【実施例】
【0056】
以下、本発明の膜厚測定処理内容を、実施例として、
図2に示すフローチャートに沿って説明する。尚、本願の実施例においては、共通の条件として、カラーカメラの3色(RGB)に合わせて、青色波長λB=470nm、緑色波長λG=560nm、および赤色波長λR=600nmを用いている。
【0057】
[実施例1]
<ステップS1> 多波長画像取得
実施例1として、3種類の波長を使用し、測定点として3点を選択して 適合した例を示す。測定対象30の干渉画像は、
図3に示すような球面状の膜厚分布を持つ測定対象30を仮定して、干渉理論式(1)から計算した。この仮想的な測定対象30は、サイズが50×50画素、画素サイズが1μm、最小膜厚が4隅の0μm、膜厚曲率半径が1mm、中央の膜厚突起サイズが4μm×4μm、膜厚突起量が50nmである。
また、干渉理論式(1)において、各波長の平均輝度a=100、干渉変調度b=1とした。
【0058】
3種類の波長からなる干渉画像を光学系ユニット1の撮像装置19にて撮像し、データ処理系ユニット2のCPU20に送付しメモリ21に格納した。当該3種類の波長の干渉画像を
図4に示す。
【0059】
<ステップS2> 使用データ選択
図4に示した3種類の波長の干渉画像について、干渉画像の縦軸をY軸、横軸をX軸として、座標が、P1(X1,Y1)=(5,25)、P2(X2,Y2)=(15,25)およびP3(X3,Y3)=(25,25)の3点を選択した。波長の干渉縞画像から、選択した各点P1〜P3の観測値をメモリ21から抽出した。各選択点の膜厚真値と観測値(輝度)を表1に示した。
表1
【0060】
<ステップS3> 初期値設定
次に、各点(この場合3点)の膜厚初期値を設定する。ただ、初期値が真値から離れている場合、ローカルミニマムに陥って、正しい膜厚が得られなくなる恐れがある。従い、初期値設定においては、できるだけ正しい膜厚を推定し設定する。当実施例では、真値から約5%低く推定された場合を想定し、下記表2−aの様に設定した。
【0061】
また、各波長番号jの平均輝度a(j)と干渉変調度b(j)の初期値設定に関しては、平均輝度a(j)は、観測輝度データの値の平均とし、干渉変調度b(j)は、観測輝度データの値の最大と最小の差を2×a(j)で除した値とし、表2−bのように設定した。
表2−a 膜厚初期値
【0062】
表2−b パラメータ初期値
【0063】
<ステップS4> 適合計算
次ステップとして、設定した初期値をデータ処理系ユニット2の入力部22から入力し、CPU20にて、最小二乗適合ソフトウエアを用いて適合計算をおこなうことにより、表1に示した輝度観測値から、膜厚と干渉縞パラメータを推定した。その結果、表3に示すように、推定誤差は非常に小さく、正しい膜厚推定値が得られた。
表3 3点適合結果
【0064】
[実施例2]
次に、適合するために選択した点以外の点(k点)の膜厚を求めるに、実施例1にて適合によって得られたレシピ、すなわち、干渉縞モデルの波形パラメータである波長番号jの時の平均輝度a(j)及び干渉変調度b(j)を用いて、膜厚を求めた。
【0065】
例として、適合で得られたレシピを用いて、各点の輝度から位相を求め、合致法によるアンラッピングにより膜厚を計算した実施例を
図5に示すフローチャートに従って説明する。この場合、
図5のステップS1から、ステップS4までは、実施例1にて説明したとおりである。以下ステップS55から説明する。
【0066】
<ステップS55> 選択点以外の点の抽出
実施例1と同一の干渉画像から、選択点以外の点として、点P4(X4,Y4)=(1,25)を抽出して例示する。
【0067】
<ステップS66> 位相計算
点P4(X4,Y4)=(1,25)における各波長に対応した位相(単位:ラジアン)を前記式(2)により求める。該結果を表4に示す。
表4 位相計算結果
【0068】
<ステップS77> アンラッピング
さらに、上記で得られた各波長の位相値から、前記式(6)および式(7)を用いて膜厚計算をおこなう。この時、前記計算結果の位相から干渉次数を変えて膜厚候補値を計算する。この場合の次数の計算範囲は、予想膜厚に基づき決定する。本実施例では、膜厚範囲が0〜800nmと仮定した。上記のように干渉次数を変えた膜厚候補値計算結果を表5に示す。
