特許第6284657号(P6284657)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6284657木材用水溶性防炎剤組成物と防炎処理方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6284657
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】木材用水溶性防炎剤組成物と防炎処理方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 21/04 20060101AFI20180215BHJP
   B27K 3/20 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
   C09K21/04
   B27K3/20
【請求項の数】3
【全頁数】34
(21)【出願番号】特願2016-565182(P2016-565182)
(86)(22)【出願日】2015年5月21日
(65)【公表番号】特表2017-518405(P2017-518405A)
(43)【公表日】2017年7月6日
(86)【国際出願番号】KR2015005082
(87)【国際公開番号】WO2015182920
(87)【国際公開日】20151203
【審査請求日】2016年10月26日
(31)【優先権主張番号】10-2014-0064070
(32)【優先日】2014年5月28日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】516322946
【氏名又は名称】ユ、ス ヨン
【氏名又は名称原語表記】YU,Sooyong
(74)【代理人】
【識別番号】100130111
【弁理士】
【氏名又は名称】新保 斉
(72)【発明者】
【氏名】ユ、ス ヨン
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭58−167670(JP,A)
【文献】 特開2007−284607(JP,A)
【文献】 特開2004−122612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 21/00−21/14
B27K 1/00− 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸溜水300gにリン酸アンモニウム60gを投入して30分間攪拌させ、ここに尿素40gを投入して30分間攪拌させた後、リン酸40gをゆっくりと投入して1時間攪拌した後、シリコン水和物60gを入れ、50℃以下で1時間攪拌させて製造する
ことを特徴とする木材用水溶性防炎剤組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の木材用水溶性防炎剤組成物を使用して、処理対象物(水性塗料が塗布された木材)に防炎処理するにあたり、
気温10℃未満の場合と湿度70%以上のときを避け、処理対象物と40cm以上の距離を維持した状態でスプレー圧力80〜120kg/cm、処理量0.35kg/mで1次スプレー塗布する段階と;前記1次スプレー塗布の完了後、常温で24〜48時間乾燥させる段階と;前記乾燥させた処理対象物に1次スプレーと同一条件と方法で2次スプレー塗布する段階を含む
ことを特徴とする木材用水溶性防炎剤組成物の防炎処理方法。
【請求項3】
請求項1に記載の木材用水溶性防炎剤組成物を使用して、スプレー及び刷毛で防炎処理した後、他の助剤の処理をせずに常温で24〜48時間自然乾燥させる
ことを特徴とする木材用水溶性防炎剤組成物の防炎処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、木材用水溶性防炎剤組成物と防炎処理方法に関するもので、より詳細には一般木材及び水性塗料が処理された木材表面にスプレーまたは刷毛で塗布する方法だけで木材内部への浸透が容易で火炎伝播を抑制でき、また炭化面積、残炎時間や残じん時間に優れ、水性塗料の色の白華/剥落/汚れ、有害性がなく、常温常圧で防炎処理し、他の助剤を使用しなくても長時間防炎効果を提供できる木材用水溶性防炎剤組成物と防炎処理方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
