(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284512
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】スペクトラム拡散GMSK信号の改良
(51)【国際特許分類】
H04B 1/707 20110101AFI20180215BHJP
H04L 27/10 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
H04B1/707
H04L27/10 C
【請求項の数】10
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2015-173954(P2015-173954)
(22)【出願日】2015年9月3日
(65)【公開番号】特開2016-59042(P2016-59042A)
(43)【公開日】2016年4月21日
【審査請求日】2016年6月9日
(31)【優先権主張番号】14003057.8
(32)【優先日】2014年9月4日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】14290353.3
(32)【優先日】2014年11月26日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】500466717
【氏名又は名称】エアバス デーエス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】100101856
【弁理士】
【氏名又は名称】赤澤 日出夫
(72)【発明者】
【氏名】ジャン−ジャクァス・フロック
(72)【発明者】
【氏名】フランシス・ザウアーレ
(72)【発明者】
【氏名】ヤン・ヴェンデル
【審査官】
和平 悠希
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2005/0094711(US,A1)
【文献】
特開2011−024211(JP,A)
【文献】
米国特許出願公開第2011/0038440(US,A1)
【文献】
Jean-Jacques Floch et al.,Comparison of Different Chip Pulse Shapes for DS-CDMA Systems,Proceedings of the 2010 IEEE/ION Position, Location and Navigation Symposium (PLANS 2010),2010年 5月 6日,pp.918〜926
【文献】
Consultative Committee for Space Data Systems,BANDWIDTH-EFFICIENT MODULATIONS SUMMARY OF DEFINITION, IMPLEMENTATION, AND PERFORMANCE,CCSDS 413.0-G-1, GREEN BOOK,2003年 4月,Page 3-1〜3-12
【文献】
ANDREA EMMANUELE et al.,Spread-Spectrum Continuous-Phase-Modulated Signals for Satellite Navigation,IEEE TRANSACTIONS ON AEROSPACE AND ELECTRONIC SYSTEMS,2012年10月,Vol. 48, No. 4,pp.3234〜3249
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 1/707
H04L 27/10
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を生成するための信号生成方法において、
データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスであるデータ・シンボル系列D(t)を取得し、
少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を取得し、該第1スペクトラム拡散符号は第1スペクトラム拡散チップ系列CD(t)から成るデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、
少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を取得し、該第2スペクトラム拡散符号は第2スペクトラム拡散チップ系列CP(t)から成るパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、
データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスである前記データ・シンボル系列D(t)と前記少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を構成している前記第1スペクトラム拡散チップ系列CD(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合し、且つ、パイロット・チャネル上を伝送される一連のデータ・シンボルと前記少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を構成している前記第2スペクトラム拡散チップ系列CP(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合して、チップ系列を生成し、
前記チップ系列のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当てることによりプリモジュレーション・チップ系列を生成し、該割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続するチップが同相Iチャネル及び直交Qチャネルである互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、
前記プリモジュレーション・チップ系列を用いてGMSK変調を実行することによりスペクトラム拡散GMSK信号を生成する、
ことを特徴とする信号生成方法。
【請求項2】
1種類の第1スペクトラム拡散符号と1種類の第2スペクトラム拡散符号とを取得し、
前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、
前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにする、
ことを特徴とする請求項1記載の信号生成方法。
【請求項3】
2種類以上の第1スペクトラム拡散符号と2種類以上の第2スペクトラム拡散符号とを取得し、
2種類以上の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のチップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネル上を伝送されることがないようにし、
