特許第6284561号(P6284561)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284561吊りボルト補強具及び吊りボルト補強方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284561
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】吊りボルト補強具及び吊りボルト補強方法
(51)【国際特許分類】
   F16B 1/00 20060101AFI20180215BHJP
   F16B 5/02 20060101ALI20180215BHJP
   F16B 35/00 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   F16B1/00 A
   F16B5/02 Y
   F16B35/00 Z
【請求項の数】4
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-29153(P2016-29153)
(22)【出願日】2016年2月18日
(65)【公開番号】特開2017-145919(P2017-145919A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2016年5月10日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.刊行物(論文) 刊行物名: 平成27年度空気調和・衛生工学会大会 学術講演論文集{2015.9.16〜18(大阪)} 第10巻 第145頁〜第148頁 発行日: 平成27年9月2日 2.集会 集会名: 平成27年度 空気調和・衛生工学会大会 開催場所: 大阪大学 豊中キャンパス(大阪府豊中市待兼山1−10) 開催日: 平成27年9月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】390018474
【氏名又は名称】新日本空調株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】597040902
【氏名又は名称】学校法人東京工芸大学
(74)【代理人】
【識別番号】100079980
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 伸行
(74)【代理人】
【識別番号】100167139
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】品田 直也
(72)【発明者】
【氏名】永坂 茂之
(72)【発明者】
【氏名】田村 稔
(72)【発明者】
【氏名】中川 冬彦
(72)【発明者】
【氏名】水谷 国男
(72)【発明者】
【氏名】水谷 槙男
【審査官】 熊谷 健治
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−167737(JP,A)
【文献】 特開2014−015772(JP,A)
【文献】 特開2007−292214(JP,A)
【文献】 特開2004−072965(JP,A)
【文献】 特開2016−003491(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 1/00
F16B 5/02
F16B 35/00
E04B 9/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端が天井スラブに挿入され固定される天吊り用の吊りボルトの揺れに対する応力を補強する吊りボルト補強具であって、
前記吊りボルトを被覆する管状部材と、
前記管状部材の一端に取り付けられる第一端部取付け部材であって、
雄ねじである吊りボルトに対応する雌ねじにより内側が形成され、吊りボルトが挿入されこれを該第一端部取付け部材にねじ込んで固定する吊りボルト挿入部と、
前記管状部材の内側に挿入され該管状部材を前記第一端部取付け部材に挿入して固定する管状部材挿入部と、
天井スラブ面に当接する天井当接面と、
前記管状部材の一端に当接する鍔状面と、を有する第一端部取付け部材と、
前記管状部材の他端に取り付けられる第二端部取付け部材であって、
吊りボルトが挿入される吊りボルト挿入部と、
前記管状部材の内側に挿入される管状部材挿入部と、
前記管状部材の他端に当接する鍔状面と、を有する第二端部取付け部材と、
を備えことを特徴とする吊りボルト補強具。
【請求項2】
