(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
水蒸気改質ガスとは、800℃程度の高温、Ni等遷移金属触媒上で進行する水蒸気改質反応
CH
4+H
2O→CO+3H
2
CO+H
2O→CO
2+H
2
で生成するH
2、CO、CO
2、H
2O、CH
4から構成されるガスである。水蒸気改質ガスは、一般に、水素を概ね50〜65vol%、二酸化炭素を概ね20vol%含み、一酸化炭素を20vol%、さらに、例えば1vol%未満のごく微量の硫化水素、シロキサン類、メチルメルカブタン、飽和水分、揮発性有機化合物(VOC)、有機ケイ素化合物等の成分を含むものである。当該水蒸気改質ガス中の水素を燃料電池用発電燃料として利用するためには、水蒸気改質ガスから一酸化炭素および二酸化炭素を除去する必要があり、また有害成分であるメチルメルカプタン、硫化水素、シロキサン類も除去する必要がある。現在最もよく使用されているCO
2選択型吸着剤を使用したH
2分離・精製装置としては、PSA−H
2タイプの装置が知られている。
【0003】
Linde社(現UOP社モレキューラーシブス.デイビジョン)により工業的な製造の開始された合成ゼオライトは、H2−CO、CO
2の3成分系において大きなCO、CO
2吸着量と水素に対して大きなCO、CO
2選択性を有することが示されている。ここで100〜200kPa−absの大気圧以上の高圧に水蒸気改質ガスを圧縮し、Li−LSX型ゼオライト(低SiO
2/Al
2O
3比X型ゼオライト)をCO
2選択型吸着剤として充填されたCO
2吸着塔に導いて水蒸気の中の30%を占めるCO
2を吸着して塔頂から99vol%以上の高純度の水素を取り出す吸着工程と、吸着CO
2で飽和したCO
2吸着塔を大気圧または大気圧以下の真空に近い状態に導いた後、塔頂から製品H2の一部を流してCO
2選択型吸着剤を再生する工程(向流パージ)から構成される、すなわち、高圧吸着と大気圧再生または真空再生から成る2搭式の水素製造装置が標準的な装置として既知である。
【0004】
当該装置は、2,000m
3N/h以下の中小容量での水素精製・分離回収製造が可能なことから、操作、保守が容易で、かつコンパクトであり、水蒸気改質炉で生成される水蒸気改質ガスの精製・分離回収を中心に普及している。PSA−水素の電力原単位(1m
3Nの水素の精製・分離回収に必要な消費電力)の低減を目的として、300〜500kPa−absの比較的低圧に吸着圧力を低減し、かつ50kPa−abs程度の減圧再生を行う加圧吸着−減圧再生が採用される場合もある。さらに、一段の電力原単位の低減のために、大気圧近傍で吸着を行い、再生は10〜30kPa−absのかなりの真空で行われる大気圧吸着−減圧再生も採用されており、これらの操作条件は、初期に開発された高圧吸着−大気圧再生よりも電力原単位低減に優れている。これらの装置および工程に使用される吸着剤としては、当初Caイオン交換A型ゼオライトが主として使用されたが、サイクルタイムの短縮による装置コンパクト化を意図して、吸着速度の大きな吸着剤が必要なことから、Naイオン交換、Liイオン交換X型ゼオライトが採用されるようになっている。
【0005】
しかしながら、これらの装置および方法においては、500m
3N/h以下の水素精製・分離回収では、電力原単位の低減は図れるものの、設備投資を考慮すると、水素製造のトータルコストの低減はそれ程有効でなかった。例えば、中容量の水素製造装置として15m
3N/hの水素精製・分離回収装置を例示すると、高圧吸着−大気圧再生のPSA−水素の設備費が500万円程度、電力原単位が1kWh/m
3N−水素であるので、これを大気圧吸着−真空再生に変更しても、設備費1,200万円程度、電力原単位が0.5kWh/m
3N−水素となり、電力量単価を10円/kWhとすると1年間の電力コスト低減は、120万円/年から60万円/年と60万円/年のコストダウンにとどまり、700万円の設備費増を吸収できなかった。したがって、大容量水素精製・分離回収製造による電力原単位の低減によるコストの低減は、未だ十分ではない。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の第一の形態としては、水素、水分、二酸化炭素、一酸化炭素を含有し、さらに、少量の揮発性有機化合物(VOC)、硫化水素(H