2種類以上の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のチップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが直交Qチャネル上を伝送されることがないようにする、
ことを特徴とする請求項1記載の信号生成方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1項記載の信号生成方法により生成されたスペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を受信するための信号受信方法において、
受信したスペクトラム拡散GMSK信号により伝送されてきたデータ・シンボルが第1データ・シンボルであった場合に適用するリファレンス信号である第1リファレンス信号sref1(t)を生成し、
受信したスペクトラム拡散GMSK信号により伝送されてきたデータ・シンボルが第2データ・シンボルであった場合に適用するリファレンス信号である第2リファレンス信号sref2(t)を生成し、
受信したスペクトラム拡散GMSK信号と前記第1リファレンス信号sref1(t)との第1相関関数の相関値と、受信したスペクトラム拡散GMSK信号と前記第2リファレンス信号sref2(t)との第2相関関数の相関値とを同時に導出し、
導出した前記第1相関関数及び前記第2相関関数のパンクチュアル相関値のうちの最大値を判定し、
判定した最大値に基づいて前記第1リファレンス信号sref1(t)と前記第2リファレンス信号sref2(t)との一方を選択し、
受信したスペクトラム拡散GMSK信号と第1スペクトラム拡散符号または第2スペクトラム拡散符号との相関処理を実行するために採用する積分時間を、前記第1リファレンス信号sref1(t)と前記第2リファレンス信号sref2(t)とのうちの選択したリファレンス信号に基づいて決定する、
ことを特徴とする信号受信方法。
【請求項5】
請求項1〜請求項3の何れか1項記載の信号生成方法により生成されたスペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を受信するための信号受信方法において、
下記の数式に従ってリファレンス信号s
ref(t)を生成するステップを含み、
【数1】
上式において、Aは信号を正規化するための係数、a
kはパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、b
kはデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、T
cはチップ持続時間、N
cはPN系列の長さ、即ち、伝送されるシンボルの、また特にデータ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルの、そのスペクトラム拡散のために用いられるスペクトラム拡散符号のPN系列のスペクトラム拡散チップの個数、そして、C
0はGMSKフィルタ(ガウス・フィルタ)である、
ことを特徴とする信号受信方法。
【請求項6】
データ・チャネル用の前記スペクトラム拡散符号のPN系列bkを当該スペクトラム拡散符号と同一長さのパイロット・チャネル・トラッキング用のゼロ系列に置き換えるステップ、または、
パイロット・チャネル用の前記スペクトラム拡散符号のPN系列akを当該スペクトラム拡散符号と同一長さのデータ・チャネル・トラッキング用のゼロ系列に置き換えるステップ、
を更に含むことを特徴とする請求項5記載の信号受信方法。
【請求項7】
スペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を生成するための信号生成装置において、
データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスであるデータ・シンボル系列D(t)を生成するデータ・ストリーム・ジェネレータ(12)と、
少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号と少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号とを生成するスペクトラム拡散符号ジェネレータ(14)であって、前記第1スペクトラム拡散符号は第1スペクトラム拡散チップ系列CD(t)から成るデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、前記第2スペクトラム拡散符号は第2スペクトラム拡散チップ系列CP(t)から成るパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号であるスペクトラム拡散符号ジェネレータ(14)と、
データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスである前記データ・シンボル系列D(t)と前記少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を構成している前記第1スペクトラム拡散チップ系列CD(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合し、且つ、パイロット・チャネル上を伝送される一連のデータ・シンボルと前記少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を構成している前記第2スペクトラム拡散チップ系列CP(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合して、チップ系列を生成する結合器(16)と、
前記チップ系列から、プリモジュレーション・チップのシーケンスであるプリモジュレーション・チップ系列を生成するプリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ(18)であって、前記チップ系列の一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続するチップが同相Iチャネルおよび直交Qチャネルである互いに異なる伝送チャネル上を伝送される、プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ(18)と、
生成されたプリモジュレーション・チップ系列にフィルタ処理を施すガウス・フィルタ(20)と、
伝送チャネルのうちの同相Iチャネルに割り当てられた一連のチップを用いて同相信号を生成し、伝送チャネルのうちの直交Qチャネルに割り当てられた一連のチップを用いて直交信号を生成し、更に、生成した同相信号と直交信号とを合算する直交変調器(22)と、
合算された同相信号及び直交信号を積分することによりスペクトラム拡散GMSK信号を生成する積分器と、
を備えたことを特徴とする信号生成装置。
【請求項8】
前記スペクトラム拡散符号ジェネレータ(14)は、1種類の第1スペクトラム拡散符号と1種類の第2スペクトラム拡散符号とを生成するように構成されており、
