【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、特定の成分を使用することによって、上記目的を達成し得る塗料組成物が得られることを見出し、ここに本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、下記の塗料組成物、その製造方法、その使用、その使用方法及び被めっき物に関する。
1. 以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに
(3)樹脂、
を含有することを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物。
2. 前記(1)複合体は、分散剤の存在下、パラジウムイオンを還元することによって得られる、上記項1に記載の塗料組成物。
3. 前記非プロトン性極性溶媒が、N−メチルピロリドン、N,N-ジメチルホルムアミド及びN,N-ジメチルアセトアミドからなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1又は2に記載の塗料組成物。
4. 前記(3)樹脂が、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種である、上記項1〜3のいずれかに記載の塗料組成物。
5. 前記分散剤が、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するブロック共重合体型高分子分散剤である、上記項1〜4のいずれかに記載の塗料組成物。
6. (2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂を含有する無電解めっき用塗料組成物の製造方法であって、以下の(i)並びに(ii):
(i) 前記(2) 水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオン
を還元する工程2、
を順に含むことを特徴とする、無電解めっき用塗料組成物の製造方法。
7. 上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を、基材上に塗布して塗膜を形成した後、無電解めっき液と接触させることにより、無電解めっき皮膜を形成する方法。
8. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項7に記載の方法。
9. 上記項1〜5のいずれかに記載の無電解めっき用塗料組成物を基板に対して塗布した後、無電解めっきを施すことによって得られる、被めっき物。
10. 前記塗布が、グラビアオフセット印刷方式又はフレキソ印刷方式による塗布である、上記項9に記載の被めっき物。
【0011】
以下、本発明の塗料組成物について詳細に説明する。なお、本発明は、塗料組成物の製造方法の発明、塗料組成物の使用の発明、塗料組成物の使用方法の発明、及び、被めっき物の発明も含む。
【0012】
≪本発明の無電解めっき用塗料組成物≫
本発明の塗料組成物は、以下の(1)〜(3):
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、
(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに
(3)樹脂、
を含有することを特徴とする。本発明の塗料組成物を無電解めっき用という特定の用途で使用する場合、当該塗料組成物は、従来の方法よりも簡便にかつ効率的に無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。また、本発明の塗料組成物は、分散性に優れている。さらに、当該塗料組成物により形成される無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0013】
以下、本発明の無電解めっき用塗料組成物の各成分について説明する。なお、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂からなる塗料組成物は、本発明の無電解めっき用塗料組成物として好ましい態様の1つである。また、(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、(3)樹脂、並びに後述する(4)前記(2)以外の溶媒、からなる塗料組成物もまた、本発明の無電解めっき用塗料組成物として好ましい態様の1つである。本発明では、部、%等の表示を使用するが、特に断りがない限り、質量部又は質量%(wt%)を表す。
【0014】
(1)パラジウム粒子と分散剤との複合体
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、パラジウム粒子(Pd粒子)と、分散剤との複合体を含有する(以下、この複合体をPd複合体ともいう)。
【0015】
Pd複合体は、例えば、溶媒中に分散剤及びパラジウムイオン(Pdイオン)を存在させた後、当該パラジウムイオンを還元することにより得ることができる。
【0016】