2S)、有機硫黄化合物、有機ケイ素化合物等を含有する水素含有湿り水蒸気改質ガスからのコンパクトで高効率な水素の分離方法である。ここで、揮発性有機化合物とは、常温常圧で大気中に容易に揮発する有機化合物をさす。例えば、ホルムアルデヒド、ベンゼン、トルエン、キシレン、クレゾール、フェノール、ベンズアルデヒド、スチレン、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、四塩化炭素、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン、ブロモホルム、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、アセトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、アクロレイン、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸ビニル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ピリジン、ピロール、ビニルピリジンなどである。有機ケイ素化合物とは、ケイ素を含有する有機化合物をさす。例えば、有機シロキサン、有機シラン、有機ケイ素ポリマー、シレンなどである。また、有機硫黄化合物とは、硫黄を含有する有機化合物をさし、例えば、チオール、スルホキシド、スルホン、チオケトン、スルホン酸エステル、スルホン酸アミド、チオエーテル、チオフェン、具体的にはメチルメルカプタンなどである。
【0012】
さらに、本発明の他の実施形態においては、水蒸気改質ガスから水素を分離するための装置に関する。
【0013】
当該装置は、例えば、
図1に示されるような構成を有し、水素製造量50〜250リットルN/分、好ましくは水素製造量85〜200リットルN/分程度の装置とする。具体的には、
CO・CO
2吸着塔5から上流および下流の各々に二股に分岐している流路を有するCO・CO
2吸着塔5を有し、
CO・CO
2吸着塔5から上流に二股に分岐している流路のうち一方にはバルブ4を介してさらに上流に二股に分岐している流路と連結し、
当該バルブ4を介してさらに上流に二股に分岐している流路のうち一方においてはバルブ14を介して流路16により外部と通じ、
当該バルブ4を介してさらに上流に二股に分岐している流路のうち上記とは別の流路の上流には、さらに上流にバルブ2を介して水蒸気改質ガスを供給する流路1を有する圧力調整装置3があり、
CO・CO
2吸着塔から上流に二股に分岐している流路のうち上記とは別の流路15はバルブ13を介してバルブ2の下流で流路1と接続し、
CO・CO
2吸着塔5から下流に二股に分岐している流路うち一方にはバルブ12を介して補助吸着塔6が接続され、
CO・CO
2吸着塔5から下流に二股に分岐している流路のうち上記とは別の流路にはバルブ8を介して水素を回収する容器9が接続され、さらに、容器9の下流には、ユーザーが水素ガスを回収しやすいように、バルブ10を介して外部に通じる水素を分離するための流路11が接続してもよく、
ここでCO・CO
2吸着塔5には、上流から順に、H
2S・有機硫黄選択型吸着剤51、水分選択型吸着剤52、VOC・有機ケイ素選択型吸着剤53およびCO・CO
2選択型吸着剤71、72が充填されており、
さらに、好ましくは補助吸着塔6にはCO・CO
2選択型吸着剤73が充填されていればよい。
【0014】
さらに、CO・CO
2吸着塔5の容量としては、上記製造量を担保できる大きさであればよいが、例えば、100〜150リットルであることが好ましい。また、補助吸着塔6についても、同様であり、例えば、100〜150リットルであることが好ましい。
【0015】
本発明の方法によれば、CO・CO
2吸着工程、残留水素回収工程1、減圧再生工程、残留水素回収工程2、昇圧工程を含み、これらを繰り返す水蒸気改質ガスから水素を一塔式で分離する方法である。本発明においては、当該5工程を上記の順で繰り返すことを特徴とする。本発明の方法においては、例えば、
図1に示すような本発明の装置を使用すればよい。
図1を使用して、PSA−水素の分離操作を構成する(吸着工程)→(残留水素回収工程1)→(減圧真空再生工程)→(残留水素回収工程2)→(昇圧工程)の各工程を以下に説明する。
【0016】
吸着工程
本工程においては、前方からH
2S・有機硫黄選択型吸着剤51、水分選択型吸着剤52、揮発性有機化合物(以下、VOCとも示す)・有機ケイ素選択型吸着材53の順序で吸着剤を充填され、さらに後方にCO・CO
2選択型吸着剤71、72を充填されたCO・CO
2吸着塔に、圧力調整装置3により大気圧より高い圧力とし水素を主成分とする湿り水蒸気改質ガスを供給して、VOC、CO、CO
2、H
2S、有機硫黄、有機ケイ素、水分を除去して塔後方から水素を回収する。
