特許第6284536号(P6284536)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284536
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】無電解めっき用塗料組成物
(51)【国際特許分類】
   C09D 179/08 20060101AFI20180215BHJP
   C09D 7/40 20180101ALI20180215BHJP
   C09D 11/102 20140101ALI20180215BHJP
   C09D 11/03 20140101ALI20180215BHJP
   C09D 11/033 20140101ALI20180215BHJP
【FI】
   C09D179/08 B
   C09D7/12
   C09D11/102
   C09D11/03
   C09D11/033
【請求項の数】5
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-538698(P2015-538698)
(86)(22)【出願日】2013年9月26日
(86)【国際出願番号】JP2013076040
(87)【国際公開番号】WO2015045056
(87)【国際公開日】20150402
【審査請求日】2016年8月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】504137554
【氏名又は名称】株式会社イオックス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中辻 達也
(72)【発明者】
【氏名】梶原 康一
(72)【発明者】
【氏名】中村 克弘
(72)【発明者】
【氏名】落合 博
【審査官】 上條 のぶよ
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−007849(JP,A)
【文献】 特開2013−001955(JP,A)
【文献】 特開2007−197798(JP,A)
【文献】 特開2006−225712(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/015839(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/143128(WO,A1)
【文献】 特許第5422812(JP,B2)
【文献】 特許第5458366(JP,B2)
【文献】 特開2011−058062(JP,A)
【文献】 特開平01−283991(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 1/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解めっき用塗料組成物の製造方法であって、
無電解めっき用塗料組成物は、
以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに
(3)樹脂、
を含有し、
前記非プロトン性極性溶媒が、N-メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種であり、
前記(3)樹脂が、ポリアミドイミド樹脂であり、
以下の(i)並びに(ii):
(i) 前記(2) 水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオンを還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、
無電解めっき用塗料組成物の製造方法。
【請求項2】
前記(1)複合体含まれるパラジウム粒子が、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られたパラジウム粒子である、請求項1に記載の塗料組成物の製造方法
【請求項3】
前記分散剤が、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するブロック共重合体型高分子分散剤である、請求項1又は2に記載の塗料組成物の製造方法
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物の製造方法で得られた塗料組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
【請求項5】
前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無電解めっき用塗料組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)等の非導電性基材に対して金属めっき(以下、単にめっきともいう)を形成する技術は、電磁波シールド等の導電性フィルム;意匠性を付与することを目的とした装飾めっき;集積回路、抵抗器等の電子部品;などを作製する際に利用されている。特に、電子部品を作製する場合は、非導電性基材に対して導電性配線パターンを形成する際に、当該めっきを形成する技術が利用される。
【0003】
非導電性基材は、めっきとの界面に金属結合を得ることができない。そのため、当該非導電性基材とめっきとの間に優れた密着性を得るためには、当該非導電性基材の表面に微細な凹凸を形成するエッチングを行う(粗化する)ことにより、アンカー効果(投錨効果)を付与する必要がある。このエッチングは、工程が煩雑である上、クロム酸等の環境負荷の高い薬品を使用しなければならないという問題がある。
【0004】
これに対して、特許文献1〜4では、クロム酸を使用せずにエッチングと同等の効果を狙った処理を行うことにより、非導電性基材上にめっきを形成する技術が記載されている。特許文献1及び2には、いずれも、基材上に触媒との結合性を持った接着層を形成することにより、基材、接着層及び触媒との間でそれぞれ化学結合を生じさせる手法が記載されている。特許文献3には、基材に対して、UV又はオゾンによってエッチングを行うことにより、アンカー効果を付与する手法が記載されている。特許文献4には、無電解めっき触媒を有するインクを基材上に塗布することによって、無電解めっきの下地層を形成する手法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−031318号公報
