(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
車両のシートに着座した乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダベルト部と、該ショルダベルト部に一体的に連なり、前記乗員の腰部を跨いで車幅方向に掛け渡されるラップベルト部とを有するウェビングと、
前記ショルダベルト部の端部が巻取り可能に結合されるショルダ側リトラクタと、
前記ラップベルト部の端部が巻取り可能に結合されるラップ側リトラクタと、
前記ウェビングが挿通する挿通孔を有し、前記ウェビングの長手方向に沿って移動可能なタングと、
該タングが係脱自在に係合されるバックルと、
該バックルを車両の下方に向かって引き込むプリテンショナと
を備え、
前記ウェビングは、前記タングが前記ショルダ側リトラクタ寄りに移動することを前記長手方向の中途部にて規制する規制部を備え、
前記バックルにて前記タングを係合した際、前記ラップ側リトラクタ内の前記ウェビングの巻残り量が前記ショルダ側リトラクタ内の前記ウェビングの巻残り量より少なくなるように、前記長手方向における前記規制部の位置を定めてあることを特徴とするシートベルト装置。
シートベルトの非装着時に、前記タングが前記乗員の腰骨の近傍に位置するように、前記ショルダ側リトラクタ及び前記ラップ側リトラクタの巻取りバネ力が設定されていることを特徴とする請求項1から請求項4の何れか1つに記載のシートベルト装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ショルダ側リトラクタにプリテンショナを設けたシートベルト装置は、一端側からウェビングを引き込む構成であるため、乗員の快適性確保のために、モータを装備したモータリトラクタや、テンションレデューサなどを備える構成が必要であった。
【0006】
しかしながら、このような構成の場合、腰ベルト装着時の圧迫感を軽減することが困難であった。
【0007】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであり、モータやテンションレデューサを設けることなく、腰ベルト装着時の圧迫感を軽減しながら車両の衝突又は急減速における乗員の拘束性能を向上させたシートベルト装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願のシートベルト装置は、車両のシートに着座した乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダベルト部と、該ショルダベルト部に一体的に連なり、前記乗員の腰部を跨いで車幅方向に掛け渡されるラップベルト部とを有するウェビングと、前記ショルダベルト部の端部が巻取り可能に結合されるショルダ側リトラクタと、前記ラップベルト部の端部が巻取り可能に結合されるラップ側リトラクタと、前記ウェビングが挿通する挿通孔を有し、前記ウェビングの長手方向に沿って移動可能なタングと、該タングが係脱自在に係合されるバックルと、該バックルを車両の下方に向かって引き込むプリテンショナとを備えることを特徴とする。
【0009】
本願では、バックルを車両の下方に向かって引き込むプリテンショナを備えるため、例えば、車両の衝突時又は急減速時にプリテンショナを作動させることによって、ショルダベルト部及びラップベルト部は同時的に牽引される。これにより、1つのプリテンショナを用いた場合であっても、ショルダ側リトラクタ及びラップ側リトラクタの双方にプリテンショナを備えたデュアルプリテンショナ方式のシートベルト装置と同等の拘束性能を確保することができる。
【0010】
本願のシートベルト装置において、前記ウェビングは、前記タングが前記ショルダ側リトラクタ寄りに移動することを前記長手方向の中途部にて規制する規制部を備えることを特徴とする。
【0011】
本願では、タングがショルダ側リトラクタ寄りに移動することを規制する。シートベルトの装着時に主としてラップ側リトラクタからウェビングが引き出される。これにより、ラップ側リトラクタに格納されているウェビングの巻残り量は、ショルダ側リトラクタと比較して少なくなるので、プリテンショナの作動によりバックルが引き込まれた場合、フィルムエフェクトにより、ベルト張力はラップベルト部の方が早く上昇し、乗員の腰部を安定して拘束することができる。
