特許第6284595号(P6284595)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284595
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】注射針組立体及び薬剤注射装置
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/24 20060101AFI20180215BHJP
   A61M 5/32 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   A61M5/24 540
   A61M5/32
【請求項の数】8
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2016-167674(P2016-167674)
(22)【出願日】2016年8月30日
(62)【分割の表示】特願2012-504372(P2012-504372)の分割
【原出願日】2011年2月10日
(65)【公開番号】特開2017-18616(P2017-18616A)
(43)【公開日】2017年1月26日
【審査請求日】2016年9月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-53832(P2010-53832)
(32)【優先日】2010年3月10日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000109543
【氏名又は名称】テルモ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 陽一郎
(72)【発明者】
【氏名】横田 崇之
(72)【発明者】
【氏名】菱川 資文
【審査官】 安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2005−527249(JP,A)
【文献】 特表2008−532701(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/131440(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2003/0236501(US,A1)
【文献】 実開昭57−045946(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/14− 5/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
薬剤が充填された注射筒及び針管を有した注射器に装着して用いる注射針組立体であって、
皮膚に穿刺される針先を有する穿刺用針管と、
前記穿刺用針管の前記針先とは反対の基端と前記注射器の前記針管における排出口とが配置される内腔部を有する接続部と、
前記穿刺用針管を保持するとともに、前記接続部を嵌合する嵌合部を有する針保持部と、
前記嵌合部に嵌合された接続部とともに前記針保持部を挿入する挿入部を有する、前記注射筒に係合する係合部と、
を備え、
前記接続部は、前記嵌合部と面接触する第1の当接面と、前記挿入部と面接触する第2の当接面と、を有し、
前記第1の当接面に挿通された前記穿刺用針管の前記基端が前記内腔部に位置する
ことを特徴とする注射針組立体。
【請求項2】
前記穿刺用針管の周囲に設けられ、前記穿刺用針管を生体に穿刺する場合に皮膚と当接する針突出面が形成された調整部を備える
ことを特徴とする請求項1に記載の注射針組立体。
【請求項3】
前記穿刺用針管は、前記針突出面より0.5〜3.0mmの範囲で突出している
ことを特徴とする請求項2に記載の注射針組立体。
【請求項4】
前記針保持部または前記係合部には、前記穿刺用針管の前記針先から半径方向に離間して配置され、前記穿刺用針管の前記針先を生体に穿刺する場合に皮膚と接触する安定部が形成されている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか一項に記載の注射針組立体。
【請求項5】
前記係合部に連続して設けられ、前記係合部が前記注射筒に係合する前に該注射筒に当接することにより前記針管の排出口が前記接続部の前記内腔部に対向するように、前記注射器を位置決めする装着ガイド部を備える
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の注射針組立体。
【請求項6】
前記係合部に配置され、前記接続部に向かうにつれて径が連続的に小さくなる内面を有するテーパガイドを備える
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の注射針組立体。
【請求項7】
前記穿刺用針管は、26〜33ゲージである
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の注射針組立体。
【請求項8】
薬剤が充填された注射筒及び針管を有した注射器と、
前記注射器に装着される注射針組立体と、を備え、
前記注射針組立体は、
皮膚に穿刺される針先を有する穿刺用針管と、
前記穿刺用針管の前記針先とは反対の基端と前記注射器の前記針管における排出口とが配置される内腔部を有する接続部と、
前記穿刺用針管を保持するとともに、前記接続部を嵌合する嵌合部を有する針保持部と、
前記嵌合部に嵌合された接続部とともに前記針保持部を挿入する挿入部を有する、前記注射筒に係合する係合部と、
を備え、
前記接続部は、前記嵌合部と面接触する第1の当接面と、前記挿入部と面接触する第2の当接面と、を有し、
前記第1の当接面に挿通された前記穿刺用針管の前記基端が前記内腔部に位置する
