン8、第2ピストン9)をロックアップ状態で保持している状態では、ロックアップクラッチピストンの内径側のほうが外径側よりも壁部40側(
図2において右側)に位置する場合がある。
前記した実施の形態のフェーシング材82、92の場合、コンバータカバー4の壁部40(外径側壁部402、内径側壁部401)との対向面821、921が壁部40(外径側壁部402、内径側壁部401)に対して平行であるので、ロックアップクラッチピストンの内径側のほうが外径側よりも壁部40側に位置すると、フェーシング材82、92の外径側で、壁部40(外径側壁部402、内径側壁部401)との間に隙間Saが生じることがある(フェーシング材92の場合を例示する
図2の(c)参照)。
そうすると、この発生した隙間Saの分だけトルク伝達容量が低下してしまう。
【0060】
そのため、
図2の(d)に示すように、フェーシング材82、92の回転軸X方向の厚みWxを、内径側(回転軸X)側に向かうにつれて薄くしたフェーシング材82A、92Aを採用すると、ロックアップクラッチピストンの内径側のほうが外径側よりも壁部40側に位置した際に、フェーシング材82A、92Aの外径側で、壁部40(外径側壁部402、内径側壁部401)との間に隙間Saが生じることを好適に防止できる。これにより、隙間Saの発生に起因するトルク伝達容量の低下を好適に防止できる。
【0061】
以下、変形例に係るトルクコンバータ装置1Aを説明する。
図5は、変形例に係るトルクコンバータ装置1Aを説明する図であり、(a)は、断面図であり、(b)は、(a)におけるA−A断面図であって、弾性部材として採用された板バネ27を説明する図であり、(c)は、板バネ27を回転軸X方向から見た平面図である。
【0062】
変形例に係るトルクコンバータ装置1Aでは、ダンパ装置30Aが、コンバータハウジング2内の外径側に設けられており、第1ピストン8と、タービンランナ5のシェル50とが、ダンパ装置30Aを介して回転伝達可能に連結されている。
【0063】
第1ピストン8の内径側の基部801と、第2ピストン9の内径側の基部901は、回転軸X方向に間隔を開けて配置されており、これら基部801、901を接続して板バネ27が設けられている。
図5の(b),(c)に示すように、板バネ27は、帯状の基部270を有しており、この板バネ27は、回転軸Xの径方向から見て、回転軸Xに直交する向きで設けられている。
【0064】
板バネ27の一端270aは、リベットRbを介して第2ピストン9の基部901に連結されており、他端270bは、リベットRbを介して第1ピストン8の基部801に連結されている。
この板バネ27の第1ピストン8との連結部(他端270b)と、第2ピストン9との連結部(一端270a)は、回転軸X周りの周方向でオフセットしており、板バネ27を介して連結された第1ピストン8と第2ピストン9は、回転軸X周りの周方向の相対回転が規制された状態で、回転軸X方向に相対変位可能に設けられている。
【0065】
このように、
(4)変形例に係るトルクコンバータ装置1Aでは、弾性部材として、帯状の板バネ27を採用し、板バネ27の基部270の長手方向における他端270bは、第1ピストン8の基部801に固定され、一端270aは、第2ピストン9の基部901に固定されている構成とした。
【0066】
このように構成することによっても、前記した実施の形態の場合と同様の効果が奏されることになる。