【特許文献2】特開2008−050541号公報
【特許文献3】特開2010−270389号公報
【特許文献4】特開2010−171045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1〜3は、いずれも、密着性を付与するための前処理工程と、無電解めっき工程との間に、触媒を付与する工程(例えば、パラジウムイオンを基材に付着させた後に当該パラジウムイオンを金属化することによって、触媒となるパラジウム金属とする工程)及び触媒金属を活性化する工程が必要である。即ち、工程数は従来のクロム酸によるエッチングと変わらず、工程が煩雑であるという問題がある。また、特許文献4では、無電解めっきを施す前に活性化工程と称して、ホウ素系化合物による還元工程及び当該ホウ素系化合物を除去する洗浄工程を必要とする。かかるインクの使用をした場合、工程が煩雑化し、しかもホウ素系化合物による環境負荷の問題点もある。
【0007】
従って、簡単に無電解めっき処理を行うことを可能にする塗料組成物であって、環境に対する悪影響が少なく、安全性が高いとともに、優れためっき密着性を付与することができる塗料組成物の開発が望まれている。
【0008】
本発明は、簡単に無電解めっき処理を行うことを可能にする、分散性に優れた塗料組成物であって、環境に対する悪影響が少なく、安全性が高いとともに、優れためっき密着性及び外観皮膜を付与することができる塗料組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の成分を使用することによって、上記目的を達成し得る塗料組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の塗料組成物、その製造方法、その使用、その使用方法及び被めっき物に関する。
1. 以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに
(3)樹脂、
を含有することを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物。
2. 前記(1)複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られる、上記項1に記載の塗料組成物。
3. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の塗料組成物。
4. 前記(3)樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
5. 前記分散剤が、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するブロック共重合体型高分子分散剤である、上記項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
6. (2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂を含有する無電解めっき用塗料組成物の製造方法であって、以下の(i)並びに(ii):
(i) 前記(2) 水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオン
を還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物の製造方法。
7. 上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
8. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項7に記載の方法。
9. 上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を基板に対して塗布した後、無電解めっきを施すことによって得られる、被めっき物。
10. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項9に記載の被めっき物。
【0011】
以下、本発明の塗料組成物について詳細に説明する。なお、本発明は、塗料組成物の製造方法の発明、塗料組成物の使用の発明、塗料組成物の使用方法の発明、及び、被めっき物の発明も含む。
【0012】
≪本発明の無電解めっき用塗料組成物≫
本発明の塗料組成物は、以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに
(3)樹脂、
を含有することを特徴とする。本発明の塗料組成物を無電解めっき用という特定の用途で使用する場合、当該塗料組成物は、従来の方法よりも簡便にかつ効率的に無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、本発明の塗料組成物は、分散性に優れている。さらに、当該塗料組成物により形成される無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0013】
以下、本発明の無電解めっき用塗料組成物の各成分について説明する。なお、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂からなる塗料組成物は、本発明の無電解めっき用塗料組成物として好ましい態様の1つである。また、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、(3)樹脂、並びに後述する(4)前記(2)以外の溶媒、からなる塗料組成物もまた、本発明の無電解めっき用塗料組成物として好ましい態様の1つである。本発明では、部、%等の表示を使用するが、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0014】
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、パラジウム粒子(Pd粒子)と、分散剤との複合体を含有する(以下、この複合体をPd複合体ともいう)。
【0015】
Pd複合体は、例えば、溶媒中に分散剤及びパラジウムイオン(Pdイオン)を存在させた後、当該パラジウムイオンを還元することにより得ることができる。
【0016】