ことを特徴とする薬剤注射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、針先を皮膚の表面より穿刺し、皮膚上層部に薬剤を注入するために用いる注射針組立体及び薬剤注射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、免疫担当細胞が多く存在する皮膚上層部を標的部位として、インフルエンザワクチンを投与することにより、投与量を少なくしても、皮下投与や筋肉投与と同等の免疫獲得能が得られることが報告されている。したがって、インフルエンザワクチンを皮膚上層部に投与することにより投与量を減らすことができるので、より多くのヒトにインフルエンザワクチンを接種できる可能性がある。なお、皮膚上層部とは、皮膚のうちの表皮と真皮を指す。
【0003】
皮膚上層部への薬剤の投与方法としては、単針、多針、パッチ、ガス等を用いた方法が知られている。そして、投与の安定性、信頼性、製造コストを考慮すると、皮膚上層部への投与方法としては、単針を用いた方法が最も適している。この単針を用いて皮膚上層部にワクチンを投与する方法として、古くからマントー法が知られている。マントー法は、一般的に26〜27ゲージのサイズで短ベベルの針先を有する針を皮膚に対して10〜15°程度の斜め方向から2〜5mm程度挿入して、100μL程度の薬剤を投与する方法である。
【0004】
ところが、マントー法は、手技が難しく、注射を行う医者の技量に委ねられる。特に小児は投与時に動く可能性があるため、マントー法によってインフルエンザワクチンを投与することは難しい。したがって、簡便に皮膚上層部にワクチンを投与することのできるデバイスの開発が求められている。
【0005】
特許文献1には、皮膚接触面を有するリミッタを注射器の針ハブに接続した注射装置が記載されている。この特許文献1に記載された注射装置のリミッタは、針管の周囲を覆う筒状に形成されており、注射針が突出する皮膚接触面を有している。このリミッタは、皮膚接触面から突出する注射針の長さ(突出長)を0.5〜3.0mmに規定し、注射針から注入された薬剤を皮膚内に投与するようにしている。
【0006】
また、特許文献2には、注射針が目標とする深さより深く穿刺されることを防ぐ注射針用穿刺調整具とそれを備えた注射針組立体に関するものが記載されている。この特許文献2に開示された注射針用穿刺調整具の中には、注射針の周囲に密着し、皮膚接触面を有する注射針用穿刺調整具がある。
【0007】
ところで、注射器は、バイアルから薬剤を吸引して使用されることがある。バイアルは、薬剤を液状または凍結乾燥した状態で長期保存できる薬剤保存容器である。このバイアルの開口部は、通常3〜5mm程度の厚みを有するゴム栓によって封止されている。バイアルのゴム栓は、針管を複数回刺しても薬剤を漏らさないようになっている。そのため、集団接種が多いワクチンの大半は、バイアルから吸引されている。
【0008】
特許文献1に記載されたリミッタ及び特許文献2に記載された注射針用穿刺調整具は、皮膚上層部に薬剤を投与できるように注射針の突出長を短く(例えば、0.5〜3.0mm)している。そのため、注射針がバイアルのゴム栓を貫通することが不可能になり、バイアルから薬剤を吸引して使用することができなかった。
【0009】
例えば、特許文献1に開示されたリミッタを注射器の針ハブに装着する前であれば、注射器でバイアルから薬剤を吸引することが可能である。また、特許文献2に開示された注射針用穿刺調整具を注射器に装着する前であれば、注射器でバイアルから薬剤を吸引することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2001−137343号公報
【特許文献2】特開2000−37456号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、バイアルから薬剤を吸引した後に、特許文献1に開示されたリミッタを注射器に装着する場合は、その装着を使用者が行うことになる。このとき、注射器の注射針をリミッタの開口に挿通することが難しく、装着作業が煩雑になってしまう。また、特許文献2に開示された注射針用穿刺調整具の注射針への装着を使用者が行う場合においても、注射針を注射針用穿刺調整具(22a)の孔(25a)に挿通することが難しく、装着作業が煩雑になってしまう。
さらに、これらの場合は、装着時に針先がリミッタや注射針用穿刺調整具の壁に触れて曲がってしまうことが考えられる。また、リミッタ等がプラスチックから形成されている場合には、リミッタ等を針先で突き刺してしまうことが考えられる。
【0012】
また、バイアルのゴム栓を貫通した注射針は、針先が潰れる可能性があった。そのため、ゴム栓を貫通した注射針を皮膚の穿刺に用いると、穿刺時および薬剤の投与時に生じる痛みが増大するという問題があった。さらに、針先が潰れると、その針先を皮膚上層部に位置させることが難しくなり、薬剤が皮膚上層部から漏れてしまうという問題があった。
【0013】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、針管が取り付けられた注射器を容易に接続することができる注射針組立体およびその注射針組立体を用いた薬剤注射装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明の注射針組立体は、薬剤が充填された注射筒及び針管を有した注射器に装着して用いるものであり、皮膚に穿刺される針先を有する穿刺用針管と、針保持部と、係合部と、接続部とを備えている。針保持部は、穿刺用針管を保持し、係合部は、注射筒に係合する。接続部は、穿刺用針管の針先とは反対の基端と注射器の針管における排出口とが配置される内腔部を有し、穿刺用針管と針管を液密に連通させる。また、接続部は、針保持部から内腔部を隔てるための第1の隔壁部と、係合部から内腔部を隔てるための第2の隔壁部を有しており、第1の隔壁部に挿通された穿刺用針管の前記基端が前記内腔部に位置する。
【0015】