表5 膜厚候補値
【0069】
<ステップS88> 膜厚の推定
次に、干渉次数を変えた膜厚候補値計算結果から、波長間の合致誤差が最も小さい組み合わせを探索する。この場合、合致誤差の指標として、[(最大値)−(最小値)]を用いて、値が最小にある干渉次数を探索した。表5によれば、干渉次数=+1の場合、合致誤差が「0」であるので、この時の膜厚300nmを採用した。結果として、この値は、真値に一致する。以上が、適合に使用した点以外の点P4(X4,Y4)=(1,25)の膜厚を求めた事例である。
【0070】
[実施例3]
次に、実施例2と同様に、実施例1で得られた干渉縞モデルのパラメータを用いて、50点の膜厚を推定した実施例を示す。実施例2と同様に、座標(X=1〜50,Y=25)の50点について合致法を用いて膜厚を求めた。
【0071】
各点の波長ごとの輝度データを
図6、各点の波長ごとの位相データを
図7および各点の膜厚を
図8に示す。この場合も全点で正しい推定ができている。特に、球面の頂点の部分(図の水平軸中央)のエッジ部の急峻な突起部分の膜厚段差が、鈍り無く測定されている。
【0072】
[実施例4]
次に、本願発明により、実試料の膜厚を測定した例を示す。測定対象30は、シリコンウエーハ上に、0,100,200,300,400および500nmの公称膜厚(物理膜厚)のシリコン酸化膜を形成した膜厚標準である。この試料に青色波長λB=470nm、緑色波長λG=560nmおよび赤色波長λR=600nmから構成される3波長照明光を照射し、3板式カラーカメラ(日立国際電気、HV−F22CL、1360×1024画素)で撮像した。得られた画像を
図9に示す。この画像上に示すように、各膜厚領域から、1点を選択し、計6点の輝度を求めた。これに、干渉縞モデルを適合し、膜厚を求めた。6点の座標、輝度、膜厚の初期値、推定値、公称値、推定誤差を表6に示す。推定誤差が10nm以下であり、ほぼ正しい膜厚が得られている。
また、この適合で得られたレシピを表7に示す。このレシピを用いて、画像内の全点の輝度から位相、さらに膜厚を求めた結果を
図10に示す。膜厚段差がほぼ正しく求められている。
表6 選択した6点の座標、輝度、高さ初期値、高さ推定値
【0073】
注:膜厚は光学膜厚で、物理膜厚×屈折率(1.46)で計算している。
表7 適合により得られたレシピ
【0074】
[実施例5] ・(請求項4[t未知、2点;モード:m−2と2−3]に対応)
前記実施例1ないし実施例4の変形例として、波長数が3個以上で選択点数が2点、あるいは、波長数が2個で選択点数が3点の場合に、波長番号jの平均輝度a(j)と点iの膜厚t(i)のすべてと、干渉変調度b(j)の1部を未知パラメータとする膜厚測定方法について実施例を示す。
【0075】
本願発明を適用する対象に膜厚の異なる点が2点しか得られない場合である。例えば、半導体ICに形成された透明厚膜の1部がエッチングされて薄膜化されている場合である。このような場合、測定点として2点、すなわち、厚膜部と薄膜部を選択して適合する。選択点が2点なので、波長数がR波長、G波長およびB波長の3個の場合、観測データは、2点の各波長ごとの輝度の計6個である。未知変数は6個しか許されないので、選択点の膜厚t(1)、t(2)と、波形パラメータのうちのa(1)、a(2)、a(3)およびb(3)の合計4個を未知変数として適合し、残りの波形パラメータは、以下の式により計算する。
【0076】
b(1)=β(1)×b(3)
b(2)=β(2)×b(3)
ここで、β(1)、β(2)は、干渉変調度の波長間の比率であり、透明膜の分光屈折率と基板の分光屈折率に依存する試料定数と考えることができる。よって、同一の膜構造の他の測定対象を利用するなどの手段で、予め求めておくことができる。
【0077】
[実施例6] ・(請求項5[t未知、1点;モード:m−1と2−2]に対応)
さらに[実施例5]と同様に、[実施例1]ないし[実施例4]に記載した実施例に対する他の変形例として、波長数が3個以上で選択点数が1点、あるいは、波長数が2個で選択点数が2点の場合に、点iの膜厚t(i)のすべてと、波長番号jの平均輝度a(j)と干渉変調度b(j)の1部を未知パラメータとする膜厚測定方法について実施例を示す。