【0017】
ここで、本発明の方法および装置において使用されるH
2S・有機硫黄選択型吸着剤51としては、高シリカゼオライトを充填することが好ましい。ここで、高シリカゼオライトとは、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が高い疎水性のゼオライトであり、本発明においては、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が5以上のH
2S・有機硫黄選択型吸着剤、または10以上、例えば、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が50以上のものを使用すればよい。H
2S・有機硫黄選択型吸着剤51は、吸着剤の機能等にもよるが、CO・CO
2吸着塔5に4〜15リットル、例えば、5〜8リットル充填することが好ましい。
【0018】
ここで、本発明の方法および装置において使用される水分選択型吸着剤52としては、K−A型、Na−A型、Na−K−A型及びCa−A型からなる群より選ばれる一種以上のゼオライトであることが好ましい。ここでNa−K−A型は、Na−A型ゼオライトのNaの一部をKに交換して熱処理することにより窓径を縮小させたものであり、この調製法は非特許文献1に記載されている。さらに、当該吸着剤においては、有機ケイ素化合物の加水分解生成物を気相又は液相で上記吸着剤結晶表面にシリカコートすることにより、水分選択性が強化される。本発明において水分選択型吸着剤として用いる結晶表面にシリカコートを施した吸着剤として、ハニカム形成されたものを用いれば、吸着剤吸着塔を通過する際の圧損が小さくなることから望ましい。ハニカムの調製法としては、アルミノシリケートの基材に当該ゼオライトとシリカゾル等の無機バインダーの混合スラリーに浸積して、これを乾燥するとゼオライトが担持される。浸積と乾燥を数回繰り返すと所定の担持量に達する。(嵩密度0.3以上、ゼオライト担持量0.1g/ml以上)これを350℃以上、1時間焼成するとゼオライトの基材への固定と活性化が達成される。水分選択型吸着剤52は、吸着剤の機能等にもよるが、CO・CO
2吸着塔5に4〜15リットル、例えば、5〜8リットル充填することが好ましい。
【0019】
ここで、本発明の方法および装置において使用される揮発性有機化合物・有機ケイ素選択型吸着材53としては、シリカライト、USM、ゼオライト−β、USY、MPSからなる群より選ばれる一種以上であることが好ましい。揮発性有機化合物・有機ケイ素選択型吸着材53は、吸着剤の機能等にもよるが、CO・CO
2吸着塔5に6〜25リットル、例えば、8〜15リットル充填することが好ましい。
【0020】
具体的には、例えば、圧力調整器としてのブロワー/真空ポンプ兼用回転機械3を有する
図1に示される本発明の装置において、本発明の方法は実施される。バルブ2、バルブ4を開として、外部水蒸気改質ガスを流路1からブロワー/真空ポンプ兼用回転機械3を通じて水蒸気改質ガス流量250〜1800リットルN/min、好ましくは200〜1400リットルN/min、例えば、1000〜1400リットルN/min、さらに吸着圧力120〜175kPa−abs、好ましくは吸着圧力135〜165kPa−absで、CO,CO2吸着塔5に、吸着時間50〜70秒、例えば、55〜65秒で供給する。ここで、CO,CO2吸着塔5の吸着塔容量としては、100〜150リットル、例えば、110〜140リットルであることが好ましい。
【0021】
本発明の方法および装置においては、水蒸気改質ガス中の気体のうち硫黄含有成分を最初に除去するために、当該工程に使用されるCO・CO
2吸着塔には、一番上流(前方)において、H
2S・有機硫黄選択型吸着剤を充填する。硫黄成分は一般に反応性が高く、他の吸着剤と反応し、吸着剤の性能を低下させる可能性があるからである。さらに、H
2S・有機硫黄選択型吸着剤の次には、ガス中の水分を除去するために水分選択型吸着剤、その次にはVOC・有機ケイ素選択型吸着材を充填されている。これにより、水分、VOC・有機ケイ素化合物を吸着させ、後の吸着剤、特に選択型吸着剤の性能の低下を避けられるからである。さらに、この後方(下流)にはCO・CO
2選択型吸着剤が充填されている。ここで、CO・CO
2選択型吸着剤については、2種類のCO・CO
2選択型吸着剤71および72が順に充填されていることが好ましい。さらに、CO・CO
2吸着塔に充填されるCO・CO
2選択型吸着剤としては、Liイオン交換、Naイオン交換、Caイオン交換のX型ゼオライトが採用されることが好ましく、これらは同時にCOを高効率に吸着する。特にこのCO・CO