前記管状部材がSUS製である請求項1に記載の吊りボルト補強具。
【請求項3】
前記吊りボルトが9φ(W3/8)であり、吊長さが30cm以下である請求項1又は2に記載の吊りボルト補強具。
【請求項4】
上端が天井スラブに挿入され固定される天吊り用の吊ボルトの揺れに対する応力を補強する吊りボルト補強方法であって、
前記吊りボルトを管状部材で被覆し、
前記管状部材と天井スラブ面との間に、第一端部取付け部材をその上端面が天井スラブ面に当接するとともに、前記管状部材が前記第一端部取付け部材に設けられた鍔状面に当接するように配し、雄ねじである吊りボルトに対応する雌ねじにより内側が形成された前記第一端部取付け部材を前記吊りボルトにねじ込んで固定し、且つ前記管状部材を該第一端部取付け部材に挿入して固定し、
前記吊りボルトに前記管状部材が支持されるように前記管状部材の下端に第二端部取付け部材を取り付けことを特徴とする吊りボルト補強方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の吊り具によって機器類等の物品が天井から吊り下げられる天吊りの補強に関するものであり、より具体的には、天吊りに用いられる吊り用の全ねじ(吊りボルト)を補強する補強具及び補強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
吊りボルトを用いた天吊りは、例えば固定部である天井スラブに埋め込まれたアンカー及びインサートの雌ねじに、雄ねじである吊り用の吊りボルトが4本取り付けられ、各吊りボルトのもう一方の端部に機器類等の物品(以下「吊り物」という。)が接続されることで、該物品が空中に設置されるというものである。
【0003】
天井設置機器等に関し、建築設備耐震設計・施工指針2015年版(非特許文献1)においては、天井スラブに直接支持するか、鋼製吊架台を用いる方法が示されており、吊りボルトを用いた支持方法は推奨されていない。しかし、実際にはかかる支持方法が用いられる場合も多く、非特許文献1においても、吊りボルトを用いた重量1kN以下の軽量な機器の耐震支持については、軽量であることを考慮し、「設備機器の製造者の指定する方法で確実に行えばよいものとする。」とされている。
【0004】
しかしながら、多くの設備機器の製造者は、軽量な機器の耐震支持方法を示していないことが多く、吊りボルトを用いる場合の適切な耐震支持方法が明確にされていないのが現状である。
【0005】
吊りボルトを用いる場合の補強手段として、吊りボルトを鋼管などの部材で被覆して剛性を増加させるものが提案されている(特許文献1)。特許文献1は、圧縮力抵抗体を使用して吊りボルトの座屈を防止するものであるが、地震が発生し、吊り物(吊り支持機器)の揺れが発生した際に圧縮抵抗体がスライドし、吊りボルトと圧縮抵抗体の隙間が無くなり接触すると、吊り支持機器の揺れによる変位と加振力により、吊りボルトの天井スラブ面と圧縮抵抗体の接触部に大きなせん断力が発生し、吊りボルトのせん断破壊が生じやすくなる。
【0006】
また、鋼材を組み合わせることで剛性を増加させ、吊りボルトの座屈を防止する方法として、例えば特許文献2の発明が提案されている。しかし、これによると、吊り支持機器が変位した場合に吊りボルトの天井スラブ面と鋼材の接触部に大きなせん断力が発生し、吊りボルトのせん断破壊が生じやすいものとなる。
【0007】
吊りボルトを鋼材で被覆し剛性を増加させ、且つ吊りボルトへせん断力および曲げモーメントがかからないように吊り支持機器の変位を防止するための斜材を設けるものも提案されている(特許文献3)。しかし、地震時の加振力を吊り物が変位しないように斜材で耐えると、天井スラブ面の斜材接続部と吊りボルトの接触部でせん断力が発生し、吊りボルトがせん断破壊されてしまう。
【0008】
このように、吊りボルトの補強として、剛性を増加させるため吊りボルトよりも剛性の高い部材を吊りボルトに被覆することが考えられるが、例えば円筒形の管(丸パイプ)を被覆する場合、丸パイプのパイプ径を大きくすると、丸パイプの断面2次モーメントが大きくなるため、丸パイプの曲げモーメントに対する曲げ剛性は増加する反面、地震における吊り支持機器への加振により変位が生じた場合、変位が小さくても吊りボルトの天井スラブ面と丸パイプとの接触部で大きなせん断力が発生するため、吊りボルトがせん断破壊される。
【0009】
一方、丸パイプのパイプ径を小さくすると、丸パイプの断面2次モーメントが小さくなり、丸パイプの曲げモーメントに対する曲げ剛性は低下する。地震により吊り機器が加振されると小さな加振力でも大きな変位が生じ、変位が大きくなると、吊りボルトの天井スラブ面と丸パイプの接触部で、吊りボルトが曲げモーメントにより塑性変形し、曲げ破壊される。