【0012】
本願のシートベルト装置において、前記規制部は、所定の引張荷重で断裂可能な前記ウェビングのフューズ縫製により形成されていることを特徴とする。
【0013】
本願では、プリテンショナの作動によりバックルが引き込まれた場合にフューズ縫製が破断し、ウェビングによる拘束時に圧迫感を和らげることができる。
【0014】
本願のシートベルト装置において、前記フューズ縫製は、前記ウェビングの長手方向に交差する一本の縫製であることを特徴とする。
【0015】
本願では、フューズ縫製が破断したときの荷重の落ち込みを小さくすることができると共に、所定の引張荷重でフューズ縫製が破断した際、ショルダベルト部の端部が腰部側に移動するので、ショルダベルト部のたるみを取り除くことができる。
【0016】
本願のシートベルト装置において、前記フューズ縫製は、前記ウェビングの長手方向に交差する複数本の縫製であることを特徴とする。
【0017】
本願では、フューズ縫製が段階的に破断した場合、荷重の落ち込みによる変動を少なくすることができる。
【0018】
本願のシートベルト装置は、前記バックルにて前記タングを係合した際、前記ラップ側リトラクタ内の前記ウェビングの巻残り量が前記ショルダ側リトラクタ内の前記ウェビングの巻残り量より少なくなるように、前記長手方向における前記規制部の位置を定めてあることを特徴とする。
【0019】
本願では、ラップ側リトラクタに格納されているウェビングの巻残り量は、ショルダ側リトラクタと比較して少なくなるので、プリテンショナの作動によりバックルが引き込まれた場合、フィルムエフェクトにより、ベルト張力はラップベルト部の方が早く上昇し、乗員の腰部を安定して拘束することができる。
【0020】
本願のシートベルト装置は、シートベルトの非装着時に、前記タングが前記乗員の腰骨の近傍に位置するように、前記ショルダ側リトラクタ及び前記ラップ側リトラクタの巻取りバネ力が設定されていることを特徴とする。
【0021】
本願では、基本的にショルダ側リトラクタ及びラップ側リトラクタのそれぞれの巻取りバネ力を調整して、タングが腰ベルト付近に位置するようにする。ここで、2つのリトラクタに使われている巻取りバネが、自然状態で同じバネ力を有するものであっても、巻取り量の違いによって巻取り力が異なる。巻取り量が少ないリトラクタの方が巻取り力が強いことを利用し、ラップ側リトラクタの巻取り量が少なくなるようにすれば、ラップ側リトラクタの巻取り力が強くなるので、非装着時のウェビングは必然的に車両下方側に引っ張られ、タング位置が乗員の腰付近にくる。
【0022】
本願のシートベルト装置は、前記ラップ側リトラクタの巻取りバネ力が、前記ショルダ側リトラクタの巻取りバネ力より強く設定されていることを特徴とする。
【0023】
本願では、前記ラップ側リトラクタの巻取り力を前記ショルダ側リトラクタの巻取り力より強くしてあるため、タングはラップ側リトラクタ付近に引き込まれて停止する。これにより、シートベルト非装着時(ウェビング格納時)には、タングは乗員の腰骨脇あたりに存在することになるので、従来のシートベルト装置と比較して、少しの上体のひねりによりタングを手に取ることが可能となる。
【0024】
本願のシートベルト装置は、前記ラップ側リトラクタを前記シートの座面の近傍に設けてあることを特徴とする。
【0025】
本願では、ラップ側リトラクタをシートの座面の近傍に設けているので、シートベルト非装着時(ウェビング格納時)には、タングは乗員の腰骨脇あたりに存在する。このため、従来のシートベルト装置と比較して、少しの上体のひねりによりタングを手に取ることが可能となる。
【0026】
本願のシートベルト装置において、前記ショルダベルト部は、少なくとも前記乗員の胸部に相当する部分に、前記タングの挿通孔よりも広い幅を有する幅広部を備えることを特徴とする。
【0027】