分散剤としては、Pd複合体の形状が、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合している、という条件を満たすものが好ましい。例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等のポリカルボン酸系高分子分散剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等のヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸共重合体等のカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;などを使用することができる。分散剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。分散剤の中でも、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するブロック共重合体型高分子分散剤が好ましい。
【0017】
分散剤は、市販品を使用することができる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、サンノプコ(株)製ノプコサントK,R,RFA, ノプコスパース44-C, SNディスパーサント5020,5027,5029,5034,5045,5468 、花王(株)製デモールP,EP, ポイズ520,521,530,532A,等として販売されている。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株) DISPERBYK180,187,191,194、 (株)日本触媒製アクアリックTL,GL,LSとして販売されている。また、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190,2010等として販売されている。
【0018】
パラジウムイオンを供給する化合物としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等が挙げられる。パラジウムイオンを供給する化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
Pdイオンを還元する方法としては、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法が挙げられる。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、反応する。還元剤としては、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの2級又は3級アミン類が挙げられる。
【0020】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、以下の(2)で説明される水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種(以下、(2)の溶媒ともいう)を使用することができる。溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
Pd複合体の形状は、本明細書の図2のように、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合しており、(iii)前記分散剤にPd粒子が付着している、という構造であると考えられる。具体的に、Pd複合体の形状は、ランダムコイル状、密集した球状又は球形構造のいずれであってもよい。
【0022】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは当該球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0023】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=50:50〜95:5程度であり、Pd粒子:分散剤=65:35〜85:15が好ましい。
【0024】
Pd粒子単独の平均粒子径は、特に限定されないが、2〜10nmが好ましい。なお、本明細書では、Pd粒子の粒子径は、後述する透過型電子顕微鏡で測定している。また、本明細書では、Pd粒子の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を上記透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均することで算出される(個数基準平均径)。
【0025】
一方、Pd複合体の平均粒子径は、特に限定されないが、全体としては平均粒子径20〜300nm程度の球形状(本明細書の図2)の構造を有していることが好ましい。本明細書において、Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR−1000)で測定されたものである(質量基準平均径)。
【0026】
本発明の無電解めっき用塗膜が、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる理由は、以下のような原理によるものと考えられる。
(原理) Pd複合体が形成する構造の内部は、(2)の溶媒を吸着するように包含している。このPd複合体の内部の(2)の溶媒は、本発明の塗料組成物中の(2)の溶媒よりも、乾燥速度が小さい。そのため、本発明の塗料組成物を基板に塗布すると、まず塗料組成物中の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜全体が形成され、その後に塗膜中に存在するPd複合体の内部の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜表面にクレーター状の凹凸を形成する。これにより、無電解めっき用塗膜(以下、単に塗膜ともいう)が形成される。この凹凸表面には、Pd粒子が多く存在する。このような原理で前記塗膜は形成されるため、以下の(a)及び(b):
(a) Pd粒子が塗膜表面に密集するように多く存在しているため、当該塗膜表面と無電解めっき液との反応性に優れ、