【0078】
本願発明を適用する場合に、膜厚の異なる点が1点しか得られない場合がある。例えば、ウエーハ全面にほぼ一定の膜厚のレジストが塗布されている場合である。このような場合、有意な測定点として1点を選択して適合する。波長数が3個の場合、選択点が1点なので、観測データは、1点の各波長λR、λG、λBごとの輝度計3個である。未知変数は3個しか許されないので、選択点の膜厚t(1)と、波形パラメータのうちのa(3)とb(3)の合計3個を未知変数として適合する。残りの波形パラメータは、a(3)、あるいはb(3)から、以下の式により計算する。
【0079】
a(1)=α(1)×a(3)
a(2)=α(2)×a(3)
b(1)=β(1)×b(3)
b(2)=β(2)×b(3)
ここで、α(1)、α(2)は平均輝度の波長間の比率であるが、これは照明の明るさには依存せず、照明とカメラの分光特性に依存する装置定数と考えることができる。よって、他の測定対象30を利用するなどの手段で、予め求めておくことができる。β(1)、β(2)は、前記した干渉変調度の波長間の比率である。なお、本発明の場合、適合点を2個以上選択することもできて、観測データ数が未知パラメータ数より多い最小二乗適合になる。
【0080】
[実施例7] ・(請求項6[t未知、1点;モード:2−1]に対応)
さらに[実施例5]および[実施例6]と同様に、[実施例1]ないし[実施例4]に記載した実施例に対する他の変形例として、波長数が2個で選択点数が1点の場合に、点1の膜厚t(1)と、波長番号jの平均輝度a(j)の1部と、干渉変調度b(j)のすべてを未知パラメータとする膜厚測定方法について実施例を示す。
【0081】
波長数が2個で、膜厚の異なる選択点が1点しか得られない場合には、1点を選択して適合するが、波長数が2個、選択点が1点なので、観測データは、2個である。未知変数は2個しか許されないので、選択点の膜厚t(1)と、波形パラメータa(2)の合計2個を未知変数として適合する。残りの波形パラメータa(1)は、以下の式により計算する。
【0082】
a(1)=α(1)×a(2)
また、b(1)、b(2)は、試料定数であり、同一膜構造の他の試料の実験値や、物性値からの理論計算で求めておく。
【0083】
[実施例8] ・(請求項7[t既知、2点以上;モード:2f以上]に対応)
さらに[実施例5]ないし[実施例7]と同様に、[実施例1]ないし[実施例4]に記載した実施例に対する他の変形例として、2点以上の点iの膜厚t(i)のすべてを既知とし、波長番号jの平均輝度a(j)、干渉変調度b(j)のすべてを未知パラメータとする膜厚測定方法について実施例を示す。
【0084】
本願発明を適用する場合、膜厚既知の試料が2個以上存在する場合がある。例えば、ウエーハ上のシリコン酸化膜を測定対象30とする場合、多くの標準膜厚試料が膜厚計の校正用に市販されている。このような場合、その既知情報を有効活用すると、波形パラメータ(レシピ)の作成が容易になる。選択点が2点以上なので、波長数が3個の場合、観測データは、6個以上になる。未知変数は、a(1)、a(2)、a(3)、b(1)、b(2)およびb(3)の6個として適合する。その結果、波形パラメータ(レシピ)が求められる。これは、膜厚既知試料を用いて、校正を実施したことを意味している。
【0085】
[実施例9] ・(請求項8[t既知、1点;モード:1f]に対応)
さらに[実施例5]ないし[実施例8]と同様に、[実施例1]ないし[実施例4]に記載した実施例に対する他の変形例として、1点の膜厚t(1)を既知とし、波長番号jの平均輝度a(j)を未知パラメータとする膜厚測定方法について実施例を示す。
【0086】
本願発明を適用する場合、膜厚既知の試料が1個だけ存在する場合がある。例えば、測定対象30と同一膜構造の試料を他の膜厚計で測定した結果が得られている場合である。既知膜厚の点数が1点の場合、その1点を選択して適合する。選択点が1点なので、波長数が3個の場合、観測データは、1点の各波長λR、λG、λBごとの輝度は計3個である。未知変数は、a(1)、a(2)、a(3)の3個として適合する。残りの波形パラメータb(j)は、試料定数であり、膜と基板の屈折率から理論計算するか、他の手段で予め求めておく。
