(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】6284677
(24)【登録日】2018年2月9日
(45)【発行日】2018年2月28日
(54)【発明の名称】地盤改良方法
(51)【国際特許分類】
E02D 5/20 20060101AFI20180215BHJP
E02D 3/12 20060101ALI20180215BHJP
【FI】
E02D5/20 101
E02D3/12 101
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2017-203308(P2017-203308)
(22)【出願日】2017年10月20日
【審査請求日】2017年10月30日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517127687
【氏名又は名称】藤井 健之
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【弁理士】
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】藤井 健之
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭52−90111(JP,A)
【文献】
特開平8−3976(JP,A)
【文献】
特開2005−264679(JP,A)
【文献】
特開昭53−67206(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/20
E02D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一スクリュー(11)で地盤(G)に掘削穴(12A)を形成しつつ、前記掘削穴(12A)の中に、泥土のフロック(13)を形成する凝集剤と界面活性剤の混合体(14)を注入する第一掘削工程と、
第一掘削工程の後に、所定の時間待機して前記フロック(13)を形成させる待機工程と、
前記待機工程の後に、前記掘削穴(12A)を第二スクリュー(15)で同軸に掘削する第二掘削工程と、
を有する地盤改良方法。
【請求項2】
前記第一スクリュー(11)による掘削径(dA)が、前記第二スクリュー(15)による掘削径(dB)よりも小さい請求項1に記載の地盤改良方法。
【請求項3】
前記混合体(14)が、泥土を固化する固化剤を含む請求項1または2に記載の地盤改良方法。
【請求項4】
前記凝集剤が、ゼオライト、珪藻土、高分子凝集剤、または、これらの混合物を含む請求項1から3のいずれか1項に記載の地盤改良方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、地盤にH形鋼などの杭体を設置する際の地盤改良方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ビルやマンションなどの建物の建設現場においては、地盤をアースオーガなどに接続したスクリューで掘削し、その掘削穴にセメントミルクなどの固化剤を流し込んでH形鋼などの杭体を設置する地盤改良方法が採用されることがある。
【0003】
この地盤改良方法においては、特に地盤が粘土質からなる場合に、スクリューの引き抜きの際に、地盤中の泥土がスクリューの間に目詰まりした状態で地上に上がることがある。このスクリューに目詰まりした粘土質の泥土を取り除くには多大な労力を要するとともに、その除去作業の際に泥土が周辺に飛び散るため、作業工程の遅延、作業コストの上昇、作業環境の悪化などの問題の原因となる。また、一旦地上に上がった泥土は、一般的には再利用することが許されず、産業廃棄物として処理しなければならないため、その処理コストが嵩む問題もある。
【0004】
また、地盤中の泥土の比重は、地盤改良に際して掘削穴内に注入するセメントミルクなどの固化剤の比重よりも大きく、地盤中の泥土が地上に上がることによって、掘削穴の内容物(泥土と固化剤の混合物)の比重が相対的に低下する。すると、この比重の大きな内容物によって、内から外向きに支えられていた掘削穴の内壁が崩壊して、H形鋼などの杭体を所定深さまで挿し込めない問題(高止まりの問題)が生じることもある。
【0005】