本願では、ショルダベルト部に設けられた幅広部は、乗員の胸部を拘束する際に従来のベルトよりも衝突時に加わる圧力を分散させることができる。従来は、ショルダベルトの大部分がスルーアンカを通ってショルダ側のリトラクタに巻取られるため、スルーアンカの挿通孔やリトラクタのスプールより幅広部を有するウェビングは、リトラクタに巻取ることができず、使用することが不可能であった。本願では、格納されるべきウェビングの大部分は、ラップ側リトラクタによって巻取られ、ショルダ側リトラクタは、格納されるべきウェビングのわずかしか巻取られない。したがって、ウェビング格納時であっても、ショルダベルト部の乗員を拘束する大部分が車室内に露出しているので、ショルダベルト部に幅広部分があっても格納性が悪くなることもない。また、ラップ側リトラクタでウェビングは十分に巻取られているので、格納時(非装着時)にウェビングが無駄に空中で遊ぶこともない。
【0028】
本願のシートベルト装置は、前記車両の衝突又は急減速を検知する検知部を備え、前記検知部が前記車両の衝突又は急減速を検知した場合、前記プリテンショナを作動させるようにしてあることを特徴とする。
【0029】
本願では、車両の衝突時又は急減速時にプリテンショナを作動させることにより、ショルダベルト部及びラップベルト部は同時的に牽引される。これにより、1つのプリテンショナを用いた場合であっても、ショルダ側リトラクタ及びラップ側リトラクタの双方にプリテンショナを備えたデュアルプリテンショナ方式のシートベルト装置と同等の拘束性能を確保することができる。
【発明の効果】
【0030】
本願によれば、2つのリトラクタにそれぞれプリテンショナを設けることなく、車両の衝突又は急減速における乗員の拘束性能を高めることができる。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1に係るシートベルト装置を示す模式図であり、
図2は装着状態を示す模式図である。
図1では、参考として、車両の内装の一部、及び車両に設けられているシートを破線により示している。本実施の形態に係るシートベルト装置は、シートに着座した乗員を拘束するウェビング1、ウェビング1の一端が巻取り可能に結合されるショルダ側リトラクタ2、ウェビング1の他端が巻取り可能に結合されるラップ側リトラクタ3、ウェビング1の長手方向に沿って移動可能なタング4、及びタング4が係脱自在に係合されるバックル5を備える。
【0033】
ウェビング1は、ポリエステル線維等により形成された帯状のベルトであり、ピラーの上部に設けられたスルーアンカ7で折り返されて乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダベルト部1Aと、乗員の腰部を跨いで車幅方向に渡されるラップベルト部1Bとを有する。実施の形態1では、ウェビング1はショルダベルト部1A及びラップベルト部1Bが一体的に連なる1本のベルトとして構成され、その中途部にタング4がショルダ側リトラクタ2寄りに移動することを規制する規制部10を備えることを特徴の1つとしている。
【0034】
ショルダ側リトラクタ2は、ピラーに設置され、ウェビング1の一端(ショルダベルト部1Aの端部)を巻取る。また、ラップ側リトラクタ3は、シートの車両側面側に設置され、ウェビング1の他端(ラップベルト部1Bの端部)を巻取る。これらのリトラクタ2,3は、ウェビング1の端部が係止されるスプール、スプールの回転軸を常時ウェビング1の巻取回転方向に付勢する巻取りバネ、車両の衝撃及び急減速をそれぞれ検知する2つのセンサ、これらのセンサにより衝撃又は急減速を検知したときにウェビング1の引き出しをロックするロック機構、予め設定したウェビング1の荷重を維持するロードリミッタ機構等(不図示)を備える公知のリトラクタである。
【0035】
なお、本実施の形態では、シートベルトの非装着時に、タング4が乗員の腰骨近傍に位置するように、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3のそれぞれに搭載されている巻取りバネ力が設定されている。例えば、ラップ側リトラクタ3のウェビング1の巻取り力がショルダ側リトラクタ2のウェビング1の巻取り力より強くなるように、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3のそれぞれに搭載されている巻取りバネのトルクが調整されている。また、シートベルトの非装着時にタング4が下方に落ちることを防止するために、ウェビング1は、規制部10からラップ側リトラクタ3側へ適宜の間隔を空けて固定されたタングストッパ11を備える。