(b) 塗膜表面には前記凹凸が形成されているため、めっき皮膜と当該塗膜との間のアンカー効果に優れ、
(c) 前記凹凸は非常に微細であり塗膜表面の平滑性が保持されているため(例:本明細書の図7)、光沢度の高い(外観皮膜に優れた)めっき皮膜が得られる、
という効果が奏されているものと考えられる。
【0027】
(2) 水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種
本発明の塗料組成物は、(2)の水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒((2)の溶媒)を含有する。当該(2)の溶媒は、(1)のPd複合体や(3)の樹脂との親和性に優れており、(1)Pd複合体及び(3)樹脂を分散させる溶媒(又は分散媒)としての機能を有する。
【0028】
非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の>N−C(=O)−という原子団(または基若しくは結合)を有する非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド;γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の中でも、>N−C(=O)−原子団を有する非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましい。なお、(2)の溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
(2)の溶媒は、パラジウムイオンの還元反応後に変換(例えば、溶媒を水からNMPに変換)することが可能である。
【0030】
溶媒の含有量は、特に限定されないが、前述のPd複合体100質量部に対して、102〜106質量部程度が好ましい。(2)の溶媒が水のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×103〜3×105質量部が好ましく、104〜2×105質量部がより好ましい。(2)の溶媒が非プロトン性極性溶媒のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×102〜5×103質量部が好ましく、103〜2×103質量部がより好ましい。
【0031】
(3)樹脂
本発明の塗料組成物は、樹脂を含有する。本発明で樹脂を使用することにより、基材上に無電解めっき用塗膜をより強固に基材に密着させることができる。上記樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)となる。
【0032】
(3)樹脂としては、上記(2)の溶媒に分散又は溶解する樹脂を使用することができる。具体的な樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、等が挙げられる。なお、本明細書において、アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルの重合体若しくはメタクリル酸エステルの重合体又はこれらをコモノマーとする共重合体を意味するものであり、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。また、本明細書において、ポリアミドイミド樹脂とは、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂である。
【0033】
(3)樹脂の中でも、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましく、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。
【0034】
(3)樹脂の成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、(3)樹脂として2種以上の樹脂成分を使用する場合、その中の1種類の樹脂成分の含有量が(3)樹脂成分中90wt%以上となるように使用することが好ましい。なお、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、めっき皮膜の密着性の低下、耐水性の低下、耐候性の低下等の観点から、(3)樹脂成分として含有しないことが好ましい。
【0035】
前記樹脂の含有量は、Pd複合体100質量部に対して、10〜104質量部が好ましく、50〜1500質量部がより好ましい。
【0036】
また、(2)の溶媒の他、本発明の効果が奏される範囲内で、希釈溶媒を使用することができる。希釈溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、tert-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;等を含有してもよい。中でも、Pd複合体や樹脂との親和性、基材との溶着性、塗装性能等の観点から、ケトン類が好ましい。
【0037】
これらの希釈溶媒を使用する場合、その含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、0〜2×104質量部とすることが好ましく、20〜2×104質量部とすることがより好ましい。希釈溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
≪本発明の無電解めっき用塗料組成物の製造方法≫
本発明の塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂を含有し、以下の(i)並びに(ii):
(i) 前記(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオンを還元する工程2、
を順に含む製造方法により製造することが好ましい。前記製造方法によれば、無電解めっき用塗膜を形成することが可能な無電解めっき用塗料組成物を、環境に対する悪影響が少なく簡便にかつ効率的に製造することができる。当該無電解めっき用塗料組成物は、分散性に優れ、かつ、従来の方法よりも簡便で効率的に無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0039】