スクリューに付着した泥土を除去する手段として、例えば、特許文献1に示す泥土除去装置が提案されている。この泥土除去装置は、スクリュー付きロッドを装備した地盤改良施工機の振れ止め杆に設けられる。この泥土除去装置には、スプリングによって付勢された泥土除去用ワイヤーが設けられている。この泥土除去用ワイヤーの先端部は、スプリングの付勢力によってロッドの軸身に常時接触した状態となっており、この泥土除去用ワイヤーでロッドに付着した泥土を掻き落とすように構成されている(特許文献1の特に段落0006〜0008、
図3など参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】実用新案登録第3079515号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の泥土除去装置は、人手によって行う場合と比較して、ロッドに付着した泥土を容易に取り除くことができるものの、泥土が一旦地上に上がってしまうため、従来と同様に、この泥土を産業廃棄物として処理しなければならない。また、地盤中の内容物の比重が低下することに起因して、掘削穴の内壁が崩壊する問題が生じ得る点も従来と同様である。
【0008】
そこで、この発明は、地盤改良作業の際に、地盤中の泥土が地上に上がるのを防止することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、この発明は、第一スクリューで地盤に掘削穴を形成しつつ、前記掘削穴の中に、泥土のフロックを形成する凝集剤と界面活性剤の混合体を注入する第一掘削工程と、第一掘削工程の後に、所定の時間待機して前記フロックを形成させる待機工程と、前記待機工程の後に、前記掘削穴を第二スクリューで同軸に掘削する第二掘削工程と、を有する地盤改良方法を構成した。
【0010】
この構成によると、第一掘削工程において注入した界面活性剤の滑性によって、泥土が第一スクリューに付着しにくい。このため、第一スクリューの引き抜きの際に、この第一スクリューを逆転して、泥土を掘削穴の下部に圧入することが可能となり、この泥土が地上に上がるのを防止することができる。また、界面活性剤とともに注入した凝集剤によって、泥土のフロックを速やかに形成することができる。このフロックは、泥土中の水分よりも比重が大きいため、掘削穴の底部に堆積する。このように、掘削穴の底部にフロックが堆積することによって、掘削穴(特に底部)の内壁の崩壊を防止することができ、H形鋼などの杭体を所定深さまでスムーズに挿し込むことができる。
【0011】
前記構成においては、前記第一スクリューによる掘削径が、前記第二スクリューによる掘削径よりも小さいのが好ましい。このようにすると、第一掘削工程において、相対的に小径の第一スクリューで、スムーズにかつ低トルクで小径の掘削穴を形成することができる。
【0012】
この小径の掘削穴の内部は、主に柔軟な泥土で満たされている。第二掘削工程において、この小径の掘削穴を相対的に大径の第二スクリューで掘削すると、この掘削穴の内周側には柔軟な泥土が存在するため、低トルクで大径の掘削穴を形成することができる。しかも、第二スクリューで掘削された外周側の新たな泥土が、第二スクリューから直ちに離れて内周側の柔らかい泥土内に落ち込むため、この泥土が第二スクリューに付着しにくい。このため、この第二スクリューの引き抜きの際に、泥土が地上に上がるのを確実に防止することができる。
【0013】
前記各構成においては、前記混合体が、泥土を固化する固化剤を含むのが好ましい。このようにすると、泥土と固化剤を含む混合体との混合物が、地盤改良のための部材としての価値を有する有価物となる。このため、第一スクリューまたは第二スクリューの引き抜きの際に、この混合物の一部が地上に上がったとしても、産業廃棄物として廃棄することなく埋め戻す(地盤改良の素材として再利用する)ことが許容され、処理コストの抑制を図ることができる。
【0014】
前記各構成においては、前記凝集剤が、ゼオライト、珪藻土、高分子凝集剤、または、これらの混合物を含むのが好ましい。このようにすると、泥土のフロックを速やかに形成して、掘削穴内に堆積させることができ、その堆積が終了するまでの待機中に掘削穴の内壁が崩壊するのを確実に防止することができる。しかも、フロックの堆積を速やかに完了することにより、スムーズに次工程を行うことができるため、作業コストの削減を図ることができる。
【発明の効果】
【0015】