2吸着剤としては、好ましくは、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が5より小さい、例えば、3より小さい、さらに好ましくは2.5より小さいX型ゼオライトを使用するとよい。吸着力が強くなるからである。2種類のCO,CO
2選択型吸着剤の組み合わせとしては、いずれの組み合わせでも良いが、後方により高性能のCO・CO
2選択型吸着剤を充填されていることが好ましい。これにより、段階的に効率よくCOおよびCO
2を吸着させることができるからである。例えば、より前方にCO・CO
2選択型吸着剤71として、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が4より小さい、好ましくは3.5より小さいLiイオン交換のX型ゼオライトが充填され、さらに、後方に、CO・CO
2選択型吸着剤72として、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が3より小さい、好ましくは2.5より小さいLiイオン交換のX型ゼオライトが充填され、COおよびCO
2を吸着して未吸着の水素を高純度に精製できることが好ましい。CO・CO
2選択型吸着剤は、CO・CO
2吸着塔5の容積に対して、60〜90%程度充填することが好ましい。さらに、CO・CO
2選択型吸着剤は、CO・CO
2吸着塔5に合計で60〜120リットル、例えば、90〜110リットル充填することが好ましい。例えば、より前方にシリカ/アルミナ比(モル/モル)が4より小さいLiイオン交換のX型ゼオライトが10〜60リットル充填され、さらに、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が3より小さい、例えば、シリカ/アルミナ比(モル/モル)2〜3.5のLiイオン交換のX型ゼオライトが後方に40〜90リットル充填されている形態が好ましい。
【0022】
供給された水蒸気改質ガス中の水分、揮発性有機化合物(VOC)、硫化水素(H
2S)、有機硫黄化合物(例えば、メチルメルカプタン)、有機ケイ素化合物が上記のように吸着剤で除去され、CO・CO
2がCO・CO
2吸着塔に充填された2種類のCO・CO
2吸着剤71,72で除去されると、CO・CO
2吸着塔5の後方から水素が、水素濃度99.99〜99.9995vol%程度で、未吸着のCOおよびCO
2とともにバルブ8を介して製品水素タンク9に供給されるとよい。さらに、バルブ10、流路11から流過させてもよい。
【0023】
残留水素回収工程1
吸着工程の進行に伴い、CO・CO
2吸着剤71,72のCOとCO
2吸着量が増大して吸着効率が悪くなり、流過水素濃度が低下する可能性がある。したがって流過水素濃度が低下する直前に、残留水蒸気改質ガス回収工程1に移行する。当該工程においては、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を停止して、バルブ2、バルブ4、バルブ8、バルブ13を閉として、バルブ12を開とする。これにより、CO・CO
2吸着塔5の後方に残留する水素は、バルブ12を通じて補助吸着塔6に移行する。ここで、CO・CO
2吸着塔5の圧力は120〜175kPa−absから60〜90kPa程度、例えば、80kPa程度に低下し、一方、補助吸着塔6の圧力も同様に60〜90kPa程度、例えば、80kPa程度となる。補助吸着塔6に充填されるCO・CO
2吸着剤73としては、COとCO
2を選択的に吸着する、Liイオン交換、Naイオン交換、Caイオン交換のX型ゼオライト、CO・CO
2選択型吸着剤を1種または2種以上使用するのが好ましい。さらに、このCO・CO
2吸着剤としては、好ましくは、シリカ/アルミナ比(モル/モル)が5より小さい、例えば、3より小さい、さらに好ましくは2.5より小さいLiイオン交換のX型ゼオライトを使用するとよい。吸着力が強くなるからである。前述の吸着工程での水素の回収率は68〜72%程度、例えば70%超程度にとどまる場合があり、この場合、残る30%の水素は吸着塔の死容積部およびCO・CO
2吸着層の死容積に残留しており、依然水素の回収効率を上げる余地がある。そこで補助吸着塔6にCO・CO
2吸着塔5後方から高圧気体が移動すると、CO・CO
2吸着塔5に残留する水素は更に18〜22%程度回収され、全回収率が上昇する。
【0024】
なお補助吸着塔6にCO・CO