分散剤としては、Pd複合体の形状が、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合している、という条件を満たすものが好ましい。例えば、ポリカルボン酸アンモニウム塩、ポリカルボン酸ナトリウム塩、ポリカルボン酸トリエチルアミン塩、ポリカルボン酸トリエタノールアミン塩等のポリカルボン酸系高分子分散剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテルカルボン酸塩、アルキルヒドロキシエーテルカルボン酸塩等のヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;アクリル酸−マレイン酸共重合体、スチレン−マレイン酸共重合体、アクリル酸−スルホン酸共重合体等のカルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤;などを使用することができる。分散剤は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。分散剤の中でも、ヒドロキシル基及びカルボキシル基からなる群から選ばれた少なくとも1種の基を有するブロック共重合体型高分子分散剤が好ましい。
【0017】
分散剤は、市販品を使用することができる。ポリカルボン酸系高分子分散剤は、サンノプコ(株)製ノプコサントK,R,RFA, ノプコスパース44-C, SNディスパーサント5020,5027,5029,5034,5045,5468 、花王(株)製デモールP,EP, ポイズ520,521,530,532A,等として販売されている。カルボキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤は、ビックケミー・ジャパン(株) DISPERBYK180,187,191,194、 (株)日本触媒製アクアリックTL,GL,LSとして販売されている。また、ヒドロキシル基を有するブロック共重合体型高分子分散剤としては、ビックケミー・ジャパン(株)製DISPERBYK190,2010等として販売されている。
【0018】
パラジウムイオンを供給する化合物としては、塩化パラジウム、硫酸パラジウム、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、安息香酸パラジウム、サリチル酸パラジウム、パラトルエンスルホン酸パラジウム、過塩素酸パラジウム、ベンゼンスルホン酸パラジウム等が挙げられる。パラジウムイオンを供給する化合物は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0019】
Pdイオンを還元する方法としては、溶媒中に分散剤及びPdイオンを存在させた後、還元剤を前記溶媒中に加える方法が挙げられる。これによりPdイオンと還元剤とが接触し、反応する。還元剤としては、ヒドラジンヒドラート(ヒドラジン1水和物)、水素化ホウ素ナトリウム、N,Nジメチルエタノールアミン、ジエタノールアミンなどの2級又は3級アミン類が挙げられる。
【0020】
還元する際に使用される溶媒(分散剤及びPdイオンを存在させるための溶媒)は、以下の(2)で説明される水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種(以下、(2)の溶媒ともいう)を使用することができる。溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0021】
Pd複合体の形状は、本明細書の
図2のように、(i)分散剤が互いに絡み合った外観を呈し、(ii)少なくとも一部の分散剤どうしの接点で両者が接合しており、(iii)前記分散剤にPd粒子が付着している、という構造であると考えられる。具体的に、Pd複合体の形状は、ランダムコイル状、密集した球状又は球形構造のいずれであってもよい。
【0022】
Pd粒子の多くは、分散剤の外側に付着していると考えられる。例えば、Pd複合体の形状(分散剤全体の形状)が密集した球状である場合、Pd粒子の多くは当該球状の表面側(外側)に付着していると考えられる。
【0023】
Pd複合体中のPd粒子と分散剤との質量比は、Pd粒子:分散剤=50:50〜95:5程度であり、Pd粒子:分散剤=65:35〜85:15が好ましい。
【0024】
Pd粒子単独の平均粒子径は、特に限定されないが、2〜10nmが好ましい。なお、本明細書では、Pd粒子の粒子径は、後述する透過型電子顕微鏡で測定している。また、本明細書では、Pd粒子の平均粒子径は、Pd粒子をランダムに10点選択し、そのPd粒子の粒子径を上記透過型電子顕微鏡で測定して、個数平均することで算出される(個数基準平均径)。
【0025】
一方、Pd複合体の平均粒子径は、特に限定されないが、全体としては平均粒子径20〜300nm程度の球形状(本明細書の
図2)の構造を有していることが好ましい。本明細書において、Pd複合体の平均粒子径は、粒径アナライザー(大塚電子株式会社、FPAR−1000)で測定されたものである(質量基準平均径)。
【0026】
本発明の無電解めっき用塗膜が、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる理由は、以下のような原理によるものと考えられる。