【0036】
タング4は、ウェビング1が挿通する挿通孔41を有する基部40と、バックル5により係合されるタングプレート42とを備える。タング4は、ウェビング1が挿通孔41に挿通した状態にて、ウェビング1により移動可能に支持される。本実施の形態では、ショルダ側リトラクタ2寄りへのタング4の移動を規制する規制部10がウェビング1に設けられているので、タング4は、ラップ側リトラクタ3と規制部10との範囲内でウェビング1の長手方向に沿って移動可能である。
【0037】
バックル5は、タングプレート42が挿入される挿入口51を有するバックル本体50と、挿入口51に挿入されたタングプレート42を係合するラッチ機構(不図示)と、ラッチ解除用のプレスボタン52とを備える。バックル5は、ラップ側リトラクタ3が設置されている側とは反対側のシート側面において、シートの座面付近に設置される。乗員は、タング4の基部40を把持してタングプレート42をバックル5の挿入口51から挿入し、タングプレート42をラッチ機構に係合させることにより、シートベルト装置の装着を行う。また、乗員は、プレスボタン52を押下操作してタングプレート42をラッチ機構から離脱させることにより、シートベルト装置の装着の解除を行う。なお、タング4がバックル5により係合された場合、
図2に示すように、ラップ側リトラクタ3からタング4までがウェビング1のラップベルト部1Bとなり、タング4からスルーアンカ7までがウェビング1のショルダベルト部1Aとなる。
【0038】
バックル5は、ワイヤケーブル60を介してプリテンショナ機構6に接続されている。プリテンショナ機構6は、例えば車両の衝突又は急減速を検知したときに、図に示していないガスジェネレータから多量のガスを発生させることによりワイヤケーブル60を牽引し、バックル5をシートの座面より下方へ引き込むための装置である。プリテンショナ機構6は、制御装置としてのECU101(
図3を参照)により、作動が制御される。
【0039】
図3はプリテンショナ機構6の制御系の構成を説明するブロック図である。プリテンショナ機構6の制御系の構成として、ECU101(Electronic Control Unit)、衝突センサ102、及び加速度センサ103を備える。ECU101は、図に示していないCPU及びメモリを備え、メモリに予め記憶された制御プログラムをCPUが実行することにより、各種の制御を行う。
【0040】
衝突センサ102は、例えばミリ波レーダ等の前方障害物との距離に応じた信号をECU101へ出力する。ECU101は、衝突センサ102から出力される信号に基づき、車両の衝突(若しくは衝突の予兆)を検知する。例えば、ECU101は、衝突センサ102から出力される信号に基づき、車両と前方障害物との距離が所定値以下であると判定した場合、衝突(若しくは衝突の予兆)を検知したと判断する。衝突(若しくは衝突の予兆)を検知した場合、ECU101は、プリテンショナ機構6を作動させるための制御信号をプリテンショナ機構6へ出力する。
【0041】
加速度センサ103は、例えば車両の加速度に応じた信号をECU101へ出力する。ECU101は、加速度センサ103から出力される信号に基づき、車両の急減速を検知する。例えば、ECU101は、予め定めた閾値より大きな加速度の減少を検知した場合、車両の急減速を検知したと判断する。車両の急減速を検知した場合、ECU101は、プリテンショナ機構6を作動させるための制御信号をプリテンショナ機構6へ出力する。
【0042】
プリテンショナ機構6は、ECU101からの制御信号が入力された場合に、ガスジェネレータにより多量のガスを発生させ、発生させたガスの作用により、ワイヤケーブル60を瞬時に牽引する。ワイヤケーブル60の先端にはバックル5が接続されているので、プリテンショナ機構6は、ワイヤケーブル60の牽引に伴ってバックル5をシート座面の下方に引き込む。このとき、タング4がバックル5に係合されており、かつ、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3の双方がロック機構によりロックしている場合には、バックル5が下方へ引き込まれることにより、ラップベルト部1B及びショルダベルト部1Aを同時的に牽引することができ、ラップベルト部1Bによる腰部の拘束性、並びにショルダベルト部1Aによる肩部及び胸部の拘束性を高めることができる。