本発明の薬剤注射装置は、薬剤が充填された注射筒及び針管を有した注射器と、注射器に装着される注射針組立体とを備える。この薬剤注射装置の注射針組立体は、皮膚に穿刺される針先を有する穿刺用針管と、針保持部と、係合部と、接続部とを有している。注射針組立体の針保持部は、穿刺用針管を保持し、係合部は、注射筒に係合する。接続部は、穿刺用針管の針先とは反対の基端と注射器の針管における排出口とが配置される内腔部を有し、穿刺用針管と針管を液密に連通させる。また、接続部は、針保持部から内腔部を隔てるための第1の隔壁部と、係合部から内腔部を隔てるための第2の隔壁部を有しており、第1の隔壁部に挿通された穿刺用針管の前記基端が前記内腔部に位置する。
【0016】
本発明の注射針組立体を注射器に装着する場合には、注射針組立体の係合部を注射器の注射筒に係合させる。これにより、注射器の針管における排出口が接続部に挿入され、内腔部に配置される。この内腔部には、針保持部に保持された穿刺用針管の基端が配置されている。したがって、穿刺用針管と注射器の針管とが接続部材によって液密に連通され、注射筒に充填された薬剤を穿刺用針管から排出することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の注射針組立体および薬剤注射装置によれば、穿刺用針管と注射器の針管針管を液密に連通させた状態で容易に接続することができ、注射筒に充填された薬剤を穿刺用針管から排出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の注射針組立体の第1の実施の形態の側面図である。
図2】本発明の注射針組立体の第1の実施の形態の分解図である。
図3】本発明の注射針組立体の第1の実施の形態を分解して示す断面図である。
図4】本発明の注射針組立体の第1の実施の形態の断面図である。
図5図5Aは本発明の注射針組立体の第1の実施の形態を注射器に装着する直前の状態の説明図、図5Bは注射針組立体を注射器に装着した状態の説明図である。
図6】本発明の注射針組立体の第2の実施の形態の側面図である。
図7図7Aは注射器を軸方向に交差する方向に移動させて、第2の実施の形態の注射針組立体に接近させる状態の説明図、図7Bは第2の実施の形態の注射針組立体に係る装着ガイド部に注射器の注射筒を当接した状態の説明図、図7Cは第2の実施の形態の注射針組立体を注射器に装着した状態の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の注射針組立体および薬剤注射装置を実施するための形態について、図1図7を参照して説明する。なお、各図において共通の部材には、同一の符号を付している。
【0020】
1.第1の実施の形態
[注射針組立体]
まず、本発明の注射針組立体の第1の実施の形態について、図1図4を参照して説明する。
図1は、注射針組立体の第1の実施の形態の側面図である。図2は、注射針組立体の分解図である。図3は、注射針組立体を分解した状態の断面図である。図4は、注射針組立体の断面図である。
【0021】
注射針組立体1は、針先を皮膚の表面より穿刺して皮膚上層部に薬剤を注入する場合に、注射器52(図5参照)に装着して使用する。この注射針組立体1は、着脱可能に装着されるキャップ3を有することができる。
【0022】
図2に示すように、注射針組立体1は、針孔を有する中空の穿刺用針管5と、この穿刺用針管5を保持する第1部材11と、穿刺用針管5を保持した状態の第1部材11に接続される第2部材12と、テーパガイド13と、接続部14からなっている。
【0023】
穿刺用針管5は、ISOの医療用針管の基準(ISO9626:1991/Amd.1:2001(E))で26〜33ゲージのサイズ(外径0.2〜0.45mm)のものを使用し、好ましくは30〜33ゲージのものを使用する。
【0024】
穿刺用針管5の一端には、刃面5aを有する針先5Aが設けられている。以下、針先5Aとは反対側である穿刺用針管5の他端を「基端5B」という。刃面5aにおける穿刺用針管5の軸方向の長さ(以下、「ベベル長B」という)は、後述する皮膚上層部の最薄の厚さである1.4mm(成人)以下であればよく、且つ、33ゲージの針管に短ベベルを形成したときのベベル長である約0.5mm以上であればよい。つまり、ベベル長Bは、0.5〜1.4mmの範囲に設定されるのが好ましい。
【0025】
さらに、ベベル長Bは、皮膚上層部の最薄の厚さが0.9mm(小児)以下、すなわち、ベベル長Bが0.5〜0.9mmの範囲であればなおよい。なお、短ベベルとは、注射用針に一般的に用いられる、針の長手方向に対して18〜25°をなす刃面を指す。
【0026】
穿刺用針管5の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、穿刺用針管5は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパー状となっているテーパー針を用いることができる。テーパー針としては、針先端部に比べて基端部が大きい径を有しており、その中間部分をテーパー構造とすればよい。また、穿刺用針管5の断面形状は、円形だけでなく、三角形等の多角形であってもよい。
【0027】
次に、第1部材11について説明する。
第1部材11は、針保持部21と、調整部22と、安定部23と、ガイド部24を備えている。図3に示すように、針保持部21は、略円柱状に形成されており、軸方向に垂直な端面21a,21bを有している。調整部22は、針保持部21の端面21aの中央部に設けられており、針保持部21の軸方向に突出する円柱状の凸部からなっている。この調整部22の軸心は、針保持部21の軸心に一致している。
【0028】
針保持部21及び調整部22の軸心には、穿刺用針管5が貫通する貫通孔26が設けられている。そして、針保持部21には、貫通孔26に接着剤(不図示)を注入するための注入用孔27が設けられている。この注入用孔27は、針保持部21の外周面に開口されており、貫通孔26に連通している。すなわち、注入用孔27から貫通孔26へ注入された接着剤により、穿刺用針管5が針保持部21に固着される。
【0029】