この発明は、第一スクリューで地盤に掘削穴を形成しつつ、前記掘削穴の中に、泥土のフロックを形成する凝集剤と界面活性剤の混合体を注入する第一掘削工程と、第一掘削工程の後に、所定の時間待機して前記フロックを形成させる待機工程と、前記待機工程の後に、前記掘削穴を第二スクリューで同軸に掘削する第二掘削工程と、を有する地盤改良方法を構成した。これにより、地盤改良作業の際に、地盤中の泥土が地上に上がるのを防止することができ、泥土の処理コスト、掘削穴の内壁の崩壊などの問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】この発明に係る地盤改良方法の工程を示す図であって、(a)は第一掘削工程、(b)は待機工程、(c)は第二掘削工程、(d)は杭体の挿入工程
【
図2】待機工程において水頭を維持するための構成を示す図
【
図3】第二掘削工程における泥土の動きを示す断面図
【発明を実施するための形態】
【0017】
この発明に係る地盤改良方法の工程を
図1に示す。この地盤改良方法は、地盤GにH形鋼などの杭体10(
図1(d)参照)を設置する際に行なわれ、第一掘削工程、待機工程、および、第二掘削工程を主要な構成要素としている。
【0018】
第一掘削工程(
図1(a)参照)は、第一スクリュー11で地盤Gに掘削穴12Aを形成しつつ、この掘削穴12Aの中に、泥土の粒子が凝集したフロック13(
図1(b)参照)を形成する凝集剤と界面滑性剤の混合体14を注入する工程である。この第一掘削工程は、後で行う第二掘削工程の先行掘削にあたる。第一スクリュー11は、後で説明する第二掘削工程で用いられる第二スクリュー15よりも小径のものが採用されており、第一掘削工程で形成される掘削穴12Aの掘削径d
Aは、第二掘削工程で形成される掘削穴12Bの掘削径d
B(掘削穴の最終的な掘削径)よりも小径である。このように、相対的に小径の第一スクリュー11を採用することにより、スムーズにかつ低トルクで小径の掘削穴12Aを形成することができる。
【0019】
凝集剤として、例えば、ゼオライト、珪藻土、高分子凝集剤、または、これらの混合物を採用することができる。特に、アニオン系またはカチオン系の高分子凝集剤を用いると、泥土のフロック13を速やかに形成できるため好ましい。
【0020】
凝集剤には、泥土を固化するセメントミルク(固化剤)が混合されており、その混合体14は流動性を有している。セメントミルクに対する凝集剤の割合は、セメントミルクに対し、凝集剤が重量比で0.0001〜0.1%の範囲内、好ましくは0.001〜0.1%の範囲内、さらに好ましくは0.01〜0.1%の範囲内とするのがよい。また、セメントミルクに対する界面活性剤の割合は、セメントミルクに対し、界面活性剤が重量比で0.01〜0.5%の範囲内、好ましくは0.01〜0.1%の範囲内とするのがよい。
【0021】
凝集剤と界面活性剤にさらにセメントミルクを混ぜた混合体14は、
図1(a)に示すように、第一スクリュー11による掘削と同時に、この第一スクリュー11が取り付けられた中空の軸体の先端から掘削穴12A内に注入される。
【0022】
このように、泥土に凝集剤を混ぜると、流動性を有する混合体14中に分散している泥土の粒子が凝集してフロック13が形成され、このフロック13が掘削穴12Aの底部に堆積する(
図1(b)参照)。すると、この掘削穴12Aの底部の比重が相対的に高くなり、掘削穴12Aの底部における内壁の崩壊を防止することができる。
【0023】
また、泥土に界面活性剤を混ぜると、この界面活性剤の滑性によって、第一スクリュー11に泥土が付着しにくい。このため、第一スクリュー11の引き抜きの際に、泥土が地上に上がるのを防止することができる。
【0024】
また、凝集剤と界面活性剤の混合体14にセメントミルクなどの固化剤を混合しておくと、泥土と固化剤を含む混合体14との混合物が、地盤改良のための部材としての有価物となる。このため、第一スクリュー11または第二スクリュー15の引き抜きの際に、この混合物の一部が地上に上がったとしても、産業廃棄物として廃棄することなく埋め戻すことが許容され、処理コストの抑制を図ることができる。
【0025】
第一スクリュー11の正転と反転を繰り返しながら、掘削穴12Aを掘り進める。なお、この第一掘削工程では、第一スクリュー11による撹拌は、土塊16(
図1(a)参照)が残留する程度で終了するのが好ましい。土塊16が完全にほぐれるまで攪拌すると、泥土の粘性が高まって、第一スクリュー11に付着する虞が生じるためである。なお、土塊16が多少残留していても、この第一掘削工程で掘削穴12Aに注入した界面活性剤が土塊の内部に浸透して、第一掘削工程に引き続いて行われる待機工程の間にこの土塊16は自然とほぐれるため、何ら問題は生じない。