【0043】
以下、ウェビング1が備える規制部10の作用について説明する。
図4はウェビング1が備える規制部10を模式的に示す斜視図である。本実施の形態では、ウェビング1の長手方向の中途部にタング4がショルダ側リトラクタ2寄りに移動することを規制する規制部10を備える。この規制部10は、バックル5によりタング4を係合した際、ラップ側リトラクタ3内のウェビング1の巻残り量がショルダ側リトラクタ2内のウェビング1の巻残り量より少なくなるように、ウェビング1の長手方向の位置が位置決めされている。
【0044】
一般的に、巻残り量は、ウェビングの全長からリトラクタの外部に露出しているウェビングの長さを差し引いた長さ(すなわち、リトラクタ内のスプールに巻かれているウェビングの長さ)により定義される。本実施の形態では、例えば、ショルダ側リトラクタ2内のスプールに係止されているウェビング1の一端から規制部10までの長さをショルダベルト部1Aの全長L1とし、ショルダ側リトラクタ2の外部に露出しているショルダベルト部1Aの長さをx1とした場合、ショルダ側リトラクタ2内のウェビング1の巻残り量は、L1−x1により表すことができる。同様に、ラップ側リトラクタ3内のスプールに係止されているウェビング1の他端から規制部10までの長さをラップベルト部1Bの全長L2とし、ラップ側リトラクタ3の外部に露出しているラップベルト部1Bの長さをx2とした場合、ラップ側リトラクタ3内のウェビング1の巻残り量は、L2−x2により表すことができる。
【0045】
規制部10は、ウェビング1にフューズ縫製を施すことによって形成される。例えば、長手方向に交差するようにウェビング1を山折りし、折り山の稜線から一定距離だけ離隔した箇所を幅方向に一本の縫製10Aにより縫い合わせることにより、規制部10を形成する。このとき、折り山の高さがタング4の挿通孔41を通過できない高さとなるように縫製を施すことにより、規制部10によってタング4の移動を規制することができる。
【0046】
図5はウェビング1の格納状態を表す模式図である。ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3は、スプールの回転軸を常時ウェビング1の巻取回転方向に付勢する巻取りバネを有しているので、シートベルトの非装着時には、ウェビング1はショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3により巻取られ、各リトラクタ2,3内に格納される。本実施の形態では、ラップ側リトラクタ3のウェビング1の巻取り力がショルダ側リトラクタ2のウェビング1の巻取り力より強く、しかも、タング4からショルダ側リトラクタ2寄りに設けた規制部10を有するので、ウェビング1の格納時には、タング4はラップ側リトラクタ3寄りに引き込まれ、タングストッパ11により下方に落ちることなく、タングストッパ11と規制部10との間に挟まれた状態にて、着座した乗員の腰骨脇あたりで停止する。よって、乗員は、タング4を取り出す際に、上体を少しだけひねることによりタング4を手に取ることができる。
【0047】
図6はタング4の取り出し状態を表す模式図であり、
図7はタング4をバックル5に係合させた状態を表す模式図である。乗員の手によりタング4をバックル5側へ移動させた場合、ショルダ側リトラクタ2からの一定値以上のウェビング1の引き出しが規制部10の作用によって制限されるため、ウェビング1は主としてラップ側リトラクタ3より繰り出される。この結果、タング4がバックル5により係合された場合、ラップ側リトラクタ3内に巻残るウェビング1の長さ(巻残り量)は、ショルダ側リトラクタ2内に巻残るウェビング1の長さより短くなる。シートベルト装着時における通常の使用状態では、肩側のウェビング1(ショルダベルト部1A)の張力が腰側のウェビング1(ラップベルト部1B)の張力よりも小さいので、大きな圧迫感を感じることなく、乗員にとってより快適なベルト装着感を得ることができる。
【0048】