私たちの生活で使用する木材類や繊維及びプラスチック類を防炎処理するということは、技術的にも経済性からみてもほぼ不可能であり、また、現実的にその必要性も非常に低いため、防火の側面から見て必ず必要だと認められる対象物のみを防炎処理するように規定しているのが通常の場合である。
【0003】
欧州、米国、日本の場合をみると、防炎処理を必要とする対象物として、建築内装材のほか、車両、航空機等の各種輸送体の内装材、各種電気/電子製品の可燃性部品、及びカーテン、車両内装用不織布等にわたり広く規定しており、韓国の場合は、高層ビルや劇場、ホテル、病院、自動車等の特殊な場所の内装材である合板、繊維板、カーペット、カーテン等を防炎処理対象として消防法で規定している。
【0004】
前述した防炎処理対象物を材料別にみると;木材類や繊維類、プラスチック類等、大きく三種類に分けることができ、防炎処理方法は処理対象の種類によっても異なるが、処理対象物の材料によって大きく異なる。
【0005】
この中で木材は、建築、家具、什器等の製造に広く使用されている天然材料であり、材質の特性上、火災や微生物または各種昆虫による劣化に非常に脆弱だという欠点があるが、水性塗料を木材表面に塗布すると、木材を保護して美観を保ち、各種微生物、昆虫の被害がなく、各種風害から保護できる利点を発揮する。
【0006】
このように水性塗料が塗布された木材表面には、スプレー方式で防炎剤を塗布、処理することは、前述した理由から(技術的にも経済性からみてもほぼ不可能であり、また、現実的にその必要性も非常に少ないため)ほとんど行われていない。
【0007】
一方、木材の防炎処理方法としては、物理的な加工方法、化学的加工方法があるが、防炎効果の面や経済的な理由から、化学的処理方法が主に利用されている。化学的処理方法とは、防炎対象物を防炎効果に優れた化学薬品で処理することをいい、このような化学薬品を防炎剤組成物と呼ぶ。
【0008】
また、木材関連防炎剤組成物は、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤及び無機難燃剤を表面にコーティングして使用することが主流をなしているのが実情で、既存の難燃組成物は木材の表面に難燃塗膜を形成して難燃性を付与しており、難燃塗膜形成時に被塗布体で難燃組成物の吸収が非常に少なく、作業時間及び塗膜の乾燥速度が非常に遅いため、作業効率低下の問題点がある。
【0009】
しかし、木材構造物の場合、前述したとおり、火災や生物劣化によりその寿命を終える場合が大部分であることを勘案すると、木材に防炎とともに、防腐、防虫等の処理を一緒に行うことで、木材で作られた各種構造物の寿命と性能を画期的に向上させることができる。
【0010】
一般的な木材建築物の場合、13〜15%の含水率を維持しているが、気候や自然環境に応じた含水率の変化が生じ、雨天時や霧が頻繁に発生する地域では、相対的に木材の含水率が高いことが分かる。
【0011】
これは、木材の含水率が高いとき、水性防炎剤が木材表面の付着能力及び木材内部への浸透が低下する重要な要因となる。つまり、防炎性能の低下をもたらす重要な要因となる。
【0012】
防炎対象物の防炎化方法としては;スプレー法または直接塗装する表面処理法、金属板やその他不燃材を木材表面に、防炎剤組成物や防炎塗料を木材表面に付着させるライニング(lining)法、防炎剤組成物を木材内部まで浸透させる含浸法等の三種類に分けることができる。
【0013】
含浸法のうち加圧法は、真空と圧力を使用して防炎剤組成物を浸透させる方法で、防炎剤組成物を木の内部まで浸透させることができるため、非常に効果的であるが、この方法はオートクレーブ(autoclave)を必要とするので、小型木材の処理にのみ応用が可能であり、木造建物や大型木材は処理が困難である。
【0014】
また、非加圧法による含浸法は、スプレーによるコーティング法と効果面で別に差がなく、上記の加圧法と同じく小型木材の処理にのみ応用が可能で、木造建物や大型木材の防炎処理は、結局、防炎剤組成物を木材表面にスプレーするか、または塗装する表面処理法が最も実用的かつ経済的である。
【0015】
また、従来の一般的な木材防炎処理薬剤として、水溶性無機塩類、すなわちリン酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等のリン酸塩や硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の硫酸塩、ホウ砂またはホウ酸等が使用されて来た。
【0016】