【0026】
待機工程(
図1(b)参照)は、第一掘削工程の後に、所定の時間待機して、泥土のフロック13を形成させる工程である。既述のように、形成されたフロック13を掘削穴12A内に堆積させることによって、掘削穴12Aの底部の比重を相対的に高めて、掘削穴12Aの内壁の崩壊を防止することができる。この待機時間は、フロック13の形成時間を考慮して適宜決定することができるが、例えば、1時間から72時間の間、好ましくは、4時間から48時間の間、さらに好ましくは、4時間から24時間の間とすることができる。
【0027】
この待機工程においては、
図2に示すように、掘削穴12Aの上部に、地下水の水位WLよりも高い水位まで水17を供給して、掘削穴12A内の水頭を維持するようにしてもよい。このようにすると、供給された水17によって掘削穴12A内が加圧され、この待機工程中における掘削穴12Aの内壁の崩壊を一層確実に防止することができる。
【0028】
第二掘削工程(
図1(c)参照)は、待機工程の後に、第一スクリュー11で形成した掘削穴12Aを第二スクリュー15で同軸に掘削する工程である。第二スクリュー15は、第一スクリュー11よりも大径のものが採用されており、第二掘削工程で形成される掘削穴12Bの掘削径d
Bは、第一掘削工程で形成される掘削穴12Aの掘削径d
Aよりも大きい。第一スクリュー11と第二スクリュー15の外径の比は、例えば、第一スクリュー:第二スクリュー=75:100とすることができる。
【0029】
このように、第二掘削工程の前に第一掘削工程で小径の掘削穴12Aを形成しておくことによって、この掘削穴12A内には柔軟な泥土18Aが存在するため、低トルクで大径の掘削穴12Bを形成することができる。しかも、
図3に示すように、第二スクリュー15で掘削された外周側の新たな泥土18Bが、内周側の柔軟な泥土18A内に落ち込むため(
図3中の矢印参照)、この新たな泥土18Bが第二スクリュー15に付着しにくい。このため、この第二スクリュー15の引き抜きの際に、泥土18A、18Bが地上に上がるのを一層確実に防止することができる。
【0030】
杭体10の挿入工程(
図1(d)参照)は、第二掘削工程で掘削した(揉みほぐした)掘削穴12Bに、H形鋼などの杭体10を挿し込む工程である。この工程の前に行なわれる第二掘削工程において、掘削穴12B内の泥土が揉みほぐされているため、この掘削穴12B内に杭体10をスムーズに挿し込むことができる。この杭体10は、H形鋼に限定されず、他の形状の鋼材やコンクリート柱などを採用することもできる。
【0031】
上記において説明した地盤改良方法は、地盤改良作業の際に、地盤G中の泥土が地上に上がるのを防止する、というこの発明の課題を解決するための構成の例示に過ぎない。
【0032】
例えば、上記においては、第一スクリュー11が第二スクリュー15よりも小径とした例について説明したが、両スクリュー11、15を同径としたり、第二スクリュー15を第一スクリュー11よりも小径としたりすることもできる。
【0033】
この地盤改良方法は、特に粘土質の地盤Gの改良を行う際にその効果が強く発揮されるが、砂質の地盤Gの改良にも適用することができる。砂質の地盤Gの場合、粘土質の地盤Gと比較してフロック13の形成容易性やスクリュー11、15への付着性が異なるため、それに対応して凝集剤と界面活性剤の配合量や種類などを適宜変更してもよい。
【符号の説明】
【0034】
10 杭体
11 第一スクリュー
12A (第一スクリューで掘削した)掘削穴
12B (第二スクリューで掘削した)掘削穴
13 フロック
14 混合体
15 第二スクリュー
16 土塊
17 水
18A 柔軟な泥土
18B 新たな泥土
d
A (第一スクリューによる)掘削径
d
B (第二スクリューによる)掘削径
G 地盤
WL 地下水の水位
【要約】
【課題】地盤改良作業の際に、地盤中の泥土が地上に上がるのを防止することが可能な地盤改良方法を提供する。
【解決手段】第一スクリュー11で地盤Gに掘削穴12Aを形成しつつ、掘削穴12Aの中に、泥土のフロック13を形成する凝集剤と界面活性剤の混合体14を注入する第一掘削工程と、第一掘削工程の後に、所定の時間待機してフロック13を形成させる待機工程と、前記待機工程の後に、掘削穴12Aを第二スクリュー15で同軸に掘削する第二掘削工程と、を有する地盤改良方法を構成する。
【選択図】
図1