2吸着剤を充填しない場合であっても、当該工程を経ることにより、水素が補助吸着塔6に滞留することになり、水素の回収率は上昇する。さらに、ここで補助吸着塔6にCO・CO
2吸着剤を充填することが好ましく、補助吸着塔に充填CO・CO
2吸着剤73へのCOおよびCO
2吸着が優先的なため、補助吸着塔6充填CO・CO
2吸着剤73にはCOおよびCO
2が選択的に吸着され、死容積部の水素濃度は上昇する。これは、後述する昇圧工程での塔後方への高濃度水素の供給のために非常に重要である。残留水素回収工程1は、5秒〜15秒、好ましくは8〜12秒程度で完了する。補助吸着塔6の容量としては、CO・CO
2吸着塔5と同程度でよく、100〜150リットル、例えば、110〜140リットルであることが好ましい。この中に補助吸着塔に充填されるCO
2吸着剤73の容量としては、CO・CO
2吸着塔5中に充填されるCO・CO2吸着剤の量と同程度でよい。すなわち、CO・CO
2選択型吸着剤は、補助吸着塔6に60〜120リットル、例えば、90〜110リットル充填することが好ましい。CO・CO2吸着塔5の後方に残留する水素を効率良く吸着させ補助吸着塔中に保持するためである。
【0025】
減圧再生工程
残留水素回収工程でCO・CO
2吸着塔5の圧力は、80kPa−abs程度に低下する。さらに、減圧再生工程においては、バルブ2、バルブ4、バルブ8、バルブ12を閉とし、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を再度稼働させ、さらに減圧させた。これにより、補助吸着塔に高濃度の水素を滞留させる。さらに、バルブ13、バルブ14を開とする。これにより、CO・CO
2吸着塔5充填CO・CO
2吸着剤71,72から吸着したCOおよびCO
2が離脱し、更に向流に流過するCOとCO
2により、VOC・有機ケイ素吸着剤53からVOCおよび有機ケイ素が離脱し、水分吸着剤52から水分が離脱し、H
2S・有機硫黄吸着剤51からH
2Sおよび有機硫黄が離脱し、これらを流路16から排出させるCO・CO
2吸着塔5に充填されたCO・CO
2吸着剤71,72、VOC・有機ケイ素吸着剤53、水分吸着剤52、H
2S・有機ケイ素吸着剤51は再生され、再び、VOC、CO
2、H
2S、有機硫黄、有機ケイ素、水分を吸着できるようになる。ここでCO・CO
2吸着塔5の圧力は8〜12kPa−abs程度、例えば、10kPa−abs(真空条件)に低下する。減圧再生工程は、50〜70秒、例えば、55〜65秒、60秒程度で完了させるとよい。
【0026】
残留水蒸回収工程2
当該工程においては、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を停止して、バルブ2、バルブ4、バルブ8、バルブ13を閉として、バルブ12を開とする。これにより、10kPa−abs(真空条件)よりも高い圧力にある補助吸着塔6に滞留している水素がCO・CO
2吸着塔後方に高濃度の水素として供給される。さらに、補助吸着塔6にCO・CO
2吸着剤を充填している場合、補助吸着塔6から先ず死容積部の比較的水素濃度の高い気体が、CO・CO
2吸着塔5後方からCO・CO
2吸着塔5に供給され、その後補助吸着塔充填CO・CO
2吸着剤73から吸着された水素および共吸着CO・CO
2が離脱して供給水素濃度が上昇するため、CO・CO
2吸着塔後方にはさらに高濃度の水素が供給される。いずれの場合にしろ、このため、CO・CO
2吸着塔5の水素濃度分布は、吸着工程開始時に塔前方の水素濃度は低く、塔後方の水素濃度分布が高くなり、効率的な水蒸気改質ガスからの水素とCOおよびCO
2分離の可能な状態となっている。残留水素回収工程2は、5秒〜15秒、好ましくは8〜12秒程度で完了する。
【0027】
昇圧工程
ここで、さらに、バルブ2およびバルブ4を開とし、バルブ12を閉とし、圧縮機3を作動させ、圧力を高める。すなわち、補助吸着塔6への流れを遮断し、外部水蒸気改質ガスを流路1からバルブ2、バルブ4を開としてブロワー/真空ポンプ兼用回転機械3を通じて水蒸気改質ガス流量250〜650リットルN/min、好ましくは200〜500リットルN/min、CO・CO
2吸着塔5における吸着圧力120〜175kPa−abs、好ましくは吸着圧力135〜165kPa−absとし、吸着工程の前準備を行う。当該昇圧工程は、2〜6秒、好ましくは3〜5秒程度で完了すればよい。昇圧工程で、残留水素回収工程で補助吸着塔6に回収された残留水素がCO・CO2吸着塔後方には高濃度で供給されているため、後の吸着工程において効率的に水素の回収を行うことができる。本発明においては、当該昇圧工程を終了後に、バルブ8を開として吸着工程に戻り、(吸着工程)→(残留水素回収工程1)→(減圧真空再生工程)→(残留水素回収工程2)→(昇圧工程)を繰り返すことで水素含有湿り水蒸気改質ガスから水素を分離することができる。