針保持部21における端面21b側の端部は、接続部14が嵌合する嵌合部28になっている。この嵌合部28は、本発明に係る封止部の一具体例を示すものである。嵌合部28は、端面21bに開口する円形の凹部を設けることで形成されており、端面21a,21bと平行な底面28aと、その底面28aと平行な断面が円形となる内周面28bを有している。嵌合部28の底面28aには、接続部14の後述する第1の当接面14aが当接する。また、嵌合部28の内周面28bには、接続部14の外周面が密着する。この内周面28bは、接続部14の後述する内腔部41を液密に封止する。
【0030】
針保持部21の外周面には、接続片29が設けられている。この接続片29は、針保持部21の半径方向に突出するリング状のフランジとして形成されており、針保持部21の軸方向に対向する平面29a,29bを有している。接続片29の平面29bには、第2部材12が接続される。また、接続片29の先端部は、ガイド部24になっている。このガイド部24については、後で詳しく説明する。
【0031】
調整部22の端面は、穿刺用針管5の針先5A側が突出する針突出面22aになっている。針突出面22aは、穿刺用針管5の軸方向に直交する平面として形成されている。この針突出面22aは、穿刺用針管5を皮膚上層部に穿刺するときに、皮膚の表面に接触して穿刺用針管5を穿刺する深さを規定する。つまり、穿刺用針管5が皮膚上層部に穿刺される深さは、針突出面22aから突出する穿刺用針管5の長さ(以下、「突出長L」という。)によって決定される(図4参照)。
【0032】
皮膚上層部の厚みは、皮膚の表面から真皮層までの深さに相当し、概ね、0.5〜3.0mmの範囲内にある。そのため、穿刺用針管5の突出長Lは、0.5〜3.0mmの範囲に設定することができる。
【0033】
ところで、ワクチンは一般的に上腕部に投与されるが、皮膚上層部への投与の場合には、皮膚が厚い肩周辺部、特に三角筋部が好ましい。そこで、小児19人と大人31人について、三角筋の皮膚上層部の厚みを測定した。この測定は、超音波測定装置(NP60R−UBM 小動物用高解像度用エコー、ネッパジーン(株))を用いて、超音波反射率の高い皮膚上層部を造影することで行った。なお、測定値が対数正規分布となっていたため、幾何平均によってMEAN±2SDの範囲を求めた。
【0034】
その結果、小児の三角筋における皮膚上層部の厚みは、0.9〜1.6mmであった。また、成人の三角筋における皮膚上層部の厚みは、遠位部で1.4〜2.6mm、中央部で1.4〜2.5mm、近位部で1.5〜2.5mmであった。以上のことから、三角筋における皮膚上層部の厚みは、小児の場合で0.9mm以上、成人の場合で1.4mm以上であることが確認された。したがって、三角筋の皮膚上層部における注射において、穿刺用針管5の突出長Lは、0.9〜1.4mmの範囲に設定することが好ましい。
【0035】
突出長Lをこのように設定することで、針先5Aの刃面5aを皮膚上層部に確実に位置させることが可能となる。その結果、刃面5aに開口する針孔(薬液排出口)は、刃面5a内のいかなる位置にあっても、皮膚上層部に位置することが可能である。なお、薬液排出口が皮膚上層部に位置しても、針先5Aが皮膚上層部よりも深く刺されば、針先5A端部の側面と切開された皮膚との間から薬液が皮下に流れてしまうため、針先5A(刃面5a)が確実に皮膚上層部にあることが重要である。
【0036】
なお、26ゲージよりも太い針管では、ベベル長Bを1.0mm以下にすることは難しい。したがって、穿刺用針管5の突出長Lを好ましい範囲(0.9〜1.4mm)に設定するには、26ゲージよりも細い針管を使用することが好ましい。
【0037】
針突出面22aは、周縁から穿刺用針管5の外周面までの距離Sが1.4mm以下となるように形成し、好ましくは0.3〜1.4mmの範囲で形成する。この針突出面22aの周縁から穿刺用針管5の周面までの距離Sは、皮膚上層部へ薬剤を投与することで形成される水疱に圧力が加わることを考慮して設定している。つまり、針突出面22aは、皮膚上層部に形成される水疱よりも十分に小さく、水疱の形成を妨げない大きさに設定している。その結果、針突出面22aが穿刺用針管5の周囲の皮膚を押圧しても、投与された薬剤が漏れることを防止することができる。
【0038】
安定部23は、針保持部21に設けた接続片29の平面29aから突出する筒状に形成されている。安定部23の筒孔には、穿刺用針管5及び調整部22が配置されている。つまり、安定部23は、穿刺用針管5が貫通する調整部22の周囲を覆う筒状に形成されており、穿刺用針管5の針先5Aから半径方向に離間して設けられている。
【0039】
安定部23には、キャップ3が着脱可能に嵌合される。このキャップ3は、穿刺用針管5の針先5Aを覆う。このキャップ3の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を挙げることができる。
【0040】
キャップ3を安定部23に装着することより、注射針組立体1を注射器52(図5参照)に装着する場合に、針先5Aが使用者の指先等に触れないようにすることができる。また、使用済みの注射針組立体1或いは後述する薬剤注射装置51(図5参照)を常に安全な状態に保つことができ、使用者は、安心して使用済みの注射針組立体1或いは薬剤注射装置51の廃棄処理等を行うことができる。
【0041】
図3に示すように、安定部23の端面23aは、調整部22の針突出面22aよりも穿刺用針管5の基端5B側に位置している。穿刺用針管5の針先5Aを生体に穿刺すると、まず、針突出面22aが皮膚の表面に接触し、その後、安定部23の端面23aに接触する。このとき、安定部23の端面23aが皮膚に接触することで薬剤注射装置51(図5参照)が安定し、穿刺用針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。
【0042】