【0010】
すなわち、地震で吊り物(機器等)に大きな加振力が加わった場合、被覆する部材の径(丸パイプのパイプ径)が大きいと吊りボルトはせん断破壊されてしまい、この径が小さいと、曲げモーメントによる塑性変形により、吊りボルトは曲げ破壊されてしまう。
【0011】
更に、2012年に改訂された新版建築設備の耐震設計施工法(非特許文献2)においては、地震後の設備機能確保を目指した実務的耐震対策として、1kN以下の吊り支持機器の落下や傾き防止の方法は、吊長さ25cm以下の場合9φ(インチねじの場合W3/8)の吊りボルト、吊長さ25〜30cmは12φ(W1/2)の吊りボルトを使用して斜材(補強するための斜材)なしで機器を吊支持可能とされている(なお、吊長さ30cm以上の場合は、吊りボルトのみ(斜材なし)で機器を吊り下げることはできない)。
【0012】
すなわち、吊長さが25cm以下および25cm〜30cmとなる吊り支持機器が混在してある場合、吊りボルトは9φ(W3/8)および12φ(W1/2)の両方が必要となり、且つ、9φ(W3/8)および12φ(W1/2)の吊りボルトに適用する天井アンカー等の金具をそれぞれ使用しなければならないこととなる。そうすると、径の異なる2種類のボルトが存在することとなるため、作業に際しその区別を行わなければならず、作業効率が低下するおそれがあり、施工間違いが生じやすくなっていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平10−205654号
【特許文献2】特開2007−132122号
【特許文献3】特開2008−208687号
【非特許文献】
【0014】
【非特許文献1】建築設備耐震設計・施工指針2015年版(一般財団法人 日本建築センター発行)
【非特許文献2】新版建築設備の耐震設計施工法(空気調和・衛生工学会著)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、曲げ破壊とせん断破壊の両方に対応できる天吊り用の吊りボルト補強具及び吊りボルト補強方法を提供することを課題とする。
【0016】
また、吊りボルトの吊長さが30cm以下の場合において、径の同じ吊りボルトを用いることができるようにする、吊りボルト補強具及び吊りボルト補強方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため、本発明は、吊りボルトへの曲げモーメントに対する曲げ応力を増加させながら、吊りボルトへのせん断力に対するせん断応力を増加させるため、せん断力が集中する箇所の強度を高めるとともに、摩擦力を利用するとの技術思想に基づくものである。
【0018】
すなわち、本発明は、第1の側面として天吊り用の吊りボルトを補強する吊りボルト補強具であって、前記吊りボルトを被覆する管状部材と、前記管状部材の一端に取り付けられる第一端部取付け部材であって、吊りボルトが挿入される吊りボルト挿入部と、前記管状部材の内側に挿入される管状部材挿入部と、天井スラブ面に当接する天井当接面と、前記管状部材の一端に当接する鍔状面と、を有する第一端部取付け部材と、前記管状部材の他端に取り付けられる第二端部取付け部材であって、吊りボルトが挿入される吊りボルト挿入部と、前記管状部材の内側に挿入される管状部材挿入部と、前記管状部材の他端に当接する鍔状面と、を有する第二端部取付け部材と、を備えることを特徴とする吊りボルト補強具を提供する。
第2の側面として、本発明は、前記管状部材がSUS製である上記の吊りボルト補強具を提供する。
第3の側面として、本発明は、前記吊りボルトが9φ(W3/8)である上記の吊りボルト補強具を提供する。
第4の側面として、本発明は、前記吊りボルトの吊長さが30cm以下である上記の吊りボルト補強具を提供する。
第5の側面として、本発明は、天吊り用の吊ボルトを補強する吊りボルト補強方法であって、前記吊りボルトを管状部材で被覆し、前記管状部材と天井スラブ面との間に、第一端部取付け部材をその上端面が天井スラブ面に当接するとともに、前記管状部材が前記第一端部取付け部材に設けられた鍔状面に当接するように配し、前記吊りボルトに前記管状部材が支持されるように前記管状部材の下端に第二端部取付け部材を取り付けることを特徴とする吊りボルト補強方法を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、吊りボルトへの曲げモーメントに対する曲げ応力が増加されるとともに、吊りボルトへのせん断力に対するせん断応力が増加される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施形態にかかる図である。