【0087】
以上の[実施例5]ないし[実施例9]に記載の発明の変形である実施例は、波長数が3個の場合を記載したが、波長数が2個、あるいは4個以上の場合も、同じ考え方で変形が可能である。すなわち、有意な観測データ数が未知パラメータ数以上になるようにすれば、適合が可能である。
【0088】
すなわち、上記[実施例5]ないし[実施例9]に対する実施例を基に、波長数と有意点数の組み合わせについて考察する。
波長数mがm=2の場合とm≧3の場合のがあり、さらに、膜厚が既知の場合と未知の場合で分類すれば、下記のケースがある。それぞれのケースにおいて、有意な点数に応じた測定モードが考えられる。
1)波長数mが2個で、膜厚が未知のケース(下記表8に示す)
・有意点数=1(モード名2−1):設定値は、α、b(j)を与えれば良い。
【0089】
・有意点数=2(モード名2−2):設定値は、α、βを与えれば良い。
【0090】
・有意点数=3(モード名2−3):設定値は、βを与えれば良い。
【0091】
・有意点数=4以上(モード名2−n):設定値は不要。
2)波長数mが2個で膜厚既知のケース(下記表8に示す。)
・有意点数=1(モード名2−1f):設定値は、b(j)を与えれば良い。
【0092】
・有意点数=2(モード名2−2f):設定値は不要
・有意点数=3(モード名2−nf):設定値は不要
表8 各種測定モード(波長数m=2個のケース)
【0093】
3)波長数mが3個で、膜厚が未知のケース(下記表9に示す)
・有意点数=1(モード名3−1):設定値は、α、b(j)を与えれば良い。
【0094】
・有意点数=2(モード名3−2):設定値は、βを与えれば良い。
【0095】
・有意点数=3以上(モード名3−n):設定値は不要。
4)波長数mが3個で膜厚既知のケース(下記表9に示す)
・有意点数=1(モード名3−1f):設定値は、b(j)を与えれば良い。
【0096】
・有意点数=2(モード名3−2f):設定値は不要。 ・有意点数=3以上(モード名3−nf):設定値は不要。
表9 各種測定モード(波長数m=3個)
【0097】
尚、次に同様にして、m≧4の場合を表10に示す。
表10 各種測定モード(波長数m≧4個)
【0098】
ところで、本明細書では、基板上の透明膜を測定対象30として説明したが、プラスチックフィルムのような基板のない独立透明膜を測定することもできる。この場合は、空気が基板の替わりとなり、膜の屈折率より基板屈折率が大きくなるので、その界面における反射光の位相が反転する。このため、膜厚0の干渉色が暗環となり、干渉縞モデルの式(1)は、下記の式(1A)、式(2)は、下記の式(2A)と示すことができる。
g(i,j)=a(j)[1−b(j)×cos{4πt(i)/λ(j)}] (1A)
φ(k,j)=cos
−1[−{g(k,j)/a(j)−1}/b(j)] (2A)
となる。
【0099】
これは、b(j)が正とした場合であり、b(j)が負になったと考えて、式(1)式(2)を使用することもできる。
また、この方法は、基板上の透明膜の場合で、基板の屈折率が透明膜の屈折率よりも小さい場合にも適用できる。
【0100】
その他、本願発明の変形例として、本願実施例では、光学系として顕微鏡を用いたが、顕微鏡がない光学系でも良い。また、照明は同軸落射照明に限らず、近似的に垂直落射照明を用いることもできる。
【0101】
また、カメラにより撮像した画像を対象に、ノイズ除去、シェーディング補正など、様々な前処理を施すことも有効である。
【0102】
本願記載の実施例では、照明光の波長とカメラの波長λR、λG、λB帯域とが1:1に対応し、クロストークのない光学系を構成して実施したが、クロストークが無視できない場合には、クロストーク補正を実施しても良い。クロストーク補正に関しての参考文献としては、計測自動制御学会産業論文集Vol.8(14),pp.113/116(2009)がある。
【0103】
本願記載の実施例では、適合に最小二乗法を用いて未知パラメータを求めたが、その他、例えばロバスト推定方法などの他の方法で適合を行っても良い。