なお、安定部23の端面23aは、針突出面22aと同一平面上に位置させたり、また、針突出面22aよりも穿刺用針管5の針先5A側に位置させたりしても、穿刺用針管5を皮膚に対して略垂直な姿勢に保つことができる。また、安定部23を皮膚に押し付けた際の皮膚の盛り上がりを考慮すると、安定部23の端面23aと針突出面22aにおける軸方向の距離は、1.3mm以下に設定することが好ましい。
【0043】
安定部23の内径dは、皮膚に形成される水疱の直径と同等であるか、それよりも大きい値に設定されている。具体的には、安定部23の内壁面から針突出面22aの周縁までの距離Tが4mm〜15mmの範囲となるように設定されている。これにより、安定部23の内壁面から水疱に圧力が加わることが無く、水疱形成が阻害されることを防止することができる。
【0044】
安定部23の内壁面から針突出面22aの周縁までの距離Tは、4mm以上であれば、特に上限はない。しかしながら、距離Tを大きくすると、安定部23の外径が大きくなるため、小児のように細い腕に穿刺用針管5を穿刺する場合に、安定部23の端面23a全体を皮膚に接触させることが難しくなる。そのため、距離Tは、小児の腕の細さを考慮して15mmを最大と規定することが好ましい。
【0045】
針突出面22aの周縁から穿刺用針管5の外周面までの距離Sが0.3mm以上であれば、調整部22が皮膚に進入することはない。したがって、安定部23の内壁面から針突出面22aの周縁までの距離T(4mm以上)及び針突出面22aの直径(約0.3mm)を考慮すると、安定部23の内径dは9mm以上に設定することができる。
【0046】
なお、安定部23の形状は、円筒状に限定されるものではなく、例えば、中心に筒孔を有する四角柱や六角柱等の角筒状に形成してもよい。
【0047】
ガイド部24は、接続片29における安定部23よりも先端側の部分である。このガイド部24は、皮膚と接触する接触面24aを有している。接触面24aは、接続片29における平面29aの一部であり、安定部23の端面23aと略平行をなす平面である。ガイド部24の接触面24aが皮膚に接触するまで安定部23を押し付けることにより、安定部23及び穿刺用針管5が皮膚を押圧する力を常に所定値以上に確保することができる。これにより、穿刺用針管5の針突出面22aから突出している部分(突出長Lに相当)が確実に皮膚内に穿刺される。
【0048】
ガイド部24の接触面24aから安定部23の端面23aまでの距離(以下、「ガイド高さ」という。)Yは、穿刺用針管5及び安定部23が適正な押圧力で皮膚を押圧し穿刺することができるようにその長さが設定されている。これにより、穿刺用針管5及び安定部23による皮膚への押圧力をガイド部24が案内し、穿刺用針管5の針先5A(刃面5a)を皮膚上層部に確実に位置させることができると共に、使用者に安心感を与えることができる。なお、穿刺用針管5及び安定部23の適正な押圧力は、例えば、3〜20Nである。
【0049】
ガイド部高さYは、安定部23の内径dの範囲が11〜14mmの場合、ガイド部24の先端面から安定部23の外周面までの長さ(以下、「ガイド部長さ」という。)Xに基づいて適宜決定される。例えば、安定部23の内径dが12mmであり、ガイド部長さXが3.0mmのとき、ガイド部高さYは、2.3〜6.6mmの範囲に設定される。
【0050】
次に、第2部材12について説明する。
第2部材12は、略筒状に形成されている。この第2部材12の軸方向の一端部は、第1部材11の針保持部21を挿入する挿入部31になっており、他端部は、注射器52の後述する注射筒54(図5参照)が係合する係合部32になっている。
【0051】
挿入部31の筒孔31a(図3参照)は、第1部材11の針保持部21に対応した大きさに設定されている。この挿入部31の外周面には、第1部材11の接続片29に接続される固定片34が設けられている。この固定片34は、挿入部31の半径外方向に突出するリング状のフランジとして形成されている。固定片34には、第1部材11に設けた接続片29の平面29bが当接し、固着される。固定片34と接続片29の固着方法としては、例えば、接着剤、超音波溶着、レーザ溶着、固定ねじ等を挙げることができる。
【0052】
係合部32は、注射器52の注射筒54(図5参照)が嵌入する嵌入筒35と、テーパガイド13が配置されるガイド固定部36からなっている。嵌入筒35は、円形の筒孔35aを有する円筒状に形成されている。筒孔35aを形成する嵌入筒35の内周面35bには、周方向に連続して突出する複数の突条部38が形成されている。この突条部38は、注射筒54の外周面に当接する。
【0053】
ガイド固定部36は、嵌入筒35と挿入部31との間に設けられている。このガイド固定部36は、略円柱状に形成されており、挿入部31に連続する端面36aと、嵌入筒35に連続する端面36bと、嵌入筒35の筒孔35aと挿入部31の筒孔31aとを連通させる連通孔36cを有している。
【0054】
ガイド固定部36の端面36aには、挿入部31の筒孔31a内に突出する突部39が設けられている。この突部39は、端面36aから略垂直に突出するリング状に形成されており、連通孔36cの開口部を兼ねている。そして、突部39には、接続部14の後述する第2の当接面14bを押圧する押圧面39aが設けられている。突部39の押圧面39aは、接続部14の第2の当接面14bと略等しい大きさに設定されており、第2の当接面14bに面接触する。
【0055】
連通孔36cは、略円錐形に形成されており、挿入部31の筒孔31aに向かうにつれて径が連続的に小さくなっている。図4に示すように、連通孔36cには、テーパガイド13が配置される。
【0056】
なお、上述した第1部材11及び第2部材12の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂(プラスチック)を挙げることができる。
【0057】
次に、テーパガイド13について説明する。