これらの水溶性無機塩類は、防炎効果は比較的優れているが、これらの薬剤を木造建築物に適用した場合、乾燥後には木材表面にキラキラした結晶性粉末や薄い白色粉体が形成される白粉現象を起こしたり、水性塗料成分中の炭酸カルシウムと長期間反応して硫酸カルシウムやリン酸カルシウム等の不溶不融性の塩に変わり白華現象を起こしたりして、水性塗料の外観を損なわせるだけでなく防炎性も低下させる結果をもたらした。
【0017】
以下、従来技術等について、特許文献を重点としてみると下記のとおりである。
【0018】
特許文献1に不織布、絹織物、木材または紙の含浸に使用される難燃剤として、具体的には耐火機能に優れ、油性原料を使用する難燃剤とは異なり、作業環境の有害さが少なく環境公害を誘発せず、難燃剤を不織布等に含浸させることで強度が強くなり、耐寒性、安定性、耐水性及び弾性が発現するようにした水溶性の無機質難燃剤が開示されている。
【0019】
特許文献2にグアニル尿素リン酸塩[(H2N−C(NH)−NH−C(O)−NH2)・H3PO4](GUP)及びホウ酸を含む改善された難燃剤、これらの難燃剤を含有する木材及び複合材木材製品を含む材料及び改善された難燃剤が開示されている。
【0020】
特許文献3には、前記難燃剤組成物がリン酸マグネシウムアンモニウム水溶液85〜99重量%、シラン接着剤0.1〜5.0重量%、ホウ酸0.1〜5.0重量%、ホウ砂0.1〜10.0重量%、及びリン酸アンモニウム0.1〜10.0重量%からなる水溶性難燃剤組成物と難燃処理方法が開示されている。
【0021】
特許文献4には、リン酸グアニジン、ホルマリン、浸透促進剤、木材防腐剤、防食剤、シランカップリング剤、蒸溜水で組成され、防炎、防腐、防虫効果に優れ、丹青の変色、剥落及び汚れの発生が防止され、優れた防腐効果が期待できる木造文化財保存用防炎剤組成物及びその製造方法が開示されている。
【0022】
特許文献5には、炭化面積残炎時間と残じん時間に優れた防炎液と13種類の丹青色に対して白華、剥落、汚れ、有害性がなく、木造文化財等の木材に塗布して木材で火災が発生しても炎の広がりを最大限抑制できるようにしたシリコーン−リン系木材丹青用防炎剤が開示されている。
【0023】
特許文献6には、木材、稲わら、韓紙、衣類等に塗布または噴射して火炎の伝播を抑制することができ、炭化面積、残炎時間、残じん時間に優れ、丹青色等に対して白華、剥落、汚れ等の有害性がなく、多孔質構造の表面及び内・外部で難燃性を向上させると同時に構造物の劣化現象を防止できる室温硬化型有無機質結合剤防炎剤組成物について開示されている。
【0024】
また、特許文献7に主剤のケイ酸ナトリウム(Na2SiO3)の水溶液に木材を入れて減圧処理する工程;ケイ酸ナトリウムの水溶液に木材を入れて加圧処理する工程;主剤処理が終わった後、木材を乾燥させる工程;助剤であるホウ酸(H3BO3)、リン酸水素IIアンモニウム((NH4)2HPO4)、ホウ酸アンモニウム(NH4BO3)のいずれかの水溶液に木材を入れて減圧処理する工程;前記助剤の水溶液に木材を入れて加圧処理する工程;助剤処理が終わった後に乾燥させる工程で、木材に難燃性を付与する木材の難燃処理方法が開示されている。
【0025】
しかし、前記木材の難燃処理方法は、長期間防炎性能を維持できる利点があるが、減圧の条件を必要とする方法で、これも小型木材処理のみ可能で処理工程が複雑だという欠点がある。
【0026】
つまり、主剤処理と助剤処理の段階に分けて木材を防炎処理することで、木材の細胞内に塩が形成されて防炎性能を向上させる方法で、前記方法は長期間防炎性能を維持できる利点があるが、減圧の条件を必要とする方法であり、これも小型木材の処理でのみ可能で処理工程が複雑だという欠点がある。
【0027】
その他特許文献8にはアクリル樹脂と顔料溶剤に防炎剤を全体重量の約25%〜30%混入して塗布する防炎剤とアクリル樹脂をブレンドする防炎処理顔料塗布法が開示されており、特許文献9にプルランと防炎剤を含む前処理液で防炎加工方法によって防炎性が付与される防炎性布帛について開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0028】
【特許文献1】韓国公開特許第2003−0076806号明細書
【特許文献2】韓国公開特許第2004−0028724号明細書
【特許文献3】韓国公開特許第2008−0113651号明細書
【特許文献4】韓国登録特許第0917665号明細書
【特許文献5】韓国登録特許第1286967号明細書
【特許文献6】韓国公開特許第2013−0024864号明細書