【0028】
以下の表1に本発明の1塔式圧力スイング法(以下PSA−水素)の方法を構成する、(吸着工程)→(残留水素回収工程1)→(減圧再生工程)→(残留水素回収工程2)→(昇圧工程)のバルブの開閉、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械の運転・停止、各工程の所要時間の例を示す。
【実施例】
【0030】
以下実施例により本発明をさらに具体的に説明する。
実施例1
本実施例の1塔式PSA−水素製造装置の仕様を表2に示す。
【0031】
【表2】
【0032】
本装置は、水素製造量85〜200リットルN/分(5−10m
3N/h)を目標として製作したもので、CO・CO
2吸着塔5は内径が55cm、高55cmであり、当該CO・CO
2吸着塔5には、表2に示される各種吸着剤が充填されており、補助吸着塔6には、補助吸着塔充填CO・CO
2吸着剤73が70kg(100リットル)充填されている。
【0033】
実施例1および2、比較例1の操作条件を表3に示す。
【0034】
【表3】
【0035】
実施例1においては、吸着圧力150kPa−abs、再生終了圧力10kPa−abs、補助吸着塔53残留水素回収工程1の終了圧力80kPa−abs、補助吸着塔53昇圧終了圧力150kPa−abs、1サイクル143秒、CO・CO
2吸着剤として、CO・CO
2吸着塔5に、CO・CO
2吸着剤71としてLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=3)20リットルを前方とし、その後方にCO・CO
2吸着剤72として80リットルのLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:4で2層充填し、補助吸着塔6には100リットルのLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を充填している。外部水蒸気改質ガスを流路1からバルブ2、バルブ4を開としてブロワー/真空ポンプ兼用回転機械3を通じて水蒸気改質ガス流量1210リットルN/min、吸着圧力150kPa−absで、吸着塔容量50リットルのCO・CO
2吸着塔5に、吸着時間60秒で供給した(吸着工程)。CO・CO
2吸着塔5には、予め、前方に前処理用吸着材5としてまずH
2S・有機硫黄吸着剤51として高シリカゼオライト(シリカ/アルミナ比(モル/モル=70))を6.25リットル充填し、次いで水分吸着剤52として比表面積700m
2/g以上のシリカゲルがウオッシュコートされハニカム形成されたNa−K−A型ゼオライトを6.25リットル、最後方部に有機ケイ素(シロキサン)吸着剤53であるUSYを12.5リットル多層に充填し、後方にはCO・CO
2選択型吸着剤71として、1.2mmφのLiイオン交換X型ゼオライト71(SiO
2/Al
2O
3比=3)を20リットル充填し、最後方部にはCO・CO
2選択型吸着剤としてLi−X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)72を80リットル充填した。
【0036】
吸着工程の進行に伴い、CO・CO
2選択型吸着剤71,72のCOおよびCO
2吸着量が増大して流過水素濃度が低下する。流過水素濃度が低下する直前に(60秒の吸着工程の後)、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を停止して、バルブ2,バルブ4、バルブ8を閉として、バルブ12を開とし、残留水蒸気改質ガス回収工程1に移行し、CO・CO
2吸着塔5の後方に残留する水素は、バルブ12を通じて補助吸着塔6に移行させた。補助吸着塔6の容量としては、125リットルであり、この中に補助吸着塔充填CO・CO
2吸着剤73(Li−X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)が100リットル充填されている。CO・CO
2吸着塔5の圧力は150kPa−absから80kPaに低下し、補助吸着塔6の圧力は80kPa−absとなった。水素回収工程は、10秒で完了した。
【0037】
続く減圧再生工程においては、残留水素回収工程1で80kPa−abs程度に低下したCO・CO