工程1において、パラジウムイオンと分散剤とを溶媒中に存在させる。パラジウムイオンは、供給源として前述のパラジウムイオンを供給する化合物を使用することができる。分散剤としては、前述の分散剤を使用することができる。
【0040】
工程1におけるパラジウムイオンと分散剤の使用比率(質量比)は、パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は通常、10〜200質量部程度である。パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は30〜150質量部が好ましく、さらに好ましくは50〜100質量部である。
【0041】
工程1で使用する溶媒としては、上記(2)の溶媒を使用することができる。当該溶媒の使用量は、パラジウムイオンと分散剤を均一に存在させることができれば特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して104〜3×105質量部が好ましく、104〜105質量部がより好ましい。
【0042】
工程2では、パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、パラジウムイオンが還元剤によって還元される。即ち、工程2ではパラジウムイオンの還元反応が生じ、結果として前述の(1)のPd複合体を得ることができる。工程2における還元剤としては、前述の(1)のPd複合体を作製するために使用される還元剤を使用することができる。還元剤の使用量は、特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して、100〜800質量部程度であり、200〜600質量部が好ましい。
【0043】
工程2に関して、反応温度は35〜45℃程度であり、50〜60℃程度まで昇温する。反応時間は、特に限定されないが、1〜5時間程度とすればよい。反応の際の圧力及び雰囲気は、特に限定されず、大気圧下かつ大気(空気)雰囲気下で行えばよい。反応はビーカーなどの開放系で行うことができ、反応方法としてはパラジウムイオン、分散剤及び還元剤を含有する溶液を羽根付き撹拌棒で撹拌すればよい。
【0044】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、工程1及び工程2のみの手順でも得られるが、工程2の後に、例えば、(2)の溶媒、(3)の樹脂、その他成分等の含有(添加);Pd複合体含有液の分離;などのその他の操作を行ってもよい。この点について、以下説明する。
【0045】
工程2の後には、前述の(2)溶媒及び(3)樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することができる。なお、パラジウムイオンの還元反応後に溶媒を変換する(例えば、工程1の溶媒として水を使用し、工程2の後で上記水をNMPに変換することにより、NMPを溶媒とする無電解めっき塗料組成物とする)ことも可能である。
【0046】
工程2の後に、工程2で得られたPd複合体含有液を限外濾過による分離を行うことができる。この操作により、Pd複合体含有液に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去することができる。より具体的には、Pd複合体含有液に対して濾過操作及び水、溶媒等(特に水)の補填操作を繰り返すことができる。
【0047】
≪本発明の塗料組成物の使用≫
本発明の塗料組成物は、無電解めっきを施したい基材に対して使用することができる。この本発明の塗料組成物の使用(使用方法)により、無電解めっきを行うのに適した塗膜を基材上に形成することができる。
【0048】
基材の形状としては、特に限定されない。例えば、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)、糸状、金型で成形された各種形状、等のいずれであってもよい。
【0049】
基材の成分としては、特に限定されないが、樹脂、セラミックス等が挙げられる。具体的な樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂(PC);ポリスチレン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリエチレン樹脂;ポリフェニレンスルファイド樹脂;液晶ポリマー;変性ポリフェニルエーテル樹脂;ポリスルホン樹脂;フェノール樹脂;ポリフタルアミド樹脂(PPA);ポリアリレート樹脂;などが挙げられる。具体的なセラミックスとしては、ガラス、アルミナ等が挙げられる。また、基材として不織布を使用する場合、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維等の不織布が挙げられる。
【0050】
基材に対して上記塗料組成物を使用する方法としては、特に限定されず、例えば塗布することが挙げられる。塗布方法としては、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いて、塗布することができる。中でも、グラビアオフセット印刷又はフレキソ印刷による塗布が好ましい。
【0051】
本発明の塗料組成物を基材に対して使用(例:塗布)した後では、乾燥処理を行うことができる。当該乾燥工程によって、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去するとともに、塗膜と基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させることができる。
【0052】
乾燥処理の温度は、好ましくは60〜400℃程度である。さらに好ましくは80〜150℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常0.1分(6秒)〜60分程度である。さらに好ましくは10〜30分程度である。
【0053】
無電解めっき用塗膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、当該塗膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
【0054】
乾燥前における塗膜の厚みは、使用用途によって適宜選択することができる。乾燥前では通常1〜30μm程度であり、2〜20μmが好ましい。