【特許文献7】韓国公開特許第2013−0112102号明細書
【特許文献8】日本公開特許平08−001077号明細書
【特許文献9】日本公開特許平22−106377号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
これまで実施していた木材構造物の防炎、防虫、防腐処理する方法は、防炎性能を有する薬剤をまず含浸させて乾燥した後、防虫、防腐性能を有する成分を有する薬剤を含浸させる方法、または逆に防虫、防腐性能を有する薬剤をまず含浸させてから乾燥後に防炎性能を有する薬剤を含浸させて乾燥する方法で処理されて来た。
【0030】
しかし、これらの方法は少なくとも2回以上の含浸過程と2回以上の乾燥過程を経ることになり、多くの処理時間とコストを費やす等の欠点があり、また防炎薬剤塗布時に木材の表面に白華現象、汚れ現象、光沢現象、剥落現象が発生して外観を損なう問題点がある。
【0031】
そこで、本発明は水性塗料が処理された木材はもちろん一般木材表面に減圧、加圧なしに常温で簡単なスプレー塗布だけで白粉または白華現象を伴わずに防炎性能と防腐、防虫効果を同時に付与できる木材用水溶性防炎剤組成物を提供し、また、前記木材用水溶性防炎剤組成物を使用して防炎処理する方法を提供する。
【0032】
また、発明は、水性塗料が処理された木材表面に塗布して炎が広がることを抑制できるように、炭化面積残炎時間、残じん時間に優れた防炎剤組成物と水性塗料に対して白華、剥落、汚れ、有害性のない優れた木材用水溶性防炎剤組成物を使用して防炎処理する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0033】
前記課題解決のための本発明は;蒸溜水(base water)300gにリン酸アンモニウム60gを投入して30分間攪拌させ、ここに尿素40gを投入して30分間攪拌させた後、リン酸40gをゆっくりと投入して1時間攪拌した後、シリコン水和物(Silicon hydrate)60gを入れ、50℃以下で1時間攪拌させて製造する。
【0034】
また、これを使用して処理対象物で不純物を除去し、温度10℃未満の場合と湿度70%以上のときは防炎処理を避け、スプレー作業時の距離は40cm以上の距離を維持し、スプレーの圧力は80〜120kg/cmが適当であり、1回の処理量は0.35kg/mで、常温で24〜48時間乾燥させた後、再び同一の方法で合計2回にわたって防炎処理して防炎処理方法の利便性を提供する。
【0035】
また、減圧処理工程なしに非加圧含浸法で木材の内部まで浸透させて主剤でのみスプレー防炎処理後、他の助剤の処理をせずに常温で24〜48時間自然乾燥させて、大型木造建築物や大型木材にはスプレー塗布で十分な性能を示すと同時に、作業時間を短縮できることを特徴とする処理方法を提供する。
【0036】
これを請求項に記載した発明を基に説明すると、下記のとおりである。
【0037】
請求項1に記載した発明によれば;蒸溜水(base water)300gにリン酸アンモニウム60gを投入して30分間攪拌させ、ここに尿素40gを投入して30分間攪拌させた後、リン酸40gをゆっくりと投入して1時間攪拌した後、シリコン水和物(Silicon hydrate)60gを入れ、50℃以下で1時間攪拌させて製造することを特徴とする。
【0038】
請求項2に記載した発明によれば;請求項1に記載された木材用水溶性防炎剤組成物を使用して処理対象物(水性塗料が塗布された木材)に防炎処理するにあたり、気温10℃未満の場合と湿度70%以上のときを避け、処理対象物と40cm以上の距離を維持した状態でスプレー圧力80〜120kg/cm、処理量0.35kg/mで1次スプレー塗布する段階;前記1次スプレー塗布の完了後、常温で24〜48時間乾燥させる段階;前記乾燥させた処理対象物に1次スプレーと同一条件と方法で2次スプレー塗布する段階を含むことを特徴とする。
【0039】
請求項3に記載した発明によれば;組成物中、Si含量0.1〜1.5wt%、N含量0.5〜3.5wt%、P含量0.8〜2.5wt%を含有する防炎剤組成物を組成することを特徴とする。
【0040】
請求項4に記載した発明によれば;木材の防炎処理工程で、減圧処理工程のない非加圧含浸法で木材の内部まで浸透させる防炎処理方法を特徴とする。
【0041】
請求項5に記載した発明によれば;木材の防炎処理方法で、一般木材及び水性塗料が塗られた木材にスプレー及び刷毛で塗布して乾燥過程を経た後、防炎性能及び白華、汚れ、光沢、水性塗料の剥落がない防炎処理方法を特徴とする。