図8は拘束状態を表す模式図である。ECU101が車両の衝突又は急減速を検知したときに出力する制御信号に基づきプリテンショナ機構6が作動した場合、バックル5は、ワイヤケーブル60に牽引されて下方(すなわち、
図8の白抜矢符の方向)へ引き込まれる。また、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3に内蔵されているセンサによって車両の衝撃又は急減速を検知した場合には、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3は、それぞれに搭載されているロック機構によってロックされる。
【0049】
ロックされたショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3において、スプールに巻かれたウェビング1に引っ張り張力が作用した場合、各リトラクタ内で巻残っているウェビング1間の隙間が減少するとき、低張力下でウェビング1が引き出されるフィルムエフェクトという現象が発生する。この現象の後に高反力状態に移行して、ウェビング1による拘束性が発揮される。
【0050】
本実施の形態では、上述したように、ラップ側リトラクタ3内での巻残り量は、ショルダ側リトラクタ2内での巻残り量より少ないので、プリテンショナ機構6によるバックル5の引き込みに伴うベルト張力の上昇は、ショルダベルト部1Aと比較してラップベルト部1Bの方が早くなる。この結果、本実施の形態に係るシートベルト装置は、バックル5の引き込む際に、まず腰部の拘束性を確保することができる。
【0051】
その後、バックル5がワイヤケーブル60による牽引によって下方に引き込まれるとき、タング4の挿通孔41においてフューズ縫製が所定の引張荷重で破断し、肩側のウェビング1(ショルダベルト部1A)がタング4の挿通孔41を通過する。すなわち、ショルダベルト部1Aの端部がタング4の挿通孔41を通過して腰部側へ移動するので、ショルダベルト部1Aのたるみを取り除くことができる。
【0052】
また、プリテンショナ機構6が作動し、より適切に乗員の胸部の拘束性を確保することができる。
【0053】
図9は本実施の形態に係るシートベルト装置の拘束性能のシミュレーション結果を示す図である。
図9では比較例として、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3の双方がプリテンショナ機構6を備えるデュアルプリテンショナ方式(従来方式)のシートベルト装置のシミュレーション結果を併せて示している。
【0054】
まず、胸加速度の計測結果について示す。胸加速度は、3ms間の速度の上昇値を計測することによって求められる。従来のデュアルプリテンショナ方式では、40.97という値であったのに対し、本願の方式では47.89という値となった。胸加速度については改善が見られなかったものの、胸加速度の値は胸部の水平移動量と関連があり、胸部の水平移動量が小さい場合、胸加速度が大きくなり、胸部の水平移動量が大きい場合、胸加速度は小さくなるという関係性を有している。
【0055】
次に、胸たわみ量について説明する。本実施の形態では、ダミーの胸(肋骨)の裏側に片持ちばりの端部を接触させて撓んだときのひずみにより、たわみ量を計算した。従来のデュアルプリテンショナ方式では、36.74mmであったのに対し、本願の方式では33.97mmとなり、胸たわみ量に関しては従来のデュアルプリテンショナ方式と比較して改善したことが分かる。
【0056】
次に、胸部の水平移動量について説明する。本実施の形態では、胸部と車両のインスルメントパネルとの衝突を調べることにより、胸部の水平移動量を計算した。従来のデュアルプリテンショナ方式では、313.98mmであったのに対し、本願の方式では308.20mmとなり、胸部の水平移動量についても、従来のデュアルプリテンショナ方式と比較して改善したことが分かる。
【0057】
次に、腰部の水平移動量について説明する。本実施の形態では、膝と車両のインストルメントパネルとの衝突を調べることにより、腰部の水平移動量を計算した。従来のデュアルプリテンショナ方式では、215.41mmであったのに対し、本願の方式では201.11mmとなり、胸部の水平移動量についても、従来のデュアルプリテンショナ方式と比較して改善したことが分かる。