【0055】
乾燥後における塗膜の厚みは、通常0.05〜3μm程度であり、0.1〜1μmが好ましい。乾燥後における塗膜の厚みが上記範囲内であれば、基材と塗膜との密着性、および無電解めっき皮膜(金属皮膜)と塗膜との密着性のいずれにおいて特に優れる。
【0056】
≪本発明の被めっき物≫
本発明の塗料組成物を基材に使用することにより本発明の無電解めっき用の塗膜を形成した後、無電解めっきを行うことによって無電解めっき皮膜を形成することができる。当該無電解めっき皮膜が形成された本発明の被めっき物は、めっき皮膜の密着性に優れる。
【0057】
前記の方法によって塗膜が形成された基材は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、これにより無電解めっき皮膜が形成される。無電解めっきは反応性がよく、得られた無電解めっき皮膜はむらがなく、密着性及び外観皮膜に優れる。
【0058】
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば特に限定されず、例えば、銅、金、銀、ニッケル、クロム等が挙げられる。特に、本発明の塗料組成物によって形成された塗膜との関係から、銅又はニッケルが好ましい。これらのめっき条件については、常法に従えばよい。
【0059】
例えば、無電解めっき処理温度に関して、無電解銅めっき浴では通常25〜45℃程度であり、処理時間は10〜20分程度で、0.3〜0.4μm程度の析出膜厚となる。また、無電解ニッケルボロン浴では、処理温度は55〜70℃程度であり、析出速度は通常5μm/hr(60℃)程度である。無電解ニッケルりん浴では通常85〜95℃程度であり、析出速度は通常20μm/hr(90℃)程度である。
【0060】
本発明の被めっき物は、集積回路、抵抗器等の電子部品;電磁波シールド;金属調に加飾された電気製品の筐体;などに使用することができる。また、上記被めっき物が糸状の導電性繊維である場合は、衣類や電線に使用することができる。
【発明の効果】
【0061】
本発明の塗料組成物を無電解めっき用という特定の用途で使用する場合、当該塗料組成物は、従来の方法よりも簡便にかつ効率的に無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、本発明の塗料組成物は、分散性に優れている。さらに、当該塗料組成物により形成される無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
図1】本発明の無電解めっき用塗料組成物の概略図である。
図2】本発明のPd複合体の概略図である。
図3】本発明の被めっき物の概略図である。
図4】本発明で使用する無電解めっき用塗膜のSEM像を示す。なお、SEMは、JSM6390(日本電子株式会社製)を使用している。
図5】本発明で使用するPd複合体のTEM像を示す。なお、TEMは、JEM3010(日本電子株式会社製)を使用している。
図6】本願実施例1の無電解めっき用塗料組成物中のPd複合体の粒子径分布を示す。当該粒子径分布は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社製、FPAR−1000)で測定している。
図7】本願実施例12の無電解めっき用塗料組成物によって形成された塗膜の表面粗さ測定図である(Veeco社製、Wyko NT9100)
【発明を実施するための形態】
【0063】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明する。但し、本発明は実施例に限定されない。
製造例1:Pd複合体含有液Aの作製
3リットルフラスコにイオン交換水944.5gを入れ、当該イオン交換水に硝酸パラジウム5.0gを加えて、撹拌した。これにより、硝酸パラジウムを水に溶解させた。当該水溶液に、カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤(DISPERBYK194、ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)3.8gをさらに加えて、当該水溶液に溶解させた。この溶液を42℃になるまで加熱した後、撹拌しながらヒドラジン1水和物10.0gを加えた。この後、当該溶液を、室温下(23℃)で1時間撹拌した。溶液の温度は、ヒドラジン1水和物の添加後に53℃まで上昇したが、1時間撹拌した後の溶液の温度は40℃であった。この操作により、水溶液中のパラジウムイオンが還元された。この溶液を限外濾過フィルターAHP-1010(旭化成株式会社製)にて、還元されたPd複合体含有液と、無機塩含有液とを分離した。この操作により得られたPd複合体含有液に対して、上記分離した無機塩含有液と同じ質量分のイオン交換水を加えて、再度限外濾過フィルターで分離操作を行った。このイオン交換水補填操作及び分離操作を5回繰り返した。当該操作後に得られたPd複合体含有液の電気伝導率(導電率)は、28μS・cm-1であった。即ち、当該電気伝導率は30μS・cm-1以下であったので、この結果によって当該Pd複合体含有液から無機塩を除去できたことを確認した。なお、得られたPd複合体含有液Aに関して、TG/DTA分析でPd複合体含有率を調べたところ、550℃での残固形分から、Pd複合体含有率は1.2wt%であることがわかった。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=75:25であった。
【0064】
製造例2:Pd複合体含有液Bの作製
DISPERBYK194に代えて、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤DISPERBYK2010(ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分40wt%)を用いた以外は上記製造例1と同様にして、Pd複合体含有液Bを得た。なお、Pd複合体含有液BのPd複合体含有率は1.4wt%であった。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=75:25であった。
【0065】
製造例3:Pd複合体含有液Cの作製