前記プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ(18)は、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、且つ、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるように構成されている、
ことを特徴とする請求項7記載の信号生成装置。
【請求項9】
前記スペクトラム拡散符号ジェネレータ(14)は、2種類以上の第1スペクトラム拡散符号と2種類以上の第2スペクトラム拡散符号とを生成するように構成されており、
前記プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ(18)は、2種類以上の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネル上を伝送されることがないようにし、且つ、2種類以上の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが直交Qチャネル上を伝送されることがないようにするように構成されている、
ことを特徴とする請求項7記載の信号生成装置。
【請求項10】
請求項7〜請求項9の何れか1項記載のスペクトラム拡散GMSK信号生成装置の使用であって、GNSS衛星においてGNSS信号を生成し送信するために使用することを特徴とし、また特に、請求項7〜請求項9の何れか1項記載のスペクトラム拡散GMSK信号生成装置をGNSS衛星に装備して使用することを特徴とする、スペクトラム拡散GMSK信号生成装置の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はスペクトラム拡散GMSK(ガウス最小偏移符号化)信号の改良に関し、また特に、GNSS(全地球航法衛星システム)に使用するためのスペクトラム拡散GMSK信号の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
GMSK変調と呼ばれる信号変調方式は、GSM(登録商標)(全地球移動通信システム)方式をはじめとする数多くのデジタル通信方式に採用されている。GMSK変調は、FSK(周波数偏移符号化)変調の一種であり、ガウス・フィルタを用いることで、使用可能な周波数スペクトラムの利用効率が高められている。しかしながらGMSK変調には、シンボル間干渉(ISI)が生じるために、ビット変調の品質が低下するという問題がある。そのため、GMSK変調が採用されているデジタル通信方式では、多くの場合、ISIのために発生する歪みを補償することのできる、例えばビタビアルゴリズムなどを用いたイコライザが使用されている。
【0003】
GMSK変調を採用したCDMA(符号分割多元接続)方式が従来公知となっている。この公知技術は例えばデジタル通信などに用いるのに適しており、それは、GMSK変調よりスペクトラムの利用効率が高まるからである。しかしながら、GMSK変調とすることにより発生するISIのために、CDMAの相関関数の幅が広がるという問題がある。それによってチップ間干渉(ICI)が生じるおそれがあり、それは、CCF(相互相関関数)の幅が通常は±1チップの範囲内に収まらないことによるものである。GMSKフィルタのサイズが大きくなるほど(即ち、GMSKフィルタのBT値が小さくなるほど)±1チップの範囲外におけるCCFの値が大きくなる。そのため、チッピング・レートが同一のBPSK(二状態位相偏移符号化)変調信号と比べて、スペクトラム拡散GMSK信号ではトラッキング性能が低下している。
【0004】
特許文献1(同ヨーロッパ特許出願の発明は国際公報WO 2005/043767 A2にも開示されている)には、スペクトラム拡散GMSK信号の送受信のための方法、装置、及びシステムが示されている。そこでは、信号を送信するために、データ・シンボル系列を取得し、スペクトラム拡散チップ系列から成るスペクトラム拡散符号を取得し、前記データ・シンボル系列と前記スペクトラム拡散チップとを結合することによりプリモジュレーション・チップ系列を生成し、そのプリモジュレーション・チップ系列の生成に際しては、データ・シンボルの各々に対して、少なくとも当該データ・シンボルと少なくとも1個のスペクトラム拡散チップとを考慮に入れて少なくとも1個のプリモジュレーション・チップを生成するようにし、そして、前記プリモジュレーション・チップ系列を用いてGMSK変調を実行することによりスペクトラム拡散GMSK信号を生成し、その生成したスペクトラム拡散GMSK信号を送信するようにしている。
【0005】
NAVSTAR−GPS(全地球測位システム)などのGNSSや、将来完成する予定の欧州GNSSであるGALILEOなどでは、宇宙側のGNSS衛星からユーザ側のGNSSスペクトラム拡散受信装置へ航法支援データを送信するために、GNSSに割り当てられている搬送波周波数にDSSS(直接スペクトラム拡散)変調をかけるようにしている。最新技術を適用したGPSやGALILEOなどに採用されている信号設計においては、相関性能を向上させるためにより長いスペクトラム拡散符号を使用されており、また、微弱信号のトラッキングを支援するために、データ・チャネルに加えてデータ不在チャネル(パイロット・チャネル)が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】ヨーロッパ特許出願公開第1678837A1号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、スペクトラム拡散GMSK信号を更に改良することにあり、特にそのICIに関して改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は特許請求の範囲の独立請求項の主題により達成される。従属請求項は更に具体的な構成を記載したものである。
【0009】
本発明においては、スペクトラム拡散GMSK信号のパイロット・チャネルとデータ・チャネルの夫々に適用するための、スペクトラム拡散チップ系列から成る(また特にPN(擬似ランダム雑音)系列から成る)スペクトラム拡散符号を、パイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号とデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号とが互いに異なるものとし、データ・チャネルのデータ・シンボル系列とパイロット・チャネルのデータ・シンボル系列とにそれらスペクトラム拡散符号の夫々のチップ系列を結合することによって、プリモジュレーション・チップ系列を生成し、そして、データ・チャネルに所属するプリモジュレーション・チップ及びパイロット・チャネルに所属するプリモジュレーション・チップを、スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相チャネル及び直交チャネルに割り当て、その割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにする。この方法によれば、データ・チャネルのデータ・シンボルのプリモジュレーション・チップと、パイロット・チャネルのデータ・シンボルのプリモジュレーション・チップとが、互いに異なる伝送チャネルに分配されて、データ・チャネル用のスペクトラム拡散符号及びパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号が分離され、もってICIが低減される。