テーパガイド13は、SUS304、チタン、セラミックスなどの針管53と同等又はそれよりも高い硬度を有する材料により、略円錐形の筒状に形成されている。このテーパガイド13の外面13aには、ガイド固定部36の端面36bに当接する段部18が設けられている。この段部18がガイド固定部36の端面36bに当接することにより、テーパガイド13は、ガイド固定部36に対して位置決めされる。
【0058】
連通孔36cを形成するガイド固定部36の内面とテーパガイド13の外面13aとの間には、接着剤(不図示)が塗布されている。この接着剤により、テーパガイド13がガイド固定部36に固着されている。
【0059】
テーパガイド13の内面13bは、円形の筒孔を形成しており、嵌入筒35側の端部から挿入部31側の端部に向かうにつれて径が連続的に小さくなっている。このテーパガイド13の内面13bは、注射器52の針管53の移動を案内し、針管53が接続部14の後述する内腔部41に向かうようにする。
【0060】
次に、接続部14について説明する。
接続部14は、天然ゴム、シリコーンゴムのような各種ゴム材料や、ポリウレタン系、スチレン系等の各種熱可塑性エラストマー、或いはそれらの混合物等の弾性材料から形成されている。
【0061】
接続部14は、円柱状に形成されており、軸方向に垂直な第1の当接面14a及び第2の当接面14bを有している。この接続部14の軸方向の長さは、針保持部21に設けた嵌合部28の軸方向の長さと略等しくなっている。接続部14の第1の当接面14aは、針保持部21に設けた嵌合部28の底面28aに当接し、第2の当接面14bは、係合部32に設けた突部39の押圧面39aに当接する。
【0062】
接続部14には、外周面に開口する内腔部41が設けられている。接続部14が針保持部21の嵌合部に嵌合されると、内腔部41は、針保持部21に設けた嵌合部28によって液密に密閉される。液密に密閉された内腔部(空間)を有する接続部14を成形することは、割型を用いれば可能であるが、成形コストが増大する。そのため、本実施の形態では、接続部14の外周面に内腔部41を開口させ、その開口を嵌合部28によって閉じることで、接続部14の成形を容易にしている。
【0063】
図4に示すように、穿刺用針管5の基端5Bは、第1の当接面14aから接続部14内に挿入され、内腔部41に配置される。そして、注射針組立体1を注射器52(図5参照)に装着すると、注射器52の針管53における排出口が第2の当接面14bから接続部14内に挿入され、内腔部41に配置される。つまり、接続部14は、注射針組立体1の穿刺用針管5と、注射器52の針管53とを液密に連通させる。
【0064】
また、接続部14の第2の当接面14bには、変形補助凹部42が設けられている。この変形補助凹部42を設けることにより、係合部32の押圧面39aにより接続部14を押圧したときに、接続部14が外側(嵌合部28の内周面28b側)に広がるように弾性変形する。その結果、接続部14の外周面と嵌合部28の内周面を確実に密着させることができ、内腔部41を液密に密閉することができる。
【0065】
また、注射針組立体1を組み立てた状態において、第2部材12の突部39は、第1部材11の嵌合部28内に挿入される。これにより、接続部14を確実に押圧して弾性変形させることができる。
【0066】
[薬剤注射装置]
次に、本発明の薬剤注射装置について、図5を参照して説明する。
図5Aは、薬剤注射装置を組み立てる直前の状態の側面図である。図5Bは、薬剤注射装置を組み立てた状態の断面図である。
【0067】
薬剤注射装置51は、注射器52と、この注射器52に装着される注射針組立体1から構成されている(図5B参照)。注射器52は、中空の針管53と、この針管53が取り付けられる注射筒54を備えている。
【0068】
図5Aに示すように、針管53の一端には、刃面53aを有する針先53Aが設けられている。この針管53の材料としては、例えば、ステンレス鋼を挙げることができるが、これに限定されるものではなく、アルミニウム、アルミニウム合金、チタン、チタン合金その他の金属を用いることができる。また、針管53は、ストレート針だけでなく、少なくとも一部がテーパー状となっているテーパー針を用いることができる。テーパー針としては、針先端部に比べて基端部が大きい径を有しており、その中間部分をテーパー構造とすればよい。また、針管53の断面形状は、円形だけでなく、三角形等の多角形であってもよい。
【0069】
注射筒54は、筒本体55と、この筒本体55の先端に連続する針ハブ56とを備えている。筒本体55は、円形の筒体からなっている。針ハブ56は、筒本体55よりも小さい外径の円形の筒体からなっている。この針ハブ56は、注射針組立体1の係合部32に着脱可能に嵌入される。
【0070】
針ハブ56内には、針管53の基端側を挿入する針挿入部56aが設けられている。この針挿入部56aに挿入された針管53は、筒本体55内に連通する。針管53は、針挿入部56aに注入される接着剤(不図示)により、針ハブ56に固着されている。
【0071】
なお、本実施の形態の針ハブ56は、針管53と筒本体55との間に空間が生じないよう形成されており、注射筒54に薬剤が残存し難いようになっている。そのため、皮膚上層部へワクチンを投与することで得られる抗原量を減らすという利点を損なわないようにすることができる。
【0072】
筒本体55内には、ガスケット57が収納されている。筒本体55内の空間は、ガスケット57により液密に仕切られており、針管53に連通する一方の空間は、液室60を形成している。筒本体55内の他方の空間には、プランジャ58が配置される。このプランジャ58の一端(先端)は、ガスケット57に接続されており、プランジャ58の他端(基端)は、筒本体55の開口(不図示)から突出している。このプランジャ58を操作することにより、ガスケット57が筒本体55内で軸方向に移動され、液室60への薬剤の吸引と、液室60に充填された薬剤の排出が行われる。
【0073】
注射筒54の材質としては、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ポリエチレン等の合成樹脂を用いることができ、また、ガラス等を用いてもよい。