上記Pd複合体含有液Aを遠心分離機にて、16時間、13000G荷重のかかる回転速度で回転させ、固形分を沈降させた。上澄み液をデカンテーションで除去した後、当該除去した上澄み液と同じ質量分のN-メチルピロリドンを加えた。この後、当該N-メチルピロリドン含有液を撹拌して、円沈管底部に溶け残りがないように、Pd複合体を分散させた。この液を遠心分離機にて、16時間、13000G荷重のかかる回転速度で回転させた。この操作により、固形分を沈降させるとともに、上澄み液を除去した。この操作を4回行った。この後、カールフィッシャー法にて、上記沈降させた固形分の含水率が1wt%以下になったことを確認した後、当該固形分に対してN-メチルピロリドンを加えることにより、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液C(分散媒:N-メチルピロリドン(NMP))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0066】
製造例4:Pd複合体含有液Dの作製
N-メチルピロリドンに代えてN,N-ジメチルアセトアミドを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液D(分散媒:N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0067】
製造例5:Pd複合体含有液Eの作製
N-メチルピロリドンに代えてN,N-ジメチルホルムアミドを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液E(分散媒:N,N-ジメチルホルムアミド(DMF))を得た。また、Pd粒子の平均粒子径は2〜10nmの範囲内であり、Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=80:20であった。
【0068】
製造例6:Pd複合体含有液Fの作製
N-メチルピロリドンに代えてエタノールを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液F(分散媒:エタノール)を得た。
【0069】
製造例7:Pd複合体含有液Gの作製
N-メチルピロリドンに代えてエタノールとIPAとの質量比が1:1である溶媒を使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液G(分散媒:エタノール及びIPA)を得た。
【0070】
製造例8:Pd複合体含有液Hの作製
N-メチルピロリドンに代えてシクロヘキサノンを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液H(分散媒:シクロヘキサノン)を得た。
【0071】
製造例9:Pd複合体含有液Iの作製
N-メチルピロリドンに代えてブチルセロソルブを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液I(分散媒:ブチルセロソルブ)を得た。
【0072】
製造例10:Pd複合体含有液Jの作製
N-メチルピロリドンに代えて酢酸ブチルを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液J(分散媒:酢酸ブチル)を得た。
【0073】
製造例11:Pd複合体含有液Kの作製
N-メチルピロリドンに代えてエチレングリコールを使用する以外は、製造例3と同様の方法により、Pd複合体含有率8wt%のPd複合体含有液K(分散媒:エチレングリコール)を得た。
【0074】
製造例12:Pdイオン水溶液Lの作製
3リットルフラスコにイオン交換水936.8gを入れ、当該イオン交換水に硝酸パラジウム21.6gを加えて、撹拌した。これにより、硝酸パラジウムを水に溶解させた。当該水溶液に、DISPERBYK194(ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)40.0gを加えて、当該水溶液に溶解させた。この水溶液に対して、pH=9となるように水酸化ナトリウムを1.6g添加した。これにより、Pdイオン水溶液Lが得られた。なお、Pdイオンの濃度は1wt%であった。
【0075】
製造例13:Pd水溶液Mの作製
3リットルフラスコにイオン交換水944.5gを入れ、当該イオン交換水に硝酸パラジウム5.0gを加えて、撹拌した。これにより、硝酸パラジウムを水に溶解させた。この溶液を42℃になるまで加熱した後、撹拌しながらヒドラジン1水和物10.0gを加えた。この溶液を室温下(23℃)で1時間撹拌した。溶液の温度は、ヒドラジン1水和物の添加後に53℃まで上昇したが、1時間撹拌した後の溶液の温度は40℃であった。この操作により、水溶液中のパラジウムイオンが還元された。次いで、当該溶液にカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤(DISPERBYK194、ビックケミー・ジャパン社製、不揮発分53wt%)3.8gをさらに加えて、撹拌した。この溶液を限外濾過フィルターAHP-1010(旭化成株式会社製)にて、還元されたPd含有液と、無機塩含有液とを分離した。この操作により得られたPd含有液に対して、上記分離した無機塩含有液と同じ質量分のイオン交換水を加えて、再度限外濾過フィルターで分離操作を行った。このイオン交換水補填操作及び分離操作を5回繰り返した。これにより、Pd水溶液Mが得られた。なお、Pdの濃度は1.2wt%であった。
【0076】
実施例1
Pd複合体含有液A8.3wt%、ポリエステル樹脂水溶液(RZ-570、固形分25wt%、互応化学工業株式会社製)4.0wt%、及びイオン交換水87.7wt%を混合することにより、実施例1の無電解めっき用塗料組成物を作製した。当該塗料組成物をポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(SL-50、帝人デュポンフィルム株式会社製)上に、バーコーター#4を用いて塗布し、乾燥用オーブン内で105℃、5分間乾燥させた。これにより、実施例1の無電解めっき用塗膜が形成されたフィルムを得た。
【0077】
実施例2〜36及び比較例1〜16
表1〜3の通り、(1)Pd複合体含有液又はPdイオン含有液、(3)樹脂成分、(2)の溶媒、その他の溶媒、等の種類又は含有量を適宜変更する以外は、実施例1と同様にして、各無電解めっき用塗料組成物を作製した。