【0010】
本発明の1つの実施の形態は、スペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を生成するための信号生成方法に関するものであり、この信号生成方法は、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスであるデータ・シンボル系列D(t)を取得し、少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を取得し、該第1スペクトラム拡散符号は第1スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)から成るデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を取得し、該第2スペクトラム拡散符号は第2スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)から成るパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスである前記データ・シンボル系列D(t)と前記少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を構成している前記第1スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合し、且つ、パイロット・チャネル上を伝送される一連のデータ・シンボルと前記少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を構成している前記第2スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合して、結合されたチップ系列とすることにより、プリモジュレーション・チップのシーケンスであるプリモジュレーション・チップ系列r(t)を生成し、前記結合されたチップ系列の一連のチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにし、前記プリモジュレーション・チップ系列を用いてGMSK変調g(t)を実行することによりスペクトラム拡散GMSK信号s(t)を生成することを特徴とする信号生成方法である。
【0011】
第1の割り当て方式として、1種類の第1スペクトラム拡散符号と1種類の第2スペクトラム拡散符号とを取得し、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、更に、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにするのもよい。
【0012】
第2の割り当て方式として、2種類以上の第1スペクトラム拡散符号と2種類以上の第2スペクトラム拡散符号とを取得し、2種類以上の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネル上を伝送されることがないようにし、更に、2種類以上の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが直交Qチャネル上を伝送されることがないようにするのもよい。
【0013】
本発明の更なる1つの実施の形態は、本明細書に開示する本発明の信号生成方法により生成されたスペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を受信するための信号受信方法に関するものであり、この信号受信方法は、受信したスペクトラム拡散GMSK信号により伝送されてきたデータ・シンボルが第1データ・シンボルであった場合に適用するリファレンス信号である第1リファレンス信号s
ref1(t)を生成し、受信したスペクトラム拡散GMSK信号により伝送されてきたデータ・シンボルが第2データ・シンボルであった場合に適用するリファレンス信号である第2リファレンス信号s
ref2(t)を生成し、受信したスペクトラム拡散GMSK信号と前記第1リファレンス信号s
ref1(t)との第1相関関数の相関値と、受信したスペクトラム拡散GMSK信号と前記第2リファレンス信号s
ref2(t)との第2相関関数の相関値とを同時に導出し、導出した前記第1相関関数及び前記第2相関関数のパンクチュアル相関値のうちの最大値を判定し、判定した最大値に基づいて前記第1リファレンス信号s
ref1(t)と前記第2リファレンス信号s
ref2(t)との一方を選択し、受信したスペクトラム拡散GMSK信号と第1スペクトラム拡散符号または第2スペクトラム拡散符号との相関処理を実行するために採用する積分時間を、前記第1リファレンス信号s
ref1(t)と前記第2リファレンス信号s
ref2(t)とのうちの選択したリファレンス信号に基づいて決定することを特徴とする信号受信方法である。
【0014】
更に別の実施の形態は、本明細書に開示する本発明の信号生成方法により生成されたスペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を受信するための信号受信方法に関するものであり、この信号受信方法は、下記の数式に従ってリファレンス信号s
ref(t)を生成するステップを含み、
【0015】
【数1】
【0016】
上式において、Aは信号を正規化するための係数、a
kはパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、b
kはデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、T
cはチップ持続時間、N
cはPN系列の長さ、即ち、伝送されるシンボルの、また特にデータ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルの、そのスペクトラム拡散のために用いられるスペクトラム拡散符号のPN系列のスペクトラム拡散チップの個数、そして、C
0はGMSKフィルタ(ガウス・フィルタ)であることを特徴とする信号受信方法である。これにより、ローラン分解を表す簡明化した数式に基づいて、構造が簡明で低コストで実装可能な信号受信装置のアーキテクチャの設計が可能となる。
【0017】
この信号受信方法は更に、データ・チャネル用の前記スペクトラム拡散符号のPN系列b
kを当該スペクトラム拡散符号と同一長さのパイロット・チャネル・トラッキング用のゼロ系列に置き換えるステップ、または、パイロット・チャネル用の前記スペクトラム拡散符号のPN系列a
kを当該スペクトラム拡散符号と同一長さのデータ・チャネル・トラッキング用のゼロ系列に置き換えるステップを含むものとするのもよい。
【0018】