【0042】
請求項6に記載した発明によれば;請求項1において、前記請求項1に記載した防炎剤組成物をスプレー及び刷毛で防炎処理した後、他の助剤の処理をせずに常温で24〜48時間自然乾燥させることを特徴とする。
【0043】
請求項7に記載した発明によれば;大型木造建築物や大型木材は圧力法での処理が困難なため、スプレー塗布で十分な防炎性能を示すと同時に、作業時間を短縮できることを特徴とする。
【発明の効果】
【0044】
本発明は、シリコーン化合物のアルキル[alkyl]またはアルコキシ[alkoxy]基がリン系化合物によってヒドロキシ官能性シリコーン[hydroxy functional silicone]への形成反応があり、官能性シリコーン[functional silicone]とリン系化合物の静電気的な結合を形成して表面張力がより低いシリコーンとの結合で表面処理性及び分散性を向上させて、スプレー塗布だけで木材内部に浸透して優れた防炎性を付与できる。
【0045】
また、本発明は、シリコーンの低い表面エネルギーのため火源によって加熱時に表面で転移が起き、より高温で熱分解してSiO2保護層を形成し、リンはchar(炭化層、以下charとする)を形成してシリコーンが形成されたcharを保護することにより、互いの相乗効果で火源からの熱の伝達と追加の燃焼を防止し、木材の熱分解を遅らせて優れた防炎性能が期待できる。
【0046】
また、本発明は水性塗料が処理された木材表面に簡単なスプレー塗布だけで防炎剤組成物を処理することができ、特に処理時の浸透が容易で水性塗料の色相変化がなく、白華、汚れ、光沢が発生しない利点と防炎、防腐、防虫効果が同時に期待できるため、作業時間を短縮し、人材やコスト等を大きく削減することができ、かなりの経済的利益が期待できる。
【0047】
また、本発明は、スプレー法で防炎処理後、他の助剤の処理をせずに常温で24〜48時間、自然乾燥させる簡単で迅速な方法の提供で(水性塗料が塗布された表面上にスプレー法で防炎剤を処理する場合がほとんどない既存作業に比べて)作業時間短縮及び経済的な効果を同時に付与できる利益と効果等が期待できる。
【0048】
また、本発明は、水性塗料が処理されていない一般木材に適用した場合でも、前記水性塗料が塗布された木材の場合と同一の効果が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
図1】本発明による防炎処理方法の工程を概略的に示したフローチャート
図2】本発明による炭化層(Char)形成を示す写真
図3】木材試験片にシリコーン−リン酸塩系防炎剤を塗布し、炭化試験後に木材試験片に形成されたcharの結晶構造を確認するためにXRDを分析した結果の写真
図4】木材用水溶性防炎剤組成物の表面エネルギーを示す写真
図5】木材用防炎剤組成物の表面エネルギーを示す写真
図6】一般木材及び水性塗装が塗られている木材の処理前/後を示す写真
図7】本発明の一使用例を示した写真
【発明を実施するための形態】
【0050】
本発明は、シリコン水和物(Silicon hydrate)と防炎効果があるシリコーン化合物と防炎性リン系化合物の多様な官能基を利用した反応物として防炎処理剤を組成し、水性塗料が処理された木材表面への適用時、スプレー塗布だけでも木材内部への浸透が容易な木材用水溶性防炎剤組成物と、前記木材用水溶性防炎剤組成物を使用してスプレー方式で塗布する防炎処理方法で、大型木造建築物や木材等を簡単に処理することができ、また作業の手間及び作業時間ができる防炎処理方法を提供することを特徴とする。
【0051】
前記木材用水性防炎剤を利用して防炎処理する工程は次のとおりである。
【0052】
処理対象物で不純物を除去し、温度10℃未満の場合と湿度70%以上のときは防炎処理を避け、防炎剤組成物のスプレー塗布時40cm以上の距離を維持し、スプレーの圧力は80〜120kg/cmが適当であり、1回の処理量は0.35kg/mで、常温で24〜48時間乾燥させた後、再び同一の方法で合計2回にわたって防炎処理する。
【0053】
また、防炎液組成物中、Si含量が0.1〜1.5wt%、N含量が0.5〜3.5wt%、P含量が0.8〜2.5wt%を含有する防炎剤組成物を組成することにより、官能性シリコーン[functional silicone]とリン系化合物の静電気的な結合の形成で白色の化合物であるヒドロキシシリコーンのリン系防炎剤組成物及びcellulose、hemicelluloseとligninと架橋性能向上による、より堅固な炭化塗膜を形成する防炎剤組成物を提供する。