図2】本発明の管状部材にかかる図である。(A)は管状部材の一例を示し、(B)はこの管状部材を吊りボルトに取り付けた際の断面を示す図である。
図3】本発明の端部取付け部材にかかる図であり、(A)は第一端部取付け部材の一例、(B)は第二端部取付け部材の一例をそれぞれ示す図である。
図4】本発明による補強の構造を示す図である。
図5】本発明による補強の加力、応力及び摩擦力を示す図である。
図6】吊りボルトを補強しない場合の加力、応力及び摩擦力を示す図である。
図7】吊りボルトの応力−ひずみ線図模式図である。
図8】吊りボルトの応力−たわみ線図模式図である。
図9】パイプ径と変位δ−せん断力Fの関係を示す図である。
図10】パイプ径と変位δ−せん断応力τの関係を示す図である。
図11】条件(1)の場合の試験結果を示す図である。
図12】条件(2)の場合の試験結果を示す図である。
図13】条件(3)(本発明)の場合の試験結果を示す図である。
図14】本発明の補強具を取り付ける前の天吊りを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る実施形態を、図面を参照しながら説明する。
【0022】
一般的に行われる4本の吊りボルト(吊り具)6を用いて物品(吊り物)4を天井スラブ5から吊り下げる天吊りの一例を、図14に示す。各吊りボルト6の上端は天井スラブに挿入・固定され、吊り機器等の物品4が吊り金具18を介して各吊りボルト6の下端に固定、固着される。
【0023】
図14の天吊りを本発明に係る吊りボルト補強具(1,2,3)で補強した例を図1に示す。本発明に係る吊りボルト補強具は、管状部材1、第一端部取付け部材2及び第二端部取付け部材3から構成される。吊りボルト6を管状部材1で被覆し、この管状部材1の一端と他端に、それぞれ第一端部取付け部材2と第二端部取付け部材3が取り付けられるものとなる。図1では天吊りの状態が正面から示されているため、吊りボルトが補強された状態のものが2本のみ図示されている。
【0024】
管状部材1は吊りボルトを被覆して加振時の吊りボルトへの曲げモーメントに対する曲げ応力を増加させるための部材であり、剛性の高いものから構成される。また、管状、すなわち円筒形状の管とし、吊りボルトを挿入するだけで取り付けられるものとする。管状部材の一例を図2(A)に、これを吊りボルト6に取り付けた状態の断面図を図2(B)に示す。
【0025】
管状部材は例えばSUS製の丸パイプとすれば、剛性が得られるとともに軽量化が図れ、しかもコストも低く抑えることが可能となるため好適である。市販の丸パイプを用いることもできる。なお、管状部材の管内(内側側面)は特に加工しなくてもよい。
【0026】
吊りボルトに管状部材を取り付けると吊りボルトの剛性、曲げ応力が高められるが、その状態で吊り物が地震等により加振され変位すると、管状部材の上端(天井スラブ側)にせん断力及び曲げモーメントが集中するため、吊りボルトがせん断破壊又は曲げ破壊され易くなる。そこで、これらせん断力及び曲げモーメントが集中する箇所を第一端部取付け部材により補強する。
【0027】
吊りボルトに管状部材1を取り付ける前に、管状部材の一端、すなわち天井スラブ側に位置する端に、第一端部取付け部材2を取り付ける。第一端部取付け部材の一例を図3(A)に示す。第一端部取付け部材は吊りボルト挿入部7を有し、ここに吊りボルトが挿入される。雄ねじである吊りボルトに留めやすくするため、吊りボルト挿入部7の内側を雌ねじで形成するのが好適である。
【0028】
第一端部取付け部材の上部(取り付け時に天井スラブ側に位置する側)に鍔状部8を設ける。この鍔状部の上端面9が天井スラブ5に当接する面(以下「天井当接面」という。)となる。
【0029】
第一端部取付け部材2は、鍔状部8の下方に、管状部材の内側に挿入される管状部材挿入部10を有する。管状部材挿入部の外径は、管状部材の内径とほぼ同じとする。
【0030】
第一端部取付け部材を吊りボルトにねじ込んで鍔状部8の上端面9が天井スラブに当接するようにして取り付ける。後述のとおり、第一端部取付け部材2のこの上端面9と天井スラブとの接触面に生じる摩擦力も補強に用いられる。
【0031】
第一端部取付け部材2を取り付けた後、吊りボルト6を管状部材1に挿入し、第一端部取付け部材の管状部材挿入部10を管状部材1の内側(貫通している)に挿入させ、管状部材の上端11(天井スラブ側)を、鍔状部の下側(上端面9とは反対側)に位置する面12(以下「鍔状面」という。)に当接させる。