本発明の更に別の1つの実施の形態は、スペクトラム拡散ガウス最小偏移符号化(GMSK)信号を生成するための信号生成装置に関するものであり、この信号生成装置は、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスであるデータ・シンボル系列D(t)を生成するデータ・ストリーム・ジェネレータと、少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号と少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号とを生成するスペクトラム拡散符号ジェネレータであって、前記第1スペクトラム拡散符号は第1スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)から成るデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号であり、前記第2スペクトラム拡散符号は第2スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)から成るパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号であるスペクトラム拡散符号ジェネレータと、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスである前記データ・シンボル系列D(t)と前記少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号を構成している前記第1スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合し、且つ、パイロット・チャネル上を伝送される一連のデータ・シンボルと前記少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号を構成している前記第2スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合して、結合されたチップ系列とする結合器と、前記結合されたチップ系列から、プリモジュレーション・チップのシーケンスであるプリモジュレーション・チップ系列r(t)を生成するプリモジュレーション・チップ系列ジェネレータであって、前記結合されたチップ系列の一連のチップを前記スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルと直交Qチャネルとに割り当て、該割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにする、プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータと、生成されたプリモジュレーション・チップ系列r(t)にフィルタ処理を施すガウス・フィルタと、伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当てられた一連のチップを用いて同相信号を生成し、伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当てられた一連のチップを用いて直交信号を生成し、更に、生成した同相信号と直交信号とを合算する直交変調器と、合算された同相信号及び直交信号を積分することによりスペクトラム拡散GMSK信号s(t)を生成する積分器とを備えたことを特徴とする信号生成装置である。
【0019】
前記スペクトラム拡散符号ジェネレータは、1種類の第1スペクトラム拡散符号と1種類の第2スペクトラム拡散符号とを生成するように構成されているものとし、前記プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータは、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップを前記スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、且つ、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップを前記スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるように構成されているものとするのもよい。
【0020】
或いはまた、前記スペクトラム拡散符号ジェネレータは、2種類以上の第1スペクトラム拡散符号と2種類以上の第2スペクトラム拡散符号とを生成するように構成されているものとし、前記プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータは、前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップを前記スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネル上を伝送されることがないようにし、且つ、前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップを前記スペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当て、該割り当てにおいて、該一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが直交Qチャネル上を伝送されることがないように構成されているものとするのもよい。
【0021】
本発明に従って生成されるスペクトラム拡散GMSK信号は、GNSSに使用するのに特に適した信号であり、即ち、GNSS信号を生成するという用途に用いるのに特に適した信号である。本明細書に開示する本発明に係るスペクトラム拡散GMSK信号生成装置は、例えば、スペクトラム拡散GMSK変調されたGNSS信号の生成及び送信を行うためにGNSS衛星に装備されるものである。
【0022】
本発明の以上の態様並びにその他の態様について、以下に記載する幾つかの実施の形態に即して説明することにより更に明らかにして行く。
【0023】
これより幾つかの具体的な実施の形態に即して本発明について更に詳細に説明して行くが、ただし本発明はそれら具体的な実施の形態に限定されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1A】
図1Aは、BT値(BT
c=0.5)に対応した、GMSKフィルタ(C
0フィルタ及びC
1フィルタ)のフィルタ特性曲線を示した図である。
【
図1B】
図1Bは、BT値(BT
c=0.3)に対応した、GMSKフィルタ(C
0フィルタ及びC
1フィルタ)のフィルタ特性曲線を示した図である。
【
図1C】
図1Cは、BT値(BT
c=0.25)に対応した、GMSKフィルタ(C
0フィルタ及びC
1フィルタ)のフィルタ特性曲線を示した図である。
【
図2】3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、GMSK−CDMA信号(GMSK1)のPSDを示したグラフである。
【
図3】3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、GMSK−CDMA信号(GMSK1)のCCFを示したグラフである。
【