【0054】
前記シリコーン−リン系防炎液の構造に基づいたシリコーン−リン系防炎液は、有機リン酸塩系防炎剤組成物の性能と無機系のシリコーン防炎剤組成物の性質を同時に示し、有機リン酸塩系防炎メカニズムは、有機リン酸塩系防炎剤組成物が熱分解によって1次的にリン酸を形成し、このようなリン酸は縮合反応を介してpyrophosphateと水を形成させる。
【0055】
リンを含んでいる防炎剤組成物は、主に凝縮相で反応が起きて基質の熱分解からリン酸は凝縮相で水を抽出し、charを形成する。
【0056】
(化1)
Char形成例
【0057】
前記反応で生成された水は、発火を助ける酸化gas phaseを希釈する効果を与え、またこの時に生成されるリン酸及びpyrophosphateの場合、末端アルコール基の脱水反応を促進させる触媒作用ができる。
【0058】
木材の主要な主成分であるcellulose、hemicellulose及びligninに含有される末端アルコール基の脱水反応を促進させ、再び水を生成すると同時に、炭素−炭素二重結合を生成させる。この二重結合は、高温で炭化層(char)を架橋形成させて被着体の表面を火炎から分離及び保護することで、発火に関係する新しいラジカル生成抑制、可塑性物質の揮発抑制、酸素拡散抑制及び火炎からの放熱及び防炎層形成効果を与えることができる(図1参照)。
【0059】
図2は、木材試験片にシリコーン−リン酸塩系防炎剤を塗布して炭化試験した後、木材試験片に形成されたcharの結晶構造を確認するためにXRDを分析した結果を示したもので、合成されたシリコーン−リン酸塩系防炎剤は2θが25で非結晶構造の形態を示すピークを示した。
【0060】
木材試験片にシリコーン−リン酸塩系防炎剤を塗布し、炭化試験後の木材試験片に形成されたcharの成分を確認するために、XRFを分析した結果を表1に示した。表1に示したとおり、Pの比率が65.41%と最も高くあらわれ、Siは29.30%、Kは5.01%、Sは0.28%含有されたことが分かった。発泡生成されたcharの成分をXRF分析した結果、SiとPの存在を確認した。
【0061】
(表1)
【0062】
上記のとおり、シリコーン化合物は木材セルロースのヒドロキシ基の結合でみられるように、リン酸塩のchar形成によって防炎効果を最大化することができ、水性塗料を処理して木材を保護し、美観を保ち、各種微生物、昆虫の被害がなく、各種風害から保護できるという利点がある。
【0063】
シリコーン化合物との結合でリンが有する防炎性以外に、表面張力がより低いシリコーンとの結合で表面をスプレー(及び刷毛)で簡単に処理できる処理性及び分散性を向上させることができ、これにより防炎剤組成物は水性塗料が処理された木材の水性塗料層に浸透し、木材の表面から奥深くまで吸収され、火源と接触時に防炎効果を示す。(図4図5
【0064】
以下、本発明の具体的な実施例を試験結果の値等を介して詳細に説明する。
【0065】
[実施例1]
攪拌機、温度計、コンデンサー、装着された500mlの3口丸底フラスコに蒸溜水(base water)300gを基準に;リン酸アンモニウム60gを投入して30分間攪拌させ、
ここに尿素40gを投入して30分間攪拌させた後、
リン酸40gをゆっくりと投入して1時間攪拌した後、シリコン水和物(Silicon hydrate)60gを入れ、50℃以下で1時間攪拌させて防炎剤組成物を製造した。
【0066】
また、前記で組成した防炎剤組成物は、気温が10℃未満の場合と湿度70%以上のときは防炎処理を避け、常温でスプレー方式により防炎処理を行った。
【0067】
これをより具体的に説明する。
まず、防炎処理のための処理対象物(水性塗料が塗布された木材)は、不純物を除去し、気温10℃未満の場合と湿度70%以上のときは防炎処理を避け、スプレー圧力80〜120kg/cmで処理対象物に塗布する。
【0068】
この時、処理対象物との距離は40cm以上の距離を維持し、処理量は0.35kg/mにして1次スプレー塗布する。
【0069】
前記1次スプレー塗布が完了したら、常温で24〜48時間乾燥させて十分に硬化させた後、前記1次スプレーと同一条件と方法で2次スプレー塗布し、合計2回にわたって防炎処理する。
【0070】
前記防炎処理した木材試験片の含水率が15%のときの試験結果は、以下の通りである。
【0071】
[有害物質含有有無及び基本物性試験]