【0058】
以上のように、本実施の形態では、複数のプリテンショナ機構6を搭載しない場合であっても、従来のデュアルプリテンショナ方式のシートベルト装置と同等以上の拘束性能を確保することができる。
また、モータやテンションレデューサを設けることなく、ラップベルト部1Bの装着時における圧迫感を軽減しながら、車両の衝突又は急減速における乗員の拘束性能を向上させることができる。
【0059】
なお、本実施の形態では、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3のそれぞれに搭載される巻取りバネ力を設定することで、シートベルトの非装着時にはタング4が乗員の腰骨近傍に位置するように構成したが、自然状態で同じバネ力を有するものであっても、巻取り量の違いによって巻取り力が異なる性質を利用して、シートベルトの非装着時にタング4が乗員の腰骨付近に位置するように構成してもよい。
【0060】
自然状態で同じバネ力を有するリトラクタを用いて巻残り量を設定する場合、例えば、以下のようにして、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3を車両内にセットする。まず、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3からウェビング1を全量引き出した状態から、ショルダ側リトラクタ2によりウェビング1を所定量(例えば300mm程度)だけ巻取る。次に、その状態から、ウェビング1がシートベルト非装着時の長さになるように、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3の双方にて等しい長さだけウェビング1を巻取る。そして、巻取ったウェビング1の長さが変わらないようにウェビング1を仮止めし、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3を車両にセットする。
【0061】
以上の構成により、ショルダ側リトラクタ2及びラップ側リトラクタ3の双方からウェビング1を引き出した状態にて、ラップ側リトラクタ3の巻取り量はショルダ側リトラクタ2の巻取り量より少なくなり、ラップ側リトラクタ3の巻取り力が強くなるので、非装着時のウェビングは必然的に車両下方側に引っ張られ、タング4は乗員の腰骨付近に位置するようになる。
【0062】
(実施の形態2)
実施の形態2では、ウェビング1が備える規制部10の変形例について説明する。なお、規制部10以外の構成は、実施の形態1と同様であるため、その詳細な説明は省略することとする。
【0063】
図10は実施の形態2に係る規制部10を模式的に示す斜視図である。実施の形態2では、実施の形態1と同様に、ウェビング1の長手方向の中途部にタング4がショルダ側リトラクタ2寄りに移動することを規制する規制部10を備える。
【0064】
実施の形態1では、長手方向に交差するようにウェビング1を山折りし、折り山の稜線から一定距離だけ離隔した箇所を幅方向に一本の縫製10Aにより縫い合わせることにより、規制部10を形成した。この一本の縫製10Aによる縫製が破断するとき、一針分ごとの破断が連続して起こることになる。
【0065】
このため、実施の形態2では、一本の縫製自体の破断荷重を下げて、複数本の縫製10Bにより規制部10を形成する。具体的には、長手方向に交差するようにウェビング1を山折りし、折り山の稜線から一定距離だけ離隔した箇所を幅方向に一本の縫製により縫い合わせ、この一本の縫製の端部を別の一本の縫製につなげ、最終的には縫製開始ポイントに戻るようなカム式縫製のパターンを採用する。
【0066】
複数本の縫製10Bを採用することにより、全体として十分な破断荷重を確保しつつ、一本の縫製ごとの破断荷重(一針分の破断強度)を下げることができるので、プリテンショナ機構6の作動に伴うバックル5の引き込みにより複数本の縫製10Bが破断する際、荷重の振動的な動きを抑えることが可能となる。
【0067】
(実施の形態3)
実施の形態3では、シートに着座した乗員の胸部に相当する部分に、タング4の挿通孔41よりも広い幅を有する幅広部をウェビング1が備えた構成について説明する。