図4】3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、GMSK−CDMA信号(GMSK1)の符号ジッタを示したグラフである。
【
図5】BT=0.5のときのMPエンベロープを示したグラフである。
【
図6】BT=0.3のときのMPエンベロープを示したグラフである。
【
図7】BT=0.25のときのMPエンベロープを示したグラフである。
【
図8】本発明に係るGNSSのGMSK−CDMA信号の、同相Iチャネル上のパイロット・チャネルのスペクトラム拡散チップ系列、及び、直交Qチャネル上のデータ・チャネルのスペクトラム拡散チップ系列の具体例を示した図である。
【
図9】本発明に係るGNSSのGMSK−CDMA信号の、同相Iチャネル上のパイロット・チャネルのスペクトラム拡散チップ系列、及び、直交Qチャネル上のデータ・チャネルのスペクトラム拡散チップ系列の具体例を示した図である。
【
図10】3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、本発明に係るGMSK−CDMA信号(GMSK1)のCCFを示したグラフである。
【
図11】3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、本発明に係るGMSK−CDMA信号(GMSK1)の符号ジッタを示したグラフである。
【
図12】BT=0.5のときの本発明に係るGMSK−CDMA信号のMPエンベロープを示したグラフである。
【
図13】BT=0.3のときの本発明に係るGMSK−CDMA信号のMPエンベロープを示したグラフである。
【
図14】BT=0.25のときの本発明に係るGMSK−CDMA信号のMPエンベロープを示したグラフである。
【
図15】本発明の実施の形態に係るGMSK−CDMA信号送信装置のブロック図である。
【
図16】本発明の実施の形態に係るGMSK−CDMA信号受信装置のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下の説明では、互いに機能的に同等または同一の要素には同一の参照符号を付すことにする。また、以下に説明において数値を明示する場合、その数値はあくまでも具体的な数値例を示すものであって、本発明を限定するものではない。
【0026】
以下の説明では、先ず、従来の典型的なGMSK−CDMA信号について説明し、そのGMSK−CDMA信号を生成するために用いられるGMSKフィルタのBT値に応じてそのGMSK−CDMA信号のPSD値及びCCF値がどのように変化するかを示す。更に、GMSKフィルタに因ってICIが発生するという問題についても、CCF及びトラッキング性能との関連において説明する。また、このGMSK−CDMA信号に関する以下の説明は、このGMSK−CDMA信号が最新のGPSやGALILEOなどの、GNSSに用いられる場合の説明であり、そのようなGNSSにおいては、データを伝送しないパイロット・チャネル(即ち、データ不在チャネルであり、ここでいうデータとは測位や航法支援などの目的に用いられるデータを意味する)と、データ(GNSS信号受信装置がそれに基づいて測位などを行うためのデータ)を伝送するデータ・チャネルとが用いられることを前提として信号設計がなされている。また、以下の説明はGNSSに用いられるGMSK−CDMA信号についてのものであるが、ここで説明するGMSK−CDMA信号は基本的に、パイロット・チャネルとデータ・チャネルとが用いられる様々な用途に適用可能なものである。
【0027】
GMSK−CDMA信号は、スペクトラム拡散GMSK信号S(t)であり、この信号は以下の数式により良好に近似することができる(この数式はローラン分解に基づくものである)。
【0029】
上式において、Aは信号を正規化するための係数、a
kは同相Iチャネル上のスペクトラム拡散符号のPN系列、b
kは直交Qチャネル上のスペクトラム拡散符号のPN系列、T
cはチップ持続時間、N
cはPN系列の長さ、即ち、伝送されるシンボルの、また特にデータ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルの、そのスペクトラム拡散のために用いられるスペクトラム拡散符号のPN系列のスペクトラム拡散チップの個数、そしてC
0及びC
1はGMSKフィルタ(ガウス・フィルタ)であり、
図1A〜
図1Cには、3通りのBT値(
図1AではBT
c=0.5、
図1BではBT
c=0.3、
図1CではBT
c=0.25)の夫々に対応したそれらフィルタの典型的なフィルタ特性曲線が示されている。
【0030】
図2に示したのは、このGMSK−CDMA信号(GMSK1)のPSD(電力スペクトル密度)である。PSDは二次ローブをただ1つだけ有しており、その二次ローブは主ローブと比べて著しく減衰されている。
図2には、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応したPSDが示されている。
【0031】
図1A〜
図1Cから分かるように、C
0フィルタのサイズの方がICIを発生させるチップの持続時間よりも大きい。このことは、これまでの信号変調方式ではCCFが±1チップの範囲内には収まらないことを意味している。それを図示したのが
図3であり、同図は、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、GMSK−CDMA信号(GMSK1)のCCFの特性曲線を示している。同図から見て取れるように、C
0フィルタのサイズが大きくなるほど(即ち、BT値が小さくなるほど)±1チップの範囲外におけるCCFの値が大きくなる。
【0032】
そのため、チッピング・レートが同一のBPSK変調信号と比べて、かかるGMSK−CDMA信号ではトラッキング性能が低下している。このGMSK信号のCCFのピークはBPSK変調信号のCCFのピークほど急峻ではなく、そのことがAWGN(白色ガウス雑音)及びマルチパスが存在する環境下におけるトラッキング性能の低下を招いており、このことは、
図4の、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、GMSK−CDMA信号(GMSK1)の符号ジッタの特性曲線から明らかである。更に加えて、CCFが±1チップの範囲内に収まっていないため、長距離マルチパス(1.5チップを超えるマルチパス)によって符号トラッキング性能が低下しており、このことは、
図5、
図6、及び
図7の、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、MP(マルチパス)エンベロープを示したグラフから明らかである。
【0033】
GMSK変調方式の主たる短所は、ICIが発生するために、以上に示したようにCCFの演算効率が低下することにある。本発明は、伝送するCDMA符号の符号系列に変更を加えてCCFを改善することを提案するものである。その変更によれば、GMSK−CDMA信号の同相Iチャネルと直交Qチャネルとに適用する、スペクトラム拡散チップ系列から成るスペクトラム拡散符号を、同相Iチャネルと直交Qチャネルとで互いに異なるスペクトラム拡散符号とする。