1)VOCs含量
防炎剤組成物10mLをヘッドスペースバイアルに入れ、90℃で30分間加熱して発生したヘッドスペース内の空気をGC/MSに注入して測定した。測定した定量物質と未知物質のトルエン等、濃度を合わせてVOCs含量で算定した。
− 機器名:Headspace sampler(Perkin−elmer,USA)、
Tarac GC/DSQMS(ThermoFinnigan,USA)
【0072】
2)ホルムアルデヒド放散量
防炎剤組成物を試験片(70mm×150mm、8枚)両面に塗布して蒸溜水300mlを入れたデシケーターに設置し、23℃で24時間維持して蒸溜水に含まれているホルムアルデヒドを発色させて、UV吸光光度計(UV−1650PC,SHIMADZU)で測定した。
【0073】
3)重金属含量(Pb、Cd、Hg、Cr6+)
防炎剤組成物にアセトンを添加し、遠心分離して固形分を分離し、前記固形分は塩酸を添加して30℃で15分間攪拌した溶液を、液状試料は硝酸を添加してすべて乾燥させた後、蒸溜水でそれぞれ50mlに満たしてから、各溶液をICP、AAS、UV吸光光度計を使用して分析した。
【0074】
4)水素イオン濃度(pH)
防炎剤組成物をpH meterで測定した。
【0075】
5)比重
比重瓶に防炎剤組成物を満たし、前後重量差を利用して測定した。
【0076】
この試験結果の値は、以下の表2のとおりである。
(表2)
有害物質含有有無及び基本物性試験の結果
【0077】
[耐候性試験]
1)促進耐候性試験条件
防炎剤組成物が塗布された試験片を7日以上乾燥した後、促進耐候性試験機に設置して以下の条件で試験した。
−機器名:促進耐候性試験機UV2000(ATLAS,USA)、
色差計I−7(McBath,UK)
−試験サイクル:UV50℃、4h→凝縮40℃、4h
−サイクル繰り返し:25回、合計200時間
−放射照度:0.63W/m2
−ランプ種類:UV−A340nm
【0078】
2)測定項目
−外観:促進耐候性試験前後を比較し、白華、剥落、汚れ、光沢現象を試験者の肉眼で判断して異常有無を確認した。
−比較色差:防炎剤組成物を塗布した試験片と防炎剤組成物を塗布していない空試験片を、色差計を利用して試験前後の色度を測定して色差値を求めてから、防炎剤組成物を塗布した試験片の色差値と防炎剤組成物を塗布していない空試験片の色差値の差は、各試験片は3.0未満、水性塗料色相別平均は1.5未満とした。
【0079】
この試験結果の値は、以下の表3のとおりである。
(表3)
耐候性試験結果
【0080】
[防炎性試験]
1)防炎性評価の試験条件
− 機器名:防炎試験機(FL−45MC、SUGA test instrument)
− 炎の長さ:65mm
− 加熱時間:2分
【0081】
2)測定項目及び基準
−残炎時間:バーナーの炎を取り去ってから炎を上げて燃える状態がやむまでの時間、10秒以内
−残じん時間:バーナーの炎を取り去ってから炎を上げずに燃える態がやむまでの時間、30秒以内
−炭化面積:試験後、試験片(木材)が炭化した部分の面積、50cm
(測定機器:PLANIX EX(TAMAYA technics Inc.,JAPAN))
−炭化長:試験後、試験片(木材)が炭化した部分の長さ、20cm。
【0082】
この試験結果の値は、以下の表4のとおりである。
(表4)
防炎性試験結果
【0083】
[残留性試験]
1)残留性評価の試験条件
−耐候性試験:防炎剤組成物が塗布された試験片を促進耐候性試験機に設置し、以下の条件で促進耐候性試験を実施する。
−防炎性試験:促進耐候性試験を行った試験片で防炎性試験を実施する。
−機器名:促進耐候性試験機UV2000(ATLAS,USA)
−試験サイクル:UV50℃、4h→凝縮40℃、4h
−サイクル繰り返し:25回、合計200時間
−放射照度:0.63W/m
−ランプ種類:UV−A340nm
−機器名:難燃性試験機(FL−45MC,SUGA test instrument)
−炎の長さ:65mm
−加熱時間:2分
【0084】
2)測定項目及び基準
−残炎時間:バーナーの炎を取り去ってから炎を上げて燃える状態がやむまでの時間、10秒以内
−残じん時間:バーナーの炎を取り去ってから炎を上げずに燃える態がやむまでの時間、30秒以内
−炭化面積:試験後試験片(木材)が炭化した部分の面積、55cm
(測定機器:PLANIX EX(TAMAYA technics Inc.,JAPAN))
−炭化長:試験後試験片(木材)が炭化した部分の長さ、25cm