(原理) Pd複合体が形成する構造の内部は、(2)の溶媒を吸着するように包含している。このPd複合体の内部の(2)の溶媒は、本発明の塗料組成物中の(2)の溶媒よりも、乾燥速度が小さい。そのため、本発明の塗料組成物を基板に塗布すると、まず塗料組成物中の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜全体が形成され、その後に塗膜中に存在するPd複合体の内部の(2)の溶媒が乾燥することにより塗膜表面にクレーター状の凹凸を形成する。これにより、無電解めっき用塗膜(以下、単に塗膜ともいう)が形成される。この凹凸表面には、Pd粒子が多く存在する。このような原理で前記塗膜は形成されるため、以下の(a)及び(b):
(a) Pd粒子が塗膜表面に密集するように多く存在しているため、当該塗膜表面と無電解めっき液との反応性に優れ、
(b) 塗膜表面には前記凹凸が形成されているため、めっき皮膜と当該塗膜との間のアンカー効果に優れ、
(c) 前記凹凸は非常に微細であり塗膜表面の平滑性が保持されているため(例:本明細書の
図7)、光沢度の高い(外観皮膜に優れた)めっき皮膜が得られる、
という効果が奏されているものと考えられる。
【0027】
(2) 水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種
本発明の塗料組成物は、(2)の水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種の溶媒((2)の溶媒)を含有する。当該(2)の溶媒は、(1)のPd複合体や(3)の樹脂との親和性に優れており、(1)Pd複合体及び(3)樹脂を分散させる溶媒(又は分散媒)としての機能を有する。
【0028】
非プロトン性極性溶媒としては、N-メチルピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)等の>N−C(=O)−という原子団(または基若しくは結合)を有する非プロトン性極性溶媒;ジメチルスルホキシド;γ―ブチロラクトンなどが挙げられる。非プロトン性極性溶媒の中でも、>N−C(=O)−原子団を有する非プロトン性極性溶媒が好ましく、NMP、DMF及びDMAcからなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましい。なお、(2)の溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0029】
(2)の溶媒は、パラジウムイオンの還元反応後に変換(例えば、溶媒を水からNMPに変換)することが可能である。
【0030】
溶媒の含有量は、特に限定されないが、前述のPd複合体100質量部に対して、10
2〜10
6質量部程度が好ましい。(2)の溶媒が水のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×10
3〜3×10
5質量部が好ましく、10
4〜2×10
5質量部がより好ましい。(2)の溶媒が非プロトン性極性溶媒のみである場合は、(1)Pd複合体100質量部に対して5×10
2〜5×10
3質量部が好ましく、10
3〜2×10
3質量部がより好ましい。
【0031】
(3)樹脂
本発明の塗料組成物は、樹脂を含有する。本発明で樹脂を使用することにより、基材上に無電解めっき用塗膜をより強固に基材に密着させることができる。上記樹脂は、無電解めっき用塗膜を構成する高分子母材(マトリックス樹脂)となる。
【0032】
(3)樹脂としては、上記(2)の溶媒に分散又は溶解する樹脂を使用することができる。具体的な樹脂としては、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アクリル樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂(PAI)、シェラック樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、等が挙げられる。なお、本明細書において、アクリル樹脂とは、アクリル酸エステルの重合体若しくはメタクリル酸エステルの重合体又はこれらをコモノマーとする共重合体を意味するものであり、例えばポリメタクリル酸メチル樹脂、ポリアクリル酸メチル樹脂、エチレン−アクリル酸メチル共重合体、エチレン−メタクリル酸メチル共重合体等が挙げられる。また、本明細書において、ポリアミドイミド樹脂とは、ポリイミド主鎖にアミド結合を導入した樹脂であり、無水トリメリット酸とジイソシアネートとの反応や無水トリメリット酸クロライドとジアミンとの反応等で得られる樹脂である。
【0033】
(3)樹脂の中でも、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、ポリアミド樹脂、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種が好ましく、ポリアミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種がより好ましく、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種がさらに好ましい。
【0034】
(3)樹脂の成分は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。なお、(3)樹脂として2種以上の樹脂成分を使用する場合、その中の1種類の樹脂成分の含有量が(3)樹脂成分中90wt%以上となるように使用することが好ましい。なお、4−アルキル−3−カルボン酸エステルポリピロールは、めっき皮膜の密着性の低下、耐水性の低下、耐候性の低下等の観点から、(3)樹脂成分として含有しないことが好ましい。