図8に、同相Iチャネル上のパイロット・チャネルに適用するスペクトラム拡散符号のスペクトラム拡散チップ系列と、直交Qチャネル上のデータ・チャネルに適用するスペクトラム拡散符号のスペクトラム拡散チップ系列の、1つの具体例を示した。
【0034】
ICIを回避するために、パイロット・チャネル及びデータ・チャネルの伝送を、同相Iチャネル及び直交Qチャネルの両方の伝送チャネル上で行うようにし、更に、パイロット・チャネルのスペクトラム拡散符号のチップも、またデータ・チャネルのスペクトラム拡散符号のチップも、連続する3個以上のチップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにしている。これによってデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号及びパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号が分離されて、ICIが解消される。
図9に、データ・チャネルのスペクトラム拡散符号のスペクトラム拡散チップ系列と、パイロット・チャネルのスペクトラム拡散符号のスペクトラム拡散チップ系列の、1つの具体例を示した。
【0035】
以下に、この新規な技法を採用した場合のCCFについて説明する。
図10に、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応したCCFのグラフを示した。
図3に示されているCCFと比べて、この
図10のCCFでは、CCFのピークがより急峻であって、CCFが略々±1チップの範囲内に収まっている。
図11、
図12、
図13、及び
図14に示したのは、3通りのBT値(BT=0.5、BT=0.3、BT=0.25)の夫々に対応した、AWGNが存在する環境下における符号トラッキング・ジッタと、MPエンベロープである。これらの
図11〜
図14に示したグラフはいずれも、帯域制限フィルタ処理を施しておらず、また、歪みも生じていない状態を示したものである。
【0036】
ICIを抑制するもう1つの方法は、2つの伝送チャネル(同相Iチャネル及び直交Qチャネル)の各々に、2種類ずつのスペクトラム拡散符号を適用するというものである。この方式でも、同一種類のスペクトラム拡散符号による連続する3個以上のチップが(特に2個のチップが)同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにするという基本原理に変わりはない。ただしこの方式では、同相Iチャネルと直交Qチャネルのいずれの伝送チャネルにおいても、2種類のスペクトラム拡散符号をインターリーブすることにより、同一種類のスペクトラム拡散符号による連続する2個のチップが同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにする。この方式を更に拡張して、同相Iチャネルにはn種類のスペクトラム拡散符号を適用し、直交Qチャネルにはm種類のスペクトラム拡散符号を適用するようにすることもできる。
【0037】
図15に示したのは、本発明に係るGMSK−CDMA信号を生成して送信するための信号送信装置のブロック図である。
【0038】
送信されるデータは、フレキシブル・エンコードを行うことのできるエンコーダ10によりエンコードされてデータ・ストリーム・ジェネレータ12へ供給され、このデータ・ストリーム・ジェネレータ12は、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンスであるデータ・シンボル系列D(t)を生成する。
【0039】
PRN(擬似ランダム雑音)ジェネレータ14は、データ・チャネルとパイロット・チャネルとの両方に対応しており、スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)から成るデータ・チャネル用の少なくとも1種類の第1スペクトラム拡散符号と、スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)から成るパイロット・チャネル用の少なくとも1種類の第2スペクトラム拡散符号とを生成する。
【0040】
結合器16は、データ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルのシーケンス(即ちデータ・シンボル系列)であるデータ・ストリームD(t)と、第1スペクトラム拡散チップ系列C
D(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合し、且つ、パイロット・チャネル上を伝送される一連のデータ・シンボルと、第2スペクトラム拡散チップ系列C
P(t)の一連のスペクトラム拡散チップとを結合して、1つのチップ・シーケンス(即ちチップ系列)を生成し、生成したそのチップ系列を出力する。
【0041】
プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ18は、結合器16が生成して出力したチップ系列を受取って、プリモジュレーション・チップのシーケンスであるプリモジュレーション・チップ系列r(t)を生成し、その生成に際しては、データ・チャネルに所属するチップ並びにパイロット・チャネルに所属するチップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにする。
【0042】
プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ18がそのような割り当てを行う際の割り当て方式としては、幾つかの割り当て方式が可能である。
【0043】
1.第1の割り当て方式は、第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにし、且つ、第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネル及び直交Qチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する2個のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネル上を伝送されるようにするというものである。この割り当て方式によれば、第1スペクトラム拡散符号により生成された連続するプリモジュレーション・チップも、また、第2スペクトラム拡散符号により生成された連続するプリモジュレーション・チップも、同相Iチャネルと直交Qチャネルとの互いに異なる伝送チャネルに亘って分配されて、第1スペクトラム拡散符号及び第2スペクトラム拡散符号が分離され、それによってICIが低減され、場合によっては解消されることにもなる。
【0044】