【0085】
この試験結果の値は、以下の表5のとおりである。
(表5)
残留性試験結果
【0086】
[吸湿及び乾燥性試験]
防炎剤組成物が塗布された試験片と塗布していない空試験片をそれぞれ恒温恒湿器に設置し、以下の条件で試験する。
【0087】
1)恒温恒湿試験条件
−機器名:恒温恒湿器WK−340(WEISS、German)、色差計I−7(McBath、UK)
−試験サイクル:(50±2)℃、(95±3)% R.H.,4h
→(20±2)℃、1h
→(60±2)℃、8h
→(20±2)℃、1h
−サイクル繰り返し:10回、合計140時間
【0088】
2)測定項目
−外観:促進耐候性試験前後を比較し、白華、剥落、汚れ現象を試験者の肉眼で判断して異常有無を確認した。
−比較色差:防炎剤組成物を塗布した試験片と防炎剤組成物を塗布していない空試験片を、色差計を利用して試験前後色度を測定して色差値を求めた。
−防炎剤組成物を塗布した試験片の色差値と防炎剤組成物を塗布していない空試験片の色差値の差は、各試験片は3.0未満、水性塗料色相別平均は1.5未満とした。
【0089】
この試験結果の値は、以下の表6のとおりである。
(表6)
吸湿及び乾燥性試験結果
【0090】
[不織布試験]
−試験片の長さ方向に一方の端から25mm、10mmの距離にマーキングした。
−試験片の一方の端に炎を30秒間あてて、炎が25mmマーキング表示を過ぎてから100mmマーキング線に到着するまでの時間を測定し、速度を計算した。
【0091】
<評価基準>
3.0mm以上の厚さの試験片が40mm/min以下の燃焼率を有している時、3.0mm未満の厚さの試験片が75mm/min以下の燃焼率を有している時、HD等級を付与した。
【0092】
この試験結果の値は、以下の表7のとおりである。
(表7)
不織布試験結果
【0093】
以下は、前記実施例1で防腐、防虫、防カビ、及び木材に対する準不燃試験の結果である。
(表8)
防腐性能試験
【0094】
<準不燃試験結果>
(表9−1)
1.試料名:防炎処理木材
【0095】
(表9−2)
2.試験結果
【0096】
上記の試験結果のとおり、防腐、防カビの効果が一部あると判断され、準不燃試験の場合、試験片自体が可燃性物質であり、準不燃試験での試験片として不足であるが、難燃材料の性能として十分なものと判断される。
【0097】
[実施例2]
前記実施例1と同一の防炎剤組成物で同一の防炎処理方法によって試験片を製作し、前記実施例1と同一の試験方法で試験した。
【0098】
ただし、木材(試験片)の含水率は30%であるときの試験結果は次のとおりである。
【0099】
(表10)
耐候性試験結果
【0100】
(表11)
防炎性試験結果
【0101】
(表12)
残留性試験結果
【0102】
(表13)
吸湿及び乾燥性試験結果
【0103】
[実施例3]
前記実施例1と同一の防炎剤組成物で同一の防炎処理方法によって試験片を製作し、前記実施例1と同一の試験方法で試験した。
【0104】
ただし、木材(試験片)の含水率は50%であるときの試験結果は次のとおりである。
(表14)
耐候性試験結果
【0105】
(表15)
防炎性試験結果
【0106】
(表16)
残留性試験結果
【0107】
(表17)
吸湿及び乾燥性試験結果
【0108】
[実施例4]
前記実施例1と同一の防炎剤組成物で同一の防炎処理方法によって試験片を製作し、前記実施例1と同一の試験方法で試験した。
【0109】
ただし、木材(試験片)の含水率は70%であるときの試験結果は次のとおりである。
(表18)
耐候性試験結果
【0110】
(表19)
防炎性試験結果
【0111】
(表20)
残留性試験結果
【0112】
(表21)
吸湿及び乾燥性試験結果
【0113】
[実験及び実験結果]
上記のとおり製造されたシリコーンとリン系化合物を重合した防炎剤組成物の木造建築物用防炎剤組成物検定基準による結果を以下の表22に示した。
(表22)
【0114】
一般的に木材建築物の場合、含水率は13〜15%の含水率を維持しており、気候や自然環境に応じた含水率の変化が生じ、雨天時や霧が頻繁に発生する地域では相対的に木材の含水率が高いことが分かる。
【0115】
そこで、本発明は木材の含水率に応じた防炎処理時の防炎性能を比較し、結果は木材の含水率が70%以上のとき、防炎性能が低下することが分かる。

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7