【0032】
吊りボルト6に管状部材1を取り付けた後、管状部材の下端13(天井スラブと反対側=地面側)に第二端部取付け部材3を取り付ける。第二端部取付け部材は第一端部取付け部材と同じ形状とすることができ、少なくとも、吊りボルトが挿入される吊りボルト挿入部14と、管状部材の内側に挿入される管状部材挿入部15と、管状部材の他端(吊りボルトに取り付けたときに下端となり、天井スラブと反対の地面側)に当接する鍔状面16を有する。第二端部取付け部材の一例(第一端部取付け部材と同じ形状のもの)を図3(B)に示す。この例では、第二端部取付け部材と第一端部取付け部材は同じ形状であるので、鍔状面16が鍔状面12に対応する。
【0033】
第一端部取付け部材及び第二端部取付け部材は、剛性を有するものとし、金具とすることができる。
【0034】
第一端部取付け部材、管状部材及び第二端部取付け部材は、各吊りボルトに取り付ける。これらはねじ込むか単に挿入するだけで取り付けることができるため、新規の設備としてだけでなく、既存の天吊りの吊りボルトへの取付けも容易である。
【0035】
各第二端部取付け部材の下端(吊りボルトに取り付けたときに下端となり、天井スラブと反対の地面側)に吊り金具18を取り付け、これらに吊り物4を固定させる。
【0036】
本発明に係る吊りボルト補強具を吊りボルトに取り付けた際の作用は以下のとおりである。
【0037】
地震等により吊り物(吊り支持機器)へ加振力が生じ(図4図5)、吊りボルト下端へ加力Wが加わった場合、吊りボルト下端はδの変位が生じる。この時、吊りボルトには加力W1、管状部材には加力W2が加わる。WとW1、W2の関係は、下記1)式となる。
【0038】
W=W1+W2 1)式
【0039】
吊りボルトはインサート17および上部の第一端部取付け部材で固定されているため、上部の第一端部取付け部材の下端で曲げモーメントMが生じる。曲げモーメントMは、下記2)式となる。
【0040】
M=W1×L2 2)式
【0041】
管状部材は上部の第一端部取付け部材に挿入されて固定されているため、管状部材の下端に加力W2が加わると、管状部材の上端でせん断力Fが加わる。せん断力Fは、下記3)式となる。
【0042】
F=W2×L3 3)式
【0043】
この時、上部の第一端部取付け部材は天井スラブ面と接触しているため、摩擦力F’が生じる。摩擦力F’は、下記4)式となる。
【0044】
F'=μ×P 4)式
μ: 第一端部取付け部材と天井スラブ面との摩擦係数
P: 第一端部取付け部材が天井スラブ面へ接する圧力
【0045】
地震等により吊り支持機器へ加振力が加わることで生じる吊りボルトへの管状部材のせん断力Fに対し、第一端部取付け部材と天井スラブとの接触面で生じる摩擦力F'により補強を行う。
【0046】
せん断力Fに対し摩擦力F’が小さく、且つせん断力Fに対し吊りボルトのせん断応力τ(図7)が小さい場合、第一端部取付け部材と天井スラブとの接触面で第一端部取付け部材の横滑りが発生し、吊りボルトのせん断破壊が生じる。
【0047】
せん断力Fに対し摩擦力F’が小さく、且つせん断力Fに対し吊りボルトのせん断応力τ(図7)が大きい場合、吊りボルトでせん断破壊は生じないが、上部の第一端部取付け部材の下端で生じる曲げモーメントMが吊りボルトの曲げ応力σより大きい場合、吊りボルトは塑性変形し曲げ破壊が生じる。
【0048】
せん断力Fに対し摩擦力F'が大きい場合、吊り支持機器への加振力が大きく、吊りボルトの変位δにより吊りボルトに生じる曲げモーメントMが曲げ応力σ(図8)より大きくなると、吊りボルトで塑性変形が生じ曲げ破壊が生じる。
【0049】
第一端部取付け部材がない場合(図6)、吊り支持機器へ加振力が発生すると、天井面と吊りボルトの接点で吊りボルトの変位δにより曲げモーメントMが生じ、さらに管状部材が加振によりスライドし吊りボルトへ接触すると吊りボルトへせん断力Fが生じてしまい、曲げモーメントMが曲げ応力σより大きくなると塑性変形による曲げ破壊が生じ、せん断力Fが吊りボルトのせん断応力F'より大きくなるとせん断破壊が生じる。
【0050】
そこで、管状部材及び第一端部取付け部材を用いて吊りボルトを補強する。なお、第一端部取付け部材と天井スラブ面との摩擦力がF'であり、地震等による吊り支持機器が加振し、加力Wにより吊りボルトにせん断力Fが生じた場合、変位δ、曲げモーメントMをどこまで許容するかによって、補強を行うパイプ径が異なり得る。すなわち、最適なパイプ径が存在する。
【0051】