2.また別の割り当て方式として、2種類以上の第1スペクトラム拡散符号と2種類以上の第2スペクトラム拡散符号とを取得した上で割り当てを行う方式がある。この割り当て方式では、データ・チャネルのデータ・シンボルが複数のスペクトラム拡散符号により拡散され、またパイロット・チャネルのデータ・シンボルも複数のスペクトラム拡散符号により拡散される。ICIの低減を図るために、複数の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである同相Iチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、それら一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第1スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネル上を伝送されることがないようにし、且つ、複数の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された一連のプリモジュレーション・チップをスペクトラム拡散GMSK信号の伝送チャネルである直交Qチャネルに割り当て、その割り当てにおいて、それら一連のプリモジュレーション・チップをインターリーブすることにより、同一種類の前記第2スペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが直交Qチャネル上を伝送されることがないようにする。この割り当て方式によれば、第1スペクトラム拡散符号により生成された連続するプリモジュレーション・チップと第2スペクトラム拡散符号により生成された連続するプリモジュレーション・チップとは、互いに異なる伝送チャネルである同相Iチャネルと直交Qチャネルとの夫々の内部において分配されて、第1スペクトラム拡散符号及び第2スペクトラム拡散符号が分離され、それによってICIが低減され、場合によっては解消されることにもなる。
【0045】
プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ18により生成されたプリモジュレーション・チップ系列r(t)に対しては、続いて、ガウス・ローパス・フィルタ20によりフィルタ処理が施され、それによって、フィルタ処理後チップ系列g(t)が生成される。このガウス・ローパス・フィルタ20は、例えば
図1A〜
図1Cに示したようなフィルタ特性を有するものである。
【0046】
直交変調器(I−Q変調器)22は、伝送チャネルのうちの同相Iチャネルに割り当てられた一連のチップを用いてフィルタ処理後チップ系列g(t)に変調処理を施すことで同相信号を生成し、また、伝送チャネルのうちの直交Qチャネルに割り当てられた一連のチップを用いてフィルタ処理後チップ系列g(t)に変調処理を施すことで直交信号を生成する。生成された同相信号及び直交信号は、直交変調器22により合算されて出力される。
【0047】
積分器24は、合算された同相信号及び直交信号を積分することによりベースバンド出力信号s(t)を出力する。
【0048】
図16に示したのは、以上に説明したGMSK−CDMA信号を受信するための信号受信装置のブロック図である。信号受信装置は、基本的に、信号送信装置の構成要素に対応した構成要素により構成されている。ただし信号受信装置は、個々の積分時間を決定する上で2つのリファレンス信号s
ref1(t)及びs
ref2(t)を考慮する必要があり、それらリファレンス信号の一方は、データ・チャネル上を伝送されてきたデータ・シンボルが「+1」であった場合に適用するリファレンス信号であり、他方はデータ・チャネル上を伝送されてきたデータ・シンボルが「−1」であった場合に適用するリファレンス信号である。
【0049】
信号受信装置には、それら2つのリファレンス信号s
ref1(t)及びs
ref2(t)を生成するために、
図16に示したように、信号送信装置と同様のアーキテクチャが備えられている。
【0050】
それら2つのリファレンス信号を生成して、入力ベースバンド信号D(t)と一方のリファレンス信号s
ref1(t)との相関関数の相関値と、入力ベースバンド信号D(t)と他方のリファレンス信号s
ref2(t)との相関関数の相関値とを同時に導出する。そして、導出したそれら相関関数のパンクチュアル相関値のうちの最大値に応じて、2つのリファレンス信号のうちのどちらに基づいて積分時間を決定すべきかを判定する。
【0051】
本発明は、ICIを低減することにより、AWGN及びマルチパスが存在する環境下で伝送されるスペクトラム拡散GMSK信号の符号トラッキング性能を改善し得るようにしたものであり、また、そのICIの低減は、パイロット・チャネルのプリモジュレーション・チップ及びデータ・チャネルのプリモジュレーション・チップを、同相Iチャネル及び直交Qチャネルの両方の伝送チャネルにより伝送すると共に、同一種類のスペクトラム拡散符号により生成された連続する3個以上のプリモジュレーション・チップが同相Iチャネルまたは直交Qチャネルである同一伝送チャネル上を伝送されることがないようにすることで達成するようにしたものである。
【0052】
以下に、構造が簡明で低コストの信号受信装置のアーキテクチャについて簡潔に説明する。
【0053】
この受信装置のアーキテクチャは、以上に説明したようにして伝送される信号を受信するためのもう1つの信号受信方法を提供するものであり、ローラン分解を表す簡明化した数式に基づいて設計され、即ち、以下の数式に従ってリファレンス信号を生成するように設計される。
【0055】
上式において、Aは信号を正規化するための係数、a
kはパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、b
kはデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列、T
cはチップ持続時間、N
cはPN系列の長さ、即ち、伝送されるシンボルの、また特にデータ・チャネル上を伝送されるデータ・シンボルの、そのスペクトラム拡散のために用いられるスペクトラム拡散符号のPN系列のスペクトラム拡散チップの個数、そして、C
0はGMSKフィルタ(ガウス・フィルタ)である。
【0056】
トラッキングの対象とするチャネルがパイロット・チャネルだけである場合には、上式におけるデータ・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列を、そのスペクトラム拡散符号と同一長さのゼロ系列に置き換えてもよい。
【0057】
トラッキングの対象とするチャネルがデータ・チャネルだけである場合には、上式におけるパイロット・チャネル用のスペクトラム拡散符号のPN系列を、そのスペクトラム拡散符号と同一長さのゼロ系列に置き換えてもよい。
【0058】
この低コストの信号受信装置は、位相の不連続性のために、先に説明した信号受信装置と比べて性能の低いものとなる。
【符号の説明】
【0059】
10 フレキシブル・データ・エンコーダ
12 データ・ストリーム・ジェネレータ
14 PRNジェネレータ
16 結合器
18 プリモジュレーション・チップ系列ジェネレータ
20 ガウス・ローパス・フィルタ
22 直交変調器
24 積分器
AWGN 白色ガウス雑音
BPSK 二状態位相偏移符号化
CCF 相互相関関数
CDMA 符号分割多元接続
DSSS 直接スペクトラム拡散
FSK 周波数偏移符号化
GMSK ガウス最小偏移符号化
GNSS 全地球航法衛星システム
GPS 全地球測位システム
GSM(登録商標) 全地球移動通信システム
ICI チップ間干渉
ISI シンボル間干渉
PN 擬似ランダム雑音
PSD 電力スペクトル密度