【0074】
[薬剤注射装置の組立方法]
次に、薬剤注射装置51の組立方法について説明する。
薬剤注射装置51は、注射器52に注射針組立体1を装着することにより組み立てられ
る。注射器52に注射針組立体1を装着するには、針管53を注射針組立体1の係合部3
2側から挿入し、針ハブ56を係合部32の嵌入筒35に嵌入する。これにより、薬剤注
射装置51の組み立てが完了する。針ハブ56の嵌入は、係合部32の端面が筒本体55
に当接することにより係止される。
【0075】
係合部32側から挿入された針管53は、係合部32を貫通してテーパガイド13内を進行する。このとき、針管53が接続部14の内腔部41に向かって進行していなければ、テーパガイド13の内面13bによって針管53を案内し、接続部14の内腔部41に向かわせることができる。その後、針管53の針先53Aが第2の当接面14bから接続部14内に挿入され、内腔部41に配置される。したがって、針先53Aを内腔部41に容易に配置させることができる。針先53Aが内腔部41に配置されると、針管53と注射針組立体1の穿刺用針管5が内腔部41を介して液密に連通される。
【0076】
また、注射針組立体1の安定部23には、キャップ3が取り付けられている。したがって、注射器52に注射針組立体1を装着するときに、針突出面22aから突出した穿刺用針管5の針先5Aが使用者の指先等に触れないようにすることができる。なお、薬剤注射装置51を用いて穿刺用針管5の針先5Aを皮膚上層部に穿刺するときには、安定部23からキャップ3を取り外す。
【0077】
本実施の形態の注射針組立体1では、針保持部21に保持された穿刺用針管5の基端5Bが接続部14の内腔部41に配置されている。したがって、接続部14に注射器52の針管53を挿入することにより、内腔部41を介して針管53と穿刺用針管5を液密に連通させることができる。
【0078】
また、本実施の形態の注射針組立体1によれば、テーパガイド13によって針管53の移動を案内するため、接続部14の第2の当接面14bにおける針管53の挿入位置を高精度に位置決めすることができる。その結果、内腔部41を小さくすることができ、内腔部41に残存する薬剤の量を少なくすることができる。
【0079】
[薬剤注射装置の使用方法]
次に、薬剤注射装置51の使用方法について説明する。
穿刺用針管5の針先5Aを皮膚上層部に穿刺するには、まず、安定部23の端面23aを皮膚に対向させる。これにより、穿刺用針管5の針先5Aが、穿刺する皮膚に対向される。次に、薬剤注射装置51を皮膚に対して略垂直に移動させ、針先5Aを皮膚に穿刺すると共に安定部23の端面23aを皮膚に押し付ける。このとき、針突出面22aが皮膚に接触する。そのため、皮膚を平らに変形させることができ、穿刺用針管5の針先5A側を突出長Lだけ皮膚に穿刺することができる。
【0080】
次に、ガイド部24の接触面24aが皮膚に接触するまで安定部23の端面23aを押し付ける。ここで、ガイド部高さYは、穿刺用針管5及び安定部23が適正な押圧力で皮膚に穿刺することができるようにその長さが設定されている。そのため、安定部23によって皮膚を押圧する力が所定の値になる。
【0081】
その結果、安定部23の適正な押圧力を使用者に認識させることができ、穿刺用針管5の針先5A及び刃面5aを確実に皮膚上層部に位置させることができる。このように、ガイド部24が安定部23の適正な押圧力を認識させる目印となることで、使用者が安心して薬剤注射装置51を使用することができる。
【0082】
また、安定部23の端面23aが皮膚に当接することで、薬剤注射装置51の姿勢が安定し、穿刺用針管5を皮膚に対して真っ直ぐに穿刺することができる。しかも、穿刺後に穿刺用針管5に生じるブレを防止することができ、薬剤の安定した投与を行うことができる。
【0083】
例えば0.5mm程度のごく短い突出長Lでは、針先5Aを皮膚に当接させても皮膚に刺さらない場合がある。しかし、安定部23に押し付けられた皮膚が垂直方向に押し下げられることにより、安定部23の内側の皮膚が引っ張られて皮膚に張力が加わった状態となる。そのため、穿刺用針管5の針先5Aに対して皮膚が逃げ難くなる。したがって、安定部23を設けることにより、皮膚に針先5Aをより刺さり易くするという効果を得ることもできる。
【0084】
穿刺用針管5の針先5Aを皮膚に穿刺した後、プランジャ58を押して、ガスケット57を針ハブ56側に移動させる。これにより、筒本体55の液室60に充填された薬剤は、液室60から押し出され、針管53の針先53A(排出口)から排出される。そして、針先53Aから排出された薬剤は、内腔部41を介して穿刺用針管5に進入し、針先5Aから皮膚上層部に注入される。
【0085】
2.第2の実施の形態
[注射針組立体]
次に、本発明の注射針組立体の第2の実施の形態について、図6を参照して説明する。
図6は、注射針組立体の第2の実施の形態の側面図である。
【0086】
図6に示すように、注射針組立体71は、第1の実施の形態の注射針組立体1と同様な構成を有している。この注射針組立体71が注射針組立体1と異なるところは、第2部材72に装着ガイド部74を設けた点である。そのため、ここでは、装着ガイド部74について説明し、注射針組立体1と共通する部分には同一の符号を付して重複した説明を省略する。
【0087】
注射針組立体71の第2部材72は、挿入部31と、係合部73を備えている。そして、係合部73は、嵌入筒35と、ガイド固定部36と、装着ガイド部74から構成されている。装着ガイド部74は、嵌入筒35の端面に連続して設けられている。この装着ガイド部74は、中心角が180度の円弧状、すなわち、円筒の半割り状に形成されている。
【0088】
装着ガイド部74の内面74a(図7参照)には、注射器52における筒本体55の外周面が摺動可能に当接する。装着ガイド部74の内面74aに筒本体55の外周面が当接されると、針管53の軸心が、接続部14の内腔部41に向かうようになっている。