【0035】
前記樹脂の含有量は、Pd複合体100質量部に対して、10〜10
4質量部が好ましく、50〜1500質量部がより好ましい。
【0036】
また、(2)の溶媒の他、本発明の効果が奏される範囲内で、希釈溶媒を使用することができる。希釈溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、シクロヘキサノン、ジアセトンアルコール等のケトン類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセロソルブ)、tert-ブチルセロソルブ等のグリコールエーテル類;安息香酸メチル、安息香酸エチル、サリチル酸メチル等の芳香族カルボン酸エステル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、メチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)等のグリコールエーテルエステル類;酢酸エチル、酢酸ブチル等のアルカノールエステル類;等を含有してもよい。中でも、Pd複合体や樹脂との親和性、基材との溶着性、塗装性能等の観点から、ケトン類が好ましい。
【0037】
これらの希釈溶媒を使用する場合、その含有量は、(1)Pd複合体100質量部に対して、0〜2×10
4質量部とすることが好ましく、20〜2×10
4質量部とすることがより好ましい。希釈溶媒は、1種又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0038】
≪本発明の無電解めっき用塗料組成物の製造方法≫
本発明の塗料組成物の製造方法は、特に限定されないが、(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種、並びに(3)樹脂を含有し、以下の(i)並びに(ii):
(i) 前記(2)水及び非プロトン性極性溶媒からなる群から選ばれた少なくとも1種中に、パラジウムイオン及び分散剤を存在させる工程1、並びに
(ii) 前記パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、前記パラジウムイオンを還元する工程2、
を順に含む製造方法により製造することが好ましい。前記製造方法によれば、無電解めっき用塗膜を形成することが可能な無電解めっき用塗料組成物を、環境に対する悪影響が少なく簡便にかつ効率的に製造することができる。当該無電解めっき用塗料組成物は、分散性に優れ、かつ、従来の方法よりも簡便で効率的に無電解めっき用塗膜を形成することが可能であり、しかも環境に対する悪影響が少なく、安全性が高い。上記無電解めっき用塗膜は、密着性及び外観皮膜に優れた無電解めっき皮膜を形成することができ、当該無電解めっき皮膜の析出速度にも優れる。
【0039】
工程1において、パラジウムイオンと分散剤とを溶媒中に存在させる。パラジウムイオンは、供給源として前述のパラジウムイオンを供給する化合物を使用することができる。分散剤としては、前述の分散剤を使用することができる。
【0040】
工程1におけるパラジウムイオンと分散剤の使用比率(質量比)は、パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は通常、10〜200質量部程度である。パラジウムイオン100質量部に対して、分散剤は30〜150質量部が好ましく、さらに好ましくは50〜100質量部である。
【0041】
工程1で使用する溶媒としては、上記(2)の溶媒を使用することができる。当該溶媒の使用量は、パラジウムイオンと分散剤を均一に存在させることができれば特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して10
4〜3×10
5質量部が好ましく、10
4〜10
5質量部がより好ましい。
【0042】
工程2では、パラジウムイオンと還元剤とを反応させることにより、パラジウムイオンが還元剤によって還元される。即ち、工程2ではパラジウムイオンの還元反応が生じ、結果として前述の(1)のPd複合体を得ることができる。工程2における還元剤としては、前述の(1)のPd複合体を作製するために使用される還元剤を使用することができる。還元剤の使用量は、特に限定されないが、パラジウムイオン100質量部に対して、100〜800質量部程度であり、200〜600質量部が好ましい。
【0043】
工程2に関して、反応温度は35〜45℃程度であり、50〜60℃程度まで昇温する。反応時間は、特に限定されないが、1〜5時間程度とすればよい。反応の際の圧力及び雰囲気は、特に限定されず、大気圧下かつ大気(空気)雰囲気下で行えばよい。反応はビーカーなどの開放系で行うことができ、反応方法としてはパラジウムイオン、分散剤及び還元剤を含有する溶液を羽根付き撹拌棒で撹拌すればよい。
【0044】
本発明の無電解めっき用塗料組成物は、工程1及び工程2のみの手順でも得られるが、工程2の後に、例えば、(2)の溶媒、(3)の樹脂、その他成分等の含有(添加);Pd複合体含有液の分離;などのその他の操作を行ってもよい。この点について、以下説明する。
【0045】