例えば、加力Wにより吊りボルトにせん断力Fが生じ吊り支持機器の変位をδ中まで許容する場合(図9)、大中小のパイプ径の管状部材を用意し、パイプ径の小のものを用いて補強すると、δ大まで変位してしまう。そのため、変位をδ中まで許容する場合は、パイプ径は中以上のものを用いなければならない。しかし、実際の施工を考慮すれば、ある程度の吊り支持機器の取り付け位置を微調整する必要があるため、微調整用の変位をδ小とすると、選定するパイプ径は中から大の間のものを用いなければならない。
【0052】
例えば、W3/8の吊りボルトを補強し、W1/2の吊りボルトと同等以上の強度を得ようとした場合、W1/2の吊りボルトのせん断応力はτ1/2であるため、第一端部取付け部材と天井スラブとの接触面での摩擦力F'をせん断応力τ1/2に対するせん断力Fより大きくし、且つ許容する吊り支持機器の変位δを例えばδ中とするとパイプ径を中以上の丸パイプを用いることで補強が可能である(図10)。この時、せん断応力τとせん断力Fの関係は、下記5)式で示される。
【0053】
τ=F/A 5)式
A: 吊りボルト有効断面積
【0054】
(実験)
本発明に関し静的加力試験を実施した。この試験においては、同一の吊り支持機器を下記の条件の吊ボルト4本で支持し(条件(1)(2)は図14参照、条件(3)は図1参照)、アクチュエータを用いて水平方向に繰返し強制変位させ、変位とアクチュエータに加わる荷重を計測した。変位量は±25〜±125mmとした。
【0055】
試験条件は以下のとおりである。
条件(1) 吊りボルト300mm、 W3/8。補強無し。
条件(2) 吊りボルト300mm、 W1/2。補強無し。
条件(3) 吊りボルト300mm、 W3/8。本発明により補強。
条件(3)の本発明による補強においては、管状部材として市販のSUS製丸パイプ、内径16φを使用した。また、第一端部取付け部材及び第二端部取付け部材として両者が同一形状(図3に示す形状)の金具を使用した。
【0056】
試験の結果を図11図13に示す。図11図13において、x軸は吊り機器の変位(mm)を示し、y軸は吊り機器を変位させたときに生じた荷重(kgf)を示す。
【0057】
条件(1)(吊りボルトW3/8、補強無し)の場合、変位±100mmで強度のピークを持ち、さらに変位が大きくなると、吊りボルトで塑性変形が進行して強度が低下し、変位±125mmで破断が生じた。
条件(2)(吊りボルトW1/2、補強無し)の場合、変位±75mmで強度のピークを持ち、さらに変位が大きくなると、吊りボルトで塑性変形が進行して強度が低下し、変位±125mmで破断が生じた。
条件(3)(吊りボルトW3/8、本発明により補強)の場合、変位±100mmで強度のピークを持つが、変位±125mmでも吊りボルトの破断は生じなかった。
【0058】
以上の試験結果から、本発明の補強を行った場合に、加振に対する強度が増加したことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明によれば、吊りボルトへの曲げモーメントに対する曲げ応力を増加させながら、吊りボルトへのせん断力に対するせん断応力を増加させることができるため、曲げ破壊とせん断破壊の両方に対応できるものとなる。
【0060】
また、本発明によれば、吊りボルトの吊長さが30cm以下の場合において、吊りボルトを9φ(W3/8)とし、これに本発明の吊りボルト補強具を取り付けるものとすれば、径の同じ吊りボルトを用いること(すなわち使用する吊りボルトの規格を統一すること)ができるため、作業効率が高められるとともに、その強度を向上させることが可能となる。
【0061】
更に、本発明は新規設備のみならず既存設備への取り付けも容易であり、十分な耐震補強を安価かつ容易に行うことができるものであり、その産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0062】
1 管状部材
2 第一端部取付け部材
3 第二端部取付け部材
4 吊り物
5 天井スラブ
6 吊りボルト
7 吊りボルト挿入部
8 鍔状部
9 上端面
10 管状部材挿入部
11 管状部材の上端
12 鍔状面(鍔状部において上端面と反対側に位置する面、第一端部取付け部材を吊りボルトに取り付けた時に鍔状部の地面側に位置する面)
13 管状部材の下端
14 吊りボルト挿入部
15 管状部材挿入部
16 鍔状面(第二端部取付け部材を吊りボルトに取り付けた時に鍔状部の天井側に位置する面)
17 インサート
18 吊り金具
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