【0089】
また、装着ガイド部74の先端から嵌入筒35の端面までの距離Nは、筒本体55の針ハブ56が突出する端面から針管53の針先53Aまでの距離M(図7参照)よりも長く設定されている。そのため、注射器52を軸方向に交差する方向に移動させて、筒本体55の外周面を装着ガイド部74の内面74aに当接させることができる。
【0090】
本実施の形態では、装着ガイド部74を中心角が180度の円弧状に形成したが、本発明に係る装着ガイドの中心角は、180度より小さくてもよい。また、本発明に係る装着ガイドの形状としては、円弧状に限定されるものではなく、例えば、筒本体55の外周面にそれぞれ線接触する3つの側板を、断面が略C字状になるように連続させて構成してもよい。
【0091】
[薬剤注射装置の組立方法]
次に、薬剤注射装置81の組立方法について、図7を参照して説明する。
図7Aは、注射器52を軸方向と交差する方向に移動させて、注射針組立体71に接近させる状態の説明図である。図7Bは、注射器52の筒本体55を注射針組立体71における装着ガイド部74の内面74aに当接した状態の説明図である。図7Cは、注射器52に対する注射針組立体71の装着が完了した状態の説明図である。
【0092】
薬剤注射装置81は、注射器52に注射針組立体71を装着することにより組み立てられる。注射器52に注射針組立体71を装着するには、まず、注射器52を、針管53の軸方向と交差する方向に移動させて、注射針組立体71の装着ガイド部74に接近させる(図7A参照)。
【0093】
続いて、注射器52における筒本体55の外周面を装着ガイド部74の内面74aに当接する(図7B参照)。これにより、軸方向と交差する方向における針管53の位置を容易に位置決めすることができる。その結果、針管53の針先53Aは、係合部73の嵌入筒35に対向する。また、装着ガイド部74を中心角が略180度の円弧状に形成したため、注射器52が軸方向と交差する方向へずれないようにすることができる。
【0094】
次に、注射器52を軸方向に移動させて、注射器52の針ハブ56を嵌入筒35に嵌入し、薬剤注射装置81の組み立てが完了する(図7C参照)。この針ハブ56の嵌入は、
嵌入筒35の端面が筒本体55に当接することにより停止される。このとき、装着ガイド部74の内面74aに沿って注射器52を移動させることにより、嵌入筒35に針ハブ56を簡単に嵌入させることができる。
【0095】
また、針管53をバイアルのゴム栓に貫通させたときに針管53に撓み変形が生じていても、針管53は、テーパガイド13の内面13bに案内されるので、内腔部41に向かって進行する。したがって、針管53の針先53Aを内腔部41に確実に配置することができる。そして、注射器52の針管53と注射針組立体71の穿刺用針管5とを内腔部41を介して液密に連通させることができる。
【0096】
また、薬剤注射装置81では、筒本体55の外周面のうち周方向の半分が露出されるため、注射器52の筒本体55に設けられた目盛りを視認することができる。
【0097】
以上、本発明の注射針組立体及び薬剤注射装置の実施の形態について、その作用効果も含めて説明した。しかしながら、本発明の注射針組立体及び薬剤注射装置は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々の変形実施が可能である。
【0098】
上述の実施の形態では、係合部32(73)に筒状の嵌入筒35を設け、その嵌入筒35に注射器52の針ハブ56を嵌入するようにした。しかしながら、本発明に係る係合部としては、筒状に限定されるものではなく、装着する注射筒の形状及び構成に応じて適宜変更することができる。例えば、係合部が注射筒に螺合する構成にすることもできる。
【0099】
また、上述の実施の形態では、テーパガイド13を略円錐形の筒状に形成した。しかしながら、本発明に係るテーパガイドとしては、接続部に向かうにつれて径が連続的に小さくなる内面を有していればよく、外形はガイド固定部の形状に応じて適宜形成することができる。
【0100】
また、上述した実施の形態では、第1部材11(針保持部)に安定部23及びガイド部24を設けた。しかしながら、本発明に係る安定部及びガイド部としては、第2部材(係合部)や注射器に設けることもできる。
【0101】
また、上述した実施の形態では、第1部材11(針保持部21)に、接続部14の内腔部41を封止する封止部(嵌合部28)を設けた。しかしながら、本発明に係る封止部は、第2部材12(係合部)に設けてもよい。また、本発明に係る封止部は、接続部に嵌合するものに限定されず、内腔部の開口を液密に封止するものであればよい。
【0102】
また、上述した実施の形態では、針保持部21と係合部32(73)を別体で形成し、
後で接続する構成とした。しかしながら、本発明に係る針保持部と係合部は、一体に形成することもできる。
【符号の説明】
【0103】
1,71…注射針組立体、 3…キャップ、 5…穿刺用針管、 5A…針先、 5a…刃面、 5B…基端、 11…第1部材、 12,72…第2部材、 13…テーパガイド、 13a…外面、 13b…内面、 14…接続部、 14a…第1の当接面、 14b…第2の当接面、 21…針保持部、 22…調整部、 22a…針突出面、 23…安定部、 23a…端面、 24…ガイド部、 24a…接触面、 28…嵌合部(封止部)、 28a…底面、 28b…内周面、 31…挿入部、 32,73…係合部、 35…嵌入筒、 36…ガイド固定部、 39…突部、 39a…押圧面、 41…内腔部、 42…変形補助凹部、 51,81…薬剤注射装置、 52…注射器、 53…針管、 53A…針先(排出口)、 54…注射筒、 55…筒本体、 56…針ハブ、 57…ガスケット、 58…プランジャ、 60…液室、 74…装着ガイド部、 74a…内面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7