2吸着塔5の圧力を、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を稼働させてさらに減圧し、バルブ2、バルブ4、バルブ8、バルブ12を閉として、バルブ13、バルブ14を開とした。CO・CO
2吸着塔5に充填したCO・CO
2吸着剤71、72から吸着COとCO
2が離脱し、更に向流に流過するCOおよびCO
2により、有機ケイ素吸着剤53から有機ケイ素が離脱し、水分吸着剤52から水分が離脱し、H
2S・有機硫黄吸着剤51からH
2S・有機硫黄吸着剤が離脱し、これらを流路16から排出させた。当該工程は60秒継続させた。
【0038】
次に、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を停止して、バルブ2,バルブ4、バルブ8を閉として、バルブ12を開とし、残留水素回収工程2に移行した。当該工程は10秒継続させた。これにより、塔後方の水素濃度分布が高い、効率的な水蒸気改質ガスからの水素とCO、CO
2分離の可能な状態とした。次に、バルブ2およびバルブ4を開とし、バルブ12を閉とし、圧縮機3を作動させ、圧力を高め、昇圧工程に移行した。CO・CO
2吸着塔5の圧力を150kPa−abs程度に上昇させた。当該昇圧工程は、3秒行った。その後、その後バルブ8を開とし、圧縮機/真空ポンプ兼用回転機械3を引き続き稼働させ、再度、吸着工程とし、水蒸気改質ガスを再度供給し、上記サイクルを繰り返した。これにより、水素製造量170リットルN/分(5−10m
3N/h)、水素濃度99.9995vol%の性能が確認された。
【0039】
比較例1
補助吸着塔6がなく、吸着工程および減圧再生工程のみで行うことを除き、実施例1と同様に水蒸気改質ガス分離に行った。
【0040】
実施例2
補助吸着塔6に、CO・CO
2吸着剤を充填しないこと、ならびに水蒸気改質ガス流量1068リットルN/min供給したことを除き、実施例1と同様に水蒸分離に行った。補助吸着塔6に、CO・CO
2吸着剤を充填していない場合であっても、補助吸着塔6を利用した残留水蒸回収工程を利用することにより、表3に示すように、残留水蒸回収工程および補助吸着塔を使用しない方法(比較例1)と比較して、回収率を上昇させることができることが確認された。
【0041】
実施例3
CO・CO
2吸着塔5前方にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=3)と塔後方にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:1(50リットル:50リットル)で2層充填したこと、および水蒸供給量を1331リットルN/minとしたことを除き、実施例1と同様に水素分離・精製を行った。
【0042】
実施例4
CO・CO
2吸着塔5にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=3)とLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)で2層充填する代わりに、Caイオン交換X型ゼオライトとLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:1(50リットル:50リットル)で2層充填したこと、および水蒸気改質ガス供給量を1270.5リットルN/minとしたことを除き、実施例1と同様に水素分離を行った。
【0043】
実施例5
CO・CO
2吸着塔5にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=3)とLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:1で2層充填する代わりに、Caイオン交換A型ゼオライトとLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:1(50リットル:50リットル)で2層充填したこと、および水蒸気改質ガス供給量を871.2リットルN/minとしたことを除き、実施例1と同様に水素分離を行った。
【0044】
実施例1および実施例3〜5の結果を比較した表を以下に示す。
【0045】
【表4】
【0046】
CO・CO
2吸着剤71、72として、CO・CO
2吸着塔5前方にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=3)と塔後方にLiイオン交換X型ゼオライト(SiO
2/Al
2O
3比=2)を1:4の割合で2層充填した場合が最も高純度で、かつ水素製造量が多く、最も効率良く水素を分離できることがわかった。