なお、ウェビング1以外の構成は、実施の形態1と同様であるため、その詳細な説明は省略することとする。
【0068】
図11は実施の形態3に係るシートベルト装置の装着状態を示す模式図である。実施の形態3に係るシートベルト装置は、実施の形態1と同様に、シートに着座した乗員を拘束するウェビング1、ウェビング1の一端が巻取り可能に結合されるショルダ側リトラクタ2、ウェビング1の他端が巻取り可能に結合されるラップ側リトラクタ3、ウェビング1の長手方向に沿って移動可能なタング4、及びタング4が係脱自在に係合されるバックル5を備える。
【0069】
ウェビング1は、ピラーの上部に設けられたスルーアンカ7で折り返されて乗員の肩部から腰部にかけて斜めに掛け渡されるショルダベルト部1Aと、乗員の腰部を跨いで車幅方向に渡されるラップベルト部1Bとを備え、これらのショルダベルト部1A及びラップベルト部1Bが一体的に連なる1本のベルトとして構成されている。また、実施の形態3では、ショルダベルト部1Aは、ベルト装着時に少なくとも乗員の胸部に相当する部分にタング4の挿通孔41よりも広い幅を有する幅広部1Cを備える。
【0070】
このため、実施の形態3に係るシートベルト装置は、ショルダベルト部1Aが備える幅広部1Cにより乗員の胸部を拘束する際、従来のシートベルト装置よりも衝突時に加わる圧力を分散させることができる。
【0071】
従来のシートベルト装置では、シートベルト非装着時において、ウェビングの大部分がスルーアンカを通ってショルダ側に設置されたリトラクタにより巻取られる構成であるため、スルーアンカの挿通孔を通ることができない幅広部(または、リトラクタのスプールにより巻取ることができない幅広部)をウェビングに設けることは困難であった。
【0072】
これに対し、本願では、ラップ側リトラクタ3の巻取り力がショルダ側リトラクタ2の巻取り力より強くなるように、各リトラクタ2,3の巻取りバネ力(又は巻残り量)が設定されるので、格納されるべきウェビング1の大部分はラップ側リトラクタ3によって巻取られ、ショルダ側リトラクタ2には僅かしか巻取られない。すなわち、ウェビング1の格納時(シートベルト非装着時)において、ショルダ側リトラクタ2によって巻取られるウェビング1の量は、最大で、
図11の白抜き矢符で示す長さy(スルーアンカ7の挿通孔から幅広部1Cの肩部側の端部までの長さ)となり、ラップベルト部1Bの大部分が巻取られるラップ側リトラクタ3での巻取り量と比べると僅かである。
【0073】
ウェビング1の格納時において、ショルダベルト部1Aの乗員を拘束する大部分は車室内に露出しているので、ショルダベルト部1Aが幅広部1Cを備える場合であっても、格納性が悪くなることはない。また、ウェビング1は、ラップ側リトラクタ3により十分に巻取られるので、ウェビング1の格納時(シートベルト非装着時)にウェビング1が無駄に空中で遊ぶこともない。さらに、本実施の形態では、ラップ側リトラクタ3のウェビング1の巻取り力がショルダ側リトラクタ2のウェビング1の巻取り力より強いので、ウェビング1の格納時には、タング4は、着座した乗員の腰骨脇あたりで停止する。
【0074】
実施の形態3では、タング4の挿通孔41よりも広い幅を有する幅広部1Cを備えるので、この幅広部1Cの腰部側の端部により、タング4がショルダ側へ移動することが規制される。すなわち、幅広部1Cは、実施の形態1及び2で説明した規制部10の機能の一部を有するものであってもよい。
【0075】
また、ウェビング1は、幅広部1Cに加え、実施の形態1又は2で説明した規制部10を備えるものであってもよいことは勿論のことである。このような構成では、プリテンショナ機構6の作動により、バックル5がワイヤケーブル60により牽引されて下方に引き込まれた場合、タング4の挿通孔41においてフューズ縫製が所定の引張荷重で破断し、ショルダベルト部1Aの端部がタング4の挿通孔41を通過して腰部側へ移動するので、ショルダベルト部1Aのたるみを取り除くことができる。
【0076】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上述した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。