【0078】
また、表1〜3の通り、基材の種類、塗布方法、乾燥条件、塗膜の膜厚等を適宜変更する以外は、実施例1と同様にして、各無電解めっき用塗膜が形成された基材(以下、塗膜含有物品ともいう)を得た。
【0079】
なお、実施例2〜36及び比較例1〜16で使用した各樹脂成分の原料については、以下の通りである。
・実施例1〜4、21、22及び31、並びに比較例1及び2:ポリエステル樹脂水溶液(RZ-570、固形分25wt%、互応化学工業株式会社製)
・実施例5及び6、並びに比較例13〜16:ポリエステル樹脂溶液(ペスレジンS-250、固形分30wt%、高松油脂株式会社製)
・実施例7、8、23〜26、33及び34、並びに比較例9〜12:ポリイミド樹脂溶液(Q-IP-X0897、固形分32wt%、PI技術研究所株式会社製)
・実施例9及び10:ポリアミドイミド樹脂溶液(HPC-6000、固形分26wt%、日立化成株式会社製)
・実施例11、12、17〜20、27〜30、32、35及び36、並びに比較例3〜8:ポリアミド樹脂溶液(アロンマイティFS175SV10、固形分10wt%、東亞合成株式会社製)
・実施例13及び14:ポリウレタン樹脂溶液(ユリアーノ12548、固形分30wt%、荒川化学株式会社製)
・実施例15及び16:アクリル樹脂溶液(スーパープライマー89540、固形分27.8wt%、武蔵塗料製造株式会社製)
【0080】
評価試験1:塗料組成物の分散性試験
上記実施例1〜36及び比較例1〜16で得られた各塗料組成物について、分散性を評価した。具体的には、上記各塗料組成物を作製した後に24時間静置させ、当該静置後の各塗料組成物を目視にて評価した。分散性の評価基準は、以下の通りとした。なお、Aのみ製品として合格である。
A:(1)Pd複合体及び(3)樹脂が均一に分散していた。
B:(1)Pd複合体(若しくはパラジウム粒子)又は(3)樹脂が均一に分散されずに一部又は全部が沈殿していた。
【0081】
評価試験2:無電解めっき性試験
上記得られた実施例1〜36及び比較例1〜16の各塗膜含有物品を無電解めっき浴に浸漬させることにより、無電解めっき性(無電解銅めっき性及び無電解ニッケルめっき性)を評価した。無電解銅めっき浴は、上村工業株式会社製 スルカップPSY(初期Cu濃度2.5g/l、浴容積 500ml 30℃)、を使用し、無電解ニッケルめっき浴は上村工業株式会社製BEL801(初期Ni濃度6g/l、浴容積 500ml 65℃)を使用した。無電解めっき浴への浸漬は、15分間行った。無電解めっき性の評価基準は、以下の通りとした。なお、A〜Cが、製品として合格である。
A:めっき液浸漬直後にめっき析出反応が開始し、即座に光沢のあるめっき皮膜が得られ、かつ、剥離が見られなかった。
B:めっき液浸漬直後ではないが、15分以内に光沢のあるめっき皮膜が得られ、かつ剥離が見られなかった。
C:上記B評価ほど光沢はないが、製品として十分許容できる程度に光沢のあるめっき皮膜が得られ、かつ剥離が見られなかった。
D:めっき皮膜が得られたものの、めっき皮膜の剥離が見られた。
E:めっき皮膜が得られなかった。
【0082】
評価試験3:密着性試験(クロスカット試験評価)
無電解めっき皮膜の密着性を確認するために、以下の試験を行った。実施例1〜36及び比較例1〜16の各塗膜含有物品に対して上記評価試験2と同様にして、銅またはニッケルめっき皮膜を得た。当該銅またはニッケルめっき皮膜上に、JIS K 5600(クロスカット法)に基づいて1mm間隔で25マスの切込みを入れた。その上にセロハンテープ(セロテープ(登録商標)、ニチバン株式会社製)を貼り、テープを剥離したときの剥がれたマス目の数を測定した。なお、Aのみ製品として合格である。
A:剥がれたマス目の数が0であった。
B:剥がれたマス目の数が1以上であった。
【0083】
各試験結果を以下の表1〜3に示す。表中には、各塗料組成物を作成する際に使用した各成分の質量部(質量%)を併せて示す。各成分の質量部は、小数点第二位まで表示している。各無電解めっき用塗料組成物の合計質量部(質量%)は100質量部(質量%)としている。
【0084】
表中、NMPはN-メチルピロリドン、DMFはN,N-ジメチルホルムアミド、DMAcはN,N-ジメチルアセトアミド、MEKはメチルエチルケトンを示す。
【0085】
また、表中の基材の種類に関して、αはポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム(KEL-86W、帝人株式会社製)、βはポリイミドフィルム(カプトンEN100、東レ・デュポン株式会社製)、γはPETフィルム(SL-50、帝人株式会社製)、δはポリエステル繊維(ユニエコロ、ユニチカ株式会社製)、εはアラミド繊維(ケブラー29、東レ・デュポン株式会社製)を示す。
【0086】
また、表中の塗布方法に関して、bはバーコーター、iはインクジェット、gはグラビアオフセット、rはロールコート、dはディッピング(浸漬)による塗布を示す。バーコーターは松尾産業株式会社製Select-Roller L60、インクジェットはセイコーエプソン株式会社製PX-A550をそれぞれ使用した。グラビアオフセットは、塗料組成物を、ドクターブレードを用いて、100μmピッチで形成された丸点メッシュからなるグラビア印刷用凹版の細孔内に充填した。当該塗料組成物を充填した部分の上に、転写用ブランケットゴムロール(A(0.6)SP11-1、株式会社金陽社製)を密着させて、当該塗料組成物をロール上に転写した。この後、このブランケットゴムロールを各フィルムに密着させることにより、当該塗料組成物を各フィルム上に転写した。
【0087】
また、表中の乾燥条件に関して、Iは105℃で5分の乾燥、IIは105℃で5分の乾燥をした後にさらに260℃で5分の乾燥、IIIは100℃で10分の乾燥を示す。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】
【0090】
【表3】
【符号の説明】
【0091】
1.Pd複合体
2.水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに樹脂
3.Pd粒子
4.分散剤
5.基材
6.無電解めっき用塗膜
7.無電解めっき皮膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7