工程2の後には、前述の(2)溶媒及び(3)樹脂からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することができる。なお、パラジウムイオンの還元反応後に溶媒を変換する(例えば、工程1の溶媒として水を使用し、工程2の後で上記水をNMPに変換することにより、NMPを溶媒とする無電解めっき塗料組成物とする)ことも可能である。
【0046】
工程2の後に、工程2で得られたPd複合体含有液を限外濾過による分離を行うことができる。この操作により、Pd複合体含有液に含まれる無機塩や過剰の分散剤等を除去することができる。より具体的には、Pd複合体含有液に対して濾過操作及び水、溶媒等(特に水)の補填操作を繰り返すことができる。
【0047】
≪本発明の塗料組成物の使用≫
本発明の塗料組成物は、無電解めっきを施したい基材に対して使用することができる。この本発明の塗料組成物の使用(使用方法)により、無電解めっきを行うのに適した塗膜を基材上に形成することができる。
【0048】
基材の形状としては、特に限定されない。例えば、板状(又はフィルム状)、不織布状(又は織布状)、糸状、金型で成形された各種形状、等のいずれであってもよい。
【0049】
基材の成分としては、特に限定されないが、樹脂、セラミックス等が挙げられる。具体的な樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリ乳酸エステル等のポリエステル樹脂;ポリメチルメタクリレート(PMMA)等のアクリル樹脂;ポリカーボネート樹脂(PC);ポリスチレン樹脂;ポリ塩化ビニル樹脂;ポリアミド樹脂;ポリイミド樹脂;ポリエーテルイミド樹脂;ポリアセタール樹脂;ポリエーテルエーテルケトン樹脂;環状ポリオレフィン樹脂;ポリエチレン樹脂;ポリフェニレンスルファイド樹脂;液晶ポリマー;変性ポリフェニルエーテル樹脂;ポリスルホン樹脂;フェノール樹脂;ポリフタルアミド樹脂(PPA);ポリアリレート樹脂;などが挙げられる。具体的なセラミックスとしては、ガラス、アルミナ等が挙げられる。また、基材として不織布を使用する場合、木質繊維、ガラス繊維、石綿、ポリエステル繊維、ビニロン繊維、レーヨン繊維、ポリオレフィン繊維等の不織布が挙げられる。
【0050】
基材に対して上記塗料組成物を使用する方法としては、特に限定されず、例えば塗布することが挙げられる。塗布方法としては、バーコーター、グラビア印刷機(グラビアオフセット)、フレキソ印刷機、インクジェット印刷機、ディッピング、スプレー、スピンコーター、ロールコーター、リバースコーター、スクリーン印刷機等を用いて、塗布することができる。中でも、グラビアオフセット印刷又はフレキソ印刷による塗布が好ましい。
【0051】
本発明の塗料組成物を基材に対して使用(例:塗布)した後では、乾燥処理を行うことができる。当該乾燥工程によって、無電解めっきを行う際に不必要な溶媒を効率的に除去するとともに、塗膜と基材との密着性及び塗膜の表面強度を向上させることができる。
【0052】
乾燥処理の温度は、好ましくは60〜400℃程度である。さらに好ましくは80〜150℃である。乾燥時間は、乾燥温度にもよるが、通常0.1分(6秒)〜60分程度である。さらに好ましくは10〜30分程度である。
【0053】
無電解めっき用塗膜には、Pd複合体が含まれる。Pd複合体は、塗膜に対して均一に分散された状態で存在する。そのため、当該塗膜上に対して、より効率的に無電解めっきを行うことができる。
【0054】
乾燥前における塗膜の厚みは、使用用途によって適宜選択することができる。乾燥前では通常1〜30μm程度であり、2〜20μmが好ましい。
【0055】
乾燥後における塗膜の厚みは、通常0.05〜3μm程度であり、0.1〜1μmが好ましい。乾燥後における塗膜の厚みが上記範囲内であれば、基材と塗膜との密着性、および無電解めっき皮膜(金属皮膜)と塗膜との密着性のいずれにおいて特に優れる。
【0056】
≪本発明の被めっき物≫
本発明の塗料組成物を基材に使用することにより本発明の無電解めっき用の塗膜を形成した後、無電解めっきを行うことによって無電解めっき皮膜を形成することができる。当該無電解めっき皮膜が形成された本発明の被めっき物は、めっき皮膜の密着性に優れる。
【0057】
前記の方法によって塗膜が形成された基材は、金属を析出させるためのめっき液と接触し、これにより無電解めっき皮膜が形成される。無電解めっきは反応性がよく、得られた無電解めっき皮膜はむらがなく、密着性及び外観皮膜に優れる。
【0058】
めっき液としては、通常、無電解めっきに使用されるめっき液であれば特に限定されず、例えば、銅、金、銀、ニッケル、クロム等が挙げられる。特に、本発明の塗料組成物によって形成された塗膜との関係から、銅又はニッケルが好ましい。これらのめっき条件については、常法に従えばよい。
【0059】
例えば、無電解めっき処理温度に関して、無電解銅めっき浴では通常25〜45℃程度であり、処理時間は10〜20分程度で、0.3〜0.4μm程度の析出膜厚となる。また、無電解ニッケルボロン浴では、処理温度は55〜70℃程度であり、析出速度は通常5μm/hr(60℃)程度である。無電解ニッケルりん浴では通常85〜95℃程度であり、析出速度は通常20μm/hr(90℃)程度である。
【0060】
本発明の被めっき物は、集積回路、抵抗器等の電子部品;電磁波シールド;金属調に加飾された電気製品の筐体;などに使用することができる。また、上記被めっき物が糸状の導電性繊維である場合は、衣類や電線に使用することができる。